09/01/11 16:13:14 Yk8r3VQe
地面から、水が吸い上げられている感覚。それが体を巡るのが、堪らなく心地好い。同時に、土の中の栄養が、根っこから体全体に行き渡っていく。
このまま体を外に出して身震いして喜びたいな……なんて考えたけど、目の前を眺めるとマスメディアの皆様が、
『落雷現場に新たに生えた大木!深夜の神秘!』とかキャプションを付けた番組撮影のため陣取っているから我慢我慢。
『ママーママー、カメラマンがいるよ~!』
『あら大変!隠れなくちゃ!魂を抜かれちゃうわ!』
『ねぇおにいちゃん、たましいをぬかれるってきもちいい?』
『そんなわけ無いだろ!隠れろ!』
木のうろの中では、前のドリアードさんのお世話になっていたリス一家があたふた忙しなく慌てているようだった。まぁすぐに収まるでしょうし、私は関知しないでおこう。
耳を澄ませば、あちこちで動物達の不満げな声が聞こえる。出来れば私としても今すぐに出ていって欲しいとは思うけど……流石に手は下せないし……。
そうこう迷っているうちに、取材が終わったらしく、カメラマンやらレポーターやら世間的に『暇だな~こいつら』とか思われそうな人達はぞろぞろとこの場所から立ち去っていった。
……残ったのは恒例、大量のゴミ。
『わぁ見てお母さん!美味しそうなものだよ!』
『お止めなさい!毒かもしれませんよ!』
『ねえおにいちゃん、どくっておいしい?』
『そんなわけ無いだろ!』
リス親子が繰り広げる漫談をBGMにして、私は上半身だけを木の表面から枝のように出して、ゴミ拾いをすることにした。
……どうせ今日の夜も、淫魔サクマが「もりりんのあまぁい蜜ちょうだい♪」とか言って樹液をたかりに来るだろうし。アンタはここにいる虫か。
いつか……私がもっと成長したら、そのときは私の種が宇宙まで飛ばせるらしい。もしそれが他の星に落ちたら……その星で、私の種は育つ。環境を変えていく。
そうしたら、私の夢が叶う。
そんな日を待ち望みながら、私は今日も、この森の中でそこそこ騒がしい隣人に囲まれながらも、静かに暮らすのだった。
fin.
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以上、乱筆乱文、失礼いたしました。