キモ姉&キモウト小説を書こう!Part8at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part8 - 暇つぶし2ch450:名無しさん@ピンキー
08/01/31 00:54:19 hUrY77Sx
>>449
「週刊LMB」「月刊キモ姉」とかはある?

もっともキモウトなら
「(兄以外に)犯される前に殺れ」だよな

451:名無しさん@ピンキー
08/01/31 02:06:35 tKog6Jzj
実際にブラコンがこのスレ見たらどう思うんだろ?

452:名無しさん@ピンキー
08/01/31 02:17:47 BD8LBoXu
ブラコンのレベルにもよるだろう

453:名無しさん@ピンキー
08/01/31 03:13:50 +iedtExc
覚醒するんジャマイカ?

454:名無しさん@ピンキー
08/01/31 09:38:23 wMmw6/9q
>>284の続きを投下します。

素晴らしい作品が続く中、投下するのがお恥ずかしい限りです。
次の方の投下までのつなぎ程度に読んで頂けると幸いです。

455:いもうと
08/01/31 09:39:58 wMmw6/9q
私は二限目が終わると同時に、鞄を持ってトイレに駆け込みました。
個室に入り鍵を閉めます。
逸る気持ちを抑えて鞄を開け、黒のトランクスを取り出しました。
既に頬は紅潮して鼓動が高まっており、体が火照っているのが自分でもわかります。
朝から我慢してたんです、仕方ないですよね。
授業中も兄さんのことしか頭にありませんでした。






手を秘所に伸ばすと、そこはどろどろに蕩けていました。
トランクスを顔に当て息を吸い込み、兄さんの匂いを体中に沁み込ませます。
それだけで、とぷとぷと新たな汁が生まれて来ました。


(兄さん、兄さん)

秘所にあてた指をクチュクチュと動かすと、あっという間に絶頂を迎えてしまいました。




快楽の余韻に浸っていたい所ですが、愛しい兄さんが待っているためすぐに動かなければなりません。
鞄から瓶を取り出し秘所にあて、残った愛液を全て集めました。
兄さんのお弁当からほうれんそうを取り出して液に浸します。
ほうれんそうの「おひたし」の完成です。
同じようにおかず全てを液に浸し、最後に調味料で味を調えて今日のお弁当が出来上がりました。




衣服を整えて鏡を覗きます。
まだ頬には赤みが残り、瞳も潤んでいますが、一秒でも早く兄さんに会いたいので、
急いで兄さんの教室に向かいました。


456:いもうと
08/01/31 09:42:10 wMmw6/9q
授業の終了を告げるチャイムが鳴る。
担当教師が出て行くと教室の空気が緩んだ。
我先にと購買へ疾走する者、弁当を持って友達の席へ移動する者、何故か問題集を広げる者……
昼休みの過ごし方は人それぞれである。

僕もお腹が空いているが、美鈴が弁当を持ってくるまで待ってないといけない。
美鈴はいつも、授業が終わって10分程でやって来る。






空腹で何もする気になれないので机に突っ伏していると、頭の上から声をかけられた。

「何寝てんだよ。折角の休み時間を無駄にするでない。」

「休み時間のために授業中寝てる人には言われたくないね。」

「これから美鈴ちゃんに会おうってのに体力つけておかなくてどうすんだよ。」

「体力って運動するわけでもないのに?」

「運動だよ。熱く激しい愛の営みを「はいはい。」

親友の高槻瑞希がやって来る。
既に妄想全開の瑞希は、ぶつぶつ言いながら僕の隣に座った。
ちなみに、美鈴のことを「透き通るような白い肌、肩で揃えた艶やかな(ry」
と言っていたのは瑞希である。

「それより遅いな美鈴ちゃん。まだ来ないのか?」

「美鈴には美鈴の生活があるんだよ。もう来るだろうからおとなしく待ってなって。」

「うぅ、待ちきれないぜ。」

チラチラと教室の外に目をやる瑞希を尻目に、トイレに行こうと立ち上がる。

「どこ行くんだよ。まさか俺に隠れて美鈴ちゃんと二人で「トイレだよ。」




教室を出ようとした瞬間、背後から声をかけられる。

「瑞垣くん、ちょっといいかな?」

振り向くと、クラスメイトの清水さんが立っていた。

「ん、どうしたの?」

「うん、ちょっと話があって。屋上まで来てくれるかな?」

もう少ししたら美鈴がやって来るだろうけど、少しだけなら問題ないだろう。
そう考えた僕は、清水さんの後について教室を出た。




457:いもうと
08/01/31 09:52:03 wMmw6/9q
兄さんの教室を覗きましたが、そこに兄さんはいませんでした。
高槻先輩が私に気づいて、こちらにやって来ます。

「やっほー美鈴ちゃん。今日はいつにも増して色っぽいねぇ。」

「褒められてる気がしません。ところで兄さんどこ行ったか知りませんか?」

「あぁ、トイレ行くって言ってたけど。まぁすぐ帰って来るでしょ。」

「そうですね。」



私は兄さんの席に腰掛けます。
椅子はまだ温かく、兄さんの温もりを感じることができました。
自然と表情が緩むのが自分でもわかります。


(兄さん、早く帰って来て美鈴を味わってください。)

心の中で呼び掛けながら、私は兄さんが戻ってくるのを待っていました。



458:いもうと
08/01/31 09:55:53 wMmw6/9q
屋上には誰もいなかった。
普段はパラパラと人がいるんだけど。
今日は寒いし風も強い、こんな日にわざわざ屋上に出る物好きはいないのだろう。
目の前にいる清水さんに視線を戻す。
清水さんとは、ほとんど話をしたことがない。
一体僕に何の用だろう。

「話って何かな?頼みごとか何か?」

「え、えっとね……その……いきなりあれなんだけど……」

どうしたんだろう。
清水さんは真っ赤になっておどおどしている。
何か言ってるみたいなんだけど、俯いていてよく聞こえない。

「ごめん、ちょっとよく聞こえないんだけど。」
「ひゃっ……えっと、その……ずっと好きでした!!付き合って下さい!!」

「へ……?」

好き?僕が……?

「え、えっとその……ホントに僕?」

清水さんは黙って僕を見つめている。
何か返事をしなきゃまずい。
悲しいことに僕は女の子に告白されたことがない。
だから、こんな時になんて言えばいいのかも全くわからない。

「その……僕達あまり話したことないよね?だからなんとゆうか……
 清水さんのことよく知らないし……」
「そ、そうだよね、迷惑だったよね。ごめんね!!全部忘れて!!」

僕の返答を拒絶だと思ったのだろう。
清水さんは涙目になって、僕に謝ってくる。

「あ、いや。そういう訳じゃなくて。お互いのことわからないまま付き合っても、
 上手くいかないだろうしさ。だから友達として付き合うのはどうかなって思ったんだけど。」

僕の言いたいことが伝わるといいけど。
清水さんが不安気に尋ねてきた。

「い、いいの?迷惑じゃないかな?」
「全然構わないよ。僕、女の子の友達ってほとんどいなくてさ。
 清水さんが友達になってくれると僕も嬉しいよ。」

その瞬間、清水さんの表情がぱぁっと明るくなった。

「ありがとう!!よろしくお願いします!!」

そういって清水さんはぺこっと頭を下げる。

「こちらこそよろしくね。じゃあ教室戻ろっか。……あ。」

時計を見る。
屋上に来てから10分以上経っていた。

「ごめん、僕先戻るね!」
そう言い残して、僕は全速力で教室へと戻った。

459:名無しさん@ピンキー
08/01/31 09:56:58 wMmw6/9q
投下終了です。

460:名無しさん@ピンキー
08/01/31 12:42:06 XAZSQwTu
覚醒koeeee-

だがそれがいい!

461:名無しさん@ピンキー
08/01/31 21:03:49 e5jSQ9tb
GJ!!キモウトの「おひたし」はどんな味がするんだぜ?

462:【偏愛 第二章・里穂(前書き)】
08/01/31 23:42:57 avpWEtMR
>>459
繋ぎと言わず続けてください

でも続けて投下スマソ
前回が予想以上に好評だったので妹の側も少し掘り下げることにしました
なので妹×兄の逆れいーぷはオアズケ
しかもまだ途中までしか書けてないのにけど……
いちおう続きを書く意思はあることの証明として……
(全4レス、以下続刊)

463:【偏愛 第二章・里穂(1)】
08/01/31 23:44:12 avpWEtMR
 お兄ちゃんがおばあちゃんに連れて行かれた日、里穂はずっと泣き通しだった。
 いつもなら里穂が泣けばすぐ慰めに来る筈のママは来なかった。
 そのほうが里穂にはありがたかったけど。
 お兄ちゃんを里穂から取り上げたママの顔は見たくない。
 ママは嫌い。おばあちゃんも嫌い。
 里穂を置いてきぼりにしたお兄ちゃんも嫌い。
 里穂は優しいお兄ちゃんが好きなのに。
 ……ママが悪いんだ……
 いつからだろう。ママはお兄ちゃんに優しくなくなった。
 だからお兄ちゃんも里穂に優しくなくなった。いつも怖い顔をするようになった。
 パパが生きていた頃は家族四人が仲良しだった。
 パパが亡くなっても最初の頃はママは子供たちみんなに優しかった。
 パパの分までママが幸弘(お兄ちゃんの名前)と里穂を守るねと言ってくれた。
 それなのに……
 どうしてみんな優しくなくなったんだろう?
 夕方、里穂が泣き疲れた頃、リビングで電話が鳴るのが聞こえた。
 お兄ちゃんから電話が来る約束だったのを思い出した。
 涙を拭い、急いでリビングへ行くと、ちょうどママが電話を切ったところだった。
「間違い電話よ。失礼しちゃうわね」
 そう言ってママは笑う。
 里穂は、じっとママの顔を見つめた。
 嘘はダメといつも言っているママだけど、ママ自身も嘘をつくことがあると里穂は知っている。
 朝、おトイレの前で顔を合わせたお兄ちゃんは、ほっぺたを腫らしていた。
 前の日の夜はパパの書斎に電気を消して閉じ籠もっていたので気づかなかった。
「どうしたの!?」
 びっくりして訊ねた里穂に、お兄ちゃんは最初「何でもない」としか答えなかった。
 それで里穂がママにお兄ちゃんのことを話すと、ママは言った。
「お友達と喧嘩したんでしょう。放っておきなさい」
 でも里穂は心配だった。お兄ちゃんが痛そうだったから。
 それでもう一度、お兄ちゃんに言った。
「ほっぺたのこと、ちゃんとママに言った? お医者さんに連れて行ってもらおうよ」
「あの女が自分で殴ったのに、医者に連れて行くわけないだろッ!」
 その答えは里穂にはショックだった。
 お兄ちゃんがこんなことで嘘をつくとは思えない。
 でも、ママがお兄ちゃんをぶったとも思いたくなかった。
 何か理由があったんだ。ぶたれちゃうほどママを怒らせることをお兄ちゃんがしたのかも。
 だけど、どんなに悪いことをしても、ほっぺたが腫れるほどお兄ちゃんをぶつなんて……
 里穂のせい?
 里穂が勝手にお兄ちゃんを捜しに行って、遅くまでおうちに帰らなかったから?
 でも原因は何であれ―ママは自分でお兄ちゃんをぶったのに嘘をついたのだ。

464:【偏愛 第二章・里穂(2)】
08/01/31 23:45:23 avpWEtMR
 いまもまた嘘をついたのかも。本当はお兄ちゃんからの電話だったのに。
 ……ママは嫌い……
 里穂は涙がこみ上げてきたが、それに気づかなかったようにママは微笑んだ。
「ちょうどよかったわ里穂、お話があるの。こっちにいらっしゃい」
 ママは里穂をソファに座らせて自分も隣に腰掛けた。
 里穂の手をとり、言った。
「ママはね、病気なの」
「病気?」
 里穂はびっくりした。ママが嫌いだなんて気持ちは吹き飛んだ。
 ママは里穂の眼を見つめて、
「胸が痛くなる病気よ。里穂のことが心配で」
「里穂が心配で……?」
「里穂はパパに甘えられない代わりに、お兄ちゃんにべったり甘えてるでしょう?」
「……違うよ……」
 お兄ちゃんとパパが違うことくらい里穂はわかっている。
 パパが生きていた頃から里穂はお兄ちゃんが大好きだった。お兄ちゃんはパパの代わりではない。
 でもママは首を振り、
「違わないわ。里穂は甘える相手が欲しいの。まだ二年生だし仕方ない部分もあるけど」
 里穂の両肩に手を置いて、
「いつまでも甘えん坊さんじゃパパも安心して天国に行けないでしょう?」
「パパ、まだ天国に行ってないの?」
「そうよ。甘えん坊の里穂が心配だから」
「里穂、甘えん坊じゃないよ……」
「だったらもうお兄ちゃんのことで泣かないで。パパだけじゃなくてママも里穂が心配なのよ」
 里穂は何も言えなくなった。
 パパが天国に行けないと言われて何の反論ができるだろうか。
「言うことを聞かないお兄ちゃんが、おばあちゃんのおうちに行って、ママの胸が痛いのも少し楽になるわ」
 ママは里穂の頭を撫でた。
「だからママ、働きに出るの。里穂と一緒に美味しいものを食べたり、里穂が欲しいものを買ってあげるため」
「里穂、欲しいものなんてないよ……」
 お兄ちゃんと一緒にさえいられるなら物なんて欲しくない。
 でも先回りするようにママは微笑んで、
「里穂はいい子ね。お兄ちゃんのこと以外では我がまま言わないものね」
 お兄ちゃんのことだって里穂は我がままのつもりはない。
 大好きなお兄ちゃんと一緒にいたいと思うのが、どうしていけないの……?
 なのにママはお兄ちゃんを里穂から取り上げようとする。
 せっかくお兄ちゃんから毎日電話をもらえる約束なのに、ママは里穂を電話に出させてくれないだろう。
 電話に出ない里穂をお兄ちゃんは嫌いになっちゃうかも……
 それでも里穂は何も言えなかった。
 まだ幼い里穂にとってママに逆らうなど考えの及ばないことなのだ。

465:名無しさん@ピンキー
08/01/31 23:48:10 S7rErjL/
紫煙

466:【偏愛 第二章・里穂(3)】
08/01/31 23:49:41 avpWEtMR
 ママが働き始めたので、里穂は学童保育へ通うことになった。
 学校が終わったら児童館へ行き、夜七時過ぎにママが迎えに来るまで過ごす。
 学童保育には一年生から五年生まで十五、六人の子供がいた。
 男女は半々だが互いに仲が悪く、さらに女子の間では四年生の一人が仲間外れにされていた。
 五年生のリーダー格の子に気に入られなかったという理由で。
 幸いにも里穂はリーダーの子から可愛がられたが、仲間外れに同調させられるのは嫌だった。
 ママが働きに出てもお兄ちゃんがおうちにいれば学童保育に通わなくて済むのに……
 口には出さなかったが、里穂のお兄ちゃんに逢いたい気持ちは募るばかりだった。
 声だけでも聞きたかったけどママが電話を取り次いでくれない。
 自分からかけるには、おばあちゃんの家の番号がわからない。
 お兄ちゃんが家からいなくなって、ママは里穂の前で笑顔を絶やさなくなった。
 仕事は忙しいけど、やり甲斐があって楽しいと言っていた。
 結婚前の会社勤めの経験を活かした「ケイリ」の仕事だそうだ。何をするのか里穂にはわからなかったけど。
 ママのためには、お兄ちゃんが家を出てよかったのだろう。
 でも里穂が喪ったもの―お兄ちゃんそのもの―は大きすぎた。
 
 
 年の瀬が近づいて「お友達に出してあげなさい」とママから年賀状を二十枚渡された。
 だが里穂が一番、年賀状を送りたい相手はお兄ちゃんだった。
 それで思い出した。
 今年、おばあちゃんから年賀状をもらっていたことを。
 里穂は机の引き出しにしまっていたそれをランドセルのジッパー付きの内ポケットに移した。
 以前、お兄ちゃんのランドセルの同じ場所に入れた携帯ゲーム機はママに見つかってしまった。
 でもママは里穂のことは何も疑っていない筈だった。
 翌日の学校帰りに友達の家に寄らせてもらい、おばあちゃんの家の住所宛てでお兄ちゃんに年賀状を書いた。
 漫画が好きで絵が上手な友達で、彼女に教えてもらいながらイラストを描いた。
 雪だるまの兄妹が仲良く寄り添っている絵で、可愛らしく描けたと友達は褒めてくれた。
 お兄ちゃんが喜んでくれたら嬉しいと思ったけど返事は期待しなかった。
 せっかくお兄ちゃんから郵便が届いてもママが隠してしまうだろうから。
 おばあちゃんからの年賀状はそのままランドセルにしまっておいた。
 それがお兄ちゃんと里穂を結ぶ絆のように思えたから。
 
 
 春になり、里穂は三年生になった。
 新しいクラスで戻川千代美(もどりかわ・ちよみ)という子とクラスメートになった。
 千代美はすらりと背が高く、服装はいつもお洒落で、五年生か六年生みたいに大人びて見えた。
 一緒にクラスの図書係になったので里穂は千代美と仲良くなった。
「里穂ちゃんって綺麗な髪してるね。千代美が美容師になったらお店のモデルになってね」
 そう言って千代美は毎日、昼休みに里穂の髪をブラシで梳かしてくれた。
 そして日替わりで色の違うリボンを結んでくれるのが習慣になった。

467:【偏愛 第二章・里穂(4)】
08/01/31 23:53:01 avpWEtMR
 一方、学童保育ではトラブルが起きていた。
 いままでのリーダー格の子が学童保育をやめ、仲間外れだった子が最上級生として新しいリーダーになった。
 彼女はこれまでの仕返しのようにイジメの煽動を始めた。
 日替わりか週替わりで一人を標的に選び、ほかの子をそそのかして仲間外れにしたり悪口を言うのだ。
 里穂は幸い標的にされなかったが、リーダーの気まぐれ次第でこの先どうなるかわからない。
 やがてイジメの横行は先生たちの知るところとなった。
 リーダーは学童保育をやめさせられた。
 ほかの子の保護者には先生たちから謝罪があったが、里穂はママの意向で学童保育をやめることになった。
「もう三年生だもの、一人でお留守番できるわよね?」
 里穂にはクラスの友達と放課後に遊べるようになったのが嬉しかった。
 一番の遊び相手は千代美だった。
 千代美の両親は駅前で美容室を経営していて帰宅が遅い。
 里穂が千代美と一緒に留守番をしてくれれば安心であるらしい。
 千代美には四つ違いの兄がいるが、黙ってふらりと出かけることが多く留守番役としては期待できない。
 その兄は千代美とよく似て背が高く、綺麗な顔立ちの少年だった。
 しかし眼鏡の奥から里穂に向ける眼差しは、ぞっとするほど冷たかった。
 ママに怒られてばかりいた頃のお兄ちゃんよりも暗い、深い落とし穴みたいな眼。
 彼が留守がちであることが里穂には救いだった。
 家にいても自分の部屋に閉じ籠もっていることが多いが、ときどき用もなく妹の部屋を覗いてくるのが怖い。
「千代美ちゃんのお兄さんって、ちょっとおっかないよね……」
 里穂が言うと、千代美は笑うばかりだったけど。
「そうかな? ただのオタクだよ。いまは喧嘩したら千代美が勝っちゃうくらい大人しいし」
 
 
 ある日の留守番のとき、里穂は自分たち兄妹の事情を千代美に話した。
 ずっとお兄ちゃんに会えずにいて寂しいと言うと同情してくれた。
「ママに内緒で会いに行っちゃえば?」
「えっ……、でも里穂ひとりじゃ……」
「大丈夫だよ、もう三年じゃん。千代美がついて行ってもいいけど、水入らずの再会を邪魔したくないし」
「おばあちゃんの家の行き方もわからないよ」
「住所も知らないの? それさえわかれば、お兄(にい)に行き方を調べさせるけど」
 里穂はおばあちゃんの年賀状をランドセルから出して千代美に渡した。
 千代美は里穂を連れて兄の部屋へ行き、パソコンに向かっていた彼に年賀状を見せた。
「この住所への行き方、教えてあげて」
 千代美の兄はパソコンを巧みに操り、すぐに電車の乗り換えと駅を降りてからの道順を調べてくれた。
「里穂のママが仕事から帰るのが七時でしょ、それまでに行って戻って来られるように時刻表も調べて」
 追加の要求にもすぐに応え、それぞれプリンターで印刷したものを年賀状と一緒に里穂に渡してくれた。
 その眼差しは相変わらず冷たかったけど。
 ママの仕事は平日だけなので、里穂がお兄ちゃんに会いに行けるチャンスは夏休みだ。
 それまでにお小遣いを貯めて電車賃を準備する計画を立てた。

468:【偏愛 第二章・里穂(中休み1)】
08/01/31 23:55:37 avpWEtMR
投下終了です
続きはいずれまた

469:名無しさん@ピンキー
08/02/01 00:01:21 53Ykp2vA
リアルタイムGJ!
こんな事があったのか……無邪気って怖い。

470:名無しさん@ピンキー
08/02/01 00:08:12 Du1Gt5J0
里穂かわいいじゃないか

471:名無しさん@ピンキー
08/02/01 00:56:10 mvoaJVZx
GJ!!!続きwktk

472:名無しさん@ピンキー
08/02/01 00:57:13 mvoaJVZx
sage忘れスマソorz

473:名無しさん@ピンキー
08/02/01 01:01:05 lvKx3CVm
GJ!これを第2部(?)の前に書いてくれてよかった
前回は兄の一方的な気持ちしかわからなかったから

474:名無しさん@ピンキー
08/02/01 05:48:30 hEwW89Gm
あれ、新しいスレたってたのか

475:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:28:10 zJOAPhEM
投下します。

主人公にヤンデレ気味の表現あり。
男のヤンデレは駄目と言う片はNGにしてください。

476:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:32:06 zJOAPhEM
 佐々木家の家事全般を担う智佳の朝は早い。
 6時前後には起床して、三人分の朝食とお弁当を作り、洗濯も済ませる。
 無理しなくていいよ、何度となく康彦がそう言っているのだが、自分が好きでやっているのだから、とやんわりと拒否をして、家事を続けている。
 智佳からしてみれば、兄から教わった家事を兄の為に行う事によって、絆を深めているつもりなのだから、家事を止める訳がなかった。

 三人分の食事の支度が終わると、棚の中から二つの小さな瓶を取り出す。
 「愛情たっぷり魔法の調味料~♪」
 メロディが分からない歌を口ずさみながら、そのうちの一本の蓋を開け、
 「いっかいめぇは兄ぃのためにー、にかいめぇは私のためにー、さんかいめぇは二人のために♪」
 そう歌いながら、瓶の中身を満遍なく康彦の食事に降り掛けていく。
 それが終わると、智佳はもう一本の方の瓶を見る。
 「やっといてあげないと、ハル姉、拗ねちゃうからな~」
 そう呟くと、先程と同じように瓶の中身を康彦の食事に降りかけた。
 ただ、お弁当ならパセリ、朝食ならキャベツ、と兄があまり好んで食べない物を中心にしていたが。


 智佳の作業、もはや日課が終わって少ししてから、”おはよ”と、寝ぼけた声がした。
 「おはよう、…アレ、ハル姉?」
 声の主が遥である事に気付くと、智佳は戸惑いの色を見せた。
 普段なら、次に起きてくるのは決まって兄、康彦であり、それから遥が起きてくるまで、二人だけの時間のハズなのだ。
 「あれ、兄貴は?」
 康彦がいない事に気付いた遥が、寝ぼけ眼を擦りながら尋ねる。
 「まだ、おきてない…」
 「珍しい事もあるもんだねー」
 そこまで言ってから、遥の目に三人分の食事が目に留まった。

 「入れておいてくれた?」
 「大丈夫!ちゃんとハル姉のも入れたよ」
 「何時も悪いねぇ、自分でやらなきゃイケないのは分かってるんだけど…」
 「気にしないで、二人で力を合わせないとイケないんだから…」

 「おはよう…」
 二人がある程度話し終わった時に、康彦が寝不足の顔をして起きてきた。

477:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:33:39 zJOAPhEM
 「どうしたの?私より遅いなんて珍しい」
 「うん、それに凄く眠そうだよ?」
 ぼーっとしている康彦の姿に、二人が質問を浴びせる。
 「いや、まぁたいしたことないないから…」

 そうは言ったものの、事実、康彦は寝不足で相当に辛かった。
 理由は簡単だ。
 あの女子高生からの電話が30分おきにかかってきた為、眠る事が出来なかったのだ。
 用件は一つ、二人の邪魔をしていないか、それだけだ。
 その一つ一つに、康彦は丁寧にきちんと対応してしまっていた。
 二人の邪魔をしていない事は勿論、時には自分の意見を言い、時には相手の愚痴を聞き、時には説教じみた事を言い…、気付けば眠る事が出来ない時間になっていた。
 無視すれば良かった、そう思えないのは、康彦本人の性格によるものだろう。

 「とにかく食事にしようよ、ちぃが作ってくれたんだ」
 乾いた笑いと空元気を出して二人に言うと、食卓に付いた。

 中途半端に寝てしまったのがイケなかったのか、目が覚めきらないし、二人の会話も頭の中に入らず、当然、箸の進みも遅くなり、気付けば二人とも食事を終えていた。
 「兄ぃ、調子悪いなら無理して全部食べなくても大丈夫だよ?」
 智佳が心配そうに声をかける。
 「大丈夫大丈夫、ちぃの食事は美味しいから、全部食べれるって!」
 食事を作ってくれている事への感謝も含め、康彦は明るい声でそう答えると、最後に残っていたキャベツを口に頬張り、完食した。

 「アレは食べれなくても良かったのに…」
 完食した兄を見た智佳は、自分でも気付かない内にそう呟いていた。


478:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:35:56 zJOAPhEM
2  
 『純白の天使』
 遥の通う女子高では、代々そんな異名を付けられる生徒が出てくる。
 彼氏彼女がいる気配がないのに、恋をしているかのような美しさと強さを持った人、そんな意味合いをもつこの異名を、当代では遥が襲名しつつあった。
 事実、遥は他校の男子生徒ととの集まりを全て拒否しているし、ソッチの気があるのかと勘違いした同校の生徒は全て玉砕している。
 誰かに恋をしているのは分かる、その相手が分からない。
 そう言った理由から、遥の相手は生徒達の噂の的である。
 遠藤久美も、その話に興味を持った内の一人に過ぎないハズだった。


 「遥さん、お早うございます。今日は調子はいかがですか?」
 登校してきた遥に、久美が挨拶をする。
 同学年の友人に対してこんな喋り方をする久美に遥は、もっと気楽に話して欲しい、と何度か頼んだのだが、この喋り方は変わらず、誰に対しても同じ喋り方で通していた為、今では遥も諦めている。

 「オハヨー、私は何時通り元気だよ」
 「そうですか、それはよろしゅうございます」
 「まぁね、で、久美は…何か嬉しそうだね?」
 会話の中で遥は、久美の様子が普段と違う事に気付いた。
 やや寝不足気味ではあるものの、普段よりずっと明るい顔をしているのだ。
 「そう見えますか?」
 「そう見える。何かいい事でもあったの?」
 「えぇ、多少…ではありますが」
 久美のその応えに遥は、フーン、とだけ返し、自分の席に向かった。
 久美との直接の関係を考えた訳ではないが、何故か、同じ様に寝不足だった今朝の兄の事が頭を過ぎったからだ。

 学校にいる間、遥には心配な事がある。
 兄、康彦の事だ。
 自分が中学に入学した時には兄は高校に、自分が高校に入学したら兄は大学へ、となる為、兄の交遊関係をしっかりと把握出来ず、敵対者を特定するのが困難になっている。
 そこに隙が出来た為、2年前には兄を奪われてしまい、その始末に苦労したのだ。
 現在も一人ではとても監視しきれずにいる。
 「しばらくはちぃちゃんと協力しなきゃダメか…」
 そんな溜め息が遥の口から漏れた。

479:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:37:36 zJOAPhEM
 「来週のお祭り、どうするの?」
 昼休み、友人達が遥にそんな質問をしてきた。
 「えっ、来週のお祭り?」
 「土曜にある縁結びのお祭り!」 
 「あっ、そうか!もう来週だっけ?」
 市を上げた大きなイベントがあるお祭りを、遥は友人の言葉でようやく思い出す事が出来た。
 完全に頭の中になかったのは、兄がこのお祭りに誘ってくれた事が一度もないからだ。
 もっとも、恋愛成就を願う女性や恋人同士、夫婦が主な参加者であり、普通は兄妹で行くモノではないが。
 
 「縁結びか~」
 「そうそう!遥は誰かと参加しないの?」
 野次馬的に聞いてくる友人達に、遥は少しだけムッとした。
 自分も出来る事なら、兄と二人で参加したいが、兄が了承する訳がない。
 「はぁー」
 口から小さな溜め息が漏れた。
 「なに、どうしたの?」
 「何でもない…」
 せっかくのお祭りに参加出来ない辛さが遥を襲う。
 兄貴もバイト休みなハズなのに、そう思った時、一つの考えが頭に思い浮かんだ。
 ちぃちゃんも誘えばいいんだ、二人っきりなら断るだろうが、妹二人を連れて行く、という理由になれば、嫌とは言わないハズだ。
 兄がそんな義務感の強さを持っている事を、遥には良く分かっていた。
 「誘ってみるかな」
 遥がそう呟くと、一気に周囲が騒がしくなった。
 遥は周囲の喧騒をよそに、縁結びの神様は私とちぃちゃんのどちらを選ぶかな、と考え、兄貴と私が結ばれるのは決まってるけど、と信じていた。

 ”縁結びのお祭りですか。お兄さんは私に任せて、遥さんは智佳ちゃんと幸せになって下さい”
 遥達の様子を見ていた久美はそんな事を考えていた。

480:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:39:48 zJOAPhEM
3 
 康彦は今、喫茶店にいる。
 バイト先ではない。
 遠藤早紀、そう名乗った女子高生に引っ張られるようにして連れて来られた店だ。

 何か女子高生に祟られているんだろうか、康彦はそう思わずにはいられなかった。
 妹二人の事で絡んできたのも女子高生、今、目の前にいる相手も女子高生であり、さっきから疑わしげに自分を見ている。
 「で、あの、何の用?」
 相手の視線に耐え切れなくなった康彦がそう切り出した。
 「あっ、気にしないで。大事な友人の為に品定めしにきただけだから!」
 そうは言いながらも、初対面の時からこちらを見ては、うぅんとか、こんなんがねぇとか、微妙だなぁとか、色々と失礼な呟きを漏らし続けている。

 「まぁ、あの子が選んだんだから私がとやかく言う筋合いはないんたけどさ」
 康彦はその台詞に大きな溜め息を付きながらも当然の疑問を投げかける。
 「その、あの子ってのは誰なの?」
 「それはまだ言えないんだよねぇ」
 「あの子に頼まれたワケじゃなくて、私が勝手にやってんだけだからねえ」
 「てか、あんたにだって心辺りあんでしょ」

 「一切ない」
 康彦はそういいきった。
 恋人であった楓の死後、新しい人間関係を作るのに臆病になっていた事もあり、異性の友人は二人しかいない。
 そのうちの一人は弟を溺愛している先輩であり、もう一人は高校時代からの後輩で今も同じバイト先に勤める岡野鈴だ。
 前者が自分に好意を抱く可能性はありえないし、後者にしても、何度も約束をすっぽかされた事を考えれば、考えられない話だ。

 考えた様子もなく、簡単に否定してきた相手に、早紀は面食らった。
 鈴もそれなりには自分をアピールしてきただろうと、当たり前に想像していたからだ。

 「ま…、思いつかないなら、それはそれでイイんだけど…ネ」
 鈴の今までの話を考えればありえなくはない、そう考え直した。

 「私はその大事な親友のタメに、あんたに一つだけ言いたい事があるんだよ」
 今回の1番の目的を果たす為、早紀はそこで一呼吸おいた。
5 「あんたさ、いつまで死んだ人間の事、想ってんの?」
 大事な親友である鈴の為に、気持ち悪い考えを訂正する為に、真っ正面から切り込んだ。

481:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:41:32 zJOAPhEM
 空気が変わった、そう感じたのは、あながち早紀の気のせいではない。
 「何が言いたいの?」
 そう応える康彦の口調はさっきまでの穏やかさは消え失せていた。

 素直に怖いと感じる。
 だが、早紀は言葉を続ける。
 親友の為に、自分が正しいと思う事を口にするのだから、躊躇いはない。
 「その娘から聞いてるんだよね、あんたの事」
 「気持ち悪いんだよ、うじうじと死んだ恋人の事ばかり考えてさ」
 「少しは今、あんたの事を想ってるのが居るのを考えてみたら?」
 息継ぎせずに最後まで言い切ると、相手の反応を待った。
 怒鳴り出すか、そう思えたが、相手の反応は真逆のモノだった。
 「言いたい事はそれだけか?」
 冷静な、一切の感情が感じられない言葉。
 それが早紀には、相手の怒りの深さを現している気がして、恐ろしくなった。
 「う、そうだよ…」
 辛うじて早紀が返事をした後、相手が言葉を続ける。
 「なら、そのお友達とやらに伝えておいてくれないか?」
 「何を言われようと、俺はあいつの事を忘れないし、それ以外の女の事を考えるつもりはない」

 早紀は既に涙目になって言葉がだせない。
 そんな早紀を気にする事なく、康彦はゆっくりと立ち上がり、
 「君もその事は二度と言わない方がいい」
 とだけ告げ、後は二度と早紀の顔を見ずに、店を後にした。


 「ハー!」
 康彦の姿が見えなくなったのが確認できると、早紀はようやく呼吸できたかのように、大きく息を吐いた。
 「あれは相当に前の彼女に惚れ込んでたね」
 目の前に残されていたコーヒーを啜ってから呟く。
 「あそこまで重い男は私はゴメンなんだけどなー」
 「でも、鈴には似合いそうだ」
 鈴自体が、多少抜けてるところはあるが、基本的に一途で純心だ。
 それを考えれば、あんな男が1番なのだろうと思える。
 「バカな純心女と過去に囚われてる男か…」
 そこで溜め息が一つ出る。
 「これは、私が一肌も二肌も脱がないと、HAPPYEndにはなりそうもないねえ」
 自分で自分の言葉に酔って、それを信じた。
 「待ってな、二人とも!この私が二人の恋を全力で手助けしてやるから!」
 高らかに宣言する。
 周りの客の目を気にせずに。

482:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:44:18 zJOAPhEM
4
 その日、康彦はバイトを休んだ。
 先程の怒り、そして久し振りに思い描いてしまった楓との思い出、それらが交わり、既に仕事ができる精神状態ではなくなってしまったのだ。

 重い足取りのまま家に帰り、そのままドアを開ける。
 「ただいま…」
 力のない声が出た。
 「お帰り…って、兄ぃどうしたの?今日はバイトがあったんじゃ…」
 奥から出て来た智佳が心配そうに言うのに対して、ちょっと疲れてただけだから、とだけ答え、後は、部屋で休むから、と言って、早足で自室へと向かった。

 自室に戻った康彦は考える。
 未だに楓の事が整理出来ていない自分を。
 年下の女が少々の生意気な口を利いただけなのに、それに対して激怒して危うく手を出しそうになった自分の情けなさを。
 「あの事故から何年経ってると思ってるんだ」
 自分で自分を責めてみるが、芳しい効果は得られない。
 激しい自己嫌悪、それに比例して思い出される楓の事、その二つが康彦を厳しく責め立てていた。

 「兄ぃ、はいるよ」
 小さなノックと共に、智佳が康彦の部屋に入ってきた。
 「兄ぃ…」
 智佳が小さく呟いて康彦の隣に来る。
 康彦は慌てて智佳から顔をそらした。
 今の顔を見られる事で、妹二人に余計な心配や迷惑をかけたくないからだ。
 「ど、どうした、ちぃ?」
 なるべく明るい声を康彦は出したが、智佳はゆっくりと首を振ると、兄に背中から抱き着く。
 「ち…ちぃ?」
 「無理しないで、兄ぃには私がいるんだから…」
 「ちぃ…」
 優しい語りかけるような智佳の声に、康彦は言葉を失った。
 考えてみれば、楓の死後、妹二人がいなければ、自分はもっと壊れていたかもしれない。
 そして、今もこうして自分を支えてくれている。
 「ありがとうな」
 自然とそんな言葉が口から出た。

 「俺は大丈夫だから」
 今度は無理に出した明るい声ではなく、落ち着いた普段の声を出して、智佳の方を向く。
 「兄ぃ」
 「ん?」
 「忘れないでね、私はずっと兄ぃの傍にいるから」
 比喩を含んだ智佳の言葉が、今の康彦には有り難かった。

  智佳の言葉に康彦が笑顔で応えると、晩ご飯の支度があるから、と部屋から出ていった。
 「絶対に傍から離れないから」
 という呟きを残して。


483:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:48:20 zJOAPhEM
 「あれ、兄貴、帰ってきてるんだ?」
 最後に帰ってきた遥が、玄関の靴を見て、智佳に聞いた。

 「うん、今、自分の部屋で休んでる」
 「へえ、どうしたんだって?」
 「あの時の…発作みたい」
 「…アレ、か」
 智佳の言葉に、遥が顔を曇らせる。

 康彦の発作、楓の死で発症し、楓の事や死に関するキーワードで起こるトラウマ。
 その頻度や症状の重さは、そのまま、康彦の心にいる楓の大きさになる。

 「死んだ人には勝てないのかな…?」
 智佳が暗い顔をして言う。
 「勝てるよ!」
 遥が智佳の言葉を否定するように、声を大にした。
 「確かに死んだ人は美化されていくかも知れないけど、ただそれだけ」
 「生きてる私達にしか出来ない事の方が多いんだから!」
 「そう、そうだよね」
 「そう!だから二人で頑張ろう」
 「あの女からお兄ちゃんを取り戻す為に」
 「うん、頑張ろう!」
 遥の言葉に智佳が力強く頷いた。


 二人はそれ以上語らない。
 楓、横山楓の事故の真実を。
 誰にも、特に兄にだけは知られるワケにはいかない、二人だけの秘密。

 この秘密を知っている人間は少ない方がいい。

 自分一人だけでいい。

 それが二人の共通の考えなのだから。

484:ハルとちぃの夢
08/02/01 06:49:02 zJOAPhEM
投下終了です。

485:名無しさん@ピンキー
08/02/01 08:12:56 cQgdKMLP
うわ・・・主人公きめぇ・・・

486:名無しさん@ピンキー
08/02/01 09:14:49 lvKx3CVm
GJ
男のヤンデレ注意なんていうからハラハラしたけど
主人公ただのトラウマじゃね?


487:名無しさん@ピンキー
08/02/01 09:45:05 Q0kpkNwN
こりゃまた攻略の難しい兄貴だなあ
今後の展開が期待できるぜ

何はともあれGJ

488:名無しさん@ピンキー
08/02/01 10:50:38 TGua8Hz4
ヤンデレっていうか、病んでるなぁ

489:名無しさん@ピンキー
08/02/01 11:07:22 aEjPOXL0
URLリンク(gobohu.hp.infoseek.co.jp)

こんなほのぼの系キモウトもアリかと。

490:名無しさん@ピンキー
08/02/01 12:56:07 jZ0aqn0P
↑宣伝乙

直リンはやめといたほうがいいお

491:名無しさん@ピンキー
08/02/01 12:58:08 d0iCZJG4
投下ラッシュでチンチンが擦り切れそうです
だれか止めを刺してください

492:名無しさん@ピンキー
08/02/01 15:09:14 Y+D/NtsE
グサっ!
とどめの一撃を受けて倒れる>>491を見下ろして彼女はひとりごちた。
「ふう、まさかオスの泥棒猫がでるなんて。お兄ちゃん、もて過ぎるにも程があるわよ」

493:名無しさん@ピンキー
08/02/01 16:29:58 JapsdzXv
>>484
こういう主人公好きだ
次回も期待してます

494:名無しさん@ピンキー
08/02/01 17:01:09 KAFepNLr
しばらく来てなかったが……何ですかこの素晴らしい投下ラッシュはw

495:名無しさん@ピンキー
08/02/01 17:12:42 jZ0aqn0P
三次の画像を萌え絵にするスレ10 より転載

535 ...φ(・ω・`c⌒っ sage 2008/02/01(金) 01:27:28 ID:GJJN9WHM
URLリンク(request.s12.dxbeat.com)
ワンパターンで申し訳ない。

496:名無しさん@ピンキー
08/02/01 17:27:51 cQgdKMLP
>>495
これが元ネタか?
URLリンク(bbs.windorz.net)

497:名無しさん@ピンキー
08/02/01 17:54:18 gDbKID6B
>>496
鬼……悪魔……!

498:名無しさん@ピンキー
08/02/01 18:02:00 tzfDQn26
なんという怪物

499:名無しさん@ピンキー
08/02/01 18:28:55 v3l7COpb
三次元怖い

500:名無しさん@ピンキー
08/02/01 19:17:11 Qi+4bwe9
>>496
うわーん(ノД`)

501:名無しさん@ピンキー
08/02/01 19:47:38 9ERqKp7K
>>496
どうあがいても、絶望

502:名無しさん@ピンキー
08/02/01 19:54:50 pmUyE0sB
>>496
これが二次元なら立派なキモ母なんだがなぁ……('A`)

503:名無しさん@ピンキー
08/02/01 19:56:25 ud1O/fj4
三次元ぐらいで動揺しすぎだバカモンどもが

504:名無しさん@ピンキー
08/02/01 19:59:47 9ERqKp7K
>>503
三次元うんぬんじゃなくて・・・・・

505:名無しさん@ピンキー
08/02/01 20:40:37 9WrSl0EW
三次元が駄目なんじゃない
容姿が大惨事だから嫌なんだ

506:名無しさん@ピンキー
08/02/01 20:53:20 QyNpSNxR
つか、これ下にいるの小学生くらいの子供じゃね?

507:名無しさん@ピンキー
08/02/01 21:19:06 Jvm70aSE
腹の肉がなあ……
この実写をよくあんな萌え絵にできたものだ

508:名無しさん@ピンキー
08/02/01 21:37:12 v6fHSYLe
おんなじ母親?でも上に乗ってるのが豚じゃなくて

竹内結子(28)
杉本彩(40)
永作博美(38)
松嶋菜々子(35)
山口智子(44)

クラスだったら歳いってても充分萌えられるんだが…
先ず三次には居ないorz

509:名無しさん@ピンキー
08/02/01 21:52:10 14kviuJg
画像ググってみたけど若い



URLリンク(imepita.jp)
URLリンク(imepita.jp)
URLリンク(imepita.jp)
URLリンク(imepita.jp)
URLリンク(imepita.jp)

てかすれ違いだな(´Д`)

510: ◆busttRe346
08/02/01 22:38:28 FXEDQWSn
杉本彩でちょっとおっきした変態が投下します。監禁トイレ五話です。

511:監禁トイレ⑤-1
08/02/01 22:39:10 FXEDQWSn
「「達哉くんは何歳なの?」」
高音のユニゾンが少年に問い掛ける。
「二人とおんなじ。八歳」
一つ屋根の下で暮らし始めて早一か月、達哉少年もようやく二人に懐き始めていた。
「「お誕生日は?」」
「八月十九日。二人より三か月遅いねぇ。僕、おとうとになるのかぁ…」
「私、ずっと弟が欲しかったの」
「私、ずっとお兄ちゃんが欲しかったのに」
「じゃあ僕、二人の間に入ろうかな」
少年は無邪気に笑い、そう言った。
双子は驚いて顔を見合わせた。達哉の時系列を無視した答えにではない。初めての意見の分裂に。



亀裂は、一度入ってしまった以上後は砕けるまで深く進行するのみだった。





512:監禁トイレ⑤-2
08/02/01 22:39:59 FXEDQWSn
――今何て言った!?

『お義父さんもお母さんも死んでますからね』

「嘘だろ…?」
「本当です」

いくら頭の中で反芻しても、実感の伴わない言葉。形を変える事なく、脳内を乱反射する言葉。
死んだ。
親父と花苗さんが。
死んだ。
何故?
決まっているだろう。
こいつだ。目の前でニタニタと笑っている、こいつだ。
「つぼみッ!!」
目の前の女に飛び掛かる。右手に強烈な反動が来る。手首の皮が少し削げたようだ。左手を伸ばしても、届かない。あの底意地の悪い笑い顔に拳を叩き込んでやりたいのに。
蕾が近付く。僕の伸ばした左手に悲しげに頬を擦り寄せる。
「義兄さん…。仕方なかったんですよ。だって二人とも邪魔するんですもの。絶対に駄目だ、って。
何度も何度も話し合いました。でも何一つ許してはくれなかった。それどころか私達は家族なんだからそんな感情を抱く事すら間違いだ、なんて言うんですよ?恋する事すら許されないなんて…それこそ間違ってるでしょう?
家族?そんなのあの人達が勝手に決めた事じゃないですか。勝手に結婚したのはあの人達じゃないですか。それなのに…。だからね、死んでもらいました」


513:監禁トイレ⑤-3
08/02/01 22:42:47 FXEDQWSn
「だから…?だからって何だよ!!それが殺して良い理由になる訳ないだろうッ!!」
「なります。少なくとも、私には」
力が抜けていく。いつかやりかねない、そんな事は分かっていた。花苗さんに容赦無しに暴力を振るう、二人の姿を見た時から。
どうしてこんな事になる…?
確かに問題はあった。長い時間をかけなければ氷解する事のない、たくさんの問題が。
でも時間をかければ解決出来た筈じゃなかったのか?
親父が僕を追いやったのは二人の娘を想って。
花苗さんが何をされても側にいようとしたのは二人を愛していたから。
けれどそれは全部、二人にとって障害以外の何者でもなかったのだ。
充満していた力が体から空中へ霧散していく。支える事すら出来なくなった足はくの字に曲がり、僕は膝をつく。涙は出ない。まだ真実と決まった訳じゃない。自分の目で見るまで絶対に信じるものか。

「義兄さん…悲しいですか?」
蕾が僕の頭を抱き締め、耳元で囁く。
「なら義兄さんと私で、家族を作りましょう。あの二人の愚行を理解している私達なら、こんな悲しい事は二度と起きません…。私が、起こさせません」


愚行。


愚行だって?心の底からお前達を心配してくれた人だぞ?それを…
不快感がミミズのように体内を這いまわり、全身を埋めていく。



514:監禁トイレ⑤-4
08/02/01 22:46:20 FXEDQWSn
「早く、帰してくれ」
「駄目です」
「放せ」
「嫌です」
「いい加減にしてくれ…!姉ちゃんにも聞こえてるんだろ!?もうこんな茶番は終わりだ!!僕は、どっちも選ばない!好きになんかならない!!」
「義兄さん…」
「今すぐこれを外せ!!扉を開けろ!!もう二度と…お前らには会わない!!」
「義兄さん…」
駄々をこねる子供をあやすように背中をさすられる。
「萌姉さんはね、今何を話しかけても答えません。何をしても起きません」

おい…まさか…死…

「これは二人で決めた事なんです。私と義兄さん、姉さんと義兄さん。互いに二人だけの時間を作って義兄さんにどちらかを選んでもらう。そういうルールなんです。
だから私と義兄さんの時間の間、姉さんはひたすら寝たフリをしなくちゃならない。逆に姉さんと義兄さんの時間の間は、私が寝たフリをするんです。」

ホッとした。また、殺した死んだの話になるのかと思ったから。

「じゃあアレは…今寝たフリしているのか?」
「さぁ…本当に寝ているかもしれませんね。何せ昨日から全く寝てませんでしたから、あの人」

本当に無駄な努力だ。不眠不休で計画したのが義弟の監禁か。

呆れると同時に冷静さを取り戻す。とにかく、なんとしてもここから逃げなければ。
蕾の手で後頭部を撫でられながら、考える。

515:監禁トイレ⑤-5
08/02/01 22:47:08 FXEDQWSn
そして、気付いた。
「うわっ!馬鹿…おま…!!」
腕で頭を抱き締められているという事は、僕の頭は彼女の胸の位置にあるわけで。
その…ふ、二つの膨らみが…。
慌てて後ろに下がる。
「何故逃げるんですか、義兄さん」
「そこに胸があるからだ」
「胸がお嫌いなんですか?何なら削ぎ落としますか…。義兄さんが貧乳好きとは思いませんでした」
恐ろしいことを言うな。
「そういう意味じゃない!喜んで義妹の胸に顔を埋める人間が何処にいる!!」
ちなみに大きいのは全く、全然、断じて、嫌いじゃない。
「今、私の目の前に」
「いや…だから…気付いたのが遅かったから…その…ごめん」
「謝っても許しません」
「…」
心の狭い義妹だ。監禁されて尚、こうやってお前と親しげに話す義兄を見習うべきだ。
「許してほしいなら…一つだけ言う事を聞いてください」
この際だから許してくれなくても良いのだが。だが蕾は萌姉ちゃんと違ってまだ話が分かる方だ。(というより姉ちゃんが極端に人の話を聞かないだけなのだが)ここで悪感情を持たせるのは得策ではあるまい。
「なんだよ…?」
蕾が俯く。
ポニーテールが微かに揺れる。
震えている?
俯く彼女の顔は見えない。
「その…ご飯を食べさせてください」




一気に脱力した。

516: ◆busttRe346
08/02/01 22:49:09 FXEDQWSn
投下終了です。投下ペース早すぎな気がしてきた・・・

517:名無しさん@ピンキー
08/02/01 22:57:58 wwg69kxK
リアルタイムGJ!
トイレでの監禁のしやすさは異常ですね

518:名無しさん@ピンキー
08/02/02 03:26:09 J7ydIpMu
ここまで監禁に固執したSSも珍しい!
GJ!あ…でも無理はせずにね

519:名無しさん@ピンキー
08/02/02 10:27:23 d3YmBMXF
>>516
もう一人の姉も期待しているんだぜ

…しかし、寒い朝はキモウトの布団に潜り込みたいものです

520:名無しさん@ピンキー
08/02/02 12:38:10 3c7xyoyU
>>519
おや、キモウトのほうが潜り込んでくるんじゃ?

521:名無しさん@ピンキー
08/02/02 12:42:37 zlmhqBhv
いつの間にかキモアネ&キモウトにサンドイッチされるように手錠でつながってるんだな

522:名無しさん@ピンキー
08/02/02 12:55:25 3c7xyoyU
よく考えたら、兄の方から潜り込んでくるようなら、妹的にはキモくなるまでもなく大願成就で
お話が始まらないじゃないか

523:名無しさん@ピンキー
08/02/02 13:03:40 vUIrUnhV
いやいや、キモウトが精神的に追い込んだからこそ正常な思考が持てずに潜り込んでしまったんじゃないか?
現実逃避のメタパニみたいに

524:名無しさん@ピンキー
08/02/02 13:09:12 3c7xyoyU
なるほど。おhなしは始まらないのではなく、既に終わった後だったのか。

525:名無しさん@ピンキー
08/02/02 13:39:22 xFWFsSSH
ただ>>519の場合は

「お姉ちゃんがいるのに……!!!」
とキモ姉にお仕置きされそう。


ところで今歴ゲー中なんだが、「姉川」って地名が気になって…

姉の川ってどんな川?
妹川はあるのか?

由来は?……(以下下品なので自粛)

妄想がノンストップエクスプレス…

526:名無しさん@ピンキー
08/02/02 14:27:34 wckFdTpi
>>525
URLリンク(www.pref.shiga.jp)

527:名無しさん@ピンキー
08/02/02 16:21:27 orhNPQFu
なんか普通にいい話でこのスレにはふさわしくないぞ!!w

528:名無しさん@ピンキー
08/02/02 16:46:28 dg07e3UA
竜になって兄や弟を連れ去っていけばこのスレっぽいのにw

529:名無しさん@ピンキー
08/02/02 20:42:46 0+bwhVvb
神スレだなw
感謝感謝

530:姉ちゃんラーメン
08/02/02 23:37:33 mLQ/V+Xz
最近俺の姉ちゃんはちょっと変だ。
姉ちゃんは普段から大人しいというかクールだし、あまり笑ったり怒ったりしないうえに口数も少ない。
なのに飯を食べるときにもの凄い笑顔で見つめてくる。特に俺の好物であるラーメンを食べてるときなんか異質な笑顔だ…。
普段は無表情なのに食事の時だけ笑顔になるのだからこっちは落ち着かない気分になる。
姉ちゃんのラーメンはうまい、そこら辺の店で食べられるラーメンなんかとは比べものにならないくらいにうまい。
なぜこんなにうまく作れるのかと聞いてみるとスープ作りにコツがあるそうだ。
姉ちゃんは料理に拘っていて何を作るにも時間と労力を使って作る。
だからラーメンを作るときとか麺は市販のを使っているが、スープは自分のオリジナルで何時間もかけて仕込みをしている。
それにスープを作ってるとき姉ちゃんはブツブツ何かを言っているみたいだ…蜜とか液とか。
そして今もまさに食事中だかやっぱり姉ちゃんは笑顔だ…っていうか軽く顔が赤くなって涎を垂らしている。変だよな?
誰かなんで姉ちゃんがこんな笑顔なのか解る人がいたら教えてくれないか。

531:名無しさん@ピンキー
08/02/03 00:53:29 4Rd9lQLc
自分が手間をかけた料理を美味しそうに食べてもらえるから嬉しいんだよ、きっと
顔が赤いのも照れで、涎もきっとあまりにも美味しそうに食べるからじゃないか
別に全然変じゃない、全国のお姉ちゃんは大体そんな感じだよ
 
 
GJ!

532:名無しさん@ピンキー
08/02/03 00:55:28 IeQcuJ+v
>>530
こう言えば、幸せになれる。



「あれ?○○(女子の名前)が食べさせてくれた玉子焼きと、後味が似てる」

533:名無しさん@ピンキー
08/02/03 09:12:06 w6ZHl1Rp
 

534:名無しさん@ピンキー
08/02/03 13:06:13 CC0OsJMq
上の空白のスレは、そういう意味でいいんだよな

535:名無しさん@ピンキー
08/02/03 13:19:58 jko7Zzq+
いやむしろ…
愛する兄にそんな物を食べさせた姉に、
対するキモウトの殺意かな

536:名無しさん@ピンキー
08/02/03 14:57:43 cBvxj0P4
翌日○○さんの座席は空白という暗示ですか

537:名無しさん@ピンキー
08/02/03 15:17:54 inzSNqA5
>>532
危険注意。

538:名無しさん@ピンキー
08/02/03 15:38:39 u6fa0nxP
>>532
おかしな話だ。姉の好感度を下げるセリフなのに、いつの間にか姉エンド直行とは…

539: ◆a.WIk69zxM
08/02/03 16:26:38 uShrGvCb
 
投下します。
非エロ。短編。7レス予定。


540:(1/7)
08/02/03 16:27:22 uShrGvCb
 
 
(九時半か……)
 俺は腕時計に目をやり、時間を確認する。
 場所は、実家近くの公園。小学生のころ、友達や妹と散々遊びまわった懐かしい場所だ。
 露出している顔や首の肌を刺す冬の朝の冷たい空気のなか。
 俺は妹と待ち合わせをしていた。
 発端は昨日の夜にさかのぼる。三日前から実家に帰省していた俺は、その夜、あろうことか妹に人生最大級の失態を演じてしまった。
 エッチなゲーム―いわゆる、エロゲ―をプレイしながらにやつくという、自分でも客観的に見たら死にたくなるような醜態を。
 社会に出てひとり暮らしを初めてから、二年。誰の目も気にせずひとりで好き放題やれる生活に慣れ、
また、久しぶりの実家ということで、大分気が緩んでいたのだろう。
 そうでも思わないと、あんな失敗をやらかすなんて、ありえない。自分があそこまで間が抜けてるなんて。迂闊だなんて。
 いや、そう思ったところでなにが解決するわけじゃないが。
 股間を露出していなかったことが不幸中の幸いだなんて、なんの慰めにもならない。
ノートパソコンのディスプレイいっぱいに映る裸の女の娘のアニメ絵と、それを見ながら気持ち悪い笑みを浮かべている己の姿を
ばっちり目撃されてしまったのだから。言い訳なんてしようもない。
 その光景を目の当たりにした妹は、一瞬固まり、それから憎い親の敵にでも向けるような視線で睨みつけ。
 無言で踵を返し、自分の部屋へと閉じこもったみたいであった。
 その後、母に「夕食よ」と呼びかけられ、おそるおそる食卓に顔を出したときには、妹はいなかった。
 あの娘は気分が悪いみたいで、きょうは夕飯いらないって。その母の言葉に、おれは、「そう」としか返事できなかった。
 そりゃ、気分が悪くなるだろう。あんなモノを目撃したのだから。妹にとっては、耐えがたい現実を突きつけられたのだから。
俺と顔をあわせるのも嫌なはずだ。
 だが、その母の台詞を聞いたとき、わずかにほっとした自分を呪いたくなった。
 ―まだ、両親に知られていない。
 妹に不快なんて言葉じゃ足りないくらいの嫌な気持ちを与えておきながら、
己の身がまだ首の皮一枚で繋がっていることに安堵している自分を。
 それから、いままで妹とは、ひと言も交わしていないどころか、会ってもいない。夜中にメールが一通きただけだ。
『明日、十時にあの公園で』

「はぁ……」
 鬱屈した気分がすこしでも一緒に逃げていけばいいという思いを込めて溜息を吐く。気が重い。
 公園に設置されたベンチに腰をかけていると、休日だからだろうか、呑気にタバコを吹かしながら犬の散歩をしているおっさんが
前を通る。
 その平和そうな顔を見ると、筋違いとは判っていても恨めしくなる。
 幸せそうな顔をしやがって。
 俺は、妹から、親から、社会から、変態の謗りを受けるかもしれないというのに。
 今朝の親の態度から、妹はまだ誰にも、少なくとも家族には昨日のことを話していないみたいだった。
 しかしそれも時間の問題であろう。
 俺の親は、そういうことには厳格なほうだ。だからこそ、その娘である妹がいまどきの女の娘にしてはありえないほど純情に
育ってしまったのだろう。
 言うなれば、俺の昨日の行為は、コウノトリを信じている女の娘に下卑た肉の接合であるポルノ写真を突きつけたようなものだ。
 と、まあ、そこまでいうのはオーバかもしれないが、俺がいままで見てきた限り、そして話に聞く限り、
妹はえらく古風な人間のようだった。
 いままで、付き合った男は何人かいるようであったが、どうもそういう性的な面に関しては。
 以前―まだ俺が実家にいた頃―妹の彼氏に相談されたことがある。
 曰く、付き合っているのにキスすら許してくれない。手を繋ぐぐらいがやっとだ、と。
 その彼氏は、軽く冗談めかして言っていたが、内心気にしていただろう。
 そいつは非常にイイヤツで、俺としても是非妹とうまくいって欲しかったから、
我が家の家風を必死で理解してもらおうと説得した。
 でも、長続きしなかったようだ。いつもそうみたいだった。誰と付き合おうとも。
 それもそうであろう。時代の風潮からして妹みたいな女の娘の方が珍しいのだ。
 キスすら許さないとなれば、付き合っている方としては本当に自分のことを好きなのか疑わしくなるだろう。

541:(2/7)
08/02/03 16:29:53 uShrGvCb
 
 だが、あの家では異質なのは俺のほうだった。
 いや、この歳まで誰とも付き合ったことすらなく、キスの経験すらない俺は、一般社会的にも異端だろう。
 妹のそれとは違う。妹は自ら機会を捨てているが、俺にはそのチャンスすらなかった。
 そんな俺がひとり暮らしを始めてから二次元の非現実へと走るのは、ある種予定調和だったのかもしれない。

 昨日の妹の、相手を射抜くような眼差しが浮かぶ。
「はは……」
 無意識に自嘲の声が洩れる。
「勘当、かな」
 客観的に見たら、それぐらいで大げさな、と思うかもしれない。でも、家の事情だったらあり得ることなのである。
あの親に知れたら。
 特に親父だ。
 男女交際はしても構わないが、結婚するまで性的な交渉は一切罷りならん、というようなことを平気で口に出すような人間だ。
 その息子が、二次元のアニメ絵で興奮して、自分を慰めてると知ったら、それこそ卒倒もんだろう。

 九時四十五分。
 ふと予感がして、面を上げる。
 来た。妹だ。
 その表情はまだ窺い知れる距離ではなかったが、笑っていないことだけは阿呆な俺でも判る。
 妹はとっくにこちらに気づいていたのであろう。被告に裁きを言い渡す裁判官のような足取りでゆっくりとその歩みを進めながら、
こちらへ向かってくる。
 なんて言うだろうか。
 もう二度と帰ってこないで。あなたみたいな変態と同じ空気を吸っているだけで我慢できない。
 そう罵るだろうか。
 それとも。
 あなたみたいな人間の妹でいることが堪えられない。いますぐ死んで。
 妹の性格上そんなことは言わないと判っていても、最悪の状況ばかりを想像する。
 妹とのいままでの思い出が浮かぶ。
 俺が家を出るまでは、近所でも比較的仲の良い兄妹として通っていた。俺はそう思っている。
 就職し家を出てからも、俺がたまに帰郷すると、決して嫌な顔はされなかった。
はっきりとそれを口にするのを聞いたわけではないが。
 料理するようになったんですよって、手料理を振舞ってくれることもあった。
 それは、多分彼氏のために勉強し身に付けたんだろうとは思ったが、それでも嬉しかった。
 そんな過去も、妹にとって、いまはもう忌まわしい消したい記憶でしかないのだろう。
 たとえ、変態の烙印を押されても、いままでの思い出すら否定されるのは辛い。
 でも、自業自得なんだ。
 
 妹が、静かに俺の前に立ちどまる。
 どちらもなにも言葉を発さず、刹那の沈黙が流れる。
「あ、あの、だな……」
 なにを喋るべきかすら思いつかないまま、口を開きかけた俺を制するかのように、妹が無言のまま、
公園脇に広がる林のほうを指さす。
 そちらに行けということか。
 そうだな。いくら変態とはいっても、まだ自分の兄だからな。遊び目的の子供たちや、
散歩などで通りがかる人のいるこの場所では、身内の恥をその人たちに晒すようなもんだろう。
 最悪の想定が実現しつつあることを感じながら、ベンチから腰を上げ、黙って指をさした方向に歩き出す妹の後を追う。
 しばらく林の中を歩み進めて、僅かに開けた場所で妹の足が止まる。
 空は快晴だったが、ここは木々の間から木漏れ日が差し込む程度で、若干薄暗い。
 断罪の場としては相応しいと思った。
 こちらに振り返る妹。それに合わせて彼女の綺麗に切り揃えられた髪が流れる。


542:(3/7)
08/02/03 16:33:15 uShrGvCb
 
 裁きの始まり、か。
「…………」
 妹は口を開くことなく、こちらをじっと見つめていた。なにか申し開きがあれば一応聞いてやるということだろうか。
「あの……だな」
 俺は、未だ言うべきことが見つけられず、先ほどと同じ台詞を吐いた。
「その、だ。おまえの言いたいことは、おおよそ……判ってる、つもりだ」
 頭の中で纏まらないまま、たどたどしく言葉を紡ぐ。
「俺としては、言い訳することも見つからないし……、
 いや、言い訳なんてすべきじゃないし。おまえがあのとき思ったままの人間なんだ。
 ……あ、いや、別に開き直ってるわけじゃなくて、おまえにはほんとに申し訳ないと
 思っているし、その、なんだ、なんていうか、ただ、ここで謝ったり言い訳したりしても、
 その事実が消えるわけじゃないし……」
 自分でもなにを言っているんだろうって思う。
 開き直ってないと言いつつ、これは、開き直りそのものじゃないのか。
「えーっと、だな。その、俺が言いたいのは、おまえの判断がどんなものであれ、
 それに従うつもりだということだから」
 そうだ。いまの俺にできる唯一の償いはそれしかないだろう。それは償いとはいえないかもしれないが、
それしか思い浮かばなかった。
「はぁーっ」
 そんな俺の言葉を聞いていた妹が、大きく溜息を吐いた。
 呆れたのだろう。それとも、こんなのが自分の兄であることを恥じているのだろうか。
「ねぇ、兄さん。私の言いたいことが判ってるっておっしゃってましたが、
 それがなんだと思っているのですか?」
 妹の口調は、極めて平静を保っていた。そして、それが妹が怒ったときのものであることを俺は知っていた。
 しかし、妹よ、それを俺の口から言わせるか。
 いや、答えねばなるまい。自らが招いた罰なのだから。
「その、だから……、あの時おまえがどう思ったか、ってことだ。
 夕食のときも来なかっただろう。つまり、俺の顔も見たくないってことじゃないのか? 
 ……あ、勘違いしないで欲しいが、それは……、おまえが俺のことを変態だと思うのは、
 当然のことだと思ってる。だから、おまえが家に二度と帰ってくるなって言うなら、
 二度と実家に顔をだすつもりはないし、兄妹の縁を切れっていうなら、
 その、法律的にはなかなか難しいと思うが、できるだけその希望に添うつもりだ」
「お父さんには、なんておっしゃるつもりですか? 
 いきなり息子が帰ってこなくなったら不審に思われるでしょう」
「それも……覚悟してる、つもりだ。おまえが、……いや、それは卑怯だな。
 そうなった場合には、俺から、ちゃんと両親に話す……ことにするよ」
 親父は言うまでもなく、お袋も親父よりは理解があるが、こんなことを知れば相当衝撃を受けるだろう。
 お袋は泣くだろうか。息子がこんな変態に育ったなんて知ったら。親父は怒り狂うだろうな。それはもう烈火のごとく。
そして二度とあの家の敷居は跨がせないであろう。
 俺がそんな考えを巡らせていると、妹が俯いて肩を震わせる。
 泣いているのか、と思って一歩踏み出したとき。面を上げた妹の表情は―。
 ―笑っていた。
「ふふふ、あはははは!」
 遂には声をあげて笑い出す。あまりのショックに気でも触れてしまったんだろうか。
 そうでも思わずにはいられないほど、眼前の妹は異常だった。
「ふふ、……あ、失礼しました、兄さん。
 ただ、両親があまりに不憫に思えてしまって」
 言っていることはこの上なく正常だ。それは俺を責めるには充分に効果的な言葉。
ただあまりの出来事に少し情緒が不安定になっているのだろうか。それがいっそう俺を苛ませる。


543:(4/7)
08/02/03 16:37:05 uShrGvCb
 
「……判ってる。それはすべて俺の所為だ。
 そして、おまえを不憫な目にあわせているのも」
 俺としては頭を下げるしかない。それが誰にもなんの救いにならないことが判っていても。
 そんな俺を無視するように妹は続ける。
「そう、あまりに不憫じゃないですか。だって―」
 そこで一度を言葉を切る妹。俺の目を見つめながら。
「―手塩にかけて大事に育てた自分の子供が二人とも変態だったなんて。ねぇ」
「わかっ……えっ?」
 なに? いま妹はなんて言った? 『二人』、とも?
「なにを……」
 言っているんだ、という台詞は続かなかった。混乱している。いまの妹の言葉の意味が理解できない。
 聞き間違いか? そうだ、そうに違いない。
 妹は精神的に動揺してるんだ。あ、いや、動揺してるのは俺か?
「え、あれ……」
 なにも言葉を発せられない。喉の奥がひりひりする。
 聞き間違いだ、必死で自分にそう言い聞かせる。
 そんな俺の内心などまったくどうでもいいかのように、妹がさらに口を開く。
「そういえば、兄さんはさっき、私の言いたいことが判るとおっしゃってましたね。
 でも、おそらく、いえ、絶対。兄さんはいまの私の気分を判っていませんよ」
 先ほどの吹っ切れたような笑いを端緒とするかのごとく、妹の顔にはいまも薄く笑みが浮かんでいる。
まるで愉快なことでも話すかのように。
「そうですね。私のいまの気持ちを例えるなら。
 いままでどうしても欲しくて欲しくて仕様がなかった、
 でも絶対に自分の手には届かないものを、自分の一番嫌いな人間に奪われたけれど、
 その人が、私の手の届くところに届けてくれたような複雑な気分です」
 なにを……? 
 妹の言っていることは繋がってない。会話の前後がおかしい。意味をなしてないじゃないか。
 俺は無意識だったのだろう、気づかないうちに後ずさっていた。
 そんな俺を逃がすまいとするかのように、妹がゆっくりと近づいてくる。
「だいぶ困惑しているようですね。兄さん。無理もないです。
 私がいままでひた隠しに隠してきたんですから。私から見れば兄さんなんて、
 余程迂闊か、隠す意志がないとしか思えませんよ」
 いつのまにか背中に林立する冷たい雑木のひとつを背負い、それ以上後退できない俺を追い詰めるかのごとく、
妹は俺の前に立ちふさがると、首にその細い腕をしなやかに回し。
 そして、接吻をした。
「!」
 思わず目を見開いた。瞳を閉じた妹の顔が視界を覆う。焦点を結ばないほど間近にある。
 それに遅れて妹の匂いが、俺の鼻をくすぐる。
 この場だけ時が止まってしまったかのように俺は動けなかった。息をすることも忘れていたかもしれない。
 どれほどの時間が流れたのか。それは一瞬だったのかもしれないし、十分も経っていたのかもしれない。
時間の感覚が失われている。
 妹はゆっくりと顔を離すと、身長差から俺を見上げる。上目遣いで。
 背伸びをしてたのか。そんなどうでもいいことが気についた。
「う……あ……」
 俺はなにかを喋ろうとしたが、未だに言葉が出てこない。動揺はさっきよりひどい。思考が纏まらない。
 夢。これは夢なのか。そう思うとともに、現実感が急速に失われていく。
 俺は夢を見てるのか。
 二次元の妄想ばかりに逃げ込んでいたから、こんな夢をみるのか。
 そんな俺の考えを否定し、現実に引き戻すかのように、妹の手が俺の頬を撫でる。
 冷たい。


544:(5/7)
08/02/03 16:40:08 uShrGvCb
 
「まだ、判りませんか? 兄さん。
 なぜ私が付き合ってる人と口付けすら交わさなかったのか。
 兄さんは、私が古風な考えを持っていると思っていらしたようですけど、
 もっと単純なんですよ。好きでもない人とは、
 手が触れるくらいは我慢できても、キスなんてできないだけです」
 ここは、なんだ?
 いまなんで俺はここにいる?
 どうしで、妹はこんなことを俺に話しているんだ?
 頬に添えられた妹の手、その親指が俺の唇に触れる。
「私が、いままでどれほどの葛藤を抱えていたか想像つきますか? 
 兄さん。あなたの何気ない仕種に私がどんな想いを抱いていたか。
 好きでもない人間と付き合うことで、必死で誤魔化してきたんですよ。
 でも、それも影から応援するような兄さんの態度が、私に苦痛を与えるだけでした。
 結局、誤魔化せたのは兄さんも含めて周りの人間だけです。
 私の感情は自分を騙すどころか、肥大していくばかりでした。
 それでも、その感情を周囲に悟られないためだけに続けていたんです」
 妹はなにか箍が外れたかのように。
「兄さんが、私なんか比べものにならないような方と付き合えば、
 諦められるかとも思いました。でも、実際に私がとった行動は、
 それに反するようなものです。常に何事も完璧にこなせるように努力して、
 兄さんに近づいてくる方にプレッシャーをかけるようなこともありました。
 あ、もちろん兄さんはそんなこと気づいてなかったでしょうけど。
 私の中では常に禁忌と倫理の葛藤でしたよ」
 そこまで一気に喋り、俺の頬から手を離し、そのままその手で自分の髪を梳いた。
 ここまできてやっと、俺の思考が追いついてきた。
 いや、まだ困惑はしているが。
 妹の紡ぐ告白が、言語として、日本語として、漸く意味のあるものとして俺の耳朶に入ってきた。
「おまえは……、自分でなにを言っているのかが判っているのか?」
「ええ、理解しています」
「なんで、いまになって、こんなこと……」
 俺には妹の吐く言葉の意味は認識できても、その感情も行動も理解不能だった。
「昨日の出来事以外に、なにか原因があると思っていらっしゃるんですか?」
 妹はさもそれが当然のこととばかりに応える。
「だったら、なんでっ!? もし、おまえがいま言ったような感情を抱いていたとしても、
 幻滅しただろうっ!? あんなことしてる奴が世間一般でどんな目で見られているか、
 いくらおまえでも判るだろうっ! 後ろ指をさされるような、
 軽蔑されるような人間なんだよっ、俺はっ! なんでそんなことをわざわざ言うんだ? 
 おまえの中で勘違いで済ませればいいじゃないかっ! 
 おまえは俺じゃない、ありもしない偶像に憧れていただけなんだってっ!」
「ありもしない偶像じゃありません。
 いま、こうして現実に私の目の前に立っていらっしゃるんですから」
「だからっ……」
 さらに反論しようとした俺に対し、妹がその人差し指を俺の口に当てて止めた。
まるで母親が、子供に静かにしましょうね、とでも合図するかのように。
「兄さんは本当の意味であの両親の息子ですね。その愚鈍なまでの純粋さ。
 私はそれが欲しくて欲しくて、手に入れたくて堪りませんでしたよ」
 俺は、妹の指を振り払う。
「あんなっ、あんな行為をする人間のどこが純粋だっ!」
 口調だけからみると、妹と俺の立場は最初と逆転したように、責める立場と責められるそれが入れ替わったかのように見えたが、
実際は最初の状況となにも変わっちゃいない。


545:(6/7)
08/02/03 16:41:58 uShrGvCb
 
「あら。自分を慰める行為ぐらい、
 する人間はいくらでもいるじゃありませんか?」
「それでも……、それでも、あんなものを使ってしたりはしない」
「性的嗜好なんて人それぞれだと思いますが。
 世の中には苦痛や不快感を快感とする人間もいるでしょう」
「そっ、それは詭弁だろう。そんなことで自分を正当化はできないはずだ」
「どうして正当化する必要があるんです? 
 殺人淫楽症や強姦魔の人間ならば社会の害悪であるということもありますが、
 兄さん程度の趣味で社会に害悪を成すならば、
 性欲そのものを否定しなければなりませんよ」
「なっ……」
 妹の言っていることはどこかおかしい。しかし、反論できなかった。
 いや、そもそもなんで俺は反駁しているんだ? 
 さっきから俺は自分が変態であることを必死で主張してるのか?
 大体、この茶番はなんなんだ。
 俺の前にいるのは、本当に俺と一緒に育ってきたあの妹か?
「その程度のことをそれほど真剣に気にしているから、
 兄さんは純粋だと言っているのです。
 まあ、兄さんが世間的にどう思われようとも私は一向に構わないのですが。
 そもそも、漫画のような絵に性的興奮を覚える程度で後ろ指をさされるのでしたら、
 その対象が兄であるような人間は、社会的にはこの上ない変態ですね」
 妹は愉悦にでも浸るかのように声のトーンを上げる。
「おまえは……、本当に俺の妹なのか? おまえは、一体なにがしたいんだ?」
「ふふ、そのひとつ目の質問。それが私と兄さんとの違いです。
 兄さんはそのままで私の望む姿でしたが、
 兄さんが接していたのは『兄さんが望むであろう妹』を演じていた私です。
 だから、いまの私と、兄さんが知っている私とに齟齬が出るのです。
 それと、ふたつ目のことですが、先ほど言ったとおりです。私は兄さんが欲しいのです」
「なんで……? 俺はおまえが判らないっ!」
「ええ、これは私自身ですら制御できるような感情ではありませんから。
 おそらく私が兄さんの趣味を許容しようとするよりも、
 私の感情を理解していただくことのほうが余程困難でしょう」


546:(7/7)
08/02/03 16:43:36 uShrGvCb
 
 ああ、それと、と妹が付け加える。
「先ほどは兄さんの趣味を擁護するような発言をしましたが、
 決して快くは思っていませんから。
 兄さんの心を奪うものはなんであれ……、そうですね、
 単純な言葉で述べるなら嫉妬というものでしょうか。
 特にあんなモノに兄さんが心を奪われていると知ったとき、
 私の中で限界まで張り詰めていたなにかが切れたような気がします。
 それで、決心したんです。なにがなんでも、どんな手段を用いてでも、
 兄さんを私のものにしてみせる、と」
「こんな―、こんなことを両親が知ったらどう思うのか、
 おまえは考えたことがあるのか?」
 思わず口をついて出た後に、こんな台詞は俺が言えた義理ではないことに気づいた。
 あんな趣向を持てば、両親がどれほどショックを受けるか理解しつつもやめなかった俺。
 もう、とっくに歯車は狂い始めていたのだ。俺も妹も。
「ええ、これ以上ないというくらい考えましたよ。
 兄妹揃って、異常な人間であることをあの両親が知ったときの苦痛や悲嘆を。
 さらに親思いの兄さんが、それをなにがなんでも避けようとするであろうことも。
 いま兄さんが言った台詞は、そのまま私が兄さんに言いたい台詞です。
 私の想いを達成するために」
 それは、つまり。
 その台詞は俺を責めるためじゃない。強迫のための台詞だということだ。
 その材料は、俺のこと、だけじゃなく、妹自身も含めて『兄妹ふたり』のこと。
 その妹の言葉を聞いてはじめて、俺は妹の決意がどれほどのものかを実感した。
『なにがなんでも、どんな手段を用いても、兄さんを私のものにしてみせる』




 その日、歯車は完全に狂った。





 


547: ◆a.WIk69zxM
08/02/03 16:46:19 uShrGvCb
 
投下終了。気分転換に昔つらつら綴った妄想を焼きなおし。


一点謝罪を。前回の投下(>356-357)にて、大失態。
葉月透夏 ⇒ 葉槻透夏
です。あまりにも数が多く申し訳ない。
あと、読みは『はづき』です(葉槻東のふりがなミス)
命名の経緯も相まって、チェックで見落としてました。
以後、注意します。


548:名無しさん@ピンキー
08/02/03 16:51:02 PbGzRab2
GJ

549:名無しさん@ピンキー
08/02/03 16:56:05 17RdeMjB
グッジョブ
非常に良い

550:名無しさん@ピンキー
08/02/03 17:23:36 8GCLqMQ0
GJ!賢いキモウトに問い詰められたい

551:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:42:08 eleE809X
GJ!
短編と言わず、長編が読みたいです。


投下します。

遥視点の過去編。
少女の性的な描写が駄目な片はスルーを。

552:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:43:29 eleE809X
 その日、珍しく遥は早くに目を覚ました。
 悪夢、を見たからだ。

 「嫌な夢…見ちゃったなー」
 あまり良くない目覚めの中、遥が呟く。

 その夢は、2年前の記憶、兄が自分の物ではなくなっていく悪夢。

 「もう…あんな思い…したくない!」
 怒りや悔しさ、恐れを吐き出すように、呟いた。


 小さい頃の遥にとって、他人は自分を追い詰めるだけの存在だった。
 妹の智佳にばかり構い、自分を見ようとしない両親。
 自分を攻撃し、虐めてくるだけの男の子達。
 そんな自分を疎外するだけで、助けようともしない他の子達。

 幼少の頃の遥は、今とは違い、陰気で表情に乏しく可愛いげのない暗い子供だった。
 そんな遥を、ただ一人だけ”愛して”くれたのが、兄である康彦だった。

 いじめっ子がいれば追い返し、遥が泣けば側にいて慰め、遥が喜べば一緒に喜んでくれた。

 そんな兄のおかげか、遥は少しづつ笑顔が増え、明るく活発な少女へと成長していった。


 「お兄ちゃん…」
 懐かしい呼び名で兄の事を呼んでみる。

 兄は自分を愛してくれている。
 それは家族愛としての愛情ではあるが、遥はそれで十分に満足していた…つもりだった。

 遥は気付いてしまった。
 兄がその愛情を向ける相手が自分だけではない事を。
 両親に対しても向けられていた。
 そして、妹の智佳にも、それは注がれていたのだ。

 遥がそれに気付いた時、胸が締め付けられるような苦しさを感じざるおえなかった。


553:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:46:14 eleE809X
 ある晩に遥は、自分の兄に対する想いが何なのかを、思い知らされる事になる。

 その日も両親の帰りは遅く、深夜になっても帰宅する気配はなかった。
 最近では珍しい事ではなく、家事全般は兄が担当していたし、兄さえいれば良いと考える遥にとって、何の問題もない。

 だが、その日に限って遥は不思議と寝付けなかった。
 その為か、遥の足は自然と兄の部屋へと向かっていた。
 何をしに行ったのか、遥自身も良く覚えていないし、当時の遥に聞いたところで答えは出ないだろう。
 漠然とした不安を取り除く為に、お喋りがしたかったし、兄のベットで添い寝して貰いたかったかもしれない。

 「お兄ちゃん、起きてる?」
 小声でそう言ってから兄の部屋のドアを開けると、遥にとって辛い光景がそこにはあった。

 兄の手を握り締めながら兄のベットで眠る智佳、そんな智佳を優しい瞳で見守りながら、智佳の頭を撫でる兄。

 それは、両親の不在に恐怖と不安を覚えた幼い妹と、その妹を慰めて寝かし付ける兄。
 ただそれだけの光景。
 それが遥には今までにない恐怖と不安を感じさせた。

 「どうした、ハル?」
 自分の存在に気付いた兄が、小声で聞いてくる。
 「ハルも眠れないのか?」
 あくまで小声で、少し茶化すように兄が言う。

 「なに…それ?」
 兄の質問には答えす、遥は智佳の方を指差す。
 「ちぃちゃんか?」
 明るい顔で、智佳を起こさないように抑えた声で兄が言う。
 「眠れなかったみたいでな、やっぱりまだ、ちっちゃいちぃちゃんが一人で寝るのは無理かな?」
 智佳の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと言った。
 それは遥にとって更に辛い光景だった。
 何故か、そこにいたくなかった。

 「おにいちゃん…」
 兄の行動に応えるような智佳の寝言を聞いた時、それが遥の我慢の限界だった。

 「どうした、ハル?」
 心配そうに問い掛ける兄に答える事も出来ずに、遥は自分の部屋に駆け戻ってしまった。


554:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:48:39 eleE809X
 部屋に戻った遥は、自分の感情を持て余していた。
 兄は智佳を、妹として可愛いがっていただけ。
 自分と同じように、妹として愛しているだけ。

 兄からしてみれば、自分も智佳も同じ妹。
 その当たり前の事実が、遥に重苦しい何かを与えてきた。

 「お兄ちゃんお兄ちゃん」
 今、ここにはいない兄を呼んでみる。
 撫でられているのが自分だったら、自分が一緒に寝れたなら、優しく手を握ってくれたら…。
 そんな想像をしているうちに、遥は自分の下半身、特に股間の部分が熱くなっているの感じた。

 遥がそれほどに性に関する知識を持っていた訳ではない。
 10歳の少女が当たり前に持っている程度のものだ。

 それでも遥は、自分の股間、膣やクリトリスを触り始めていた。
 熱さを収める為の行為だった。
 だが、それは想像していなかった快感を遥に与えた。

 この手がお兄ちゃんのだったら、
 そう考えながら、まだ発毛もしていない、その部分を激しく刺激する。
 「お…にいちゃ…ん…」
 苦しげに言ったその一言は、更に遥の快感を増大させた。
 「おにい…ちゃん…おに…いちゃん…」
 そう口にする度、自分を触ってくれる手が、兄の手のように思えてくる。
 気付けば、片方の手が、膨らみ始めたばかりの小さな胸を刺激していた。
 「おにいちゃん…そこも…もっとぉ」
 自分の言葉に従うかのように、遥の手の動きは更に激しさを増す。
 「おにいちゃん…遥も遥も…だいすきだよ!」
 その言葉を最後に、遥は少しだけ、意識を失わせた。
 始めての自慰、それで遥は絶頂したのだ。

 意識を取り戻した後、遥は自分の本音に気付いた。
 自分が兄の事を”男”として愛しているのだと。
 智佳に対するような”妹”としてではなく、兄にも自分の事を”女”として愛して欲しいのだ、という事に。

 兄妹での恋愛、それがタブーである事は、幼い遥にも薄々と分かっている。
 だから、その想いを胸の奥に秘めた。


 その秘めた想いが、ゆっくりと確実に大きく、歪んだ形へと成長していく事を知らずに。


555:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:51:59 eleE809X
 「兄貴…」
 今の呼び名で、遥が兄を呼ぶ。

 お兄ちゃんから兄貴へ、遥が呼び名を変えたのは、ある一人の女がきっかけだった。
 今日の悪夢を見せた原因にもなった女、横山楓の存在がきっかけとなったのだ。


 遥が中学2年、兄が高校3年の時に、遥はその女と出会った。

 その頃の兄は、何事も完璧にこなそうと無理し過ぎていた、少なくても遥の目にはそう写った。
 両親がほとんど家にいないせいか、兄は責任を背負い過ぎている、
 遥も、そんな兄の負担を減らそうと、せめて家事だけでも手伝おうとしたが、どうしても上手くいかず、その都度、兄に”ハルにはハルにしかない長所があるから”と、慰められていた。

 そんな兄だったが、ある日を境に、無理している雰囲気が無くなり始めていた。
 手を抜き始めた訳ではない
 良い意味で自然体になってきたのだ。
 当初は遥も、兄の変化を喜ばしく思っていたが、その変化の理由を知った時、遥はどん底に突き落とされるような感覚を味わった。

 「これがヤスの妹?可愛いじゃねぇか!」
 遥が始めて、その女、楓に会った時の、相手が言った言葉。
 「アタシの事をお姉ちゃんって呼んでいいぞ!」
 嬉しそうに言葉を続ける楓。
 その言葉に遥は顔をしかめた。
 自分にはお兄ちゃんが居てくれれば良い、
 そう思いながら、相手から距離をとる。
 「かぁー!恥ずかしがっちゃって、可愛いねえ」
 そう言いながら、楓が距離を詰める。
 その時、兄の強烈な一撃が、楓の後頭部に炸裂した。
 「何やってんだ、お前は!」
 行き過ぎた楓の行動を咎めるよう、兄が言う。
 「何すんだよ!アタシは妹ちゃんと仲良くなろうと思って…」
 「ハルがびびってんだろうが!」
 自分を助けるような兄の一言。
 遥はそれだけで嬉しくなる。
 が、それはすぐに覆される。
 「ヤスの妹なら、アタシにとっても妹になるよなあ?」
 楓が、兄に歩を詰めながら、そう言う。
 「ど…どういう…」
 「あの日、アタシを激しく抱いといて、ナンか言う?」
 楓の言葉に、兄は顔を赤くさせていく。

 二人の言葉の意味が分からない程、遥は子供ではない。
 「わ…私、やんなきゃイケない事、あるから!」
 無理な大声でそう言うと、遥は家に向かって走り出した。


556:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:53:28 eleE809X
 家に戻った遥は、自分でも分からない程に動揺していた。
 兄が自分ではない、別の女と結ばれる、
 それは当たり前の話だし、覚悟もしていたつもりだった。
 しかし、今、現実にその相手が現れると、遥の胸は大きく掻き乱された。
 何故、自分じゃ駄目なのか、血の繋がりだけで何で諦めなきゃイケないのか…!
 何にも当たれない怒りが遥を苦しめる。

 そんな自分の事を気にして、自分の部屋に入ってきた人間がいる。
 「ハル姉?」
 自分を心配して入ってきた妹がいた。

 この妹が自分と同じ目で兄を見ている事は、既に気付いていた。
 それを苦々しく思った事もあるが、今はそれを使うのが最上であるように思えた。
 だから言った。

 「ちぃちゃんはお兄ちゃんの事、愛してるかな?」
 と。

 その答えを知っていながら、
 この妹を利用する為に。


 楓が死んだのは、それから少し経ってからの事だった。


557:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:55:04 eleE809X
 横山楓、
 その存在は、康彦だけでなく、遥にも深い影響を与えている。

 その死が康彦に重い傷をもたらし、その存在が遥に兄への呼び片を変えさせた。

 あのようになれば、自分も、唯一無二になれるかもしれない、
 そう考えた遥は、兄の呼び名を、”お兄ちゃん”から、”兄貴”へと変えた。

 それから2年の月日が経つ。

 自分と兄の関係に大きな変化はない。

 楓の死が、思った以上に兄に傷を与えた為、遥も思いきった行動がとれずにいたからだ。

 それでも遥は思う。
 もう一度、兄の呼び名が変わる時が来る、と。
 それは、恋人に相応しい呼び名になる、と。

 まだ、兄は自分を妹以上に見ていないし、それ以外にも沢山の壁がある。
 だが、最後に兄の傍にいるのは、自分だけだ。
 遥には自信があった。
 自分が1番に兄を愛しているんだ、という自信が。

 決勝の相手は智佳になるだろう。
 その事にも遥は余裕を持っている。



 時計を見れば、まだ6時30分にもなっていない。
 「昨日の今日だしね」
 誰に言う訳でもなく、言い訳のように呟くと、遥の足は自然と兄の部屋に向かっていた。
 起こす時に唇が当たるのは良くあるし、舌が入っても事故だよね、
 そう考えながら。


558:ハルとちぃの夢
08/02/03 17:55:46 eleE809X
投下終了です。


559:名無しさん@ピンキー
08/02/03 19:03:19 17RdeMjB
グッジョブ
殺された恋人像を良い意味で裏切ってくれるとは

560:名無しさん@ピンキー
08/02/03 19:57:55 YbbIY23G
>>558
GJ


561:名無しさん@ピンキー
08/02/03 21:21:25 s7idImp8
なんでか知らんけど亡くなった恋人はおとなしいお嬢様みたいなイメージを勝手に持ってたww

ともあれ>>558はGJ!

562:名無しさん@ピンキー
08/02/03 23:44:22 Yts0fBWp
か、神がいっぱい来てるぅぅぅぅううう!!!!
GJ!!

563:名無しさん@ピンキー
08/02/03 23:47:03 9cG+Uejy
>555

564:名無しさん@ピンキー
08/02/03 23:47:28 9cG+Uejy
>544

565:名無しさん@ピンキー
08/02/04 00:05:13 ugaQu2xH
エ、エロゲープレイするのって、そんなに悪いことだったんだ…

そりゃ自慢できるような趣味じゃないことは分かっているけど…犯罪レベルにまで貶されようとはちょっとショック

566:名無しさん@ピンキー
08/02/04 00:51:12 L0kywe/D
>>565
お、おい……お前の後ろにいるのって確かお前のいm

567:名無しさん@ピンキー
08/02/04 02:15:41 OaLCnCla
生まれてこの方エロゲなんてやったことない俺勝ち組www






で、でもキモウトに嫉妬されるってんなら俺・・・

568:名無しさん@ピンキー
08/02/04 02:57:06 tZgIbFs9
>>568
お前人生かなり損してるぞ

569:名無しさん@ピンキー
08/02/04 02:59:50 csjxCmVx
>>569
妹がいないなんて人生の意味がないのも同然だぞ

570:名無しさん@ピンキー
08/02/04 03:01:15 tZgIbFs9
>>567だったorz
俺が俺に言ってどーするよ!いや間違ってないけどさ…確かに人生損してるけどさ……

571:名無しさん@ピンキー
08/02/04 03:39:13 T2uZTMbz
>>570がなんかもういろんな意味で可哀相だなw


572:名無しさん@ピンキー
08/02/04 08:38:57 48mqmV8/
はっはっは。俺なんて給料の1/3は毎月エロゲ購入に注ぎ込んでるゼ!



orz

573:名無しさん@ピンキー
08/02/04 09:31:45 aD6tdObE
はっはっは。俺なんて給料の3分の2は貯金してるぜ!

・・・いつニートになってもいいと思ってる俺。

574:名無しさん@ピンキー
08/02/04 10:14:50 p6fxWy8w
ニートになったら、おうちから一歩も出る必要ないね弟くん
ふふっ……

ニートになったら、おうちから一歩も出る必要ないねお兄ちゃん
くすくすくす……

575:名無しさん@ピンキー
08/02/04 11:44:05 BVOy1PL+
>>569
あのぉ、大変申し上げにくいのですが…
そこの物影で血涙流している鬼女は、もしや貴殿の姉上では…

576: ◆busttRe346
08/02/04 12:22:08 y/zCHf3z
監禁トイレ六話投下しまーす

577:監禁トイレ⑥-1
08/02/04 12:23:11 y/zCHf3z
「やめてよ!!痛いよぉ!!」
「ほら、たっくんが痛がってるでしょう!!」
「お姉ちゃんこそ放してください。最初にお兄ちゃんと遊ぶ約束したのは私です」
ぎりぎりと腕が引っ張られる。
「何してるのッ!!」
母は双子を怒鳴りつけ、少年から引き離す。少年の両腕はぶらぶらと垂れ下がる。さながら操られる事を忘れた人形のように。
少年は泣き喚く。その両手は暖簾の如く、無抵抗にただ揺れるのみ。
母親は青ざめ、すぐさま病院へ連れて行く支度をした。


結論から言って少年は両肩を脱臼していた。


少年が病院から戻ってくるまでの間、リビングでは双子が睨み合っていた。
一言も発する事なく。
けれど視線で全ての感情をぶつけあって。
亀裂は、もう修復不可能なところまで深く皹入っていた。







578:監禁トイレ⑥-2
08/02/04 12:24:21 y/zCHf3z
後悔している。
そりゃあもう、物凄く後悔している。
不用意に「良いよ」と言ってしまったのが、まずかった。

「はむっ…んっ、ぐっ、はぁ…んっ」
口からはくちゃくちゃと咀嚼音が漏れ出ている。
問題なのは「二人で一つ」の咀嚼音。

ああ本当に、心底後悔している。



それはつい30分前の事。
「…」
「……」
「…何故黙るんですか、義兄さん」
「いや、別に…」
今日で何回目の脱力だろうか。恐怖であったり悲しみであったり呆れであったり。いずれにせよネガティブな意味での脱力しかしていない。そろそろゆったりとした平和な脱力感が欲しいものだ。
「で、してくれるんですか?してくれないんですか?」
「あ…えっと…良いよ」
僕の返事を聞くと、蕾は自分の足下に置いたリュックを開く。そこから市販のおにぎりや惣菜パン、飲み物を取り出した。
それらを抱え、僕の隣に座り込むと、食糧を床に並べ始めた。
「あ、おにぎりの包装は片手じゃ無理ですよね」
そう言って蕾は梅おにぎりを手に取る。それよりせめて下に何か敷いてもらえないだろうか?床に無造作に転がる食糧。あまり食欲を掻き立てられないのだが…。


「出来ましたよ、義兄さん」
左手におにぎりを渡される。
「それじゃお願いします」
面倒臭い上に回りくどい。何故こんなやり方で食事をするのだろうか。おにぎりは思いのほか美味しそうに見えた。多分、それだけ腹が減っていたのだろう。
そういえば昨日から何も食べていなかったっけ…。
そんな事を考えながら義妹の口におにぎりを差し出す。

ぴしゃり

…痛え。

「何故手を叩く?」
「あなたは馬鹿ですか?誰がそんな食べさせ方を要求したんですか」
「お前だろう」


579:監禁トイレ⑥-3
08/02/04 12:26:31 y/zCHf3z
盛大に溜め息をつかれた。

「はぁ…。ここまで鈍いとは思いませんでした。分かりました、じゃあそのおにぎりは義兄さんが食べてください」

…。

…何なんだよ。

…本当に何なんだよ?

腹立ちを顎に込めておにぎりに食らいつく。ぱりっ、と爽快な音の後を海苔の香りが追従する。ひやりとしたご飯も、空腹を自覚した途端熱を帯びだした胃にはちょうど良く感じられた。梅の酸味が唾液を促す。
美味しい。
素直にそう思った。

「むぐっ!?」

唇を何かが塞ぐ。

まさか…またハンカチか!?
至福のあまり目を閉じていたのがいけなかった。だが、目の前には予想だにしない光景が待ち受けていた。
僕の唇を塞ぐのは、やはり唇で。当然その持ち主は、蕾だった。

「んん゛ッ…!!」

口内に生暖かい息が、涎が、舌がなだれ込んでくる。口に入れたおにぎりは舌に絡めとられ、蕾の口内に吸い込まれていく。
間近で見る蕾の顔は今まで見た事のない顔だった。目尻に涙を溜め、それは今にも零れ落ちそうだ。鼻息が頬をなぶる。くすぐる、の範疇に収まりきらない程に荒々しく。
白い肌はピンクに染まり、今にも湯気を立ち上ぼらせる様。



つまり彼女の「食べさせて」はこういう事だったのだ。一般的に口移しと呼ばれる行為。コレはそれの進化版といったところか。
…むしろ劣化か。
こんな「食べさせて」を誰が理解出来るのだろう。
鈍い?
この場合は僕が鈍いじゃないだろう。蕾、お前が凄いだけだ、色んな意味で超越してるよ。ブラボー。




580:監禁トイレ⑥-4
08/02/04 12:29:49 y/zCHf3z
口に含んだ分のおにぎりをほとんど奪い去ると、唇が離れた。二人の涎が名残惜しそうに橋をかける。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「はぁ…っんく、はぁ…ふぅ…」
互いの口から白い息がぽつ、ぽつ、とわき出る。トイレの中が冷えきっていたから、だけではないと思う。
「ふふっ…安いおにぎりも義兄さんの口で食べるとこんなにも美味しくなるんですね…」
僕はどうしたものか分からない。まず処理するべきは口に溜まった唾だ。これをさっさと吐き出してしまいたい。ただそれを見た蕾がどんなリアクションをするか…。
一瞬脳内に浮かんだのは舌を食いちぎられる図だ。監禁されている間に、僕の想像力も大分愉快な方向へ鍛えられたようだ。
手近にあった飲料水を口に含み、不純物を一気に流し込む。腹を壊さなければ良いのだが。
「義兄さん。続きを」
今度はサンドイッチを差し出してきた。



前言撤回。
これが中止になるのなら何でも良い。
早く壊れろ、僕の腹。


ツナサンドが、迫ってくる。


581: ◆busttRe346
08/02/04 12:31:58 y/zCHf3z
投下終了です

582:名無しさん@ピンキー
08/02/04 14:05:08 f3S4ly5F
>>581
乙+GJ
飯食いながらおっきしたのは俺だけでいい

583:【偏愛 第二章・里穂(前書き2)】
08/02/04 15:23:16 p6fxWy8w
>>581
口移しの生々しい表現にGJ!
溜まった唾の処理に悩む主人公の葛藤が……w

それでは第2章の続き投下します
全9レス
後半に三年生の妹のオナヌゥ描写がありますロリ苦手な人はスマソ
でもって大人気のばあちゃんは登場しません(汗


584:【偏愛 第二章・里穂(5)】
08/02/04 15:24:51 p6fxWy8w
 やがて訪れた夏休み―
 里穂は計画通り、ママに内緒でお兄ちゃんに会いに出かけた。
 でも結果としては悲しい思いをしただけだった。
 お兄ちゃんの顔は見られたけど里穂との再会を喜んでくれなかった。
 ママに怒られてばかりいた頃と変わらない、優しさのない態度だった。
「よく来てくれたね」「一人で頑張ったね」
 行きの電車の中では褒め言葉を期待して、わくわくしていたのに……
 おばあちゃんには里穂が一人で来たことをママに言いつけられてしまった。
 ひどい意地悪だった。
 お兄ちゃんが優しくないのは、こんなおばあちゃんと一緒に暮らしているからだと思った。
 二人に連れられて家に戻ると、ママはお仕事を早退して帰って来ていた。
 いままで見たことのない怖い顔で、里穂を家に引き入れるとすぐドアを閉めて鍵をかけた。
 お兄ちゃんとおばあちゃんには挨拶さえしなかった。
 きっと里穂もひどく怒られるだろうと思った。いつもお兄ちゃんが怒られてたときのように。
 ところが、里穂に向き直ったママは笑顔だった。
「ダメじゃないの里穂、知らない人について行ったらいけないといつも言ってるでしょう?」
「知らない人……?」
 何のことか里穂にはわからず首をかしげる。
 ママは里穂の頭を撫でて、
「里穂がママに黙っていなくなるわけないものね。知らない悪い人に騙されて連れて行かれたんでしょう?」
「……里穂は……」
 怒られても本当のことを言わなきゃいけないと思った。
 一人で出かけたことについては、お兄ちゃんやおばあちゃんが悪いのではない。
「……自分から出かけたんだよ……」
「そんな筈ないわ。騙されて連れて行かれたに決まってる。里穂はパパとママと一緒のおうちが一番なのに」
 ママは笑顔で里穂の頭を撫で続ける。
「そうよ、あんな泥棒のガキとか泥棒に味方する強欲ババアなんて知らない人。里穂の家族はパパとママだけ」
「……ママ……?」
 いったい何を言っているのだろう? 泥棒のガキってお兄ちゃんのこと?
「パパとママが結婚する前、嘘つき女がパパを泥棒したの。嘘をついてママを裏切ったの」
 ママは言った。
「そして生まれたのがあのガキよ。だからアレは泥棒のガキ。嘘をついてママを裏切るんだわ」
「……お兄ちゃんは嘘なんて……」
 里穂の言葉を遮り、ママは叫んだ。
「泥棒が産んだとしてもパパの子だもの! ママは本当の子供みたいに愛してたのに裏切られたのッ!」
 里穂は怖かった。お兄ちゃんに怒ってばかりいた頃のママに戻ったみたいだった。
 いや、その当時でも里穂の眼の前で、ここまで取り乱したようにわめき散らすことはなかった。
 人間は「おかしくなる」ことがあると、里穂はテレビのニュースで観て知っていた。
 通りすがりに理由もなく他人を殴ったりナイフで刺す「おかしい人」が世の中にいる。
 むやみに大声を出すのは「おかしい人」だから近づくなとニュースを観ながら教えてくれたのはママ自身だ。

585:【偏愛 第二章・里穂(6)】
08/02/04 15:28:04 p6fxWy8w
 なのに、ママも「おかしく」なっちゃったの?
 里穂が一人で出かけたから怒って? それとも心配しすぎて?
「……ごめんなさい……」
 里穂はママにすがりついた。涙があふれ出した。
「もう一人でどこにもいかないから……ママの言うこときくから……」
 だから、おかしくならないで……
「あらあら泣かないで里穂、里穂は悪くないのよ」
 ママは里穂の前でしゃがんで頭を撫でてくれた。
 笑顔に戻っていたが、その眼は泣いているみたいに赤かった。
 里穂がもう少し上級生で語彙が豊富なら「血走っている」と形容しただろう。
「悪いのはあのガキとババア。里穂は騙されただけ。怖かったわよね知らない人に連れて行かれて」
「ママ……」
 お願いだから、おかしくならないで。優しいママに戻って。
 お兄ちゃんにも優しかったママはどこに行っちゃったの……?
「さあ、そろそろ晩ごはんの支度しなきゃ。里穂の大好きなカレーにするわ。パパもママのカレーは大好物よ」
 ママが里穂の手首をつかみ、ダイニングへ引っぱっていく。
 ぐっと力を入れられて痛かったけど、怖くて振りほどけなかった。
 
 
 食事の支度をしている間にママは次第に落ち着き、食べ始める頃には普段と変わらない様子に戻っていた。
 でも里穂の心には恐怖が残った。
 いつ再びママがおかしくなってしまうかわからない。
 里穂はお兄ちゃんに会いたかっただけなのに、どうしてこんなことになるのだろう……?
 翌日、ママはいつも通り仕事に出かけて行った。
 里穂はどこにも出かける気にならず家に閉じ籠もっていた。
 ママが作り置いてくれたお昼ごはんを食べ終えた頃、千代美から電話があった。
 きのうの首尾を聞かれて言葉を濁すと、勘のいい千代美は「そっかあ……」と嘆息し、
「何かあったみたいね。きょうは千代美が里穂の家に行くよ」
「え……、でも……」
「来ちゃダメなんて言わないでね。話したくないことは話さなくていいから、千代美をそばにいさせて」
 やがて訪ねて来た千代美を、里穂は自分の部屋に通した。
 里穂の部屋はお兄ちゃんと一緒に暮らしていたときのままだった。
 二つになった机は勉強用とお絵描きやゲームなどの遊び用に使い分けるから捨てないで。
 二段ベッドは空いている上の段を、ぬいぐるみを並べる棚にするから買い換えなくていい。
 その口実でママを説得し、里穂はお兄ちゃんの机とベッドを守ることに成功していた。
 お兄ちゃんがいつでも帰って来られるように。
 でもママがおかしくなったら、その機会は限りなく遠のいてしまう……
 里穂は自分のものだった机の椅子を引き出して千代美に勧めた。里穂自身はもう一つの机の椅子に腰掛けた。
 さりげない動作のつもりだったのに千代美は微笑み、
「里穂ってホントにお兄さんが好きなんだね。そっちがお兄さんの机でしょ?」

586:【偏愛 第二章・里穂(7)】
08/02/04 15:31:11 p6fxWy8w
「え……」
 里穂は眼を丸くして、誤魔化すように笑い、
「どっちも里穂の机だよ。そっちが勉強用で、こっちが遊び用」
「でも勉強用は本がたくさん並んでるから最初から里穂ので、物が少ないそっちはお兄さんのだったでしょ?」
 里穂は、まじまじと千代美の顔を見た。
「……千代美ちゃんってすごいね、刑事とか探偵になれるよ……」
「千代美の将来は美容師だってば。それより、お兄さんに会いに行ってどうだったの?」
「……うん……」
 話すべきかどうか里穂は迷った。
 話したくないことは話さなくていいと千代美は言ってくれた。
 でも本当に話したくないのなら、里穂は千代美を家に来させなかったろう。
 押しかけて来たとしても家に入れなかったろう。
 ならば選択肢は一つだった。
 せっかく会えたのにお兄ちゃんの態度は冷たかったこと。
 そして、おばあちゃんに家に連れ帰られてしまったことを話して聞かせた。
 家に帰ってママに怒られなかったか訊かれたので「ちょっとだけ」と答えた。
 ママがおかしくなったことは、さすがに言えなかった。
「ひどいね、里穂のおばあさん。黙っててくれればいいのにね」
 千代美は自分のことのように怒ってくれた。
「それ里穂が思った通りだよ、意地悪なおばあさんと一緒にいるから、お兄さんも里穂に冷たくなったんだよ」
「うん……でも、お兄ちゃんはママと住んでた頃もあまり優しくなかったから……」
「優しくないお兄さんなら、どうして里穂はそんなに好きなの?」
 千代美が小首をかしげて訊ね、里穂は「え?」と戸惑い、
「それは……、昔は優しかったから……」
「でも優しくなくなっちゃったんだ?」
「うん……パパが亡くなってしばらくして、ママに怒られてばかりになってから……」
「里穂だけママに可愛がられてるからヤキモチかな?」
「そういうのとは違うと思う……」
 お兄ちゃんのほうもママを嫌っている。ママに向ける眼を見れば、それはわかる。
 前はそんなことなかったのに。ママはお兄ちゃんに優しくて、お兄ちゃんもママが好きだったのに……
 千代美が腕組みして「うーん」と唸った。
「お兄さんは里穂のこと、どう思ってるんだろうね?」
「え……?」
 眼をぱちくりする里穂に、にやりと千代美は笑って、
「里穂はお兄さんが好き。でも、お兄さんは?」
「……そんなこと……」
 考えもしなかった。
 里穂はお兄ちゃんが好き。ママが好き。パパが好き。優しいから。家族だから。
 それが当然と思ってた。
 でも、お兄ちゃんはママを嫌っている。優しくないから。ひどく怒るから。

587:【偏愛 第二章・里穂(8)】
08/02/04 15:34:52 p6fxWy8w
 それでは―里穂のことは?
 お兄ちゃんはどう思ってるんだろう?
 答えを考えるのが怖くて、里穂は千代美に訊ねた。
「千代美ちゃんはお兄さんのこと、どうなの? 好きなの?」
 冷たく暗い眼をした兄を、千代美はどう思っているのだろうか?
「お兄(にい)のことはねぇ……うーん……」
 千代美は何故だか苦笑いして、
「向こう次第かな千代美的には」
「向こう次第って?」
「お兄が千代美をどう思ってるか知りたいってのはあるよ。ホントに好きかどうかって」
「千代美に優しいんだとしたら好きってことじゃないの?」
 あの兄の優しいところなど想像つかないけど。
 千代美は苦笑いで首を振り、
「優しいと好きは違うよ。千代美の言ってる『好き』は、里穂と違う『好き』だけど」
「……どういうこと?」
「そのうち教えてあげるよ。それより里穂のお兄さんの話。兄妹で喧嘩したことないって言ってたよね?」
「うん……」
 里穂は幼稚園生の頃―パパがまだ生きていた頃は、よく我がままを言って家族を困らせた。
 みんながお寿司を食べに行く相談をしているときにハンバーグが食べたいと言ってみたり。
 お兄ちゃんが動物園に行きたいと言ったときに遊園地へ連れて行ってほしいとダダをこねたり。
 そうしたとき、お兄ちゃんは必ず「里穂が行きたいほうに行こうよ」とパパとママに提案してくれた。
 そう。お兄ちゃんは本当に優しかった。
「……いつも喧嘩になる前にお兄ちゃんが譲ってくれたから……」
「でもエリナとかマユとか妹や弟がいる子は、兄弟喧嘩ばかりで嫌いだって言ってるでしょ?」
「マキちゃんは弟と仲がいいみたいだけど……」
「そう、それ。つまり年上の立場で考えて、可愛くて好きだと思える妹と嫌いになっちゃう妹がいるってこと」
「嫌いになっちゃう妹……」
「好きと思ってもらえる妹に、里穂もなればいいんだよ。そしたらお兄さんも、また優しくしてくれるかも」
 
 
 でもお兄ちゃんに好きになってもらうための具体的な計画は里穂にも千代美にも思い浮かばなかった。
 遠く離れて暮らしていて、次回いつ会えるかもわからないのだ。
 やがて八月の終わりにパパの三回忌の法事があった。
 参加したのはママと里穂のほか、ママのお姉さんの世田谷のおばさん夫婦。
 それにママのお友達の水谷(みずたに)のおばさんとおじさんだった。
 お兄ちゃんとおばあちゃんはママが呼ばなかった。
 市民霊園にあるパパのお墓にみんなでお花とお線香を供えた。
 それから里穂の家に移動して、ママが前の日から用意していたごちそうを食べた。
 メインディッシュはお兄ちゃんが大好きだった唐揚げだ。
 おばあちゃんはお兄ちゃんに唐揚げを作ってくれるのだろうかと、ふと考えた。

588:【偏愛 第二章・里穂(9)】
08/02/04 15:37:59 p6fxWy8w
 二学期に入ったある日の授業中、女子生徒の一人が泣きそうな顔で手を上げた。
「先生……」
 担任の女性の先生はすぐ異変に気づき、その生徒のそばへ行って何ごとか囁きかけた。
「何だよ便所かよ」
 お調子者の男子が冷やかし、ほかの男子が笑ったのを先生が叱責する。
「静かにしなさい。みんなしばらく自習してなさい」
 先生はすすり泣く女子生徒を立ち上がらせ、肩を抱いて教室から連れ出した。
 千代美が里穂の背中を突っついてきた。二学期の席替えで後ろの席になっていたのだ。
「あの子きっと生理だよ。ジーンズのお尻ちょっとシミになってた」
「ええっ?」
 里穂は眼を丸くする。
 その翌週、授業が一時間分中止になって、三年生の女子全員が視聴覚室に集められた。
 男子は校庭で自由時間になったことを羨む女子生徒たちに、千代美が言った。
「きっとセーキョーイクだよ。こっちのほうが面白いって」
 千代美の推測通り、それは性教育の臨時授業だった。
 お母さんのおなかに赤ちゃんができる仕組み。
 生理のこと。身体の成長―オッパイが大きくなったり下の毛が生えたり―のこと。
 里穂を含めた大半の女子生徒は感心しながら話を聞いた。
 千代美だけは「三年生にできる話はこの程度か。なるほどね」と意味ありげに笑っていたけど。
 そして放課後。
 いつも通り、里穂は千代美と一緒に帰った。向かう先は千代美の家だ。
 千代美の部屋に通されて、渡されたクッションをフローリングの床に敷いて座る。
 いったん千代美は部屋を出て行き、紅茶とお菓子を用意して戻って来た。
 紅茶をひと口、飲んでから、にっこり笑って千代美は言った。
「……里穂って、オトナのエッチに興味ある?」
 
 
 ぽかんと口を開けて里穂は千代美の顔を見た。
「エッチって……きょう学校で教わったみたいな?」
「ああいう健全すぎてつまんない話じゃなくて、もっと気持ちよくなれるヤツ」
「そんなの、まだ早いよ」
 里穂は眉をしかめてみせた。
 性教育の授業を受ける前から、里穂は大人や中高生のお姉さんたちがするエッチについて漠然と知っていた。
 情報源はテレビであったり漫画であったりクラスメートとの会話だったり様々だった。
 彼氏とキスして、裸を見せ合って、オッパイに触られて……
 それが気持ちのいいものだという理解もあったけど、自分で体験したいとは思わなかった。
 だいたい彼氏なんていないし。欲しいと思ったこともないし。
 誰かを好きになるという気持ちが、まだよくわからないし。
 家族や友達や憧れの歌手を好きになるのと、どう違うのだろう?
 お兄ちゃんを好きなのと何が違うのだろう?

589:名無しさん@ピンキー
08/02/04 15:40:12 ugaQu2xH
支援

590:【偏愛 第二章・里穂(10)】
08/02/04 15:41:06 p6fxWy8w
 千代美は笑った。
「早くないよ。一人でエッチする分にはね」
「一人で……って何それ?」
「簡単だよ、あのね……」
 二人きりしか部屋にいないのに、千代美はわざと里穂の耳元に口を寄せてきた。
 吐息がこそばゆいのを我慢して里穂は耳を傾ける。
「……自分でオマンピーに触るの」
「何それ……?」
 里穂は顔を離し、呆れ気味に千代美を見た。
 にんまりと千代美は笑い、
「里穂、お風呂でオマンピー洗ったりシャワーかけたりして気持ちいいと思ったことないの?」
「ないよそんなの」
「うそぉ、恥ずかしいから感じないように自分に言い聞かせてるだけだよそれ、普通は気持ちいい筈だもん」
「もし気持ちよかったとしても、お風呂とかシャワーの何がエッチなの?」
「やっぱ気持ちいいんじゃん。認めちゃいなよ」
「気持ちよくないってば。ねえ、こんな話やめようよ」
「気持ちいいのわかってるから話したくないんでしょ、恥ずかしいから」
「もうっ、怒るよ、千代美ちゃん!」
「千代美は毎日お布団の中でしてるよ、ホントに気持ちいいんだから」
「千代美ちゃんってば……」
「お布団に潜って好きな人のこと思い浮かべてするの。そしたら抱き締められてるみたいに暖かくなるの」
「お布団に潜ってそれじゃ暑いじゃないの。まだ夏が終わったばかりだし」
「暖かいってのは心がだよ。ほかほかして、ほわわぁんって幸せになるの。里穂もやりなよ」
「べつに好きな人なんていないし……」
「誰でもいいんだよ男の人なら。ただしパパとかおじいさんはダメ。カッコイイと思う芸能人とかがいいよ」
「男の人じゃないとダメなの?」
「当たり前だよエッチだもん。それとも里穂って、そっち系の趣味?」
「そっち系って何よ。もうっ、まだ里穂は男の人にもエッチにも興味ないってばっ……!」
 
 
 その場はそれで話を終わらせたが、里穂は家に帰ってから夜のお風呂場で千代美との会話を思い出した。
 両脚の間の「大事なところ」を洗ったりシャワーをかけたりするのが怖くなってしまった。
 エッチな気分になったらどうしよう?
 ……もうっ、千代美ちゃんがヘンなこと言うからだよ!
 お風呂を出てパジャマを着込み、ベッドに潜り込む。
 余計なことを考えないように、ぎゅっと眼をつむって頭まで布団をかぶる。
 べつに……エッチとかそんなのしなくても、里穂はいつもお兄ちゃんに抱き締められてる気分だもん。
 元はお兄ちゃんが使っていた二段ベッドの下の段で寝てるんだから。
 寝よ寝よ。優しかった頃のお兄ちゃんの夢を見られることを祈りながら。
 ……でも好きな人を思い浮かべるって、お兄ちゃんでもいいのかな?


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