【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合28at EROPARO
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合28 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/02/16 21:25:20 d50o9Rsd
~シルフィードでも分かる保管庫更新講座~


○新規に保管する場合

 1.ゼロの保管庫を開く。

 2.上のメニューバーの『新規』をクリック。

 3.ページ新規作成メニューが出るので、欄の中にSSの通し番号を入力し、『編集』をクリック。
   (通し番号は、スレ番―レス番という形式。
   たとえば1スレ目の141番から投下されたSSの場合は1-141と入力すればよい)

 4.新規ページ編集画面が出るので、フォームに本スレからSSの本文をコピペする。

 5.コピペ後、フォーム下の『ページの更新』をクリック。
   ちゃんと出来ているか不安なら、まず『プレビュー』クリックし、実際にどのように表示されるか確認すること。

 6.対象SSの作者のページを開く。
   (たとえば261氏のSSを保管したい場合は261氏のページを開く)

 7.ページ上のメニューバーの『編集』をクリック。

 8.対象作者ページの編集フォームが開くので、SSのリストの中に、新規に追加するSSの通し番号とタイトルを入力。
   出来れば通し番号順に並べた方が見やすいと思われる。
   また、この際、通し番号を[[]]で囲むと、確実にリンクされるはず。
   (上の例で言えば、[[1-141]]ゼロの使い魔(タイトル) という風に入力する)

 9.入力後、フォーム下の『ページの更新』をクリック。

 10.更新終了。余裕があればキャラ別orジャンル別も同じように更新すべし。


○既出のSSの修正or続きを追加する場合

 1.ゼロの保管庫を開く。

 2.対象SSのページを開く。

 3.上のメニューバーの『編集』をクリック。

 4.編集フォームとその中に記入されたSSの本文が現れるので、必要な部分を追加or修正する。

 5.フォーム下の『ページの更新』をクリック。

 6.更新終了。


3:名無しさん@ピンキー
08/02/16 21:26:36 d50o9Rsd
大急ぎで勃てたぜ


4:ボルボX
08/02/16 21:28:12 18pCN0Si
>>1
向こうでも書きましたがありがとう、乙です。
続き投下。

5:降臨祭の第七日・昼(クリスマス特別編・シリアス)
08/02/16 21:28:52 18pCN0Si
(あ、そういえば)

 アンリエッタはもじもじと両手の指先をからみあわせ、はにかみ気味にルイズを上目づかいで見た。

「あの……それならものは相談なのだけれど、今日明日サイト殿を借りる時間をもう少し延ばしてもらえないかしら?
 お昼からのごたごたで、まだ街に入ってさえいなかったんですもの」

「いえ、それは当初の約束どおりの刻限までで……」

 ルイズの態度は、一瞬にして氷河もかくやという冷然たるものに切り替わっている。
 『そっちの話なら別』と主君ではなく、幼なじみ兼恋敵に対する目で語っていた。

 ここからが肝要だわ、とアンリエッタは息をととのえる。
 なにしろ自分は、新年すぐあちこちの行事にてんてこまいに飛びまわり、七日目にして旅先ながらようやく束の間の自由を手に入れたのである。
 いつものように才人をルイズから借り、せっかく見慣れない土地に来たのだから二人で街見物でもしよう、と思ったらいきなり大きく時間がつぶされたのだった。

 問題発生で失ったやすらぎの時間を、少しでも取りもどしたい。

「ルイズお願い、そこをちょっとだけ譲歩して?
 あなたは今日までの降臨祭のあいだ、ずっとサイト殿の手をとっていられたじゃない。少しくらい」

「言っときますが、アレはわたしの使い魔です。基本わたしに属します。一緒にいるのが当然のイキモノです。
 陛下におかれましては、臣の所有物に手をかける行為をつつしまれては如何と具申しますが……」

 慇懃なイヤミを駆使することも覚えたルイズだった。
 幼いころの二人ならこのあたりで喧嘩に発展しそうなところだが、アンリエッタも今となっては粘りづよく交渉することを覚えている。
 まして才人の貸し借りに関する交渉はいつも難航するので、この程度は慣れっこになっているのだった。

 女王と貴族の本日二回目の駆け引きは、これからが本番になりそうである。

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 一方。
 かなり弱まってきた風雪のなか路傍の石にこしかけ、少女たちの応酬を離れたところで聞きながら、才人はデルフリンガーを布で手入れしている。
 そのしゃべる剣が揶揄するような笑い声をたてた。

『相棒、こんなときいつも俺の相手してくれるのはいいが、ひんぱんな現実逃避はよくないぜ』

「…………待つ以外、俺に他にどうしろって言うんだよ?」

 彼は彼で、悩みが尽きないのだった。
 マリコルヌならずとも、一般の目から見るとつい刺したくなるような悩みではあったが。


6:名無しさん@ピンキー
08/02/16 21:29:57 EfMITjrU
支援

7:ボルボX
08/02/16 21:31:19 18pCN0Si
ほんとにラスト一レスだった……
すみません、冬が終わる前にクリスマス編うpしようと、エロほっぽってシリアス書いてました。
時間かかったし、変遷したあげくクリスマスのクの字も出てこないものになったけど……
前回のエロの続きはなるべく早いうちにお届けします。

蛇足ながら目の見えない人を集め、殴りあわせて面白がっていた中世の貴族とかは実際にいたそうです。お金払ってたかは知らないけれど。

8:名無しさん@ピンキー
08/02/16 21:36:21 g7/Uq+9N
乙でございます

9:また挿してみた。
08/02/16 21:42:55 RbnaQZft
ボルボX氏。超疲れさんでした。続編死ぬほどお待ちしてます。
既に見てらっしゃるかと思いますが、勝手にそちらの黄金溶液をネタに
挿絵描かせてもらいました。そちらの描く話はものすんごくエロくて
最高に好きです。これからもがんばってください。


っと、スレ閲覧の諸氏。如何お過ごし也や?
アレからまた一杯茶を入れてみたんで飲んでくれると嬉しい。

URLリンク(upload.fam.cx)


今回の茶葉は、URLリンク(wikiwiki.jp)が産地だ。
おいしく入ってると嬉しい。また適当に旨そうな茶葉を見つけたら
入れに来るから。次回予定はタバサあたりを・・・

10:また挿してみた。
08/02/16 21:43:23 RbnaQZft
あ、イカンh抜き忘れた(汗

11:また挿してみた。
08/02/16 21:51:40 RbnaQZft
もう一丁忘れてた(汗汗
需要あるか知らんが、台詞・効果音のないverも
微妙に見えない箇所あるんで。

URLリンク(upload.fam.cx)

12:名無しさん@ピンキー
08/02/16 21:54:02 18pCN0Si
>>11
絵うまいですね。・・・実はこの一週間、外泊とかSS追い込みとかでろくすっぽスレ見に来れてなかったんです。
今日まとめてじっくり前スレ読んだとき、>>593を見つけ、すでに見られなくなってることに歯噛みしてます。
無念すぎるううう・・・とにかく挿絵つけていただいたようで、ありがとうございます。

13:また挿してみた。
08/02/16 21:58:20 RbnaQZft
>>12 ボルボXサン
消えてました??ほなもう一回再UPしときますー
URLリンク(upload.fam.cx)

14:名無しさん@ピンキー
08/02/16 22:00:40 18pCN0Si
>>13
即座に保存させていただきましたwwありがとうです。

15:名無しさん@ピンキー
08/02/16 22:10:33 QFvMbYJI
>>ボルボX氏
GJ!
アニエスってかっこいいよなぁと再認識した。
最近任務でかわいい服着たりしてたから微妙に忘れてたけど。

>>9
エr……旨いお茶ごちそうさん!
次も楽しみにしている。

16:名無しさん@ピンキー
08/02/16 22:12:47 gO9n/mEx
>>9
GJ。だがあえて言おう。
胸 が 大 き す ぎ る と !

17:名無しさん@ピンキー
08/02/16 22:13:36 PBrf7003
うわはぁい
相変わらず魅せますなぁ。

ボルボ大兄&>1&>11GJです

18:名無しさん@ピンキー
08/02/16 23:06:24 FoubLOU7
>>11
なんだ、このいやら…けしからん茶は!

19:名無しさん@ピンキー
08/02/16 23:21:56 8JEKBpkn
ボルボ氏 GJ!
あなたが投稿してくれる限りこのスレは不滅だ!
次も心待ちしてます。

自HPはお持ちですか?
どこか他スレに投稿してますか?
あるのならば飛んで行きますww

20:名無しさん@ピンキー
08/02/17 00:28:49 m5fX2nDl
一心不乱に読みふけってしまった・・・。クオリティ高須クリニック
ボルボ氏、素晴らしいです。ありがとう

ゼロ魔のアナザーストーリーとして売られていてもおかしくないね。てか買う。

21:名無しさん@ピンキー
08/02/17 00:39:25 OLywp99q
ボルボ氏 GJ!
相変わらず凄い文量ですね
そしてクオリティが高い
これからも頑張ってください

22:ボルボX
08/02/17 01:25:29 tBYxTvE6
GYA! 見直したら一レス分抜けていた! 何やってんだ俺・・・
>>5の前に付け加えるはずのやつは↓に。

>>19
ありがとう、でもこのスレ以外の投稿はしたことがありません。HPもないです。

23:欠落補足・>>5の文の直前
08/02/17 01:26:37 tBYxTvE6
「姫さま、ハトの知らせにすぐ応えてくださって、ありがとうございます。
 あの鳥があんなに便利とは思いもしませんでしたわ。あんなに早く姫さまたちに届くなんて」

 ルイズが言っている「知らせ」というのは、アニエスが武芸試合で戦う合間にルイズが飛ばした一羽のハトである。
 銃士隊が使用する連絡用のハトだった。使い魔である鳥ほど賢くはないが、訓練によって手紙をはこぶことができる。
 が、アンリエッタは首をふった。

「ハトの知らせは、この近くにある銃士隊の詰所に届くのよ。今さっきその報告が来ました。
 もちろんアニエスやあなたの判断は取りうるかぎり最良のものでしたが、それでも本来ならば増援はやや遅きに失したでしょう。
 わたくしとサイト殿がここに来たのは、〈黒騎士〉の一団に襲われていた行商人の馬車を、サイト殿が助けて事情を聞いていたからなの。
 あなたたちがここにいるとは思いもしなかった。本当にたまたま、同じ出来事の一端に関わっていたことになるわ」

「……やはりメイジの使い魔の鳥と一緒にしては駄目、ってことですね……でも、平民たちは苦労してこんな連絡方法を編み出したんですね。
 飛べる使い魔を自分が持っていなければ、メイジだってやはり他人に頼るしかない。誰でも使える通信技術というのは案外大きいかもしれません」

 そうね、とアンリエッタはうなずいた。
 平民は弱い。メイジのような力がなく、社会においても立場がせまく、それゆえ一部の貴族の横暴にはひたすら耐え忍ぶしかない。
 それでも彼らは存外にしぶとく、したたかなのだった。

 ……とはいえ旧態依然としたこの国では、隣国ゲルマニアほど平民に力はついていない。
 だからこそ今しばらくは、貴族の長にして唯一の天敵でもある王権が、目を光らせておく必要があるのだろうが……
 ふと自嘲がもれた。

「ねえルイズ、平民は貴族を恐怖し、貴族は王権を警戒する……そして王は、おそらく何もかもを怖れなければならないのでしょうね」

 民の意識を、貴族の力を。外敵と内からの裏切りを。
 みずからの手にした権力を。頂点に立っていることそのものを。
 怖れすぎて弱くなることを、驕ってなにも怖れなくなることを。

 「難しいわ」とぽつりとつぶやき、それきり口をつぐんで雪を見つめているアンリエッタに、ルイズが真摯な顔で胸をはった。

「姫さま、わたしまで怖れる必要はありません。及ばずながら微力をつくします。
 かならず御心にそえるとは限りませんが、なんでも言ってください」 

 アンリエッタは微笑んでうなずいた。
 ルイズの言葉は形としてはありきたりだが、そこにこもった真情は輝くような本物である。暗かった胸中が、徐々に晴れていくようだった。

 このルイズさえ信用できないとしたら、彼女の信用に値する生粋の貴族など残らなくなる。
 アニエスや才人はまた別だが、彼らはみずから抜擢した平民出身の者なのである。
 思考が才人におよんだとき、まったく違うことを思い出した。


24:名無しさん@ピンキー
08/02/17 01:29:58 tBYxTvE6
文章欠落とか重なる顔出しとか色々失礼しました。おやすみなさい。ノシ

25:名無しさん@ピンキー
08/02/17 01:36:32 Qb0snNni
あー、ハトはどうしたのかなって思ってたんだ。

とにかく乙でした。

26:名無しさん@ピンキー
08/02/17 01:48:56 XDlNJFh/
一レス飛んでる気はしていたんだ
これで内容がつながった

相変わらず素晴らしいクオリティと分量でした
次回も楽しみに待ってる
GJ

27:また挿してみた。
08/02/17 02:02:03 VNbTU2cz
>>ボルボXサン
お疲れさんでした。なんか一箇所欠損してる様に感じてたんですが
入れ損じでしたか(笑 まぁそういうことはよくありますよw

>>16
>>17
>>18
感想thx。確かにちとルイズの胸デカくみえるね(汗 気をつけます。

>>ALL
次回はタバサをネタに一枚描くつもりだけど、
「ココの茶葉で入れろ!」ってのがもしあるなら是非言ってくれると嬉しいかも。

28:名無しさん@ピンキー
08/02/17 02:38:58 BE64BrWE
GJすぎる

聖女の日の、泣いてるタバサはどうでつか?

麻雀ネタでSS考えてるんだけど、もういらないですよね?

29:名無しさん@ピンキー
08/02/17 02:54:50 f4nU2fJB
>>28
いらないわけないだろ。
早くワープロの前に戻ってタイピングする作業に戻るんだ!!

30:名無しさん@ピンキー
08/02/17 03:32:12 BE64BrWE
>>29
了解w頑張ってみるw

31:名無しさん@ピンキー
08/02/17 09:27:47 6z4Ax8/d
ボルボXさんGJです毎度すばらしいSSありがとうございます

また挿してみた。さんの絵も最高にエロくてハァハァ
そこで思ったんですけど先に書き手の方々の了承をとってみては?
後から変なのが沸いてゴチャゴチャといわれるのはあれだと思うので

32:名無しさん@ピンキー
08/02/17 10:10:57 nRD9fIp1
うん。「またに挿入してみた」さんの活躍を期待している!!

33:名無しさん@ピンキー
08/02/17 10:38:11 OLywp99q
>>27
乙! SS職人だけでなくあなたのような絵師が増えれば
このスレの活性化に繋がると思う

34:林檎 ◆xkeoH47fcA
08/02/17 14:00:20 GjBHauZf
バレンタインでエロ無しだったのを私が納得できなかったので
短いですが番外編を投下させて頂きます

35:彼女の計画、番外編 ◆xkeoH47fcA
08/02/17 14:01:26 GjBHauZf
 彼と泉の所で愛し合ってどれぐらいの時間が経ったのだろうか?
 太陽は泉の上を通り過ぎ、また樹の陰へと入りそうなぐらい傾いている。
 私はジャムと彼の精液、自分の汗、愛液、濡れていない所を探すのが難しいぐらいに色々な物でどろどろになっていた。
 彼はというと、私の身体を散々攻め抜いた疲れからか、横でスヤスヤと眠っている。
「ん…、少し身体を洗わなきゃ…」
 誰に言うでもなく私は呟き、草の上から身体を起こした。
 すえた臭いが広がるが、延々イカされ続けた私の頭はそれすらも更なる性欲を刺激する匂いに感じさせる。
 改めて自分の身体を見ると、その有様に溜息しか出なかった。
 よろよろと起き上がり、泉の方へと歩いていく。
 歩いた拍子に、ごぽっと音がして、アソコとお尻から彼の精液とジャムの混じった物が溢れ出てきた。
「どろどろ…」
 まだ上手く足に力が入らないけど何とか泉まで辿り着き、そのまま泉の中に入っていく。
「っつ…、少し冷たい…」
 でも、火照った身体を鎮めてくれそうで心地よかった。
 思い切って私は飛び込むように全身を水の中へ放り込む。
「…ぷぁっ!」
 少し深いところまで泳ぎ、空を眺めながらゆらゆらと水面に浮かんでいると、身体がそのまま溶けていくような感じがして気持ちがいい。
 ずっと空を眺めながら居ると、先ほどまでの激しい情事の事を思い出してくる。
 渡した後、彼はすぐさま私の全身にジャムを塗りたくり、色々な所を攻めてきた。
 私は胸が弱いのを知っているくせに、執拗に弄ってきたり、私の愛液とジャムを混ぜて私に舐めさせたり。
 彼のペニスにジャムを塗り、私が味わったりもしたけれど…、大半は私が攻められていたような気がする。
 彼に開発されたからか、私の身体は私が思っている以上に敏感になってきている。
 最近では胸だけでイカされたり、最初は少し抵抗があったお尻でもイケるようになってしまった…。
 アソコに入れられてる時とはまた違った快感が得られるので、私も少し病み付きになってきているのかもしれない。
 それに、お尻に入れられた時の圧迫感とか、擦られた時の気持ち良さはアソコ以上だし…。
「って!何考えてるの…!」
 私は煩悩を追い出すために頭を振りながら起き上がり、身体を洗い始めた。
 至る所にキスマークの付いた身体。胸にも沢山のキスマークが付いている。
(俺はシャルロットの胸、好きだよ?)
 そんな彼の甘い言葉が思い出される。
 こんなに小さくても彼は満足しているのだろうか?やはり大きい方がいいのではないか?
「んふあっ!」
 さっきまでの情事の熱がまだ残っているのだろうか?洗おうと胸に触れると痺れるぐらいの快感が私の中を駆け巡り、私はあられもない声を上げてしまった。
「乳首…、硬くなってる…」
 一度認識すると、身体の奥底から性欲が湧き出すように溢れてくる。
 なんだか凄く、したい…かも…。でも、彼を起こしてまでなんて…。
「でも、我慢できないよぉ…」
 私は無意識のうちにアソコを擦り始めた。


36:彼女の計画、番外編 ◆xkeoH47fcA
08/02/17 14:01:51 GjBHauZf
「―っ!んんっ、あっ、っく、はぁん!あっ、あっ、ひ、はぁっ!」
 水面がぱしゃぱしゃと波立ち、私の肢体を隠す。
 左手で乳首を摘むと、そこは既に痛いぐらいに硬くなっていた。そのままこねる様に刺激する。
 同時にアソコも擦り上げていくと、快感で腰がビクビクと震えてくる。
「あぁっ、あんっ、ここ、擦ると、気持ち、いいよぉっ!ふあっ、ひぁっ、んっく、あんっ!」
 でも、まだ物足りない。強い刺激が欲しいけれど、そんなにあっさりと終わらせてしまうには惜しい気がした。
 そう、こんな時彼だったら…。
(シャルロット、そんなに腰を浮かせて、気持ちいいの?)
 そう、こんな風に言って、私をじらしてくるに違いない。
「ひああっ、やぁっ、はっ…、あんっ!だ、だってぇ!あぁっ、あんっ!じらすの、やぁっ!」
 頭の中で彼が私をじらしてくる。
 私の身体はそれに従うのが自然だと思うように動く。
 一番気持ちいい所には触れずに、ギリギリのところで私をどんどんと昂ぶらせていく。
(ほら、どうして欲しいのか言ってみて?)
「あっ、んふぅっ!いれ、てぇっ!いれるのぉ!あぁっ、んっ、はぁんっ!」
(何をどこに入れて欲しいのか、言ってくれないと分からないなぁ…)
 じらされている私は段々と理性が溶けていき、卑猥な言葉を口にし始める。
「サ、イトの、ペニス、ふあっ、わたしの、あぁっ!アソコに、いれてぇ!」
 彼のペニスが入ってくるのを想像しながら、私は自分の指を2本アソコに挿入していく。 ぶちゅっと愛液のはじける音がして、アソコは私の指を簡単に飲み込んでいく。
「ひああぁっ!はい、ってくるよぉっ!なか、こすれてっ!はぁ、はぁ、んふぅっ!」
 私の膣内は待ち焦がれた感触に喜ぶようにひくつきながら指に絡みつき、愛液を溢れさせる。
 胸を少し強めに揉みながら入れた指を動かし始めた。
 グチュリグチュリと粘液質の音が耳に響き、その音が聞こえるたびに私の快感も押し上げられていくように感じる。
「や、ああっ!あっ、ふあっ、うちがわ…、こ、こすれて…っ、あんっ、はぁ、はぁ、あっ、んくっ!」
 快感を貪るように挿入している指の動きをどんどんと激しくさせていく。
 指が膣内を、掌が私のクリトリスを擦り上げていき、私の喘ぎ声も大きくなる。
「あはぁっ、んんーっ、あっ、あはっ!も、もっと、うごいて…っ、あんっ、や、んっ!」
 襞が私の指をきゅっと締めてくる。全身がビクンビクンと細かく痙攣し、何時も彼としている時の絶頂を迎える直前のような感じがした。
 私はラストスパートと言わんばかりに胸と膣内を弄っていく。
「ひっ!あぁぁっ、やっ、はっ、あっ!くるっ、きもちいいの、くるぅっ!いっく!あっ、ひあっ、あんっ!」
 全身が総毛立つようにゾクゾクとする。ぶるっと身体が震え、私は一気に絶頂へと駆け上る。
「なか、締まってっ!きもちいいのでっ、あぁっ、いっぱいになっちゃあっ!ふああっ、っくあっ!」 最後のとどめとばかりに、私は指を膣奥へと突き入れた。
 ぶしゅっと愛液の弾ける音がして、私の理性のタガが外れる。
「いっく!ひあああっ!あ!!ああああっ!」
 声があたりに響くのもお構いなしに、私は嬌声を上げながらイった。
「っ!!ふああああああああああっ!あっはああっぁぁぁぁぁ!」
 全身の筋肉が弛緩し、私は水面に身体を預けるようにして、くたっと倒れた。
「ひ…はぁ…、あっ、ん、はぁ…はぁ…」
 気持ち、良かった…。



37:彼女の計画、番外編 ◆xkeoH47fcA
08/02/17 14:02:30 GjBHauZf
「…相変わらずイクの早いなぁ、シャルロット」
「っ!?なっ!!サイトっ!?」
 私は突然の声に驚き、水から飛び上がるように身体を起こした。
「そりゃ、あんな大きな声で喘いでたら嫌でも目が覚めるって」
「―っ!!」
 顔から火が出るんじゃないかというぐらい真っ赤になっていくのを感じ、私は逃げるように水の中に潜ろうとした。
 だけど、紙一重の差で彼が飛び込んできて私を抱きとめる。
「して欲しいなら言えばいいのに。何遠慮してるんだか」
「ちょっ!待っ―、んん…、ちゅっ、ぷあっ、サ、イト、まっ、ちゅ、んふっ」
 言い訳をしようとした私の唇を、彼は強引に塞いでくる。
 激しいディープキスに、イったばかりで余韻の残っている私の身体はまた熱くなり始めた。
「もお…、しょうがないなぁ…」
 私はさらにキスをしようとしてくる彼の頭に両手を回して、私からキスを仕返した。


38:林檎 ◆xkeoH47fcA
08/02/17 14:06:58 GjBHauZf
かなり短いですが以上です
シャルロット弄りすぎのような気もする

関係ないけど、改行ミスを投稿した後に見つけると凹む_| ̄|○|||

39:名無しさん@ピンキー
08/02/17 14:09:40 m5fX2nDl
>>38
今すぐ出かけなきゃならんのに・・・おっきしてしまった。
ジーパンに履き替えだ。どうしてくれる

GJ

40:名無しさん@ピンキー
08/02/17 14:29:26 BE64BrWE
学校で補講中なのにおっきしちゃったじゃないかwww
GJです

ミョズニルニトンが戦闘中にサイトに恋をして、愛するサイトのとこに行くために、邪魔なジョゼフを倒して愛するサイトのとこに行くっていう
ヤンデレなミョズニルニトンを毎晩妄想してる俺は異端ですか?w

41:名無しさん@ピンキー
08/02/17 15:26:39 JQqFuXgz
GJ! エロカワイイよシャエロット

>40
異端ではないが間違いなく変態だな
おめでとう!我々は新たなる変態の誕生を祝福しよう
あとはその妄想を文章にすれば、君も立派な変態紳士だ

42:205
08/02/17 16:35:23 fIg3HJdo
「不幸せな友人たち」の続きを投下します。
サブタイトルは「アニエス」で。

43:不幸せな友人たち
08/02/17 16:35:50 fIg3HJdo
 ギーシュ・ド・グラモンらが処刑されてからほとんど間を置かずに、トリステインの王政は幕を閉じた。
 それは同時に、貴族という特権階級の消滅をも意味していた。今回ばかりはデルフリンガー男爵領
にも大きな影響が出るかと危惧したティファニアだったが、問題はほとんど起こらなかった。
 現在領主として領地の運営に当たっている貴族は、各地区で選出された代表者の政治的な補佐役と
して、以後もその地位に留まってもよい。
 アンリエッタ女王が、新たに誕生した国民議会に政権を譲渡する際、そういった取り決めが交わさ
れたからである。
 これには「それは旧領地の領民の過半数から支持を得られた場合に限られる」という但し書きがつ
いていた。ルイズは十数年間の稀に見る善政により、デルフリンガー男爵領に飛躍的な発展をもたら
したので、領民は当然、これ以降もこの地に留まってくれるよう懇願し、彼女もこれを受け入れた。
「サイトも手紙でそうしてくれって書いてたし、あの人がちゃんと腰を落ち着けてくれるまで、この
土地を守っていかなくちゃ」
 ルイズはそんな風に笑っていたそうだ。
 アンリエッタに反抗的だったり、地位を利用して私腹を肥やしていた貴族はほぼ全員粛清されてい
たため、他の領地でも事情は大体同じだったらしい。元女王の計画は完璧であり、国内で大きな問題
は起こらなかった。必然的に、デルフリンガー男爵領に外界からのトラブルが持ち込まれることもな
く、時はまた穏やかにゆき過ぎる。
 手紙の中の才人は平和な世の中を飛び回り、各地で困っている人たちを助けて回っている。命の関
わるほど危険な冒険には、もう挑んでいない。ルイズは彼からもたらされる穏やかな報告を楽しみに
しながら、平穏な日々を過ごしているそうだ。
 タバサとの約束は、未だに果たせていない。
 何度か決意して城に接近したことはあるのだが、彼女の目の前に歩み出るための最後の一歩が、ど
うしても踏み出せない。
 何をするのが正しいのかは、分かっているつもりだ。それでも、実際にルイズに会おうと思うと、
どうしても心が揺らいでしまうのだ。
 そうして何も出来ぬまま、世の中が大きく変わってからニ十五年の時代が経った。
 もはや男爵ではなくなったルイズだったが、領民は未だに彼女のことを「男爵様」と呼ぶ。彼女が
住まう居城は、かつてそこに翻っていた紋章から、「剣の城」と名を変えた。
 才人はアルビオンにおり、未だ戦争の傷が癒えぬ地域で、復興事業に従事していることになっている。
 ティファニアが彼女の小屋に予期せぬ来客を迎えたのは、そんな頃のことである。

(愛しいルイズ。俺は今、アルビオンの片隅にある寂れた小都市に滞在している。ここは前の戦争で
壊滅して以来、未だにほとんど手付かずのまま復興が遅れていた町で……)
 ティファニアがテーブルに向かって偽物の手紙を書き進めていたとき、不意に小屋の外から小さな
話し声が聞こえてきた。
「……ではアン様、歓談の準備が整い次第、お迎えに上がりますので」
「ええ。遅れないようにね、アニエス」
 ゆっくりとした足音が近づいてくる。ティファニアは慌てて立ち上がり、手紙を小屋の隅の長櫃に隠した。
(誰だろう? この小屋に用事……よね、きっと。他には何もない場所だし)
 だが、先程の話し声は明らかに聞き覚えがない。いや、先に話していた方には記憶にかすかなひっ
かかりを覚えた気がしたが、答えていた方は本当に聞いたことがない声だった。
(どうしよう。誰が何の目的で来たのか分からないし、留守の振りをした方がいいのかしら)
 ティファニアがそんなことまで考えたとき、予想通りドアがノックされる。音は控え目だし乱暴で
はなかったが、不思議と無遠慮に感じられる叩き方だ。
 ある程度予想できたのはここまでである。
「入りますよ」
 返事を待つどころか、そもそも了解を得るつもりすらない言葉だ。まるでそれが当然とでも言わん
ばかりに、ドアが押し開かれる。驚くティファニアの前に姿を見せたのは、見覚えのない老女だった。
 場違いに豪華なドレスを身に纏っている。肩の辺りで切り揃えられた髪は総じて真っ白だ。眉間に
深く刻まれた縦皺と、この世の全てを疑っているような冷たく油断のない瞳が特に印象的だった。

44:不幸せな友人たち
08/02/17 16:36:15 fIg3HJdo
(誰だろう)
 困惑するティファニアの前で、その老女は無遠慮に小屋の中を眺め回すと、鼻を鳴らした。「貧相
なところね、豚小屋かと思ったわ」とでも言いたげな、不遜な仕草だった。
 胸にもやもやとした感じを覚えながら、ティファニアは目の前の老女に声をかける。
「あの、どちら様でしょうか」
「あら、ごめんなさいね」
 全く謝意の感じられない声音だ。
「私、アンリエッタ・ド・トリステインと申します」
 そう名乗ったあと、白い手袋をつけた手で口元を覆い隠して、わざとらしく笑う。
「ああごめんなさい、こんな奥深いところに住んでいるんですもの、名前を言っても分かりませんわよねえ」
 胸の中のもやもやが、完全な不快感に転じた。
「いえ、知っていますよ。トリステイン王国の女王、アンリエッタ様ですよね?」
 苛立ちを声音に出したつもりはなかったが、目の前の老女の顔は不快そうに歪んだ。彼女は大きく
咳払いすると、目を鋭くしてティファニアを見た。
「残念ですが、私はもう女王ではありません。今ではアルビオンに住む一市民に過ぎませんわ。私の
ことは……アン、と呼んでくださいな」
「それでは……」
 アンさんでいいのだろうか、と一度考えたが、さすがに元女王と認識している人間相手と考えると、
違和感が拭えなかった。
「アン様、でよろしいですか?」
「ええ、それで結構です」
 アンリエッタは満足げに頷き、何かを待つように悠然と腕を組んだ。
「とりあえずこちらに掛けて下さい」
 テーブルの前に置いてある椅子を手で示したが、アンリエッタは動く気配がない。視線にわずかな
非難を込めてこちらを見つめている。そこでようやく、目の前の老女が元女王だった、ということを
思い出した。
 黙って椅子を引くと、アンリエッタは無言で椅子に座る。白手袋を脱ぎながらこちらを見る目は、
「鈍い人ね」とでも言わんばかりの目つきだった。頬が引きつりそうになるのを我慢しながら、ティ
ファニアもテーブルを挟んで向かい側の椅子に腰掛ける。
「ええと、それで」
 話を切り出そうとすると、「その前に」とアンリエッタは眉をひそめた。
「町からここまで歩き通しで、喉が渇いたのですけれど。それとも、ハーフエルフには客人にお茶を
出す習慣がありませんの?」
「すみません、そういったものは置いていなくて……水でよろしければ、ありますけど」
 アンリエッタは信じられないことを聞いたとでも言うように、ため息をつきながら大袈裟に首を振った。
「いりません。水など飲むぐらいなら我慢した方が……」
 言いかけて、何かに気付いたように視線を止める。じろじろと無遠慮にティファニアの格好を眺め
たアンリエッタは、また口元を手で隠して笑った。
「ごめんなさい、あなた、大層貧しい生活を送ってらっしゃるのね。そんな方にお茶を所望するだな
んて、気遣いが足りませんでした。どうか、許してくださいましね」
 侮蔑と嘲弄の意図が滲み出ている口調だった。ティファニアは数年前よりも継ぎはぎが増えた自分
の服が急に恥ずかしく思えてくるのと同時に、目の前の老女に対する嫌悪感がこれ以上ないぐらいに
膨れ上がるのを感じた。
(なんて嫌な人なんだろう)
 なんの躊躇もなくそう思う。基本的に臆病で、心の中ですら他人のことを悪く言ったりできない
ティファニアにとっては、ほとんど初めての体験だった。
「それで、アン様は、どういったご用件でこちらに?」
 早く帰ってくれないだろうか、と思いながらも、表面には出さないよう努力しながら問う。アンリ
エッタは皺だらけの手でドレスをいじりながら、興味なさげに答えた。
「別に、この小さな小屋に用があったわけではありませんよ。私はね、大事な大事な親友に会いに来
たのです」
 アンリエッタの乾いた唇が、大きくつり上がる。ティファニアは身を固くした。

45:不幸せな友人たち
08/02/17 16:36:39 fIg3HJdo
「大事な親友、ですか」
「ええ。あなたもよくご存知でしょう? とうに死んでしまった愛しい人が、まだ生きていると思い
込んで、稚拙な嘘を少しも疑わずに幸せに生きている、世界で一番馬鹿な女……」
 一語一語に強い力を込めながら、アンリエッタは言う。
「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールのことですよ」
 ティファニアの背筋が震えた。目の前の老女への嫌悪感が、一息で恐怖に変わる。
 アンリエッタは馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「でも、あの子ったらちょうど体調を崩しているとかで、お付きのメイドが歓談の申し出を断りまし
たの。私の従者が交渉に行っているから、もう間もなく応じるとは思いますけどね。全く、せっかく
私がアルビオンからやってきたというのに、体調を崩しているなんて……相変わらず空気の読めない
女だわ」
 憎憎しげに言ったあと、愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
「まあでも、仕方ないかもしれませんね。こんな辺鄙な山の中で、老婆が暮らしているのですもの。
体を悪くするのも当然の」
 突然、アンリエッタは目を見開いた。椅子の上で体をくの字に折り、激しく咳き込み始める。驚い
たティファニアが立ち上がりかけると、鋭く叫んだ。
「来ないで!」
「でも」
「大丈夫、わたしは、大丈夫です」
 苦しげに喘ぎながら、アンリエッタが言う。皺と染みが目立つ頬を、汗が一筋垂れ落ちた。目が
爛々とした不気味な光を放っている。
「そうよ、わたしは人の助けなんかいらない。そんなに弱ってなどいないもの。あの子を笑ってやる
までは……あの子よりも先に、死ぬものですか。あの子なんかよりも先に……!」
 怨嗟のこもった呟きは、途中で聞き取れなくなった。
 アンリエッタはしばらくしてようやく顔を上げると、取り出したハンカチで顔の汗を拭う。
「ごめんなさい、お見苦しいところをお見せしましたわね」
「いえ。あの、どこかお体をお悪く」
「そんなことはありませんよ。気遣いは無用です」
 ぴしゃりと断定しながらも、アンリエッタの息は荒い。よく見ると、顔色もかなり悪いようだった。
濃い化粧で巧妙に隠されているため、今の今まで気付かなかったが。
(それにしても)
 息を整えているアンリエッタを見ながら、ティファニアは思う。
(この人は、本当にアンリエッタ女王陛下なんだろうか)
 直接見るのはこれが初めてだったが、彼女もまたルイズを取り巻く嘘を形作るのに協力した人間な
ので、シエスタからいろいろと話を聞いてはいた。
 その記憶を頼りに考えれば、彼女と自分はさほど年が離れていないはずである。だが、目の前の老
女を見ていると、どうもそれが疑わしく思えてくる。
(もしかして、ここに来てから四十年だと思っていたのはわたしだけで、本当はもう六十年ぐらいの
年月が流れていたんだろうか)
 ティファニアがそう疑ってしまうぐらい、目の前の女性は実際の年齢以上に年老いていた。
 かつては白百合と讃えられたというその美貌は、艶を失った肌に深く刻まれた皺と浮き出た染みの
中に埋もれてしまっている。髪はほとんど真っ白で、瞳は暗く濁っている。背筋はまだ伸びているが、
そこから感じられるものは凛々しさではなく、自分より低いものは出来る限見下してやろうという浅
ましい高慢さに過ぎない。着ているドレスは元女王らしくきらびやかだったが、年老いた老婆にしか
思えない彼女が身につけていると、何かとても醜悪なものを見ているような、非常に嫌な気分にさせられる。
 視線に気付いたのか、アンリエッタがこちらを見て不愉快そうに眉根を寄せた。
「なんですか、人の顔をじろじろと」
「いえ……ごめんなさい、なんでもありません」
「失礼な……全く」
 アンリエッタはぶつぶつと何やら低い声で文句を言っていたが、やがてふと、何かに気付いたよう
に立ち上がった。

46:不幸せな友人たち
08/02/17 16:37:02 fIg3HJdo
「あら、これはなんですか?」
 アンリエッタは、部屋の隅に置いてあった長櫃の中から、手紙を一枚取り出した。封筒から便箋を
取り出し、声に出して冒頭を読む。
「『愛しいあなたへ』……ああ、ルイズからのお手紙ね」
 皺だらけの顔に皮肉げな冷笑が浮かんだ。もう一枚、先程ティファニアが隠した書きかけの手紙を、
取り出すと、面白がるような視線をこちらに向けてくる。
「そう言えば、あなたがサイト殿の振りをして、ルイズに手紙を書いているのでしたね。彼女、今は
愛しいサイト殿がどちらにいらっしゃると思い込んでいるのかしら?」
「アルビオンの片隅、未だ戦争の傷跡が癒えない地区で、復興作業に従事している、ということに
なっています」
「ふうん、そうなのですか」
 アンリエッタは小ばかにした様子で言うと、何か汚いものにでも触れるように、ルイズからの手紙
を指でつまんでぴらぴらと振った。
「馬鹿なルイズ。サイト殿はもうとっくにこの世を去られているのだから、そんなことが出来るはず
も無いのに」
 アンリエッタは口元を手で隠し、意地悪げに目を細めた。
「私があの子のところに行ったら、きっと嬉しそうに愛しいサイト殿のことを話してくれるでしょう
ねえ。彼がとっくに死んでいて、本当は自分がずっと一人で道化を演じていたってことを、少しも知
らずに。ああ、そうだわ」
 いかにも名案を思いついたという風に、アンリエッタは手を合わせた。
「いっそのこと、今日私が本当のことを教えてあげようかしら」
 ティファニアが思わず立ち上がりかけると、アンリエッタは心底愉快そうに唇を歪めた。
「安心なさい、軽い冗談です。最愛の人の死も忘れるような愚かな女に、これ以上の仕打ちは可哀想
ですものね」
 そう言いつつも、アンリエッタはその思い付きが心底気に入ったらしい。手紙をゴミのように長櫃
の中に投げ入れると、低い声で笑い始める。
「でも、本当に今教えてあげたら、あの子一体どんな顔するかしら。驚くかしら、怒るかしら? い
いえ、それよりもまずはみっともなく泣くに違いないわ。昔から虚勢ばかり張っていて、中身の方は
哀れになるぐらいに弱い女でしたもの。今だってこんな山奥に引きこもりっぱなしなのだから、その
辺りは全然変わっていないでしょうね。ああ、なんて無様な女なのかしら。これだけ長い時間を、馬
鹿げた幻想相手に無意味に過ごしてきたんですもの。本当に、無駄な人生だわ」
 ここにはいないルイズを嘲笑い続けるアンリエッタの顔は、暗い悦びに満たされていた。聞いてい
るのが耐え難くなるほど悪意に満ちたその様子に、ティファニアは椅子に座ったまま小さく身を縮める。
(どうやったら、こんなにも下劣な人間になることができるのかしら)
 ふとアンリエッタがこちらを見て、問いかけてきた。
「ねえ、あなたもそう思うでしょう?」
 醜い老女が一歩、こちらに近づいてくる。ティファニアは椅子に座ったまま身を引いた。
「なにが、ですか?」
「ルイズのこと。愚かで哀れなあの女。ねえ、なんて無意味な人生なんでしょうねえ?」
 嬉しそうな笑みを張りつけたまま、アンリエッタの顔が小さく傾ぐ。無機質にすら見えるその動作
に、ティファニアは危うく悲鳴を上げそうになった。
「そう思うでしょう? あの女の人生は無意味でしょう、哀れでしょう、何の価値もないでしょう?
あなただって、そう思うでしょう? だって、あの子の記憶を奪い続けてきたのは、他ならぬあなた
なんですものねえ?」
 アンリエッタの瞳に、羨望の色が混じる。
「なんて素敵なのかしら。記憶を奪う魔法だなんて。ねえ、楽しかったでしょう? あの女からサイ
ト殿の死に関する記憶を消してあげるのは。あの子は今、死の直前に自分だけがサイト殿に想われて
いたという、その事実すら知らない。自分がどれだけサイト殿に愛されていたのか、永遠に理解する
ことはないんですもの。ああ、わたしにもその魔法が使えたらいいのに。そしたら、毎日ルイズにサ
イト殿の死を思い出させて、思う存分泣き叫ばせて、その後でまた記憶を奪って、嘘の思い出を教え
込んで幸せな気分に浸らせたあとでまた本当のことを教えて泣き叫ばせてまた記憶を奪って、何度も
何度も何度でも、死ぬまでそれを繰り返してあげるのに、ねえ」
 恍惚とした笑みを浮かべるアンリエッタの前で、ティファニアは耳を塞ぐことすら出来ずにいた。
頭の奥に鈍い痛みがある。視界がやけに狭くなっていた。朦朧とする意識の中、アンリエッタの声だ
けが延々と響き続ける。

47:不幸せな友人たち
08/02/17 16:37:50 fIg3HJdo
 ―ねえ、楽しかったでしょう?
(違う、わたしは、この人とは、違う)
 心の中で叫んでみるが、疑念は振り払えない。
 ―あの女の人生は無意味でしょう、哀れでしょう、何の価値もないでしょう?
 悪意に満ちた言葉は、しかしすんなりと胸に入り込んでくる。
 そうなのではないか、と思っている自分が、心のどこかにいた。
 都合のいい幻想に抱かれたまま、偽りの幸せの中で生きているルイズを哀れむ気持ちが、この胸の
中に確かにある。彼女をその状態に貶めているのは、他ならぬ自分だというのに。
(この人は、わたしだ。だって、この人が言っている通りのことを、わたしはずっと繰り返してきた
のだから。悪意があるかどうかなんて、少しも関係ない。記憶を奪われ続けているルイズさんにとっ
ては、どちらにしても同じことなんだわ)
 アンリエッタを見ていて感じる醜さは、そのまま己の醜さでもあった。目をそらしたくなる気持ち
を抑えて、ティファニアはポケットの中にあるものをぎゅっと握り締める。タバサがくれたナイフは、
いつも肌身離さず持っていた。その柄を握り締めて、なんとか目をそらさずに、アンリエッタを見つ
め続ける。彼女は笑っている。老いた顔に浮かぶ醜悪な笑みを、隠そうとする素振りすら見せない。
吐き気を催す光景だった。だが、ティファニアは見つめ続けた。
(そうだ、忘れてはいけない。わたしは、これぐらいに邪悪で卑劣な行為を、今でも続けているんだから)
 そのとき、不意にアンリエッタが笑いを収めた。ティファニアもナイフの柄を握り締めていた手か
ら力を抜く。手の平に汗が滲んでいるのが、いちいち確かめずとも分かった。
 不気味なほど静かだった。笑いを収めたアンリエッタは、何も喋ろうとしない。沈痛にも思えるほ
どに力のない表情で、じっと床を見つめている。先程までの妄執的な笑いからは想像もつかない、虚
ろな雰囲気を漂わせていた。そこには狂おしい怒りも忌まわしい悦びもない。その表情を見ていると、
ティファニアの胸は強く、痛ましく締めつけられた。
(一体、どうしたんだろう)
 困惑したが、それも少しの間だけだった。アンリエッタはまた、来たときのような底意地の悪い表
情を取り戻し、退屈そうに、無遠慮に小屋の中を見回し始めた。
「それにしても、ここは本当に何もないのですね。あら、これは……?」
 ティファニアの体が激しく震えた。アンリエッタが興味を示したのは、たった一つだけある木の棚の
上段に置いてある、青銅の置物だった。ギーシュが最後にくれた贈り物で、彼女が永遠に失ってし
まった大切な時間を、唯一形として留めていてくれるものだ。
(やめて、それに触らないで! 汚さないで!)
 アンリエッタが青銅の置物に手を伸ばしかけたとき、ティファニアはもうほとんど駆け出す寸前
だった。あの皺だらけの手で触れられたら、間違いなく彼女を突き飛ばしてしまっていたに違いない。
 そうならなかったのは、非常にいいタイミングで扉がノックされたためであった。アンリエッタの
手が止まり、ティファニアは少し安心してドアを振り返る。
「どうぞ」
 言うと同時に扉が開き、一人の女性が姿を現す。
「失礼。アン様、歓談の準備が整ったそうです」
 その女性が、小屋の中に足を踏み入れながら言った。ぴしりと伸びた背筋やきびきびとした所作、
言葉遣いに、ティファニアは懐かしさを覚える。
 アンリエッタは置物に伸ばしかけていた手を引っ込めて、鼻を鳴らしながら振り返った。
「遅かったわね、アニエス」
「申し訳ありません、シエスタ……メイドが頑固だったもので、少々手間取りました。城までお送り
いたしますので」
「当たり前です。あなたが草を払わなければ、ドレスが汚れてしまいますからね。全く、どうしてこ
んなところに来なければならなかったのかしら。ではティファニアさん、ごきげんよう」
 アンリエッタはテーブルに置いていた白手袋を着けなおすと、さっさと小屋を出て行ってしまった。
その後に続いて、アニエスも出て行く。
 しばらくして、従者の方だけが小屋に戻ってきた。既に日が落ちていたので、ティファニアはテー
ブルの上のランプに明りを灯していた。その頼りない明りの中で、従者は頭を下げる。

48:不幸せな友人たち
08/02/17 16:38:44 fIg3HJdo
「すまないな。アン様はお一人でルイズに会われることをお望みだ。しばらく、ここで休ませてもらえるか」
 申し訳なさそうに言うアニエスに、ティファニアは椅子を勧めた。
「ごめんなさい、お茶も出せないんですけど」
「構わんさ。ああ、だが少し喉が渇いていてな。水ぐらいはもらえるとありがたいな」
 ゆったりと椅子に腰掛けながら、アニエスが言う。ティファニアは木の棚から器を取り、小屋の隅
に置いてある水桶から水を注いだ。客人に差し出すと、感謝の笑顔を返される。
「ありがとう。本当にすまないな、突然やってきて」
 器を傾けるアニエスを改めて見て、ティファニアは深い安堵を覚えた。
 やや堅苦しい外套に包まれた背筋は、ぴしりと伸びている。張り詰めていながらも幾分か他者への
余裕を残した凛々しさが感じられた。こちらを愉快そうに眺める瞳には、前向きで確固とした光がある。
髪も取り立てて言うほど白くはなっておらず、染み一つない顔には皺など数えるほどしかない。
 いきすぎなぐらい年老いていた主に比べて、元近衛隊長でもある従者は、ほぼ実年齢どおりの外見
であった。いや、実際の年よりも幾分か若く見えるかもしれない。
「さて、改めて……久しぶりだな、ティファニア」
 気さくに言ったあと、何かに気付いたように苦笑する。
「と言っても、そちらにとってわたしは四十年前に少し会っただけの女か……わたしのことは覚えているか?」
「はい、もちろんです、アニエスさん」
 ティファニアにとっては、才人やルイズと同じく、ほぼ初めて交流を持った「外界の人間」だから、
アニエスのことは驚くほどよく覚えていた。
「アニエスさんこそ、よくわたしのことを覚えてらっしゃいましたね」
「それはまあ、な。ハーフエルフというだけあってあのころと外見がほとんど変わっていないし、な
により、いろいろと印象的だったからな」
 ティファニアの胸をちらりと見て言ったあとで、「それに」と付け加える。
「ルイズのことで、シエスタと連絡を取り合っていたんだ。お前が彼女の幸せを守るために何をして
いたかも、よく聞いている。わたしとしては、十数年来の旧友に会うような気持ちなのさ」
 アニエスはすっと立ち上がり、おもむろに右手を差し出した。戸惑いながらもそっと握り返すと、
彼女は申し訳なさそうな顔をした。
「わたしのことを、恨んではいないか?」
「どうしてですか?」
 予期せぬ問いかけに驚くと、アニエスは短く答えた。
「グラモン卿のことさ」
「ギーシュさん……いえ、彼は自分の意志で行動していましたし、彼自身もアニエスさんのことを恨
んではいませんでした。それにわたしはここにいただけで、王都での状況には少しも関わっていませ
んから、恨むだなんて……」
 実際、ギーシュのことを思うと少し複雑だったが、やはり恨むところまではいかなかった。アニエ
スは少し安心したように「そうか」と呟いたあと、またすまなそうに眉を傾げた。
「アン様のこと、すまなかったな。不快な思いをしただろう」
「ひょっとして、ずっと小屋の外で聞かれてたんですか?」
「いや。だが、何があったかは大体分かるさ」
 唇の片端が皮肉っぽくつり上がった。
「誰にでもあんな態度なんだ、あの方は」
 ここで先程どんなやり取りが交わされたのか、大体把握できている口調だった。アニエスは椅子に
座りなおしながら、少し疲れた口調で言う。
「昔はあそこまでひどくはなかったんだがな。せいぜい冷たい印象を与える程度だった。それが、王
政の破壊を成し遂げてアルビオンの片田舎に引っ込んでからというもの、ますます酷くなっていった。
王政に対して抱いていた狂おしい怒りと憎しみが矛先を失くして、周囲の全てに向けられるようにな
ったんだろうな。今ではすっかり陰険で根暗な老人だ」
 アニエスはふと、何かに気付いたように苦笑して首筋をかいた。
「すまんすまん、こんなことを言ってもお前には何のことだか分からんだろうな」
 そう言いながら、目を細くして小屋の中を見回す。
「お前もこの四十年間、一人の人間のために苦労を重ねてきたのだと思うとな……つい、同志のよう
に感じてしまって、何もかも打ち明けたくなってしまうんだ。許してくれ」
「いえ、わたしは、そんな」
 ティファニアは迷った。自分が重ねてきたのは苦労などではなく罪の意識から来る自罰なのだと、
アニエスの言葉を訂正するべきだろうか。やめておいた。彼女の話が自分にはよく分からなかったよ
うに、自分の話もまた、彼女にはうまく伝わらないだろう。

49:不幸せな友人たち
08/02/17 16:39:27 fIg3HJdo
「なあ」
 椅子をかすかに傾け、胸の上で手を組んだアニエスが、不意に口を開く。
「アン様がどうして今頃になってこの土地を訪れたがったのか、分かるか?」
「いえ、わたしにはよく……」
「あの方は、もう長くはないんだ」
 体をくの字に折って激しく咳き込むアンリエッタの姿が、ティファニアの脳裏に浮かんだ。
「ではやはり、ご病気なのですか?」
「さあな……どこもかしこも悪いんじゃないだろうか。分からないんだよ、医者に体を触らせたがら
んのだ、あの方は」
 そう言ったあとで、アニエスはくぐもった笑い声を漏らした。
「いや、医者だけではないか。私にすら、体を触られることだけは許さない。まあ今さらあの方に触
れたいと願う者がいるわけでもないし、特に不都合はないんだが、な。彼女が触れてもいいと思って
いる人間は、たった一人だけさ。お前もよく知っている人物だよ、ティファニア。誰だか分かるか?」
 アニエスの瞳に探るような色が浮かぶ。ティファニアは困惑しながら答えた。
「誰、と言われても……ルイズさんですか?」
 アニエスは肩を揺すって笑った。
「まさか。ルイズに触られるのは、他の誰に触られるよりも嫌だろうよ。そのぐらい、彼女を憎んでい
るからな。それに、あの方が唯一触れられたいと願う人間は、男だよ。いや、触れられたいなんても
のじゃないな。抱きしめられたい、と言ったほうがいいか」
 ティファニアは目を見開いた。一人の少年の笑顔が、頭の中に浮かぶ。
「まさか、その人って」
 アニエスは目を閉じ、深々と頷いた。
「そう、サイトだ。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。アルビオン戦役にて輝かしい戦功を上げ、
それだけを歴史に残して永遠に去ってしまった、我らの愛しい英雄殿さ」
 どことなく皮肉っぽい言い回しだ。ティファニアは困惑した。
「でも、どうしてですか? サイトは、女王様のことなんてあまり口に出さなかったのに」
「だからこそ、なおさらだろうな。そのわずかな繋がりに、あの方は縋りついたのだ。サイト殿なら
自分を救ってくれる。女王アンリエッタではなく、ただ一人のアンリエッタという女として愛してく
れる。それが真実だったのか否かはともかくとして、彼女は強くそう信じていたんだ」
 アニエスは片目を開いて、静かにティファニアを見た。
「そんな男が、自分からは遠く離れたところで、知らない間に死んでしまう。しかも、死ぬ間際に他
の女のことを言い残してだ。さて、どうなるだろうな?」
 体が震えた。アンリエッタのルイズに対する激しい敵意の源がなんなのか、今では分かりすぎるほ
どよく分かる気がする。
「でも、それじゃあ」
 混乱しながら、ティファニアは問いかけた。
「彼女はどうして、今さらルイズさんに会いたいと?」
「確かめたくなったんだろうさ」
「確かめる……何を?」
「自分という人間が、ルイズよりも勝っているということをだ」
 アニエスは胸の上で手を組みかえながら言った。
「あの方はルイズにサイトの死を忘れさせ、偽りの幻想の中に貶めて、なんて馬鹿な女だろうと優越
感に浸りながら生きてきたんだ。サイトに愛されたルイズよりも、サイトに愛されなかった自分の方
が、人間としては数段優れているのだ、とな。それだけが唯一ルイズに勝つ方法だと頑なに信じてい
るのさ。そして今、近い将来の自分の死を直感したとき、確かにそうなのだと確かめたくなった。だ
からルイズに会って、間近で彼女を思い切り笑ってやろうという気になったのさ」
「それじゃあ、やっぱり彼女は、ルイズさんに真実を教えるつもりで……?」
 一瞬、あの老女を行かせたことを後悔しかける。だが、アニエスは首を横に振った。
「それはない。ありえない」
「どうしてそう言いきれるんですか?」
「ルイズが記憶を取り戻したら、サイトの最後の言葉も思い出してしまうからな。死の直前まで、ル
イズがサイトに深く愛されていた、といことを。それよりは彼女を愚かな女に貶めたまま、心の中で
思う存分高笑いする方を選ぶさ。安心しろ、今回の歓談でルイズは傷つかん。懐かしい親友との旧交
を温めて終わりさ。彼女にとってはな。だが、あの方にとっては」
 アニエスは、どこかやりきれない様子で息をついた。

50:不幸せな友人たち
08/02/17 16:40:16 fIg3HJdo
「あの方にとっては、期待していた通りの結果にはならんだろうな」
「どういうことですか?」
「見ていれば分かる。どうせ、あの方は自分から息せき切らしてこの小屋に飛び込んでくるさ。ともかく」
 アニエスは肩を竦めた。
「これで、あの方のことを少しは分かってもらえたと思うが」
 探るような瞳がティファニアを見つめた。
「お前としては、どうだ? あの方のことを、どう思う?」
 ティファニアは俯き、己の心を探った。アンリエッタの心情をある程度理解した今、彼女に対する
嫌悪感や恐怖は、哀れみの感情に変わっていた。
「悲しい人だと思います。自分の感情を制御できずに、周りにぶつけるしかなかった」
 同時に、不思議な人だとも思った。彼女に対する感情は、短い時間の間に目まぐるしく移り変わる。
不快に思えたり、哀れに思えたり……ひょっとしたら、目の前の騎士はそんな主のことが愛しく思え
て、未だに付き従っているのかもしれない。
「でも、どうしてでしょう。どうして彼女は、そうまでサイトのことを追い求めたんでしょうか? 
彼のことを忘れて、新たな愛情を見つけることは出来なかったんでしょうか?」
「そうするには、サイトの与えてくれた希望があまりにも大きすぎたんだ。彼女は想い人を二度失く
している。一人目のときは彼自身の誇りや気高さに敗北し、二人目のときは他の女に敗北した。特に
二人目は、『ひょっとしたら、この人なら』という期待を強く抱かせてくれたようだからな。いまさ
ら、三人目に期待することは出来なかったんだろう。そうそう、こんなことがあった」
 何かを思い出すように、アニエスは表情を緩めた。
「王政が幕を閉じ、あの方が晴れて自由の身になった朝のことだ」
 その日、アニエスが「陛下」と呼ばわると、彼女は不快そうに顔をしかめたらしい。
『私はもう女王ではありません。今後は二度とそう呼ばないように』
『ではなんとお呼びいたしましょうか』
 アニエスが問うと、主は少しの間考えて、とても嬉しそうな顔で、
『では、アンとお呼びなさい』
『アン様、ですか』
『ええ。それが一番好ましいわ』
 そう答えた彼女の顔には、何かを懐かしむような、あるいは甘い夢に浸るようなうっとりとした笑
みが浮かんでいたという。
「何故彼女がアンと呼ばれたがったか、わたしはよく知っている」
「どうしてですか?」
「彼女は一度、町娘に変装して、ある男と安宿でわずかな時間を過ごしたことがある。そのとき、
『アンと呼んでくれ』とその男に頼んだそうだ。何度も何度も、そう聞かされた」
 アニエスはどことなく憂鬱そうに目を細めた。
「遠い昔の話だ。その男はもうどこにもいない。ただ、アン様の胸の中にだけ存在する思い出さ」
 アニエスは軽く肩を竦めた。
「あまりあの方を軽蔑しないでほしい。せめて哀れみに留めておいてくれ。彼女とて、誰か一人の男
に全身全霊で愛してもらっていれば、ああはならなかったかもしれんのだからな」
 アニエスは肩越しに振り返る。その方向には、ルイズが暮らす剣の城がある。
「今日遠くからルイズを見て、わたしは改めてそう思った」
 ティファニアが身を硬くしたのが分かったのか、アニエスは物問いたげな視線を向けてきた。
「最近、ルイズとは話していないのか?」
「ルイズさんは、わたしがここにいること自体知りませんから……会うのも、記憶を消すために真夜
中城の中に忍び込むときぐらいで、それも彼女が寝ている間に済ませてしまいますので」
「なるほどな。これで合点がいった」
「なにがですか」
 アニエスは椅子の背にもたれながら、目を細めて小屋の中を見回した。
「この狭苦しい小屋さ。最初見たとき、本当にこんなところで人が暮らしているのかと驚いたものだ。
入ってみるとまるで監獄だ。そして、それは事実だったらしい」
 視線がティファニアに戻ってきて、彼女を思いやり深く見据えた。
「なあティファニア。お前、強い罪悪感を持って生きてきたな? 自分は許されない罪を犯したと、
その罰を受けるために生きているんだと、そう思って生きてきたんだろう?」
 ティファニアはその視線から逃れるように俯いた。膝の上で、ぎゅっと拳を握る。

51:不幸せな友人たち
08/02/17 16:40:44 fIg3HJdo
「だがな、そんな必要はないと思うぞ」
 驚いて顔を上げると、アニエスは穏やかな笑みを浮かべていた。
「わたしは今日、ルイズを見た。そして今日までずっと、アン様を見てきた。だから分かるんだ。愛
されなかったと嘆きながら生きてきた女よりは、たとえ嘘の中でも、愛されていると実感して生きて
きた女の方が、よほど幸福なのだと。ああ、反論はしないでくれ」
 口を開きかけたティファニアを、アニエスはやんわりと押しとめた。
「別に、理屈としてどちらが正しいとか、人道的にどうだという話じゃないんだ、これは。単にわた
しがどう感じたかというだけの話だ。だが、お前もあのルイズを見ては、そう思わずにはいられない
だろうよ。あらゆるしがらみやこだわりを超えて、そう思わせてくれる何かが、彼女にはある」
 言い終えて、アニエスはぽつりと呟いた。
「それは、あの方とても同じだろうな」
 と、突然小屋の扉がばたんと開き、険しい表情のアンリエッタの姿が、深い闇の中にぼんやりと浮
かび上がった。彼女は濃い化粧の上からでもはっきり分かるほど顔面蒼白で、眉間の皺はより深く
なっていた。よほど急いでここまで来たのか、息が上がっている。草木の中を無理矢理進んできたの
だろう、豪華なドレスあちこち破れている上に、草まみれだった。ここを出て行ったときの高慢な余
裕は、いまや欠片もなかった。
「アニエス、帰りますよ」
 出し抜けに言う。ティファニアには一瞥もくれない。
「おや、もうよろしいのですか? あれだけルイズとの歓談を熱望されていましたのに」
「いい、もういいです。あんな馬鹿な女、どれだけ見ていたって、あまりの馬鹿さ加減にこちらがイ
ライラさせられるだけですもの。全く……あんな女」
 ティファニアへの辞去の挨拶もなしに、アンリエッタは荒々しく身を翻す。アニエスが苦笑しなが
ら立ち上がった。
「と、いうわけだ。悪いが、お暇させてもらおう。あの方を一人で歩かせるわけにはいかないからな」
「一体、何があったんでしょう?」
 戸口に立って、遠ざかるアンリエッタの背中を見ながら問うと、アニエスは素っ気なく答えた。
「大方予想はつく。ルイズがあまりにも幸せそうで、満ち足りた様子だったから、耐えられなくなっ
たんだろうさ。彼女と比べて、自分が惨めすぎてな」
 アニエスの視線もまた、遠ざかっていく主の背中をとらえていた。
「本当に、暖かくて優しい雰囲気を纏っていたからな、ルイズは……圧倒的とすら表現できるほどだ。
遠目にもそれがわかるほどだったのだ。何か大きなものにずっと愛され続けて、それを確信しながら
生きてきた人間だけに出せる空気だよ、あれは。まるで陽だまりのような……あんな人間の前に出れ
ば、誰だって我が身が恥ずかしく思えたり、泣き出したいほど惨めに思えてきたりするものだろう」
 アニエスの瞳に哀れみの色が宿った。
「お気の毒な我が主。怒りも憎しみも熱を失い、唯一残されていた自尊心や、ルイズに対する優越感
まで、今や粉々に打ち砕かれてしまった。もはや、あの痩せ細った体を支えるだけの力すら残っては
いまい。おそらく、先は長くないだろうな」
 淡々とした口調に、ティファイアは息を飲む。それに気付いたのか、アニエスはこちらを向いて苦笑した。
「そんな顔をしないでくれ。私にとっては喜ばしいことさ。これでようやく、あの方も苦しみから解
放されるのだ。実に悲しい形ではあるが、な。忌まわしく呪わしい闇の汚泥は、ルイズによって払わ
れた。そうなれば、心の片隅に沈められていた優しさや穏やかさが、またあの方の心の表面に浮き上
がってくるかもしれん。たとえ死に向かう運命だとしても、その方がずっと人間らしいと思わないか?」
 なんとも言えないティファニアに、アニエスは微笑みかけた。
「答えられんか。まあ今はいい。だがお前はいつかルイズに会って、わたしの言葉を実感することに
なるだろう。間違いなくな。そのときわたしが生きているかどうかは分からんが、お前からの報告を
楽しみに待たせてもらうことにするよ」
 そのとき、闇に落ちた森の中から、か細い怒鳴り声がかすかに聞こえてきた。
「アニエス、何をしているのですか! あなたが道を照らさなければ、歩けないではありませんか!」
「申しわけありません、すぐに参ります!」
 答えて、アニエスは外套の中からランプを取り出した。ニ、三歩歩き出してから不意に振り返り、
ティファニア向かって軽く手を上げた。
「ではな。楽しみにしているぞ」
 そうして、彼女は何も残さず、主を追って闇の中に立ち去ってしまった。

52:不幸せな友人たち
08/02/17 16:41:11 fIg3HJdo
 それから一ヶ月も経たない内に、アニエスからの手紙が届いた。剣の城に届けられたものを、ジュリ
アンが持ってきてくれたのである。

「ティファニアへ。
 昨日、アン様が亡くなった。病死だ。ルイズを見てご自身の人生の不毛さを思い知ったせいか、
すっかり抵抗力をなくされてしまったのだ。旅を終えてアルビオンに帰る途上、既に何度か意識を失
くされていたほどだ。それでも、本人が朦朧としながらもアルビオンに帰ることを望んだので、わた
しは希望を叶えて差し上げた。トリステインは彼女にとっては忌まわしい土地だ。あそこで死にたく
はなかったのだろう。
 安らかな死に様だった、とは言いがたい。ベッドに横たわったまま絶え間なく呻いて、咳き込んで
……むしろ、かなり苦しんだと言ったほうがいいだろう。
 彼女は死の直前、何かを探すように手を伸ばした。わたしが思わずその手を握ると、とてもか細い
声で誰かの名前を呟いた。ウェールズ、だったかもしれないし、サイト、だったかもしれない。それ
に答えて『アン』と呼びかけてやると、不意に表情を和らげて、そのまま息を引き取った。だから、
苦しみぬいた割に、死に顔はとても安らかだった。
 今、葬儀の準備の合間にこの手紙をしたためている。葬儀、と言っても、彼女は人間嫌いだ。こち
らに来てから親しい友人どころか、知人と呼べる人間さえ作らなかった。だから、立会人はわたしだ
けだ。長年大勢の人間にかしずかれて来た元女王のものとしては、なんとも寂しい葬儀になる。彼女
は見知らぬ人間の立会いなど望まないだろうから、これでいいのかもしれないが。
 少し、考える。彼女の人生は不幸なものだったのか、と。いや、その点については考えるまでもな
いか。彼女は女王として多くの人間に幸福をもたらしながら、一人の人間としてはとても不幸な人生
を送った。それは間違いない。
 だが、彼女は人生で一番満ち足りていた瞬間の思い出を抱いて逝ったのだ。だから、最後の一瞬だ
けは、世界中の誰よりも幸福だったのではないかと思う。
 さて、我が主は逝ってしまったが、それを送るわたしもまた、長く生きてはいられないだろう。急
に、長年溜まりに溜まった疲労が、この体を重く感じさせるようになった気がする。お前からの報告
を受けることも、きっとないだろうな。
 さらばだティファニア、我が友。お前がいつか、アン様と同じように、ルイズによって呪いから解
放されることを願っている……いや、信じている」
 文章の結びに、署名があった。迷いのない形のいい文字で、アン様の剣、アニエス・シュヴァリ
エ・ド・ミラン、と書いてあった。

 その後アニエスがどうなったのか、ティファニアは結局知らないままだった。
 後世、彼女本人ではなくアンリエッタ女王の足跡を辿った歴史家が、アルビオンの片隅で、一冊だ
け残された手記を発見した。
 その手記は、アンリエッタ女王の真の姿を後世に伝える唯一の資料として、その後も長い間大事に
保管され続けたそうである。

 アニエスとの再会を経て、ティファニアはタバサとの約束を果たすために残された時間が、あとわ
ずかであるということを思い知った。自分達と同世代であるアンリエッタが死んだのなら、ルイズだ
ってそう長くはないかもしれないのだ。
 だが、ティファニアは、ルイズよりも先に、彼女の一番近くにいた人と別れることとなった。

53:205
08/02/17 16:41:57 fIg3HJdo
「アニエス」はここまで。
続いてサブタイトル「シエスタ」を投下します。
途中で5分以上間が空いた場合は支援をお願いします。

54:不幸せな友人たち
08/02/17 16:42:29 fIg3HJdo
 アニエスとの再会から、十九年目の初冬のこと。
 深夜、剣の城にいるジュリアンから、火急の報せが届いた。
 彼の姉であるシエスタの命が、もうあとわずかだというのである。
 ついにこの日が来たか、と思いながら、ティファニアは手紙を書く手を止めて小屋を出る。
 雪深い森の中を注意深く急ぎながら、五十九年という歳月に思いを馳せる。
 人が老いるには、十分すぎるほど長い時間だった。

「ああ、ティファニアさん。ようこそおいでくださいました」
 ランプを片手に持って城の裏口のそばに立っていたジュリアンは、森から歩み出てきたティファニ
アを見つけるなり、雪をかき分けて近寄ってきた。
「シエスタさんの容態は、どうなんですか?」
 訊ねると、ジュリアンはわずかに目を伏せた。
「よくありません。おそらく、今夜には……」
 声音は不思議なほど落ち着いていた。この地にやってきたときには年若い少年だった彼も、今では
長い白髭と曲がった腰が目につく老人だ。ある程度、覚悟はできていたのかもしれない。
 ティファニアは明りの灯る剣の城に目を移しながら訊ねた。
「ルイズさんは、まだ起きていらっしゃるのですか?」
「いえ。奥様も、あまり体調がよろしくありませんから。それでも夜通し姉のそばについていると
仰ったのですが、わたしが無理矢理お止めして、今は床についていらっしゃるはずです」
 つまり、城の中でルイズと鉢合わせする危険はないということだ。そのことについては安心できた。
死の床にあるシエスタの心を、無意味に乱したくはなかった。
「では、行きましょう。姉の部屋に案内いたします」
 裏口の扉を開け、ランプを持ったジュリアンが先に立って歩き始める。炊事場の勝手口を通り、小
さな城の中へ。小さいと言っても、もちろんティファニアの小屋よりはずっと広い。ルイズの記憶を
消すために何度も通っているとはいえ、シエスタの部屋を訪れるのは初めてのことだったから、迷う
可能性は十分にあった。
 と、先を歩いていたジュリアンが、ある角を曲がりかけたところで息を飲んで立ち止まり、こちら
を制止するように片腕を上げた。
「どうしたんですか?」
 小声で問いかけると、ジュリアンは「しっ」と人差し指を口元に当てて、注意深く角の向こうを窺った。
「廊下の向こうから、奥様が歩いてきます」
 ティファニアは息を飲んだ。起きて、話をするルイズが、この角の向こうにいる。鼓動が早くなった。
「寝ていたはずでは……」
「お優しい奥様のことです、姉の容態が気にかかって、起きてきてしまったのでしょう……こうなれ
ば、奥様が寝付かれるまで、わたしが見張っているほかありません。ティファニアさんは、わたしが
奥様を連れていくのを待って、先に姉の部屋に入っていてください」
「分かりました」
 ティファニアが頷くと、ジュリアンは服についた雪を払って角の向こうへ出て行った。彼の驚いた
ような声が聞こえてくる。
「おや奥様、お休みになられたはずでは」
「ああ、ジュリアン」
 ティファニアの背筋に震えが走った。今のが、ルイズの声だ。
「いけませんよ、奥様だってそれ程健康とは言えないのですから、休んでいただかないと」
「シエスタはわたしの大事な友達なのよ。サイトもいないし、夜通しついていてあげたいの。わたし
のことを気遣ってくれるあなたの気持ちもわかるけれど、どうか、許してちょうだい」
 目頭が痺れたように熱くなり、涙が零れそうになるのを、必死に堪える。あの声から滲み出る暖か
さはどうだ。聞いているだけで体のこわばりがほどけていくような、安らかな口調。五十九年前のル
イズは、これほど優しい声をしていただろうか。
 ティファニアは今すぐ駆け出して、彼女の前に姿を現したい衝動に駆られた。
「いけません。これで奥様の体調が悪化したら、わたしが姉に叱られてしまいます。姉だってそんな
ことを望みはしませんよ」
「でも、わたしには分かるの。シエスタは今、死の淵にいるわ。今夜ついていなければ、もう二度と
生きて会うことは出来ないかもしれない。彼女の最後の言葉を、サイトに伝えてあげなければいけな
いのに」
 最後の言葉、という単語が、ティファニアの胸に突き刺さる。先ほどの衝動が急速に萎んでいった。

55:不幸せな友人たち
08/02/17 16:42:54 fIg3HJdo
「それなら、姉の容態が悪化したらお呼びいたしますから、どうかお休みください」
「分かったわ。ごめんなさいね、あなただってシエスタのそばについていたいでしょうに」
「いえ……さあ、お部屋までお送りいたします」
 二つの落ち着いた足音が、ゆっくりと遠ざかっていく。ティファニアはそっと角から顔を半分だけ
出した。二つの背中が、廊下の向こうに消えていくのが見えた。五十九年前よりも、さらに小さくな
った背中。あれがルイズだった。
 二人が立ち去ってから少し時間を置いて、ティファニアは歩き出した。冷たい石床の上を、足音を
立てないように注意しながらシエスタの部屋に近づく。ノックの音がルイズの寝室に聞こえては困る
から、黙ってゆっくりと部屋のドアを開けた。
 部屋に入ってみて、まず物の少なさに驚いた。小さなテーブルに椅子、それから一つだけある木の
棚に入った数少ない器、枕元に明りの灯ったランプが吊るされた、粗末な木のベッド。狭い部屋の中
にあったのは、それだけだった。初めて見る部屋のはずなのに、何故か見慣れているような感覚がある。
(ああ、そうか。ここは、わたしの小屋の中によく似ているんだ)
 殺風景な部屋にティファニアが驚いていると、不意にか細く問いかけられた。
「ジュリアン?」
 ティファニアは慌てて後ろ手にドアを閉めた。
「いえ、わたしです、ティファニアです」
 声に答えながら、ベッドのそばに歩み寄る。
 シエスタとは、この五十九年間連絡を絶やしたことはない。たまに小屋を訪れる彼女と、何度も言
葉を交わしてもいた。
 にも関わらず、ランプのおぼろげな明りに浮かび上がった彼女の顔を見たとき、ティファニアは五
十九年という歳月の長さを思わずにはいられなかった。
 かつては黒く艶やかだった髪は、すっかり白くなった上にところどころが薄くなっている。水気を
失って乾いた肌には深い皺が何本も刻まれ、細く息が漏れ出す唇は色を失ってかさかさだった。閉じ
られていた目蓋が億劫そうに開かれ、その下に隠されていた黒い瞳が、ティファニアを見上げた。
「ああ、ティファニアさん。お待ちしておりましたよ」
 彼女は体を起こそうとしたらしく、かすかに顔をしかめた。ティファニアは慌ててそれを止めた。
「いえ、そのままで大丈夫ですから。ご無理をなさらないでください」
「すみませんね」
 言葉は短く、苦しげだった。
「本当に、すみませんね、ティファニアさん」
「何がですか?」
「こんなことに、無駄に歳月を費やさせてしまって……わたしのことを、恨んでいるでしょう」
 ティファニアは驚いた。彼女の口から自分に対する謝罪を聞いたのは、この五十九年間で初めての
ことである。死の際にあっても、それは変わらないと思っていたのだが。
「いえ、恨んでなんかいません。わたしだって、自分でこの道を選んだのですから」
 キュルケやタバサ、ギーシュの顔が頭に思い浮かぶ。シエスタは乾ききった口元に微笑らしきもの
を浮かべた。
「でも、わたしがあんな提案をしなければ、思いつきもしなかった選択でしょう」
「それは……そうかも、しれませんけど」
「いいんですよ、あなたには何の罪もありません……悪いのは、すべてわたしです。でも後悔はして
いません。だって、これがサイトさんの望みだったんですもの。ミス・ヴァリエールを見ましたか?」
「いえ。でも、声は聞きました」
「優しくて、暖かかったでしょう」
 シエスタは満足げに息を吐いた。
「そして何より、彼女は今も幸せです。今だけでなく、この五十九年間、ずっと幸せでした。当たり
前ですよね、彼女にとっては、サイトさんが元気に生きてさえいれば、それだけでもう十分幸せだっ
たんですもの。その幸せは、あなたの助けがなければありえなかった。ありがとう、ティファニアさ
ん。本当に感謝しています」
 ティファニアには、なんと答えていいのか分からなかった。シエスタは、そんな彼女を見上げて目
を細める。

56:不幸せな友人たち
08/02/17 16:44:07 fIg3HJdo
「でもねティファニアさん。本当は、わたしが一番幸せだったのかもしれません」
 驚いてシエスタを見ると、皺だらけの顔に穏やかな微笑が浮かんでいた。
「夢を見ているような気分でした。三日置きに梟が手紙を持って飛んできて、それをミス・ヴァリ
エールが嬉しそうに受け取って……彼女が待ちきれないように封を開いて中身を読み始めるとき、わ
たし、いつもそばにいて一緒に読みました。サイトさんの活躍に笑ったり、陥った危機に不安を感じ
たり、無事だったと分かって抱き合って喜んだり……真相を知っているのに、わたしまだ、あの人が
生きているんじゃないかって信じそうになったぐらいです。そのぐらい、あなたの手紙はその向こう
にサイトさんの存在を感じさせてくれました」
 そう言ってから、少し不思議そうに問いかける。
「ねえ、どうして、あんな手紙を書くことができたんですか?」
「分かりません」
 ティファニアは正直に答えた。この五十九年間、手紙の文面に困ったことはほとんどない。今サイ
トがどこにいるのかとか、設定を決めるときはシエスタの助言を受けたが、それさえ分かれば文面は
すらすらと浮かんできた。何故そんなことが出来るのかは、未だに分からない。
「そう。ひょっとしたら、サイトさんの魂が、わたしたちに力を貸してくださったのかもしれませんね」
 それはあまりに都合が良すぎる解釈なのではないか、とティファニアは思った。それが伝わったか
のように、シエスタが小さな声で謝罪する。
「ごめんなさいね、あなた自身は、そんな風には考えられないでしょう。だけど、わたしはそう思
います。あなたのペン先にサイトさんの魂が宿って、わたしたちに幸せな夢を見せてくださったん
だって。サイトさんはとても優しい人でしたし、ミス・ヴァリエールが生きることを望んでいたんで
すもの。きっと、わたしがしたことも許し、受け入れてくださるはず。そうでしょう?」
「そうかも、しれませんね」
 ティファニアは迷いながらも頷いた。確かに、才人が自分達をなじり、罵るような情景は頭に思い
浮かばない。そう思わせてくれる少年だったのだ。
 そんなティファニアを見上げていたシエスタが、不意に目を見開いた。
「ねえ、わたし、本当に夢を見ていたのではないのかしら?」
 ティファニアが驚いて見返すと、シエスタもまた、食い入るように見つめ返してきた。
「だって、あなたの姿、昔と少しも変わらないんだもの。わたしたちだけが変わってしまっただなん
て、とても信じられません。ねえ、夢だったんでしょう。みんな、悪い夢だったんでしょう? 本当
はあの日のまま時間が止まっていて、サイトさんもミス・ヴァリエールも……ご友人の皆さんも、何
も変わらずに笑っているんでしょう? ねえ、そうなんでしょう、ティファニアさん」
 懇願するような問いかけに、ティファニアは一瞬頷きそうになった。咄嗟にポケットに手を伸ばし、
タバサのナイフをつかむ。瞬時に強さを取り戻した心が、甘い囁きを弾き返した。
「いいえ、夢なんかじゃありません。サイトはあの日死にました。わたしたちは自分たちの意志で、
ルイズさんに酷いことをしました。彼女は偽りの幸せの中で、歪な生を生きて、ここにいます。それ
はどんな理屈をつけたって許されることではありませんし、わたしたちはきっと、地獄の業火の中で
永遠に終わらぬ罰を受けることになるでしょう。夢なんかじゃありません。それが、現実です」
 一言一言、強く言葉を絞り出す。死の際にあって、シエスタがきちんと現実を受け入れるように。
彼女がどんな思いを抱いていたとしても、罪は罪なのだ。実行した自分も、それを考え出したシエス
タも、やはり罰を受けるべきだろう。幸せな夢の中に逃げ込んだまま逝くなど、自分達には許されな
い。そう思えた。
 シエスタはさほど傷ついたようには見えなかった。それどころか、五十九年前に見せた冷たい微笑
の残滓を、皺だらけの顔に浮かべさえした。
「そうですね、ありがとう、ティファニアさん。おかげでわたし、自分が成し遂げたことを、はっき
りと思い出せた気がします。わたしたちは、ミス・ヴァリエールに幸せな人生をもたらした。サイト
さんの願いを、叶えて差し上げたんです」
 シエスタは目を見開き、口元に狂おしい笑みを張りつけたまま、虚空に向かって震える手を伸ばし
た。その腕は枯れ木のように細く、弱弱しい。


57:不幸せな友人たち
08/02/17 16:44:50 fIg3HJdo
「ああ、サイト、サイトさん」
 愛しい人の名を呼ぶ彼女の声音は、気分が悪くなるほどに情熱的だった。
「わたし、やりとげましたよ。あなたの残した言葉どおり、あの人に幸せな一生を送らせてあげまし
た。喜んでくださいますか、サイトさん、サイトさん、サイトさん……!」
 感極まった叫びの後、彼女の腕が力を失い、ゆっくりとベッドに落ちた。いちいち確認するまでも
なく、彼女が死んだことが分かった。
 目を見開き口元に笑みを張りつけたまま、死に顔は虚ろだった。ティファニアは手を差し出し、
そっと彼女の瞳を閉じてやる。それだけで、虚ろな死に顔が穏やかなものに変わった。皺だらけの顔
に、遠い昔彼女が浮かべていた、穏やかな笑みの残り香が漂っていた。
 彼女は、今わの際に才人に会うことができたのだろうか。それとも、今わの際になっても会えな
かったからこそ、彼を求めて空に手を伸ばしたのだろうか。
 どちらとも、判断がつかなかった。
 ティファニアの背後で、扉が開いた。ジュリアンが静かな足取りで入ってくる。
「姉は、逝きましたか」
「ええ」
 短いやり取りのあと、ジュリアンはティファニアの隣に立って、姉の死に顔を見下ろした。
「わたしにとっては、ただ優しい姉でした。その優しさを振り捨ててまで、この人はサイト殿への愛
に殉ずることを選んだのでしょう。やり方は間違っていたかもしれませんが、愛情深い人だったのです」
 ティファニアは何も答えられなかった。わずかな沈黙のあと、ジュリアンが問いかけてきた。
「あなたは、これからどうなさるのですか」
「どう、と言いますと」
「みんな、死んでしまいました。奥様を取り巻く嘘の周りにいた人は、みな。残っているのは、あな
ただけです。どういう選択をしたとしても、賛同する人も責める人も、もう誰も残っていません。た
だ一人、奥様ご本人を除いては」
 その言葉を聞いて、ティファニアは自分が本当に一人になったのだと急に実感した。
 もう、誰もいない。残っているのは、この五十九年間、必死になって作り上げてきた嘘と、その中
で幸せに笑うルイズだけ。
「分かりません」
 またポケットのナイフを握りながら、ティファニアは答えた。
「分かりません」
 ジュリアンは何も言わず、黙って姉の死に顔を見つめていた。

 シエスタの葬儀は、ひっそりと行われたらしい。参列したのはルイズとジュリアンだけで、流され
た涙も二人分だけだ。
 冬が過ぎ、春になった。この土地に来てから、ちょうど六十年目。
 ティファニアは帽子を被って森から抜け出し、町へ出た。
 彼女らがこの土地に来たころとは比べ物にならないほど、町は大きくなっている。全て、才人の
期待と愛情に答えようとした、ルイズの奮闘がもたらした豊かさだった。
 人々の明るい笑い声が飛び交う中、ティファニアは一軒の店に入り、そこで緑色のワンピースを購
入した。自分が遠い昔、まだ罪人でなかったころに着ていたものと、よく似た服だった。
「とてもよくお似合いですよ」
 店員が言う。ティファニアは硬い声で即答した。
「いいえ、全然似合っていません」
 ティファニアの答えに困惑する店員に代金を払って、店を出る。そのまま、町の共同墓地に向かった。
片隅に立てられているシエスタの墓標の前で手を合わせたあと、ポケットの中のナイフを握り締める。
 半年前、シエスタが死んで以降、ルイズの体調は日に日に悪くなっているらしい。もう長くはない
だろうと、ジュリアンが報せを送ってきていた。時間は本当に、あとわずかだ。
(今日こそ、ルイズさんに会おう。彼女に真実を知らせるために)
 町より高い場所に建つ剣の城を見上げながら、ティファニアはさらに強く、ポケットの中のナイフ
を握りしめた。

58:205
08/02/17 16:45:42 fIg3HJdo
「シエスタ」は以上。
続いて、サブタイトル「再び、ティファニア」と投下します。

59:不幸せな友人たち
08/02/17 16:46:13 fIg3HJdo
 剣の城の城門がゆっくりと開き、降りた跳ね橋を通って慌てた様子のジュリアンが駆け出してきた。
「ティファニアさん、一体どうなったのですか」
「連絡もせずに、ごめんなさい」
「いいえ、それはよろしいのですが」
 言いかけたジュリアンは、ティファニアの格好を見て息を飲み、厳しく目を細めた。
「お覚悟を、決められたのですね」
「そのつもりです」
「分かりました。我が主の下に案内いたしましょう」
 半年前、シエスタが死んだ夜のように、ジュリアンが先に立って歩き出す。ティファニアはその後
を追った。薄曇りの空の下、剣の城の中庭を通り抜ける。春の花々が、色とりどりに咲き乱れていた。
「この庭は、ジュリアンさんがお世話を?」
「ええ。奥様も大変気に入られておりまして、ここに椅子を持ってきてサイト殿からの手紙を読むこ
ともございます」
 暖かい日差しの下、花々に囲まれて手紙を読みながら微笑むルイズの姿が思い浮かぶ。不意に、先
程までは綺麗に見えていた花々が、何か歪なものに感じられてきて、ティファニアは中庭から目を背けた。
 城館に正面から入るのは、ここに初めて来たとき以来である。シエスタの部屋がある一階を通り抜
けて、二階へ上がる。ルイズの寝室は、階段のすぐ近くにあった。大きな両開きの扉が、ティファニ
アの前にそびえ立っている。
「奥様に、お客様がいらっしゃったことをお知らせいたします」
 扉に手を触れる前に、ジュリアンが振り返った。
「心の準備を、しておいてください」
 そう言い残し、彼はノックしてから部屋に入った。
「あら、どうしたのジュリアン」
 扉の隙間から、シエスタが死んだ日に聞いた声音が聞こえてくる。ティファニアは身を硬くし、
ポケットの中のナイフを強く握り締めた。
(タバサさん……どうか、わたしに、選択を誤らぬ力をください)
 念じると同時に、また声がした。
「珍しいわね、お客様? どうぞ、お通ししてちょうだい」
 ジュリアンが出てきて、部屋に入るよう無言で促した。彼はついてこないらしい。ティファニアは一
人、帽子のつばをつかんで下げながら、ルイズの寝室に足を踏み入れる。
 寝室は、元貴族のものとしては実に質素なものだった。シエスタの部屋も私物は少なかったが、こ
ちらもさほど多くはない。ただ、部屋の隅に置かれた長櫃だけが、やけに目に付いた。
「ようこそ、剣の城へ」
 長櫃とは反対側の隅から、声がした。ティファニアは、はっとしてそちらを見る。そこには質素だ
が大きなベッドが置いてあった。一人用ではなく、二人用だ。その事実が、胸を強く締め付ける。
 そしてそのベッドの上で、一人の老女が上半身を起こしていた。
「わたくし、主の留守を預かっておりますルイズ・ド・ラ・デルフリンガーと申しますわ」
 穏やかな声で話しかけられ、微笑みかけられたとき、ティファニアは決意も覚悟も何もかも忘れて、
その場に立ち竦んでしまった。
(ああ、この人、この人は……!)
 年老いたルイズの顔を見るのは、これが初めてではない。彼女の記憶を消すために城に侵入したと
き、寝顔を何度も見ている。ここに来るまでの間だって、彼女が起きて話をしたらどんな風だろうと、
繰り返し想像してもいた。
 だが、実際にこちらに語りかける彼女を目にすると、そういった何もかもが全て虚構に過ぎなかっ
たと、自覚せざるを得なかった。
「こんな格好でごめんなさいね。最近足が痛くて、もう立つことも苦しくて」
 申し訳なさそうに詫びるルイズを見つめていると、ティファニアの胸にじわりと温かさが広がった。
今すぐ彼女のそばに駆け寄り、その膝にすがり付いて声を上げて泣きたくなってしまった。そうした
くなるぐらいに、穏やかで、優しい雰囲気を持った老女だった。アニエスがルイズのことを陽だまり
と称した理由が、今ではよく分かる。
 そうやって扉のそばで立ちすくむティファニアのことを、ルイズは少し怪訝そうに見つめていたが、
やがて何かに気付いたように少し首を傾げた。

60:不幸せな友人たち
08/02/17 16:46:38 fIg3HJdo
「あら、失礼ですけれど、どこかでお会いしたことがあったかしら」
 心臓が高鳴る。ルイズはそんなことには気付かぬ様子で、控え目に微笑んだ。
「気のせいですわよね。こんなに若々しくて、美しい金髪の方と知り合う機会なんて、わたくしのよ
うな老人にあるはずがありませんもの」
 そう言ったあとで、まだ自分の記憶を探るように、かすかに眉をひそめる。
「ああ、だけど本当にどこかでお会いした気がするわ。失礼ですけれど、その帽子を脱いで顔を見せ
てくださらないかしら」
 ティファニアは息を飲んだ。ついに、この瞬間がやって来た。腕を伸ばし、帽子のつばをつかむ。
震える手に無理矢理力を込め、ゆっくりと帽子を取った。
 ルイズの顔に驚きが広がった。
「まあ、テファ。ティファニアじゃないの」
 その視線から目をそらしそうになるのを我慢しながら、ティファニアは問いかける。
「わたしのこと、覚えておいでですか」
 声が震えなかったのは奇跡に近い。ルイズは微笑んで、何度も何度も頷いた。
「ええ、もちろん覚えているわ。友達の顔を忘れる訳がないでしょうに。こっちに来て、もっとよく
顔を見せてちょうだいな」
 ティファニアはルイズのベッドに歩み寄り、そばにあった椅子に腰を下ろした。自分が変な歩き方
をしていないか、座り方がおかしくないか、気になってしょうがない。
 間近で見るルイズの顔は、やはり年老いていた。しかし、もう八十近い年齢とは思えないほどに
若々しい。もちろん皺はあるが、一番深いのは口の周りの笑い皺だったし、鳶色の瞳は若いころと同
じく、いや、もしかしたら若い頃よりもずっと明るく輝いている。何よりも表情や仕草がとても穏や
かだ。一目見ただけで、誰もが彼女の幸せな人生を思い浮かべるだろうと思わせる老女だった。
 ルイズは微笑みながらティファニアの顔を見つめ、深く頷いた。
「本当に懐かしいわ。あなたはちっとも変わっていないのね。やっぱりエルフの血が混じっているせ
いかしら」
 そう言ったあと、少し慌てて詫びる。
「ああごめんなさい、悪い意味で言った訳ではないの。許してちょうだいね」
「いえ、そんな……本当のことですし」
「そう、ありがとう。だけど本当に嬉しかったのよ、わたし」
 微笑に少しだけ寂しさが混じる。彼女はベッドの枠に背をもたれさせながら、目を細めた。
「何故かしら、一人ぼっちになってしまった気がしていたのよ。キュルケもシャルロットも、ギー
シュやモンモランシー、姫様にアニエス様。皆、ずっと前にお亡くなりになって」
 その口ぶりに、悔恨や苦悩の色は窺えない。皆穏やかに死んだと、シエスタが教えたのかもしれない。
「半年前にはシエスタまで死んでしまって。その頃からかしらね、何故だか急に元気がなくなってし
まったの」
 疲労の色を滲ませながらも、その顔にはまだ優しい微笑がある。
「変よね、一人ぼっちだなんて。わたしにはまだサイトがいるっていうのに」
 ティファニアは椅子の上で身を硬くした。ルイズの口からサイトという言葉が漏れ出た瞬間、遠い
昔の雨の日の、血走ったルイズの瞳が脳裏に蘇ってきた。
 そんな彼女には気付かぬ様子で、老女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「今ではもう食事も満足に食べられないのよ。折角作ってくれるジュリアンには悪いのだけれど」
 彼女のことを見ていられなくなり、ティファニアは目をそらす。そして、ルイズの枕元に、見覚え
のある封筒と便箋が置いてあるのを見つけて、思わず訊ねた。
「あの、それは?」
 ルイズはティファニアの視線を追って、笑った。
「ああ、これ? これはサイトからの手紙。サイトったらこの年になってもまだ子供みたいに世界中
を駆け回っているのよ」
 もちろん、それは嘘だ。そういう風に、ティファニアが書いただけの話だ。
「そんな元気な人の妻なのに、わたしは今や夫からの手紙を読み直すぐらいしか楽しみのない、寂し
い老人だわ。ううん、そのはずだけれど、あまり寂しくはないの」
 先程、一人ぼっちになってしまったと言ったことを考えると、少し矛盾した台詞である。だが、お
かしいとは思わなかった。友達が死んでしまったことは寂しく感じるが、今そばにいないとしても、
愛しい人が生きているからあまり寂しくない。そういうことなのだろう。

61:不幸せな友人たち
08/02/17 16:47:54 fIg3HJdo
 ルイズはそっと手紙の一枚を手に取り、少し骨ばった指先で、ゆっくりと紙面を撫でた。
「サイトは今でも、三日に一度は手紙を送ってくれるわ。考えてみれば不思議よね。この六十年間、
どんなところにいても、サイトからの手紙が途絶えることはなかったもの」
 普通に考えれば、おかしなことである。だがルイズは、あまり訝る様子を見せなかった。サイトな
らどんなことをしてもおかしくないと、疑うまでもなく信じているような雰囲気だった。彼女は手
紙に視線を落としたまま、懐かしむように目を細める。
「本当に、いろいろなことがあったわ。もっとも、わたしはずっとこの領地を守っていただけだった
けど。その間、サイトは帰ってきてはすぐに出かけていって。今度こそ落ち着いてくれるかと思って
いたら、思い出を作る暇すらなくすぐにどこかへ」
 ルイズは、自分の背後にある大きな窓を振り返った。深い森と山々を背景に、暖かい春の日差しが
降り注いでいる。薄くかかっていたはずの雲は、いつの間にかどこかへ消え去ってしまっていた。青
い空を一羽だけで飛んでいる鳥を、彼女はじっと見つめている。
「だけど、そういう人なのよね。世界のどこかにあの人を必要としている人がいて、そういう人がい
る限り、あの人は躊躇いなく飛んでいくんだわ」
 飛んでいた鳥の後を追って、もう一羽鳥が飛んできた。二羽の鳥が連れ立って空の彼方に去るのを
見送ってから、ルイズはまたこちらを向く。目を瞑り、自分の胸に手を当てていた。
「結局、わたしの記憶に色あせずに残っているのは、六十年前の、まだ子供だったサイトの姿だけ。
でもね、わたし、それでも後悔はしていないのよ。だって、ずっとサイトを支えてこられたんですも
の。困ったり、泣いたりしている誰かのためなら、自分のことなんか省みずに助けに飛んでいく。そ
んな人の妻として、いつか帰ってくる場所を守ることができたんですもの」
 か細く、だが深く響く声で呟き、ティファニアに微笑みかける。
「だから、とても満足しているのよ。人は不幸な女というかもしれないけど、わたしは胸を張って言
うことが出来る。わたしの人生は、他の誰よりも幸福なものでした、ってね」
 ティファニアは表情を隠すために俯き、強く唇を噛んだ。膝の上に置いた右手の手首を、左手で思
い切り握り締める。今すぐこの場から逃げ出したいという衝動が、抑えきれないほど高まってきた。
「そうそう、今サイトがどこにいるか、知ってる? 今はね、西の大洋の上よ。サイトが年がいもな
く西に向けての航海に旅立ってから、もう何年かしら。ほら見て、あの人からの土産話がこんなにも
たくさん。それにね、あの人ったら、昨日の手紙にこんなこと書いてたのよ。『いま、帰りの船に
乗っている。長い間待たせてばかりですまなかった。今度こそ、ずっと一緒にいよう。もうすぐ、お
前のところへ帰る。愛しているよ、ルイズ』」
 もちろん、ティファニアはその文章を知っていた。なにせ、それは昨日自分が書いたものなのだか
ら。昨日、そんな文章が自然と紙面に記されたこともまた、今日ルイズに会うという決意を後押しし
てくれたのだ。
 ルイズはその文に目を落とし、思いやり深く苦笑した。
「ふふ、馬鹿ねえ、今頃そんな風に気を遣わなくっていいのに。ああ、だけど、聞いてちょうだいテ
ファ。わたし、最後の最後にサイトを悲しませることになりそうなの」
 ティファニアは顔を上げた。ルイズの瞳と目が合うと、彼女は一つ頷いた。
「そう、死期が近づいているのよ。サイトが帰ってくるまでは頑張ろうと思っていたんだけど、自分
でも分かるの。わたしは多分あと一ヶ月、ううん、きっと一週間も生きていられないだろうって。だ
から、ね、テファ。友人として、わたしのお願いを聞いてもらえないかしら」
「なんでしょうか」
「せめて、わたしがいなくなってもサイトが静かに暮らしていけるように、遺言を残しておきたいの」
「遺言、ですか」
「ええそう、サイトはずっとこの領地を留守にしていたから、今自分がどのぐらいの財産を持ってい
るかなんて全然知らないと思う。確かにわたしたちはもう貴族ではないけれども、それでもいくらか
財産はあるわ。そういうことでゴタゴタさせて、サイトを疲れさせたくないの。だから、ね」
 そう言ったあとで、ルイズは何度か苦しそうに咳をした。気息を整えたあとで、「ごめんなさい
ね」と申し訳なさそうに言う。自分だって苦しいだろうに、人にはそれを見せないのだ。そんな人の
頼みを断れるはずもなく、ティファニアは頷くしかなかった。


62:不幸せな友人たち
08/02/17 16:48:50 fIg3HJdo
「そう、ありがとう、テファ。それじゃあ今から遺言状の内容を言うから、代筆してくれないかしら」
 ティファニアは目を見開いた。手の平に汗が滲んでくる。
「代筆って言うと、わたしが、ルイズさんが仰ったことを書くんですか」
「ええそう。ごめんなさいね、もう手も満足に動かせないの。サインだけは何とかするから、ね」
 ティファニアはぎゅっと目を細めた。自分が書いた文章を見たら、ルイズはずっと届いていた手紙
の本当の作者が誰なのか、気付いてしまうかもしれない。そうしたら、それをきっかけに失った記憶
を取り戻してしまう。何故か、そんな確信がある。
(どうしよう。どうしたら)
 ポケットの中のナイフを握ることも忘れて、ティファニアは迷う。ルイズに真実を告げることを目
的としてここに来たはずなのに、いざそのときがくると、やはり心が大きく揺らいでしまう。
 そんなティファニアを見つめて、ルイズは心配そうに、少し身を乗り出してきた。
「どうしたのテファ。そんな悲しい顔をするなんて」
 ルイズの瞳は穏やかで、そこには相手を案ずる優しさしかない。
「ごめんなさい」
 ティファニアは考えもなしに謝っていた。何に謝っているのか、自分でもよく分からなかった。
 ルイズはゆっくりと腕を伸ばして、ティファニアの手にそっと自分の手を重ねた。
「謝らないで。あなたは何も悪くないでしょう。ね、お願い、テファ。わたしの最後のお願いを、ど
うか聞いてちょうだいね」
 緩やかな声音に、強制を強いるような響きは全くない。
 断ろうと思えば、断ることもできる。ルイズはきっと許してくれるだろう。それは悪魔の囁きであ
り、甘美な誘惑だった。ティファニアはポケットの細長い膨らみを数秒見つめ、顔を上げた。
「分かりました、代筆させていただきます」
 ルイズの顔に喜びが広がった。
「ああ、ありがとうテファ。それじゃ、お願いしますね」
 ティファニアはルイズの指示に従って、テーブルをベッドのそばに運んできた。その上にインク瓶
と羽ペン、上質な紙を置き、ペン先をインクに浸す。
 それを確認したルイズは、ベッドの上で背筋を伸ばすと、目を瞑ってゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
自分達のわずかな財産を、残された夫が穏やかに暮らしていける最低限の分だけ残して、あとは全て
国に返還する、という内容だった。実際には彼女は一人身だから、結局財産は全て国に返還されるこ
とになるだろう。
 ティファニアは一字一句違えずに、ルイズの言葉を書き写し続けた。声はこちらを気遣ってか非常
にゆっくりだったから、書き写すことそれ自体は、特に難しくはない。
 だが、腕が震えるのをどうしても抑えることができず、書き記された文字はいつもよりも粗雑なも
のになってしまう。その震えがルイズに真実を知られるかもしれないという恐怖からくるのか、それ
とも真相を悟られまいとする無意識からくるのか、彼女には判断できなかった。
 そうしている内に、声は終わった。ベッドの上でルイズが目を開き、疲れたようにため息をつく。
「……ありがとう、テファ。これで遺言は全てよ。さあ、サインをしなくっちゃ」
 そう言うと同時に、体が傾いだ。ティファニアは慌てて腕を伸ばし、ルイズの体を支える。さして
力のない女の細腕でも支えられるほど、老女の体は細く、軽かった。
 ルイズは恥らうような表情で、ティファニアを見た。
「ごめんなさい、体を支えてくださるかしら。ありがとう」
 ティファニアはルイズの体を支えたまま向きを変えさせ、ベッド脇のテーブルに向き直らせた。遺
言の記された紙に目を落としたルイズが、驚いたように目を見開く。
「あら、テファ。不思議ね、あなたの文字、びっくりするぐらいサイトにそっくりだわ」
 息が詰まった。背中に汗が滲んでくる。
(言わなくちゃ)
 ティファニアはぎこちなく唇を開く。それは当然だ、と。ずっと自分が手紙を書いていたのだか
ら、と、言わなければならない。だが、出てきたのは全く違う言葉だった。
「そうなんですか?」
「ええ、サイトの方がもっときれいだけど」
(何をしているの、ティファニア。早く、ルイズさんに本当のことを打ち明けなさい。何が正しいの
か、よく理解してここに来たはずでしょう、あなたは!)
 心の中で罵り声を上げるが、どうしても真実を告げる言葉が紡げない。そんなティファニアの前で、
ルイズはしげしげと遺言状を眺め、深く思い悩んでいる様子だった。

63:不幸せな友人たち
08/02/17 16:49:48 fIg3HJdo
「本当に不思議。どうしてこんなに似ているのかしら……」
 そう言ったあとで、彼女は不意に目を閉じ、なにかを考え込むように沈黙し始めた。
 ティファニアは全身に嫌な汗を感じながら、ルイズの言葉を待つ。しかし、彼女は黙ったまま、な
かなか口を開かない。
「ルイズさん?」
 耐え切れずに声をかけると、彼女は小さく体を震わせ、目を開いた。ティファニアを見て、穏やか
に微笑む。
「ああ、そうだったわね、まだ力が残っているうちに」
 体から力が抜けそうになった。ルイズの顔には、怒りや憎しみどころか、何の疑いも浮かんでいない。
(気付かなかったんだわ)
 ティファニアはどこかぼんやりとした心地でルイズの腕を支え、彼女が震える手でゆっくりと署名
するのを見守った。そうしたあとで、すっかり力を失ったルイズの体を、そっとベッドに横たえてやった。
「これでいいわ。この遺言はジュリアンに渡してちょうだいね」
 ルイズの頼みに、ティファニアはこくりと頷いた。ひどく疲れているようで、何も考えることが出来ない。
「本当にありがとう、テファ」
 ティファニアは我に返った。枕に頭を乗せ、眠るように目を閉じたルイズの顔に、満ち足りた微笑
が浮かんでいる。
「これで、思い残すことなく逝くことができる」
 ルイズが迷いなく呟く。ティファニアはぐっと拳を握り締めた。何か、胸からこみ上げてくるもの
がある。それが零れ落ちないように、目に力を込めながら問いかける。
「本当ですか?」
 するとルイズは目を開き、微笑を苦笑いに変えてティファニアを見た。
「ふふ、そう、嘘よ。本当は、最後に一目だけでいいからサイトに会いたかったわ。だけどおかしい
わね。最後に思い出すサイトの顔も、やっぱりあの頃のままなの。本当に、おかしな人生だったわね」
 ティファニアは唇を内側から噛み締める。閉じた顎が細かく震えているのが分かった。
「だけど、楽しかったわ」
 ルイズがため息をつくようにそう言ったとき、とうとう耐えられなくなった。ティファニアは両手
で顔を覆って、声を上げて泣いた。自分を責める言葉も何かの理屈も、もう少しも心に浮かばない。
ただ泣きたかった。その想いのまま、声が続く限り、泣き叫び続ける。
 ルイズが困ったように眉尻を下げる。
「ああ、泣かないでちょうだい、ティファニア。わたしはとても幸福なの。幸福なままで、死んでい
くのよ。だから、悲しいことなんて何もないの、だから、泣かないでね、ティファニア」
 ティファニアを慰めるルイズの声は子供をあやすように優しく、涙を拭ってやれないためか、少し
だけ悲しそうだった。

 なんとか泣き止んだティファニアを見て、ルイズは問いかけた。
「これからアルビオンに帰るの?」
「はい、そうなると思います」
 曖昧な答えになってしまったが、ルイズは特に気にしなかった。
「そう。それがいいわ、友達の葬儀って、悲しいもの。わたしのことは気にせず、気をつけて帰って
ちょうだいね。旅の無事を祈ってるわ」
「はい。さようなら、ルイズさん」
「ええ、さよなら、テファ。わたしの大切な友達」
 ティファニアはルイズに背を向け、歩き出した。扉を開けて、外で待機していたジュリアンと入れ
違いに部屋を出る。扉が閉まる直前、二人の声が聞こえてきた。
「少し休むわ、ジュリアン。食事はいいから、あなたも自分の部屋で休んでちょうだい」
「分かりました、奥様」
「夜になったら、眠る前にこの部屋に来てちょうだい。愛しい人のために、最後の一仕事をしなけれ
ばならないの」
 ティファニアは逃げるように駆け出した。

 その夜、ルイズは息を引き取った。
 彼女の言葉に従って、夜になってからジュリアンが寝室を訪れたときには、もう死んでいたそうだ。
 死に顔はとても穏やかで満足そうだったと、彼が教えてくれた。
 その報せを聞いて、ティファニアは涙を流さなかった。
 悲しくなかったのではなく、自分には彼女を想って涙を流す資格すらないと考えたからだ。
 ルイズは嘘に包まれたまま生涯を終えたのだ、とティファニアは思った。

64:205
08/02/17 16:51:09 fIg3HJdo
以上。読んでくださってありがとうございました!
残りはエピローグである「彼女の選択」だけとなります。
早ければ今夜中、遅くとも今週末までには投下できるかと思いますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
では。

65:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:00:33 bn/xLPzz
はぁ・・・せつねー

リアル遭遇わっふるわっふる

66:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:04:02 HRK5Jeer
乙です、
しかしすごい執筆速度と質ですな、尊敬します

67:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:09:19 tBYxTvE6
GJです。あれ、目から塩分が・・・

68:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:25:04 m5fX2nDl
うう・・・

69:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:27:25 m5fX2nDl
>>64
一生懸命読んでます。ありがとう

70:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:44:41 RcZrOhV4
アン様が凄いことになってるのに何故だろう……
目から汗が止まらないぜ……

71:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:53:33 VXMEoqnH
いつもスキップだったのに、今回ははじめてひとたば全部読んだ…

過去ログ追ってみるか

72:名無しさん@ピンキー
08/02/17 17:58:52 tkRwwYBE
アン様…

不幸なシリーズもクライマックスかぁ

73:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:01:22 BE64BrWE
目の前がぼやけて見える、GJです

カトレアさんが、サイトを賭けて麻雀やってる時に、理牌をしてる他のメンバーを見てそれぞれの待ち牌を振りこまないようにして
一人勝ちをするのは想像出来んだけど、文にできないorz

74:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:05:22 OLywp99q
>>64
せつない 皆辛かったんだろうな 
ルイズは最後に気が付いたのかな?
そしてテファはどうなるんだろ

75:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:21:31 2IibZQMc
アン様・・・
心からGJを送らせてもらう
あと少し頑張って下しあ


76:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:33:48 m5fX2nDl
しかしここまで想われる男になってみたいような、なってみたくないような

77:また挿してみた。
08/02/17 18:37:37 B4ZApLeE
涙が出る・・素晴らしい出来だ!
ブラボー

78:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:37:57 BE64BrWE
>>41
妄想は出来ても、文才がないorz

>>76
いや、なりたいだろ普通w

79:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:46:18 m5fX2nDl
>>78
そっかな。重すぎるw
まぁ逆にいえばそれだけの器がないとここまで惚れられないかな

80:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:50:02 BE64BrWE
>>79
その重さがヤンデレ好きにはたまらないw
それを言われると……

81:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:51:49 f/B89TVK
>>80
あれ、俺書きこんだっけ

82:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:55:03 tBYxTvE6
ヒロインズがみんなそれなりに重いからなぁ。テファとタバサは境遇が。
シエスタは純粋に才人好き好きーですでに「二番目でもいい」まで来てるし。
ルイズとアン様はすべてが重い。
>>80-81
うぬら、俺のドッペルか

83:名無しさん@ピンキー
08/02/17 18:58:43 bW/6ZrWW
みんなサイトを好きになりすぎたな。
実際ルイズも原作で末期な感じだし。
ところで>>80-82は俺の分身か?

84:名無しさん@ピンキー
08/02/17 19:36:56 giIj2dC1
>>64
GJ!
長命は不幸だってよく言うけど、
テファは優しいだけにほんとかわいそうだ。

俺の脳内にはこんなかんじに疲れたテファが浮かんでいた。
URLリンク(upload.fam.cx)

無断挿しだから不快だったらすまない。

あ、ろだ一緒だが絵柄見ての通り上の方の挿し氏とは別人。

85:名無しさん@ピンキー
08/02/17 19:46:13 bo9AE0I4
無断挿絵GJ!
>13のまた挿してみた氏もGJだ

了承は不要だからガンガン描けばいいじゃん

86:名無しさん@ピンキー
08/02/17 19:47:55 hty200F9
有無、そろそろエロ分が欲しくなったな・・・

87:名無しさん@ピンキー
08/02/17 20:22:19 BE64BrWE
>>81ー83
仲間だww

保管庫に、サイトがルイズの母親とヤるようなSSってなかったっけ?

88:205
08/02/17 20:28:01 fIg3HJdo
>>84
ありがとうございます。疲れたテファはもちろん、後方の棚に青銅の置物とかがしっかり描き込まれているのに感激しました。
情景描写とかが苦手で、「狭苦しい小屋」としか表現できなかったのになあ……今度はもっと頑張ります。

さて、エピローグが予想以上に早く書き上がったので、これから投下します。
今日は凄まじく連投しておりますが、このSSに関してはこれが最後となりますので、どうかご容赦ください。
では、不幸せな友人たち エピローグ「彼女の選択」を投下いたします。

89:不幸せな友人たち
08/02/17 20:28:53 fIg3HJdo
 ティファニアはルイズの葬儀には参列しなかった。自分にはその資格がないと思っていたので、町
中の大通りにあるベンチに一人腰掛けて、大通りを埋め尽くす人々を眺めていた。
 やはりルイズは自らの死を予期しており、葬儀の準備は既に整えられていた。だから、死の翌日、
城の住人で一人生き残っているジュリアンが、町の教会から司祭を呼び、ささやかな葬式を挙げる。
それだけのはずだったのだが、元男爵が死んだと知るや否や、町中から喪服を纏った人々が城に押し
かけ、とてもささやかな葬儀どころの騒ぎではなくなってしまったのだという。
 ジュリアンは止む無く日程を一日ずらして新たに準備を整え、ルイズが死んでから二日後の日に葬
儀を執り行うこととなった。
(人、多いな)
 ベンチに座って黒い人だかりを見つめながら、ティファニアは驚いていた。人の数はあまりに多く、
どう見ても町の住民だけではない。最新式と思しき空船が町の上空に停泊しているのを見る限り、ど
うやら町の外からも大量に人が訪れているらしかった。外界に情報が伝わる速度はもちろん、それだ
け多くの人がルイズを慕っていたという事実が、ティファニアには信じられなかった。
(ルイズさんは、ずっとこの領地にいて、外界の人と会う機会なんてほとんどなかったはずなのに)
「もし、そこの方」
 不意に声をかけられて、ティファニアはびくりとしながら振り向いた。人だかりから抜け出してき
たと思しき黒い喪服の老婆が、ヴェールの下からティファニアを見つめていた。
「わたしに何かご用ですか」
 動揺を抑えながら問うと、老婆はティファニアの姿をしげしげと眺めて、首を傾げた。
「旅の途中か何かですか? こんな街道から離れた町に立ち寄られるとは、珍しい」
 ティファニアは自分の格好を見下ろした。あの日着ていた緑色のワンピースそのままだ。当然、ほ
ぼ黒一色の人々の中では目立っている。それで声をかけられたのだろう。
「ええ、まあ、そんなところです」
 頷くと、老婆は「そうですかそうですか」と嬉しそうに頷いた。
「この町も、わたしが生まれたころは本当に貧しいところでねえ……外から人がやってくることなん
て滅多になかったのに。本当に、男爵様が来られてから、何もかもがいい方向に変わりました」
 老婆は懐かしむように大通りを見回している。ティファニアもそれに習い、ここに来た当時の記憶
を思い起こした。あのころ、ここには一本狭い道が通っているだけで、陰気な人々が狭そうに肩を寄
せ合って細々と生活していたものだ。それが今や、様々な店が立ち並び、屋根の隙間から教会の尖塔
が垣間見える、賑やかで美しい通りに変わっていた。
「あの方のご指導があって、村は町になり、わたしたちは豊かになりました。男爵様はその頃から滅
多に町に下りてこられなくなりましたが、商売のためにやって来た人や、穏やかな生活を求めて越し
てきた人たちは、みな男爵様に会われて『なんて尊いお方だろう』と喜ばれたものですよ。男爵様か
ら助言や励ましを受けて、人生をやり直せたという方も少なくありません。だから、こんな辺鄙な町
に、こんなにも人が集まったんですよ」
「そうなんですか……男爵様、という方は、とても慕われておいでだったのですね」
「ええ、ええ、そうですとも」
 老婆の皺だらけの瞳から涙が一粒零れ落ちる。
「よろしければ、あなたも男爵様の冥福をお祈りください。本当に、とても立派な方でございました」
 手を組んで祈る老婆の前から、ティファニアはそっと立ち去った。ルイズの冥福を祈る資格は、自
分にはない。そう思った。
 やがて剣の城の城門が開かれた。黒い人の列は少しずつその中に飲み込まれ、偉大な女男爵との短
い別れを済ませて、また山を下りてくる。
 ルイズの亡骸は、森の奥深くにある才人の墓に、彼と一緒に葬られることとなった。あとでジュリ
アンから聞いたところによると、シエスタがそう指示したらしい。自分の死体は町の共同墓地に一人
で葬り、ルイズの亡骸は才人の隣に一緒に眠らせるようにと、ジュリアンに頼んだそうだ。
 棺を担いだ葬列が、ジュリアンの案内で深い森の中を抜け、粗末な小屋のそばを通りすぎ、あの森
の中の小さな広場、突き立てられた剣の下にルイズの亡骸を埋葬する。その光景を、ティファニアは
町の片隅で静かに思い浮かべた。


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