08/02/16 21:28:52 18pCN0Si
(あ、そういえば)
アンリエッタはもじもじと両手の指先をからみあわせ、はにかみ気味にルイズを上目づかいで見た。
「あの……それならものは相談なのだけれど、今日明日サイト殿を借りる時間をもう少し延ばしてもらえないかしら?
お昼からのごたごたで、まだ街に入ってさえいなかったんですもの」
「いえ、それは当初の約束どおりの刻限までで……」
ルイズの態度は、一瞬にして氷河もかくやという冷然たるものに切り替わっている。
『そっちの話なら別』と主君ではなく、幼なじみ兼恋敵に対する目で語っていた。
ここからが肝要だわ、とアンリエッタは息をととのえる。
なにしろ自分は、新年すぐあちこちの行事にてんてこまいに飛びまわり、七日目にして旅先ながらようやく束の間の自由を手に入れたのである。
いつものように才人をルイズから借り、せっかく見慣れない土地に来たのだから二人で街見物でもしよう、と思ったらいきなり大きく時間がつぶされたのだった。
問題発生で失ったやすらぎの時間を、少しでも取りもどしたい。
「ルイズお願い、そこをちょっとだけ譲歩して?
あなたは今日までの降臨祭のあいだ、ずっとサイト殿の手をとっていられたじゃない。少しくらい」
「言っときますが、アレはわたしの使い魔です。基本わたしに属します。一緒にいるのが当然のイキモノです。
陛下におかれましては、臣の所有物に手をかける行為をつつしまれては如何と具申しますが……」
慇懃なイヤミを駆使することも覚えたルイズだった。
幼いころの二人ならこのあたりで喧嘩に発展しそうなところだが、アンリエッタも今となっては粘りづよく交渉することを覚えている。
まして才人の貸し借りに関する交渉はいつも難航するので、この程度は慣れっこになっているのだった。
女王と貴族の本日二回目の駆け引きは、これからが本番になりそうである。
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一方。
かなり弱まってきた風雪のなか路傍の石にこしかけ、少女たちの応酬を離れたところで聞きながら、才人はデルフリンガーを布で手入れしている。
そのしゃべる剣が揶揄するような笑い声をたてた。
『相棒、こんなときいつも俺の相手してくれるのはいいが、ひんぱんな現実逃避はよくないぜ』
「…………待つ以外、俺に他にどうしろって言うんだよ?」
彼は彼で、悩みが尽きないのだった。
マリコルヌならずとも、一般の目から見るとつい刺したくなるような悩みではあったが。