08/09/07 02:16:18 VDOSI1wB
―文献では、成功率は0.1%を切ると書かれていた。
それでも、もう、これしか方法は残っていない。
ディスペル・マジック。
ヴァンプによる不死化は、呪法学的には強力な呪いの一種とされている。
つまり、理論上、法術による解呪が不可能ではないのだ。
たとえ2000年を超える人の世の歴史のなかで、それに成功した者が片
指の数にも満たないとしても。
アイディーリアは残された方法に縋り、躊躇いなく呪法を唱えた。
『魔を払う者たち<クルセイダーズ>』のなかにあって、20年に一人の
才能と謳われる天才少女クルセイダーの渾身の解呪が最愛の弟に向けられる。
だが、結果は
―失敗。
「―ッくぅ」
弾かれた時の手ごたえから、この呪いは、現代最高峰の神術の使い手であ
る彼女の手にすら楽に余る代物であるということがはっきりとわかった。
そうでなければ、ヴァンプがこれほど人から恐れられるわけがない。
一度噛まれたら助からない。噛まれた者は瞬時に神の輪廻の輪から外され、
魂の消滅とともに、永劫の闇をさすらう不死の怪物と化す。
―弟をそんな目に合わせるなど、できるはずがなかった。
「ぜったい助けてみせるんだから……ッ!」
アイディーリアは渾身の力を振り絞って二回目の解呪を唱えるべく、精神
を研ぎ澄ませた。
まだ、朝の日は昇り始めたばかりだ。
タイムリミットは日没。それまでに一度でも成功させればいい。
奇跡が必要なら、起こせばいいのだ。
たとえそれがどれほど無謀な賭けであろうとも、彼女にそれ以外の選択肢
はなかった。
つづく