【ひぐらし】07th総合part16【うみねこ】at EROPARO
【ひぐらし】07th総合part16【うみねこ】 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/02/10 18:23:34 pOrz8bnE
【作品を投下される職人さんへ】
現在スレが加速しているため、wikiへの収録が追いついていない状況にあります。
可能であれば、職人さんにセルフ保管していただけるよう、お願いいたします。

<作品ページを新規作成>

 新規ページの作り方
 ①:「@wikiメニュー」から「新規ページ作成」をクリックしたら「新しいページ名を入力して下さい」と言ってくる
 ②:タイトルをフォーム打ち込んだら(チェックはWikiモードのままでOK)「新規ページ作成」のボタンをクリック
 ③:下に出てくる空白にSSをコピペして、ついでに修正
 ④:「プレビュー」を押してチェック
 ⑤:問題なければ「投稿」を押す

<各SSリストを開いて編集>

 編集の仕方(SS本文の修正も同様)
 ⑥:各SSリストを開き、そこで「編集」から「このページを編集」をクリック
 ⑦:下に出てくる文章の適当な箇所に
    -[[作品タイトル(ページ名)]]  と入れる。
 ⑧:プレビューを見て問題なければ「投稿」して終了

何か失敗するかどうしても無理そうなら、そのときに言ってくれれば誰かしら対処しますのでご安心を。

3:名無しさん@ピンキー
08/02/10 18:54:40 7hrpOjPI
>>1

4:名無しさん@ピンキー
08/02/10 19:13:12 BrE3i9b0
乙です!

5:名無しさん@ピンキー
08/02/10 19:32:01 e/Q1iRAX
>>1

6:名無しさん@ピンキー
08/02/10 19:45:59 JoJ+DVHf
スレッドが立ちましたので、こちらに投稿させて貰います。

【注意事項】
・圭×詩 モノです。
・性交シーンまで非常に長いです。
・全体でも性交の描写は多めではありません。

以上。

7:Miwotsukushi
08/02/10 19:46:51 JoJ+DVHf
初めは些細な好奇心だったと思う。
そりゃあ俺だって年頃の男子なわけで。
同じ年代の女の子が―ここでレナたちは対象外とする―どんな生活をしてるか気になるのだ。
別にいつご飯食べてーとか、いつ風呂入ってーとか、そんなんじゃなくて。

あぁ、もうだから。彼氏とか作って、恋愛に身を注いだりするのかなって話だ。
興宮の学校に行っている詩音なら。男女の壁を越えて友達の輪が出来てしまう、雛見沢に住んでいない詩音なら。
そんな思いに駆られて、詩音に俺は「詩音って彼氏いるの?」って質問をしていた。
俺にとっちゃ、別に詩音に彼氏がいようがいまいが、関係ないことであった。
沙都子の面倒を見る良き姉のような存在。その為に毎日うちの学校まで来るのだから、俺は彼女を仲間と疑わない。
それでもどうも、興宮は雛見沢よりもはるかに進んでいるイメージがある俺には、俺のような歳でも恋愛をするのか疑問に思っていたのだ。

詩音は少しの間俺の顔を見つめて、そっと視線を下に落とす。
ちょっとだけ考える仕草をしたのだが、「イエス」か「ノー」しかないはずの質問に、なんで考えるのだろうと、俺は疑問に思った。
「好きな人――はいますよ」
少しだけドキリとする笑顔を見せて詩音は言う。
きっとこれって『片想い』ってやつなんだろうなぁって感想を持ちつつ、俺は更に深追いを敢行した。
「どんな奴なんだよ、サッカー部の部長とかか?」
それ圭ちゃん、マンガの読み過ぎーって突っ込みを入れられて、詩音はまた無言で目線を俺から外し、何もない正面の空間を見つめる。
いつの間にか表情が、笑みと言うよりかは、哀愁のこもった顔となっていた。
「サッカーじゃなくて野球やってましたけど……」
咄嗟に浮かんだ、某超究極甘党のニキビ坊主の顔を頭の中で消しつつ、詩音の続きを待つ。
「圭ちゃん……、悟史くんって知りませんか?」
「悟史……。あぁ……」
確か魅音が部活で使う推理ゲームのカードに、『悟史』と書かれているのを俺は思い出した。
まだ部活に入って数日のこと……。
綿流しも終わった今となっては、かなり懐かしい気もする。
だって綿流しの日は俺の人生で、最も濃密な一日だったのだから。


8:Miwotsukushi
08/02/10 19:47:19 JoJ+DVHf
思えば、あの日を境に俺を取り巻く環境――、いや、魅音を中心として何かが変わった気がする。
最近どうも魅音が俺を避けるようになったと言うか……。
対照的にレナたちが急に、俺と魅音を残して帰ってしまったりだとか。
驚いたのは園崎本家から直々に、俺へあのばかでかい屋敷に招待されて夕食を馳走になったことだ。
あの時の茜さんとお魎ばあさんは上機嫌だったな……。
まさか未だに、委員長の話の勘違いから始まった、俺と魅音が結婚するとかなんとかの話を引きずってるのだろうか。
「悟史って、沙都子の兄ちゃんだよな。転校しちゃったとか聞いてるけど、へぇ……じゃあ遠距離恋愛ってやつかぁ」
「遠ければまだ……、救われるんですけどね……」
え?、と俺が聞き返しても、詩音はそれ以上口を開かなかった。
どうやらあまり聞かれて欲しくない想いだったらしい。口は災いの元。これ以上聞くのは危険なのだろう。
口先の魔術師はこれ以上の詮索をやめて、詩音と共に彼女のマンションへと無言で歩き出した。


9:Miwotsukushi
08/02/10 19:47:56 JoJ+DVHf
圭ちゃんに送られてマンションへ戻った私は、ひどく不機嫌となっていた。
理由は……分かるんだけど、何で不機嫌になるか、その過程が分からなかった。
最近流行のブラックボックスってやつなのかなぁ、と思考を巡らせる。
AがBになるのは分かるんだけど、どうBになるかが分からない。
「ハウなんだよね、ハウ」
と、傍目には分からない独白をして、私は枕に顔を埋めた。
遠ければ救われる、と私は圭ちゃんの前でぼやいた。
それは『諦める』とか『どうしようもない』と言う気持ちが生まれるからだ。
会いたいと思っても、私とそのカレとの距離という問題が、私の中で決定打となる。
手紙を書けばいいだろうし、電話だってかけられる。

――だが、私は別に会えない訳じゃない。
訳じゃない、なんて困難さがあるんじゃない。雛見沢に行けばすぐに会える。
だけど手紙を書こうが、電話をかけようが、悟史くんはなにも返事をしてくれない。
私は話しかけることすら許されておらず、ガラス越しに眠る悟史くんを見つめるだけ。
見つめるだけ。と言うのがどれほど苦しい感情なのか、他の人はご存じなのだろうか。
一日何も飲んでいない人の目の前に、コップ一杯の水があるとしよう。
あなたは卓袱台の前で正座し、そのコップを眺めて乾きを潤す想像しか許されない。
これならば無い方がまだ意識しないで済むのに。
しかし一度存在が目の前にあることを知覚してしまったら、目をつぶってもコップは消えてくれないのだ。


10:Miwotsukushi
08/02/10 19:48:43 JoJ+DVHf
「圭ちゃんのバカぁ……」
傷を掘り返されて、かさぶたさえ出来かけていた私の気持ちは、再び落ち込んでしまった。
こんな時の対処法を…………、私は既に学んだ。
私は自分の居間の扉を開き、玄関の所で靴を履く。
鍵は持たない。そんな時に行く場所と言えば、私にとって一つしかない。
玄関を出てたったの数メートル。私の付き添いを任されている、葛西が住んでいる部屋のチャイムを鳴らす。
「葛西―、詩音―、開けなさーい」
静かな物音が鳴ったと思うと、葛西は躊躇もなく扉を開けて私を見据える。
疑うことを知らないのかこいつは。と思っていた時期もあったが、疑われても葛西との交流が面倒になるので大いに結構。
むしろ既に夜の十時を越えているのに、普段来ているダークスーツを未だ纏っていることを、私は結構としてはいけない気がする。
「詩音さん……、何のご用ですか」
低く芯の通った声は相変わらず。
最近こうやって部屋を訪問するのはなかったので、サングラス越しで少し戸惑っている目をしているのに違いない。
…………そう言えば、こいつはもしかして部屋にいるときもサングラスをしているのか?
「んーちょっと相談がね。聞いてもらいたいことがあってさ」
承諾の返事も聞かないまま、私は葛西を押しのけて靴を脱ぐ。
ある意味暴挙ともいえる行動にも葛西は無言で私を通す。
不満さえ覚えるはずだろうに、彼は本当に私に尽くしてくれている。
やはりかあさんの面影を、私に抱いているのだろうか。
それはショットガンを使いこなす裏の顔の、更に深いところにある葛西の顔のような気がした。
「それで詩音さん、相談とは」
部屋の主であるはずの葛西が立ち、半ば不法侵入の私はフローリングが剥き出しの居間に座る。
私がソファに手を差し伸べると、葛西は一礼してから腰を落とした。
「葛西に正解を言ってもらいたいんじゃないんだけどね」
そう、最初に前置きしてから、私は今日の圭ちゃんとの会話。そして自分の心の不甲斐なさを語る。
感情的にならないよう冷静に、あくまでも淡泊に私は言葉を続ける。
葛西は殆ど圭ちゃんのことを知らないに等しい。だから私は本当に解答が欲しいのではない。
この問題は1やエックスからなる数学の問題ではなく、多種多様の返答がある道徳なのだから。


11:Miwotsukushi
08/02/10 19:49:16 JoJ+DVHf
時間にしては数分程度のことだったと思う。
それでも私は、一時間以上もやもやとして頭にくる原因が、すっきりとした感覚を覚えた。
ストレスは溜めるからこそ不快の根元となる。発散さえすれば、何も恐れることはないのだ。
その発散の仕方が、私はただ平和的なだけ。学んだ、とはそう言うことだ。
葛西は一度も私に相槌をせずに、じっと私の方へと顔を向けていた。
頷きもせず、顔をしかめたりもせず、至って中立の立場で私の話を聞いているようであった。
私が話し終わって、カーテンも閉まっていない窓の奥を見始めても、葛西の口が動くことはない。
数分は経ったと思う。
葛西は詠うように喋り出した。
「私はどんなことがあっても、詩音さんが選んだ道を支持します」
それは姫に仕える騎士のような忠誠心。
「間違った道であるなら諭しはしますが、それでも詩音さんが選ぶなら私は従います」
それは主人に仕える執事のような冷静さ。
「詩音さんは考えすぎな面もあります。でも今のあなたには一人で考えるのを許さない友人がいるのでは」
それは村を見守る神のような荘厳さで、葛西は口元を弧の字に和らげるのだった。

あなたが話す相手はもう私ではない。この興宮にあなたが居る意味などない。

重厚な葛西の声が耳を通して脳に行き渡り、凛と響く意が私の心を満たしていく。
壁に掛かっている時計を見る。
短針は10、長針は4を指していたが、私は雛見沢に出発する準備をするため立ち上がった。
「葛西、今から車を出せる?」
「承知」
向かう先は…………園崎家に居る園崎魅音のもと。


12:Miwotsukushi
08/02/10 19:50:02 JoJ+DVHf
お風呂から出て上がり気味の体温を、初夏の夜が優しく包み込む。
未だ残るすねの擦り傷をさすりながら、私は三日月の月光を庭先で浴びていた。
家事手伝いの佐智子さんが置いていったスイカには手をつけず、ただただ眠気が来るのを待つ。
最近はこうやって呆然と風景を眺めるのが多くなっていた。
受験生であるのだから、実を言うとうかうかしていられないのだが、やはり私に勉学は向いていないらしい。
やる気を起こそうとしない、ってのは本当受験生失格な態度だと思う。
「圭ちゃんに教えてもらった方がいいのかなぁ……」
どうなんだろう。それは充分圭ちゃんとぎくしゃくした――否、ぎくしゃくさせた関係を修復する手段になるだろうか。
最近の私はとにかく変だ。
部活中でも圭ちゃんと目が合うと、体温が上がってしまう。
圭ちゃんが私の弁当に箸を伸ばすことも気になって。
そして圭ちゃんがレナや沙都子と世間話するのさえ、圭ちゃんを許し難い気持ちになる。
だから私が何かしらの行動をすればいいのに、私が一方的に避けてしまって圭ちゃんも最近は自分から話しかけなくなった気がした。
別に明日から劇的な変化を望んでいる訳ではないのだ。
ただ、綿流しの前のように普段通り接せればいいだけ。なのに私は踏み出すことを躊躇ってしまう。
「本っ当、私は不器用だわぁ……」
神にでも報告するように独り言を呟いてみるのだけど、だからって慰めてくれる何かが居るわけではない。


13:Miwotsukushi
08/02/10 19:50:51 JoJ+DVHf
「そうですね、お姉は正真正銘の不器用な女ですよ」
「え? へ? 嘘」
おいおい待て待て。たかが地方の村レベルで広い家に遊びに来るほど、神様って気軽な存在なのか。
いや、むしろ私をお姉って……。あぁ、そうだ。混乱するな園崎魅音。
私はこの声を誰よりも知っているではないか。
「あんった、そこでなにしてるの!?」
婆っちゃに聞こえない程度の怒鳴り声で私は侵入者に声をかける。
詩音は庭の奥の草むら、もとい幼い頃から使っている抜け道から姿を現した。
「はろろーん、お姉、なにたそがれてたんですかぁ?」
「あんたこんな時間に何で来るのよ……、もうちょい早かったら婆っちゃと鉢合わせてたよ」
お風呂に入るまで私は、そこの縁側で婆っちゃと座ってたのだから、もしそこで草むらから我が妹が登場したら……。
修羅場で済んだらラッキーって感じだろう。
「ありゃ、そうだったんですか。これからは気をつけますね」
これからって、こんな時間にいつも来られたら、それはそれで危なっかしいんだけど。
そんな不満を喉の辺りでもみ消して、私はため息をついた。
婆っちゃはこの時間なら寝てるだろうし、興宮から来たのだろうから葛西もいる。
別にすぐに追い返しても得となることは無いに違いない。
「それで…………どうしたの?」
「んー、なんですか? 姉妹って理由もなしに会ってしゃべっちゃいけないとでも言うんです?」
「茶化さないで。少なくともあんたはそうでしょ」
皮肉たっぷりの笑みを、私は詩音にプレゼントしてやる。
詩音はと言えば、私の更に上を行くシニカルな笑みで返してきた。
元が同じなんだから、私もあんな笑みが出来る筈なんだけど……。
多分詩音とは、顔の筋肉の使い方が違うに違いない。

14:Miwotsukushi
08/02/10 19:51:53 JoJ+DVHf
「ほら、ここ座って。スイカもあるから、塩でもふって食べたら?」
婆っちゃがそのままにしていった座布団に私は視線を送る。
詩音も跳ねるように縁側に向かって、サンダルを脱いであぐらをかく。
うむ、やはり詩音の中で何かがあったらしい。
気づきにくいことだとは思うのだが、いつもと微妙に振る舞いが明るすぎる感じがする。
それは血が最も近い私だからこそ分かる、第六感のようなものだと思う。
自分を強く見せようとする、と言うのは、私も詩音もきっと似通った点なんだろう。

沈黙が流れるのを私は別に戸惑わなかった。
彼女がわざわざ本家にまで足を運ぶ事態だ。まず沙都子のカボチャ嫌いレベルの話ではない。
電話を使わないことをとっても、結構な長丁場になるのも覚悟が出来ている。
だからこそこちらから話しかけるのは、彼女の気持ちを何も考えていないことだと思う。
私も相談したいときは、まず自分の中で整理をしてから切り出したいだろうから。
私が沈黙の間あれこれと相談内容を想像していて数分。詩音の口から出てきたのは、意外な人物の名前だった。
「なんかねぇ、圭ちゃんのことがよく分からなくなっちゃって……」
Kちゃん……?なんだ、Kって。葛西にはさすがにちゃん付けしないだろうし。
興宮でと言ったら、タイタンズの投手が確か亀田とか言ったような……って。私は一体全体何を理由に現実逃避しているんだ。
『ここまで来て相談する理由』に圭ちゃんの名前が出てくるのは意外だった。
詩音は昼休みになったら雛見沢に来るから、当然圭ちゃんとも面識があるし、そこそこに付き合いもある。
部活メンバーほどではないにしろ、裏を返せば部活メンバーの次くらいに圭ちゃんと親しい存在だろう。
だけどあまり圭ちゃんと詩音と言う組み合わせは正確ではなく、あくまでも複数人数のグループの中に二人がいると言うことだ。
私が知らない以上に、圭ちゃんと詩音に関わりがあったかと思うと、面食らってしまった。

…………と言うかぶっちゃけ、頭に来た。

「ほら、圭ちゃんって結構エンジェルモートに遊びに来るじゃないですか。
その流れで家まで送ってもらったりしてるんですけど……」
口の中にあふれてきた苦汁を堪えつつ、私は聞くことに徹する。
「悪意があるはずもないんですけど、圭ちゃんが悟史くんのこと聞いてきたもんで……」
悟史くん……か。まだ彼の生存を知って私は久しくない。
私自身は数を数えれるほどでしか見舞いに行っていないが、詩音は一日も欠かさずに悟史の元へ出向く。
いつ起きても良いように。彼が一人で薄気味悪い研究室で目を開けないように。
その悟史くんのことを、圭ちゃんは図らずも傷つける発言をしてしまったのだろう。


15:Miwotsukushi
08/02/10 19:52:36 JoJ+DVHf
でも、それで圭ちゃんを責めるのは酷だと思う。
私たちと圭ちゃんとの一番大きな違いは、悟史くんと会っているかいないかだ。
第二者との関係まで持った私たちとは違い、あくまでも人を介してでしか情報を得られない圭ちゃんはあまりに無知すぎる。
どれほど詩音が悟史くんを愛しているかも、知りうるはずがない。

「違うの……、そうじゃない」

独り言のように呟いた私への否定。心を見透かされたことに私は少し肩を竦める。

「怒りたかった。『何も分からないくせに』って思いたかった。憎みたかった。なのに……なのに……」

詩音の続きが分からない。私は彼女を止めてあげることができない。
この先を言うのは、多分詩音にとってとても辛いだろうに。
でも私自身の意地汚い興味が、彼女を更に窮地へ追い込むことをよしとする。

「なんで、私…………【悲しい】って思っちゃったんだろう……」

詩音は泣いていた。
普段あれほど強気に振る舞う彼女が、私の前で大粒の涙を流している。
頬を伝って股の上に置いていた拳に、ぽたっ、ぽたっ、と落ちる。
「詩音…………」
彼女にかける言葉どころか、なぜ彼女が泣くのかも私は分からない。
だって悲しいって思うことが、泣くほどおかしい理由とは思えない。

と、考えてはだめなのだ。
今までの私は、そうやって出来ない、分からないことはすべて後回しだった。
後に回して後に気づいて、絶対に後悔してしまうんだ。
悔しい思いをするのに後も先もないけれど、「あの時あぁすれば……」って思うのは二度とご免だ。
だから私は彼女の言葉をもう一度思い返す。私の記憶を掘りさげて、あらん限り考える。

違うの……、そうじゃない

怒りたかった。『何も分からないくせに』って思いたかった。憎みたかった。なのに……なのに……

なんで、私…………【悲しい】って思っちゃったんだろう……

詩音がどれほど悟史を愛しているのか。あくまでも他の人よりは私は知っているのだろう。
だが、彼女の愛を表現することなど私には出来ない。
彼女自身の抱く悟史くんの像を、私は同じように抱くことが出来ない。
それほどまでに一途な愛を抱いていたはずの詩音を、私はどう思案しても結果は求められなかった。

一途な愛を抱いていたはずの詩音…………。

あれ……、ならば今はどうなんだ?
私は自分の頭の中で起こったバグを洗い流す。
私は確かに、詩音が悟史へ全きの愛を持っていることを知っている。
なのに、私は確かに『抱いていたはず』と表現していた。
いつもなら決して犯さない思考のミス。詩音が泣きついてきた今、その許されない矛盾が起こっている。

「ひっく……っく……っ……、お姉…………、なんでお姉まで泣いてるんですか?」

「え…………?」

慌てて頬を指でなぞると、そこには確かに液体の感覚があった。
泣くことでひきつった詩音の顔。無様とでも形容すべき垂れた鼻水。
全く同じ顔を私は今しているのだろうか。ぬぐってもぬぐっても目からは涙がこぼれる。

なんで、なんで、なんでよ……!
私が泣く理由なんてどこにもないじゃないか!

16:Miwotsukushi
08/02/10 19:53:24 JoJ+DVHf
違うんだよなぁ、と妙に達観したワタシが心で呟いた。
どう心で否定したって、体はいつも正直な反応をする。
第六感の正体が、知覚できない様々な細かい情報の集合による答えであるように。
私の中で犯されてはいけない壁を作る心を、容易く脳は突き破る。
泣く理由なんて最初っから知ってたんだ。

詩音の大原則である『悟史くんとその他』って言う分類を打破した以上、圭ちゃんの存在が明らかに詩音の中で変わっている。
親でも祖母でも姉でも妹でも友でも付き人にも起こし得なかった業を、圭ちゃんは図らずもしでかした。

悟史と同等の、詩音にとってかけがえのない存在。
仲間としてではない。レナにも梨花ちゃんにもあの沙都子でも実践不可能な存在。
体を心を人を支える……、私にはなれない大事なヒト。

それを一番必要としたのは私だったのに。
それが圭ちゃんでいて欲しかったのは私だったのに。
それに自分の意味さえも捧げる覚悟だったのに。

それがなんで……詩音なの?
神サマが居るなら教えてよ。私は一人の人を愛することも許されない畜生なの?
別に恥ずかしくなって少し距離を置いたぐらいで、諦めたって誤解しないでよ。
赤い糸をまだ離した覚えはない。元々なかったなら初めから紡ぎ出すから。
お願いだから…………、こんな現実はいらないよ。


自覚出来るぐらいに私は泣いた。号泣したんだと思う。
詩音に負けないぐらい。圭ちゃんへの想いを代弁するかのように、私は泣き崩れた。
全く同じ悩みを共有するからこそ、私は抱き合って慰め合えない。
自分が一番知る痛みだから、何も差し伸べない。


二人の園崎の泣き声は、雛見沢の虚空へと響いていき、やがて闇に包み込まれていった。

17:Miwotsukushi
08/02/10 19:53:52 JoJ+DVHf
昼休みを知らせるベルが鳴る頃には、俺たちは既に机をくっつけていた。
知恵先生は今日の昼食は間違いなくカレーである。野菜、ミルク、シーフードと来たから、今日は恐らく週一に訪れるご褒美の日。つまり粉からカレーを作る特製の日だ。ゆえに最後のトッピングをする、とか言って四時間目が大体チャイム前に切り上げられるのだ。
だからチャイムが鳴った今でも、詩音の姿が見られなかったのは俺にとって意外だった。
いつもなら先生と入れ替わりで入ってくるのだが、チャイムが鳴ってもカボチャ弁当持参で現れないのは恐らく初めてである。
「詩音さん、どうされたんですかねぇ」
いつもいいように振り回されている沙都子も、さすがに心配になってるようだ。
今となっては詩音のカボチャ料理は、レナも認めるほどの旨さを誇っているので、沙都子は着実に克服しつつあった。
「『明日は基本に戻って煮物ですよ、沙都子』って言われてましたのに、期待して損でしたわ」
袈裟にも見えるため息を一つついて、梨花ちゃんとのお揃いの弁当箱を沙都子は開けた。
毎日つまいでる俺は分かってるが、沙都子の料理も確実に上達している。
レナや魅音はそっちの腕は今更で、部活が料理対決となっては、いよいよ敗色濃厚になったわけだ。
「魅音、その炒め物もらおっかな」
「え? あ、うん」
詩音が居ないことに姉も上の空だったのだろう。俺の呼びかけに慌てて魅音は応えた。
箸でつまんだ炒め物をそのまま口に放り込み、しばし舌から感じられる幸福を堪能する。
絶妙な炒め加減と、濃すぎず薄すぎずの調味料、何より雛見沢の新鮮な野菜が俺の味覚を刺激した。
「んー、極楽。いつもと味が違うじゃん、なんか料理法みたいなの変えたのか?」
魅音の味を知り尽くしたわけではないが、伊達にほぼ毎日つまんでいるわけではない。
一見同じに思える味も、普段と微妙な違いがあることを俺は察知した。
「んーとね……、実は今日母さんに作ってもらったんだ……」
「え?」
「道理で」と納得する一方、今までにない魅音の切り返しに、俺は声を漏らした。
いかに時間がないときでも、夕食の残り物や買ってきた惣菜で準備してきた魅音が、なぜ今日は……。
まだ綿流しの一件からそう長い時間が経った訳じゃない。
詩音が来ないと言う狂いからも考えて、厭が応にもひとつの不安が頭をよぎる。

18:Miwotsukushi
08/02/10 19:54:33 JoJ+DVHf
「魅音……、詩音となんかあったのか?」
魅音の箸、いやレナや沙都子、梨花ちゃんの箸も同時に止まる。
俺はごく自然に問いかけたつもりだ。会話の中で生まれるひとつの話題でしかない、そんな軽さで俺は尋ねた。
だがレナ達にも、俺と同じ予感があったんだろう。俺の質問を合図に昼食は中断してしまった。
「どうしたの、圭ちゃん。圭ちゃんこそ昨日はエンジェルモートまでわざわざ詩音に会いに行ったみたいだけど」
うっ……、詩音のやつ、もう魅音に話してるのか。
「まぁ詩音が誘ってくれたからさ。俺とて甘い物を食えるって褒美を出されたら付いていくしかないだろ?」
一応ちょっと笑みを浮かべつつ魅音を見るが、魅音は俺と目を合わせようともしない。
レナ達も俺の笑いにつられることなく、ただ五人の間での静寂が起こった。
いつもは感じない教室の中の喧騒だけが、やけに俺の耳をつんざく。

「魅音。俺とお前は仲間だろ? なんか困ったことがあったら話してくれよ」

その言葉が合図だった。
魅音が急に立ち上がり、隣に居た俺を椅子ごと突き飛ばしたのだ。
椅子が派手な音を立てて転がり、俺も無人となっていた後ろの机に衝突する。
頭を打って嗚咽を漏らした俺を尻目に、魅音は駆け足で教室から出て行った。
「魅いちゃん!」
レナが魅音の後を追うように席を立つ。
俺の対面に座っていたレナは、俺の前を通らずに教室の扉へ行ったが、半開きの扉に手をかけた所で止まり、俺の方へ振り返った。
いつか見たことがある、レナの冷徹な目。固く締まった表情に、突き抜けるような闇を持った瞳。
無言で俺を見据えて、レナは俺に何か喋ろうとした。

「俺は……【また】失敗しちゃったのかな」

レナの言葉の前に俺はレナへと呟いた。レナの表情が緩み、瞳の中に生気が宿る。
「そうだね、でも圭一くんが気付いただけでも、圭一くんは大人になったと思うよ」
何が何だか分からないままレナに冷視された記憶が頭をよぎる。
「魅いちゃんは私に任せて。絶対戻ってくるまで探しちゃだめだよ」
扉を開けて閉じて……、レナは俺の前から消えていった。
すっかり静まりかえってしまった教室の面々に、俺はいくつかの言葉をかけて謝罪する。
転がったままの椅子と、俺が激突した机を直して、再び元の席に座り直した。


19:Miwotsukushi
08/02/10 19:55:01 JoJ+DVHf
「魅音さん、心配ですわね……」
沙都子もきっと理由は分からずとも、魅音が何かの問題を背負っていることを察知したんだろう。
魅音の弁当箱である重箱の蓋を閉じ、自らも箸を置いて食事を中断させた。
さすがに俺も食欲は失せてしまい、同じように弁当を閉じて椅子の背もたれに寄りかかった。
ふぅ……、とため息にも似た吐息。天井を仰いで俺は腕を組む。
「俺は本当成長してないみたいだな」
同じ過ちを繰り返して、また仲間を傷つける。あんなに大きな困難を一緒に乗り越えた仲間なのに……、傷つける。
「圭一、圭一は間違ったことは言ってないのです。ただタイミングが悪かっただけなのです」
「タイミング?」
梨花ちゃんの方に顔を向けながら俺は繰り返す。
「タイミングってなんだよ、梨花ちゃん」
「慰めが疎ましく思える時があります。差し出す手が凶器に見える時があります。ただそれだけのことなのです」
きっとそれを何度も見た梨花ちゃんだからこそ……、俺に言える説教。
「僕はもうこの先のことは分かりませんけど、きっと圭一なら大丈夫だと信じてます。ふぁいと、おーなのですよ」
満面の笑みで梨花ちゃんは最後を締めくくった。

どうなるかが分からないけど俺なら大丈夫。

そうさ、俺たちは政府を相手に梨花ちゃんを助けた最高の部活メンバーだ。
俺が蒔いた種なんだから、俺が責任を持って始末しないといけない。
レナが魅音を連れて戻るのを信じて、俺は再び開くはずの教室の扉を見続ける……。


20:Miwotsukushi
08/02/10 19:55:27 JoJ+DVHf
やってしまった。最悪のことをやってしまった。
私を心配してくれた圭ちゃんを、私が大好きな圭ちゃんを、この手で突き飛ばして拒否してしまった。
せっかく、圭ちゃんは私のことを考えてくれたのに。
圭ちゃんが私のためにしてくれたことなのに。

「うぅ……、うわぁぁぁん」
体育用具が入っている倉庫の隅で私は泣いた。
どうせならもっと遠くに逃げれば良かったのに、たかが校舎から数十メートル離れただけで私は満足している。
きっと誰かに助けてほしいんだ。誰かに慰めて欲しいんだ。
自分で壊した物を誰かに修理して欲しい。自分が犯した罪を誰かに押しつけたい。
なんて我が儘。なんて外道。こんな私に圭ちゃんを愛する資格なんてない。
詩音を憎む道理など、私の前にあるもんか。
「うぁぁぁぁぁん」
幼児が親に泣きつくような泣き声を漏らしながら私は涙を流す。
自分に嫌悪しながら、倉庫の暗闇の中私は泣き続けた。

暗闇に光が差したのはすぐだった。多分私が着いて数分とも経ってない。
オレンジ色の髪に細い手足。私の次に背が高いよく知っている子。
「やっぱりここだったね、魅いちゃん」
「レ……レナぁ!」
私は近づいてきた竜宮レナを抱きしめた。
私よりも一つ歳が下なのに、容姿や年齢以上の包容力を持つ彼女。
きっと父親との二人暮らしの中で身に付いた強さ。
その温かさを私は今求めていたから、迷うことなくレナの胸に抱きついた。
「私……私……、もうっ」
嗚咽まみれの声を漏らしつつ、私はしてしまったことを懺悔しようとする。
それをレナは優しく遮った。
「無理しないで魅いちゃん。圭ちゃんもちゃんと反省してるよ?」
「圭ちゃんが悪いわけじゃ……!」
「じゃあなんで魅いちゃんは押し倒しちゃったのかな……かな?」
いつもの口癖なのに、この時は妙な重厚さが伴っている。私は返す言葉が見つからず、ただ自分の行動を悔やんだ。
「魅いちゃん、落ち着いたら私だけにでも話してね。一人で抱え込むのは絶対に解決策にはなんないよ」
圭ちゃんも言ったその台詞が、今は私の心を温かく包み込む。
涙を堪えようと賢明に目を閉じて息を止める。
昨日の夜、気付かず眠るまでは出来なかったことが、レナと居るだけで止めることが出来る。
鼻水をすすり、涙をぬぐい、息を整える。よし、多分これで大丈夫……。

21:Miwotsukushi
08/02/10 19:56:14 JoJ+DVHf
「レナにも何度か相談したけどさ……、圭ちゃんと最近あまり仲良くできないんだ」
レナは私の前で足を横に流し、じっと顔を見据えて聞いている。
「恥ずかしいって気持ちがあったんだと思う。綿流しの日から圭ちゃんが妙に……なんか……こう」
「うん、格好良くなったよね」
レナがど真ん中ストレートの強烈なフォローをしてくれた。
自分よりも他人に言ってもらって、安心した私は無言で頷く。
「だからさ、それで上手く圭ちゃんの前にいれなくてさ……。
変に意識しちゃうって言うか……。だからあまり圭ちゃんと話さなかったんだよね」
思い返す必要以上の圭ちゃんへの拒否反応。
部活も予定がないのに嘘を付いて休んだり、出たとしても集中できずに最近は罰ゲームが多かった。
「それで……いつの間にか圭ちゃん、詩音と仲良くなってたみたいで……。
詩音から話は聞いてたんだけど、悟史くんのことがあるからあまり考えなかったの……」
なのに……と言う声を出そうとしても、また目頭が熱くなってきて私は話を中断させてしまう。
必死に目をこすってみるものの、逆効果なのかぼろぼろと再び悲しみがあふれ出してきた。
レナがまた私の後頭部に触れて軽く抱きしめ、嗚咽を漏らす私を慰めてくれる。
きっとレナのことだ。私が続きを喋らなくても、ずば抜けた推理力で私の心中を察してくれてるのだろう。
それでもレナは私が涙を再び押しとどめるまで、決して口を開かなかった。

数分泣きじゃくった私は、制服の袖で涙をぬぐいレナから離れた。
レナの顔を見ると、私が相談相手になってもらっている時の真面目な顔。実際の歳よりも数段大人びた顔をしていた。
私が視線を合わしたのを見計らってか、顔を上げるとすぐにレナは口を開いた。
「やっぱり魅いちゃんは優しいね」
レナが真面目な顔を崩して微笑む。
「良い意味でも悪い意味でも。
詩いちゃんのことを考えられる魅いちゃんは凄いよ?
多分こう言う時って自分のことしか考えられなくなると思うもの。
だけど自分自身にも優しいのは、ただの甘えだと思うな」
微笑んだ顔が、いつの間にかさっきの真面目な顔……。
いや、少し怒っているかもしれない。この時のレナには絶対冗談だとかは通用しない。

22:Miwotsukushi
08/02/10 19:56:45 JoJ+DVHf
「詩いちゃんが圭ちゃんを好きになるのは、何もおかしくないないと思うよ。
私だって圭ちゃんが好き。きっと沙都子ちゃんも梨花ちゃんもそうだよ。
みんな圭ちゃんが好き。愛してる。自分のモノにしたいと思ってる。
別に魅いちゃんに譲ってる訳じゃない。
私は圭ちゃんを宝探しに誘うし、沙都子ちゃんも圭ちゃんのために料理を勉強している。
梨花ちゃんもよく神社で遊ぼうって圭ちゃんに言うんだよ?
それは魅いちゃんも知ってるよね? だけど詩いちゃんの時みたく魅いちゃんは傷ついてるのかな?」


もし、そうじゃないとしたら、魅いちゃんは詩いちゃんだけに偏見を持ってるんだよ。


そう言って、唐突にレナは私の頬を張った。
決して破壊力のある平手ではなかったと思うのだが、妙に頬が痛む。
「悟史くんの事も考えて、詩いちゃんは圭ちゃんを好きになったんだと思う。
もし、魅いちゃんがこのままうじうじしてるんだったら」

その先はレナには似合わない、あまりにも残酷な言葉。



魅いちゃんはただの*****だよ。



「そうだよね……、そうだよね……、っ……うう……」
昨日の夜のように私は天を仰いで悲しみを爆発させた。
レナは私の前から立ち去ろうとせず、両手で顔を覆っている。
もしかしたらレナも泣いているのかもしれない。
それを確かめようにも私の視界は涙でぐちゃぐちゃだし、自分の泣く声しか耳には届かない。

今は誰の声も……私には届かない。

23:Miwotsukushi
08/02/10 19:57:24 JoJ+DVHf
レナと魅音は結局帰ってこなかった。
知恵先生には梨花ちゃんが適当に話を繕い、午後の授業が開始。
当然半ば自習状態の学習に身が入るはずもなく、俺は窓の外と教室の扉を交互に目を配らせた。
小一時間首が百八十度の運動をし続けたので、若干首の根本に違和感がある。

「圭一、今日は一人で帰るのです」
終業のベルが鳴ってしまい、どうしたものかとうろたえていると、梨花ちゃんの助け船がやってきた。
探すな、とレナに言われていることもあり、俺は大人しく家路に着くことにする。
沙都子は少しだけ悲しい顔をしながら俺の顔を見据えたが、俺が頭をぐしゃぐしゃに撫でてやると顔を和らげた。
俺がずっと押し黙って、レナも魅音も居ないわけだから、沙都子には今日はつまらない日だったのだろう。
最低限俺は大丈夫だ、と言うことを、俺は頭を撫でてやることで表現した。
「圭一さん、明日は魅音さんを泣かせてはいけませんことよ」
年下から説教を喰らってしまい俺は苦笑してしまったが、梨花ちゃんが真剣な眼差しで俺を直視していたので、敬礼の合図で応える。
それを良しとした所で、梨花ちゃんと沙都子は夏真っ盛りの太陽の方向へと走り出していった。
俺もそんな二人を視界に入れながら歩き出す。
校門……とは呼ばれてないが、道と敷地とを隔てる場所まで来て、一度校舎の方に体を返した。
緑色の髪をした委員長が、置いてきぼりを喰らったことに腹を立てながら走ってくるじゃないかと。
ちょっとした希望めいたものに体が反応して、俺は魅音の姿を一通り探してみた。
だが俺の視界には元気よく走り回る男の子たちの姿しか確認できない。
謝るのは明日になりそうだな、とぼやきつつ、俺は再度自宅へと足を踏み出した。


24:Miwotsukushi
08/02/10 20:09:05 JoJ+DVHf
「やっぱり遭遇率が異常に高いと思うんだ、俺は」
「ふっふー、神様の赤い糸が圭ちゃんには見えませんかー?」
勘弁してくれ、とばかりに俺は両手で降参のポーズをする。
目の前には明らかに雛見沢では異端の黒塗り、しかも恐らくは外国製の高級車だ。
今日の問題の原因とも言うべき詩音が、俺が帰りだして約三分の所で会う羽目になったのは、もはや偶然とは言わないだろう。
「昼休み来なかっただろ……、沙都子心配してたぜ」
病気でわざわざこっちの診療所まで来たのか、と直感が走ったが、顔色を見る限りそうでもなさそうである。
体調を崩したわけでもないのに、しかも俺の前で元気そうな振る舞いをすることが、逆に不安を募らせる。

こいつはきっと……、また無理をしている。

根拠はないけど、その根拠のなさだからこそ信じれるものがある。
第六感だから見抜けるモノがある。
もちろんそれだけじゃ生きていけないんだけど、逆に理屈だけじゃ俺らは【進めなかったんだ】。
この初夏を最高の仲間で迎えられたのは、絶対に社会の大人の頭では出来ないこと。

全員の意志が結晶して打ち破った輪廻からの脱出。

梨花ちゃんの言っていた言葉が思い出される。
「今日うちの学校期末試験だったんです。さすがに留年はまずいんで、今日は行けませんでした」
苦笑しながら詩音が俺に応える。
不自然じゃない。筋が通る理由だ。魅音と違っていつもの表情と全く同じ顔である。
だからこそ、その不自然の無さが不安を駆り立てる。
「それで詩音、今日はどうしてこんな時間に来たんだ?」
思い当たる節はあるものの、俺はあえて詩音に理由をしゃべらせた。
こちらで勝手に選択肢を設けてしまっては、詩音の胸の内が読みにくくなると考えたからだ。
「診療所です」
一度俺の中で否定された可能性。それを詩音は口にした。
俺は詩音に、具合が悪いのかと問うたが、詩音は即答せずに俺の目を見続けた。
まるで何か値踏みしているような、疑り深い瞳で俺の顔をえぐる。

25:Miwotsukushi
08/02/10 20:09:57 JoJ+DVHf
「圭ちゃんは……私をどう見ていますか?」
「へ?」
素っ頓狂な声を出してもおかしくない詩音の質問だ。
確かに数秒前までは、詩音が雛見沢が来た理由の会話だったはずなのだが。
ここで突然のボディーブローに、しばらくパニックになる。
「に……濁すなよ、詩音」
「濁してるのは圭ちゃんです。大事な質問なんです。応えてください」
更に鋭く切り返してきたことで、俺は完全に面食らった。
まさかこんな状況で告白タイムを作って、俺の恥を増やすわけでもあるまい。
何よりも詩音の表情が真剣で、今日幾重の起きたことが重なって、今が大きな分岐点であることを想起させる。
意図は読めない。考えたくはないが、本当に詩音が俺を茶化してるだけなのかもしれない。
しかし、もし【そうじゃなかったら】の比重を考えれば、俺は真面目に応えるしかないだろう。
俺は顎に手を置いて、自分が今考えているのを詩音にアピールした。
詩音も俺に追い打ちはかけず、俺が口を開くのを待つ。
「詩音は俺にとって最高の仲間だよ」
いつも俺が、部活のメンバーについて聞かれた時に言う定型句。
だがそれは同時にいつも思っていること。
いつも思っているから確信を込められる。
いつも実感しているから本人にも言える。
それが最善の言葉なのかは分からないが、唯一の自分に正直な答。
俺が口を閉じた後に、詩音が悲しそうな表情に変わったのは、気のせいではないように思えた。


26:Miwotsukushi
08/02/10 20:10:50 JoJ+DVHf
やはり、が的中してしまった。
少しだけ希望をかけてしまった自分を悔やむ。
反対にただ本人の口から聞いて確定してしまっただけ。

私は圭ちゃんにとって仲間以上の存在ではないんだって。

テストの出来が悪いなー、と思って返ってきたテストが赤点だったのに似てる。
ただそのテストの内容が【私自身】なだけ。
それも圭ちゃんは私に赤点を与えたわけではない。
最高の仲間……。きっとテストでは、合格点どころか八十や九十を超えるベストの成績だ。
クラスや学年でも数人にしか与えられない、誇るべき数字。
でも私が欲しかったのは百点だった。
私はお姉たちのように常に生活を共にしているわけでもない。
贅沢な悩みであることが、今の比喩で分かるというのに。
それなのに私は圭ちゃんに言って欲しかったんだ。

お前は俺にとって一番大事な奴だ

呪われた私にはあまりにも高望みのその言葉。
自分で気付くことも出来ず、お姉の前で吐露して初めて気付いた感情だと言うのに。
私には資格と言えるものが一つも揃っていないのに。
何で私は求めてしまうんだろう。
人一倍賢い気でいた数年前の私はどこに行ったんだろう。
いつから一人すら愛する資格がないくせに、違う人を愛するまで欲張りとなったんだろう。

努力しなきゃ、百点なんて取れるはずがないのに。

27:Miwotsukushi
08/02/10 20:11:13 JoJ+DVHf
「葛西、ごめん出して」
今圭ちゃんの前に居ることが耐えられなくなって、私は逃げようと葛西に告げた。
葛西は無言で私に頷き、ハンドルに手をかける。
このままここに居ては、必ず無様な姿を見せてしまうことになる。
それは会話を有耶無耶にして逃げることに比べれば、遙かに私にとって許し難いことだった。
「お……おい、詩音、待て!」
開いていた窓から縁を掴んで、圭ちゃんは静止を促した。
瞬間、止めようかと口を開きかけたが、ここで止めても自分の首を絞めるだけなので、私は口を結んだ。
速度はどんどん上がっていき、エンジンの轟音が車内に響くようになる。
「詩音さん、前原さんが……」
葛西が言うものだから後ろを振り向いたが、ぞっとした。
既にこの車は相当のスピードが出ているのにも関わらず、窓の所には未だ圭ちゃんの手がかかっていたのだ。
こちらを見つめながら、何かを告げるように口を開いている。
いくら対向から車が来ないとは言え、この道は舗装などされていない。
足を取られて転倒しては、これだけの速度だ。下手をすれば骨の保障だって出来ない。
今走っている最中でさえ、車輪に足を巻き込まれたらミンチになってしまうだろう。
「け……圭ちゃん! 葛西、止めて!」
半ば急ブレーキの停止に、圭ちゃんは勢いが余って地べたに転がり込んでしまった。
ブレーキがたてた砂埃に咳き込みながら、私はドアを開けて圭ちゃんに近づいた。
擦りむけた膝から、次第に朱色の血がにじみ出してくる。
「ザマぁねえな、こりゃ」
汚れてしまった短パンやTシャツを払いながら、圭ちゃんは私に笑ってみせる。
圭ちゃんにこうなった責任は欠片すらないのに、無垢な表情を私へと向ける。
あまりにも今の私には痛々しいはずの笑顔。自らの罪悪感が掻き立てられる天使の悪戯。
それなのに圭ちゃんの笑顔が温め、癒し、染み渡る。
無知の子供が浮かべるとは正反対のもの。すべてを背負い、抱き、許す女神に相応しいものじゃないか。
「け……けぃちゃぁん…………」
発音もままならなく圭ちゃんの胸に私は沈む。
圭ちゃんのことでもう泣くことはしないと決めた。だが一度堰を切った涙が止まるはずがない。
寄りかかるように圭ちゃんの胸に自分の身を預け、道のど真ん中で私は園崎として許されない姿をさらけ出した。
ただの詩音と言う少女が、一人の男の子の胸で涙を流す。
「お……おい、どうしちゃったんだよ……」
会話を中断させ、車を発進させ、あまつさえ泣き出した私に、圭ちゃんは戸惑っているようだ。

別に圭ちゃんは分かる必要はない。
居るだけで私を引っ張ってくれるヒト。
だから……もう少しだけワガママさせてください。

圭ちゃんの手が肩に置かれる。二三の言葉を掛けられたがよく聞こえない。ここで一度私の記憶は分断された。

28:Miwotsukushi
08/02/10 20:11:47 JoJ+DVHf
気付いたらそこは……、って幼稚な小説じゃあるまいし。と私は自虐した。
笑えないのが『幼稚な』と言う修飾が、雛見沢と言う『一人が聞いたら千人知る』村のど真ん中で泣きわめいた私に当てはまることだ。
畜生、二度とあんなことしてたまるもんか。
意味も分からずムカついたので圭ちゃんに鋭い視線を送る。
びくっと体を竦めた圭ちゃんが可愛らしい。
『この人を頼りにしてます!』って誰かに言ったら、絶対笑われる。

場所は私のマンション。どこかの医療機関ではない。
多分葛西に道を引き返してもらって、小一時間をかけ部屋に戻ったのだろう。
その葛西は「私はこれから所用がありますので部屋を明日の朝まで離れます。どうぞ、ごゆっくり」と、【三時間】を強調し消えてしまった。
これが頭に来たり、エロオヤジと株が暴落することはないのは、日頃の行動の賜物だろう。
どこぞの茜とか言う三十路まっさかりの鬼が言ったら、私自身何しでかすか分からない。
並んで座っているベッドが軋む。
私はかなり心の中で葛藤してるからよく気付かなかったが、圭ちゃんも黙っている為無機質な音ばかりが部屋に響く。
こうなると私は切り出すのが難しくなる。妙に苦手なのだ、こう言う空気が。
しかし誘ったのは私なのだし、用があるのも私だ。
いつまでも口を開かないわけにもいかないだろう。
「大丈夫ですか、膝……」
絆創膏が二枚貼られた圭ちゃんの膝。傷を洗った時に見た限り浅くはなかった。
消毒し終わったとは言え、痛むはずの私が傷つけた膝。
「んー? 男にはこんなの当たり前だぜ。勲章ってやつさ」
肌の白さ、華奢とも表現すべき線の細さから推測する辺り、こっちに来る前はかなりインドアだったと思うのだが。
たったの一、二ヶ月でこんなにも意識改革するのだから、本当に雛見沢は恐ろしい。

29:Miwotsukushi
08/02/10 20:12:35 JoJ+DVHf
「んで、いつまで世間話すればいいんだ、俺は?」
胸が大きく鼓動した。
不意打ち反則と突っ込みたいぐらい、圭ちゃんは会話の中で核心に触れてきた。
そりゃあ、こんな不自然なシチュエーションもないか……と後悔する。
「敵いませんねぇ、圭ちゃんには」
茶化す私の更に奥を見る圭ちゃん。
じっと動かない視線は、どこか竜宮レナを連想させる。オンオフの激しい辺りも、共通項だろう。
「悟史くんことで、ちょっと話がありましてね」
「悟史……、あぁ詩音のカレシか?」
デリカシーねぇなおめえは、圭一。
せめて沙都子の兄と表現して欲しかった。
「入江診療所がただの医療機関じゃないことは、圭ちゃん分かりましたよね」
「ん……、あぁ。鷹野さんの……その……隠れ蓑みたいなもんだったんだろ」
一種のタヴーを私は犯している。先の一件に触れるのは、憐憫と後悔しか生まない。
結果だけ見ればまだ成功したのだろう。
だが確かにあの事件と関連して、人が既に死んでいたり、傷を負った人もいる。
身体的にも精神的にも蝕まれたのだ。
だから私たちは未来だけに目を向けることにした。
過去は既に自分の中で消化し、糧としてしたはずだった。
だから圭ちゃんの返答がおぼつかないのも納得が出来る。
「隠れ蓑……と言うのはちょっと違います。監督はあの病気に真剣に取り組んでましたから」
そう、隠れ蓑は正鵠を射てはいない。鷹野三四があくまでも利用しただけ。
監督の過去数年間は、確かに雛見沢症候群の治療に注がれていた。
その【治療】と言う単語が……、今重要なことだ。
「悟史くんは……、そこに居ます」
圭ちゃんの表情が凍った。きっとそれはカレシの悟史としてではなく、兄としての悟史、つまり沙都子を意識してのものだ。
今すぐにでも教えようと高ぶった気持ちに相反し、恐らく圭ちゃんは冷静に分析している。
私は沙都子の前で良き姉として振る舞い、事実私自身もそのつもりで生活している。
その私が沙都子に教えていないのなら……確かに理由が存在する。
レナほどではないにしても、圭ちゃんは意外と勘もさることながら推理力がある。
きっと私が再び口を開かない限り、圭ちゃんは稚拙な行動をとらないだろう。
「今、悟史くんは病気なんです。沙都子にも教えることができな」
「雛見沢症候群だな」
私が口を開いている途中で、圭ちゃんが介入するのは珍しいことだ。
それに【雛見沢症候群】と言う名称を知っていたことにも、幾ばくか驚かせざるをえない。
「……そうです。だから今は、沙都子に会わせてあげることは出来ません」
被害妄想が幾度も幾度も累乗されていく、精神疾患の特異型。
すべてが。自分も含めたすべてが信じられなくなる、無色無味無臭の敵を作り出す病気。
どんなに敵を追い払おうとしても、存在すらしてないモノをどう殺せるのだ。
結局矛先は身近な人に伸び、殺戮が発生する。
記憶ではなく記録が、そう私に忠告している。

30:Miwotsukushi
08/02/10 20:13:14 JoJ+DVHf
「詩音はなんで知ってるんだ?」
「え?」
確かに、私が知っているべき理由などどこにも存在しない。
「それは本当偶然ですよ。葛西たちとドンパチした時に、監督から教えられただけです」
実際は、それこそ私が雛見沢症候群を発症したように監督に食い付いたのだが、あの場面は監督に完全に圧倒されて事なきを得た。
監督なら悟史くんを任せられる確信が持てた。だから今も私は監督との約束を守っている。
私自身触れたい欲求を抑え、沙都子に報告したい衝動も制していた。
「遠けりゃ救われる……ってのはこのことか……」
独り言のように呟いた圭ちゃんの顔を私は捉える。
覚えていた……。圭ちゃんにとっては、ただの日常の一こまでしかない会話を、圭ちゃんは覚えていてくれた。
否……、否。それこそ例の病気の逆だ。短絡に考えすぎている。
不自然なも会話ほど記憶はしやすいものだ。時間的に考えても充分記憶が残っていてもおかしくはない。
ただ……それが分かっていても、【私】が記憶されていたことが嬉しい。

「辛いだろうな……」
一転、私の心に不安が染み込んでくる。あくまでも私と悟史くんとの関係を意識しての憐れみ。
あぁ、その先はきっと聞いてはいけないこと。
それを耳にしては、私の再び芽吹いた感情が摘まれてしまう。

「……なぜですか?」
だけど私は応じる。
どんな結果、十の内八九は望まない終わりになるだろうけど、ケリはつけるって決めたんだから。
結末がないと納得できないし、終わらないと始めることも出来ないだろう?

「詩音、悟史のこと好きなんだろ?」

当然、八九が当たった。私自身がそう言ったのだ。
好きな人が居る。それは悟史。遠ければ救われるほど、すぐそこにいる想い人。
圭ちゃんには言わなかったものの、私が悟史くんのために払った代償は大きい。
自身が負った爪の痛み。葛西や叔父さんにも迷惑を掛けた責任。
園崎家としての意志に反し、存在を認めてもらえただけでも喜ぶべき隷属民のような私。

求めちゃいけない……、卑下されて当然のモノ。



ねぇ……、でもやっぱりね。
私じゃ駄目かな。人並みに愛を欲しいって思っちゃ、叱られるかな。
この歳でこんなことを言うのも、ちょっと大人ぶってるように見えるだけだけど。

私は……圭ちゃんのことが何よりも大好きです。

31:Miwotsukushi
08/02/10 20:13:46 JoJ+DVHf
「違います」
小さくもはっきりとした発音は、俺の耳にしっかりと届いていた。
あれ、確か詩音は悟史のことが大好きで、ずっと帰りを待っている、と聞かされていたのだが。
恥ずかしくて誤魔化している状況でもない。
断定と強い意志を持ち、詩音は俺の質問を否定する。

詩音を見ると、まず手が震えているのが目に入った。
首筋には微かな汗が浮かび、唇を噛み締めているのが続いて確認できた。
明らかに正常ではない。体がはっきりと異常のサインを、外部へと表している。

「詩音……、お前大丈夫か。具合良くないんじゃないの?」

「私はっ…………!」

詩音の顔が、俺の方へと正対する。
目尻に浮かぶ恐らく涙が、唇を噛んでいる理由を示していた。

「圭ちゃんが……っ」

え?

「圭ちゃ……、圭ちゃんが好きなんです!」

時が止まった。ってあるわけないんだけど。
まるで俺と詩音を包む空間だけが停止したように、俺たちはフリーズした。
まず修復すべきは脳の回路だ。一度に大量の情報が行き交いすぎて、パンクしちまっている。
整理だ。まず落ち着いて整理するんだ、前原圭一。
詩音は、悟史が好きって言うことを否定して、かつ『圭ちゃんが好き』と加えた。
文脈を見てどうだ?
本当に悟史が好きってこと自体を否定したのか?
…………いや、確かにそうだ。それ以外は考えられない。
ならば、その俺のことが好きってのが、冗句と言うのはどうだ。
恥ずかしくて逸らしていた詩音の顔を再び視界に映す。
俺が顔を背けていても、詩音は俺の横顔をずっと見つめていたようだ。
俺に宣言した時と同じ顔。
真剣で、感情を抑え、なにか不安を抱えている、冗句など入り込める場所がないような顔。
いくら茶化すのが得意な詩音とは言え、この顔は嘘と言えるはずがなかった。
……じゃあ、やはり俺を好き……って言うのは本当なのか?
鈍感鈍感と冷やかされつつも、また俺は気付くことができなかったのか。
いや、さすがに今回は明らかに俺の鈍感さとは無関係だ。
考えてもみろ。よく遊んでいた友達の妹に告白される、なんてどこぞの妄想ストーリーだ。
一応妄想…………、御都合的自主作成脳内再生にはそれなりのこだわりがある俺でも、まだまだ未知の領域だ。
くそぅ、動揺してるなぁ。動揺している。
これが迫真の演技で騙しているとしたら、もう完全勝利だぜ、詩音。


32:Miwotsukushi
08/02/10 20:14:24 JoJ+DVHf
そんな一縷の可能性さえ打ち消すかのように、か細い声で詩音が俺に語りかける。
「大好きです……」
詩音の躰が俺に向かってきた。
腰に腕が回り、胸に詩音の頭の感触。足は横に流し、俺の胸から腹の辺りにうずめる形で、俺と詩音は接触している。
反則だ。こんな温もりを直に感じて、ときめかない少年が居ないとでも言うのか。
手の平から自然に浮かんだ汗を、一度ズボンの側面で拭いてから、詩音の首に俺も手を回す。
髪の上から回した為、柔らかい質感が手の平中に伝わった。
詩音の後頭部に手を添える形で、再び静止してしまった俺。
なにゆえ未経験の為、この先どうすればいいか全く持って分からない。

詩音……なんで俺なんだ?
と、俺は聞こうとした。しかしすぐにそれを噛み締める。
こんな覚悟めいた表情で言う人に対して、かける台詞などではない。
詩音は俺の事が好き。
実際今でも信じられない。どう言う過程で俺の事を好いたのか、ジョセイではない俺には理解できない。
だが、それを理由に彼女の覚悟を卑下していいものか。

「詩音、顔を上げてくれるか」
俺は詩音から手を離し、話し合えるような状況を作る。
首だけ上げて、男性が好むであろう三大ポーズの一角を担うこの悩殺ポーズを、どうにか噛み殺す。
「俺はさ、詩音にとって、多分一番の答は……言えないと思う」
無言の応答が詩音から放たれる。
「この場でお前を好きって言えれば良いけど。やっぱり詩音は【仲間】なんだよ」
背けることのない詩音の視線。俺も決して詩音から目を離そうとはしない。
「詩音が俺をそう思ってくれる事は、素直に嬉しい。だけど、もう少し待ってくれないかな」
肩に一度手を置いてから、今度は抱きしめる格好で俺は腕を回す。
俺が決してその場逃れの為についた戯言ではない証拠。信頼ほしさに俺の胸に、詩音を寄らせた。
詩音は抵抗する事もなく、ただ俺にされるがままになっている。

数分そのままで俺たちは動くことはなかった。
カチコチと鳴る時計の音も気にならなかったし、興宮では珍しくない自動車の音も一種のBGMだ。
詩音が吐息する度に温くなる俺の胸から、柔らかな感触が消える。
再び無言で見つめ合う格好となって、何度も繰り返した重い空気がただただ沈滞する。
「お腹空きましたよね」
打破した言葉は、あまりにも軽い調子で放たれた。
まるでこの十数分が、空間の狭間に引きずり込まれた如く、詩音の表情は明るかった。
意図は読めない。詩音がこうも感情を押し殺し、俺に笑顔を見せる理由が。
分からないと言う事が分かっても、俺は何もするべき行動が見当たらない。
彼女の精神力は、俺の頭脳では到底理解まで達し得ない。
悔やむ。ただ俺の意志を突きつけ、更なる我慢を強いる俺の弱さが、ただただ憎たらしい。
包丁で指の皮を切るのも、横っ腹に刺し通すのも、どちらも傷を付ける事に変わりないのに。
俺は腹を自らの手で刺すのが嫌だから、長らく蓄積する疼きを選択したのだ。
自分の手を汚さない俺は良いかもしれない。だけど彼女が苦しむのは変わりないと言うのに……!
歯が軋む。強く握りすぎた手が痛い。頭へと血流が激しくなる。

こんなもの、こんなもの、こんなもの、こんなもの、こんなもの……!

全てを抱えてあげれない俺を呪う。潔癖を是が非でも獲得しようとする思念を、ただただ俺は圧殺しようとした。

33:Miwotsukushi
08/02/10 20:15:17 JoJ+DVHf
流し台に数枚の皿が置かれ、詩音が水道水で軽く汚れを流す。
ある程度流すと水を止め、再びソファへと戻ってきた。
二人は食事中は全くの無言。お互いに話を切り出せる規格外の強さがあるはずもなく、ただただ箸を動かした。
食事が終わり再び数十分前の状態に戻っても、この空気が変わるはずがない。
圭一の心中では、今この場をどう切り抜けるか、について頭がいっぱいだった。
自然な感じで、本当にこの部屋を離れて良いのだろうか、と疑心する。
第三者的な目。感情をシャットアウトし、あくまでも状況のみで判断するならば、これ以上詩音のマンションに居る理由など無い。
だが席を立つことが、同時に詩音との二重の意味での別れを意味するように思え、足が竦む。
生き地獄とはまさにこの事だった。

「じゃあ、俺雛見沢に戻るな……」
意を決して切り出したのは、何分いや何十分後だったのだろう。
時間の感覚すら狂うほど、無言の密室は人間にとって害だ。
今まで吸った、濁った空気をすべて吐き出すように圭一は告げる。
隣に座る少女の顔は見ない。見たら、絶対また躊躇ってしまう。
「こんな暗いのにですか……?」
その声で窓に目をやると、確かに外は暗い。
いや、雛見沢に比べ電光の明るさを加算してのこの暗さであるから、相当な時刻となっているに違いない。
案の定、時計の針は口元の髭のように時を示している。
つまり七時二十分。雛見沢に戻れる交通手段は、夕方のバスのみなので帰宅手段は徒歩しかない。
「タクシーでこっからどれくらい?」
「圭ちゃんのお財布で無理なことは分かりますね」
詩音のシニカルな笑い声に、思わず圭一は苦笑してしまった。
油断と言うか、全くもって帰る時間を計画せずに食事を馳走になっていたのだ。
こう言う行き当たりばったりが、自分を罰ゲームの常連から抜けられない要因なんだろうな、と落胆する。
「どうしますか……本当に。圭ちゃんのご両親って、門限にはうるさい方でしたっけ」
「まぁこの歳だし、多少夜になっても大丈夫だけどよ」
そうは言いつつも、朝帰りが許されるほど圭一の両親は無責任ではない。
少なくとも今、電話の一本を寄こすのが礼儀だろうが、どう説明しようか見当が付かなかった。

34:Miwotsukushi
08/02/10 20:15:44 JoJ+DVHf
「あ……」
詩音が何かに気付いたような素振りを見せたが慌てて隠す。
だがお互い発する言葉もない状況。その静寂で起きた声だったため、詩音の呟きは圭一の脳へとしっかり伝達されていた。
「あれ、詩音どーしたよ」
続きがなかなか出てこないのを見て、圭一のトドメの一言が入る。誤魔化すわけにもいかず、詩音は諦めて口を開く。
「このまま泊まっちゃったりー、とかどーなんでしょうね」
軽い笑い声のような口調。口元に人差し指を当てて、苦笑しながら喋る姿はよく詩音がとるモーションであった。
一方の圭一は、鼻腔から迫り来る何やら赤い液体を堪えつつ、苦笑を返すしかなかった。
友達の家に泊まる。本来学生にとっては当たり前のこと。
数人で各々が食料や娯楽物を持ち寄り、布団は敷くものの結局不眠で朝を迎える、そんな楽しい一時。
圭一自身は小学時代は親が許さない、中学時代はノートと参考書が友達なこともあり経験はなかったが、至極『お泊まり』が普通の行為であることは分かる。
まず一対一。ここにも突っ込みを入れたい所だがとりあえず自重。まぁ仲が余程良ければするのかもしれない。
続いて保護者の不在。これに関しても夜更かしを大っぴらに行える、など子供特有の期待感が増長される。この問題もとりあえずスルーだ。
最後に泊まる相手が異性であること。問題だ。問題すぎる。
いつぞやの芸人が出てた、中国語だったかの映画タイトルを使うわけにはいかない。
さすがに圭一でも、自分が中学生となり『性』を意識しているのを自覚している。
いつの間にか自分で欲を処理することも覚えた。固有の嗜好に関しても、ノート一冊が埋まるほど極めた。
そんな圭一に同世代の女子と、一夜を過ごすのは考えちゃいけない妄想の域ですらある。
気付けば、先刻スルーしていた問題が『相手が異性』と言う条件下で、絶大なる影響力を生んでいる。
「ま……まずいよ、そりゃ。……ん……まずいよ」
反復する辺りに自身の狼狽を感じつつ、圭一は顔を背けた。
まったくもって下がらない体温を気にしつつも、圭一は他の解決策を思考する。
「泊まるのはなぁ……、ぐぅ……」
唸ってみてもアイディアが突沸するはずもなく、着実な時の経過だけが部屋に流れた。
とりあえず電話だけはしよう、詩音の提案を圭一は飲み、ソファの横に設置されていた受話器を取る。
既に慣れた六桁の電話番号をプッシュし、無機質なコール音に耳を傾ける。
六回、七回、八回。出ない。父はアトリエに篭もりっぱなしなので当然だが、母親までもが出ないことに圭一は違和感を覚えた。
この時間の外出があるはずもない。もう一度かけ直しても、前原家の居間にただただ音が響くだけだろう。
「ビンゴーってやつなんだろうな」
自嘲通り越して呆れに達した独白が、虚しく詩音のマンションに響く。
偶然が重なったとしか言いようがない。多重事故も良い所だ。どの道圭一は前原家に入ることが出来なかったのだった。
圭一が電話機に向けてた体を、詩音の方へと戻す。自然目が合う形になり、視線での会話が展開された。

35:Miwotsukushi
08/02/10 20:16:06 JoJ+DVHf
どうします?

どうするって……

真面目に困った感……じゃないですか

やっぱ……ここに泊まるしか……なぁ……

意識は当然してないだろうが、互いに詩音の提案を呑む他、圭一が暖かい部屋と布団で寝られる可能性は低そうであった。
八方も塞がったら、その場に居座る以外どうすればいいのだ。圭一は自棄になって、無人のソファへと寝転がった。

36:Miwotsukushi
08/02/10 20:16:49 JoJ+DVHf
期待した言えば嘘になる。
あからさまに圭一は詩音の部屋の宿泊を拒んだとは言え、いざ二人っきりとなれば風呂の時などに下着姿でも拝ませてもらえるのでは、などと煩悩が働いた。
この助平衛が、と突っ込んだものの、実際詩音が風呂に入る時は、詩音の部屋へと軟禁されたのでイベントはなし。
加えて、部屋の物の位置がずれている箇所を発見されれば、手に穴が空くとの事だったので、圭一は数十分のフリーズを強制された。
別にくつろいでいる以上のことをしなければ結構なのだが『穴が空く』と言うのが妙にリアルで、圭一は萎縮していた。
何故リアルに感じたかは、生涯圭一は気付かないに違いない。世の中知らない方が仏を見る小話もある。
立ち替わるように圭一が風呂に入り、真っ白なバスタオルで体を拭く。
園崎家の管理するホテルから流れた物、と詩音は圭一に説明しており、とにかく生理用品を中心に事困ることはないらしい。
本家、魅音の住むあの豪邸を想像すれば、別に生理用品だけに限らず、資金で困ることはなさそうだが、と圭一は考える。
特別な事情を知らない圭一にとっては、当然の疑問であったが、詩音なりのプライドと片づけてドライヤーのスイッチを切った。
下着は多少不衛生だが風呂を浴びる前と同じ物。
圭一はTシャツなども同様に自分の物であるのを要求したが、土埃の汚い服で寝ることは許されないと却下された。
そして目の前に用意された桃色のTシャツと、チェックの入った同じく桃色のパジャマのアンダー。
これはしばらくはネタにされるな、とため息をついて、女物の服装でも袖を通せてしまう自分の貧弱な体にもう一度息を吐いた。
詩音からファンシーな姿と化した己を良いだけ笑われた圭一は、さっさと就寝することを提案した。
「カメラでも用意しておけば良かったですねぇ」と微笑む詩音を半ばスルーして、自分の寝る場所を見回す。
十数分レディーの寝る場所と美容との関係について熱く語られた圭一は、ソファで一夜を過ごすことを承諾した。
十一時を少し過ぎた辺り。興宮のマンションのとある一室から、光が消えた。


37:Miwotsukushi
08/02/10 20:17:25 JoJ+DVHf
図太い神経を持っていれば、もう少し楽に寝れたと思う。
慣れない寝場所のことではなく、お気に入りの枕がないことでもなく、やはり先ほどの告白が引っかかっていた。
成り行きで泊まることにはなったが、正直ここから逃げ出してしまいたい気持ちがある。
俺が全く考えていなかったこと。知らぬ間に、また俺は人を勝手に不幸とさせていたのだろうか。
考えていなかった、と言うのは語弊が生じている。考えようとしなかった、が適切だろう。
友達だから、とすぐに俺は彼女の苦悩を思案することに、終止符を打っていた。
全く変化がなかったことは無いはずだ。俺への対応に詩音がいつも通りを振る舞えるほど、彼女は強くない。
硝子細工のように透き通った心を持ち、繊細な装飾がなされ、かつ割れてしまいやすい。
それを俺はなんて無下に扱ってしまったのだろう。やはり俺には、彼女の告白に肯定する資格は有していない。
逃げ出したい、と問題から逃避しようとする愚か者に、彼女の想いを背負えるものか。


38:Miwotsukushi
08/02/10 20:18:06 JoJ+DVHf
圭ちゃんの笑顔が、妙に心へダメージを与えた。
私へ少しでも傷を付けないようとする、圭ちゃんの優しさに胸が痛んだ。
恋がこんなに人を酔わせるもので、愛がこんなに絶望を与えることを私は想像できたはずだ。
前例。一度経験した【終わり】を、私は何故また実感しようとしたのだろう。
圭ちゃんのことは少なからず私も理解していたはずだ。
園崎魅音のあれほど分かりやすい恋慕から来る仕草さえ見逃す彼に、幸福な結末を望むことは私の責任である。
友達でいることで充分喜びを提供する彼を占有するのは、あまりにも儘が過ぎるのか。
カチン、と音が鳴った気がする。
そこでお前は終止符を打つのか、と誰かが語りかけた気がする。
硝子細工のように純真な彼を、誰にも染色されない意志を持つ彼を、無鉄砲で危なっかしい彼を。
諦めるのか? 終わりにするのか? 逃げ出してしまうのか?

「嫌だ」
失うのは嫌だ。遠慮をしてしまうのは嫌だ。泣くのは嫌だ。独りは嫌だ。寒いのは嫌だ。眺めるのは嫌だ。離れるのは嫌だ。痛むのは嫌だ。放っておかれるのは嫌だ。壊れるのは嫌だ。

嫌いに なル の が 嫌ダ。



ザーッとノイズのような音が脳内に響いた。
頭の中で様々な何かが、現れ、消えて、創られ、爆ぜた。



…………………………

「こんなに好きなのになぁ」
頬を伝っていた涙をシーツでぬぐい、私は身を起こした。
ベッドから離れて冷めていく体。部屋の扉を開けて、カーテンから漏れる薄い光。ソファの上で横たわる一人の少年。

私は終止符を打つことはしなかった。


39:Miwotsukushi
08/02/10 20:19:09 JoJ+DVHf
扉が無機質に立てた音で、圭一は微睡みから解放されて意識を戻した。
考える意味もなく、音の犯人は詩音であることを知覚。そして疑う間もなく再び瞳を閉じた。
そこで気付く。気配が自分の後ろにぴたりと止まった。そして膝をたたむ布きれのこすれる微かな音。
圭一の体にかかっていた毛布を詩音が静かにとり、居間の僅かな冷気が圭一の背中に伝わる。
すぐに詩音の手が横となっていた圭一の背を這い、シャツ越しから体温が伝播した。
「ストップ、ストップ、詩音!」
焦りがそのまま音声となって圭一の口から発せられる。だが詩音は応えずにそのまま抱擁した。
胸の前で組まれた詩音のか細い手を視認し、一層圭一の顔が紅潮した。
「まずいって……、ちょっと……」
詩音に直接言ったわけではない、独白のような圭一の声。
その声を合図にしたかは定かではないが、詩音の額が圭一の肩甲骨の辺りに触れた。
詩音は自分もソファの上に乗り、圭一の後ろに密着するように横になった。
確かに自覚できる上昇する体温。圭一はどうしようか困り果てた。果ててはいけないのだが、この先の行動の選択肢が現れない。
詩音の息づかいが聞こえることであったり、密着する体であったり、香る女子特有のにおいであったり、圭一にとってはひとつひとつが酷く官能的だった。
「圭ちゃん、人を好きになるって難しいんですかね」
詩音から出たのは、また恋文のような甘い言葉。
「もうそれはナシだよ」
諭すような圭一の声。それでも詩音は半ば無視を含んで、恋文を書き連ねた。



40:Miwotsukushi
08/02/10 20:20:13 JoJ+DVHf
好きになったら、何が何だか分からなくなって難しいって言いますよね

まぁ……、俺はあまり経験ないけど。

凄いんですよ、小説とか見ると一人の子好くのに、何百ページも描写かかっているんですよ?

へぇ、見るんだな、詩音も。そーいうの。

それは偏見ですか? ふふ。お姉もですけど、結構好きですよ。そー、い、う、の、は。

魅音もか。あいつは絵が入ってないとてんで駄目って感じだと思ったけど。

偏見の塊ですね、圭ちゃんは。もうちょっと女の子を意識したらどうですか?

このジョーキョーは嫌が応にも……って場面じゃないか?

嬉しいですね。やっと私の偏見が取れましたか?

笑えないよ、それ……。

笑わないでください、真剣な話ですから。
さっきも言いましたけど私は圭ちゃんが好きです。
事実は小説よりー、って言いますけどあれ本当ですよ。色々悩まさせてもらいました。

……。

結果論ですけど、結局それは私の勝手ですよね。だって恋愛はイエスとノーしかないわけじゃないでしょう?
数学は長い証明の先に仮定が結果になりますけど、それを私と圭ちゃんに当て嵌めるのは誤答に決まってますから。
仮定が結果と違うからって証明に修正を施そうとする問題じゃない。

詩音……、お前なにをい

そもそもこれは問題ですらない。

……。

大好きです、圭ちゃん。
恥ずかしいと思いません。
こうやってくっつく時間をもっと欲しく思っています。
圭ちゃんの温かさを嬉しく思ってます。
あなたが……、欲しいです。


41:Miwotsukushi
08/02/10 20:20:55 JoJ+DVHf
理性を糸に例える描写を圭一は知っていた。そして本当に切れたら音がするのだ、と実感した。
体勢を背を向けていた格好から、向き合う形へと移す。
暗闇の中で大きな瞳、端正な顔立ち、深緑に映る長髪が視界に入った。
詩音は未だ圭一を抱く状態。圭一も詩音の肩に手を置き、一層鼓動が大きくなる。
本当に良いんだな、など確認の言葉をかけるのも圭一は考えた。
だがすぐに本能が優先され、目の前にいる少女との行為が脳に上書きされる。
背に回した手で、詩音をより自分へと近づける。
正対しての密着。初体験の感覚に、圭一は血流の加速を悟った。
足を動かして圭一に絡むように詩音は動く。素足と素足が触れ合い、腿と腿が摩擦する。
上半身を少し起こし、再び圭一は視界に詩音を捉えた。
少し乱れた髪と息に喉を鳴らし、自ら唇を触れさせる。
上唇、下唇それぞれ味わうように吸い、顔を傾けて唇だけの接吻を行った。
最後に舌で唇全体を舐めてから、口を離した。
詩音は笑っていた。意中の男性とキスが出来たと言うのは、やはり彼女にとって悦びを感じる経験なのだろう。
お互いに無言のまま体を起こし、ソファ本来の使い方である着座の姿となった。
圭一から詩音の手に自分の手を添え、詩音も下から強く握り返してきた。
同時に立ち上がる二人。詩音の口から漏れた小さな笑い声に、圭一も少しだけ微笑ましい気持ちになる。
何となく当たりをつけた部屋が丁度詩音の寝室で、『ふいんき』を壊さずに済んだ。
「脱いだ方がいいのかな」
詩音の甘い囁き。最初から裸で行為をしている大人の本とは違う。
リアル。確かに今自分が、視覚、聴覚だけでなく、体との触覚も密着する時の嗅覚も接吻の際の味覚も体感している。
お都合で進む話じゃない。ステップを一回一回踏んでやる必要を圭一は再認識した。

42:Miwotsukushi
08/02/10 20:21:38 JoJ+DVHf
「上だけ……脱ぐかな」
ピンキーでファンシーなパジャマに目を落として圭一は言う。
第二ボタンに手を掛けた所で詩音が呟いた。
「私がしますよ」
圭一の手を払って詩音の指がボタンに触れた。
意外と他人のボタンを外す、と言うのは慣れない行為で手こずるのだが、詩音は器用に片手で開ける。
男子としては些か頼りない胸板。皮の下から浮かぶ肋(あばら)。締まった腹筋。
ボタンを一つ外すことに、男としての前原圭一が露わになる。
「シャツ……渡しませんでした?」
「うぅ……、着れなかったんだよ」
どうだろう。と詩音は笑いながら考えた。
詩音は自分の体にある程度の自負があった。
姉の魅音同様太りにくい体質以上に、二人が常に入れ替わりを行うには体型も重要なポイントであった。
あの転婆姉貴が部活で体を動かして、勝手に不要物が落ちていくのに対し、詩音は自ら体をシェイプさせる必要がある。
数少ない生活資金を切りつめて、園崎情報網をフル活用し効果的な健康グッズも購入したものだ。
だからと言って、圭ちゃんの体も自分のものと大差はないように感じる。
骨格の違いから肩幅は当然違う。
抱きしめた時、どこか男子を感じたのは恐らくそのせいだ。
だが筋肉隆々の野球部よりも、裁縫をする女子の方がよっぽど圭ちゃんぽかった。
ならば何故嘘を付いてまで着ることを拒んだのか。
「くくく……」
「……なんだよ」
「ウブだなって」
ボンと効果音がするような圭一の反応。顔だけが見事に赤く染まり、詩音のウブという表現を改めて体現した。
「確かに女の子の鉛筆とか借りるのも恥ずかしがる人も居ますけどねぇ。圭ちゃんはそんな感じですか」
完全に優劣の立場が明確になってしまった二人。ベッドの上で話す甘い囁きでもなく、ごく普通の日常会話が繰り広げられる。

43:Miwotsukushi
08/02/10 20:22:13 JoJ+DVHf
「……でも、今からそれ以上のことするんだろ?」
圭一が急に動く。
唇を重ね、自らの体重を完全に詩音に預けてそのまま押し倒した。
挨拶程度でも外国ではするようなキスではなく、自ら舌を押し込み詩音の中をかき回す。
詩音は抵抗もできないまま、混乱状態で圭一を受ける他なかった。
いつもは嘗められぱなっしであったものの、さすがにこの時ばかりは圭一がリードする。
胸のふくらみに手をかけ、手の平で覆うように力を入れる。
「っ」
詩音の呻きも唾液が絡まる音に消え、圭一は詩音の胸を堪能した。
左手だけで行っていた行為を、右手も加えて詩音をより追いつめる。
右手は依然詩音の胸に刺激を与えつつ、左手は次のステップを踏んだ。
手探りで詩音の着衣を繋ぐ部分に手を掛ける。
詩音の時とは違いスムーズに開けられない圭一は、若干強引にボタンを開け、いや剥いだ。
外気にあてられ詩音の躰が萎縮する。
右手を一度離し、パジャマの下ブラジャの上に手を添え、再び数秒前の行為を続けた。
ブラの生地はざらっとしていたが、より詩音の乳房を感じることが出来る。
半分忘れかけていたディープキスに意識を戻す。何分不慣れなため、息が上手く吸えず苦しさがあった。
舌を抜き、唇も遠ざける。詩音も息が乱れている。熱い官能的な吐息が、圭一の顔にかかる。
詩音が息を吸うのとは違う、なにか喋るために口を開ける。
圭一は反射的にそれを再び己の唇で塞ぎ、二人の唾液が絡み合った舌をまた差し入れた。
数分同じ行為を続けた所で、詩音にも変化が表れた。
圭一の腕を掴んでいた手を、圭一の後頭部に移動させ、より激しい接吻を求める。
顔を動かし、また違った角度の舌を味わう。
圭一もただ揉んでいただけの両手を、くびれや腰、背中を撫でることも追加する。
軽く汗ばんだ詩音の躰を圭一は舐めるように撫でた。
圭一の本能が、今度はブラを外すことを指示する。
どこかの知識で、ブラを外す時にはそれなりのテクがいるとかなんとか聞いていたが、ボタンとは違い簡単にブラは胸から落ちた。
未だキスのため圭一の視界は塞がれているので、生の乳房を見ることは出来ない。
見るよりも先に、右手の親指が桃色の突起にかかった。
びくん、と明らかに今までと違う反応が詩音に起こった。
それを面白く感じた圭一は、親指で何度も乳首を弾く。
詩音の躰がよじれ、何か逃げるように動き出す。
「はぁっはぁっ」
ここで圭一は完全に顔を詩音から離した。視界に飛び込んできた生の上半身。
月光だけの乏しい明かりに映る詩音の乳房。
鼓動がまた一つ大きく鳴る。血流がまた一つある箇所に集まる。

44:Miwotsukushi
08/02/10 20:23:09 JoJ+DVHf
「なかなか……激しいですね」
息が絶え絶えになっているのを落ち着けつつ、詩音が呟いた。
乳を弄られたことより、大人のキスの方が詩音にとってはセックスを感じていた。
「ガマン出来そうにねぇな、俺」
酸素の欠乏とは違う理由で、圭一は激しい呼吸をしている。
既に圭一の一部分は剛直と化していた。
「ガマンしなくていいですよ。滅茶苦茶に私を愉しんでください」
すっと閉じる詩音の瞼。自分のモノと疑似する詩音の態度に、圭一は雄となった。
まず自分を邪魔する衣服を取り払う。悪魔が与えた恥辱を隠す布を外し、アダムとなった。
青い血管が浮き出、他の箇所の肌よりも少し黒ずんだ皮、そして赤々と膨らんだ亀頭。
思春期の中学生に、前戯は十分な勃起の栄養だったらしく、ぴくぴくと震えて準備万端となっていた。
乱暴に掴んだのは詩音の下のパジャマ。ヒップのラインに沿いはだけるズボンを、片手で足から引き抜いた。
純白のパンティを直視し、円形のシミが出来ていることを中指で確認した。
指でそのシミを弄る圭一。いよいよ声を抑えにくい箇所に刺激が起き、力を入れる詩音。
時折起こるぐちょ、と言う音がより大胆に圭一を動かす。
パンティ越しに溝をゆっくり下から上、上から下となぞる。詩音の手が声を漏らさないため口へと動いた。
それより早く圭一の指が詩音の口腔に入る。
これは知識として存在していた作業で、圭一自身どう意味をなすのかが分からなかった。
とりあえず中指に次いで人差し指も口へ入れ、舌をぐにぐにと弄った。
すると詩音は手首の当たりを両手で掴み、固定し、口腔内の圭一の指をしゃぶり始めた。
自分の意志ではない舌が、こんなに快感を生み出すのかと圭一は思う。
指先に性感帯など無いのだが、ぞくぞくとする小さな刺激に圭一はより鼻息を荒げる。
「んっ……ん……」
懸命に指をしゃぶる詩音を見ながら圭一はパンティにも手を掛けた。腿まで下げて圭一はパンティを下げるのを中断する。
もう邪魔するものなど何もない詩音の恥部。これ以上待つ理由など圭一にはなかったからだ。
左手の指が詩音の指に触れる。溝に沿って再び擦り始める。大陰唇を親指でこする。
途中クリトリスを発見し、乳首にしたように軽く弾いた。

45:Miwotsukushi
08/02/10 20:24:13 JoJ+DVHf
一番大きな声が圭一の指の間から漏れた。
弾く。声が漏れる。弾く。声が漏れる。
指をしゃぶることなど忘れ、詩音はされるがままに声を押し殺す。
その必死に耐える表情をする顔に、圭一は数センチの所まで自らを近づけた。
「可愛いよ、詩音。ガマンすんなよ」
銃のジェスチャのような形の人差し指と中指を、圭一は詩音のナカに挿れた。
ぐっと詩音が硬直する。怯えるような表情に変わった顔。
紅潮した頬を一度舐めてから、圭一は三度目のディープキスをする。
今までで一番激しさのこもったキス。詩音は逃れるように、紛らわすように舌を貪る。
ナカにある人差し指と中指を交互に暴れさせる。
ぐちゅっ。びちゃ。淫らな音。キスで漏れる音と同様、圭一の一つのガマンが崩れかける。

早く挿れてしまいたい。果てたい。

だが思い留まり、二本の指に加え親指が陰核を遊ぶ。
後頭部に再び回っていた詩音の手に力が入る。キスの度合いがまた一つヒートアップする。
三本の指が疲労を感じ始めていた。手の筋肉など本当に些細なモノ。数分続ける慣れない運動にも限界が来る。
しかし圭一は詩音がイきそうなのを感じ取っていた。詩音から舌が動かなくなり、されるがままの状態になっているからだ。
もうちょい……、もうちょい。
「へひちゃ、……ひちゃ、ああ、ああ、ああああああっ!」
弓のように詩音がしなる。異常が起こり、圭一の後頭部をあらん限りの力で締める形となった。
イったのか……。妙な達成感と、詩音に対する征服感が起こり、圭一は唇を乳房へ移動させた。
「待って……圭ちゃん……っ。きゅーけぃ……」
「待ってられっかよ……」
乳首をくわえ、挿れたままの指を再び始動させる。
転がすように丹念に乳首を舐め回し、指はナカの横ではなく上の方に立てる。
小さなグラインドで擦り始めると、先ほどより大きな刺激が詩音に伝わった。
「はっ、はっ、いやぁ……圭ちゃん……」
圭一は第二関節までしか挿れていなかった指を、根本まで沈める。
詩音がまた一つ鳴き、圭一は指の出し入れする距離を一層長くした。
数分している内に、一部分を通過する時だけ、詩音が必ず声を漏らすことを圭一は知った。
Gスポットであったのだが、圭一はそんな知識を知ることもなく、ただ面白半分にそこを重点的に責める。
「うああっ、そこ……だめぇっ」
聞き入れるはずもなく、むしろ弄る指を更に激しくこすり上げる。
詩音の躰が左右に揺れ、圭一は右手を背に回して、詩音を固定した。


46:Miwotsukushi
08/02/10 20:25:27 JoJ+DVHf
「よし……」
圭一はある程度見切りをつけ、口から指を離す。
詩音は荒い息を抑えるのに必死で、天井を見つめながら呼吸している。
圭一は視線を詩音から離し、自らの剛直へと向ける。
先走り液は既に亀頭全体を濡らし、今にもフライングしそうなほど万端のようであった。
「いいな……詩音」
詩音にまたがり、ペニスの先端を入り口にあてがいながら圭一は尋ねた。
ここで拒絶されても、圭一は抑制しきれないだろうが、彼の最低限のマナーであった。
無言で頷いた詩音をしっかり確認し、圭一は腰に力を入れた。
「ゆっくりだと逆に痛いって言うからさ」
「……はい」
緊張が走る。どのタイミングでやろうとも結果は同じだろうが、太股を持つ手が汗ばむのを感じた。
「力抜いてな……いくぞ」
亀頭がナカへと侵入する。そこで一度躊躇に似た停止があった後、宣言通り一気に挿し込んだ。
破瓜を迎えた詩音に初めて痛みが伝播する。自らの処女が失われた瞬間。さすがにこればかりは愛情でガマンできるものではない。
圭一は動かずに詩音の表情が緩むのを待った。
息を整えようとしているが、やはり痛みは相当らしく眉間の皺が走っている。
一方圭一は詩音へと入り、今までで一番の快楽を得ていた。
前戯は女性へのある意味での奉仕であり、直接圭一が快感を覚えるモノではない。
初めて圭一は自慰とは違う、女性の膣を感じ取っていた。
詩音が大きく息を吐く。表情も未だ口元が歪んでいたが、さっきよりは収まった。
半分ほどまで入ったペニスを更に奥へと挿れる。また詩音の息が漏れる。小さな悲鳴があがる。
ここで圭一の理性が完全に切れた。
「詩音っ!」
太股を持ち上げていた両手を、詩音の腰へ持ちかえる。しっかりと詩音を固定させ、一層ペニスを詩音の奥へと挿し入れた。
「いやああああぁぁっ、痛い……」
躊躇ってしまいそうな詩音の嘆きにも、圭一は腰を止めなかった。
亀頭の先端がなにかに当たる。詩音の子宮口へと到達したのだ。だがそれでも根本まで入ってはいない。
ぐっと更に圭一の持つ手に力が入る。あと数センチ。根本まで挿れることに、圭一は妙な執着心を抱いていた。
「無理……圭ちゃん、もう入らないよ……っ!」
「あと少し……後少しだからガマン……してっ!」
語尾を言い終えると同時に圭一は根本まで自らを沈めた。
詩音が嬌声をあげ、ベットのシーツを握りながら痛みに耐える。

47:Miwotsukushi
08/02/10 20:25:56 JoJ+DVHf
根本まで入りきった所で、圭一はピストンを始めた。
狭い膣の壁を圭一のカリ首が引っ掻き、苦痛なのか悦楽なのか分からないモノが詩音を襲う。
「けいちゃ……、もうちょっとゆっくり……」
「ごめん、乱暴すぎたか?」
腰の動きをよりスローモーションに変える。それでも詩音の顔から苦悶の表情は剥がれない。
いきなり巨大な異物を飲み込んだ詩音の膣は悲鳴を上げ、両者が快感を覚えれるセックスとは一線を画していた。
経験の無さや、性器同士の相性もある。今は何とか圭一への愛情で保っている状態だ。
破瓜の際流れ出た血液が、より乏しい知識のセックスが危険であることを物語る。
尚、圭一はピストンを止めることはしなかった。
性欲に負け自我に支配されているわけではない。知識として痛みを和らげるには、ピストンを続けるしかない、と知っていたからだ。
堪える声が、痛みではなく悦びを抑えるものになるまで、この速度で続けることを決心していた。
やろうと思えば、犯してしまうこともできる。
詩音を道具が何かのように、性欲のはけ口として壊すことも出来る。
だが詩音の喘ぎが、僅かであるが圭一の理性を取り戻した。
自分を好いてくれ、躰を差し出したこの女性を、壊すことなど圭一には意識の片隅にもなかった。
「うっ……うぅん……」
表情が崩れないまま、また幾重の時を重ねた。だが確実に詩音の反応が、痛みから離脱しかけているのが分かる。
ぐちゅ、とピストンする度に鳴る音も大きくなってきた。愛液の量が増えている証拠だ。
シーツを握っていた力が段々入らなくなり、浮揚でもするような感覚が起き始める。
コンスタントで一定のリズムのピストンを、圭一は次第に変え始めた。
出すかと思えばまた少し突き、逆に奥深くまで突かず大きく出す。
ペニスが膣から抜けるのだけは注意しつつ、不定期の刺激を送り続ける。
漏れる声が内緒で観たビデオのものと似てくる。
だがどの女優よりも遙かに綺麗で、心地よく、嬉しい声が目の前で起こっている。
自分のペニスで悦びを感じてくれることに、圭一は病みつきになった。

48:Miwotsukushi
08/02/10 20:27:44 JoJ+DVHf
詩音が異変を感じたのは、掴まれていた腰から感触が消えた時だった。
次いで太股から間接の裏あたりの触覚が反応し、足が圭一の脇の下で挟まれる感覚。
その一連の動作で膣の壁が大きくペニスを擦る。詩音の躰が横になり、俗の交差位の体位。
ただでさえ大きかった摩擦が、躰が横になったことで更なる刺激となる。
セックスを思い浮かべると正上位が一番に来る詩音には、まるで犯されているような感覚さえある。
だが繋がっている相手は圭一であり、彼が夢中になっているような錯覚がより詩音を酔わせる。
乳房に手がかかる。挟んである脚に負荷がかかり少し痛い。圭一の顔は到底可愛らしいものではなかった。
それでもどんな負の状況が出来ていても、詩音は起こっている快感で全てかき消すことが出来た。
実際しないと分からない感覚。睡魔に似た抑制の出来ない虜の世界。
そして確実に近づく終わり。オーガズムと言う名称の頂が、詩音の奥からこみ上げてくる。
圭一は気付いていない。必死にただ腰を動かしているだけのように見える。
果てそうなことを伝えたい。しかし響く悦楽が、発する快感が、伝う快感がそれを妨げる。
確実に終わりは近いのに、ただ漏れるのは喘ぐ鳴き声。
言葉にならない、平仮名でもアルファベットでも表現できない音だけが口をつく。
「ううっ……!?」
波。駆け上がるなにか、いや分かっている。
これが絶頂前の筋肉の弛緩。
恐怖感にも似た冷たさと快感の塊がこみ上げる。
来る来る来る来る……!
「っつああああああぁぁ!」
圭一は詩音の反応に目を丸くする。
頭の先から足の指まで伸びきって、口をだらしなく開け、数秒間硬直した。
同時にナカが急激に締まり、堪えていた射精感にまた刺激が加わる。
痙攣したように横たわる詩音を見て、やっと圭一は彼女がイったことを理解した。


49:Miwotsukushi
08/02/10 20:28:09 JoJ+DVHf
「イったのか……? 詩音」
一応聞いてみるものの、大きく呼吸する詩音からは何も返ってこない。
かちん、と子供らしい感情を圭一は抱く。
幼稚園児なら親が勝手にデパートへ行き、自分は知らず友達の家に居たら怒りを覚えるだろう。
そんなガキくさい、セックスとは対象年齢の違う気持ちで、圭一は腰を大きく動かす。
「っ。圭ちゃん!?」
絶頂を迎えて間もない詩音には、余りにも慈悲のない刺激。
容赦なく擦りつけられる膣壁は、水音で悲鳴をあげていた。
声を出そうにもピストン運動が強すぎる。
グラインドする量も、速度も、方向も乱暴で耐え難い感覚だ。
肌と肌を打ち合う音が、またスピードアップする。
愉しむためではなく射精するための運動。ペニスは最高の環境で脳からの指令を待っている。
「ぐ……うっ」
「ぃちゃん、ナカはやばひっ……!」
圭一は耐えに耐えた液体を撃ち放つ。
一度情け程度の放出の後、二度目三度目の大きな流出。
自慰ではなかなか起きない四度目五度目六度目。雄の象徴が詩音のナカで大きく爆ぜた。
射精で起こった寂寥感に包まれながらペニスを抜く。
生殖としての役目を終えた圭一の陰茎は、だらしなく垂れ限界をアピールしていた。
疲労がどっと全身に押し寄せ、詩音の横に倒れ込む。
目の前には緑色の髪をした少女。
「めっちゃ良かった……」
「……最後のなければ、私は最高だったんですけどね」
こうやって一々毒づくのが好きな、だけど暖かい女の子。

どうしよう。俺はこの娘(こ)が好きなのだろうか。

それよりも今は眠い。大変なことは……明日……考えよう。

圭一は瞳を閉じて眠りに入った。
その様子を詩音は微笑みながら見つめる。
腹の中にある温かい液体の感触。圭一の象徴。
今日は一応安全日だから大丈夫だろうか。
いやいや明日学校に私が投稿する確率よりは高いはずだ。
まぁ、その時はその時だ。
その時が来るまで……、今は私も眠らせて貰おう。
瞼が支えを失って落ちる。全身から力が抜ける。脱力と言う妙な心地よさ。
圭一の額に口づけをし、詩音も深い闇の中へと巻かれ始めた。

50:Miwotsukushi
08/02/10 20:30:38 JoJ+DVHf
『ひとまず』これで終わりです。
呼んで頂いた方が鬼隠しに遭わないことをお祈り致します(*_ _)

51:名無しさん@ピンキー
08/02/10 22:38:12 crFtM+Ev
>>1

52:名無しさん@ピンキー
08/02/10 22:47:29 jiKGiVlW
gj
これは魅音がいたたまれない。それがと゛う展開していくか期待してます。

53:名無しさん@ピンキー
08/02/10 23:01:03 jH4vTeY7
萌えたんだが…
おじさんの事を思うとなんか胸が…痛いぜ…

54:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:04:53 zDmXPH2j
これは・・・ある種の寝取りッ!?
堪らんのうw
GJ!!

55: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 01:59:46 zDmXPH2j
れなぱん!の続きが完成したので投下します。
wikiにupして下さった方ありがとうございます!毎回助かっています。
感想を下さった方ありがとうございます!神と呼んでくれて嬉しいです。
前回カプを書き忘れて申し訳無いです。
次のカプの時には忘れず書きますので勘弁してやってください。

では次レスから投下しますので、良かったら読んでやってください。



56: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:00:21 zDmXPH2j
[れなぱん!(2)]

私は夢を見ていた。見ているでは無くて『いた』だ。
何でかって?
答えは目が覚めてしまったから・・・。
私は目を閉じたまま、まどろむ。
夢の内容は圭一君と私が、ちょっぴりHな事をしちゃう夢。
恥ずかしいから、どんな事をしたかまでは言えないけど、最後は一緒にお昼寝して終り。
良い夢だったな。
と、呟いて
今度はどんな夢が見れるかな?
って想いを馳せて、もう一眠りしようとか考えたり・・・。
でも、その前に扇風機の風が強過ぎるから弱めよう。
女の子はお腹を冷やしたら駄目なんだよ?
私はゆっくり目を開いていった。
「あ・・・」
ちりん・・・。
窓枠に取付けられた風鈴の奏でる音色と共に微風が身体を撫でる。
夢だと思っていた。
そう。さっきの夢の続きを見ているのかと思ってしまった程だ。
圭一君が寝ていて、私がその横で腕枕をして貰っているのだから。
そして、それが現実であると理解した瞬間、身体がカーッと熱くなっていくのが分かる。
だって目の前10センチ足らずの場所に圭一君の顔が有るのだから。
昨日までなら、妄想の中でしか有り得なかった夢の様な光景。



57: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:00:58 zDmXPH2j
やっぱり、まだ夢を見ているのでは無いかと思って、頬を軽く引っ張ってみる。
痛い・・・。
私の経験則から導き出した答えは、これは間違なく現実である。
という事だった。
「あ、あはは・・・」
寝起きのカラカラに渇いた喉で小さく笑い声を出してみる。
幸せな自分の状況が信じられなくて。
そして、段々目の奥がチクチクしてくる。
思わず弛んでしまいそうになる涙腺を、何とか堪えて落ち着かせる。
それでも目尻に少しだけ出てしまった涙を指で拭いて、ずっとこのままで居たいと願ってしまう私がいる。
でも、ずっとこのままでは居られない。
どのくらい寝てたのか分からないけど、魅ぃちゃん達がお見舞いに来ると言っていた。
目だけを動かして時計を探す。身体を起こせば良いのに、未練たらしく私はギリギリまで圭一君の温もりを感じていたかった。
今思えば、ずっと寂しかったのかもしれない。両親が離婚して甘えたい時に甘え足らなかったから。
そしてようやく時計を見つけて時間を見ると二時半。
あと二時間位は皆、来ないだろう。確かでは無いけど、私の勘がそう言っている。



58: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:01:25 zDmXPH2j
ずっと圭一君の顔を見ているのも悪く無いけど、私は圭一君に今しか出来ない事をしたい。
こういう機会はめったに無い。下手したら、この先無いかも知れないのだ。
やらずに後悔するより、やって後悔した方が良い。ちなみに変な意味では無い。
そう。私の想いを、ちゃんと告げたいのだ。
一夏の淡い思い出になるかも知れない。
それでも、今の私が圭一君に抱いている想いは色褪せたりなんかしない。
私は圭一君の身体を軽く揺さぶってみた。
すると一瞬だけ目を開けて私の方に寝返りをうって、また寝入る。
「ねぇ。圭一君起きて?」
「ん・・・あと一時間」
「だぁ~め!そんなにお昼寝しちゃったら夜寝れなくなっちゃうんだよ。だよ」
「良いよ・・・寝れなくても良いから・・・って。あ・・・」
何とか目を覚ました圭一君とバッチリ目が合う。
「おはよう・・・圭一君。寝坊助さんなんだよ。だよ・・・」
「お、おはっ・・・よう・・・」
圭一君も顔を真っ赤にしながら挨拶してくれる。
「はぅ・・・圭一君お顔が真っ赤なんだよ?どうしたのかな。かな?」
「なっ!そ、そういうレナだって!」



59: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:01:58 zDmXPH2j
「だって・・・夢みたいなんだもん」
私は、ゆっくり圭一君の身体の上と乗りながら続ける。
「さっきも言ったよね?レナは圭一君の事、大好きだって」
上から覆い被さり、子供に言い聞かせる様に口を開く。
「男の子として圭一君の事好きなの・・・圭一君はレナの事・・・どう想っているのかな。かな?」
「あ・・・その、俺はレナの事が好・・・」
私は人差し指をそっと圭一君の唇に当てる。
「その先は、ゆっくり考えて答えて欲しいな・・・」
一呼吸置いて、私は続ける。
「もしかしたら、一時の気の迷いで圭一君はレナを好きになったと思い込んでるのかも知れないよ?」
「何日掛かっても良いよ。だから、その時に返事して・・・ねっ?」
「う、うん」
熱に浮かされた様な顔で圭一君が頷く。
「レナは・・・こんな形でも圭一君の身体に触れれて、想いを告げれただけで嬉しいんだよ。だよ」
「だから夢みたいなの。圭一君はこんな事嫌かもだけど、ゴメンね?」
「・・・嬉しいさ。ちゃんと考えて返事を絶対するから、待っててくれよ?」
「うん!」
私は、いそいそと身体を圭一君の横に戻す。
何か卑怯だな、私って。
女の武器を使って誘惑したも同然だ。



60: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:02:24 zDmXPH2j
それでも自分の気持ちに嘘は付きたくなかった。ああやって覆い被さったのは圭一君の顔をしっかり見たかったから。
言い訳だと思うなら、好きに言わせておけば良い。
私は圭一君に抱き付く。
「お、おい。レナ?」
「皆が来るまで、こうしてちゃ駄目かな?」
「お、俺で良ければ!」
二人で抱き合って、何も喋らずにドキドキしながらジッとしていた。
しばらくして、圭一君の手が私の脇腹に触れる。
「け、圭一君?」
「あ、いや!わ、悪い!」
偶然。そう偶然なのだ。
そして数分後、今度はお尻に触れられる。
これで確信した。わざと触っていると。
まあ、圭一君も男の子だから仕方無い。こういう事は好きじゃないけど、今日は特別だ。
それに圭一君をオカズにしていた私と何が違うというのか、本質は一緒である。ちょっとした罪滅ぼしのつもり。
だから私は圭一君の身体にピッタリ引っ付いてあげる。抱き枕にしていた様に足を絡ませアソコを股間に押し付けて。
「圭一君は悪い子なんだよ。だよ」
そして圭一君の顔を見ながら甘えた声で聞いてみる。



61: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:03:11 zDmXPH2j
「女の子の身体って柔らかいよね。お母さんとは違う、女の子の身体なんだよ。レナの身体・・・柔らかくて気持ち良いかな。かな?」
「・・・凄く柔らかくて、良い匂いがする・・・」
圭一君が私の首筋に顔を埋めて鼻を鳴らす。
「はぅ・・・そんなにスンスンさせたらくすぐったいよ。まるでワンちゃんみたいなんだよ。だよ」
そう言うと調子に乗ったのか、今度は舌を這わせてくる。
「あ・・・あう・・・だ、駄目。いっぱい汗かいてるから汚いよ・・・んぅ」
ピクピクと身体を震わせて、そう言うが圭一君が私に甘えてくれてると思うと突き放す事が出来ない。
もし圭一君に尻尾があったらフリフリと嬉しそうに振っている事だろう。
圭一君に尻尾・・・かぁぃぃよう。
部活の罰ゲームで紙に書いて箱に入れておこうかな?
でも、出来れば私だけに見せて欲しい。皆には見せて欲しくないな。
「汗かいてるのは御互い様だろ。それより、もっとレナの身体、触って良いか?」
「うん・・・私も圭一君に触って貰いたい・・・かな」
蝉の鳴き声も外の音も耳に入らなくなる。圭一君の言う事だけに耳を傾けて、二人だけの世界に逃避する。



62: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:03:41 zDmXPH2j
「んん・・・」
お尻に置かれていた手が恐る恐るという感じで動き始める。
「・・・柔らけぇ」
初めは触るだけだったけど、段々と揉みしだかれる様になった。
「んぁ・・・ん・・・あ」
圭一君に触られている。
それだけで私の身体は切なくなってしまう。
「は・・・圭一・・・君。ちょっと待って・・・」
私は身体を起こして足先にある、タオルケットを取り二人の身体を包み込んだ。
「暑いかもしれないけど、恥ずかしいから・・・」
そう言って私は再び圭一君の身体に密着する。
「でも汗だくになっちまうぞ?」
「良いよ・・・二人で汗だくになっちゃお?」
圭一君の手を取って私のお尻まで誘導して続ける。
「だから続き・・・して?」
「おう・・・」
お尻に圭一君の手の感触が伝わる。私にとっては痒い所に手が届かない、もどかしい気持ち良さだけど胸の中が温くなる。
「んうっ・・・んん」
身体がピクピクと震えて嬉しがっている。慣れない手付きで一生懸命、私の身体の事を知ろうとしている圭一君が可愛いくて仕方無い。
「あ・・・ん。圭一君もオットセイも一生懸命なんだよ」
圭一君が私の太股にオットセイを押し付けてくる。



63: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:04:29 zDmXPH2j
短パン越しでも分かる位硬い。オットセイが痛いから強く擦り付けられなくて、もどかしそうな顔をしている。
「ごめん。勝手に腰が動いちまうんだよ」
私に欲情してくれているんだ。嬉しい・・・。
だけど、これ以上はしてあげられないし、させてあげられない。
だって告白の返事待ちなのだ。これより先は、お付き合いしてから。
でも、ここまでなら大丈夫。友達以上恋人未満のギリギリラインだから・・・。
結局その後も圭一君も私のお尻を揉む以上の事はしてこなかった。圭一君も私と同じ事を考えているのだろう、と勝手に解釈しておく。
「は・・・あ・・・圭一君。ん。もう魅ぃちゃん達来ちゃうよ・・・」
時間も良い頃合だ。私は圭一にそろそろ止める様に遠回しに伝える。
「ん・・・もう、そんな時間か・・・」
圭一君が名残惜しそうに私のお尻から手を離す。
私はお尻に食い込んだ下着を直して身体を起こす。そして扇風機の前に座っ涼む。
「ほら、汗拭けよ」
圭一がタオルを渡してくれ、私は顔の汗を拭き取る。身体は・・・ベタベタして気持ち悪いけど圭一君の前だし・・・ね? 家に帰るまで我慢しよう。



64: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:05:06 zDmXPH2j
「それにしても暑いな・・・麦茶でも持って来るよ」
「うん!」
圭一君が部屋から出て行くのを見届けて、私は下着に触れてみる。
「はぅ・・・」
そこは水でも被ったのかという位濡れていた。汗だけでは、こうはならない。
圭一君に悪戯されて嬉しくて身体が過剰に反応したのだろう。
「お家に帰るまで我慢できるかな・・・?」
と、私は下着から手を離してポツリと呟いた。
まだ胸がドキドキしている。それに身体は疼いて仕方無い、時間にして二時間近く悪戯されていたから仕方無いよね?
むしろ、大好きな圭一君に身体を触られ続けた後も、平然を装えている自分を褒めてやりたいくらいだ。
こんな感じで、圭一に想いを伝える事も出来たし、身体に触れ合う事も出来て私は浮かれている。
今日は帰ったら自分の身体に御褒美を沢山あげよう。
今日位は良いよね?
明日から元通りの『いつものレナ』になりさえすれば良いのだ。
今日だけは『女のレナ』で居たい。
そういう気分なのだ。
私は足を崩して、畳にペタンとお尻を付けて座った。いわゆる女の子座りというやつだ。



65: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:06:09 zDmXPH2j
やがて圭一君が麦茶を持って戻って来た。
「ほらよ」
そう言って圭一君がコップを渡してくれる。「ありがとう」
私はお礼を言って麦茶を一気に飲み干す。ちょっとはしたないけど、数時間ぶりに摂る水分の魅力には勝てない。
「おおレナ!良い飲みっぷりだな!」
「・・・ぷはっ!だって喉が渇いてたんだもの」
私はコップを置いて制服のリボンを手で触りながら続ける。
「それに・・・圭一君のお手々が気持ち良くてドキドキして身体が熱くなってるの、だから冷やさないと・・・レナおかしくなっちゃうんだよ。だよ」
「あ~・・・。嫌だったか?」
「ううん。嬉しかったよ。圭一君がレナの事を可愛いがってくれたから・・・」
ピンポーン♪
全部言いきらない内に、チャイムが鳴った。
「っと。皆が来たんじゃねぇか?」
私は立ち上がって、窓から外を見た。魅ぃちゃんと梨花ちゃんに羽入ちゃん・・・。沙都子ちゃんと詩ぃちゃんは居ない。
圭一君が横に来て皆に向かって口を開く。
「お~い!玄関の鍵は開いてるから上がって来いよ!」
ちょっと残念。まだ圭一君と二人で居たかった、もっと話したかった。



66: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:06:40 zDmXPH2j
「あれぇ?圭ちゃん元気そうじゃん!あ、コレ良かったら食べてよ」
「サンキュー魅音。そういや沙都子と詩音は?」
圭一君が魅ぃちゃんから重箱を受け取って、来ていない二人の事を聞いた。
「みぃ。沙都子と詩ぃは悟史の所に行ったのです」
「だから僕達だけで来たのですよ~!」
圭一君の質問を梨花ちゃんと羽入ちゃんが答える。
「圭一が居ないから沙都子が寂しそうだったのですよ。だから明日のトラップは激しい物になると思うのです。あぅあぅ!」
「げっ!マジかよ?明日学校に行きたく無くなって来たぜ・・・」
「圭ちゃん~!本当に明日、来なかったら知恵先生に今日の事話しちゃうよ。良いのかな~?」
三人がワイワイと楽しそうに冗談を言い合うのを私は横目で見た。
何となく、あの輪の中には入れない。さっきまでの浮かれていた気分が一気に冷めてしまった。
皆と居るのは楽しいけど、圭一君と一緒に居る楽しさとはベクトルが違うからだ。
圭一君と二人で居たら、つまらない事でもワクワクして楽しくて、時が経つのが早く感じる。
ここまで考えて私は気付く。
皆が来て、圭一君との甘い時間が終わった事にイラついているんだと。



67: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:07:18 zDmXPH2j
私は馬鹿か?皆は圭一君の事を心配して来てくれたのだ、それを私は邪魔だと思ってしまった。
なんて自分勝手なのだろう。
こんな事を考えてしまった私を許して欲しい。皆ゴメンね。
「みぃ・・・レナ。レナ・・・」
私の制服の袖がクイクイと引っ張られる。
考え事をしている間に梨花ちゃんが私の横に来ていた。
「レナは皆とお話ししないのですか?それに何だか辛そうな顔をしているのですよ?」
私はそんな顔をしていたのか・・・すぐに笑顔を作って梨花ちゃんに言った。
「梨花ちゃん心配してくれているのかな。大丈夫、レナは何とも無いよ。ちょっと考え事しているだけなんだよ。だよ」
すると、私の頭を梨花ちゃんが撫で始める。「みぃ・・・レナは可哀相なのです、圭一とネコさん達みたいにミィーミィーニャンニャン出来なくなって可哀相なのですよ」
「あ、あはは!!何の事かな。かな!?レナはサッパリ分からないよ!」
図星だが、梨花ちゃんが言った事を私は慌てて否定する。
『ミィーミィーニャンニャン』という言葉は、恐らくHな事を意味している筈だと私は解釈した。
梨花ちゃん位の年ならソレを知ってても不思議では無いから、そう考えてしまったのだ。



68: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:08:13 zDmXPH2j
「くすくすくす・・・分かりやすい反応。そう。圭一と学校をサボって、そういう事してたのね?」
急に大人びた口調で梨花ちゃんが面白そうな顔をして話し始めた。たまに梨花ちゃんは、こんな話し方になる。
初めは驚いたけど、今では慣れた。と、同時にカマを掛けられていたのだと気付く。
「はぅ・・・梨花ちゃんは意地悪なんだよ。だよ」
下手に否定し続けたら、皆に脚色して言いかねない。こう見えても結構、狸な所があるのだ梨花ちゃんは。
だから肯定とも取れる様な曖昧な返事を返しておく。事実上の肯定という事だ。
「意地悪?違うわ。まあ年頃の男と女が一緒に居たら、そうなってしまうのも無理は無いわよ。特に貴女と圭一ならね」
と梨花ちゃんが言ってニヤリと笑う。
「安心しなさいな、皆には言わないから」
「・・・絶対なんだよ。だよ?」
「・・・にぱ~☆世の中に絶対なんて事は無いのですよ。だから無理なのです♪」
と言って梨花ちゃんが私から離れて羽入ちゃんの横に行ってしまった。大丈夫だろうか?
ううん。梨花ちゃんなら大丈夫。そんな気がするから信じよう。
何だか梨花ちゃんと話して心が楽になった。



69: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:08:50 zDmXPH2j
そして私も皆の所に行き会話に参加した。
.

私は今、家路を急いでいる。あの後、皆で圭一君の夕飯を作り家を出た。
そろそろ帰って我が家の夕飯を作らないと、お父さんが帰って来てしまう。と言ってもオカズは圭一君の家で、ついでに作ったからご飯を炊くだけ。
家の前まで着くと、お父さんと鉢合わせした。
「おかえり。お父さん」
「ああ、ただいま礼奈。ちょっと悪いんだけど、お父さん夕飯は要らないからね」
「え?どうしてかな。かな?」
「会社の人が、お父さんの歓迎会を開いてくれるんだ。っと・・・早く着替えないと迎えが来ちゃうな」
と言って、お父さんは慌だしく家の中に入っていった。
と言う事は、今晩は私一人だけか・・・。
私は家の中に入り、冷蔵庫の中にオカズを入れる。明日の朝食で食べよう。
一人だけなら適当に何か食べれば良い。
たらこスパでも作って・・・いや、ナポリタンも良いな。
ナポリタンにしよう。簡単かつ手っ取り早いし。
私はテーブルの上に置いてあったエプロンを付けて調理を始めた。
さて、二十分もするとナポリタンが出来た。椅子に座って黙々と一人寂しく夕飯を食べた後、お風呂を沸かす事にした。



70: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:09:30 zDmXPH2j
浴槽を洗って水を張りボイラーを点火する。あとは待つだけ。
私は自室に入り、着替えもせずベッドに寝転がる。
お父さんも出掛けたし、これと言ってする事は・・・有った。
そう。自分への御褒美・・・どうせ汗をかくならお風呂に入る前にした方が良いだろう。
いや、むしろお風呂で・・・。以前魅ぃちゃんが言ってた事を試してみようか?
そんな事を考えてたら、また身体の奥が疼いてくる。圭一君に中途半端に身体を悪戯されて欲求不満気味になっていた。
流石に、あれから何時間も経っているから濡れては無いけど・・・。
「だ、駄目。せめて、お風呂が沸くまで我慢だよ。だよ」
自分の下腹部を撫でて、自分に言い聞かせる様に呟く。
何かして気を紛らわせよう。
私は本棚から適当に漫画本を取り出してパラパラと斜め読みしてみる。
・・・駄目だ。ソワソワして集中できない。
仕方無い。まだ温いだろうけど、お風呂に入ろう。身体と髪を洗ってたら丁度良い湯加減になっていると思うし。
私はタンスから下着と寝間着を取り出し部屋を出て風呂場に向かう、制服と下着を脱ぎ脱衣籠の中に放り込んで、浴室の中に入った。



71: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:10:18 zDmXPH2j
「ふう・・・」
シャワーを浴びて、私はタオルに石鹸を付けて身体を洗う。
魅ぃちゃんや詩ぃちゃんに比べたら貧相な身体だけど、全体的なバランスは悪く無いと思う。
あの二人は規格外なのだ。むしろ私が年相応の平均的な身体付きなのだから、比べるのは無駄だと分かってはいる。
急にこんな事を考え出したのには理由が有る。
圭一君は今日ずっとお尻だけ触っていた。男の子だったら真っ先に胸に伸びるのが普通では無いか、私の偏見かも知れないけど・・・。
もし今日、私と魅ぃちゃんの立場が逆で圭一君が同じ状況だったら胸を触っている筈。
劣等感を持っている訳では無いけど複雑な気持ちになってくるのだ。
私の胸に魅力が無いと言われている様な気がしたり・・・。
けど、あれが私達の過剰なスキンシップのギリギリラインだと思う。圭一君なりに気を使って、胸を触らなかったのかも知れないし。
これ以上考えても堂々巡りになる。考えても無意味だ。
それよりも身体の疼きをどうにかしたい。
私は石鹸を洗い流して髪を洗う。
続いてリンスで髪をトリートメントし、洗顔をしてサッパリとする。



72: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:10:56 zDmXPH2j
待ちに待った時が来た。
私は床に腰を降ろして胸に手を伸ばす、初めは優しく撫でるだけ。最初から激しくしたら身体がビックリしちゃうから。
それでも気持ち良い。段々と手の平で転がす様な動きになる。
「んぅ・・・ん」
手の平に乳首が当たって、その度に身体がピクピクと少し震える。
「ふぁ・・・あ・・・んくっ・・・」
親指で乳首をクリクリと転がす頃には、私はすっかり出来上がっていた。
ふと視界の端にリンスのボトルが現われる。
そう言えば圭一君が私の首を舐めた時、気持ち良かった・・・あれを乳首にされたら、もっと気持ち良いのだろうか?
そう思った時には、既にリンスのボトルに手が伸びていた、適量を手の平に出して胸に塗り付ける。
「あっ・・・あう・・・」
そして先程と同じ様に手を動かすが、ヌルヌルと滑って捕らえどころが無い。でも、いつもより、ちょっとだけ気持ち良いかも・・・。
「はあ・・・んっ!」
そして胸をドキドキさせながら、親指の腹で乳首を弾いてみると凄く気持ち良くて、思わず前屈みになってしまう。
舌の感触とは違うけど、そんな事はどうだって良い。



73: ◆KARsW3gC4M
08/02/11 02:11:26 zDmXPH2j
新しい玩具を買って貰った子供みたいに、色々試してみる。
と言っても、いつもとやる事は同じだけど、どれも気持ち良くて・・・。
「はあ・・・っはあ・・・」
そろそろ一番気持ちの良い事を・・・私は手を下腹部に持って行こうとして思い出す。
そうだった、魅ぃちゃんが言ってたやり方してみなくちゃ・・・。
ちなみに女の子だって下ネタで盛り上がる事はある。あれは先週だったか、魅ぃちゃんの部屋で話してて、そういう話題になった時だった。
詳しい内容は省くが、その時にオットセイの汚れの話しと、私が今からする事について話していた訳だ。
ついでに言うなら、件のHな少女漫画も、その時に借りた・・・いや、半ば強引に貸付けられた。
『レナ読んだら感想聞かせてね~!』
『ですよね~♪』
とか、姉妹揃ってニヤニヤしながら言っていたが、からかわれたのだろう。
まあ、家に帰って何だかんだ言いながら最後まで読んでしまった私も私だが。
ともかく私は、ソレを試す事にしたのである。手を伸ばしてシャワーのホースを掴んで、上手い事シャワーのノズルを壁のステーから外す。




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