【涼宮ハルヒ】谷川流 the 58章【学校を出よう!】at EROPARO
【涼宮ハルヒ】谷川流 the 58章【学校を出よう!】 - 暇つぶし2ch19:意味を為さない哀dentity
08/02/14 12:03:35 0tcfEZc0


翌日の部室、涼宮さんが朝比奈さん手製三個目のチョコレート争奪戦の開催を決定したことのみ知らされていた僕は、早
々に召集があるだろうことを察知して事前準備の為、早くに部室を訪れました。
涼宮さんも朝比奈さんも彼も、まだ来ていない文芸部室で、長門さんは当たり前のような自然さで、窓際の定位置にて頁
を繰っていました。此方には見向きもせずは何時も通りで、僕はそんな彼女の横顔を見つめ、かつて上司から投げ掛けら
れた台詞を思い返していました。
―人は、浮かれ騒いでいられる内が華ですよ。恋も愛も刹那の祭、そういうものです。
熟達した人の諦観交じりの忠言。青春は今生きる自分達だけのものだから、大切になさいと、彼女は笑っていました。
彼女もそんなアドバイスを下さるほど枯れた年代には遠いと思うのですがね。
エキセントリックな団長の言動も「彼」の付き合いも、見慣れれば微笑ましい夫婦漫才のようなもので。一触即発とまで
はいかなくとも、決して本音を晒して付き合うまでには至れそうになかった各勢力の集いすら、良好な関係を築き上げて
いける自信を持った今。

僕は長門さんの白い相貌に視点を合わせて、ただ、思っていました。
恋も愛も刹那の祭。ならば僕は、神輿担ぎにすら尻込みして乗り切れず、遠巻きに誘いをはぐらかして笑っているしかで
きない、ただの見物客。主役達が楽しげに踊るのを会場の隅にて見届ける傍らで、パレードの舞台裏で駆けずり回ってい
る端役でしかない。そんな端役が、物語の展開に力を握るような少女を好きになったとして、そこに生まれる話は誰かの
眼に触れる意味の、価値のあるものでしょうか?

僕はまだ、そんな言い訳を捜しています。往生際の悪いことは百も承知ですが、こればかりは明断も出来かねます。好意
を寄せている自分が、その不毛さをも承知済みで一喜一憂する。僕なら、退屈な噺になるだろうと分かっていて聞き手に
回ろうとはとても思いません―そこに連なるのは、報われぬ結末と知っているから。
それでも。
それでも変わることは、伝えられることはあるのでしょうか。砕け散って粉になり、砂に紛れて形も見えなくなるだけと
決まっている、こんな想いでもいつかは。
『ホントは唐辛子でも入れようかと思ってたんだけど、しなかったけど、何よっ、その目っ!』
―長門有希。彼女なりのコミュニケートが、異物混入をして反応を見守るという遠回しな遣り方を用いた「冗談」なの
か、「彼」に宛てた物を単に取り違えたのか、それらの推測をひっくるめたそれすら恣意的な彼女の思惑に拠るものなの
か。
最早どうでもいいことでいた。
何にせよ、僕が彼女に投げ掛ける為の言葉は、昨晩から決まっていたのでね。


「長門さん」
呼び掛けに、少女は応じました。す、と浮かんだ瞳は揺らぎのない闇を湛えて、僕を常に射抜くように見ている。夜の深
淵のような双眸に映された僕は、叶う限りの泰然さを装った微笑を浮かべました。
紳士的な振る舞いを絶やさずに、礼儀を持っての心からの、謝礼を。
「昨日は有難うございました。……頂いたチョコレートケーキ、とても、美味しかったですよ」

笑うだけ笑っておけば、こんな日に限って長門さんは「そう」と俯きました。それから間もなく書を捲る手を再開させて
ゆく。僕は涼宮さん達が訪れるまでの間を椅子に腰掛け、長門さんが紙を擦る小さな音に耳を傾けていました。謡うよう
に一定のリズムで鳴る紙響きは、とても優しいものでした。
この見る者によれば些細な事の顛末に、僕の収穫したものといえば、たった一つ。
……そうやって読書をする彼女の口の端に淡い微笑みがあったような。そんな幻覚に現を抜かすか錯覚かをするくらいに、
古泉一樹がおめでたい人間であるらしいということ、―それだけです。




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