キモ姉&キモウト小説を書こう!Part10at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part10 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/03/03 16:45:16 U8MotKmX
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません

3:名無しさん@ピンキー
08/03/03 16:45:53 U8MotKmX
■誘導用スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 往生47
スレリンク(eroparo板)
ヤンデレの小説を書こう!Part14
スレリンク(eroparo板)
いもうと大好きスレッド! Part4
スレリンク(eroparo板)
お姉さん大好き PART5
スレリンク(eroparo板)

4:名無しさん@ピンキー
08/03/03 16:53:05 CPdoJZsp
ちおつ

5:名無しさん@ピンキー
08/03/03 17:05:40 uReA59DU
少し早い気もするが乙

6:名無しさん@ピンキー
08/03/03 18:10:02 D3kIMy2Y
1乙

7:名無しさん@ピンキー
08/03/03 18:20:23 qzTZ4Qej
ドラゴンボール乙

8:名無しさん@ピンキー
08/03/03 18:29:17 nHh+8dh6
>>1乙兄ちゃん……
さぁ、行こ……

幸せになるの……

9:名無しさん@ピンキー
08/03/03 18:34:29 ULHRfdZ/
>>1
もう10スレ目か

10:名無しさん@ピンキー
08/03/03 19:34:55 ELsCQ3GC
>>1


11:名無しさん@ピンキー
08/03/03 19:36:18 ELsCQ3GC
sageるの忘れてた…orz

12:名無しさん@ピンキー
08/03/03 23:54:44 dU7YN4pJ


13:名無しさん@ピンキー
08/03/04 00:50:46 jgySssGy
そういえば>>1>>1の奥さんって、よく似てるよな。

14:名無しさん@ピンキー
08/03/04 01:00:30 a9zyHx9s
実は生き別れの双子の妹らしいぜ

15:名無しさん@ピンキー
08/03/04 01:21:49 sdyPKjD9
兄妹結婚イクナイ!(・A・)

16:名無しさん@ピンキー
08/03/04 02:19:09 9bFSt/Ve
>>15
後ろで怖い顔してるの、おまえさんの妹じゃまいか?

17:名無しさん@ピンキー
08/03/04 02:19:30 Bt/xuQ58
一乙

18:名無しさん@ピンキー
08/03/04 14:27:11 5LCKb4Mw
お前らときたらwww

19:名無しさん@ピンキー
08/03/04 18:22:41 sdyPKjD9
>>16
ああ、あれ?あれは弟だよ。だから安全。

20:名無しさん@ピンキー
08/03/04 18:30:18 m5Jc90z3
しかし、弟は実は妹。実の兄にすら正体を晒さぬ男装の麗人だったのである。

21:名無しさん@ピンキー
08/03/04 19:18:40 Cdbtffjt
>>19
いやその反対で見てるショートカットの女性は………



君の姉さんのはず!!

22:名無しさん@ピンキー
08/03/05 07:32:37 4xSU5jtT
職人が多いおかげでスレの消化が早いな
実に嬉しいことだ
初代スレの立ち上がった経緯からは考えられん

23:名無しさん@ピンキー
08/03/05 14:47:40 5zoHZaBl


24:名無しさん@ピンキー
08/03/05 19:12:19 eAXmoecz
あー・・・俺の行動すべてに口出ししてくるキモ姉が欲しいなー

25:名無しさん@ピンキー
08/03/05 19:16:44 b6pMR1qV
姉「>>24ちゃん! こんなスレに書き込んじゃダメ!」

26:名無しさん@ピンキー
08/03/05 20:20:19 +aqIlPOP
>>24
姉「もう!トイレットペーパーは20cmまでって何度も言ってるでしょ!」
姉「何度言っても治さないんだしお姉ちゃんが直接手伝ってあげるしかないよね・・・?」

27:名無しさん@ピンキー
08/03/05 20:27:07 r/CCfocb
「俺、シブタク。一緒にお茶しない?」
「私、ブラコンですから。お断りします」

これぐらいしか思いつかないぜ

28:名無しさん@ピンキー
08/03/05 22:18:11 wC5ZJ7xC
シブタクw

あーそういえば粧裕がキモウトでデスノートを拾って……なんて版権パロネタを考えたこともあったっけ

29:名無しさん@ピンキー
08/03/06 00:29:33 /MqXhXrE
age

30:名無しさん@ピンキー
08/03/06 00:37:49 3gU3sGeV
>>24
お前がマザコンだったらよかったのに・・・そしたらうちの母さんあげてたのに。

31:名無しさん@ピンキー
08/03/06 03:22:05 qZ/NHvN1
リアル姉とはまあまあ仲いいが、ガチで姉さんに恋してる俺はもう人としてダメぽ…orz

このスレで何とか我慢してます…
やめなきゃいけないって分かってるんだけど姉さんで抜いてしまう…


もうおかしくなりそうだよ…

32:名無しさん@ピンキー
08/03/06 03:30:27 X0X0+YSI
姉弟っていっても男と女だしなぁ・・・

33:名無しさん@ピンキー
08/03/06 03:37:37 qZ/NHvN1
単なる性欲対象ではないんだ…
オナニーする時姉以外を想像出来ないってだけで、
姉さんと一緒に出かけたり飯食ったりのんびり過ごしたいって気持ちが強い。

でもそうするとますます気持ちが募るから最近姉のこと避けてるよ…




34:名無しさん@ピンキー
08/03/06 03:54:10 C2ukH2HE
キモウト(キモおとうと)だな

35:名無しさん@ピンキー
08/03/06 04:10:30 4X8BBXB0
キモーターやなw
キモウトモーターズなんやなw

36:名無しさん@ピンキー
08/03/06 04:19:28 qZ/NHvN1
やっぱりキモいよな…

姉さんごめんよ、こんな弟で…(ノ_・。)

37:名無しさん@ピンキー
08/03/06 04:19:37 Ze5NVkZ9
>>33
前スレで埋めがてら語ってみないか?

38:名無しさん@ピンキー
08/03/06 17:20:18 vF4phUQo
>>36
顔次第ですね

39:名無しさん@ピンキー
08/03/06 22:35:22 3gU3sGeV
>>36
お前の体験をどうにか姉→弟に変換できない?
男→女はどうも気持ち悪い><

40:名無しさん@ピンキー
08/03/07 00:53:16 340ZjLQE
「ごめんね、たーくん。こんなお姉ちゃんで……」

だったら萌え燃えなのにねえ

41:名無しさん@ピンキー
08/03/07 01:23:38 TluRiIlA
こうなったらキモ兄、キモウトスレを立てるしか…!

42:名無しさん@ピンキー
08/03/07 01:27:33 1ojNSpv2
……腐の集いか

43:名無しさん@ピンキー
08/03/07 01:32:09 340ZjLQE
妹がキモ兄に色々されるとかもあるだろう。ショタ好きな男もあるだろう。
それとも君はショタ好き=腐とか思ってるリトルアヌスマンか?

44:名無しさん@ピンキー
08/03/07 01:44:54 VF46B4k/
鬼畜の臭いがするな
確かレイプスレに他の男に盗られるならってんで
悪友と結託して姉さんをレイプする話があった。

45:名無しさん@ピンキー
08/03/07 01:51:47 nvV7xyFJ
勘弁してください

46:名無しさん@ピンキー
08/03/07 02:26:27 XY9xlA0G
もうこの流れはいい加減にしようぜ

47:名無し@ピンキー
08/03/07 02:38:03 DJoTx4Ju
キモ姉に愛のエプロンで是非とも特製ハンバーグを作っていただきたい俺がいる。

48:名無しさん@ピンキー
08/03/07 03:26:45 oZx5IkUG
バケツに出したら殺されそうだな

49:名無しさん@ピンキー
08/03/07 10:58:50 ufpPvVYj
――ここまで投下無し――

↓以下、投下ラッシュ

50:名無しさん@ピンキー
08/03/07 16:16:37 FQnw00h1
このスレは突然投下ラッシュが始まるから困る

51:名無しさん@ピンキー
08/03/07 19:30:43 vYfZoaqo
>>43
男→女はキモイんだよ!!スレ変えやがれ!

52:名無しさん@ピンキー
08/03/07 20:43:20 ho4qL24n
本当に成人してるのか怪しいレスがあるな

53:名無しさん@ピンキー
08/03/07 22:18:46 IkfsAfkq
いいじゃんいいじゃん
ヤンデレ幼なじみにヒットアンドアウェイしながら職人を待とうよ

54:名無しさん@ピンキー
08/03/07 22:32:50 IkfsAfkq
ヤンデレスレと勘違いしてた、済まぬ orz

55:名無しさん@ピンキー
08/03/07 23:16:39 MF3UUTCz
ヤンデレ成分はあるけどね

56:無形 ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:22:53 Fybgsp4k
お久しぶりです
2月に投下すると云っておいて投下遅れてしまいました。申し訳ありません
本年も宜しくお願い申し上げます

57:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:24:55 Fybgsp4k
※※※

心が震える。
そう云う“何か”を留めおきたいと願うのは、至って普通の感情だと思う。
例えば景色を。
例えば世界を。
例えば想いを。
本当に美しいと感じた時。
心に。
写真に。
或は絵画に。
記録し、記憶しておきたいと考えるのは当然の事だと僕は考える。
歴史上の誰かが行幸先の景色を認め、「この風景を切り取って持って帰れ」と、命じたのは有名な話。
歴史も、そこに生きた人人の在りかたを残そうとする行為も、それらの近親なのだろう。
“それ”を志す僕の姉。
彼女は今、広い庭で胴衣を着て、型を取っている。
流れ、止まり。また流れ。
それはさながら舞の様で。
見ていると―それだけで心が震える。
纏う空気も。
凛とした生き方も。
“残したい何か”、“留めおきたい何か”、と云うのは、多分、こういうものなのだろう、と思えた。
「クロ、そんな所に座ってないで、貴方も身体を動かしたらどう?」
縁側にぼんやりと腰掛けている僕に、姉は目を向ける。
「最近怠けているでしょう?身体は常に動かしておかないと駄目よ?」
「しろ姉さんこそあんなに長いこと寝込んでたのに、急に動いたりして平気なの?」
「勿論」
僕の問いに、姉は胸を張る。
「この間までは臥せっていたから、その分の勘を取り戻しておかないと」
云いながら放つ突きは速い。
体重の乗せ方、力の入れ方、総てが理に適っている。
当たったら痛そうで、確かに復調したようには見えるが。
「僕に、しろ姉さんの相手は無理だよ」
「仕合え、とは云ってない。身体を動かしなさい、そう云ってるの」
なんなら、一緒に走りこみでもする?
等と姉は笑いかけ、僕は首を振った。
「運動とは一寸違うけど―外を歩いて来るつもりだよ。それなら良いだろう?」
「クロ、何処かに出掛けるの?」
「うん」
僕は空を見上げる。
ほぼ真上には、自分の部屋。
その隅には。
「この間描いた絵、五代さんとこに持って往こうかなって」
「―」
姉は笑顔。
笑顔のまま、沈黙する。
「・・・しろ姉さん?」
「・・・・」
返事は無い。
もう一度話しかけると、姉は「何?」と傾首した。
「いや、急に黙ったから、どうしたのかって思ってさ」
「何でもない。少し考え事をしていただけ」
云いながら、顔を左右する。
「今日は物置の掃除をする予定なの。だから、すぐに戻ってらっしゃい」
僕は頷く。
もとより長居するつもりはさらさら無い。
「2時間以内に帰って来るのよ?」
「えぇっ」
(いくらなんでも)
それでは殆ど往復する時間しかないのだが。

58:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:27:11 Fybgsp4k
「何か問題が?」
「いや・・・」
僕は引きつった顔で姉を見る。
彼女は涼やかに笑っていた。
断れるわけは当然無かった。

と、云うわけで、支度を済ませた僕は、絵の包みを片手に玄関に立っている。
立っているのだが―
「しろ姉さん」
「なぁに、クロ?」
「うん・・・その・・・袖を離してくれると助かる」
「ええ、そうね」
玄関に立つもう一人は、先ほどから僕の服をちょんと摘んで離してくれない。
「・・・・」
「・・・・・」
「あの。袖」
「ええ」
「・・・・・」
「・・・・・・」
漸く離す。
すると。
「クロ、気をつけて往って来るのよ?」
姉は僕を抱きしめて離れるが、指だけはまた袖に掛かった。
(しろ姉さん、無意識でやっているのか?)
さっきからこの繰り返しだ。
とは云え、僕も時間を無駄にするつもりは無い。
「じゃあ往って来るね」
「あ・・・」
「ん?」
「絵、重いでしょう?なんだったら、置いていっても良いのよ?」
「いや、それだと出掛ける意味がないから」
「じゃあ、出掛けなければ良いわ。そうしましょう?」
等と云いながら、僕の袖をくいくいと引っ張る。
云ってることや、やってることが支離滅裂だ。どうしたのだろうか?
「そういう訳にもいかないよ。約束は守らなきゃ」
「約束・・・」
それはいつも姉が云っていること。
信義を守れる人間になれと。
「マキャベリズムを実践するなら、約束は場合によっては破棄して良いはずよ」
「うん。そうだね。でもそれが今の状況と何の関係が?」
「・・・・ぅ・・・・」
袖から手が離れた。
僕はもう一度往って来ますと云い、家を出た。
ドアを閉める時に見えた姉の姿は、しょんぼりとして小さかった。

※※※

絵里ちゃんの居住区域―雪見台へは、電車を使って往くことになる。
下下のものと、高貴な方方の住む場所には隔たりがある。
隔たりはいくつもあるが、物理的なものの一つとして、単純に距離がある。
だから移動のために駅前に来たのだが―
「ん~。困るんですよね~。私、貴方がたに興味無いですし」
目の前から、柔らかい声がする。
どこかで見たようなニコ目の美人さんと、軽い感じのする髪を染めた男2人がそこにいた。
どうやら、彼らは必死に女性を口説いているようだが、まるで相手にされていない様子。
「ねね、いいじゃん。俺達と遊びに往こうよ?」
「貴方達、高校生ですよね?帰ってお勉強したほうが良いですよ?」
「え~?お姉さん、年下嫌い?」
「いいえ。寧ろ大好きですよ?」

59:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:29:30 Fybgsp4k
「じゃあ、オッケーじゃん。遊び往こうよ」
男の一人が馴れ馴れしく手を掴もうとする。
(あ、まずい)
僕は咄嗟に声を出す。
「おい、アンタ等、そのヘンにしとけ」
「あ?」
3人と―周囲にいた人人が僕を見つめた。
「何だ、オメェ?俺ら今忙しいんだよ」
「アンタ等の忙しさなんか知らないよ。怪我したくなかったら、その辺にしとけ」
「あ?」
僕の忠告を挑発と受け取ったらしい。男の一人の顔つきが変わった。
「誰が誰に怪我させるって?」
「怪我するのはアンタ等。させるのは僕じゃあ無い」
「何訳わかんねえ事云ってんだ?ブッ飛ばされてぇのか?」
彼は僕に近づいて睨め上げる。威嚇のつもりなのだろうが、無防備に過ぎる。僕が不意に目を突いたら
どうするつもりなのだろう。
(云っても無駄かな?)
そう思った刹那、男の片割れが仲間の肩を掴んだ。
「やめとけ、周り見てるぞ」
「チッ」
睨んでいたほうの男は、舌打ちして唾を吐くと背を向けて歩き去った。
「やれやれ・・・」
僕は肩を竦める。
と―
「クロくんっ」
柔らかい“何か”が、ぎゅむっと僕に押し付けられる。
「嬉しいです。助けに来てくれたんですね」
「ええ。主に、彼らのほうを」
いくら僕でもナンパしただけで血反吐はいてのた打ち回る男2人を見たくは無い。
「云い遅れましたが、こんにちは。甘粕先輩」
「はい。こんにちは。だけど他人行儀な呼び方は駄目だって、いつも云ってるじゃないですか」
頬を膨らませながら、殊更僕に抱きついてくる。
何と云うか、堂に入った抱きつき方だ。年季のせいだろうか。
「私、とても嬉しいです。クロくんは、お姉ちゃんのピンチには、何時でも駆けつけてくれるんですよ
ね?」
「ピンチだったのは、あの2人組みだと思いますが」
「あのまま身体とか触られてたら、私、怖くて泣いていたかも知れません」
「うん。恐怖で泣くのは、彼らのほうでしょうけどね」
「もう、酷いですよ」
云いながら、すりすりと頬を擦り付けてくる。どうやら機嫌は良さそうだ。
「甘粕先輩、他人に身体触られるの、嫌いでしたよね」
「男の人に触られるのが、ですね。だって私はクロくん専用ですから」
先輩は頬を染めて「えへへ」と笑う。
僕は頬を掻いた。
瞬間、身体が斜めに傾いた。組んだ腕を引っ張られた為だ。
「一寸、甘粕先輩?」
「私のこと助けに来てくれた優しい弟くんには、お姉ちゃんが御馳走しちゃいます。往きましょ?」
くいくいと僕を引き摺って往く。武道をやっているからか、はたまた生来のものか、この人は何気に力
が強い。
「待って下さい。僕、これから用事があるんです。申し訳ないですが、お付き合いできません」
しかもそれは時間制限付きなのだ。
「大事な用なんですか?」
「ええ、まあ」
「私よりもですか?」
じぃっと見上げる。素なのか計算しているのか、ニコ目のせいで胸中を測りかねる。
僕は云う。
「甘粕櫻子と云う個人よりは遥かに小事ですが、何かを御馳走になる時間よりは大事かと」
「むぅぅ~」
先輩は口を尖らせ、

60:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:31:44 Fybgsp4k
「私より、画家志望の女の子の方が大事なんですね?」
「え?な、何で往き先判るんですか」
「判りますよぅ」
と荷物を指差す。
「この前のデートの時、お話聞かせてもらったじゃないですか。それ、クロくんの描いた絵でしょう?
なら、答えは一つです」
「明察には恐れ入りますが、それなら話は早いと思います。そういう訳なので、今日のところはお付き
合い出来ません」
「どうしても駄目ですか?」
「どうしても駄目です」
「大好きな櫻子お姉ちゃんが誘ってるのにですか?」
「すみません」
僕は頭を下げる。先輩は「判りました」と身体を離した。
「そう云う事情なら仕方ないですね。潔く諦めます」
先輩のは笑顔だ。
ニコ目だからではなく、普通の笑顔。
「ホントすいません。埋め合わせはしますので」
「はい。期待しています」
矢張り笑顔。
清清しいほどの笑顔。
(拗ねると思ったんだけどな・・・?)
疑問には思ったが、僕にも時間が無い。もう一度頭を下げて背を向ける。
『声』が聞こえたのは、その瞬間だった。

『さ、櫻子お姉ちゃん、大、好き』

「!!!」
ぎょっとして振り返る。
“無理矢理云わされた”かのような引きつった声。
それは紛う事無く―鳴尾クロのものだった。
「せ、先輩、今の・・・っ」
「あれ?クロくん。往かなくて良いんですか?」
携帯を片手に持った先輩は、満面の笑みで僕を見つめている。
『さ、櫻子お姉ちゃん、大、好き』
もう一度聞こえた。
矢張り空耳ではない。
「それ・・・こないだの・・・・」
「ああ、この声ですか?私の癒しです。聞くと幸せになれるんですよ。落ち込んだ時とか特に」
「そうじゃなくて、何で携帯に・・・」
「何でって、録音したからですよ?」
笑顔のまま首を傾げる。
『あの時』
僕がその科白を云わされた時、この人は携帯を弄っていた。
(あれは、録音のためだったのか―)
頭を抱える。
「ホラ、見てください。写真も撮ったじゃないですか。ちゃんと待ち受けにしたんですよ?」
「うぉ」
画面の中には、相思相愛にも見える男女が映っている。勿論、今ここにいる2人だ。
「アツアツですよね?この幸せを姉同士の誼で鳴尾さんにも分けてあげようかなって思ったんですよ。
写真と音声の同時送信です」
「同時送信です、じゃないですよ!こんなのがしろ姉さんにしれたら、僕はただじゃ済みません」
「大丈夫ですよ。私達姉弟の仲の良さを知って貰うだけなんですから。寧ろ祝福してくれると思います
よ?」
そんな事あるわけが無い。
判り切っているくせに。
僕はもう一度「勘弁して下さい」と声を出した。泣き声に近かったかもしれない。
「まあまあ、私のことは良いじゃないですか。それよりホラ、急いでるんですよね?どうぞ気にせずに
往って下さい。お姉ちゃんよりも、他の娘の所へ」

61:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:34:00 Fybgsp4k
ニコニコ。
にこにこ。
悪魔が笑っている。
「せ、先輩」
「何ですか?」
「よ、宜しかったら、お付き合いさせてください」

※※※

「器用であるとか、小才がきくとか、頭の回転が速いとか、そんなのは“優秀”に属する能力であって
“天才性”とは無縁だと思うんです」
『Silurian Period』
それが先輩と遣って来た喫茶店の名前。
この間の画材店、『Ikonographie』の傍に在る、全面水槽張りの不思議なお店だ。
その卓で僕の対面に座る甘粕櫻子は、五代絵里に渡す予定の絵を見てそう呟いた。
「どういう事ですか?」
僕は尋ねる。
「言葉通りです」
ティーカップを撫でながら彼女は云った。
「天才であることと、優秀であることは違います。世間では天才と優秀をイコールで考える方が多いよ
うです。人より勉強が出来れば“天才だ”、人より運動が出来れば“天才だ”と褒めますが、これは事
実ではないと私は思っています。勿論、優秀な天才も存在しますが、優秀でない天才も存在します。他
方、天才を凌駕する“偉大な凡人”もいるでしょう。・・・まあ、天才は一個の属性であって、凌駕、
勝ち負けなんて基準はおかしいのですが」
「納得出来なくは無いですが・・・。それが何か?」
もう一度問う。
甘粕櫻子の真意が読めない。
先輩は答えず、柔らかい動作で紅茶を口に運んだ。
「例えば―鳴尾しろ」
「姉さん?」
「彼女はまず間違いなく“優秀”に属する人間です。文武両道、書画の道にも通じていますし、性格は
兎も角、能力的には器用です。でも―“あれ”は天才ではありません。人より一寸秀でているだけで
す」
「・・・・・」
「事、思考や表現に限れば、天才とは“発想”出来る者のことであると私は考えます。凡人は―例え
才人・才子であったとしても、“連想”までしか出来ません。“無いもの”を見、“無いもの”を表現
し、無から有を創り出す。それは、天才だけが持ち得る能力です」
「成る程。それはそうかもしれませんけど、一体全体どういう話ですか?」
僕が首を傾げると、先輩は“笑顔で笑って”席を立ち、僕の隣に遣って来て、ぎゅうっと抱きしめた。
「成績は良好。但しそれは頭の良さから出なく、生真面目に予習・復習をしているから。運動もそれな
り。取り立てて得意なことも無い。完全な凡人。けれど、ある“表現”においては、際立った個性を有
する人がいる。そう云ってるんです」
「は?」
「ふふふ」
甘粕櫻子の機嫌は良い。
感触は柔らかで、身体を鍛えている割には、そのへんの女の子よりも遥かに上質である。
「ふぅ~」
「あの、耳に息吹きかけるの止めて下さい」
「え~。じゃあ、じゃぁ、クロくんがお姉ちゃんに吹きかけてください」
「いや、勘弁して下さいよ」
「勘弁しませんよ~。クロくんのこと、可愛がるのもいぢめるのも大好きですから」
だからもっと、イチャイチャしましょう?
大きく柔らかな双丘に埋められ、ぐりぐりと頭を撫でられる。
気持ち良いが、居心地が悪い。
「甘粕先輩、毎回毎度、何て云うか・・・全力ですね」
僕は諦め混じりに呟いた。
この人は、こういうことには真っ直ぐだ。
「一期一会の精神ですから」
彼女の声はいつにも増して柔らかい。

62:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:36:54 Fybgsp4k
甘粕櫻子はその声のまま、僕の頭を撫で続ける。
「出会いがあれば、別れもあります。誰よりも大切な人だって、いずれは失うことになりますからね。
永遠なんて何処にも無い。永遠が無い状態だけが永遠に続くんですよ。だから私は、今を大事にしたい
んです」

――――――――――――――――――

目の前にある世界。
それは、この世には無いものだ。
此処ではない何処か。
幻想の―それも、卓抜した幻視の結晶。
それが、四角い窓の向こうに広がっている。
此処には無い。
つまり、私が持ち得ない世界。
思い描けず、想い視る事も出来ない世界。
多くの表現者が目指し、けれど到達し得ない未踏の地。
それが、四角の中に納まっている。
ありもしない世界。
あり得ない法則。
幻だから存在出来る永遠と不滅。
それは、世界との断裂。
私との、埋まらぬ距離。
この絵に。
唯、それだけを思い知らされた。
薄くて、でも無限の景色のあちら側にいる人間は、私の評価を気にしているのだろう、どことなく落ち
着き無い様子でソファに座っている。
「お父さんは凄いです」
「え?」
唐突な私の言葉に、彼―鳴尾くろは首を傾げた。
それはそうだろう、あの人はここにいないし、この絵とも丸で関係ないのだから。
私は「何でもありません」と首を振る。
私の父は、画家になれなかった。
それだけの実力が無かった。
云い換えれば、こうやって、力の差を―否、表現力の有無を見せられ続けてきたという事。
その度に打ちのめされたはずなのだ。
けれど、父は今でも絵が好きでいられる。
それはとても凄いことだと思う。
目の前の絵。
以前見たそれとは、比較にならぬほどの出来栄え。
見るものを圧倒し、吸い込むような広大な世界観。
呆けて、感動して、その先に来たのは、自分の無力。
この人の歳になった時、自分はこの場所まで辿り着けるのだろうか?
その場所はあまりにも遠く、霞んで見えない。
果ての無い差を知って、泣きそうになった。
「・・・・・」
不思議そうに私を見ている男の人。
お姉さんによく似て、背が高くて、目つきも鋭いのに。
違和感を感じるくらい、穏やかな喋り方をする人。
そう―穏やか。
それが私の『視る』、あるがままの鳴尾くろ。
安息を司る、暗闇のような人。
人となりだけならば、彼の肉親に何度も聞いていた。
彼の姉に。
鳴尾しろという人物は、諸事に冷徹。私情を挟まない人だ。
故に、評価も適正、極めて信頼の出来る人物評を下す人。
その鳴尾しろが、弟の話になると蕩けたように身を捩らせる。
凛とした薄い微笑しか他人に見せないあの人が、子供のように、或は少女のように爛漫に笑うのだ。
だから私は、鳴尾くろに興味を持った。
この人にこんな顔をさせるのは、どんな人物だろうと。

63:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:39:00 Fybgsp4k
初見は、少し怖そうに見えた。
話してみて、穏やかだと気付いた。
そして絵を見て―もう一度、強い興味が湧いたのだ。
だからといって。
「くろさんって、お付き合いしている女の人がいらっしゃるんですか?」
こんな失礼なことを聞くなんて、自分でも思わなかったけれど。
「えぇ?」
彼は目を丸くする。
それは当然だろう。脈絡が無い。
父の事といい、今日の私は突飛にすぎる。
「あ、すみません。何か、急に変なこと云って・・・」
「いや、別に頭まで下げなくても良いよ。・・・でも、何でそんな事気にするの?」
「はい。あの・・・」
私は鼻孔に意識を集中する。
多分、間違いではない。
「くろさんから、女の匂いがします」
「え?」
「しろさんのそれとは全然違う、柔らかい香がしています。これだけしっかりと染み付いているって事
は、余程に密着していたって事ですよね?相当親しくなければ、そんな事しないかなって」
「あ~・・・・」
何か思い当たることがあるのだろう。
くろさんは困ったように頭を掻いた。
「くっついていたと云うか、囚われていたと云うか・・・。まあ、その、恋人ではないよ。そもそも、
僕にはそういうの、いないしね」
「好きな人、いないんですか」
何故かホッとした。
「いや、恋人がいないって事」
それって、つまり。
「好きな人はいるって事ですか?」
「うん。いるよ」
困ったように笑っているけれど、声に澱みは無く、迷いも無い。
「まあ、詮無い話だけどね。しろ姉さんが認めてくれるとも思えないし」
確かに鳴尾しろという人物は、そういうのに厳しそうだ。
(それとも)
或は、厳しさ以前の問題の相手なのだろうか。
それ以上踏み込むことは私には出来ない。
誰を想っているのだろう。
目の前の男の人は、とても穏やかに笑っている。
その姿を見て、私の胸が、幽かに疼いた。

――――――――――――――――――

漸く家に帰り着く。
云い渡された2時間は、とうに過ぎている。
遅参の連絡も何度か携帯で入れたけれど、返事は無い。
姉は出掛ける時は携帯を持ち歩く人なので、家に居て、かつ携帯の傍にはいないのだと了解した。
つまり、予告どおり物置の掃除をしているのだろう。
一体、家事というものは得手不得手の他に、好みがある。
例えば姉は料理も裁縫も出来るけれど、特に好むのは清掃だ。
潔癖症―なんて揶揄されることがあるくらい、整頓掃除に余念が無い。
そんな彼女だから、暇があれば家の掃除をしている。
多分、今も。
僕は荷物を自室に置き、汚れても良い服に着替えると、姉の部屋には往かず物置に直行した。
果たして、そこには開かれた扉と、ゴホゴホと咽る声。
「しろ姉さん?」
声をかけると、すぐに返事がある。
「クロ、帰ってきたのね?」
咳き込みながら現れたのは、白い頭巾に割烹着を着た肉親だ。

64:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:41:06 Fybgsp4k
姉は所謂「カッコイイ」系の服が似合う人なので、こういう姿は奇妙に映る。いや、愛嬌があって可
愛いとも云えるが。
「ただいま、しろ姉さん。随分咽てるね」
「埃を吸い込んでしまったからね。ここも適度に掃除しないと駄目ね。それより―」
ジロリと姉は僕を見る。
「今一体何時だと思っているの?約束の2時間は過ぎているでしょう?」
柳眉を逆立てて僕に寄る。
誤魔化しても仕方ないので、素直に謝ることにする。
それは、事情を説明することと同義だ。
「甘粕!?」
説明も半ば―否、始めたばかりで、姉は声を荒げる。
あの先輩の名前。
矢張りそれはこの人には鬼門のようだ。
僕の両肩はしっかりと掴まれ、身体をガクガクと揺さぶられている。
「あの女に誑かされて遅れたのね?邪悪な人間とは付き合っちゃいけないっていつも云っているでしょ
う?」
(邪悪・・・)
「いや、事情が事情で」
「ナンパなんて放って置けば良いの!あの女をどうこう出来る人間なんて、そうそういないんだから」
「甘粕先輩がどうこうしそうだから、止めたんだけど」
「兎に角!甘粕には近づいちゃ駄目よ?クロだって、あの女の噂は聞いているでしょう?」
「毀誉褒貶半ばだよね」
「良い噂なんて擬態に決まってる」
姉は頬を膨らませる。
甘粕櫻子に纏わる噂は、両極端である。
優しい、親切、天使のよう、温かい人。
そう呼ばれる一方で。
鬼、悪の手先、邪悪の化身、地獄からの使者etc・・・。
まったく異なる評価が下される。
尤も、本人は悪い噂など何処吹く風。
「きいておそろし みていやらしい そうてうれしや あまかすさくらこ」
等とあの柔らかい声で謳っているほどだ。
「僕の身体が2つあれば、早く帰ってこられたんだけど」
「何を莫迦な事を云っているの?」
姉はジロリとこちらを睨む。
身体が2つなんて事は有り得無いのだから、1つの身でどう時間を使うかが重要―
そう教誨されるのかと思ったのだが。
「幾つあっても同じでしょう」
「え?」
「2つあれば2つ。3つあれば3つ。10あれば10。100あれば100。身体の数に関係無く、ク
ロは私の傍にいなければいけないの。数の問題ではないでしょう?」
「・・・・」
そうなんだ、知らなかった。
「クロ、取り敢えずそこに座りなさい。甘粕に誑かされた貴方にお説教します」
・・・・遅れたことじゃなくてそちらが主なのか。
結局、30分程お説教をされて、漸く物置の掃除に入る。
入り口付近の荷物は姉が既に片付けていたので、作業はその奥からになった。
「この辺は古い本とかが主だね」
随分と埃を被ったハードカバーの本の山。
僕が適当に退かそうとする傍で、姉は1冊1冊中身を確認している。
彼女は『片付けの最中に漫画を読み始める』タイプではない。
だから当然、何事かの目的があって掃除と検索を両立させているのだろうが。
「しろ姉さん、何か探してるの?」
「アルバム」
返答は簡潔に。
「アルバム?それってしろ姉さんの部屋に無かったっけ?」
「幾冊かはね。でも、1冊足りない。だからそれもついでに探しているの。そちらは自分で見つけるつ
もりだから、クロは掃除に集中して良いわ」
姉らしい截然とした態度だ。

65:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:44:06 Fybgsp4k
手伝う、と云った所で、
「片付けに集中しなさい」
と怒られるのは目に見えている。だから僕は冊子の開鑿に力を注いだ。
こう云う場合、姉は無駄口を叩きながら作業はしない。僕もそれに倣う。
幾分かそうしていたが、それでも先に口を開いたのは僕のほうだ。
「あ」
と、間の抜けた声を薄暗い倉庫内に響かせた。
「しろ姉さん、アルバムって、あれじゃない?」
書籍の山脈の中に見覚えのある背表紙を発見する。想起すると成る程、あんな感じの写真入れが昔あっ
たような気がする。
姉が振り向き、僕はアルバムらしき本に手を伸ばす。
勢いが強かったからか、場所が悪いせいか、狭矮な空間に埃が舞った。
「うわ。ごほっ、ごほっ」
「う、けほ、けほ」
2人とも咽る羽目になった。
「この辺は特に埃が凄いな、しろ姉さん大丈夫?」
「ごほっ、ごほっ」
姉は頷きながらも咽続けている。
少し遠い分、僕よりは埃を吸い込んでないはずなのだが、そうでもないのだろうか。
「ごほっ、げほっ、こほっ」
「しろ姉さん、咽方凄いよ、ほんとに平気?」
「ええ、けほ、大丈夫。それにしてもこんな場所に本を置くなんて。痛んでしまうじゃない」
「多分捨てる予定だったんじゃないかな。母さん、面倒臭いとすぐその辺に放り込むし」
母はややズボラな一般人なので、こういったことをやらかす場合が多い。纏めて放り込み、忘れ果てた
のであろう。
「アルバムは捨てるべきものでは無いでしょう?ろくろく確認もせずに仕舞ったのね。後で怒っておか
ないと」
不機嫌そうに云いながら、埃化粧をされた本を開いて往く。
「うん。間違いないわ、これね」
やや痛み、やや色あせた写真がそこにある。
小学校時代の数年分を写したものらしかった。
「うわ、懐かしい」
なんとなく見覚えのある過去達に僕は顔を綻ばせる。
そこには小さいしろ姉さんがいて、この頃から美人さんだったと再確認させられる。別の写真には甘粕
先輩。彼女はこの頃から発育が良く、妙な色気がある。
「クロ」
姉はアルバムを閉じる。
「掃除に集中しなさい。見たかったら、後で私の部屋に来れば良い」
探していたと云っても、やはりメインは掃除である。姉はアルバムを除けると、さっさと作業を再開し
た。
僕は「ごめん」と返事をし、整頓に取り掛かる。
アルバムの中には―
手を動かしながら、思い起こす。
(見なければ思い出さないクラスメイト達がいた)
一期一会。
甘粕櫻子は先程僕にそう云った。
その通り、彼らの大部分とは、もう逢うことも無いのだろう。
それでも、深く思い入れがある訳では無いのだから、「そういうものか」で済んでしまう。
けれど、と僕は考える。
僕の親しい人人とも、別れはいずれ遣って来る。
僕はそれに耐えられるのだろうか。
逆に、僕がなくなるとしたら、その人たちは、悲しんでくれるだろうか。
どちらにせよ、“その時”は必ず訪れる。
僕は姉を見る。
姉は咽ながら、黙黙と作業を続けていた。

66:無形 ◆UHh3YBA8aM
08/03/07 23:50:48 Fybgsp4k
投下終了です
3月は少し忙しいので次回投下は未定になります、申し訳ありません。

4月7日はこのキモ姉妹スレの誕生日なんですよね。
何か投下したいな~、と思っているのですが、キツそうです。
お祝いくらいはしたいですが。
では、また

67:名無しさん@ピンキー
08/03/07 23:53:20 xJiA+sKG
GJ! お疲れ様でした!

68:名無しさん@ピンキー
08/03/08 00:00:43 1P84saq6
>>66GJです!!さてさて、くろの好きな人が誰なのか…続きを全裸でお待ちしております!

69:名無しさん@ピンキー
08/03/08 00:33:10 nmELSve2
GJです!
甘粕先輩が何者なのか非常にきになりますw

お疲れさまでした
次回の投下を楽しみに待たせていただきます

70:名無しさん@ピンキー
08/03/08 01:10:35 cbhXC/Vv
Gj!!袖を離そうとしないしろ姉さんがツボでしたwww
次回も期待してます!

71:名無しさん@ピンキー
08/03/08 01:12:56 IoIAfEAY
とてもとてもいいお話。
極自然な欲求として、くろの絵が見たい。と思う私がいる。

病んでるのかなぁ…。
どうあっても見れる訳がないのに。
でも見たい。見てみたい。


72:名無しさん@ピンキー
08/03/08 02:17:15 KNLTQbAV
兄が妹を無視する→妹が兄にしつこく甘える→兄が妹に怒る→妹興奮……こんな感じが俺は好き♪

73:名無しさん@ピンキー
08/03/08 04:32:31 ZgdPLZXs
しろ姉も甘粕先輩も必死なだwww

この二人のきもさがよすぎる。


74:名無しさん@ピンキー
08/03/08 09:00:24 5+qgFYoo
しろ姉さんと甘粕先輩の牽制がスゴス

75:名無しさん@ピンキー
08/03/08 10:43:33 Luef2FCK
これはきれいなキモ姉

76:名無しさん@ピンキー
08/03/08 11:27:16 YaKG2TDu
ついに永遠のしろが!!
しろ、なんて素晴らしいキモ姉なんだ

77:名無しさん@ピンキー
08/03/08 23:55:50 XfUloEip
しろ姉さんの咳が気になるのは俺だけだろうか……

78:名無しさん@ピンキー
08/03/09 02:08:01 l8Fl05Yt
>>77
!!!!!


79:名無しさん@ピンキー
08/03/09 04:13:41 Ipuhc3mZ
無形氏来てたー!
乙です!

80:名無しさん@ピンキー
08/03/09 06:36:41 7BnKq3/4
>>77
待て・・・・嫌だぜ俺は、そういう展開は・・・・

81: ◆a.WIk69zxM
08/03/09 14:32:40 ZdQ1twML
 
投下します。
非エロ。11レス予定。
 


82:__(仮) (1/11)
08/03/09 14:33:27 ZdQ1twML
 
 
 
 鈴虫の鳴き声が小さく木霊する深夜。満月に程近い月明かりが柔らかく差し込む自室で、
葉槻透夏は電燈もつけずにベッドに腰掛けていた。
 傍らには壁にかけられたコルクボード。秋巳と一緒の写真、カモフラージュのための椿や両親と一緒の写真に混じって、
新たに一枚打ち付けられたそれを、彼女は負の感情を詰め込んだ冷たい瞳で見つめる。
 柊神奈のスナップ。目線はこちらを向いたものではない。明らかに本人に気づかれずに撮影したもの。撮影者は葉槻透夏。
 先日の柊神奈との邂逅にて、葉槻透夏は確信した。
 この女は自分と同種の感情を、あの秋巳に抱いている。
 もちろん葉槻透夏は、自分の情念に比べれば、あの女の抱くそれなど取るに足らない矮小なものだと思い込んでいた。
 それでも目障りなことには違いない。自分と秋巳の『幸せ』を阻害する可能性のあるものは、僅かでも排除する。
 それが昔日から不変の、葉槻透夏の意志だった。

 かつてより、秋巳に言い寄ろうとした女子が、全くいなかったわけではない。
 秋巳の境遇に興味本位で好奇心を持ち、彼にちょっかいをかけようとした酔狂な人間は過去に何人かいた。
 それでもそういう女子たちは、基本的に秋巳自身を見ているわけではなく、物珍しさや自己満足からそういう行動を
起こしていたため、葉槻透夏は大した労無く退けることが出来ていた。
 彼女がちょっと仕掛ければ、我が身可愛さからそういう人間たちはあっさり身を引いた。

 それも当たり前だ。
 葉槻透夏は思う。
 自分と秋巳との深い絆の中に入り込む余地など無いのだから。だから、ちょっと現実を見せてやれば、慌てて引き下がっていく。
 そもそも、秋巳自身が撥ね付けるのだ。赤の他人との関わりを。
 ―自分以外の人間との関係を。
 葉槻透夏は、なんの迷いなどなく、そう信じている。
 それは、決して間違ってはいなかった。確かに秋巳は必要以上に他人と関わろうとしなかったし、
恋愛感情にも満たないものを抱いて彼に近づいたとしても、あっさりかわされる。
 哀れみや同情を付随して秋巳をある意味『下』に見ているそういう人間たちは、秋巳の反応に自分たちの思うような満足が得られないため、
すぐに興味をなくす。
 そこに葉槻透夏が駄目押しをするだけだ。

 写真を睨みつけながら思考する葉槻透夏。
 椿から得た情報だと、柊神奈は、学校ではいわゆる『男子の人気者』らしい。男どもにちやほやされて、いい気になって、
秋巳にも手を差し伸べてあげる優しい『私』、に浸っているのだろうか。
 ―いや違う。いままでとは性質が違う。
 頭を振る。
 秋巳に深い愛情を抱く人間として、明確な根拠を伴った理論的なものではないが、柊神奈と会ったときの態度を見て
葉槻透夏は直感で理解していた。
 あの女が、秋巳に抱いているのは、おそらく恋心。普通の女の娘があたりまえに抱く感情。
 秋巳との関係に上も下もなく、純粋に彼自身を見ているのだろう。自分と同じように。
 非常に厄介だった。
 なにより、葉槻透夏の足元を揺るがすかのごとく頗る動揺させたのは、秋巳の柊神奈に対する接し方であった。
 普段の赤の他人に対するそれとは若干異なる接し方。どちらかと言えば、自分や椿に対するそれに近いもの。
 柊神奈と知り合ってから後日、秋巳からそれとなく聞き出した柊神奈の情報。
 それを彼が話す雰囲気で伝わった。秋巳自身にとって恋慕といえるまでの情意を向けている相手ではないが、
少なくとも好悪の区別でいえば、好意を抱いていることを。
 それは、誰よりも秋巳を見つめてきて、誰よりも秋巳だけを想ってきて、どんな人間よりも秋巳を愛していると自負する
彼女だからこそ、感じ取れたこと。
 柊神奈自身が、に加えて、秋巳の態度もいままでとは異なる。そうまざまざと実感させられた。
 


83:__(仮) (2/11)
08/03/09 14:35:44 ZdQ1twML
 
(なんで―?)
 葉槻透夏は懊悩する。
 秋巳は、妹の椿を『妹』として大事にして、それで自分も含めて三人だけいればいいじゃない。
 椿がいずれ誰かと結婚すれば、そのときは自分とふたりで。
 ふたりだけで幸福な人生を送れるじゃない。
 他の人なんていらないでしょう。
 幸い、秋巳が柊神奈に向けているのは、恋愛感情ではない。高々友達としての好意だろう。
 だが、葉槻透夏にとっては脅威である。
 自分が秋巳に捨てられるなど想像だにしないが、一時の気の迷いということもある。
 例え一時であっても、秋巳の情が自分以外の誰かに向けられるなど、葉槻透夏は我慢できなかった。
 だから、なんとしてもいまのうちにあの女を自分と秋巳の人生の舞台から退場させる必要がある。
 彼女はそう考えていた。

 そして、そのためにはどうしたらよいかの策を練っていた。

 一番手っ取り早いのは、あの柊神奈とかいう女が、別の誰かに恋愛感情を持つことだ。
 どうせ柊神奈自身も、一時の気の迷いみたいなものであろう。だったらさっさと別の人間に、それを向ければよい。
 その相手は。
(……ええっと、そう最初に会ったあそこで一緒にいた男)
 名をなんと言っていたか。
 葉槻透夏は思い出す。
 そう。水無都、とか言っていた。そこでふと思い当たる。
(ああ。水無都って、秋くんの前からの友達だったっけ……)
 あの男だ。
 その態度から、柊神奈に好意があるような素振りを見せていた。
 あの男を間接的に嗾けて―なんならレイプまがいのことでもいい―あの柊神奈とかいう女を秋巳のまえから
消し去ってもらえないだろうか。
 だが、葉槻透夏は、水無都冬真がどんな人間か全然知らない。
 うまいことそんな方向に持っていけるとは、思えなかった。少なくとも容易いことではない。
(まあ、一案として持っておけばいいかな……)
 葉槻透夏は、まず思いついた案をそう結論付ける。

 そしてまた、次の思索の海へと潜る。
 まずは、あの柊神奈という人間を調べるべきだろう。
 あの女の抱く情がどれほどのものなのか。自分がプレッシャーをかけて、引っ込んでくれるならそれに越したことはない。
 いちいち第三者を絡ませれば、それだけ思い通りにいく確率は下がっていく。
 葉槻透夏は決して単純思考の持ち主ではなかった。むしろ、かなり頭の切れる人間といって差し支えなかった。
 それでも。
 それでも、考えておかなければならない。
 最悪の場合の、最終手段を―。
 葉槻透夏は、いままでとは違った意味で、眠れない夜を過ごした。
 
 
 


84:__(仮) (3/11)
08/03/09 14:39:32 ZdQ1twML
 
 
 明けて翌日。葉槻透夏は、昨夜決めたとおり、まず柊神奈に関する情報を集めるために動くことにした。
 ただ、最悪の場合、万が一にも自分が疑われる可能性をなくすために、秋巳や椿に訊ねるという形で直接それらを得ることは
これ以上控えることにした。
 大学は長期の休みに入っているため、時間はある。大学関係の人間のわずらわしい誘いもなにかと理由をつけて断っているので、
自由に動くことは可能である。
 基本は、自らがひとりで行動する必要がある。
 彼女はそう考えていた。
 変に柊神奈の周囲を嗅ぎまわっていることを誰かに知られれば、それが全く関係ない第三者であっても、
そこから糸がほつれる可能性がある。
 だから、他人に知られる場合や、他人を利用する場合であっても、本来の目的とは違う意味を持たせなければならない。
 かつ、本来の目的に合致する行動であることも要する。

 表向きの意味を与えるのは、娯楽。必要なのは時間と機会。両方に役立つのが、金銭。

 葉槻透夏は、夏休みに旅行する計画を立てることとした。
 それは最終手段の行動のため。それを行う時間を得るため。勿論、表向きは誰でも考える行楽のためという理由。
 最後の手を打つ段階になって、いきなり時間を取ろうとすれば、あとあと周囲に余計な疑念を抱かせる怖れがある。
だが、もともと計画していた旅行を実行するだけであれば、なんの問題もない。
 もし、柊神奈が簡単に引いてくれるようならば、単に旅行は中止したことにすればよい。
 さらに旅行するにはお金がいる。だから、バイトをする。それはごく自然の理に適った一般的な行動。
そのアルバイトを、機会を得るためと、本当に必要な意味でのお金を稼ぐことに利用する。
それにより、柊神奈と個人的に接する機会を作り、彼女のことを詮索する。
 であれば、なんの仕事をするべきか。
 それを決めるためには、柊神奈の行動半径、生活様式を知る必要がある。さらに、『結果』に対する合理的な理由を与えるためにも、
その情報は必須である。

 そう考えて、葉槻透夏は行動を開始した。
 まずは、周囲に旅行することと、そのためにアルバイトをしてお金を稼ぐことの宣言。それと平行して、柊神奈の情報収集。
それは、ひとりで彼女の後をつけ、監視することもあったし、柊神奈と一緒にいるときの秋巳たちと合流し、
なにげない会話の中から探ることもあった。そんななか葉槻透夏が特に注目したのは、柊神奈の休みの日の行動。
 もうすぐ、秋巳たちの高校も夏休みに入る。そのとき、柊神奈がひとりで行動する先に、『たまたま』自分がいる必要がある。
だから、その行き先を自分が事前に知っていることになってはいけない。たまたまバイト先に選んだところに、柊神奈がお客として来る、
それが理想であった。
 そうして、彼女の行動は、まるで自らを犠牲に善行を積み重ねた人間が最後に報われるかのように、その努力に見合った実を結んだ。
 
 
 
「いらっしゃい、って、あれ? 柊さん?」
 そこは西洋風のアンティークをモチーフにした小洒落た喫茶店。女の娘なら多くは気に入りそうな小奇麗な店で、
お客として来た柊神奈を、従業員としての葉槻透夏が迎えた。
「え? あ、あれ? 葉槻さん……?」
 柊神奈は、まさかこんなところで葉槻透夏に出会うとは思ってもみなかったのであろう、驚いた表情を顔に浮かべて、
店のドアを押し開けたまま立ち尽くしていた。
「うん。奇遇だね。実はあたし、このお店で働くことにしたんだよ。いらっしゃい、柊さん」
 まるで「似合う?」とでも言いたげに、店の制服のスカートの端をちょっと持ち上げて、お辞儀をする葉槻透夏。
 お洒落なカフェでバイトすることを、秋巳含め柊神奈たちに伝えていたので、そう応える。
「え、ええ。びっくりしました。まさか、ここでお店の人として葉槻さんにお会いするとは
 想像もしてなかったので」
「うん。あたしもビックリ。柊さんは、よくここへ来るの?」
 葉槻透夏は、すでに判明していることを敢えて訊ねる。
「ええ。休みの日は、ちょくちょく」
「へぇ。いいところだよね。ここ。あたしも、この雰囲気が気に入って、ここで働くことにしたんだ」
「そうなんですか。私も、ここ、気に入ってるんですよ」
 そうにっこりと笑みを浮かべる柊神奈。
 


85:__(仮) (4/11)
08/03/09 14:42:53 ZdQ1twML
 
 その柊神奈の表情を見つめながら、葉槻透夏は彼女の言葉に対して思う。
 それもそうであろう。でなければ、休みの日にあれほど頻繁にここへ来たりはしないだろう。
なんておあつらえむきの状況があったものだ。
 秋巳たちの学校が期末考査終了後の試験休みに入ってからの四日間のうち二日、その店に通いひとりで本を読んだり
勉強をしている柊神奈の姿が見受けられた。
 だから、葉槻透夏は、監視を始めてから一週間としないうちに、その店でのアルバイトに応募することを決めた。
 葉槻透夏としては、もう少し時間がかかると踏んでいただけに、これだけ早期に柊神奈に個人的に接触する機会を
得られたのは僥倖であった。
 幸い、店のほうでは、緊急ではないが常時アルバイト従業員を募集している状況であったし、
葉槻透夏の容姿も相まって、そのカフェの店長はあっさり彼女の採用を決めた。

「あ。そうだ! 忘れてた。いらっしゃいませ。お客様、何名様でしょうか?
 おタバコはお吸いになられます?」
「ふふ。見てのとおり、ひとりです。禁煙席で」
 葉槻透夏のマニュアル通りの対応が可笑しかったのか、鈴の音が転がるような笑い声を洩らす柊神奈。
 葉槻透夏がどういう意味を込めて言ったのか推し量ることなど当然しない。
「はい! おひとり様、禁煙席にごあんなーい!」
 葉槻透夏は元気良く受け答えする。
 一生おひとりでね。
 
 
 案内された席で、柊神奈が一時間ほどひとり本を読んでいると、テーブルを挟んだ目の前の席に人が座る。
 その気配に気づいて、彼女が面をあげると、私服に着替えた葉槻透夏がにこやかな微笑を湛えていた。
「お邪魔だったかな? あたし、今日はもう、これで上がりなんだよね。
 だから、柊さんとお茶でも一杯飲んでいこうかなって」
「いいえ。邪魔だなんてとんでもないです」
 本に栞を挟みながら、柊神奈はふるふると首をふる。
「ほんと? やった、ナンパ成功だね! お嬢さん、ついでに、
 このあとホテルにでもどう?」
「あはは。遠慮しておきます」
「うーん。やっぱり性急過ぎたかな。こういうのはじっくり攻めないとね」
 まあ、あまりゆっくりもしていられないけど。葉槻透夏は、内心思う。
 そこへ、葉槻透夏の同僚のウェイトレスが、紅茶をふたり分もってきて給仕し、空になった柊神奈のカップを引き上げる。
「あ、あの。私は、注文してないですけど」
 そう言って、去っていくウェイトレスを呼び止める柊神奈を、葉槻透夏が押しとどめる。
「あー。いいのいいの。あたしのサービス。この店に良く来てくれるんだったら、
 柊さんはお得意様だしね。ま、ここは年上のおねーさんに花を持たせてよ」
「あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
 奢られた者の義理を果たさんとばかりに、目の前に置かれた紅茶に口をつける柊神奈。
「うんうん。そういう素直なとこは、おねーさん好きよ」
 だから、その調子で、秋くんからは手を引いてね。
 頷きながら、葉槻透夏は、柊神奈に質問をする。
 知り合ったばかりで、あまり共通の話題がないことによる、当り障りのない会話を装って。
「柊さんは、よくここにひとりで来るの?」
「ええ。こういう静かなところが好きなんで」
「そうなんだ。でもね、働いてて気づいたんだけど、ここ、確かに騒がしくないけど、
 こういうお洒落なとこって、結構カップルで来るんだよね。
 寄り添ってひそひそいちゃいちゃ、いい加減にせい! って感じ」
「あはは。私も、良く見かけます。でも、ウェイトレスさんが、
 そんなこと言っていいんですか?」
「いまはお客だもーん。アイアムゴッドなのです。ところで、柊さんには、
 そういう人はいないの?」
 


86:__(仮) (5/11)
08/03/09 14:45:34 ZdQ1twML
 
「え?」
 訊き返す柊神奈。
「寄り添ってひそひそいちゃいちゃする人」
「い、いませんよ! そんな!」
「そう? 意外だね。ひょっとして、彼氏は作らない主義?」
「そんなこと……ないですけど」
 柊神奈は少し躊躇って応える。
 彼氏になって欲しい人はいるのだ。その人と仲良くなってきている実感も得られている。しかし、彼氏彼女の関係には
まだまだ遠いように思える。
「柊さんみたいな可愛い娘だったら、望めばすぐできそうだもんね」
「そんなこと、ないですよ」
 その言葉どおり、そんなことない現実と照らし合わせたのだろうか、柊神奈は僅かに苦笑した表情を浮かべる。
「この前、一緒にいた男の子は? 彼氏じゃないの? 水無都くん」
「ち、違いますよ! 彼は、誰にでもあんな感じで接するんですよ」
「そう? その割には、もうひとりいた女の娘に対する態度とは違ってたけど」
「弥生は……。まあ、あんな感じの娘ですから。むしろ、水無都くんは、私なんかより、
 弥生の方を気に入っているんじゃないかな」
 その感情は恋ではないかもしれないけど。弥生と接しているときの水無都冬真は、楽しそうだ。
 そう柊神奈は感じていた。
「あらら。でも、あの年頃の男の子だと、好きな娘のまえでは、怖くて真面目になれなくて、
 軽口に逃げてるだけかもよ? もし、その彼が、キミのこと好きだったら、
 そんなこと言われたらショックじゃないかな?」
「え! それは……。でも、私も、水無都くんのことは良く知っているわけじゃないですけど、
 水無都くんって本当に好きな相手には、あんな態度とらないんじゃないかなって思いますよ」
 柊神奈は思う。
 そうだ。表面上だけなら、自分に好意を持っててもおかしくないと言える態度ではある。
 それでも。
 柊神奈が水無都冬真に友達以上の好意は向けていない事情を差し引いても、
彼は柊神奈に恋愛感情を抱いていないだろうと思える。
 秋巳が自分に恋心を抱いていないのが判るのと同じく。
「ふーん。まあ、彼の気持ちは別として、柊さんはどうなの? 彼のこと良く思ってないの?
 あたしも数回しか会ったことないけど、格好良くて陽気で楽しくて、
 高校生くらいの女の娘ならほっとかないんじゃない?」
 自身は微塵も受け取っていない印象を、一般論に押し込めて訊ねる葉槻透夏。
「えーっと……」
 柊神奈は困ったように手を擦り合わせて、返答に詰まる。
「ひょっとして、他に本命がいるとか?」
 葉槻透夏は、もうすでに判りきっていることを、いまさらのように予定通りの会話の流れで。
「え……あの、はい」
 こくん、と微かにその穏やかな空気を揺らすかのごとく頷く柊神奈。
 おそらく、彼女が秋巳の従姉弟でなければ、加えて、秋巳にあれほど親しげに接していなければ、
柊神奈は、そう本心を出さなかったであろう。
「あ! そうなんだ。いやーいいね! 恋する乙女!」
 眼前に座する柊神奈の恋する瞳を即座に抉り出してやりたい気持ちを押し殺し、そんな心情を微塵も表情や声色にのせずに、
葉槻透夏は笑顔で応える。

「そ、そういう、葉槻さんはどうなんですか。葉槻さんこそ、
 それこそ選り取りみどりじゃないですか?」
「え? あたし? うーん。あたしも好きな人はいるんだけどね」
「ど、どんな人なんですか?」
 柊神奈は、息を呑むように少し身を乗り出して質問する。先日の葉槻透夏の秋巳に対する態度から、ある種の予感を抱く様子で。
 


87:__(仮) (6/11)
08/03/09 14:48:31 ZdQ1twML
 
「うん? あたしの好きな人? 柊さんは知らない人なんだけどね。
 でもね、ずっと想ってるんだ」
 そう。柊神奈など知るはずない。
 精々学校で接しているだけの秋巳しか知らないこの女が、自分の好きな『如月秋巳』を知るはずがない。
 そう思いを込めて彼女に返答する。
「え……? そ、そうなんですか?」
 拍子抜けしたように、柊神奈の強張った肩からかくんと力が抜ける。
「え? 意外? あたしが一途に想っていたら?」
「い、いいえ! そういう意味じゃないんです。ひょっとしたら、葉槻さんって、
 如月くんのことが……なんて思ってたもので」
 慌てた柊神奈は、ついつい本音が洩れてしまう。
「秋くん? 秋くんは、従姉弟だよ?」
 単に事実のみを述べ、葉槻透夏は、だからどうだとは触れない。勝手に柊神奈がその先を推測するよう仕向ける。
「あは、は。ごめんなさい。如月くんと葉槻さんが、あんまり仲良さそうだったんで」
「ということは、ひょっとして~?」
 葉槻透夏は、にやりという表現が相応しい面持ちで、左人差し指を突き出し柊神奈の女の娘らしく柔らかい頬をつつく。
「え!? ええっ!? あ、あの?」
「柊さんの本命は、秋くんなのかな~?」
 その愉快そうな眼差しとは裏腹に、柊神奈との会話が進むにつれて、葉槻透夏の内心は、
それこそ不愉快さが募り募って大フィーバー状態であった。
 その彼女のイライラがテーブルに置いた右腕から伝わったのだろうか、微かにテーブルが振動する。
「あ、あの。えっと、その……はい」
 下を向き、まだ半分以上カップに残っている紅茶が小さく波立つのを見ながら、柊神奈は応えた。
 柊神奈が直接はっきりと「秋巳が好き」ということを伝えたのは、これで二人目となる。一人目は当然、秋巳本人。
 その事実をはっきり知っている者として、秋巳から伝えられた水無都冬真が加わり、
確信に近い推測で理解しているものが春日弥生に椿と、さらにふたり追加されるが。

「ふーん。ほー。なるほどー」
 ある程度予測はしてたといはいえ、ここまで苛立つとは予想しなかった葉槻透夏は、その心内をなんとか表面に出さずに続ける。
「いやー。秋くんも果報者だねぇ。こんな可愛い娘に想われるなんて。
 ちなみに、秋くんのどこに惚れちゃったのかな?」
 どうせ、なにかへんな思い込みでもして、勘違いしているのだろう、そう見当をつけながら葉槻透夏は訊ねる。
「え、えっと。他の人には言わないでくださいね……」
 葉槻透夏が秋巳のことを好きでないと判ったためか、胸の中に渦巻く痞えがとれたかのごとく安心した柊神奈が、
そう前置きをしながら話す。かつて、秋巳に語ったときと同じ内容を。
 柊神奈が如月秋巳のことを気にするようになり、そして、恋心を抱くまでになる過程を。



「…………」
 柊神奈がひととおり話し終わったあと、葉槻透夏は二の句が継げなかった。
(なんでなんでなんで―!)
 この女がなにを知っているというのだ! この女など秋巳の苦しかったときをなにも理解していないではないか!
 おまえの惚れた秋巳になるまでに、自分がどれほど時を費やしたか、どれほど心血を注いできたかなにも判っていないくせに!
 貴様なぞに秋巳に惚れる資格などあるものか!
 だのに―。
 なのに、なんで、秋巳のことを理解しているのだ。秋巳のことをそこまで把握した上で慕っているのだ。
 理に適っていないではないか。後からしゃしゃり出てきた者などに、自分と秋巳の仲に入ってこられて堪るものか。
 いますぐ、秋巳を好きだというこの女の口を塞いでやりたい。秋巳を慕うその瞳を潰してやりたい。
二度と秋巳のことを考えられないようその息の根を止めてやりたい。
 
 


88:__(仮) (7/11)
08/03/09 14:50:41 ZdQ1twML
 
「あ、あの……? 葉槻さん?」
 さすがに平静を装えなくなったのか、苦渋の胸中が滲み出してきた葉槻透夏に対し、
その様子を不審に思ったのだろう、柊神奈が問う。
「え……? あ、ああ。ごめん。その、キミがあんまり熱心に話すもんだから、
 思わずその世界に引き入れられちゃったよ」
 葉槻透夏は、そう取り繕ったが、その語調はわずかに震えている。
「え……? や、やだ。私、そんなに真剣に語っていました?」
「うん。もう、真剣も真剣。本気と書いてマジってやつだったよ」
 それこそ、真剣でその喉を掻き切ってやりたいくらい。
 煮え繰り返る腸を、卓の下に隠しきつく握り締めた右拳で、なんとか押し殺す葉槻透夏。
 これはもう―。
 これ以上、この女を調べる意味などあるのだろうか。
 『答え』は決まっているのではないか。
 葉槻透夏はそう自問自答する。
「あ。ごめんね。長々と読書の邪魔しちゃって。
 とりあえず、飲み物は頼み放題にしといたから、ゆっくりしていってね」
 いまの精神状態で、これ以上柊神奈と普通に会話が出来ないと悟った葉槻透夏は、若干歪んだ微笑を浮かべると、席を立つ。
「あ、あの!」
 そんな葉槻透夏を引き止めるように、柊神奈が呼び止める。
「うん? なに?」
「そ、その。葉槻さんは、如月くんのことをよく知っているんですよね」
「うん。まあ、そうかな」
 すでに、感情を押しとどめるために、そう応える葉槻透夏の口調は平坦に近いものとなっている。
「あ、あの……。その、こ、これからも、相談にのってもらってもいいです、か?」
 おずおずとそう申し出る柊神奈。
 自分の気持ちを暴露してしまったこともあり、さらに最近の閉塞感を無意識に自覚しているためか、葉槻透夏にそうお願いする。

(この女は―)
 自分を挑発しているのだろうか。それほど、己の考えうる最悪のパターンをとらせたいのか。
 そんなつもりは彼女にないのだろうと理性では判っていても、燎原の火のごとく噴きあがる胸裏を抑えられない。
 ならば―。
 それならば。
 いいだろう。望みどおりにはしてあげる。
 おそらくはそうなるだろう。
 いまこの段階で結論を得たわけではないが、葉槻透夏は、おそらく行き着く先であろう終着点を確信する。
「うん。いいよ。あたしなんかで役に立つなら」
 そうだ。ある意味都合が良いではないか。
 葉槻透夏は思う。
 十中八九この女は言いふらしたりしないだろう。己が、葉槻透夏に恋愛相談を持ちかけているなどと。
 だったら、好都合。自分の制御下の範囲にあるほうがよい。
「あたし、基本的に、毎日この時間くらいには、ローテに入っているから」
 それは彼女自身がもともと狙って希望を出していたこと。この眼前の不愉快な人間のことを探るために。
この忌々しい女を排除するために。
「あ、ありがとうございます!」
 ぺこりと頭を下げる柊神奈。
「そう御礼を言われることじゃないよ。秋くんが幸せになってくれるなら、
 それは、あたしの本望だし」
 だからね。消えてね。
 葉槻透夏は、血の滲む右手を後ろ手に隠し、左手をひらひらと振ると、柊神奈と別れた。
 
 
 
 
 


89:__(仮) (8/11)
08/03/09 14:54:46 ZdQ1twML
 
 
       *  *  *  *  *  
 
 
 リビングの窓の向こうから油を揚げる音のようなアブラゼミの忙しい鳴き声が反響し、聴覚的な効果も相まり、
朝から日差しの強さを漂わせる夏の陽気のなか。
 いつもと変わり映えなく朝の支度をし、秋巳が朝食を摂りながらテレビのニュースを見やっていると、先に朝食を終え、
登校の準備を整えた椿が、彼に話し掛ける。
「ねえ。兄さん」
「うん? どうしたの?」
 いつもなら、そろそろ椿が家を出る時間だ。そして、その十分後が自分の玄関の扉を開く時間。
 なにげない調子で返した秋巳に対し、同様になにげない口調でこともなげに提案する椿。
「一緒に登校しませんか?」
「は……?」
 秋巳は手にしたパンを取り落とす。
 なにを言われたか理解できなかった。椿はいまなんと言ったのだろう。
 自分の聞き間違いでなければ、一緒に学校に行こうと提案した気がするのだが。
 まだ、寝ぼけてるのだろうか。
 ぶんぶんという擬音が相応しく頭を振ると、秋巳は椿に問う。
「ごめん。もう一回いいかな?」
「一緒に学校に行きませんか、と言ったのです」
「…………」
 空耳ではなかった。確かに、椿は、一緒に登校しようと申し出たみたいだ。
「ど、どうしたの? なにかあったの?」
 動揺を押し隠せない秋巳は、椿の登校途中になにかあるのだろうかと心配し、訊ねる。
「いえ、なにもありませんが」
「じゃあ、なんで……?」
「おかしいですかね?」
「え?」
「同じ家から、同じ場所に通うのに、一緒に行くのっておかしいのでしょうか? 
 それとも、妹と一緒に登校するのって恥ずかしいですか?」
「な……。いや……、え? そ、そんなわけないよ!」
 逆だ。椿こそ、自分と登校するのは恥ずかしいのだろう。嫌なのだろう。秋巳は困惑する。
「ごめん。急にだったから、びっくりしたんだよ」
「兄さんにとっては、急にだったかもしれませんけど。私にとっては、急ではないですよ。
 兄さんは、私に一度も言ってくれたことないですよね。一緒に学校に行こうって。
 私が、初めて登校する日でさえも」
「それは……」
 口篭もる秋巳。
 椿は、自分なんかと一緒に歩きたくないだろうって思ってたから。自分のような人間が兄であることを、
周囲に知られたくないだろうって配慮してたから。
「兄さんが、妹なんかと一緒に登校することが恥ずかしいのかなって思っていたので、
 あえて口には出しませんでしたが。でも、今日は終業式ですから。万が一、
 変な噂が立てられたとしても、夏休み明けに登校するときには、皆忘れてますよ」
「っていうか、椿は嫌じゃないの?」
 秋巳は恐る恐る訊ねる。
 それもそうであろう。秋巳の希望としては、一緒に通えるものならしたい、一緒にいろんなことを話しながら
通学路を歩きたいのだ。
 普通の家族ならば、それは当たり前のことではないのか。日頃のいろんなことを話し、いろんなことを共有するのは。
「兄さん。冷静に考えてください。そもそも私が嫌だったら、
 こんなこと言い出すと思いますか」
「いや……。誰かになにか言われたのかと……」
「なにか、ってなんですか?」
 なんだろう。
 椿の質問に、間抜けにも心の中で問い返す秋巳。
 


90:名無しさん@ピンキー
08/03/09 14:56:05 7he+GZmc
がんばれ!

91:__(仮) (9/11)
08/03/09 14:57:44 ZdQ1twML
 
「ご、ごめん。変なこと言ったよね。いますぐ準備するから、ちょ、ちょっと待ってて」
 秋巳は、慌てて残りのパンを口に押し込むと、それをコーヒーで流し込む。
「兄さん。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。
 いつも兄さんが家を出る時間でも間に合うのでしょう?」
「―げほっ。あ。うん。そうだね。すぐ準備するから」
 答えになっていない返答をかえすと、秋巳は浮き足立って洗面所へと向かう。
「あ。待ってください」
 秋巳を呼び止める椿。
「え?」
「ほら。ネクタイがずれていますよ」
 椿は、そう秋巳の元へ歩み寄ると、彼の首もとへ両手をやり、その歪んだネクタイを締めなおす。
「…………」
「はい。大丈夫です。じゃあ、兄さんの準備が出来たら出ましょうか」
「あ、ああ……」
 椿は、穏やかな笑みを浮かべて、洗面所へふらふらとした足取りで向かう秋巳を見送る。
 
 
 
 
「おいーす。秋巳……って、椿ちゃん? ど、どうしたの? 寝坊でもした?」
 秋巳が椿とともに玄関を出て、椿が戸締りを確認していると、門の前を通りかかった水無都冬真が挨拶とともに
驚きの声を上げる。
「おはようございます。水無都さん。今日はいつもどおりの時間に起床しましたよ」
「お、おはよう、冬真」
 ぎこちない態度と声色で挨拶を返す秋巳。
 水無都冬真は、状況がよく把握できずに、固まったまま門前で出てくるふたりを迎えた。
「お、おい! 秋巳、おまえ、どういうことだよ! なんで椿ちゃんと一緒に、
 家を出てくるんだ?」
「水無都さん、落ち着いてください。私が誘ったのです、一緒に行きましょう、と」
「なに? あ、秋巳……。おまえ、ついにそこまで堕ちたか……。
 いったいなにを握ったんだ? 恥ずかしい写真か? 恥ずかしい声か? 
 恥ずかしい過去か? 俺にも共有しろよ!」
 秋巳に掴みかかり、がくがくと揺らす水無都冬真。
「ちょ、ちょっと冬真、落ち着いてよ。言ってる意味が判らないよ」
「だって、椿ちゃんだぞ? あの椿ちゃんが、おまえと一緒に登校するって言ってるんだぞ? 
 おまえ、なんか弱みを握って脅してるんだろう? そうなんだろう? 
 『言うこときかないと恥ずかしさで二度と表を歩けないようにしてやる』とかなんとか言って」
「水無都さんまで。そんなにおかしいですか、一緒の家に住んでて、
 一緒の高校へ通う兄妹ふたりで登校するのは」
「…………」
 水無都冬真は、なにか思考を巡らせているのか沈黙する。
「椿ちゃん、本気?」
「ええ。真面目ですよ」
「そ、か」
 それだけ呟くと、水無都冬真は、一転、気を取り直したのか、秋巳に向き直る。
「いやいや。からかって悪かったな。おかしくない。全然おかしくないよ。
 兄妹が仲良いことは、良いことだもんな。椿ちゃんがそう決めて、
 秋巳も異存がないんだったら、俺が口出しすることじゃないもんな。それに俺も、
 椿ちゃんと一緒に登校できて嬉しいし。さて、じゃあ、
 時間にそれほど余裕があるわけじゃなし、学校に向かいますか!」
 そう言って、秋巳の隣に廻り込んでその肩を組むと、秋巳を押し出すようにして歩き出す。
 秋巳は気づかない。
 その水無都冬真の行動が意味するところを、椿が推し量ろうとして、ふたりの後ろから冷たい視線を送っていたことを。
 
 


92:__(仮) (10/11)
08/03/09 15:00:00 ZdQ1twML
 
 
 そうして、三人で登校している背後から。
「おはよー。如月くん、水無都くん、椿ちゃん」
 柊神奈が小走りで寄ってきて、三人に挨拶を交わす。その表情は、明日から始まる夏休みへの期待だけではないのだろう、
晴れやかな笑みを浮かべて。
「おお。柊ちゃん。おはよー。今日も眩しいほど輝いてるね!」
「おはよう。柊さん」
「おはようございます」
 三者三様の挨拶を返す。
「えへへ。明日から、夏休みだね」
 そう嬉しそうに三人に微笑みかける柊神奈。
 期末考査、試験休み、テスト返却日とこなして、本日は終業日。周囲を歩くまばらな生徒たちも、彼女と同様、
明日からの長期の休みに期待をかけているのか、楽しげな雰囲気が伝わってくる。
「おお! 明日から、ボクと柊ちゃんの甘酸っぱいラブラブストーリが始まるってわけだ。
 ひと夏の経験をして、ふたりはさらなる大人の階段を上る、と」
「水無都さんは、最初の一段目にまず足をかけないといけないのでは?」
 目を閉じ頭の中に広がる壮大なストーリでも妄想しているのか、両腕を広げながら語る水無都冬真に、
椿がつっこみをいれる。
「お? 椿ちゃん。なに? 嫉妬? 妬いちゃってるのかなぁ?」
「ええ。胸が」
 やけます。水無都冬真の妄想に。とは口に出さない椿。
「え? 胸がドキドキするって? いやー! モテる男は辛いね。
 いや、大丈夫、俺は懐の深い男だから。どんときなさい」
「そうですね。いけるものならいきたいですね。ドン、と」
「あの? なにか、別の意味込めてないよね?」
「なんでしょう?」

 柊神奈が合流してから、自然と、前を歩く秋巳と柊神奈、少し離れて後ろに続く椿と水無都冬真、とペアに分かれる。
「ねえ。如月くんは、なにか、夏休みの予定とかってあるの?」
「うーん。いまのところないかな」
「そうなんだ。じゃあ、また、弥生とか、水無都くんと一緒に、どっか行こうか」
「うん。まあ、そうだね。行けたらいいね」
「うん! きっと行こうよ! あ、そうだ。私、如月くんのメールアドレスとか、
 携帯番号知らないんだけど、教えてもらってもいいかな?」
「うん……。いいけど、冬真のは?」
「水無都くんには、大分前に教えてもらってるから」
 そう言って携帯を開く柊神奈。
 実際、水無都冬真が柊神奈にアプローチをかけるようになった頃に、ふたりは連絡先の交換をしていた。
 といっても、半ば押し付けるみたいにアドレス等を渡してきた水無都冬真に対して、一応の礼儀として、
自分も教えたという事情ではあったが。
 そして、アドレス交換はしていたものの、お互いの携帯にそれぞれ相手の履歴が載ったことはなかった。
水無都冬真が彼女を誘うときは、つねに学校で口頭ベースであった。
 
 


93:__(仮) (11/11)
08/03/09 15:02:16 ZdQ1twML
 
 
 そんなやり取りをする秋巳と柊神奈から、若干距離をとって後ろを歩く椿と水無都冬真。
「いやー。初々しいねえ」
 水無都冬真は、なにが、と主語は言わない。かつ、前方には聞こえないよう椿に語りかける。
「ええ。そうですね」
 特に感慨を含めないように追従する椿。
「ところで、椿ちゃんは、どういう心境の変化かな?」
「なにが、です?」
 水無都冬真がなんのことを触れているのか判らないとでも言いたげに、椿は訊き返す。
「この状況が」
「前を歩く兄さんが、柊先輩と、初々しい中学生カップルのようなやり取りを
 していることですか?」
 椿は、判っていながら態と恍ける。
「うーん……。そういえばさ、前に喫茶店で椿ちゃんとふたりで会ったときに、
 俺、訊いたことあったよね」
 一見いままでの流れと関係ないような話を、水無都冬真は始める。
「なんでしたっけ? というより、いつのことでしょうか?」
「俺が付き合いたい人がいるって、話したとき」
 それは、水無都冬真が秋巳から柊神奈の告白の件を相談されて、その後、椿をメールで喫茶店『ユートピア』へ
呼び出したときのこと。
「ああ」
「思い出した?」
「おぼろげながら」
「あのとき、訊いたよね。いや、椿ちゃんが言ったんだよね。
 秋巳が変わるかもしれないって」
「そうでしたっけ?」
 詳しいやり取りなど、まったく覚えていないというように椿。
「あのときの想像はあってた?」
 椿の恍けた態度など微塵も歯牙にもかけずに、水無都冬真は幼い子に問い掛けるように穏やかに優しい口調で質問する。
「…………」
 椿は憂鬱げに瞳を細め、沈黙する。
 水無都冬真はそれ以上言葉を紡がない。
 それが三十秒ほど続いただろうか。椿は、水無都冬真の方へ向き、薄く笑みを浮かべた。

「―はずれました」
 
 
 
 
 
 
 
 


94: ◆a.WIk69zxM
08/03/09 15:02:47 ZdQ1twML
 
以上。投下終了です。
 


95:名無しさん@ピンキー
08/03/09 15:05:04 MN9Sa1ed
リアルタイムGJ!
透夏も神奈も、釈迦の手のひらの上で躍る孫悟空に見える

96:名無しさん@ピンキー
08/03/09 15:37:37 UJjmFE0E
GJ

97:名無しさん@ピンキー
08/03/09 15:55:52 wUyrnDfy
>>94

GUっす!
葉槻と柊、この対決が益々見逃せなくなった!



98:名無しさん@ピンキー
08/03/09 15:57:50 ypEcswcW
GJ!
椿はいったい何を思っているのか、妄想しながら続きも楽しみにしてます。

99:名無しさん@ピンキー
08/03/09 16:03:35 XvSNpzU9
G・J!!
駒はそろったって感じですね
先がどうなるか怖い。なのにwktk
続きを待っています

100:名無しさん@ピンキー
08/03/09 21:44:46 7BnKq3/4
これは名作になりそうな予感

101:名無しさん@ピンキー
08/03/09 22:57:35 xhzXy9ai
GJ!!
とうとう椿が行動しだしたな…

続きwktk

102:名無しさん@ピンキー
08/03/09 23:45:51 vqCjVSAd
うーーーん…。
まさかとは思うけど、毎度毎度のワンパターンに陥っていくんじゃないだろうなぁ

今までの作品の中では一番好きだったけど、ちょっと暗雲。
でもまだ色々と編み込んでるから絶望するには早いか?

期待してますぜ?


103:名無しさん@ピンキー
08/03/09 23:48:46 lFT7LEeJ
はいはい

104:名無しさん@ピンキー
08/03/10 00:10:51 NuG7zxHv
どんな上から目線やねんと

105:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:29:37 etaIdRWn
上から目線ってキモイね

106:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:31:11 ewQjstAL
背の高い妹に、常に上から見下ろされるお兄ちゃん…

107:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:38:25 v0T7OYlm
う~ん、これは冬真の動き次第なのかな?
死者0で終わってほしいけど……やっぱ無理だよなあスレ的に

108:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:41:31 vsObE2oQ
あー、続き気になるー。
そして喫茶店での透夏の心理描写が怖いww

109:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:44:33 5hgrxhFp
椿がついに動き出すか…
透夏の行動といい、これは期待せざるを得ない

110:名無しさん@ピンキー
08/03/10 02:19:34 PqRh60D8
>>102
まさにお前が、うーーん…だな

111:名無しさん@ピンキー
08/03/10 03:12:47 q9xZyIrA
>>106
それなんて俺(´・ω・)
見下されるじゃなくて見下ろされるだけど。
ほんと三次元は嫌だね。大腸菌だわ。三次元の女なんて。

112:名無しさん@ピンキー
08/03/10 04:34:28 L7omrw5h
ヤバそうな素振りを見せてない椿が、妙にブキミに見える…

何かいろいろ勘付いてるっぽい冬真の動向にも注目だな。

113:名無しさん@ピンキー
08/03/10 13:10:12 2rOkTJLu
とあるスレを覗いてきた。


現実のキモ姉がいかに危険か認識した。

114:名無しさん@ピンキー
08/03/10 13:33:07 oiJFT5EB
>>113
ブラコンの妹はどうしたらキモウトに昇格するんだろう…?

115:名無しさん@ピンキー
08/03/10 13:33:32 NCl0M1vp
>>113
VIP?

116:名無しさん@ピンキー
08/03/10 13:57:54 2rOkTJLu
男性 性的虐待で探してみ。
ただし、あそこを見る時は性的興味を捨て去る事だ。


117:名無しさん@ピンキー
08/03/10 18:20:29 FjaSLFVQ
はははは、馬鹿だなぁ
ただのメンヘルやヤンデルと、キモ姉キモウトは違うぞよ

はちきれるほどの愛
溢れんばかりの愛液
そして誰もが羨むルックス

この三つが揃わなければ、キモ姉キモウトの称号は得られない

118:名無しさん@ピンキー
08/03/10 18:42:18 B3gwSbLO
ああいうのはキモ姉って言うんじゃなくて本当の病気だからな

119:名無しさん@ピンキー
08/03/10 20:08:57 G5HnRNfC
ここでは美人、かわいい童顔はデフォ

120:名無しさん@ピンキー
08/03/10 21:07:55 o+nOy8BW
>>116
可哀想な人達がいっぱいいたよ

121:名無しさん@ピンキー
08/03/10 21:45:45 UD2EJ2GQ
ここはキモウトスレだから椿を応援するのが当たり前なんだろうけど
今のところ内面が描かれてないからなかなか感情移入できないね
だから、とりあえずは神奈がんばれ

122:名無しさん@ピンキー
08/03/10 21:53:12 OrE6C2cV
おれも神奈を応援してる
この娘に何かあったら泣くよ、おれ

123:名無しさん@ピンキー
08/03/10 21:55:05 2H0Y2azr
椿最高、兄と幸せになってほしい

124:名無しさん@ピンキー
08/03/10 22:13:16 bCPP2HFu
姉でも妹でもない柊に萌えるなんて……くやしいっ……

125:名無しさん@ピンキー
08/03/10 22:49:16 NuG7zxHv
まあ作者さんが思うように書くのが一番だからな
〇〇を危険な目に合わせないで下さい><
みたいなのはあんまりエスカレートさせないようにな

126:名無しさん@ピンキー
08/03/10 22:53:19 6Jnes8D7
喫茶店の一件で透夏が好きになった
従姉だけど一番つらい幼少期を一緒に過ごした事で姉というか義姉みたいな心情になってる感じがする

127:名無しさん@ピンキー
08/03/10 23:01:00 DTMtdiZ6
作者さんに余計な要望はしない方がいいし
上から目線の書き込みが不快というのも同意なんだけど
ジットリとした心理戦を長く楽しみたかった分、刃傷展開になってしまうのは
少しばかり残念という嗜好・気持ちはわかってしまうなあ。
ともあれ、期待してます、頑張ってください。

128:名無しさん@ピンキー
08/03/10 23:31:55 NSWt2Aa4
では話題を変えよう

女きょうだいのいない方に尋ねるが。

欲しいのはどっち?

・美人だけどまだ覚醒してないブラコン姉

・容姿はちょっと可愛い位だが、完全覚醒した18禁なキモウト

二者択一で!!

129:名無しさん@ピンキー
08/03/10 23:36:58 JGCjhC31
>>128
命が惜しいので姉を

130:俺と香苗とキモウトの朝
08/03/10 23:47:01 S2uMRc9M
「イッヒッヒ」
 こんな馬鹿な笑い方をするのは妹の純子ぐらいのものだなあと思いながら薄目を開ける
と、案の定そうだった。ベッドに横たわる俺を、小柄な人影が見下ろしている。
 ぱっちりした大きな瞳に、思わず摘まみたくなるぐらいに小さい形のいい鼻、微笑むと
猫っぽい形になる可愛らしい唇、ぷにぷにした柔らかい頬と完璧なラインを描く顎筋。
 文句なしの美少女だ。兄という立場上、幼いころから見慣れている俺ですらそう思う。
世のロリコンどもがこいつを見たら、誘拐とか監禁とか物騒なことを考えてしまうかもし
れない。
 だがしかし、そんな理想のロリータフェイスも、そこに浮かんでいるのが欲望まみれの
下品極まりない馬鹿笑いとあっては台無しもいいところだ。っつーか涎を垂らすな、床が
汚れるだろうが。
「ジュルリ……うへへ、何も知らずに眠ってやがる……馬鹿なお兄ちゃんだぜ!」
 馬鹿はお前だ。
「ハァハァ……やっべー、たまんねぇっすよ俺、今すぐこの唇犯しちゃっていいッスか先輩」
 よくない。っつーか先輩って誰だ。
 俺は心の中で突っ込みを入れながら、さてどうしたものかと考える。どうやら、眠って
いる内に純子の侵入を許してしまったらしい。俺としたことがひどい失態だ。こんなこと
なら罠でも仕掛けておくんだった。このアホなら漏れなく全部に引っかかって、物凄く愉
快な醜態を晒してくれただろうに。
「いや、落ち着けわたし。目覚めのキッスの前に、まずしなくちゃならないことがある!」
 落ち着いたのなら出て行ってほしい。
 そう思う俺の前で、純子は勢いよく布団の端を引っつかんだ。
「当然、まずはおにんにんだーっ!」
 ああ、やっぱりこいつは馬鹿だ。布団が剥ぎ取られて冷たい空気が体に迫ってくるのを
感じながら、とりあえず一発蹴りをお見舞いしてやろうと身構える。だが、俺の足が跳ね
上がるよりも早く、純子が悲鳴を上げた。
「うぎょあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 いつも思っていることだが、あと少しでいいから可愛い声が出せないものだろうか。嫁
入り前の娘が、なんてみっともない。
 心の中で溜息をついたとき、俺はふと、奇妙な感覚を覚えた。布団を被っているときは
気付かなかったが、なんだか右の方に自分のものではない人の温もりを感じるような。
 そう思って体の向きを変えて、ぎょっとした。俺の隣で、長い黒髪の美人さんが健やか
な寝息を立てている。一瞬頭が真っ白になったが、よくよく見るとこっちも見知った顔
だった。
「テメーッ! 誰の許可を得てお兄ちゃんの布団に入り込んでんだコラーッ!?」
 純子が怒鳴る。お前こそ誰の許可を得て俺の部屋に入り込んでんだコラ。
 馬鹿の怒鳴り声に反応して、美人さんが悩ましい吐息を漏らしながら身じろぎする。美
しい睫毛がかすかに震え、ゆっくり開く目蓋の向こうから宝石のように輝く黒い瞳が現れ
た。美人さんは目の前に寝ている俺を見つけると、眠たげに、だが嬉しそうににっこりと
微笑んだ。
「おはよ、浩二」
 なんて甘美な声なんだろう。流れるような黒髪の向こうに覗く悪戯っぽい微笑みは、陳
腐ながらも天使に例えたくなるほどの愛らしさだ。

131:俺と香苗とキモウトの朝
08/03/10 23:48:05 S2uMRc9M
「お、おお、おはよう」
 そんなわけで俺がどもりながら挨拶を返すと、
「挨拶してる暇があったら地獄に落ちろやクソアマァッ!」
 案の定、馬鹿が雰囲気を読まずに暴走を始めた。常に持ち歩いているらしい包丁を大き
く振りかざし、俺の隣に横たわる美人さんに向かって躊躇なく振り下ろす。美人さんはそ
の包丁の方をちらりとも見ないまま、わずかに腕だけを動かして、鋭い切っ先を二本の指
で挟み取る。いつ見ても惚れ惚れする絶技だ。
「うふ。浩二のベッドって、なんだかいい匂いがするねえ」
 美人さんは俺の枕を引っつかむと、顔を埋めて鼻を鳴らし始める。実に艶かしいその仕
草に、俺は少し顔が熱くなるのを感じた。とりあえず、努めて素っ気ない口調で言ってやる。
「嗅ぐなよ、バカ」
「そーだっ! お兄ちゃんのベッドをくんかくんかして、その臭いでオナニーしていいの
はわたしだけだっ!」
「誰もそんなこと許可してねえっ!」
 ほとんど反射的に、馬鹿な妹を怒鳴りつける。ちなみにこの馬鹿、今は美人さんの指か
ら包丁を引き抜こうと躍起になって、顔を真っ赤にしている。しかし、奴が全身全霊の力
を込めているらしいというのに、包丁を挟む二本の指はぴくりとも動かない。美人さんは
空いている手を頬に添えて、楽しそうに笑った。
「相変わらず仲がいいねえ、浩二と純ちゃんは」
「よくねえよ」
「当たり前だよ、ラブラブのドロドロに決まってんだろーが! オメーが入る隙間なんか
その汚ねえ膣口ほどもねーんだよこの雌豚ッ!」
「お前はちょっと黙ってろバカ!」
 正反対の答えを即座に返す俺たちの前で、美人さんは上機嫌に目を細めている。
 この美人さん、名前は香苗と言って、我が家の隣に昔から住んでいる幼馴染である。年
は俺と同じ。昔から綺麗な顔立ちだったが、それに加えて最近では体の発達が著しく、気
さくながら大人っぽい雰囲気と相まって、見ているこっちがたまにどぎまぎしてしまうほ
どだ。顔も体も幼いままの純子とはえらい違いだ。
「あーっ! お兄ちゃん雌豚の汚ねーエロ乳見て発情してるーっ! チクショーッ、わた
しだってあと3年あればーっ!」
 訂正。俺の妹は顔と体だけじゃなくて頭もある意味幼いままだ。頼むからエロ知識より
も先に、ちょっとでいいから分別をつけてほしい。
「いやん、浩二のえっち」
 香苗がふざけるように身をくねらせながら、空いている方の腕で胸の辺りを覆い隠す。
隠すというか押し潰すというか。細い腕の下、薄い寝巻きの向こうで非常に柔らかいマ
シュマロ的物体がぐにぐにぷにぷにしていて、なんというかこう、
「性欲を持て余す」
「エロ乳に当てられてお兄ちゃんが壊れたーっ!」
「はっ……しまった、つい本音が!」
「何ていうか、やっぱり浩二と純ちゃんって兄妹だよね」
 ケラケラと明るく笑いつつ、香苗が「さて、と」と小さく呟く。その体がつむじ風のよ
うに回転したかと思うと、一瞬で香苗と純子の位置が入れ替わった。すなわち、ベッドに
押さえつけられる純子と、その腕を捻りあげて関節技を決めている香苗とに。
「いつ見ても惚れ惚れする神技だな」
「やだもー、そんなにおだてないでよ浩二ったら。あたしぐらいの年の子だったらこのぐ
らい誰だってできるよー」
「勝手にそんな恐ろしい世界観を構築しようとしないでくれ」

132:俺と香苗とキモウトの朝
08/03/10 23:49:07 S2uMRc9M
「っつーかいたいいたいいたいいたい! な、なにこれ、なにがどうなってんの、なんで
わたし一瞬にしてお兄ちゃんのベッドに這い蹲ってうへへへお兄ちゃんの臭いだぁ」
「痛がるかにやつくかどっちかにしろバカ」
 俺は溜息をつきつつ、ベッドから足を下ろした。立ち上がると同時に、香苗がぎりぎり
と純子の腕を極め始める。
「さー純ちゃん、今日も朝の運動を楽しみましょうねー」
「やめろぉぉぉっ! はなせクソアマァッ! 助けてお兄ちゃーんっ!」
 純子の悲鳴を背中に聞きながら、俺はカーテンを開け放つ。ガラス窓の向こうから、眩
しい朝日が降り注いだ。今日もいい天気、実にいい目覚めだ。
「ところで、純子はともかくとして、なんで香苗が俺のベッドに入り込んでたの?」
「だってー、夜中に監視カメラチェックしてたら、純ちゃんがこそこそ浩二の部屋の方に
向かうのが見えたからー」
「ちょっと待て、監視カメラなんか仕掛けてんのかお前」
「風呂とトイレのはわたしに寄越せ!」
「黙れ馬鹿」
「だって、浩二と純ちゃん、見ててとっても楽しいしー。ま、そんなわけで、純ちゃんを
お仕置きと称していじめるいい口実が出来たと思ったわけ」
 香苗は悪びれずに笑いながら、純子の背中にぐりぐりと膝を押し込み始める。「あ
ぎゃっ、ひぐっ、ぐぎゃぁっ!」と、純子が実に耳障りな悲鳴を上げた。
「うわーん、いだいよぉっ! だずげでおにいぢゃーん!」
「いつものことながら絵に描いたような自業自得だな」
「そうだねー。ほーら、もーっと痛くなるよー?」
「ひぐぅぅぅぅっ!」
「ハァハァ……やっべー、涙目の純ちゃん激かわいー」
「やめろぉっ、撮るなぁっ!」
「えへへへ、今日のオカズゲーット」
 香苗は左手一本で純子の両腕を極めつつ、右手でデジカメのシャッターを押すという器
用な真似をやってのける。まあこいつのスペックはいろんな意味で桁外れなので、今さら
驚きはしないが。
「ほどほどにしといてくれよ、香苗。こんなでも一応妹だし」
「了解。まあとりあえず折る直前ぐらいまで負荷をかけてみようかなーって」
「そんな! 助けてよお兄ちゃん!」
「正直気が進まん」
「浩二って結構サドだもんね」
「あ……そっか、お兄ちゃん、痛がるわたしを見て興奮してるんだ」
「そんな性癖は一切ない」
「照れなくてもいいのにっていだだだだだだっ! ちょ、やめ、指、わたしの指が、指がーっ!」
 ボキボキボキボキィッ! という破滅的な音と純子の悲鳴に背を向けて、俺は自分の部
屋を出た。
 今日も実にいつも通りの朝だった。早く飯食って学校行こう。

133:枯木 ◆3OsbddjPtM
08/03/10 23:50:12 S2uMRc9M
前回と大して展開が変わらんがまあいい。

134:枯木 ◆3OsbddjPtM
08/03/10 23:53:28 S2uMRc9M
ごめん、上のは前スレで書いた「ヘタレキモウト」ってSSの設定流用してますと書くのを忘れてますた。

135:名無しさん@ピンキー
08/03/10 23:53:44 SyAthReb
だが、それがいい。GJ!

136:名無しさん@ピンキー
08/03/11 00:01:02 lgJO3hA5
学校から帰ってきたら、色々と曲がっちゃいけない部分で手足が曲がったキモウトが
ベッドで幸せそうに気絶してそうだ…

137:名無しさん@ピンキー
08/03/11 00:31:35 2nu8k/YN
やべ、香苗にツボった。GJ!!

138: ◆busttRe346
08/03/11 00:49:26 41N3IJ2X
いかん…香苗がなんか…良いw



おひさです。投下いきます。

139:ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver.
08/03/11 00:51:33 41N3IJ2X
五話



「いいよ」
「いよっしゃあああああああああああああ…じゃなくて、やったあ♪」
ヘンゼルの返事は何ともあっさりしたものでした。お姉さんは大喜びです。
そしてそのまま一ヵ月の月日が経ちました。それは、グレーテルにとって長い長い我慢の期間でもありました。
グレーテルは、さっさとこの家を出て行きたかったのです。それなのに、ヘンゼルお兄ちゃんは居心地が良いものだから、だらだらとお姉さんの家に居候していました。
商売は主に十代から二十代の女性に大人気。ネットとたかた社長のおかげです。そんなわけでお姉さんは、兄妹を養うくらいの経済力を持ち合わせていたのです。
毎日ごちそうをたらふく食べ、時に森の中を探検したり、仕事用のパソコンでこっそり2ちゃんねるを見たりして、二人は暇を潰していました。
お姉さんはそれを咎めもせず、暖かい目で見守っていました。そしてそれこそ、この一ヵ月間、お姉さんの身を守っていたのです。
お姉さんがむやみにヘンゼルに近付いてはこないため、グレーテルも彼女を始末すべきか判断がつきません。動向に目を光らしながら過ごす無意味な毎日は、グレーテルの精神を磨り減らしていきました。
「今日も問題無し…っと…。あーあ…早くお兄ちゃんと二人っきりになりたいなぁ…」
グレーテルは電気を消すとベットに入り、眠りにつくのでした。





140:ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver.
08/03/11 00:54:22 41N3IJ2X
ぐつ。ぐつ。ぐつ。
鍋からは黄ばんだ煙があがります。中身は例の紫色の液体です。
「ふふふふふ…一ヵ月…長かったわぁ…」
お姉さんはいつにも増してご機嫌です。
火を止め、耐熱容器に移します。それを冷蔵庫にしまいます。
「これで明日には完成よ…ふふふふふ…」
お姉さんはぷるんぷるんの爆乳の谷間から紙切れを取り出すと、それを懐かしそうに眺めます。

ここらで少し昔のお話をしましょう。

かつてお姉さんは、ちょっとした有名女優でした。当時は美人だ、美人だ、と騒がれたものです。
たくさんの映画に出て、たくさんちやほやされて。だから少し調子に乗ってしまったのでしょう。
ある日、自分の出演した映画の舞台挨拶で、お姉さんはいつものように
「別に…」
と、ツンデレっぷりを存分に見せつけました。
けれど世の中はそう甘くはありません。ツンデレなんてものは所詮画面の中のみでしか有効ではないのです。
だからお姉さんは世間から散々叩かれました。慌てて謝罪会見をしたものの、涙を流す演技があまりに下手だったのでさらに叩かれました。
そんなこんなでお姉さんは自分の国――つまり、魔女の国から追放されてしまったのです。
こうして、お姉さんはあちこちを放浪した挙げ句、この森の中でひっそりと暮らし始めました。この辺りでは、魔女の国なら当たり前の知識がとても重宝されます。
そこでお姉さんは媚薬や毒薬などを作って売る事にしました。商売はすぐに軌道に乗り、生活も安定し始めました。
でもお姉さんの心は満たされません。
森の中には家族がいません。友人がいません。恋人もいません。
夜になるとお姉さんは故郷を想ってむせび泣くのでした。
そんな生活が百五十年程続いたある夜、お姉さんのもとへ運命の男性が現れたのです。

お姉さんはその日の営業を終え、ご飯を作っていました。外では土砂降りの雨、だだ漏れの雷が荒れ狂っています。
お姉さんのスーパーイヤーは、激しい落雷の音に隠れたチャイムの音を聞き逃しませんでした。控え目ではありますが、ドアを叩いている音も聞こえます。


141:ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver.
08/03/11 00:56:27 41N3IJ2X
「いらっしゃいませ!!」
営業スマイルを作りドアを開けると、そこにはびしょ濡れの青年が立っていました。
「えっと…」
「あの…僕、実は道に迷ってしまいまして…。少しの間だけ雨宿りさせてもらえないでしょうか…?」
お姉さんは青年を家へと迎え入れました。久しぶりの男の人に、お姉さんの胸はドキドキしっぱなしです。
青年は受け取ったタオルで体を拭くと、ソファに座り、家の中を物珍しそうに眺めています。水も滴るいいオトコとは良く言ったものです。
何と逞しい腕なのでしょうか。抱き締められたら体が折れてしまいそうです。
何と澄んだ瞳なのでしょうか。見つめられただけで溶けてしまいそうです。
足を組み着ていたツナギの前をはだける仕草ときたら、まるで「や ら な い か 」と誘っているようです。
魔女たるもの惑わしても惑わされるな、という格言があります。けれど、今のお姉さんにはそんな大人の事情など興味ありません。
興味があるのは大人の情事だけなのです。
そこで青年の晩ご飯に紫色の液体を入れました。青年はそれに気がつかず、満腹になるまで食べ続けました。

その間に、お姉さんは湯浴みをして念入りに体を洗いました。
お姉さんがお風呂から上がると、果たして効果はあったようです。青年はこっちをとてもいやらしい目で見ています。
心の中でガッツポーズをしながら、お姉さんは色気たっぷりに近付きます。
「実は男の人と話すの…とても久しぶりなんです…」
お姉さんは耳元で囁きながら、青年の股間をつつー、と指でなぞります。そこは今にも爆発しそうなくらいに張り詰めています。
「いけない…!!僕には妻も子供もいるんだ…!!」
青年はそう言いつつ、ズボンをいそいそと脱ぎだします。青年はやる気満々です。
こうして二人はめくるめく快楽の世界へと旅立ったのです。足腰立たなくなるまで責められたお姉さんが起きたのは翌日の夕方でした。
「あれ…?あの人はどこかしら…?」
ベットには人型の凹みだけが残されていて、愛しい青年の姿がありません。
(せっかく起き抜けの一発を、と思ったのに…)
そう思いながら、お姉さんはリビングへ足を運びました。
やはり青年はいません。

142:ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver.
08/03/11 00:58:35 41N3IJ2X
それどころか彼の荷物も、さらにお姉さんの私物である金品も数点、無くなっていました。
お姉さんは不安になりました。家中を探しますが、青年の影も形も見つかりません。不意に、その目がある一点で止まります。
テーブルには『お世話になりました』とだけ書いてある紙切れが一枚、残されていました。
お姉さんはわんわん泣きました。百五十年ぶりの恋は一夜にして終わりを告げたのです。それからまた以前と変わらぬ毎日がやってきます。
一度知ってしまっただけに、募る寂しさは以前の比ではありません。青年の残した字で自分を慰めれば、その時だけは寂しさを忘れられました。
でも終わった後にはハイパー賢者タイムがやってきて、また寂しくなってしまうのです。
青年とはそれから一度も会っていません。連絡もとっていません。何度か会いにいこうかと迷いましたが、もし拒絶されたら…、と考えると足がすくんで動けなくなってしまうのでした。
風の噂では、青年は森の向こうの村で材木工場を経営しているそうです。家族四人で仲良く暮らしているとのことでした。
もうこの先、あんな激しい恋をする事はないでしょう。お姉さんは独身貴族のまま、この森に骨を埋める覚悟をしていました。

しかし神様は、お姉さんを見放さなかったのです。あの一夜から二十年経った今、あの青年とそっくりなヘンゼルが現れたのですから。
「今度こそ逃がさないわ…ね?あ・な・た…」
かつて青年が置いていった紙切れを見つめ、お姉さんは微笑みます。
「このおクスリでヘンゼル君を虜にしてあげちゃうんだから…ふひ、ふふふふふふひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ…」
想像するだけでお姉さんは軽く昇天しかけます。指を股間に這わせようとした時、床がギシッと鳴りました。
「誰…!?」
お姉さんがドアを開けます。
しかし、廊下には人っ子一人見当たりません。
「気のせいだったのかしら…それとも木の精だったのかしら…?」
ロマンチストなお姉さんは作業の続きをする為、再びドアを閉めたのでした。





143:ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver.
08/03/11 01:00:45 41N3IJ2X
『気のせいだったのかしら…それとも木の精だったのかしら…?』
そんな声が聞こえた後、ドアがゆっくりと閉まります。そしてドアの影からやはりゆっくりと少女の姿が現れます。
グレーテルです。
トイレに行きたくなって、部屋から出てきたついでに隠れてお姉さんを見張っていたのです。
それもどうやらただの偶然ではなかったようです。きっとこれも絶対唯一神の御告げに違いありません。
「ようやく本性を現したわね…」
言葉こそ冷静ですが内心、グレーテルは動揺していました。
当然と言っていいでしょう。お姉さんの正体は人間を食べる(主に性的な意味で)魔女だったのですから。
グレーテルはすでに殺る気満々です。けれど今実行する訳にはいきません。鳥ならともかく人間を殺せば罪になります。計画を練って、その時を窺う事にしましょう。
――あんな無駄乳食肉牛にお兄ちゃんを渡してなるもんですか…!!
グレーテルは音を立てずに、自分の部屋へと戻るのでした。


たくさんの星が輝いていたはずの空に、いつしか暗雲がたちこめていました。濁った濃い灰色の雲の隙間が、時折ピカッと光ります。
夜の森は真っ暗です。
そんな中、ぽつんと光る『犯しの家』。
窓から明かりが漏れています。その奥には廊下らしきものも見えます。一羽の鳥が、杉の木のてっぺんからそれを眺めています。鳥はもう三時間も前からそこにいて、身動ぎすることなく窓を見つめています。
と、その視界に人が入ります。外に目をやることなしに、廊下を突き進んでいます。
「見つけた…。見つけた…。見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた!!」
鳥は、あらんかぎりの憎悪を込めて叫びます。
「グレーテル…!!仲間の敵をとらせてもらう…そしてヘンゼルお兄ちゃんも…。
ふひ、ふひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」
――ドガァァァンッ!!
彼女に呼応するように雷が落ちます。
羽をばたつかせ、歓喜に身をうち震わせながら、ハマーDこと長澤まさみは笑い続けるのでした。


144: ◆busttRe346
08/03/11 01:02:08 41N3IJ2X
投下終了です。

145:名無しさん@ピンキー
08/03/11 01:08:20 qelNdeBl
一番槍GJ

146:名無しさん@ピンキー
08/03/11 01:12:20 W90C+WI5
GJ!!
ハマーD生きてたのかwww

147:名無しさん@ピンキー
08/03/11 01:15:57 zJiLIvuU
素晴らしい。
キモウトとよこしまな欲求不満魔女と変態鳥、メス3匹三つ巴かw

148:名無しさん@ピンキー
08/03/11 01:48:16 bxR/WJjh
長澤w
そして魔女は「べつに」の例のアレですかw
GJ!

>>134
香苗こわすぎw
負けるな妹よ! まあ無理だろうけど……w

149:名無しさん@ピンキー
08/03/11 01:57:36 vOKPBSlM
まさかの長澤まさみ!

150:名無しさん@ピンキー
08/03/11 02:01:33 RhplslZe
なんというカオスwwwwwwww

しかしハマーDという名を聞くたび、あの妙に耳がでかいミニ四駆マンガを思い出す。
去年の12月にはミニ四駆誕生25周年とかで、歴代マグナム&ソニックも復刻されたり
書き下ろしマンガでバイソンマグナムとロデオソニックなる新型も出たみたいだし。


ミニ四駆に熱中するキモ兄妹(姉弟)を題材にした作品とか需要があれば書いてみようかな…

151:名無しさん@ピンキー
08/03/11 02:44:51 u2oyWiZu
でたwカオス作品ww
だけどGJ!w

152:名無しさん@ピンキー
08/03/11 11:22:18 5qbqUcFJ
ちょwお姉さんww
一体魔女の国の平均寿命はどれくらいだと言うのかwww

153:名無しさん@ピンキー
08/03/11 14:10:01 78LGVEV4
童話っぽい語り口調なのにハイパー賢者タイムとか腹筋がぶっ壊れるwwwww

154:名無しさん@ピンキー
08/03/11 18:12:28 afmZctIZ
欲求不満魔女+変態小鳥=擬人化だよな…

あと魔女のお姉さんがヘンゼル兄を抱けば…
逆親子D(ry)


155:名無しさん@ピンキー
08/03/11 22:57:17 +ajjQRuG
もうなんかパロりすぎワロタww

156:名無しさん@ピンキー
08/03/12 00:30:41 J2BEIRBP
>>154
むしろ穴兄d(ry

157:名無しさん@ピンキー
08/03/12 13:07:31 GI0sN/x1
>>150
俺はピュ~と吹くジャガーを思い出す…

158:名無しさん@ピンキー
08/03/12 13:09:22 jzZlVwTb
>>157
俺もそっちのフナムシ野郎を思いだした

159:名無しさん@ピンキー
08/03/13 01:26:00 /JHeWRP+
そういえば、izumo1のようなキモウトが暴走するSSとか読みたいな

160:名無しさん@ピンキー
08/03/13 23:23:42 Wwy1WSfX
>>133
心がすごく洗われたよ。
遅まきながら最高のGJ! を送ります。

161:名無しさん@ピンキー
08/03/14 00:24:27 OhFqChGs
キモ埋めGJ
なんという羨ましいお返し。これはどう見てもキモウト。


そういえば、我が家の妹に返すクッキー
、妹は喜んでくれるだろうか?
ウケを狙ってお返しは俺とでも、言おうか。
さあ、俺も寝るか……それにしても、今日はすごく寝む

162:名無しさん@ピンキー
08/03/14 00:28:23 8Kt9MiTH
前スレ埋めネタGJ!!王道キモエロ最高!!

163:名無しさん@ピンキー
08/03/14 07:15:54 bhJyyyIG
埋めネタキモいよ埋めネタ

164:名無しさん@ピンキー
08/03/14 22:54:55 HZJweKQr
前スレ埋めネタよかったw
ああいう表向き固そうな子が兄に対してあんなことしてるってギャップがたまらん

165:名無しさん@ピンキー
08/03/15 00:26:00 M8po2ETg
>>564
ハァハァ・・・いいぞ・・・
もっと罵ってくれ・・・

166:名無しさん@ピンキー
08/03/15 00:30:13 M8po2ETg
やっちまった・・・orz
よりにもよってキモ姉妹スレに誤爆するなんて・・・

167:名無しさん@ピンキー
08/03/15 00:32:01 qjPdj1AZ
>>166
なんだただのMか

168:名無しさん@ピンキー
08/03/15 03:08:20 HdI0xKAY
>>166
妹に30分罵倒されるCDでも借りてこい

169:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/03/15 03:27:19 SoGLKtpt
投下します
しかしどう頑張っても8レスに収まらないので、
起きている方がいらっしゃいましたら出来れば支援を頂きたく

それからグロ描写注意です
個人的にはグロくないと思いますが、以前ご指摘を頂いたので念のため

170:ちゅー音の多い料理店
08/03/15 03:29:33 SoGLKtpt
「ちゅーーーっ!」

今日も、厨房にいつもと同じ声が響く。
合わされた唇がきゅっと窄められるとこちらの唇が強く吸われ、
ぱっと吸引を止んだら次は啄むみたいに何度か軽く押し付けられる。
どんな食材とも違う人間の、多分女の子に独特の柔らかな唇の感触。
マシュマロに似ていて、だけどずっとしっとりとしている。

「────っぷはあ♪」

そんなことを考える余裕が生まれるくらいには、
目の前で堪能したとでも言いたげな顔をする妹とキスをするのにも慣れてしまった。

「えっへっへぇ。それじゃあご馳走様でしたお兄ちゃん!
 お兄ちゃん分補給率ひゃっく☆ぱあせんと!
 元気復活した千癒(ちゆ)は早速戦線に復帰するでありますっ!」

妹は肩が重くなった気がするこっちとは対象に輝きそうな顔で敬礼をすると、
今もお腹を空かせて待っているだろうお客さんの下へと駆けて行った。
途中、装飾が多いのに露出度が高いウェイトレス用の制服から、ふりふりと揺れるスカートの中が覗きそうになる。
思わず溜息を吐こうとして、今は蓋を取った鍋の前にいることを思い出した僕はもう一度首を横に曲げた。



ここはさして広くもない、こじんまりとした料理店。
ずっと料理人を目指してきた僕がこのお店を開いてから、もうそれなりの月日が流れた。
同時に、美味しい料理を作ればお客さんが来るわけではないと知ってからも。
自分の料理を過信している訳じゃない。
自分より人気のあるお店と食べ比べてみて、今まで育ててきた舌で出した答えだ。
同じくらいの味の料理が並んでいる場合、当然だけどお客さんは味以外でどちらを食べるか決める。
それは値段だったり、その時の流行や、一緒に居る人といった状況による。
例えば、どんなに美味しくても恋人との外食でラーメンを選ぶ人はあまりいない。
僕はそういった料理そのもの以外に対する嗅覚が鈍かった。
僕みたいなようやく一人前になったばかりの料理人に集められる開店資金では、
あまりいい立地で店を構えることが出来なかったせいもある。
世の中には僕と同じ料理の腕と、僕以上に出す料理を選ぶ優れた感覚を持っている人がいた。
今、お店の経営は、あまり上手くいっていない。
元々規模を小さく、出来るだけ自分一人でやっていけるように店を構えたおかげで、
お客さんの入りの悪さが即致命的な打撃になることはないけれど。
それも長く続けば話は別だ。
実際にはそこまで悪い状況にはなっていないけど、
今の僕が客寄せから配膳まで調理以外の全てを一人でやってくれている妹にかなり助けられているのは確かだった。
妹は僕の料理が大好きで、普通に考えればかなり安い給料で働いてくれている。
どんな商売でも必ず頭を悩ませる人件費。
これが余所に比べて安上がりなっていなければ、この店はとっくに潰れていたに違いない。
妹の存在がこの店を支えていると言っても過言ではないだろう。

──その代わり、何故か妹はそれを盾に頻繁にキスをせがんでくるけれど、背に腹はかえられない。
この料理店が潰れるということは、僕の夢が終わるということだから。

思えば僕が料理人を目指したのも、
昔、今よりずっと小さかった妹が僕の料理を美味しいと言ってくれたのがきっかけだった。
母さんが早くに亡くなって、
それまでの二人分の稼ぎを父さん一人が背負うようになって、それで僕がせめて家事だけでもやろうと決めて。
妹が僕の料理を我慢せずに食べるようになったのはいつからだったか。
最後には僕の作った料理以外は口にしないと言って、
後で知ったことだけど、学校の給食に一切手をつけずに終わっているくらいだった。
家では僕が作るし、給食の年齢を卒業してからは毎日僕のお弁当、今はお店で余った材料で作る料理。
考えてみると、妹の食事は全て僕が用意している。

171:ちゅー音の多い料理店
08/03/15 03:32:53 SoGLKtpt
(またか・・・っ!)

言いかけて、何とか歯を食いしばって飲み込んだ。周囲のテーブルには他のお客さんの姿がある。
店の責任者として、下手なことは言えない。

「ではお客様、お会計をお願いしまーす。
 警察沙汰にはしませんから、しっかり払って下さいね?」
「い、いいよいいよぅ。おじさん、幾らでも払うからねぇ・・・・・・うひっ!」

よく肥えた牛みたいな動きでのっそりと起き上がったお客さんは、
隣にいる僕に構わずに妹の誘導に従って歩き出した。
妹は既にレジの前に移動している。
蟹股になったお客さんは懐を探ってから手汗に濡れたお札を出すと、お釣りも受け取らずによたよたと店を出る。
気のせいか、蹴られたはずの股間を抑える手が前後に動いていた。
その姿を見送って、胸に岩塩でも詰めたみたいな溜息が出る。

「にへへー。オーナー、千癒が心配で見に来てくれたんだ? 嬉しいな♪」

妹はお客さん達の前では二人が兄妹であることを思わせるような言動は取らない。
厨房では呼ばれない呼び方に振り向くと、いつの間に来たのか、まだ膝をついたままの僕をにこにこと見下ろす妹。
こっちが立ち上がると曲げられた背が伸び、表情はそのままで僕を見上げる。
胸に深く切れ込みを入れたエプロン。
上向かせた首と一緒に張られた胸のせいで、その谷間の先が見えてしまいそうだった。

「千癒。もう、その制服は止めた方がいいんじゃないか?
 最近、特にああいう・・・・・・その、セクハラが増えてきたけど」
「だいじょうぶっ!
 触られる前に潰せば害はないし、ちゃんとお金は落として行ってくれるから。
 あの手のタイプは程々にあしらえば常連になりやすいし。
 幾らお金を落としてくれても、オーナー以外に玉のお肌を許す気はないけどねっ♪」

その常連になりやすいのが問題なんだけど、妹は明るく笑ってくるりと回って見せた。
ひらりと、フリルでデコレートしたスカートが舞う。

「・・・・・・」

周囲から注がれる視線が、むしろさっきの騒ぎの時よりも強くなるのが分かった。
鋭さを感じるのに、どこかドロドロとした湿気と粘りを持っていて、熱い。あの男性客と同じだ。
僕の背中を貫いて妹を目指そうとする視線が、
そこら中に座っているあの男と同じような風貌のお客さん達から注がれている。
妹の姿を、その露出の多い制服から覗く体を目当てに集まった人達。
大部分は大人しくて、無害で、意外に置いてあるアンケートにもマメな答えを書いてくれるけど、
それでも僕の料理を目当てに来ている訳ではない『お客さん』達だ。
おかげで、最近は本当に調理をしている間でも気が抜けない。
今のところ妹自身が被害を受ける前に撃退しているとは言え、
兄として、今も妹に助けられている一人の料理人として気が気でなく、
ついつい理由を付けて妹の働く姿を覗きに行くくらいだ。
それに。
思えば、このお店の客層がそういうお客さんで固定されてから、女性客はほとんど来なくなってしまった。

「それにね?
 おに──オーナー、千癒がこういうカッコしてると、心配でついつい見に来ちゃうでしょ?」

なのに。
当の妹は、それを理解していてこんなことを言う。
女性客のことも、
『千癒に聞けばいいの。千癒も女だもん。それも、誰よりもずぅっと沢山お兄ちゃんの料理を食べてきた』、
なんて言うくらいだ。

「それとも・・・千癒を見に来るのは、心配だからなだけじゃなかったり?」


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