08/04/01 07:58:03 ao1VK9j2
陽子は食事もそこそこに席を立ち、自室へと急ぎ戻った。
接待も仕事のひとつだと解っている。相手がよく知る尚隆ならば、
接待だと思うことは少なく、嫌だと思うこともない。
しかし、今日は違った。
できるだけ早く、あの場から逃げ出したかった。
嫌だと思ったのではない。居たたまれなかったのだ。
―あの目がいけない。
陽子は榻にへたり込むように座ると、大きく息を吐いた。
夕餉の間、陽子を見る尚隆の目。それは、いつもと同じようであり、
何か意図をもって見ているようでもあり、陽子を混乱させた。
陽子は前髪をくしゃりと掻き上げ、ぽつりと呟いた。
「延王が、あんなことを仰るからだ」
「あんなこととは、どんなことだ?」
当の本人に問われ、陽子は振り向いた。
尚隆が、榻乗せに手をつき、軽く息を吐く。
「食事も早々に出ていくから、逃げられたのかと思うたが……
待ち切れなんだか」
「違います!」
もう、勝手に言っていればいい。陽子がむくれて姿勢を元に戻すと、
尚隆が覆い被さってきた。鼻先が触れるほどのところで、陽子は
ようやく口を開いた。
「……人払いを」
「とうにしてある」
「なら、臥牀の上がいい」
陽子の言葉に、尚隆がくつと笑った。
「陽子から閨に誘ってくれるとは……珍しいな」
だが、悪くない。尚隆は起き上がり陽子を抱き上げると、額にひとつ
口づけを落とした。