08/04/20 06:23:48 WWUQ5a6O
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昼休み。昼食を食べ終わった後で携帯電話を取り出して開き、何度かボタンを操作する。
指を止め画面をじっと見ていると、合体させた机を挟んで向かい側に座る高橋に話しかけられた。
「何をやっているんだ君は。今日はずいぶんと熱い眼差しで携帯電話を見つめているじゃないか」
「ん……そうだったか?」
「うむ。数学の時間に暇だったから君の行動をじっと観察していた。
そうしたら君は授業開始、それから十分後、次に五分後、その後は数分も経たないうちに携帯電話を操作していた。
君がそこまでするなんて滅多にないからね。で、何をしていたんだ?」
「メールの問い合わせ」
「誰からの連絡を心待ちにしているんだ?」
「それはもちろん、誘拐されたお……」
「……誘拐?」
あ―しまった。
変なことを言ってどうする。そもそも誘拐されたかどうかすらはっきりしていないんだぞ。
「すまん口が滑った。今の無し。忘れてくれ」
「誘拐とは穏やかじゃないな」
高橋が神妙な顔をしながら腕を組んだ。失言を忘れてくれそうな気配、一切無し。
気にしないでくれ、頼むから。変に話を大きくされたら困るんだ。
「誰がさらわれた? 君の周りにいる誰かか?
もしや―一年女子の間でダントツの人気を誇る弟君ではあるまいな?」
思わず息を呑んだ。
こいつ、どうしてそんなことがわかるんだ?
もしかして俺の顔に書いてある、とかか?
まずい。ごまかさないと。
「違う違う! そういう物騒な話じゃないんだって!」
「しかし日常的に誘拐という単語を口にするのはその道のプロかアマチュアか、物書きぐらいだろう。
君が物作りに並々ならぬ熱意を持っているのは知っているが、犯罪や小説の執筆に関しては門外漢じゃないか。
正直に白状したまえ。何かあってからでは遅いんだぞ」
「むぐっ……」
何かあったから正直に白状できないのだが、そういう場合はなんと言ったものだろうか。
前言撤回、高橋には通用しない。
最近サスペンスドラマにはまっている、なんて言ってしまって深く追求されたら答えられない。
こちとらテレビはバラエティしか見ていないのだ。
こんな時は対象の興味を他に向けるのが一番。
よし、いちかばちかだが、高橋の後ろを指さして「あ! 篤子先生がスカートをたくし上げて潤んだ眼差しでこっちを見ている!」でいこう。
こんな手を使うのは初めてだ。高橋の篤子先生への情熱を考えれば、成功率は五分といったところ。
やってみよう。勇気を振り絞って。恥を我慢して。