08/07/27 11:31:47 xOgw7MYm
目的の場所は、もう見える距離にまで来ていた。あの門を抜けれ
ば、この苦しみからの解放が待っている。それなのに、あと少しの
その距離が、ひどく遠くに感じられた。
押さえる手の下で、お腹が小さく音を上げた。同性人気の高そう
な、すっきりとした顔立ちが、苦悶に歪められる。塀に肩をかけて
立ち止まった少女は、制服のポケットからハンカチを取り出し、額
ににじんだ汗をぬぐった。大きく、短く、呼吸を重ね、苦しみの時
が過ぎるのを待つ。
(もう・・・少し・・・)
苦痛の波が収まるのを待って、少女は止めていた足を動かした。
強い日差しの影響もあってか、額にはまた汗が浮かび始めている。
加減しながら進める足の遅さが、自分でももどかしいのだろう。奥
歯をかみ締める横顔に、焦りが見えている。
(つ、着いた・・・)
永劫にも感じられる時間の後、少女は目的の門を抜けていた。程
近い玄関に向かい、震える指でチャイムを鳴らすと、そのまま両手
でお腹を抱え、その場にうずくまる。
「はぁーい」
気の抜けた声と共に、玄関が開かれる。同じ制服を着ていなけれ
ば、小学生としか思われないような少女がそこにいた。幼い顔つき
といい、低い身長といい、未発達の体型といい、年齢を騙っている
としか思われない。
「あぁ、琴奈。遅かったねぇ」
「さ、皐月。早く、トイレ・・・」
「とりあえず入りなよ」
友人の苦悶を冷酷に見下ろす少女には、相手の事情を汲み取る意
思は感じられなかった。這うようにして移動する姿に笑みを浮かべ、
手を貸そうともしない。