【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合28at EROPARO
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合28 - 暇つぶし2ch750:Funny Bunny
08/03/09 23:06:22 Pi1RQtxy
「無限に広がる大宇宙を駆ける、誇り高き男!」
 誇らしげな叫びと共に、実物よりもいくぶんか美化されたワイルダーの顔が大写しになる。
「その名は、キャプテン・ワイルダー! 数多の惑星を飛び回り、未知の世界を解き明か
すために深遠なる宇宙を駆け抜ける! 星の海を渡るその行く手に待ち受けるのは、栄光
か、それとも死か!」
 声と共に、次々と絵が切り替わる。派手な爆発を背景に、見慣れぬ銃を手にして走るワ
イルダー。蔦につかまって木から木へと飛び移るワイルダー。剣を片手に、謎の黒尽くめ
男を相手に死闘を演ずるワイルダー。
「進め、キャプテン・ワイルダー! その手に未来を勝ち取る日まで!」
 最後にきらりと歯を光らせて笑うワイルダーの顔が大写しになったあと、板はまた天井
に引っ込んでいった。唖然としているケティの耳に、スペンダーの真面目くさった声が聞
こえてくる。
「いかがでしたでしょうか。なおスタッフに関しましては、音響スペンダー、美術スペン
ダー、演出スペンダー、総監督スペンダー」
「おい、スペンダー」
 ワイルダーがうんざりした声で遮った。
「一体何の遊びだ、今のは」
「初めてお越しいただいたお客様にキャプテンのことを紹介するべく、秘密裏に製作して
いたCGムービーです。お気に召しませんでしたか?」
「当たり前だ。見ろ、ケティの顔を。すっかり動転しているじゃないか」
 名前を呼ばれて、ケティははっとしてワイルダーの方に向き直った。
「あの、今のは一体」
「イカれたAIの悪ふざけだ。気にしてくれなくていい。スペンダー、船長命令だ。しば
らく黙ってろ」
「了解いたしました、キャプテン」
 悪びれない声で答えて、スペンダーが黙り込む。「まったく」と呟いたあと、ワイル
ダーは苦笑気味に言った。
「まあ、さっきのふざけたムービーも、ある程度正しくはあるんだが。僕は確かに、未知
の宇宙を旅してその情報を持ち帰る探検者だ。この惑星も、知的生命体らしきものが確認
されたので降りてみたわけだし。でもまさか、ここの人間がここまで僕らに似ているとは
思いも」
「あの」
 ケティはためらいつつも、ワイルダーの話を遮った。
「なんだい、ケティ」
「いえ、先程仰った、宇宙だとか惑星だとかいった単語の意味が、よく分からなかったもので」
「ああそうか、うっかりしていたな」
 ワイルダーはぴしりと自分の額を叩いたあと、穏やかに笑った。
「分かった、じゃあその辺りから説明しようか」
 そして、ワイルダーはケティが今まで想像したことすらなかった事実を語り始めた。
 青い空の向こう、無限に広がる大宇宙。風も空気も上下左右の区別もない、広大な星の
海。その海を駆け抜け、星から星へと旅する探検者。その探検者が乗り込む、ロケットと
いう名の巨大な船。
「それでは、このハルケギニアも、そういった『星』の中の一つだと仰いますの?」
「そういうことだね。この世界で信奉されているのが地動説か天動説かは知らないが、現
実は僕が今説明した通りだ。夜空に瞬く星々も、多くはここと似たような世界なんだよ」
 ワイルダーはケティの呆然とした表情を楽しむように言う。彼の言うことが全て理解で
きたわけではなかったが、嘘ではないこともなんとなく分かった。王都で持て囃されてい
る人気者の吟遊詩人ですら、ここまで馬鹿げた物語を作り出すことは出来ないだろう。ワ
イルダーが語った世界は、ハルケギニア住人の想像の範疇を超えている。逆に言えば、そ
れが信じるに足る証拠にもなり得るのだった。

751:Funny Bunny
08/03/09 23:06:57 Pi1RQtxy
「この『塔』も、ロケットという名の船だと?」
「ああ。こいつは」
「恒星間移動すら可能な空間跳躍航法を実装した、最新式のブラッドベリ型ロケットです、
ミス・ロッタ」
 スペンダーの声が会話に割り込んだ。
「人類史上最も効率的かつ高性能な超小型対消滅エンジンと、その燃料を船内で生産する
ための超小型反物質生成プラントを完備し、長期間宇宙を旅する乗員にもストレスを与え
ないよう、徹底的に配慮された居住スペースを備えております。そして何よりも特徴的な
のは、ロケット全体の機能を保持、管理、制御するこの私、アシモフ式第7世代型陽電子
頭脳、スペンダーでありまして」
「スペンダー」
 ケティにはさっぱり意味が分からない説明を捲し立てるスペンダーの声を、ワイルダー
が不機嫌そうに遮った。
「僕はさっき、黙ってろと言ったはずだが」
「『しばらく』とも仰いました。その時間はもう終わったものと判断したのです、キャプテン」
「分かった。じゃあ今度は、僕がいいと言うまで黙ってろ」
「了解しました、キャプテン」
 またも生真面目な声で答えて、再度スペンダーが黙り込む。「まったくあいつは」と疲
れたように肩を落とし、ワイルダーが頭を掻く。
「おしゃべりな奴で、すまないね。だがまあ、やっぱり説明自体に嘘はない。この船は星
の海を旅するためのロケットなんだ。昨日の夜この森に着陸したあと、観測ユニットを
放って周辺を探索させていたところに、君が来たわけさ」
「でも、こんなに大きなものが空から降りてきたら、いくら真夜中でも誰かが気付くと思
いますけれど」
「ああ、この船には光学迷彩……要は透明になれる機能があってね。君がここに来る少し
前までは姿を消していたのさ。その頃になって急に機能が不調になったとスペンダーが言
い出したものだから、仕方なく僕自身が船外に出てチェックしていたんだ。さて」
 ワイルダーは椅子の上で居住まいを正し、じっとケティを見つめた。
「今の説明である程度推測できたかもしれないけれど、このロケットの存在は、本当なら
誰にも知られてはならない。特に、ここのように……ああ、気を悪くしないでくれ……ま
だ文明が未発達な惑星の住民にはね」
「どうしてですか?」
「もちろん、混乱が起きるからさ。自然な文明発展に悪影響を及ぼすし、何より精神的に
未成熟な文明に過ぎた力を与えるわけにはいかない。本当なら、これほど深く接触して、
自分の素性を明かすこと自体、惑星同盟間規約で禁じられているんだよ」
 前半はよく分からなかったが、後半の「禁じられている」という部分に、ケティは罪悪
感を覚えた。
「つまり、あなたは今、規則を破ってしまっているのですね」
「まあ、そういうことになるかな」
「ごめんなさい、わたしのせいで」
 身の縮むような思いを味わうケティに、ワイルダーは気楽に言った。
「いや、別に君のせいじゃないよ。どちらかと言うと油断していた僕らが悪いんだ」
「でも」
「ただまあ」
 ワイルダーは少し言いにくそうに切り出した。

752:Funny Bunny
08/03/09 23:07:44 Pi1RQtxy
「こちらの事情を分かってもらえたのなら、僕らのことは秘密にしておいてもらえると助
かる。君のご両親や、友人にも喋らないでいてもらえないか?」
「ええ、それはもちろんです。ロッタ家の家名に賭けてお約束しますわ」
「本当かい? ありがとう、すごく助かるよ」
 安堵しきったワイルダーの声を聞くと、またもケティの中で好奇心が首をもたげてきた。
「参考までにお聞きしたいのですけれど、もしもわたしが喋ってしまった場合、どうなる
のですか?」
「そのときは、急いでこの星から出て行くだけさ」
 ワイルダーは肩をすくめた。
「このロケットがなくなれば、誰も君の話を信じなくなるだろうからね」
「それもそうですわね」
 ケティもまた、ほっと息をつく。喋れば誰かに害が及ぶような、危険な秘密を知ってし
まったわけではなさそうだ。ふと窓の外を見ると、外の森が黄昏の色に沈みつつあるのが
見えた。
「ああ、わたし、もう学院に帰らないと」
 慌てて立ち上がると、ワイルダーが少し残念そうな顔で呟いた。
「そうか、もう帰ってしまうのか。残念だな、君の話もいろいろと聞かせてもらいたかっ
たんだが」
「え、わたしの話ですか?」
 思いがけない言葉に、ケティの胸が高鳴る。ワイルダーは立ち上がりながら頷いた。
「ああ。どうせ規則を破ってしまっているんだし、住人の口から直接この世界のことを聞
いた方がいろいろと得だろうしね。君がさっき言っていた、魔法というのも見せてもらい
たいし……まあ、無理強いはしないよ。君にも君の都合があるだろうしね」
 話しながら、ワイルダーは壁の一角に歩み寄る。それを待っていたかのように空気が抜
けるような音がして、壁が四角く切り取られて向こう側に倒れた。その先には、暮れなず
む森が広がっている。白い部屋に差し込む黄昏の光に、ケティは目を細める。入り口の階
段を下りると同時に、緩やかな風が木の葉のざわめきを運んできた。
「さて、それじゃさよならだ、ケティ」
 低い階段の上に立ち、ワイルダーが眉を傾ける。
「送っていけなくて申し訳ないね。本当なら、君のような女の子をこんな時間に一人歩き
させたくはないんだが」
「いえ、大丈夫です。この森のことはよく知っていますし」
 そう言ったあと、ケティは迷った。先程から、ある思いつきが心の中をぐるぐると駆け
巡っている。だが、それを言ってしまって迷惑にならないものか。
「あの、もし、よろしかったら、なんですけど」
 散々悩みぬいた挙句に、ケティは思い切って切り出した。ワイルダーが、驚いたように
目をしばたたく。
「なんだい、急に?」
「いえ……あの、もしよろしければ、またここに来てもいいでしょうか? ああ、もちろ
ん、この船のことは誰にも話しませんので」
「本当かい?」
 ワイルダーの顔に喜びが広がる。彼は階段を駆け下りてきて、ケティの小さな手を
ぎゅっと握り締めた。その熱烈な仕草に、ケティは自分の頬が熱くなるのを感じた。
「ありがとう、ケティ。もちろん大歓迎さ。楽しい話をたくさん聞かせておくれよ」
 上下に手を振るワイルダーを見て、ケティは恥じらい混じりの不安に襲われた。
「そんな、わたし、きっと大したことは話せませんわ」
「いやいや。僕にとって、未知の世界の話はなんだって心が躍るんだ。是非ともここに
通って、いろんな話を聞かせてほしい。ああ、もちろん」
 ワイルダーは悪戯っぽく片目をつむった。
「君だけを特別に招待するわけだからね。必ず一人で来てくれよ。僕としては、それだけ
約束してもらえればいい」
「わたしだけ、特別」
 なんとも言いがたい感動が湧き起こる。今まで何も持っていなかった自分が、ついに他
人が持っていない秘密を手に入れた。その事実に、小さな胸が激しく躍った。

753:Funny Bunny
08/03/09 23:08:36 Pi1RQtxy
(特別な人間になれば、サイトさまとも少しはお近づきになれるでしょうか)
 わけの分からない理屈だと思いつつも、心は勝手に楽観的な想像を弾き出す。
「分かりました。ここに来るときは、必ず一人で来ますから」
「うん、そうしてくれ。いやあ、楽しみだなあ」
 上機嫌に頷いているワイルダーを見ていると、ケティもまた楽しい気分になってきた。
思えば今日は彼に驚かされっぱなしだったから、最後に少し仕返しをしてやろうと、いつ
になく愉快なことを考える。
「それでは失礼いたします、ミスタ・ワイルダー」
 ケティはスカートのポケットに入っていた自分の杖を取り出した。手の平に収まる程度
の大きさのそれを振り上げ、小さく詠唱する。ワイルダーは怪訝そうに眉をひそめていた
が、ケティの体がふわりと浮き上がるのを見て、大きく目を見開いた。
「こりゃ凄い! おいスペンダー、記録しているか? ……ああ、喋ってもいいぞ」
「イエス、キャプテン。全て記録しております。驚くべき現象です」
「ああ。これが魔法というものなんだなあ」
 深く感動しているらしいワイルダーを見ながら、ケティは出来る限り優雅にお辞儀をした。
「それではミスタ・ワイルダー、ごきげんよう。良い夢を」
「ああ、お休みケティ。次に君が来るのを楽しみに待っているよ」
 大きく手を振るワイルダーに背を向けて、ケティは空に舞い上がった。少し飛んでから
振り返ってみると、あの大きなロケットは跡形もなく消えている。確かに、これならば自
分以外の人間は気付きもしないだろう。
(そう。あの船のことは、わたしだけの秘密)
 胸中で呟きながら、ケティは今までにないほど軽やかに空を飛び、学院に戻った。
 その日の夜、再び集まった友人たちと話している最中も、その顔には絶えず微笑が浮か
んでいた。

 翌日以降、それまでの憂鬱さから一転して、ケティは楽しい毎日を送るようになった。
 とは言え、昼間の生活にはさして変化がない。相変わらずあまり楽しくない授業を受け
て適当に課題をこなしつつ、友人たちとお喋りをしたりして、ひたすら放課後になるのを待つ。
「なんかさ、ケティ、最近やけに楽しそうだよね」
「いえ、そんなことありませんよ。わたし、至って普通ですわ」
 今はもう試験管を振るのを止めたコゼットが疑わしそうに言うのに対し、すまし顔で答
えるのが楽しくてたまらない。
 授業が終わると、ケティは人目を避けてこっそりと学院を抜け出し、森の道を足早に駆
けてワイルダーのところに向かう。ロケットは、ケティがあの広場に姿を見せると同時に
擬装を解き、入り口を開けて迎えてくれる。
「やあ、いらっしゃいケティ。待っていたよ」
 ワイルダーはいつも、入り口の階段の上に立ち、両手を広げてケティを歓迎してくれた。
 彼の格好は毎日違うものになった。最初の日は魔法学院の教員が着ているようなローブ
姿で、次の日は商人風だった。三日目に着ていた騎士風の衣装が一番似合っていたのでそ
う言ってやると、その日以降はずっとその服で迎えてくれるようになった。
「ところで、その服はどうやって調達いたしましたの?」
「スペンダーが用意してくれるのさ」
「まあ、彼はそんなことも出来ますのね」
「イエス、ミス・ロッタ。ベッドメイクから調理、裁縫に至るまで、何なりと私にお申し
付け下さい」

754:Funny Bunny
08/03/09 23:09:09 Pi1RQtxy
 平坦ながらもどこか得意げなスペンダーの声を聞いて笑いながら、ケティはあれこれと
取りとめもないことを話す。生まれ育った領地のことや、賑やかな領地のこと、魔法学院
での少々退屈な生活のことや風変わりな友人たちのことも話した。中には自分で話してい
てあまり面白くないなと思うことも多かったが、ワイルダーは退屈そうな様子を見せるこ
ともなく、どんな話でもとても興味深そうに聞いてくれる。ただ、才人に関することだけ
は一切話さなかった。想い人に似たところのある目の前の男性に、自分のうじうじしたと
ころを知られたくなかったのだ。
 それはそれとして、ケティの方でも、様々なことをワイルダーから聞いた。そのおかげ
で、ロケットのことやスペンダーのことも、ある程度は理解できるようになった。
「観測ユニット、でしたっけ。最初の日にわたしが驚かされた、蜘蛛のような形をしたものは」
「ああ、そうだ。今は外装をこの惑星の生き物のものに張り替えて、近くの町や村に潜り
込ませているよ。ひょっとしたら、君の学院に迷い込む野良犬の中にも、僕の放った観測
ユニットが紛れ込んでいるかもしれないね」
 そう言いながら、ワイルダーはその観測ユニットの内の一体を見せてくれた。抱き上げ
た子犬には体温すらあったが、皮膚一枚隔てた向こう側には、確かに金属の感触がある。
だが傍目には本物にしか見えず、抱き上げたケティの臭いをふんふんと嗅ぎまわる仕草も
子犬そのものだ。これでは誰も気付かないだろう。
「よく出来ていますのね」
「イエス、ミス・ロッタ。この通り精密な作業もお手の物、アシモフ式第7世代型陽電子
頭脳、スペンダーをどうぞよろしく」
「調子に乗りすぎだぞ、スペンダー」
 たしなめるワイルダーの声にくすりと笑いながら、ケティはテーブルの上の紅茶を啜る。
対面に座ったワイルダーはあの黒い飲み物……コーヒーを飲んでいるが、ケティはあの苦
さを思い出すと未だに顔をしかめてしまう。
「よくそんな苦い飲み物を平気で飲めますわね」
「苦みばしった大人の味さ。なに、君にもその内分かるようになるよ」
 ワイルダーは何やら深みのある笑みを浮かべて、今日も美味そうにコーヒーを啜っていた。

 空の向こうからやって来た旅人たちとの出会いから、もう二週間ほどの時間が過ぎていた。
 その日ケティは、コゼットの薬草採取に付き合って森に足を踏み入れていた。何やら上
の空で考え込んでいる様子のアメリィと、いつも通り歩きながら手鏡を覗き込むエリアの
姿もある。
「コゼっち、あんまり奥に入りすぎると、学院に戻るのが遅くなっちゃいますよー?」
 手鏡をしまいこみながら、エリアが不満げな声を上げる。コゼットは木の根元を覗き込
みながら、気のない返事を返した。
「大丈夫だって、ちょっと薬草探すだけなんだからさ。でもこの辺にはなさそうだなあ」
 ぼやくように言いながら、コゼットはどんどん森の奥に進んでいく。エリアが可愛らし
く唇を尖らせる。
「もう。最近この辺りではぐれワイバーンが目撃されたって話もあるんですよ? 危ないです」
「大丈夫だって。そんなもん、出てきたって氷付けにしてやっからさ」
 気安く請け負うコゼットは、止まる気配など微塵も見せない。ケティは少し不安になっ
てきた。
(このまま進んでいくと、あの広場まで着いてしまいそうなんですけど)
 その不安は的中し、コゼットはとうとう、あの広場に足を踏み入れてしまった。もちろ
ん、ロケットは影も形も見当たらない。あちらではケティを確認しているはずだが、他に
も人がいるから姿を現せないのだろう。
「ねえコゼット、早く戻りましょう。そろそろ日が落ちてきますわ」
「そんな心配すんなよ。いざとなったらフライで帰ればいいじゃん」
「それはそうですけど」
 ケティは口ごもった。コゼットをこの広場から追い出すための、上手い言い訳が思い浮
かばない。だが、姿を消したロケットが鎮座しているであろう辺りを見ていると、ほんの
少しだけわくわくするような、楽しい気持ちになるのも事実だった。

755:Funny Bunny
08/03/09 23:09:44 Pi1RQtxy
(やっぱり、わたしだけ特別なんだわ)
 周辺に生えている木の根元を探っているコゼットは、すぐそばに自分の想像の範疇を超
える乗り物が存在していることになど、少しも気がついていないだろう。広場の入り口辺
りで談笑しているアメリィとエリアも同様だ。今この場において、ロケットのことを知っ
ているのはケティだけだ。その優越感に満足げな笑みを浮かべていると、不意にエリアが
驚いたような声を上げた。
「まあ、本当なんですかそれ」
「うん」
 振り向くと、アメリィが恥ずかしそうに頷いているのが見えた。口許を隠す左手の人差
し指で、青い宝石をはめ込んだ指輪がきらりと光っている。「わたしはブスだから」が口
癖で、装身具の類を収集はしても決して身につけはしないアメリィにしては、珍しいこと
だ。アメリィは青白い頬をかすかに染めて、ぼそぼそと喋っている。
「それで、どうしたらいいのか、分からなくて」
「それはもちろん、ちゃんと答えてあげるべきですよ。嫌いではないんでしょう?」
「うん。活発だけど優しくて、むしろ好感を持ってるぐらい」
「それはなによりです。帰ったら早速おめかししましょうね」
「でも、ちょっと怖い」
「大丈夫ですよ、アメりんはとっても可愛らしいお顔なんですから、ちょっと髪型を変えれば」
「あの」
 楽しげに話しこんでいる二人の間に、ケティは遠慮がちに割り込んだ。
「お二人とも、何の話をなさってるんですの?」
「ああケッちゃん。実は、アメりんがですね」
 とエリアが話し出したところで、「いってーっ!」という叫びが後ろから聞こえてきた。
はっとして振り向くと、いつの間にか広場の中央付近に移動していたコゼットが、頭を押
さえてしゃがみ込んでいる。
(まずい……!)
 あの辺りは、ワイルダーたちのロケットがあるはずの場所である。焦るケティの横を通
り過ぎて、アメリィとエリアがコゼットに駆け寄る。
「どうしたの、コゼット」
「なにが痛いんですの、コゼっち。自分の存在?」
「ちげーよバカ! 今、何かに思いっきりぶつかったんだよ!」
「何かって、なんですか? 何もありませんけど」
 不思議そうに周囲を見回すアメリィとエリアのそばで、コゼットも立ち上がりながら首を傾げた。
「っかしーな。確かに、なんかスゲー硬いものに頭ぶつけたんだけど……この辺りだったかな?」
 コゼットが何もない空間に向かって怪訝そうに手を伸ばす。その辺りが、ちょうどロ
ケットの外壁のある場所だ。ケティが叫び声を上げそうになったとき、突然野太い咆哮が
轟いた。驚き、立ちすくむ四人の前に、森の奥から大きな影が進み出てくる。人間より一
回りも二回りも大きく、薄汚れた体。ぎょろりとした赤い瞳と、豚のような醜い顔。オー
ク鬼と呼ばれる亜人だった。
「なんでこんなとこにぃ!?」
 悲鳴を上げるコゼットの前で、オーク鬼は再度咆哮を響かせながら、持っていた棍棒を
大きく振り上げた。その近くに立っていた三人が、慌てて逃げ出す。一瞬後、振り下ろさ
れた棍棒が、凄まじい轟音と共に広場の地面を抉り取った。
「コゼっち、氷づけにするんじゃなかったんですかー!?」
「アホ、んなこと言ってる場合か!」
「早く逃げないと」
 三人は各々杖を取り出して口早に詠唱すると、ふわりと空に舞い上がった。一人残され
たケティは、恐ろしいオーク鬼を前に棒立ちしていた。動かないのではなくて、足が竦ん
で動けないのだ。オーク鬼は、そんな彼女の前にゆっくりと歩いてきて、醜く大きな鼻を
ひくつかせながら、涎の滴る口を開いた。
「ご友人方の後を追った方がいいのではないですか、ミス・ロッタ」
「……え?」
 突然オーク鬼の口から吐き出された理性的な言葉に、一瞬ケティの頭が真っ白になる。
だが、すぐに正気を取り戻して、驚きと共に叫んだ。

756:Funny Bunny
08/03/09 23:10:18 Pi1RQtxy
「もしかして、スペンダー!?」
「しっ! 声が大きいですよ、ミス・ロッタ」
 言われて、ケティは慌てて口を塞ぐ。だが、胸の動悸は治まらなかった。目の前にいる
のはどう見ても凶暴なオーク鬼なのに、何故スペンダーの声で話しているのだろう。少し
考えて、答えに思い当たる。
「もしかして、これも擬装した観測ユニットの内の一体、とかですか?」
「さすがに聡明でいらっしゃいますね、ミス・ロッタ。そう、こんな風に人が近づいてき
たとき、驚かして追い払うつもりで製作していたのです。よく出来ているでしょう」
 オーク鬼は涎を垂れ流しながら、口が裂けたような笑みを浮かべる。荒っぽい息遣いと
いい立ち上る臭いといい、どう見ても本物にしか見えない。今さらながら、常識を超えた
技術力に感心してしまう。
「さ、怪しまれない内に早くお行きなさい、ミス・ロッタ」
「ええ。ありがとう、スペンダー」
「いえ。ただ、出来るならばこんな物を秘密で作っていたことをキャプテンに叱咤される
とき、私を庇っていただけるとありがたいのですが」
「分かりましたわ」
 スペンダーの平坦ながらも冗談めかした言葉に笑って頷きながら、ケティもまた友人た
ちを追って空に浮かび上がった。
 木々の上まで飛んだとき、物凄い勢いで降下してきたコゼットとぶつかりそうになって、
慌ててその場に静止する。コゼットはほんの少しだけ行き過ぎてしまってから、抱きつか
んばかりにケティのところに戻ってきた。
「大丈夫か、ケティ!? 怪我してないか、貞操は守られているか!」
「興奮しすぎですわ、コゼット、言葉が意味不明になってます」
 落ち着かせるように言うと、コゼットはようやく少し冷静さを取り戻したようだった。
厳しい顔つきでケティの体を上から下までじっくりと眺め、ほっと息をつく。
「良かった、あの豚野郎にヤられちまったのかと思ったよ。可愛いケティの顔に傷でもつ
いたらどうしようかと思った」
「コゼっち、その言葉はなんだかちょっとあやしいですわー」
 ふざけ半分に身をくねらせながら、エリアも下りてくる。その隣に浮かんだアメリィが、
長い前髪の隙間から、じっと広場の方を見つめていた。
「こんなところにオーク鬼が出るなんて」
「どうしましょうねえ。学院の先生方に話したほうがいいんでしょうか」
 ちょこんと首を傾げるエリアに、ケティはまたも焦った。そんなことをしてこの辺りを
兵隊がうろつくようになったら、ロケットが発見されてしまうかもしれない。
 幸いにも、その危惧は「ダメだ!」と叫んだコゼットによって払われた。
「この辺、結構穴場もあるんだぜ! 人が入るようになったら、レアな薬草根こそぎ採ら
れちまうかもしんねーじゃん」
「コゼっちほどの薬草マニアなんて、それほどたくさんはいないと思いますけれど」
 エリアが苦笑する。
「でも、確かに話さないほうがいいかもしれませんね。変に騒ぎが大きくなって、事情聴
取とかで時間をとられるのも嫌ですし」
「面倒なのは嫌」
 アメリィもぼそりと同意する。コゼットが赤い髪を乱暴に掻いて、フケを風に吹き散らさせた。
「とは言えあんなのがいるんじゃ、しばらくは森に入らない方がいいかもな。どうせ群か
らはぐれただけだろうから、すぐいなくなるだろうけど」
 ケティはほっと胸を撫で下ろした。同時に、また少し嬉しくなる。
(あのオーク鬼が偽物だと知っているのも、やっぱりわたしだけ)
 先ほどのオーク鬼の恐ろしさ、醜さについて口々に語っている友人たちに取り囲まれな
がら、ケティはまたも優越感に浸った。
 だから、広場でアメリィとエリアが話していたことについては、翌日になるまですっか
り忘れてしまっていた。

757:Funny Bunny
08/03/09 23:11:26 Pi1RQtxy
 森で偽物のオーク鬼と遭遇した翌日、いつものようにワイルダーのロケットで話しこん
だあと、ケティは日が落ちる少し前に学院に帰還した。寮の自室に戻ろうとしてヴェスト
リの広場に差し掛かったとき、遠くから聞こえてきた歓声に足を止める。その方向を見や
ると、ベンチが置いてある辺りに、何やら大きな人だかりが出来ていた。彼らは全員魔法
学院の生徒のようで、絶え間なくざわつきながらも、時折一際高い歓声を上げている。
(なんでしょう?)
 首を傾げながら、ケティは群集に近づいた。近づくにつれて、人だかりの中心が少しだ
け高くなり、そこから眩い光が放たれているのが分かった。もっとよく見ようと「レビ
テーション」の魔法で空に浮かび上がり、ぎょっとする。人だかりの中心にいたのは、よ
く見知った人物だった。
「アメリィ!?」
 叫び声が、群衆の上げた歓声にかき消される。その中心で、アメリィはきらびやかな光
を放っていた。土魔法によるものか、台のように隆起した地面の上に立ち、周囲の生徒達
に向かって笑顔を振りまいている。眩い光は服から放たれていた。よく見ると、魔法学院
の制服に、彼女のコレクションと思われる宝石が無数に縫い付けられている。その一つを
無理矢理もぎ取って、アメリィは歌うように叫んだ。
「幸せをおすそ分けーっ!」
 先ほどの宝石が、アメリィの手から空に向かって高々と放り投げられる。彼女を取り囲
んでいた群集が歓声を上げ、落ちてくる光の粒を追いかける。酔っ払ったような笑いと共
にそれを見下ろしながら、アメリィはまた宝石を一つもぎ取り、心底楽しそうに叫んだ。
「皆さんも、わたしみたいに幸せになっちゃってくださーい!」
 彼女が叫ぶたび、煌く宝石が次々と夕暮れの空に舞い踊る。それを追って右往左往する
群衆の頭上に浮かびながら、ケティは呆然とアメリィを見下ろしていた。
 ケティの知るアメリィは、内気で大人しい少女である。いつも泣いているように潤む黒
い瞳が可愛らしいが、本人は自信のなさから長い黒髪でそれを隠してしまっていた。「わ
たし、ブスだから」が口癖であり、気心の知れた友人の中にあってさえ、いつも遠慮がち
にぼそりと発言するような臆病な人間だったはずだ。
 その彼女が長い黒髪を勢いよく躍らせ、夕暮れの空に向かって高らかに笑い声を響かせ
ながら、景気よく宝石を投げまくっている。頭のネジが外れてしまったようにしか思えな
いその行動は、冷静に見るとかなり痛々しい。しかし、内から溢れ出さんばかりの歓喜と
生命力に満ちているのも確かで、見ている者に不思議な高揚をもたらすものでもあった。
 そのアメリィが、上空に浮いているケティに気付いて、にっこりと笑いかけてきた。ど
きりとするほど魅力的な笑顔だった。入学して以来、長い間友人として付き合ってきたつ
もりだったが、アメリィのそんな表情を見るのは初めてのことだ。
「ケティーッ!」
 アメリィが叫ぶ。服に縫い付けられていた宝石の中でも一番大きなものをもぎ取り、大
きく腕を振りかぶった。
「あなたも、怖がらないでーっ!」
 力強い叫びが、ケティの胸に突き刺さる。呆然とする彼女の前に、山なりの軌道を描き
ながら宝石が飛んできた。ケティは慌ててそれを掴み取る。手を開くと、数日前にアメ
リィが見せていた、青く大きな宝石が零れんばかりの輝きを放っていた。驚いて彼女の方
を見ると、コゼット顔負けの満面の笑みが返ってくる。
「一緒に頑張ろうね、ケティ!」
 アメリィは楽しそうに叫んで、また宝石をばらまき始める。校舎の方からミセス・シュ
ヴルーズが顎の肉を揺らしながら走ってきて、「あ、あなたたち、これは一体何の騒ぎで
すか!?」だのと喚いていたが、いよいよ熱狂が頂点に達した群集に飲み込まれ、もみく
ちゃにされてしまった。
 そうして日が完全に落ちかける頃、アメリィはようやく全ての宝石をばら撒き終わった。
一礼した彼女を、群集の盛大な拍手が包み込む。その中から一人の少年が歩み出て、大き
く両手を広げてアメリィに近づいた。

758:Funny Bunny
08/03/09 23:13:25 Pi1RQtxy
「とても素敵だったよ、僕のアメリィ!」
「ありがとう、アルテュール! あなたが見守っていてくれたおかげよ!」
 アメリィは台状に隆起した地面を蹴って空中に身を躍らせ、勢いよく男子生徒の胸に飛
び込んだ。二人は抱き合ったままくるくると回り、止まったかと思うと何度も何度も音高
くキスを交し合う。人だかりの中から、無数の口笛と煽るような拍手が飛び出した。本当
にここは魔法学院の敷地内なのか、と疑ってしまうほどの馬鹿騒ぎだ。まるで場末の酒場
の中のようである。
 こうして、ケティには全くわけが分からないまま騒ぎは終わりを告げ、群衆の中でもみ
くちゃにされたミセス・シュヴルーズは、全治一週間の怪我を負った。

「……で、なんで反省文書かされてんの、あたしたち」
「そりゃ、悪いことしたわけですから」
 憮然とした表情で机に向かっているコゼットに、エリアが愉快そうに笑いながら答えを
返す。彼女の細い指先で、黒く長い髪が様々な形に束ねられては、また解かれていく。
「あの薬、効きすぎ」
 その髪の主、いつも以上に青白い顔で呟くアメリィもまた、部屋の中にあるテーブルに
向かって一生懸命反省文を書いているところだった。もちろん、夕方の騒ぎの後始末である。
 あれから、まださほど時間は経っていない。だが、騒ぎを起こした張本人であるアメ
リィはすぐに学院長室に連行されて事情を聞かれ、連鎖的にコゼットも呼び出されてこっ
てり絞られたらしい。結果的には反省文を書くだけで許されることになったので、まあ寛
大な処置と言えるだろう。
「学院長を説得するのなんて楽勝ですよー。ちょっとこう、胸元をはだけさせて片目を瞑
ればイチコロです」
 何故か同行したエリアは、そのときのことを実演しながら気楽に笑っていた。
 今、四人がいるのはコゼットの部屋だ。とても年頃の少女の居室とは思えないほどに散
らかっており、特に得体の知れない薬やら薬草の束やらがなんとも言えぬ不気味な雰囲気
を醸し出している。
「やっぱ、シュヴルーズのババアを怪我させたのがまずかったんだろうなー」
「そもそもあんな騒ぎを起こしたこと自体、よくないことでしょうに」
 悔しそうなコゼットのぼやきに、ケティは呆れて溜息をついた。
 アメリィがあんな風になってしまったのは、コゼットが作った薬を飲んだのが原因らし
い。二週間ほど前、コゼットが絶えず試験管の中で振り混ぜていた、あの薬である。
「いやー、栄養剤作ったつもりだったんだけど、体だけじゃなくて心の方にまで過剰に栄
養がいっちゃったみたいでさー。ほんと、やっちゃったぜって感じだよな!」
 コゼットはそんな風に笑って誤魔化そうとしたが、罰からは逃れられなかった。
 だが、彼女以上にケティを驚かせたのは、アメリィが薬を飲んだその理由であった。
「実は、ちょっと前に、アルテュールから求愛されていたの」
 学院長室から帰ってきて、薬の効果もようやく消えたアメリィは、いつもどおりのか細
い声で、恥ずかしそうに告白した。アルテュールというのは夕暮れの広場でアメリィと抱
き合っていたあの男子生徒である。彼の気さくな人柄は内気なアメリィの心を強く惹きつ
けたが、その求愛を受けるかどうかについては迷いがあったという。
「わたし、ブスだし暗いし、彼に何かしてあげられるとは思えなかったし」
「そんな風にいつも通りのネガティヴ思考を繰り広げてたアメりんに、コゼっちが例の薬
を一発盛ったわけですよ」
「で、身も心もスゲー元気になったアメリィは、見事アルテュールの告白を受けて、幸せ
一杯夢一杯でみんなに宝石をばらまきだしたってわけだな」
「あの薬、効きすぎ」
 アメリィは少し気持ち悪そうに口を押さえていたが、青白いその顔には嬉しそうな微笑
が浮かんでいた。
「でもありがとう、コゼット。あれがなかったら、きっとアルテュールの言葉に応えられ
なかったと思う」
「なに、いいってことさ。あたしの方も、自分の薬の程度がよく分かったしね」
 終わりの見えない反省文をだらだらと書き進めながら、それでもコゼットは上機嫌な様
子だった。
「自分があんだけいい薬作れるってわかったからさ。なんか、自信湧いてきたよ」
「コゼっちったら、あれをいい薬と言い張るのは乱暴すぎますよー」
「いや、いい薬だ! なにせアメリィを幸せにしたんだしな。これからも頑張って無茶な
薬を作るぞー、おー!」
 一人で勝手に盛り上がったあと、「……なんて、冗談は置いといて」と、コゼットは少
しだけ声を落とした。

759:Funny Bunny
08/03/09 23:14:15 Pi1RQtxy
「真面目な話、今回のことで本当に自信ついたんだよ、あたし。入学してから初めて作っ
た薬飲んでシュヴルーズのババアがぶっ倒れて以来、いまいち自分の才能に自信が持てな
かったんだけど」
「ああ、あれは大惨事でしたよね。ミセス・シュヴルーズ、泡吹いて白目剥いてましたもの」
「あの事件のせいで『劇薬』の二つ名がついた」
 しみじみと当時を振り返るエリアとアメリィの声に、「しかぁし!」というコゼットの
声が重なった。
「ついに、あたしはやり遂げたぞ! 挫折に次ぐ挫折の上にさらなる努力を重ね、ついに
夢の尻尾を捕まえたんだ! そこで、決心した!」
「何を?」
「学院を卒業したら、アカデミーとかには進まないで故郷に帰る!」
 コゼットが椅子に片足を乗せながら断言する。豪快な動作でスカート捲れ上がり、思い
切り下着が見えてしまっているが、お構いなしだ。ケティは驚いて問うた。
「どうしてそうなるんですの?」
「元々、母様の体を治すための薬を作るってのが目標だったからね。今回の栄養剤の成分
をちょいと調整すれば、きっとそういう薬ができるはずさ」
「でも、アカデミーに進んだほうがよりよい設備で研究が進められるのでは?」
「そうかもしれないけど、やっぱり母様のそばについててあげたいしね。できれば領地の
運営だってあたしが変わりたいぐらいだったし。今回のことでようやっと決心がついたよ。
アカデミーなんかに進まなくても、あたしは十分にやれるってさ」
 コゼットは歯を見せて力強く笑う。その笑顔が、なんだか妙に眩しい。
「わたしも」
 不意に、アメリィがいった。か細いが、芯の通った確かな声音だ。
「わたしも、今回のことで、少しだけ前を向けた気がする。こんな自分でも、あんな風に
明るく、楽しく振舞えるんだって」
「かなり痛々しかったですけど」
「それでもいいの」
 茶化すようなエリアの声に、アメリィは一生懸命な口調で答えた。
「頑張れば、きっと出来ることがあるって、分かったから。きっと、アルテュールをもっ
と喜ばせられる女になれるって、思えるようになったから。だから、いいの」
 アメリィの口許に微笑が浮かぶ。エリアがにっこり笑って、アメリィの前髪をかき分け
た。潤んだ黒い瞳が露わになり、嬉しそうに細められる。
「じゃあもっと綺麗になりませんとね、アメりんは。とりあえずこの前髪は素敵な形に
カットしちゃいましょう」
「エリア、お願いできる?」
「任せてください。アメりんの愛しいアルちゅーが欲情するぐらい、セクシーに仕上げて
みせますよー」
「アルちゅーってお前、そのあだ名はねーよ。酒飲みか」
 即座にコゼットの突っ込みが入り、三人が楽しげに笑い合う。その輪から一人外れて窓
際に佇み、ケティは顔を伏せた。友人たちが一歩ずつ前に進みつつあるのだから、喜ばし
いことのはずだ。喜ぶべきなのだ。そう思ってみても、胸の奥から湧き上がってくる孤独
感が、抑えようもないほどに膨れ上がっていく。
「ねえ、ケッちゃん」
 不意に、エリアが静かな声で呼びかけてきた。顔を上げると、穏やかに問いかけるよう
な瞳が、じっとこちらを見つめていた。
「わたしたちは、みんなこの先のことを決めましたよ」
 アメリィの髪を弄りながら、エリアが気遣うような柔らかい声で語りかける。
「ケッちゃんは、どうするんですか?」
 静かながらも鋭い問いかけに、ケティは答えられなかった。コゼットとアメリィも、反
省文の紙面に向かいながら、息を潜めてこちらの様子を窺っているようだ。耐え難い沈
黙に、ケティはついに顔を伏せる。近頃の楽しい生活の中で忘れかけていた惨めな感情が、
一息に噴出してくる。一枚の絵画のように美しい才人とルイズの姿が、強く脳裏に浮かび
あがる。
「分かりません。まだ」
 ようやく絞り出した声のあまりの情けなさに、ケティはそのまま消えてしまいたくなる。
 エリアは「そうですか」とだけ呟き、また無言でアメリィの髪を弄り出した。他の二人
も黙々と反省文を書き続け、四人が集まった部屋には、いつまでも不慣れな沈黙が垂れ込
めていた。

760:205
08/03/09 23:15:36 Pi1RQtxy
切りのいいところなんで、そろそろ次スレへ移りますね。

↓【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合29
スレリンク(eroparo板)

761:名無しさん@ピンキー
08/03/09 23:16:09 PgoCT0Q1
うーむ楽しい

762:名無しさん@ピンキー
08/03/09 23:52:15 wzvCs+HT
                                          ○________
                               なぎはらえー     |:|\\:::::||.:.||::::://|    /イ
                                              |:l\\\||.:.|l///|  .///
                         __ ィ   ,. -―- 、     |:|:二二二二二二二 !// /
                        /    ∟/          \.   |:l///||.:.|l\\\|/  /
                / ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./  / /   l l l lハ  |:|//:::::||.:.||:::::\\l    /
  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -―く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
.    \\_____ivvvvvvvv|   V.    (  (  /Tえハフ{  V   ‐一 '´ /     __. -―=-`      /  / l  l
       \!      |   / 入_.V/|      >-ヘ  \:::∨::∧  ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ /        /   / l.  l
 __  |\       l/V  _{_____/x|    (_|::::__ノ   }ィ介ーヘ  /  ,.-‐ ' ´           /       ____  ̄ ̄フ ∧  l
  )-ヘ j ̄} /|        /___/xx|       _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___           {     /      `<  /  \|
  {  V  /`7.         /___./xXハ    ( |:::::::::::::::::ハ   >' ____ 二二二二二二>   /   __    〈
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    |   ヽ        /____|ⅩⅩ∧  __|__L.∠ ム'  <`丶 、 `丶、       /       \_____/    /
    |     ',         {     |ⅩⅩⅩ>'  __      ∧ l\ \   丶、 ` 、   ∠ -―-  ..____ノ   /
   ノ     }       l ̄ ̄ ̄.|Ⅹ >' ,. '  ̄ / .// :/  V'  \ ヽ    `丶\/                 /
  / ∧   { \      |      .|>' /      // :/ :/ :   ', l   \ ヽ  ,.-―┬      \         /
 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
`ー′   \  `<  | {      /   | /〃   :|/  __V/ ̄| ̄ ̄{_     \_      ` <
        \  `' ┴ヘ     {    .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' |    /  ノ`y‐一'  >、_/   / ̄ 7丶、_   丶
         \    ヽ   /`ー「と_し^´ |  |    }  ム-‐'  /     /    \_/  /  /  ヘ    \
           ヽ   _>-ヶ--∧_}   ノ  j   /` 7 ̄ ̄ ̄{      (         ̄ ̄`ー‐^ーく_〉  .ト、_>
            ', /     人__/   .ィ  {__ノ`ー'    ヽ    人     \__              {  }  |
            V     人__/  / | /           ̄{ ̄  >‐ ァ-、    \             〉ー}  j
                {  / ./  ∨      __      ̄ ̄ >-</  / ̄ ̄         廴ノ  '
      <ヽ__      /し /        < )__ \   _r‐く___/  /    < ) \     {__ノ /
        Y__>一'    /         ___r―、_\ >'   `ー' ,.  ´       >.、 \__ノ    {
     ∠二)―、       `ー‐┐    ∠ ∠_r‐--―      <__       ∠ )__          \_
       ∠)__ノ ̄`‐⌒ヽ__|>      ∠)__r――-― ..__{>        ∠_廴,. ⌒ー'  ̄ \__{>

763:名無しさん@ピンキー
08/03/09 23:52:48 wzvCs+HT
                    |\ || /|
      __,-‐ァ, -‐- 、 l==|==!
r、__ , --イ-=- '</ 从l iハヽ、|/ || \|
\〈三三wwヽ / ゝ パヮ゚ノ|}// ̄ ̄
_ r、,、  |,、/Yソl  ゝ) )水Y /==
〈V〈ノ   /ミ!;;|  (ゝイノ、/ ニニ=
. }  )   !三|;;;;|/─''´、,、<`ヽ\
/ノ、〈ヽ {二,|/ ̄/Y/ || \>-‐'´
´  \`T  / ̄l´ /─'' ̄ヾ二

764:名無しさん@ピンキー
08/03/09 23:53:35 wzvCs+HT
    ______     __,.  ---- 、_
   弋:ー -- 、__:::::><____     ヽ、
    ヽ: : : : : :._\:::::::::::::::::::::::`ヽ、_    \
      \>'´   ̄`´ ̄ ̄ ¨ヽ:::::::::::-‐-、_\
.      /  /           \_:::::::::::::::ミ= 、
      f  /      !        \: ̄ ̄ ̄ ¨ヾ≧
      |  i  _」_/  i       ヽ  ヽ: :: : : : : : :/
.      ', !  !/\  V    !   !   |: : : : : ,.イ
       V  テX、!ヽ  ヽ斗 十ト、 !   |_,.イ  !
        \|  ト心.|  ハ レ' ∨ |`ト、  |   \ ヽ、
       /| リ 、ゝツ|/ 圷七卞く.|   !     \ \
       (  八 :::: ,    ヾこソ 个  ! \    ヽ \
       \ ! \  、__   `'::::  /  /   \    !  )
   __/ ̄`<!.___ \ヽ _}     ,/  ∧     \  ! /    にゃ~ん♪
   {:火     、 .}  `r--r::r‐_' /   ∧. \     \ (
   从::\ ヽ ヽ__}_/   ', }::::::::/   ムイ`ー―'⌒ヽ .! ヽ\
    从::::`┴f / |    ! `^フ    |-'       ∨  !  \    _
     |^^^^^| i |    |  /     |        !  /.   \/::_
     |   | |/    人r〈     \r::!      !  !    /:/
     |   ∨     /::::::::::\     ∨      |  ',  /::/ }
     i.    |    人:::::::::::::::ヽ     }     ∧  ∨::::/  /
.     ',.   |    | \:::__人_:\    |     /  \_」::_火个く__
      ',.   !    !  /\  ` ̄}   |    /        \::::::::火


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