ヤンデレの小説を書こう!Part13at EROPARO
ヤンデレの小説を書こう!Part13 - 暇つぶし2ch284:名無しさん@ピンキー
08/01/30 15:14:23 FAgCKwm1
>>283
兄「お腹すいたなぁ」

285:名無しさん@ピンキー
08/01/30 18:49:09 fFagT8nl
⊃「ヤンデレワッフル」

286:名無しさん@ピンキー
08/01/30 19:51:48 LO6S3lf0
>>284
「…弟くん、ハイチュウ欲しい?」

287:名無しさん@ピンキー
08/01/30 21:25:34 4cTGjeHU
>>283
潮吹いて潮を飲ませてる姿を想像した俺は基地害だな。
母乳のみてええ

288:名無しさん@ピンキー
08/01/30 21:52:40 rlNBY8Xr
ほんとにココにはへんたいが多いですね

でもそんなおまえらが大好きだw







…ん?
隣の部屋がやけに静かだな…

289:名無しさん@ピンキー
08/01/30 22:03:38 42dp7sXQ
>>286
「ねえ、ちゃんとお風呂入ってる?」

290:名無しさん@ピンキー
08/01/30 22:08:52 P7mpYR+D
〇〇さんがいけないんですよ、隣に住んでいるのをいいことに、毎朝毎朝>>288さんにちょっかいを出して、いやらしい。
あの人が迷惑がっているってわからなかったんですか?
でも、もう大丈夫。こんな風になっちゃったら、もう何もできないでしょう。
待っていてくださいね>>288さん、今行きますから。
二人で誰にも邪魔されないこの世の天国を作りましょう。

291:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:14:01 iHY9/w9g
合わせ鏡Aルート最後~エンディングまで一気に投下します。
今までありがとうございました。

292:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:14:38 iHY9/w9g
ゆっくりと、世界が傾ぐ。
空が斜めになり、さっきまで地面だったものから離れていく。
私は、瑞希を突き飛ばし、自分も奈落へと落ちる。
そのはずだった。


聞きなれた怒鳴り声が、聞きなれない意味不明な言葉を撒き散らす。
いくつもの足音が怒涛のように迫る。
確かに地面から離れたはずの私の体が、途中で止まった。
意味不明なわめき声が呼んでいたのは、私の名前だったらしいと遅れて気づく。

「重症だ!担架を呼んで来い!」
「手を離すな!」
「限界です!」
「念のため下にマットを用意しろ!」
いくつもの聞きなれないきびきびとした声とバタバタとした足音が、背中の上で交差する。
耳元で、聞きなれた、聞きなれすぎた息音が聞こえる。
「こーた……?」
声を出すと、私の体重を支えている腕が押しつぶしている下胸部と、包丁がささっている腹部が
連動して、凄まじい痛みが私を襲った。全身から脂汗が噴出し、顔が歪む。自分のものではない
ような呻き声が私の喉から漏れた。
「しゃべるな、今、引き……揚げる、から、な……!」
私の背中に押し当てられたぬくもりは、決してもう会うことはないと思っていた、こーたのもの
だった。


293:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:15:14 iHY9/w9g
教訓:ドラマを演じる時は、周りに気をつけるべし。

警察からの電話を受け、泣きながら悲壮な決意をして実験室を飛び出していくまでの私は、
当たり前だが、一緒にいた同期の篠原君と後輩の中浜君に行動の一部始終を見られていたのだ。
もちろん、電話でしゃべった内容も全部、聞かれていた
すっかり自分の世界に入っていたのだ、と思うと笑ってしまう。

こーたは私と同じ学部ではないくせに、私の友人・知人・同期・先輩後輩に所属教官に至るまで
すっかり仲良くなっていた。私の交友関係が狭いせいもあるが、あれは天性のものだろう。
よって、私の後輩である中浜君も、こーたとは仲がよかった。
おせっかいでもある彼は、私の行動にすっかり心配してしまい、こーたに電話をかけたのだ。
私が屋上からこーたに電話をしたのは、その時だった。
不振なそぶりをしていたという私からの電話は、割り込みをかけたくせに、取る間もなく切れた。
これで、こーたと中浜君の心配は最高潮に達したという。
こーたは自転車で全速力で実験棟へと向かった。信号を無視し、到着まで3分。よくも事故に
合わなかったものだ。
私が屋上へと向かったと割り出したのは篠原君と中浜君だ。
実験室から出た私がどちらへ行ったか、足音の方向から割り出し、資材搬入用のエレベーターの
階数が6階で止まっているのを見つけた。
この時点で、こーたが玄関先に到着。警察の制止に、事情を話す。警察もこの時点で、実験棟に
瑞希がいる可能性を知覚、警戒態勢をとる。何人かがこーたに同行。
エレベーターで6階に急行。二人と合流。人気がないことと、屋上への階段のロープが外され、
立ち入り禁止の看板が裏返っている不自然に気づく。
電子ロックのパスワードは、二人のうちのどちらかが知っていたのだろう。
扉を開けて、最初に目に入った光景は、外れかけた金網と、落ちそうになっている私達二人だった
という。

篠原君が言うには、こーたは「キャプテン翼」の若島津のようにすっ飛んで私をキャッチしたという。
私はあまり漫画を読まないので意味がわからないが、とにかくすごかったのだろう。
すでに屋上の縁から足が離れていた私を捨て身で受け止めたこーたの体もまた、屋上の縁を越えて
いた。そのこーたを、数人の警察官がつかんで、私ごと引きずり上げたのだという。
こうして、私は、生き残ってしまった。


294:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:15:50 iHY9/w9g
瑞希は、実験棟の横、隣りの棟との間のコンクリートの道に落ち、即死した。
伯父と伯母の死は、被疑者死亡のまま、送検されたという。
そして、私は何の罪にも問われず、こうして、日々をおくっている。
私は真実を言わなかった。
こーたが、そう、望んだから。

あの日、屋上でこーたは泣きながら血塗れの私を抱きしめ、耳元で嘆願したのだ。
水樹までいなくならないでくれ、一人にしないでくれ、と。
そして、警察に聞こえるように、泣きながら叫んだのだ。
「なんて馬鹿なことをしたんだ、自分で瑞希を説得したかったのはわかるけど、無謀だってわから
 なかったのか……!」
そう、確かに私が瑞希に刺されたのは事実だ。
でも、私が屋上に呼び出した行動には疑問が残るかもしれない。結局は、私も落ちるところだった
とはいえ、瑞希は死んでいる。ここは私の行動区域で、金網が外れたのも不自然だ。
だから、私に疑いがかかる可能性は、まだ残っていた。
いや、疑いもなにも……事実、私は瑞希を殺そうとしていたのだから、当然の帰結なのだ。
だから、私には、自分の行動を理屈にあうように正当化する必要があった。
瑞希を屋上に呼んだ理由は、『警察に自首するよう瑞希を説得するため、そして、信じられなくて
自分で彼女を問いただしたかった、そんな浅はかな気持ちから』だと。
そして、一連の行動は、『瑞希に刺され、金網に追い詰められたところで逃げようとしてなんとか
体勢を入れ替えたところ、金網が外れて二人とも体勢を崩し、落ちそうになってしまった』と。
その過程で、金網が緩んでいたのは、大学の管理のせいになってしまった。……本当に胸が痛む。


295:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:16:27 iHY9/w9g
実は、これに関しては、不思議なことがあった。
藤堂先輩……私と瑞希がエントランスで揉み合っていた時に助けてくれ、警察に通報してくれた
先輩……が私の言に沿った証言をしてくれたのだ。
数ヶ月ほど前にあった、ポスドクの自殺未遂騒ぎの名残かもしれないと。
そのポスドクは、皆に見つかる前に、何かしていたようだから、金網を外して死のうとしたのかも
しれないと。
しかし、私はそれが嘘であることを知っている。なぜなら、私がボルトを緩めるまで、それは
しっかりしまっていたのだから。
藤堂先輩が、何故嘘をついたのか。ただ単に、助けてくれただけなのか。私は、その理由が聞けず、
先輩も、語らなかった。


信じてもらえるかは、賭けだったが、拍子抜けするほどにあっさりと警察は私達の言うことを信じた。
前の事件の存在、私とこーたが白石夫妻殺人事件に無関係であったこと、警察に終始協力的だった
こと、事件直後の状況などから、私達は巻き込まれただけの被害者であると判断された。
そして、伯父と伯母を殺したのが『高崎瑞希』である……少なくとも『生きている方』ではないこと
も、確定した。
瑞希の手鞄の中から、二人を殺した毒物を入れた小瓶が見つかったのだ。
その手鞄及び小瓶についていた指紋は一種類であり、『生きている方』のものとは違っていたのだ
という。
一卵性双生児はDNAの螺旋にいたるまで、同じなくせに、指紋だけは少し違ってくるのだと、
初めて知った。それは、とても悲しい事実で、恐ろしい真実だった。



296:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:17:05 iHY9/w9g
私は間違っていた。瑞希もきっと、間違っていた。
私達はもうすっかり別人で、同じ人間ではなくなっていたのだ。いや、生まれたときから別人
だったのだ。
私は間違っていた。
私にも、瑞希にも、相手を殺す権利などなかったのだ。
どうして私達は、分かたれてしまったのだろう。母の中で、ミクロの卵として生を受けた一瞬は
私達は一つだったはずなのに。
私は間違っていた。
私の鏡に映るのは瑞希などではない、最初から私だったのだ。
私は間違っていた。
謝っても届かない。話しかけても応えない。永遠に赦されることはない。
瑞希は、私を憎んでいるだろうか。それもわからない。
私達は、違う人間だから。瑞希の気持ちを知ることは、できないのだ。
私は間違っていた。間違っていた、間違っていた!
だから私は、自分ではなく『妹』を殺した罪を背負い、アベルを殺したカインのように放浪するの
だろう。
永劫に。


297:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:17:37 iHY9/w9g
それが私の、最後に与えられた、罰。
それは絶望であり……希望でもあるのかも、しれない。
罰は、罰のためだけにあるのではない。その罪から人の心を救うために与えられた、赦しでも
あるのだから。


298:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:18:11 iHY9/w9g
秋が過ぎ、冬が過ぎていく。
私は大学を辞めることにした。先生は惜しんでくれ、就職の推薦をしてくれた。
明日から、私はこの家を出て行く。そして、こーたにはもう、なるべく会わないつもりだ。
法では裁かれなかったが、私の罪は消えない。でも、死ぬことも許されない。
あの日、浩太が私に言ったように、私の死はこーたを一人ぼっちにする。
こーたのために瑞希と水樹を殺すという私の決意は、間違いだったのだ。それは、やはりこーたを
傷つけることになる。両親を亡くした今、こーたには肉親の……姉の存在が必要なのだ。
でも、私がこーたの側にいれば、こーたをいつか傷つけてしまう。こーたに恋人ができることを、
私はきっと許せないから。
だから、離れる。姉弟が離れることなんて、世間にはよくあることだ。進学、就職。私達だって、
一度は私の進学で離れたのだ。
こーたに会えないことは、地獄の苦しみだろう。一生、彼の面影を抱き、時折耳に入る近況に焦がれ、
魂を削ってのたうちまわり、血反吐を吐くような思いで生きるだろう。
それが私の罰なのだ。
でも、それでもいい。こーたを傷つけないことが、私にできる最後の償い、最後の赦しなのだから。


299:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:18:43 iHY9/w9g
荷造りが終わった。
手伝ってくれたこーたが、いつの間にかソファーで眠っている。一休みのつもりが、本格的に
眠ってしまったのだろう。くすりと笑い、部屋から毛布を持ってきて、かける。
こーたの前に座って、頬を撫ぜた。
明日、私は出て行く。もう、こーたには、なるべく会わない。お姉さんはお仕事で忙しくて
弟には会えないのだ。
最初は頻繁に連絡をとるだろう。でも、そのうちお互いの生活が忙しくなり、新たな交友関係が
できて、そちらにかかりきりになる。
頻繁だった連絡は、週に一回、月に一回になり、最後には年に数回になって、年賀状だけのやり取り
になる。もう、私達には帰る実家もないのだから、会うとしたら、お盆の墓参りで、いつかこーたは
奥さんと子供を連れてくるようになる。私は数時間だけ一緒に過ごして、仕事が忙しいからすぐに
帰るだろう。次の年は仕事が忙しいからと別の日にする。あまり避けていては変だから、数年に一回
は一緒にすごして、その繰り返し。私のほうが年上だから、私が先に死ぬだろう。その時はきっと、
こーたが喪主をしてくれて……それで、おしまい。

涙が後から後から頬を伝った。全部納得して、決めた。迷いなどない。でも、悲しい。そうしたく
ないと思う自分が、どうしても消せない。
こーた。
どうして私達、姉弟だったのかな。
どうして私達、それを知らずに別々に育ったのかな。
どうして私、あなたに恋をしてしまったのだろう。
本当は、もっと一緒にいたかった。一緒に生きられるならば、世界全てを敵に回してもよかった。
守りたいという気持は嘘じゃなかったけど、全部が本当でもなかった。
本当は、全てを壊してもあなたを手に入れたかった。私を壊しても、あなたの側にいられるの
ならばよかった。それだけでよかった。それだけが望みだったのに。


300:合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:19:26 iHY9/w9g
でも、あなただけは壊したくない。
だから、もうこれでおしまい。


こーたの手を握りしめる。だらんとした手をぎゅっと握り締める。
やすらかな寝顔を見つめる。規則的な寝息に聞き惚れる。
明日から、私は姉ではなくなる。だから、最後だから……。
私は、ゆっくりと顔を近づけ、キスをした。
初めて触れる浩太の唇は、柔らかくて、少しかさついていた。


瞬間、私の腕が強い力で引き寄せられた。





301:合わせ鏡・エピローグ ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:20:14 iHY9/w9g
「おーい、浩太じゃないか」
「あ、先輩!お久しぶりです」
「なんだよ、最近連絡も来ないじゃないか。白石姉がいなくなったらお見限りか?
 冷たいやつだなあ、お前も」
「すみません。そんなわけじゃないんですけど、専門が始まって、やっぱり慣れるのに精一杯
 で……そうだ、週末に、芋焼酎持って伺いますよ。先輩はバカルディでいいんで」
「どうせ一人で飲むつもりだろう、このうわばみが!」
「うわばみは先輩じゃないですか!」
春が過ぎ、初夏が来た。
中浜義明が、研究室の先輩の白石水樹とその従弟の白石浩太を巡る事件に、ほんの少し関わってから
半年が経った。
その事件は、白石水樹の双子の妹が浩太に恋して、ストーカー化したあげく、接近を両家族に
禁じられたところ逆上して、浩太の両親を殺し、白石水樹を殺してその罪をなすりつけようとした
あげく逆に死んでしまった、などという、まるでテレビの中でしか聞いたことがないような事件
だった。
もちろん、テレビでも放送されたが、タイミング良く、次の日に内閣を巻き込む大規模な汚職事件が
発覚し、幾人もの大臣が辞職、すったもんだの末、内閣総理大臣が辞職するという騒ぎになり、
世間の目がそちらにいってしまったため、あまり騒がれずに済んだ。
週刊誌から何度かインタビューが来たが、水樹も浩太も、叩いて埃の出る人間ではない。
無責任な記事もあったが、それも、すぐになくなった。


302:合わせ鏡・エピローグ ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:21:51 iHY9/w9g
その後白石水樹は研究室を去って就職し、今は筑波にいるらしい。
浩太も、それ以来研究棟には来なくなった。だから、この付近で見かけるのは半年振りくらいになる。
実際、自分の従姉でストーカーだった人間が死んだ場所に来たい人間などいないだろう。
両親も殺されたのだ。目の前で明るく笑っているこの青年の心の傷は、見えはしないが、きっと深い
に違いない。それでも彼は健気に生きている。
よく耐えている、と義明は同情した。

もしかしたら、それもきっと、やっと思いが叶ったからかもしれない。
浩太が従姉である白石水樹に恋してるのなんて、最初からバレバレだった。
浩太自身も、全く隠していなかった。むしろ、自分達に対しての牽制という意味合いもあったに
違いない。
工学部は男ばかりだ。そして、白石水樹は、身なりを構っていないとはいえ、そこそこ美人な部類
に入る。
とはいえ、水樹が恋愛に興味がなく、男に興味がない研究バカだということは4年間を通して、
既に周知の事実だったため(レズという噂がたったくらいだ)、自分達は彼女を女として意識する
段階などとうに過ぎていた。だから、浩太の行動はむしろ、格好のいじりの的となっただけだった。
浩太の気持ちを知らなかったのは水樹だけだろう。そして、水樹が今まで男に興味を持たなかったのは
自覚がないとしてもあったとしても、浩太がいたからなのだろうと推測が立ち、皆で納得したものだ。

あの事件の後、当然のように、あの二人は結ばれた。
そして、事情を知る者は全て、知らない者も全て、彼らを祝福した。


「で、どうなんだ?」
「なにがですか?」
「とぼけるなよ~、白石姉とだよ~。な、結婚はいつなんだ?やっと両思いになったんだから、
 本当は毎日でも会いたいんじゃないか?電話してるか?ちゃんと構ってやらないと逃げちゃう
 ぞぉ~?」
真っ赤になる後輩を見て、義明はにやにや笑った。本格的な追及は、週末夜、酒を入れてからだな、
それこそ、夫婦生活に至るまで、じっくり、たっぷり、どっぷりと。などと思いながら。


303:エピローグ・浩太 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:23:03 iHY9/w9g
白石浩太が水樹に恋をしたのは、中学生の時だった。
近くに住んでいて、比較的よく会うが、年齢が4つも上だから学校に同時に在籍したことはない。
でも、必ず先生は水樹を覚えていて、浩太にそれを言った。曰く、「我が校の誉れ」「秀才」と。
最初は、反感だった。でも、加奈子叔母と水樹と同居していた祖母が病気になり、その看病を
手伝うようになり、水樹を知っていった。
水樹と加奈子叔母の関係は、共依存だった。その当時、加奈子叔母はすっかり心身のバランスを
崩しており、祖母が病みついてからは、高校生の水樹が精神的に全てを支えていた。
最初はどうして逃げないのかと苛立ち、次には守りたいと思い、徐々に……大きな存在になって
いった。
それは、水樹が実の姉と知っても変わらなかった。
あの絶望の夜、浩太は一晩中考えて、決意した。
戸籍は従姉弟なのだ。だから結婚できる。
大人になって、社会に出て、生活できる力を身につけたら、父親と母親に反対されても、水樹と
結婚しよう。絶対に結婚しよう。そのためには、今は引き離されるわけにはいかないし、水樹に
嫌われるわけにはいかない。
そのために、両親に対して必死で演技をした。
そして、水樹に好かれるために、『いい男』になるべく努力した。
背を伸ばすために牛乳を吐くまで飲んで、骨の成長のために適度な運動をした。バカみたいだが、
当時の自分は『かっこいい男=背の高い男』だと思っていたのだ。まあ、報われたからよかったが。
そして、水樹につりあうべく勉強も一生懸命した。誰よりも優しくして、水樹のためになること
なら、なんでもした。


304:エピローグ・浩太 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:23:50 iHY9/w9g
祖母が病みつき、死んだのが浩太が中学1年の春、加奈子が死んだのが、その秋だった。
睡眠薬を飲みすぎての、事故とも自殺とも言えない死に方。
葬式で、水樹は、糸の切れた人形のように、焦点の定まらない目で、壁によりかかっていた。
その姿を見て浩太は、水樹も加奈子と一緒に死んでしまうのではないかと恐れた。
だから、手を差し伸べて、「一緒に住まないか?」と言った。両親には了解をとっていなかった。
もし、両親が反対したら、自分が家を出て、一緒に住んでもいい、そう思った。
……身寄りのない水樹を両親が一人で住まわせるわけがないという計算も、どこかにはあったが。

そして、思ったとおり、母親を失った水樹は、浩太に依存した。
浩太はわかっている。
水樹は、祖母が病気になって浩太が来るようになった時から、恋心を抱くようになったと言っていた
が、あれほどまでに自分を思うようになったのは、彼女が自分に依存するようにしむけたからだと。
東京に来てからも、身なりにも言動にも常時気を使った。
女には近寄らず、男臭いクラブに入り、男連中とだけ遊んだ。人間関係にも、敵を作らないように
細心の注意を払った。水樹の周囲の人間と仲良くなり、外堀から埋めにかかった。
そして、水樹の生活を自分一色に染めた。例え今は弟だと思っていても、他の男と比類ない存在に
なって、周囲の圧力もあれば、全てを失いたくないがために、浩太の思いを受け入れるだろう
という打算があった。
そして、もし、水樹が自分を愛さなかったら……その時は、どんな手段でもとるつもりだった。
最終的には、どんな形であれ、水樹は自分を受け入れるだろうというヨミがあったのだ。そのために
打てるだけ、全ての手を打った。
でも、全て思い通りだったわけではない。水樹があれだけ罪の意識を抱いていたことも、自罰的
な性格だということも、よく考えればわかったはずなのに、思い至らなかった。
水樹が自分を愛していたことも確信できなかった。言い訳のようだが、それだけ水樹の演技は
完璧だったのだ。



305:エピローグ・浩太 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:24:40 iHY9/w9g
浩太は思う。
あの事件は自分のせいだった。
瑞希をあまり強く拒まなかったのは、水樹に妬いて欲しかったからという気持ちが少しあったからだ。
そして、瑞希を両親に会わせたのも……間違いだった。


両親の死を自分は、悔やんでいる。悲しんでいる。そして、それだけとは言い切れない。
親はいずれ子より先に死ぬ。それが早まっただけだ。なんてどこかで思おうとしている自分がいる。
どうせ、両親が生きていても、水樹を自分のものにするつもりだった。反対される心配がなくなった
だけだ。なんて思っている自分がいる。
あれだけ愛してくれ、愛した両親だったのに。

でも、考えることはもうやめた。
あの事件は全部、瑞希のせいなのだ。そうだろう。殺したのも、狂ったのも、瑞希なのだから。
ただ、あの時、水樹が死ぬのならば、自分も死ぬつもりだった。
水樹を危険に晒してしまったこと、その手を汚させてしまったことだけは……耐え難く悔やんで
いる。自分に罪があるとしたら、水樹を苦しめてしまったことだけだ。


自分は潰されたりしない。生きている人間が勝ちなのだ。どんなに罪があったとしても前を向いて
生きていく『権利』がある。それがどんなに人でなしでも、構わない。
瑞希を破滅へ追いやる原因を作ったことも、結果、両親が死んだことも、もう、後悔しない。
水樹さえいればいい。
最後の罰からさえ赦された水樹が、自らの罪の意識に潰されても、自分の側にいてくれれば
それでいい。
真実などどうでもいい。死人には黙っていてもらおう。水樹の罪だって全て、引き受けてやる。
赦される必要などない。どうせ、自分達の恋は最初から罪なのだ。俺は、既に人でなしなのだ。
ならば、血だまりの上に立って、幸せになってみせる。
絶対に。


そうでなければ、全てが無駄になってしまう。苦しみも、悲しみも、後悔も罪も罰も死も全て。



306:エピローグ・浩太 ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:25:28 iHY9/w9g
携帯が鳴った。この着信音は、水樹からだ。浩太は優しい笑顔で携帯を開き、通話ボタンを押して
耳に押し当てる。
初夏の、さわやかな風が、キャンパスを吹き渡り、浩太の髪を揺らす。
学生達の笑顔と笑い声がはじけている。
鮮やかな新緑が、生命そのものの青い香りを彩る。
浩太は、笑いながら上を見上げた。金網は修復され、あの日よりも鮮やかな青い空と立体的な
白い雲が、広がっている。
今日も明日も、いい天気になるだろう。



そう、この世界がきっと、白石浩太の望んだ、幸福の形。



Aルート:合わせ鏡END


307: ◆GGVULrPJKw
08/01/31 00:26:56 iHY9/w9g
Aルートは以上です。
あまりヤンデレにならなかったのが悔やまれます。
読んでくださってありがとうございました。

308:名無しさん@ピンキー
08/01/31 00:39:49 HgDryOuU
GJ!

309:名無しさん@ピンキー
08/01/31 00:44:32 6Dq3WE8Y
GJっした!
やっぱりHAPPY ENDは良い!

310:名無しさん@ピンキー
08/01/31 02:49:27 cdCVjzMK
GJ!!!!!

311:名無しさん@ピンキー
08/01/31 03:03:17 7XwvWwgD
こーたもある意味ヤンデレだったとは…
GJです

312:名無しさん@ピンキー
08/01/31 12:03:58 d6qCKSJK
>>307
( ;∀;)イイハナシダッタナー
幸せになった後の水樹のデレっぷりとかも読んでみたくなってしまった

313:名無しさん@ピンキー
08/01/31 16:11:19 yQAlvXyE
GJ!水樹より浩太がヤンデレだったのが新鮮だった。
水樹が幸せになってよかったよ!

314:名無しさん@ピンキー
08/01/31 18:25:06 ngOTYGja
GJ!

315:名無しさん@ピンキー
08/02/01 01:37:11 D1CL6qux
なんとまあこーたまで…
でもとにかく幸せでよかった。GJ!
…あれ?じゃあBルートは…

316:名無しさん@ピンキー
08/02/01 16:19:53 JapsdzXv
GJ
ということはBルートはBADEND?

317:溶けない雪 ◆g8PxigjYm6
08/02/02 15:38:41 KeJEi2Pv
投下します
前回下げ忘れていたみたいで本当にすみませぬorz

318:溶けない雪 ◆g8PxigjYm6
08/02/02 15:40:48 KeJEi2Pv
田村夏夢視点より


私が健二と初めて顔を合わせたのは、今から約5年前、私が小学5年生の時だ。
今思うと恥ずかしい事だが、当時の私には一人も友達というものがいなかった。
別にいじめられていたわけではない。
人付き合いが苦手だとか、嫌いだとかいう理由でもない。
ただ単純に、一人が好きだっただけだ。
何でそうだったのかは今でも解らない。
ただ、漠然と一人が良いとは思っていた。
一人になるという事は、周りから離れる事と同じ意味だ。
小学生の頃は、寄ってくる人達に冷たく当たって、近づかせない様にしていた。
悪口を言った。
無視した。
嫌がらせをした。
本当に、あの時の人達には悪い事をした、と今でも反省している。
私が一人で孤立していた事に気付いて、それをやめさせようとしただけだったのだから。
孤立していたのではなく、自分から離れていた。
私が人の呼びかけを、助けを拒んだのは、それだけの違いだっただけだ。

健二と初めて会ったのは、その頃の事だ。
健二は他にも数多くいた、私に近づこうとしてくる一人だった。
いつも笑いながら近づいてきて、私に対してよく話掛けていた。
その行動は、孤立していた私を周囲に溶け込ませようとしてきた人達と、同じ様な行動だった。
しかし、健二はそんな人達とは違うところがあった。
やっている事自体は、他の人達となんら変わりはなかった。
だが、何回無視をしても、何回汚い言葉を吐いても、
何回嫌な事をしても、健二は私に近づこうとするのを止めようとはしなかった。
他の人は、直ぐに諦めたというのに。
いつも私に、
「寂しくないの?」
そう、聞いてきた。
そう聞かれる度に、うっとうしいな、等と心中で呟いた。
自分から一人になりたいのだから、好きにしてくれればいい。
その頃の私は、そんな事をいつも健二が来る度に思っていた。
気付けば、一人が好きだという行動理由が、一人にならなければならない、と入れ替わっていた。

そんな自分を、よく分かっていたつもりになっていたのだろう。
自分はずっと、こんな感じで生きていくのだと、確信に似た予想を自分に立てていた。
しかし、そんな予想はただの勘違いだった。
あれほど分かっているつもりでいた未来は、簡単に只の錯覚だと思いしらされた。
何か劇的な変化ではない。
ただ、簡単な事に気付いたのだ。


319:溶けない雪 ◆g8PxigjYm6
08/02/02 15:51:04 KeJEi2Pv
それは、5年生での運動会、昼休みの事だった。
珍しい事に、一日に数回私に話掛けてくるアイツが来なかったのだ。
まだ昼なのでこれから来るという事もある。
だけど、いつも通りなら昼までには5回位は私が居る所に来ている筈だ。
行事という事もあるし、団体行動ばかりで一人だけの行動が少なかいから、
今日は来ないのかもしれない。
その事に安堵し、両親と一緒に昼食を食べていた。
運動会なだけに、いつもより豪華な昼食なのは、よくある普通の事だろう。
唐揚げ、玉子焼き、エビフライ、パスタサラダetc……
母は料理が上手いので、オカズ達が分相応以上に美味しい。
父も美味しそうに食べている。
私はあまり食べない方なので、名残惜しいながらも昼食を終え、お手洗いに行く事にした。
トイレは小学校の本校舎にある1階を使用する事になっている。
1階のトイレを使おうとしたが、誰かが居る可能性があった。
理由としてはそんなところだ。
普通だったら使用が禁止されている、自分達の教室がある階のトイレを使う事にしたのは。
2階のトイレに到着し、お手洗いを済ませる。
その後、誰も居る気配がない2階の雰囲気が気に入ったせいだろうか。
なんとなしに一つ一つの教室を端から順に覗いていった。
端から順番に、誰も居ない教室を見回していく。

端から純に見回していき、遂に一番最後の教室―私が普段居る5年3組までたどり着いた。
いつもは、ガヤガヤ人が沢山居る教室。
それが静まりかえって、誰も存在していない教室の中身を想像し、知らず知らずの内に微笑む。
想像したせいもあってか、何かを欲する様に教室の中を覗き込む。
しかし、想像と外れ、教室の中に、いつも私に話掛けてくるアイツが居た。

その姿を見た途端、私は呆然と立ち尽くし、教室に居るアイツを眺めていた。
教室にアイツが居る。
ただそれだけの光景なのに、
私はしばらく物を考える事すら出来ないでいた。
そんな私の姿に気付いたのか、やや驚いた様な顔をしながらアイツが近づいてきた。
彼は私の立ち尽くした姿を見て、あろう事か
「どうしたの?」
そう言ってきた。
今日初めて聞いた彼の声。
何も考える事が出来なかった私は、その言葉で消えた。
だが、何かを考えようとした時には目の前の彼に問いかけていた。
「何でこんな所に居るの?」
それは、自分らしくもない震えた声だった。
まるで、想像している事の通りでないのを祈るような。
そんな震えだった。
私の声を聞いた彼は、バツが悪そうな顔をしながら頬をかいていた。
「んー………ここからの景色が好きだから眺めていたんだよ」


320:溶けない雪 ◆g8PxigjYm6
08/02/02 15:51:52 KeJEi2Pv
その自分の言葉に納得した様に、彼は何度も頷く。
まるで、その理由もあるな、と自分で思い出した様な仕草をしていた。
その姿を見て、自分の想像通りだったのだと確信した。
「あのさ……だったら、なんでこんな所で昼食を食べていたの?」
「…………なんで、っていわれてもなぁ………」
そう、今目の前に居る彼はこの教室で昼食を食べていた。
その事を、机の上に置いてあるパンの袋が証明している。
彼以外、誰もいない教室。
文字通り誰も、親もいない教室。
弁当ではなくパンを、彼は食べていた。
普通だったら、私の様に親の弁当を食べながら、親と運動会の話をする。
そんな当たり前ともいえる光景が、ここにはなかった。
ここまで揃えば、小学生の私でも容易に想像出来る。



この子の親は、運動会に来ていないのだ。
仕事の関係なのかどうかは分からない。
分からないが、彼はそのお陰で独りだった。
目の前に居る彼は、この教室で孤独だったのだ。
外ではなく、隠れる様に校舎に居た彼。
彼はこの教室で、パンを食べていた。
親の手作りの弁当などではなく、大量生産されているパンを。
そんな彼を見て、私は羨ましいとは思えなかった。
自分が望んでいたものが、目の前にある。
なのに、それを憧れることも、そうなりたいとも思わなかった。


自分が憧れた独りというものは、本当は憧れる様なものではなかったのだと。
なる時には本人の意思に関係なく、回避出来ないようなものなのだと、
気づいてしまったから。
自分が憧れていたものの正体を知ってしまって、
また呆然と立ち尽くしてしまいそうになった。
こんなにも虚しいものを求めていた自分が、一番虚しかった。

だけど、そんな自分の心情は無視した。
無視して、目の前の彼の手を掴む。
私にはやるべき事がある。
それを理解した上での行動だった。
いきなり手をとられた事に驚いたのか、
今度は彼が、さっきの私の様に呆然としていた。
しかし、そんな彼の様子も私は無視して、手を引っ張りながら教室を出た。
自分が引っ張られているという事に気付いたのか
「ぇ…ちょっと、どこいくのさ」
そう私に疑問を投げかけて、彼は足を止めた。
引っ張りながら教室までは出られたが、彼が立ち止まっていてはここから先には進めない。


321:溶けない雪 ◆g8PxigjYm6
08/02/02 15:52:47 KeJEi2Pv
男子1人の体重を引っ張る事なんて、いくら運動神経が良い私とはいえ、さすがに無理がある。
立ち止まっていると、昼休みが終わってしまいそうな焦りがあったのか、
私はそんな彼に対して怒鳴っていた。
「ついて来れば分かるから大人しくしてなさいよ!!」
なんで自分が怒鳴られたのか分からないのか、
いつもと態度が違う私を見てなのかは分からないが、また彼は呆然とした。
何故そうした態度をとったのか、分からない。
だけど、そんな事はどうでもいい。
彼を連れていくのが、私が今、やるべき事だ。
彼を引っ張りながら階段を降り、少し長めの廊下を歩き、校舎の玄関まで着いた。
そこまで来た時、私が外に行こうとしているのに気がついたのか、
繋いだ手を通して、彼がビクッ、と怯えたのを感じとった。
そんな反応も、彼の手を強く握り、無視した。
玄関を出て外に出る。昼休みが始まってから大して時間が経っていないためか、
昼食を食べている人は沢山居る。
親と子で。
そんな風景を見て思わず足を止めるも、直ぐに歩きだす。
彼の足取りが段々重くなっていくのが分かる。
凄く引っ張るのが困難になってきた。
だが、そんな重い足取りごと彼を引っ張って、引っ張って、ようやく着いた。


少し息を切らしながら帰ってきた娘を見て、母や父も少し驚いた顔をしていた。
それも無理はない。
今まで、私が同い年位の子を、両親達の所に連れてきた事などないからだ。
しかし、そんな両親の反応も今ではどうでもいい。
私は、彼の手を放し、両親の前に立たせた。
彼は、私が何をしようとしているのか全く分からない、というような顔をしていた。
「私またお腹空いちゃって、また昼食を食べたくなったの。
それで、この子も少しお腹が空いちゃったみたいだから、一緒にそのお弁当を食べてもいいかな?」
「えっ?」
私が両親に言い終えた途端に、彼は疑問の声を上げた。
両親の方は、私の言葉を聞き、なんとなく事情を察した様だった。
「そういう事なら二人共食べるといい。
今日は母さんが張り切っちゃったみたいで、まだ沢山残っているからね」
「別に張り切ってなんかいません。
いつもこんな感じでしょ?」
父は簡単に承諾し、母は見栄をはった。
その言葉を聞いて、彼はまた震えていた様だった。
何で震えたのかは私には分からない。
だけど、自分がやった事は決して、間違ってはいない事を感じた。
「それで――その子は誰なの?」
至極当然な質問を、母は私に聞いた。
本人に聞かなかったのは、母なりの配慮なのだろう。
「この子は……」
その問いに、私は返答に困った。


322:溶けない雪 ◆g8PxigjYm6
08/02/02 15:54:44 KeJEi2Pv
彼は-
彼は-
彼は-
彼は-
彼は-
馬鹿みたいに、彼は-の続きの言葉を考える。
考えているうちに、ある言葉が唐突にうかんだ。
こう言ってしまっていいのかは分からない。
彼とはまだ仲が良いわけでもない。
だけど私はその言葉を言った。
迷いを振り切って、言った。


「私の友達だよ」

この日、私に初めての友達が出来た。






投下終了です 
まだヤンでいないわけですが
「こいつ場違いじゃねーの?」
みたいなぬるい目で見守って下さい

323:名無しさん@ピンキー
08/02/02 19:03:38 dInHY9MT
>>322

病みまで長くなってもそれはそれで
病む時が楽しみになるしおk

324:名無しさん@ピンキー
08/02/03 02:26:16 wTPQaitB
GJ!!病む過程が楽しみだ

325:名無しさん@ピンキー
08/02/03 19:03:57 rmBO8C/b
今日は節分。
どこのうちも豆をまいて遊んでやがる。平和なもんだ。
だが、俺は知っている。
豆をまいたところで逃げていかない鬼がいることを。
その鬼こそが真の鬼であることを。
その鬼の姿は人であることを。
その鬼はありふれた平凡の中に潜んでいることを。
そして









その鬼が後ろにいることを。


なんちゃって。つまらないけどネタです

326:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 05:59:08 ryJwY4ic
投下します。
世は節分でも、こっちの話はクリスマス編です。

327:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:00:35 ryJwY4ic
*****
  
「それじゃあ、行ってきます」
 行かないでくれ、頼むから。
 あの子を止めたいのに。止めたいのに俺の四肢を縛り付ける縄が邪魔で動けない。
 俺はいったい何のために自分を鍛えよう、強くなろう、と思ったんだ?
 喧嘩に強くなりたいから? 
 他の誰かよりも優れているという自信を付けたいから?
 そんな理由じゃなかっただろう。
 大事な人を守り、ずっと一緒に暮らしたい。そう思ったから武道を始めたはずだ。
 体を壊しかねない鍛錬をして、血と涙で彩られた日々を送った末、俺の望みは叶えられた。
 でも、それはずっと続かなかった。

 仕方のないことなんだ、あなたは何も悪くない、とあいつは言った。
 俺はそんなことを言って欲しくなかった。
 最期だからこそ、恨み言を残して欲しかった。
 これから、残されたあの子と二人きりで生きていかなければいけない俺を戒める言葉を。
 だらしなくて、武道以外ろくなことができない俺を、あいつは一度も責めなかった。
 間違ったことをしたときはいつだって優しく諭してくれた。
 愛していた。他の何よりも強い絶対の自信を持って、あいつを愛していたと口にできる。
 それなのに俺はあいつを裏切って、別の女と一緒になってしまった。
 ただ、あいつが居ない寂しさに耐えきれなかったんだ。
 俺はあの子とを守るために、あいつの分もしっかりしなければいけなかったというのに、
結局他の拠り所を見つけ、甘えてしまった。
 だから、あいつに恨まれても、そしてあいつと似た顔に成長したあの子に去られても、文句を言えない。

 ―でも、やっぱり嫌なんだ。もう失いたくない。

「う、ううぅ……!」
 拳を固め、腕に意識を集中させる。
 俺に縄抜けなんかできない。だから力ずくで引きちぎるしかない。
 縄が皮膚に強く食い込んでいる。皮膚が削れ、肉が擦れるのが分かった。
 だけど、諦めない。諦めてたまるものか。
 あの子がどこぞの男の毒牙にかかるかもしれないのに、何もせず見過ごすわけにはいかない。
「ええ、行ってらっしゃい」
 扉の向こうから声が聞こえた。俺を縛り付けた張本人。
 縛られる理由など俺にはない。絶対にない。
 過保護? 馬鹿なことを言うな。自分の子供を心配しない親がいるものか。
「……お父さん、行ってきます」
 ちくしょう。猿ぐつわを噛まされているから扉の向こうにいる娘に返事できない。
 あと五分、いや三分あれば噛みきれる。
 でもそれだけあれば、あの子は家から出て行ってしまう。
 そして、俺の知らない誰かと一緒に今日の夜を過ごすのだろう。
 許せることではない。まだあの子は高校生なんだ。嫁入り前の大事な体なんだ。
 相手は、最近よく話題に上るあの男か?


328:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:02:00 ryJwY4ic
「ぐ、ぎ、ぐうぅぅぅぅ!」
 お前さえ居なければ、娘はもっと道場に来てくれるのに!
 今では平日に一時間、土曜日は二時間だけしか居てくれない。
 日曜日と祝日なんか顔も出してくれないんだぞ。
 それなのに技が鈍るどころか数段鋭くなっているという事実が、なおさら俺を苛立たせる。
 一体どんな魔法を使ったんだ。恋の魔法、か? ―馬鹿を言うんじゃねえ!
「気をつけてね。どこかに泊まるときは」
「……ちゃんとお父さんの携帯に電話します。それじゃあ」
 無情にも玄関の閉まる音がした。
 間に合わなかった。もう終わりだ。娘が傷物にされてしまう。

 閉ざされていた部屋のドアが開いた。
 入ってきたのは妻。扉を閉めると同時にため息を一つ吐く。
「相変わらずですわね、あの子は。
 やっぱり、クリスマスイブだからって変わったりしませんよね」
「ぐうぅ! むう、ぅう!」
 早く縄を解け! 今ならまだ間に合う!
「だめですよ。今日は家に居てもらいます。
 せっかくお堅いあの子が自分からデートに誘おうとしているんですから。
 どんな夜を過ごすのでしょうね。きっと若者らしく、ロマンチックな雰囲気で……」
 させるものか! 結婚するまであの子は清いままでいるんだ!
 一層強くあがくと、妻がもう一枚猿ぐつわを噛ましてきた。
 手足に巻いてある緩んだ縄まできつく縛り付けてきた。
「あの子は、多分夕方頃に帰ってくるでしょうから、あなたにはそれまでそのままで過ごしてもらいます。
 きっと、そっとしてあげるのがいいんですよ。だってあんなに嬉しそうな顔は久しぶりですよ。
 優花さんが居なくなってから、あの子はいつも表情に陰がありましたけど、今は心から笑っている感じです。
 うまくいくといいですね。あの子と、クラスメイトの男の子」
 それは、確かにそうだ。
 優花―俺にとって最初の妻―が病気で亡くなって、娘の元気はしおれてしまった。
 目の前にいる妻は後妻だ。
 娘は二人目の母親には懐かなかった。自分から避けているようにも見て取れる。
 優花にするように甘えたりはしないだろうとは思っていたが、まさか他人行儀に接するとは思わなかった。
 再婚してからは、俺に対してもどこか冷めた対応をするようになった。
 まるで娘の体を通して、優花が俺を責めているようにも感じられた。
 
 その態度が明らかに変わったのは一ヶ月か二ヶ月ぐらい前のこと。
 高校に入った頃から少しずつ態度は温かくなってきていたが、近頃は太陽みたいになっている。
 多分そのころから例の男と付き合いだしたのだろう。
 娘の心の支えになってくれたのは感謝したい。だが、淫らな行為をするのは絶対に許さん。
 心配だ。無理矢理行為を強要されたりしないだろうか。
 本当は騙されているんじゃないのか? 
 どこかの変態どもに目を付けられたりしていないか?
 もしかして今頃、若い女をさらう犯罪組織に捕らえられたりしていないだろうか?
 ああ、もう! 早く駆けつけたい! 娘に近づく汚らわしい奴らを一掃したい!
 心配だ、心配だ、心配だ、心配だ、心配だ!

「いんぅあいあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー!」


329:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:03:22 ryJwY4ic
*****

 二学期最期の一日が終わった本日はクリスマスイブである。
 高校生はまだ親に養ってもらっている者たちがほとんどだ。社会的に見れば子供だ。
 しかし子供であろうがなかろうが、色めき立つのは何歳になっても変わらない。
 同じクラスの西田君は遊びに誘ってきた五人ほどの女子にもみくちゃにされていた。
 争いが終わって最後に立っていたのは、凄絶な笑みを浮かべている三越さん。
 気絶していた西田君は彼女に引きずられてどこかへと連れて行かれた。
 我がクラスの担任であり、図書館に住まう沈黙の女神として一部に大受けの篤子先生は相変わらずで、
通信簿を渡した後で今年最後の挨拶もそこそこに職員室へ向かい、湯飲み片手に文庫本を読んでいた。
 高橋はそんな担任になんと言って声をかけるべきか迷い、職員室前の廊下と男子トイレを行ったり来たり、
ときどき人や壁にぶつかって頭を下げたり、フルカラーのサイレント映画を一人で演じていた。
 結局高橋が篤子女史を誘えたのか、観察に飽きた俺にはわからない。

 早く帰りたい気分だったのだ。
 葉月さんに声をかけることもできなかった自分の情けなさに落胆していた。
 葉月さんとは文化祭以来、話を何度かしているものの進展はない。
 むしろ、機会は減っている。俺が積極的に話そうとしないから。
 花火の頬を切りつけ、誰かを傷つけたという過去の記憶が甦ってからそうなっている。
 そのときの真相があれから何一つ明らかになっていない。
 妹は昔のことをあまり覚えていない。その頃はまだ小さかったからだろう。
 父と母に聞いてもあてになりそうな答えは返ってこなかった。弟に聞いても同じ。
 深く追求したら教えてくれるだろう。弟はともかく、両親は。
 一言、俺は誰を刺したんだ、と聞くだけでいい。
 でも、聞く勇気が俺にはない。

 怖い。
 もしあの記憶が真実で、誰かに取り返しのつかない傷を負わせ、人生を狂わせてしまったのではないかと思うと、
目の前がが真っ暗になって何もすることができなくなる。
 すでに花火の頬に消えない傷を付けてしまっているのだから、十分にあり得る。
 花火には二度と近づくなと言われた。それは罪を償うこともできないということ。
 贖罪すらできないなら、罪人はどうすれば赦されるのだろう。
 このまま、ずっと忘れた振りを続けていけたらいいのかもしれないが、俺にそんな真似はできそうにない。
 いつも心の中で罪の意識を抱えた状態で生きていくことになる。
 いくら考えてもいいやり方が見つからない。袋小路の中に、今の俺はいる。


330:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:04:40 ryJwY4ic
 布団の上に寝転がり天井を見上げていると、自室のドアがノックされた。
 父と母は朝からどこかへ出かけている。妹はまだ学校から帰ってきていない。
 ドアの向こうにいるのが弟だと予測し、俺は言った。
「何の用だ? 弟」
「あ、いたんだ? ちょっと入るね」
 ドアが開く。顔を出したのはやはり弟。
 しかし今日のこいつはひと味違う。
 かっこよさの数値が跳ね上がりそうな服を着て、めかし込んでいる。
「その格好はどうしたんだ―って、そっか。今から出かけるのか」
「うん。たぶん帰りは遅くなると思う。だからご飯は用意しなくていいよ」
「そうか」
「用事はそれだけ。……なんだけど、さ」
「ん? なんだ?」
 言いにくそうに目を伏せている。
 いきなり表情を暗くするな。こちとらさっきまでブルーになっていたんだ。
 もしかして俺が何かしたんじゃないか、とか心配になるだろうが。
「その、兄さんはどこにも行かないのかな、と聞こうと思って」
「なんだ、そんなことか。いちいち俺のことを気にかけるなよ。
 お前はお前で楽しんできたらいい。俺は今年も例年通りだ」
「ずっと家にいるってこと、だよね?」
「ま、そういうことだ」
「それならさ……僕と一緒に」
「断る」
 赤と白に彩られ、ネオンの光を振りまいているクリスマスの町並みを弟と歩くのが嫌なわけではない。
 もちろんそんなのは御免こうむりたい訳だが、弟がどうしてもと言うなら乗ってやってもいい。
 が、弟が今のように誘ってきたのには隠された真意がある。
「晩ご飯、おごるよ?」
「いらん。今日は食べる気分じゃない。そもそも今日みたいな日に外で食えると思ってるのか」
「予約してるから大丈夫」
「どうせ、お前と女の子の、二人分だろ」
「ううん。ちゃんと三人で予約してるから……って、あ…………」
 はい、バレた。
 弟が何を仕込んでいるか、読めない俺ではない。
「予約してくれたのに悪いのだが、行かないぞ」
「……どうしても?」
「どうしてもだ」
「そう……わかった。じゃあ、行ってくるね」
 そう言って弟は部屋から出て、ゆっくりとドアを閉めた。
 足音が玄関の方へ向かっていき、少しの間を置いて玄関の開く音がした。


331:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:05:47 ryJwY4ic
 ここでようやく、俺はため息をはき出せた。
「どんな顔をしてあいつに会え、って言うんだよ……」
 弟がしたかったのは、俺と花火を仲直りさせること。
 文化祭で数年ぶりに再会した俺と花火は、お互いに目頭の熱くなるような感動を覚えなかった。
 俺に罪の意識を思い出させ、花火に熟成された憎悪を表出させるというマイナスの結果しかもたらさなかった。
 弟はそれがわかっていたから、俺と花火を会わせまいとしていたのだろう。
 その努力を無駄にしてしまった俺は馬鹿だ。
 きっと弟は、俺と花火、二人ともに気を遣っていたのだ。
 俺に昔の出来事を思い出させないために。
 花火にこれまで通り穏やかに過ごしてもらうために。
 何も知らなかったとはいえ、俺のやったことはあまりにうかつだった。
 弟が居れば、確かに花火と話し合いをすることができるだろう。
 だけど、花火の俺に対する憎しみは、弟の顔に免じて許せるレベルのものなのか?

 ―そうは見えない。
 顔に目立つ大きな傷を付けられたというのは、男ならともかく、女にとっては大きな損失だ。
 花火が一見して不良のような容姿をしているのは、頬の傷と無関係ではないだろう。
 きっとあの傷を見たら、初対面の人間なら引いてしまう。誤解をする。
 誤解されるぐらいなら、と考えて人と関わらなくなり、そしていつの間にか孤立していき、
仲のいい人間が弟だけになったとしても、何の不自然もない。
 そんなあいつに俺がしてやれることは……きっと、何もない。
 花火は俺に何かを望んでいない。顔も見たいと思っていない。
「それでも、いいのかもな」
 文化祭で再会する以前のように無関係の態度を貫いていけばいい。
 何年か経って、もし弟と花火が一緒に暮らすようになっても放っておけばいい。
 そうだよ。再会する前の状態に戻っただけさ。
 別に何もおかしくないじゃないか。
 近くに居ても一言も話したことのないやつだって、学校には居る。
 そのうちの一人が花火だったとして、何が悪い?
 悪くない。何も悪くない。
 もう俺は最悪のことをしてしまっているんだ。
 なら、それ以上傷を深くしないよう努めるのが、やるべきことだろう。
 下手に触れてしまってはいけないんだ。

 本当は、こんなことを考えている時点で放っておけてないんだけど。
 もう一遍、記憶喪失にでもなってくれたらいいのにな。


332:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:07:30 ryJwY4ic
*****

 考え事をしていたら、どうやら眠ってしまっていたらしい。
 部屋の中は真っ暗。カーテンは常に閉めっぱなしになっているが、隙間から明かりが漏れないところから見るに、
すでに夕方になってしまったようだ。
 今、何時だ?
 蛍光灯の明かりを点けるため、天井から垂れている紐を手探りで探す。
「ん、と……お、これか」
 手の中に紐の感触があらわれた。紐を握り、下へ向けて一回引く。
 点灯管が輝き、蛍光灯が三度瞬き、部屋中が照らされる。
 机の上に置いていた置き時計が六時半を指していることを確認した。
 弟にはああ言ったが、やはり腹が減っている。
 そういや、昼飯も食ってなかったっけ、今日は。朝飯、食ったかな……?
 いいや。今から三食分摂るつもりで晩飯を食べることにしよう。
 でも、冷蔵庫の中に上手いこと残り物があるだろうか。
 今日はスーパーなんか混むだろうし、買い物には行きたくない。
 レストランにて一人で食べるのに抵抗はないが、まず座れまい。
 とすると、コンビニか。めぼしいものが残ってたらいいが。

 財布をポケットに突っ込み、コートを羽織る。
 部屋の明かりを点けっぱなしにしたままドアを開け、玄関へ向かう。
 ふむん? 玄関マットの上に何か転がっている。
 結構大きい。人間サイズ。毛布か布団が丸まっているようにも見える。
 なんだろう。サンタがやってきてプレゼントでも置いていったのか? 
 それとも余りの激務で疲れ果てたか、仕事をボイコットするかしたサンタが上がり込んだか?
 おそるおそる、玄関の明かりを点ける。すると、そこにいた人物の正体が判明した。
「うぅ……お兄ちゃん? 帰って、きた……やっと! お兄ちゃんっ!」
 転がっていたのは妹だった。そして、どういうわけか制服姿だった。
 どうやら俺が弟だと勘違いしているらしく、いきなり顔も見ずに抱きついてきた。
「待ってたんだよ、私。帰ってきてからずっと、お兄ちゃんが来るまでここで待ってようって決めてたんだ。
 でも、遅いよ。寒いし、暗いし。だから、暖めてくれると嬉しいなぁ?」
 そうかそうか。よし、お兄さんで良ければ――って、違うだろ。
「あー……妹。ちょっと顔を上げてくれないか?」
「あれ? お兄ちゃん、風邪でも引いちゃった? なんだかいつもより声が低いよ?
 それにいつもと匂いが違うし」
 中学三年生の女の子が、匂いがどうとか言うんじゃない。
 まあ、この妹ならそれぐらい嗅ぎ分けがつくだろうけどさ。
「ねえ、どうして今日は頭を撫でてくれないの?
 私がこうしたら、いつもやめてくれ、って言って撫でてくれるのに。
 もしかして、今日はずっと抱きついててもいいの? クリスマスプレゼント?」
 そんなことしてやがったのか。妹がこうなったのに弟が一枚噛んでいるという疑いが浮上してきた。
 妹は股間のブツに触れることなく頬ずりをしてくる。
 この状況は俺にとってレアそのものだが、俺はシスコンではないのだ。
 されても別に嬉しくなんかない。……うん、目が潤んだりしていないし。
 早く妹を振り解こう。これ以上続けていたら妹に悪い。


333:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:09:18 ryJwY4ic
 咳払いをしてから、弟の口調を真似して優しく声をかける。
「あー……あのさ。僕の顔をちょっと見てくれない?」
「どうして?」
「何ででも。ていうか、早く見て欲しいな、なんて」
「変なお兄ちゃん。いいよ、私は毎日毎時間毎分毎秒見続けても構わ、な……い…………んだ、から?」
 顔を上げたまでは普段通りであったが、俺の顔を見た途端に少しずつ声が小さくなっていった。
 なんと言ったものか。今の妹の顔を例えるなら、クリスマスプレゼントはトリコロールカラーで塗装された
ロボットのプラモデルを買ってきてほしいと父親に頼んだものの、買って来られたものをよく見たら、
「これじゃない!」と怒鳴りたくなるような代物だった時の顔、とでも言おうか
 うむ。妹が待ち望んでいたのは弟だったが、実際に現れたのは俺だったりするところが似ている。
「ふぁ、ふぁ…………」
 妹は俺の顔を見つめたまま呟きだした。
 顎は小さく震えている。たぶんそれは寒さのせいではあるまい。
 今日は一日中ずっと快晴らしい。きっとこの辺りの空にも星が輝くであろう。
 クリスマスに雪が降るとロマンチックな気分になるという。
 でも、クリスマスには雪の白とは別にもう一色、ふさわしい色がある。
 すなわち、赤。夕焼けの赤、トマトの赤、血の赤。
 白と赤は慶事ののしなんかにも使われている。いいイメージを抱かせる組み合わせなのだろう。
 でも、どうして今の妹を見ていると悪い意味での赤を連想してしまうのだろうね?

「ふぁ、き……」
「ふぁ、き?」
 妹の呟きはもはや理解不能の域にまで達していた。
 跪いた状態から立ち上がると、俺と向き合った。顔は伏せたまま。そして拳は固められたまま。
 右と左、いったいどちらから暴力が飛んでくるのかと俺は待ちかまえた。当然、反応して避けるため。
「ふぁ……ファ、ファ……っ!」
 呟きに怒気が混じっていく。
 ああこれは一発で済むことはないだろうな、と冷静な部分が判断した。
 説得に入る。
「落ち着いて聞け。弟は帰ってきてからどこかに出かけていて、家にいないんだ。
 そして何よりさっき俺を弟と勘違いしたのはお前なわけで、俺は何も悪くないというか、
 その拳を早く緩めてくれると嬉しいななんてお兄さんは思うわけで――」
「このバカ! 妹に欲情する変態兄! 妹に抱きつかれて喜んでんじゃないわよ!
 何なのよその嬉しそうな顔はっ! ファッキン! ファッキン! ふぁあぁぁぁーーっきん!」
 下品な横文字で三回罵倒された後、半身をずらしてからの回し蹴りをお見舞いされた。
 スリッパのつま先にこめかみを貫かれ、俺の脳は激しく揺さぶられた。
 立つこともままならない。俺は膝を着いた後、前のめりに倒れた。
 すると何か柔らかいものに顔が触れた。ぼやけた視界ではそれがなんなのか確認できない。
「なっ! ちょ……どこ触って……や…………」
 妹が何か言っている。頭上から聞こえてくる。
 そうか、この体は妹か。つまり俺は妹の体のどこかに顔を当てている、と。
 でもこのアクシデントが起こったのは俺のせいではない。妹が蹴った結果だ。
 よって、俺は悪くない。顔は動かさない。というか、動けないし。
「ん……この……、いつまでそんなとこに触ってんのよ! そこはまだお兄ちゃんにも触られてないのに!
 サノバビッチ! このっ、さのばびっちーーっ!」
 今度は後ろへ突き飛ばされた。後頭部が床をしたたかに打ち付けた。
 いい感じで記憶喪失になれそうな一撃だった。
 吐き気を催していた気分が、倒れているのと激痛のおかげで覚めていく。
 最近の中学校では嫌いな相手を世界的にポピュラーな言語で罵倒するのが流行っているのだろうか。
 なんてことを考えつつ、俺は目を閉じ、なにかやばそうな単語を吐き捨てて家を飛び出していく妹を見送った。
 正確には放っておいた。


334:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:13:05 ryJwY4ic
  
 妹が飛び出していってから数分。
 目眩は少しずつ覚めていき、開け放たれた玄関の扉から吹き込んでくる風が身にしみ始めていた。
 体を起こす。少しばかり鼻の奥が詰まった感じを覚えるが、それ以外は回復していた。
 妹は弟を追っていったと思われる。それから一体どうするのかは知らない。
 急いで出て行ったから、何も持っていないだろう。少なくとも凶器は用意していないはず。
 そもそも俺は弟が出かけたと言っただけだ。花火のことは喋っていない。
 しかし妹のことだ。クリスマスイブに出かけていったという事実がどういうことなのか分からないわけがない。
 妹は弟のファンクラブが存在するという事実を知っている。俺が教えたから。
 そして思ったのだろう。弟に近づく女が確実に存在するということに。
 加えて、今日のようなカップルにふさわしいイベントの日に、弟に遊ぶ相手がいることにも気づいた。
 果たして、家に帰ってきてから弟は妹にどんな言い訳をするのだろうか。
 以前、ファンクラブのことを俺がばらしたときには、そんな人たちはいないよ、の一点張りだった。
 しかし今回はそうは行くまい。
 だって、一人で遊びに行った、では苦しいし、男友達と一緒に遊んでいた、でも無理がある。
 たとえそれが事実だったとしても、妹は納得すまい。
 頑張れ、弟。女の子との修羅場をくぐり抜けてこそプレイボーイだ。
 俺はいつもお前を見守っているから。
 お前の修羅場スキルが高まっていくことを俺は心から望んでいるよ。

 玄関のドアに鍵をかけ、コートのポケットに手を突っ込んだままコンビニへ向かう。
 外は肌を刺すような冷えっぷりであった。首元やズボンの裾から入り込む風がやっかいでたまらない。
 こんな季節でもミニスカートを穿いて外を出歩く女性達の根性は感心すべきだ。
 俺の通う高校の女生徒は登校時にジャージを穿いているが、やはり中には制服のままの人もいる。
 現在確認しているところでは、葉月さん、弟と同じクラスの女子、あと花火もそう。番外として妹も含もうか。
 弟関連の女子については言うまでもないが、それでもあえて言うなら、弟に女の魅力をアピールするため、ということだ。
 葉月さんについては……弟は関係ないのかな。
「やっぱり、俺……か」
 俺のために葉月さんが寒い中でもスカートを穿いていると思うと、嬉しくなる。
 まだ俺は葉月さんにちゃんとした告白の返事を返していない。保留の状態だ。
 以前―文化祭の前まで葉月さんに返事ができなかったのは、自分の気持ちに迷いがあったからだ。

 本当に俺は葉月さんのことが好きなのか? 
 うん、好きだ。性格もいいし、美人だし、俺のことをいろいろ構ってくれる。
 好いているんだけど、そこで混乱してしまう。
 そもそも、付き合いたいって、どういう感じなんだ?
 それって、ずっと一緒にいたいから恋人関係になりたいってことだろう。
 じゃあ、親友と恋人、一体どこが違う?
 高橋は、数字でいうところのゼロでただの友達、イチで親友、という基準とすると、好感度を四捨五入すればイチになるため、親友だ。
 あいつとずっと遊ぶなどごめんだが、他の知り合いよりは無言の間を苦しく感じない。
 暇で暇でしょうがないときに高橋のおごりなら一日中遊んでやってもいいくらい。
 葉月さんは高橋と違い、こっちから遊びに誘いたい。当然、俺が全額持つ。
 この違いが親友と恋人の境目――ではないんだろうな。
 昔、中学時代に好きだった女の子。あの子に対して、俺はもっと積極的な気持ちを向けていた。
 なるべく目を引きたくて髪型を変えたり、毛抜きを使って眉毛を整えたりした。
 席替えの時は隣か後ろの席になりたかった。近くであっても前の席だけは嫌だった。自分の目であの子を見たかったから。
 そんな日々を過ごしているうちに、あの子から呼び出され、付き合って欲しいと言われた。
 そして一ヶ月経つか経たないかのうちに、あの子は本性を現して俺を振った。
 結果はともかく、あの子に向けていた感情こそが異性に抱く好意、というものだろう。
 あの時のような好意を葉月さんに抱いているかというと、否だ。
 あそこまで今の俺は夢中になっていない。
 こんな半端な気持ちで告白なんてできるわけがない。


335:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:14:57 ryJwY4ic
 文化祭が終わってからは、花火との一件もあり、積極的に近づくことすら難しくなった。
 罪の意識が、お前に葉月さんはふさわしくない、とささやいてくる。
 その言葉に翻弄されているのは事実だ。半端な気持ちと、罪の意識が俺の思考をいつも止める。
 今こうして歩いているように、淡々と歩を進めることができないのだ。

 家から一番近い場所にあるコンビニの光が見えてきた。
 首都圏では成人が歩いて五分かかる距離を空けてコンビニが建っているというが、本当なのだろうか。
 家を出て、住宅街に入り組んでいる路地を歩いて、車の通りが頻繁にある国道沿いを歩き、
行く手をさえぎるかのように存在する坂道を上らなければコンビニに行けない俺にとっては眉唾物の説だ。
 時間的には、急いで二十分少々、ゆっくりなら三十分はかかる距離。
 スーパーはそれよりもう少し遠くにある。いつもこれでは買い物に行くのも億劫になる。
 住んでいるところは市町村の区分のうちでは一番大きい市である。
 しかし上手いこと、商店街を安全過ぎる圏まで避けるかたちで家が建っているので、現状に甘んじている。
 楽をするために原付の免許が欲しい、と考えたこともある。
 だが、免許をとることはできても肝心の単車を買うことができそうにない。
 クラスにいるバイク好きの中野君は、三万円で中古を買った、と言っていた。
 それならなんとか俺でも買えるな、と思ったのも束の間、続けて中野君は、新車なら二十万近くするんだけどね、と言ったのだ。
 どうやらバイクというものは俺の想像以上に高価なものであるらしい。
 というわけで、買い物を楽にする計画は敢え無く断念することになった。
 俺が楽をするには住む場所を変えるなどしなければ無理なようである。

 外から覗き見たコンビニの店内は意外なことにあまり人がいなかった。
 タイミングが良かったのだろう。買い物をするには絶好のチャンス。
 店内へ入ろうとした時、聞き慣れた着メロが鳴った。
 わずかな音量で鳴ったそれは間違いなく俺のものである。
 二年前に放映されていた戦隊もののオープニング曲を着メロにしているのは俺ぐらいのものだ。
 着信したのはメール。送ってきたのは葉月さん。用件は俺の所在を聞くものだった。
 葉月さんは以前俺の家に来たことがある。ということは通り道になっているコンビニの場所も知っているはず。
 居場所を記したメールを送る。程なくして返信のメールがあった。
 用事があるのでそこで待っていて、というものだった。
 むう。それは別に構わないのだが、どうせ訪ねてこられるなら自宅で迎えたいものだ。
 その旨を本文に打ち込み、送信しようとしたとき、コンビニから男女が出てきた。
 出てきたのは若者同士のカップルではない。男は中年。女は若い―というより若すぎる。
 中年男が女の子の前に回り込んだ。出入りする人間にとって実に迷惑な位置で話し始めた。
「これから何の予定もないんでしょ?」
「いいえ、忙しいんです、アタシ」
「いいじゃない、晩ご飯ぐらいなら。ね、そんなに時間はとらせないから」
「嫌だ、って言っているじゃないですか」
 肩の上でカットされた短めの髪に、妹より低めの身長に、絵に描いたように整った顔のパーツ。
 サラリーマン姿の中年男を冷たい態度で断っているのは、中学生のようである。
 が、彼女が中学生じゃないということは知っている。だって彼女は知り合いだから。
「彼氏を捜しているって言ってたよね。
 でも、さっきからずっと歩いていて見つからないんだから、約束をすっぽかされたんじゃないの?」
「ちっ……」
 コンビニの外に設置されている電話ボックスの後ろに隠れながら様子を観察する。
 女の子はポケットに手を突っ込んでいる。おそらく、凶器をポケットの中に用意している。
 止めようかとも思ったが、相手はいい年して県条例に違反するようなおっさんである。放っておくことにした。


336:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:17:31 ryJwY4ic
 女の子が歩き出した。男も並んで歩く。二人と入れ替わりに、体を入り口へと割り込ませる。
 このコンビニのドアは自動ドアではない。ドアの取っ手を掴んで奥へと押す。
 そして、女の子にばれないよう店内へ。
 よし、このままばれなければ―。
「いらっしゃいませー! こんばんは!」
 途端に、無駄に威勢のいい店員の挨拶が飛んできた。
 その声量とタイミングは思わず俺の体をびくつかせるほどのものであった。
 かくれんぼが台無しである。
 挨拶をするなとは言わないが、もうちょっと小さめに、小鳥がさえずるぐらいの音量で頼む。
「あぁっ! 見つけたっ!」
「ぁ……っちゃぁ……」
 驚きの声が背後であがる。嫌な予感がした。そして絡みつくような視線も感じる。
 逃げようと思ってももう遅い。すでに俺と彼女を隔てるものは透明なガラス製のドアだけだ。
 仕方がない。観念しよう。きっとこんな場所で、今日という日に会ってしまったことも何かの縁なのだ。
 嫌なイベントのフラグを立ててしまったのでなければいいのだが。

 暖房の効いた店内から冷え込んだ外へと出て行く。
 そこに待っていたのは道行く人たちの好奇の視線と、おっさんの苦虫を噛み潰したような表情と、
世間知らずの男なら十人中十人は詐欺に引っかかってしまいそうな笑顔を浮かべる澄子ちゃんだった。
「先輩! もうどこに言ってたんです? ずっと捜してたんですよ?」
 いつのまにそんな約束をしたんだろう、なんて思ったが、すぐに思い直した。
 澄子ちゃんがどういうつもりでこんなことを言ったのか、自発的に理解できない俺ではない。
 本日二度目となる弟のモノマネで相手をする。
「ごめんよ。さっきまで寝ていてさ。今来たところ」
「もう、仕方ないですね。でも来てくれて良かったあ。アタシも今来たところなんですよ」
 その切り返しは、さっきおっさんに付きまとわれていた様子からは苦しいんじゃなかろうか。
「ねえ、せぇんぱい?」
 突然澄子ちゃんの声が甘ったるいものに変わった。
 ホワイトチョコとイチゴチョコを混ぜそれをホットチョコレートにして角砂糖を十個くらい投入し、
付け合わせに出てきたミルクとシロップまで突っ込んだぐらいの甘さ。
「遅れて来たんだから、その分の償いはしてもらわないといけないですよね?」
「ああ、そうだね。ごめんよ、気がつかなくて。僕にできることならなんでもするよ」
「え、何その喋り方……あ、彼の真似してるのか」
 似てないですね、と小さな声で言われた。そんなこと言われなくてもわかっている。
「えっとぉ、あとで二人っきりになったとき抱きしめてもらうのは当然としてもぉ……、
 澄子、今すぐ暖めて欲しいな、なんて思っちゃったなんかするんですよね」
「ぐ……!」
 内臓のてっぺんに重量物。有り体に言えば衝撃を感じた。
 たとえ演技だと分かっていても、その男を魅了する笑みと甘い声を前にしては、自制することさえ困難になる。
 なんと返事しよう。このまま流れに乗っていけば……澄子ちゃんとキスできる?
 いやいやいや、いやいや。嫌なわけではないが、これは演技なのだ。本気になってはいけない。
 そもそも、澄子ちゃんは弟のことを一途に思っている。俺のことなんか好きな人の兄としてしか見ていない。
 だが、それならそれで俺を惑わすようなことをしないで欲しい。
「抱きしめてもらえません? アタシが力を抜いていても倒れないくらいに、力強く」
 この状況を切り抜けるためとはいえ、好きでもない人間に対してここまでできるなんて。
 もし、澄子ちゃんと弟が恋人関係になったらどこまでバカップルになるだろう。
 人混みの中でも、小さな子供に見せられないようなことをやらかしてくれるかも。
 そんな状況であたふたする弟も見てみたい。花火とくっついたら接近することもできないし。
「早く、シてください。澄子、寒くって……先輩の熱が欲しくて、体が疼いて仕方ないんです」
「ああ、わかったよ。それじゃあ、遠慮無く…………」
 流されるまま、俺は澄子ちゃんの体を抱きしめるために両手を広げた。


337:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:20:13 ryJwY4ic
 がつんと一発殴られた。今回は左のこめかみではなく、右顎だった。
 脳の中身が、たぷん、と揺れるような気がした。
 膝に力を入れるより早く、俺はその場に尻餅をついた。
 澄子ちゃんの得意武器であるボールペンで貫かれなかっただけマシかもしれない。
 あれを受けていたら流血する羽目になっていただろう。
 しかし、澄子ちゃんに合わせて演技していただけでここまでいいものをもらう謂れはない。
 文句を言おうとして顔を上げたら、澄子ちゃんは確かに目の前にいた。
 ぽかんとした表情で俺ではなく、俺の右側を向いていた。
 あれ、今のは澄子ちゃんがあまりの嫌悪感を覚えた故にとった行動ではないのか?
 では、一体誰が俺の顎を打った?

 目を右側へと泳がせる。確かにそこに人がいた。
 文句を言う前に、じっくりとその人物を鑑賞する。
「……ほう」
 感嘆のため息が漏れ出たのは、相手の格好と体型が非常にマッチしていたからである。
 まず、闖入者の格好はミニスカサンタスタイルだった。
 なんと、手抜きすることなく、白い袋まで右肩に担いでいた。
 空いた左手は固く握りしめられていた。おそらくはあれが顎を打ち抜いたのだ。
 目元まで帽子を被っているせいで顔は下半分しか見えない。
 肩にはケープが乗っていて、その下から細い腕が伸びている。腕が嘘みたいに真っ白だ。
 細い胴と滑らかな腰の間で衣服が分かれていない。ワンピースを着ているらしい。
 そのワンピースから伸びるフトモモが、膝上三十センチまでさらけだされている。
 そして、俺のアングル―しゃがんだ状態―からは神聖な領域がばっちり見えている。
 ふむ、黒……か? 夜だから色の区別がつかない。
 個人的にはストライプだったら嬉しい。だが今はそんなことを望んでいる場合ではない。

「あんた、一体誰だ?」
 ミニスカサンタは答えない。ただ、拳が震えているところから腹を立てているということは分かる。
「変な格好をして、いきなり殴りかかるなんてどうかしてるぞ」
「そ、そうですよ!」
 調子を取り戻したらしく、澄子ちゃんが割り込んできた。
 本当は違うけど、と前置きして澄子ちゃんが言う。
「アタシの彼氏になんてことするんですか!」
 サンタの肩が小さく揺れた。
「か、れ、し」
「そうです。誰だか知らないけど、こんなことをしたからにはそれなりに覚悟してください」
「黙れ……この、泥棒猫。泥棒猫ォッ!」
 サンタが突然袋を振りかぶり、澄子ちゃん目がけて殴りかかった。
 澄子ちゃんはそれをバックステップで回避すると、コートのポケットに手を突っ込んだ。
 手を外気にさらしたとき、その両手にはボールペンが握られていた。
 片手に四本ずつ。指と指の隙間を一つも無駄にしていない。
「せいっ!」
 片手を振りかぶり、投擲。煌めく光の筋を描き、ミニスカサンタへと向かっていく。
 上体を反らし、サンタが避ける。とてもゆっくりで、余裕たっぷりの動きだった。


338:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:22:42 ryJwY4ic
「まだまだですよっ!」
 次は両手を振りかぶり、交差させる。
 その動きでもボールペンは飛んでいったが、それには続きがあった。
 澄子ちゃんは続けて両手を上下に、左右に、斜めに振り回しながら投げ続ける。
 しかし、ただ投げ続けているわけではなかった。
 投げると見せかけて投げない。フェイントを織り交ぜている。
 加えて、回転しているせいでコートが浮き、腕の動きを読めなくしている。
 コンビニが振りまく明かりをボールペンが反射する。
 光が走る。澄子ちゃんの体のいたるところから飛び出していく。
 軽快にステップを踏む様はダンスを踊っているようだ―なんて、よくある喩えもしたくなる。
 俺は目の前の光景に目を奪われていた。
 そして、サンタの動きにも目を疑った。

 赤い帽子を目深に被ったまま、サンタは全て避けていた。全弾、掠りもしていない。
 ゆらりゆらりと体を振り、ふらふらとした足取りで澄子ちゃんへと接近していた。
 直撃コースをとったボールペンは腕で払ったり、ケープでガードしていた。
 なんで、帽子を被っているのに避けられる?
 帽子に穴を空けているとしても、視界はかなり遮られているはずなのに。
 まるでボールペンがどれだけの速度で、どんな角度で、どれほどの威力を持っているのか、
あらかじめ悟っているかのような動き。
 武道の心得などないのだが、この動き、見た覚えがある。
 どこだっただろう。そんなに昔ではなかったような気がするのだが。


339:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:24:24 ryJwY4ic
 気がついたら澄子ちゃんの攻撃は止んでいて、サンタも足を止めていた。
 そして、二人を遠巻きに見るギャラリーがびっしりとできていた。
 ボールペンの軌道の先にはもちろん誰もいない。
 澄子ちゃんを誘っていた中年男の姿はない。
 すでに逃げたのかもしれない。しかし、もし人混みに紛れていたとしても、もう誘う気など失せているだろう。
 これでアトラクションが終わった、とでも受け取ったのか、観客から拍手が沸き起こる。
 澄子ちゃんが恥ずかしそうに顔を伏せた。
「うぅ……なんでアタシがこんな目に…………あ!」
 顔を上げると強い瞳でサンタを睨みつけた。人差し指を突きつける。
「そうですよ! あなたがいきなり殴りかかってくるのが悪いんです! アタシは何にもしてません!」
「……嘘を、吐け!」
 サンタは低音の声で叫ぶと、担いでいた袋を地面に叩きつけた。物が壊れるような鈍い音が聞こえた。
「お前がその人を惑わした! それが私には許せない!」
「なっ……あんなの演技ですよ! 白状しますよ、しつこいナンパを避ける口実を作るためにくっついたんです!
 先輩は彼氏でも何でもありません。アタシが好きなのは先輩の弟さ―」
「問答無用!」
 踏み込んだサンタが袋で殴りかかる。
 動きをとることもできず、澄子ちゃんは鼻先を掠められた。
「私からその人を奪うことは許さない! 許さない! 許さない!
 今度はずっと離れない! お母さんの時みたいに、離ればなれになったりしない!
 そのためなら……そのためならっ!」
 二人の間合いがゼロになった。サンタが一足飛びで間を詰めたのだ。
「私は自分の全力を賭して、戦う!」
「こ……のっ! しつこいんですよ! 真冬のミニスカサンタなんて、今更男に受けるもんですか!」
 澄子ちゃんの真上への蹴りが飛ぶ。顎を狙ったその一撃は易々と避けられた。
 観客が小さな歓声をあげる。スカートの中身が見えるとでも思ったのだろう。
 スパッツを穿いているから期待しているものは見えなかった。
 澄子ちゃんは一瞬の隙をついて肩に乗せられた手を振り解くと、サンタの後方へ向けて駆けだした。
 もちろんサンタもその背中を追う。 
「待ちなさい! 逃がさない! 思い知らせるまでは、絶対に!」
「ああ、もう! 彼は見失うし変なサンタに会うし! 今日はろくでもないことばっかりですよ!」
 後輩と正体不明のミニスカサンタは驚異的な足運びで最高速度に達し、その場から姿を消した。

 観客は二人が去ったことで誰もが残念そうなため息を吐き出し、解散していった。
 数人はしりもちをついたままの俺に声をかけようとしていたが、結局は誰も話しかけなかった。
 誰もいなくなってから、なんとなくあぐらをかいた。
 アスファルトの地面は冷たかった。
 だが、さっきまで熱気に包まれていた空間に流れ込んできた風の方がずっと冷たい。
 風が少しでも暖かくなることを期待して、呟いた。
「最近殴られること、多くなったなあ。俺……」
 というより、今みたいな暴力的な状況に遭遇することが多くなった。
 昔にやらかしたことのツケが今になってやってきたのだろうか。
 それならこうしているのも、むべなるかな。


340:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:26:08 ryJwY4ic
*****

 賞味期限ぎりぎりの弁当とおにぎり、それとなんとなく夜更かしをしたくなったため、菓子を数個購入し、帰宅した。
 玄関の明かりは灯っていた。弟の靴と妹の靴がある。二人揃って帰宅しているらしい。
 リビングへ歩を進めるとテレビの音声に混じって話し声が聞こえてきた。
 ドアを開ける。ソファーに並んで座っているのは弟と妹だった。
「お兄ちゃん、これ高くなかった?」
「気にするなよ、そんなこと」
「無理だよ。気にするって。ねえ、どこで買ったの? こんな時間じゃなきゃ買えないお店って、どこ?」
「あはは、それは……あ、兄さん」
 振り向いた弟は穏やかな表情だった。対照的に妹は汚物を見るような目で俺を見た。
 どうやら―いや、あれは確実に怒っているな。一体俺はどこに顔を埋めてしまったのだろう。

 妹の手に握られているのは銀色のペンだった。もう一本、同じようなものが机に転がっている。
 見ていると澄子ちゃんとサンタの攻防を思い浮かべてしまう。
 まさかさっきのあれを見ていて、現場から拾ってきたとかじゃ、ないよな?
「ちょっとごめん。兄さんにもあげてくるから」
「えー……私だけじゃなかったんだ」
 残念そうに呟く妹を置いて、弟が近づいてくる。
「はい、兄さん。クリスマスプレゼント」
「お、おお……サンキュ」
 弟が差し出した細長い箱を受け取る。中身を取り出すと、二本組のシャープペンとボールペンが入っていた。
 クリップの部分に名前のイニシャルと名字がローマ字で刻まれている。
 弟が耳打ちしてくる。
「それ、クラスの女の子に頼んで掘ってもらったんだ。妹には黙っててね」
「その子って、もしかして、木之内澄子ちゃんか?」
「あれ、知ってたの? そうだよ。その子に頼んだんだ」
 なるほど。ということはこのペンのいずれかがああいった用途に使われることもあったというわけか。
 手のひらに乗せてみる。百円ショップで売っているような安っぽい代物とは違い、重量感がある。
 これなら確かに武器としても使えるな。うむ、物騒きわまりない。日常に潜む恐怖。
「でも、どうやって妹の名前を彫ってもらえたんだ?」
 妹の名前を彫ってくれと頼まれても、澄子ちゃんは引き受けないと思うのだが。
「そこは大丈夫。名前はイニシャルだけでしょ? おばあちゃんの分って言ったら引き受けてくれた」
「……ほっほう」
「でも良かった。プレゼントを用意してて。
 プレゼントを取りに行ってた、って言い訳をしたら妹も機嫌を直してくれたよ」
「へえ、ぇ…………」
 口がひくつくのを抑えきれない。この弟はどこまで計算高いんだろう。
 イニシャルについてはまあいい。俺でも思いつく。
 だが、あらかじめプレゼントを用意しておき、クリスマスイブに出かけていた理由を問い詰めてきた妹には、
プレゼントを受け取るためだった、と言い張る。
 仮に俺が同じことをやっても信じてもらえまい。
 自分に寄せられている信用を利用したとしても綱渡りになるはずなのに、それを弟はあっさりとやってのける。

「お前……」
「ん?」
「い、いや……なんでも、ない」
 弟の笑顔の影に言いしれぬ恐怖を覚えた。
 これが天然の強さか。ぱっと見では緑の草原が広がっているのに、一歩でも踏み出すと使われていない井戸に
足を突っ込んでしまいそうな危なさを潜めている。


341:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:27:02 ryJwY4ic
「兄さん、それは?」
 弟が俺の手元を見た。左手にはコンビニの買い物袋が握られている。
「ああ、安物だが、俺からのクリスマスプレゼントだ。ポテトが二袋と、クッキーの箱が二つ」
「え……嘘」
 弟が視線を上下させる。せわしなくまばたきを繰り返している。なんだ、この反応は。
「兄さんがプレゼントをくれるなんて……今日、何かあったっけ」
「クリスマスイブだろ。どうした、俺がこういうことをしちゃだめか?」
「いや、だって。初めてだよ」
「そうだったか? 一度くらいはあっただろ?」
「無いよ。一回も無かった」
 断言された。ここまで言うからには事実なんだろう。
 そういえば、誕生日プレゼントを贈った記憶もないな。なんだか自分が甲斐性なしに思えてきた。
 これからは月イチのペースで缶コーヒーでもおごってやるとしよう。
「それじゃあ、お茶でも煎れよっか。兄さんは紅茶? コーヒー?」
「コーヒーで頼む。インスタントじゃなくてレギュラーで。あと、濃いめ」
「うん、分かった」
 弟がキッチンへ向かった。それを見て、妹もソファーから腰を浮かして弟の傍へ。
 ソファーではなく、床に置いてある愛用のクッションの上に座り込む。
 ガラステーブルの上に両腕と顎を乗せる。
「今日は、疲れた……」
 去年のクリスマスイブはここまで疲れなかったような気がする。
 なぜ今年に限って家で蹴られて倒され、出先のコンビニではサンタに殴られる羽目になったんだろう。
 澄子ちゃんは大丈夫だっただろうか。あのサンタ、相当にしつこそうだったけど。
 そういや、何か約束していたような気がするぞ。
 コンビニに着いたとき、メールで――。
「ああ!」
「うわ! いきなり何、兄さん?!」
 大きめの皿に菓子を盛っていた弟が袋を取り落とす。
「悪い! ちょっと出てくる!」
「え、あ、兄さん? お菓子は?!」
 返事をする間も惜しい。早くコンビニへ行かねば!
 葉月さんはまだ、あそこで待っているはずだ!


342:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:28:50 ryJwY4ic
*****

「……ただいま」
 手足を縛り付けていた縄を柱に擦りつけてちぎり、外へ飛び出そうとしたら、娘が帰ってきた。
 右手には大きな白い袋の口が握られている。残りは引きずってきたようだ。
 着ている服は乱れていない。たが、羽織っている物はカーディガンだけ。
 薄着で、どう見ても寒さをしのげそうな格好ではない。
 娘の表情は沈んでいた。近頃は久しく目にしなかった。こんな娘の姿は。
「どうしたんだ?! 何かあったのか?」
 肩を掴み揺さぶる。うつろな眼差しが少しだけ力を取り戻した。
「お父さん、私…………」
「誰がお前をこんな目に遭わせたんだ? 最近言っていたあの男か? まさか、暴漢に絡まれたのか?」
 否定の動作。
「違う、違うの」
「じゃあ、その有様はどういうわけだ?!」
「私…………どうしよう。……あの、あの人……殴って。本当に手加減なしで、殴っちゃった……」
 なんだって? それは結構、よくやった――じゃない。
「怪我を、させたのか?」
「してないと……思う。顎、狙って。座り込んだだけだったから」
「本当か? 嘘は吐いていないだろうな?」
 頷いた。この状態で嘘を吐くとは考えにくい。
 もし怪我をさせたなら、それなりの罰を与えなければいけないところだった。そうならなくて良かった。
 でも、一体なにがあった?
 出かけるときはあんなに嬉しそうにしていたのに。

「話せるか? 言えるところまででいい」
「……うん」
 玄関マットの上で体育座りになると、ぽつぽつと話し出した。
「今日こそは決着を付けてやろう、って、思ってたの。あの人と、私の関係に」
「なに?」
 あの男とは決着を付けねばならないような仲だったのか?
 娘と互角の実力者で、今の今までライバル同士だったとか?
 なんだ、そういうことなら怪我をさせても構わないぞ。
 むしろどんどんさせてやれ。若いうちなら回復が早いから。
「それで、今までは手加減をしていたのか?」
「うん。あの人がそうしてくれ、って言ったから。だから私、ずっと踏み込んで行かなかったの」
「それは駄目だな。勝負というのは常に真剣でなければいけない。手加減する必要なんか一切無いんだぞ」
「だって、好きだったんだもん。あの人のこと。……今でも好きだけど」
 娘の言葉が鳩尾に突き刺さる。
 きつい。娘の気持ちがどんなものか知っていたが、ここまで断言されるときついものがある。
 しかも今でも好き、ときた。まだ破局していないということか。ちくしょう。
「それで、メールで呼び出して、会おうと思ったの。場所も予約しておいたし、二人で行こうと思って」
「なんでうちでやらない? ふさわしい場所があるだろう」
「だって、お父さんがいるもん。お父さん、絶対邪魔するもん……」
 真剣勝負の邪魔をするわけがないだろう。まあ、もし顔にかすり傷でも付けたら、骨をぼきりとやってやるがな。
「それでね、待ち合わせの場所に行ったら、あの人……別の女と一緒にいたの」
「何!」
 娘とほんの少しだけでも交際しておきながら、他の女と会っていた?
 しかも決闘の場に連れて行こうとしてやがったのか?
 同じ道を志す者として許せん。来るなら一人で来い。男の風上にも風下にも置けない野郎だ。
「私、腹が立っちゃって……頭があっという間に真っ赤になって、それで、その時に…………」
「不意打ちでやってしまった、というわけか」
 娘は黙り込んだ。この沈黙は肯定ということだろう。


343:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:30:23 ryJwY4ic
 困った。
 男のやらかしたことは許されるものではない。全身を引き裂いてもまだ生温い。
 だが、不意打ちで攻撃を仕掛けた娘の行動も褒められたものではない。場外で振るった技はただの暴力だ。
「どうしたらいいの? ……教えて、お父さん」
 娘の弱々しい瞳に見つめられ、つい抱きしめたくなった。もちろんしない。
 好きな男に、嫉妬心故に殴りかかってしまった。男は構える前に殴りかかられて怒っているかもしれない。
 女として、武道家として、見損なわれてしまったかも。
 これからどうすればいいのかわからない。だから、答えを教えて欲しい。

 こういうのは、武道抜きで考えた方がいいのか?
 男としての、父親としての意見。
 そもそも、娘みたいな可愛い女に言い寄られて浮気する男の気が知れない。
 俺が優花にアプローチするには、周りにいる猛者どもを蹴散らさなければならなかった。皆、優花に夢中だった。
 もしかしたら、ライバル不在の状態だから悪いのかもしれないな。
「他の男の存在をちらつかせたらどうだ? 危機感を覚えれば、一途になるかも」
「無理だよ……私、そんなことできないよ。それに、そんなことしたらきっと、引いちゃうよ」
 嘘は吐きたくない、ということか。こんなに一途な子に思われて、幸せ者だなあ、二股男!
 でも、娘はそんな男が好きなんだよな。悩んで、泣きそうになって、それでも付き合いたい。
 まるで、昔の俺を見ているみたいだ。
 優花のことを好きで、優花のことを考えている時が一番幸せだったあの時の俺は、今の娘と似ている。
 俺がとった行動は障害の排除だった。それと、優花に認められるぐらい強くなること。
 性別が逆転しても通用するかはわからない。でも、相手も武の道を歩んでいるなら、もしかしたら。

「男の浮気相手は強いのか?」
「ううん。今日も戦って、決着は着かなかったけど」
「なら、力ずくで追い払ってみろ」
「……いいの? そんなことしたら相手の子が」
「ちゃんとした場で白黒つけるなら、問題はない。俺は許す」
「場……? 二人きりで会って、ってこと?」
「そうだ。そして教えてやれ。男にふさわしいのは自分だと。
 いくらお前が近づいてきても私は負けない。何度でも、私はお前を倒し続ける。最後にあの人の傍で笑うのは私だ。
 俺が若い頃に言った言葉だけどな。参考になるかわからないが」
「負けない……倒す……最後に、隣で……」
 そう。恋は戦いだ。一回しかしていない俺に言う資格はないかもしれんが、実際そうなのだ。
 恋敵は全て倒すべき存在。意中の人に近づく異性全てが敵だと思って疑うべし。
 油断したら即奪取される。一瞬のチャンスを逃さず、活かし、望みを繋げ。
 父親としては複雑だが、邪魔をして娘に嫌われるよりは応援役に徹した方がいい。
 ―優花。成長した娘は、姿はお前、性格は俺そっくりになったよ。
 そこから考えると、いつか娘は家を出て行ってしまうことになるが、俺はそれでもいいと思う。
 だから、俺の元から巣立つまではがっちり守ってやる。
 例の男がろくでもない奴だったら、性格をたたき直してやるから。
 お前の分も、娘は守る。今夜、誓いを新たにするよ。


344:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 06:32:34 ryJwY4ic
「ありがと、お父さん。ちょっとだけ気が晴れた」
 娘は立ち上がった。ちょっとどころか、いつも以上に気が充実している。
「そうか。ところで、腹減ってないか? ご飯は残ってるぞ」
「大丈夫。ちゃんと食べてきたから。―あ、そうそう。お父さん、これあげる」
 娘は放っておいた白い袋を掴むと、俺に差し出した。
「クリスマスプレゼント。何がいいかわかんないから、適当なもの買ってきちゃった」
「俺に? 俺に……くれるのか?」
「うん。期待が外れても恨まないでね」
 すでに予想が外れているよ。娘から何かもらえるなんて、思っても見なかった。
 袋を受け取った俺は、涙をこらえるのに精一杯で顔を上げることすらできなかった。
 娘が二階にある自室へ向かっても、ずっと体の震えが止まらない。
 こんないい子に育ってくれるなんて。やっぱり俺の育て方は間違っていなかったんだ。
 できるなら一生嫁に出さず、一緒に暮らしたい。今立てた誓いがもう倒れそうだ。

 妻に見つからないよう、離れの道場へ向かう。
 明かりを点け、神棚に手を合わせてから、正座して袋の口を開く。
 真っ先に飛び込んできたのは赤。何を買ってきてくれたのかな。赤い道着かな?
 破かないよう慎重に取り出す。最初に出てきたのはサンタの帽子だった。
 これはもしかして、俺にサンタになってほしい、と遠回しに言っているのか?
 高校生になってからも父親にサンタクロースになって欲しいと願うなんて、なんて可愛らしい。
 もちろんいいぞ。幼稚園の頃みたいに部屋に忍び込んでやるからな。
 帽子を被り、続けて上着らしきものを取り出す。
 出てきたのは……なんだろう。腰巻きのようだが、前か後ろのどっちかしか隠れないじゃないか。
 真っ赤な布地を白い毛で縁取った腰巻きを床に置き、最後の一着を取り出す。
 赤い袋? いや、両端には穴が空いている。片方には紐が二つ通っている? 鯉のぼりか?
 違う。これはそういうものじゃない。―服か?
 鯉のぼりもどきを縦にした状態で広げる。そして最上部にさっきの腰巻きを置いてみる。
 これはサンタの衣装じゃない。なんだ、このヒラヒラした部分。まるで娘の制服のスカートじゃないか。
 そしてこの山の連なったような部分、ドレスの胸元に見えなくも無い。
「――はっ!」
 閃いた。娘は今日、男と会うつもりだった。
 袋を持ち歩いていたということは、この中身も一緒だったはず。
 では、娘はまさか、このやけに短いスカート丈のワンピースを身にまとってその腰巻きを肩に乗せて帽子まで被って、
「今夜、私はあなただけのサンタクロースよ。プレゼントはもちろん……」とか言って迫っていって興奮した男が
ベッドに娘を押し倒してこの衣装を褒めながらあれやこれやそれや色々――

「うがあああぁぁぁあああっ! 許すもんか! そんなの、誰が許すかっ!
 お前に娘は絶対に渡さん! 家に挨拶に来てみろ! この道場で俺に勝てたら許してやるあああぁぁぁっ!」

 俺は帽子をむしり取って床に叩きつけようとして―やめた。
 だって、こんなのでも娘からもらったものだから。
 俺は丁寧に衣装を折りたたみ、袋に詰めた。
 帽子だけを被った状態で袋を担ぎ、道場の明かりを消し、静かに自室へ戻った。
 そして、止めようとしても勝手にあふれ出してくる涙をうっとうしく思いながら、眠りについた。


345:名無しさん@ピンキー
08/02/04 06:33:44 ryJwY4ic
クリスマス編はこれで終わりです。
次回も時期を大きく外したものになります。ご了承ください。

346:名無しさん@ピンキー
08/02/04 06:41:31 krG0FVNJ
リアル遭遇ktkr!!
しかしなんて量の投下なんだ、すご過ぎだぜ。
GJ!!

347:名無しさん@ピンキー
08/02/04 06:43:09 krG0FVNJ
すまん、思わずsage忘れてたorz。

348:名無しさん@ピンキー
08/02/04 06:47:36 SEAO4ycL
>>347(o・_・)/"(ノ_<。)ヨシヨシ

349:訂正 ◆KaE2HRhLms
08/02/04 07:26:23 GXZ9fMCj
>>338
> 赤い帽子を目深に被ったまま、サンタは全て避けていた。全弾、掠りもしていない。
ここは
> 赤い帽子を目深に被ったまま、サンタは全て避けていた。全弾、直撃していない。
でした。

申し訳ない。

350: ◆KaE2HRhLms
08/02/04 07:28:33 GXZ9fMCj
うあ、sage忘れ。
寝ぼけてました、すみません。

351:名無しさん@ピンキー
08/02/04 08:36:58 48mqmV8/
GJ! 待ちかねたよ!
しかし、濃い親父だなw

352:名無しさん@ピンキー
08/02/04 10:03:14 rjztUHAA
GJッス! つーか親父 キ モ イ w

もう何か男に変わるだけでこんなにキモくなるとは思わんだwww
しかし葉月さんはお母さんっ子だったわけか


353:名無しさん@ピンキー
08/02/04 11:40:07 Dl/oKRj1
GJ
思わず、「かれかの」と「お父さんは心配性」を思い出した。
兄の幸福を心より願う。

354:名無しさん@ピンキー
08/02/04 12:05:53 mZYIT+f0
>>345
相変わらず理不尽に酷い目にあっている兄が可哀想です(´;ω;`)
でも葉月さんのトラウマが母親が原因で
過去に男がいたというわけじゃないのには安心したw

355:名無しさん@ピンキー
08/02/04 14:28:34 f3S4ly5F
GJ
親父の親バカにワロタw

356:名無しさん@ピンキー
08/02/04 14:42:22 2B19bk6M
>>345 GJです
お兄ちゃんの過去とこの先が気になって、全裸解除が出来ません。

……幸せになって欲しいなぁ

357:名無しさん@ピンキー
08/02/04 17:52:13 aD6tdObE
最後にお兄さん殺されそうで怖いなぁ。

358:名無しさん@ピンキー
08/02/04 23:24:08 lCI9GRVQ
むしろ50才台でホームレス狩りにあって終わりそう。
そして他のキャラは円満な人生をおくる。

359:きゃの十三 ◆DT08VUwMk2
08/02/05 03:57:54 86AzRp91
投下します。
ネタは、『ヤンデレの薬』の三番汁です。

「うぅ~ん、できたぞ」
目の前の試験管に入った液体を見て僕は、背筋をう~んっと伸ばす。
土曜日と日曜日と両方の休日を費やして作った自信作だ。
僕の名前は、木地 甲斐(きち がい)。
色々、発明したい年頃の小学5年生だ。
「キチ○イ、それは、なんナリか?」
「だからキ○ガイって言うなぁ~」
そして、僕の背中をつっつくこのズングリムックリのロボット。
彼の名は、切腹丸。―僕の先祖・奇怪丸の残した『奇怪大百科』で作った発明品だ。
僕の祖先・奇怪丸は、偉大な科学者でかの有名なエジソンやライト兄弟も彼の弟子だったらしい
そんな世界から注目されていた天才科学者・奇怪丸は、ある日、子供の幽霊丸を残し、妻と共に謎の心中をはかった。
そして、その奇怪丸が僕達、子孫に残したのがこの『奇怪大百科』である。
これは、現在の技術者も驚くようなアイディアが詰まった発明が載っている本なのだ。
僕は、この『奇怪大百科』に載っている発明が祖先の切腹丸の謎の心中事件の手がかりがあるのではと思った僕は、
手がかりを探るべく単行本8冊分の冒険&発明をするのであった。

360:【病照列ノ薬】 ◆DT08VUwMk2
08/02/05 03:59:04 86AzRp91
「なぁ~に、連載再開した少年漫画みたいな回りくどいあらすじしてるナリか!!」
「むっ僕とした事が……」
僕は、試験管をビンに移し、フタをきつく閉め、一回、ポケットの中に入れる。そして取り出す。
「でぇっけてっててぇ~て~てん、『病照列ノ薬』!!」
「なんかネーミングセンスが『頑駄無』とか『殺駆』みたいナリね」
「『奇怪大百科』によるとこれを片思いの人間に飲ませるとたちまち監禁してしまいたくなるほど
好きになってしまう全国3百万人の男子諸君なら喉から手が出る代物なのだ」
「……ようは、ラブコメのセオリーの惚れ薬ナリね」
「これをお隣の勉子さんに飲ませて……でへへへへ」
そうと決まれば善は急げだ、愛しの勉子さんに飲まして一緒に愛の巣を作ろう
あぁ、子供は、男女2人は、欲しいかな
「……お前、さっきのあらすじと言ってる事、違うナリ」
しかし、世の中そう上手くいかないものだ。
僕が玄関を開けるとそこには―音波 黒美(おとなみ くろみ)が立っていた。
こいつは、僕と勉子さんとの恋路を邪魔するお邪魔虫なのだ。
「……話は、全部聞かせてもらった……つまり、それを私に飲ませてラブラブする気…なんだね」
「一体、どこから僕とお前とラブラブする話なんか……って、なんでこの薬の効果を!!」
黒美は、切腹丸を指差した。
「……さっき、……盗聴器を仕掛けた」
「あぁ~、本当ナリ!!」
うかつだった。いつも僕のストーカーしてるのは知っていたが
まさか、盗聴器まで使うとは……
しかし、僕と勉子ちゃんの恋路は、誰も防げないのだ!!
こんな事もあろうかと
「でぇっけてっててぇ~て~てん、『手榴弾』!!」
僕は、手榴弾を黒美に投げつける。
手榴弾は、黒美に当たると発火。本物ほどの威力は、無いがこれで黒美から逃げる事ぐらいは、できる


361:【病照列ノ薬】 ◆DT08VUwMk2
08/02/05 03:59:50 86AzRp91
お邪魔虫の魔の手から逃れることの出来た僕は、勉子さんの家に着く。
あぁ、これで僕と勉子さんの長きに渡るラブロマンスストーリーは、終了。木地先生の次回作にご期待下さい。
僕は、胸ときめかせてインターホンを鳴らす。

……出ない
もう1回、インターホンを鳴らす。

……出ない
あっ、そうだ!勉子さんは、故郷の山形に里帰りしてたんだ!!
トホホ、夢の年上のお姉さんとの禁断の同居生活が後、1週間延期になってしまった。
僕は、自分の部屋に戻って、布団に包まった。
「○チガイ、元気出すナリよ 1週間すれば勉子さん、戻ってくるんっだし」
「うぅ……ロボットなんかに僕のピュアハートがわかってたまるか」
「はぁ……やれやれ」

その時、家のチャイムが鳴った。
「切腹丸、出ろよ」
「我輩は、今、『CROSS†CHANNEL』やってて手が離せないナリよ」
全く、使えないロボットだ。誰に似たんだろう?
僕は、2階から降りてインターホンの受話器を取った。
「どちら様ですか?」
ちょっと、声のトーンを落としていかにも嫌そうに対応した。
「えぇ~っと、甲斐くんかな?」
その透き通った声は、勉子さん!?
きっと、僕に会いたいが為に予定より早く帰ったのだろう。オシャマさんだな
僕は、『病照列ノ薬』片手に玄関を開けた。

しかし、そこにいたのは、勉子さんではなく―不気味な笑みを浮かべる黒美だった。
黒美は、僕の持っていた『病照列ノ薬』を奪い取るとその中身をイッキに口の中に入れ、
唖然としている僕に口移しの形でそれを無理矢理、飲ませた。
あぁ、頭がぼんやりとして来た。
薄れていく理性の中で僕は、『黒美は、声マネが上手いという事』を思い出した。

362:【病照列ノ薬】 ◆DT08VUwMk2
08/02/05 04:00:26 86AzRp91
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

我輩は、黒美ちゃんの家のインターホンを鳴らす。
しばらくすると黒美ちゃんのお姉さんの響子さんがやって来た。
「キチガ○の奴、どうしてるナリか?」
響子さんは、自分の目で見るといいと黒美ちゃんの部屋にあがらせてもらった。
正直な話、キ○ガイの事などどうでもいいがパパさんとママさんが心配するので
連れ帰さなければと思い我輩は、黒美ちゃんの家に来たのだ。
さて、部屋には、やっぱりというかキチ○イと黒美ちゃんの肢体が絡み合っていた。
キ○ガイの奴、黒美ちゃんの無い胸を必死に嘗め回していた。
そして、胸の次に腋を丁寧に舐め穿っていた。あぁ、キチガ○は、腋フェチだったナリか……
黒美ちゃんも必死に種付けの為に腰を振っていた。
とてもお互い小学5年生とは、思えない淫妖な光景に我輩、仰天。
あぁ~この事をパパさんとママさんには、どう説明しようと我輩は、頭を痛めた。

なんだか藤子A不二雄のオチっぽいなぁ~
でも、二人とも幸せそうだからこれでいいのナリかな?……少なくとも薬が切れる3日後までは………

363:きゃの十三 ◆DT08VUwMk2
08/02/05 04:05:26 86AzRp91
投下終了です。

>>345GJです。
最近の子供は、玩具商品よりTVゲームとかをクリスマスプレゼントに
買ってもらう子供が増えたらしいのでそういう『これじゃない現象』は、あまり起こらないっぽいです。

364:名無しさん@ピンキー
08/02/05 10:59:10 SOVFTmaT
>僕の名前は、木地 甲斐(きち がい)。

ちょwwww
吹いたwwwww

365:名無しさん@ピンキー
08/02/05 13:34:51 9ZZ96QhS
GJ!

C†Cは良いよな。ある意味、冬子は切腹丸だし

366:名無しさん@ピンキー
08/02/05 17:46:03 oJHiY2iJ
それって、男の気を引くために腹を切って、
「こんなに血が出てる。だから優しくしてよ(うろおぼえ)」って言った娘?

だとしたら>>365、ありがとう。
画像と台詞は思い出せるんだけど、どうしても名前がわからなかったんだわ。


367:名無しさん@ピンキー
08/02/05 20:06:22 5/wmvI63
>>366
クロスチャンネルはいいぞ
監禁もあるし

368:名無しさん@ピンキー
08/02/05 23:14:58 wuhx+dOA
ヒロイン全員ヤンデレだしな

369:名無しさん@ピンキー
08/02/06 00:16:54 +RuxwIlw
>>368
男ももれなくヤンデレだからなぁ。
まああれだ、男のヤンデレほど見苦しいものはない。

370:名無しさん@ピンキー
08/02/06 01:04:20 iQItVlYq
クソ吹いたwwwGJ!!!

371:名無しさん@ピンキー
08/02/06 07:45:27 VNX5rNVf
男のヤンデレは存在自体が犯罪。男のヤンデレは殺されても文句を言う権利はない。
そのくらいキモイ。

372:名無しさん@ピンキー
08/02/06 08:02:55 7FSHM0nq
同意せざるを得ない

373:名無しさん@ピンキー
08/02/06 08:13:11 mzFcCvFB
ヤンデレ「女のヤンデレは存在自体が犯罪。女のヤンデレは
殺されても文句を言う権利はない。そのくらいキモイ。
男君の妹がヤンデレだったらどうしよう。
こっそり食事に汚い体液を混ぜ込んでいるんじゃないかと思うと寒気がする。
ああ、男君がヤンデレだったらいいのにな。
私を監禁して滅茶苦茶に犯して欲しい……」

374:名無しさん@ピンキー
08/02/06 08:38:27 GbA4HG8i
イヤ、でも鬼哭街とかアレ男もヤンデレだが……

ゴメン、やっぱアイツ性格キモかったわ
兄様は別だけど


375:名無しさん@ピンキー
08/02/06 14:17:35 5Qrb4S6G
ヴァルキリープロファイルのレザードあたりだと、腐女子が大喜びする「男ヤンデレ」かもしれん
しかしこのスレは、熱き血潮滾る男たちの花園だ! 男ヤンデレなぞ不要!

男は黙って刺されるのみっ!

376:名無しさん@ピンキー
08/02/06 16:07:40 vtyzrrNY
お前ら過激だな……

377:名無しさん@ピンキー
08/02/06 17:59:07 2CdBhMcj
俺は相手に盲目的に尽くすタイプなら男ヤンデレも好きだなあ
トライガンのブルーサマーズなんかは見ようによっては男ヤンデレかもしれん

378:空気を読まずに投下するアレな人
08/02/06 18:28:54 I3wC+RXJ
ある日、ロッカーに手紙が入っていた・・・
四角い便箋には放課後の屋上に来るように・・・とだけ書かれていた
待ち合わせ場所で待っていたのは一つ上の先輩
眼鏡の似合うクールな・・・そして何を考えているかよく分からない・・・
とりあえず図書館でいつも黙々と本を読んでいることだけは知っている
「あのー先輩・・・一体何の用なんですか?」
大体の用件は分かっていた
こんなありきたりな場所でコクられた事など何度もある
もう少しヒネリを効かせても良さそうなものだが女とはベターなものが好きらしい
「付き合ってください」
ウンザリしながら分かりきった台詞を驚いたように聞く
無論付き合うつもりは無い
ルックスは上々、スタイルも良し、嫌いなタイプでもないし、特に付き合わない理由も無い
しかしツボに嵌らないというか・・・もう少し自分の好みなコを探したい
「あの・・・スミマセン・・・」
申し訳の無さそうな声を装っていつもの台詞を吐く
相手には見る見る落胆の色が広がる
「ど・・・どうして!?私は・・・・・・!!」
うわぁ・・・ウザ・・・断られたらそこで潔く引けよ
というか一度も話した事すら無いんだが・・・
「あ~・・・そうだ」
まァこういうウザい女は─・・・
「何でも言うコト聞いてくれるってんならいいですよ・・・『なんでも』ね」
これで諦めてくれればそれで良し・・・
諦めてくれないなら少し遊んでギブアップに仕向けるか
「わ・・・分かったわ・・・」
ま・・・楽しんでみるか

379:何も考えずに続投
08/02/06 18:29:57 I3wC+RXJ
「んーと・・・じゃあ少し・・・向こうの方に行きましょうか」
屋上の隅、タンクとコンクリの間を目指して歩く
後ろからは黙って付いてくる先輩・・・
「さて・・・と」
「エート・・・な、何をするの・・・?」
声に若干緊張の色が見られる
心配しなくてもこんな所で犯すようなバカな真似はしませんよ・・・
「今から二人っきりの時には御主人様って呼んでもらえます?」
「えぇ!?」
「あ、イヤなら構いませんが、別に強制はしませんよ」
付き合わない・・・という暗喩はちゃんと伝わったようだ
「分かりました・・・御主人様」
「うんうん、じゃあ次は~・・・そうだな・・・動くな」
「は、はい・・・」
強張った声で返事をし、起立したまま動かない
その女のスカートをパンツもろともずり下ろす、小さく声が出る
陰部を丸出しにした彼女に「動くなよ」と言い残して少しずつ遠ざかる

380:名無しさん@ピンキー
08/02/06 18:32:16 I3wC+RXJ
目的の物を校庭で採取して女の下へ戻る
律儀にも立ったまま全く動いていないようだ
どこか澄ましたいつもの顔に少しばかりの恥じらいが残っているのが興奮を誘う
「お帰りなさい・・・・・・御主人様」
中々分かってるじゃないか、と少し楽しくなりながら校庭で取ったものを渡す
受け取った木の枝をしげしげと見つめる
一体何をしろと言っているのか分からないようだ、分かるはずもないよな
「それ使ってオナニーしろ(笑)」
ピキリ・・・と凍りつく
「ん、イヤなの?だったら止めてもいいよ、今すぐ帰りなよ」
「や・・・やり・・・ます・・・」
「良く聞こえないな~・・・
いつ、どこで、ナニを、するのか言ってみよう、主語述語をハッキリとね♪」
「あ・・・うぁ・・・」
暫く固まった後、搾り出すように
「放課後の学校で・・・オナニーをします」
「よく言えました、じゃあやってみようか」
携帯を取り出してムービーを起動する
それを見て困ったような顔をしているが、それで止める程優しい訳ではない

381:名無しさん@ピンキー
08/02/06 18:33:05 I3wC+RXJ
女は便所座りの体勢になり、恐る恐ると股間に手を伸ばし、木の枝を押し付ける
「こ、こういうこと・・・やったことなくて・・・」
うっわぁー・・・生きた化石ハッケン・・・まさかまだこんな人間がいるとは・・・
まぁ知識としては知っているのだろう
少しずつ手が早く動き、クチュ・・・クチュ・・・という音が出始める
「ハッ・・・ハァッ・・・あァん・・・」
喘ぎ声と共に先程校庭で拾った木の枝が陰部に挿入されていく
「な、何か・・・当たりました・・・これ以上は無理・・・です」
思ったとおり・・・処女か、
ではバージンを棒切れ相手に散らすかオレと付き合うのを諦めるか選んでもらおう
声を出さずに、携帯を持っていない手で中指と薬指の間に親指を入れる
続けろということは分かったらしい、グズグズと泣き声が入る
「そんなぁ・・・ご、主人・・・様ぁ」
年上でクールな謎の女、その泣き顔はまた格別なものがある
ニコニコと笑いつつ微動だにしないこちらを見て、諦めをつけたらしく
先程から同じところを行ったり来たりしている木の枝を握りなおす

382:名無しさん@ピンキー
08/02/06 18:35:34 I3wC+RXJ
「うっ・・・あぁぁぁ───ッッッ!!」
股間の茂みからは血が滴り落ちる
それと共に絶頂を迎えたらしく、後ろの壁に全身を預ける形でもたれかかる
股間に木の枝を突っ込んだまま絶頂直後の荒い息のまま、この先輩は小さな笑みを浮かべて一言
「これで・・・付き合って・・・くれるのよね?」


以上で投下終了です、もうなんか・・・スミマセン
調教SSに落とすか迷ったんですがこれは調教・・・って程でもないなァ・・・とこっちに投下してみました
ここまで読んでくださった方々、ありです

383:名無しさん@ピンキー
08/02/06 19:24:47 pJAwIcut
心が痛んだ

384:名無しさん@ピンキー
08/02/06 19:30:08 23FcO5Km
やっぱり刺されるべきは男なんだなと思った

385:名無しさん@ピンキー
08/02/06 19:34:37 206tNGtA
面白かったけど、木の棒に処女捧げてまで言うこと聞いたのに「別に付き合うとは言ってないでしょぉ?」とか言われてサックリ捨てられ、徐々に病んでいくとかじゃなくて
これで全部終わりなら鬼畜スレに投下すべきだったと思うよ。

386:名無しさん@ピンキー
08/02/06 19:41:01 vtyzrrNY
いや、付き合うためにここまでするってのはヤンデレじゃね?


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