08/02/04 07:58:33 /AFVQLCe
「勇者サマ、アレしてよ」
ようやく部屋に落ち着いて、ブーツを脱ぎベッドに腰掛けていた私にマリカが抱きつい
てきた。彼女はブーツを履いたままベッドに上がっている。脛と私の首に絡めた腕に体重
をかけて、半ば欲情した吐息を耳にあててくる。
「君ほんとうに好き者ですね。トーマスとエリカがあんな目にあったばかりだというのに」
戦士トーマスとマリカの姉、魔法使いエリカは、ガルナの塔の吊り橋から転落して死ん
だ。もともとエリカは魔法には強いが白兵戦闘には慣れていない。足場の悪い吊り橋の上、
トーマスは足手纏いになりがちな彼女を庇うように戦っていて、文字通り足に纏わりつか
れて二人して落下した。即死だった。
私と僧侶のマリカは二人を携帯式棺桶に収納すると、ガルナの塔をあとにした。ダーマ
神殿に着いた頃には日も暮れていて、神父の手を煩わせるのも気が引けたので、二人の復
活は明日ということにして、厩の一隅に二人分の棺桶を積み上げた。宿の主人には秘密だ。
一晩くらいならそれほど臭いも出ないだろう。