09/06/07 10:51:56 jujajFqD
「ー愛している」
「っ……もっと…」
「我が愛しのアルドラ、貴女のその麗しい瞳に私は吸い込まれそうだ…」
幼い頃より浪放した身のアルドラは、父からも母からも優しい言葉をかけられた記憶などなかった。
私に唯一、愛情を持って接してくれたのは妹だけだろうか。
無垢で、無償の愛の言葉。辛い日々でも励まし、支えてくれた言葉。
「姉さん」
とたった一言。
たった一言、飾りもなければ難しくもない、血がつながっているという証拠の言葉。
その証拠を高らかに声に出す眩しく愛おしい姿。
その姿も声も、耳からまぶたから消え失せつつある。
幼い頃に別れた妹を探すために力をつけて女王となった暁、妹も見つけられず、愛されるどころか民からも部下からも恐れられ、人離れした美しすぎる容姿に男すら寄って来なくなった。
何故。私はただ、あの愛が込められた声をもう一度聴きたいだけなのに。
女王になった本当の理由を誰にもわかってもらえることがないまま、人々に恐怖を与え続けるとゆうことがいかに矛盾しているか、いかに虚しいことか。
悪鬼を契約してから8年、力の代償に体の成長が止まったアルドラは、身体的にも精神的にも負担がかかり、異常をきたすようになった。
皇王と魔物の間に生まれたアルドラも、女である。
戦に疲れたアルドラは、デルモアにその狂気を沈めるため愛情を感じさせるような言葉を囁き、気持ちを満たせと命令して精神を安定させていた。
普通の女王より周囲からの愛に飢えているアルドラは、精神異常をきたしているせいも相成ってか、言葉だけでも敏感に反応し、酔い、必死に「乙女」としての我に帰ろうとするのだった。