08/08/03 02:26:36 D40/2hh8
>>182ワイバーン娘の続き。
小鳥の囀りを聞き早朝の涼しく湿った風を麗しい身体に受けながら、少女は泉へと辿り
着いた。少女の向かいには、小高く聳えた黒い岩壁の上から、湧き出た水が小さな一筋の滝
となって流れ落ち、それが下に広がる岩盤に流れ落ちて作られた、浅く広い天然の浴場が有
った。壁面から生えるシダや年季を感じさせる苔、更にそれを包む万緑を讃えた周囲の木々
が無機質な岩にまで生命感を与えていた。
少女は暫く泉の前に立つと、腕を頭上に伸ばし大きく深呼吸した。木々の香りやそれを
縫って降り注ぐ太陽の暖かさを少女は吸い込む、やがてそれは体の中に広がり、嫌な夢の
記憶を浄化していった。
やがて少女は羽織っていた足首ほどまでもある薄茶色のケープを外すとそれを綺麗に畳み、
泉のほとりの平たい岩の上へと載せた。同じ様にして膝下まである波打った薄手の黒いスカート、
レースで飾られた白い長袖のブラウス、純白のスリップ、そして清楚なパンティーを順番に
ゆっくりと脱いで行く。一糸纏わぬ姿となった少女の胸がたわみ震えた。
223:名無しさん@ピンキー
08/08/03 05:49:41 +qn6aV6Y
…1レス分だけ?
224:名無しさん@ピンキー
08/08/04 08:01:01 qzUKQH8m
みんなの不満が爆発寸前~♪
225:名無しさん@ピンキー
08/08/06 10:34:36 iepDNMO+
>>222の続きです。本当遅くて申し訳無い(´;ω;`)
絹の様に柔らかく艶やかな白い肌を晒した少女は、泉の前に立つとゆっくりと一歩ずつ泉の中
へ足を踏み入れていった。水流で洗われた黒い玄武岩の感触を足の裏に受けながら、少女は一歩、
また一歩足を踏み入れていく。腰の深さまである場所に着くと少女はそこへしゃがみ込み、胸の
辺りまで身体を浸した。そこへ座り眼を瞑りながら少女は悪夢の穢れを落としていった。まだ両親
が生きていた頃からの習慣である。少女は母と来た事もあるこの泉が好きだった。何か嫌な事が
あった時もこの泉に浸って癒されると気分が良くなるものだった。
髪の毛に何か柔らかく軽い物が落ちるのを感じて、少女はそっと眼を開け空を仰ぐ。岸壁の上
に生えた木蓮が、満開になった純白の花を無数に讃えていた。水面に落ちた花を拾うと少女はそれ
を髪に飾り、水面に映った自分の顔を見る。十数年前のちょうどこの時期、母と最初に泉を訪れた
時にも木蓮の花が咲いていたのを思い出す。水面に落ちた花を母は拾い上げ、まだ小さかった少女
の髪に飾ろうとしていた。まだ小さかった顔に花が大き過ぎて似合わないのを母は面白おかしく笑
いながら自分の髪に飾ったのだった。ただでさえ常人離れした美貌を持っていたその時の母は、
その時の少女にはまるでおとぎ話に出てくる女神の様にさえ見えた。その美しさに見惚れながらも、
花の似合う事を羨んだ少女は母に尋ねたのだった。
「ティアも・・・いつか花の似合う女になれる?」
幼い少女の無邪気そのものの質問を、母は笑いながらも優しく応えてくれた。
「ええ、なれるわ。そのうちすぐにね。きっとお母さんなんかよりももっと似合う素敵な女の子に
なってると思うわ。」
「本当!?」
「ええ本当よ。」
少女は悦びに胸を躍らせてさらに訪ねた。
「本当!!どれぐらい?どれくらいでなれるの?」
「そうね・・・あと十年もすればとっても綺麗な女性になってると思うわ。」
十年、当時の少女にとってそれは果てしなく長い年月の様に思えた。少女は堪えきれなくなって叫んだ。
「十年・・・?ティアそんなに待てない!ティアもっと早く大きくなるの!早くおっきくなってお花
の似合う顔、ママンにも見せてあげる!」
「うふふ、そうね。お母さんも見てみたいわ。」
そんな風に焦れる少女を母は優しく宥めてくれたのだった。
「うん絶対見せるの!待っててね!」
「ええ、楽しみだわ。」
「約束する!絶対見せるって!」
「じゃあ、お母さんも必ず見るって約束するわ。」
「本当?破ったらティア許さないの!おっきなドラゴンに変身しちゃうの!」
母は笑いながらも、そんな娘とのやり取りに真面目に応える。
「ええ、必ず守るわ。必ずね。」
遠く懐かしい記憶だった。
―そんな遠い母との会話の記憶―
226:名無しさん@ピンキー
08/08/07 00:26:44 Cc7MkJ5e
待つのがじれったいんで全部書ききってから投稿しては貰えないだろうか
227:名無しさん@ピンキー
08/08/07 02:23:52 Ks5CtJAb
>>225は忙しいんだよね
わかるよ
228:maledict(195) ◆sOlCVh8kZw
08/08/08 00:30:45 VK5x++qn
>>217様、>>219様
お待たせしました。
2スレ目に投下した「猿神退治異聞」の続編です。↓自サイトに転載してあります
URLリンク(book.geocities.jp)
続編、というか、以下は実はもともと美少女が活躍し異形化するという続編の
導入部だったのですが、本編が長くなりそうなのとで、独立させました。
短いはずだからすぐ投下できると思っていたのですが、
書き始めると色々出てきて思ったより長くなり投下遅くなりました。
また、そういう経緯の作品なので、「おっさんの異形化」という
あまり美しくないシーンが中心になっています。ご容赦下さい
(一応女性の異形化も入れましたが)
229:続猿神退治異聞・幕間(1/12)
08/08/08 00:32:38 VK5x++qn
にたにた笑いながら山道を歩く男が一人。背にはとれたての山芋の束を
背負っている。
結婚十年目にして、早くも男は精力の減退を感じ始めていた。ある日
思い立った男は、農作業を妻に任せ、精が付くと評判の自然薯を、
穴場で大量に収穫してきたのだ。
やがて小川にさしかかった男は、喉を潤そうと川に向かう。渇きが
癒えると空腹を感じ、収穫した山芋を一本、川の水でざぶざぶと洗い、
しゃくしゃくとかぶりつく。濃厚な味と共に滋養が体に染みわたる。
芋を洗う内、男は自分の体のひどい汚れに気が付き、水浴びをしようと
思い立ち、服を脱ぎ、川に入る。
そのときだった。山側の林の生い茂った葉がかさこそと鳴る。熊でも
出たかと男は緊張し、川から出る。だが、葉陰から顔を出したのは熊では
なく、若い女だった。しかも、あろうことか、一糸まとわぬ全裸の女だ。
男に襲われかけて逃げ出したといったような、取り乱した様子はない。
きりっとすました顔のまま、しっかりした足どりで林から歩み出てくる。
そのいでたちと釣り合わぬ超然とした様子が、男の心に妙に非現実的な
印象を与える。やがて男は女の顔に見覚えがあることに気付く。
「…お、おめえは、まさか…」
女の方も男に気付いた様子で、妖艶としか言いようのない笑みを浮かべ、
男に声をかける。
「あら、おまえさん。久しぶりね。結婚したって聞いたけど、こんな
ところで何を?あら、山芋とり?そんなに精をつけて、何する気なの
かしら。うふふ…」
「…お、おめえ、生きていたのか?…そうか!猿神のやつが死んで、
それで逃げ出してきたんだな!」
230:続猿神退治異聞・幕間(2/12)
08/08/08 00:33:07 VK5x++qn
男の村では最近、長きにわたって村を支配してきた因習が幕を下ろした。
猿神信仰。年に一人、村の美しい生娘を獰猛な猿神に生け贄として捧げる
という野蛮な因習。その悪習が、しばらく前に村に住みついた勇敢な
若侍の手で終止符を打たれた。侍は「神」を騙っていた猿の化け物を
討ち果たしたのである。
目の前にいる女は、十年前、他でもないこの男の許婚であった。だが
二人の結婚は果たされずに終わった。女の家に「白羽の矢」が立ち、
女は泣く泣く生け贄となり、村から姿を消したのである。男は美しい
許婚への未練を引きずりながらも、半年後、さほど別嬪ではないが、
傷心の男の面倒をかいがいしく見てくれた今の妻を娶ったのだった。
「それにしても、おめえ、どうしたわけだ?全然あの頃と…」
男の顔や手には、安閑とは言えない野良仕事による、十年分の風雨の
跡がくっきりと刻まれている。それは妻も同じだ。だが目の前にいる
かつての許婚は、まるで生け贄として村を去ったあの日そのままの、
みずみずしい肌と若々しい肢体をとどめている。いつしか男の目は
本能的にその裸身をなめるように眺め回していた。
女が男の肉体の一部に目を留めてぽつりと言った。
「…抱いて下さらない?」
言いながら女は男の元に歩み寄ってくる。男は自分自身が水浴びした
まま衣類をまとっていなかったこと、そしていつの間にか下半身の一部が
固く屹立していたことに気が付く。口の中には山芋の粘つく濃厚な風味が
残っていて、それは村人の信じるところでは男の精の源そのものである。
その俗説は、滋養が肉体に与える活力以上に、男の脳に強力な暗示効果を
もたらしていたのであった。
231:続猿神退治異聞・幕間(3/12)
08/08/08 00:33:43 VK5x++qn
女はついに男にしがみつく。妻の骨張った肉体とはまるで違う、
柔らかな肉が男の体を覆う。男は、おう、とうつろなうめきを漏らす。
頭の芯が痺れ、全身に行き渡った精が下半身に集中するのを男は感じる。
十年前、一度も結ばれることなく去った女が自分にしがみついている。
男は若い頃何度なくその肉体の感触を夢想し、数限りなく精を独り
摺り掻いては空しく垂れ流していた。いや、結婚後、妻を抱いている
最中でさえ、男の脳裏からその夢想が完全に消えたことはなかったかも
しれない。そして今やそれが現実となり、あるいはかつての夢想をはるかに
超える強烈な性感的魅力を帯び、男を優しく包んでいるのである。
「…ねえ、早く」
女が耳元で、熱い吐息と共にそうささやく。男は半ば夢心地のまま、
河原に女を押し倒し、その乳房にむしゃぶりつく。そしてすでに激しく
湿潤している女の秘部に、己のいきり立つものを貫き入れる。あやうく
その瞬間に洩れそうになる精を、男の脳髄に残ったわずかな理性が引き
戻し、濃厚な快楽のときを少しでも引き延ばそうと狡猾に腰の動きを調整
する。そうして、この十年で身につけた様々な手管を駆使し、快楽を
少しでも長く深く貪ろうと試みる。
だが、ふと男は、腹や手に感じる女の肉体の感触の異質さに気付く。
抱き始めたときには柔らかで滑らかだった皮膚が、いつのまにかごつごつと
骨張り、さらに厚い毛皮に覆われているような手触りになっている。
女の肩と腰は急にその幅と厚みを増し、秘部の圧迫が急激に
弱まったような感覚も覚える。我に返った男は目を開き、自分の下に
横たわる女を目で確認し、叫び声をあげる。
「う、うわあああ!化け物!」
232:続猿神退治異聞・幕間(4/12)
08/08/08 00:34:26 VK5x++qn
男が抱いていたのはすでに柔肌の若い娘ではなかった。それは、
男よりもはるかに高い背丈の、毛むくじゃらの猿の化け物だった。
男の一物は急激に萎え、男は慌てて身を引き離そうと試みる。だが、
男の腰の後ろには化け猿のたくましい腕が回され、男がいくら力を込めて
脱出しようとしてもびくともせず、萎縮を始めた男の魔羅をその秘部の
中にくわえ込み続けるのをやめない。
猿の化け物の顔は、増えた毛と、鋭い犬歯と頑丈な顎以外は、おおむね
かつての美しい女の顔つきをとどめていた。だが、その目には禍々しい
狂気が宿っている。化け物はぞっとする口調で男に語りかける。
「人身御供の夜、あたしはあの忌々しい古猿の力で猿に生まれ変わった。
そしてこの十年、あの古猿に虐げられて生きてきた。我が子を愛でることも
許されず、そして、こうやって気ままに人間を襲うこともできない、
みじめな生活。…だけど、我らが新しい親方様が古猿を殺し、あたしたちを
解きはなってくれた。もう何の我慢も遠慮も要らない。あたしたちは
子を生み、人間を襲い、まずはこの村を、そしてやがてはこの国を、
さらには他国を征服する!」
狂気に満ちたその言葉を男は完璧に理解したとは言い難い。だが、
自らに、いや自分の住む里にただならぬ危機が迫りつつあることだけは
直感的に悟った。男は抗い、自分の萎えたものを引き抜いて怪物から
身をもぎ放そうと渾身の力を込める。だが怪物の腕はびくともしない。
「そろそろ再開しましょう。あんたはもうじきあたしの放つ『勢液』の
力であたしの眷属に生まれ変わる。眷属となったあんたは奥さんや子供や
他の村人を襲って仲間を増やす。そうやって村全体をあたしたちのものに
していくの。それがあんたの使命。あたしの使命」
233:続猿神退治異聞・幕間(5/12)
08/08/08 00:35:02 VK5x++qn
そう言いながら女は腰を淫猥に動かし始めた。同時に、緩んでいた
膣圧が最初と同じほどに、いや、それ以上の弾力で男を締め付ける。
男のものは見る間にその硬度を取り戻す。怪物の潤んだ瞳が男の目を
射抜く。男は、美しい女の目と、獰猛な獣の顎を持つ怪物に奇怪な魅力を
感じ始めた自分に気付き、うろたえる。
「うふふ、あんたもだんだんよさが分かってくるはずよ」
再度その頑丈な腕に抱きしめられた男は、そのしなやかな筋肉の圧迫と
表皮をこする剛毛に、えもいわれぬ快感を感じつつある自分に気付く。
「うおう…おぉ…おぉ」
男の魔羅はこれ以上ない硬度に達し、強い弾力で己を囲む膣壁に、いまや
自らの意志で前後運動を開始している。
「ふふ。その調子。もうじきよ。達したとき、あんたの人間としての
生は終わりを告げる」
おぞましい宣告に、しかし男の本能はもはや抵抗できず、男の腰はさらに
速く、さらに大きく動くのをやめられない。やがて男の全身がびくんと
脈動し、結婚前激しく焦がれた場所へ、とうとう精がほとばしる。
「おほーーーーーーーーーーーっ」
射精の快楽と同時に、怪物の膣内から、男の性器を通じて男の体内に、
呪われた物質、人を人でないモノへと変じる「勢液」が注ぎ込まれる。
234:続猿神退治異聞・幕間(6/12)
08/08/08 00:35:50 VK5x++qn
「あうは!うは!をうは!わうひはほはほははははは!」
男の脳に強烈な刺激が達し、男は意味不明のうめき声を発する。脳に
達した「勢気」は、このがさつな男の中にもかろうじて残っていた繊細な
情感や良心のカケラを跡形もなく消し去り、その空隙にどす黒い欲望と、
それに従属する、人間をはるかに凌ぐ怜悧な知性を植え付ける。同時に
股間から全身に熱い塊が広がり、男の全身を満たしていく。力尽き
ぐったりと怪物の腹の上に伏している男の肉体はぶるぶると震え出し、
やがてがくんと痙攣を起こす。痙攣は続けざまに男を襲い、そのたびに
その身の丈は増し、手足は太くなる。そしてざわざわと全身に濃い体毛が
伸び始め、顎は厚く大きく変形し、太い犬歯が生える。
全身を貫く熱い「勢気」をもてあますように男は跳ね起き、痛がゆい
快感と共に変貌していく己の肉体をまじまじと見つめる。その目には
自分の下に横たわる怪物と同じ狂気が宿り、その口元からは、かつて
愛した女と同じ存在に変容しつつあることへの歪んだ歓喜がこぼれ
落ちている。
「むわはははは!わしは生まれ変わった!生まれ変わったぞ!」
喜び勇む怪物の魔羅は、つい今しがた達したばかりであるにもかかわらず、
すでに猛々しく屹立している。その赤黒い器官は、先ほどまでとは
比べものにならない長さと硬度を呈している。
「もう一度ぉ!もう一度ぉ!!」
いきり立つ一物をもてあましたオスの怪物は、そう狂おしい声で
言いながら、横たわるメスに覆い被さろうとする。だが、メスは冷めた
目でオスを見上げ、ぴしゃりと言い放つ。
「だめ」
235:続猿神退治異聞・幕間(7/12)
08/08/08 00:36:53 VK5x++qn
メスの声には有無を言わさぬ威圧感が込められており、オス猿は
困った顔で動作を停止するしかなくなる。その強制力は、かつて猿神と
呼ばれた老猿がメス猿たちを支配したのと同じ性質のものであった。
メス猿は立ち上がり、再び人間の女への化身を始めながら、毅然とした
口調で男に宣告する。
「あんたの『勢液』には別の大事な使い道があるわ。村の女たちを
あたしたちの眷属に変えていってもらわないと。まずはあんたの可愛い
奥さんに、たっぷりとそれを注ぎ込んでもらうわ」
その言葉は、オス猿の中に植え付けられた新たな本能に火をつけた。
人間の女どもに勢液を注ぎ込み、猿神の眷属へと造り変える!―解放
される勢液。怯える犠牲者の顔。変貌する肉体。やがて犠牲者は狂気と
どす黒い欲望に染め上げられてゆく…―その映像がありありと脳裏に
浮かび、オス猿は快楽の予感に身をよじる。
…だが、オス猿の前には、再び完全に人間の女に化身し終えた女が
立っていた。オス猿は新たな本能に突き動かされる一方、かつて愛した、
否、現在ますます狂愛の募る女の裸身から目を逸らすことができなかった。
勢液の力もぬぐい去ることのなかった、男の心の深い傷跡に、その白い
裸身は突き刺さり、かき回し、情欲を掻き立てた。しかし、勢液の無駄
遣いはしてはならない!その禁令が男を縛り、束縛がますます女への
情欲を煽る。二つの欲望が怪物の心を引き裂く。
236:続猿神退治異聞・幕間(8/13)〔←レス数訂正〕
08/08/08 00:38:03 VK5x++qn
そんなオス猿の様子をじっと観察していた女―否、女の外見を装った
メス猿―は、面白そうにオス猿を見上げて言う。
「ずっと将来、この星がすっかりあたしたちのものになったら、その
ときはあんたと子作りをしてあげるわ。でもそれまではおあずけ!
いいわね?…さあ、あんたも人間に化身なさい。そして種族のつとめを
果たすのよ」
「…『ほし』?」
猿神と呼ばれた老猿は、いにしえよりの知恵と自らの高度の知性に
よって自らの住まう世界の実相を驚くほど正確に把握していた。メス猿の
言葉はそれを受け継いだものであった。だが、発達した脳髄の使用法を
未だ十分に習得していないオス猿は、耳慣れぬ言い回しに首を傾げる
しかない。しかし、そんなオス猿も、女の語る「将来」というのが、
多分途方もなく先のことであろうことだけは直感する。その認識はこの
哀れなオスに絶望を与え、おあずけをくらった情けない顔のまま、
オス猿は人間への化身を始めた。
人間に化身したオス猿の外見は以前の男とほぼ同じであったが、その
肌はかつてよりずっとつややかでみずみずしく、透明感があった。骨格や
肉付きに微妙な修正が加わり、それらが一介の百姓に過ぎないはずの
この男に、まるで高貴な生まれの者のような気品と性的魅力を与えている
のだった。そして太さと長さを増した魔羅は、人間に化身した後も天空を
指すのをやめなかった。
「いい感じよ。人間の女どもは誰しもその姿にいちころ。あんたのどこが
どう変わったのかよく分からないまま、気がつくとあんたの虜になって
いるはず」
237:続猿神退治異聞・幕間(9/13)
08/08/08 00:38:37 VK5x++qn
人間の男であれば大喜びしそうな状況に男はにこりともせず、もくもくと
脱ぎ捨ててあった野良着を着込み、山芋を背負う。股間のいきり立った
ものは、引き裂かれた男の心中の満たされぬ欲望の表れであった。
この先男はその器官を駆使し、本能の赴くまま、自分の妻を筆頭に、
村中の、否、この国中の女を化け猿の眷属へと引き入れていくことになる。
だがこの哀れな男のもう一つの欲望が満たされる日は、多分彼が生きて
いる内には決して来ないのだった。
山芋掘りを終え帰宅した夫を迎えた妻は、夫の姿を見るなり、ただならぬ
危険を直感した。今朝までの夫と、目の前の男は、どこがどうとは
言えないが、何かが違う。目の前の夫のようなモノは、何やら禍々しい
存在に変じてしまっている。妻の直観がそう告げていた。
だが、その本能の警告に妻は従わなかった。目の前のモノがあまりに
魅力的であり、そして今夜、そのモノと自分は交わるのだという期待と
欲望が、健全な自然の警戒信号を抑止してしまったのである。―夫は
噂の強壮作用があるというあの芋を早くも食べたに違いない。夫から
発されるこの濃厚な色香、潤んだその瞳、長く伸びたまつげ、みずみずしく
透明でつるりとした皮膚などはその作用に違いない。何よりも、夫の
野良着を突き破らんばかりに盛り上がる股間がその証拠だ―妻は夫の
変化をそう解釈し、無理矢理に納得した。
238:続猿神退治異聞・幕間(10/13)
08/08/08 00:39:12 VK5x++qn
その晩、ごちそうにありついたその家の子供たちは、しかし両親の
異様な様子をひどくいぶかしんでいた。妙につやつやして気持ちの悪い
父が憮然とした顔で山芋を食べている。その股間は、何を入れているのか、
はち切れんばかりだ。そして母は父の一挙一動に見とれ、目を潤ませ
ながら、しなしな、くねくねと不気味な仕草を見せる。二人とも、
いつもなら何より気にかけるはずの子供たちには見向きもせず、末っ子の
赤子が泣き出したのも放置したままだ。幼い姉と弟は顔を見合わせる
しかなかった。
子供たちが寝静まり、夫は妻を家の外へと誘う。狭いあばら屋の中で
巨大化すると家を壊す恐れがあったからだが、思いきり声を上げて快楽を
堪能できる期待に、妻は喜んで夫の誘いに応じる。
239:続猿神退治異聞・幕間(11/13)
08/08/08 00:39:53 VK5x++qn
満月に照らされた二つの裸身。永年の野良仕事の労苦が刻み込まれ
骨張った妻の裸身は、しかしそれでも青白い光に照らされることで、
幻想的な輝きを得ていた。横たわるその上に、月光に照らされ、この世の
ものとは思われぬ男性美を放つ男の裸身が覆い被さり、妻の中に入る。
昨日までとは比較にならない濃厚で強烈な快楽に貫かれ、歓喜の声を
あげる妻。だが、その声はたちまち悲鳴に変ずる。自分に覆い被さって
いる生きものがいつの間にか人に非ざる異形へと変じていたことに
気付いたのだ。冷ややかな笑いを浮かべ、相手の身心に間もなく生じる、
恐ろしい変容を宣告する怪物。恐怖に囚われ、身をもぎはなそうと必死に
なる妻。だがその秘部に穿たれた肉の杭を引き抜くことはどうあっても
できない。それは化け猿の怪力のためばかりではない。妻自身の内で
火のついた激しい情欲が、激しい恐怖に抗い、もっともっともっと
この快楽に浸りたい、とその腰をつなぎ止めているのである。―だめだ。
このまま媾わいを続けたら、自分も夫と同じ、猿の化け物になってしまう。
今すぐやめなければ!ああ、でも気持ちいい!やめたくない!だめ!
やめなきゃ!だめだ、やめなきゃと思えば思うほど気持ちよくなる。
猿になっちゃうのに!猿になっちゃうのに!やめないと!やめられない!
やめなきゃ!でも……
「あ゛あ゛あ゛!ぎもぢい!でも、猿になっちゃう!猿になっちゃう!」
恐怖と興奮が相乗し合いながら頂点に向かい、女はいつしか自ら腰を
振っていた。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!やめないと!でもやめられない!やめなきゃ!
やめられない!猿になっちゃう!猿になっちゃうぅぅぅ」
240:続猿神退治異聞・幕間(12/13)
08/08/08 00:40:29 VK5x++qn
女の腰の動きはオス猿の最後のタガを外し、オス猿は絶頂に達した。
その瞬間オス猿は自分の心が破けるのを感じた。そして破けた心の外側
から、この世のものとは思えないどす黒い塊が自分の内側に流れ込んで
くるのを確かに見た。それこそが「勢液」だった。この世の外側に位置
する、禍々しい欲望の塊。それが心の裂け目を通じてこの世に流れ込み、
性器を通じて外部へ放出される。それが勢液なのだと男は知った。世界の
外側の黒い粘液が男の気脈を流れ、激しい欲望と快楽が肉体を貫き、
やがて妻の胎内へと放出された。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!あぐぅふぅぅぅぅん」
人類の誰もが聞いたことのない嬌声を上げ、女は狂乱に包まれる。真っ赤な
快楽が女の全身を満たす。その目はまん丸く開かれ、全身はありえない
カーブを描いてのけぞり、がくんがくんと何度も痙攣する。痙攣するたびに
その肉体は大きさを増し、筋肉と骨格は頑健になり、体毛は急激に密度を
増し始める。顎は厚く大きくなり、急激に犬歯が伸びる。
女はそのすべての変化をはっきり自覚し、自分の身に生じつつある
ありえない変貌に怯え、恐怖し、絶望する。だがすぐに、「勢液」と共に
注ぎ込まれた狂気が急激に女の心を満たし、それら怯えや絶望を、さらに、
優しさや情愛のような人間らしい感情を、女の中から消し去っていく。
そして新たに生まれた優位種族としての自覚が、自らと、そして自分の
夫に生じた変貌に、嫌悪ではなく美と誇りの感覚を与える。怯えと絶望が
覆っていたメス猿の顔に、徐々に歓喜と驕慢な誇りの歪んだ笑みが
浮かび上がる。
241:続猿神退治異聞・幕間(13/13)
08/08/08 00:41:46 VK5x++qn
「わほほほほほほほほほほ」
狂気の歓声を発し、生まれ変わった喜びに満たされ、妻は夫を抱きしめる。
夫の心が本当には自分には向かっておらず、夫にとって自分は種族繁栄の
手段であり「獲物」の一つに過ぎなかった、という真実は今の妻には
知られていない―実は、彼らのこの感情の行き違いがはるか将来、
この優越種族全体をまっぷたつに分かつ陰惨な戦争の引き金になるのであるが、
今の彼らはそんな運命を知る由もない。
二体の異形はしばし絡まり合い、快楽の余韻をひとしきり貪ってから、
どちらともなく立ち上がり、顔を見合わせ、うなずき合う。
「さて…」
「…仲間を増やさねば」
二体の目は彼らが住まうあばら屋に注がれる。
「手始めはやはり…」
「…ええ。身近なところから始めましょう」
鬼畜と化した夫婦はいそいそと家路を急ぐ。彼らの子供たちの幼い
性器にたっぷりと勢液を注ぎ込む、そのめくるめく快楽の予感に身を
焦がしながら。
<了>
242:maledict(195) ◆sOlCVh8kZw
08/08/08 00:48:05 VK5x++qn
…以上、お粗末でした。急いで書いたのと、もともとあっさり過ぎる話に
起伏をつけようとして、かえって変なことになったかもしれません
なんだか時間がとれないので本編の方はいつ投下できるか分かりません。
忘れた頃に投下することになりそうな気がします。
ついでに、前スレ末にアイデアだけ書いた異世界に行く話は
細部が固まっておらず、さらにいつになるかわかりません。
…投下予定の定まらない作品の話はしない方がいいですね。すみません。
243:名無しさん@ピンキー
08/08/09 02:00:32 607NufFk
くっ、散々じらされた揚句にそのコテハンを見られるとは思わなかったぜ・・!
今日はもう寝るけど明日読ませてもらうね
244:名無しさん@ピンキー
08/08/10 10:30:22 3vgmxPrQ
久しぶりに覗いてみたら投下乙ですw
シチュエーション的にはドツボなんですが
如何せん猿って人間に毛が生えただけな気がしてならない……
245:名無しさん@ピンキー
08/08/11 13:54:30 GQwqzYfV
GJ!悪堕ちは苦手だけど過程、文章として読ませるなあ。面白かったです。
246:maledict(195) ◆sOlCVh8kZw
08/08/11 16:02:17 HSjjZ6Us
>>243様
なんか恐縮です(汗
>>244様
たしかに猿って異形化ネタとして微妙なんですが、もともと「猿神退治」をモチーフに
妄想を広げた作品なので、そこは変えにくいのです。(猿ネタが多いとはいえ、
猿じゃなきゃだめ、というほどでもないのですが…)
一応、別種としての猿(や類人猿)に変形するというより、ヒトという種が獣性と
技術的な知性のみを極度に肥大化させた、いびつな怪物、というイメージです。
また、ある人から「猿」ではなくて「狒狒」の方が原典に忠実だしおどろおどろしくないか、
と言われました。「狒狒」となるとこれは架空の怪物の一種と言ってよくて
(ビールのラベルの「麒麟」がアフリカのキリンではないのと同じく、
「狒狒」もアフリカのマントヒヒならざる幻獣と考えていいでしょう)、
実在の猿やヒヒとはずっと異形じみたデザインであってもいいでしょう。
(皮膚に鱗が生えているとか、目が金色とか、そんな感じ)
改稿するかどうかは未定ですが、行間を補って読んで下さっても構いません。
>>245様
悪堕ち苦手、という方からお褒め頂けるのはうれしいです。ありがとうございます。
以上、長レスすみません。
247:名無しさん@ピンキー
08/08/11 18:13:28 7RH1453v
>>225の続きです。きりの良い変身シーンまでいったので取りあえずウプしますね。
その母はもうここにはいなかった。それから間も無く大戦が勃発して両親を失う事など、年端も
行かぬ幼い少女には分かる筈も無かった。両親を失い、姉まで失踪して天涯孤独の身になってから
の少女にとって、年月は早く流れるものへと変わった。いつの間にか十数年という歳月はあっと言う
間に過ぎ去り、一人の無邪気な一幼女でしかなかった少女は、十数年という歳月のうちに可憐さや
優しさの中にも強かさを備えた立派な女性へと成長を遂げていた。この歳になって少女はようやく
気づく。あの時の母の言葉、そこにはやがて訪れる大戦を娘の為に生き延びて見せるという意味が
込められていたのではないかと。嫌な記憶を紛らわしに来た筈だったが、思い出した所でまた胸が
苦しくなった。時に厳しく自分を叱りながらもいつも暖かく見守ってくれた母。その母が永久に還る
事が無い事実を感じて切なさがこみ上げ、また胸が疼き出す。もう母が戻らぬ事は分かっていたが、
亡き母がそこに居る様な気がして、少女は誰にとも無く呟いた。
「お母さん、約束・・・守れなくてごめんね。あたし・・・お母さんほどじゃないかもしれないけど・・・
昔お母さんが云ってたお花の似合う女の子に・・・なれました・・・。見せてあげる事が出来無いのは
残念だけど・・・でも毎日元気に過ごしてるし、動物達とも仲良く暮らせています。お父さんとの天国
での暮らしはどうですか。こっちの生活は相変わらず大変です。色々心配も掛けるかもしれないけど、
これからも天国であたしの事、見守っていて・・・ね・・・・・・」
言い終えた後、胸に溜まった切なさが一気にこみ上げて思わず涙ぐむ。しかし、それを堪えて精一杯の
優しい笑顔を作る。涙ながらも可愛く無理の無いその顔は天使の微笑みそのものだった。可憐さと同時
に強さも備えた少女は微笑んだ。天国で見守ってくれている両親、それを悲しませぬ為に、そして明日
への希望を見い出す為に。
最後に少女は大きく息を吸うと、顔まで水中に沈めた。冷たい水の流れが顔も含めた全身に広がり、
少女の涙を、辛い記憶を、一気に洗い流していった。少女は息が持つまで冷たい清流に全身を浸す。
緩やかな流れに洗われた少女の髪は水中で幾筋もの細く美しい束となって靡いた。汚れが浄化されて
いくのを肌で感じながら少女は少し、また少し息を吐いていく。それは空気の泡となって少女の頬を伝い
肌をくすぐりながら水面に昇っていった。やがて息が続かなくなった少女は水面から顔を出すと、そっと
立ち上がり、岸辺へと向かう。早朝だったが既に陽は高く昇り、泉の前の草を暖かく照らしていた。
248:名無しさん@ピンキー
08/08/11 19:22:05 7RH1453v
泉から出た少女は身体を振り、身体に付いた水滴を跳ばすと服を纏った。息を整えると少し離れた、
開けた地へ向かって静かに、と同時に力強く歩んで行く。目的の場所へ付くと、しばらくそこに立ち、
身体に陽射しを受けながら天を仰ぐ。直立したままの姿勢で二対大きく息を吸うと、少女は全身に
力を込めた。晴れた空には風が湧き起こり、周辺の木々が微かにざわめいた。次第にそれは強くなり、
穏やかに靡いていた少女の美しい桜色の髪は風に吹き上げられて逆立つ。少女は自分の中に眠ってい
る強大な“力”が全身へと解き放たれていくのを感じた。それは余りにも強力で、そして時に危険で
ある故、普段は少女の姿の中に封印してある力だった。それは非力でしかない少女に無限の強さを・・・
この森で生き抜く為の強さを、そして弱者を救うための強さを少女に付与してくれる力だった。
やがて全身に熱いものが走り内なる力を覚醒を終えたの感じると、少女の服は透け始めて肌と一体
になり、身体は明るい桜色の光に包まれた。光の中で少女の姿は静かな、しかし大きな変貌を遂げて
いった。華奢で丸みを帯びていたか弱い少女の輪郭が次第に角ばり、身体の筋肉は急速な増大を始めた。
白く柔らかだった肌には鋼の様に硬く、少女の髪と同じ桜色の鱗が生え揃う。太くなった腕の後方に
膜が生じると、それは大きく広がり翼を作った。尻のあった場所には巨大な剣とも取れる長く鋭い尾
が現れそれは鞭の様にしなった。小さかった口は耳のあった辺りまで裂け、内側にナイフの様な牙が
無数に並んだ。
変化が完了すると、少女を包んでいた光は消え、現れた巨体が地に両脚を付けた。可憐でか弱かった
少女の姿はそこにはなく、代わりに美しくも荘厳な森の女王と呼ぶに相応しい姿があった。大鍋ほどの
大きさになった眼の奥にある碧い瞳だけは少女の頃の面影をまだ残していた。巨大な異形へと変貌を遂
げて周囲を圧倒する存在感を放ちながらも、瞳にはどこか少女の頃の優しさや暖かさがあった。そこに
は力を得ても奢らず、弱者の為に使おうとする少女の真っ直ぐな心や正義感が現れている様でもあった。
再び静まり返る陽溜りの中、一呼吸置くと女王は一際大きな咆哮を揚げ、少女のか細い腕だった双翼を
羽ばたかせた。森の秩序を乱す者から今日も動物や樹々を救う為に・・・
瞬間、巨竜と化した少女の身体は晴天の宙へと舞っていた。
酷い文才でつくづく申し訳無いorz
249:名無しさん@ピンキー
08/08/12 02:39:28 gAbKXQ/H
>>247-248様
変身完了乙です!か弱い少女とのギャップと、あと、特に「皮膜」がよかったです
…ピンポイントですみません(汗
250:名無しさん@ピンキー
08/08/12 18:09:50 U1oZ4FcQ
変身GJ!自発変身も勿論そうなんだけれど、服が消失する変身ってここじゃ初で新鮮だ。
251:名無しさん@ピンキー
08/08/13 09:07:39 JNVJo8zZ
>>247>>248様、御言葉どうも有り難うございます。ここまでお褒め頂くとは思って
いませんでした。喜んで貰えると書いた方としても本当に嬉しいです(>_<)
それと、一応この娘を主人公にした外伝編はまだ続く予定なのですが、かなり長い&
このスレで需要の高い肝心な変身シーンが全体と比べると短くなりそうなの
とでどうしようかと考えている所です。
252:maledict(宣伝) ◆sOlCVh8kZw
08/08/14 02:22:06 u9rQJcDk
>>251様
宣伝で恐縮ですが、自分が借りてる下記したらばの掲示板に、スレを一つ立てて
投下し(一作家一スレ使えます)、リンクをここに貼る(直リンOK)、という手も
あるかと思います
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)
のびのび書ける代わり、ここみたいに多くの人が見てくれるわけではないのが
微妙です。あくまで選択肢の一つとしてご検討くださればいいです。
ここに投下できればそっちがいいでしょうし、ご自分のブログ等の用意があれば
そちらの方がやりやすいかと思います。
それでも、もしご関心あれば上記掲示板の下記スレにでもお返事下さい
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)
253:名無しさん@ピンキー
08/08/14 23:28:44 meC0U3tO
>>252どうも有難うございます!!余り使い慣れては無いのですが考えてみます。(^-^)
>>182~>>248まで連載した第1章に続く第2章が書きあがったのでとりあえず載せておきます。
書き忘れましたが、第1章には「記憶」という章名を付けてみました。以下第2章です(>_<)
――第2章 「変容」――
少女が泉で水浴びをしていた頃、時を同じくして遥か離れた別の場所では商人の一団が長い馬車の
列を作って深い森の中を移動していた。年の端十過ぎの少女はその馬車の一つの荷台に乗り、長旅に
疲れた身体を馬車後方の荷台に横たえていた。普段父は出稼ぎ、村の店で母と暮らしていた少女に
とって遠へ旅をするのは実に久しぶりだった。始めのうちこそ始まる冒険に胸を躍らせわくわくしな
がら荷台に乗ったものだったが、やがてそれも長い時間の退屈や疲労の中で色あせて行った。いつの
間にか少女にとってこの旅は、長い苦痛へと変わった。次第には堪えかね、目的地までの到着を今か
と待ち望みながら、馬車を動かしている父に幾度と無く後どれくらいで到着するのかを訪ねる様に
なっていた。
と突然、先頭の馬車を操縦していた長老が不審な顔をして馬車を停める。何か変わった面白いもの
でもあるのかな。興奮に飢えていた少女は間も無く訪れる惨劇に気づく筈も無く、微かな期待と好奇心
を胸に外を見やる。馬車の荷台から首を伸ばし、外を覗いた少女は自分が見たものに絶句した。小山一
つ分程の大きさはあるであろう、悪夢の住人とでも呼ぶべき姿の大男が隊列の先頭に向かって前方から
歩いて来たのだ。大木ほどもある太い腕には巨大な棍棒が握られており猪の顔が崩れた様な醜悪な顔、
腰には何匹分もの大熊の毛皮と太い鎖が巻かれている。女達は悲鳴を上げて取り乱し、中には失神した
者もいた。そうでない女達は、外の様子が気になってその姿を見ようとした子供達を辛うじて止める。
254:名無しさん@ピンキー
08/08/14 23:38:57 meC0U3tO
先頭の馬車を動かしていた一団の長老は固唾を呑んだ。眼前に現れた異形、それは紛れも無いオーガ
であった。知能こそ低いものの、強靭な肉体と怪力を誇り、無差別に人畜を襲って喰らうという非常に
獰猛かつ危険な種族である。長老も若い青年の頃に何度か見た事はあった。40年以上も前に、当事「山
の主」と呼ばれて畏れられ、多額の賞金が賭けられていた個体を友人達が倒し、彼らにその死体を見せて
貰ったのを思い出す。並のオーガよりも遥かに巨大で家屋ほどはある醜悪なその巨体は、死体になりな
がら尚も見た者を恐怖させる何かがあった。しかし今目の前にいる者は、それよりも更に一二周りは巨
大であった。そして40年以上も前に見た個体よりも遥かに凶悪で危険な何かを醸し出していた。こんな
大きなオーガは長い事生きていた老人でも見た事が無かった。
老人の長年に渡る経験が彼に告げていた、「何かがおかしい」と。若い頃から旅の経験豊富な長老は
その度に細かい下見を欠かした事は無かったのだ。今回の旅の経路も彼が以前に何度か旅した事のある
道筋だったにも関わらず、旅の直前に現地の木こりや狩人等に新しい情報を聞いて行く事は決して欠か
さなかった。彼らの話によれば森のこの部分はオーガの生息域ではないので安心して旅が出来る筈だっ
たのだ。入念な下見は充分にした筈である。とは言え、現地に住む人々だって間違える事はある筈だ。
運の悪い事も時にはあるだろうと考え直し、なんとかこの場の打開策を練る。いざという状況に備えて
戦える準備はしたあるが、急な攻撃を仕掛けるのはとても賢い行動とは言え無いのでまずは黙って大男
の脇を通り抜けようと試みる。しかし大男は棍棒を勢いよく振り降ろしそれを阻んだ。二頭の馬車馬が
驚いて立ち上がり、狂った様に鳴き声を揚げたのを老人は鞭で叩いて鎮める。やはりただでは通してく
れないようだった。止むを得ないので長老は異形の大男を相手に交渉を求める。さすがにこれだけの数
の武芸に秀でた男達が集まればオーガの一頭位であればまだ倒せる様な気もしたが、そうだとしても仲
間内に無駄な犠牲者を出したくは無かった。戦わずに澄む方法があればそれに越した道は無いのだ。
通るので道を空けて欲しいと要求する。ただで空けないと言うのなら、代わりに家畜や食糧など望むもの
は分け与えるので、人や馬を襲わずに通して欲しいとも申し出る。がやはり返事は無い。
「オーガ相手に交渉してもなぁ。あの知能だと、何言ってのかも分からなんかもしれないぜ。」
と仲間の男達が後の方で小声でひそひそ話をするのが、遠い老人の耳にも聞こえた。しかし老人には
どうも返事をしない理由が少し違っている様な気がした。知識と経験が豊富なこの老人にもそれが何か
は説明出来なかったが、先程から目の前のオーガの放っている異様な雰囲気といい、ここにある不自然
さといい、何かが明らかにおかしかった。このオーガが返事をしない理由は知能とはもっと別の所にある
様に思え、そして何かもっと凶悪なものを醸し出していた。
255:名無しさん@ピンキー
08/08/14 23:45:36 I3Rm6axi
母は恐怖に震え泣きじゃくる少女を宥める。大丈夫よ。ここには若い頃から武芸に秀でたお父さんも、
大型シェパードのムンムも、それに他にも百人近い男達とそれを率いる賢人として名高きアプス長老も
いるんですもの、と。そうよね、きっと大丈夫。お母さんの言うとおりだわ、と少女は自分に言い聞か
せる。しかし内心の不安はどうしても抜けきらなかった。
後ろの方で男が今度は叫ぶ。
「おい!?荷台に何かいるぞ!?」
男の声を聞いた老人は素早く後ろを振り向いた。そこで自分が見たものに驚愕した。声を発した男が
指し示した方向に別の何者かがいたのだ。法衣を着た神父とも取れる痩身の男が顔に薄気味悪い笑みを
張り付けて老人の真後、彼の乗っていた馬車の荷台の上に直立していたのだ。神父は不気味な笑みを讃
えたまま、口を開いた。
「怖いお顔などなさって、どう致しましたか。」
何故こんな場所に神父がいるのかという疑問以前に、老人は感じた。明らかに何かが異常だと、こいつ
は老人の知っている神父等では無いのだと。それが何故なのか老人には全く説明出来なかったが、この
不気味な神父が放つ危険な雰囲気は前方の大男のものと同じものだった。他の男達も老人がようやく感じ
ていたものに気づき、口々に声を漏らす。
「おい!?何なんだ、こいつらは!?」
「こりゃあ神父なんかじゃないぜ!?」
老人は恐ろしく不吉なものを感じながら、神父にも彼の要求を訪ねる。謎の男は唇の端をきれ上がら
せながら、一層不気味な笑みを作って言った。
「あなた達を主へ捧げようかと思いましてねぇ。きっと主も喜びになられる事でしょう。」
その言葉を瞬時に理解して、老人の内には一瞬で恐怖が走った。次の瞬間、男の法衣の袖から何か長い
物体が稲妻の様な速さで走ると、老人のすぐ後ろで何かを切り刻む様な音がした。あまりの速さに一瞬
何が起こったのか分からなかったが、振り向いた老人は見たものに戦慄を覚えた。一つ後ろの馬車が中
の乗員や馬と共に切り刻まれていたのだ。
「ひっ・・・ひぃぃっ・・・!!」
男の一人が恐怖に引き攣った顔で搾り出す様に呻いた。
256:名無しさん@ピンキー
08/08/14 23:54:57 meC0U3tO
老人は直ちに一団の男達にこの男と前方の怪物を射るよう指図した。争いは避けたかったが、仲間を
殺された今老人は悟った。殺らなければ自分達が殺られる相手だという事を。矢をつがえた男達が神父
と大男に向けて一斉に無数の矢を放った。大男の身体に当った矢もその分厚い筋肉で止められて殆んど
が深く刺さらずに空しく地面に落ちていった。神父は身体に矢を受けたまましばらく直立したまま動か
なくなった。立ったまま死んだのか、と老人は微かに安心が訪れることを期待するが、それは俯いた
神父の不気味な笑い声と共に裏切られた。身体を震わせて笑いながら顔を上げると、刺さったかの様に
見えた矢が次々に足元の荷台へと落下していった。老人も遂に堪え切れなくなる。
「この化け物が!!」
いつしか老人も冷静さを失い、剣を抜いて後方の神父の頭上にそれを振り下ろす。しかし、剣は持
ち上がったまま下に降りない。老人は戦慄を覚えた。老人が渾身の力を込めて振り下ろした剣の刃を
神父は片手で掴み受け止めていたのだ。空いていたもう一方の腕を剣の刃に叩き付けると、金属が割
れる大きな音を立てながら、剣は途中から真っ二つに割れたのだった。老人にはそれがどういうから
くりなのかは分からなかったが、この男には刃物による一切の斬撃が通用しないのだった。
「主をも恐れぬ愚か者には罰を与えねば、なりませんね。」
割れた剣の先を真後へ放り投げると、また一つ後ろの馬車にいた男の腹部に命中して貫通した。
後で男が悲痛な叫びを挙げて倒れる。剣先を握っていた方の手で小柄な老人の首を掴みながら老人
を持ち上げると片手で締めあげた。あまりの怪力に息が止められ激痛が走る。老人の首を離した
神父の袖から再び長い物体が走るとそれは老人の身体を縛りつけ動きを封じた。まるで意思を持つ
かの様に伸び上がるその物体は神父によって巧みに操られている鎖だった。鎖の先端に取り付けら
れた錘で更にきつく絞まっていく。
「ぐっ、貴様・・・」
まるで大蛇の様な鎖は更に強く老人を締め上げる。神父のもう一方のそでから剣の様な長く鋭利
な刃物が現れる。一瞬刃物をぎらつかせると、その神父は老人のわき腹にそれを叩き込んだ。
「うぶぉ・・・!?」
わき腹に刃が沈むのを感じると、次の瞬間に老人の視界は宙を舞いながらあらぬ方向へと動き、
背中は湿った地に打ち付けられた。斬られた老人の上半身が斬り跡から血を噴射しながら空中で
見事な放物線を描き馬車の横に落下したのだった。女性達は悲鳴を上げ、取り乱して泣き叫ぶ。
長老を殺られた怒りから男達は立ち上がり一斉に剣や槍を構え、矢をつがえ、平和だった森の道は
一瞬のうちに戦場と化した。少女は恐怖で自我を失いながら、荷台の隅に隠れて身を萎縮させ、
声も挙げずに泣いていた。
――2章終――
変身シーンの無い章でごめんなさい(´;ω;`)次章にはちゃんとあります。
257:名無しさん@ピンキー
08/08/18 20:21:47 YMQToTXy
楽しみにしてますよ
258:maledict(宣伝) ◆sOlCVh8kZw
08/08/19 02:16:45 T6exQYiG
>>253-255様第二章乙です!
流れぶったぎってすみませんが、自サイトで2スレ目までのSSを抽出してみました。
URLリンク(book.geocities.jp)
ただし、ベルゼブブの娘他の一連の作品と、「蟲」シリーズについては
著者の方自身のサイトにアップされているのを確認したので(当方のサイトの
リンク集から跳べます)、割愛させて頂きました。
お気づきの点等あったらご指摘下さい。
259:名無しさん@ピンキー
08/08/19 14:19:51 TEgs3DgG
>>257-258どうも有難うございます!もうじき第Ⅲ章ウプしますので、待ってて下さいね。
>>187にも書いたのですが、このワイバーン娘は当初のシナリオだと本編の終盤で敵組織
(8名からなり、うち2名が第2章に登場済)との交戦中に死亡する予定です。ただ、もし
このキャラの人気が高そうであれば死亡しない様にシナリオを少し変更してみようかとも
考えています。まだ全部書き終わっては無いのですが、現在までの読書の意見を頂けたら
幸いですm(_ _)m
260:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:37:38 10eEHcTg
とりあえず、sageた方がいいと思うんだ。
作品は非常にGJ
261:名無しさん@ピンキー
08/08/26 12:17:32 KiYebg8g
保守蛇
262:名無しさん@ピンキー
08/08/27 13:01:13 +2yZV2g4
死亡する物語でもいいんじゃないかな?
263:名無しさん@ピンキー
08/08/28 01:15:37 Cc2bEkVs
――第Ⅲ章「出遭い」――
初夏の暖かな陽射しを背に受けて巨竜と化した少女は双翼で風を切りながら晴天の上空を駆けていた。
心地良い風が壮大な身体を擽っていく。少女のもう一つの姿がそこにはあった。これこそが少女に強さを、
勇気を、力を与えてくれる掛け替えの無い力なのだ。少女は自分がまだ幼かった時の事を思い出す。当時
自分は人間社会に混じって暮らすには不要なものでしかないこの力が嫌いだった。変身して自分の姿が人
外の異形へと変貌する事にもとてつもない不快感を覚えていたが、のみならずこの力は彼女が人間から差別
され、疎外される原因でもあったのだ。
よく父は言っていた。人間程血統に拘泥する種族は他にいないのだ、と。血統主義の人間は自分達に直接
の危害を加えるオーガやオークは愚か、こちらから危害を加えなければ全くの無害であろう筈のエルフやド
ワーフ等も含めた多種族との共存を酷く疎むのだった。そして彼女ら竜人族達もその例外では無かった。父
が何よりも理解出来なかったのは、時として同じ種族同士である人間内でも身分や人種の違いというだけの
理由から差別や迫害を起こす事だった。亡き母の様に、人間の中にも一部血統主義に疑問を持つ者もいたが、
そういった者達は変人として悉く敬遠されたのだった。人間を嫌っていた父は家族にこう言ったものだった。
「私は人間を愛したのではない。ただセイレを愛しただけなのだ。」
と。彼が生涯愛したたった一人の女性は皮肉にも人間だった。しかし父には人間だという嫌悪よりも母の
持つ魅力の方が最期まで勝っていた。死際にも父は溜息とも、感嘆とも、あるいは恍惚とも取れる声で母の
名を口にしていたのを思い出す。妻が人間である事などから人間達に危害を加える事こそ無かったが、同時
に救う事もしない。今のティアマトーとは違い、目の前で人間が死に喘いでいても、父にとってはどうでも
良かった。父は最期まで種族としての人間を愛してなどいなかった。
少女は母と同様に、父の事も今なお愛して止まない。しかし昔から疑問を持たずにはいられない点もある。
昔から少女は信じ続けていたのだ。人間の中にもきっと彼女たち多種族を受け入れてくれる者がいる。それ
は母以外の人間でも同じであり、いつかその理解が人間内に広まった時、彼女らが人間と共存する事もきっ
と実現し得るのだと。それは今も変わらなかった。
今自分はこの力を愛していた。それは通常無力でしかない自分に想像を超えた力を与えてくれる力だった。
彼女はその力をむやみな殺生や悪事、私利私欲に使うことは決して無い。そんな少女は自分が持つ力で種族
の違いは関係無く、困っている者達を救う生き方を選ぶ。今はこの力で故郷の森を、動物達を、苦難に喘ぐ
者達を救う事、それこそ力を与えられた自分への使命、彼女自身の存在意義である、と考えていた。そこに
は人間という一種族も含まれている。父以上に人間を嫌っていた姉はその生き方を理解できず、遂に妹は気
が痴れたのだと嘆き窟を飛び出して行った。必死で説明し止めようとしたが耳は貸さず、姉妹の縁を切ると
だけ言い残し去って行って以来、会っていない。他にも意見が合わない事の多い姉だったが、両親の死と
同程度かそれ以上に辛い出来事だった。しかしそれでも少女にはどうしても自分の信念が間違っているとは
思えなかった。姉にも同じ行動を取る事は決して要求しなかったが、せめて理解はして欲しかった。確かに
救ってあげたにも関わらず、大部分の人間は依然として彼女を敬遠し続けていた。救ってあげた当の人間か
ら怖がられる事も幾度あっただろう。しかし少女にとってそんな事はどうでも良かった。人に愛され、平和
な時間が訪れれば喜ぶ。他者から疎外され、脅威に晒され、家族を失えば悲しむ。そういった感情に種族間
の違いは存在しない。竜人族であれ人間であれ望むものは皆一緒。自分が味わった苦痛は絶対他者に受けて
貰いたくはない。苦しむ者がいれば救いの手を差し出せずにはいられなかった。他者の痛み、それは誰より
も苦節を味わった彼女が誰よりもよく知っていた。そして困っている人々が苦難から解放され、再び平穏な
時を生きる。それだけで充分嬉しかった。平穏な時間、それは大戦に運命を翻弄された彼女が何よりも尊び
愛するものだった・・・
264:clown
08/08/29 01:47:00 sM9VoMMf
お久しぶりです、作品を投下します。
265:『震える血』
08/08/29 01:47:54 sM9VoMMf
寒い。
ここはどこだろう。
暗くて、視界のほとんどは黒。
全身の倦怠感、寒気。
頭が痛い。
手足は痺れている。しばらくすれば動かせるかもしれないが、今は無理だ。
服が濡れているようだ。
よく目をこらすと、赤い波状の線が壁の輪郭をなぞっている。
火が焚かれていて、それが濡れた壁面に照っているらしい。
ふぅ、とため息。
そして目を閉じる。眠ったら死んでしまいそうだけれど、頭痛が酷い。
ひたひた、と足音が聞こえても、私は目を開けなかった。
残された体力では、いかなる危機にも対処出来そうになさそうだ。
気力だって、既に生に縋り付くことを忘れてる。
畜生本能め、何してるんだ。
「起きているのか、人間」
聞き覚えのない女性の声。
思ってもいない幸運を予期して、少しは体が起動した。
私は指先を軽く、ほんの軽く動かして、それを合図とした。
「そうか」
足跡は、薄く濡れた地面を蹴る。
「だが、死にそうだ。それでは困る」
そう言って彼女は、私の腰に手を回したかと思うと、一気に担ぎ上げた。
がくん、と頭に響いて―
体に温度を取り戻すと、体は健全な眠気を携えて目を開ける。
寒いと布団から出たくなくなる。いつの間にか手に持つ毛布を、ぎゅっと締めた。
目を開ける―しかし、視界は開かれない。
頭まで毛布を被っているつもりはなかったが、依然として暗いまま。
たき火に薪が爆ぜる音がパチパチ聞こえているのに、明るくすらならない。
私は毛布から手を離して、目元に手をやった。
「待て」
その手がそっと押さえられる。
「訳があって、お前には目隠しをしている」
彼女の声だ。淡々としているが、敵意は感じられない。とりあえず、手を引っ込めた。
「悪いな」
そのまま彼女は黙って、しばらく経った。
質問したいことは沢山あったが、頭が呆けてその気になれない。
「スープがある。飲むか?」
彼女の声に、ほとんど沈みかけた思考は再浮上。
確かに、良い匂いがする。お腹もすいている。
「飲むつもりなら、まず体を起こせ。毛布にこぼさないで欲しい」
言われたとおりにする。肩に掛かった毛布がずり落ちて、それを盲目のままに手探りで探すも、要領は得ない。すると、それを肩に掛けてくれた。
「あ、ありがとう……ございます」
「ほら、スープだ。手をそのままにしておけよ」
そう言って、大振りのカップを持たせてくれた。
「いただきます」
口に運ぶと、よく煮込まれたオニオン。美味しかった。
266:『震える血』
08/08/29 01:50:56 sM9VoMMf
目隠しは外されないままに、時間は経つ。
そろそろ目は冴えてきて、再度身を起こした。
私は覚悟して、口を開こうとするが、それに覆い被すように彼女の声。鍋に蓋でもするよ
うな、さも冷静な手順で。そこに彼女の思惑を、想像するのは難しい。
「悪いが、何故お前が目隠ししなくちゃならないかは、教えられない」
発しようとした言葉を飲み込んだ。必然的に、耳に入るのは息づかい。
「そもそも、お前は何でここにいるか、分かっているのか?」
そう言われて、しばし逡巡する。目を隠されていても、彼女の視線を感じた。
私は冒険者だ。そこそこの魔法の才能があったから、それを駆使してその日暮しの身銭を
稼いでいる。最近は貯金も出来るくらいで、始めてから数年、ようやく板についてきたと
ころだった。
基点としている街から、依頼で遠くの村に出て、少し大きめの仕事の帰りに森を抜けてい
た所だった。街道の一部で、危険は少ないとされている森であるのに、あろう事かリザー
ドマンの群れに遭遇した。
一人でリザードマン一体を討つことさえ困難であり、群れている奴らを打ちのめすことな
ど到底出来るはずもなく、私は逃げに逃げた。発見は向こうの方が早かったが、幸いこち
らからは離れていた為、すぐに囲まれることはなく、闇雲に森を駆けた。
さながら狩りのような事態に私は焦燥しきって視界が狭窄していたし、よく知った森でも
なかった。しまった、と思ったときには、既に崖から身を投げ出していた。
そこから、細かい記憶はない。崖の下に川は見えたが、果たして川に落ちたのかも分から
ない。落下の途中に酷く頭をぶつけて、それで事切れた気がする。
ここはどこだろう。音が籠もって聞こえるから、きっと洞窟の中だ。とすると、近くの村
の人間に拾われたわけではないらしい。隠者にでも拾われたのだろうか、もしくは、盗賊
だろうか。
「崖から落ちたおまえを、私の仲間が拾ってきた。幸い大した怪我じゃなかったが、うち
のバカがお前を洞窟の冷えたところに放り込んでな、危ないところだった」
「そう……なんですか」
現状は把握しきれない。何故目隠ししているのか、そして―
「あなたたちは、どなたですか」
その言葉に、すべての震えは止まる。
震えはそのまま冷めたまま、ゆるやかに醒めて、言葉を伝える。しめやかに。
「それには、まだ答えられない。ただ、お前に悪意があるわけではない、それだけだ」
空に放たれた一本の矢のように、何事もなく消滅した。
体はとうに温まって、先ほどの話が本当ならば、私がここにいる理由はなくなった。
実際に倦怠感や頭痛といった不調は解消されて、むしろ村を出たときよりも精力的ですら
ある。今なら魔法の一つや二つなら、咄嗟にでも使えるだろう。
「私はここから出ることは出来ないのですか」
と、その呼び戻された活力を依り代に、いちいち静まりかえる空気を攪拌する。
「しばらくな。お前が目隠ししないといけない理由と、同じだ」
「もう動けるほど元気なんです。これ以上、ここで迷惑を掛けるわけにはいきません!」
つい大きくなる声。対照的に、私の言葉に返答する彼女の声は押し込められたように小さ
くて、聞き取りづらかった。姿形などまるで分からないが、彼女が目を伏しているのは容
易に察することが出来た。
「……すまない。迷惑を掛けているのは、私なんだ」
「何を言っているのか、よく分かりません!」
無性に体が熱くて、言葉が自然と吐かれる。私は立ち上がって毛布を払い、目隠しを取ろ
うと手を掛けた。今ならどんな相手でも勝てる気がして、自分でも気が立っているのが分
かる。
「今までありがとうございました、でも、もう出て行きます!」
そして思いっきり、その目隠しを取り払う―
「……許してくれ」
目に光が飛び込むか否かに、足下は不明瞭、視界はぐらついて消失した。
彼女が何かしらの魔法を唱えたのだ、と気付くのは、地に伏せて今にも落ちる寸前だった。
267:『震える血』
08/08/29 01:51:33 sM9VoMMf
寒い。
何も見えない。
目隠しはされていないが、明かりがないようだ。
体を動かす気にはなれなくて、俯せになっている。
先ほどの洞窟に、戻されているようだ。
きっと私が暴れたからだろう。
大変なことをしてしまったな、と思ったが、それを反省に繋げるほど、思考の余地もなく。
眠い。
このまま目を閉じてしまいたい。
お腹が空いているけど、何も食べたくない。
また振り出し。
こんな状態じゃ、魔法も使えないのは相変わらずで。
這ってでも出る気力を出そうと、しばらくそれだけに集中する。
右手を、少し前に出す。
きっと立ち上がったら危ないだろう。
左足を前に。
力が入らなくて、少し休憩してから。
岩肌に擦れる体。
冷めていて、冷たいし、全身が擦り切れて痛い。
あれ、裸?
いやだ、なんで?
ひた、という足音。
雷光のように、危機感だけが錯綜する。
やめて、助けて……!
誰かが私の肩に手を触れる。
私の口は悲鳴を上げようとしたが、小さな音がしょうもなくひねり出されるだけ。
手は滑らかで、温かかった。
私のすぐ近くにしゃがんでるみたい。
手が離されると、今度は目に何かを宛がわれる。包帯みたいな。
また目隠しされるんだ、という恐怖に、体は咄嗟に動こうとするけれど、巻かれる包帯に
翻弄されたかのように首が軽く揺れるだけ。
自分の体はもう寝てしまったかのように怠惰だし、頭もこぼれた刃物みたいに鈍くて、何
も切れやしない。
ただ何となく、その目隠しをする手は優しくて、温かくて。
あれ、何か良い匂いがする、と思ったら、
「温かいスープがある。飲むか?」
と彼女の声。
私は小さく頷いた。
わあ、と湯気の雲が、顔をくるむように撫でて、今目と鼻の先に器が突き出されてるのに
気付く。
両手を掴まれて、器とスプーンか何かに手を移されたから、そのまま寝そべって食べ始め
る。
煮込まれたオニオンと、何か肉が入っている。
少し固かったが、温かいし美味しいしで、スープを度々啜りながら咀嚼した。
きっと床を汚してしまっている。首をこぼれたスープがなぞっているのに気付いていたし、
平らでない床に上手く器を置くことは出来なかった。毛布が無いのを幸いとして、私は不
作法な食事を続ける。
気力が戻ってきて、彼女が私を見て吐いたであろうため息は、安堵と、例の申し訳なさそ
うにしている理由が入り交じっていることを、察した。
器を空にすると、彼女は
「元気になったか?」
と私に尋ねた。
「はい」
小さい声しか出せなかったが、ちゃんと喋れたし、頷けた。
268:『震える血』
08/08/29 01:52:38 sM9VoMMf
彼女に起こされて手を引かれ、再度たき火の部屋に。
暖かい、体はそれに火を灯されたかのように巡り初めて、一気に活動状態へと移ろう。
「……暖かい」
体が再起しようとも、反抗の意志はもうなかった。何を言っていいかも、何をすべきなの
かも分からないままに、ただ彼女に従ってたき火に当たっていた。懲罰的に凍てつく部屋
に放り込まれたことが原因ではない。彼女の振るまいに対して、乱暴に振る舞えないだけ、
それだけ。
聞こえる音は少ない。会話はないし、体が元気になっても、目隠しをされては動き回れな
い。かといって彼女の存在感は決して希薄ではなく、常に見守るような目線を感じる。突
然彼女が口を開くと、意識はまるっきり、それへと向けられる。
「……なあ、名前を教えてもらないか」
「ターチカ=マトラス。あなたは?」
少し間を置いて、
「グラムベルタ」
と答えると、もう一度口を閉ざしたが、しかし何か言いたげな空気は、腰を持ち上げたま
ま待機していた。
「ターチカ。一つ聞いていいか」
彼女は深く空気を飲み込んだ。
「もし私が人間でない、としたら、どうする?」
杞憂だったらいいなと、頭のどこかに中途半端な形で放っておかれたままの連想が、不意
に発熱していた。私は一呼吸を置き忘れて、彼女に習うかにしてそれを深く取り込み直す。
無駄なことだと分かっていた。そんな風に尋ねられたら、正直に真意を突きつけているも
同然だと、知っている。
「でも、あなたは喋っているし、私を食べてたりしない」
「そんなことは些末なことだ。お前は―」
「いや、あなたは人間ですよ」
私の言葉が、空気の振動を止める。
何度目の沈黙だろう。夕立のように降ったり止んだりという会話は、しかし確実に形とな
っていく。
雷光のように、強烈なストローク。
「私は、リザードマンだ」
遅れて轟くのは、雷鳴。
「―そして、お前もだ」
「まあ、落ち着いてくれ」
言葉を理解しきれない私に、グラムベルタはスープを手渡した。
例の、よく分からない肉とオニオンのスープだ。良い匂いがする。とりあえず一口啜る。
「私が喋れる理由。お前をここから出さない理由。それは後に教える」
彼女はそう言ってから、「だが」と付け加えた。
「だが、私の言葉を覚えていて欲しい。それだけでいい」
それを最後に、会話は潰えた。
彼女もスープを注いで、それを食べ始めた。
私は固い肉を咀嚼しながら、言葉の意味を分解していく。
彼女がリザードマンであるのは、もしや、と思っていた。ここが洞窟であり、どこかの村
でないこと。目隠しをさせて、姿を隠していること。私が崖から落ちたのを知っているの
は彼らだし、それを回収されたと考えるのは容易だ。
ただ、彼女が私と会話し、そしてこんな待遇を受けていることは、まるで理解が出来なか
った。肝心なところが一つ二つ抜けて、考えがバラバラになっている。
適当な仮説でその穴を埋めるならば、彼女はリザードマンの変種で、高い知能を有する個
体であり、人の言葉を話せるようになる魔法を使える、といったところで、私を生かして
おくにも何か利用価値を見いだしているから、と考えるのが普通だ。
私の利用価値、と思考を巡らすと、私がリザードマンだという話に行き当たる。それがど
ういう意味なのかは、まるで分かりやしない。私がリザードマン?人として生を受けて、
長いことそのつもりでやってきた。冗談だ、と笑い飛ばしたいけれど、しかし彼女が一つ
でも冗談をいったのだろうか?
勿論、言葉の通りに受け止めることなんて出来ない。でも、その言葉を確かめたかった。
今一度、この目隠しを解いて、自分がそうでないと確かめたかった。自分が人間だと、人
の姿を留めていることを。
途端にこみ上げる恐怖に、何となく口へと運んでいた器を止める。あと一口分だけのスー
プは、飲まれることなく、ただ揺れている。
269:『震える血』
08/08/29 01:53:44 sM9VoMMf
「ターチカ。お前は冒険者だったのか?」
不意打ちの切り出し。グラムベルタも相変わらず緊張しているようで、声は固い。
「そうです」
それ以外に加える言葉は見あたらないが、彼女が続けた。
「そうか。あの森を抜けようとしていたのも、依頼か何かなのか?」
「いや、依頼が済んでの帰り道でした」
少し間を置いて、
「冒険者なら、リザードマンの一人や二人、殺したことがあるだろう?」
「……そうだけれど。でも、あなただって、人間を?」
「まあ、な」
飲み残して、既に冷めたスープをグッと飲む。
「体調はどうだ?」
「元気です。許してくれるなら、すぐにでもここを発てるくらいに」
彼女は私の返答に、意味深なため息を返してから、言葉を繋げた。
「お前がもっとむかつく奴だと良かったよ」
その言葉に返事をする前に、彼女は立ち上がってどこかへと行ってしまった。
一人取り残された。
今なら目隠しを取るチャンスだということに気付く。
空いた器を地面に置いて、一呼吸して目隠しに手を当てる。一端の結び目を見つけ出すと、
それが引っ張るだけで取れるものだと知る。
しかし、無様な覚悟がその結び目を固くしていた。彼女に信用を覚えるにつれて、彼女の
言葉を拒みたくなる。拒みたい言葉が現実ならば、現実を拒まなければならない。下唇を
噛む。
足音が聞こえてきて、焦って勢いに任せて引っ張ったが、結び目は中途半端に解けただけ
で、まだ目を覆ったままにぶら下がっていた。
「ターチカ。立て」
彼女は目隠しの結び目を見て、どう思うだろう、そんな思考などあまりに些細であるのを
知るのは、すぐのことだった。
270:『震える血』
08/08/29 01:54:29 sM9VoMMf
彼女に手を―彼女の確かに異形の手に引かれて連れられた部屋は、熱に滾る部屋だった。
轟々と火が燃え盛り、芯から私を焚きつける。
そして微かに聞こえるのは、シュー、シュー、という空気の擦れる音。
「ターチカ。私を恨んでいい。好きなだけ恨んでくれ……」
グラムベルタの声。
そうして私に触れるのは、彼女でもない、別の誰か。
私の一糸纏わぬ体。その肩口に柔らかく手を、撫でるように載せるのは、誰か。
「いやっ、グラムベルタ……?」
恐怖に捕らわれて、私は咄嗟に身を逸らし、悲鳴を上げていた。
「グラムベルタ!」
声はない。
その代わりに、ゆっくりと、しかし力強く私を押す。
得体の知れない何かが。
私はよろめいて、壁面に手をつく。もう一方の手でその何かの腕を掴んだ。
滑らか、そしてその表面を複雑に走る溝。鱗に覆われたそれは、人間の腕ではない。
腕は折り曲げられて、その異形の存在が感じられるほどに近づいているのが分かる。魔法
を唱えようと思っても、もう遅い。こいつが私を殺そうとしたら、呪文を紡ぎ終える前に、
首から涙を流してるだろう。
肩口に宛がわれた手は、肌の上を這って背中へと。まるで蛇のように。
もう一方の手はあろうことか、私の胸に。
恐ろしくて、気持ち悪くて、私は悲鳴さえ上げられない。痙攣を起こしたかのように短く
刻まれた呼吸を繰り返していた。
心臓が、胸を突き破ってでもその手を払いのけたいかのように暴れている。体は、燃えて
しまいそうなくらいに熱くて、それは戦闘を予期させる、破壊的な熱さ―いや、違う。
違う、けれど、それを認めたくはなかった。
心臓が、その手に直接撫でられて歓喜しているかのように跳ね回っていて、体は、とろけ
てしまいそうなくらいに熱くて、これからされることを迎合するような、過激な熱さだと
いうことを。
私の、熱でどうかしてしまったであろう体は、その愛撫により熱くなろうとしていた。こ
んなにおぞましく、不快なのに。
乱れた呼吸は正せない。あまりにも脳が熱を帯びすぎて、触れる水の全てが蒸発していく
せいで、頭と体がしっかりと繋がっていないみたい。シューシュー、という音は、きっと
その蒸発する音だろう。
不本意な脱力は、体が遂に融解し始めるのを模して、私をゆるやかに座らせた。
胸から離れた手は、それを妨げるように山となって折られている足を伸ばしてから背へと
回り込み、もう一方の手は肩に添えるように小さく抱いた。
呼気が、私の乳房をひと撫でした後に、分厚い舌が、不器用に舐め回す。
沸騰して鍋の蓋がぐらつくように、視界思考は不安定になる。おぼつかないのに、私の血
潮は巡る、巡る。私は拒む手立てさえなくて、されるがままになっていた。いかなる言葉、
呪文さえ、口にしようとすれば喘ぎ声に変わってしまう。
舌が離れたかと思うと、相変わらず舐るような手つきで私の体を通過して、今度は私の両
腿に手が掛かる。緩慢だが強引に引っ張られ、両足を開く。股を無理矢理晒されて、され
ることなどたかが知れている。
私が汚される、汚されていく。その目、その手、その行為に……その血に。
グラムベルタ―!
卑猥な感覚に、私は嬌声を上げる。心に楔が打ち込まれる。
火照る体は単純な前後運動によがり、心はその度に擦り切れる。
耐え難い快感と、迸る嘆きに、私は声にならない声を上げていた。
目隠しが濡れている。
揺さぶられるがままに。
性的な興奮が高まるにつれて、意識は高すぎて空気が薄いところにあるみたい。
頭を苛むように、私にくい込んでくる。
空の雲がいっぺんに吹き飛ぶような、痛烈な性の衝撃。
一気に地へと落下する。
混濁した思考から這い出るさなかに、私の中に得体の知れない何かの、体液が注がれてい
く―
271:『震える血』
08/08/29 01:55:01 sM9VoMMf
目が覚めて、体が冷めて。
私は横たわっていた。
「ターチカ」
グラムベルタの呼ぶ声は、今更私に届く。
「ターチカ、起きているか?」
彼女は全て知っていて、私をあそこに置いてけぼりにしたのだ。
慰み者にされるのを、彼女は知っていたのだ。
「……起きています」
だから彼女は「私を恨め」と言った。その上で、私の求める助けを無視した。
私の絶望を知っていて、あえて私を救わなかったのだ。
「そうか」
「はい」
……恨めっこなかった。私には、グラムベルタを恨めやしない。
「何だ……その……」
こうやって、吐く言葉一つにさえ躊躇う彼女を、恨む事なんて出来ない。
「別に、恨んでなんかいませんよ」
その後は、スープを飲んで、二、三の言葉を交わして、緩やかな眠りについた。
何事もなかったかのように。自らガラス片を反芻するなんて、そんな真似は出来なかった。
起きがけに、腹部に違和感を覚えた。圧迫感がある。
食事を初めとした世話は、全てグラムベルタがやってくれていたから、その事を話すべき
か話さないでおくべきかは悩んだ。下手に心配させても、付きっきりで私の世話をしてく
れる彼女の負担になるだけだと思った。
実のところ、私は彼女に憚る必要などないのだ。きっと私は、彼女の都合でここにいるし、
ただ生死を握っているのが彼女、というだけなのだ。だけれども、私は彼女の厚意を無下
にするなんて出来ない。良いように利用されているだけかも知れないのに……。
どうすればいいのだろう。ここにいることが私にとって危険なのは熟知している。きっと、
このままここにいては取り返しのつかないことになる。いや、既に遅いかもしれない。私
の冒険者としての警戒心は、初めっからずっと、警笛を鳴らし続けていた。
「どうかしたのか?」
私は首を振る。
そうすれば頭について回る何かが振り払えると思った。
「具合でも悪いなら、言ってくれ」
「……お腹の調子が悪いんです」
「そうか。後で薬でも取らそう。我慢できるか?」
「そんなに気遣わないで下さい。大した不調じゃありません」
彼女が何を考えていているのか、私には分からなかった。目隠しを外して、問いただして、
全てを明らかにすれば、私はどうすれば良いか分かるのだろうか?
「無理するなよ」
時間は過ぎていく。
腹部に感じた異変は、日に日に強くなっていったし、私の中での彼女に対する親しみと、
それに反目するものは葛藤を強めていった。心が震えている。
「お腹が苦しい……」
鎮痛剤として、薬草を噛まされていた。効果はあったが、それで全てがどうにかなるわけ
じゃない。
「ああ……」
腹部に触れると、そこが膨らんでいる。中に何か詰められているみたいに。それに気付い
たのは大分前だった。膨らんでいくそれは、私に恐怖と閉鎖をもたらした。何も考えたく
ない、何も知りたくないと、睡眠かグラムベルタとの雑談に逃避した。
彼女は何も教えてくれなかったが、私の冒険譚を楽しそうに聞いてくれた。まるで母みた
いに。
でも、この痛みの度に、私は現実へと引き戻される。この痛みに訳があり、それはグラム
ベルタも知っているし、むしろ彼女が仕組んだことだと。いや、私だって、その原因や、
痛みの正体だって知っている。ただそれを、食わず嫌いするみたいに、フォークで端っこ
に集めるみたいに、直視せずにいるだけ。事実を隠そうとする彼女の優しさにあやかって、
そして優しさを否定したくないから、心地良いから、私は束の間の安息に浸ることしか出
来なかった。
安息を引き裂くように、痛みは度々訪れる。この腫れ上がったお腹は、破裂せんばかりに、
終局が近いことを示すかのように。
272:『震える血』
08/08/29 01:57:02 sM9VoMMf
あまりの痛みに、器を落とした。
食いしばった口から漏れる苦痛の音、膨れた腹を抱えてうずくまると、すぐにグラムベル
タの声が飛ぶ。
「ターチカ!」
返事する余裕はない。彼女は私を抱いて、何度も私の名前を呼んだ。
「待ってろ、すぐ楽にしてやる」
彼女は呪文を詠唱する。それを子守歌に、私は不意に眠りの淵へと突き落とされる―
自我を取り戻すと、まるで時間を切り取られたかのように空白を感じる間もなく、私はベ
ッドに横たわっていた。
「痛みは和らげてある」
グラムベルタの呼気は乱れて、シューシューと音が聞こえる。力量以上の術で私の痛みを
制御しているようだ。あの鋭い痛みは、今や鈍く横たわっていた。
「後は―分かるな?」
押さえられた痛みは、しかし確かに残っていた。私を現実に取り留めんとするかの如く。
分かってる。私がどうしなきゃいけないなんて。そうしなければ、この現実も何もかも、
ずっとこの場に付きまとうというなら、やるしかなかった。
鉄片が未来永劫私の体にくい込んだままでいるくらいなら、一度だけ果物ナイフを突き立
てる方がマシってこと。
要は、最悪な妥協。
私は頷いて、そして然るべき行為で答える。グラムベルタの固い声援が、気休めに私を解
した。
乱れがちの呼吸を一緒くたにするようしてに、思いっきり息を吸って、腹に力をいれる。
何度も。
身体をこじ開けるようなリアルな感覚を、吐き気に似た拒絶で応える。
ズル、と身体から抜け出る。それでも、腹部にはまだ圧迫感がある。
終わらない、終わってくれない。
ふやけて、輪郭の曖昧な逃避は、目隠し一つの暗闇の中にあったが、今や痛覚でズタズタ
だ。自ずと目隠しが引き裂かれて、その向こうの真実が目に飛び込んできそうで、私は目
をつぶっていた。妥協をとっても、開き直ることは出来なかった。
現実を噛み締めつつも、その身全てを現実の中に投じることなんて出来やしない。
矛盾の中に身を置き、拒絶と悟りの間を、震えるように行ったり来たりしていた。終わり
をただ、堪え忍びながら。
事後、私は再度眠りへと落ちた。再度目を開いたときには暗闇の中、まだベッドの中で横
になっていた。火は焚かれていないようだったが、十分に暖められている部屋の中、私の
活力は徐々に高まっていく。疲弊しきった身体だから、それでも身を起こすことさえ出来
なかったけれど。
下半身は痛むが、身体の中に異物を詰められたという違和感は失せていた。口の中に突っ
込まれた薬草に気付いて、私はそれを噛んだ。
しばらく、何もない世界に浸っていた。自分の手さえ見えない暗闇は、自然と私を安心さ
せた。グラムベルタさえこの場にいなくて、もしかしたら、私すらいないのかもしれない。
目隠しはされていない。
ひたひた、と湿った足音。
「ターチカ。大丈夫か?」
暗闇の奥から声が近づいてくる。遠い。
「大丈夫です」
私が吐いた声は弱く、小さい。
遠く、蝋燭の小さな光が灯る。ずっと闇の底にいた私にはそれですら暴力的な光で、しば
らくはそれを直視出来なかった。
二つ目の炎。より刺激的な光だが、しかし一つ目のそれよりはすんなりと受け入れられる。
この程度の明かりでは、まだグラムベルタの輪郭を映すことさえままならない。
三つ目にして、彼女がそこにいることを明らかにした。暗闇に目の感度は高まるが、長い
時間目を使わなかったせいで、大分視力が鈍っているようだ。しばらくすれば元に戻るだ
ろうか。
次の光、彼女の姿は顕わになる。赤い光に照らされた表皮は、鱗に覆われていたし、太い
尻尾は床へ優雅に降りていた。肉を食いちぎるのに適した口吻は、それが私に言葉を吐い
ていたとは思えないほどに、凶悪に見えた。もしかしたらグラムベルタは別人で、闇に隠
れて話しているかも、と思わせる。服を纏っていて、女性めいた装飾品だけが、それに反
して彼女はグラムベルタなのだと肯定していた。
273:『震える血』
08/08/29 01:57:35 sM9VoMMf
「ターチカ。私の姿は受け入れられるか?」
リザードマン。彼女の言葉に嘘はなかった。目の前のリザードマンが、確かに喋っていた。
いつもの、強ばったしゃべり方で、私を暖めようとしていた。
「あなたが嘘つきだなんて、思ったことはありません」
「そうか」
もう一つ明かりが点く。幻影を晴らすかのように、現実が広がっていく。霞の向こうから
私を撫でていた逃避の使者は、今や現実の使者として、事実を携えてやってきた。
しかし今一度、彼女はその役割を捨て置く。蝋燭の明かりをそのままにして、彼女は私へ
と歩み寄った。艶めかしい姿。光を背から浴びて、まるで夕日から降り立った天使のよう
に、不思議な静けさを帯びている。
グラムベルタはベッドのすぐそばに佇み、私の額に掛かった髪を払うようにして撫でた。
異形の手。しかし、そこには慈しみを感じられた。
「本当に、申し訳ないと思っている。もう一度言うが、恨むなら、私を恨んでくれ。殺し
てしまったって、構わないんだ」
私には、彼女を恨むことは出来ない。今や、非現実の被膜と、私の心を引き裂く剣を手に
していても。
蝋燭の炎はふっ、と消えて、再度暗闇の中。
「あのとき言ったろう?私はリザードマンだって。そして、お前もそうだと」
分かってる、気付いていた。それを直視したくないから、私は目を反らしていた。ちょう
ど良く目隠しをしていたから、その過保護な隠蔽に甘えて、私は見て見ぬ振りをしていた。
蝋燭の炎が、一つ、二つ。
再度グラムベルタを取り囲むように明かりが灯り、そしてそれらは、私の姿を照らしてい
た。
三つ、四つ。
身体の表面には鱗が走り、柔らかだった人の面影はない。
五つ、六つ。
鱗は大小で複雑に構成されていて、関節付近の鱗は小さく、それ以外は刺々しく私を覆っ
ている。
七つ、八つ。
肉を引き裂く為に、爪は鋭利に尖っている。
九つ、十。
そこには、人間の私なんていなかった。
堰を切ったように流れ落ちる涙。
分かってはいた。だけれど、全ては優しい被膜に覆われて、私を傷付けはしなかったのだ。
涙となって逃避は流れ落ちて、事実はぎらついた刃となって、私の目へと入っていく。
こんな醜い姿にされてしまったら、ここから抜け出したって、私には居場所なんてない。
こんな恥ずかしい姿で人前になんて出られないし、どうせ人間としては扱って貰えない。
知っている。私がグラムベルタに与えられていた肉は、人間の肉だということに。人間に
とっては食べられたものじゃない、って聞いたことがあるけれど、私はそれが人だと気付
くまで、美味しい美味しいと食べていた。それが意味することは、再認識するまでもない。
声を上げて泣いた。グラムベルタはずっとそこで見守ってくれていたが、今ではもう私を
甘い闇に覆ってはくれない。
知っている。私が寒い部屋に押し込められれば身体は虚脱し、熱い部屋に入れられれば身
体は活動状態になるのは、変温動物としてのリザードマンの性質だ。今や私には、人間の
ような温かい血は流れていない。そう、だから、同士だった人間の肉だって、平気で食べ
れたんだ。
「だが、まだお前は、『完全には』リザードマンじゃないんだ」
知っている。私の歯はもう牙みたいになってしまっているけれど、まだ言葉は喋れるし口
は迫り出していない。尻尾もない。鱗だって、まだ私の全てを覆ってしまったわけではな
い。
だけれど、ターチカ=マトラスという魔法使いの冒険者は、もういない。
術か薬かは分からないけれど、私の身体は勝手にこんな化け物に作り換えられて、リザー
ドマンの雄に犯されて、挙げ句の果てに卵まで産まされた。攻撃、警戒の対象だった、モ
ンスターとしてのリザードマン。それがここに二匹、いるだけ。
274:『震える血』
08/08/29 01:58:22 sM9VoMMf
「……殺して、ください」
泣き声は嗚咽に変わって、下唇の浅いところを深く噛み、毛布をうちにして身を抱えた。
こんな変わってしまった身体なのに、忌み嫌っている姿なのに、さもそれを大事そうにし
ていた。
「それは出来ない。ターチカがそうしようとしたら、私は死んでも止める」
人の子を産んだこともないのに、私は化け物の子を孕まされて。
そんな化け物に生きている価値なんてないんだ。
「思い詰めるな。言ったろう、お前はリザードマンだと」
「うるさい!勝手にこんなにして、偉そうなことを言わないで下さい!」
リザードマンだから、リザードマンとしての考えを持てと。そう言いたいのだろう。むし
ろ中途半端に人間であることを忌み、同胞の子を産み落としたことに歓喜せよと、そう言
いたいのだろう。
「私は人間でいたかった!リザードマンになんてなりたくはなかった!」
グラムベルタは言葉を返さない。
ただ黙って、私のことを抱きしめた。
私が暴れても、それさえ愛おしむかのように。
「どうしても死にたいのなら、私を殺してから死ね。隣の部屋にいるからな」
そう言って、この部屋から出て行った。
しばらく、私はうずくまったまま。
ずっと逃避していた現実は、私を埋めて逃さない。
現実を側に携えてからも、時間は過ぎていく。
憂鬱に振舞っても、私の身体は元に戻らないし、それどころか変化を続けていた。鱗が私
を覆う面積は広がっていったし、最近では尾骨の成長が著しくて、仰向けでは寝られない。
気持ちの悪い自分の身体を見たくなくて、毛布を羽織るようにしていた。
ますます人外染みていく自分の身体に、私は鱗を剥がして自傷することが何度もあった。
その度にグラムベルタに叱責され、しまいには私が鱗を剥ぐと、グラムベルタも同じだけ
自身の鱗を剥いで見せた。
衣食住の世話は相変わらず彼女がやってくれていた。私の為にと服を新調してくれたり、
また今でも良き話し相手になってくれた。目隠しのない今、私の視界にはリザードマンと
しての彼女しか映らない。それでも気休めには、十分だった。
私の生活範囲には、グラムベルタ以外立ち入らないようにしているみたいだったが、何度
か他のリザードマンも見かけた。かなり大きな集落であるらしく、こんな寒い洞窟によく
暮らせるものだと思ったが、暖房設備がしっかりと整っているらしかった。
「ターチカ」
振り返ると、グラムベルタ。何時にも増して真剣そうで、威圧感さえ覚えた。
「お前には、本当に感謝している」
「いきなり、どうしたんですか」
分かっている。本当は耳を塞ぎたかったが、心に覚悟を決めていた。
どうせまた、私を苛む物だと、分かっている。
「お前の子供が、無事孵化した」
「……そうですか」
トカゲの子。その母親は人間?トカゲ?
「私の母も昔、人間だった」
「え?」
275:『震える血』
08/08/29 01:59:49 sM9VoMMf
グラムベルタは私の横に座り、目を細めて焚火を見つめ、喋り始めた。
「街道も通っている人の出入りの多い、小さな森であるのに、ここの集落はそこらの人間
の村くらいに発展している。その理由は分かるか?」
「その存在を人に知られてないからですか?」
私が通ったときだって、リザードマンなんて出るとは思わなかった。だからさほど警戒せ
ずに気を抜いて帰路についていたのだし、それが当たり前だった。
「それも理由の一つだな。……ここの集落を治める者は、私を初めとして、通常のリザー
ドマン以上の知能があるんだ」
「それは……あなたのお母さんが、私と同じだからですか?」
ようやく分かってきた。私がここにいる理由。こんな目に遭っている理由。そして、グラ
ムベルタが人の言葉を喋れる理由。
「そうだ。元人間だったリザードマンの子は、人としての知能を有する。それにより統治
にも、魔術にも長けた個体が生まれるんだ。それによって、こんな寒い洞窟にも暖房設備
を取り入れられるし、隠蔽魔法で入り口を隠すことだって出来る」
「私は、この集落の次の世代の長を生むために、こんな目に遭ってるんですか?私には、
そんな義理なんてないのに?」
その為に、ターチカ=マトラスは人の道からはみ出て、モンスターとして惨めに生きなけ
ればならないの?
「……私の母も、そう言って最後は絶食し、死んでいった。私を娘だとは認めてはくれな
かったし、私の妹は、母の手によって殺された」
「そんな……私に同情を求めないで下さい」
グラムベルタの、火の中に何かを見いだす表情に、心が揺すぶられるのは確かだった。
「別にそんなつもりはない。ただ、考えてみろ。ここの統治が取れなくなったとしたら、
ここの奴らはどうやって食っていくんだ?近隣の、人間の村々に、攻め込まないはずがな
いだろう」
「だから、私は彼らを助けるつもりで、諦めろと言うんですか?私はもう、産みたくもな
いのに、卵を……人間なのに卵を産まされました。人の姿に戻して、元の世界に戻しては
くれないんですか?」
グラムベルタのため息は、シュー、と細く長く、掠れて聞こえた。
「お前を人に戻してやりたいとは思っている。私だって必死に書庫を探った。だがなかっ
た。伝えられてきた人を変身させる呪法だけ、体系だった知識から独立して残っているん
だ」
「そんな、酷いです……。私は人間でいたかったのに、こんな……こんな……」
途端に悲しみが押さえられなくなって、涙が溢れる。グラムベルタは、他に方法が知らな
いみたいに、私をあやすように抱きしめた。
彼女にはもしかして、温かい血が流れているのかもしれないと、混乱の片隅に思った。
その日から、私の日課に魔法の勉強が組み込まれた。
彼女が言うに、頸部まで皮膚が鱗を覆い始める頃になると、会話に支障を来すため、それ
を補うための魔法が必要らしい。怪我や、生まれ持って喋れない人間の為に開発された、
口にせずに言葉を発する魔法の存在は確かに知っていたが、自由に繰るには難しいと聞い
ていた。
習得に苦しむ傍ら、変化は私を蝕んでいく。今や太い尻尾が私のお尻に生えている。鱗だ
って、もう首のほとんどを覆っている。幸いリザードマンは雑食だが、一度グラムベルタ
が生肉を食しているのを見て、それ以来血の臭いが頭にこびり付いて離れない。
無情に時は過ぎていく。ある日を境に、発声するにも声が上手く出なくなっていく。
「グラ……グラム、ベルタ……」
掠れ声を絞り出し、彼女の名前を呼ぶ。私を心配そうに見つめる目。
「無理して話さない方が良い。術が完成すれば、また話せるんだ」
彼女はそう言い聞かすも、一向に使えるようにはならないし、喋れなくなる一方。
いくら話そうとしても、シュー、シューと、空気が擦れる音しか出ず、時折音が出るくら
いにまでになったときには、もう顎の骨は変形して、頭部に鱗が生えると共に、髪の毛が
抜け落ち始めていた。
とっくに戻れないところまで来てしまった。人としての痕跡さえ、もう跡形もなくなって
いく。声を取り戻した時に、私は言葉を覚えているか不安になる。グラムベルタは私が喋
れなくなってから、より積極的に会話をしようと努めているのがよく分かった。
276:『震える血』
08/08/29 02:01:34 sM9VoMMf
それでも、私はこの身体を受け入れることなんて、到底出来やしなかったし、常に突きつ
けられている現実からは、逃げ切れる筈もなかった。
「もう、嫌だ」
筆談用の木炭で、木の板に文字を殴り書く。
ギチギチ、と締め付けるような音が聞こえる。それが自分の歯ぎしりの音だと気付く。
鋭い爪の手を強く握りしめると、掌に突き刺さって血が溢れる。
「ターチカ、落ち着け!」
シュー、シュー。
無慈悲に、私の叫びは解けていく。
頭を抱える。鱗質の硬い肌。もう、微塵も人間らしさなんてない。
鱗と鱗の隙間に爪を立てて、思いっきり引きはがす。その下に私の本当の顔があって、そ
れが出てきやしないかと思った。けれど、それは鋭い痛みを私にもたらす。おかしいよね、
あれだけそのリアリティを嫌ったのに、今度はそこに逃避を見いだしてる。
「ターチカ!そんなに、自分の身体を嫌わないでくれ!恨むなら、その身体ではなく、私
を―!」
もう、どれくらい経ったろう。
私はもう、自分が人間だったことを記憶でしか確かめられなくなった。
私には適正が無いことを思い知って、魔法による発声は諦めた。
生の肉を喰らうようになった。初めて口にした時は、身体の欲求と精神が相反して、何度
も戻そうとしたが吐けなかった。消化した後、何度も嘔吐いて、胃酸ばかりを嘔吐した。
グラムベルタ以外のリザードマンとも会った。私を犯したリザードマンとも、子供にも会
った。五人の子供らは、純血のリザードマンと、一見何ら変わらなかったが、確かに知性
の光をその相貌に見た。まだ発声魔法を覚えてはいなかったが、驚くほど早く言葉を覚え
て、
「こんにちは、お母様」
と書いてみせた。乳母と、他に元人間の母を持つリザードマンらが、彼らを躾けているら
しい。
私は彼らを拒めなかった。グラムベルタが自分の母を語るとき、時折涙を滲ませているの
に気付いて、同じ思いをさせたくなかったし、きっとそうしたなら、グラムベルタが悲し
むだろうと思い、やめた。
そして、もう一度子供を産んだ。
私に発情期という名の春が訪れて、身体が酷く疼くようになった。すれ違う、リザードマ
ンの雄に心を惹かれている自分が嫌になって、女性器に尖った爪を突き立てようとしたと
ころ、グラムベルタに無理やり止められ、そして裸にされた後、男と同じ部屋に投じられ
た。初めて私の相手になった男と同じで、また火が轟々と焚かれた部屋の中、卑しい自分
に逆らえなくて、交わった。
そうして生み出された自分の卵は、私の望んだ結果だ、という冷たい事実をありのままに
見せ付けた。もう、どこが人間なのだろうと、人であった過去さえ疑わしくて、目の前の
卵さえなければ、そんな疑問や恐怖から逃れられるだろう、そんな思い込みが私を突き動
かしたが、疲弊した体、グラムベルタの目線、そしてまたそれらとは別の何かが私を絆し
て、それらは割られることなく、しばらく日を経て孵った。私の目の前で。
「ターチカ。お前はもう、人間じゃないんだ。こいつらの、母親だよ」
「私がその言葉に頷いたなら、あなたは幸せですか?」
赤子の泣き声だけが、私と彼女を埋めていた。
「その言葉だけで、私は幸せだ」
暑くとも、寒くともない。ただ、私は震えていた。
277:clown
08/08/29 02:04:06 sM9VoMMf
以上、お粗末様でした。
宣伝になりますが、過去作品の修正保管を行うサイトを開きましたので、アドレスを付記しておきます。
URLリンク(n-ap.com)
278:名無しさん@ピンキー
08/08/30 23:51:37 OYsKfFAT
リザードマンGJ!
279:名無しさん@ピンキー
08/09/01 04:46:23 YGNZB61h
リザードマンGJ!
最後まさかの鬱ENDw
でも理性を取り戻して人間らしい終わりになるよりずっとイイ!
280:名無しさん@ピンキー
08/09/01 09:57:52 29qB9VVh
孕みGJ
はらむ時期が短い気がするけど
やっぱり王道エロチックはいいね
281:名無しさん@ピンキー
08/09/01 12:15:28 b6oQ/oFl
し
282:名無しさん@ピンキー
08/09/05 23:48:32 MzXtV1M0
そろそろワイバーン娘第Ⅲ章の続きウプします。遅くて何度もすみません。
283:名無しさん@ピンキー
08/09/06 00:44:02 XtQQqn5t
>>282
メール欄に「sage」って入れようぜ
284:名無しさん@ピンキー
08/09/07 01:13:20 zDMl8wXB
上げてくれるのは嬉しいんだが
出来ればメモ帳とかに下書きしていっぺんに上げてくれると助かる
285:名無しさん@ピンキー
08/09/07 11:31:23 yqDNwdo9
いったん死亡シナリオで完結させて
ifシナリオで続編かくとかね
286:名無しさん@ピンキー
08/09/08 08:48:53 A1ZWjlH3
>>285いいですね、考えて見ます。スミマセンsageました・・・orz
外伝の2作目を考えてます。非常にぶっ飛んだ内容なのと、変身シーンが出せそうかどうかが微妙
なのでまだ書くかは未定ですが、大まかなストーリーは以下の様な感じです。
物語の時間軸で夏頃、ファンタジーの世界に次元の穴(違う時代の違う場所にワープする)が開き、
主人公達が吸い込まれる。移動した先は現代の日本(メンバーに魔法使いがいるので、言語の障壁は
魔法で解消)。子供が不良集団に絡まれてるのを目撃し、主人公達はこれを撃退して、子供を救う。
子供は不登校になってる高校生で、主人公をしばらく自分の家に泊める(こっちでは偶然夏休みなので、
親には志望大学の先輩などといってごまかす)。高校生に街を案内してもらい、何もかもが違う世界
に戸惑いながらも、現代世界に満喫する。カラオケで歌う、ゲーセンで遊ぶ、ファストフード店での飲食
シーンなどがある。現代での生活に慣れ始めた頃、敵集団も主人公を追って現代の日本に来てしまう。
主人公達によって被害は最小限に留められるも、ビルを倒壊させたり、駆けつけたパトカーを蹴散らす
などの騒ぎを起こし、自衛隊が出動する事態に。主人公と異様な敵集団の話はニュースで取り上げられ、
こうなるともはや滞在できなくなる、と高校生から説明を受ける。
狙いは自分達なので、自分たちがファンタジー世界に帰れば敵達も帰り、現代人は安心して暮らせる
と決意し、別れを惜しみながらも主人公達は帰る事を決める。帰る間際に再び敵達が襲来するが、逃れ
主人公に別れを告げながら時空の穴へ、高校生は楽しかった事を告げる。後を追うようにして敵達も
時空の穴へ。夏休みが終わる頃、心開いた高校生は再び登校を決める。
287:名無しさん@ピンキー
08/09/08 10:20:58 CVA5ceen
・・・大まかなストーリーって言うか、全部だよねコレ・・・
・・・経験上だが、フルあらすじなんてものを先に表に出した人は実際には完結まで書き上げないことが多いんだよな。
気が抜けると言うか言霊が漏れると言うかそれだけでなんか書いた気になっちゃったりするのか。
つーか読む側としても、実際の作品を見せてもらう前に割と細かくネタバレされてしまってどうしろと。
288:名無しさん@ピンキー
08/09/08 20:02:12 A1ZWjlH3
良く見たらおおまかじゃ無かったですね(´;ω;`)本当に色々と申し訳ありません;
自粛します・・・orz 今度からマジで気をつけます;;
289:名無しさん@ピンキー
08/09/09 13:39:28 NxVAkvga
空回りしちゃう熱意はわかるよ~俺なんてシチュだけしかできないから文章力ないの承知で
SS一生懸命書いたらシチュはいいが文章が駄目とか何度も言われてやめちゃったぜ
290:名無しさん@ピンキー
08/09/10 18:57:41 pF58wZom
>>289
正直文章書きは慣れですからね……。気持ちはよく分かります。
私もよく下手と言われます。あとは『ラノベっぽい』とか。
あとはこのスレ目的で書き始めた筈の作品が、いつの間にかこのスレの対象外となってしまったりとか。
291:名無しさん@ピンキー
08/09/10 21:07:54 8yovKmpG
文章力の辛いところは絵と違って、ただ書けば上手くなる訳じゃないってところだろうね。
書きまくってても伸びない人は伸びない。でも伸びる人はすごく伸びる。なぜだろう?
しかし、下手と言われるのは理解できるが『ラノベっぽい』のはなぜいけないのかが分からん。
みんながみんな芥川龍之介みたいなおどろおどろしい【純文学】を求めているとは思えんのだが。
292:名無しさん@ピンキー
08/09/11 18:27:13 3pkWeW8C
むしろ文章が硬くなりがちで、『ラノベっぽく』書きたいくらいなんだけれど。
板的には読みやすい文章の方が軍配があがると思うよ。
293:名無しさん@ピンキー
08/09/13 01:26:30 4znBVHq/
文章が幼かろうが、その文章の中に熱意と変身要素が有れば私は満足じゃ
294:名無しさん@ピンキー
08/09/13 18:27:53 3tzbRmPm
でもスイーツ(笑)は勘弁な
…まあ、熱意とキャラへの愛情が有るなら、
普通あんな文章にはならないけどな。いくら下手でも
295:名無しさん@ピンキー
08/09/13 18:41:29 Z6SEH2iW
>>294
どうするんだモテカワスリムで恋愛体質の愛されガールが
男にスピリチュアルな感覚を感じていたら連れていかれて
薬打たれて「ガッシ!ボカッ!」という音と共に
変身する小説が投下されたら。
296:名無しさん@ピンキー
08/09/14 12:25:54 wbZ53HPg
ここで聞くのもアレだけど、冬風さんところ閉鎖したの?
久々に見たらページ削除されてたんだけど。
297:名無しさん@ピンキー
08/09/14 14:09:23 GL0Qm/vl
>>296
閉鎖してないぞ。どうやら移転しただけの模様
298:名無しさん@ピンキー
08/09/15 00:20:18 83F/6KJP
>>296
URLリンク(fuyukaze.sakura.ne.jp)
299:名無しさん@ピンキー
08/09/15 01:11:19 DUEB+qv8
冬風さんとこ 最近ブログしか更新しないねぇ
流石に人間あれだけの量書いたらネタ切れになると思うけどさ 未完結の作品を完結して貰いたかったり
300:296
08/09/15 10:00:31 HiGQnQvF
>>297-268
ありが㌧。移転だったのか。
301:名無しさん@ピンキー
08/09/15 17:19:26 g5K2VYtt
可愛くて優しい女の子が、人外に変身して戦うのがぃぃよね。ワイバーンの続きが早く読みたいお。
302:名無しさん@ピンキー
08/09/18 17:58:27 at1ep/tp
過疎ってるな、このスレもオワタ\(^o^)/
303:名無しさん@ピンキー
08/09/18 19:03:46 8UXr5ElH
????? ?? ??? ???????? ??? ??
???? ??????? ???????:????? ??
304:名無しさん@ピンキー
08/09/19 19:39:32 E/WlBcvX
作品が中々仕上がらない作家さんもいるわけで、オワタ発言はまだ早いかと。
ま、気長に待ちましょうよ。
と言うわけで保守。
305:名無しさん@ピンキー
08/09/20 15:14:52 tACT2CmZ
ただ待ってるだけじゃなくてネタ出ししようぜ
306:名無しさん@ピンキー
08/09/20 16:14:24 fOBMcWAa
>>305
ネタ出しはなぜか半虹のスレで活発
こっち向きのネタなんだがなぁ
307:名無しさん@ピンキー
08/09/21 01:34:09 qCQRdj4i
まだ続きが未完成な作品について今後の展開をみんなで予測し合うのはどうかな。
ただ飽くまで予測の範囲に留める事にして、「こうゆう展開にして欲しい」と作者
にお願い・強制するのは無しって事でさ。ほんの一例だけど、例えばワイバーン
がどんな風にして死ぬのかとかさ。
308:名無しさん@ピンキー
08/09/21 02:53:39 LiNzOhTy
いや、それでガツンと大当たりだったら出しづらくなるだろ
309:名無しさん@ピンキー
08/09/23 08:53:09 f477662I
産卵萌え保守
310:名無しさん@ピンキー
08/09/26 11:20:36 NsixNOcR
女王蜂ってエロいよな
元々はただの働き蜂だけど、特別な食べ物を食べると女王蜂になるんだって
311:名無しさん@ピンキー
08/09/29 15:10:48 bBZuH68A
何かを食べることで変化するっていうシチュエーションは萌えますね
312:名無しさん@ピンキー
08/09/29 23:40:57 YRdGtBlf
ピンクのアイツですね、わかりますwww
313:名無しさん@ピンキー
08/09/30 00:11:46 SD0u5CIv
レイ・ブラッドベリの短編だったと思うけど、養蜂家が生まれてきた娘にローヤルゼリーを与え続けるというのがあった。
栄養豊富なローヤルゼリーで太って行く娘を、まるでハチの子のようだと感じ、
娘にかいがいしくローヤルゼリーを与える黄色っぽい茶色のひげの夫が、まるで働き蜂のようだと奥さんは感じるようになっていた。
最後のページの夫の言葉が、「おお、かわいそうに。われらのちっちゃな女王様が風邪を引いてしまうよ」だった。
いろいろと妄想したものだ。
314:名無しさん@ピンキー
08/09/30 08:24:54 o17kIM+g
>>313
それは確かに妄想の余地はありますねwww
蜂変身の話と言うと、どうしても風祭文庫が浮かんでしまう件。
315:名無しさん@ピンキー
08/09/30 09:55:51 SD0u5CIv
あそこにはずいぶんお世話になっていますよ。
316:名無しさん@ピンキー
08/09/30 12:09:34 wa/WXRiE
マサイ変身とか斬新だったw
317:名無しさん@ピンキー
08/10/01 00:48:34 uAHDBbwK
マサイ族に変身するの?
318:名無しさん@ピンキー
08/10/01 14:52:55 QBSls7lq
あそこは最近獣変身と蟲変身が更新されなくて寂しいですよ
319:名無しさん@ピンキー
08/10/01 22:20:57 k++1bLHk
>>317
するよ。でも男体化がセットなのが個人的には・・・
あと挿絵がちょっと苦手だ
ナメクジ妻の挿絵はちょっと気持ち悪くなった
320:名無しさん@ピンキー
08/10/01 23:09:19 ShvuIrr7
おっとこれ以上は
321:名無しさん@ピンキー
08/10/02 01:06:29 uclqroTV
ここは某天気予報のOPのあれについて語るんだ
322:名無しさん@ピンキー
08/10/02 12:38:18 qWDGiF7E
二十世紀少年の敵か?
323:名無しさん@ピンキー
08/10/02 15:48:50 KzaTtlHO
>>321
別のと勘違いしてたらスマンが、あれは関東や関西じゃやってないらしい。
324:牧島みにむ改め初ヶ瀬マキナ
08/10/03 00:13:27 jY7I4Sip
いきなりすいません。
流れをぶったぎらせて一作置かせていただきます。
短いですが、どうぞご容赦を。
325:『無題』
08/10/03 00:15:19 jY7I4Sip
「う……く……っ」
背中が……痛む。脚に……力が入らない……。
「く……あぁ……っ」
城塞都市近くの森を根城とする人型の魔物、魔蜂。その駆除を申し付けられたのが数日前の事。兵数名を具して討伐に向かったのが数時間前。
「うぅぅ……ぅぁっ」
兵士数名の負傷というアクシデントがあったものの、何とか顔が全て瓜二つの兵隊蜂を薙ぎ倒しながら女王蜂の元へ辿り着き、
空気が黄金色に染まるほど過剰なフェロモンを撒き散らされる劣悪な環境の中で気が遠くなりそうになりながらも、何とか女王蜂を仕留めたのが数分前。
だが―!
「あぁ……がぁっ!」
女王の体を、私の剣が貫いた瞬間、女王の針もまた、私の背中を貫いていたのだ。激痛が体力と命を根こそぎ奪い切る前に、残りの兵士を先に城へと帰るように命令した。
あと、私は女王蜂と痛み分けだ、私の死体は回収するな、とも。
兵士が私以外の負傷者を抱えて退却するのを見届けながら、私も安全な場所へと移動しようとした。
しかし、針を刺された背中からは止めどなく血が流れ、熱と共に体力までもを奪い取っていく。女王に何か毒でも注入されたのだろう……血が止まる気配もなく、傷口が塞がる気配もない。
そしてついに……私の足は地面に囚われてしまった……。
「ぐぅぅ……っ」
兵士にああ伝えたのは、私を探すことにより、森の他の魔物たちに兵達が無駄な犠牲を強いられることがないようにするための、私なりの心遣いだった。
だが……いざ地面に倒れ、体温が薄れていく私の中を巡ったのは―孤独なる死への恐怖だった。
「……く……あぅぁ……っ」
あれだけ散々覚悟して、女神像に幾度となく誓いを立て、いつ死んでも悔いはないと自分に言い聞かせ―そのくせにこれだ。
私は心の片隅で、自分に対して呆れ返っていた。所詮、部下にあぁ告げたのも自らを悲劇のヒロインのように考えて酔っていただけに過ぎない。
その事を今、襲い来る大量の恐怖によって思い知らされた。
「ぅぅ……ぅぁぅ……っ」
目尻から放たれた涙が、頬を伝い地面へと染み込んでいく。同時に、涙を放つ眼の瞳から光が薄れ、地面を掴もうと伸ばした腕が、手が、力を地面へと明け渡している……。
「ぅぁ……」
やがて、舌や喉からも力が薄れていき……意識すら、闇へと堕ちていった……。
326:『無題』
08/10/03 00:17:14 jY7I4Sip
―――――――
(………ん?)
次に意識を取り戻したとき、私は自分の体が、不可解な状況に置かれていることを朧気ながら感じていた。
どうやら私は、膝を抱えたまま丸くなって眠っているらしい。
体のあちこちに何かの管が繋がって、そこから私の肌に暖かい液体がゆっくりと流し込まれているようだ。
踞った体の回りは、柔らかくて弾力性のある物質で取り囲まれ、管はそこから発生しているらしく、私が身じろぎする度に連動してうねうねと蠢いていた。
(………)
意識が覚醒と睡眠の狭間で固定され、ぼんやりとしか物事を考えられないようになっている。
一体ここは何処なのか、どうして私は踞っているのか、繋がれているのか―抱いてもいい筈の疑問すら容易には浮かばなかった。
暫しの時の経過を経て、最初に浮かんだ疑問。それは……。
(……あれ?わたしって……)
……自分が何であるか、と言うことだった。自分という存在、名前、アイデンティティ、鏡で見ていたであろうその姿すら、全く思い出せなかったのだ。
すっぽり記憶から抜け落ちてしまったかのように……。
(……んと……えぇと……)
霞の中にある像を、必死で探ろうとするわたし。
平泳ぎをするように意識の中で霞を掻き分けて、霧の向こうに幽かに光るもの―私の存在をこの目に見ようとしていた。
と―。
(はれ……?)
背中から、わたしのすぐ後ろから風が吹いた。音が耳に届くほどに強烈な風は、光とわたしの間に横たわる大量の霞を一気に吹き飛ばすほどに強烈なものだった。
―視界の端に、葉脈のような模様が走った、昆虫の羽根らしきものを捉えるほどに。そう言えば、背中が少し引っ張られているような。
ひょっとして……と、意識の中で背中に手を伸ばす。果たして、件の羽根はわたしの背中から生えているようだ。
どうしてだろう……と片隅で思いつつ視界を前に開くと―。
私は、その理由はおろか、自分の存在まで、はっきりと理解した。
蜜で織られたヴェールの向こう、女王様の謁見の間で、一匹の魔蜂が女王様に頭を垂れていた。女王様は頭を垂れている蜂をそのまま抱き寄せて、自らの胸にその顔を当て、乳首を唇に差し込んだ。
327:『無題』
08/10/03 00:20:42 jY7I4Sip
まるで別の生き物のように蠕動する女王様の胸からは、仄かに苦く、そして甘い蜜がゆっくりと溢れ出していく。
蜂はその一滴すら逃さないように、顔を一生懸命女王の胸に押し付け、口を動かして粘度の高い液体を飲み干していく。
ちゅぶちゅばと、舌で女王様の乳を舐めているらしく、女王様は頬を微かに熱らせ、ピクピクと震えていた。
女王様は夢中で蜜を飲む蜂の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと羽を震わせた。その風に乗せて、刷り込むように蜂に向けて言葉を放つ。
『貴女は、次の女王になるの。私がもし亡くなったら、その時は―よろしくね』
―気付けば、わたしの手や腕は、蜜を飲んでいた魔蜂と同じように固い甲殻のようなもので覆われ、胸は張り出して谷間が作られるほどになっていた。
胸元から黄金色の香りが沸き立ち、私の体を包み込むように辺りを満たしていく。
下半身や背中は見えない。背中の羽根は先程目で見たし、尾てい骨から先に神経が通っているのを感じる事から蜂の腹部も有るのだろう。
とくん、とくん、とくん……。
わたしの心臓の鼓動とは違う、もっと暖かくて、聞くだけで心が安らかになる、そんな音が、私のお腹の中から響いてくる……。
その音を耳にしているだけで、わたしは心からの喜びを感じる。だって……子供の存在を喜ばない母親が何処にいるのか。
(この子達を無事に生むために、まずは栄養を摂らなきゃ……それも新鮮な栄養を……)
両手でお腹を擦りながら、わたしははっきりと、これからの行動について考えていた。
328:『無題』
08/10/03 00:24:22 jY7I4Sip
―――――――
「……ん……」
わたしがぼんやりと目を開くと、そこは真っ暗闇だった。ただ、わたしの背中からは、月明かりのようにぼんやりとした光が降り注いでいたけど。
「……ん……く……」
窮屈な場所に、私は押し込められているようだった。スポンジのように柔らかい何かが、まるでわたしを庇うように包み込んでいるようだった。
(……食べなさい)
「………ん?」
ふと、頭の中で声が響いた。わたしが……聞いたことある声。それが何なんだろうと考えながら前を向くと―!
「……わぁ……♪」
わたしを包むその物体が、何故だろう、非常に美味しそうに見えた。
微かな光に照らされた場所は仄かに紅く光り、黄色くぶよぶよしたものが張り付いている場所は、ミートソーススパゲティにトッピングされたパルメザンチーズのように食欲をそそる彩りを持たせていた。
お腹の中にいる子供達が、早く、早くと叫んでいる。わたしも……知らず我慢の限界を迎えていた。
顔を突き出し、それに食らいつくわたし。ぶちん、と鈍い音がして切り取られたそれを、咀嚼して舌に乗せる。
「!!!!!!」
味蕾に雷が落ちたような衝撃が走った。
最高級の霜降肉か、あるいはそれ以上の良質な肉を、最大限旨味を引き立たせる調理法をして食したとしても、ここまで美味なものは無かっただろう。
ほんのりと沸き立つ獣臭さ、噛めば溢れる肉汁、生特有の弾力―全てが美味に感じた。
早く―はやく―ハヤクタベタイ。
本能が身体を動かした。
「んむぉんっ!」
ぶしゅっ、と両方の脇の下か腰の上辺りで音がした。
まるで閉じ込められていたものが勢いよく溢れだしたような感覚に、わたしは思わず口内の肉を気管支に詰まらせそうになった。
軽く咳き込んだ後、ありったけの解放感が巡る。皮膚を突き破って現れたものに、神経が少しずつ走っていく。
徐々に、纏っている粘液の感触が肌に伝わってくる……。やがて完全に繋がると、それはわたしの思い通りに動く―両腕両手になった。ただし、両手は完全に甲殻そのもので、敵に対して使う武器用のそれだったけど。
「んむむっ……」
私はそれを伸ばして―背中を包む肉を斬りつけた。
ぶしゅうんっ……
「―――!!!!」
それはまるで誕生を祝福するかのような光だった。