強制女性化小説ない?Part34at EROPARO
強制女性化小説ない?Part34 - 暇つぶし2ch277:名無しさん@ピンキー
08/04/10 22:30:17 iaJcWvLc
男で「みゆき」ってありか?

あと、一時期「せな」は男女とも結構多かった。

278:名無しさん@ピンキー
08/04/10 23:43:04 xrNSudKs
深之という奴がいた

279:名無しさん@ピンキー
08/04/11 00:48:55 LRc5oLtx
>>277
>「せな」
なんかカーブを曲がりきれなくて衝突死しそうな名前だなw

280:名無しさん@ピンキー
08/04/11 00:56:46 ZpBX++bC
>>277
仮面ライダーで聞いた覚えはある

281:【僕オマエ】作者
08/04/11 02:48:36 QaHssxYU
 こんにちは。
 >54でちょっと顔出しましたが「強制女性化小説ない?Part30」以来です。
 そろそろ文章が溜まってきたのでぼちぼちと落として行きたいと思います。

 あんまりエロくないです。
 エロ回収のための下準備期間となります。

 NGワードは【僕オマエ】でお願いします。

【強制女性化】【レイプ】【強制破瓜】【童顔爆乳】

282:【僕オマエ】
08/04/11 02:50:09 QaHssxYU
■■「僕はオマエを許さない」~不本意な戸惑いと哀しみに~■■

■あらすじ■(前回までを忘れた方のために)
 少しだけ未来の話。
 人類は、知的異星生命体「フィルコス」の来訪により、様々な医療技術の革
新的進歩を迎えていた。
 そんな時、進行性の末期癌で絶望の淵にあった少年「香坂薫」は、先進国家
間プロジェクトの被験者として日本国内の余命幾ばくも無い重病患者リストか
ら政府により無作為に選出され、第一期計画候補への打診もたらされる。
 その世界規模の臨床実験である国際プロジェクトは『再生計画(リヴァース・
プロジェクト)』と呼ばれ、処置の施しようが無い重病患者の、病巣に犯され
ていない健康な脳髄を取り出し、健康な部位から取った遺伝情報を元に肉体を
再構成(クローンニング)して再び頭部へと移植するという、画期的なもので
あった。
 そして実験には、被験体20人の内、半数の10人がランダムに選ばれ、
「フィルコス」からもたらされた技術を転用する際に“染色体反転”されるこ
とも含まれていた。即ち、『男性(女性)体から取り出された脳を、「転体」
(女性または男性に遺伝的転位)した肉体に移植するとどうなるのか』という、
医療的性転位実験である。
 男が女になり、女が男になる。
 『手術により外見のみを整形する』従来の外科手術と違い、完全に性の異な
る肉体へと変化する。
 それは、性同一性障害を初めとする、人類を取り巻く様々な問題に対応し得
る、まさに画期的な医療実験であった。
 そうして薫は、16歳の9月に「オンナ」になったのである。
 やがて彼……いや『彼女』は、父の生家がある地方の片田舎で、「女の子」
として男女共学の高校に通う事となる。
 そこで出会う人々との生活、女として生きていく事への戸惑い、そして新た
な性となり初めての『恋』と『官能』に、薫の心と体は揺れ動く。
 男の脳と女の体。
 それは『彼女』に、一体何をもたらすのか……。

 女性化が進めば進むほど、難事件は増えてくる。
 たったひとつの真実に惑う、見た目は女、頭脳は男。
 その名はリバーサー(再生計画被験者)薫(カオル)。

 詳しくは過去ログ参照にて。

283:【僕オマエ】
08/04/11 02:51:43 QaHssxYU
「んくぅ…っ…はぁ…」
 思っただけで“きゅうん”と体が啼いた。
 首筋をゾクゾクとした甘い“疼き”が舐め、背筋を駆け下りて“ぬるり”と
したものがオンナの器官をじわじわと滑り降りてゆくのがわかった。
「んあっ……」
 肩を竦め、目を瞑り、体の中心を走り抜けた快美感をやり過ごすために、薫
は肩をすくめ、右手の人差し指を真珠のような歯で噛んだ。
 途端、近くを歩いていた中学生が顔を赤くして足早に通り過ぎ、隣の肉屋の
店先でコロッケを頬張っていた男子高校生が、まだ2口しか食べていないそれ
をアスファルトの上に落としたが、薫は体の中で吹き荒れる嵐を鎮めるのに必
死で、それにはこれっぽっちも気付かなかった。
『もう…だめ…』
 そう。
 もう、「だめ」だった。
 我慢出来なかった。
 『好き』という気持ちが胸から溢れて、朝露に濡れる大輪の花を咲かせたよ
うに、薫の全身へ歓喜の根をしっかりと下ろしてしまっていた。
 直人の事を想うだけで、心も体も心地良さで“とろとろ”にとろけてしまう。
『僕……どうしたら……』
 発情し、匂い立つようなフェロモンを強烈な色香としてたっぷりと周囲に振
り撒きながら、薫は涙ぐんだ瞳で赤く染まり始めた空を見上げた。
 逢魔が刻の夕空は、憎らしいほど晴れ渡っていた。


 『再生計画(リヴァース・プロジェクト)』の被験者は、その生体データが
常に長期的、かつ詳細に国際研究所へと随時送られてゆく。
 その情報は、異なる性別の「脳」と「体」の適合性から、脳内の神経シナプ
スの機能、そして全身の代謝機能や免疫系、ホルモン分泌まで多岐に渡る。そ
して、発汗や分泌物の分泌状況、全身の血流の増減や体温まで綿密にチェック
されていると噂されていた。
 それら、生体情報の送信方法には、異星の知的生命体「フィルコス」からも
たらされた医療技術の応用が使われれている。
 一週間に一度、微細なナノマシンが含まれたカプセルを一錠だけ飲み下すと、
およそ3時間で血管やリンパ腺を介して全身の主要器官にナノマイクロ単位の
プラントが生成され、そこから特殊な生体波動が発信されるのだ。そしてそれ
は、昼夜を問わず町の各所に設置された政府管轄のセンサーによって受信され、
「エンコード(符号化)」されて地方自治施設を介して都道府県庁で集約され
る。その後、国家機関によって「デコード(復号化)」され、研究施設で解析・
統合される事となる。

284:【僕オマエ】
08/04/11 02:53:15 QaHssxYU
 また、体内に生成されたプラントはおよそ10日間に渡り状態が保持され、
やがて腎臓を通って尿に混じり排泄された以後も、しばらくは微弱な生体波動
(環境が変わることにより、若干の変化を伴う)を発信し続けるため、時には
被験者の行動範囲の把握(犬のマーキングと同等の)にも役立っていた。
 被験者にしてみればプライバシーもなにもあったものではないが、これもリ
ヴァース・プロジェクトへの参加を承認した際にサインした十数枚もの誓約書・
契約書・承諾書に盛り込まれた条件であるため、文句の言いようも無いという
のが実情だった。

『内臓に定着してるから、風呂に入ったくらいじゃあ落ちたりしないんだよな
……あんまり実感無いけど……』
 食事の後、たっぷりと時間をかけて風呂に入った薫は、ホカホカの肉まんみ
たいになりながら、自室のベッドの上で黙々とバストアップ体操をしていた。
風呂上りということもあり、身に着けているのはグレーのスウェット生地のシャ
ツとパンツ、それと通気性重視のスポーツブラだけだ。立体裁断された前開き
のシャツか伸縮素材のTシャツでなければ、前に大きく張り出したおっぱいの
せいでウエストがとんでもなく太く見えるから、薫はデブだと思われたくない
ために、いつしか誰に見せるわけでもないけれど、部屋にいてもそういうシャ
ツを着る癖が付いていた。
 誰に思われたくないのか。
 かつて、それは不特定多数の「他人」であり、自分自身だった。
 でも、今は……。
「んんっ……」
 仏様に拝礼するように、両手の平を体の前で合わせ、大胸筋の動きを意識す
るようにしながら呼吸と共に力を加える。
 「バストアップ」と言っても、もちろん「増量」の方ではない。
 むしろ彼女は、いつか絶対に「豊胸手術」ならぬ「減胸手術」をしようとさ
え思っているくらいだ。
 薫の、その華奢な体躯からは有り得ないほど豊満なおっぱいの重量は、左右
両方を合わせて、実に2キロ弱ほどもある。今は、若さゆえ重力に負けまいと
懸命に張り詰めたおっぱいは、椰子の実のような豊満さでありながら健気にも
薫の胸から前方に突出しているが、いつか必ず重過ぎる自重で垂れてしまうに
違いないと彼女自身、恐れていた。
 そもそも、豊満過ぎる胸で足元が見えないというのは階段や凹凸のある道路
では危険極まりないし、両腕の間に重たく実ったその豊満な乳肉が、どんな時
でも自分がどうしようもないほどにオンナなのだという揺るがない事実を薫に
突きつけ続けていたから、彼女にしてみれば邪魔で目障りで、鬱陶しいことこ
の上なかった。

285:【僕オマエ】
08/04/11 02:54:38 QaHssxYU
 そんな“ずしり”と重たい肉の塊ではあったが、せめて、みっともなく垂れ
るのだけは避けたかった。だからこうして毎晩、バストを支えるクーパー靭帯
を痛めないように気をつけながら、皮膚の張りを保つバストアップジェルを塗
り込みつつ、バストエクササイズを欠かさないでいるのだった。

 確かに、21世紀初頭に比べて、人類の老化はゆるやかになったし、食べ物
や飲料水に混入されているナノマシンによって皮膚の状態も最良の状態が維持
されるようになって、紫外線などに起因するシワやシミやソバカスが目立たな
くなってきてはいる。
 が、完全に老化を止める事は出来ないし、耐久重量を越えても状態を保持し
続ける事が出来るほどの強度を皮膚や筋肉や靭帯に求める事も出来ない。
 「老化」とはつまり細胞分裂の回数制限であり、それを決定付けるテロメア
の数が主な原因と言われているが、だからと言ってむやみに制限を解除すれば
良いかと言えば決してそうは行かないのが難しいところだ。なぜなら細胞分裂
制限は、紫外線や薬物、活性酸素などの外的要因で遺伝子が傷付けられ異常を
起こし癌化するのを防ぐ、いわばセーフティ安全機構でもあるからだ。
 「フィルコス」からもたらされた医療技術の中には遺伝子の耐久力向上もあ
るにはあったものの、それには地球上に存在しない(生成出来ない)特殊な化
学触媒を必要とするため、老化防止策も含め、未だ研究所のシャーレの外には
出ていないというのが現状だった。

 薫が毎晩おっぱいに塗り込んでいるバストアップジェルは、その「フィルコ
ス」の技術から派生したタンパク質活性素材が混入されており、高校生の女子
が購入するにはまだまだ値段が高い。
 おかげで、化粧品や服に、思うようにお金がかけられないのがちょっとだけ
悲しかった。
『……いや、別に綺麗にして誰かに見せようってんじゃないんだけどさ……』
 胸の中で“ごにょごにょ”と言葉を濁し、薫はクローゼットの奥に押し込ん
である服の事を思う。
 母が買ってきてくれたものはあまりにもフェミニンで、パステルカラーのワ
ンピースとかフリルの付いたキャミとか、いったいどこで着せるつもりだった
のだろう?と悩まずにいられないものばかりだった。
 薫としては、もっと大人っぽい、カッコイイ服が欲しいのに。
 ……似合う似合わないはともかくとして。
「ふう……」
 せっかく風呂に入ったのに、また汗をかいては意味が無い。
 薫は小さく息を吐くと、適度なところで切り上げてベッドの上に寝転がった。
 女は、タイヘンだ。
 それを痛感する。

286:【僕オマエ】
08/04/11 02:56:16 QaHssxYU
 筋肉の量が男とは絶対的に違うし、脂肪の量も違えば、皮膚の硬ささえ違う。
 男の時には難なく持ち上げていたものが持てなくなり、体のどこもかしこも
ふにゃふにゃで柔らかい。
 最も厄介なのは「やわらかい」というのが、「重力に対して脆弱である」と
同義であることだろうか。
『……まだ…大丈夫…だよな……』
 薫はベッド上に体を起こして、“ぺろっ”とTシャツとスポーツブラを一度
に捲り上げた。
 途端、子供の頭ほどは優にある椰子の実のようなおっぱいが“ぶるんっ”と
まろび出る。
 女に“なって”1年と9ヶ月。
 毎度の事ながら、“よくもここまで育ちやがったもんだ”と思わなくも無い。
 前方に大きく張り出した、透き通るような肌の白い椰子の実おっぱいは、乳
房の上側にもたっぷりとボリュームがある。両手でおっぱいを挟むように押し
てみると、まろやかでありながら内側から意外に強い力で押し返してくるし、
きめが細かくて滑らかな肌は、親指と人差し指で摘もうとしても容易には摘め
なかった。
 一応、しっとりとした肌は手に吸い付くように瑞々しいし、しっかりと若々
しい張りに満ちている、健康な状態だと、薫は思う。
 ピンク色…とは言わないが、乳首も特に黒ずんだりしていないし、乳暈も変
に大きくはない。他の女子に比べれば多少大きめかもしれないが、おっぱいそ
のものが大きいため、全体のバランスとしては決して悪くないと思う。
 500円玉大の乳暈に、赤ちゃんの小指の先くらいの乳首……。
 ここだけ見れば、20代後半の完熟おっぱいみたいだ。
 その乳首を、右手の人差し指で“ぷるっ”と撫でた。
「んっ……」
 生理が近いからか、敏感になっている。
 見る間に乳首が立ち上がり、乳暈が充血して“ぷくっ”と膨れた。

 ―ちょっと、敏感過ぎるかもしれない。

 月曜日に坂東達にレイプされかける前、保健室で乳首を自分で咥えて自慰を
した事を思い出す。絆創膏を剥がした時の痛みで思わず嘗めてしまったのがきっ
かけではあったが、あれは女になってから初めての体験であり、そして初めて
体験した『イク』という感覚だった。
 実は、薫はあれから、一度も自分で乳首を嘗めていない。
 病み付きになってしまうのが怖いというのもあったし、その先に何があるの
か、自分がどうなってしまうのか、考えたくなかったということもある。どん
どん、インランになり、やがては誰でもいいから自分をメチャメチャにしてく
れる男を求めるようになっていってしまうのではないか?と思ってしまったのだ。

287:【僕オマエ】
08/04/11 02:58:01 QaHssxYU
 けれど、あの時、坂東達がやって来た事で中断された思考……自分の乳首が
『誰に』可愛がられたいと思っているか、自分が『誰に』抱かれたいと願って
いるのか、もう、知ってしまった。
「……ナオタ……」
 直人のことを思うと、むやみやたらと泣きたくなってくる。
 泣きたくなるだけじゃなく、感情が飽和して胸がいっぱいになり、息苦しさ
まで感じてしまう。
『…オカマ野郎』
 再会して初めて交わした言葉は、最悪だった。
 頭が“カ~~~ッ”として、目の前が真っ赤になったかと思った。
『…誘ってんじゃねーよ。なんだその格好』
 「誘ってる」と思ったのだろうか?
 ……「あの格好」なら、直人を「誘える」のだろうか?
『…へぇ…可愛くなったもんだな』
 可愛いって、言った。可愛いって、言ってくれた。
『…牛みたいなチチ放り出して歩くなんて、どう見ても頭悪いだろ』
 牛とか、放り出してるとか、あんまりだ。
『…うるせー巨乳。牛女。デブ』
 デブじゃない。僕はデブなんかじゃない。
 牛女だなんて…どうしてあんな事を言うんだろう…。
『…牛みたいなチチしてるくせにノーブラか?』
 ちがうもん…。
 牛じゃないもん…。
『…垂れるぞ』
 垂れないように、ちゃんと努力だってしてる。

『…帰るぞカオル』

 ああ……。
 思えば、それは、突然だった。
 組み伏せられ、弄ばれ、おっぱいもあそこも好きにいじられて、涙と絶望に
塗り込められた心に射した一筋の光。
 自分でもどうしようもないくらい、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
 他の誰でもない、この自分を迎えに来てくれたのだ。
 助けに来てくれたのだ。
 その事実が、心を覆っていた絶望の闇を一気に振り払ってくれたのだ。
 今思い返せばあの瞬間、転校初日に直人が打ち込んだ「楔」が、その『真実』
を露にしてしまったのだった。
 女は男を求めるもの。
 生物学的に定められた種族保存の『本能』。
 人生経験が圧倒的に少ない薫には、女が女を求め、男が男を求めることを否
定する事は出来ない。だが、それは知能が発達し、心と体が剥離する事態を引
き起こすほどに精神的な成熟を迎えた『人間』という種のみに起こりうる事な
のだということくらいはわかる。
 あの時、薫にとって直人は、「求めるべき男」だという、そのたった一つの
真実が白日の下に晒されたのだ。
「ああっ……」
 薫はむき出しのおっぱいを下から支えるようにして持ち上げると、人差し指
でぷっくりと勃起した乳首を撫でた。
「ひうんっ」
 刺激が胸の中を走り抜け、脊髄を辿って尾骨まで駆けてゆく。
 あっという間に“じゅわんっ”とお腹の中で女の臓器が“啼いた”。

288:【僕オマエ】
08/04/11 02:59:44 QaHssxYU
 「寄越せ」と。
 「アタシが求めるオスの子種を寄越せ」と。
 そう、啼いた気がした。
 生理前のホルモンの仕業によって体積を増した椰子の実おっぱいが、持ち上
げる事により、さらに量感を増している。
 直人のことを想うだけで、考えるだけで、体が反応してしまう…。
 直人のあの顔を、匂いを、厚い胸板を思い出すだけで、子宮が疼き、あそこ
がとろとろになってしまう…。
 それは“悦び”だった。
 今はもう女である自分にとって、それは明らかに愉悦であった。
 『求めるべき相手』に巡りあえたという、“生物としての本能”と“雌とし
ての欲望”、そして“女としての恋心”が、薫を狂わせる……。

『触れたい』

『触れて欲しい』

 その想いがせめぎあい、絡み合って、うねり、震え、そして体中を満たして
ゆく……。
 震えるほどの幸福感と共に、死にたくなるくらいの絶望感が薫の瞳から形と
なってこぼれだす。

 ―それは、自分がいくら直人を恋焦がれても、彼の方は決してそうではな
いという事実。

 香坂薫が、元は男だったという記憶が彼の中にある限り、きっと彼は自分を
真の意味で女だとは……恋愛の対象とは思わないだろうという、確信めいた想
像が、薫を苦しめていた。
 例えば直人の前に立って潤んだ瞳で『抱いて』と言ったって、彼は絶対に
『いいよ』と言うような奴じゃない。それは小学生の時の彼を知っている薫に
は手に取るようにわかっていた。それどころか『好き』と言ったとしても、きっ
と『熱でもあるのか?』と気の毒そうに同情されるのがオチだ。最悪の場合は
『キモチワルイなお前』とか言われて翌日から避けられてしまうかもしれない。
 そんな事になったら、もう二度と学校には行けなくなってしまう。
 それどころか、本当に死んでしまうかもしれない。
 悲しくて苦しくて切なくて、本当に死んでしまうかもしれない。
 助けてくれたのだから、嫌われてはいないのだと思いたい。
 けれど、好かれているか?と言われれば言葉が出なかった。
「ナオタ―」

 ―その日、薫は泣きながら自慰をした。

 恋しくて恋しくて恋しくて。
 でもその恋が絶望的に叶わないものだと、胸に刻んでしまったから。
 それでも体が、『彼』を求めて震えてしまったから。
 結局、去年のクリスマスの夜、涙に濡れながら自慰をした時から、自分は何
一つ変わっていない。
 臆病で、自分はもう男じゃないという事実に追い立てられ、かといって自分
はもう女なのだという事実を直視出来ずに生まれようとした恋を自らの手で遠
ざけてしまった頃の自分と。

289:【僕オマエ】作者
08/04/11 03:04:13 QaHssxYU
 今日はここまでに。
 私は、下準備を入念にした方がエロエロになった時に感情移入度が段違いだ
と考える人間です。そのため、行為そのものの描写まで長くなる傾向にありま
す。出来るだけ早くエロエロを御届け出来るように努力しますが、私自身も書
く事を楽しみたいので、その辺、御容赦頂けますと、嬉しく思います。

 また近い内に、お会い致しましょう。

290:名無しさん@ピンキー
08/04/11 06:44:03 ca8mR5fM
GJ!
薫可愛いよ薫!

291:名無しさん@ピンキー
08/04/11 10:47:14 n977ro/r
薫は永遠の処女でいてもらいたいGJ

292:名無しさん@ピンキー
08/04/11 11:20:14 Wck2nI+C
うひょおおおおおおおおおおおおおお
出がけに投稿来てテンション上がったぜ!!とりあえずGJ!
帰ってから読むぜうほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

293:名無しさん@ピンキー
08/04/11 12:47:08 QYpvkT/B
>>289
待っていた。
純真でありながらえろい薫に心からGJ!
心理描写がたまらなくツボだ

294:名無しさん@ピンキー
08/04/11 22:38:29 kpiRBw5h
相変わらずツマンネーこと書いてんのなwww
いい加減卒業しろよww

295:名無しさん@ピンキー
08/04/11 22:47:43 X4eN8ZN2
GJ!
あなたの作品はいつも楽しみにしております

296:名無しさん@ピンキー
08/04/12 21:16:24 2+qu10dE
おっぱい体操が個人的にツボ。GJ!

297:名無しさん@ピンキー
08/04/12 23:16:43 CFO9hZMN
生理ネタスキーの俺としてはそのあたりが混ざっているのが俺しい。
GJです

298:名無しさん@ピンキー
08/04/14 00:43:36 hT1D+rHx
切なくて愛しい感情のせめぎあいがたまらないです
つい過去ログから全部呼んでしまいましたよ。GJ

299:名無しさん@ピンキー
08/04/15 21:17:19 arYVy06z
久々に来たらあがってたーw
元男設定を生かしつつ、何気なくえろい描写を書く作者に乙!

300:名無しさん@ピンキー
08/04/17 10:13:47 /FbO97as
最近ラッシュが続くので
TS物のAV総合立ててみた、ヨロ!

h スレリンク(avideo板)

301:【僕オマエ】作者
08/04/18 02:29:52 V6/vedJi
 約1週間ぶりです。こんばんは。
 過分な御言葉、皆様ありがとうございます。励みになります。
 もう少し後にするつもりでしたが、投下が無いのも寂しいので、落とさせて
頂きます。

 出来るだけエロを入れようと思っているのですが、今回もあんまりエロくな
いです。……いえすみません。全然エロくないです。エロ回収のための下準備
期間となります。スレ違いと憤慨されるかもしれませんが、御許し下さい。
 エロエロは、かなりエロエロとなる予定です。
 お楽しみ頂けたら幸いです。

 NGワードは【僕オマエ】でお願いします。

 人の出会いは摩訶不思議。それより世の中謎めいて。
 あなたに会えてホントに良かった!
 たったひとつの真実に惑う、見た目は女、頭脳は男。
 その名はリバーサー(再生計画被験者)薫(カオル)。

 詳しくは過去ログ参照にて。

302:【僕オマエ】
08/04/18 02:30:59 V6/vedJi
■■【17】■■
 自己嫌悪にまみれながら眠りに付いた次の朝は、大抵いつも、最悪な気分で
の目覚めとなる。
 かつては毎朝、洗面所に立つたびに『もう男には戻れないんだから、素直に
女の人生を受け入れなさいよ』と、もう一人の自分に鏡の向こうから、まるで
死刑宣告の如く告げられていたが、今日の『彼女』は真っ赤に充血して腫れぼっ
たい瞼と涙袋をしたまま、いつになく気弱に見詰めてくるばかり。
 こんな顔じゃ、せっかくの土曜日なのに買い物にも行けない。

 ―わかっている。

 去年のクリスマスがトラウマになって、そのせいで一歩が踏み出せなくなっ
ているのは。
 自分が女であることを心身共に認めてしまうと、直人に対しての気持ちにブ
レーキがかからなくなる。
 でもブレーキの壊れた列車の末路は脱線か衝突事故で、とどのつまりは自爆
しか無いのだ。
 「元男なんか好きになれるか」とか言われて涙に濡れ心が砕ける、失恋確定
しか無いのだ。
 絶望的な将来像だった。
 かつての薫は、“男の気持ち”のまま、女の子を好きになりかけたこともあ
る。でも、それまで女の子というものに抱いていた幻想は、去年の4月にこの
学校に転入して早々に、現実の女の子……男の視線の無い、更衣室やトイレで
の等身大の女の子―を前にしてことごとく打ち砕かれた。ようやくここ数ヶ
月で「女の子も所詮は同じ人間なんだ」という境地に達して、普通に対峙出来
るようになってきたところなのだ。
「はぁ……」
 洗顔クリームをしっかり泡立てて、丁寧に顔に塗り込みながら、薫は溜息を
吐く。そして、洗面台に置いた白いチューブを、しみじみと見下ろした。
 洗顔、スキンケア、歯磨き、着替え、髪セット、化粧(リップメイクでグロ
スを塗るくらい)など、いつの間にか、どんなに落ち込んでいても、たとえ半
分眠っていても、無意識にちゃんと一通り終える事が出来るようになったのは、
いつ頃のことだっただろうか?
 それは、「女の子」としては喜ぶべき事なのだろうけど、「かつて男だった
者」としては、かなり微妙な線だった。
『……もう、女の習慣がすっかり体に染み付いてる……』
 そう、思ってしまうのだ。
「はぁ……」
 また、溜息が出た。
『溜息ばかり吐いてると、幸せが逃げちゃうよ?』
 薫と同じくらい背が低くて年相応に子供っぽいクラスメイトの貞華は、よく
そう言って薫の頭をなでなでする。
 胸が無い分、やもすると中学生に見られかねない少女は、精神年齢的には薫
よりずっと大人だった。

303:【僕オマエ】
08/04/18 02:33:11 V6/vedJi
「……しあわせ……か……」
 自分の幸せは、どこにあるのだろう?
 化粧水をパタパタと肌に塗り、乳液を塗り、更に紫外線予防と美白効果のあ
る下地クリームを塗りながら、薫はシワの寄った眉根を中指で揉み解した。


 外は、呆れるくらいの快晴だった。
 6月の梅雨時期で、しかも週末の土曜日、そしてこの天気は、本当に貴重だ。
 それは、完全に気象コントロールされた現代でも変わらない。年間雨量や気
候変動も考慮して、梅雨そのものは無くしていないからだ。月曜からは再び雨
の降りやすい、雲の多い天気が続くとあって、町には人が溢れていた。
 制服はともかく、私服でスカートを履くなんてのはまだまだ抵抗がある薫は、
溶けかけた宇治ミルクみたいな淡いグリーン色のニットと白のカーティガン、
紺のスキニーデニム、そしてスニーカーという出で立ちで、町中(まちなか)
を歩いていた。背中の中ほどまである真っ黒い髪は、天然のヘヤー素材なため、
そのまま下ろしていると背中が蒸れて暑くて仕方ない。そのため今は、軽く結っ
て頭の後ろでダンゴにし、バレッタで留めている。そして顔には、明るい色の
眼鏡をかけていた。もちろんレンズに度の入っていない伊達だが、腫れぼった
い目を隠して歩くには、これくらいは必要だった。
 肩にはクリームイエローのトートバッグを掛け、背筋を伸ばして歩く。
 格好だけ見ると、いかにも『活動的で快活な健康優良少女』といった感じが
した。

 湿度が高いためか、6月の陽射しの中でも、少し汗ばむほどだった。襟ぐり
の深いニットから覗く、氷河に走ったクレヴァスのような胸の谷間には早くも
汗が浮き、ブラに押し込められた規格外の豊満乳肉(どデカおっぱい)の下は
じっとりと濡れていた。周囲に視線さえ無ければ、裾を持ってパタパタと服の
中に空気を送り込みたくなるほど、不快指数は高い。
『もうすっかり夏になったみたいだ……』
 小さな地方都市。
 さらにそのベッドタウンとして機能している片田舎の、ちょっと緑が多いか
な?と思える小さな古い町。
 住宅街から少し離れれば、そこには成長著しい、青々とした稲の揺れる田ん
ぼが広がっている。もうすぐ蛙たちの恋の季節がやってきて、昼も夜も騒がし
い日々になるだろう。
 片田舎の地方都市とはいえ、基本的なインフラストラクチャー(infrastruc
ture)は、驚くほど整備されている。
 むしろ、自然を残すため、化石燃料による内燃機関を搭載した車両は数年前
に姿を消し、電力供給や通信関連のためのケーブルは、全て地下深くの共同溝
に埋められているなど、積極的に環境保全方面へ最新の整備を施していた。

 それが今、薫が住んでいる場所だ。

 そして薫は、国家規模の臨床実験被験者……日本で20人しかいない「リヴァ
ース・プロジェクト」被験者の、更に半分の『染色体反転者』10人の内の女
性化した人間である。また、同級生からは、同い年にもかかわらず「可愛い妹」、
下級生からは「手のかかるお姉ちゃん」という、甚だ不本意な扱われ方をして
いる薫は、「リヴァース・プロジェクト」被験者だという噂を抜きにしても、
近隣の高校にその名が知れ渡っていた。

304:【僕オマエ】
08/04/18 02:35:36 V6/vedJi
 そのため、町を歩いていても、何かの拍子にふと視線を感じてしまう。
 もちろん、カーディガンを着ていても隠し切れず、“鎧ブラ”でガッチリと
ホールドしていても揺れ動く、大き過ぎる胸がやたらと目立ってしまう事もあ
るが、それだけではないのだ。
 薫に気付き、時に手を振ってくるのは圧倒的に同世代の少女が多かった。
 家を出てから、この町唯一と言っていい繁華街まで歩いてくるまでに、2人
の小学生に「きょにゅうだー!」と指を指され、違う学校の生徒らしい女子高
生集団に3回も、「かわいー!」とか「スカートの方がいいのに~」とか「背、
ちっちゃー!」とか言われながら写メを5枚も6枚も撮られていた(文句は、
言いたいけど言えなかった)。
 下手にサングラスを掛けると逆に目立ってしまうため伊達眼鏡しか掛けてこ
なかったが、あまりにも声を掛けられる事が多いから、陽射し避けも兼ねて帽
子くらいは被ってきた方が良かったかもしれない……と、思わなくはない。
 そして最後に、色々ぐったりしたところでトドメとばかりに、買い物に来て
いた仲良し三人娘のうちの二人……松瀬志宇(しう)と大地友香(ともか)に
出会ったのだった。

「あ、カオルちゃんだ~」
 薫が買い物をしようと思っていた商店街の反対側から、分厚いメガネをかけ、
肩までの髪をいつもポニーテールにしている志宇が、青いTシャツにオレンジ
色のキュロットとサンダルという、ラフにも程がある格好で歩きながら“ぶん
ぶん”と手を振っていた。
 隣では、ちょっとぽっちゃりした友香(ともか)が薄緑色のワンピースを着
て、見る者に不思議と警戒心を抱かせない、妙に福々しくて人懐こい“ぽやぽ
や”とした笑みを浮かべている。
 相変わらず二人とも化粧っ気とは無縁だけど、二人とも、薫からしてみれば
人生17年の、いわば『女のプロ』であり、『女である自覚』なんてしなくて
もちゃんと“女をやれている”大先輩だった。
「買い物?」
「うん。ちょっと買い過ぎたかも」
 志宇は本の入った書店の袋を、友香は食料のぎっちりと詰まったスーパーの
袋をそれぞれ手にしている。友香に至っては、額に汗を浮かべながら、実に重
そうな袋を二つも提げていた。

 ちなみに……2029年現在、町のスーパーでは昔と同様、商品を包むため
に無料で半透明の袋が配布されている。
 化石燃料の枯渇懸念や大気汚染、炭酸ガスによる温室効果がもたらす地球温
暖化を理由に、21世紀初頭には「エコロジー」理念を基にして廃止されたス
ーパーのビニール袋だったが、「フィルコス」から提供された高分子化合物合
成技術により、下水道や工場などの排水をろ過した際に大量に発生する濾物か
ら、ビニールと同等の強度を持つ半透明フィルムが再合成出来るようになって
から、再び市井に登場を果していた。そしてその合成技術は、生体皮膜の代用
品生成にも利用されており、薫が女に『転体』する際にも、その技術は大いに
役立っていた。

「一つ持つよ。貸して」
 さすがに見るに見かねた薫は、彼女が持つ袋の一つを持って、二人が利用す
るバス停まで付き合うことにした。

305:【僕オマエ】
08/04/18 02:37:34 V6/vedJi
 『女の子には優しくするもの』という両親の教えは、今でも薫の中で生きて
いる。
 たとえ彼女達と同じ、非力な女になったとしても、それは変わらなかった。
「悪いねー」
「いいよ。僕もこっちに用があったし」
 ちっとも悪そうに見えないのに、それが少しも嫌味になってない友香に苦笑
しつつ、薫は横を歩く志宇を見た。
 下げている紙袋は一つだが、中に重そうな参考書や画集などが何冊も入って
いるため、見た目よりもずっと重そうだ。
「カオルちゃんはデート?」
「……なんでそうなるんだよ?」
「だって、おめかししてるもん」
「違うよ」
「じゃあ…買い物?」
「うん、まあ…そのつもりで来たけど……なんだか気乗りしなくて、ちょっと
ブラブラしようかな……って」
「そうなんだ。もうちょっと早かったら、あたし達に付き合ってもらえたのに
なぁ」
「二人とも、何時から来てるの?」
 薫の言葉に、志宇が“にやっ”と笑ってVサインを出す。
「8時くらいかな」
「はやっ……学校ある時とほとんど変わんないじゃん」
「角のヤマギヤでセールしてたからね。ここぞとばかりに買っちゃったんだよ」
 友香の買い物袋の中には、1.5リットル入りのペットボトルが3本も入っ
ている。薫もそこそこ好きなメーカーのお茶だった。効果の程はともかく、飲
むだけで歯の再石灰化が促進されるという謳い文句でヒットした商品だ。
「これ?」
「これ」
 掲げて見せた友香の手の袋にも、一本入っていた。

 完全自動の幹線無人バスは、10分間隔、誤差30秒で、町の主要な施設を
繋いでいる。
 駆動動力は主に燃料電池であり、市民であれば誰でも無料で利用する事が出
来るため、日常生活の脚として大勢の人々に愛されていた。
 その情景を、20世紀後半に日本各地で走行していた路面電車と似ていると
評する者もいる。
 薫は路面電車の実物を見たことは無いが、その可愛らしい車体には興味をそ
そられたものだ。

「あ、そういえば、ヤマギヤで岡島クン見たよ?」

 バス停についてすぐ、志宇がそう言って薫の瞳を覗き込むようにして見た。
 志宇のその綺麗な瞳は海の底のようで、視線の矢は薫の胸の奥にまでまっす
ぐに届く。何もかも見透かしているような瞳の色は、混血が進んだ日本では珍
しくないターコイズ・ブルー(トルコ石色・青緑)だった。
 ドキン!と薫の鼓動が高鳴る。
 動揺が手に伝わって、スーパーの袋が大きく「ガサッ」と音を立てた。
「相手は岡島くん?」
 前置きも何も無かった。
 いきなりだ。
 いきなり志宇は、直球で投げてきた。
 「好きな人いる?」とか「相手は誰?」とか、そんなものを軽くすっ飛ばし
て時速150キロで胸の中心に『ずどん』と投げてきた。
 びっくりして息を呑んだ薫は、努めて平気な顔を作り、志宇から“さりげな
く”目を逸らした。
「なっ…なにが?」
 そうしてようやく口を割って出た、上ずった言葉は、自分の声とはとても思
えないほど、弱々しいものだ。

306:【僕オマエ】
08/04/18 02:41:06 V6/vedJi
「やっぱりね」
「な…なにが、やっぱり!?」
「あたし、これでも女の子、17年やってるんだよ?」

 ―バレバレだった!

 『だから、なんだ?』とは言えなかった。
 自分でも抑えられないくらい、『かああぁぁ~~っ』とほっぺたが熱くなっ
ているのがわかる。きっと、トマトかイチゴかリンゴみたいに、真っ赤になっ
てるに違いなかった。
 それを自覚しているから、薫は志宇の視線から逃げるように、彼女とは反対
側へとそっぽを向いた。
 それで「もうこの話はおしまい」と示したつもりだったのだ。
 けれど、志宇は全く持って容赦が無かった。
 薫のピンク色に染まった首筋とか、ぷるぷるとした真っ赤な耳たぶとかを、
特に何を言うわけでもなく、黙ってじっと見ていたのだ。
 やがてバス停にも並ぶ人が少し増え、空をひばりが飛び去って、友香が大き
く欠伸をした。
「……どうしてわかった?」
 ついに根負けして、薫は小さく溜息を吐き、どうしたらいいのかわからない
まま何とも言えない顔で地面に転がる小さな石を蹴り飛ばした。
「わかるよ。だってカオルちゃん、岡島くんのこと、いつも見てるもの。みん
な、いつ告白するのかな?って思ってたんだよ?」
「べ、別に好きだから見てたわけじゃ……」
「もういいから。言い訳なんて」
 まだ“うにゅうにゅ”と言う薫の言葉を、まるで“釈明しようとした犯人の
口上を手厳しく遮る百戦錬磨の女刑事”みたいに、情け容赦無く“ぴしゃり”
と封じると、志宇は一転して優しい口調で「しないの?告白」と言った。
「…………僕が元は男だって、知ってるだろ?」
「知ってるよ」
 『今更何言ってんの?』と言われた気がした。
「な、なら…」
「でもそれがどうかした?今は女の子じゃない」
 言外に『そんなの告白しない理由になんかならない』と言われた。
 気がした……どころじゃない。
 志宇だけじゃなく、友香の目まで、本当に真面目に、そう言ってた。
「今ならまだヤマギヤにいるんじゃないかな?岡島くん」
「……だから?」
「べつに?」
 むくれたように唇を突き出しながら恨めしそうに見る薫に、友香はいつもと
全く変わらない口調で言った。
「で、でも、今日は別に……その、そう!こんな格好だし、その、告白、とか、
するなら、普通はお洒落とか、その、するものなんじゃないの?」
 顔が熱い。
 喉がひりつく。
 つっかえつっかえ、薫はそう言うと、志宇は大真面目にこんな事を“言いや
がった”。
「大丈夫。エロいよ?」
「はあ?」
 「似合うよ」とか「可愛いよ」とか、そういう答えじゃなかった。
 よりにもよって「エロいよ」ときやがった。
 そして絶句して何も言えなくなった薫に、志宇はトドメのようにこう言った。

「カオルちゃんはさ、存在自体がエロなんだから、格好なんて別にどうでもい
いんだよ」

■■【18】■■
 別に、直人に逢いたくて向かってるわけじゃない。
 そう。
 友香が買ったお茶は、自分だって好きなのだ。

307:【僕オマエ】
08/04/18 02:43:39 V6/vedJi
 だから、それを買いに行くのだ。

 「これから一旦家に帰った後で図書館に行く」と言う志宇達と別れた薫は、
一心に自分へそう言い聞かせるようにしながら、町内のさして大きくも綺麗で
も新しくもない、築15年のスーパー『ヤマギヤ』へと向かっていた。
 直人がいようがいまいが、別に関係ない。
 そう思いながらも、鼓動はどんどん激しくなり、体はどんどん熱を帯びてく
る。ひどく喉が渇いて、唇を何度も嘗め、唾を飲み込んだ。
 あと少し。
 その角を曲がって、20メートルほど歩けば。
 そう思うと、自然と足運びが速くなる。
 重たい胸が“ぼよんぼよん”と服の下で踊るように跳ねている。
 薫は、自分でもおかしいと思った。
 どうして自分はこんなに急いでるんだろう?
 やっぱり直人に逢いたいから?
 その顔をひと目でも見たいから?
 今もヤマギヤに直人がいるとは限らないのに。もう帰ったかもしれないのに。
 なのに、早足になった体を止める事が出来ない。
『ちがう……』
 もう誤魔化せない。
 お茶なんかどうでもいい。
 逢いたい。
 逢って……。
『それで……どうしよ……どうする?…ナオタがいたら、僕はどうするんだ?
まさか、志宇が言ったように、告白する?本気?』
 不意に、脚の間、太腿の付け根。
 早足で動かす太股の、よれてこすれるパンツのクロッチ部分。
 そこで『くちゅ』という音を聞いた…気がした。
『ああ…また……』
 動悸が激しいのも、呼吸が浅いのも、汗が吹き出すのも、全ては足早に歩い
ているから。
 そう思っていた。
 今も、そう思っている。
 でも本当は、自分が性的に興奮しているからか、単純に運動量が増したから
なのか、わからなかった。
 ただ、子宮とか膣とかその他もろもろ…男には無くて女には有る内性器官の
デリケートな壁という壁から、とろりとした甘い蜜のような液体がにじみ出た
事を知覚した。


 結論から言えば、スーパーに直人はいなかった。
 なぜなら、その前に、出会ってしまったから。
「…カオルか?」
 角を曲がった途端、目の前に“彼”はいた。
 日に焼けた肌と野性味溢れる髪形に、無地のTシャツとジーンズが似合い過
ぎるくらいに似合っていた。左手にスーパーの袋を提げ、右手に徳用のトイレッ
トペーパーを抱えたまま、驚いたように目を見開いてこちらを見ている。今ま
での彼を見ていると、驚いたりあからさまに怒ったり、ましてや笑ったりといっ
た、激しい感情をあらわにする姿など想像出来ないが、今みたいに「ぽかん」
と口を開けてみるような間抜けな顔が見られるのも珍しかった。
 もっとも、薫にはそんな余裕など、これっぽっちも無かったが。
 直人の隣には、寄り添うような形で、もう一人の人物がいたからだ。
 その姿を見た時、薫は頭に昇った血が“すうっ”と引いた気がした。
 ぽかぽかと温かかった指先や足の先が、一気に冷えた気がした。
 早鐘のように鳴っていた鼓動の音が、一気に遠くなってしまった気がした。

 音が。

 ……商店街の様々な音が、一気に消えてしまった気がした。

308:【僕オマエ】
08/04/18 02:45:41 V6/vedJi
「…お前も買い物か?」
 直人が、何か言っていた。
 でも薫には、良く聞こえなかった。
 声が遠かった。

 肩で切り揃えてブリーチした、明るい色の髪が風に揺れている。

 大人っぽい顔立ちの中、薄めの唇に引いたリップはパールピンクだ。

 胸も小さくて、襟元のネックレスと耳のピアスがカッコイイと思った。


 ―そこには、すらっとしたスレンダー美人が、直人の腕を取って嬉しそう
に微笑んでいた。


「カオル?」
 間近で聞こえた彼の声にハッとして顔を上げれば、直人が訝しげにこっちを
見下ろしていた。
『―なんだ……彼女、いるんじゃん……』
 自分と違って明るい色の髪
 自分と違って短いスポーティな髪型。
 自分と違って大人っぽい顔立ち。
 自分と違って化粧もすごく上手だ。
 自分と違ってアクセサリーがすごく良く似合ってる。
 自分と違って胸が小さくて、全体的にすらっとしてる。
 自分と違って背丈が、直人とお似合いなくらい高い。
 自分と違ってスカートをカッコ良く着こなしている。
 自分と違って脚元のパンプスがカッコカワイイ。

 何もかもが、自分とは反対の女の子。

 正真正銘の、『本物の女の子』。

 生まれた時からの性のまま成長した、

 ―『ニセモノじゃない女の子』。

 どんな関係?と聞くまでもなかった。
 女の子の瞳には直人を信頼し、全てを委ねた安心感が現れていたから。
 直人の左腕に強引に腕を絡めて、小ぶりな胸をわざと押し付けるようにして
抱いていたから。
 すぐに気付いた。
 「ただの関係」じゃない。
 近しい……他人には入り込めないほど“親密な”関係なのだと。
 それだけが、すぐにわかった―。
「……別に……特に用があったわけじゃ……ない」
 カラカラに乾いた喉から、自分じゃないような声が漏れた。
 しゃがれて小さな、ぼそぼそとした声だった。
「ねえ、この人ダレ?」
 直人の左手を抱いた女の子が、きょとんとした顔で彼に聞いた。
 大人っぽい顔に似合わず、意外にも可愛らしい声だった。
 この声で、この女の子は直人に囁くのだろうか?
 「好き」と、まるでなんでもない事のように舌の上で転がしながら。
 自分はまだ、素直に好意を向けることすら躊躇っているというのに。
「…あ?…ああ、コイツは俺の同級生だ」
「友達?」
「…まあ、そんなようなもんだ」
「へぇ~……」

309:【僕オマエ】
08/04/18 02:48:31 V6/vedJi
 女の子は、直人の言葉に綺麗に揃えられた眉を上げ、そして何の前触れも無
く、両手を絡めた彼の腕をより一層“きゅっ”と抱き寄せた。
 直人と女の子の体が今まで以上に密着し、小さいとはいえ、ちゃんとふくら
みのある胸に直人の腕がますます押し付けられた。
 その途端、薫の全身が“ぶわっ”と熱を帯びた。
 “ひうっ”と息を吸ったまま、息が止まってしまった。
『なんだこの女……!!』
 たった今まで、悲しみとか、どこか裏切られたような理不尽な寂寥感に満ち
ていた心に、猛るような炎が灯る。
 それは、薫が同性に対して初めて抱いた、殺意にも似た、明確な“敵意”―。
 ……が、
「ふうん……そうなんだぁ…」
 女の子は、薫の顔を見て「くすっ」と笑った。
 笑ったのだ。
 その笑みはまるで、瀕死のネズミを嬲る猫の嗜虐性と残虐性がべっとりと塗
り付けられた仮面のようだった。
 余裕と、高みから蔑むかのような瞳の色に、薫は思わず目を逸らした。

 気付かれた…!?

 薫が、直人に対して少なからぬ好意を抱いている事に。
 薫の心に、確信めいたものが鋭い棘のように突き刺さる。
 目の前のこの女の子は……この女は、それに敏感に気付いて、わざと体を密
着させたのだ。
 薫が直人に「友達(のようなもの)」としか思われていないのに対して、自
分はこんなにも直人にくっつけて、心許してもらえて、「それが当たり前のよ
うに振舞うほど」自然な態度を崩さないでいてもらえることを、傲慢な優越感
を含んだ笑みと共に、厳然たる事実として見せ付けたのだ。
 ぶるぶると脚が震え、ぎゅっと両手を握り締めた。
 そうしないと、たちまち瞳に涙が溢れてきそうだった。
 直人の前で、この女の前で、みっともなく泣くのだけは、どうしても嫌だった!
「……な…んだよ。デートか?謹慎中のくせに、気楽だな」
 自然と乱暴な、とても女の子っぽくない蓮っ葉な言葉が唇を割って迸った。
 その一瞬、薫は直人が誰のせいで、誰のために「謹慎」しなければならなく
なったのかを忘れてしまった。
 その“男みたいな”口調に、女の子の顔がびっくりしたようになる。
「…いや、買い物しただけだ」
 直人は、なんだかわからないけれど急に態度が硬くなった薫に戸惑ったかの
ように、目を二三度パチパチと瞬かせた。
「……そうか。でも普通、そういうのを『デート』って言うんだよ」
「…そういう…ものか?」
「そうだよ。ね、小梅庵(こうめあん)いこ?抹茶パフェたべたーい」
 女が会話に割り込んで、勝手に断定し、勝手に話を進め、直人の逞しい胸に
頭を擦り付けた。
 小梅庵というのは、商店街からははずれた場所にある和風喫茶の事で、もっ
ぱら恋人同士の憩いの場所となっている人気の店だった。この町において、そ
の店に男女で行くというのはつまり、自分達が付き合っていると公言するよう
なものだった。
 両手が塞がっている直人は、女のされるがままだ。
 薫にはそれがまさしく、じゃれあうカップルのようにしか見えなかった。
 直人は女の態度に少し苛立っているように見えたが、今の薫には、それは照
れ隠しにしか見えなかったのだ。
「…ちょっと待てよ。俺は今、コイツと話」
「いいよ。行けよ」
「…カオル?」

310:【僕オマエ】
08/04/18 02:51:05 V6/vedJi
「……怒ってない」
「…怒ってるだろ?」
「…ッ……怒ってないって言ってるだろッ!?」
 語気が強くなる。
 薫は、こんな事で面白いくらいに心が揺らぎ、想いが折れ、泣きじゃくりた
くなってしまう自分が嫌だった。
「いいじゃない?きっとたぶんカオル…さん?も、用事があるのよ。邪魔しちゃ
悪いわ」
 横合いから女が口を挟み、直人の太くて健康的に日焼けした二の腕に頬を寄
せた。
 その姿に、薫は息を呑む。
 言外に、「さっさと行って、私達の邪魔しないでよ」と言われた気がしたの
だ。
 だから。
「…おいっ!」
 薫は、身を翻して走った。
 まるで逃げるように。
 出番を間違えた道化がスポットライトから逃れるように。
 痩せて汚れた野良猫がバケツの水を掛けられたみたいに。
 直人の声を無視し、道行く人々を押し退けるようにして。
『ちくしょうっ』
 鼻の奥がツンとしても、目頭が熱くなっても、ただ一心に、二人から離れる
事だけしか思わなかった。
 鎧ブラで包まれていてもなお揺れ動く重たいおっぱいが痛かったけど、少な
くとも二人の視界から消えるまでは、立ち止まるつもりは無かった。

「…なんだあいつ…」
 直人は不意に駆け出した幼馴染みの遠ざかる後姿を見て、小さく息を吐いた。
 後から見ても細っこい体の横から少しはみ出して見える豊満な乳房が、上下
に面白いように揺れていた。
 ……あんなに走っては、さぞ痛いだろうに。
「あらら……なあにあの人。あたしの直人にツンツンして、カンジわるぅい」
「…由美。いい加減離れろ」
 直人は、いまだべったりとくっついてくる女の子に、困ったような顔で言っ
た。甘えんぼなのは今に始まった事ではないが、今日みたいな陽気の日にくっ
つかれると、暑くてたまらない。
「なによぅ。いいじゃない」
「…離れろ」
「けちー」
 由美は大人っぽい顔に似合わない声を上げ、ぷくぅとほっぺたを膨らませた。
 来年には高校だというのに、すくすくと成長した体とは正反対で、心はまだ
まだ子供っぽさが抜けない少女に、直人は小さく溜息を吐いた。
「ね。今の人が、そうなんでしょ?噂には聞いてたけど、ものすごい巨乳だよ
ね。あそこまで大きいと羨ましいとか言う前に、ちょっとキモいかも。なんか
背が低いから、小学生がボールとか胸に入れて遊んでるみたい」
「……」
 直人は、堰を切ったように飛び出した由美の言葉を無視して、スタスタと歩
き出した。その後を、まるで飼い主の脚元に纏わりつく子猫のように、由美が
ついてくる。
「なんてったっけ?『カオル』さんだっけ?あの人が“そう”なんでしょ?珍
しいもんね。直人が学校で目立つことするなんて」
「……」
「もうっ!黙ってちゃ、わかんないよぅ」
「…お前には関係ないだろう?」
「あるよ!だいたい、直人が女の人を助けたってだけでも珍しいのに、それが
あの」
「由美」
 何かを言いかけた少女に、直人は鋭い一瞥を向けた。

311:【僕オマエ】
08/04/18 02:53:38 V6/vedJi
「……ふ、ふーんだ。でも残念ね。あの人、絶対誤解したよ?」
「…何の話だ?」
「あたしのこと、すっごい目で見てたもん」
「……?……」
 由美の言葉に、直人は本気でわからないというように眉根を寄せた。
 そんな直人を、少女はまるで出来の悪い生徒を見るようにして眺める。
「あの人、直人のことが好きなんだよ」
 何でもない事のように言う由美の言葉が、直人の胸にナイフのように滑り込
んできて、彼は一瞬、言葉を忘れた。
「…馬鹿言え。俺はあいつに嫌われてるんだ。さっきの態度を見ればわかるだ
ろう?」
「ん~~、や~~…だからさぁ、あたしに嫉妬してるんだよ」
「…どうしてアイツがお前に嫉妬しなくちゃいけないんだ?」
「そりゃ、あの人が直人のこと……ううぅ~~ん……わかんないかなぁ……女
心ってヤツがさぁ。しょうがないかな…直人だもんねぇ」
「生意気な事を言うな。あと、名前で呼ぶな」
「いいじゃん。直人直人直人直人直人直人~~~~っ」
 “いい~~~っ!”と歯を剥いて、由美は駆けてゆく。
 その後を歩きながら、直人は大きく息を吸い、そして思い切り吐き出した。
『カオルが俺の事を好きだって?』
 いきなり思わぬ方向から突きつけられた意外な言葉に、直人は口をへの字に
ひん曲げた。
『そんなこと、あるわけがない』
 そう思いながら、直人はほんの少し前まで目の前に立っていた、旧知の友人
の姿を思い浮かべた。
 遠い過去の記憶の中の友人は、優等生然とした態度が気に食わない、実にヤ
な子供だった。
 …が、今のアイツは、体の線がハッキリと出た、ニットとGパンとスニーカー
という軽装の、世間的には、まあ、可愛いと言える……『女の子』だった。
 なんだか記憶の中よりもずっと口は汚いわ、態度はでかいわ、極めつけはわ
けもわからず突然怒り出すという意味不明な行動に出てくれて、それにはさす
がに辟易するが。
『…なんか……ますます何考えてるかわかんねーヤツになったな……』
 昔の、必死になってるこっちのことなんか歯牙にもかけないような表情も気
に食わないが、今のアイツも違う意味で苦手な感じがする。
 確かに、体付きは好み……と言えなくもない。
 それは認めよう。

 ―体だけは。

 思えば、月曜日のあの保健室で、ガムテープで拘束されたカオルの手足を自
由にしながら、直人は彼女の白くて柔らかそうな、豊か過ぎるくらいに豊かな
乳房も、すっきりとした滑らかなウエストも、真っ白な太股の間の黒い翳りも、
さらにその奥の楚々とした赤い亀裂さえも、すっかり見てしまっているのだ。
 見ようとして見てしまったわけではないのだが、見えてしまったものは仕方
が無い。
 それについての弁解はしない。
 実際、ものすごいバディだと思う。
 今まで知り合った女にも、あそこまでエロティックな体付きの女はいなかっ
た。
 艶やかで長い黒髪。
 ほっそりとした首筋と、ちゃんと細いウエスト。
 それに対する、眼を見張るほど大きい乳房と、肉付きの良い腰つきのいやら
しさは、高校生らしからぬエロさだ。
 古い言葉で言えば「トランジスタグラマー」とか「コンパクトグラマー」と
でも言うのだろうか。
 身長が低いのと、顔が可愛らしい部類に入るのを加味すると、どこか背徳的
な気持ちが生まれるのもマニアックだった。

312:【僕オマエ】
08/04/18 02:56:19 V6/vedJi
 ただ、今のカオルが、小学生の頃の『薫』とは、もう完全に違う人間になっ
てしまったのだという、一抹の寂しさのようなものを感じたのは確かだった。
 直人は、あの坂東達のように、女としては十分に魅力的な体をしたカオルを、
それでも「抱きたい」と思わなかった。
 ……いや、全く思わなかったと言えば嘘になるが、それと同時に「そういう
邪な思いを抱いていいような相手ではないのだ」と、膨らみかけた欲望を強引
に押し潰したのも事実だった。

 なにしろカオルは、友達だと思っていたクラスメイトにレイプされかけたのだ。

 男の記憶を持つ人間が、女のか弱い体を、男に暴力でレイプされかかる。
 それは、想像を絶する嫌悪感、そして無力感だったろう。
 しかもその場を、かつての「仇敵」とまで言える直人に助けられ、それだけ
でも十分に屈辱のはずなのに、あまつさえ乳房や股間や、とにかく体の恥ずか
しい部分まで全部見られたのだ。

 そこにあるのは、友達に裏切られ、仇敵に助けられ、心も体も辱められると
いう無様さ。

 直人にはカオルが、それでも平気な顔をしていられるとはとても思えなかった。
 もし自分だったら、坂東だけでなく直人も一緒に二度と見たくない世界の果
てに追いやってしまいたくなるはずだ。
 そんな相手を……そんなにまで傷付き、そして裸を見た自分を疎ましがって
いるだろうカオルを、直人はそれでも性の対象として見る事など出来そうにも
なかった。
『けど……そういえば、いい匂いがしたな……』
 あの日、床に崩れ落ちたカオルを保健室へ連れて行くために抱き上げた時も、
あの密室に満ちた男達のすえた匂いの中に飛び込んだ時も、直人はひどく官能
的でありながら自分を優しく包み込むような、心地良い香りを感じた事を思い
出した。
 その香りは、つい先ほども、カオルの方からほのかに香ってきていた。
 直人でなければ、きっと“くらっ”と理性が挫けてしまっていたかもしれな
いと思わせるほどの、心地良い香りだった。
 周囲は、もうカオルを完全に『女』として見ている。
 だが……。
『…俺は……』
 もし由美の言うようにカオルが自分の事を好きだとしても、自分の事を疎ま
しく思っていないとしても、果たして自分は、カオルを一人の「オンナ」とし
て見られるのだろうか?
『確かに、今は体だけはオンナだが……』
 そう。
 あの日、階段前の廊下でカオルに言った言葉は、決して嘘ではない。

『へぇ…可愛くなったもんだな』

 小学校の頃の幼馴染み『香坂薫』が『リヴァース・プロジェクト』の被験者
となり、女性に『転体』した事は、事前に送られてきた資料を通して既知であっ
たし、写真でその顔も承知していた。
 が、直接顔を合わせ、良く変わる表情やキラキラを輝く瞳を目にした時、不
覚にも直人は本当に「可愛い」と思い、つい思わぬ言葉が口をついて出てしまっ
たのだ。
 立っているだけで男の目を引き付けずにおかない、その小柄ながらエロティッ
クな肢体。突然床に崩れ落ち、泣きじゃくり始めた「彼女」を抱き上げて、直
人はその肢体のオンナとしての成熟度に“くらっ”と来たのは、絶対に誰にも
話せない秘密だった。

313:【僕オマエ】
08/04/18 02:59:59 V6/vedJi
 あの時の自分は、確かに腕の中のオンナの体に、発情してしまった。
 決して“そうなってはいけない立場の人間”であるにもかかわらず。
 たとえ「上」から『双方が合意の上であるならそれを止める術は無い』…と
通知されいても。
 自分の『役目』を忘れるわけにはいかない。
 だが、忘れてしまいそうになるくらい、効し難い性的魅力を、カオルは放っ
ている。
『カオルを……抱く?』
 実のところ、自分の気持ちさえもわからない自分が、昔とはまるきり変わっ
てしまった、幼馴染みの……しかも、男の子だった女を抱けるのか?
 しかも向こうは、男だった頃の記憶を持ったままなのだ。
 かつての薫は、いたってノーマルだった。
 男を好きになるような人間ではなかったのだ。
 そんな人間が、果たして男に抱かれようとするだろうか?

『わかんないかなぁ……女心ってヤツがさぁ。しょうがないかな…直人だもん
ねぇ』

 不意にさっきの由美の言葉が脳裏に蘇る。
 そんな由美の、その生意気な鼻の頭を頭の中で思い切り指で弾いた。
 カオルは普通の女じゃない。
 そのカオルに、生まれてからずっと女として生きてきた由美が言うところの
『女心』など、あるのだろうか?
「…ふう…」
 溜息が出る。
 言われなくてもわかっている。
 自分は、恋愛に向いていない。
 だからといって、由美にまでそれを指摘されるとは思わなかった。
「…ったく…ナマイキなんだよ」
 直人は前方、小梅庵の入り口で待ちくたびれたように座り込んでいる少女を
見て、小さく呟いた。

「……妹のくせに」

■■【19】■■
 どこをどう走ってきたのか。
 薫はいつしか、町外れの山の麓にある、小さな公園まで来ていた。
 「公園」とは言っても、特に何か遊具等があるわけではない。6年ほど前の
区画整備に伴い、取り壊されたいくつかの古ビルの跡地に作られた、急ごしら
えの舗装道路と公衆トイレ、そして2つほどの東屋(あずまや)しかない、ど
ちらかと言うと「遊歩道」と言ってもいいくらいに簡素なものだった。
 周囲には整備の際、造園用に移植された大きな木が何本も茂り、まだ高い陽
を遮って木陰を作っている。
 人家が近くに無いせいか、商店街から近いのに、まるで山の中みたいにやた
らと静かだった。
 木漏れ日が、テニスのハードコートにも似た舗装道路の表面で踊っている。
小鳥の囀りや木の葉の擦れる音、そして遠くから風に乗って町の喧騒が微かに
届いてくるのみだ。
 薫は重い脚を引き摺って東屋に入り、模造木材で出来たイスに座ると、ゆっ
くりと息を整える。
 涙を拭い、「すんっ」と鼻を啜った。
 思い切り走ったせいで、おっぱいが痛い。おっぱいの上部……ブラで押さえ
られ急激な盛り上がりを見せる部分に両手を当て、ゆっくりとマッサージした。
 上下の激しい動きでひりつく肌は、きっとたぶん内出血している。
 だが今は、その奥にある小さな心の方が何十倍も痛かった。
「……彼女……いたんだ……そっか……」
 小さくひとりごち、東屋の薄汚れた天井を見上げる。
 片隅に、蜘蛛が大きな巣を作っていた。
 それがたちまち滲んで、揺れる。
 目を瞑れば、熱いものが次から次へと頬を滑り落ちた。

314:【僕オマエ】
08/04/18 03:02:41 V6/vedJi
『……こんなの……まるで、女の子みたいじゃないか……』
 そう思いながら、「何を言ってるんだ僕は」とも思う。
 癌で余命いくばくも無い男の体を捨て、被験者として健康な女の子の体を得
て2年近く。
 女の子として生きてきて、女の子として男の子に恋をした。
 その熱いときめきに、脳が男だからとか、なんだかもうそんな事すらどうで
も良くなってきていたのに、いまさら「女の子みたい」もないではないか。
 自分はもう、すっかり女の子なのだ。
 ちょっと男の子っぽい心を持った、女の子なのだ。
 そして今日、女の子として『失恋』した。
 そう。

 ―『失恋』したのだ。

「……うっ……くぅ……」
 涙が溢れて止まらなくて、揃えたスキニージーンズの膝小僧に、頭を付ける
ように背中を丸めた。
 こんなのひどい。
 こんなのは無い。
 1度目の恋は自覚するのが怖くて、自分から遠ざけた。
 2度目の恋は自覚した途端、始まる前に壊れて消えた。
 直人の隣で、可愛く笑ってた女の子を思う。
 明るい色の短いスポーティな髪型に、化粧の上手な大人っぽい顔立ち。背が
高くて、ピアスやネックレス、アンクレットがすごく良く似合ってて、胸が小
さくて、全体的にすらっとしてて、スカートとパンプスが似合い過ぎるくらい
に似合ってた女の子。
 それに対して自分はどうだ?
 元々は正真正銘の男で、真っ黒な重たい印象の長い髪型に、化粧っ気のほと
んど全く無い子供っぽい顔立ち。背が低く、アクセサリーはちぐはぐで似合わ
ないから一つも付けていない。おまけに胸がみっともないくらい大きくて、全
体的にちまっとしてて、ズボンとスニーカーがせいぜい似合う女の子。
 何もかもが、あの子とは正反対だ。

 あれが直人の、好みなのか。

 ああいう子が直人の好みか。

 じゃあ僕はダメじゃないか。

 最初から、全然ダメだったんじゃないか。

 自嘲と後悔と自己嫌悪が、頭の中でぐるぐると渦を巻く。
 「オカマ野郎」「牛」「牛女」「巨乳」「デブ」と言われた時の事を思い出
す。あれは半ば、からかい半分に面白がった軽口だと思っていた。でもひょっ
としたら、後の半分は本当の本気で本心から出た言葉だったのかもしれない。
「―ひんっ……」
 そう思い至った途端、自分が無価値でくだらない、取るに足らないゴミみた
いな存在に思えて、嗚咽が喉の奥からせりあがってきた。
 男から女に『転体』した人間は、女にも男にも恋なんて出来ないのだ。
 不恰好にふくらんだおっぱいなんか持つ女は、恋なんてしてはいけないのだ。
 もし身の程知らずに恋なんてしたら、こんな風に魂を引き裂かれるような痛
みを負う事になる。
 いろんな男子に「可愛い」って言われた。
 それがどうした。
 「おっぱいが大きいのも最高」って言われた。
 それがどうした。
 百万、千万、数千万の人間に好かれても、たった一人に嫌われたら世界は無
価値だ。
 直人に嫌われたら、自分はキモチワルイ体の、ただのキモチワルイ人間でし
かない。

315:【僕オマエ】
08/04/18 03:06:56 V6/vedJi
 いっそのこと、こんな胸、切り取ってしまおうか?
 そうすれば直人も少しは自分を見てくれるようになるだろうか?
 ジーンズに染み込む涙さえも鬱陶しい。

 自分は、香坂薫という人間は、こんなにも弱い人間だったのだ。

 無価値でキモチワルイ上に弱くてゴミみたいな人間だったのだ。


 ひとしきり涙を流し泣きじゃくると、心にぽっかりと大きな穴が開いてしまっ
たような気がした。
 壁に背中を預け、顔を上げて天井を見上げる。
 さっきの蜘蛛は、さっきと同じように巣の中心で動かずにじっとしていた。

 ―いったい自分は、何を期待していたのだろう?

 恋心をあたためていれば、いつか直人に好きになってもらえるとでも?
 昨日の夜感じた絶望的な未来ビジョンが、ちょっと早くやってきただけの事
じゃないか。
 それなのに、心のどこかではやっぱり期待していたのではないか?
 「好き」という気持ちさえ失わずにずっと胸に秘めていれば、いつかは応え
てくれるかもしれないとか。
 確かにあの時、直人は助けてくれた。だから、嫌われてはいないのだと思う。
 でも、今ならハッキリと言える。
 好かれているか?と言われれば、「もともと好きでも嫌いでもなかった。む
しろ最初から女としてなんて見られてなかったのだ」と。
 やはり自爆しか無かった。
 志宇達にちょっと言われたからって、心のどこかでその気になって、女の子
として「直人に逢いたい」と願った結果がこれだ。
 自分が女であることを心身共に認めてしまったため、直人に対しての気持ち
にブレーキがかからなくなった。
 そんな自分にとって、あの女の子は線路に置かれた大きな石か頑丈な壁だ。
 薫という名の“ブレーキの壊れた列車”は、石に乗り上げて脱線し、頑丈な
壁に激突して衝突事故の大惨事。救いようの無い、歴史的大事故だった。
 直人には、もう好きな……付き合ってる女の子がいたのだ。
 その女の子は、顔も背格好もスタイルも服のセンスも、自分とは全くの正反
対だった。
 「元男なんか好きになれるか」とか言われるよりひどい。
 直人の女の子の好みからてんで的外れの場所に立って、ただじっと想ってい
た自分はどこにどう出しても恥ずかしくないほどの、立派な『道化』だったわ
けだ。

 ズキンと、胸が痛む。

 こんな恋心なんか捨ててしまえと、誰かが囁く。

 けど、どうしてだろう?
 なぜだろう?
 自分のことなんてこれっぽっちも関心が無いとわかった今でさえ、彼の顔を
思い浮かべると泣きたくなるくらいの幸福感と、死にたくなるくらいの絶望感
が同時に胸に満ちるのだ。
「……好き……」
 そう、唇に乗せてみる。
『……ああ……どうしよう……』
 まだ。
 まだ、こんなにも好きなのだ。
 熱い想いが、とめどなく胸の奥から溢れて止まらない。
 頬が火照り、耳たぶが熱くなり、全身が汗ばんで瞳が潤み、胸が…。

316:【僕オマエ】
08/04/18 03:10:50 V6/vedJi
 胸が、『きゅうん』と切なくなる。

『触れたい』

『触れて欲しい』

 恋が破れて望みが無くなってしまってもなお……。
 膨れ上がった想いは、止めようも無いほどに薫の心を満たしていく。
 「決して手に入らないもの」だからこそ、余計に求めたいと願ってしまうの
だろうか?
 直人に見てもらえるのなら、きっと自分は何でもする。
 直人が触れてくれるのなら、きっと自分は何でもする。
 直人に触れてもいいのなら、きっと自分は何でもする。
 何だってあげる。
 代わりに直人が欲しいものなんでも。
 髪も、唇も、おっぱいも、あそこも、お尻だってどこだって、直人が欲しい
と思えば何だってあげる。
 全部、直人のモノだった。
 こんな体でよかったら、何でも好きにしてくれていい。
 そうして、身も心も直人のモノにして欲しいと想った。
 あの少女になりたい。
 直人の隣で無邪気に笑い、こっちを牽制するように挑発してきた、あの女の子に。
 そして毎日直人の腕を取り、今日みたいな天気のいい日に二人で買い物するのだ。
 あの少女が直人からもらってる言葉や視線や指や唇を、全部ひとり占めするのだ。

 薫はそんな想いを胸に抱き、「はぁ……」と熱い吐息を吐き出した。

317:【僕オマエ】作者
08/04/18 03:11:35 V6/vedJi
 今日はここまでに。

 大量&連続投下してしまいました。
 すみません。でもおかげで下準備が出来ました。
 次回からエロエロに出来ると思います。

 またしばらく伏せます。
 出来ましたら、近い内に御会い致したいと思います。
 気長に御待ち頂けたら幸いです。

318:名無しさん@ピンキー
08/04/18 07:29:44 I5j32oma
くどすぎてツマラン。以上。

319:名無しさん@ピンキー
08/04/18 07:44:43 f0t5d9ia
ねっとりむっちりでいいんじゃない
俺は好きだね

320:名無しさん@ピンキー
08/04/18 10:31:31 Wf0Fv2dY
乙!
こういうじわじわ描写してからのエロは大好きなので
楽しみにしてます。

321:名無しさん@ピンキー
08/04/18 11:36:51 7XYzInQY
GJ!
薫は俺の嫁!!

322:名無しさん@ピンキー
08/04/19 00:39:42 Qp+I9/aR
更におっぱい!おっぱい!な展開が待ち遠しい

323:名無しさん@ピンキー
08/04/19 01:10:57 7tIw+wZE
>>317
乙彼~

90年代の少女小説のような展開にちとびびったw
その王道を行くならば、これまでの重いシーン→中略→濃厚なエロ→すっきりエンド?
wktkが止まらんです!

324:名無しさん@ピンキー
08/04/19 19:08:34 jbohsKY7
宮木 守の続きが見たい

325:ふう@ピンキー
08/04/20 00:52:44 IYLH9nsz
こんばんは。ちょっと間が空いちゃいましたが、
しぃちゃんの続きを投下します。
今回はいつもより長いんで、2回に分けて投下します。
2回目はまだ書いている途中なので、たぶん今夜中に投下ww
(まあいつもが短いんだけどね。)

326:大塚志乃5
08/04/20 00:56:06 IYLH9nsz

遙に案内され、更衣室に入ると、すでに何人かの女子が着替えを始めていた。
入り口で思わず立ち止まる志乃。
それをみて遙はクスッって微笑むと、志乃の手をとり、部屋の中に引いてあげた。

「しぃちゃん、もしかして女子更衣室は初めて!? だよね。。」
「うん。。こんな大勢の女性が着替えている場面に踏み込んだのは初めてだよ。。」

銭湯や、女性だけの公共施設にまだ踏み入ったことのない志乃にしてみれば、
禁断の薗と言っても過言ではないくらいだった。

「だいじょうぶ。しぃちゃんはどっからみてもフツーの女の子なんだから、
 遠慮しなくてもへーきだよ。」
「そういわれても・・チョット前まで男だったやつがこんなとこにいたら・・・。」


「あれ大塚さん。早く着替えないと間に合わないよ。」

一人で危惧してる志乃の脇を、同じクラスの女子が平然と通り過ぎて行く。
それを見送ったあと、遙は平然とした表情で、

「でしょー。みんな気にしてないから早くはいろおっ!」

初めて入る更衣室の中では、クラスで知った顔の女子たちがせわしなく着替えをしていた。
なるべく視線を併せないように部屋の隅に移動して、もってきた手さげ袋から体操着をだす。

(女子はハーフパンツだったな。。)

志乃はそのままスカートをはいたままハーフパンツをはく。
そして次のスカートをホックを外して脱ぎ、続けてブラウスを脱いだところで、、

「うわーおっきぃねー!!」
「うわぁ!!」

突然、志乃は後ろから胸をつかまれた。

「ちょっ・・ちょっと!!」
「すごい・・あたしよりおっきいじゃん!!なんか屈辱~っ!!」


327:大塚志乃5
08/04/20 01:01:01 IYLH9nsz
もみもみもみもみもみもみ・・・・・。

「まっ・・・・・ちょ、ちょっと。。」

どうにか身体を捻って振り返ると、そこにいたのは同じクラスの「九条弥生」だった。

「あぁ九条か。びっくりさせるなよ。。」
「ごっめーん!! なんか大塚のおっぱい。けっこうおっきそうだったから思わず触っちゃった☆」

壁に向いた状態でこそこそと着替えていたため、背後の接近に全く気づかなかった。
弥生はごめんといいながらも、まったくわるびれた感じもない。

「大塚の胸。大きい割には形がいいよねぇー。
 つーか元々女のあたしよりおっきい、ってのがちょっとくやしいけど!!」

なんてふてくされた感じで言う弥生。
そんな弥生は一見、ショートカットでボーイッシュな感じをかもし出してはいるが、
そうはいっても弥生は身長が170cm。志乃よりも10cmも高い上、スリムなモデル体系。

こんな見事なスタイルでぐちられても、志乃には「はは。。」と笑うしかなかった。

「しかもさ、なんか柔らかいのに弾力があって、女のあたしからみてもいいさわり心地だったよ♪」
「そっ、そんなこと言ったって・・・!!」

ますます返す言葉がない志乃だったが、

「しぃちゃんー。早く着替えていこーよー。」

ちょうど遙が声をかけてきたので、志乃も慌てて上着をきて更衣室をあとにすることにした。


328:大塚志乃5
08/04/20 01:04:48 IYLH9nsz
----

体育はバスケの時間だった。
ここはバスケ部員である弥生の独壇場だった。

志乃と遙は弥生と同じ3人のチーム分けになり、
ガードの司令塔を弥生がつとめ、志乃と遙がフォワードで点を取りにいく。
弥生もその気になれば充分に自分で点をとりにいけるのだが、
ここはあえて同じチームメートを活かすようにゲームメイクをするところは、
さすがはバスケ部員、といったところだった。

ジャンプすると、まだ少し胸の揺れが気にはなるが、
スポーツブラを付けていることで思ってたよりは気にならず、
それに、さすがにスポーツをやってるときは、志乃もあまり「女子」を意識せずに、
バスケに没頭して楽しむことができていた。


ちょうどそのころ、誰も入れるはずのない女子更衣室に、一人の男がいた。

その男は、志乃が先日登校してきたときから、ずっと志乃をみていた。
今日も登校してから更衣室にいくまで、周りに気づかれない距離を保ちつつ、
その志乃の一挙手一投足をじっと眺めるように。

そして今日初めて、志乃をその目で追うことをやめたその男は、
どうやったのか、女子更衣室に侵入していた。

その男は見覚えのあるかばんが置いてある棚をみつけると、
そこに近づき、たたんである衣類をそっと手にとる。
へんに崩さず、しわをつけないように、丁寧に衣類をあさっていく。
中で小さなショーツをみつけると、その男はそれを手にとり、
両手で眼前にかかげ、マジマジと凝視する。


一通りの興奮を覚えた後、その男は本来の目的でを果たすため、
ブラウスのポケットに一枚の紙をしのばせた。

そして痕跡を残さぬように、衣類を綺麗にもとのように戻し、
更衣室をあとにした。


329:大塚志乃5
08/04/20 01:08:20 IYLH9nsz
授業終了のチャイムが鳴って暫くすると、大勢の女子が体育館を出て行った。
その中で遙、弥生、志乃は、試合の成果をお互いに称えあっていた。

「さっすが弥生ねー。パスとかうますぎ!!よく後ろにあたしがいるのがわかるよねー。」

興奮気味に話す遙は、弥生の見事なパス回しに感動していた。

「一応、本職はポイントガードだからねー。一応パス職人なんで、そこんとこヨロシク☆
 でもさー。大塚も結構シュートうまかったよねぇ。しかも片手打ちでよく入るよね。」
「まあ昔からあの打ち方だったし。膝使えばちゃんと届くよ。」

女子の中で一人、片手打ちのシュートをしていたのは志乃だけだった。
大抵の女子はみな両手うちなので、片手打ちはめずらしがられた。

「九条こそ、わたしたち二人にマークがついていると、すきあらば3Pを決めちゃってすごかったぜ。」
「をぉ!大塚~、今、「わたし」っていったろ!?けっこう様になっているじゃん!」
「まあ、一応な。。なるべくこう、言うようにしている。。恥ずかしいからあんまいうなよ!!」

弥生の突然の冷やかしに、思わずあわてる志乃だが、
こういうやりとりがあまり苦手にならなくなってきていた。

そして3人は更衣室に戻ると、次の授業にそなえて急いで制服に着替えなおす。
このとき、ブラウスまで着おえた志乃は、胸元のポケットに入っている紙に気づく。

(なんだこれ・・・?)

あまり考えずに二つに折られた紙を広げると、中には簡潔に書かれた文章があった。

「大塚くんへ。 このあと、内緒で体育館の用具室にきてください。
 大事な秘密のお願いがあります。 中嶋より」

(はぁ・・・??)


330:大塚志乃5
08/04/20 01:10:18 IYLH9nsz
一瞬、固まる志乃。
突然の文章に、その意味を理解するのに数秒。

「しぃちゃん~、どうしたの??」

「あっ、いや何でもないよ!!今着替えおえるからちょっと待ってて。」

思わず紙を握りつぶすようにして隠す。
そのまま黙々と着替えをすます。

(なんだ今の内容?? おれ宛てだよな・・??中嶋って、たしか同じクラスにいたと思うけど、
 秘密のお願いっていったいなんのつもりだ!??)

「なあ、遙。中嶋ってどんなやつだっけ?」
「んー中嶋くん? どんなって言われても・・どうかしたの??」
「あっいやなんでもない。気にしないでいいよ。」
「そぉ・・?」

(まあ秘密のお願いって言ってるくらいだし、ここで話しちゃまずいよな。。
 シカトしてもいいけど、大事なとかいってるしなぁ・・どうすっかなぁ。)

「なぁ遙。わたしちょっと用事があるからさ、先戻っててよ。」
「ん? 大丈夫ー? 付き合ったげよっか??」
「いや平気。すぐ戻ってくるよ。」
「そ? あんま時間ないから気をつけてね。」
「ああ。それじゃ。」

志乃は踵を返すと、急いで体育館の方に戻っていった。


331:ふう@ピンキー
08/04/20 01:12:40 IYLH9nsz
とりあえずここまで投下です。
続きは目下書いているとこです。

(あまり長くしないで120行前後で投下。が自分ルールなので)

つうか、ほんとエロまで前置きが長すぎですねww
まあ王道的な展開っていうか、ベタな展開好きなのでww


332:ふう@ピンキー
08/04/20 02:28:59 IYLH9nsz
では、続き投下しますー



333:大塚志乃5
08/04/20 02:31:57 IYLH9nsz
体育用具室にはまだ誰もいなかった。
この時間は体育館での授業がないせいか、一人でいる用具室は余計に静かに感じる。

(あれ?まだきてないのかな・・!?)

なにげに後ろに振り返った瞬間・・・、

「大塚君。」
「ひっ・・! あ、・・驚かすなよお・・。中嶋か。つかなんのようだよ・・。」

背後にはいつのまにか同級生の「中嶋」が立っていた。

身長は160cmの小柄で、体育の授業では余り表にでてこない印象が残っていた。
よく言えば物静か、悪く言えば暗そうなこの男は、
クラスでもあまり目立たず、あまり特技がないように見えるこの男だったが、
武道をたしなむ志乃に感ずかれずに背後に立てるということ時点で、ある意味この男の特性といえるだろう。

「来てくれて嬉しいよ。やっぱり僕ら親友だもんね。」
「え・・そうだっけ? まあいいや。突然呼び出して何のようだよ。」

いまいち中嶋の考えがわからず、怪訝な顔をする志乃だった。
中嶋はとくに意に介した感じはしていないようだ。

「優しい大塚君にしか頼めないことがあるんだ。いいかな?」
「だからその頼みってなんだよ。聞くだけ聞いてやるから、早く言ってみろよ。」

なんかとなく煮え切らないこの男の態度に、少し苛立ちを覚え始めてきた。



「 お っ ぱ い み せ て 。」



突然の言葉に、一瞬、志乃は我が耳を疑った。。



334:大塚志乃5
08/04/20 02:32:31 IYLH9nsz
「今なんて言った?? 聞き間違いかもしれないから、もっかい言ってくれ。。」
「やだなぁ大塚君、恥ずかしいからなんでも言わせないでくれよ。
 その大塚君のおっきなおっぱい、みせて欲しいんだけど、どうかな?」

志乃の顔がだんだん赤くなっていく。
「てめぇ・・言うことかいてそれかよっ・・」

突然、中嶋は中に浮いたまま足を折り曲げて、空中で正座の姿勢を作ると、
重力のままに地面に落ち、着地の瞬間に土下座のポーズをとって、必死に懇願をする。

「お願いだ!大塚君。こんなこと頼めるの、君しかいないんだ!!」

一瞬、志乃はたじろきつつも、このとち狂ったことを言い出す男をなだめようとする。

「だからってなー。いきなりそれは・・。」
「僕は今まで女の子と付き合うどころか、喋ったことすらあまりないんだ!!
 ここ最近だってせいぜい、消しゴム貸して、ってぐらいしか会話ないし・・
 こんな僕がこの先本物の女の子に付き合えるかと思うと・・・。
 だから一回でいい。ネットや雑誌じゃななくて、実物の女の子のおっぱいがみたいんだよーー!!!」

一気にまくしたてるように喋られ、志乃は口を挟む余裕すらなかった。

「でもなあ。だからっておれに頼むのは筋違いだろ・・。」

なんか必死に見えた。逆に志乃は半端呆れ気味だった。

「大塚君は八幡さんって彼女がいたから、今の僕に気持ちなんてわかんないんだよー!!!」

(はぁああああ。なんだこいつ。めんどくせーー。)

「それに大塚君って、元々男だよね?? 別に自分の胸をみせるって、そんな気にならないんじゃない!??」

「・・・・。 は!?」

突然、この男は、志乃の気持ちを揺さぶるような、志乃の心の核を突くことを言い出した。

「男同士なんだし、別にちょっとくらいいいよね!? ね!? ね!?」



335:大塚志乃5
08/04/20 02:34:00 IYLH9nsz
「男」という単語を出されて、一瞬、迷いが生じる志乃。
今は女性の身として考えて、断固拒否し、この破廉恥男を突っぱねるか。
または元男のプライドとして、虚勢をはるか。
ほんの10秒程度だが、志乃にのっては長考となった。
そして志乃は、あとから考えたら、自分が気が触れたかと思うような決断をした。

「はぁ。。わかったよ。ちょっとだけだぞ。 あとこのことは絶対に誰にも言うなよ?」
「うれしいよ大塚君!! 君はやっぱり親友だよ!!」

突然、目を輝かせて喜ぶ少年。

志乃は「はぁぁ。」と、思わずため息をもらしながら、自分の胸元についている、
赤いリボンタイに手をのばす。

その一挙手一投足を、正座したまま凝視する中嶋。
それをして志乃は、

「おっ、おい! そんなにみてるなよ!! 脱ぐのが恥ずかしいじゃないか!!」
「なんで? 恥ずかしいの??」

目を丸くしながら素でこたえる中嶋に、恥ずかしい理由が説明出来るわけがない。

仕方なく志乃はそのままリボンを外す。
外したリボンは、背後に置いてある跳び箱の上におく。
そのままブラウスのボタンを上から順に外していく。

その大きな胸は、上のボタンを2,3個とっただけで谷間が顔を覗かせ、
その大きさがいやでもうかがえる。

「おぉぉ・・・。」

中嶋の口からからため息が漏れる。


336:大塚志乃5
08/04/20 02:35:39 IYLH9nsz
志乃はスカートの近くまでボタンを外すと、一度、中嶋の方を見やる。

「なぁ、これでもいいか??」
「そんな!? ブラジャーもとってくださいよ!!」

志乃は渋々とブラに下の部分に手をかけると、
そのままゆっくりと上側に持ち上げる。
その双乳は、ブラのカップに引っ張られるようにして上の方に向くが、
ある程度までひっぱられると突然、カップから外れるように、「ぷるんっ」と中嶋の眼前にあらわになった。

その瞬間、中嶋は目を大きく開き、その大きな双乳に釘付けになっていた。

「これが・・大塚君の・・。女のおっぱい・・・。」

正座していた中嶋いつのまにか立ち上がり、志乃の目の前まできていた。

弥生すらも感心させるその乳房は、大きくても綺麗な形をしており、
それでいて可愛らしい乳首が、その二つの胸の先端に存在している。

だんだん鼻息を荒くしていきた中嶋は、ついに志乃の胸の眼前までに顔近づけていた。

「おっおい!! そんなに顔近づけるなってば!!」

ついにたまらず、両手で胸を覆い隠して、身体をわずに横にそむける。
そんな状態でもまじまじと見続ける中嶋は、志乃を見上げるような状態で、

「大塚君のおっぱい。。これ本物だよね・・。」
「バカ!! 当たり前だろ!?」

何をバカな、とこたえる志乃。

「すごいよ大塚君。ほんと綺麗だよ。。これ、ちょっとだけ触ってもいいかな??」
「なっ、みるだけっていってたろ!! オマエ、本気で触る気か・・・。」
「別に触るくらいいいだろ? 男同士なんだから気にならないよね?」

このとき、志乃の頭は高速で回っているようで、逆に全然回っていない状態でもあった。
自分がどうしたいいか、なんでこんな状況になっているのか、
必死に考えつつも、答えがだせず、いつのまにか全身が暑く、
興奮の兆しが見えてきていることに、それすらも気づけていない状況であった。


337:ふう@ピンキー
08/04/20 02:39:45 IYLH9nsz
えらいちゅーと半端で恐縮ですが、
今回はここまでです。

なるべく早めに続きは投下します。
すれでは。

338:ふう@ピンキー
08/04/20 02:40:24 IYLH9nsz
あ、タイトルの番号間違えたww

339:名無しさん@ピンキー
08/04/20 07:41:11 c/wy3m08
悪人かと思ったらダメ男なのか中嶋w

340:名無しさん@ピンキー
08/04/20 10:23:27 VV+at4am
駄目な子だな、中嶋

341:名無しさん@ピンキー
08/04/20 10:24:18 ro5MakDt
>>337
>えらいちゅーと半端で恐縮ですが、

わかってるんなら、そうならんように努力しろよこの糞コテが

342:名無しさん@ピンキー
08/04/20 14:03:47 8LsGQvWN
おつ~

343:名無しさん@ピンキー
08/04/20 16:33:15 xF/HK8go
駄目男の振りをしている悪人かも知れんぞ

344:名無しさん@ピンキー
08/04/20 19:23:50 UDrSTqu0
だとすると策士だな、中嶋。侮れん。

345:名無しさん@ピンキー
08/04/25 07:57:40 6BuS6xWe
頑張れ中島的に保守(・∀・)b

346:名無しさん@ピンキー
08/04/25 19:23:10 qtUb0pwr
お前ら、中嶋をどんなのに想像してる?

347:名無しさん@ピンキー
08/04/26 13:39:29 4eMjZM0T
>>346
写真撮影→ばら撒く

348:名無しさん@ピンキー
08/04/26 14:48:24 6NOgY5il
男同士なんだからいいよね?の殺し文句で妊娠させるまで突っ走る

349:名無しさん@ピンキー
08/04/26 15:18:10 zXZQPwI2
青少年インターネット規制法案が成立したら、まとめサイトも消滅だね……orz
どう考えても暴力に精神的虐待、性に関する認識の歪みとかで、完全アウトですよ

350:【僕オマエ】作者
08/04/27 19:13:17 KnansFJg
 こんばんは。

 エロ回収のための下準備期間は、今回で終わります。
 長くてすみません。

 NGワードは【僕オマエ】でお願いします。

 流れる水には形がない。そよぐ風は姿も見えない。
 どんな行為も愛なら自由!
 たったひとつの真実に惑う、見た目は女、頭脳は男。
 その名はリバーサー(再生計画被験者)薫(カオル)。

 詳しくは過去ログ参照にて。

351:【僕オマエ】
08/04/27 19:14:02 KnansFJg
 触れてもいないのに、想像だけで、想っただけで、あそこがとろとろになっ
てしまった。
 ふと、パンツに染みてないだろうか?ジーンズに染みてないだろうか?
 そんなくだらない事を考えながら、けれどなんだかこんな体の反応がすごく
嬉しくて……そして恥ずかしくて、薫は下唇を噛んだ。
 自分は、こんなにもいやらしかったのか。
 こんなにも強く、直人を求めていたのか。
 いつの間にかこんなにも……。

 こんなにも直人が好きになっていたのか。

 それを考えると、その改めて胸の奥に“すとん”と落ちてきた事実に対する、
あまりの恥ずかしさで頬が火照り、その羞恥でさらに体が熱くなる。
 確かに自分は『失恋』した。
 それも、想いを伝える前に破れてしまった。

 でも、それで諦めるのか?

 胸の奥から沸き起こるモノは、こんなにも熱いのに。
 乾いてしまったはずの心は、こんなにも直人を求めているのに。
 それでも、生まれる前に消えてしまった1度目の恋と、また同じことを繰り
返すのか?
 また自分を誤魔化して、「気の許せる友人」として「好き」だったのであっ
て、決して「女として好きだったのではない」から「気にすることはない」な
どと、ひたすら自分に言い聞かせて終わるのか?

『やだ』

 そんなのは、もう嫌だ。
 いくら自分を嘆いてみても、今の自分は女で、これからあと死ぬまでずっと、
この姿で生きていかなければならないのだ。
 この先、また誰かに恋をする事があるかもしれない。
 ではその時も自分は、結局理由を付けて諦めるのか?
 悲劇の主人公を気取って、泣いて心を凍らせて、それで諦めるのか?
 高い所に実っている美味しそうな葡萄は、やっぱりいつまでたっても酸っぱ
い葡萄でしか有り得ないのか?

『そんなの……やだ』

 ―そう。

 答えは「否」だ。
 断じて「否」だ。

 顔を上げる。
 天井の蜘蛛の巣を見上げる。
 あの蜘蛛のように、相手がやってくるのをただひたすら待つのは楽で、安全
で、決して傷つく事も無い。
 でも、それでは『想い』は、本当に好きな相手へは絶対に届かない。
 スポットライトの外の暗がりで、じっと来ない出番を待ち続ける『道化(ピ
エロ)』は、もうごめんだ。
 自分でも諦めが悪いと思う。
 しつこいと思う。
 でも、思えば自分は、直人には何一つ確かめてはいないのだ。
 勝手に想像して、勝手に絶望して、勝手に諦めようとしただけだ。
『……うん、そうだ……』
 とにかく、直人に告白しよう。
 この想いを伝えよう。
 そう思った。

352:【僕オマエ】
08/04/27 19:15:33 KnansFJg
 たとえ、もう彼女がいようが、直人の好みのスタイルでなかろうが、直人に
直接「嫌いだ」とか「女として見られない」とか聞くまでは、決して諦めてな
んてやるものか。
『知らないかもしれないけど、僕はこれでも結構……かなり、執念深いんだ』
 さっきまで鬱々と胸に澱のように溜まっていたマイナスな感情が、反作用の
ように、逆のベクトルに逆流し始めていた。
 落ち込むだけ落ち込んだら、今度は昇るだけだ。
 切り替えの速さは、薫の特性か、それとも『女』という種の持つ、ふてぶて
しいまでに逞しい特性だろうか。
 今の薫には、もうどちらでも良くなっていた。

■■【20】■■
 自分の気持ちに決着を付け、薫は、まるで戦場に赴く兵士のような勢い込ん
だ顔をして腰を上げた。
 今からならまだ間に合う。
 きっと間に合う。
 恋破れて膝を付き、敗北を心に刻んで涙に濡れるにはまだ早い。
 闘う前から敗北宣言だなんて、ちっとも自分らしくない。
「うしっ」
 目を見張るほどに豊満なおっぱいを“ゆさっ”と揺らしながら、薫は両手で
ガッツポーズを作って気合を入れる。
 こんな時だけ、薫はとてもとても“男らしかった”。

 ―その時だ。

「奇遇だな」
 不意に聞こえた声に、薫は“ぎくっ”と身を強張らせた。
 今の今まで、どうして気付かなかったのか。
 いつの間にか東屋のすぐ近くに、男が立っていた。

 ……坂東だった。

 御丁寧にも、例によって山口と谷崎も一緒だ。
 しかもその後には、彼等の他に3人もの人影がある。
「……っ……」
 薫は息を呑み、思わず身構えた。
 6人の男…。
 薫が本能的に恐怖を感じて警戒を強めたとしても、それは無理からぬ事だっ
た。腕力では坂東達に全く敵わないのは、保健室で押さえつけられた時に嫌と
言うほど身に染みて感じている。それが6人ともなれば、ここから程ない商店
街まで……いや、人の目がある場所まで逃げるのも難しくなってしまうだろう。
 薫は坂東がどういうつもりなのか、目を細めて注意深く観察した。
「……警戒すんなよ。何もしねーって」
 坂東は相変わらず、まるで獰猛な大型犬が立って歩いているような威圧感を
身に纏っている。
 山口の、半分だけ金髪に染めた後髪も相変わらずだったし、谷崎の首の辺り
で尻尾のように縛った長い茶髪も月曜日から変わっていなかった。
「坂東……」
 薫は“フレンドリーなグレートハウンド”みたいなその顔を、桜の木に大量
発生した毛虫に対するように、嫌悪とわずかばかりの恐怖と共に、苦々しく見
やった。

 あの後、坂東は柔道部を“自主退部”したと聞いた。
 だが本当は大会前の不祥事を恐れた学校側から退部“させられた”というの
が真相だろう。
 それなりの実力者で、他校に対して有用な選手だった人間を退部させたとい
う事は、それほど学校が事態を重く見ている証拠とも言える。
 だが、それによって坂東の経歴に傷が付いたのは確かだった。

353:【僕オマエ】
08/04/27 19:17:26 KnansFJg
 おそらく内申書にも影響し、彼が狙っていた体育大への推薦も難しくなるの
だろう。とすれば、今日この場所に“偶然”居合わせたことに理由を感じずに
はいられない。
 もしかしたら、逆恨みして何かされるかもれない……とさえ、薫は思った。
 そうでなくとも、この男達にはレイプされかけているのだ。
 しかも今回は3人ではない。
 見覚えの無い男達が加わっている。
「どけっ!」
 “ぞっ”とした寒気を感じた薫は、トートバッグを引っ掴むと素早く身を翻
し、東屋から飛び出そうとした。
「待ってくれ!」
 その腕を、坂東が掴む。
 だがすぐに彼は鼻白んだように慌てて手を離した。

『何かしようとしたら思い切り声を上げてやる』

『キンタマ蹴り上げてやる』

『噛み付いてやる』

『僕は本気だ』

『本気だぞ』

 そういう、とても女の子らしくない剣呑で凶暴な光を、薫の瞳が“ギラッ”
と浮かべたからだった。
 それでも薫がそのまますぐに立ち去ろうとしなかったのは、坂東が……いや、
彼だけでなく山口も谷崎もが、突然その場に揃って膝を着いたからである。
「なっ……」
 薫は驚くより何より、その異様な様子に息を呑んだ。

 ―土下座。

 その行為をTVや映画で見聞きするのと、こうして目の前で実際に見せられ
るのとでは、受けるインパクトがまるで違う。
 敵(相手)の前で膝を折り、いかようにもしてくれと人体の最大の弱点であ
る頭部を垂れる。
 蹴り上げられても踏みつけられても文句は言わない。
 それは“絶対服従”であり、これ以上無いほどの謝罪の表明であった。
「……なん……だよっ……?」
 薫の体が固まり、思わず唾を飲み込んで一歩引いてしまったのも無理はなかった。
「いや……一言、謝ろうと思ってな。実を言うと、お前を探してたんだ」
 顔を上げないまま、坂東がくぐもった声を上げた。
 薫は戸惑い、坂東の刈り上げた後頭部を見、山口と谷崎の後頭部を見、そし
て彼らの背後に立つ3人の男達を見た。見知らぬ男達は、所在無げにポケット
に手を突っ込み、ニヤニヤと坂東達を眺めている。「何か面白い見世物が始まっ
た」とか、そんな雰囲気だ。
「謝る!?……いまさらっ……」

 犯そうとしたくせに。

 あの汚らしいチンポを僕の体に入れようとしたくせに―。

 思い出しただけでゾッとする。
 恐怖と屈辱で身が竦む。
 そんな傷を心に刻み込んでおいて、よくそんな事が言えるな!?
 もし薫の視線に人を呪い殺す力があったら、間違いなく彼女は今、坂東を殺
していただろう。

354:【僕オマエ】
08/04/27 19:19:09 KnansFJg
「あん時の俺は、普通じゃなかった。……つまんねー事が原因で部活で怪我し
て、試合に出れなくなって、それで自暴自棄になってよ、なんだかもう何もか
もどうでも良くなってな。そんな時、お前がメチャクチャ色っぽいカッコなん
かするもんだから、その……よ、どうにも我慢出来なくなっちまってな」
 ノーブラで乳首を透けさせたまま、丈の短いセーラー服から白くて滑らかな
腹と可愛らしい臍を覗かせていた、あの破廉恥な……風俗嬢かお色気タレント
が超ミニのコスプレ風セーラー服を身に付けているかのような格好の事を言っ
ているのだと、すぐにわかった。

 俺達がお前をレイプしようとしたのは、エロい格好をしてたお前にも原因がある。

 そう言われた気がした。
 それは今でも世間でよく言われる、「性犯罪に巻き込まれる女には、そうい
う素養(巻き込まれるに足る原因)がある」から、「女も悪い」と同じ論理だっ
た。責められるべきは犯罪者の方のみであるべきなのに、なぜ被害者が批難さ
れねばならないのか。男だった頃には「そんなもんかな」くらいにしか思って
いなかった認識が、女になった今ではひどく腹立たしい。
 そして、そんな自分勝手な論理がまかり通ってしまうくらいに、現実の社会
構造と男女性差認識は、21世紀初頭から今に至るまで、何も変わってはいな
かった。
「僕のせいだってのか?」
「いや、そうじゃねぇ。悪い。言い方が悪かったな」
「俺達だって、ダチのお前を本気でヤろうだなんて思わねーよ。少なくとも、
最初は本気じゃなかった」
 横合いから谷崎が卑屈さを隠そうともせずに声を上げる。
 薫はカッとして、自分の顔が怒りで赤くなるのを感じた。
 ふざけた事を言う茶髪を、思い切り蹴り上げてやりたいと思った。
 本気じゃなかった人間が、笑いながら『ダチ』の恥ずかしい姿をケータイで
何枚も何枚も撮影するのか?
 ニヤニヤ笑いながらおっぱいやあそことかを、何枚も何枚も撮影するのか!?
 あれはもう、悪ふざけとか、そういう問題じゃない。
「あん時は、お前があんまり無防備だったから、ちょっと脅かしてやろうって、
そう思っただけなんだ」
 山口が必死に頭を下げながら、声を上げる。
「ふざけんな……てめーら……」
 “はらわたが煮えくり返る”というのは、まさしくこういう時の事を言うの
だろう。薫はあの時の、保健室で感じたどす黒い感情を再び思い出していた。
「なあ、俺達ダチだろ?よくふざけあって遊んだじゃねーか」
「許してくれとは言わねーよ。でも、せめてセンコーにお前の方から言ってく
れよ」
「PTAでかなり問題にされたみたいでよ。親は怒りまくるし、俺達、このま
まじゃ停学されかねないんだ」
 男達の勝手な言い分に、眩暈さえしそうだった。
 自分達のした事を棚に上げて、ただ保身に走ろうとしているのだ。
 このクズどもは。
 薫は一度大きく息を吸い、そして目を瞑ってゆっくりと吐き出した。
 不意に、自分でも驚くほど“すうっ”と頭が冷えていく。

 無駄だ。

 クズには、何を言っても意味は無い。
 根本から話が通じないのだ。
 こういう手合いに本気で怒るのは、猫や犬に幾何学を教えようとするくらい、
愚かなことなのだ。
「―僕は、お前達を絶対に許さない」
「香坂!」
「うるせえ。黙れ」
 山口が上げた声を、薫はぴしゃりと跳ね除けた。

355:【僕オマエ】
08/04/27 19:20:32 KnansFJg
「これだけは覚えておけ。僕とお前達は、もうダチでもなんでもねぇ。金輪際、
僕には近付くな。関わるな。話しかけるな。僕はお前達をこれから無視する。
今後一生。必ずだ」
 底冷えするような声音が、遊歩道の東屋に響く。
 木陰から一歩踏み出せば夏を思わせる陽気が身を包むだろうに、ここには冷
たい空気しか存在しないような寒々しさがあった。
 薫は言葉を切ると、土下座したままの坂東達の後頭部を順番に見やった。
 かつて、この男達とは「友達」だった。
 ダチだった。
 悪友だった。
 乱暴な言葉遣いで罵倒してもちっとも動じない、だからこそ気兼ね無くふざ
けあえた、薫の男友達であった。
 だが今は、薫が女で、彼らが男であるという、ただそれだけの事が、薫に決
定的な距離を突きつけていた。
 ……いや、それこそが……男と男ではなく、女と男であるという事が、永遠
に埋められない無理解の溝を穿っているのだ。
 今はそれが、少しだけ、哀しい。
 薫は小さく息を吸うと、腕を組んで重たいおっぱいを支えた。そうすると、
ただでさえ豊満な乳房がより強調され、それを見ていた坂東達以外の3人の目
が吸い寄せられる。その表情には、隠しようの無い淫猥で好色な嗜虐の色があっ
た。
 だが、薫はそれに、全く気付かない。
 薫は息を吐(つ)き、下唇を噛むと、悔しそうに顔を歪めた。
 非情に徹しきれない者の、苦悩に染まった顔だった。
「……けど、お前達が今後、絶対に僕に近付かないって約束するなら……先生
に……考えてくれるように言ってもいい」
「香坂」
「顔を上げるな!お前達の顔を見たら、ムカムカして吐き気がしそうだ」
「助かるぜ。やっぱり持つべきは友達だな」
「言っとくが、僕はお前達を一生許さない。友達だなんて絶対に思わない。も
しまた今度、僕だけじゃなく他の女の子にも同じような事をしたら、その時は
絶対にお前達を学校から追い出してやる。訴えてやる。お前達みたいなクズは、
少年院にでもなんでも行けばいいんだ」
 坂東達が自分にした事は許せない。
 一生許すつもりは無いし、一生かけて償って欲しいくらいだった。
 それはたぶん、もう絶対に変わらないだろう。
 でも、あの日、思春期の性欲猛る男達の前で破廉恥な格好をしてしまった自
分にも非があったのは認めざるを得ないし、たった一度の過ちでこの後の人生
を棒に振らせてしまうのは、元友人として少々……ほんのちょっとだけ忍びな
かった。
『まがりなりにも反省してるみたいだし……それに、こいつらといて、楽しかっ
た事も確かにあったんだから』
 決して性根の根本から悪い人間ではないのだ。
 薫はそう思い、小さく息を吐いた。

 自分の身に受けた屈辱と恐怖と、それを与えた人間の人生を秤にかけてしま
う。それが薫の美点である優しさであり、そして欠点とも言える決定的な弱さ、
甘さであった。

 だが……。

 思えばこの時、薫は絶対に警戒を解くべきではなかったのだ。
「一生?もう一生許してくれないのか?」
「くどい!わかったらさっさと行け!今日はもう、二度とお前達の顔なんか見
たくないんだ」
「どうしても許せないか?」
「しつこいな!自分達がした事を思い出せよ!!お前等は、僕の信用を裏切っ
たんだぞ!?そんな人間を、なんで許さなくちゃいけないんだ!!」
「……じゃあ、しょうがないな」
 坂東の声音が、不意に変わった。

356:名無しさん@ピンキー
08/04/27 19:22:01 KnansFJg
 「え?」と思う間も無かった。

 ―次の瞬間だ。

 左足首を太い指で掴まれ、そのまま掬い上げられた。
 無様にひっくり返り、腰をコンクリートの床にしたたかに打ちつけ、その痛
みに、薫は声も無く身を震わせる。
 続いて、倒れた体の上に黒い影が落ちた。
 「あれ?」と思った途端、今度は頬が急に熱くなり、首が“ぐるんっ”と横
に振れた。
 鼻の奥がキナ臭くなり、鉄の味が喉へと滑り落ちてくる。
 髪を留めていたバレッタが東屋の隅に転がり、長い黒髪が解けて薫の頬まで
流れた。
『あ……あれ?なんだ?……え?……』

 ―引っ叩かれた。

 そう自覚するまで、3秒かかった。
 そしてそれは、ひどく長くて、間延びした3秒だった。
「おい、顔を殴るなよ!痕(あと)になったらヤバいだろ!?」
「撫でただけだ。これくらいなんでもねーよ」
 坂東達の声が遠かった。
 頭が“くわんくわん”と揺れ、心臓が“バクバク”と激しく鳴り響く。

 なんだ?どうしたんだ?

 『また』失敗したのか?

 アレだけの目に会いながら、また僕は油断したのか?

「おい!そっち持て!」
 気が付けば、男達に手足を掴まれていた。そのまま東屋から引き摺り出され
る。男達が目指しているのは、裏手の雑木林だった。
 真昼間から決して「そんなこと」はしないだろうと、どこかで甘く思ってい
た薫の心根が、急激に冷えた。
 男が女を人気の無い場所に連れ込んでする事と言えば、たった一つだ。
「おっ…お前らっ!!」
「暴れんなよ」
「おぐっ」
 腹を蹴られた。
 なんてヤツだ。
 女の子の腹を蹴るなんて。
 そう頭の片隅で思いながら、喉にこみ上げてくる酸っぱいものを必死で押し
留めた。
「……っ……うっ……」
 声が出ない。
 心は猛るのに、痛みに萎縮して体が思うように動いてくれなかった。
 男の暴力に、女の肉体が反射反応しているのだ。
 恐怖に震え、涙が溢れてボロボロとこぼれる。
 震えるより、泣くより、立ち上がってこの場から逃げたいのに、体がそれを
裏切る。
 強張る顔を巡らせれば、男達は一様にこれからの事に期待を込めて瞳をギラ
ギラと輝かせていた。
 反省したわけではなかったのだ。
 諦めたわけでは、なかったのだ。

 坂東達は、まだ薫を犯すのをやめたわけではなかったのだ。

『どこまで馬鹿なんだ僕は』
 土下座一つで騙されて、保身を匂わせるような言葉だけで絆(ほだ)されて。

357:【僕オマエ】
08/04/27 19:23:31 KnansFJg
 自分の甘さこそに反吐が出る。
 こんなにもしたたかな男達に油断した自分に、反吐が出る。
「やっ…やめ…ろっ!!」
 必死で声を上げた。
 首を振り、体を揺すって男達の手を振り解こうとした。
 だが、男達の手は、まるで万力のようにガッチリと薫の四肢を掴んで離さな
い。哀れな野ウサギを咥え込んで離さない、飢えた狼の顎(あぎと)のように。

 ここは学校じゃない。

 直人もいない。

 助けは来ない。

 相手は6人。

 めちゃめちゃにされる。

 6人で……犯される!?

 その事実に、決して遠くは無く、それどころかすぐ近くまで足音を忍ばせて
迫ってきていた恐ろしく残酷な未来に、薫の背筋が凍り、歯の根が“カチカチ”
と無様な音を立てた。
「うわっ……うわわわわわわわーーーーっ!!!」
 暴れた。
 理性も抑制も無かった。
 駄々を捏ねる子供のように、むずかる赤子のように、薫は無茶苦茶に体を揺
すり、脚を蹴り上げ、足首を掴んでいた男の顔と言わず肩と言わず蹴り上げた。
「おい」
「ふぐっ!?」
 冷徹な坂東の目がこちらを一瞥した……と薫が知覚してすぐに、もう一度腹
を殴打された。
 今度は拳だった。
 岩みたいなゴツゴツした男の手が、真綿みたいな鍛えていない女の腹筋をや
すやすと打ち抜き、胃と腸にダメージを与える。
 背骨まで折れるかと思った。
「げえっ…」
 今度は耐えられなかった。
 朝に食べたトーストとカフェ・オレと新玉ネギのサラダが、食道を胃液で焼
きながらせりあがって、胸元のニットを汚した。
「きたねっ…」
 チャンスだった。
 左手を掴んでいた男が手を離し、他の男達もわずかにたじろいで身を引いて
いた。
 今だ。
 今なら出来る。
 男達の手を振り切って、声を上げ、後も見ずに、

 ―立ち上がって逃げるんだ―!!

 早く!!

 早く…。

 思いは急く。
 だのに……

「や……やめ……」
 痛みと恐怖に体が萎縮し、1ミリも動く事が出来ないまま、ただ涙が零れた。

358:【僕オマエ】
08/04/27 19:25:49 KnansFJg
「おい、くせーから早く脱がしちまおうぜ?」
「もうすぐだから、待てよ」
「トイレ入っちまえば匂いなんて気になんなくなるさ」
「ゲロとションベンの匂いにまみれて初セックスか?」
「おおっ。なんてドラマティックなロストバージン!」
「……いや…だ…」
 声を上げようとして、その声音があまりにも弱々しく、男達の嗜虐心を煽る
だけだと思ったのは、薫の中にある「男の意識」がそうさせたのか。
 それとも、涙と吐しゃ物にまみれながら犯されるという、非現実的な事態に、
かえって冷静になったとでもいうのか。
 その瞬間、薫は一切の抵抗をやめて右手を掴んだ坂東を見上げた。
「ば、坂東」
 聞こえないのか、興奮に我を忘れているのか、薫はそれでも、一向に返事を
しない男へと諦めずに粘り強く呼び続けた。

 都市部にあるような完璧な浄水処理設備の無い公衆トイレは、10年以上前
と変わらずアンモニアの匂いがしている。
 その中になかば抱かかえられるようにして引き摺り込まれながら、薫は必死
に思考を整理していた。
「板東!!」
「なんだ?さっきから。観念したんだろう?」
 薄汚れたトイレの床に放り出され、周囲を囲む男達を見上げた。
 前に2人。
 横に2人。
 薫の後。トイレの入り口で、退路を完全に断つようにして2人。

 ―逃げられない。

 覚悟を決めるしかない。
 薫は“カチカチ”と鳴る歯を懸命に噛み合わせ、頭をもたげようとする恐怖
心を無理矢理捻じ伏せて、小さく息を吸った。
「―お前等が僕を犯したら、僕は、死ぬ」
 「死」という言葉に、坂東の目がほんの少しだけ細められた。
「だから?」
 薫は乾いた唇を舌で濡らしながら、自分の豊満な乳房や腰を嘗めるように見
る男達を見上げる。
「僕が『再生計画(リヴァース・プロジェクト)』の被験者で、元々は男だっ
てことは知っているな?」
「はあ?」
「なんだって!?」
「ちょっ……元男かよ!?」
 薫の言葉に、坂東ではなく、見覚えの無い3人から声が上がる。
 彼等が、ただ単に板東の誘いに深い理由も聞かされないまま誘われた者達だ
と、それで理解した。
 ならば、まだ血路はある。
「知らなかったのか?僕は2年前に女になったばかりの、正真正銘の男だった
人間だ」
「別に?体が女ならカンケーねえよ。こっちは楽しめればそれでいいんだ」
 屈みこんだ板東の手が、ニットの上から左のおっぱいを鷲掴みにする。
 鈍い痛みに顔を顰めながら、薫はその顔に、乾いて水分の足りない、粘つい
た唾を吐きかけた。
「おぐっ…」
 再び、何も言わず腹に打ち込まれた拳に、薫の体がくの字に曲がる。
 “びちゃっ”と胃液混じりの吐瀉物が公衆トイレの床に零れ、涙と鼻水は頬
を、顎を伝った。
「男だってんなら、これくらい、なんでもねーよな?」
 へへっと笑う板東に、長い髪を掴まれ、引き上げられる。
 薫の耳には“ぷちぷち”と抜ける音が、いやに遠くに聞こえた。

359:【僕オマエ】
08/04/27 19:27:47 KnansFJg
「言っとくけど……僕は……お前達みたいなクズに汚されてまで、生きている
つもりはない」
「だから?死ねよ。遠慮しないで死んでい-ぜ?俺達は別に構わねーから。そ
の前にお前のヴァージンをブチ破って、散々犯して楽しませてもらうわ」
 板東の言葉に、薫は一度だけ“ぎゅっ”と目を瞑ると、意を決したように目
の前の男の瞳を真っ直ぐに見た。
「知ってるか?僕が死ぬと、政府が動く」
「なに?」
「はあ?なんだこいつ」
 突拍子も無い薫の言葉に、山口と谷崎の顔がニヤニヤと笑み崩れた。状況か
ら逃れたいばかりに、嘘を並べ始めたと思ったのだろう。板東さえ、あからさ
まに馬鹿にしたような顔で唇を歪めた。
「もちろん、警察じゃない。日本政府だ」
 いきなり大きくなった話に、男の一人が頭の横でくるくると指を回した。
 これから犯される恐怖で頭がイカレたかと、仲間に聞いたのだ。
 薫は萎えそうな心を叱咤しながら、震える手を握り締めた。
「お前達は日本政府と、日本と国交の有る世界中の国々からマークされる。
『リヴァース・プロジェクト』は、世界規模の国家間プロジェクトだ。その被
検者をお前達は殺した事になるんだからな。国際犯罪者よりタチが悪い、国際
計画妨害者……テロリスト扱いだ。そうなれば、事はお前達だけの問題じゃな
くなる。お前の親、兄弟、親類や、交際している人間、全てが今後数十年、も
しくは死ぬまで国家公安委員会の監視・管理下に置かれるぞ」
「ハッタリか?」
「頭おかしーんじゃねーの?」
「妄想なら、俺達が満足してから聞いてやるよっ…と!」
「うっ……」
 山口が薫の、土で汚れてしまった白のカーディガンを乱暴に脱がせる。
 だが、薫のニットを捲り上げ、さらに、豊満なおっぱいが窮屈そうに押し込
められたピンクのブラを引き上げようとした時、板東がその手を押さえた。
「よく出来た嘘だが……時間稼ぎなら無駄だぜ?」
 板東の目が、こちらを探るような光を帯びている事に、薫は気付いていた。
 板東は、学校の成績は超低空飛行だが、決して頭が悪いわけではないのだ。
むしろ、危機回避能力にはひどく長けているところがある。
 今彼は、薫を犯すことのメリットとデメリットを、おそらくものすごいスピ
ードで計算しているに違いない。

 まさしくここが、薫の正念場だった。

「そう思いたいなら、思えばいい。けど、本当の事だ。僕が死ねば、お前達に
はもう未来は無くなる。高校を退学とか、そんな生易しい問題じゃないんだ。
お前達の名前は公安のリストに確実に載る。その上、ネットに顔写真付きで流
され、僕の…『リヴァース・プロジェクト』によって恩恵を受けるはずの人々
から、一生憎まれて生きる事になるだろうな」
 話しているうちに覚悟が決まったのか、腹が据わったのか、薫の瞳に脅えは
もう無くなっていた。
 強く、激しく、板東の瞳を睨み付けている。

 生まれてからずっと女をやってる人間は、どこか、処女を軽視する傾向があ
る。
 それは「フィルコス」来訪を迎えた今も昔も、なんら変わりはなかった。
 そもそも「処女であること」に重要性を感じるのはキリスト教圏の人々と、
一部の先進国くらいだが、日本における年頃の女の子にとって「処女である」
というのは、ひどく“重くて、鬱陶しい”ものなのだ。
 薄皮(正確にはヒダ)一枚で女の価値が左右される男性社会の馬鹿馬鹿しさ
を教え込まされて来た日本女性は、ヴァージンでいる意味を15歳を境に急速
に見失っていく。15歳を過ぎれば「早く捨てたい」と思い、20歳にもなっ
て処女だと「恥ずかしい」とさえ思うのだ。
 だが、薫はかつて男だったためか、処女であることに一定以上の「幻想」と
「価値」を見い出していた。


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