【異形化】人外への変身スレ第三話【蟲化】at EROPARO
【異形化】人外への変身スレ第三話【蟲化】 - 暇つぶし2ch29:名無しさん@ピンキー
08/04/15 20:59:08 t6ymhP2O
人魚とかみたいな上半身は人間(女性)下半身が異形化というのが好きなんだが、スレとか見てるとほとんど無いような気がする・・・

俺だけなのか・・・??

30:名無しさん@ピンキー
08/04/15 21:23:06 s3vCS4CI
>>29
俺は、惜しいなあ、なんて思っちゃう。ただの人よりはよっぽど好きなんだけど。
初代スレの女王蟲とか、人間の比率多かったと思うけどね。

31:名無しさん@ピンキー
08/04/15 23:44:02 4bXp4JUP
PSP版ヴァルキリープロファイルに今頃手を出したんだが
追加された新規ムービーで王女が化け物に変わるシーンが思いのほか良かった
体が徐々に肥大化して服が内側から弾け飛んだり、顔の変化が最後だったから
体が筋骨隆々の化け物で顔だけ王女というシーンがちゃんと描写されていたのもわかっているな、と
顔の変化がモーフィングじゃ無かったのは好き嫌いが分かれるところだが、個人的には大満足

にしても、なんでここにわざわざ追加ムービー入れたんだろうか。いや、最高だけど

32:名無しさん@ピンキー
08/04/16 12:52:35 C2OwE6Q4
ヴァルの新作はDSか…
DS版に期待…できるか?

33:名無しさん@ピンキー
08/04/17 02:23:23 Bx6PWoHj
>>32
正直、DSは味のないポリゴン3D…例を挙げるとFFリメイクの某映画の名前と一緒の会社が制作
したものみたいに(特にⅣ)、新作もリメイクも無理やりポリゴンにしてしまうきらいがあるからやってられん。
もし新作が完全3Dだったら…とりあえず、保留にした方がいいだろうねぇ。

34:名無しさん@ピンキー
08/04/20 00:51:33 nyJ9sYdJ
>>31
それ見ただけでPSPとプロファイルほしくなった

35:名無しさん@ピンキー
08/04/21 02:52:02 dBKv2VFe
成瀬留美はごく普通の女子高生。
いつもと同じように身支度をして学校へ向かう。
しかしその日の朝は少し憂鬱だった。
たいしたことではないのだが、やたら口の中が粘ついて、異常に気持ち悪いのだ。
「ちゃんと歯磨きしてきたのになあ」
口臭は大丈夫かしらなどと不安を抱えながらも、留美の足は着実に学校へと向かっていった。

校門に着くあたりで後ろから足音が近づいてくる。
「るみたんおっはー」
後ろから声をかけてきたのは同じクラスの美佳。
「ああ美佳、おはよ」
留美がいつものように挨拶した瞬間、美佳の表情が曇る。
「美佳?どうしたの?」
「う、ううん、なんでもないよ。じゃ、あたし先行ってるね」
いったいどうしたんだろう。いつもならここで合流して一緒に教室まで行くのに。
美佳の挙動に不安を抱きつつ、留美は教室へと向かった。

36:名無しさん@ピンキー
08/04/21 02:54:59 dBKv2VFe
教室につくと、親友の麻子がニコニコしながら声をかけてくれる。
「留美おはよー。今日はいいお天気だね」
麻子の笑顔を見るとホッとする。
「おはよう麻子。いやあ実は今日朝から少し憂鬱でさあ」
しかし留美がしゃべり始めた瞬間、麻子は眉間にしわを寄せ、露骨に怪訝な表情を浮かべる。
さすがに留美も腹が立った。なにこのリアクションは!
「なによ、私なにか悪いことでも言った?」
留美の問い詰めに対し、麻子は遠慮がちに答える。
「留美、あの、親友だから言うんだけど、今日、口すっごく臭いよ・・」
「えっ?」
「敬太君に気付かれる前に、はいこれ、ガムあげる」
麻子に指摘され、恥ずかしいやらありがたいやら
。なんだかよくわからない感情が込み上げて留美は泣きそうになった。
「麻子・・ごめん、ありがとう」
「ううん、早く気付いてよかったね」
始業のベルが鳴り、麻子がトタトタと自分の席に戻る。
留美は泣きたい気持ちを押さえて、ガムを口にほうり込んだ。

37:名無しさん@ピンキー
08/04/21 04:55:40 dBKv2VFe
朝のホームルームが始まり、先生がいろいろと話しているが
留美の耳に先生の声は一切入らなかった。
親友とはいえ、あんなことを指摘されるなんて!
留美はこれでも学年の中ではかわいい方で、よく告白もされていた。
だからというわけではないが、身嗜みにも人一倍気をつけていたつもりだった。
それなのに・・。
麻子が気付いてくれたからまだ良かったものの、
男子と話していたら・・想像しただけで恐ろしい。
ああもう忘れよ忘れよ!無理矢理自分に言い聞かせ、
留美は麻子にもらったガムを紙に包んでポケットに入れた。

ホームルームのあとはすぐに現国の授業が始まった。
担任の藤川先生が担当の教科だから、休み時間をはさまないで引き続き始まってしまう。

留美がガムを食べたあとも、口の中のねばねばは治らなかった。
むしろ朝よりひどくなった気がする。
唾液を何度も飲み込んだが、すぐにねばねばした唾液が口の中を支配する。
舌にも唾液が絡み付くので、振りほどくようにしてせわしなく舌を動かし続ける。
口の中が気になって気になって、留美は舌で口の中を探り回すことに夢中になっていた。

38:名無しさん@ピンキー
08/04/21 05:14:08 dBKv2VFe
「じゃあ今日から新しいとこに入ります。それじゃあ最初は成瀬さんに読んでもらおうかな。成瀬さん」
「は、はい!」
突然指されて留美は思わずびくっとした。やばい授業に集中しないと。
留美は教科書を持ってゆっくりと立ち上がる。
「103ページの頭からね」
こんな日に限って・・・。留美は渋々教科書を読み始めた。
「ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると」
読み始めたものの口の中がねちゃねちゃするため、声といっしょにぴちゃぴちゃという音が漏れてしまう。
それになんだかすごくしゃべりにくい・・・。
「ベ、ベッドの中で自分のひゅ、ひゅがたが、一匹のとてつもなく大きな毒虫に変わってひまっているのにひがついた」
「はい、そこまででいいですよ。この冒頭はね、非常に有名で・・・」
よかった、思った以上に短くて。留美はホッと肩を撫で下ろした。
しかし、なんだかすごく読みづらかった。まるで舌が長くなってしまったような、そんな感覚・・・。
「(まさかね・・・)」
留美は自分の馬鹿な考えを否定したくて、口の中で舌を動かしてみた。

39:名無しさん@ピンキー
08/04/21 22:32:52 dBKv2VFe
しかしやはり舌が口の中を占める割合が大きくなっているような気がする。
「(まさか、ほんとに・・?)」
それは紛れも無く、自分の舌が伸びているとしか思えない感触だった。
今まで普通に収まっていた口の中が、少し狭く感じる。
「(やだ・・・やだ・・・やだ気持ち悪いいい)」
しかし気持ち悪いという感情とは裏腹に、まるで気持ち悪さを確認するように、
留美は口の中で舌を動かし続けた。
不安を取り除きたいという感情が留美の舌を激しく暴れさせる。
口の中をのたうち回る留美の舌は、動くことで次第に長くなっているようだった。
「(なんか・・・窮屈・・!)」
ついに収まりきれなくなった留美の舌が唇の間からにゅるりと顔を出す。
「(やだ!みんなにみられちゃう)」
しかしどんなに引っ込めようとしても、一旦外に出た開放感からか
舌は引っ込まない。むしろ口の外に出たことでかなり楽になった。
舌は外に出てからも少しずつ伸びてきて、じわじわと下に垂れ下がっていく。
舌の先からは粘性の高い唾液がボトンと落ち、机から数本の糸を引く。
「(ひいいい助けて!お願いだから見ないで!)」
留美はパニックになり涙を流しながらも、周りに気付かれないように教科書で顔を隠していた。

40:名無しさん@ピンキー
08/04/21 23:19:37 cJh58Zvm
ちょ、投稿間隔長すぎwww
支援支援

41:名無しさん@ピンキー
08/04/21 23:34:19 j6SyZsN2
つ、続きが気になるぅぅぅうううぅぅぅ!!
書きだめてくだしあ

42:名無しさん@ピンキー
08/04/21 23:50:38 BSLL3kU0
カフカ!カフカ!

43:名無しさん@ピンキー
08/04/21 23:56:48 9TOBDnzS
なんという焦らしプレイw

44:名無しさん@ピンキー
08/04/22 00:35:37 l1OZcVEH
「留美?どうした?具合でも悪い?」
隣の席の美佳が小声で話しかけてきた。
「(ひっ)」
どうしよう。今の状態でまともにしゃべれるわけがない。
「なんなら保健室連れてってあげようか?私もさぼれるしぃ」
そんな呑気なことを言ってる場合ではない。とにかくこのままじゃ顔を見られてしまう。
おしゃべりな美佳なんかに知られたら一巻の終わりだ。
なんとかこの場から離れないと。
先生が何かしゃべっている途中だったが留美は教科書で顔を隠したまま勢いよく立ち上がった。
「な、成瀬さん?どうしたの?」
「・・・・・」
「気分でも悪いの?」
ここぞとばかりに首を縦に振る。
「わかったわ。じゃあ保健室に行きなさい。一人で行けるわね?」
コクコクと首を縦に振る。もちろん顔を隠したまま。
美佳が横で「ちぇっ」と言ったのが聞こえたがそんなの知ったことじゃない。
留美はすばやく教室の扉まで行き、無事教室を出ることに成功した。
教科書はすでに留美の唾液でぐしょぐしょに濡れていた。

45:名無しさん@ピンキー
08/04/22 00:43:01 l1OZcVEH
「(とにかく鏡!鏡を見なきゃ)」
周りに誰もいないのを確認して女子トイレへ向かう。
留美は今自分がどんな姿になっているか、早く確認したくてしょうがなかった。
ひょっとしたらこれは勘違いで、鏡を見たら舌なんかのびてなくて
いつもの自分の姿が映るかもしれない。いや、そうに決まってる。
そしたらすぐに教室に戻って、麻子に笑ってこのことを話してやろう。
そんなことを思いながら、留美はいつも利用するトイレへ入り、鏡の前に立った。
しかし、目の前の鏡が映し出したのは
間違いなく口から長い舌を覗かせた留美の姿だった。
形のよい唇の間から伸びた舌はだらしなく留美の顎の先まで伸び、
舌の先からは透明のよだれが床に向かってだらだら落ちていた。
ちょっと力を入れると、留美の舌はまるで生きているように先端をもたげ、
留美の頬や眉間をぺちんぺちんと叩いた。
留美はしばらく鏡の中で舌をぎこちなく動かす自分の姿を呆然と見ていたが、
少しずつ頭が働いてきたようで、目からぽろぽろと涙が溢れてきた。

46:名無しさん@ピンキー
08/04/22 00:55:38 l1OZcVEH
「ううううう、うえっ」
鳴咽まじりに泣くものの、鏡の中の留美の姿はなかなか滑稽であり、
なんだか自分の姿が情けなく見えて、同時に笑いも込み上げてきた。
「(うううう、もうやだあ・・・)」
泣きながらも引きつった笑顔を見せる鏡の中の自分。これからどうしよう。
とにかく家に帰ろう。とりあえず帰ってお母さんにだけ打ち明けよう。
こんな姿他人には見せられない。
留美は周りに見られないよう注意しながら学校を後にした。


すみません書きだめしてから書き込むべきでした。
今のところここまでしかないので書きためるまで中断します。

申し訳ないです。

47:名無しさん@ピンキー
08/04/22 00:59:59 nSjpGNKd
超乙!
なまなましくて大好きですw

続き楽しみだぜ!

48:名無しさん@ピンキー
08/04/22 01:29:21 g1JQrJ0R
GJ!ここまでの感想が大いにあるのだけれど、書きづらく思わせかねないので書かないでおきます。
続きが楽しみです。

49:名無しさん@ピンキー
08/04/22 14:03:03 l1OZcVEH
北見麻子は留美を心配していた。小学校の頃からの付き合いだが、
留美がこんな風に保健室に行くことなんて今まで一度も無かった。
まさか朝自分が口が臭いと言ったのを気にしているのだろうか?
一時間目が終わっても、麻子はくよくよ悩んでいた。

「そうそう!留美さあ、今朝めっちゃ口が臭かったの!
納豆?そんなレベルじゃないって!」
女友達三人の前で大声でじゃべっているのは美佳だった。その声は
ふさぎ込んでた(?)麻子の耳にも届いた。
「あれは間違いなくどっか悪いって。私さあ、勘だけはいいんだー」
女友達もギャハハと笑い声を立てる。
普段はおとなしい麻子もこれには黙っていられなかった。

50:名無しさん@ピンキー
08/04/22 14:05:56 l1OZcVEH
「美佳ちゃん、そういうことは言わないであげて。留美傷つくと思うから・・」
麻子に注意されたことがない美佳は少し面食らったが、すぐに立ち直った様子で、
「ごめん!麻子の気持ちも考えずに私余計なこと」
「いや、私は別に・・」
「麻子は留美のこと好きなんだもんね。それってやっぱり女同士の深い愛ってやつ・・」
「そんなんじゃないったら!」
麻子の声は震えていた。
「ちょ、ちょっと怒らなくてもいいじゃん。冗談なんだからさあ」
美佳にしてみればほんとに冗談のつもりだったが
麻子はスカートをぎゅっと握りしめ、目には涙をためている。
「わ、悪かったわよ、もー言わない。ね?これでいいんでしょ?」
「・・・・」
麻子はくるっと回れ右をして席についた。今の一件でクラス中が麻子に注目している。
机に突っ伏して麻子は思った。
あーあ、今日はほんとについてないや・・。

51:名無しさん@ピンキー
08/04/22 14:23:22 l1OZcVEH
「はっはっはっはっ」
まるで犬がエサを欲しがるような息遣いで留美は家へと走った。
口が開いたままなので、いやでもこうなる。
舌が風になびいてまるで本当に犬みたいだ。
そんな風に考えるとまたしょっぱい涙が鼻をつんとさせる。
留美は早く家に帰って母の胸で思いっきり泣きたかった。

そこの角を曲がって坂を上がれば留美の家だ。
玄関の前で靴を脱ぐような安心感が留美の心に広がる。
が、次の瞬間思わぬ衝撃に見舞われた。
「あうっ!」
ちょうど死角になったとこで何かにぶつかり、留美は後ろに尻餅をついた。
「うううう?」
「すみません!大丈夫ですか?」
男の人の声。やばい!見られた!?
相手の男は留美に手を差し延べているようだ。しかし顔を見せるわけにはいかない。
「ひゅいやひぇん!ひゃいよぶへふはあ!」
自分でも無意識のうちに何かしゃべってしまったようだが
顔さえ見られなければ問題ない。
留美は男の手を借りずよたよたと立ち上がり、片手で口元を隠すようにし、そのまま走っていった。

男はさっきぶつかった女の子の走っていく後ろ姿に見覚えがあった。あれは多分・・。
「成瀬・・?」
多分、てか絶対そうだ、間違いない。
向井敬太は制服のほこりを掃いながら思った。
でもなんか口から変なものがぶら下がってたような・・。

52:名無しさん@ピンキー
08/04/22 14:38:20 l1OZcVEH
坂を駆け上がり、ついに我が家の前までたどり着いた。ここまでくればもう安心だ。
留美は母にはこの顔を見せられると思っていたが、いざ家の前に立つと
少し躊躇した。いくら母とはいえびっくりするだろう。
しかしこんな問題を一人で抱え込むのはやっぱり無理だ。留美はドアの鍵を開けた。

「おああさん?おああさあん」
家の中に誰もいない。裏口にもキッチンにも。おかしいな。
泣く準備は出来てるのに肩透かしを食らい、留美は少し冷静になった。

食卓に行くと目立つように手紙が置いてあった。手紙にはこう書かれている。

留美へ さっき突然田舎のおじいちゃんが倒れたと連絡があったので
お母さんはしばらく手伝いに行ってきます。ご飯は適当に食べててください。
ごめんね。母より

嘘でしょ・・・留美は思わず笑ってしまった。いてほしいときにいないんだから。
留美は母親と二人暮しだった。
しかし祖父も一人暮らしであるため、何かあったとき
母はすぐに祖父を手伝いに行くのだった。
留美はどっと疲れてしまい、制服のまま自分の部屋のベッドにばたんと横になった。
舌は相変わらず自分の視界に入るくらい長い。口の中に入れると窮屈なので
やっぱり出しておく方が楽だ。
私はどうなってしまうのだろう。
ベッドの上でまどろんでいると、意識が薄れていく。気持ちいい。
留美はゆっくり目を閉じた。

53:名無しさん@ピンキー
08/04/22 17:35:50 l1OZcVEH
昼休み、麻子は保健室を覗いた。理由はもちろん、
「失礼します。成瀬さんのお見舞いに来ました~」
保険の先生が顔を出す。若い小柄な男の先生だ。
「成瀬さん?今日はここには来てないけど」
「え?でも一時間目からいないんですよ」
「おかしいな、君3年A組だよね。ちょっと藤川先生に確認するから待ってて」
スリッパの音を派手に立てながら保険の先生は職員室に向かっていった。
いったい留美はどこに行ったんだろう。まさか自殺?!どうしよう、
そんなことになったら私・・!
麻子はあんなこと言わなきゃよかったと心の底から後悔した。

54:名無しさん@ピンキー
08/04/22 17:39:56 l1OZcVEH
麻子は午後の授業が全く手につかなかった。
考えれば考えるほど自分の愚かさが悔やまれる。
帰りのホームルームが始まり、藤川先生が教室に入ってくる。
藤川も少し青い顔をしていた。
「えー、成瀬さんが今日の一時間目に保健室に行くと言ったっきり
いなくなってしまいました。御自宅にも電話したんですが、連絡がとれません。
何か知ってる人はいない?」
教室中を沈黙が包み込む。
麻子も祈るように手を組んだ。
「俺、知ってますよ」
後ろの方で誰かが言った。敬太だった。
「本当に?成瀬さんはどこなの?」
「ああ、学校に来る途中すれ違ったんですよ。
俺、遅刻しちゃったから、ちょうどばったりね」
「成瀬さん何か言ってなかった?」
「そういえば、気分が悪いから早退したとか言ってたかなあ。
あと、このこと先生に伝えといてとか言ってたっけ」
「そんな大事なこと、なんで教えてくれなかったの?!」
「なんでかな。忘れてました」
教室中にどっと笑い声が上がる。
「もう!じゃあ家に帰ったのね。よかった!」
藤川は心から安心したようだった。
麻子は安心感からか机に突っ伏して泣いてしまった。
敬太は男友達と小突きあったりして一緒に笑っていた。

55:名無しさん@ピンキー
08/04/22 17:46:24 l1OZcVEH
ピンポーン

やっぱり出ないよ・・。
敬太があんな風に言っていたものののやっぱり心配で、麻子は留美の家まで来てしまった。
今考えるとあんなことで自殺するわけないとわかってるのに
さっきはそう思い込んでた。
自分の頭の悪さに腹が立つ。
寝てるのかな。寝てたら悪いし、今日は帰ろう。
麻子はくるっと向きを変えると、向こうから歩いてくる人と目が合った。敬太だった。
「あ、向井君」
「おう、北見、成瀬のお見舞いか?」
「うん、でもなんだか寝てるみたいだから、これから帰るとこ」
「そっか、残念だったな」
「うん。でも留美、今朝北見君に会わなかったら
どうやって早退のこと伝えるつもりだったんだろうね。
北見君に会ってなかったらずっと行方不明のままだよ」
えへへ、と冗談っぽく笑いながら麻子は言った。
「ああ、あれ、嘘」
「へ?」
「会ったのは本当。でもなんかかばんも持ってないし様子が変でさ、
学校行ったら案の定行方不明だろ。
だから俺、ついあんな出まかせ言っちゃったんだ」

56:名無しさん@ピンキー
08/04/22 17:51:25 l1OZcVEH
「え、じゃあその通りに言えばよかったんじゃ・・」
「まあそうなんだけど、俺だってなんの理由もなく学校ふけることあるし、
なんか言わない方がいい気がしたんだ。
ま、北見にだけは正直に言ったんだから許してくれよな」
敬太はおおげさに手を合わせて謝る恰好をした。
「うん、ありがとね、話してくれて・・」
じゃあ留美は何も言わず帰っちゃったってことか。いったい何があったんだろう。
「ところでさ、せっかくこんなとこで会ったんだし、どっかお茶でも飲みに行こうぜ」
「え、私と?」
「北見以外に誰がいんだよ」
「ええ?でも、わわ悪いけど、私寄るとこあるから、か帰らなきゃ」
「そっか、じゃあしょうがないな」
「うん!ごめん、また明日ね!」
麻子は手を振りながらすごい勢いで走っていってしまった。
はあ。敬太は一人ため息をついた。もっとうまい断り方なかったのかよ。
より一層大きなため息をつきながら敬太もその場を後にした。

57:名無しさん@ピンキー
08/04/22 17:54:54 l1OZcVEH
>>55
麻子の台詞で苗字間違えたorz
北見は麻子で向井は敬太ですorz

58:名無しさん@ピンキー
08/04/22 18:01:32 l1OZcVEH
「(ううん・・すっかり寝ちゃった)」
留美が目を覚ますとあたりは真っ暗だった。目覚ましに目をやるともう夜の9時だ。
そうだ、私授業の途中で家に帰ってきちゃってそれで・・・。
舌の感覚はあのままだ。寝起きで口が異常なほどねちゃねちゃしてる。
「(水・・・)」
留美はキッチンに行こうと体を起こすが、体が異様にだるく感じる。
それでもなんとかキッチンまでたどり着き、水で口をゆすぐ。
まだ頭はボーっとしている。
また部屋に戻ってもう少し休もう。
フラフラと歩きながら、部屋に向かう。しかしその途中、
大きな姿見が、留美の姿を一瞬だけ映した。
あれ、今何か光った?暗闇の中でよくわからないが、何かが光ったように見えた。
留美はゆっくりとその姿見の前に立ってみる。

59:名無しさん@ピンキー
08/04/22 18:04:21 l1OZcVEH
「ナニ・・・コレ・・」
姿見に映る留美の目が金色の光を放っていた。
まるで野性の狼のようにギラギラと輝いている。
留美は鏡に近づいてコンタクトレンズでも入っているんじゃないかと思って
指で目を押し開けて見開いてみたが、やはり眼球自体が金色になっているようだった。
真ん中の瞳の部分は黒だが、それが一層際だって怖い。
留美は大きな黒目がちの目が自分のチャームポイントだと思っていたし
一番好きな部分だった。それがこんな不気味な色に変わってしまうなんて・・。
それにさっきからなんだかまた口元にに違和感を感じる。
さっきとは違う別の・・まさか。
留美は口を大きく開いてみた。すると犬歯が鋭く伸び、まるで牙のように白く光る。
「(なによこれ・・!牙まで生えかけてきてる・・)」
鏡の中の留美が目を輝かせ舌をべろりと舐めずる。まるで獲物を欲しがるように。
「きゃあああああ!」
とにかく早く部屋に戻って寝よう。寝れば全て忘れられるかもしれない。
留美は逃げるようにして自分の部屋にもどり、布団にもぐり込んだ。

布団の中で留美はガタガタ震えていた。怖い。自分の姿が。
これから自分がどうなってしまうのかが。

ドクン

留美の心臓が大きく鳴った。

ドクン

それは何かが始まる合図のように体全体に響き渡った。


続く

60:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:25:54 eA4NYnes
ああ気持ち良かった!
お風呂から上がったばかりの麻子はバスタオルで髪を拭きながら
自分の部屋に戻る。今日はなんだかいろいろあったけど、お風呂に入れば
どうでもよくなってきちゃう。
でもさっきの帰り際、敬太君が私を誘ってくれたの、あれはどういう意味だろう。
まさかデ、デーt?いやいやいやまさか、ね。
留美みたいなかわいい子ならともかく、
私みたいなのを好きになってくれる男の子がいるはずないもん。
麻子は背が低く、クラスでも地味な存在だった。
小学校の頃からいじめに遭ってきたが、唯一優しくしてくれたのが留美だった。
留美がいなかったら今頃生きていなかったかもしれない。ときどき麻子はそう思う。
でも今日、敬太君が私を誘ってくれた。あれは夢じゃないよね?
あれから何度も思い出してニヤニヤしてしまう。
でも敬太君は留美の好きな男の子。私が好きになるわけにはいかない。
そう思い直して、結局解決してしまうのだった。

たーらららったらららった♪

メールだ。しかしこんな時間にメールが来るなんてめずらしい。誰からだろう。
時計の針は11時を指していた。

61:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:28:11 eA4NYnes
「はぁ、はぁ、はぁ!」
夜の道を麻子は全力で走った。
メールは留美からだった。
「助けて、麻子、お願い」
それだけ書かれてあった。留美!今度は私が守る番!
留美の家の前まで来たが全然電気がついてない。やはり何かおかしい。
麻子は恐る恐る玄関のドアに手をかけた。開いてる。
「留美、いる?」
電気のついていない留美の家は予想以上に不気味で、今すぐ逃げ出したかった。
「る、留美ー!どこなの?」
ひょっとしたら留美はもういなくて、別の誰かが・・だとしたら
こんな風に声出したらバレバレじゃない・・!
麻子は怖くて一歩も進むことが出来なくなった。
「る、るみぃ・・・」
「ここよ」
突然後ろから声がして麻子は跳びあがった。びっくりしすぎて声もうまくでない。
「る、留美なの?」
「そうよ、麻子、来てくれてありがとう」
間違いなく留美の声だ。麻子はゆっくり振り返った。
暗くてよくわからないがそこには確かに留美のシルエットがあった。
「もうー怖かったんだからあ!」
麻子は留美に抱き着く。よかった、無事だ。
でもこの感触、留美まさか、
「裸?」
「そうよ」
「なんで?」
「なんでだと思う?」
「まさか、レイプされたとか」
「ううん」
「じゃあなんで・・・」

62:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:30:18 eA4NYnes
「えっ?留美、なにこれ・・」
落ち着いて見てみると留美の体は何かの液体にコーティングされたように
ぬらぬらと光っている。暗闇だからよく見えないが、
すごく女性らしいしなやかなシルエットを映し出していた。
まるでいつもの留美じゃないみたい・・・。
「ねえ、なんでそんなに体がベタベタしてるの?」
「さあ、なんでだろう」
留美の喋り方はまるでうわの空。
「メールくれたのはなぜ?」
「どうしても会いたくなったから」
なんだかすごく怖くなって麻子は無意識のうちにあとずさりしていた。
「今日早退したのはなぜ?」
「さあ、なんでだったっけ」
「ちゃんと答えて!」
「・・・・」
あとずさりする麻子にずいずい迫ってくる留美。
「ねえ麻子、今日私朝から変だったの」
「えっ?」
「口はベタベタするし舌は伸びるし、目の色は変わるし牙は生えるし」
何のことを言ってるの?そもそもこれは留美なの?麻子はわけがかわらなくなった。

63:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:32:21 eA4NYnes
「そのあとがねぇ、もっと大変だったんだよ。どうなったと思う?」
留美の腕が麻子の肩をつかむ。
「痛いよ!留美離して!」
いつもの優しい留美じゃない。どんなに振りほどこうとしてもびくともしない。
「まず体からすごく力が沸いて来るの。体つきも少し変わったみたい」
女性らしい体つきではあるが、よく見るとしなやかな筋肉が盛り上がり、
体全体に無数の細い血管が走っている。
「ひ・・・い・・やめ・・」
「それからねえ、見てこれ」
留美は片手を麻子の目の前に差し出した。
「手の形が変化したの。指が長くなってほら、爪もこんなに鋭く・・・きれいでしょ。
でも指の本数は減っちゃった」
「いやあ!見たくない!」
「足の指だってそうよ。それから、体全体を包むこの液体はね、
ふふっ全部私のよだれなの」
「いやっそんなの聞きたくない!」
「いいニオイでしょ?誰かさんはすっっごく臭いって言ってたけど」
顔は影になって見えないが、留美の目がにまあと笑ったのがわかった。

64:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:34:41 eA4NYnes
「そして一番変わってしまったのはこの顔。見たいでしょう?」
「いや!もう離して!」
「ほら、よく見て。あさこぉ・・・」
近くに寄った留美の顔を麻子は無理矢理見せられた。
「・・・うそ・・!その顔・・・本当に留美なの?」
もはやその顔は留美ではなかった。
例えるなら・・悪魔・・。
眉間に深いしわを刻み、金色の目が奥の方でらんらんと光っている。
口からはグロテスクな舌が縦横無尽に動き回り、湯気と悪臭を放ち続ける。
形のよかった鼻はまるで魔女のような大きな鷲鼻になってしまっていた。
めくれ上がった唇から除く歯は真っ黒に変色し、
まるで牙のように鋭く形を変えている。
しかし声だけは紛れも無く留美のもので、姿と声のギャップがなんとも不気味だった。
「どう?これが私の新しい顔・・・美しいでしょう?」
留美の狂った声に麻子は戦慄を覚えた。

65:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:37:08 eA4NYnes
「最初はねえ、うまく喋れなかったの。でも麻子が来るから練習したんだよぉ」
「そんな・・・留美、嘘でしょ・・」
「それにこの顔になったときはショックで死にたかった。
でもすぐに考え方も変わったの。こんな素敵な姿になれたんだから当然よね。
それにね、まだ変身は終わってないの。ほら、ここも変わろうとしてる!」
留美が長くなった人差し指で自分の乳首を指差した。
「あっあっあっふあああ!」
留美が大きく絶叫すると、人間のままだった乳首の先がプッと割れ、
中から白い液を吹き出しながら勢いよく突起のようなものが飛び出した。
「あっああっ!気持ちいい~!」
変化が起きた後もしばらく留美は喘ぎ続けた。
目の前の惨状に麻子は呆然としていたが、しばらくして我に返った。
「(は、早く逃げなきゃ・・)」
留美がぐったりしているうちに麻子は四つん這いで玄関へとはっていった。
これは夢だ、ここを出れば夢も覚めるはず!
麻子は必死で玄関に向かった。しかし
「ドコイクノ?」
耳のすぐ後ろで留美のよく通る声がした。
「アサコハマダカエレナイヨ?」
サーッと血の気が引くのがわかる。
「いやあああああああ!!」
麻子は絶叫すると、その場で気を失ってしまった。

66:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:41:57 eA4NYnes
「う、ううん?」
麻子が目覚めると、そこは留美の部屋のベッドだった。
そうだ!私留美と戦ってて(?)それで・・・。
「目が覚めた?」
後ろで留美の声がした。恐る恐る振り返ると、
やっぱり化け物バージョンの留美が立っていた。
「ひいいい助けて!」
「待って!怖がらないで!麻子、私の話を聞いて」
留美の声はさっきと違って優しい感じがした。
「怖い思いさせてごめんなさい。私ね、身体が変化すると共に
いろいろ考え方も変わっちゃったの。
きっと身体が人間じゃなくなったから、考えも人間じゃなくなったのね」
「留美・・・」
「最初は怖くて怖くて仕方なかった。でも時間が経つにつれて、
これは自然なことだって思うようになった。私ね、今麻子のこと、
すごく私のものにしたいって思ってる。
それが多分この生き物の素直な欲求なんだと思う。
オスとかメスとか関係なく、今の麻子が好きなの」
「留美・・・」
留美の話に、麻子は胸が痛くなった。

67:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:43:32 eA4NYnes
「ううん、今の聞いてわかった。留美は留美のまま。そんな姿になっても、中身は全然変わってないね」
「麻子・・・」
「留美は私がいじめられてたとき助けてくれた。私あのときすごくうれしかった。
今の留美もそのときと同じで、すごく真っすぐで、全然変わってないよ」
「・・・・・」
留美は怖い顔のままぐずぐずと泣き始めた。
「泣くことないじゃない!そんな顔で泣いても怖いだけだよ」
「うん・・・」
留美はコクンとうなずいた。しばらく沈黙が続いたあと、麻子は静かに言った。
「私、留美のものにならなってあげてもいいよ」

終り

68:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:54:41 eA4NYnes
とりあえず終わります。小学生のような文章で言葉遣いも変ですみません。
変身とは関係ないとこも多くイライラした方もいらっしゃるでしょう。
本当はこれから麻子が留美の影響で少しずつ妖艶な女性に変身し
敬太などを巻き込みドロドロな関係に・・・みたいなのを妄想してたのですが
自分の文章力ではとても表現できないと思ったので諦めます。
読んで下さった方本当にありがとうございました。

69:名無しさん@ピンキー
08/04/23 08:04:04 Ilg4ZcNh
>>68
GJ!
ねばつく唾液や臭いといった不快感をあおる表現や、公衆の中で変身が継続される残酷さと焦燥が素敵。
悪堕ちしないで意識を再起させた展開も、自分は変身に変身者の感情を醍醐味として求めるんで楽しめた。
文書力も謙遜する以上にあると思う。自然に読めたし、板的にもあんまりごってりしてるより良い。

確かに展開としては無駄があったかもしれないね。
速筆で読者としては嬉しいのだけれど、一日おいてから文章を検討し直すと良いかも。

今後の作品も楽しみにしてます。

70:名無しさん@ピンキー
08/04/23 10:11:32 uMpxT9+I
>>68
話自体は面白し、文体も読みやすいんだけど、留実が人外に変異するのが唐突に始まって、
その変異を自分で勝手に納得しているのに、オレは違和感を感じる

例えば、魔界で戦って破れた魔物(ケルベロス等)の身体の一部が人間界に落ちてきて、
拾う若しくは知らずに食べるとかする事で変異が始まって、力(魔力でも身体的な力でも良い)を
振るうことの快感、或いは性的な快楽によって「人外」への変異を望みそれを受け入るとか…


71:名無しさん@ピンキー
08/04/23 23:06:33 /8AmpS2l
要約すると俺の好みの展開じゃなきゃ糞!
俺のリクエスト通りに書きやがれ!
ってことですね!?

72:名無しさん@ピンキー
08/04/24 01:20:33 9kmULkfE
>>71
納得するかしないかは好みとは別でしょ。煽るにもスマートなやり方があるんじゃない?

少なくとも>>70の言ってることも一理あるように思える。俺は全然気にならなかったけど。

73:名無しさん@ピンキー
08/04/24 01:43:02 0JGpLkbv
スマートじゃない指摘にスマートな煽りは必要ないよw

74:名無しさん@ピンキー
08/04/24 12:19:54 Ib6xABQj
獣化スレの件といい、なんか自称評論家が居付いてないか?
SSは自分の思い通りでなきゃって妄想持ちが  

75:名無しさん@ピンキー
08/04/24 12:52:13 GKXNQAY3
獣化スレのはシチュエーションではなく技術面に対するツッコミが多いのでまた違うと思うが

>>70は「例えば」で挙げてる例がやたら具体的かつ限定的なのでリクエストっぽく感じるんだと思うw

76:名無しさん@ピンキー
08/04/24 17:26:01 9kmULkfE
書き手としては読んでもらったってわかる分、ただGJされるより嬉しい。
>>68じゃないし人それぞれだけど。

77:名無しさん@ピンキー
08/04/25 15:24:45 LwldoL9d
>>68ですけど僕自信ほんとは精神的にも変身していく過程が大好きなんですけど
実際書こうとすると難しく、あんな形にしてしまいました

78:名無しさん@ピンキー
08/04/26 11:27:58 X/C9VOFn
SSの投下が無いせいか、ずいぶんと引っ張っているね。
要は 起承転結 が在った方が良いよと言うことなんでしょ
きっと

79:名無しさん@ピンキー
08/04/26 19:12:03 O8Lcxtbc
今頃なんですが、新スレ乙です!今SS二本まとめ読みしました

>>3-12 clown様
今回はエロエロですね!全開で揺れまくる乙女心が素敵でした。

>>35-68 >>68
>>69様の指摘通り、口臭とか鷲鼻とかかなりイヤなアイテムを効果的に使っているのが
新鮮でした。ここまでやるか、みたいな。女の子が可愛らしいので、うまくバランスが
とれてる感じですね。
>>70様の指摘、好みは別れますし、設定に凝る話はそれはそれで好きなんですが、
なんの理屈もなくいきなり異形化するというのは、かえって恐い上に世界観を狭めなくて、
自分はアリかなと思いました。
(ひょっとして>>38の小説はそれに対する作者の自己注釈かな、などと思ったり…)
何になるのかすら全然予想できない怖さがよかったです

続編または新作も是非読んでみたいと思いました

80:名無しさん@ピンキー
08/05/01 16:01:08 Ea4msbU8
ほしゅ

81:名無しさん@ピンキー
08/05/05 05:30:49 ohjZQPPc
ほしゅ蛇

82:名無しさん@ピンキー
08/05/06 20:54:01 vu8RrZgr
ほしゅ豚化


83:名無しさん@ピンキー
08/05/08 15:36:08 FkVuqhpW
ほしゅ山犬


84:名無しさん@ピンキー
08/05/08 15:38:05 szwfP7DY
居着いた結果がこれだよ

85:名無しさん@ピンキー
08/05/08 21:28:26 JVi4gi6D
作品が投下されない、って結果?

86:名無しさん@ピンキー
08/05/08 22:25:27 hHxHM5WC
前スレが埋め中で?案外と盛況だったりする
あっちが埋まったらこっちに来るんじゃないかな

87:名無しさん@ピンキー
08/05/11 22:47:12 FuJcdSIg
保守

88:名無しさん@ピンキー
08/05/15 15:24:10 +PLiaUxv
ほしゅ

89:名無しさん@ピンキー
08/05/17 12:12:03 AeJbhREd
保守代わりに雑談
前スレ602の
「宇宙人、ていうのもありですかね
グレイタイプ(ただし女性的なラインは維持)とか、
緑や青の皮膚になるとか 」
とかいうのはいいな、と思ったんですがもしかしてスレ違いでしょうか?
別にこういうのの投下を期待してるわけではないですけど・・・。

90:名無しさん@ピンキー
08/05/17 18:52:08 XJj9IkpQ
>>89
>ただし女性的なラインは維持
多分、この辺がスレ違いというかウケ良くないんだと思う。
要は人間ぽい体つきって事でしょ?
このスレ的にはもっと容赦なくTFして欲しいんじゃないかなぁ。

91:名無しさん@ピンキー
08/05/17 19:35:33 /4fPe80U
いやいや、女性的なボディラインは許容範囲ですが

俺は顔重視なので顔が変わってくれればそれで(ry

92:名無しさん@ピンキー
08/05/17 22:05:57 fHheNur8
けどやっぱり
多脚の方が変身した!って気がするかも。

いやあくまでも私の意見ですが

93:名無しさん@ピンキー
08/05/18 01:31:52 4EyigiQk
変身する物よりも変身していく過程、描写と
心の変化が分かる事が分かれば何でもおk

と個人的には思ってる

94:名無しさん@ピンキー
08/05/18 19:43:45 9gfhzsIE
保守

95:名無しさん@ピンキー
08/05/20 07:43:51 7RNnfCHO
ほしゅ

96:名無しさん@ピンキー
08/05/22 00:57:36 0+khvQDF
ほしゅ


97:名無しさん@ピンキー
08/05/24 07:49:09 i4kGnkAu
保守でのみ進行するスレ

98: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:43:54 OV1BTzi+
新しいものを書きましたので、数日に分けて投下いたします。

タイトルは長すぎるということなので、ここに。
『アガレスは慈悲深く、なれど尊厳を破壊する』です。

99: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:44:34 OV1BTzi+
第一章……一日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう。我が名はアガレス。変化の公爵」
目の前にいる美しい女は、そう名乗ってわたしに笑いかけた。
異形の存在だった。
鰐の背に乗り、肩には鷹を止まらせている。緑の衣を身に纏い、片足を淫らにも
剥き出しにしている。王宮で魔道師に教わった通りの姿をしていた。
顔立ちには非の打ちどころなく、真っ当な装束で着飾れば、王室の舞踏会に現れても
不思議でない気品を備えている。年の頃は兄上と同じくらい。二人を並べれば、
似合いの美男美女と取り沙汰されてもおかしくなさそうである。
なのにそこには何か、人を怖気立たせる瘴気のようなものが漂っていた。
魔族の大立者アガレスともなれば、それも無理はない。戦いにおいては地震を起こす
ほどの強力な魔力を誇り、言葉を巧みに操っては人々の尊厳を破壊するという。
なぜか慈悲深いという言い伝えもあるそうだが、悪魔の慈悲などまやかしに過ぎまい。
恐怖に萎えそうになっている心を強いて奮い立たせ、常と変わらぬ態度を取ろうと
努めた。王女たるもの、気品を失うことなどあってはならない。
「これは夢、ですね」
わたしとアガレスを取り巻くのは無明の闇。踏みしめる大地も仰ぐべき天もない。今
わたしが着ているのは、今日の式典用に誂えていたドレスだが、その後の騒動で埃や
泥にまみれたはずのそれは、最初に袖を通した時と変わらない美しさを保っている。
「いかにも。いちいちそちらへ足を運ぶのは、ぶっちゃけ七面倒臭いので」
終わりの方は俗な言葉過ぎて何を言っているのか定かでないが、言いたいことはおおむね
理解した。
悪魔はそれぞれが各々の領域からあまり遠くへ出ようとしない。それはもちろん人を
警戒してのことではなく、悪魔同士の縄張り意識がひどく強いためであるという。
ゆえに労を惜しんで夢の中で人に働きかけるのはよくあることだと、これも魔道師に
教わったことがある。

100: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:45:15 OV1BTzi+
夢であれば、悪魔の魔力であってもさしたる効果を発揮しないとも聞いた。もとより
王家の一員として無様に怯えるつもりはないが、なおのこと恐れる必要はない。
そこで、わたしは魔族に問いかけた。
「今日の出来事は、あなたの仕業ですか」
「半分正解でございます。貴女様を連れ去りしは、当人がこっ恥ずかしい名乗りを上げた
通りに、魔王ダークエンペラーことマールドラ町の三十四歳独身無職のトム・ブラウン
でありまして、わたくしは彼奴に少々力を与えた上でいささかそそのかしたまでのこと」
アガレスの語った内容は驚くべきことだった。
わたしが暮らすエルスバーグの城に今日突如襲来し、わたしをさらってこの洞窟に
監禁したあの魔王とやらは、実は単なる我が国の辺境の町の住民であり、この悪魔の
手引きを受けたというのか。
「なぜそのようなことを?」
悪魔は人の天敵であり、人を殺し傷つけ苦しめるのが生業のようなものである。しかし
悪魔は人間以上に知性の高い種族でもあり、その行動には合理性があるはず。
それが、わざわざ人間に魔力を与えて暴れさせるとはどういう了見なのか。破壊行為を
働きたいのであれば直接動けば済むものを。
「さて、長くなりますが、ご静聴いただくといたしましょう」

101: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:46:16 OV1BTzi+
「ものには順序がございます。まず手始めにはエルスバーグより遠く離れし大国
ポートスパンの伯爵家ご令嬢オクタヴィア・アルビステギの話から」
「その名前は覚えています」
「左様。彼女はこのエルスバーグを昨年訪れたことがございます。とは言えポートスパン
王家ご息女来訪の折の随身ですから、むしろその名をご記憶なさっているリネット様の
記憶力が優れていると申すべきでしょう」
「つまらぬ世辞などいりません。少し愉快でない出来事があったから覚えていただけの
ことです」
エルスバーグを見下した、無礼な振る舞いの数々。それだけならば耐えもしたが、
世話を任せた女官たちに傷を負わせるに及んで我慢も限界に達し、衆人環視の元であの
思い上がった娘を面罵した。外交問題に発展してもやむなしと思っていたのだが、幸い
ポートスパンの姫君が冷静で賢明な方であったおかげで、ことは速やかに収まった。
結果、オクタヴィア一人が満天下に恥を晒す格好になったわけだ。
「これは失敬。いかにも、あれは不愉快極まりない事件でしたね。わたくしは
オクタヴィアの口から事情を聞きましたが、それでも非は明らかにあのお脳の足りない
小娘にあるとわかりました」
「あなたはオクタヴィアに会ったということですか?」
「はい。それがこの糞ったれな事態すべての発端でして」
アガレスは唇を歪めた。あまりわたしが見たことのない種類の笑み。
「ポートスパン帰国の後、憤懣やるかたないオクタヴィアは先祖伝来の宝物庫の中に
とある品物が入っていることを思い出しました。正確に使用すれば、ある代償と
引き換えに悪魔を呼び出して使役できる杖です」

102: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:47:20 OV1BTzi+
息を詰めて話に聞き入るわたしに対し、アガレスは大袈裟なまでにため息をついて肩を
すくめてみせた。
「要するにこれ、わたくしが大昔にこしらえた罠なんですがね。使い方には一々面倒な
手順があり、呪文詠唱の一言、準備した魔力触媒の品質、召喚の際の手振り一つ、
果ては儀式の日時や場所まで、どれか一つでも指定の作法にのっとっていなけりゃ、
たちまち愚かな召喚術士気取りをとっ捕まえておいしくいただく寸法。それらすべてを
間違えないくらい賢い者なら、代償に差し出すものを惜しむに決まってるから、こんな
杖を使うわけがない。どっちにしろ、わたくしが実際に人間に仕えて労働に励む可能性
なんてこれっぽっちもないはずだったんですけど、ねえ」
「……オクタヴィアは成功したわけですか」
「話が早くて助かります。猿が紙にペンででたらめに書きつけたら抒情詩ができたって
くらい低い確率のはずだったんですが」
「それで、彼女の望みは?」
聞くまでもないことだが、確認せずにはいられない。
「貴女様の破滅。肉体的苦痛と精神的恥辱にまみれた生涯。当然、オクタヴィア本人は
こんな簡潔な物言いはしてないわけですが、長ったらしくてうんざりする恨み節を
要約するとそんなとこです」
アガレスの答えはあまりに予想通りだった。
「ま、こちらとしても代償を確実にいただける契約ですんで。仕事はきっちりやらせて
いただきます」
「……代償、とは?」
「あまり慰めにもならないでしょうが」
アガレスはこれも予想通りの答えを返した。

103: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:48:05 OV1BTzi+
「それにしても落ち着き払っておられる。たとえ安全な夢の中とは言え、悪魔を前にして
こうも平然と話ができる人間はあまりいませんよ。しかもたった今ご自分の破滅を宣言
されたというのに」
「怯え震えて乞い願えば破滅から逃れられるというのなら、いくらでも浅ましい振る舞い
をしてみせますが」
「あいにくそういうわけにもいきません」
悪魔について学ぶ際、アガレスの名は極めて早い段階で教わることとなる。それほどの
存在が、獲物の嘆願や小芝居ごときで己の行動を変えるとは思えなかった。
「それに、心は今日の午後よりすでに、千々に乱れております。城壁や王宮が破壊され、
多くの人が傷つきました」
ロビン。
魔王を名乗る者に果敢にも斬りかかって、強烈な魔力で壁まで吹き飛ばされたロビンは、
どうなったことだろう。
近衛兵に取り立てられて日が浅い彼は、剣の腕前なら近衛の中でもすでに一、二を争う
のだが、城内での作法についてはまだ勉強不足なところがあり、家柄のおかげで素早く
出世したような者どもにたびたび嘲られていた。
なのに生真面目に穏やかに勤め上げるばかりの彼がいじましくて、今朝、わたしは思わず
彼らの只中で言ってしまったものだった。
―六代前のジェイコブ王は庶民の出ながら剣術に秀でて王女の危難を救い、近衛の職位
から王になったとか。皆の者も何よりまず職務に励まれるように。
普段ロビンをいじめている者たちの唖然とする顔を見たくて口にした言葉だったが……
あの言葉がロビンに余計な傷を負わせる原因になったのではないかと、わたしは不安に
おののいていた。
最悪の想像が口から飛び出してしまう。
「中には命を落とした方もおられることでしょう」
アガレスはわたしの問いに対して沈黙で回答した。

104: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:48:57 OV1BTzi+
「繰り返しになりますが、なぜ力強き悪魔アガレスともあろう者が、あのような粗暴で
愚かな人間を手先としているのですか? 願いが単にわたしの破滅一つであるならば、
わたしだけを狙えばよかったものを!」
アガレスは、眉根を寄せる。まるで困った人間と同じように。
「そうしたいのは山々ながら、問題がいくつかございます。まず、このエルスバーグは
口うるさいアモンのテリトリーでして、そこへわたくしがのこのこ現れて一暴れした
暁にはしきたりがどうの礼儀がどうのといった揉め事になるのは必定なわけです。他にも
この近くにはベリアルとかグラシャラボラスとかどうにも面倒な輩が多いし」
何やら、わが一家の親戚づきあいにも似ている話。そういう問題では人も魔族も
変わらないということなのだろうか。
「さらに、わたくしが直接貴女様に危害を加えるてなことになると、エルスバーグおよび
周辺国が傾きます」
「……それはどういう意味ですか?」
「この近郷がなかなか微妙な力関係でバランスを取っていることはご存知でやんしょ?」
なぜか道化芝居の三下のような口調になる。妖艶な美女の姿にはふさわしくない。
「そのど真ん中に位置するエルスバーグが突然悪魔の襲来を受けて王女をさらわれた
なんてことを知ったら、周りの国が色々企み出すものでしてね。エルスバーグの国内も
動揺しまくればあっという間に西部大陸大戦争の始まり始まりってなもんでげす」
「……それは、魔族の望むところではないのですか? 死と破壊こそが悪魔の本懐と
いうものでは?」
わたしが口を挟むと、アガレスは悲しげに首を振った。
「人間の皆さんはどうにも誤解なさっておられる。もっとも、昔の我々の行為に原因が
あるのですからこれも自業自得というものですが」
台詞だけ抜き出すとなかなか悲痛だが、言い方が安っぽい役者めいていて、説得力は
微塵も感じられなかった。

105: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:49:46 OV1BTzi+
「魔族は、生物の精神活動を喰らいます。人間が他の動物や植物を喰らうように」
「精神活動、ですか。喜怒哀楽などの?」
「はいその通り。生物ですから植物や他の動物からも摂取できないことはないのですが、
心穏やかな植物や知性に乏しい動物の精神という奴は、あまりコクや深みといったものが
ないわけですよ」
口調はふざけているが、わたしには初耳の話だった。
「喜怒哀楽を食べられた人間は死ぬのですか?」
「いえいえ、そんなことはござんせんよ。人が焚き火にあたって暖を取るのと似たような
もので、わたくしどもは横から皆様のおこぼれにあずかっているに過ぎません」
「ですが……」
それならどうして、魔族と死や破壊がこうも密接に結びついているのだろう?
「ただですね、とりわけ美味なのが死ぬ直前の感情の爆発でして」
「!」
「苦痛とか悲哀とか後悔とか激情とか絶望とか、そういうものは思い出すだけでも
よだれが垂れるくらいおいしくてですね、なのでわたくしどもは昔はそりゃあ乱獲
しまくったわけでございます」
「…………」
「ただ、人間たちが植物や動物を採取狩猟するよりも栽培や育成で安定した収穫を目指す
ほうが得だと気づいたように、我々も次第に変わっているところでして。今時の悪魔と
いう奴は、人の世の大規模な混乱など、頭の悪い下等な連中を除けばもはや誰も望んで
おりません。一瞬の快楽に身を委ねても、また人が増え始めるまでの長い期間は餓えに
喘ぐことになるわけですからねえ」

106: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:50:55 OV1BTzi+
「…………」
アガレスの言い分は、それなりに筋が通っているようにも思われた。
「ですが―」
どの道、わたしがこうして囚われの身となった以上、戦乱は避けられないのでは
ないだろうか?
そう続けようとしたわたしをアガレスの言葉が遮った。
「この件は、ほとんどの人間が納得の行く形で収拾をつける運びになっております。
筋書きはすでに書き上げてありまして、後はその通りに役者が動いてくれればいいだけの
話」
貴女はその「ほとんど」には入っていないのですけれどね、とアガレスは付け加える
ように呟いた。その声音は妙にしんみりとしたものだった。
「様々な人の生き死にも、あなたたちにとっては芝居……あるいは駒遊びの一種という
わけですか」
「否定はいたしません」
アガレスはわたしの批判を軽く受け流す。
もっとも、わたし自身王家の人間として、いずれはそうした駒遊びにじかに関わったかも
しれないのだが。
「トム・ブラウン改めダークエンペラーは、駒としてはまさにうってつけなんですね、
これが」
はしゃぐように悪魔は話題を転じた。

107: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:51:53 OV1BTzi+
「死んだ父親の遺産で悠々自適を気取っていたのが怪しい事業に手を出したのが災いして
今では食うや食わずの貧乏暮らし。そのくせ気位が高いせいで人に頭を下げて働くことに
踏み出せない。しかも最近では母親に、近衛兵に取り立てられた年下の従兄弟と
比べられて、鬱屈を抱えながら自堕落な生活を送っていたという典型的な穀潰しです。
リネット王女のような若くて魅力的な女性と出会えないものかと考えながら、しかし
外に出るでもなく妄想の中で日々遊んでいただけの屑です」
「でも、あなたがそそのかさなければ、こんな大それたことはしなかった」
「王女はお優しいですね。自分をさらった相手だというのに」
その声は、さっきと同じくどこかしみじみとした響きを伴っていた。
「王族たるもの、国民を気遣えなくなったらおしまいです。それが悪魔にたぶらかされた
愚か者というのなら、なおさら」
もちろん建前に過ぎない。怒りや憎しみや恐怖の念を、あの自称魔王に対しては
抱き続けている。しかしすべてを仕組んだ張本人の前でそんな感情を顕わにしても
空しいだけだということは理解していた。
 わたしが睨むように見つめると、アガレスは視線を逸らした。
「話を戻しますが、彼は多少の知識はあれど大した魔力を持ってはいなかった」
アガレスが語る言葉に思い出すのは、堅牢な城壁を難なく突き破り、ロビンをあっさりと
なぎ払った、魔王を名乗る男の絶大な魔力。
「いや、今も大した魔力じゃございません。あれを倒せる人間は、世界に二十人ぐらいは
いるでしょうね」
「に、二十人?」
人の身であれに対抗できる者が二十人もいることが、むしろ信じられない。
「ええ。その辺もうってつけと評した理由です。悪魔アガレスに挑んで姫を救わんとする
のは至難の業ですが、あのダークエンペラーに立ち向かうのはさほど困難な話でない」
「つまり彼は、征伐されるために力を与えられたわけですか」
「そういうことです。だからと言って貴女が憐れむ必要はないと、台本を書いた者と
しては助言しておきましょう」
「……あなたはさらに彼を操るわけですね」
「ええ。貴女を破滅に導くために。まあ、一つだけご安心を。貴女は彼に肉体的に
汚されることはありません。彼奴にはわたくしがきつく言い聞かせておきますので」
「それも、戦乱を避けるための布石ですか?」
「よくおわかりで」
仮面のような笑みを浮かべると、アガレスは優雅に一礼して消え失せた。

108: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:52:49 OV1BTzi+
第二章……十日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう」
夢の中へ姿を現したアガレスに、わたしは無言で飛びつこうとした。
しかしわたしの身体は奴の身体をすり抜けてしまう。魔族が人間に危害を与えられない
ように、人間も夢の中では無力である。
それでも、今日の怒りと悲しみは誰かにぶつけずにいられなかった。
今日、目の前でたくさんの人が命を落とした。
わたしを救うために編成された部隊。この洞窟へ突入し、わたしの目の前まで
迫りながら、彼らは壊滅した。わたしの牢番に配置されていたブラックドラゴンの
炎と角と爪と牙と尾によって。
自称魔王はすでにこの洞窟を離れ、わたしに三度の食事を運ぶとき以外は別の地に築いた
居城に引きこもっている。そこで配下にするモンスターの生産に取りかかっているらしい
が、そんな奴が最初に作り出した強力なモンスターが、このブラックドラゴンだった。
牛や馬の十倍はある巨大な全身を漆黒の鱗で覆われ、腐臭漂わす息を吐き散らし、周囲を
動き回る生き物を見境なく食い漁り、長すぎる尾を引きずりながら四つ足で無様に
這い回る、おぞましくて醜くて、知性のかけらも見当たらない魔物。
だがその鱗と角は鍛錬を積んだ兵士の剣を弾き返し、肺腑に秘めた炎は敵対するものを
簡単に焼き殺し、魔物の甲羅とて噛み砕く牙は鍛造した鎧など意に介さず、四肢と尾は
すべてが石柱のような威力で殺到する兵士を砕いた。しかも造物主の命令には極めて
忠実で、わたしのいる牢内には炎の一息すら吹き込まない。
そんな黒い竜は、王国軍の精鋭で構成された部隊を蹂躙した。最後に煙幕を張って
戦線離脱を図った者たちがいたので、何人かは逃げおおせたかもしれない。
でも。
「彼は……」
思いが唇からこぼれ出てしまう。

109: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:53:23 OV1BTzi+
しかしわたしの怒りにも悲しみにも表情を乱さず、アガレスは微笑みかけてきた。
「ロビンのことですね」
「!」
「以前にお話ししました通り、トム・ブラウンには年若い従兄弟がいます。剣の腕により
近衛兵に取り立てられたその者の名はロビン。姫を救出する部隊に彼が含まれていれば、
トムが彼に対する恨みを晴らさんとブラックドラゴンを特別にけしかけたのも、これを
知っているなら驚くことではありません」
「お前は最初からそれを知っていたのか!」
ブラックドラゴンにとりわけ徹底的に嬲られたロビン。にも関わらず、何度も何度も
立ち上がり、鉄格子の向こうのわたしを見つめ、一途に突き進んできたロビン。
あれは、魔王によって事前に指示されていた黒竜が手加減した結果なのかもしれない。
しかし同時に、ロビンが誠実に務めを果たそうとしたからでもあるだろう。そうで
なければもっと早く後退して逃げることだってできたのに。
「トムとロビンの関係については。しかし王女のロビンへの恋心ばかりは
存じ上げませんでした」
「! こ、恋などではない!」
「そうですか。ではそういうことで」
わたしの言葉を否定もせず、アガレスは再度微笑んだ。
「今宵は心の準備をしていただこうと、敢えて来訪した次第。明日、貴女はこれまで
以上に悲惨な目に遭いますので」
「……今日以上に悲惨なことなど、あるものか」
「それはいささか想像力が欠如しておりますね。お忘れなきよう。わたくしは貴女を
破滅させるため、貴女の尊厳を破壊するために働いているのでございますから」
アガレスは優雅に一礼して消え失せた。

110: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:54:29 OV1BTzi+
第三章……十一日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう」
三度現れたアガレスと向かい合う自分の姿を見下ろして、これが夢の中の出来事だと
確認する。確認できてしまう。
なぜなら今、わたしは昨日までのように人間の姿をしているから。
「竜の身体には慣れましたか?」
「……慣れるものか」
昨日、わたしの目の前でロビンたちを惨たらしく傷つけたブラックドラゴン。
わたしの魂は今、その醜く罪深い竜の身体に封じ込められている。
 
 
今朝―洞窟の中ではあるが、魔法による灯りである程度の時刻はわかる―、
わたしの牢にあの自称魔王が朝食を携えて現れた。以前から自分の力や自分が
生み出した魔物の強さを自賛して止まないあの者は、あろうことかわたしに求婚した。
―エルスバーグはじきに僕に支配されるのだから、新国王の妻となるのが旧王家の
姫たる君にはふさわしいでしょう。
気取ったわりに品がなくまるで似合わないたわ言に対し、わたしは鉄格子の奥から
冷笑と短い侮蔑の言葉で応じた。
アガレスと交わした会話は覚えていた。わたしの破滅とは、すなわちここで殺される
ことかと推察もした。でもそれを恐れはしなかった。
前日にロビンの切り裂かれ焼け焦げ砕かれ一部が失われた姿を見た時から、わたしの中の
何かはすでに死んでいたのだから。
だが、彼奴はわたしを殺しはしなかった。

111: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:55:35 OV1BTzi+
―予言通りの返答だな。魔神様は常に正鵠を射抜きなさる。
顔をしかめながらそう言うと、あの男はブラックドラゴンを呼び寄せて、なぜか呪文を
唱えると黒い竜の全身を魔力の鎖で縛り上げた。
そしてわたしに顔を向け、アガレスの操り人形であるあの男は歪んだ笑みを浮かべて
言ったのだ。
―僕が好きなのは君の肉体であって、魂には興味がない。むしろ従順な魂を入れ、
その肉体に相応しく育てるほうが好もしい。
直後に唱えられた呪文は、光の輪のようなものだった。それが直線に近い形に
引き伸ばされると、それぞれの端がわたしとブラックドラゴンの体内に吸い込まれる。
―お前は一体、何を
わたしが『わたし』の声でしゃべれたのは、そこまでだった。
輪の端が身体に入り込んだ結果、身体には二本の光の糸が生えているようになっている。
その一方が外へ引き出され、それにわたしは為す術もなく引きずられる。また、もう
一方はこちらへ引き込まれていく。
わたしの身体はまったく動いていない。しかし『わたし自身』は糸に雁字搦めにされた
ように感じていて、糸とともに凄まじい勢いで動き始めている。
すぐにわたしは『わたしの身体』の外に引きずり出され、『リネット』の姿を外から
見ることになった。魂を抜かれたような虚ろな表情をしていた。
わたしは自分が光る球体のような存在となって光の糸に絡みつかれていることを
理解した。そして、鉄格子を超えて糸の進む先にはブラックドラゴンの身体がある
ことも、竜の身体から飛び出した光る球体が糸に乗って『リネット』の身体へと
向かっていることも。
抗おうにも抗う方法もわからないうちに、わたしは邪悪な黒竜の身体の中に吸い込まれて
いき、その身体の新たな持ち主となった。
―この洞窟は君に差し上げよう。迷い込んで来たモンスターや動物、もちろんお好みと
あらば人間も、君の食料になるはずだ。その鎖はもうしばらくすれば消滅するように
設定してあるから心配はいらないよ。
魔王は牢の鍵を開けながら、もったいぶった口調で言う。そして、突如人間の少女に
なって呆然とその場にへたり込んでいるさっきまでのブラックドラゴンを優しく
抱き寄せると、跳躍の呪文を唱えて消えてしまった。
後に残されたのは、さっきまでエルスバーグ王国の王女であったはずの、
醜いブラックドラゴンが一匹。

112: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 21:00:16 OV1BTzi+
今夜はここまでです。
前スレ『ベルゼブブの娘』と共通する名前がちょっと出てきますが、
設定的にはあちらの数十年前の話という感じです。

113:名無しさん@ピンキー
08/05/24 21:07:52 O0y9tNdH
>>112
GJ!
続きを全力で待たせてもらいます!

114:名無しさん@ピンキー
08/05/24 23:01:25 mVYxXeho
GJ!俺にとってあんたなしじゃTFは語れない!

115: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:52:56 WzqdZqYP
「ダークエンペラーは古い物語を読んでいて、白紙から自分好みの女性に仕立て上げる
お話に心惹かれるものがありましたので、彼好みのアドバイスをしておきました。
もっともブラックドラゴンは無知この上ないですから、実際に満足のいく成長を遂げる
には四、五年は待たないといけないわけですが」
「……その間に彼は滅ぼされ、『心を病んだ王女様』は数年後に回復を遂げるという
わけですか」
なぜかわたしは、再びアガレスに対して敬語を用いていた。悪魔に対する憎しみ以上に、
金属の軋みのごとき鳴き声とは違うまともな人間の言葉をしゃべれる喜びが大きかった
からかもしれない。
「さいでございます。これなら『王女』は損なわれず、しかし実際には王女は苦痛に
見舞われる。依頼主と周囲の皆様の矛盾する要求をうまいこと切り抜けたすんばらしい
発想と自負しておりますが?」
「そしてわたしは邪悪な竜として討伐されるというわけですね……」
もうわたしは夢の中でしか言葉をしゃべれない。不恰好な四つん這いでは字を書くことも
ままならない。何より今の醜い身体では、人と言葉や意思を疎通させること自体が
不可能だ。つまりは魔王の手先にして王女救出部隊の仇でもあるブラックドラゴンと
思われたまま、やがて現れる勇敢な冒険者の手でみじめに殺されて屍を晒すのみ。
嘆きの呟きに返答を期待したわけではなかったが、アガレスは道化た笑みを引っ込めると
神妙な顔をして言った。
「勘違いしないでいただきたいんですけどね、わたしは依頼主にとって最善の手を
打ち続けるつもりですが、別に貴女の未来が確定したわけではありませんよ?」

116: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:53:32 WzqdZqYP
「……え?」
「悪魔が万能じゃないことくらい、おとぎ話でご存知でしょ? 運に恵まれれば、
どうにかなるかもしれませんよ。元の身体を取り戻せるかどうかはわかりませんが、
こちらの意図した破滅ぐらいは免れるかもしれません」
「しかし、この状況はすでに詰んでいます」
竜とて決して無敵ではない。すでに情報は伝わっているはずだから、洞窟の外に出れば
優秀な魔術師たちによる遠距離魔法の集中砲火を浴びて滅ぼされる。かと言ってここに
篭もっていても、魔力を秘めた武具で身を固めた腕利きの剣士や騎士に乗り込まれたら
それまで。人と戦うつもりなどないわたしはいいように嬲り殺されるだろう。
仮にそうした人材の手配が遅れるとしても、この巨体を維持する食料をどうするか。外に
出た場合、牧場などを襲って牛や羊を丸呑みでもしないことには胃袋が満たされそうに
ない。内に潜み続ける場合、辺りを蠢き回るおぞましいモンスターを捕食することに
なる。どちらも耐えがたく、だが空腹も今日一日ですでに忍耐の限度に達している。
「これくらいは妥協と開き直りで乗り越えられるでしょう」
わたしが陥っている窮境を理解しているだろうに、アガレスは一言で切り捨てた。
「ではまたいずれ。たぶん貴女とは次に会うのが最後になるでしょうね」
言い残すと、アガレスは優雅に一礼して消え失せた。

117: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:54:13 WzqdZqYP
第四章……六十日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう」
闇の中にアガレスが現れた。
反射的に身構えて、ここが夢の中であることを思い起こす。自分が本来は人間であった
ことも。
わたしの姿はたちまちブラックドラゴンから人間に戻った。今のわたしからは奪われて
久しい姿へ。周囲から褒めそやされ、自分でも内心誇らしく思っていた、それなりに
美しい少女の姿へ。
「機敏な反応でございましたね。さすがに五十日モンスターと戦い続けると、野生の
勘のようなものが鋭くなってくる」
「…………」
言いたいことが多すぎて、さらに久しく話というものをしてなかったせいで言葉をうまく
発せられなくて、また、アガレスがまず口にしたこの言葉に我知らず打ちのめされて、
わたしはしばらく黙りこくってしまった。

118: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:56:04 WzqdZqYP
すでに日数を数えるのは止めていたが、確かにわたしはこの数十日間洞窟の中で
モンスターと戦い続けていた。それらを喰らうために。
外に出るのは、食料確保に関してと、わたしをモンスターと判断して問答無用で
襲撃するであろう兵士や冒険者に対してと、二つの不安によって断念した。
その点この洞窟には弱いモンスターがふんだんに生息し、しかも今のわたし―
ブラックドラゴンの戦闘能力を活用するには絶好の環境であり、さしたる困難もなく
生き延びることができるのだった。
アガレスと会った翌日、最初に喰らったモンスターは今でも忘れられない。甲羅で身を
守り無数の触手を蠢かせて這い回る、メバと呼ばれるモンスター。グロテスクな外観な
上、甲羅を剥いでも中の肉さえ人間には有毒で、しかも樽ほど大きく人間にとっては
凶暴な魔物ということもあり、人がこれを食した記録などどこにもない。
ただわたしは、人間の王女として囚われの身であった頃、今現在のこの身体である
ブラックドラゴンが、床や壁をのそのそ這い回るこのメバを見つけると嬉々として
捕食するのを何度となく目にしていたのだった。
もちろんいきなりそんなものを口にする勇気があったわけではない。しかしその時
わたしの近くにいた、食べるのにまだ抵抗の少ない他のモンスターは、素早く動き回る
種類のものばかり。ドラゴンになって丸一日も経っていなくて身体を使いこなせず、
飢えで衰弱もしているわたしには捕えられそうになかったのだ。
同じ生き物が、単に魂が変わっただけで、それまで食べていたものを突然毒に感じる
わけもない。そう自分に言い聞かせながら、わたしは前肢でメバの甲羅を押さえつけた。
メバは危険を感じたか、柔らかく粘つく触手を何十本とうねらせ、一部はわたしの
前肢に届く。その不快さに耐えられず、わたしは肢を離してしまった。

119: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:56:49 WzqdZqYP
それでも、いつまでも何も食べないままではいられない。肢の先から力が抜け、ただ歩く
ことすら苦痛になり、蝙蝠や鼠が変じた素早いモンスターが不穏にもわたしの周囲を
ちょろちょろと徘徊し始める。生まれて初めて、わたしは餓死の危険を肌身に感じた。
思いついて、メバに炎を吐いてみる。だが火力の加減をまだできなかった当時の
わたしは、メバを完全な灰にしてしまった。
わたしは覚悟を決めた。
手近なメバを掴み取って口の中に放り込み、一心不乱に噛み砕く。ドラゴンの鋭い牙は
甲羅をも簡単に咀嚼できた。触手はしつこく口の中で蠢き続けたが、舌と唾液で牙に
絡みつくそれらをこそげ落とし、無理矢理喉の奥に送り込んだ。
人間の味覚では表現できないその味は、しかしドラゴンとなっているわたしにはさして
不快でもなかった。
一度開き直ってしまうとその後の心理的な抵抗は一気に減り、わたしは様々な
モンスターを食べ漁るようになった。
それらの中には、こちらの硬い鱗をも切り裂く刃のような角を備えた鷹や、稚拙ながら
魔法を使って眠らせようとする蛙など、ドラゴンの強大な力をもってしても一筋縄では
いかないモンスターが多くて、それらを狩るうち、戦闘などとはまるで無縁に王女と
して暮らしてきたわたしは、いつしかブラックドラゴンとしての能力を十二分に発揮
できるようになっていたのだった。

120: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:57:49 WzqdZqYP
「まあ、それでもにわか仕込みの王女様が勝てるほど、甘い相手ばかりではないという
ことでございます」
アガレスは軽く笑う。わたしは返す言葉もない。
今、こうして夢を見ているわたしは、現実では頑丈な檻の中に閉じ込められている。
洞窟の近くにある村の一角に設置された檻の中に。
アガレスが以前語った存在。アガレスが力を貸し与えている自称魔王に立ち向かえる、
数少ない冒険者。今日、そのうちの一人が、わたしの寝ぐらであった洞窟を襲ったのだ。
 
 
今日、目を覚ましたわたしは、とりあえず目の前を這っていた五匹のメバを平らげて
朝食とした。
空腹を癒すと、毎朝毎夕の日課になった作業を始める。
『私はエルスバーグ王女のリネットです。魔王により竜と魂を入れ替えられましたが、
あなたがたと敵対する意思はありません』
と、前肢の爪を使って洞窟のあちこちの壁に彫りつけていくのだ。
洞窟全体には魔王による維持魔法がかかっており、朝と夕方になると洞窟のあらゆる
損傷が自動的に修復されてしまう。おかげで激しい戦闘が起きても洞窟はまず崩落しない
わけだが、そのたびにわたしの爪痕は空しく消し去られる。
それでもわたしは毎日二回、修復された直後の傷一つない壁に文字を刻む。無益で
恐ろしい戦闘を避け、自らが救われる可能性にすがって。同時に、自身が単に本能しか
持ち合わせない竜ではないことを確認するために。
作業の順番としては洞窟入り口近くから始めるのが基本だが、その日の気分で適当な
ところから始めることも珍しくない。今朝は起き抜けに、牢屋前の最も広々とした一角
―わたしと入れ替わる前からブラックドラゴンが寝起きしていた場所でもある―から
書き始めることとした。

121: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:59:03 WzqdZqYP
と、書き終えた直後、洞窟入り口の方向から奇妙な物音を聞き取る。
ブラックドラゴンの聴覚は、モンスターの中では大したことはないが、それでも普通の
人間よりははるかに鋭敏だ。そんな今のわたしの耳は、金属の鎧をガシャガシャと
騒々しく鳴らしてこちらへ歩み来る何者かの足音を聞き分けていた。
最初わたしはいよいよ人間がやって来たかと思って緊張した。『リネット』の身柄は
魔王が押さえている。それを魔王が広く宣言していれば、ここにリネットはいないと
して問答無用に攻撃が始まるだろうが、そうでなければ人質を警戒して慎重な行動を
取るはず。わたしにも自分の事情を説明して理解してもらう余地はある。
だが足音を聞くうちに、疑念が生じ始めてきた。
わたしがドラゴンになってから、洞窟内に人間が入って来たことはない。それでも、
鎧を着た近衛兵や騎士の足音は昔から聞き慣れている。その記憶に照らし合わせると、
足音の主はあまりに無警戒なのだ。
よほど腕前に自信のある練達の武人ならば、敢えて示威行動の一環として聞こえよがしに
音を立てるようなこともあるかもしれない。しかしその足運びたるやどうにも不器用、
まるで床を出たばかりの病人のようによろめき、時に壁に手をつくのか一際盛大な
金属音を響かせている。だが足取り自体は一定に保たれていた。
―魔物?
鎧を着るのは人間ばかりではない。オークやゴブリン、コボルドなどの亜人が、襲った
人間から剥ぎ取った大きさの合わない鎧を着飾ることもあれば、妖術によって
生み出された骸骨剣士などの不死生物が武具で身を固めることもある。
―骸骨は食べられないけれど、亜人なら。
わたしは涎を垂らし、舌なめずりをした。亜人は弱くて仕留めやすい絶好の食料なのだ。
ことに豚と人を混ぜ合わせたような姿のオークは、肉が多くて美味である。
わたしは素早く洞窟の構造を頭に思い描き、待ち伏せにうってつけの地点まで忍び足で
移動した。四本肢の巨体を動かすことにもすでに熟達し、角や尻尾を壁にぶつける
ような無様な真似ももうしない。

122: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:01:10 WzqdZqYP
相手の不意を突ける場所に陣取り、息を殺して待つ。
来た。
わたしは飛びかかり、前肢でなぎ払う。高熱の炎を吐けば一番強力な攻撃になるが、
その場合は炭化してしまって食べられないので、よほど危険と判断した時以外は
使わないようにしている。
壁に叩きつけられた敵は、だが、即座に体勢を立て直すと剣を構えてわたしに
斬りかかってきた。
その姿は、鎧の中に腐肉をまとい、時折ぼろぼろと床にこぼしさえする、亡者。
―ゾンビ?
だが普通の―わたしの知識は王宮で魔道師に教わっただけの、通り一遍のものに
過ぎないが―ゾンビであれば、こうも機敏な動きはできない。先刻までの、音でのみ
聞いていた遅々とした動きと、この姿とはぴたりと一致する。なのに今現在のこの
俊敏な動きは明白に異常であった。
とっさに身をかわしたわたしの前肢を、人型のものが持つには長大な剣が払う。一本の
爪を斬り落とし、届いた切っ先は鱗を斬り裂いて足首からもどす黒い血を流させた。
痛みはさほど感じない。竜の身体は繊細ではない。
しかしもちろん、わたしはただの低能な竜とは違い、それなりの知性を有している。
目の前の敵は剣呑な存在であると判断する。どこか別の遺跡や洞窟から這い出て来た
古代の魔物だろうか。それとも魔王が生み出して性能を試すためにわたしにけしかけた
新型のモンスターだろうか。いずれにせよ、倒すしかない。
だけど、炎を吐くのは躊躇してしまった。
一つには、わたしは炎を吐くと直後に大きな隙ができるため。生まれながらのドラゴン
ならこんなこともないのかもしれないが、わたしはそうなってしまう。もしこの
ゾンビが焼かれても動けるほど強力な呪力で動いているなら、骨だけの姿でも剣を
振るえるかもしれない。そうなったら隙の生じたわたしは格好の標的だ。

123: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:02:06 WzqdZqYP
そしてもう一つは……説明もできない、ただのためらい。
相貌も腐れ果て、今のわたし以上におぞましい汚れたモンスター。なのに、何となく、
見覚えがあるような気がしてしまう。もしかしたら、かつてこの洞窟で命を落とした
者の成れの果てかもしれない。わたしを救うためにここへやって来て、わたしの
この身体によって命を奪われた兵士かもしれない。
―倒した後に身元の確認をし、わたし自身が元に戻った後で遺族へ報告をする。
実現可能かどうかは定かでないがそれを目標として、わたしは行動することにした。
戦いは熾烈を極めた。
ゾンビの特徴としては、痛覚の欠落が挙げられる。ゆえにこちらの打撃は相手の肉体を
破壊するほど強烈なものでなければ意味がなく、他のモンスターであれば簡単に気絶
させられるような衝撃を与えても、それだけではしかたがない。わたしは後の先を
取られて何度となく全身を斬り刻まれた。
そしてまた、最初からわたしを翻弄した高い反応速度。殴っても応えないわけだが、
そもそもなかなか当たらない。
さらにこのゾンビは、なぜかいくつかの魔法も使うのだ。ブラックドラゴンの身体は
魔法への耐性もそれなりにあり大きな傷を負うほどではないが、火球や氷の矢を
目の前で放たれると目くらましの効果まで発揮するからたちが悪い。
それでも元々の耐久力の違いが大きかったためだろう。わたしはどうにかゾンビ剣士の
両腕両脚を解体することに成功した。

124: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:03:49 WzqdZqYP
立ち上がれず、それでもなおじたばたと動き回る、生ける屍。
その様子を見ているうちに、わたしはここしばらく考えないようにしていたことを
つい考えてしまった。
醜いドラゴンの巨体で洞窟を蠢き、モンスターを襲っては喰らう、今のわたし。
美しい靴を履き王宮の磨きこまれた床の上でダンスを踊る代わりに、裸足の四つん這いで
岩と泥と苔が混ざり合った上を歩く。
柔らかなフリルで飾られたドレスを身にまとう代わりに、鉱物のような鱗で全身を
覆われている。正確にはそれこそが今のわたしの皮膚。
毎朝侍女にくしけずってもらっていた長い蜂蜜色の髪の毛はどこにもなく、二本の鋭く
まっすぐな角が前に突き出ている頭。
歌を歌い詩を口ずさんだかつての口とはまるで形の違う、獣や爬虫類のごとく前に
突き出た口。その上顎と下顎には牙がびっしりと生え揃っていて、モンスターの
甲羅だろうが骨だろうがお構いなしに噛み砕く。
その口の中に収まるのは、料理人が丹念に調理した食べ物ではない。仕留めたばかりの、
あるいは生きたままの、味つけもされてないモンスターの肉。それだけ。
ただただ必死に、生き延びることだけを意識している今のわたしだが、そんなわたしは
果たしてまだ『リネット』を名乗るに値する存在なのだろうか? もうわたしは
ブラックドラゴンであることに馴染みすぎてしまっているのではなかろうか?
そんなことを考えてしまっていたせいだろう。ゾンビの着ていた鎧の端に彫り込まれて
いた文字を見て、わたしは完全に凍りついた。
『ロビン』
この腐りきった、腐汁を撒き散らす、眼窩から眼球の垂れ下がった動く死体が、ロビン。
わたしがうっすらと好意を抱いていた青年。
わたしは、自分が好きだったはずの相手を気づきもせずにバラバラに引き裂いていた。
ドラゴンの本能に衝き動かされるように。
慙愧の念など即座に湧くはずもなく、ただ瞬時の衝撃と混乱がわたしの動きを止める。
そして、敵にはそれで充分だった。

125: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:06:54 WzqdZqYP
地面に倒れてもがいていたロビンの亡骸が、突如背中から羽を生やして宙に舞う。
―!
距離を取ろうとしたわたしだが、反応が間に合わない。
そしてロビンの死体は、今度は腹から無数の触手を、そして口からは紫色に濁りきった
ガスを、わたしに向かって吐き出した。
どちらか片方だけならば、それでもまだ対処できたかもしれない。しかし触手は
わたしの四肢を封じ、ガスはブラックドラゴンであるわたしの頑健な肉体さえも
一時麻痺させるほどの毒性を有していた。
―よし、よくやったぞ、ロビン。
そう言いながら、洞窟入り口の方向から新たな人影が歩み寄って来た。
わたしやロビンと同年代の、一見平凡な、しかし数多の修羅場を潜り抜けた風格を
漂わせる青年だった。
―炎を吐かなかったのはロビンがスケルトンとして動き続ける二段構えを警戒したから
なのか? ブラックドラゴンにしちゃ知恵が働く戦いぶりだったな。さすがは王女様の
番兵を任されるだけのことはある。殺すのは止めだ。
青年はそう言うと、ロープを取り出してわたしを縛り上げる。よほど強力な魔力が
込められているのか、わたしはかすかな身動きも声を上げることさえもできなくなった。
どうやら彼が、かつてロビンだったゾンビを操っていたらしい。と言うことは、彼こそは
魔王を倒す実力を持った冒険者なのだろうか。そう言えば冒険者には魔物使いを生業と
する者もいると聞いたことがあった。
それなら彼に、さっき洞窟奥に刻みつけた文を見てもらえれば。『リネット』の救出も
彼の任務のようなのだし、これから奥へ進んでもらえれば。
―ま、ロビンもぼろぼろだし、今日のところは一旦帰るか。明日朝一番で強化した後、
改めて奥に挑むとしよう。
冒険者はそう言うと、わたしをロビンと二人がかりで引きずりながら洞窟の外へ出て
行ってしまった。

126: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:10:58 WzqdZqYP
「リネット様の破滅は、最終段階に達しました」
アガレスは、飄々とした声音でわたしに宣告する。
「肉体的な苦痛。精神的な恥辱。この五十日で王女はそれらを存分に体験し、しかも
今後もそこから抜け出す見込みは皆無に等しい」
たぶんアガレスが言うからには、そうなのだろう。
よしんば仮に『リネット』の身体と生活を取り戻せたとしても―
「もし万々が一、元に戻ることができたとしても、この苦痛と恥辱は魂にまで焼きつき、
王女は決してまっとうな幸福など得ることができない。そうお思いになりませんか、
オクタヴィア様?」
突如アガレスが背後に呼びかけると、闇の奥からポートスパンの伯爵令嬢が姿を見せた。
深い眠りにでも陥っていたところだったのか、夢の中でもネグリジェを着ていて、
だらしなく着崩している。
オクタヴィアは、急の出現に戸惑うわたしを一瞥して言った。高慢がすべての美点を
台無しにする、古い家柄の愚かな貴族にありがちの醜さには、一層磨きがかかっていた。
「まだこの女、夢の中では人間の姿じゃないの。実際はどんな浅ましい化け物になって
いるのか、はっきり見せて欲しいわね」
「かしこまりました」
オクタヴィアの要求に、アガレスは唯々諾々と従う。そしてわたしに指を向けた。
「アガレス、あなた、何を……」
「悪魔は夢の中では力が激減します。しかし何もできないわけじゃありません。
夢魔なんて連中もいるわけですしね」
そして変化の公爵は、わたしに一条の光を発射する。
それに射抜かれたわたしは、夢の中なのに激しい熱に襲われた。光の当たった部分から
身体全体へと、耐え難い熱さが広がっていく。
目眩を感じ、立っていられなくなって、わたしは両手を下に突いてしまう。
すると。
人間であった―夢の中では人間のままでいられた―わたしの身体が、次第に変化
し始めた。

127: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:12:35 WzqdZqYP
長く伸ばした髪の毛が抜け落ちていく。
白く滑らかな腕が黒みを帯びた硬い皮膚へと変わりながら太く大きくなっていき、
五本ある小さな指は鉄をも両断する長く凶悪な爪を備えた四本の指へと形を変えていく。
顎の形が変わっていく。鼻を伴って前方へ長く伸びていく。その内側では歯が牙へと
変化していく。
全身が巨大化していき、最近の夢の中でわたしがずっと着ていたドレスは簡単に破れ、
虚空の中に散り散りになってしまった。
身体の中で内臓まで変わっていくようだ。ドラゴンには炎を生み出す器官があるようで、
呼吸器と入り混じるそれの影響により、吐く息は火山地帯のごとき腐臭を漂わせるように
なっていく。
髪のすべて抜け落ちた頭部には二本の角が、尻からは体長に匹敵する長さの尾が、
圧倒的な存在感とともに生え揃う。まるでわたしに、今の自分が人でないと常に
言い聞かせるためのように。
熱さが全身から引いていった時、わたしは完全なブラックドラゴンに成り果てていた。
「これにてリネット王女は夢の中でもドラゴンの姿で生きていくこととなりました。
いかがでしょう、オクタヴィア様?」
「この先一生? 本当に?」
喜色満面に、オクタヴィアが確認する。
「これまでアガレスが言を違えたことがありますか? 契約が続く限り、アガレスは
貴女様の忠実なしもべです」
アガレスの言葉は真実だとわたしにはわかった。
全身を―ここは夢なのだから、つまりはわたしの魂を―何かが縛りつけている。
これが解かれない限り、わたしは今後人の姿をとることができそうにないと肌身に
感じられてならなかった。

128: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:14:09 WzqdZqYP
身悶えする。声を上げようにも、軋むような声しか出せない。
そんなわたしを見て、オクタヴィアはさらに笑みを深くした。
「あはははは! それが今の王女様? まあ怖い、何ておぞましいお姿かしら!」
そう言いながらも、弾むような足取りでわたしの足元に近寄って来る。夢の中で
ある限り自分がわたしに危害を加えられたりはしないとよく知っているのだろう。
「ご機嫌はいかが? 気位の高い高慢ちきで取り澄ましたお姫様! あの時はあたしに
恥をかかせてさぞよいご気分だったことでしょうけど、こうなっちゃみじめなもの
よね! ざまあみなさい、邪悪なドラゴン!」
幼い言葉を稚拙に連ねてわたしを罵る。どうやらあの一件は、本当に彼女にとって
屈辱的だったらしい。
言いたいことはあるが、口を開いても単にオクタヴィアを喜ばせるだけだ。そう認識
したわたしは、じっとその場に佇んだ。
「ねえアガレス、こいつが何を考えているかがわかんないとつまんないわ」
「では元に戻しましょうか?」
「なんでそんなことすんのよ! 姿も声もそのままで、ただ思っていることはこちらに
伝わるようにしなさいよ!」
「かしこまりました」
その瞬間、わたしの中で何かが外に開くような感覚があった。泳いだ後に耳に入っていた
水が抜けていく時のような雰囲気。
―……アガレス。
「聞こえておりますよ、リネット様」
「こんな奴に様をつける必要なんかないってば! ……でも、ほんとにアガレスは
何でもできるのね」
わたしはオクタヴィアを見下ろした。
―ポートスパンのオクタヴィア。
「な、何よ」

129: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:16:06 WzqdZqYP
―わたしを逆恨みするのは構いません。このような姿に身をやつしたことも、わたし
一人の問題であれば、まだ耐えられます。
「はん、何殊勝なこと言っちゃってんのよ。どうせ建前のくせに」
いかにもその通り、建前だ。こんな目に遭わされて耐えられるわけがない。でも、
建前を押し通すべき場面というものはある。
―ですが、あなたの私怨がエルスバーグの罪なき民を多く死に至らしめた。そのことに
ついては、今、どのようにお考えか。
「そんなの、あたしのせいじゃないわよ。アガレスがまどろっこしいことしたのが
悪いんじゃない」
―今、と問うている。すでに事は起こり、結果が生じた。それに対してあなたは
いかように考えるのか。
重ねて訊ねると、オクタヴィアはそっぽを向いた。
「別に知らないわよ。よその国の兵隊なんかが何人死んだって、あたしにはこれっぽっち
も関係ない話だもの」
―……わたしは、あなたを許しません。決して。
「許さなければどうだっての? 何かできるものならしてみなさいよ!」
貴族の家に生まれた下賤な娘は、わたしを挑発するように手をひらひらと振った。
「ところでオクタヴィア様。明日の成り行きですが……」
アガレスが、娘に耳打ちした。
「あはははっ! それいいわね! こいつってば、今よりまだ酷いことになるんだ!」
手を打って、わたしを指差し、これ見よがしに笑う。
わたしはただそれを見つめる。その程度の言葉で動じたくないという気持ちが強かった
が、これ以上どう状況が悪くなるのか見当がつかないせいでもあった。

130: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:17:20 WzqdZqYP
「気に入っていただけましたか?」
「そうね、大満足!」
かりそめの主従による会話が続く。
「わたくしからはこれ以上するべきことが思いつかないのですが、オクタヴィア様には
何か案がございますか?」
「何よそれ。考えて手を打つのがあんたの仕事でしょ」
「ですから、これまでわたくしは色々考えて様々に手を打ってきたわけです。リネット
王女をここからさらに虐げる方法は、当面思いつきません。オクタヴィア様には何か
考えつくことはございませんか?」
重ねてアガレスが問いかける。
「んー、別にないわ」
「そうですか。何か思いついていただければ、それの実現に向けて努力いたしますが?」
もう一度問われしばらくは考え込んでいたが、結局大したことを思いつかなかったのか、
首を横に振る。
「しつこいわねー、もういいわよこれで」
「はあ。もういい、ですか」
わたしと話す時と違ってそれまで無表情に振る舞っていたアガレスが、初めて
オクタヴィアに向けて笑みを浮かべた。
ひどく邪悪な笑みに見えた。
「それはすなわち契約の完了ということでよろしいですね?」
「さっきからうるさいわよ! そろそろこのつまんない場所から元のベッドに戻しなさい
ってば!」
幼児のように手足をばたつかせる娘を、アガレスは冷ややかに見つめた。
「契約完了。ゆえに今後、わたくしは貴女に従ういわれはございません。そして
わたくしは、貴女に代償を要求いたします」

131: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:18:40 WzqdZqYP
「……代償?」
「貴女が作動させた杖には注意書きがついていたはずなんですがね。まあ、貴女バカ
ですし、ろくに読まずにでたらめに動かしたみたいですから、気づいてなかったとしても
不思議はないんですが」
「アガレス! 何よその失敬な口の利き方は!」
「言ったでやんしょ? 契約は終わったって。正直この六十日間、苦痛で苦痛で
たまりませんでしたよ、貴女みたいなバカ娘の醜い願いを叶えるために東奔西走する
のはね」
すっかりわたしの知るいつもの調子を取り戻したアガレスは、肩をすくめると
オクタヴィアを見下して言った。
「で、あなたが知らずに契約まで済ませた『代償』なんですがね。貴女の魂そのもの
ですよ。ちゃっちゃと渡していただきます」
「……え?」
「え、じゃないですよ。魂。心。悪魔がそれを要求するなんて、砂漠で喉の渇いた
人間が水を求めるのと同じくらいありふれた話だと思いますがねえ」
「あ、ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」
「待ちません。貴女の願いは叶った。リネット王女はこれ以上はなかなかないってくらい
完全に破滅した。貴女自身が契約完了を否定しなかった。なら、こちらはこちらで最後の
清算を済ませても、何ら問題はないでしょう?」
「だ、だって、あたし、そんなの知らなくて―」
わたしもすでに知っていたし、たとえ聞かされていなくても推測は容易だった話なの
だが、オクタヴィアには本当に寝耳に水だったらしい。
「無知は罪ですよ。人生最後にいい教訓を得ましたね、お嬢さん」

132: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:19:31 WzqdZqYP
アガレスは、掌をオクタヴィアに突き出す。
するとそこへ引かれるように、娘の身体から光る玉が飛び出して、掌の中に収まった。
―死んだのですか?
「正確にはまだですね。魂がしばらく抜けてても肉体は動いてるものです。リネット様の
魂をそちらに宛がってしまえばちょうどいいのかもしれませんが、わたくしの立場上
それはできないので悪しからず」
―それは、わたしからもごめんこうむります。
人間の、それも同年代でそれなりに身分の高い、少女の身体。今の身体に比べれば
もちろん魅力的だが、それでも我慢できることとできないことはある。
「まあ、そう言うだろうと思ってました。かと言って腐らせるのももったいないので、
適当に見繕っておくとしましょうかね」
―当人の魂はどうするのです?
平然と悪魔とそんな会話ができる自分が不思議だ。やはりわたしは魔物として生きる
うちに、すでに人の道を踏み外しているのかもしれない。
「そうですね。食べ応えがあるなら別の身体に移植したりしてじっくり感情をしゃぶり
尽くすところなんですが、あいにくこの娘は虫みたいなものですからちっとも美味じゃ
ない。まあ、相応しいところへ落ち着くんじゃないかと思いますよ」
光る玉を無造作に弄びながらアガレスは言った。
「ところで王女様」
―何ですか?
「明日、貴女様に何が起きるか教えて差し上げましょう」
そう切り出すと、アガレスはわたしに待ち受ける事態について話し始めた。
 
 
「では、さらばです」
わたしとの会話を終えると、アガレスは闇の中に消え失せた。

133: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:27:32 WzqdZqYP
今夜はここまでです。短い話ですので、次回の投下で完結となります。

134:名無しさん@ピンキー
08/05/26 01:28:41 SCPd3vuH
GJ!目が離せないぜwktk

135:名無しさん@ピンキー
08/05/26 02:20:17 CwRrMd4v
これは期待してしまうぜ。GJ!

136:名無しさん@ピンキー
08/05/26 06:37:41 8bKGdplf
GJ!入れ替わり式のTFに加えて、肉体変化のTFもあるなんてかなり美味しいな。
登場人物一人一人のキャラ付けが決まってて面白い。

137:名無しさん@ピンキー
08/05/26 10:01:05 oWA1jSj8
保守だけで進むだけだったスレにこんな大作が投下されるなんて!
次が気になるぜ!

138:名無しさん@ピンキー
08/05/27 22:47:41 6xoh9xIw
続きが気になるのぉ~

139:名無しさん@ピンキー
08/05/28 03:40:13 mNzhcqXO
ちょっと前まで過疎ってたのにこんな良スレになるとは

140:名無しさん@ピンキー
08/05/28 21:25:41 KJoiayoa
ベルゼブブの作者様ですよね
満を持してという感じでとてもうれしいです!

141: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:45:29 pmQNeIlZ
終章……六十一日目
 
 
「さあて、機嫌はどうだ? 楽にしてろよ」
冒険者は昨日と同じようにゾンビのロビンと二人がかりで、縛り上げられたわたしを
檻からずるずると引きずっていく。その行く手には、借りきったらしい村の倉庫。
広々とした床に描かれているのは魔法陣。
 
 
「あの冒険者は魔物使いです。それも、ちょっと外法に手を染めていましてね」
昨晩の夢の中でアガレスは言った。
―魔物使いの外法とは?
魔物を手なずけ使役する冒険者。そこにどのような禁忌があるというのか。
「あのゾンビ、不自然でしたでしょ? いえゾンビそのものが不自然と言えば不自然
なんですけど」
 
 
わたしは魔法陣の上に転がされた。少し離れたところにもう二つの魔法陣があり、
三つで正三角形を構成している。その片方に、ゾンビが足を踏み入れた。
 
 
―確かにそうでしたね。背中に翼を生やし、触手も備え、呪文を使った上に、戦闘と
なると異様に素早くなりました。
「つまりあれが、あの冒険者の研究の成果ですよ」
―魔法か何かで、魔物に特殊な能力を付加するということですか?
「惜しい。もう少し強引な手です」

142: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:46:20 pmQNeIlZ
わたしとロビンがそれぞれの魔法陣に完全に入っていることを確認すると、冒険者は
呪文を唱え出した。西部では耳慣れない、恐らくは東方の言葉。
それと同時に足元の魔法陣が光り輝く。床に描かれていたはずの紋様が回り始め、
わたしの身体を飲み込んでいく。
目を転じればゾンビのロビンも同様に、魔法陣の中に吸い込まれていくところだった。
 
 
「モンスター同士を合成させるんですよ」
アガレスの言葉にわたしの理解が追いつかない。
「呪法の一種で二体のモンスターを溶かし、粘土細工のようにぐちゃぐちゃにして
一体化し、それぞれの持つ長所や特性は生かしたまま新たなモンスターを作り出す。
無理矢理一つにされる当事者の意思を除けば、実に合理的で優れた手口ですな」
 
 
自分で料理をした経験はないが、料理しているのを眺めるのは好きで、しばしば城の
調理場へ足を運んだことがある。
今のわたしの身体は、たぶんその時に見た一塊のバターのようになっていることだろう。
熱せられた鍋に放り込まれ、あっという間に溶け出して、他の材料と混ざり合っていく。
熱こそ感じないものの、わたしは間違いなく身体が溶けていくのを、また他の存在と
混じり合っていくのを、感じていた。

143: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:48:07 pmQNeIlZ
昨晩そう聞かされて、わたしは直前にオクタヴィアが手を叩いて喜んでいたのを
思い出した。たぶんあの娘はわたしが何と合成させられるのかも聞いたのだろう。
一方わたしは自分で推測した。最も強い手駒とその次に強い手駒。より困難な局面に
挑む上では、この二つを足すのが最善の選択のはず。
つまりわたしは、ただの醜いドラゴンよりもなお無惨な存在になるわけだ。
―心は、どうなるのです?
身体に関しては諦めもつく。どの道、今の身体に未練などない。むしろ強化されれば
生き残る確率が高まるのだから、容貌などどうでもいい。
それでも、心が変わってしまうのは恐ろしかった。
アガレスは、おもむろに口を開いた。
 
 
魔法陣の中で肉体が混ぜ合わされているわたしのすぐ傍に、誰かがいる。
―姫様姫様リネット姫様
わたしを呼んでいるわけではない。その声は、ただひたすらに一途である。
死者は生前の妄執に支配されると聞く。ゾンビの中に宿っている魂のかけらは、死ぬ
間際に心を占めていた意志のかけらに衝き動かされて、骸となった後も動き続けようと
したのであろうか。
―食べ物食べ物
―食べる寝る交わる産む食べる寝る交わる産む
周囲には他の思念も屯していたが、いずれもより単純な衝動しか持ち合わせて
いなかった。色々足し合わされてはいても、あのゾンビの中心にはロビンがいたと
いうことか。
―ロビン。
わたしは、ロビンの思念に寄り添った。
 
 
「心も混ざり合う模様ですね。流されるがままにいれば」
―それはつまり、流されまいとすれば、わたしはわたしで在り続けられるということ
ですか?
「はい、おそらく」

144: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:49:18 pmQNeIlZ
モンスターを合成するのにかかる時間はほんの一瞬。つまりその間に触れ合った
わたしとロビンの心の逢瀬もほんの刹那。
しかしわたしにとっては、一生忘れられないほどの濃密な瞬間だった。
―姫様、ご無事でしたか!
―ええ。あなたたちが助けに来てくれたのですもの。
―よかった。本当によかった。
―ありがとう。あなたたちのような家臣を持てたことを誇りに思います。……いえ、
あなたという人に出会えたことを。
心が重なり溶け合っていくがごとき、恍惚の一瞬。
そのまま一つになってしまえれば、あるいは最も幸福だったのかもしれない。
でも。
―さようなら、ロビン。
わたしはロビンの心のかけらを己から引き剥がした。この精神世界で強力な意志を
発揮できるわたしは、他の魂を次から次へと押し潰し、粉々に砕き、無に帰していく。
―姫様
―あなたの魂に誓って、わたしは人間に戻ります。あなたが敬愛したリネットに戻り、
あなたの墓前に改めて伺います。だから、今はひとまずお別れです。
ああ、これもまた建前だ。
わたしは単に怖いのだ。ゾンビや触手と混じった結果、自分がリネットでなくなるのが
恐ろしいのだ。それをこんな言葉で飾り、自分の選択を美化しようとしている。
―姫様、どうかご無事で。
なのにロビンは、無垢な声音でわたしに言うと、おとなしく粉々に砕かれていった。
―ロビン。
わたしは、ひとしずくだけ涙をこぼした。

145: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:49:48 pmQNeIlZ
「今も述べたように、精神世界では心の力がものを言います。他者を強く拒絶し消し去る
くらいの意気込みで望めば、合成されても心まで変容させられることはないでしょう」
アガレスはわたしに明日の心得を説くと、座っている鰐の上で足を組み替えた。
「もっともその場合、魔物使いに不審がられる危険性はありますね。忠実な魔物と
足し合わせたはずなのに反抗的な態度を取ったりしたら、怪しまれること請け合い
でしょう」
―モンスターの身体に慣れた次は、猟犬としての生活に慣れる必要があるわけですね。
わたしがドラゴンの身体でため息をつくと、アガレスは慰めるように笑いかける。
「まあ、今は辛抱していれば、そのうち言葉をしゃべれるモンスターになれるかも
しれませんよ。その時にうまくやれば、『リネット王女』の身体を取り戻すことだって
ありえない話じゃありません」
妖しくもどこか人の良さそうなその笑顔を見ているうちに思い出した言葉を、ふと
話題に出した。
―あなたに関して『慈悲深い』とする評がありますね。
「そうですね。とんでもない勘違いだとは思いますが」
―けれど今回、わたしは何度かあなたの慈悲に助けられてきたように思います。
先ほどの助言もそうですが、この身体にされる直前直後の警告、や、励まし……
言いかけて、改めて意識した。
この出来事のほぼすべてを仕組んだのはアガレスであることを。発端であるオクタヴィア
と末端で直接わたしを虐げた自称魔王の間に位置してはいるが、オクタヴィアの漠とした
恨みに具体的な形を与え、ダークエンペラーに予言という形で詳細な示唆を与え続けた
のはこの悪魔であることを。
そして思い出す、初めて出会った時に聞かされた魔族の糧。
「おわかりになったようですね。わたくしの『慈悲』の意味が」
―ええ。

146: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:51:05 pmQNeIlZ
気がつくと、わたしはそれまで立っていたのとは別の魔法陣の上に立っていた。全身を
縛っていた鎖も存在しない。
自分の身体を見下ろし、覚悟していたにも関わらず、その新たなおぞましさにやはり
愕然としてしまう。
爛れ、腐れ、いくらかは骨まで剥き出しになったドラゴンの死体。それが妖力によって
動いている。
ドラゴンゾンビ。それが今度のわたしの身体だった。
「ちょっと身体を動かしてみな」
魔物使いは気軽に声をかけてきた。
腐汁を垂らし今にももげ落ちそうな前肢を、試しに持ち上げ振るってみる。と、それは
生きたブラックドラゴンだった時を大きく上回る速さと勢いを有していた。危うく床を
壊してしまいそうになる。炎も問題なく吐けた。
「後は、背中の翼の具合も見たいな」
言われて初めて翼の存在を意識する。ドラゴンの巨体を持ち上げるに足る大きな翼―
もちろんそれも腐りかけだけど―が生えていて、羽ばたかせるとふわりと宙に浮いた。
「それと、魔法」
生まれてから一度も習ったことがないにも関わらず、わたしは特段意識するまでもなく、
昨日ゾンビのロビンが用いたのと同じ魔法を一通り発動させることができた。この腐った
脳のどこに記憶されているのやら、つくづく不思議に思う。
「で、隠し武器の麻痺毒ガスと触手」
喉の奥に炎を生む器官とは別の存在を感じる。そちらへ意識を切り替えて吐き出すと、
紫色に濁り果てた煙が猛烈な勢いで発生した。
最後に腹に力を入れると、メバのそれによく似た触手が飛び出し、わたしの意思に従って
ぬらぬらと蠢いた。
エルスバーグ王女リネットが、つくづく化け物に成り果てたものである。

147: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:51:55 pmQNeIlZ
「さ、行くぜ。昨日の洞窟を隅から隅まで探索して、王女様を見つけ出す。それさえ
済めば後は魔王の居城に乗り込んで成敗するだけだ」
自分がすでに王女を見つけているとも知らない冒険者に連れられ、わたしは倉庫の外へ
歩み出た。
すると、倉庫の屋根からふらふらと飛んで来たものが、わたしの皮膚にたかる。今の
わたしにとっては小さな、でも人の掌くらいは大きな、蜂や虻を連想させる不気味な虫。
「へえ、デビルワスプか」
魔物使いはわたしにへばりついているそれを見て言った。
「なかなか珍しい魔物じゃないか。基本的に人間を強く警戒するはずなんだがなあ……」
そんなことを言ってる間にも、虫はわたしの身体を這いずり回る。
そして、首筋から顎を回り込んで鼻先に出たところで、わたしと目が合う。
それだけで、閃くものがあった。
「自分から寄って来るモンスターなんてそうそういないし、とりあえず連れて行くか。
何と合成すればいいかはよくわからんけど」
わたしが前肢で叩き潰すよりわずかに早く魔物使いが言い、今のところは『ご主人様』
に逆らうのもためらわれるわたしとしては、この虫を殺すわけにもいかなくなった。
矮小な虻は、わたしの身体を好き勝手に歩き回り、時折腐った皮膚をぺちゃぺちゃと
さも美味そうに舐め上げていく。
こんな姿になってまで、オクタヴィアはとことんわたしに嫌がらせをしたいようだ。
それでも極力こちらの前肢や尾や翼に打たれなさそうなところを選んで飛び回る辺りが
実に浅ましい。
もっとも、浅ましさではわたしも大差ないことに思い至り、内心で苦笑する。
ならば、浅ましかろうがとにかく生きると決めた以上、つまらぬ虫に煩わされるくらいは
甘受しよう。これしきのことも辛抱できないようでは、王女の姿を取り戻すなんて
夢のまた夢だ。
不快な感覚に耐えながら、わたしは昨夜アガレスと交わした最後の会話を思い出して
いた。

148: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:53:25 pmQNeIlZ
―あなたの『慈悲』の意味。それは、例えば今回なら、わたしを簡単に絶望させて
しまわないため。無気力で空虚な、感情に乏しい存在にしてしまわないため。
なぜなら魔族は、生物の感情を食するから。とりわけ激しい感情を好むから。
―明日起こることを今告げたのも、そのため。わたしが魂まで変わり果てることを
恐れると期待して。あのロビンみたいにわたしが薄ぼんやりした存在になっては、餌が
まずくなると考えたからでは?
「まったくもって仰せの通りです。アモンは今の貴女の心の有りようがずいぶん
お気に入りのようでしてね。わたくしとしてもあれに恩を売っておくのは得策という
わけで」
アガレスは、悪びれもせずおどけた一礼をよこした。
まさに、悪魔。
どれほど憎んでも憎みたりない悪魔。
そうした憎いという気持ちすらもこの者にとっては滋養となるのだろう。
だから嫌がらせに、というわけでもないが、わたしは敢えて首を垂れた。
―……ですが、それでもわたしはあなたの慈悲に感謝します、アガレス。
「え?」
戸惑った顔。もしかしたらこのぺらぺらとしゃべり無意味なまでによく笑う悪魔が
わたしに初めて見せたかもしれない種類の顔。
―あなたが教えてくれなければ、明日わたしはわけもわからずロビンと一つになり、
鈍重な魔物になっていたことでしょう。それを運良く免れたとしても、ロビンの心と
触れ合う機会を虚しく逸したことを悔やみ続けたことでしょう。いえ、それ以前、
王宮から洞窟にさらわれた時や、ロビンが人としての命を落とした時、あるいは
ブラックドラゴンと身体を入れ替えられた時、絶望に陥ってとうに狂い果てていた
かもしれません。だから、それらのことに関しては、感謝いたします、アガレス。
と、アガレスは明後日の方向を向いて、珍しくも激しい口調で言い返してきた。
「貴女をここまで破滅させた相手に向かって何を言っているのですか? そんなつまらぬ
言葉を吐くのは、おやめいただきたい!」

149: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:54:22 pmQNeIlZ
―?
なぜここでアガレスが怒りを顕わにするのかわからない。まさか好意に類する感情を
向けられたら害毒になるというわけでもないだろう。これまでわたしたちは、お互いに
表面的なものに過ぎないと承知した上ではあったが、穏やかな、一種の敬意に近いものを
示しながら、こうして夢の中で会話し続けてきたのだから。
……あるいは。
ひょっとしてアガレスは、自らの為した行為が感謝などに値しないと認識していれば
こそ、こうしてわたしの謝意を拒絶するのだろうか。
もちろん、これは人としての―少なくとも精神的にはまだ人としての―わたしが
勝手に想像した感傷に他ならないのだろう。しかし、己が振る舞いの罪深さを自覚し、
それがゆえに被害者から忌み嫌われることを望みこそすれ感謝などされたがらない、
されたら拒んでみせる。……そんな姿は、魔族としてはひどく露悪的な気がする。
それではまるで、むしろ潔癖すぎるがゆえに自らの悪行を誰より自らが許せないという
ような……。
―魔族は、
「何です?」
―人の喜怒哀楽を糧とするならば、そしてもはや死を無闇に撒き散らさないつもりで
あるならば……魔族は、人を喜ばせ楽しませることでも生きていけるのではありません
か?
「…………今さら、遅いですよ」
アガレスは、いつものへらへらとしながらも整った顔を醜く歪め、吐き捨てるように
言った。
「我々は貴女方を利用し、食い物にする。それが定められた関係です。今さらどの面
下げて、殺した者たちの子孫相手に愉快な道化を演じろと?」
アガレスのその言葉は、わたしの推測を否定するものではない。「今さら」。「殺した
者たち」。それらが、この悪魔の抱える罪の意識を物語っているように思えてならない
のだ。

150: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:55:02 pmQNeIlZ
もっとも、これはすべて今しがたわたしが思いついたことに過ぎない。確認しようにも、
嘘つきかもしれない人に「あなたは嘘つきじゃありませんよね」と訊ねるようなもの
だろう。
「そんなことはどうでもよろしい。どうせ貴女は人でなくなったのだから、余計なこと
など考えることもない。元に戻れれば別ですがね」
だからわたしは、それ以上真偽定かならぬ魔族の心情に分け入ることはせず、ただ
アガレスの言葉に乗ることにした。
―そうですね。わたしは元に戻ってみせます。
魔物使いの道具となり魔王に挑み倒れるか。その前に他のモンスターと合成されて
自我を失い愚かになるか。首尾よく魔王を倒せても、自分が『リネット』だと納得
させることができずに終わるか。はたまたそれをわからせたとしても、元に戻る手段が
得られないまま、おぞましい姿の元姫君として未来永劫王宮の地下牢にでも監禁される
か。
わたしが元に戻れる見込みなどどれほどあることだろう。それでも、諦めることだけは
したくなかった。
―要求を、一つ。その暁には、夢の中でのこの姿も元に戻していただけませんか?
「いいでしょう。その時にはもう一度貴女の夢を訪れると約束しましょう」
わたしに視線を戻し、完全に平静を取り戻したアガレスが言う。
―待っていますわ。
「これっきり二度と会うことはないでしょうがね」
アガレスが唇の端を吊り上げる。わたしはドラゴンの顔なので笑えなかったが、
心の中で笑みを返してみせた。
この悪魔ともう一度会いたい。言葉を交わしたい。そう強く願った。
「では、さらばです」
アガレスは一礼すると、闇の中に消え失せた。

151: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:58:27 pmQNeIlZ
これにて『アガレスは慈悲深く、なれど尊厳を破壊する』は終了です。
読んでくださった方々に感謝いたします。
好意的なご感想の数々もありがとうございました。

152:名無しさん@ピンキー
08/05/30 01:40:22 8cFbxhJ/
GJ!アガレスと王女の格好いいこと格好いいこと!
次の作品にも期待してます。

153:名無しさん@ピンキー
08/05/30 01:45:08 Xp97NDDn
GJ!
あなたがいる限りこのスレは不滅だ!

154:名無しさん@ピンキー
08/05/30 17:05:05 e7hJZUtN
すばらしい、姫様にほれました。
彼女にならやられてもいいw

155:名無しさん@ピンキー
08/06/07 07:47:51 f3GYAFBL
保守

156:名無しさん@ピンキー
08/06/07 11:53:52 dVyXBrU6
強制TFと上位者たる悪魔ってのは相性がいいよな。

157:名無しさん@ピンキー
08/06/08 08:49:28 1dTUgv25
アガレスの解釈がおかしいな。ちゃんと文献読んで書いてる?
幾ら自分風にアレンジといってもそこらへんしっかりしてないとうすっぺらいぜ・・・

158:拾った(アニメサロンで)
08/06/08 13:29:48 dTYL1SCO
479 名前: メロン名無しさん 投稿日: 2008/06/06(金) 22:20:38 ID:U12izmRZ0
少女の体のまま、体つきだけがボディビルの全国大会女性チャンピォン並みの筋肉質になる
482 名前: メロン名無しさん 投稿日: 2008/06/08(日) 10:44:19 ID:BBryzBs90
>>479

そして、全身の皮膚が真赤に変色して剛毛に覆われ、額から2本角を生やして、犬歯が全部牙に変わって、瞳の色が金色に染まり、更に虎の毛皮製の晒と褌を身にまとって、とどめに金棒を握り締めさせれば……


そりゃ、鬼じゃないか!


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