08/03/02 22:36:34 iV5TnGt+
そして現在。ルイズの部屋では。
どうしようもないほど気まずい空気が辺りに満ちていた。
…どないせえと。
と呆然と立ち尽くす才人と、
…なんで何もしないのよ。
と察しの悪い使い魔に苛立つルイズの思惑が見事に絡み合い、完全なる調和をもってきまずい空気を抽出していた。
こういう所だけは見事に気の合う二人であった。
そして、先に沈黙に耐えられなくなったのは、仕掛けを垂らした釣り人の方。
「…あのねえ」
何もしてこない才人に業を煮やし、ルイズは上半身だけを起き上がらせ、半眼で才人を睨む。
「あんたねえ!ご主人様の様子がおかしいのに、どうとも思わないわけ?」
…どこから突っ込んでいいのやら。
突っ込みどころ過積載なご主人様の言動に、才人は呆れたように応えた。
「…普段と変わらないように見えるけど」
ルイズは思わずはっとして、もう一度無表情のふりをする。
しかしそれはうまくいかず、顔のあちこちがへんに突っ張って、ぎこちない笑顔のように見えた。
そしてそのぎこちない顔のまま、ルイズは言う。
「だ、だってほら。今だって何も感じないもの。
サイトはおかしくなくても、私の中はおかしいのよ。わかる?」
そう言われてもよくわからない。
才人はとりあえず、ルイズが何をしているつもりなのか、考えてみる。
そしてすぐ思いつく。
ひょっとして。
ひょっとしてルイズは、どこからか『呪印』の情報を手に入れて、そして、取り憑かれたという大義名分でもって、自分に悪戯させようとしているのではないのだろうか。
恐ろしく正鵠を射た発想だったが、残念な事に今の才人は種切れである。
「…ごめん、ルイズ。今そういう気分じゃないんだ」
そう言って才人は背中を向け、部屋を出て行こうとする。
もちろん、ルイズのいない静かな所でひと寝入りするつもりだった。
そして、予想外の才人の反応に、ルイズの目が点になった。
もちろん、ルイズは食い下がる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
今度は、演技ではなく素の表情で、背後から才人に抱きついた。
その顔は、半分怒っているような、半分泣いているような、奇妙な表情だった。
当然、才人からはその表情は見えない。
ったくしょうがねえなあ、などと思いながら、どう言って退散しようか、などと考えている才人に、ルイズの先制攻撃が飛んできた。
「…私には、してくれないんだ」
「へ?」
「…他のコにはいろいろしたのに、私にはしてくれないんだ?」
「…あ、あのーう?」
この声が、少しでも悲哀の篭ったものだったなら、ちょっとは才人も振り向く気になっただろう