【DS】世界樹の迷宮でエロパロ B6Fat EROPARO
【DS】世界樹の迷宮でエロパロ B6F - 暇つぶし2ch400:名無しさん@ピンキー
08/04/21 01:45:54 jNcYZRSH
ありがと。それでは投下。

1.
 視線だけを、いつも感じていた。樹海で鞭を振るうとき。その日の成果を、酒場で分かち合うとき。男からの視線は、ただ自分に
注がれていた。
 それが他の男達のように、劣情に満ちたものだったなら、ダークハンターの神経をこれほど騒がせることはなかっただろう。
 そもそもダークハンター達が扇情的な服装を好むのは、獲物を誘い込む巣を張る蜘蛛が、毒々しい体色をしていることと無関係では
なかった。
 職種としての義務と彼女個人の趣向、分かちがたくなった二つは、一人の女の中で混然と溶け合っており、自分の服装が一部の
人間にとって奇異に映ることなど、何ほどかのこともなかった。
 その男の視線に出会うまでは。

 だから、樹海の中、PTを組んでしばらく経ち、初めて男のほうから声をかけてきたとき、ダークハンターの胸に湧いたのは戸惑いを
含んだ苛立ちだった。「いまさらなんなのよ」そういう気分だったのかも知れない。
 自然、横着な対応になった。
「なに? 何の用? 私からアンタに話すことなんてないよ」
 男は、ゆっくりと首を振った。金色の髪が一緒に揺れる。ダークハンターは一瞬それに見とれかけ、自分の心を大慌てで張り飛ばした。
 気分を害した様子もなく、男―金髪のアルケミスト―は無頓着に言葉を続けた。
「自分を偽って生きるのは、辛くはないか」
 唖然とした。無礼であるとか、そういう問題ですらなかった。
「あんた、どうしようもない馬鹿なの? それとも礼儀って言葉を知らずに育ってしまった、可哀想な子供なの?」
 アルケミストは構わず続けた。言いたいことだけを言う、そんな様子だった。
「お前は強い。だがその強さは」
 そっと、男の手が彼女の特徴的な髪に触れる。思いのほか優しい手つきだった。
 振り払うことは思いつかなかった。男の瞳は、獲物を射すくめる蜘蛛の複眼に似ていた。
「柔らかな肉を覆う、鎧の強さだ」
 そこまでを告げると、男は不意に踵を返し、場を去った。
「なんなのよ」
 残されたダークハンターはわなわなと震えた。
「なんなのよ、アイツ」
 止まらない震えが屈辱から来ているのか、それとも別の何かなのか、彼女には最後までわからなかった。


401:名無しさん@ピンキー
08/04/21 01:46:53 jNcYZRSH
2.
 どうということもない相手のはずだった。依頼されたクエストをこなす為、下層に降りたPTは、さして苦戦することもなく
巨獣を屠った。
「見た目の割りに、あっけないわね」
 勝ち誇りながら、ダークハンターが巨獣に近づいたそのとき、獣の生存本能が最後の足掻きをみせた。
「……え」
 振り切られた爪が、軽鎧ごと彼女の左脇腹をえぐる。
 獣の爪牙がもう一度自分に向け振るわれる寸前に、巨大な熱量が傍らを通り過ぎていくのを彼女は感じた。
 断末魔も叶わぬまま、今度こそ巨獣の命は尽きていた。

「俺が彼女を診よう。その間に目的を達してくれ。なるべくはやくな」
 普段と変わらない落ち着いた声でアルケミストが云うと、仲間たちは散り散りになった。
 今回のクエストは、巨獣の隠し持った宝玉の探索がその主眼目なのだ。アリアドネの糸は一本しかなく、不本意ながらもまだ街に
戻るわけにはいかなかった。
 負傷で動けない彼女のそばにアルケミストだけが残ったのは、先ほどの術式で組める術式が打ち止めになったからだった。
 すくなくとも、ダークハンターを除いたPTは、そう解釈した。
 
「ねえ、なんか喋んなさいよ」
 鎧を外され、傷口にメディカを刷り込まれながら、ダークハンターは呟いた。
 沈黙の気まずさよりも、苦痛を紛らわす意味が強かった。
 アルケミストの手が一度止まった。
「お前は、美しい女だ」
「ぷっ! ビックリするぐらい陳腐ね」
 いつのまにか、左脇腹にあったはずの手は、彼女の臍の上に来ていた。つつ、と、男の指が無傷の肌を這った。
 ぞっとするほど、心地よかった。ダークハンターは、心底恐怖した。
「え、ちょっと……」
 臍から傷口は、そう間隔が開いていない。横たわった彼女の腹部がせわしく上下する。すでに傷の痛みのせいだけでないことは、
彼女自身が一番良く知っていた。
「や、やめて。こんなの卑怯よ」
 男の指が、動きを止め、もとの脇腹に戻っていく。ダークハンターは安堵の息を漏らした。
 傷口に、男の指が突き刺さった。
「!! った……い!」
「鎧わぬお前は、誰よりも美しい」
 強い感情の篭った声が、女の耳朶を打った。アルケミストのような男が、このような仕打ちをすることも、それが自分に向けられている
ことも、ダークハンターの理解を遠く超えていた。
「痛いか。だが、鎧があっては味わえない痛みだ、それは」
 身勝手そのものの言い草に、しかしダークハンターは反論できなかった。今の男の言葉は、どこかで自分の本質に触れていた。
 左手を脇腹に潜り込ませたまま、男の右手が下腹部に伸びた。
「やめて、ねえ……」
「お前は、獲物を待つ蜘蛛ではない」
 右手が下着の上から、秘裂をそっとなぞる。自分が悦びの印しを溢れさせていることに、彼女はそこで初めて気がついた。
「蜘蛛の牙を待ちわびる、蝶なのだ」
 秘所に指が潜り込むのと同時に、脇腹からの激痛が押し寄せてきた。
 相反する感覚は、熱量をもって彼女の体内を撹拌し、巣にかかった蝶を高みへと導いていった。

402:名無しさん@ピンキー
08/04/21 01:47:58 jNcYZRSH
3.
 夜半。公国の殆どは既に眠りについていた。先ほどまで喧騒の中にあった酒場も閉まり、騒ぎ疲れた冒険者どもは、思い思いの
ねぐらに帰っていく。先日、からくも死地を脱した彼女も、その中の一人だった。ただし、疲れた足が向かうのは、
自身の宿ではなかった。
 郊外に建てられた一軒家の前に、ダークハンターはたどり着いた。
 建物全体から、住人の心を映し出したように、陰にこもった圧力が発散されており、用がある者ですら近づくのを厭うに違いなかった。
「私、どうして」
 あの時、眼もくらむ瞬間の後、彼は自分にそれ以上のことを決してなさなかった。
 もちろん、仲間が戻ってくるという事情もあった。しかし、彼女の知る「男性」という存在は、理性より本能を重んじて恥じない
生きもの達だった。
 左の脇腹がうずいた。自分は彼に、何を求めに来たのだろう。
「くそ、あんなヤツ……!」
 ブーツをことさら高く響かせながら、石造りの扉の前まで歩く。
 呼び鈴を鳴らそうとして、扉の取っ手に施された細工に視線が吸い寄せられた。
 それは、銀製の絡み合う蜘蛛だった。奇怪ではある。おおよそ、取っ手とするにふさわしいモチーフとは思えなかった。
(蜘蛛の牙を待ちわびる、蝶なのだ)
 乱暴に呼び鈴を鳴らした。そうだ、自分がここに来たのは、二度とこんな趣味の悪い取っ手を見ることがないようにするためだ。
 何の前触れもなく扉は開いた。
「来たか」
 さも当然、といった調子でアルケミストは言った。
「アンタねぇ!」
 怒りに任せて相手を押し切ろうとしたダークハンターの唇を、柔らかい何かが塞いだ。
 男の唇だった。
「!?」
 狂おしいまでのくちづけだった。一人の人間が抱える苦悩も、祈りも、哀しみも、何もかもがそこにあった。
 跳ね除けることは出来なかった。アルケミストはダークハンターであり、ダークハンターはアルケミストだった。
 唾液と共に流し込まれるその全てを、ダークハンターは嚥下した。
 男が、女の手を引き、部屋へと誘う。そこは蜘蛛の巣の中で、飢えた蜘蛛が一匹で暮らしている。
 それを知りながら、ダークハンターは盲目の蝶のようにゆらゆらと、部屋に足を踏み入れていった。

403:名無しさん@ピンキー
08/04/21 01:49:39 jNcYZRSH
4.
 頭の両側で髪をしっかりと握られ、ダークハンターは頭を動かせなくなった。その眼前に、アルケミストは自らの怒張を突きつけると、
「はじめろ」
 と短く言い切った。
「は……い」
 男のソレは、どこか歪だった。遠い国に伝わる、男児に施される儀式の結果だったが、もちろん女にそんな知識はなかった。
 ただ、その歪さに哀しみをみただけだった。
 男の行為は乱暴ではあったが、決して粗暴ではなかった。
 ダークハンターの喉奥に精を流し込むときも、飲みきれず床に零れた液体を、髪で頭を引きずったまま
「舐めとれ」
 と命じたときも、その印象は崩れなかった。むしろ、苦しそうなのは男のほうだったかもしれない。

 ダークハンターの全身は、自身の鞭で拘束されていた。数多の敵の血を吸った得物は、今度は主人に牙を向けていた。
 アルケミストは、そうして彼女を拘束した後、部屋を出て行った。
(どこにいったんだろう)
 霞のかかった頭で、ぼんやりと彼女は考えた。
(でも、もう)
 どうでも良いことだった。
 開きかけた脇腹の傷が痛む。痛みは昂りの中で快楽にすりかわっていった。
 傷を負ったあのときから。いや。
 初めて視線を感じたあのときから。自分は彼女が蝶であることに「気が付いてくれた」あの蜘蛛に囚われていた。
 深い悦びをもって、彼女はそれを肯定した。

 男は、何時間かして、部屋に戻ってきた。
 ダークハンターの自分では自由にならない両足を開かせると、前戯もなく正面から彼女を刺し貫いた。
 甘い苦痛の中、女は声をあげた。
「ギルドを、辞めてきた」
 深く強く自身を打ち込みながら、アルケミストは唐突に言った。
「お前は、どうする」
 蝶は蜘蛛が居なくなっても生きていける。だが、獲物を失くした蜘蛛はどうなる?
「あなたと一緒に行くわ。ずっと、ずっとね」
 アルケミストは、小さく息をついた。被害者は加害者を告発し、加害者は被害者となった。二人は二度と離れられなくなった。
 男は、女の奥深く精を撃ち放つ。それは契約に似ていた。
 蝶と蜘蛛は、薄暗い部屋の中で、じっと抱き合ったまま笑顔を交わした。             
                                                        おしまい

404:名無しさん@ピンキー
08/04/21 17:08:10 Wzk7N5UH
2の不安げなところから堕ちるまでのところが特にええな。
難を挙げるなら短編ではなく長編で、理性と葛藤しながらじわじわ落ちる話で見たいところだ。

405:400
08/04/22 00:49:08 FeqIj1Iv
わざわざ事前に助言してもらったのに、通し番号入れるの忘れた俺はバラを挿した花瓶。
タイトルは『蜘蛛』で。
>>404
感想ありがとうございます。自分で今読み返しても、もうすこし調教要素をじっくり
書き込んでもよかったかな、とも思えます。精進あるのみ。

406:名無しさん@ピンキー
08/04/22 09:58:21 F43UMyRI
>俺はバラを挿した花瓶。

     リ,;;;;;;:: ;;;;;:: ;;;;; ::;;;;;; \       人 从
     (彡ノり/リノ" ミ;;;;;;,,,.. ゝ     ) あ (
     );;; ヾ、;;;;...__,,  );;;;;;;; ヾ    ) お (
     i:::) ` ;;ー--、` 〈;;;;;;;::;;; i   ) お (
    i i::/   ^:::::::.. i  ,ll/ニi ;; l   ) / (
    i l ヾヽ''    ゚   ))ノ;; /  ) っ (
  i |  | iにニ`i,     (_/i;;; |  ) !! (
  | |  ! `ー‐'"    /  ゞ:l  つ (⌒
  i l|  ! " ̄  ,,,. /,;    ミi      |l
  | |i  ヾ二--;‐' ,;; ,;   ミ ||i il   i|
  | ll  _|彡"  ,' ; /' ̄^ ̄''''\  ||
  l ,..-'"  〈    ; /        ヽ
 /  、, \)  ,,.-/           `i
     `  ミー,;;' ,l             l
    /   ;; /  .|             |
   ヾ/    ,i'  ト             |
   'i     '  /゙`       イ    !
   ,;;|o;   i|  /         ヲ    /
  ,;;人,,_   ハ /    ,     /     リ
 ‐''"⌒ヾ:;' /'゙ i    /    /ミ    ミ!
      \ ,/   '';;    / ゞ    i
        ヽ   ,    ,ノ _,,;:'     ,i
    /  Y  \ '   ,;;/ _,.;:'     l
  ;;'    l   :. \   /        /
   i   :: i   ''::. \ /        ,;;イ
   ;;   .  l   `'::. ヾ,        ';/ |
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  / _ノ  .|__  _/  /.| ノ \ ノ L_い o o
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407:名無しさん@ピンキー
08/04/22 18:08:41 mpea8t4q
尻がカビンになったこんな俺が、連投してもいいものでしょうか。

408:名無しさん@ピンキー
08/04/22 19:02:41 d5lFT+Tg
構わんよ。

409:帰郷 1/4
08/04/22 19:19:23 ASHEnk8I
それでは、お言葉に甘えて。
「迷宮2」20Fのクエスト「豪傑の過去」のネタばれがありますので、ご注意ください。

1.

 店、開けるのはまだいいのかい? ……そう?
 まあ、あんたのまずい酒、金払って飲みに来るなんて客、それこそ酔っ払いでもなきゃいないわよね。
 あはは、そんなにムキになんないの!
 あんたみたいに、いろんなこと考えられる奴は、立派だと思うよ。あたしは、だめだ。
 冒険者なんて、いつまでも続けられる商売でもないしさ。どっかで野垂れ死にするのがお似合いだよ。
 ……なんで、そこであんたが怒るのよ。よくわかんないなあ。
 あたしさ、小さいころから、見たこともない、本当に誰も行ったこともないような場所、そういうところを、自分の足で
見つけてみたくてさ。
 絶対自分は冒険者になって、そういう場所を探し出してやろうと思ってた。思ってたっていうか、そうなるもんだって確信してた。
 家族の反対? そりゃあんた、ものすごかったに決まってるじゃない!
 15,6の娘がだよ、手が血まみれになるまで剣の稽古したり、レンジャーの後ろくっついて洞窟入ったりしてるんだ。
 あたしが親なら許さないね。もちろん、あたしの親も許さなかった。
 家を出て、いろいろ苦労はしたさ。でも、何ていうのかな、そうやってあてどもなく旅をしているあたしが、本当のあたしなんだって、
そう感じてた。あたしの体は家の中で生まれたけど。魂はきっと、どこか遠く、風の吹く場所で……
 っとと、いい年した女がしらふで話すことでもないね、こりゃ。
 ねえ、お酒ないの? あはは、またそんな顔して。さっきのは冗談! あんたの酒は絶品だよ。自信持ちな。

 くー、うまい! 只酒ならさらに美味い! あ? けちくさいこと言わないの! そんなんだからモテないんだよ。
 ほらほら、ムッツリしちゃって。いい男がやるんなら様になっても、あんたじゃ叱られたガキ大将にしか見えないよ!
 そーそー、そうやって黙っておねーさんにお酒注いでればいいの。あたしだっていい男が居ないのを我慢してんだから。
 ん、どうしたの?
 ……へ? やだ、何企んでんのよ。あたしみたいな百戦錬磨はね、見え透いたお世辞には……
 んぅ? ん……? ぷは……。
 ちょ、ちょっとどうしたの。冗談にしちゃ度が過ぎてない?
 本気って……え? あんた、本気で言ってるの?
 ……。
 いやじゃ、ないよ。厭じゃないけどさ。
 あたしは、ほら、店に来る他の娘らみたいに若くないし、筋肉だってついてるし、顔も威張れるようなモンはついてないし。
 !!
 や、やだな。あたしは馬鹿だからさ。本気に、しちまうよ?
 ……うん、わかった。ありがと、ね。

 店、開くまで時間あるんだろ?
 部屋まであんたが連れてってよ。
 あたしだって、女だしさ。それくらいはいいだろう?

410:帰郷 2/4
08/04/22 19:20:47 ASHEnk8I
2.

 ん、あ、ぷはぁ。
 ち、違うよ、そんなんじゃないって。久しぶりだからさ、その。
 ああもう、こんなときまでデリカシーのない男だね!
 大体、そういうあんたはどうなのさ。ほれほれ、恥ずかしがらんと、おねーさんにみせてみんしゃい。
 ……ありゃ、まあ。童貞坊主だってこんなにはしないわな。
 うわ、あつぅ。なんだか、触ってるだけで、ん……。
 ん、いいよ。あたしにも、触れて。
 ん、んぅ。……はぁ。
 しかし、男ってのは馬鹿だねぇ。こんなの、自分で擦るのと大して変わんないだろうに。
 女だってそうだろう、って? はは、そいつはそうだね。お互い様か。
 あ、どんどん大きくなってくる。……へへへ、気持ちいいんだ、あたしみたいなのの手でも。
 剣ばっかり握ってたからさ、ごつごつしてるだろ。
 ……優しいね、あんたは。
 うん、いいよ。あたしも、う、そろそろ……。
 うぁ! ……はぁ。
 うわちゃあ、きったねえなあ。あんた、ご無沙汰だったんでしょ。色も粘りも濃くて……。
 すごい、匂い……。
 あの、さ。時間、まだあるのかい。
 うん、そんだけありゃ十分だろ。
 最後までしようよ。それに。
 どうせあんた、早いんだろ? あはは、怒んない怒んない!
 あたしなんかを好きになってくれて、ありがとう。

 え、あたしが上になるのかい? い、いいけどさ。変な好みなんだね。
 ふうん、そういうものかい? ま、あんたがいいなら、それでいいよ。
 よっと……。なかなか、難し……。
 あ、うぅ!? そんな、いきなり、あんた卑怯……
 あ、あ、あ! はぁ、ひどい、よ。
 え? 横に滑らせるように動かすの?
 こう、かねぇ? あ。うん、なんとなくわかってきた。
 あぁ、は、あ。なんだか、不思議な感じだよ。あんたとこうしてるなんて、さ。
 ……ねえ、あたしがいつも言ってる話、覚えてるかい。お空の城の話。
 あんた達は笑うけどさ。あたし、ついに見つけたんだよ。
 世界樹にはね、やっぱり入り口があったんだ。
 くぅ、んん! はぁ、はぁ。
 ふふ、信じてない顔だね?
 それじゃあさ、賭けをしようか。
 あたしの言っている事が本当で、世界樹の中からあたしが証拠を持ち帰ったら、あんたはあたしに金貨一枚を支払う。
 あんたの言う通り、そんなものがなかったら……。
 ひゃあう! うあ、ああ!
 ……え、今、なんて? え、ええと。
 ……寝物語にプロポーズなんて、ホントに最低だよ、あんた。馬鹿だねえ。
 でも、ま。それも悪くないのかもね。うん、賭けは成立だ。
 は、ああ!
 うん、もうすこしで……あ、なんか、頭、白く。
 あぁ!!


 ああ、今日出発するよ。いや、一人で行く。誰も知らない場所があるなら、最初に見つけるのはあたしでないといけないんだ。
 ふふふ、今のうちに言ってろ言ってろ。金貨一枚、何に使おうかなっと♪
 ……。
 待っていてくれる人が居るのも、案外悪くないもんだ。
 行ってきます!!


411:帰郷 3/4
08/04/22 19:22:04 ASHEnk8I
3.

 金とも銀ともつかない輝きに満ちた回廊を、5人の男女が歩いていた。
 名実ともに公国最強を謳われるギルドに所属する彼らをもってしても、天に浮かぶ城の探索は容易には進まなかった。
 強さと数を増した魔物、なんの動力で動いているのかもわからない数々のからくり。そして、時折り心に響く、奇妙な声。
 冒険者たちはいつになく慎重だった。数多の試練を乗り越えた彼らをして怖気づかせる何かを、天空の城は内包していた。

 ふと、先頭を行くパラディンが足を止めた。次点を歩いていたダークハンターが、衝突しかけて危うく身をかわす。
「なんだてめぇ、すっとろいのは頭だけにしやがれ!」
 パラディンは、それでも黙ったままだった。
「殺気はないと思うたが?」
 自らの技量に絶対の自信を持つものだけに許される不遜さを含んだ言葉を吐き出しながら、女ブシドーが即座に前衛に就き、
臨戦態勢をとる。
「て、敵なんですか!?」
 まだよく状況を理解できていない様子のメディックが、少女には似合わないごつい武器を構え、
「リーダー。黙っていてはわからん」
 アルケミストが、術式を展開させるため、空中に化学式を紡ごうとする。
「ごめん、みんな。そうじゃない。人が、いるんだ」
 全員が怪訝な表情になった。天空の城に辿り着いた冒険者は、自分たちが最初なのではなかったか?
 パラディンが、前方を指差す。その指の先に、それは確かに居た。
 正確には、「居た」のではなく「あった」というべきだろうか。
 かつては人間であった白骨が、大きな柱に背中をあずけるようにして、無雑作に転がっていた。

 周囲に罠がないことを念入りに確認したうえで、5人は白骨に近づいていった。
 生々しい戦いの痕跡の残った武具を身にまとっている以上、白骨は同業者のものに違いなかった。
「ここまで、たったひとりで来た人がいたんですね」
 メディックの声には、死者への畏敬が滲んでいた。
「ったくよお、大公宮もいい加減なもんだな。先客がいたならいたで、教えとけってんだ」
 功名心にはことかかないダークハンターがぼやいたが、メディックと同じ想いも声には含まれていた。
「? 見よ、この御仁、なんぞ握っておる」
 死者への敬意をあくまで保ったまま、ブシドーはそっと、骨だけになった手から、筒状の物を抜き取る。
 それは古びた羊皮紙だった。特別な物ではない。公国ならばどこででも手に入る類の紙だ。
 弱弱しく封のなされたその羊皮紙の、宛名だけが特別だった。彼らも良く知る人物の名前だったのだ。
「リーダー、これは酒場の主人の依頼にあった……」
「うん。間違いないようだね。……この人は、本当に空飛ぶ城を見つけたんだ」
 自分たちよりも先に、とは誰も言わなかった。そのような瑣末な感情を越えた激越な何かが、5人の魂を揺さぶっていた。
 メディックが鞄から一枚の金貨を取り出し、白骨の傍にかがみこむ。
 今まで羊皮紙を握り締めていたその手、空いたその隙間に金貨を挿しいれた。
 誰もが言葉を失くしたようになった。
「人死して再度生ぜず。水流れてまた還らず。身は朽ちるとも心を雲上に揚げるをこそ人ともいうなれ」
 ブシドーだけが、静かにそう呟いた。意味を問う者は居なかった。

 正式な埋葬はしないことに決めた。天を目指した冒険者が、その目的地で倒れたなら、それは余人の関知するところではなかった。
 なにより、自分たちも次の瞬間にはこの白骨と同じ運命を辿るのかもしれないことを、彼らはよく知っていた。
 名前も知れない勇気ある先人に頭を垂れたのち、5人は顔を見合わせ頷き合うと、天空での冒険を再開した。

412:帰郷 4/4
08/04/22 19:23:17 ASHEnk8I
4.

 あった。やっぱりあったよ、伝説は本当だったんだ!
 あた、いたたたた。思ったより重症だ、こりゃ。
 ざまあないね、ここまで来たってのにドジ踏むなんてさ。
 薬は使い切っちまったし、どこか休める場所を探さないと。
 はあ、それにしてもすごいもん造ったものよね。でも、どうしてこのバカでかい城で遠くに行こうとしなかったんだろう?
 こんだけすごいモンなら、星空の向こうにだって飛べそうな気がするけど。
 星空の向こう、か。行ってみたいな。
 醜いものも綺麗なものも、いっぱいあるんだろうなあ。もし、この城にそれが出来るなら、神様にでも何にでも頼んで乗せて
もらおうっと。
 あ、あの柱のあたりがいいかな。
 よっこらせっ、とぉ。
 うわ、今すごくおばさん臭かった。あいつに聞かれたら絶対笑われるな。
 
 ねえ、伝説のお城は本当にあったよ。
 あたし、ばっちり誓約書作ったからね。意地でも金貨一枚払わせるよ。
 ……お店、手伝えなくて、ごめんね。あたし、冒険者だけは辞められないよ。
 あたし、こういう女だから。きっと、神様が風に吹き込むはずだった魂が、何かの手違いでおうちで生まれた子供に入っちゃったんだ。
 風になるはずだった魂は、死んだら今度こそ風の中に還るんだろうか。
 そうしたら、どこへだって行けるな。空も海も越えて、見たこともない、本当に誰も知らない土地にだって。
 
 でも、あんたにはいい夢をみせてもらったよ。
 あんたが大声出しながら冒険者連中にしょうもないデマ吹き込んでさ、あたしはそれを横目で観ながら注文取りに店内を回るんだ。
 メニューは色々取り揃えてるけど、一番人気はもちろん、あんたの作った地酒でさ。
 あたしは酔っ払いどもの前にそいつを何本もデン!と並べて、こう言うんだ。
「おまちどぉ! うちの亭主の酒場は世界一だよ、どんどん飲んどくれ!!」
 ふふ、なんだかそれもいいかもね。もしもあたしが普通の女だったなら、それでもよかったな。

 さすがに、ちょっと疲れた、かな。
 なんだか体が重いや。いろいろあったし、少しくらい休んでもバチはあたんないでしょ。
 とにかく城は実在して、あたしは最初にそれを見つけたんだ。
 まったく冒険者冥利につきるってもんだよ。
 あとは、そうだね、帰ったらあいつに会いたいな。賭け金の取り立てもあるし。
 お風呂に入ってさっぱりして、もう一度あいつと寝よう。
 今度は何もしなくてもいい。ただ寄り添ってベッドに入るんだ。
 朝はきっとあたしの方が先に起きるね。鍛え方が違うもの。
 そうしてあたしは、あいつの眼が覚める前に次の冒険に向かうんだ。
 まだ眠ってるあいつに、耳元でそっと一声だけかけてから。
 ……あいしてる。

                                                      おしまい

413:名無しさん@ピンキー
08/04/22 19:38:31 ASHEnk8I
以上です。
件のクエストが琴線にふれ、どうにも切なくなって書いてしまいました。
乱文失礼しました。

414:名無しさん@ピンキー
08/04/22 20:41:52 Lcg2jje/
涙腺が崩壊したじゃねぇかバカヤロー

415:名無しさん@ピンキー
08/04/22 20:59:18 o+I522wc
泣いた。
PCも短い台詞とかで上手く表現してて、
上手いなーというか、
いやそれよりなにより泣く。

416:名無しさん@ピンキー
08/04/22 21:46:05 rihXJofK
グッと来た。心が震えた。

あんた最高だ!マジGJ!

417:名無しさん@ピンキー
08/04/22 23:02:28 Ei/0FvOO
GJ
目から汗が

418:名無しさん@ピンキー
08/04/23 02:04:16 aR/oLCQt
変な時間に起きてしまった↑の作者です。尻がカビンに(ry
エロも少ないし、連投だし、スルー覚悟の投下でしたが、読んでいただけて望外の喜びです。

顔グラはおろか、生きている時の姿や名前すら登場しない「彼女」ですが、
普段不謹慎な言葉も平気でのたまう世慣れた酒場の親父が、「いい女だった」というくらいだし、
一度自分の手で描き出してみたいな、と思っていました。
クエストの性格上、暗い話になってしまいましたが、書けてよかったです。

ところで、ブシドーの「人死して~」のくだりは、関ヶ原の前哨戦で福島正則に敗れて戦死した
武将が最後に遺したものだそうです。人間って面白いですね。

419:名無しさん@ピンキー
08/04/23 03:19:21 oaWl0EdM
泣くしか、ないだろ。俺に出来るのはそれと、もうひとつくらいだ。
>>409、GJ。

420:名無しさん@ピンキー
08/04/23 19:33:45 S1Joah4p
>>409。人それをGJという。ていうか率直に感動したよ。
しかしここでチェイス発動。せっかくのふいんきを台無しにしてやるぜっ

>>354-366の鬼畜アナザーです。
ええこっちは涙なんてありません。オチもありません。本名不明のなんも悪くない子が、ただ酷いことされるだけの話です。

421:ハイ・ラガードの夜 傀儡編 1/5
08/04/23 19:35:07 S1Joah4p
いつもの時間に、いつもの部屋の前に立つ。
早る動機に胸が痛いぐらいだったが、心はどこまでも冷え切っていた。
安っぽい木製戸を見つめ、その少女――皆には『シラネ』の愛称で呼ばれているブシドーは、重苦しい溜め息をついた。
夜も更け、静寂に包まれた宿。ほんの数時間前まで、ギルドの面々が打ち上げという名目で大騒ぎを繰り広げていた。
下っ端の自分は、いつものように食事を運んだり、こぼしたり、怒鳴られたり、謝ったり、笑ったりしていた。
日々の情景を思い描く。排他的に見えて、その実優しいメンバー達のこと。くだらない相談にも、親身になって付き合ってくれる先輩メディックのこと。
そして、今ではすっかり友達になった、カースメーカーの少女のこと――

「――さっさと入ってこい」

僅かに軽くなりかけた心を再び沈み落したのは、扉の向こう側からの声だった。

「……っ、……はい」

唇を噛みしめ、震える手をノブにかける。が、扉は勝手に開かれた。
伸ばしていた腕を掴まれ、ぐい、と室内に引き入れられる。

「痛――んうっ……!?」

いきなり口付けられ、少女は全身を硬直させた。
間髪入れず、きつく閉じた唇を割って、生暖かい舌が這入りこんでくる。

「ん、ぐ……!」

自分より二周りは大きい男の胸に手を押し当て、懸命に押しのけようとする。
だが、結局それは抵抗の形を借りた無抵抗に過ぎなかった。
無骨な男の手に後頭部を抱き留められ、唇を強く密着させられる。
見る間に少女の体からは力が失われていった。汚らしい唾液の流入も、大人しく矜持するようになる。

「……ふ……ぅっ」

室内には僅かな水温と、少女の苦しそうな息遣いだけが響いている。
その状態のまま、五分は経っただろうか。
唐突に、男は拘束を解いた。二人の間に細い唾液の糸が引かれる。

「遅えんだよ、このグズ」

そう吐き捨て、男はシラネの体を突き飛ばした。
したたかに壁へと打ちつけられ、少女は苦悶に喘いだ。
足腰に力が入らない。ずるずると、その場に崩れ伏す。

「チッ……どいつもこいつも」

などとひとりごちるこの男は、シラネと同じく、ギルド・ファンタジカの冒険者だ。
役職どころか、名前すら少女は知らない。クエストでも、同じパーティーになったことは一度もない。
大人数のメンバーを抱えるギルドなら、さして珍しいことではない。
シラネが戦闘の専門家たるブシドーだということから推測すると、恐らく探索班か採集班の一人だと思われるが――
しかし、そんな些細なことはどうでもよかった。少女にとって、あのファンタジカに『こんな人間』がいたことが、ひたすらに絶望的な現実だった。

422:ハイ・ラガードの夜 傀儡編 2/5
08/04/23 19:37:18 S1Joah4p
「……いつまで」
「あ?」
「いつまで……こんなこと続けるんですかっ?」

弱々しくも抗議しようとしたシラネの頬に、すかさず平手が飛んだ。
軽い、ただし意思を挫けさせる衝撃。悲鳴すら出せず、少女はただ無言で頬を押さえた。
『躾』と称した陵辱が行われるようになってから、もう随分になる。
最初は、挨拶の仕方がなってないだとか、そんな台詞から始まる説教だった。そのころはまだ、一応の体裁が繕われていた。
多分男自身、ここまでエスカレートするとは思っていなかったのだろう。

『誰にも言うな』

初めて性の暴力を受けたあの日、男の目はある種の狂気を孕んでいた。
なぜ、自分はいつまでもこんな男の言うことに従っているのだろう。そう何度も考えた。

「始めろ」

やがて、一つの諦観めいた結論にたどり着く。
自分と言う欲望のはけ口がなくなれば、この男が何を仕出かすか――それが怖いのだ。
犠牲者は、一人でいい。

「……はい」

眼前に晒されたモノは、既に十分すぎるほど張りつめていた。
シラネは口を開き、腹を空かせた仔犬のように舌を垂らす。漏れ出た吐息が、先端をくすぐった。
口腔で唾液を溜めていたため、少女の舌はテラテラとした光沢を放っている。
そのまま顔を突き出し、彼女は自ら舌を押し当てていった。

「ん……ちゅむ……れろ……っ」
「っく……へへ」

男の手が、艶やかな黒髪を撫でる。
髪に触れられることに、最初は強い抵抗があった。それこそ、性行為そのものよりもずっと。
今は違う。祖国では命と同格と考えられている『女の髪』を、おぞましいケダモノの指が這い廻ろうとも、シラネは何も感じなかった。
ただひたすら、男のモノを果てさせるために、舌を使い続ける。

「ちゅぷ……は……ぁっ」

顔を傾け、舌の接する角度を変える。浮き出た血管のしこりを舌先で確かめながら、幹の周囲に唾液の跡を残していく。
息を吸い込めば、途端に『男の匂い』が鼻腔に充満した。
名状しがたい嫌悪感と――そして、幾ばくかの高揚が少女の中で生まれる。

423:ハイ・ラガードの夜 傀儡編 3/5
08/04/23 19:42:02 S1Joah4p
(……また……っ)

自衛のため、今やシラネの精神は『被虐趣味』のそれへと変容しつつあった。
理不尽な現状。吐き気を催す行為。抗えない自分。
それらの要素が、この後ろめたい快感を生んでいるのだ。

「もう戻れねえよ、お前は」

嘲るような男の言葉が、脳内を駆け巡った。
全て、見透かされている。

「は、ぁ……っ!」

呼吸が乱れ、シラネは舌の動きを止めた。大量の『匂い』が、どうしようもなく意識を混濁させる。
一瞬の休息にも、男は容赦なく罵声を浴びせかけてきた。
今はまだ言葉の暴力で済んでいるが、いずれは物理的な『躾』も厭わなくなってくるだろう。

「…………続け……ます」

霞む視界に映るグロテスクな肉塊。その幹に、白く可憐な指を沿わす。
シラネはどこか虚ろな表情で、はみ出た先端をペロリと舐めた。
男が微かに身じろぎする。すかさずもう一度。
柔らかな拘束の中、びくびくと跳ね回る肉の棒を、少女は何度も何度も責め続けた。

「んっ……、くちゅ……はふ、……ちゅぷ、れろっ……」

激しさを増す脈動を抑え込むように、手の力を強める。
少しきつめに、ただし射精への高ぶりを邪魔しない程度の圧迫。
そのすべらかな掌は、包まれているだけで相当に心地よいはずだ。

「くっ――」

唾液を舌の上に集めてから、シラネはゆっくりと亀頭を飲み込んでいった。

「ぁ……む」

カリ首の周囲に唇がくる位置で止めてから、口内での愛撫を始める。
鈴口を舌先で擦るように刺激していくと、生理に従って粘つく先走りが浸み出してきた。
その不快さに、思わず眉根を寄せる。

(……男の人のって、気持ち悪いことばっかり……。臭いし……形も変……)

更に言えば、どうしても排泄器官としてのイメージが先行する。
汚水が流れ出る部分を、自分の口に含んでいるのだ。快い筈がない。

(早く……イッてよ……)

恨めしい目で睨む。しかしその間も、愛撫は止めない。
快楽に興じつつも、男はそんなシラネを見返し――ニヤリと笑んだ。

424:ハイ・ラガードの夜 傀儡編 4/5
08/04/23 19:45:18 S1Joah4p
反抗的な眼差しと、上気した頬とのギャップ。
不快そうにしつつも、主人たる自分に忠実な愛撫。
少女の全てを、男は堪能していた。

「協力してやるよ」
「ふ、ふぇ……? ――っ!?」

不意に突き出された怒張に喉奥を突かれ、シラネはくぐもった悲鳴を上げた。
込み上げる嘔吐感に必死に抗う。瞳が潤み始め、あの暗い快感が全身に広がった。
いわれのない暴力を受けた飼い犬そのものの表情で、少女は男を見上げた。

「悪ぃ悪ぃ。まあ、お約束だしな」

言って、期待通りの反応に男は満足する。

「もう突かねえよ。あくまでも、お前が抜くんだ」
「……っ」

あけすけもない台詞に、少女の頬がカッと朱に染まる。
そんな姿をしり目に、男は浅く腰を揺らし始めた。

「舌使えよ。ほら」
「――ん! んっ、んっ……うぷっ、ふぁ……あむっ……んふ……っ!」

要求に従い、少女は舌を必死に絡みつかせていった。
身勝手に口内を前後するペニスを、献身的に愛撫する。

「ふぁ……ぁ……じゅ、じゅぷ……う、うぅ……!」

シラネは気が気ではなかった。
このように粘膜を摩擦され続けると、否応なく『挿入』を連想してしまう。
男もそれを分かって楽しんでいるのだろう。
膣の快感点を探るような動きで、いやらしく少女の口内を擦り続けていた。

(……もう、いや……おかしくなる……っ)

じゅぷじゅぷという卑猥な水音が耳を犯す。
泡だった唾液が顎を伝い、パタパタと床に落ちていった。

「はっ、ひ……じゅっ、じゅぱ……ふ、うぅぅ……!」

次第に男の動きにも遠慮がなくなってきた。
一物のさらなる膨張を感じ、シラネは男に目線で問いかけた。

「……外に出すか。お前の顔全部で味わうんだ。いいな?」
「ふ、ふぁ……――ぅっ!」

シラネの返答を待たずして、男は激しく腰を使い始めた。
もうしない、と言っておいて。安心させておいて、あっさりと裏切る。
分かっている。自分は人として扱われていない。この男にとって、自分はただの性欲処理の道具にすぎないのだ――

425:ハイ・ラガードの夜 傀儡編 5/5
08/04/23 19:49:56 S1Joah4p
「っ!? ひぁ……っ!」

悲鳴が漏れ、背筋に甘い痺れが走る。
男の足が、袴の『中』に入りこんでいた。

「~~~~っ!! ひゃ、ひゃめ……っ」
「喋んなよ、犬……! お前はただ馬鹿みたいにしゃぶってろっ」

冷たく遮り、男は加虐趣味者の笑みを浮かべた。
慌てて秘部を覆いかけた少女の手を払い退け、しつこく足による刺激を続ける。
粗野で乱雑な触れ方であったが、だからこそ『虐待』の実感をシラネに与えた。

(あぁ……いやぁ……こんな、こんなの……っ)

そこが今どんな状態になっているか、想像するだけで自己嫌悪に陥りそうだった。
サラシの束縛がもどかしい。意識がどこかに飛んで行きそうだ。

「くふぅぅ……っ! ふぁ……あぁぁっ……!」

躯が、心が、解放されたがっていた。

「く……出すぞっ!」

唐突に、限界まで膨張しきったペニスが口中から引き抜かれた。そこには生々しい熱だけが残る。
その直後、少女の顔面に欲望の迸りが降り注いだ。

「あ――」

半開きの口に、容赦なく人肌の体液が飛びこんでくる。
固体でも液体でもない中途半端な感触と、ひたすらに青臭い苦みが舌の上に広がった。

「は……ぁ……ぅ……」

出すモノを出して収縮しつつあるペニスが、髪に押し当てられる。
尿道内の精液が流れ出し、どろりと付着した。


     ◆


『誰にも言うな』

朦朧とする意識の中耳にした、あの定例句。
この一言が無ければ、自分は沈黙を破るのだろうか。
誰かに助けを求めるのだろうか。

「――はい」

白濁にまみれた顔で、シラネは小さく頷いた。
熱が引かない。『幼い』少女の中心は、いつまでも疼き続けていた。




426:名無しさん@ピンキー
08/04/23 19:51:49 S1Joah4p
はい如何でしたでしょうかハイ・ラガードの夜本番ないのかよ編。
この「健全(アホ話)→エロ(鬼畜アナザー)」の流れは外枠が出来てる分書きやすかったので、次の無口カス子編もこんな感じになると思います。
まだるっこしいがや死ねって人もいるでしょうけど、どうかご了承くださいね。
では。

427:名無しさん@ピンキー
08/04/23 21:38:54 JNYo2Uuk
>>421
わーい、「あっちの方もばっちり躾けてやるからな、シロ」を読んだときから
ずっと待ってましたよw GJ!

ブシドー(さらし)は、いじめられるために生まれてきたような顔をしてますよねw
カス子編も楽しみに待ってます(全裸カウンター的な意味で)

428:名無しさん@ピンキー
08/04/23 22:36:57 glU/ZhMg
いじめて耐えさせたり、泣かせたり、逆にデレさせたり
ブシドーの守備範囲の広さは異常。

429:名無しさん@ピンキー
08/04/24 00:18:41 /Qkb26q+
ちょっくら我慢できなくなったのでうちのギルドのブシドーを
レベル上げといつわって迷宮に二人だけで入って押し倒して泣かせてくる。

430:名無しさん@ピンキー
08/04/24 00:23:29 7YFxj6Op
>>429
ちょ、今来られると俺がブシドーを押し倒してるとこと鉢合わせするじゃねーかw
空気読んでもう少しあとにしてくれw

431:名無しさん@ピンキー
08/04/24 00:50:14 q9FZitlh
1歩進むごとに「君たちが歩を進めていると茂みの中から少女のものらしき悲鳴が聞こえてくる 君たちは茂みの中に入ってもいいし入らなくてもいい」とアナウンスが入るんですね分かります

432:名無しさん@ピンキー
08/04/24 00:57:52 7YFxj6Op
樹海始まったなw

433:名無しさん@ピンキー
08/04/24 01:07:28 szot7nDu
押し殺した声とか、紅潮した頬とか
真っ赤に泣き腫らした目とか、
きつく結んだ唇とか、
ほどけて広がって土だらけになった長い黒髪とか
震える肩とか、無駄な贅肉がなくてかといって
筋肉質でもないすべすべの細い腰とか
土と草を握り締めて耐える小さな両手の拳とか。

大声を上げて悲鳴をあげるわけでも
誰かに助けを求めるわけでも
かといってやめて欲しいと懇願するわけでもなく、
ただ泣きながらじっとこっちを見つめてくる。

たまらん。あと3回はいける。

434:名無しさん@ピンキー
08/04/24 15:43:47 Qr6RVksg
>>427
いまさらだけど犬ネタあんまり生かせなくてごめんね。

435:名無しさん@ピンキー
08/04/25 05:48:19 FZOo/TsR
 昨日母親に
「俺自分じゃ思いつかないから聞くけど、母の日のプレゼントどんなのがいい?」
 って訊いた。
 そしたら、
「あんた、時々PCで官能小説みたいの書いてるでしょ」
 とか言われた。なwんwでw知wっwてwるw
「あんた文章上手だねえ。ああいうのでいいから、母の日は小説を書いて送ってちょうだい」
 まあ、元々本読むのが好きな人ではあった。SS書いてるのもある意味遺伝かもわからん。
 でもなあ。困ったなあ。嬉しいんだか悲しいんだか。
 ホントにどうしたものだろ。

436:名無しさん@ピンキー
08/04/25 05:55:27 kiI/dtY2
>>435
誤爆乙

437:名無しさん@ピンキー
08/04/25 05:58:56 FZOo/TsR
すまん、誤爆した、って突っ込みはええw

438:名無しさん@ピンキー
08/04/25 06:22:45 P+gGFceu
メディ母と玉葱メディ男の近親相姦もの@母の日とな

439:名無しさん@ピンキー
08/04/25 06:25:13 i6AfZbmA
誤爆に言うのもなんだが……いい母親を持ったなw

440:名無しさん@ピンキー
08/04/26 22:57:16 qKNdk41M
保管作業を手伝いたいと思ってるんだが、単純に作者名入れて貼り付ければいいのか?
この手の作業に縁が薄いので、いまひとつわからん。

441:名無しさん@ピンキー
08/04/27 00:04:30 YO8Nkyyl
実は母親もこのスレの住人。
そりゃもう生まれた時から見守ってるんだ。
文章の癖とかでバレバレだわさ。

442:名無しさん@ピンキー
08/04/27 00:40:35 Ku8ZEak8
本当に日本の現状に真っ向からケンカ売ってる
良いお母さんでw
そんな親になりたいものです

443:名無しさん@ピンキー
08/04/27 07:10:41 olSa0V35
うちの親に俺の書いてるSSとか読まれた日には俺マジでケーブルで吊りかねんwwww

444:名無しさん@ピンキー
08/04/27 22:15:38 ekUdeYuN
定期的に「えろ本みせれ」(二次元的な意味で)とか言ってくる母親を持った俺が通りますよ。っと
この間は部屋においてあったエロゲ雑誌を持っていかれた……

445:名無しさん@ピンキー
08/04/27 22:27:57 rAN1Vs16
>>444
うちのカーチャンで想像してみた

あまりの衝撃に気を失いそうになった

446:名無しさん@ピンキー
08/04/27 22:40:40 ekUdeYuN
>>445
俺なんてもう、慣れっこなんだぜ。

パソコンを持ったらエロゲすら俺の部屋から持って行きかねない勢いなんですよハハハハ。

447:名無しさん@ピンキー
08/04/28 16:16:33 98BNmo+0
>>446
バルドフォースエグゼとか薦めてゲーマーに仕立て上げようよ。

ようやく世界樹Ⅱの終わりが見えてきたし、なんか書いてみようかな……

448:名無しさん@ピンキー
08/04/28 20:08:53 alYac5eI
俺は終わったんだぜ!
でも某超執刀を初めてしまったんで書けないぜ!
助手がロリだと思ってたのに意外とおっきくてツボったんだぜ!

というわけで、宿屋担当の♀キャラクターは、
きっとただ寝るだけだと暇なんで、あんな事や
こんな事をやってるんじゃないだろうか、という妄想を
置き土産に涅槃で超執刀してくるノシ

449:汝、蛇なりや 0/9
08/04/28 20:37:54 pRu73In/
紫ダクハン×さらしブシドーSS投下。
元々別スレ(非18禁)に投下したブツを、全面的に書き直して加筆したものです。
「2」の15Fで発生するクエスト「汝蛇の如く音無く忍べ」のネタバレあり。未プレイの方はご注意を。
エロは7/9,8/9にあるので、長文読むのが面倒ならそちらへ。

保管庫管理人さま、更新お疲れ様です。いつもありがとうございます。

450:汝、蛇なりや 1/9
08/04/28 20:38:55 pRu73In/
1.

 夕刻、宿屋2階の大部屋の戸が開き、メモらしきものを握り締めたブシドーの少女がずかずかと入ってきた。
 ダークハンターを捕えたのは、またぞろ面倒ごとをしょいこんできやがった、という予感だった。
「みな、仕事だ。場所の指定あり。今晩23時大公宮。行ける者は居るか」
 行ける者もなにも、今部屋にいるのはダークハンター一人だ。ブシドーは室内を見渡し、得たりや応、と頷くや、
「では、拙者とお主だな」
 硬い口調に合わない澄んだ声で宣言した。
 案の定、これだった。言うべきことはなくなった、そんな様子で部屋を出て行こうとするブシドーを、ダークハンターは慌てて
引き止めなければならなかった。
「ちょいとまてや。どんな仕事なのかくらい聞かせろ」
 ブシドーはキョトンとして小首を傾げた。
 そうした仕草だけなら、同年代の愛らしい少女達と大差はない。
「知らぬ。行かば答える、とのことであった」
 頭を抱えたくなる。
 仕草はともかく、己の才覚ひとつで生き抜かなければならない冒険者が、本当に無防備な少女そのものであってはならなかった。
「おまえな、そりゃどう考えてもヤバイ仕事だろう。しかもなんだって? 場所が……」
「大公宮だ」
「それぐれえ聴いてたよ! いいか、その時間、その場所でしか話せない依頼だぞ。お天道様の下で言えねえような仕事だ。
わざわざ俺達が受けてやる必要がどこにあった?」
 ブシドーは不思議なものを観察する目でダークハンターを覗き込んだ。
 どうして眼前の男がそんなことを云うのか、芯から図りかねている感があった。

「依頼主は、大層困っておるとの事であった」
 うん、それで。と先を促す。
「……」
「……」
 次の言葉はいつまでたってもやってこなかった。
「……で?」
 しかたなく、水を向けてやる。
「なので、受けた」
 瞬間、怒りがダークハンターの胸を押し上げた。それは喉元で言葉に形を変えた。
「アタマん中まで刀か、テメエは!」
 信じがたい人の好さだった。
 このような女が、公国においても指折りの戦士であることなど、悪い冗談にしか思えない。
 さすがに気色ばんで、ブシドーが答える。
「む。刀を頭に刺しては、拙者は死んでしまうではないか。さすがの拙者もそれはちと困るぞ」
「馬鹿だ、お前はやっぱり馬鹿だ!」
 もうこれ以上はやっていられない。
 ギルドを辞めよう。
 このギルドに入ってから何度目かの、そして今度こそ本当になりそうな決意を、ダークハンターは心の奥底で固めた。

451:汝、蛇なりや 2/9
08/04/28 20:39:37 pRu73In/
2.

 22時30分。ダークハンターは独り、大公宮への道を歩いていた。
 彼以外のギルドメンバーは酒場で寝こけている。そうなるよう、彼が仕向けた。
 ブシドーだけが最後まで付いていきたがる様子を見せたが、
「お前がいたら、いらねえ苦労が増えるんだよ」
 この一言でおとなしくなった。
 言葉の内容よりも、彼女を射すくめる眼光の冷たさに傷ついたようだった。
 そのことについて、ダークハンターは特に感想を持たない。
 持たないことを自分に強いる術を、幸福とはいいがたい過去の諸々から学んでいた。
「どいつもこいつも、いい加減にしやがれ」
 彼は、ギルド設立当初からのメンバーではない。
 第2階層を支配する魔人との戦いに臨み、戦力不足に嘆いていたギルドに、急遽前衛職として潜りこんだ。
 ギルドメンバーには、ブシドーのほか、パラディンもメディックもアルケミストも居た。
 もちろん、彼ら一人一人は違う人間だったが、全員に共通した要素もふたつあった。
 ひとつは、誰を見てもちょっと捜すのが難しいくらいの使い手であること。
 もうひとつは、そろいもそろって底抜けに純朴であることだった。
 罠に嵌ったリスを助けようとして、アリアドネの糸を盗られる。
 衛士を装った盗賊に魔物をけしかけられる。
 なにより許せないのが、公宮の連中にいいように利用されていることに気付きもしないことだった。
 おおよそ、お上と名の付く何者かが、冒険者をどう考え扱っているのかなど、それなりに場数を踏んだ彼には自明だ。
 公に出来ない「ことになっている」事案を持ち込むのに、冒険者ギルドほど適当な場所は他にない。
 ドブさらいはやりたい奴にやらせておけ、そういうことだ。
 今度のクエストも、そうした案件に決まっていた。
 最悪、怪物ではない「誰か」を殺す仕事だったとしても、すこしも自分は驚くまい。

「あいつらはそのあたりのことが、なんにも判っちゃいねえんだ」
 さっさと抜けるべきだ。泥をすすって生きてきた男に似つかわしい場所ではない。
 幾度となくそう思い、実行しようとしてきた。機会はいくらでもあったのだ。
『お主、辞めてしまうのか?』
 長く艶やかな黒髪が美しいブシドーの少女に切り出されるたび、何も言えなくなった。
 内側から溢れる感情を取り繕おうとするあまり、あどけなさの残る顔が妙な具合に歪んでいて、それが可笑しかった。
 ずるずると、中途半端な気持ちを引きずったまま、思いのほか長く付き合いは続いていた。
 どうしてなのか、ダークハンター自身にも上手く説明できそうになかった。

 ただ、疎ましさを覚える時もある。たとえば、今夜だ。
 お人好しなギルドメンバー達は、笑い、泣き、ダークハンターには理解できない何かを共有しながら生きているようだった。
 そうした全てを唾棄しながら、ザラザラとした感情が皮膚の裏側に蠢くのを、いつも感じていた。
 それはたぶん、嫉妬に似ていた。


452:汝、蛇なりや 3/9
08/04/28 20:40:18 pRu73In/
3.

 大いなる存在への畏敬と、ほんの密やかな職人達の倣岸、二つがうまく溶け込んだつくりだからだろうか。
 人間がその才知をこらして作り上げた公宮庭園は、それはそれで趣のようなものがあった。
 そんな庭園の端、暗がりの中、ローブを被った女が独りで立っていた。
 あちらでもダークハンターの姿を認めたのだろう、すべるような足取りで彼に近寄ってくる。
 眼を、疑う。まぎれもなく公女その人だった。
 おおよそ人生で経験したことがないほど、ダークハンターは周章狼狽した。

 会うのが初めて、というわけでもなかった。ただ、昼間公宮内で接見したのは「公女様」であって、それ以外ではなかった。
「ギルドの方ですね?」
 月明かりの下で、ダークハンターは「公女様」ではない「彼女」を発見していた。
 女は、すばらしく美しかった。
 暗闇でもわかる、いや暗闇の中でこそわかる、肌の白さ。
 静かに憂いを湛えた瞳。
 鍛錬を重ねた人間だけが持つことを許される、しなやかな肢体。
 最後の部分だけは、あのブシドーに似ていなくもなかった。
 鎌首をもたげた蛇のように、むくりと劣情が起き上がる。
 返事をどうにか搾り出す。
「あ、ああ。そうだ。そうです」
「それで、依頼の件なのですが」
 前置きもそこそこに、公女は語りだした。
 こっそり樹海に赴いたこと。
 そこで敵に囲まれた彼女を救うため、魔物の群れの中に消えた一匹の「ペット」のこと。
「けれど、わたしは、このままミニスターを見捨てることなどできません。
みなさまの力で、樹海にいるミニスターを助けてほしいのです。
それとこの事は決して公には出来ません。失礼ながら私の立場は不自由で……」
  
 不意に、夢から覚めた想いになった。
 この女は、樹海に消えた大勢の命より、一匹の獣の命を優先している。
 やっぱりそうなのだ。ダークハンターの心から急速に温度が失われていく。
 姿形の麗しさに惑わされるところだった。
 女と自分の間に、はじめから交点などなかった。
 お姫様は、お空の上のお城にお住まいで、雲より下の世界はご存知ない。
 返事はもう決まっていた。断絶を告げるために、口を開こうとする。

 唇が何か小さなものに押さえられていた。公女の手のひらだった。
 一瞬、剣ダコが触れる。戦士の手だ。
「仰りたい事は、わかっているつもりです。私はひどい女です。それでも」
 女の頬に、筋を引いて滑り落ちるものがあった。ダークハンターはとっさに眼を逸らす。
 貴種とて同じ人間である証など、見たくはなかった。
「どうか、どうか。あのコを、助けて」

453:汝、蛇なりや 4/9
08/04/28 20:41:46 pRu73In/
 俺はさんざん悪事もやってきたが。ダークハンターは考える。
 そういや強姦ってのはまだしたことがなかったな。
 目の前の高貴な女性を、思うさま嬲るのだ。さぞかし気分が良いだろう。
 人生全てと引き換えに出来るくらいに。
 ギルドの奴らも、ただでは済むまい。
 事あるごとに俺の顔を思い出しては、罵声を浴びせかけるのだ。
『クソ、お前さえ居なければ!』
 まったく哂える想像だった。
 本当に笑いが漏れそうになって、必死でこらえた。
 今笑い出せば、きっと自分は永久に笑い続けるだろう。
 公女がこちらを見つめている。決死の覚悟を込めた表情で。
 パラディンが味方の盾となって敵に立ち塞がるとき。
 メディックが倒れた友人を励ましながら治療するとき。
 アルケミストが必殺の術式を仲間のために紡ぐとき。
 そしてあのブシドーが『大層困っておる』誰かのために鞘を払うとき。
 きっと、今の公女と同じ顔をしているに違いない。
 知れきった破局。彼らと一緒に最後まで歩き続けることなど、不可能だ。
「その仕事……」
 だっていうのに、これから何を言おうってんだ? ええ、ダークハンターさんよ?
「お受けしましょう」
 やっちまったな。
 絶望感と共に、男は思った。

 風景というものは、見る者の心象を写す鏡なのだと、偉い芸術家サマはおっしゃった。
 実のところ、それが全くの真実であることに、帰路を行くダークハンターは生まれて初めて気が付いていた。
 風も石畳も街並みも、そびえ立つ世界樹も、なにもかもが彼の精神と感応し、ざわめいているのだった。
 自分は変わってしまったのだ。
 深い困惑と、次いで恐怖が彼を襲う。
 大公宮に出向く前の俺に戻してくれ。
 そう叫びたくて仕方ない。こんなことを望んだわけではなかった。
 粗暴かつ辛辣な、どこまでも計算高い蛇で居たかった。
 闇の上に暗幕をかぶせた寂しい路地裏に入り込み、そこでしゃがみこむと、彼は顔を覆って泣いた。

454:汝、蛇なりや 5/9
08/04/28 20:43:18 pRu73In/
4.

 宿に帰り着き、その玄関口にブシドーの立ち姿を認めて、少なからず驚く。
 時間はとうに01時を過ぎているはずだった。
「遅かったな」
 まさか、自分を待っていたというのか。
「で、どうであった」
 依頼の件を聞かれているのだと分かるまで、すこし間が必要だった。
「請けてきたぜ。ろくでもない話だったがな」
 コクリ、と頷いた後、急に距離を詰めてくる。息がかかるほど互いの顔が近い。
「……泣いて、おるのか」
 これだからこの女は苦手だ。
「そんなんじゃねえ」
 自分でもはっきりと感じる声の弱さに、愕然とした。
「そんなんじゃあ、ねえ」
 視界いっぱいに少女が映る。
「辞めてしまうのか?」
 妙な具合に歪んだこの寂しげな顔に、自分はいったい何を期待していたのだろうか。

 これ以上心をかき乱されるのはご免だ。
 ダークハンターの手が、ブシドーを突き飛ばした。とっさのことに反応できず、軽い体が地面に転がる。
 袴が乱れ、ただでさえ表面積の少ない着衣の隙間から、健康的な太股が覗く。
 公女の肢体に向けられたのち、一度は去ったはずの劣情が、再びダークハンターを満たした。
 凶暴な気分の命じるまま、体勢を戻そうとするブシドーの手首を掴み、体ごと自分の許へと引き寄せる。
「お主、なにをするか」
 そうだ、まだ間に合う。
 小さな獲物を飲み込むとき、蛇は本来の自分を取り戻すはずだ。
「いいから黙って来い」
 返事があろうとなかろうと、どちらでもよかった。
 だから、その気になれば魔獣とさえ渡り合える剣士が、どうして抵抗もせずされるままになっているのか、
想像してみることもしなかった。

455:汝、蛇なりや 6/9
08/04/28 20:44:21 pRu73In/
 男女二人が潜める場所くらい、いくらでもあった。
 ましてや彼は、影にひそみ罠を張るダークハンターだった。
 住居から死角となる木陰にブシドーを連れ込むと、下に広がる芝生へ乱暴に押し倒した。
 ブシドーは黙ったままだ。黙って不安に耐えながら、涙を湛えた瞳で彼を見上げている。
「これから何されるか、わかってんのかよ」
 最後に残ったひとかけらの理性が、ダークハンターの口を開かせた。
「わかっている。拙者とて、女だ」
「怖く、ねえのか」
 どうしてさっさと獲物を口へ入れてしまわないのだ! 蛇が身中で不平を吐く。
「たまらなく恐ろしい。怪物の牙を受けるよりも、竜の炎にあぶられるよりも」
「だったら」
「信じておる。たとえ、奉じる『道』は違えども、お主はもののふだ。轡並べて戦に向かうに値する、戦友だ」

 丸腰のブシドーが放った視えない斬撃が、飛び掛る蛇の首を刎ね飛ばす音を、ダークハンターはたしかに聞いた。

 ゆっくりと体を起こす。少女が怖がらないよう、丁寧に。
「……わりい。俺、行くわ。みんなによろしく言っといてくれ」
 立ち上がろうとして、袖を掴む小さな手に阻まれた。
「待て。拙者に恥をかかせたまま逃げるつもりか」
「うるせえ。せっかく辞めるきっかけが出来たんだ、このまま消えさせてもらう。仕事の中身は酒場の親父に預けとく」
 実際そのつもりだった。最初からこうしていればよかったのだ。
「……では、…………ぬのか」
 か細く、ブシドーが呟く。
「なんだよ。聞こえねえぞ」
「拙者では、ギルドへ残る理由にはならぬのか」

 言葉が、ちっぽけな自我ごと心を焼いた。
 両腕を回し、ブシドーを強く抱きしめる。草と土の匂いがした。
「お前を抱きてえ。お前らと、あの迷宮を昇り抜きてえ」
 今日までの日々は、これを言うためにあったのだと、男は半ば本気で信じた。
「この体、乙女ではない。それでもよいか」
 少女の唇に口づける。答えの代わりのつもりだった。
「不器用な男だな」
 女が優しく言った。
「お互い様だ、馬鹿」

456:汝、蛇なりや 7/9
08/04/28 20:45:15 pRu73In/
5.

 ダークハンターが服を脱ぎ終えて顔を上げると、ブシドーの裸身が目の前にあった。
 具足で隠されていた肩は、案外なで肩で、そのぶん首の長さが目立つ。
 控えめな乳房についた小さな突起は、四層で咲き誇る花の色をしていた。
 鍛え抜かれた下半身に女性らしい丸みは少なく、その細いラインがよくしなる弓を連想させる。
 茂みは淡く、愛らしかった。
「綺麗だな」
 思ったままを言う。
「……馬鹿者」
 ブシドーは軽く頬を染めた。

 木の根元に背中を預けて座り込み、ブシドーを抱き寄せると、上から下にかけてゆっくりと撫でていく。
 引き締まってはいたが、筋肉がみっしりと詰まっているわけでもない。
 刀は力ではなく、技で斬るのだという。そのせいだろうか。
 腕から腋、腋から胸、胸から腰、そして太股へ。
 ブシドーはじっと目を閉じている。手から伝わる体温を味わっているようだった。
 感触を楽しみながら、右の乳首を口に含む。ブシドーが腰を軽くよじらせた。
 口中に香りが広がる。汗の匂いではあったが、甘く感じる。
 手の方は股間に辿りついていた。少女の目が開き、体がわずかに硬くなる。
 はざまを上下に撫で回す。思ったより弾力があった。
 顔をずらして、今度は左の乳房を丹念に舐める。刺激の変化に、少女は吐息を漏らす。
 そこを突いて切れ込みへと指を浸入させた。
 内部をおもうさま蹂躙していく。中は薄く潤んでいた。
 段々と、ダークハンターにかかる少女の呼気が熱を帯びてきていた。

 切れ込みから指を引き戻し、いったん2人の体を離す。
 不審がるブシドーと体を入れ換え、膝を立てて仰向けに寝かせる。豊かな黒髪が地面に広がった。
 男の態度をどうとったのか、おずおずと少女は少しだけ股を開いた。
「まだ、しねえよ」
 ダークハンターは自身も体を沈めると、ブシドーの両足を双肩に担ぐ。
 そして顔を股間にうずめていった。
 少女のそれは、今まで知るどんな女のものよりも可憐だった。なにか尊いものを見ている気がした。
「や、止めい。そんなところ」
 唇を這わせる。舌でなぶる。
 肉芽に舌先が触れるたび、かき消えそうな声が降ってきた。
 ダークハンターは、深い悦びに震えた。ずっとこうしていたい位だった。

457:汝、蛇なりや 8/9
08/04/28 20:46:12 pRu73In/
「もう、もう」
 どれくらいそうしていたものなのか。
 ふと、我に返り、声を聞く。慌ててブシドーを観ると、彼女は息も絶え絶えに、法悦の表情だけを浮かべていた。
 名残惜しさを振り払い、ダークハンターは身を起こす。
 それから屹立した自身の分身を、ブシドーの中へと潜り込ませた。
 ブシドーが応えて、おとがいを上げる。
「背中、痛くないか」
 ブシドーの膝頭を押さえ、腰を使いながら、自分にできる精一杯の優しさをもって問いかけた。
「仔細ない。お主の良いようにしてくれ」
 ひたすらに愛おしい。
 こんな女と繋がっていられることを、信じたこともない神に感謝した。
 浅く深く突き入れる。膣内の律動が変わるたび、どちらからともなく口づけを求めた。
 いつしか少女の腰も揺らめいている。ぶつかり合う二人は、文字通り一つになっていた。
 次第に高まりがせり上がってきていた。終わってしまうことがひどく寂しい。
 まるで初めて女を抱いているようだった。
 いや、今自分は、愛を交わすことの意味と価値を学んでいるのだ。そう思った。
 限界がきた。ブシドーもそれは同じだった。膣内に絶頂のしるしが走る。
 おめきをあげ、抜き放つと、少女の腹の上に射精した。
 彼女もまた、甘美なおののきを発した。そうしてから、両の腕でダークハンターをかき抱く。
「行くな。お主の居場所は、ここぞ」
 ダークハンターは笑う。なるべく下品に映ればいいが。
「ばーか。女の寝言を信じるほど落ちぶれちゃいねえよ」
 安堵を乗せて、ブシドーが、軽口を叩くダークハンターを見つめてくる。
 ちょっと始末に困るくらい、その姿は美しかった。

458:汝、蛇なりや 9/9
08/04/28 20:47:10 pRu73In/
6.

 クエストは散々だった。
 犬は逃げ、鳥は舞い、花が乱れた。
「やっぱり、ろくな仕事じゃなかったな」
 全身に噛み傷をこしらえたダークハンターがぼやく。
「うむ。『蛇蝎のごとく嫌われる』というが、此度のお主がまさにそれであったな」
「ぐ、なかなか言うようになったじゃねえか……」
 怯えたミニスターに何度も噛まれたのは彼だけだった。
 そのミニスターを届けるため、他の3人は宿を出払っている。
 二人だけの大部屋は、広すぎるように感じる。いままで、そんな気持ちになったことはなかった。
「変わっちまったな、俺も」
 独り言のつもりだったが、ブシドーは自分が話しかけられたものと捉えたらしい。
「今日知らず、明日また識らず。ゆえに一定」
 また、わけのわからない事を言った。
「……あ? なんだって?」
「お主に逢えてよかった。そういうことだ」
 十代の少年もかくや、というほど顔が熱くなる。畜生、この女。

 窓を開け放つ。室内に風が吹き込んで、部屋の空気を撹拌する。
 自分にとっての窓、それがあの夜で、吹き込んだ風はブシドーの少女だった。
 空気の入れ替わった部屋がどうなるのかは、住人次第といったところか。
 らしくもない。誰かの馬鹿が伝染した。
 なにげなく振り向く。
 すると、椅子に腰掛けたブシドーと目が合った。
「なあ、『生きてるのはいいもんだ』ってのを、お前の故郷じゃなんて言うんだ」
 ブシドーは視線を泳がせ、すこし考えを巡らせるふうだったが、やがて向き直り、答えた。
「そうさな。『花鳥風月』であろうか」
 相変わらずさっぱり意味はわからなかったが、なんとなく良い響きだった。
 口に出して言ってみる。
「カチョーフーゲツ」
 ぷっ。ブシドーが吹きだした。
「へ、やっぱり柄じゃねえや」
 一緒になって、ダークハンターも笑い出す。
 窓から射し込む日差しは、以前よりも暖かだった。

                                                  おしまい

459:名無しさん@ピンキー
08/04/28 22:28:28 E4KesBHs
GJ
良い作品でした。

ダク男が良い感じだなぁ……

460:名無しさん@ピンキー
08/04/29 00:24:05 6ZTrqID8
ブシドーの切れ味の良すぎる言葉に心を一閃されたぜ

461:名無しさん@ピンキー
08/04/29 17:41:19 jJ3OjUVs
うちのギルドにダク男入れたくなった。GJ

462:名無しさん@ピンキー
08/04/29 23:19:27 yOno+c8P
ブシドーをショタ、ダク男を金髪ダク女に脳内変換……
ああ、やっぱダクハンは男女ともにエロパロ向きだわ。

463:名無しさん@ピンキー
08/04/29 23:46:39 KGzI6nEf
>>41
( ゚д゚)

( ゚д゚ )
フロストガールさんですか?

464:名無しさん@ピンキー
08/04/29 23:47:18 5L+y0wdm
とうとう女に

465:名無しさん@ピンキー
08/05/01 02:29:49 h6iPI/pK
妄想マスタリー&暴走マスタリー10を頼りに挑戦してるけどやっぱ難しいな……
文章マスタリーに1で良いから振りたい。
どうやったら文に艶が出るんだろう。

466:名無しさん@ピンキー
08/05/01 02:39:32 qiMSEcPD
つワックス

467:名無しさん@ピンキー
08/05/01 18:39:35 urH5V0pG
ボスマラソンならぬ作マラソンだ

468:名無しさん@ピンキー
08/05/02 05:54:34 0wH6tlNx
保管所に一本直接投稿しました。
いささか問題がありそうなのでだめなら消去します。
初書きなので駄目出しなどありましたらよろしくお願いします。

ちなみにギルドメンバーは休養後何かを振り切るかのごとくボスマラソンにいそしみLv99になって帰ってきました。

469:名無しさん@ピンキー
08/05/02 08:08:47 09wefSi5
面白かった。GJ。

470:名無しさん@ピンキー
08/05/02 12:37:05 qdST7/wF
読ませていただきました。GJでした。

471:名無しさん@ピンキー
08/05/03 01:59:44 Dxeg2XVL
>>468
良かったよ、GJ

472:名無しさん@ピンキー
08/05/03 04:24:14 mBAEMNHK
>>468
文も読みやすかったし、何より設定が面白かったよ
GJ!

473:名無しさん@ピンキー
08/05/03 08:53:18 Y9Wc+dJg
オウガとデモンどっちが雌なのか、そこが問題だ。

474:名無しさん@ピンキー
08/05/03 10:29:56 wDG2xgUR
オウガとデモンは男と意識して生きるモリビトの最終形態。
オウガが肉体派、デモンが技巧派。

女として生きるヴァルドやドルイドが何らかの形で
モリビトを超越し、精霊化したのが貴婦人・姫君


適当に妄想してみただけよ。

475:名無しさん@ピンキー
08/05/03 14:33:10 r/8TBa19
なら雌になる分には人間のなかで生きるのに不都合ないじゃないか。
服が着られない?寧ろそれこそばっち来(ry

476:名無しさん@ピンキー
08/05/03 17:05:49 8BfY7d3l
採取採掘伐採隊を
レンジャーズじゃつまらないから

ペ / パ / ペ
メ レ

にしてみた

気がついたら脳内でお笑い芸人集団になってたorz

477:名無しさん@ピンキー
08/05/03 17:09:30 8BfY7d3l
すまん
誤爆した

478:満開の季節…の少し後 1/2
08/05/04 02:36:18 I3ladOKD
保守がてらに。エロ無しなんで適当に読み流してください。



 その日は空飛ぶ城の中、適当に素材集めをして一日が終わった。
 主に活動していたのは一軍の皆ではなく、ギルドの後ろを守る採集部隊である。

 ギルド本部の一室で、彼らはおのおの入手した戦利品を床に広げて物色していた。
 せかせかと動き回る皆の中、一人だけ暇そうにしている少年がいた。パラディンである。
 いざこの段になると、採集部隊の皆を守るべく一人借り出されたパラディンにはもうやることが無い。
 盾のふちに顎を乗せて、時折会話に混ざりながら皆がアイテムを整理するのをぼうっと見ている。

「……でもまあ、殺されなかっただけでもめっけもんですよね」

 道具袋からマンドラゴラの残骸を引っ張り出していた銀髪のダークハンターが、そんな彼にのんびりとした声で問うてきた。
「は?」
 パラディンの目の前の床板に転がされたマンドラゴラは、
哀れ敵を倒すための腕も必殺の呪声を紡ぐための口も縛られ、すのこ巻き状態で動かなくなっている。
 そんなマンドラゴラを慣れた手つきでくるくると回しながら、ダークハンターはこう言うのだ。
「だってアルルーナなら動けなくなったところを茨の鞭でばしばしひっぱたいてこんな風にぐるぐる巻いて、
 血だるまになったところを改めて頂きまーす、でしょう?」
 褐色の指がマンドラゴラの細い触腕を掴んで摘み上げた。
 エトリアで戦った妖姫のことを思い出し、パラディンはそうだな、とうなずく。
「ああ、確かにそんなだったなあれは」
「そうしなかったってことは、手加減してくれたんですよ。おいら達が培った絆の勝利ですよ」
 無邪気に言うダークハンターだが、それに対するパラディンの反応はいささか冷めたものだった。
「でもいくらかでも正気が残ってますって風でもなかったよ、あれは」
「へえ?」
「殺されないで済んだのは、……なんでだろなぁ」
「それはそうでしょう」
「うわ!?」
 気配も無くいきなり割って入ってきたアルケミストに、パラディンは派手に声を上げて盾を構えかけ、
ダークハンターはマンドラゴラを放り出しかけた。慌てて掴み直した茶色い球根を二三、褐色の手がお手玉する。
「いきなりそうやって気配消して出てくるの止めてくれよ!」
「心臓飛び出るかとおもったっすよ……」
「はっはっは、そりゃ失礼」
 悪びれた様子も無く笑って、アルケミストはどっかりと二人の傍に腰を下ろした。
「……たく。で、なんて?」
「だってそうでしょう?性的な意味で暴発した結果があれなら、獲物を痛めつける意味は無いんですよ」
 獲物は捕食対象でなく、交接の対象だったわけですから。
 むしろ丁重に や さ し く 扱うのが生物の本能というものです。
 生物学の授業でもするようにあっさり言って、アルケミストはパラディンを赤面させた。
「うー……」
 パラディンが染まった頬を盾に隠す。アルケミストは涼しい顔だ。
「じゃあアルルーナはなんなのさ。あの娘、男も女も殺す気満々だったじゃないか」
「やー、単純に彼女が嗜虐趣味だったんでしょう。
 生理的に性欲を発散する術が無くて、それでも性的欲求を充足させようと思えば、
 そういう傾向を推し進めるしかなかったんじゃないですか」
「そういう傾向、ね」
 一発スマイトした後の彼の、ものすごく嬉しそうな顔を思い出す。
「……マスターがMっ気あって助かったってことか」
「ですねぇ。……ん、どうしました?」 
「ん?」

 二人がふと横を見ると、会話に加わっていなかったダークハンターは、
マンドラゴラをほっぽりだして胸元で両の拳をプルプルと震わせていた。


479:満開の季節…の少し後 2/2
08/05/04 02:38:18 I3ladOKD
「どうしたよ、ギ」

「……可哀想です!」

 ばん、と音を立てて褐色の手が床をぶったたいた。
 わいわいと作業を進めていたレンジャーの二人やドクトルマグスが、目を丸くしてこちらを見る。
「…………か、かわいそうって何がさ」
「だって!溜まる物だけ溜まって抜き方知らないって、それはっきり言って地獄じゃないですか!」
「抜き方とかちょっと、女性もいるのに」
「そのままずっと放置だなんて、あまりに可哀想です!」
「いやー、女性型モンスターにそういう表現を用いるのも違和感があるものですねー」
 止める気も無くのほほほんと言うアルケミストの向こうから、眉をひそめてひそひそと耳打ちをする女性陣の声が聞こえる。
 が、いささか己の義憤に酔っている気の有るダークハンターは聞いていない様子だ。
「何とかしてあげましょうよ!」
「……いや、何とかって」
「パラディンさん!」
 たじたじとしているその両手を、いきなりがっしと掴まれた。キラキラ光る金色の目が真正面から見つめてくる。
「ちょ、やめろよ!何で僕を見る!」
「だってマスターの時は貴方が」
「わーーーーー!!!それ誰から聞いたっ!」
「そんなもの現場見れば分かりま」
「わーーーーっっ!!!」
「下半身剥きd」
「わーーーーーーーー!!!!!」

 新人のたむろするギルド登録所のロビーに、公国最強と目されたパラディンの情けない事この上ない悲鳴が響き渡った。



「どうしたの、兄さん」

 腕組みして何事か考えているアルケミストに気づいたドクトルマグスが、その顔を覗き込んだ。
 彼はおどけた笑顔をしまいこんで、色々なものが散らばっている床をにらんでいる。

「いえ、これは一考の余地が有りそうだと思いましてね」
「冗談。……まさか、アルルーナを?」
「ええ。うまく行けばモリビトに貸し一つ作るチャンス、ということですよ」
「……でもアルルーナは、彼のように人の部分を持ってるわけじゃないわ。人との交接でどうにかなるわけじゃ無いでしょう?」
「まあそこは人間の多形性とわれわれの技術で何とかしましょう。別に妊娠させろと言うわけではないのですから」
「……ハードルは低い、か」

 ドクトルマグスとアルケミストが真剣に話し出したのを、大騒ぎする男二人はもちろん聞いていなかった。



 数週間後、エトリアの酒場に、執政院ラーダの名義で奇妙な依頼文が貼り出される事になる。
 下手をすれば娼館の宣伝文とでも取られかねないその張り紙は、暫くエトリアの噂好きたちの口を賑わせることになった。



で、クエスト依頼『僕らが抑えつけとくんで、この娘犯っちゃってください!』が発動するわけですが。
この先誰か続けて下さい。

480:名無しさん@ピンキー
08/05/04 02:42:55 dWXtmZ2W
リアルタイムでGJしにきたぜ。
たがしかし…奴はマンドレイクなんだ…

481:名無しさん@ピンキー
08/05/04 03:29:10 nwBWc622
OKやっちまったぜ。
後で置換しようと思ってたのに。
断末魔の叫び食らってhageてくる。

482:名無しさん@ピンキー
08/05/06 21:52:38 +aAEsbWj
保守がてら規制確認

483:名無しさん@ピンキー
08/05/07 01:48:15 hIpPdL6F
セル×♀ラブネタ書こうと思って挫折。
欝ということで方向性が違うとはいえ「戴冠」があまりに素晴らしすぎる…。

484:名無しさん@ピンキー
08/05/07 23:30:35 OjxN0TcW
保管庫に一作来てるのに報告ないのはなんでなんだぜ?
新作乙です。

485:名無しさん@ピンキー
08/05/09 03:43:13 7DQOiaSz
飼いならしたゼラチンキングの身体に誰を押し込んで服溶かさせるか妄想しつつ保守

486:名無しさん@ピンキー
08/05/09 03:53:05 K8/M9x6y
じゃあ俺もギルドが作った地図を他のギルドに勝手に売り渡した
ドリルダクハンをお仕置き陵辱しながら保守

487:名無しさん@ピンキー
08/05/09 08:53:47 M4Adlm0j
>486
それはけしからん。
一通りご奉仕させたあとは、メディ姉の催淫薬II服用の上
アーム&レッグボンテージで吊し上げの刑だな。

488:名無しさん@ピンキー
08/05/10 00:22:47 5q31rKYK
・最初、地図を売り渡していたことがバレてないと思っているドリルD子を拉致して拘束した直後
「いったい何のつもりなの、これ! 早く解かないと後でひどいんだから!」

・地図を売り渡していたことを指摘する
「し、知らないわよ、そんなこと。私がそんなことするわけないじゃない。……疑うの?」

・証拠を突きつける
「……どうしてもお金が必要だったの。ごめんなさい、許して。 ギルドのみんなには秘密にして。
 ギルドを追い出されたら、私には行くところがないの、だから……」

・縛ったまま脱がす
「お願い! それだけはやめて! 他のことならなんでもするから!」

・脅迫する
「……初めてだから、せめて優しくして」

古いエロゲにありそうな展開ですね。

489:名無しさん@ピンキー
08/05/10 00:46:38 LCtfYlRd
うちのドリ子はいい奴だからそんなことしないぜ!!

それはそうと全角256文字の携帯でどうやって小説書けばいいんだ…
おおまかな構想は出来上がってるから頑張りたいんだがなぁ………

490:名無しさん@ピンキー
08/05/10 02:08:59 6IkczQXH
先に原稿用紙に下書きしてネットカフェで入力だ!

491:名無しさん@ピンキー
08/05/10 03:05:17 Z1wifyMh
案外時間制限ある方が良いもの書けたりするんだぜ。
ネカフェで頑張ってくれ。

492:名無しさん@ピンキー
08/05/10 03:41:11 FIKUZvpd
紙に書いて撮影してうp

493:名無しさん@ピンキー
08/05/10 18:57:12 G3NlC0qb
>>489
新たな選択肢。

PCを買ってしまう。

494:名無しさん@ピンキー
08/05/10 22:47:56 LCtfYlRd
>>490-491
ネカフェかー。大まかな構想は決まったが締めがイマイチ分からないんでそこから頑張るよ。

>>492
俺は壊滅的に字が汚いが宜しいか。

>>493
な、なんだってー(AA略

実は>>236=俺とか言うオチ…ゲフンゲフン。いや、なんでもない。時間掛かりすぎ?自分の趣味で忙しいんですよ。

495:名無しさん@ピンキー
08/05/11 04:02:36 vcEJJ/Dh
健全小説置き場の自サイト最近閉めてさ、
けど白眉のセカキュ二次だけはサヨナラしきれなくってよ・・・
8レスくらいここ借りるわ

・ネタバレはⅠの一層攻略
・エロ、お色気なし
・設定の捏造多少あり

以上がおkな人は>>494を待つ間の暇つぶしとして付き合ってくだしあ

496:『深緑の星空』
08/05/11 04:06:23 vcEJJ/Dh
 小さな街、エトリアの外れでは大地がぽっかりと口を開いている。
獲物を求める蛇の舌のように、その大穴から豊かに葉をつけた巨木が伸びる。
 底を見遣るとそこには深遠の闇ではなく樹海の新緑が広がっていた。
 地の奥底で息づく命溢れる迷宮。
固有の生態系を持ち、無数の財が眠ると風説が飛んだその緑の奈落こそが、世界樹の迷宮だった。

 ・

 数多の枝を日に差し伸べ、原色そのままの果実や葉を垂らした木々。
丈の低い角ばった植物が踏み固められた道を縁取っている。
地中の森ではあるが比較的浅いこの階層は中天に陽が昇れば鮮やかな橙に色づく。
 のどかな熱帯林の様相を見せるここは異常発達した動植物、すなわちモンスターも弱く、
ほとんどの冒険者たちにはとっては探索されつくした易き道だった。
しかし近頃はそうも言えなくなっている。
「これはまいった。いや、まいったまいった」
 軽く腕を振る。両腕の籠手が陽を受けてきらめいた。
光るその表面には、昼間だというのに炯々と赤みを放つ眼が無数に映りこんでいる。
四方を取り囲むのはより深くに潜むはずの狼たち。
うなりの重奏が地鳴りのようだ。
「ちっとは焦ってくれってリーダー!」
 背中合わせのケンネが鎧を鳴らす。パラディンの大盾をふたつ並べて、きっと歯噛みしている。
 自分も焦れるものなら焦りたいのだがうまくいかない。
そういうふうに生まれついてしまった。
「どなっちゃいけませんよ。刺激せずに、視線で押し続けて。遠吠えがないから増援はないはず。まだ時間を」
 半ばひとり言のようにユクガがつぶやいた。
早く小さくなっていくその声は、切れ切れのあえぎにかき消される。
「処置はまだかかるようで」
 彼は私とケンネの間に屈み、見知らぬ冒険者に懸命の処置を施している。
出血の多さだけは素人目にもよくわかった。

「急げ、急げユクガ!」
「連中を刺激しないでくださいっ」
「いやいや、かかってきたから叫んだまで」
 包囲の輪から三匹が弾けるように駆けてきていた。ケンネも似たような光景を見ていることだろう。
腕を組むようにして左右の籠手の制御桿に十指を躍らせる。
ブゥン、と駆動音が内部で反響し、数秒で籠手と一体の手袋に術式が漲った。
瞬きする間に距離を縮めるフォレストウルフは不意に散開。
消えたと見紛う鮮やかさで前方、両脇から飛びかかって来た。

497:『深緑の星空』
08/05/11 04:07:25 vcEJJ/Dh
「見事見事」
 左拳を眼前に。腕(かいな)はこれより砲身と化す。
掌をつくった瞬間、術式が開放されまばゆい閃きが狼を焼き尽くした。
薙いだ左手から放たれ続ける雷が残る二匹も飲みこむ。
「うちのギルドよりもいい連携だ」
 軽口はユクガの不安を減らすため。
頭と舌と、身体を休みなく駆動させる。乱れぬ連動で群れは迫り来る。
「リーダー、平気か!」
「もちろん」
 ちらりと後方を覗く。
大盾のひとつを地面に突き立て剣を振るうケンネが狼の額を貫いた。
逆側から攻め寄せる牙を手にした盾で殴り飛ばす。ユクガを背にした彼自身が正に不退転の盾。
 向き直って右手を振るう。
冷気が迸り、狼を凍てつかせた。
さらに併走してやってくる四頭へと氷の術式を放った。それで止まるはずだった。
 うち一頭が平然と氷壁を突き破って爪牙を輝かせる。
スノーウルフ。色こそフォレストウルフと同じ雪白だが、その毛皮は冷気をまったく受けつけない。
 脇腹を狙った大顎はすでに籠手で弾くことも叶いそうになかった。
せめてもと気を張ったが、スノーウルフは直前で崩れ落ちる。
 一瞬呆け、そして白い体躯に突き立った矢を見た。
 流れ矢かと訝る間もなく次々と弦音がひびく。
一射一殺の威力と精度を誇る狙撃が雨と降った。
「ほう」
 駆け止まぬ狼さえ一矢のもとに倒れる。
いつの間に首魁を討ったのか、気づけば群れは統率を欠き、散り散りになっていた。
「レンジャーか?」
 ケンネが剣を盾の裏に収めてあたりを見渡す。
高い枝がゆれたかと思えばその真下から狙撃主が姿を現した。
緑を基調とした薄手の装備と片手に下げた弓。帽子とスカーフで顔は隠れていたが女性のようだ。
「助かりました。私はスマル、ギルドを代表してお礼申し上げます」
 彼女は眼で礼を返し、くぐもった声でこう言った。
「二割でいい」
「……報酬、いや狩猟の分配ということですか?」
 負傷者のキュアを済ませていたユクガが不安げに尋ねる。
好奇の視線を送っているスノーウルフを、惜しんでいるらしい。
めったに得られない強敵だ。しかも矢傷ひとつと状態も良好。
「いやいや、命の恩人相手にそんな分配はどうかと。持てるだけどうぞ」
 疲れ果てたこちらに大量の毛皮をはいで持ち帰る気力もない。
よくよく見れば群れに混じっていたスノーウルフはまだいるようだ。
 女性はわずかにためらうそぶりをし、ナイフを取り出した。
小さすぎる。案の定、硬い毛皮に苦戦しはじめた。
ケンネが見かねたように声をかけた。
「ほれ。使えよ」
 しゃがみこんだ彼女へ剣を柄から差し出す。
見開いた目でケンネを見上げる様に、どこか幼さを覚えた。
「いいのか?」
「いいからこうしてんだ」
「剣は……騎士にとって意味深いものだと聞いていた」
「そりゃぁなぁ。大事な方はしまってるからよ」
 ふたつの盾の背面にそれぞれ一振り。
その気になれば二刀を自在に振るうケンネだが、滅多に披露しないのはそのせいか。
 剣の扱いも見る間に慣れ、女性は血の滴る生皮をたっぷり持って行った。
聞きとれなかったがケンネは丁重な礼の言葉を受けたようだ。
 終始仲間が顔を出す気配はなかった。孤高の冒険者は、ここでは珍しい。
万年人手不足の当ギルドもまた物珍しいのだが。

498:『深緑の星空』
08/05/11 04:09:07 vcEJJ/Dh
 金鹿の酒場がいよいよ満席になりかけた夜半、息を切らせてユクガが戻った。
ムリに走ったのだろう、酔ったケンネより赤い顔をしている。
「執政院から……ミッションが発令、されましたっ!」
「とっくに知ってる」
 酒瓶を干して、つまらなさそうにケンネが応えた。
エトリアの政治と迷宮探索を司る執政院ラーダからのミッションは、樹海の大規模な調査か異変と相場が決まっている。
当然、耳の早い周囲の冒険者たちは先ほどからその話題でもちきりだった。
「狼がわんさかなんだってね」
 リバが弾む楽の音のように言った。その大群に奮戦してきた私たちを讃えるようでもあった。
「お前置いてってよかった。囲まれたら前衛も後衛もねえ」
 ケンネがリバの頭に手を置いた。酒に任せた兄の本音だろうか。
「歌も護身術もがんばってるつもりなんだけどなぁ。新しい歌だって覚えたのに。いつになったら認めてくれるのさ」
「人手が少ない分、適材適所ということでひとつ」
 それで彼女も不満げな表情を消した。
私にユクガ、加えてリバと後衛ばかり多くても唯一の前衛であるケンネが守りきれない。
軽度の探索や他ギルドとの連携時には充分活躍してもらっているし、今後もそのつもりだ。
適所を得たバードは掩護力において私など軽く超える。
「それでユクガ。単なる狼掃討以外のミッションも聞いたと思うけど」
「そう、そうなんです」
 ようやく呼吸が整ったらしい。コップを渡すと一息にあおって語りだした。
ユクガはもともと好奇心が高ぶりすぎてエトリアにやってきた学者。
迷宮内の生態系調査に熱心な執政院とのつながりは密だ。
「下層の強敵が迷い出てくることはそう珍しくないんですが、大群で来るのはさすがに……」
「ありゃぁ肝が冷えたな。鎧が大分傷んじまった」
「昼頃みたいな事件が頻発してるそうです。意図的な進出のようだ、と。軍が侵略してるようだとも」
「なるほど。確かに……」
 迷宮に踏み入って間もなく、袋小路であの負傷者を見かけた。
息があることに安堵した時はすでに囲まれていた。罠と言うほかない。
「レン、ツスクル両名の報告によれば地下五階に長と思しきモンスターが居たそうです」
「またレンさんとツスクルさんかぁ。憧れるなー」
 ことあるごとに聞く名前。現役最良と名高い二人組の冒険者だ。
同性のリバは陶酔にも似た面持ちを浮かべた。
「イヌっころだからまぁアタマはいるだろ、当然」
「ところがそう簡単な話じゃないんですよ」
「ほうほう。つまりそれが大物のようで、討伐ミッションが出た……こんなところで?」
 複数の群れで狼は攻め寄せてきていた。
群れごとに統率する個体がいるが、さらに群れそのものを率いる上位の個体がいるのだろう。
でなければ軍の比喩は現れまい。
「そのとおりです。恒例ながら両名は後進育成のため被害者救出に専念するとのことでした」
 明日までには長討伐ミッションが知れ渡るだろう。
その先は名誉と報酬を巡るギルドの競争となるが……

499:『深緑の星空』
08/05/11 04:09:37 vcEJJ/Dh
「どうするよリーダー」
「どうもこうも。そも、うちのギルドは適材でない」
「だってよユクガ。残念だったな大物の研究できなくて」
 突然素面に戻ったケンネが席を立つ。リバが去っていく背中を眼で追った。
「どこ行くの?」
「ケフト薬局。軟膏買ってくるわ」
「しまってるでしょ。明日にしよ」
「なーに、馴染みだ」
 手をつけていない酒瓶をひらひらと振ってみせた。
「まったく、何本呑むのんだろバカ兄。用事だってユクガさんに頼めばいいのに」
「さすがに調剤は遠慮させてくださいって」
「え……そだったね。ごめんごめん」
 手酌で詫びるリバ。彼女らしくもない。
 戦利品の売却や益金の分配といった作業はリバに頼むことが多い。
 売却する分にはなんの規制もないのだが、樹海で入手した品の扱いについては執政院によりいくつか制限が敷かれている。
たとえば調剤には認可制度があり、ユクガは申請していない。
 そんなことを彼女が忘れるはずはないのだが。
「でもみんな大きなケガもなくってよかった」
 リバが周囲を盗み見た。大半のテーブルに少なくともひとつは、血のにじむ包帯姿がある。
「いやいや、僥倖だった。腕利きのレンジャーに助けられて」
「顔上げたらびっくりしましたよ。彼女、ひとりだったんですかね」
「ええっ、女の子がひとりで迷宮に!」
「おそらくは」
「すごいなぁ。名前は? 若かった? ギルドに入ってないってことかな? 誘ったりは?」
「今日会ったばかりで知らないことばっかりですって」
「ひとつも、ね」
 一言加えてユクガを質問攻めから助けておく。
「そんなウワサも聞かないし、謎のレンジャーさんってことかぁ」
「顔は隠れていて、服装もなんら特徴なし。あぁ……しかし今日はどこかで目立ったかもしれない」
「確かにあの後姿はちょっとブキミでしたね」
 非力なくせにスノーウルフを三頭ほど担いで帰ったのはどこのメディックだったか。
けれども、生皮を提げた小さな背中を思って苦笑するのは納得できる。
興味を強めたリバに話すとかえって感心されてしまった。
「……さて」
 やがて漂う解散の気配。
場を閉めるのはギルドマスターの務めだ。
「狼のこともありますし、次回の集合は五日後に」

500:『深緑の星空』
08/05/11 04:10:13 vcEJJ/Dh
 数日ぶりに訪れた迷宮はひどい様相だった。
入口から降り立ってすぐ冒険者たちと狼の乱戦がありありと見てとれる。
 術式で焼け焦げた木々、深々と斧の刃でえぐれた地面、陽光を照り返す装備の砕片。
果樹はあらかた食い尽くされ草陰からは狼のものと思しき腐臭が漂っていた。
この階層に巣食っていたモンスターは身を潜めたらしく、木の葉をゆらす音さえしない。
 十頭いくらの報酬がかかった狼掃討ミッションは数日の間に終息しつつあった。
 冒険者が地の利を得たことが大きい。
迷宮の入口で充分に体力を持った状態で戦えるのだから。
五日を待たずに、群れが後退しはじめたとウワサが流れていた。
「すごいことになってるねぇ。でも、鎮まるの早すぎない?」
 寝かせた手を額に、あたりを見渡すリバ。
 一行の盾を務めるケンネは気を尖らせ閉口していた。妹がいるせいでもあるが。
全身を覆った鎧だけが歩みに伴って鳴り騒ぐ。
「一日そこらで交わって孕んで産まれて育つはずもなし」
「捕食の連鎖は先細りのバランスですしね。相手も動物、増えれば減ります」
 兵糧が尽きたとでも言うべきかも知れないが。
後退こそすれ……群れは地下四、五階にいまだ跋扈しているようだ。
「みんながんばって倒したんだもんね。どうしてアタシたちも出なかったの? おいしいミッションだったのに」
「うちはそういうギルドではない。お忘れで?」
「それはわかってるつもりだけど、さ」
 今回の探索は多少踏み入って鎧の材料を手に入れるためだった。
 チームの要であるケンネに、もしもがあってはいけない。
パラディンとは、だれよりも強くなければならず、だれが倒れても立ち続けなければならないものだ。
 やがて何事もなく目的の地下三階までたどり着いた。
迷宮に点在するうつろな巨木は、内部が階段状に変形し、深く深く冒険者を誘う。
階層という概念もここから来ている。
「……やばいんじゃないかリーダー」
「確かに、妙か」
 静かすぎた。ただの一度もモンスターと出くわさなかった。
しかし戦いの痕跡はさらに凄絶さを増して、道しるべのように続いている。
 より進めば、より狼の長に歩み寄ってしまうだろう。
白い軍勢を率いる長は徐々に増える目撃例から、いつしかスノードリフトと呼ばれていた。
 吹雪の名を冠したモンスター。目撃者はすなわちレン・ツスクルに救われた被害者でもあり、その言はあやふやなものばかり。
あの二人組も救出に追われ観察のいとまもないという。全貌は今もって知れない怪物だった。
「だからもうちっと緊張感のある顔しろ!」
 顔がヘルムに覆われているというのに、ケンネの視線は突き刺さるよう。
「別に笑顔でもないかと」
「そんなんだったら余計気味悪ぃ。殴ってるぞ」
「いっつも眠そうな顔してるよ」
 この兄妹は変わった具合に声をそろえるものだ。
「私も困ってる。いやはや、感情乏しく生まれてしまった」
 半ば口癖のような弁解を聞かせても度々この態度は槍玉にあげられてしまう。
耳にタコができてるとケンネはこぼしたが、その言葉も私の耳にタコをつくっていた。
 とはいえ一度怒鳴れば割り切る男だから問題視することもない。
 話すうちに開いたままの扉に差しかかった。
根が張ってそのかたちで固定されてしまった両開きの木づくりだ。
三叉路のような開けた場所につながることもあって、冒険者が待ち合わせる際のいい目印になる。
「みなさん……どうもけんのんな気配ですよ」
 不意に彼方を見つめてユクガが言った。視線の先には四つの人影。
 色黒のダークハンターがブシドーの少女を抱えて走って来る。
その後を似たような具合の冒険者ふたりが追う。青白い顔と、武具の血のりで撤退と知れた。
 譲った道を脱兎のごとく駆けていく。すれちがいざまに目礼を受けた気がした。
「リバ、戻れ。あいつらについてけば大丈夫だ」
 沈むような低音でケンネが鋭く言い放った。
リバの不安げな円い目がゆれ動いて私にすがる。顎を振って兄に従うよう、うながした。

501:『深緑の星空』
08/05/11 04:11:14 vcEJJ/Dh
 十指はとうに制御桿を通して籠手に戦いを告げている。
静寂にも思えた木々の間を、いつからか遠吠えばかりが行き交っていた。
「平気です。また無傷で帰りますから」
 やさしく笑うユクガだが冷汗が横顔を確かに伝い落ちた。
「スマルか、スマルだなっ!」
 もうひとり、同じ方角から駆けてくる剣士の姿。
過去にギルド規模で共闘したソードマンだ。さきほどのしんがりと言ったところか。
「大群で来やがった! ヘタすると残りの全勢力だっ」
 こちらへ呼びかけるその背後から、影が躍りかかる。
「危ないっ」
 ユクガの叫びは尻すぼみに消えた。
 フォレストウルフの頭が焼け焦げて地に転がる。
雷の術式と、重なるように放たれたソードマンの一閃。久しいわりには鮮やかなチェイスショックだった。
「助かった!」
「それより、彼女とここを離れて」
「お前らはっ」
「気にすんな。さっさとそいつ宿に届けてくれ、大事な妹なんだよ」
 諸手の盾を足元に突き立て、ケンネが言う。
「いいか、やばくなったら逃げるんだぞ。できるだけ速く数そろえて助けに戻る!」
 察したソードマンが太い腕でリバを抱え、駆け出す。
「やめてよっ、私だって戦える! 残る! みんな……っ!」
 悲痛な声が耳に残った。
 振り払うようにケンネが雄叫びを上げ、固定されたはずの扉を引く。
からんだ根がみしみしと音を立て、鉄のブーツが地面に沈み、ついに扉が少しずつ動き出す。
 その間に襲ってくる狼は雷の術式で迎えるが、撃ち漏らした分は容赦なくケンネに食らいついた。
腕に足に脾腹に肩に無数の爪牙が圧をかける。
フルメイルが軋み歪んでいく中で、それでも彼は扉を引く。深い溝は指の跡。
 からみつく狼を、必死にスタッフを振るうユクガと共に引き剥がすころには、わずかな隙間だけを残して扉は閉まっていた。
術式で念入りに凍りつかせる。その間にケンネはたたらを踏みつつ歩き、手ごろな木の下に座りこんだ。
「大丈夫ですかっ!」
「ああ。左足、きつく縛ってくれ」
 鎧の傷みがひどい部位だったのだろう、広がった隙間から牙が腿に届いている。
 止血措置を受けながら、ケンネは顔を動かした。
冒険者たちとリバが走っていった方向。表情はヘルムで隠されてうかがえない。
「早く逃げましょうよ!」
「この分では余所でも似たような状況かと。下手を打てば挟撃される格好に」
「だったら人手集めて来てもあんま意味ねぇな」
 大軍同士でも各地に分散すれば個々のギルドで戦うのと大差はない。
「さて。どうするよ……リーダー」
 ケンネが、不敵な声で言った。痛み止めの葉を差し出しながらユクガは凍った扉を見ている。

502:『深緑の星空』
08/05/11 04:12:42 vcEJJ/Dh
「どうもこうも」
 狼たちが氷の錠ごと扉を打ち破ろうとする音がひびいていた。
「冒険者全体の被害状況、群れの規模、未知数の首魁。いずれをとっても尋常ではない」
 扉はそう長くもたない。そも、入り組んだ樹海には網の目のようにいくらでも道がある。
線を一本断ったところで詮なきこと。
「けれど、ここまでされれば手はひとつ。報復のほかにない」
「なに言ってるんですか!」
 ユクガがほとんど悲鳴のような声をあげた。
「言ったように下手に戻れば挟撃される。が、私たちが残ればリバたちにそのおそれはない」
 しんがりは余力を持つものが担当すべき。
懸念は迂回路で彼女たちを追撃する群れがいる可能性。
「であれば後続の狼がすべてこちらに向くよう派手に振舞う。ケンネはついでにキズと鎧の意趣返しでも」
「それをたった三人で? チェスじゃないんですよ!」
「あきらめるこったな。私事であれだが、リバを無事に帰すためだしよ」
 死も辞さないという調子だった。
「……まったく、仕方ありませんね。お供しましょう」
 眉をひそめて嘆息ひとつ。
おもむろに二振りの剣を引き抜くケンネ。盾はユクガに押しつけられた。
「勝算も勝機もない。落命と救援どちらかが速いのか。まぁ……」
 合図のように左脇の木陰へ雷を放った。
「せいぜい、華々しく」
 火花が葉を食らって燃え上がり、数頭の狼を引きずり出す。
一直線に飛びかかる大顎をケンネの剣が薙ぎ払い、斬り上げ、両断。血潮が炎のようにしぶいた。
 返す刀を振り向きもせず背後へ。半円に滑る刃が奇襲を狙った鼻先にかする。
すかさず反転。
「バーカ。鼻息荒いんだよ」
 逆の剣を押しつぶすように叩きつけた。
「見事見事いや見事」
 拍手でもしたかったがこちらの両手にも暇はない。
扉の氷を張り直しつつあたりへ雷を。とどろく雷鳴が敵を屠り、さらなる敵を誘う。
茂みから次々と狼が姿を見せている。
 ムチを振るうように掌から伸びる雷をしならせるが、細すぎる。
広範囲の術式を起動させている時間はない。
 ケンネのようには捌ききれず、狼の接近を許してしまう。
厚手の服に幾条もの爪跡が刻みこまれる。かかった。
狙いどおりに爪は服に絡めとられた。逃がさず頭を鷲掴んで氷の術式。
スノーウルフといえど、脳まで凍る。
 籠手から漏出する冷気と雷に焼かれた亡骸から立ち昇る煙。
二色のもやが足元で低く渦を巻く。
「もういいでしょう! 充分引きつけてます」
 ユクガも引きずられるようにスタッフを扱い戦っていた。
四方から攻撃を受けるケンネに寄り添い、助け合うかたち。派手な返り血まで分けてもらっているようだ。
「そうだな、リーダーも温存しとけよ!」
 言う間に戦い方が変わる。剣舞のように目を引く大仰な動きはついと消え、一挙一動が静かな構えに。
両断ではなく一撃必殺を狙った最低限の太刀捌き。
「挑発の次は根競べ。ここからが辛いところ……か」
 制御桿を操作、術式の放出量を再設定。限られた残量をもたせるには小出しにするしかない。

503:『深緑の星空』
08/05/11 04:13:15 vcEJJ/Dh
 扉の凍結を打ち切って少しずつケンネたちに近寄る。
無数の屍を踏み越え、血のぬかるみに靴を浸し、驟雨のような爪牙を浴びる。
五日の間に用意した鎖帷子もすっかり磨滅してしまった。失血のせいか、体温の低下も感じた。
 それからはただ耐え忍ぶだけだった。
狼たちは倒すそばから増援を呼び寄せ、わずかでも手間どれば三頭が四頭、四頭が五頭と膨れ上がる。
 ユクガが私たちの死角を補って叫ぶたびに身を返し、すんでのところで攻撃をかわす。
 視界のすみに映るケンネの鎧は次第に砕かれ両手足の肌をほとんどさらしていた。
かく言うこちらも確実に籠手が軽くなっていくのを感じている。
それはすなわち内部の薬品が減少し、術式を放てる限界へと一歩ずつ踏み出す感覚だった。
扉を再度凍らせるだけの量はもうないだろう。
 瞬間だけ扉へそらした視線が、なにかを捉えた。
閉じきらなかった隙間を埋める氷。透明なその向こうに暗紅色の眼球が浮かんでいる。
気づけばいつ止んだのか、扉をかきむしる爪の音や狼が身体を打ちつける震えはない。
「なにやってる! 術式切れなら下がれ!」
 眼前を刀身がかすめ、狼を斬り捨てた。その勢いのまま刃の血を振り落とす。
周囲で動くものはなく狼の猛攻は止んでいた。少なくとも今は。
「耐え抜きましたね。なんとか」
「いや……まだ、まだ」
 言葉をさえぎるように扉から轟音がひびいた。
短く高い音が後に続き、錠代わりだった氷に亀裂が走る。扉は明らかに強烈な衝撃にたわんでいた。
 再び垣間見えるあの暗い赤眼。
間をおかずに再度砲声にも似たひびきがあたりを駆け抜ける。
衝突。それも大型獣の。暴れ牛などではないだろう……可能性はひとつしかない。
 二度目の衝撃であっけなく扉は開きはじめた。
そよ風に押されるような緩慢さだが決して止まることもなく動き続ける。
徐々に広がる景色の中央に、輝くような白い巨躯が。
上顎の両端から剣状に尖った牙が伸び、もやに似た吐息が漏れていた。
 それだけで、あたり一面が冷えていくようだ。
「スノー……ドリフト……」
 だれがつぶやいたのか。
確かにあれは、吹雪と称するにふさわしい四足の異形だった。
「ケンネ」
「いいから行け! 残って死ぬのはオレの持分だ」
 逡巡の間もなく状況が動いた。
長に侍っていたのかスノーウルフが三頭疾走。
見覚えのある散開で三方からケンネを狙うが正面の一頭が、遅い。
二刀のきっさきが両脇へ向かった瞬間にそれは急加速。同胞の遺骸を跳び越えユクガへ顎を開く。
 とっさに腕を出していた。
左の籠手に噛みつかれ勢いのまま倒れこむ。
「スマルさん!」
 狼の脳天めがけスタッフが振り下ろされた。
ひるんだところを両手の術式で仕留める。上半身を起こすと続いて現れた二頭が目に入った。
一方はケンネに躍りかかり他方は再度ユクガを目指す。
声をかけることさえ叶わず頭突きが脾腹をしたたか打ち、ユクガは転げるように崩れた。
 その狼はすぐさま身を返しこちらへ牙を向ける。
交差させた腕を盾に。姿勢がまずかった。術式を放てず組み敷かれたまま押し合うことしかできない。
非力な後衛職、それも持久戦で疲労も極まった状態。じりじりと牙と真紅の喉が眼前に迫る。
先端が頬に触れ突き破るかという瞬間、不意に重みが消えた。

504:『深緑の星空』
08/05/11 04:13:46 vcEJJ/Dh
 いや……体力が戻っているのだ。
徐々に強まる膂力が劣勢だった押し合いの流れを奪い返し、拮抗にまで立て直す。
心臓がひときわ脈打つのがわかった。
「 寄る辺なき兵士よ 生家は遠く祈り届かず 消え落つ夕日にその身を重ね見る 」
 背後から涼風が吹き抜けたようだった。独唱が凛と広がり染み入る。
見れば、そっと草をなでるように足を進めるリバ。組んだ手を胸に、目を閉じたおだやかな微笑を浮かべて。
「 干戈の火花が如き生 きらり煌き闇の中 星の瞬く様に似て 」
 ユクガは身を起こし、見惚れていた。
 ケンネは数頭の狼と渡り合いながら、口笛を鳴らしている。
 座して戦いを眺めていたスノードリフトが吼えた。
聞きつけた一群が四方から殺到するが、不可視の壁に阻まれたかのように、リバへは届かない。
鼓舞の言霊はかすかもゆるがずに紡がれ続ける。
「 無数に煌き闇の中 寄りて描きて夜空の神話 朽ちぬサーガが地上を照らす 」
 次々跳びかかっては崩れ落ちる狼たち。角のように矢を頭に埋める。
聴けば、拍子をとるように一定のリズムで弦音がひびいている。
「 神なき流浪の身なれば 星よ彼らに冥護あれ 」
 立ちどまり開いた目には涙が光っていた。
ほぼ同時に群がる狼は一掃され、リバがうつむき、兄の背に抱きついた。
「どうだバカ兄。私だって……ギルドのメンバーだ」
 返事は、鉄のきしみ。ヘルムがリバにかぶせられた。
そっと離れたケンネがまっすぐ歩いていく。横顔は快哉の笑みを隠そうともしていない。
「持ってろ」
 スノードリフトが空へ咆哮し身体を振り下ろす勢いで牙を突き立てる。
二刀でもってケンネがしのぎ、激しい斬り合いを演じはじめた。
「お、重たい! 見えない!」
「口元の部品が確か動くかと。リバ……先ほどの狙撃はもしや」
「シグちゃんが助けにきてくれた」
「……シグ、か。それにしてもちゃんとは」
 仲良くなったものだ。
 獣の亡骸を買い取る店舗は多くない。訊いて回れば五日で探し出せる可能性は充分にあった、ということか。
「スマルさん術式は残ってますか?」
「今確認した。しぼってせいぜい雷一発」
「そっちでよかった。その一撃はぼくに預けてください」
 狼のそばに腰を下ろすユクガ。その手は手術用の小刀を握りしめている。
戦うことはできずとも亡骸に刃を入れていく手腕は鮮やかだ。筋肉の走り方や骨格を把握しきっている。
意図は知れないが、任せてみよう。
「もう帰れとは言わない。続きを、リバ」
 笑顔をこちらに向けてから彼女は目を閉じた。兄とよく似た笑みだった。
声韻朗々と木々の狭間に染み渡り、賦活の音があたりを包む。
ひびくほどに、奮い立つ。
 ケンネの剣が徐々に太刀風をうならせていく。
頭上から迫る大振りの爪を背負うように受けとめ、続く牙を逆手で弾く。
横薙ぎの軌道を捻じ曲げて突き入れると巨躯は俊敏に身を下げる。
流れるような拮抗だが力わずかに及んでいない。ケンネの全身に赤い爪跡が増えていく。
「半歩下がって!」
 素早くケンネが身をかわす。追うスノードリフトの手に、矢が数本降り注いだ。
巨獣のうめきが空気を震わせる。
「粘って。掩護するから」
 弓取りの少女があろうことか姿を見せていた。
「出てくることないだろう! 第一そこだったら!」
 シグとスノードリフトを結ぶ直線上にケンネがいる。
「わかってる。大丈夫だから」
 視線が彼を射抜いたようだった。
ヘルムを外したケンネは、表情の移ろいがよくわかる。口元をスカーフでおおったままのシグとは対照的に。
「……好きにしろ」
「うん」

505:『深緑の星空』
08/05/11 04:14:31 vcEJJ/Dh
 ケンネが背を向けるとすぐさまシグは弓に五つの矢をつがえた。
いずれも石づくりの先端、石鏃。そのきっさきが天を指し示した。
ちぎれんばかりに弦を張られた弓は仰角およそ七十五度を向き、それぞれ異なった角度で五本の矢を乗せている。
 それが瞬間に消えた。
いや、そう錯覚するほどの速度で撃ち出されたのだ。顔を上げて、まぶしさに目をかばう。
地下だというのに若葉の隙間から陽光が漏れ、点在するその光源が樹海に色と熱とを恵んでいる。
折り重なって黒く翳った葉の屋根と無数の光点はまるで星座のよう。
 燦然たる眺めの中、見失っていた石鏃が音を立てて落ちてくる。
みるみる加速するかと思う間に巨獣の両手足を地に縫いつけ、片目を貫いた。
悲痛な咆哮が木霊する。
「だぁぁぁああぁぁぁッ」
 視界の端から人影が飛び出した。ユクガだ。
頭上に掲げた白いかたまりをスノードリフトの顔に叩きつけた。
水気のある音と共にそれは四散する。
「狼の脂、よく燃えるんですよ。ファイアオイルほどではないですけどね」
「なるほどそういうことで」
 雷光一閃。打ち止めの術式も着火の用は果たしおおせた。
炎で橙に明滅する巨体に深々とケンネの剣が滑りこむ。
幾秒かそのまま静止した両者だったが、やがてスノードリフトだけがくずおれた。
絶えることのなかった歌が調子外れの歓声になった。

 戦いの後始末をしていると一頭の狼がこちらに目もくれずに走り去っていった。
草陰の中もなにやら駆け抜けているようで、断続的に音がする。敗残兵がまた群れることも当分ないだろう。
「さて。狼退治のミッションも今日限り……か」
「また静かに探索ができますね」
「おっと? 狼研究に執心かと思っていたが」
「フォレストウルフとスノーウルフはもう充分です。炭を持ち帰っても仕方ありませんし」
 ユクガは続けて、焼いたのはぼくですが、と苦笑する。
「しっ! ちょっと静かにしてて、バカ兄が動いた」
 無残にもすっかり黒くなったスノードリフトのそばで三人、息を潜める。
リバが見つめているのはシグに歩み寄るケンネだ。
「悪いな……リバにムリ言われて連れてこられたんだろ?」
「来たくて来た。助けてとは言われたけど」
 セリフの前半からリバが妙にはしゃいでいた。
「剣、貸してくれたから」
 なんのことかとユクガに尋ねてから、リバが今度はきゃあきゃあ言い出す。
「だからってよお。手ぇ見せてみろ」
 直後、シグの手袋が強引にはぎとられた。赤く擦り切れた指先がこぼれる。
いかに狙撃主といえど、やはり無事では済まなかったか。あれだけの量と速度で弓を扱い続けたのだから。
その細い指にぎこちなく包帯が巻かれていく。急なケンネの行動にシグは戸惑っているようだった。
「手ぇ震えすぎ。イヤか?」
「慣れて、なくて」
「ま、堪忍しとけ。練習台だ」
 無骨な所作は彼らしくはあったが、キュアそのものはおよそ似つかわしくない。
「いつ覚えたんでしょうね」
「ケフト薬局に通ってみんなに内緒で練習してるんだよ。きっかけは特にないみたい」
「ほほう……それをあのように活かすとは。いやお見事」
「バカ兄にしてはやるでしょ。うまくいけばこれからもシグちゃんといっしょに戦えるんじゃない?」
 無邪気にはしゃでいるだけかと思えばなかなかに計算高い。
 ふと、逃げ散る狼とはちがう足音がして目をやると、先刻のソードマンが息を切らせてやって来ていた。

506:『深緑の星空』
08/05/11 04:15:45 vcEJJ/Dh
「おーい! 無事かーっ、て……その黒いの……」
「スノードリフトかと」
「……一応訊くが、倒したのはお前たちだよな?」
「はてさて」
「オイ、またか。また前とその前とその前の前みたいなこと言い出すのか」
 ソードマンのにらみをよけて、仲間たちの表情をうかがう。
リバは問題なしと親指を立て、ユクガは苦笑いでうなずき、ケンネは我関せずと背を見せる。
シグは状況が呑みこめていないようだったが、ひとり放り出すわけにもいくまい。
「私たちはなにも。気づいたらこんな具合に」
「んなことあるかよ! いい加減手柄捨てんのもやめて執政院に名乗り出ろ!」
「いやはや身に覚えがなくてはどう名乗ったものやら。ザコ掃除で疲れたのでお先に失礼」
 聞こえよがしな溜息を背に、歩いていく。
数少ないギルドメンバーが続き足音を重ねる。シグも、リバに引っ張られている。
今はただ、空が見たい気分だった。
 冒険者で溢れかえるエトリアにあって人手が足りないギルドは珍しい。
まったくの無名ギルドなのだから、ムリもない。


:::::::::::
以上。
すまんレス数計算全然違ったわ、半年ROMる



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