08/08/11 18:13:28 7RH1453v
>>225の続きです。きりの良い変身シーンまでいったので取りあえずウプしますね。
その母はもうここにはいなかった。それから間も無く大戦が勃発して両親を失う事など、年端も
行かぬ幼い少女には分かる筈も無かった。両親を失い、姉まで失踪して天涯孤独の身になってから
の少女にとって、年月は早く流れるものへと変わった。いつの間にか十数年という歳月はあっと言う
間に過ぎ去り、一人の無邪気な一幼女でしかなかった少女は、十数年という歳月のうちに可憐さや
優しさの中にも強かさを備えた立派な女性へと成長を遂げていた。この歳になって少女はようやく
気づく。あの時の母の言葉、そこにはやがて訪れる大戦を娘の為に生き延びて見せるという意味が
込められていたのではないかと。嫌な記憶を紛らわしに来た筈だったが、思い出した所でまた胸が
苦しくなった。時に厳しく自分を叱りながらもいつも暖かく見守ってくれた母。その母が永久に還る
事が無い事実を感じて切なさがこみ上げ、また胸が疼き出す。もう母が戻らぬ事は分かっていたが、
亡き母がそこに居る様な気がして、少女は誰にとも無く呟いた。
「お母さん、約束・・・守れなくてごめんね。あたし・・・お母さんほどじゃないかもしれないけど・・・
昔お母さんが云ってたお花の似合う女の子に・・・なれました・・・。見せてあげる事が出来無いのは
残念だけど・・・でも毎日元気に過ごしてるし、動物達とも仲良く暮らせています。お父さんとの天国
での暮らしはどうですか。こっちの生活は相変わらず大変です。色々心配も掛けるかもしれないけど、
これからも天国であたしの事、見守っていて・・・ね・・・・・・」
言い終えた後、胸に溜まった切なさが一気にこみ上げて思わず涙ぐむ。しかし、それを堪えて精一杯の
優しい笑顔を作る。涙ながらも可愛く無理の無いその顔は天使の微笑みそのものだった。可憐さと同時
に強さも備えた少女は微笑んだ。天国で見守ってくれている両親、それを悲しませぬ為に、そして明日
への希望を見い出す為に。
最後に少女は大きく息を吸うと、顔まで水中に沈めた。冷たい水の流れが顔も含めた全身に広がり、
少女の涙を、辛い記憶を、一気に洗い流していった。少女は息が持つまで冷たい清流に全身を浸す。
緩やかな流れに洗われた少女の髪は水中で幾筋もの細く美しい束となって靡いた。汚れが浄化されて
いくのを肌で感じながら少女は少し、また少し息を吐いていく。それは空気の泡となって少女の頬を伝い
肌をくすぐりながら水面に昇っていった。やがて息が続かなくなった少女は水面から顔を出すと、そっと
立ち上がり、岸辺へと向かう。早朝だったが既に陽は高く昇り、泉の前の草を暖かく照らしていた。