【友達≦】幼馴染み萌えスレ14章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ14章【<恋人】 - 暇つぶし2ch428:名無しさん@ピンキー
08/03/05 20:39:17 fjqadhzw
>>439
ばっきゃろ、チチ小さめコンプレックス付きという立派な属性だろうが―!
それでさらに貧乳の友人に『胸大きくなりたい』とかうっかり言っちゃってこんにゃろわたしより大きいくせにとか百合展開ハァハァ……い、いかん今妄想垂れ流しですかよ!?

429:名無しさん@ピンキー
08/03/05 21:00:59 Vjtjtnyp
>>440
川上作品スレの方ですか

430:名無しさん@ピンキー
08/03/05 21:03:59 MjlIZhUa
そういえば、このスレでも胸が大きい幼馴染は少ない気がする。

431:名無しさん@ピンキー
08/03/05 22:01:02 AEDE2rC2
>>437 性格控えめで髪型ショートも捨てがたい

432:名無しさん@ピンキー
08/03/05 23:00:39 U+k+1qo+
>>442
シロクロの綾乃や絆と想いの舞衣くらいかなぁすぐ思いつくのは。

433:名無しさん@ピンキー
08/03/06 00:17:35 9ZjZSS0D
>>440
百合ではないがこんなの妄想した

「なーなー、あたしの体どう思うよ?」
「どうって……」
「ほら。こう……尻はでかくて腰も細いけど胸無いよなとかそんな感じで―って誰が胸無いだぁッ!?」
「待て馬鹿俺は何も言ってない落ち着け落ち着け馬乗りになるな馬鹿ぐああ!」
「巨乳一家なのにあたしだけフツーだとか思ってるんだろ!?知ってるぞこの野郎ウチに来たらねーちゃんとか妹のチチばっかり見腐ってこの助平野郎がぁー!!」(強打)
「ぐあ痛ェ!? いいか、とにかく落ち着けそして聞け! 言うぞ!? 俺は―貧乳派だ! だからお前のチチも―」
「誰が貧乳だぁー!!!」(強打音連打)

ああ、俺は暴力系が好きなんだな……
こうさ、殴っても関係が崩れないのを無意識に確信してて素でノロケてみたり、
そのうち主人公が初めて本気で怒ってなにやら関係が壊れて、
離れてみて初めて離れたくないってことに気付いてみたり、
でも一度関係が壊れたから歩み寄るのが恐かったり、
それで仲直りしたと思ったらなんかちょっと近すぎてあるェー? ってなってドキドキしてみたり―ああ! ああ!
……いかん俺もダバダバだ! 一緒に帰ろうか>>440

434:名無しさん@ピンキー
08/03/06 00:29:10 tAps2fCu
>>445
あいや待たれよ
そこまで書いて、物語化しないとか言わないよな



……ちょっと書いてこようかな、それ

435:名無しさん@ピンキー
08/03/06 00:32:36 9ZjZSS0D
>>446
え? 書かないよ?
そもそも今書いてるのを終わらせないと次に取り掛かれないぜ、という話。

436:名無しさん@ピンキー
08/03/06 03:43:15 UTx1xdin
>>446このスレという妄想のダムが決壊する位の妄想もといSS投下待ってる。
 
>>447こっ・・・この鬼畜野郎!>>446が居なかったら俺たちどうなっていたと思う!?
・・・・・・はい、妄想だけという悲しみの余り悶え死んでたかもしれませんな。

437:名無しさん@ピンキー
08/03/06 21:11:41 iQsv0FEv
ここでなぜか、おバカ小説を投下

ただのパロなので保管は不要っス

438:ナジミマスターヤマト(最終話 希望を胸に)
08/03/06 21:13:18 iQsv0FEv
「チクショオオオオ!くらえサイアーク!新必殺音速馴染斬!」
「さあ来いヤマトオオ!オレは実は一回幼馴染小説見せられただけで死ぬぞオオ!」
ザン!
(攻撃シーン。貴方の好きな幼馴染作品を見せ付けているところを想像して下さい)
「グアアアア!こ、このザ・ナジミと呼ばれる四天王のサイアークが…こんなナジミストに…バ…バカなアアアア」

「サイアークがやられたようだな…」
「ククク…奴は四天王の中でも(ry」
「人間ごときに(ry」

(省略)

「やった…ついに四天王を倒したぞ…これで魔龍城の扉が開かれる!!」
「よく来たなナジミマスターヤマト…待っていたぞ…」
「こ…ここが魔龍城だったのか…!感じる…ベルゼバブの魔力を…」
「ナジミストよ…戦う前に一つ言っておくことがある。
 お前は私を倒すのに『幼馴染のえろシーン』が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」
「な 何だって!?」
「そしてお前の好きな幼馴染ゲーはプレイしたことがあるので、お前の部屋へ解放しておいた。
 あとは私を倒すだけだなクックック…」
「フ…上等だ…オレも一つ言っておくことがある」

「このオレに可愛い幼馴染がいたような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」

「そうか」
「ウオオオいくぞオオオ!」
「さあ来いナジミスト!」
いつか可愛い幼馴染が出来ると信じて…!

439:名無しさん@ピンキー
08/03/06 21:15:25 9ZjZSS0D
>>450
わかっちゃいたが最後の一文で全俺が号泣した

俺? 幼馴染なんていませんよ。四人の従姉妹と小さい頃からよく遊んでましたけど。

440:名無しさん@ピンキー
08/03/06 21:17:17 iQsv0FEv
おわり。そして風のように去る

441:名無しさん@ピンキー
08/03/06 22:08:50 /hnBb7Xp
>>451
それなんて学校の階段?

442:名無しさん@ピンキー
08/03/06 22:25:32 KMLqnaDo
>>451
こりゃこりゃ。
君は幼馴染みの法則を忘れたのかね?


姉妹=幼馴染みは成立しないが
従姉妹=幼馴染みは成立するのだよ。

この「従姉妹優性の法則」を忘れるなんて…
ゲフンゲフン

443:名無しさん@ピンキー
08/03/07 12:20:59 sK7laXwx
幼馴染みで居られる期間って決まっている気がする
仮に22年として、ある人は生まれた時から大卒までの22歳
別な人は中学3年間離れていたから25歳まで幼馴染みみたいな

自分は前者だったけど

444:名無しさん@ピンキー
08/03/08 12:27:12 0nvkTjmS
>>450
幼馴染撲滅委員会を思い出したのは俺だけか

445:名無しさん@ピンキー
08/03/08 20:19:19 mId0IG35
>>456
こりゃ驚いた。実は幼馴染好きと撲滅委員会との死闘という題で
軽いおバカな話を書いていた時に思いついたものなんで遠からず近からずといった感じ

というか、お前おれの思考を読んでいるな?

446:名無しさん@ピンキー
08/03/09 09:16:00 tXR0dxt8
幼馴染みと卒業式

447:名無しさん@ピンキー
08/03/09 18:41:00 6MjwL9J8
>>458
新作のタイトルかと思って正座して待ってるんだけど・・・・?

448:名無しさん@ピンキー
08/03/09 18:52:06 yT+mnPWH
>>459

脱げ! そして背筋を伸ばせ!

全裸で正座、それが基本だ。

449:名無しさん@ピンキー
08/03/09 21:39:17 Sw0o4wg8
幼馴染みを卒業して恋人同士という新たなステップに至るんですね。分かります!

450:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:28:27 XFcN0G1H
>>458に強烈なインスピレーションを受けたのだが、書いたらgdgdになった
反省はしているが投下する。嫌な人はスルーで

451:幼なじみと卒業式
08/03/10 01:30:50 XFcN0G1H
「卒業式、終わっちゃったね」
「あぁ」
人がいなくなった教室。残っているのは二人だけ。
「この教室を使うことも、もうないね」
「そうだな」
ある者は学友と語らって笑い、ある者は別れを惜しんで泣き、ある者は変化を想って遠くを見つめ。
「みんなとも、しばらく会わなくなるんだね」
「だろうな」
その喧騒も今はなく。静けさの中、二人の声だけが教室に響く。

「……拓哉とも、しばらく会えなくなるんだよね」
少女の声音が少し沈んだ調子になる。
今までの、寂しくも温かな気持ちを感じさせる物とは少しちがった。
「……あぁ」
言葉を返す少年の声は、やはり少しだけ寂しそうだった。
彼は春から地方の大学に進学することが決まっていた。
大学の場所はここからは遠すぎる。自然、向こうに下宿することになった。
「引っ越しの準備はできてるの?荷物まとめたりとか」
「まぁそこそこ。だいたい、まだ一週間はあるんだけどな」
彼にとって、その地は全く未知の世界である。
そのため、早く慣れるようにとすぐに向こうに行くことになっていた。
「早いこと向こうに馴染めるといいね」
「同じ日本だし、さして問題はないだろうよ」
「視点が広すぎだよ、それは」
他愛ない会話。今までと同じ、とるに足らない、そんな時間。
だがそれも、もうすぐ終わる。

「それにしても、とうとうこの日が来ちゃったんだなぁ」
「何が?」
「ほら、私たちって今までずっと学校一緒だったじゃない」
「おまけにクラスまで一緒だったな」
他人に話せば冗談と思われるかもしれないが、本人たちにとっても信じられない話であった。
同じ学校に通っていた友人たちも、最後はなまあたたかい視線を向けるようになっていた。
「それでさ、長い休みとかでもずっと一緒に過ごしたでしょ?」
「正確には宿題を手伝わされたんだけどな」
彼女は宿題などはあとから一気にするタイプで、長期休暇の終盤ともなれば、
提出物を堅実に一つずつこなし、ほぼ全てを終わらせた彼にすがることがいつもだった。
「けど、さ」
少年の抗議は右から左に流し、少女は、どこか遠くを見るような目で。
「そういうのも、これからはなくなっちゃうんだなぁってさ」
寂しそうに、つぶやいた。

452:幼なじみと卒業式
08/03/10 01:32:43 XFcN0G1H
ずっと一緒だと思っていた。今までがそうだったのだからと、何の根拠もなく。
でも、それは勘違い。本当は、歩いてきた道がたまたま隣り合っていただけだ。
これからは、二人の道は別々の方角を向くことになる。隣り合う道はなくなるのだ。

教室を静寂が支配する。何とも言えない空気があたりを包む。
「まぁ、今生の別れってわけじゃないけどさ。ちょっと違和感があるよね」
打って変わって、少女は明るい声で話を続けようとする。
いつもの空気じゃなかったから。二人の間に、こんな雰囲気は似合わない。
「でも、これがきっと『卒業する』ってことなのかもね」
今まで続いた習慣、当たり前と思った出来事との別れ。
新しい一歩を踏み出すための、一つの終わり。
「……そう、かもな」
短く返し、少年はしばらく考える素振りを見せる。
「どうかしたの?」
「……ん、あぁ、いや。もう一つ、個人的に卒業したいことがあってな」
「……何、それ?」
「お前との、この関係、かな?」
「?どういう……」
少女の疑問に対し、少年は真面目な顔で彼女を見る。

「茜。俺は、お前が好きだ」
突然の告白。少女の思考が一瞬止まった。
「……へ?」
「正直、いつか言おうと思ってた。けど、お前の隣はいつも俺がいたから、
 今さら別にいいかとも思ってたんだ」
思考の追い付かない少女に構わず、少年は一気にまくし立てる。
「けど、これからは俺はそばにいられなくなる。
 俺がいない間に、誰かがお前の隣に立つかもしれない。
 そんなの俺は、嫌だから」
二人の道が隣り合っていたのは、単なる偶然かもしれない。
しかし、いやだからこそ。これからも隣に立っていたかった。
偶然ではなく、確固とした繋がりを持って。
「だから、幼馴染みの関係は卒業しようと思ってな」
そうして、新たな一歩を踏み出そう。いつまでも、同じ場所には止まれないから。

453:幼なじみと卒業式
08/03/10 01:33:49 XFcN0G1H
「……私もね」
少女はうつむき、ぽつりと言葉をもらす。
「私も、本当は拓哉と同じことを考えてた。
 でも、怖くて。それを言ったら今までの何もかもが崩れる気がして、言えなかった」
「茜……」
「でも、それじゃダメだよね。何もかもが変わっていくのに。
 終わらせたくないと思っていても、いつかは終わっちゃうんだから」
学校生活などはその最たる例だろう。
皆、名残を惜しみつつ、それでも先に進むのだ。自分たちだけ残ることなどできない。
「やっぱり拓哉はすごいね、私が怖くてできなかったこともやって見せちゃうんだから」
「じゃあ、茜……」
彼女は顔を上げた。その顔に浮かぶのは、とびきりの笑顔。
「うん、私も卒業する。私も、拓哉が大好きだから!」
その表情に、少年は思わず見惚れてしまったことは、いうまでもない。

「ね、拓哉。ちょっと思いついたんだけど」
「ん、何だ?」
隣り合ってた二人の道は、これからは分かれていくことになる。
「二人の卒業記念と、新しい門出を祝って、ちょっとやりたいことがあるの」
「やりたいこと?別にいいけど」
それでも今までよりも強い絆が、二人の間にできたから。
「うん、それじゃ目、つぶって」「こうか?」
分かれた道は、いずれ再び近づいて。
「うん、それじゃ……」
「……ん、んむっ!?」
「……ん、終わり」
「……お前なぁ」
「いいでしょ、せっかく恋人同士になったんだし」
「恥ずかしいわ、ったく……」
やがて一つに、寄りそうのだろう。

454:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:37:00 XFcN0G1H
うん、まぁ何だ
とりあえず>>458、タイトルパクってごめん
誰かオレにうまく短くまとめる方法を教えてくれ、まとめようてするとgdgdになるorz
さて逃げるか

455:名無しさん@ピンキー
08/03/10 01:40:38 wTDI1m4c
大儀であった……!

いやあ普通にまとまってると思いますけどね?
これ以上削ると今度は文章が少なくなるような気がしないでもない。

456:459
08/03/10 06:31:36 S9OoiyHh
>>462-466
ありがとっ! やっと正座解除できるよっ!
代わりに顔のニヤケが止まらなくなっちまったが。

457:名無しさん@ピンキー
08/03/10 10:14:51 l6zfmqfB
乙、普通にまとまってるし面白いよw

で、二人の処女童貞卒業式篇マダー?

458:名無しさん@ピンキー
08/03/10 13:33:43 MJvzWe3B
>>466正直ほんの少しだけ期待してた。
でもまさか俺の妄想を本当に書いてくれるなんて、予想外だった。 
ありがとう!GJ!そしてこんな甘いほのぼのを途中で終わらせないでくれ!
 
・・・てか白状すると、こんなこと書いたのも息子がもうすぐ卒業して、【男の】幼馴染みと離れ離れになるって嘆いてたからなんだぜ。

459:名無しさん@ピンキー
08/03/10 20:45:14 9ddqAxMl
>>470
アッー?

460:名無しさん@ピンキー
08/03/10 23:16:03 XFcN0G1H
>>470
やっぱり寂しいだろうな、そういうのは
同性なら友情とか強そうだし

自分が書く物は「幼なじみと〇〇〇」にしたい人からちょっと質問なんだけど、
やっぱりその、二人が肉体的につながる場面ってあったほうがいいのかね
エロパロスレだからもちろんあったほうがいいんだろうけど、
本気で未知の領域だからうまく書けるかわからないのよね
>>1にはなくてもいいとはあるが、やはり今回そういう要望があるみたいだし……
まぁこうやって妄想を投下するのもここ最近はじめたことなんだけど

461:名無しさん@ピンキー
08/03/10 23:17:34 XFcN0G1H
>>470
やっぱり寂しいだろうな、そういうのは
同性なら友情とか強そうだし

自分が書く物は「幼なじみと〇〇〇」にしたい人からちょっと質問なんだけど、
やっぱりその、二人が肉体的につながる場面ってあったほうがいいのかね
エロパロスレだからもちろんあったほうがいいんだろうけど、
本気で未知の領域だからうまく書けるかわからないのよね
>>1にはなくてもいいとはあるが、やはり今回そういう要望があるみたいだし……
まぁこうやって妄想を投下するのもここ最近はじめたことなんだけど

あ、忘れちゃいけない。読んでくれた人ありがとうね
感想あるとそれだけで頑張れるぜ

462:名無しさん@ピンキー
08/03/10 23:24:30 XFcN0G1H
長い上に二重投稿とかorz
連投になるけど、ごめんなさい

463:名無しさん@ピンキー
08/03/11 00:19:56 AyGQOiJc
>>473
見せ方によってはキスとか手を繋ぐだけで、下手なラブシーンよりエロいんだぜ?
まぁ、言うまでもないが、ここは幼馴染を萌えるスレなので、萌えれるシチュならなんでもいいと思う。
エロくて更に萌えれるんならそりゃ凄いが。

464: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 00:46:04 2ZARaFPU
SS投下します。
幼馴染ものですが同時にお姫様もので歴史もの。
スレ違いとの指摘がありましたら発表場所を移します。

465:名無しさん@ピンキー
08/03/11 00:50:03 gZoyiNsk
幼なじみであるのなら、拒む理由はどこにもない
さぁカモン!

466: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:00:07 2ZARaFPU
『ラピスラズリ』


第一章


午前の講義を終えて私は急ぐ。
厨房に入ってしばらくしてそこから飛び出すと先ほど以上の勢いで今度は裏門を目指す。その手に抱えているのはお手製のランチだ。
「アンナに料理なんてできるのかい?」
そう言ったあいつを見返したくて城のシェフに無理を言って、昨日の内から準備をし始めて、つい先ほど完成したもの。
なんでもそつなくこなす姉のテレジアと違って自分は、決して器量がいいとは言えない。厨房は戦場の如く乱れ、今は給仕人たちが後始末に追われている頃だろう。
そもそも王族なんだから料理をする必要なんてないんだしと思って、今までは姉のスイーツ作りの誘いもことごとく断ってきた。しかし、
「絶対見返してやるんだから……」
幼馴染みのヨハネに焚きつけられては黙ってはいられない。
このお弁当がなくても今日は彼に伝えたい事があるのだ。自然に足取りは軽くなり、城の裏門を出る頃にはすでに駆け出してしまっていた。
城の正面には大きな城下町が広がっているが、裏門のほうはすぐに山林に至るためそれほど人の手は入っておらず人影は皆無だった。
もっともこの姿を見られたところで、またおてんば姫が何かやってる、と呆れられるだけで呼び止められもしないのだが。
小川を飛び越えた先、城と山のちょうど中間の小高い丘の上に目標の場所はある。
急斜面は視界の半分が青く染まるほど。
「ちゃんと整地しなさいよね、まったく」
悪態をつきながらも足取りが緩まる事はない。土に着くドレスの裾も今日はいつも以上に気にならない。
鼻腔をくすぐる甘い匂いと周りを飛び交う蝶々たちが目指す所が近い事を教えてくれる。
斜面を登りきる。目の前には一面の花畑。
築城のとき本来ならこの辺りまで範囲を伸ばすつもりだったらしいのだが、そこは貧乏領主。
見事に計画は頓挫し中途半端に整地した土地は野生の植物と、人の手による観葉植物が入り混じる節操のない花畑になっている。
その中心、打ち捨てられた作業小屋におっかかるようにして彼はそこにいた。本を手にしているがそれを読むでもなく、ただ目の前の花を見つめ静かに佇んでいた。
その仕草に思わず鼓動が高まってしまう。運動によるそれとは明らかに異なる動悸。
少し悔しい。本当なら彼にこういう想いをさせて、自分は高みから見物というのが主従関係に基づいた正しい関係だろうに。
悔しい。
だから駆け出して、
「ヨハネー!!」
名前を呼びながら彼に思いっきり飛びついてやった。


467: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:00:56 2ZARaFPU
ごん、とあまり好ましくない音が聞こえた。
抱きついた胸から顔を上げて、彼の様子をうかがってみる。
「つっ~~~ぅ……」
頭を抱え悶絶するヨハネ。どうやら抱きついた反動で後ろの壁に頭をぶつけてしまったらしい。
いい気味だ。分不相応にも私をあんな気持ちにさせるからそういう天罰が下るのだ。十字を切って神様に感謝。
「いきなり何をするんだよ!」
「あら、お姫様の熱烈な抱擁を受けての第一声がそれ? 臣下としての身分をわきまえなさい、ヨハネ」
「じゃあ君はもう少しお姫様の自覚を持ってくれよ、アンナ」
皮肉を返しながらも、ヨハネの腕は私の背中に回されてる。それだけで私の中は満たされてさっきまでの意地悪な気持ちはどこかにいってしまった。
「あはは、ごめんね。急いでたから。そんなに痛かった?」
「うん。目の前を火花が走った。凄い威力だったよ……ひょっとして少しふとっ」
「それ以上言ったらここより綺麗なお花畑に連れてっちゃうわよ?」
また別の私が顔を出す。ヨハネの顔が引きつっていく。
「アンナ……冗談だから、その壮絶な笑みを引っ込めてくれ。怖すぎる」
「あなたが悪いのよ。変な事言うから……っとこんなことしてる場合じゃなかった」
私は右手で持っていたランチボックスを……あれ? さっきまであったはずなのに今私の手は空だ。きょろきょろと辺りを見回す。
「あー、ひょっとして探し物はあれかい?」
ヨハネが指差す先、私の後方にランチボックスは無残にも打ち捨てられていた。
そうか、さっき飛びついた時に落としてしまったのか。いそいそと拾いに行き、箱を覆っているクロスを解く。何もはみ出してはいないし、どうやら中身は無事のようだ。
「何それ?」
ヨハネが不安そうに訊いてくる。
「お弁当」
「お弁当?」
「お弁当」
「誰の?」
「私とヨハネの」
「作ったのは? テレジア?」
「姉さんは今病床だもの」
「じゃあ、城のシェフ?」
なんだか会話を重ねていくごとに、ヨハネの声がトーンダウンしていくような気がするのだけれど。
「私」
「…………」
「わたくし、アンナがヨハネのお弁当を作ってまいりました」
妙な間が私とヨハネの間に流れる。ヨハネはすくっと立ち上がると、
「さあ、午後は武芸の訓練があるから急がなくちゃ」
そんなことを言って歩き出そうとした。それを、
「待ちなさい」
腕を思いっきり引っ張ってこちらに引き寄せる。


468: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:01:28 2ZARaFPU
「あなたこの前なんて言ったか覚えてる?」
目の前にヨハネを強引に座らせ、私はその前に鎮座して彼を問い詰める。少し考えて彼は、
「テレジアの焼いたクッキーはおいしい」
「その後」
「今度会えるのは三日後の昼休みからだね」
「その前」
「えーと……」
「もう、いいわ。私が説明してあげる。あなたが姉さんのクッキーをあんまりほめるもんだから、
私だってそれぐらいできるわよって言ったの。そしたらあなたったら、アンナに料理なんてできるのかい? そう言ったのよ」
「そうだっけ」
「そうよ。だから今日はお弁当を作ってきたわけです」
すっ、とランチボックスをヨハネの目の前に差し出す。手でふたを開けるジェスチャーをしてヨハネに先を促す。彼は目を一度閉じて、勢い良く私の手作り弁当と対面した。
「あれ?」
その第一声がこれだ。さっきもそうだったがこの男時々凄く失礼だ。
「あれ? って何よ?」
「いや、意外にまともだなって思って……多少盛り付けが乱れてるけど、ちゃんと火は通ってるみたいだし、いい匂いもする」
主従関係をわきまえない物言いに腹が立つがそれはおいておく事にする。今は一刻も早くお弁当を食べて欲しい。
そんな私の気持ちを感じ取ったのかヨハネはおずおずと手を伸ばし、それでも最後は一気に料理を口に運んだ。
もぐもぐと咀嚼して、ごくりと飲み込む。そんな彼の動作を見ているとなんだかとても幸せな気分になれた。
「……おいしい」
そうしてヨハネはやっと私の満足する答えを返した。少し自信がなかっただけにその反応は本当に嬉しかった。
「あったりまえじゃない! この私が作ったものがおいしくないわけないでしょ!」
それでも動揺は見せまいと虚勢を張る。ヨハネはというと、
「特別おいしいというわけではないけど、十分に及第点というか、期待してなかっただけにおいしさ倍増というか……この際城のシェフの味付けにそっくりだという事は黙っておこう」
なんだかぶつくさと独り言をつぶやいていた。いまいち釈然としなかったが、おいしいと言ってくれた事だし、まあよしとしよう。


469: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:02:51 2ZARaFPU
そうして二人きりのランチタイムとしゃれ込み、すっかりランチボックスを空にしたところで、のどが渇いたのでヨハネに水を汲みに行かせ、
その後は二人で寝転んで何をするということもなく、初夏の暖かな日差しの中でただ呆然と空を眺めていた。
「ヨハネ」
唐突に話しかける。ヨハネは「ん?」と呼びかけに応えこっちを向く。
「好きよ」
「僕もだ」
短いやり取り。それでも私達の想いは十分に通じ合ってる。手を動かし彼の指先に触れる。握り返される指。その確かな感触に自分がとんでもない幸せ者だと自覚する。
「話があるの」
「なんだい?」
一回息を大きく吸い込んで、それから今日の本題を口にした。
「姉さんの結婚が正式に決まったわ。予定通り相手は隣国のカール皇太子」
「……おめでとう」
そう言ったヨハネの口ぶりは暗く、心から結婚を喜んでいるのではない事が伝わってくる。正直私もこの結婚には賛成できない。
「大国との縁談だ。これでこの国も安泰かな」
全く気持ちのこもってない口調。ヨハネもきっと私と同じ気持ちなのだ。
「そうね、でも私は納得できない。姉さんにも想い人の一人ぐらいいるでしょうに、こんな政略結婚……姉さんが可愛そうよ」
「しょうがないさ。こういう時代だ。君の父上も国の未来を案じて出した結論だろ」
「でも姉さんの未来はどうなるの? こんな望みもしない相手との契りなんて私だったら堪えられない」
声を荒げてしまう。跡取りの男児が生まれなかったこの国を守っていくにはそれが最善の方法だと頭では理解できても、心は静まってくれなかった。
「テレジアの未来がどうなるかなんて誰にもわからないさ。彼女は賢く優しい人だし、誰からも好かれる。強国の女王としてそこで新しい幸せを見つけられるかもしれない」
それに、とヨハネは付けたし、
「これで僕達は無事に結ばれる事ができる」
 核心に触れた。
そうなのだ。隣国との同盟が成立し、この国が安定すれば私のヨハネとの結婚も認められる。王女と一家臣の次男坊に過ぎない私達の十五年越しの恋が実る。
それは普段何の要求もしない姉さんのたった一つの望みでもあった。姉さんはことあるごとに、
「私は国のために生きます。でもアンナは彼女の想う人と結ばせてやってください」
とお父様に訴えていた。今回の結婚もお父様がその要求を呑む事で、姉さんも了承したのだ。
「だからよ、なおさら姉さんが可愛そうだわ……それに私さっきみたいな事を言っててもやっぱり、心のどこかで安心してる。
ああ、これで私はヨハネと結ばれるって、まったく嫌な妹よね」
隣でヨハネが立ち上がる気配がした。握っていた指はいつの間にか解かれている。さえぎられる陽光、目の前にヨハネの顔があった。
「でもだったら、いや、だからこそ僕達は幸せにならなきゃいけない」
「そう、よね」
頷いてみせる。それは姉さんの優しさに託けた都合のいい自己愛に過ぎない。それでも、姉妹の愛情よりも、国の未来よりも、どうしようもないほどに私はヨハネのことが好きなのだ。
どんどん視界が暗くなっていく。彼以外何も見えなくなる。
つぶれていく花の上で、解かれた指は先ほどよりも強く握られていた。


470: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:03:46 2ZARaFPU
キスの続きをせがんでくるヨハネ。胸に当てられた感触を拒絶しようとお腹を蹴飛ばして、距離を開ける。
「結婚するまでキス以上は駄目だって言ってるでしょーがっ!!」
「何だよ、今日は大丈夫だと思ったのにな」
ヨハネはお腹をさすりながら不満を漏らした。
まったくしんみりとした雰囲気にすっかり油断してしまった。こともあろうに婚礼前の娘の懐に手を入れようとするなど何を考えているのだ。
しかもこちらはプリンセスだ。無礼にもほどがある。
「絶対駄目なんだからね」
ちぇっ、と舌を鳴らすヨハネに近づく。
「今はこれだけで我慢して」
今度は私から唇を重ねた。そのまま彼を後ろに押し倒す。私達は抱き合って、花畑を転がる。汚れていくドレスも、乱れていく髪も気にならなかった。
互いの温もりと唇の感触を堪能した後は仰向けでまた空を見る。私はこうやって空を見上げるのが大好きだった。
流れていく雲、咲き誇る花の薫り、肌をくすぐる草の感覚、繋いだままの手から伝わるヨハネの鼓動と温もり。その全てがどうしようもなく心地よかった。
「それにしても急だな」
心地よさのあまりまどろんでしまっていた、意識が呼び戻される。
「んー、何が?」
「テレジアの結婚が、さ。彼女最近体調を崩してるんだろ? 何もこんなときにそんな事決めなくていいだろうに」
「それは、そうだけど……お医者様の話じゃそれほど酷くはないみたいだし、父様もこういうことは早いほうがいいって」
私もそれは気になっていた。でもただの風邪だという話しだし、なにより今朝の姉様はそれほど体調が悪いようにも見えなかった。
「それならいいんだけど」
なんだか急に不安になってきた。私はそれを打ち消そうと、
「ねえ、街に出てみない? 最近南からのキャラバンが来たらしくて、城の給仕たちが噂してたの。何か珍しいものが見れるかも」
無理やりにも明るい声を出した。
「ああ、それは面白そうだ。早速行ってみようか?」
ヨハネは勢いよく体を立ち上がらせる。手を繋いでいる反動でこちらも半身を引き起こされた。
「さあ」
彼に習って私も立ち上がる。そして二人で駆け出した。その足取りは軽く、先ほどまでの不安はすっかり薄れていた。


471: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:04:41 2ZARaFPU
街の真ん中に位置する広場、城への通りのすぐ近くにそのキャラバンは屋台を構えていた。人々がごった返す中やヨハネと二人で歩いていく。
「や、姫様。ごきげんよう」
「ああアンナ様、こんにちは」
街の人たちも馴れたもので王女である私が現れてもなんら驚いた様子もない。こちらも気さくに挨拶を交わし、屋台に近づいていく。
「わあ、綺麗ね」
どうやらここは貴金属や宝石を扱っているらしい、遠方からのものなのか王族である私ですら目にしたこともない珍しいものが並んでいる。
「うん。本当に綺麗だ……ひょっとしてここにあるものは新海路から来たものなのかな?」
「いや、今回持ってきているものは陸路、東南からのものがほとんどだよ」
ヨハネの疑問に答えたのは店番をしている青年だった。一見したところまだ年若い。私達からほんの二、三歳しか離れていないだろう。
「あなたこのキャラバンの一員なの?」
「ああ、こっちに来るときはよく同行させてもらっている」
「ふーん……」
先ほどよりもじっくりと観察してみる。行商をしているわりには綺麗な肌をしているし、物腰も柔らかだ。それに着ている服も旅商人のそれではあるが高級感漂う生地を使ってる。
大方どっかの大商人の後取りか何かで今は修行中だったりもするんだろう。
南方は例の大国の領土を越えれば商人の領域だし、ひょっとしたらそのあたりの出身かもしれない。
「こっちの宝石も綺麗だなぁ。ねえアンナ?」
ヨハネの声で意識が宝石に戻される。南方からの奇妙な来訪者は気になったが、それよりも今はこの宝石たちの方が重要だ。
ふと、視界の隅に移った宝石に目を奪われた。それを指差しながら話しかける。
「ねえヨハネ、あれって……」
「ああ、あの丸くて青いの? 
……なんだろう? サファイア、じゃあないよね。なんていうか……」
青い、深い青色。もはや藍との区別がつかないほど色が濃いのにそれでもどこか透明性を持っている。それに白や金色のまだら模様が混じっている。だからそう、まるでさっきまで眺めていた、
「空のかけら、みたいだね」
ヨハネの言葉に驚いてそっちを向く。
「私もそう思ってた。まるでさっきまで眺めてた空みたいだなって……」
「僕もだ。同じこと考えてた」
世界中に二人だけしかいなくなったような錯覚に襲われる。
「ヨハネ」
「アンナ」
見つめ合う。彼の碧眼の中に映る私の顔、そして私の金髪、それはまるであの宝石みたいで、
「はははっ」
吸い込まれそうになったところを素っ頓狂な笑い声が呼び止めてくれた。
余計なことを……。


472: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:08:10 2ZARaFPU
「二人とも仲が良いんだね。それに石を見る目もある、サファイアってのもあながち間違いではないし、それにその比喩、まるで古代の学者だ」
「古代の学者?」
「ああ、古代帝国の博物学者はこの宝石のことをこう呼んでる“星のきらめく天空の破片ってね。もっともこれは夜空のことを指してるんだけど……。
うん。なるほど、そういう見方もある。色々な用途、色々な姿を持つのがこのラピスラズリの特徴でもあるし」
ラピスラズリ? 私はその聞きなれた名前に驚いた。
「ラピスラズリですって? この綺麗な宝石が?」
城にもラピスラズリを使った装飾品はいくつかある。しかしそのどれもがこのような綺麗な姿ではなかった。なんだか煤けたぼんやりとした印象しか与えられなかった。
「言ったろ、いろんな姿があるって。こんなに綺麗な色合いと模様のものは結構珍しいんだよ。もっとも交易路の発展のおかげでそれほど価値は高くないけどね」
へえー、とヨハネと二人して感心する。同じ宝石でもこうまで印象が変わるものなのか……。
「気に入ったわ、これ頂くわね。おいくら?」
「代金はいいよ」
「は?」
「ああ、失礼しました……」
ここで店番の青年はわざとらしくかしこまり、咳払いをすると、
「お代金など受け取れません。第二王女アンナ様」
そう仰々しく言ってのけた。
「気付いてたの?」
「別に隠してもなかったでしょう。この国のアンナ王女様はとんでもないおてんばだと話には聞いていたけど、
いや、実際その通りでしたね。一人しか護衛もつけずにこんなところにくるなんて」
かんらかんらと笑いながら青年は無礼な口をきく。正直少し腹が立ったが、それよりも疑問だった。
「なんでよ。それなら世間知らずのお姫様に法外な値段をふっかけよう、とかは思わないわけ? 商売人根性が欠けてるんじゃないの?」
「思わないさ。ここではもう随分と儲けさせてもらったし、今回の行商は今日で終わり、帰りの荷物は少ない方がいい。そして何より、その宝石は君にふさわしい」
まだ少し言いたいことはあったがこれでは素直に受け取るしかない。
「ありがとう」
そうお礼を言ってそのラピスラズリを受け取った。すると彼は肩をすくめ両手を上に向けると、
「あー、お礼はいいからその御付の彼をどうにかしてくれないか?」
そんな変な事を言ってきた。
「ヨハネを?」
横を見れば普段は温厚なヨハネが鋭い目つきで青年を睨んでいた。視線を下げればその右腕は剣の柄を握っている。今にも切っ先を目の前の男に突き出しそうだ。
まったく、こういう時の忠誠心は人一倍なのだから。
「ヨハネ、控えなさい。もう用事は済んだのだから戻るわよ」
騎士に接する王女の口調で私はヨハネを制した。すっと彼の体から緊張がとかれる。
「わかったよ、アンナ」
彼のいつも通りの返事を聞いて、私は微笑む。そうして最後に店番の青年に別れを告げ、広場を後にした。
「お幸せに、お二人さん」
遠くからかけられたその言葉で、ヨハネがまた不機嫌になったのは言うまでもない。


473: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:09:38 2ZARaFPU
「ねえ、なんでさっきはあんなに怒ってたの? 確かにあの人の態度は褒められたものではなかったけど」
広場から城への帰り道、私はヨハネに理由を問いただしてみた。
「なんでも何も、一国の王女に向かってあの態度は無礼すぎるよ」
「でもあの人最初っからあんな感じだったじゃない、なんでまた急に」
「最初は気付いてなんだからしょうがないって思ってた。でもあの人は気付いてたんだ。
それなのにあんな態度……君に仕える騎士としては許せない」
ヨハネの言う事はもっともなのだけど、建前ばかりで本音を隠してるような気がする。
「でも街の人だって似たようなものじゃない。あの人たちみんな私のことおてんば姫って呼んでるわよ」
「親しみを持つ事と無礼な事とは違うよ。街のみんなそう言いながらもちゃんとアンナに敬意を払ってる。でもあの人の口ぶりはまるでアンナを見下すようだった」
「そう? 私はそんな気は特にしなかったけど」
私の言葉にもヨハネは、
「いや、彼は無礼すぎた」
と語気を荒げた。
やっぱりおかしい。あれぐらいの言葉でヨハネがそれほど腹を立てるとはどうにも思えなかった。私はもう一歩踏み込んで訊いてみる。
「本当はそれだけじゃないでしょ? あなたが丸腰の旅商人相手に剣を握るなんてありえないもの」
「…………」
気まずそうに沈黙するヨハネ。
「答えなさい、ヨハネ。これは王女としての命令よ」
口調はあくまでもアンナのままで私は彼を詰問した。
「……あの人、宝石を渡すとき直接アンナに渡した。その時君の指にも触れた」
「へ、そんなことで?」
意外なヨハネの言葉に間抜けな声を返してしまう。
「そんなこと、なんかじゃない。旅商人風情が王族である君に触れるなんて本来あってはならないことだ。
君も軽率すぎる。あの時は僕が近くにいたんだからそういうことは僕を通すべきなんだ」
大層な言い分ではあるが、つまるところヨハネは、
「妬いてたんだ」
騎士としての忠誠心、そして恋人としての愛情の両方からヨハネはあの青年を睨んでいたわけだ。
横を歩くヨハネは何も言わなかったが少し早くなった歩調がその推測が正解である事を示していた。
「それにしても剣を抜こうとまでするなんて、少しやりすぎよ。あのときのヨハネったら模擬戦のときよりおっかない顔してたわよ」
その何気ない一言にヨハネは歩みを止めこちらを振り向いた。
すでに傾き始めた太陽に照らされたその顔は息を呑むほど真剣な表情だった。


474: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:11:15 2ZARaFPU
「帯剣していた」
「え?」
「アンナはさっき丸腰っていったけど彼は帯剣していたよ」
突然のことで思考がまとまらない。大体彼はどこにも刃物なんて身に付けてなかったと思うのだけれど。
「腰の後ろの方、正面から死角になるところに、多分短剣を差していた。
始めは気が付かなかったけど、宝石を取りに行くときの体の重心がおかしかったから」
良くない想像が頭を過ぎる。武力の象徴である刃物をわざわざ死角に隠す、それの意味するところは……。
「あん、さつ?」
こくり、とヨハネは頷く。
「僕もそう思った。だから少しでもおかしな動きをしたらいつでもその首をはねてやるつもりだった」
背筋が凍る。王族として育ってきたからにはこういうこともありえるだろうと覚悟はしていたが、まさか本当に……。
「か、考えすぎじゃないの、ほら彼の屋台は貴金属を扱ってたしそれで護身用に、とか」
焦燥感のせいか声が上擦っている。そんな私を見てヨハネは大きく息を吐くと、
「多分ね。交易路が整備されているといってもこの辺は未だに物騒だし。
遠方からの旅なら短剣の一つや二つを身に付けているのはむしろ当然といえる。
何より彼はそんなそぶりは微塵も見せなかった。今考えれば過ぎた心配だったと思うよ」
そう言って、いたずらっぽい微笑みをこちらに向けた。
「へ?」
「いや、ごめん。もう少しアンナに王女としての自覚と慎ましさを持ってもらいたくてね。ちょっと意地悪してみた」
張り詰めていた糸がぷつりと切れた。脱力感、次いでわきあがってきた感情は岩をも溶かすような激しい怒り。
「ヨハネーーっ!!」
私が叫び走り始めたとき、ヨハネはすでにトップスピードへ達し城の庭園へと向かっていた。
今日三度目になる全力疾走。それでも疲れた感じは全然しなかった。


475: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:13:40 2ZARaFPU
なだらかな上り坂を進み街と城を隔てる川を越えれば、そこは色とりどりの花に飾られた正面庭園だ。今の季節は特に薔薇が綺麗に咲いている。
でも私達がそこまで行く事はない。
庭園にはいつだって人が多いし、ヨハネと一緒にいるところを見ると、城のみんなはいい顔をしない。
走ってきた私達は橋を渡り終えると斜面を下って川べりに向かう。
「待ちなさいってのっ!」
声を張り上げる。下り坂にもひるまずスピードは緩めない。それがいけなかったのか、
「あっ!」
少し大きめな石に躓いてしまった。
それでも私の体が地面に着く事はない。当然のようにヨハネが私を支えてくれていた。
「お気をつけくださいませ。アンナ様」
彼はわざとらしく言ってそのまま私の体を持ち上げた。
「ひゃっ」
膝と脇に手を差し込まれる形で抱き上げられる。少し不安定な感じがして怖い。
「な、何をするのよ! 降ろしなさい!」
「そういっている割には君の腕は僕の首に巻きついているんだけどな」
さっきはずみで抱きついてしまったのだ。決してヨハネのことを許したわけでも、こんな抱かれ方が好きなわけでもない。
私の更なる抗議の声も無視してヨハネはどんどん進んでいく。結局私が降ろされたのは橋の下に至ってからだった。
「はい、到着しましたよ。お姫様」
「到着って何よ。あれぐらいじゃ、さっきのことは許してあげないんだからね」
「ごめん。ほら、なら昼のあの体当たりでおあいこってことで」
「あの借りはお弁当で返したでしょ! 今度はそっちが返す番なんだから」
ヨハネはやれやれと首を振って呆れたように笑った。そして、
「じゃあ、これで」
唐突に私の唇を奪った。
「んっ」
お昼のキスとは違う。私の中にヨハネの舌が侵入してくる。
「やっ、ちょっ……ん~~」
後頭部を抑えられて私の逃亡はあっさりと阻止される。それで、もう逃げようという意思はなくなった。
私の方からも舌を伸ばしヨハネの口内を愛撫する。
「ん、ちゅっ、ふぅ……はぁっ」
舌を吸いあって、唾液を送りあう。
まるで耳のすぐ後ろに心臓があるかと錯覚するぐらい鼓動が高まっていた。頭に血が上って意識が霞みがかる。
気持ち良い。こうやってヨハネと深い口付けをしているだけで下腹部は疼きを覚え、私の奥の方は潤ってしまう。
ひょっとしたらズロースにはすでにしみができているかもしれなかった。
長かったキスはそれでも終わってみれば刹那の出来事のようだった。離れていくヨハネの感触が名残惜しくて舌を伸ばす。
そんな醜態を見られたことが恥ずかしくって私は地面を睨む。
「可愛いなアンナは」
今度は正面から抱きしめられる。私は抱きしめ返すか一瞬迷ったけれど、やっぱりそれは一瞬だった。
気付いたら私の腕はヨハネの背中に回されていた。
橋の下で涼しいはずなのに、二人分の熱のせいで私の肌はじっとりと湿っていた。


476: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:14:32 2ZARaFPU
「ヨハネはずるいよ……いつも」
そうだヨハネはずるい。自分はいつも飄々としていてあせった様子もみせないのに、王女である私をこんな気持ちにさせるなんてずるい。
「そんなことないさ」
ぐいっと胸に引き寄せられる。聞こえてきたヨハネの心音は私に負けないぐらい高まっていた。
「僕が普段どおりに見えるのはアンナと会っているときはずっとこんな感じだからさ。
 十二年前の君の誕生日に初めて会った、そのときからずっと」
やっぱりずるい。こんな事を言われたらもう何も言えなくなってしまう。
私はせめてもの仕返しにと、彼の背中に回している手に目一杯力を込めた。

夏だというのに橋の下はひんやりと涼しかった。
あの花畑と並んでここは私のお気に入りの場所だった。橋のおかげで二人の姿が見られることもなし、わざわざこんなところに下りてくる物好きもいない。
たまに上を通る馬車の車輪の音が聞こえるだけで、城と街の中間点であるこの場所はとても静かだった。
キスの後は二人で座り込み他愛のない話をして、笑いあった。
太陽の光で水面が紅く染まりだしたころ、私達は立ち上がって城に向かった。
橋の側で私はここまででいいと言ったのだけれど、ヨハネは騎士の義務だからと言って正門まで送ってくれた。
「今度会えるのは五日後の昼からだから」
「ああ、わかったよ。あの花畑で待ってる」
いつも通りの約束を交わして私たちは別れた。

そして、

その約束が果たされることはなかった。


477: ◆Ms/Pnuh3DY
08/03/11 01:16:44 2ZARaFPU
長くなりますのでとりあえず今回はここまでで。
二章以降も順次投下していく予定です。

感想等ありましたら、聞かせていただければ幸いです。

478:名無しさん@ピンキー
08/03/11 01:23:13 gZoyiNsk
>>489
GJです
本当は身分違いなんだけど、幼なじみってのはそれすらも超越するから実にいい
ちょっぴり不穏な感じですが、wktkしながら続きを待ちますぜ

479:名無しさん@ピンキー
08/03/11 03:34:51 BcPzb6x+
>>489
続きが気になる締め。
この後、どうなるんでしょうか?
おてんば王女さまに萌えながら第2章を待ちます!

480:名無しさん@ピンキー
08/03/11 06:57:05 JVVhTv50
GJだけど、何でお姫様スレじゃなくて幼馴染スレなんだろ?
お姫様スレって幼馴染作品多いからあっちのスレの作品
見てるみたいだ

481:名無しさん@ピンキー
08/03/11 11:20:19 sC+vHu9k
そんなこと言ったらおめー>>2にある関連スレとも条件が合致する幼なじみ話も
たくさんあるぞ

書いた人がどちらを重点的に書きたいかで変わってくるんだろう

482:名無しさん@ピンキー
08/03/11 21:50:55 BcPzb6x+
幼馴染スレでのSSに初挑戦します。
短いですが、よろしくお願いします。

483:ずっと、いっしょ
08/03/11 21:51:41 BcPzb6x+
「また、そのブランコ乗ってるんだあ」
高校の制服姿のまひるは、公園でひとりたそがれる竜太をからかった。
「だって、懐かしいじゃん。ここ」
そんな、言い訳をしてポーンと蹴ってブランコを漕ぎ出す。
「わたしも、乗ってみようかな」
開いている横のブランコに、竜太と並んでまひるは腰掛ける。
「公園ってこんなにちっちゃかったんだね」
まひるは、辺りを見回しながら懐かしそうに語るが、少し憂い気な表情を時折見せる。
「昔、一緒に遊んだ公園にはもう行けないけど、ここってホラ、
そっくりすぎて思い出すんだよね。あの大きな木とか」
「ああ。あの木の前で幼稚園の頃、お前がおにごっこでイヌのウンコ踏んだ事とか」
「うるさいな!竜太だって、水鉄砲をベンチにおいて帰ったのを忘れて『なくなったよお』って泣いてたくせに」
ぐいぐいとブランコを思いっきり漕ぐまひる。ボブショートの髪が一緒に揺れていた。

「でも、あのことが無かったら、ずっといっしょにならなかったのかも」
「そうな、腐れ縁かあ」
「そんなのじゃないよ。わたし、あのときの竜太に感謝してるんだしね。ちょっと…うん。なんでもない」
まひるは、何か言おうとしたが、照れくさくなってやめた。
さらに空気が読めない竜太がフッと笑い、まひるを追い詰める。
「何だよソレ。もともとは、まひるがドンくさいからだよ」
「うるさいな!もう!」
まひるは、プーっとふぐのように膨れた。だが、立ち直りの早いまひる。
「ねえ、いつものトコ。久しぶりに行かない?」
ふと、思い出したように竜太を誘ってみる。
「そうな、オレもそろそろ行きたいなあって思ってた所だよ」
まひるは、竜太の手を引っ張り駆け出し二人は公園をあとにする。


484:ずっと、いっしょ
08/03/11 21:52:08 BcPzb6x+
いつもの歩きなれた大通り。人はまばら、車は殆ど走っていない。
広い歩道を、竜太が車道側、まひるが内側を一緒になって歩く。
「この先だっけ、ネットカフェ」
「あの交差点の先だよ」
交差点で信号を待つ。信号が変わるまで、二人はじっと赤く光る信号を見つめていた。
青信号。まひるは、一歩進む事をすこしためらった。
「ねえ、一緒に手をつなご」
ちょっと先に進んでいる竜太を呼び止める。
「うん、そうな」
まひるは、まるで恋人同士のように竜太の腕をしっかり握り、寄り添いながら横断歩道を渡る。
横断歩道を渡り終えると、ゲームセンターが入居するビルの入り口が見えてきた。
そのビルの8階に目的地があるのだ。まひるは竜太を引っ張るように、自動ドアに向かう。

8階、ネットカフェのカウンター。
ここは30分単位で利用でき、お手ごろ価格なので評判の店。
「えっと、30分のコースだと…うん、余裕余裕」
しかし、竜太は自分ポケットをまさぐりながら、少し焦っている様子。
「…やべえ、オレのサイフ…」
「おやおや?竜太のうっかり屋さん。忘れ物大王だけは、ちっちゃい頃から変わんないね。安心したよ」
「うるさいよ!うーむ…」
「はいはい、わたしが貸してしんぜよう」
「なま言うな。まったく」
竜太はまひるの顔を見るのをわざと避けながら、1000円札を受け取った。
「今度会った時、返すからさ」
「ふふふ、いつでもいいよ。なんせ、まだ駄菓子屋さんの10円チョコの貸し、まだ返してもらってないからね」
竜太は、よくそんな小学生の頃の話覚えてるなあ、とまひるに感心しながら呆れている。


485:ずっと、いっしょ
08/03/11 21:52:41 BcPzb6x+
この店の客層は、若い人たちが多いのだが、年配の人間もちらほらと見受けられる。
「ここにしよっ」
まひるの一声でブースを決める。
「久しぶりだから、ちょっとワクワクするね」
PCの前に座り、カチャカチャとキーボードを叩くまひる。
隣の席で、竜太がコーラをストローでちゅうちゅうと飲みながら眺めている。
「この住所を思い出すのも、何ヶ月ぶりかなあ…」
まひるの手が、一瞬止まり寂しそうな表情をする。
横顔を見ていた竜太、また空気を読まずに横から割り込み、まひるに続いてキーボードを叩く。
「えっと、城北区桜ヶ丘5丁目…」
竜太もこの住所を口にするのも何ヶ月ぶりだろう、と懐かしむ。
「おせっかいなんだから、竜太は」
キーボードの入力を終えると、検索ボタンをポチっと押す。モニターには町の上空画像が広がる。
「あっ、桜高校じゃん。変わんねー!」
「コレコレ!私の家だね」
ごく普通の一般的な一軒家。それでも、自宅が写るとちょっとわくわくする。
「そうそう、コレつけなきゃ」
装備されているヘッドフォンを取り出し、プラグに差し込む。残念ながら一つしかないので、まひるに譲る事に。
マウスを動かし、ホイールを回しながら画像をズームアップすると、屋根を突き抜け家の中が映し出された。
画像はリアルタイムで更新され、中の人物が動いている所まで分かる。
さらに、ヘッドフォンからは人物の声、音が伝わってくる。
二人はしばらく画像をじっと見つめる。
「あれ、おまえの母さんと兄貴だろ…」
「うん」

まひるの母親と兄は、何か話しているのを娘は静かに聞いている。
「あれから3年ね。この季節なるとなんだか…」
「母さん、あんまり思いつめると体に毒だよ」
「うん、分かってる。今頃は高校を出てるはずなんだろね、きっと。」
まひるは、涙でいっぱいになった瞳をぬぐう。
「お母さん…、お兄ちゃん…、元気そうだね…」
音は聞こえないが、竜太も一緒になってモニターに食い入る。
「最近、お母さん『コレが現実なんだね』と思えるようになったんだよ」
「うん、ぼくらができることは、まひると竜太君のことを忘れないことなんだよね」
「でも、まひるを助けようって飛び出した竜太君に、申し訳なくてね」
「あれは、信号無視のダンプが悪いんだって…」
モニターの画面をまともに見られないまひるは、号泣する。
隣の竜太も黙って、コーラをチュウチュウと飲んでいる。
「おかあさん…。また会いたいな…」
吹っ切れたように、まひるの涙は止まらない。マウスパッドに一滴一滴こぼれるものが。
無情にも、30分が過ぎ二人はネットカフェを後にする。


486:ずっと、いっしょ
08/03/11 21:53:14 BcPzb6x+
店から出た二人は空を見上げた。真っ青な空には雲がひとつ無い。
まひるは、ほんの少し今までの元気を取り戻す。
「下界のみんなも、元気そうだったね」
「うん、ここに来ればいつでも会えるしね。しっかし、便利な世の中になったもんだよ」
「うん。ここに来るまでは天国って天使が飛んでたり、神殿があったりするのかなあ、って思ってたけど、
下界とおんなじだからびっくりだなあ。だけど、逆に安心したよ。この世界」

今は、あの世もネット社会。
衛星を使った動画配信で、いつでも今後一生会うことの出来ない人たちをリアルタイムに見ることが出来る。
「コレ、発明したヤツ天才だよなあ。たしか、ネットのニュースで取り上げられてたっけな」
「そうそう、ナントカ製作所の元・技術者だっけ。こっちにきても研究熱心な人だった、て
関係者のブログに書いてたよ。きっと死ぬ気で開発したんだろうね」
下界の家族達を見て安心したまひるは、お寒い冗談を飛ばす。
そのギャグにげんなりした竜太は、突っ込む気力もなかった。
突然、ふと思い出したようにまひるは竜太を指差した。
「それはそうと、お金…」
「分かってるって、今度は早く返すから。1000円な!」
まひるは、首をブンブンと振る。
「ちがうよ。チョコの10円、早く返してよ」


おしまい。


487:名無しさん@ピンキー
08/03/11 21:54:31 BcPzb6x+
投下終了です。それでは

488:名無しさん@ピンキー
08/03/11 22:03:30 afmZctIZ
全俺が泣いた


GJだ、この野郎!!!!

転生した二人がまた幼馴染みにならないと許さないからな!!

489:名無しさん@ピンキー
08/03/11 22:47:03 mdoFe5Uy
>>489
GJです! でもちょっと気になるところが。
>私達の十五年越しの恋が
>十二年前の君の誕生日に初めて会った
矛盾してね?

>>499
天界かよ!w
物悲しいんだけど、死ぬ時まで一緒だったってのはいいなあと思った。

果てしなくGJだぜ。

490:名無しさん@ピンキー
08/03/11 22:55:52 GekRdoSY
いいなこれ。なんだか温かい気持ちになるわ
GJ!こういうの大好きです

491:名無しさん@ピンキー
08/03/12 06:02:42 aF0NyvXC
三度の飯より幼馴染が好きであろう同行の士よ・・・
この幼馴染の行動を補完して、萌える展開で表現してくれ・・・

URLリンク(urasoku.blog106.fc2.com)

492:名無しさん@ピンキー
08/03/12 13:07:24 6L2TD2FL
>>503
koeeeeeeee!!
俺の技量ではあるがままの補完は無理だ…
途中からフィクションにしてもいいならできるけど(誰だってできる)

493:名無しさん@ピンキー
08/03/12 14:36:58 J2f24Sgm
両親が浮気してるってのも拍車を掛けるんだろうな。
いつ他の人に目移りするのか分からないという恐怖が更に加速させてるんじゃないかと。

494:名無しさん@ピンキー
08/03/12 17:03:50 57QolUQ1
亀だが>>475、アドバイスありがと
萌えシチュを頑張りつつエロも精進するぜ
>>499
GJ
死んでも一緒か……ちょっぴり切ないな
でも二人は仲良さそうだから、いいのかな?
>>503
萌えシチュ化は難しい(ヤンデレは守備範囲外)なので、
そこの最新記事の「彼女を作ってみる」で心を癒すんだ
途中から幼なじみルートだから

495:名無しさん@ピンキー
08/03/12 20:43:31 M6Fbb6g5
ヤンデレじゃないし萌えない

そんなことより野球しようぜ!

496:名無しさん@ピンキー
08/03/12 20:48:54 cmtFAfV8
やっと3on3出来るくらいしか人はいないと思うが

497:名無しさん@ピンキー
08/03/12 21:38:45 qaVjJ0om
>>508
ピッチャーとバッターさえいれば真似事は出来る、問題は無い

……と書いて、フと妄想が。
・ソフトボール部ヒロイン(熱血
・主人公帰宅部(無気力
・学生最後の試合直前とかそんな時期で。
1、主人公、ヒロインの熱心さをからかう
2、ヒロインと主人公、超喧嘩。むしろ冷戦?
3、試合、ヒロイン精神的にボロボロ。サヨナラ負け。
4、主人公、ヒロインに辛く当たられないことで深く自己嫌悪(俺のせいじゃね? 自意識過剰? いやいや…
5、謝りに行ってもダメでした!
6、引退の挨拶を遠くから眺める主人公、漂う哀愁。
7、次の週、放課後まで残って後輩たちの練習姿を見るヒロイン、いつの間にか眠ってしまう
8、夜になって、主人公もう一度謝ろうとするも部屋にいない。どこ行ったと探しに行く
9、学校でヒロインを見つける
10、ヒロイン、心情吐露。負けちゃったよぅ。(主人公)のせいにしようとしてる自分最悪だよぅ。
11、主人公、「……それじゃあ、今からやり直しだ」
12、誰もいないグラウンドで、ソフトボールの真似事を―
終わり。
こ、こんなんどうよ!?

498:名無しさん@ピンキー
08/03/12 22:05:50 UnlEHgM7
>>509
なぜお前は文章にしなかったのかと小一時間(ry

499:名無しさん@ピンキー
08/03/12 22:53:08 qaVjJ0om
>>510
……それもそうだな。
ちょっと書いてくるわー

500:名無しさん@ピンキー
08/03/13 00:43:09 /MVICvkq
>>511
期待して待ってるぜ

501:名無しさん@ピンキー
08/03/13 01:32:36 HWp8DOip
幼馴染なら何でもOKということは刻淫ワルツみたいな
ストーリーでも問題ないのだろうか?

502:名無しさん@ピンキー
08/03/13 01:42:31 xt1aci/H
良く分からんが一番強い要素に幼馴染が含まれていれば良いんでね?
どうしても気になるなら投下前にジャンルを宣言すれば良いと思う。

503:名無しさん@ピンキー
08/03/14 02:06:51 xf9+TZXM
>>509
これは大変に楽しみです

504:名無しさん@ピンキー
08/03/14 11:01:28 KTfMtjEg
>>513
アレか・・・。

うーん、ジャンル宣言は必須だと思う。
いや、漏れは嫌いではないが。

505:名無しさん@ピンキー
08/03/14 19:56:42 rXp1IBEf
>>513
調べてきた。
このスレ、ガチエロ少ないからな……ちょっとそういうのも見てみたい。
いやまあ、他のスレに行けって話だが。

506:名無しさん@ピンキー
08/03/14 23:20:25 ihaHRh8G
>>513
幼馴染でNTRとかマジ勘弁、てか寝取られスレでよくね?
あそこに投下されるSSのヒロインってほぼ幼馴染だし。
他に該当するようなスレは調教スレくらいか?

まぁ寝取られ無しの幼馴染調教ならぜひ見たいけどさ

507:名無しさん@ピンキー
08/03/14 23:28:00 WvpKVvgO
>>503
これよりもその下にある
URLリンク(urasoku.blog106.fc2.com)
こっちの方が面白い。禁止スレで見つけたものだけどな。

508:509
08/03/15 00:09:46 LMFYRy/w
書き終わったが、ものっそいスポ根になってる件\(^o^)/
推敲して今日中には投下したいと思うんだが、スレの趣旨に全く合わないスポ根部分は削るべき?

509:名無しさん@ピンキー
08/03/15 01:11:31 sTbVPXnq
>>520
是非そのままで。

510:名無しさん@ピンキー
08/03/15 08:01:10 4dsk07Ss
>>520君の最高の魂の結晶を投下してくれ。それ以外は許可できない。いや、しない。

511:名無しさん@ピンキー
08/03/15 09:59:08 UrOuOBzV
今日は暖かいから全裸正座も楽でいいな。

512:名無しさん@ピンキー
08/03/15 10:15:06 phLya+oV
おれ夜勤明けで少し寝るけど、一応は全裸だから

513:509
08/03/15 11:47:41 LMFYRy/w
最後に誤字脱字チェックだけして一時くらいに投下するよー\(^o^)/

ところで、スレって何kbまでだっけ?
なにやら40kbくらいあるんですが。

514:名無しさん@ピンキー
08/03/15 11:57:06 XofsOzrb
>>525
現状427kb。500までのはずだから大丈夫じゃね?

515:名無しさん@ピンキー
08/03/15 12:35:51 c8kJxK86
>>524
 
昨日は夜勤だ、とあいつはいった。

さっき、隣の家から、バタンと乱暴にドアを閉める音が聞こえた。
あたしが推測するに、夜勤疲れのあいつが限界くたくたの身体を引きずって帰ってきて、最後の力を振り絞ってドアを閉めたんだろう。
まぁ推測って言うか、いつものことなんだけどね。

さて、いつもの通りなら今頃は、隣の家のあいつの部屋で、爆弾が落ちても目が覚めないくらいの爆睡真っ只中だろう。
これはあたしにとっても、チャンスである。

何がチャンスかって?

んー、まぁ、ここだけの話、ね。

あたしは、あいつとつきあいが長い。
つきあいといってもそれは、恋人同士のつきあいというわけではなく、小学生の頃にこの家に引っ越してきてからの、お隣さんとしてのつきあい、ってこと。
小学校、中学校、高校と、もちろん同じ学校さ、だって隣同士だもの。

で、小学生の頃に友達になったあたし達は、中学生の頃にあいつが色気づいちゃってあたしと一緒にいるのを照れたせいで少し疎遠になり、
それでも高校生にはそのあたり開き直りが出来てようやく友達の関係が修復できて、卒業してからもたまにみんなでご飯食べたりするようになって、
二十歳を超えた辺りからそれにアルコールが加わった、みたいな。
そんな、腐れ縁的悪友で、男女の仲を超えた親友みたいな感じ。

でもまぁ、あたしはその関係に少しばかり、いや、大いに不満を抱くわけで。


あたしが小学生の頃に立てたプランでは。

小学生の頃に仲良くなった二人は、中学生にあがった辺りからお互いを異性として意識しだし、
卒業と同時にあいつがあたしに告白、そして恋人同士として送る高校生活。
お互いの愛を深く育てた頃合いにとうとう二人は結ばれて、ラブラブイチャイチャのストベリーエッチライフを満喫しつついよいよ迎える卒業シーズン。
ところがその時、なぜか穴があいていたコンドームのせいで、あたしは見事妊娠、善は急げってことで卒業即結婚。
そんな人生ゲームの双六が出来上がっていた。

なのに現実はというと、スタートからルーレットを回して1マス進み、そのままそうだなぁ、30回休みくらいの感じだろうか。

つまり何がいいたいのかというと。

あたしはあいつのことが気に入っている、いや、大事に思っている、というか、好きだ、もとい、愛しているのだ。


だからチャンスなのである。

・・・え? わからない?


いやあんた、ちっとは想像力を働かせてご覧なさい。

自分の部屋の窓を挟んで、隣の家には大好きな彼の部屋。ちょっぴり華麗なルパンアクションで、簡単に忍び込める距離。
そしていつも不用心に鍵もかけない窓を開けると、そこにはあいつが、ベッドの上で熟睡中!!

わかる?
好きな相手が無防備に寝てたりしたら、取るべき行動は一つでしょ?

もうこれで決まり、つまり、それは、

『S O I N E』、つまり添い寝よ!!


516:名無しさん@ピンキー
08/03/15 12:36:18 c8kJxK86
 
これからのグローバルスタンダード、SOINE!!
大好きな、だけど友達以上恋人未満の彼に、可愛い幼馴染みがとる行動はといえば、これしかない!!
彼の眠るベッドで、彼の匂いに包まれながら、その吐息を間近に聞きつつ過ごす至福の時間。
普段の無愛想な表情からは想像もつかない、想像つかないけどたぶん意外と可愛いだろう寝顔を眺めてるうちに、なんか無性にムラムラしちゃって、
ついつい出来心でまぁキスなんかしちゃったりなんかしたりして!!


・・・・・・はっ、いけないいけない、過去に何万回とリピートしてきた夢想空間に、またしても捕らわれてしまうところだった。

というわけでそろそろ作戦決行時間、諸君、あたしの武運を祈っていてね!


%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%


・・・・・・ただいま。

結果?
うーん、なんて言えば良いんだろう。
まぁとりあえず、起こったことをありのままに話すね?
あたしが部屋に忍び込んだらさ、案の定あいつは爆粋してたんだ。

でもなんでかさ、全裸なのよ。

ベッドの上に大の字で、それでなんでか素っ裸でさ、オチンチン大きくしてるのよね。
それでなんか寝言でさ、『スポーツ少女~』とか、『全裸待機~』とかいってるわけ。
あたしは想定外の出来事にちょっと正気の糸が切れちゃってさ。

SOINEをしようと忍び込んだら、いつの間にかオチンチンを写メで撮っていた!!

しかも、あんまりにも元気に立ててるものだから隠そうとして、白いタオルを拡げてかぶせてみたら、なんだかそれがお山のように見えちゃってさぁ。
つい、

『 細雪(ささめゆき) つもりて富士も 白化粧 』

とか、一句詠んじゃった。




はぁ、いつになったらあたし達、先に進めるんだろう。
ねえ、どう思う?


END OF TEXT

517:名無しさん@ピンキー
08/03/15 12:45:01 4TSxdh/2
ちょwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwwwwwwwwwww写メってる場合じゃ無いでしょwwwwwwwwwwwww



518:509 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:50:43 LMFYRy/w
>>528
GJだぜ!
二時間で書いたとは思えねェ……!

……さて。
>>509の通りにはならんかったけど、勢いで書いてきた。
ついでに、酉付けてみた。>>149とか>>308とか>>383とか書いたんで、こう、よろしく?
なにやらスポ根気味。あと、長いよ。長いよ。
うわぁ、とか思う人は酉やらIDやらで華麗にスルゥしてくださいな。
投下開始。……期待にそえていればいいんだが。

519:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:51:26 LMFYRy/w
/その一。

 白球が、夕空をカッ飛んでいく。
 沈む朱の太陽に向かって、夏の風を切り裂いて、伸びる。
「おおー……こりゃあ、ホームランかな」
 後出しジャンケンのような予想をして、反対側のフェンスを越えた打球を見送る。
 実にいい打球であった。いち野球ファンとしては、あのバッターが野郎でないことに涙を禁じえない。
「……衣鶴、男だったら本当にいいバッターになってただろうに……」
 いや、実際にとんでもないバッターだが。
 ため息を吐き、バッターボックスを見る。
 そこにいるのは、ヘルメットの下から髪の毛を少しだけはみ出させる女だ。
 身体は西日に照らされる位置にあり、白球を次々にカッ飛ばしている。
 打球感覚を刻み付けるための練習だ。この距離では表情までは見えないが、上下する肩や、ふらつき始めた下半身が疲労を物語っている。
 名を、海老原・衣鶴<えびはら・いづる>。
 この地方で最高とも言われる強打者<スラッガー>。女子としてはかなりの長身であり、百七十八センチの俺と視線がほぼ合う。
 ……一応俺の方が高いが、それでも一時期はかなりひやひやしていた。
「まだ伸びてるとかは言わんよな……」
 十八年の人生、その内実に十六年を共にしているが、身長で勝てるようになったのは中三の時期だった。
 ちょっと前に、身体検査の結果を聞こうとして、セクハラだ、とグーで殴られたのは実にいい思い出だ。その時に欠けた奥歯は、手加減無しだったという証拠として彼女の母親に提出済みである。
 と、再度の快音。
 彼女のスイングは、全身の力で豪快に振りぬく動きだ。俗に言うフルスイングだが、彼女がそうでない時など、俺は見たことがない。
 ……デカい乳を無駄に振り回すスイングなので、密かに『巨乳打法』なんて呼ばれているのは―知らぬは本人ばかり。この高校における公然の秘密なのであった。
 とにもかくにも、打球は地面に対し仰角四十度。これが悪夢でもない限り、再度のホームランは確実だろう。
 今度の打球はセンターへと落ちてくる。バックスクリーン直撃、と呟いて、寝転がる。
「……熱血女め」
 ため息を吐いて、目蓋を閉じる。
 ……三年生の、夏。彼女にとっては、最後の戦い。
 大学生になってもやれるだろうに、彼女は、ここで己の身体をブッ壊そうってくらいの練習を重ねている。
「だいたい、自分で『練習終わるまで待ってろ』って言っといて居残り練習するってのはどうなんだよ……」
 深くため息を吐いたところで、鈍音と振動が来た。発生は至近。やたら重い音だった。
 どうやら、こちら側にホームランをカッ飛ばして来たらしい、と目を開いて確認する。
 立ち上がり、思いっきり叫ぶ。
「ア・ブ・ないだろコラぁーッ!!!」
「そんなところで寝てるお前が悪いんだろーっ!!」
「責任を人に擦り付けんなぁーッ!!」

520:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:51:57 LMFYRy/w
「黙ればかーっ!!! どこぞの萌えキャラと同じ名前のくせにーっ!!!!」
 ……いや、不毛だ。実に不毛だ。だがしかし、分かってても止められないのが喧嘩であろう。
 居残り練習なんで、止めてくれる人がいないのもヒートアップに加圧をかける。
「アレはこっちが先出しだ超絶アホーッ!!」
 ……いや、さすがはスポーツマン―あ、女だったらどう言うのか。とにかく、走りながらの声出しは伊達じゃないらしく、叫び声は大きくなるばかりだ。
「こ・の・ドレッドノート級凶悪犯罪ばかぁーっ!!!!!」
「分かった黙れ今そっちに行く!!!」
 不利を悟って叫び返し、バックネット裏へと走っていく。
 高校に入って二年と半分。運動らしい運動を続けていなかったため、速度も持久力も落ちている。
 ヘンに暑い西日もあって、フェンス越しに衣鶴と正対した時には汗だく、息も切れていた。
「……ぜー、ぜー、はー、ふー、はー、はぁ……」
「…………」
 フェンスによしかかって、息を全力で整える。
 無言が重い。というか、理不尽だ。なんで私は怒ってますオーラ出してやがる。そんなに練習邪魔されたのが嫌なのか。
 衣鶴の方が、悪い、……はずだ。
 口の中にたまった不味いツバを飲み干して、衣鶴の目を睨みつける。
「……あー。衣鶴。いつ帰るんだ? 明日の試合に備えて今日は休めって先生言ってたんじゃないのか?」
「まだ明るい」
 ……昔からたまに思っていたが、何のてらいも無くスパッと言えるコイツはひょっとして本物か。色んな意味で。
「あのな。ボール拾いの時間もあるし、お前、シャワー浴びないと結構汗くさいぞ。夜道は危ないし―」
「と言うと思って、待ってもらってたんだ」
 ……なにやら不思議な言葉に、首を捻る。二秒後に納得が来た。
 ああつまり、この女は、護送とパシリに俺を使おうという腹か。
「じゃあ俺帰るからな」
「まあ待ってよ、こなたん」
 フェンス越しに腕を掴まれた。
 制服ごしに来る感触は、全然女らしくない硬さ。マメでガチガチの、バッターの掌だ。
 ……万一にでも怪我させては困るので、抵抗をやめ、ため息を吐きつつ言う。
「……こなたん言うな。此方だ。雲野・此方<うんの・こなた>だ」
 このやり取りも何度目か。
 コイツだけはこなたんと呼ばないと信じていたのに、いつの間にかクラスに溶け込んでいたのであった。
「とにかくだ。お前、いい加減やめろよ。もう六時半になるぞ? 今日はミーティングだっただろ。今までの努力が徒労に終わっていいってんなら止めないけどよ」
 もっとも、コイツの努力は、他人の努力を徒労と化すための努力に他ならないが。
 知り合いじゃない人間に心を動かせるほど有情ではないので、その辺はキレイサッパリ忘れておく。
「徒労になんか終わらない。勝つ」
「……言い切れるのはいい事だがな、精神が肉体を凌駕するっての、期待してるならやめとけよ。お前も分かってるだろ、こんな、一時間や二時間の延長じゃ、微々たる効果しかないってさ」

521:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:52:21 LMFYRy/w
「ばか。あたしはまだまだヨユーだ。このくらいの練習を毎日やってるから、このくらいしないと明日調子出ないよ」
 自信満々―否。喧嘩腰だ。
 自然、こちらもそれなりの対応になる。
「熱血も大概にしろ馬鹿。明らかにオーバーワークだ」
「熱血もって―」
「とにかくだ」
 ここでの熱血は必要ない。勢いを殺ぐため、かぶせるように言う。
「とにかく、休めよ。今日はもう」
「……ん」
 つかまれていた腕が放される、―と言うよりは、力が抜けて離してしまった、の方が正しいのだろうか。
 彼女は、化粧っ気がほとんど無い、よく日焼けした顔を伏せた。
「先にシャワー浴びてこいよ」
 ……言い終わった後で、状況によってはヤバくエロいセリフだと気付く。
 だが、衣鶴は気付かなかったのか、ごく普通の対応を返してきた。
「……ありがと。なるべく早く浴びてくる」
 部室棟に、彼女は駆けていく。
 ……さて。俺に残された仕事は、カッ飛ばされたボールの回収だ。
 下手に打ち損ねがない分、ボールは外周―フェンス際と客席に固まっている。
 だが、数が数だ。衣鶴が戻ってくるまでに終わることはありえないだろう。長嘆しつつ、カゴを持ち、歩いていく。
 ……こうやって後片付けを手伝うのも、何度目だろうか。
 高校入学以前―中学、小学でも、同じようなことがあったな、と―その時の事を思い出しながら、俺はボールを拾い始めた。

522:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:52:52 LMFYRy/w
/その二。

「暗くなったなぁ」
「そうだな」
 結局、全てが終わったのは八時近くになってからだった。
 日は今頃、トルコあたりを全力で照らしているのだろうか―今ここにあるのは、街灯の頼りない光と、西の空に見える宵の明星だけだった。
「お前、明日試合だろ……本当、馬鹿なヤツだな」
「仕方ないじゃない、一球だけ見つからなかったんだから」
 ちなみにその一球は場外までカッ飛んでいたのだが。気合入れすぎである。
「……で。明日は勝てそうなのか? お前以外はぶっちゃけ弱小の、我らがソフトボール部は」
 衣鶴が一瞬怒気を放つ。
 横から風が押し寄せてくるような―肉体を放り出して、存在感だけが膨れ上がったような感覚だ。
「……と。悪い。弱小は撤回する」
「……いいよ。悔しいけど、事実だ」
 ギリ、と歯噛みの音が聞こえる。
 例え、衣鶴のようなオンリーワンがいたとしても―スポーツ漫画のように、上手くはいかない。
 野球は個人競技ではない。チーム能力の総合値が高い方が勝つ。
 ソフトボールについては門外漢だが、野球を基にした競技だ。その原則が変わる筈がない。
 それに、明日の相手チームは、この地区で上位常連と聞いていた。
「でも―明日は、勝つ」
 だが、彼女は言い切った。
「そう思わなきゃ、勝てる試合だって勝てない」
「……そうか」
 羽虫の焼ける音を聞きつつ、吐き出すように言う。
「……お前、明日から最後の大会なんだろ。ベストを尽そうとしろよ」
「だから練習してたんじゃない」
 右を歩く衣鶴は、憮然とした声で言った。
「ベストの定義が違うらしいな。……まあ、今言ってももう関係ないか」
 千の距離を埋めるには、一歩を踏みしめていくしかない。
 試合は明日であり、今更踏みしめの追加などできる筈がない。
 ならば、歩みを全力で発揮できるよう体力を回復するのが常道だと思うんだが。
 ……熱血が、いやに不愉快だ。昔は、俺もその熱血に浸っていたというのに。
 だからか、言わなくてもいい一言が出た。
「意気だけで勝てりゃ、苦労しないよな」
「此方、」
「いいだろ、もうさ」
 横を見ると、衣鶴は、理解できない、と言いたげな顔をしていた。
 疑問が怒りに変わる前に、言いたいことだけをさっさと言うことにする。
「お前、ちょっと頑張りすぎだろ。勝つためにやるってのは分かりやすいけど、お前の練習に誰もついてこないってのを考えてみろ」

523:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:53:17 LMFYRy/w
「……どういう意味。空回りしてるって、言いたいわけ?」
「ザッツライト」
 ボディに拳が来たので避けた。
「こんな時に茶化すな!」
 怒号、と言うと豪傑らしすぎるか。
 だが、その言葉に負けぬほどの迫力が、今の衣鶴にはある。
 右拳を握り締め仁王立ち。柳眉は跳ね上がり、目にはなにやら殺意らしきものまで見える。
「いやいや、ふざけてなんかいないさ。心配六割、皮肉四割ってところだが」
 ……少し前に読んだ漫画を思い出す。
 ある悪役は、過去、正義の味方だった。
 そして、その周りの人間は、きっと正義の味方が助けてくれると思い込んで、何もしなかった。そうして、彼は悪役へと変貌していった。
 実に悲しいワンマンヒーローだ。そいつの行為が最期まで報われなかったのも、哀れさに拍車をかけていた。
「気づいてないフリすんのもやめろよ?」
「うるさいっ、分かってる!」
「分かってる、ねぇ―」
 は、と笑う。
 だが実際、ここらでフォローを入れておかないとマズいか。
 明日、肝心なところでチームメイトを信頼できなくなって負けました、って漫画みたいなオチはやっちゃいけない。
 ……それに、まあ。本気で殴られそうだし。
「―いや実際、お前以外のは付き合いたくても付き合えないってだけだと思うけどな」
 彼女のボルテージが最大値に達する直前に、そう言った。
「……は?」
「さっきのは、嘘と言うか、言葉を色々削っただけだぞ。だいたい、フツーの女子がお前についてこれるわけないだろ。体力的な意味で」
 男子部活野郎でもついて行けないヤツは多いだろう。
 なんだかんだ言って、愚直なまでの努力馬鹿なのだ。
「身体的にはともかく、精神的には決して空回りはしてないぞ」
 多分、と心の中で付け加えた。
 ……殺気じみた怒気は、俯きに伴い雲散霧消。
 や、助かったか、―と思った瞬間。右拳が握られたままであることに気が付いた。ちょっと遅かったが。
「あぐがっ」
 ―額に右拳がブチ当たる。フック気味のイイ一撃であった。
 のけぞる俺。盛大に揺れる視界。脳自体が揺れているから当たり前っちゃ当たり前、と変な納得をする。
「こ・の・おおばかぁーっ! マジで泣きそうになったじゃないかーっ!!!」
「おおお、痛い! 痛いぞ衣鶴! 蹴るな! 汚れるから! 落ち着け!!」
「黙れ! そして死ね!」
 ……話は聞いてくれないらしい。

524:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:53:48 LMFYRy/w
 三十六計、逃げるに如かず―どんな計略でも、逃げてしまえば関係ないさHAHAHA、との言葉だったか。
 蹴られつつも背を向け脱兎。近所迷惑にも叫びながら追ってくるソフト部エース。頑張れ俺、速度を落したら飛び蹴りが来る。
「ふわはははははは!」
 アドレナリンがドパドパと出てくるのを感じつつ、更なる前傾姿勢。
 脚力、疲労度はおそらく俺が有利だが、コンパスはほぼ同じで、重量、心肺能力で衣鶴にアドバンテージがある。
 まあ、つまりは負け確定。半分くらいは無駄な抵抗である。
 曲がり角を高速でクリアし、カバンを使って姿勢制御。
 見えるのは長い直線だ。
 百メートルほど前方には俺の家があり、その向かいには衣鶴の家がある。
 そう、ただ百メートル。その距離が、途方もなく遠い―!
「だりゃぁーっ!!」
 ―殺気!
「うおッ!?」
 アスファルトに飛び込むようにして、飛び蹴りを回避。
 転がって起き上がった時には、眼前に衣鶴が腕組みをしつつ立っていた。
 動作の気配はない。ただ、仁王像のようにそこに在る。
 その意気、まさに天を衝く。背中は見えないが、天の字が浮かんでいそうな気がする。
 ……えー、と思考の無駄クロックを認識する。
 衣鶴との距離は一メートルもない。
 その表情はどう見ても晴れやかな笑みで、しかし背負う雰囲気は戦慄しか呼び起こさない。
 この間は、せめて最期に遺言くらいは聞こう、という事なんだろうか。
「……オーケー」
 今この瞬間、言いたいことができた。
 右手、親指を立てて突き出し、末期の言葉を口にする。
「―ナイスしまパン……!!!」
 直後、鼻面に全力の右アッパーが来た。

/

「……嫌われたかね、こりゃ」
 自室の窓際に座り、呟いた。
 連続の強打で傷む顔を押さえる掌。そこに感じるのは絆創膏の感触だ。
 ……試合後のボクサーみたいになっていないかどうか。鏡を見て確かめる勇気は、あんまりない。
 まあ、多分、息抜きにはなっただろう。……そう思っておかないと俺がちょっと哀れすぎる。
 既に、衣鶴の部屋の電気は消えている。寝ているかどうかまでは分からないが、とりあえず寝ようとはしているらしい。
 明日の試合、勝ってくれればいい、と思う。
 ―昔々の、大切な約束を破った大馬鹿の応援なんか、要らないかもしれないが―。

525:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:54:17 LMFYRy/w
/その三。

 ソフトボールは、野球に似ているが、細かい部分で色々と違う。
 具体的に言えば、ボールの大きさ、グラウンドの大きさ、投球法などだ。
 しかし見る方としては、野球と同じような感覚で問題はない。
 野球部の試合と同じような盛り上がり方で、学校総出の応援だ。
 試合は進行し九回裏。二対一と一点のビハインドながら、満塁。
 ヒットさえ出れば勝てる―俗に言う、サヨナラ勝ちのチャンス。
 そのチャンスをモノにすべく立つは海老原・衣鶴。
 投手にとってみれば、これほどの凶運はないだろう。コトここに至って、最後の最後で、こんな最悪に出会うなど。
 投手の方も、衣鶴に負けず劣らずの選手だ。
 衣鶴の第二打席で本塁打を浴びてはいるが、走者を背負っても崩れることなく、打者を切って捨ててきた。
 制球は乱れてきたが、鉄腕とでも言うべき剛速球に一点の曇りもない。
 この九回、満塁ではあるが、それだって四死球と送球ミスからだ。まだ行ける、と―私以外にはこの女は抑えられない、と、その背が強く語っている。
 ―投手が、セットアップに入る。
 両足で投手板を踏み、左足を前に出していく。
 右腕を一気に加速させ、大きく回していく。
 太ももに手首をこすり、手首のスナップを加速。
 投球は、右足による加速をもって完成する。
 アンダースロー―いや、ウィンドミルと言うんだったか。
 下手投げ故に実際の速度はあまり出ないが、距離や軌道によって、百マイルにすら匹敵する体感速度となると言う。
 もちろん、この投手はそれほどの速度ではない。だが、高校生という括りで言うならば、十分にトップクラスだ。
 遠いため球種までは見えないが、衣鶴は打つ気らしい。
 放たれた時点で、バットは本格的な加速を開始している。
 応援席―ライト席まで風が伝わってくるようなスイング。
 しかし快音は生まれず、ボールはミットの中心へと叩き込まれた。
 ワンストライク。
 レフト側、相手高校の席から歓声が沸く。
 対してこちらは、じりじりとした不安の中、衣鶴を見守ることしかできない。
 捕手がボールを投げ返す。
 投手はグラブにそれを収め、一度、大きく肩を上下させた。
 ……ツバが硬い。炎天直下―倒れそうなくらいの熱気が、球場を支配する。
 セット。
「―!」
 叫びと同時のリリースだ。
 当然、コントロールは良くない。

526:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:54:44 LMFYRy/w
 捕手は構えたところに球が来ないと見て、自ら動いての捕球に入る。
 その位置は、外角低め。ストライクかどうかは、距離で判別できないが―衣鶴はやはり打ちにいく。
「ぁ―!!」
 衣鶴が吼え返す。
 殺気には殺気を。本気には本気を。
 高速のスイングはボールを捉え、
「!」
 しかし力負けし、バットが砕けた。
 折れ飛んだバットがくるくると回転してグラウンドに落ち、衣鶴は顔をしかめた。
 打ち損じた、と理解したのか。それとも、どこかを痛めたのか―。
 ボールは一塁側のフェンスにブチ辺り、ファールとなる。
 ツーストライク。
 衣鶴は代えのバットを持ち、右腕を軽くふる。
 手を顔の前まで持ってきて、バットを握り、緩める。
 ……どうやら、右手指を痛めたらしい。
 マズい、と言う思いは学校の総意か。
 吹奏楽部と有志によって臨時編成された応援団が、声を張り上げる。
『え・び・はらッ! え・び・はらッ!』
 相手校も負けてはいない。同じように投手の名を叫び、あと一球、と今更のような事を言う。
 総勢二千。誰の声にも、熱意と同時に悲痛を感じさせる響きがある。
 投手がセットしても、張り上げられる声は加速度的に大きくなっていく。
 行け、と、打て、と―二つの声が、混ざりあって、まるでうねる波のようだ。
 ―あと一球。
 まさしくその通りだ。怪我の程度は分からないが、力負けしたのは衣鶴の方だ。
 紛れもない不利。それを悟っても、衣鶴は投手から視線を外さない。
 速度が投球に宿る。
「らァ――!!!」
 崩れた、しかしこの試合最も力強いフォームから、剛速球が射出される。
 紛れもない最高速度。百マイルの体感速度が、衣鶴を襲う。
「ふっ…………!!!」
 だが、衣鶴は怖じけずスイング。
 それは高速であり、タイミングも位置も、ただ一点を除き何もかもが絶妙。
 ……そう。敗北の原因はただ一つ。
 そのスイングは、フルスイングではなかった。
 球場に響いたのは、鋭く、それでいてくぐもった音。
 投手が、ピッチャー返しを取った音。
 海老原・衣鶴達、ソフトボール部の夏は、終わった――

527:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:55:08 LMFYRy/w
/その四。

 三日後は雨だった。
 湿度こそ高いが、あまり暑くないためか過ごしにくくはない。
 静かな雰囲気のまま、朝の授業は粛々と執り行われる。
 なんだかんだでいい試合だったし、授業も休めた。やったぁラッキー―それが一般的な生徒の反応だ。
 衣鶴やソフト部と個人的に仲がいいヤツは、そこまで単純に喜べないようだが。
 実際―試合を見る限り、衣鶴はそれなりにいいキャプテンだったらしい。
 全員が最後まで諦めなかった。
 全力でぶつかっての敗北だった。
「青春してやがったな……」
 ため息を吐いて、窓の外を眺める。
 ― 一つ。くだらない疑念がある。
「…………」
 衣鶴が痛めたのは、右の小指、薬指。
 何年前だったか、ベンチを殴って、同じ箇所を骨折した投手のニュースを見たことがあった。
 ……まさか、とは思いつつ、まだ少し痛む鼻を押さえる。
 人の頭や顔は意外と硬い。
 素人が人を殴ると、拳―特に小指、薬指を痛めてしまうことが多い。
 拳以外に手首を傷めることも多いが、それはインパクトの衝撃が手首に来るためだ。だから殴る瞬間に手をぐっと握りこむのが肝要だと、空手部の馬鹿に聞いたことがある。
 ハードパンチャーの握力が高いのは、インパクトの瞬間に拳がブレない―つまり衝撃をより大きく伝えられるから、だそうだが。
 ……衣鶴はバッターだ。手首は並みの格闘屋には負けない。だが、その手指はどうか。
「…………」
 くだらない、こじつけのような考えだ。
「…………」
 だが、否定しきれないのは―まるで泥のように疑問がまとわりつくのは何故か。
「……くそ」
 ため息を吐いて、教室に視線を移した。
 夏、大会時期。
 部活をやっているヤツの欠席が目立つ。
 で。
「……すー」
 隣では、衣鶴が全力で寝ていた。
 右手、薬指と小指には湿布と包帯が巻かれている。
 動かさなければ痛まない、と言っていたが、枕にするのは大丈夫なのか。
 胎内にいたときの音と雨音は似ていると聞くが、正直イイ夢見てそうで微妙に腹が立つ。
 普段なら机を軽く蹴って起こすところだが、
「……まあ、頑張ってたし、いいか」

528:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:55:32 LMFYRy/w
 んぬー、となにやら寝言が聞こえてくるが無視。
 ソフト部は今日にでも引継ぎを行い、新人戦に向けて新たな努力を重ねていく。
 衣鶴の影響で、来年は有望な新人が入ってくるだろうか。
 それについては、来年、今日負けたチームにも勝てるといい、と思うのみだ。
「…………」
 試合について、衣鶴が言っていたのは指の事のみ。
 負けた事についての感想も無く、故に俺から聞く事もない。
 昔馴染みの、歯がゆい距離感だった。
「俺が女だったら、話聞けたんだろうかな……」
 もしくは、衣鶴が男だったら、か。正直あのチチは惜しいので、できれば俺が変身したいところだが。
 ……軽くふざけた思考を中断。深く嘆息して、窓の方に顔を向けなおす。
 昼には晴れる、と天気予報では言っていたが―。
「……信じられんなぁ」
 雨音に意識を集中すると、なにやら眠くなってきた。
 衣鶴と同じような姿勢になり、目蓋を閉じる。
 眠りはすぐに来た。

/

 で、なんで目が覚めたら夕陽が見えるのだろうか。
 時計を見ると、時刻は三時二十分。
 ちょうど放課後、HRが終わった時間だ。
「ほら、起きてよ雲野ー。掃除の時間だってば」
「……おう。悪い」
 女子の言葉で、こりゃいかん、と立ち上がる。既に俺の席以外は後ろに下げられていた。
 いや、いいタイミングだ。むしろ最高だ。
 ヒマな授業中、うだうだ悩まずにすんで良かった良かった。
「……何頷いてるの?」
「いや、ポジティヴシンキングは大事だな、と」
 そう、と女子は呆れ顔で言う。
 左手一本で机を下げ、カバンを掴んで歩き出す。
「―あ」
「何さ、雲野」
「いや、衣鶴のヤツは?」
「寝ぼけてる? ソフト部にいると思うけど」
 ……そう言えばそうか。
 寝る前になんとなく考えていたような気もする。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 教室を、校舎を後にする。

529:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:56:13 LMFYRy/w
 地には水溜りがあるし、空には朱に染まる雲があるが、空気は澄んでいる。
 涼やかな風が、僅かに木々を揺らした。
「……さて」
 足元に注意しつつ、部活棟へと歩いていく。
 部活棟は、体育会系部活のロッカールーム兼倉庫であり、ボロいが各部活兼用のシャワー室もある。
 と、よく通る強い声が聞こえてきた。
「これで、あたしたち三年生は引退するけれど―テキトーに頑張っていくべし!」
 部活棟の前にいるのはソフトボール部の面々で、衣鶴を先頭に三年生が立ち、その前に一、二年生が整列している。
 もう下級生も適応してしまっているのか。テキトー極まりないシメの挨拶に対し、ごく普通に、ありがとうございました、と礼を言って終わる。
 芝生にでも座って待ちたいところだが、生憎地面は塗れている。
 仕方なく、しゃがんで彼女たちを眺めることにする。
 ぐしぐしと泣いている下級生がいたり、衣鶴の背後でため息を吐く三年生がいたりするのは、まあ、人間模様は様々と言っておこうか。
 下級生が部活棟の中から花束を持ってきたり、色紙を持ってきたり、お菓子を持ってきたり―その辺は、さすがに女所帯か。来年こそは勝ちますから、とか色々と声が聞こえてくる。
「……ホント、青春してやがるなぁ……」
 ……三年生の一人が衣鶴の肩を叩き、俺を指差す。
 いいって、と顔の前で平手を振るも、馬鹿は一直線にこちらに来る。
 表情は、どこか力ない笑みだ。
「何? 用? 一緒に帰る?」
「後でいいっての。ほら、引退なんだし泣くくらいして来いよ。ってかまだ誰も帰ってないだろ」
「あたしも用はないよ。それに、泣くことなんてないし、あたしが帰らなきゃ誰も帰らなさそうだし」
 ……それもそうか、と取り残された集団を見る。
 中心人物さえいなくなれば、あとは適当に解散するだろう。
「じゃ、帰るか」
 ん、との頷きに、ゆっくりと立ち上がる。
「カバンは?」
「ロッカー」
「待ってる」
「あいあい」
 軽い返事と同時に、衣鶴は部活棟へと小走りに向かう。
 すれ違い様に、いつもと全く変わらないような別れの挨拶をして、そして、俺の方へと戻ってくる。
「帰ろう?」
「おう」
 肩を並べて、歩き出した。
 正門に向かう途中、背後から、意図不明の声が聞こえてきた。
「がんばれー、こなたーん、いづるぅーっ!!」

530:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:56:40 LMFYRy/w
 ……いやはや、まったく。何を頑張れと言うのだろう、ソフト部の皆さんよ。

/

「……仮面ライダーとかでも、同じようなことがあったのかな」
「一文字さんが、何故かワザ師という事にになってたとかそういう話か?」
「そういう話。……此方の場合は、それが女の子で、しかも俗に言う萌えってのが不幸だけどねぇ」
 ……盛大にため息を吐く。幸せが逃げるとかどうとかより、この馬鹿に人の心の機微を読むって事を教えなければならない。
「……あのな。分かってるんだったらやめてくれよ」
「だって面白いんだものね、―こなたん」
 横にいるため表情は見えないが、声には喜色がある。
 本気で楽しんでいるから、本当に手におえない。
「お前な。……俺だからいいけど、他人にはするなよ」
「大丈夫。他人には今までだってしたことないから」
 そうかい、とだけ言って、もう一度ため息を吐く。
 足元、水溜りを避けるために下を向く、―フリをして、衣鶴の右手に目をやった。
「気になる?」
 ―が、あっさりと見破られた。
 視線を上げると、ちょっと得意げな笑みがあった。
 言い当てられて悔しいものは悔しいが、別に強がる場面でもない。素直に肯定する。
「……まあな」
「……ひょっとして、アンタを殴ったから手を傷めちゃったァ―とか、言うと思ってた?」
「考えてはいた」
 水溜りを突破し、再度合流する。
 衣鶴は手を顔の前まで寄せ、呟くように言う。
「……ううん。多分、万全の状態でも、あたしは負けてたよ。だから、いい」
 強かった、と彼女は言う。
「球が、すごく重かった。実は、二球目のあと、手首にも違和感があったんだ。寝たら治ったけど」
「…………」
「あれだけはっきり負けたら、悔しいって気持ちも―あんまり、無いかな」
 衣鶴は、言外に言う。
 気にすることはない、と。負けは全て、己の責任だと。
「……嘘言うなよ」
「……ん。嘘じゃないよ」
 浮かぶのは、緩い笑みだ。
 ……ああ、と思う。
「……衣鶴。すまなかった」
「だから謝らないでよ。今までは怪我したらマズいから使わなかったフランケンシュタイナーとか使うよ?」
 や、それはそれで幸せなんですが。

531:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 12:57:06 LMFYRy/w
「……ソレはキツいな。首折れるだろ」
「大丈夫大丈夫、多分手加減するから。―しばらくやってないし、できるかどうかは分からないけど」
「俺以外には―いや、俺にもやるなよ、それ。ストレス溜まったら、せめて殴るようにしろよ」
 多分許すから、と付け加えた。
「多分ってなにさ」
「俺も男だから、【ピー】を殴られたら許す自信無いな」
「……うん。そこは殴らないように気をつけとく」
「ありがとう。体感は間違ってもできないだろうが、頭の片隅には入れておいてくれ」
 オーケー、との返事に頷き、―再度、右手を見た。
 ノートはきちんと取れたのだろうか、とか、箸を持てるのか、だとか、そんなどうでもいいような心配をする。
「……此方。あたしはさ、今、すっごい満足してるよ。彼女、全力だったからさ」
 その笑みから、思わず視線を逸らす。
 痛々しくて、見ていられない。
 コイツが目ざとく俺の視線を感じ取ったように、俺にもコイツの心情が分かる。
 ……間違いない。
 コイツは、己を、そして俺すらをも騙し通せると、本気でそう思っている―。
 衣鶴に聞こえぬよう嘆息し、空を見上げた。
 沈みかける西日の上空―宵の明星が、妙に輝いている。

532:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:00:16 LMFYRy/w
/その五。

 一週間―試合が終わってから十日が経った。
 今日も天気は晴れ。一週間前と同じように、大会を終えた三年生が引退の挨拶をしている風景がある。
 ごく一部の有望な選手は、スポーツ推薦のため部活を続けているが―衣鶴は何もしていない。
 ただ、時間に余裕ができたので、帰りにゲーセンによってみたり、色々とモノを買ってみたり、夕食の買い物に付き合わされたり―変化と言えば、そのくらいだ。
 ただ、その距離が、近くなって来ているのは、感じていた。
「なんなのか分からないくらい―子供じゃないが」
 気付いたのは、衣鶴本人より、周囲の反応が大きい。
 用事があって早めに帰ろうとしたら、衣鶴が走って追いかけてきた。
 女子が俺を軽く避け始めた。
 男子が衣鶴にあまり声をかけなくなった。
 かと言って孤立しているかと言えばそうでもない。
 多少の願望が入っていることは認めるが、クラスが俺たちをくっつけようとしていて、しかも衣鶴がそれに乗り気だ、と解釈して問題は無さそうだった。
 部活も終わったし、青春の別面を満喫しようって気持ちもよく分かる。
 だが―
「……は」
 右手を夕陽にかざし、薬指と小指を握ってみる。
 一週間で、衣鶴の薬指は湿布を必要としなくなっていた。
 小指の方も、薄い湿布を医療用テープで巻いている、そんな状態だ。
 違和感はまだあるそうだが、あと二週間も経てば完全復調するだろう。
 ……あのスイングは完璧だった。
 もしも、指さえ完璧だったのなら―弾道は上向き、投手の頭上をはるか高く飛び越し、柵の向こうへ消えていた筈だ。
「……余計なコト、しちまったんだな」
 彼女は許すと言っていた。
 だから、俺も俺を許していいはずだ。
 ……俺の方こそ、自分を騙すべきだろう。
 ため息を吐いて、試合の前夜を思い出す。
「……衣鶴」
 ……そういう気持ちが、ない訳じゃない。
 昔馴染みとは言え―いや、昔馴染みだからか。彼女の存在は、あまりにも大きい。
 ……だからこそ。俺は、俺を許せない。
「…………帰るか」
 下駄箱で立ち止まっているなんて、どこの不審者だろうか。
 帰ろう、と思う。……そう、衣鶴が来ないうちに。

533:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:00:52 LMFYRy/w
/

 飯を食って、二階、自室に上がる。
 ―そこで、若干の違和感を感じた。
 衣鶴の部屋―カーテンが閉まっておらず、電気がついていない。
 時刻は午後六時。雲野家においてはメシが終わった時間で、海老原家にとってはご飯の準備中、といった時間だ。
 おかしい。が、特別不自然でもない。
 居間にいるのかも知れないし、俺と一緒に帰らなかったから、クラスの女子と遊んでいるのかもしれない。
「……メールしてみるか」
 用件は―なんでもいいか。『今何してる?』などと送る勇気はないので、適当に『明日宿題あったか』と一文だけを送ることにする。
 ……しばらく待つも、返答無し。
「……電話だ電話」
 発信音の後流れてきたのは、電源が入ってないか云々、という決まり文句だ。
 寝てるのか―とは思うが、カーテンくらいは閉めるだろう。
 あるいは、まだ帰ってきていないのか。
「……ぬ」
 アイツだって子供じゃない、大丈夫……だろう……か?
「……ぬああ」
 なんとなくだ。
 そう、なんとなく―だ。
 部屋着のスウェットとシャツを脱いで、タンスから適当に服を引っ張り出す。
 時刻は六時十五分、学校まで走れば十五分、腹はきちんと八分目。
「……よ、様子を見に行くとか心配とかそういうのじゃないんだからな」
 ケ、と毒づいて、家を飛び出す。
 ……夏真っ盛り。夕陽はまだ、沈みきらない。

534:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:01:17 LMFYRy/w
/幕間。

 何をやってるんだろう、と思う。
 教室の窓際で、ただグラウンドを眺めていた。
 野球部と、ソフト部、ラグビー部―運動系部活が、グラウンドにいる。
 つい二十分ほど前までは、グラウンドを所狭しと練習に使っていたけれど、今は片付けの最中だ。視線を切り、机に額を押し付ける。
「……は、あ」
 ……彼が―此方が帰ったのは、もう二時間くらい前になるだろうか。
 あたしはいつも待っていたし、先に行ったとなれば追いかけていた。
 だが、彼はあっさりと帰って行った。むしろ急ぐように、―逃げるように。
 十六年来の幼馴染だ。歩き方で簡単な心情くらいは分かる。
 空回り、と彼は言っていた。……確かにそうだ。あたしの想いは、とんでもない空回りをしているらしい。 
「……結構キッツいなー……」
 失恋フラグだろうか。
 あははは、などと、無意味に笑ってみたりもする。
「はは、は……」
 ―笑えない。本当に笑えない。
 最初の五年は、親友だった。次の五年は、なんだか気になるばかだった。それから―この五年は。
「…………」
 そうこうしてる内に、グラウンドから人がいなくなる。
「……うん。帰ろう」
 明日からは仕切りなおしだ、と考えを切り替えようとした瞬間、廊下の方からドタバタと足音が聞こえてきた。
 ……反応してしまう己が恨めしい。
 理性はそんな筈ないと叫ぶも、直感と感覚はこう言っていた。
 彼が、―雲野・此方がやって来た、と。

535:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:01:44 LMFYRy/w
/その六。

 やはり、と言うべきか―それとも、予想通りと言うべきか。
 息を整えつつ、馬鹿女を睨みつける。
「馬鹿、」
 気が済まないのでもう一度。
「超絶馬鹿ッ、」
 息が切れて腹から声が出なかったのでテイクスリー。
「こ・の・超級覇王電影馬鹿ッ……!」
「な、なにそれ……!」
 どうもこうもあるか、と言おうとしたが、十五分間の全力疾走で横隔膜がうまく動いてくれない。
 今度からきちんと運動しよう、とか思いつつ、教室に足を踏み入れていく。
「な、なに? 用?」
「ああ」
 痛む腹筋を無視して背筋を伸ばし、試合以来一度も背筋が伸びていない衣鶴に言う。
「お前に、言う事と、言わせる事がある」
「……え?」
 眉をひそめる彼女の眼前、手を伸ばせば届く距離まで肉薄する。
 言うのは、ただ一言だ。
「……衣鶴。すまない」
「だから、それはもういいって―」
「嘘を言うな」
「嘘って―」
「お前の言葉は、俺に届いていないんだ。そんな言葉が、真実である筈がない」
 ぐ、と彼女が一歩引く。
 俺はその分だけ距離を詰め、勢いに任せて口を開く。
「衣鶴。―知ってるか。世の中にはな、誰かが自分自身を貶めると、傷つく人間だっているんだ」
 俺はお前だけだが―と、思いつつ、言葉を続ける。
「嘘はやめろ。その笑みもやめろ。俺は、お前をそんな風にしている俺を許せなくなる」
「…………ぅ、」
「衣鶴」
 ぐ、と眉に力を込める。
 彼女の視線は顔ごと下にあるが、俺は衣鶴の目から視線を切らない。
「うぅ、う」
 前髪の下から、小さな声が聞こえてきた。
 震えた、弱々しい声が。
「負けたんだ、……あたしのせいで」
「三年間、頑張ってきたのに」
「みんなでがんばろうって誓ったのに」
「あたし以外の、みんなが全力を尽して―あたしだけが違って、」

536:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:02:12 LMFYRy/w
「負けちゃったんだよぅ……」
 一言と同時に、彼女は後ろに下がっていく。
 三歩目で壁にぶつかり、その後は、ずるずると床にへたり込んでいく。
 結果的に姿勢は体育座りに近いものになる。
「……衣鶴。近づくぞ」
「…………やだ。だめ」
「……分かった。無視する」
 宣言し、衣鶴の前にしゃがんだ。
 鼻をすすり上げる音が聞こえた。
「……衣鶴」
「……来ないでよ……」
「黙れ馬鹿。……下手に我慢しやがって。本当、馬鹿だな」
「ばかばか気安く言うなばか」
「気安くじゃないぞ。心を込めて言ってる」
 振り回すような左拳が来た。
 威力は弱く、しゃがんだ姿勢を崩す事すらできはしない。
「……さいあくだ」
「ああ。最悪だな」
 右手を衣鶴の頭に乗せた。
 今俺に出来る最大級の努力だが、効果を確認することはできない。
「……応援、してくれなかったしさ。実は、結構、期待してた。待っててって言ったのも、それを期待してだったし」
「……朴念仁で悪かった」
「……いいよ。それが、此方だから」
 衣鶴は、足の間に頭を埋めていく。顔を隠すように。
「……此方がふざけなければ、―此方が応援してくれれば、あたしも全力を出せてた、って思う。力を出し切れなかったのは、あたしの問題なのに、此方に責任を押し付けてる」
 ホント、最悪だよね、と、小さな自嘲の声がついてきた。
 俺は、衣鶴の頬に手をかけ、ちょっとばかり強引に顔を合わせる。
 視線は一瞬俺の目を見たが、しかしすぐにそらされた。
 己に不安を抱く目だ。何かに助けを求めるように、落ち着きなく周囲を見回している。
「いいぜ」
 俺は、笑いながら言う。
「恨め。それは正しい。全くの正当だ。俺が許す、お前は俺のせいにしていい」
 一拍置き、俺は言葉を続ける。
「……届いたか? お前に」
「…………」
 首は横に振られた。
 が、直感する。衣鶴は、俺の言葉に嘘を感じていない。

537:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:02:43 LMFYRy/w
「……衣鶴。やり直すか」
「……え?」
 眉が上がり、何を言っているのか分からない、といった顔になる。
 立場が逆なら、俺だってそう思う。そんな、突拍子もないような一言だ。
「だから、やり直すかって言ってるんだ。最後の打席を」
「でも、二人じゃ―」
「真似事くらいならできるだろ。ピッチャーとバッターさえいればな」
「ピッチャーなんていないでしょ、此方の右腕は、三年前に―」
「忘れた。―他に文句はあるか?」
 強く視線を送ると、その目線はまたも外れた。
「……今更すぎるよ」
「ああ今更だ。だが俺は、辛気臭い雰囲気が苦手だ。ってか大嫌いだ。―特に、お前のはな」
 余計な一言が出たが、どうやら衣鶴は気付いていないらしい。
 返答は、無言の首肯。
 話は決まった。立ち上がらせようと脇に手を入れて力を入れた瞬間、素直な感想が出た。
「……うわ、意外と重いな、お前」
 ―頭突きが飛んで来た。

/

 ―勝負は、三球。それが約束だ。
「それじゃあ―はじめますか」
 暗闇の中―誰もいないグラウンドで、対面する。
 衣鶴はバットを重しに、軽く柔軟運動をする。数度それを繰り返したあと、バットを己に立てかけ、手指を伸ばしていく。
 まだ違和感があるという右手指は念入りに。三十秒ほどかけてから、彼女はバッターボックスに入る。
 ヘルメットと制服は、改めて見るまでもなくミスマッチ。
 だが、―衣鶴がバットを正しく握り締めた瞬間、その違和感は消失する。
 そこにいるのは、過去八年、最高と呼ばれた―最高と呼ばれ続けたバッターだ。
 例え意気を失っていても、その覇気は本物以外の何者でもない。
「―は、」
 息を大きく吐く。
 まずは呼吸を整える。
 己の拍を思い出す。
 身体に刻み込んだ技能が、―錆び付いていた機能が軋みをあげる。
 もう―三年。速球を投げていない。
 日常生活に限れば問題はない、と言われたその肩を、一度ぐるりと回した。
 ……やっぱり、医者の言葉なんか信用できない。三年も経ったのに肩には若干の違和感があり、ピリピリとした鈍痛を送ってくる。
 ―だが、いい。大丈夫だ。三球に限るなら問題は一切無い。そう決めた。

538:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:03:10 LMFYRy/w
「…………」
 左手のグラブ位置を調節し、マウンドを踏んだ。
 右手には硬球。握り締める力の半分は恐怖からだ。
 三年のブランクに対し、三年の過酷な練習。打たれぬ方がおかしいとすら言える力量差があるだろう。
 だが、それによるコントロールミスは無い。
 状況は過去を呼び覚ます。投球のための機械であった己を。
 今、この場。ただ三球の間だけ―雲野・此方は、昔と同じく、海老原・衣鶴の好敵手だ。
「――」
「――」
 目線が合う。
 身長はほぼ同じ。互いの準備は完了し、もはや是非もなく勝負は開始される。
 いつだったか―まだ俺の右肩が壊れる前、きっとこういうことがあった。
 脳の片隅でその時を思い出しながら、両手を背へと持っていく。
 ヒュ、と呼気を吐いたのは昔のクセから。呼吸はそれで最後、次に行うのは、左足の振り上げだ。左足と両手がつくほどまで、身体を引き絞っていく。
 衣鶴には、俺の背が見えている。
 覚えているか、と視線を送る。俺の投球法を。
 左足を加速。
 スニーカーがマウンドに食い込み、速度が関節を伝っていく。
「……ッ!」
 ―振り抜いた。
 速度は精々六十マイル―時速で言えば百キロほどか。昔よりも二割近く遅い球速だ。
 だが、衣鶴のスイングは大きくズレた。振り遅れだ。
 俺の狙いは外角高め。もう少しズレるかと思ったが、案外いいところに入った。コントロールミスはない、と言っておきながら、安心する己が少しおかしい。
 息を大きく吸い、俺と同じように全身を振り抜いた彼女を見る。
 衣鶴は呆然とした顔で、
「回転が、昔よりも速くなってる……」
 ここが地球上である限り、空気抵抗と重力からは逃れえない。ボールは抵抗を受け速度を落とし、重力に引かれていく。
 だが、その影響を少なくする方法ならば、ある。
 ジャイロ―ライフル弾のような回転は、一途な馬鹿ガキの遺産だ。
「今は、調子がいいのさ。昔より腕力もついてるしな」
 二球目を拾いながら、故に、と言う。
「今のは調整だ。回転はもっと速くなるし、速度も昔と同じまで引き上げる」
 笑い、
「打ってみせろよ、衣鶴」
 セットポジションに入り、
「そんなテンションで、打てるものなら―!!」

539:真似事。 ◆1Bix5YIqN6
08/03/15 13:03:39 LMFYRy/w
 リズムを跳ね上げ、右腕がボールを速度に乗せる……!
 宣言通り、速度は七十五マイルに到達する。時速にして、おおよそ百二十キロ― 一般レベルで見れば十分な速球。
 過去の己の最高速度であったが、……今なら、と思う。この好敵手が相手ならば、まだギアは上がる。
 ……まあ、この球どころか、一球目で振り遅れていた衣鶴では打ては―と。リリースの瞬間、ビジョンが見えた。

右の蹴り足、意気がないまま彼女は自動的に動き、その身に刻み込んだ動作だけでこの速球を打ち砕く、

「ッ、」
 奇妙な確信が背筋を走る。
 冗談じゃない。
 そんな状態の衣鶴に打ち砕いて欲しい球じゃない。
「―お、」
 既に力の伝達は指先に至っている。
 勢いに負け僅かにたわむ指に、無理な力を込めた。
 更なる回転をかける。
 結果は、一球目とは比べ物にならない剛速球の成立だ。
 彼女のフルスイングは、ボールの頭をかすって、このマウンドまで風を送ってきた。
 ボールがベースの向こうに激突して跳ね、勢いを失いつつ転がっていく。
 ……ああ。ようやく、衣鶴も起動したらしい。
 本気が来る。打つ、と。殺気に近い、その意志が。
 夏の夜。生暖かい筈の風が、身を切るように冷たい。
 ……ああ、そうだ、思い出した。この女は、投手に殺気をぶつけるタイプだった。
 爪は僅かに割れたし、右肩にも鋭い痛みが芽生えているが、あと一球ならまったく問題はない。
 再度砕けようとも、この投球さえ完遂できればいい―。
 三球目を拾い、宣言する。
「行くぜ」
 いつだったかの勝負の結末は、どうだっただろうか。
 ゆっくりと、両手を背へと持っていく。
 呼気を鋭く吐き出して腹筋を締めた。左膝を胸につけるように持ち上げていき、同時に背を見せるほど身体を捻る。
 スニーカーの裏から、砂が風に零れていく。左膝が頂点に達し、一瞬停止した。
 一連の動作は、拳銃のイメージに似る。弾丸を装填し、撃鉄を下ろすそれと。
 昔の漫画のように派手で大仰な、―彼女のスイングと同じく、全身を使う投球。
 フォームの名を、トルネード。かつて日本を沸かせた大エースの投球法だ。
「お、」
 左足を、とにかく前へ。
 つま先から指先へ。地からの速度は関節を経由し弾丸に集中する。
 体重移動、精神集中、関節駆動―紛れもなく過去最高。



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