【友達≦】幼馴染み萌えスレ14章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ14章【<恋人】 - 暇つぶし2ch193:You is me
08/02/12 22:50:13 M88jlCa/
>>183からの続き。

 あたしは自分の部屋で緊張していた。さっきのいきなりゆーちゃんに抱き締められて緊張したのもあるけど、
それだけじゃない。
 目の前には女性ファッション誌。最新号ではない。結構前の号だ。
 中身を確認して、うんと頷いて部屋を出る。階段を下りてまたリビングへ。ゆーちゃんはさっきまでと同じくソファー
にいた。
 今度は大人しく横に座る。
「あのね、ゆーちゃん」
 ゆーちゃんがあたしをもう機嫌直ったのかみたいな目で見る。緊張してるからそれに応じる余裕はないけど。
 声が震えそう。どきどきしてる。
「ちゅー、しよ?」
「なんだよ、かしこまって。みーなら確認せずに不意打ちでするだろ、いつも」
「う、うん、そうなんだけど……そうなんだけど。今回はその、ちょっとね……」
「なんだ、歯切れ悪いな」
 あたしは勇気を出して言った。
「舌……で」
 静寂。空気が固まる。凝固。ゆーちゃんの表情がびしりと固まった。

194:You is me
08/02/12 22:53:01 M88jlCa/
「えーと、俺の認識が間違っていなければ、ディープキスをしてくれ、と言うように聞こえたが」
「そ、そうだよ。……して、ほしい」
「ま、まぁ、うん、やる分には良いが」
 ゆーちゃんが顎を右手で擦りながら言う。
「ずっと前に、一回やろうとして、みーが恥ずかしがって逃げ出してからやってないだろ、大丈夫か?」
「恥ずかしいけど、でも……ゆーちゃんとしてみたい」
 言った。言っちゃった。心臓がどくどく言う。多分顔は真っ赤。あたしより少し高めの位置のゆーちゃんの顔を、
目を、見つめる。ゆーちゃんは解った、というように小さく頷いた。あたしから、見上げれば顔が触れ合うような
距離まで近付いた。こぶしふたつ分くらいの間を空けて、互いの顔が向かい合った
 とくん、とくん、とくん、と胸の内から響く音。目を閉じた。何故か背筋がぴりぴりする……触れ合った。
 どっちが先に動いたかはわからない。唇が開いて、互いの舌が触れた。
「……っ! ふ、ん、んん……」
 触れた瞬間、電撃の様な感覚が全身に突き刺さる。
 う、あ、ゆーちゃんの舌、ざらざらしてる……。
 ぴちゃ、と水音が聞こえた。お互いの鼻息の音も聞こえる。
「ふぅ、ん、は……ん、ぅぅっ!?」
 突然、ゆーちゃんの舌の動きが変化した。あたしの舌を一気に押し込んで、口内に。
「ゆーひゃ、ん、ひゃめ、んぐっ!」

195:You is me
08/02/12 22:55:07 M88jlCa/
 ぐちゃぐちゃという粘着質の音。ゆーちゃんの舌があたしの舌を一方的にねぶる。かきまぜる。歯茎を
さっとなぞり、更にあたしの舌が舌でつつまれる。
 絶え間なく、ぞく、ぞく、ぞく、と寒気が走り抜ける。頭にもやみたいなものがかかって……体も細かく反応して動く。
「ゆー、ひゃ……ゃ、ん、ん、ぅ、やぁん……」
 あ、あ、はぁぁ……きもち、いい……すごい、よぉ……っ!
 口内につばが溜まる。それをこくり、と飲み干した。
 ゆーちゃんの、つば……
 体が震える。抵抗できない。
 唇が離れた。力なく瞳を開けると、つぅ、と唇の間に橋ができて曲線を描いて落ちて行った。口の周りも唾液で
ぐちゃぐちゃになっている。
 あ、だめ、ちからが……はいらない。ながされ、ちゃ、う……。
「お、おい。みー大丈夫か?」
 声に応じれない。まだ体がぴくぴく動いてる。や、ん……ちゅー、って、こんなに……すごい……。体を思わず動かした、その時。
ちゅく、という粘っこい水音がした。
「!!」
 一気に意識が覚醒した。あ、あ、あ、そんな、うそ……!
「ちょ、ちょっと、その……そ、そうだ! 二階の窓開けっ放しだったから閉めてくる!」
「お、おい!」


196:You is me
08/02/12 22:58:01 M88jlCa/
 ゆーちゃんの声を無視してあたしは居間を駆け去って、階段を自分でもどうやったかわらないぐらい早く
昇り、部屋のドアを音を立てて閉めて、そのドアにもたれかかった。
 おそるおそるスカートの裾を持ち上げて……。
「う、わぁ、やっぱり」
 それ以上は言葉に出さずに心の中で呟いた。うう、これじゃゆーちゃんの事が変態とかスケベなんて
言えないよー……ゆーちゃんは気付いてない、よ、ね?
 心臓が破裂しそうな程に波打つ。もしも、気付かれてたら、もしも、もしも―
 あたしはそのちょっとキスをされただけで酷い有様になってしまった物を脱ぎ捨て、新しい物を取り出した。
スカートにしみなくて良かった、なんて思考が情けない。手が惨めなほどに震える。
 これは後でこっそり洗濯……部屋においておけば大丈夫だよね。よっし、平常心。平常心でゆーちゃんのとこに
行かなきゃ……何食わぬ顔で、うん。
 部屋を出て、階段を降りて、リビングへ入って。
「あー、ゆーちゃん、ごめんねー、どこも開いてなかったよー」
 少し棒読み気味になった……けど、押し切らなきゃ!
「お、おう。そうか」
「うん、勘違いでー」
 そこまで言って、ゆーちゃんが座っているソファーの、さっきまであたしが座っていた場所に、大きいシミが
出来ていることに気付いた。
 うそ……

197:You is me
08/02/12 23:00:29 M88jlCa/
 思わず硬直。そーっとゆーちゃんの顔を確認すると、ゆーちゃんは後頭部を掻きながら顔を少し赤くして言った。
「いや、その……個人差はあるし……別にいいんじゃないか」
 頭の中になんかよくわからない大爆発の画像。
「ま、まぁ! 気にするなよ! 俺は気にしないし、ほら!」
「ゆ」
「ゆ?」
「ゆーちゃんの……ゆーちゃんの! ばかー!!」
 思い切り大声で叫ぶ。ゆーちゃんが耳を押さえてうずくまった。
「お、おま、声がでかすぎ……」
「ゆーちゃんのばか! ゆーちゃんのばか! ばか! ばか! ばかぁっ!!」
「やめんか、近所迷惑だ!」
「ゆーちゃんが悪いんじゃない! 言わないでよぉ……うう……ぐすっ、ひぐっ、ゆーちゃんのばかぁ」
「あああ、泣くな泣くな」
「ゆーちゃんのばか、ぐすっ、う、ひくっ、ゆーちゃんのばかぁ……」
「たく、ほれ、泣き止めよ。な、俺が悪かったから」
 ゆーちゃんがあたしの頭を抱いて胸にうずめた。あたしはその胸を両手で叩く。もちろん……軽く。八つ当たり
なのはわかってるくせに、ゆーちゃんのせいにするあたしは本当に子供だ。
 自分のあまりの情けなさにまた涙が出そうになる。


198:You is me
08/02/12 23:03:06 M88jlCa/
 勢いに任せて、ゆーちゃんの胸板に顔を押し付ける。
「ゆーちゃんのばか……」
 呟いて、黙り込む。とんがった気持ちがすっと落ち着いていく。抱き締められたくらいで気分が落ち着くなんて
……あたしっのほうがよっぽどばかだよ……っ
 そっと距離を置いた。
「落ち着いたか?」
「う、うん」
「みー、悪かったな。デリカシーがなかった。すまん」
「違う、ゆーちゃんは別に、そんな、あたしが」
「いいんだよ、こうゆう時は男がこうで」
 ゆーちゃんがあたしの頭をぽんぽん、と叩いた。
「さ、落ち着いたとこで、さっきみーが買った菓子でも食おうぜ。紅茶煎れてやるよ」
「あ……うん」
 あたしは椅子について、ゆーちゃんは慣れた手並みでティーパックじゃない紅茶を煎れた。レモンが一切れ
浮かんでいる。お茶請けはさっきスーパーで買ったチョコチップクッキー。紅茶はすごくさわやかで、すっきりした。
「おいし……」
「ああ、今回はうまいこと煎れれたな」
笑顔でそう言うゆーちゃん。なんかその姿を見て、また涙が込み上げそうになってしまった。あたしはそれをぐっと
我慢して、懸命に口を動かした。

199:You is me
08/02/12 23:05:39 M88jlCa/
「ゆーちゃん、ありがとう」
 ゆーちゃんは、ん、という顔をした後、笑顔で「おう」と返してくれた。
 今度は涙は出なかった。でも、何だか、とても胸がぎゅっ、と締め付けられる感じがした。
 なんだろう、この感じ……今までとは、違う。あたしは―


200:温泉
08/02/12 23:06:52 M88jlCa/
投下終了。夜中に書いたのを誤字修正だけで出したので
整合性も取れてないかも……
ま、まぁ、よろしくなんだぜ。

201:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:11:32 XxJWN797
>>212
おうGJ!! まぁそういうのは投下している内に慣れていくものさ! しかし濡れすぎて恥ずかしがるみーちゃん可愛いな!!
本番の時にはどうなってしまうのか、今から期待してるぜ!!

202:193
08/02/12 23:22:58 Bqcxi0fF
>湯泉
ふふっ さっそく あいことばをつかっているな。
そうやって ひとびとのこえに みみをかたむけるのだ。

……失礼しました。GJ!

203:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:24:50 mAo5SZnH
>>212
GJ!
一瞬失禁したかとオモタw




204:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:26:57 Bqcxi0fF
うおっ、気付いたらID末尾がfFだった……

205:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:27:58 lfr1JrL2
>>212
GJ!みーちゃんがかわいすぎるの

206:名無しさん@ピンキー
08/02/13 00:30:42 YKN5A7cs
>>212
GJすぎる。GJすぎる。

207:名無しさん@ピンキー
08/02/13 03:23:18 8K8oNbyy
ああもう筆早くて羨ましいなぁGJ!

208:名無しさん@ピンキー
08/02/13 03:44:51 G4WT54+n
>>212
いい仕事だ……!

にしてもこのスレは作品が沢山投下されてていいよなあ。
もう一つの常駐が過疎スレだからたまに恨めしくなるよ。

209:名無しさん@ピンキー
08/02/13 03:53:24 lZYhu3dP
>>212回を重ねる度に神になっていってる気がする。
普通の小説読んでもここまで興奮しないのに、僅か数レスでここまで気持ちが高ぶるとは・・・
この二人はこの後どんな関係になるのか、そんな事を考えながら続きを待ってます。
超GJ!

210:名無しさん@ピンキー
08/02/14 18:20:39 jM1FJ8Cb
>>212
あーもうお前らさっさと付き合え馬鹿野郎!
……と思うくらいGJだな、これは
甘くて死にそう

バレンタインネタを投下してみる
エロなし、つかあんまりラブラブしてない……
嫌な人は「幼馴染とチョコレート」をNGにしてね
では開始

211:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:21:14 jM1FJ8Cb
2月14日。
世間一般では「バレンタインデー」と呼ばれるこの日、
日本ではチョコレート業界の卑劣な策略によって、少数派の喜びの声と、それ以外の怨嗟の声が聞こえることになる、らしい 。
こういうふうに大げさなことを言っている俺も、少数派に入っていないことは間違いない。
一応何個かアテはあるのだが、それだってカウントに入れるかどうかは微妙……というか、普通は入れない部類の相手からである。
一つは母親からの分。こんなものをカウントに入れるのはせいぜい小学生までで、高二となった今ではむしろみじめな気分になる。
そしてもう一つ。こちらは一応、同い年の女の子からもらっているのだが、まさしく義理を果たしているといった感じだ。
何せ昔から隣に住んでいて、兄妹(姉弟ではないと思う、たぶん)のように育ってきた相手である。
親からもらうのと大した違いなどない。やはり、ありがたくない。
そういうわけで、普段はあまり気にしないけれど、この時期になれば俺だって寂しくなるし、世の不条理を嘆きたくなる。
誰か可愛い娘が俺にチョコをくれないかな、なんて、そんな下らないことを考えてみたりするのだ。
だがしかし、現実は厳しい。結局、俺は毎年その二個だけを一人寂しく口に入れることになるのだ。
だが今年は一味ちがった。いや、実は昔からそうだったのかもしれないけれど、それは今だからこそ思うこと。
とにかく、今年のバレンタインはいつもとちょっとちがったのさ。


212:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:21:49 jM1FJ8Cb
寒さも本格的になってきた冬の朝、登校した俺たちはいつものように靴箱を開ける。
と、見慣れた上履きの上に何やら紙が置いてあるのが目についた。
「……なんだこれ?」
手にとって確認する。どうやら便箋のようだ。しっかり封もしてある。
差出人の名前は……ない。
「ん、何それ」
隣から声がかかる。そちらを振り向くと、いつの間にかあいつが俺のそばまで来ていた。
「さぁ、何だろな。手紙みたいだけど」
手紙?と訝しげな表情を返してきたこいつの名前は葉山美貴(はやまみき)。俺の幼馴染だ。
まぁ、幼なじみってより腐れ縁って言ったほうがしっくりくる仲なのかもしれんが。
「で、誰から?」
「さぁ、名前がないからわからない」
しかし、このまま放っておくわけにもいくまい。何かしらの用事があるから手紙を入れたんだろうし。
美貴の視線を感じつつ、便箋を開封する。中には紙が入っていて、こう書いてあった。
『相澤悠斗様
 入学したときからあなたのことをずっと見ていました。
 あなたを見ているとドキドキして、あなたに声をかけられると胸がキュッとなってしまいます。
 恥ずかしがり屋の私は、今までずっと遠くで見ることしかできませんでした。
 でも、それもおしまいにしたい。弱気な私とはさよならをして、ちゃんとあなたに伝えたい。
 放課後、裏庭の桜の木の下で待っています。』
……何だろうこれは。女の子の可愛らしい字でたどたどしく書かれているこの文面は、つまり。
「よかったじゃない、ラブレターでしょ、それ」
再び美貴の声。ただ、さっきの興味を表に出したのとは少しちがった声音だった。
「……え、あ、あぁ、そうだな」
あやふやな返事をしつつ美貴のほうを見る。
ドキッとした。怒っているわけじゃないようで、むしろ寂しそうな表情をしている。その顔の、何と切ないことか。
「そうか、あんたもそんな物をもらうようになったのね……」
何やら感慨深そうに呟く。失礼な。物珍しそうに言うな。確かに初めてだけど。
「で、どうするの?」
急に聞いてくる。いつもと同じ表情だけど、少しだけ違和感がある。何故だろうか。
「どうすると言われても。とりあえず会ってみないことにはなぁ」
差出人不明とは言え、さすがにすっぽかしては相手に失礼だろう。きちんと返事をするくらいはしないと。
「そう」
すると美貴は興味が失せたような声で相槌をうち、それから後ろへ向いて、
「じゃあ、今日は私、先帰るから。ちゃんと返事するのよ」
そんなことを言って先に行ってしまった。
遠ざかるポニーテールを眺めながら、俺の混乱した頭がようやく話に追い付いてきた。
今日は確かバレンタインだ。日本では男が女からチョコレートをもらう日。
そしてこの手紙。相手はたぶん、こっちに好意を持っている。
この二つから導き出される答え、それは。
……もしかして、俺にもついに春が来たんじゃなかろうか、ということだった。
今は冬だけど。


213:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:22:32 jM1FJ8Cb
「相澤、何だか機嫌良さそうじゃないか。何かあったか?」
昼休み。仲のいいクラスメイトに声をかけられた。そんなに浮かれて見えるのだろうか?慌ててごまかす。
「え、いや、何でもない」
さすがに「ラブレターをもらいました」なんてばか正直に答えたら、クラス総出でネタにされること間違いないし。
「ふぅん……。ま、いいけど」
ニヤニヤしながらそう返される。何だか腹が立つけれど、ここは我慢だ。ムキになったら負け。
「……お、何の話だ?」
そこに別の二人が寄ってきて、結局俺たちはいつもの四人で昼飯を食うことになった。
ちなみにメンバーの名前は佐藤、田原、東。この三人と俺は一緒に行動することが多いのだ。
四人で各々の昼食(弁当やパン)をぱくつきながら談笑するのが、お昼の俺たちの過ごし方。
「……で、お前らいくつもらった?」

今日のお題は、やっぱりバレンタインのチョコの話になるようだ。
「僕は三つ。部活の娘から」佐藤が答える。そういえば吹奏楽部は女子が多いよな。役得、ってやつだろうか。
「俺は一つ。恵から」田原が答える。彼は四人の中で唯一彼女がいる。ごくたまに惚気るからムカつく。
「くそ、うらやましいなお前ら……、オレは0だよ」東が悔しそうに言った。こいつは基本的に女の子と無縁なタイプ。一番飢えてもいるのだが。
さっき声をかけてきたのもこいつだ。
「で、相澤は?」
三人がそれぞれ成果を出しあって、必然的に視線はこちらにきてしまう。
ふと、先ほどの手紙を思い出したが、首を降る。今の成果だけ伝えることにしよう。
「俺も誰からももらってないよ。たぶん0個になると思う」
そういうと、佐藤と田原の二人が意外そうにこっちを伺ってきた。
「0ってことはないでしょ、だって彼女がいるじゃん」
「あぁ、葉山からはもらわないのか?」
そう言いつつ、二人の視線は女子のグループ……その中にいる美貴に向く。
自然、俺と東もそっちを見た。


214:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:22:54 jM1FJ8Cb
葉山美貴は、先ほども説明したが、俺の幼なじみである。
背は女子にしては高めだが、俺と大差はない。スラリとした体型は可愛いというよりカッコいいと表現したほうが似合う。
長い髪はまとめてポニーテールにしている。
中学時代は陸上部に所属していて、その時によくしていた髪型を高校に入ってからも続けているとのこと。
整った目鼻立ちで、大きくて、ちょっとつり目だからか、その顔つきは何となく猫を思わせる。眉は描いたりしているわけじゃないのに細い。
クラスでは明るくて行動的、責任感も強い委員長として、みんなから慕われている。
運動ができて成績も良いという、そこはかとなく完璧人間臭がするチートみたいな女だ。
だがこいつ、ことあるごとに俺に絡んでくるのが玉に瑕だ。
朝は毎度俺の睡眠を妨害しに来るし(母親は美貴をすぐ家に入れるのが困る)、
委員長が受け持つ雑用(主に力仕事)を手伝わされたのは一度や二度ではない。副委員長もいるのに、だ。
オマケに放課後も暇なときはなぜか帰る時間が俺とかち合うし、ひどい時には、俺が自分の部屋で満喫している至福の時間を邪魔して勉強までさせようとしてくる。
いつも絡んできて、正直うっとうしさ通り越して空気みたいに思えてきてしまった。
そしてこいつは毎年、当たり前のようにチョコを渡してくる。
さすがに衆人環視の中でそんなことはやらかさないが、もらうほうとしては気まずいことこの上ない。
正直勘弁してくれと、もらう度に思ってしまう。義理チョコなんてもらっても嬉しくないし。
……そういや、まだ今回はチョコもらってないな。さすがに飽きたか?


215:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:23:17 jM1FJ8Cb
そんな話はさておき。
……しかし佐藤に田原、未だにそういう勘違いしてるのかよ。それともからかってるのか?
「あのな。今一度言っておくが、俺とあいつは単なる腐れ縁で、付き合ってないから」
「でもたいがい一緒にいるじゃん。行き帰りとか」
「時間がたまたま合うだけだ。そうじゃないときも多いだろ?」
「休み時間は」
「ノート写させろって言ってるだけ。あいつ頭いいし」
「でもチョコくらいもらうだろ」あぁもう、あぁ言えばこう言う。うっとうしいことこの上ない。
「あのな、例えば母親からもらったチョコはカウントに入れるのか?俺にとってはそれくらいの意味しかないんだよ」
そう言い切る。そうだ、美貴からのチョコなんて親からもらうのと大差ない。
ふぅん、と俺の台詞を流した佐藤と田原、そして何だか恨みがましい東の視線を感じつつ、俺は話題の転換を図る
「そんなことより、テストの後をしよう。お前ら春休みの予定は決めたか?」
結局、こいつらには例の手紙の話はしなかった。内容如何によっては明日さんざん自慢してやるつもりだが。
今年の俺は一味ちがうのだ。いつまでも美貴のことでネタにされたりしないからな。


216:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:23:37 jM1FJ8Cb
と、いうわけで放課後。俺は手紙の指示通りに裏庭の桜の木の下にいた。
春になったら綺麗な花を咲かせ、初夏には多くの毛虫を降らせてくるこの桜。
何かのおもしろいジンクスがあるかといえば、そんな物は全くない。
そんな何の変哲もない、今はほとんど丸裸の桜の木の下で、俺はこれから来る相手のことを考えていた。
いったいどこの誰だろうか。特に部活も委員会にも入ってない俺に、そんなに仲のいい女子とかいないし。美貴は除外だ。
いや、でも手紙には「ずっと遠くから見ていた」ってあったな。つーことは全く知らないやつの可能性もあるな。
つまり先輩とか後輩かもしれないわけだ。こうなるとも特定は無理だな。個人的には同い年がいいんだけど。
……どんなやつが来るんだろう。
背は俺より高いのか、低いのか。
あんまり高いと悔しいし、やっぱり低めの人がいいかな。あーでも、同じ目線で話したりしたいかも。
個人的には細身のほうが好きなんだよな。スラリとした体型ってなんかカッコいいし。
髪型は長めだといいな。で、後ろでまとめて垂らしてたりすると、なおよろしい。
顔は……そんなに選り好みするつもりはないけど、やっぱり目は大きめの娘がいいかな。可愛らしい感じがするし。
性格は明るい人がいいよな。一緒にいて楽しいだろうし。それでたまに俺相手に照れる顔を見せてくれたら最高だな。
そんな下らないことを考えてたら、何だか寒くなってきた。チラチラと白い物が舞ってるし。
「……雪、か。どうりで寒いわけだ」
時計を見る。待ちはじめてからけっこう時間がたっていた。
「……そういや相手さんはいつ来るんだ?」
手紙には「放課後」とだけあって、時間の指定は特になかった。だからこそ、授業が終わってからすぐ来たのだけど。
どうしよう。コートとか教室だし、荷物を取りに一回戻ろうか。
いやしかし、ここを離れている間に件の人物が来た場合、失礼なんじゃなかろうか。
こんな寒空の下で待たせるのはかわいそうだ。もうしばらく待ってみるか。

と、そのまま二時間、俺は寒空の下で待ちぼうけを食らうことになる。
しかし、待ち人は来ず。俺が騙されたことに気付いたのは、学校の門限を知らせるチャイムが鳴ったときだった、と。


217:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:24:20 jM1FJ8Cb
日も暮れて、すっかり暗くなってから教室に戻ったら、なぜか美貴がいた。
何でここに、と思ったのも束の間、美貴は俺にコップを差し出してきた。
「朝に入れたやつだから、もう冷めてるかもしれないけど」
中身はウーロン茶だった。湯気が立ち上っていることからまだ温かいことがわかる。
俺は美貴の気配りに感謝しつつ、中身を一気に飲み干す。冷えきった体が暖まっていくのがわかる気がした。
「で、どうだったの」
今それを聞くな。タダでさえ自分の間抜けさ加減に腹が立ってるのに。
俺は美貴の言葉を無視して机に向かう。鞄の上に何やら紙が置いてある。
手にとってみると、こうある。
『だまされてやんの』
思わず破り捨てる。この筆跡は東の物だろう。あの野郎明日殺す。
「無視しないでよ、どうだったか聞いてるの」
再び美貴の言葉。あーもうムカつく。
「東の野郎のイタズラだったみたいだよ」
「……イタズラ?」
微妙な空気が漂う。その間に俺は帰り支度を済ませて教室を出ようとする。
「ちょ、ちょっと待って」
呼び止める声。振り返ると、何やら美貴が下を向いて、珍しく気弱な感じで話しかけてきた。
「え、えーと、その。チョコ……あるんだけど。食べる?」
……何だそれは。嫌味か。今まで寒空の下、来るはずもない相手を待ち続けていた俺を馬鹿にしているのか。
「いらねーよ、お前からのチョコなんて、仮に本命だとしてもお断りだ」
ただでさえイライラしていたから、そんな言葉が口から出てしまう。
美貴の顔がさっと朱に染まった気もするが、俺はかまわず続ける。
「大体な、お前が俺にチョコ寄越すのも腐れ縁ゆえの義理だろ?そういうのはな、男のみじめさを増幅させるんだ。
 そういうのは女同士でやるか、さっさと彼氏見つけるかしやがれこのバカ」
そうだ、こいつが毎年俺にチョコを渡してくる度に、こいつも俺も周りの連中からからかわれるんだ。本人にその意図はないのに。
お前だって、俺なんかに構わなかったら男なんかいくらでもできるだろ。顔もいいし、ちょっとおとなしくしてりゃあっちからよってくるだろうしよ。
「そういうわけだから、お前からの気づかいはいらない。
 俺は今機嫌が悪いんだ。放っておいてくれ」
そんな捨て台詞を残して教室を出ようとする。
「……何よ、私の気持ちなんか知らないくせに」
美貴が小さく呟いた。その声が震えているような気がして、何事かと振り返ってしまう。
「私が、私がいったい、どんな気持ちで、毎年アンタに、チョコ渡してると、思ってるのよ……」
「ちょ、おま」
何故だか美貴は顔を真っ赤に染めて、下を向いて泣いていた。
こいつが泣くところを見るのは何年ぶりだろうか。
俺に対してはいつも強気に振る舞って、こんな弱みなんぞ全く見せなかったというのに。
「わ、私だって、好きでもない男に、ち、チョコなんて、渡したりしないわよ!」
……は?
いきなり顔をあげたと思えばそんなことを叫ぶ。それって、いったい。
「な、何を」
「アンタが、私のことなんて、何とも思ってないことなんか知ってる。知ってる、けど!
 けど、私はそうじゃない。いつも一緒にいて、いるのが当たり前で、だから私も何もできないけど、
 毎年この日だけは、ちょっとだけでも素直になろうって、いつもドキドキしながらチョコ、渡してるのに。なのに!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、美貴は言葉をぶつけてくる。えー、と。これは、つまり。
「……あー、美貴?それって」
とりあえず全部言い切ったのか、肩で息をしている女に話しかける。
そこでどうやら我に返ったらしい。はっとした表情になると、すぐに袖で涙を拭って、再びこちらをきっとにらむ。
「もうアンタになんか絶対にあげないんだから!アンタなんか……、アンタなんか大っ嫌い!」
それだけ言って、美貴は俺を突飛ばし、逃げるように教室を出ていった。
残されたのは間抜けが一人。しばらく俺は教室で呆然としていた。
……何というかアレだ。今年のバレンタインは悪い意味で一味ちがったらしい。
ラブレターは偽物で、毎年もらえていたチョコも逃してしまったようだ。そして、あいつも傷つけて。
今までの自分に言ってやりたい。自分を思ってくれる人がすぐそばにいるぞ、と。
いや、いたぞ、か。自分の馬鹿馬鹿しさに怒りを通り越して呆れてきた。
「……帰ろう」
ふらふらとした足取りで教室を出る。家までの道のりがこんなに遠く感じたのは初めてだった。


218:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:24:53 jM1FJ8Cb
「おかえり、これちょっと葉山さんのところに持っていってくれない?」
帰ってくるなり母さんがそんなことを言ってくる。勘弁してくれ。
「ごめん、俺疲れてるからパス」
「って言っても、私は手がふさがってるし。晩ご飯が遅くなってもいいならかまわないけど」
……確かに、ここで母さんが葉山家に行くと、一時間は帰ってこない気がする。
美貴のお母さんとうちの母親でそのまま喫茶店とか行きかねない。というか一回あったし。
ただでさえ色々疲れているのに、晩飯まで遅れたら死んでしまいそうだ。
「……わかったよ」
荷物を置いて、母さんが持っていたビニール袋を受け取る。みかんか。
「じゃ、行ってくる」
葉山家は相澤家の隣にある。母さんと美貴のお母さんは、よく家の間で長いこと喋っている。よく話題が尽きないものだ。
チャイムを押してしばらく待つと、美貴のお母さんである薫おばさんが出てきた。
「こんばんは。あの、これ、母からです。親戚からたくさん送られてきたので……」
あらあら、ありがとう、とビニール袋を俺から受け取った薫おばさんは、それからちょっと黙り込んで、
「ね、悠斗くん。もし忙しくなかったら、ちょっと美貴に会ってほしいんだけど」
なんてことをのたまった。
思わず固まる。ギクリ、なんて効果音がしたような気がした。
「あの子、帰ってくるなり部屋にこもって、ご飯もいらないっていうし。私どうしたらいいかわからなくて……」
まさか原因は俺です、なんて言えるはずがない。俺は無言で話を聞いていた。
それにしてもあいつ、そんなに傷ついていたのか。俺も、何だかすごく苦しかった。
「こういうときは悠斗くんに任せたらうまくいくから、お願いできる?」
あいつが傷ついたのは俺が原因だ。そのことについて、俺はちゃんと謝罪しなければいけない。
そして、あいつがぶつけてきた想いにも、ちゃんと返事をしないと。
「……わかりました。じゃあ、おじゃまします」
そうして、俺は葉山家にあがらせてもらった。


219:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:25:19 jM1FJ8Cb
美貴の部屋の前。ノックをしてから声をかける。
「美貴、俺だ」
「……帰って」
部屋の中から返事がくる。その声音は普段の美貴の声とは全くちがっていた。
「その、すまなかった。お前の気持ちなんて考えたこともなかったからさ。
 いつもずっと一緒で、毎年チョコくれて、それが当たり前なんだ、ってうぬぼれてた」
そう、いつの間にか、そういう風に思っていた。
こいつが俺のそばにいるのは当たり前で、チョコをくれるのだって単なる習慣だと考えるようになっていたんだ。
でも、そんなわけはない。幼馴染だからって、そんなにずっと一緒にいるわけがないんだ。
「お前にはほんとに感謝してる。
……その、お前の気持ちにちゃんと応えられるかは、いきなりだから、ちょっとわからないけれど」
何せ今までずっと一緒だったから、いきなりそんな関係になれるか、なんてこっちだって想像できない。
それでも。
「今までよりも、お前のことを大切にする。これからもずっと」
これが俺の今の気持ちだ。自分勝手な話だとは思うけど。
しばらく待っても返事はない。そりゃそうだよな、調子よすぎるし。
「あー、ひどいことしたのはこっちなのに、何だかえらそうだったな。
悪かった。許してくれなんていわないから。……また、明日な」
気まずい沈黙が嫌で、その場を離れようとする。つくづくヘタレだな、俺。
と、部屋の扉が静かに開いた。隙間から美貴が体をのぞかせている。
「……今の、ホント?」
そんなことを聞いてくる。さっきとは違って、何だか照れ混じりといった風だ。
「あぁ、絶対に大切にする」
そうだ、これだけ俺を思ってくれるやつなんて、こいつ一人くらいだろう。
その一人を、大切にしないとな。
しばらくその姿勢のまま黙っていた美貴だったが、やがて扉をいったん閉めた。
しばらく待っていると、再び出てきた美貴の手に、綺麗に包装された四角い物が握られていた。
「し、仕方ないから許してあげる。今度いらないとか言ったら瞬殺だからね!」
そういって、毎年くれていたそれを突き出してくる。
何だかいつもと違う心地で受け取った「それ」は、何だかとっても暖かく感じられたのだった。


220:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:25:43 jM1FJ8Cb
余談
次の日、東の野郎を問い詰めたら、
「いつも当たり前のようにチョコをもらっているお前にむかついていた。
 お前の思い上がりを正してやろうと思ってやった。今も反省していない。
 つーか何でより仲良くなってんだよ、死ね」
とのこと。散々しばき倒してやった。
東にはどうやら協力者がいたみたいだが、それが誰だかはわからなかった。
昼飯は屋上で食べるといったら、佐藤と田原はずっとニヤニヤとこっちを見てきた。
事情を知らないくせに、その顔はやめろ、むかつく。
「見てればわかるよ、お幸せに」
にらんでいたら、佐藤からそんなありがたい言葉をもらった。ほっとけ。

そして、昼、屋上。俺は美貴と一緒に飯を食べていた。
今日登校するときに、こいつが「お弁当作ってきたから、一緒に食べよう」と言ってきたからだ。
「なぁ、何か恥ずかしくないか?」
今までずっと一緒だったが、二人きりで昼飯なんて初めてだ。周りには誰もいないが、何だかとても気恥ずかしい。
「いいの、私も昨日恥ずかしかったし。」
そんなことを言っているが、アレはお前の自爆じゃねぇか、という突っ込みは控えた。
「私はね、もう自分の気持ちに遠慮なんてしないの。だから……」
俺の隣から目の前に場所を移す美貴。こっちをじっと見つめて、
「だから、アンタがちゃんと私を『好き』って自覚するように、ずっと一緒にいるんだから!」
そんな真剣な、でもちょっと赤らんだ表情が何だかとっても可愛くて、思わず顔をそらしてしまう。
……何というか。
俺がこいつに陥落するまで、そんなに時間はかからないんだろうな。

余談
母さんからのチョコは、今年はなかった。
「だって、一人が本命くれたらそれでいいじゃない」
とは母の弁。見たのか、見ていたのか!?


終われ



221:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:27:34 jM1FJ8Cb
以上。
投下してから気づいた。段落の区切りがめちゃくちゃだ……orz
お目汚し、大変失礼。さて逃げるか

222:チョコっとの勇気
08/02/14 19:23:27 qXK164ni
>>233
GJ!!
間をおかずに悪いが、俺もバレンタイン支援

223:チョコっとの勇気
08/02/14 19:23:56 qXK164ni
 指がふるえていた。
 インターフォンまで数センチ。指先がボタンにつくと、私は弾かれたように手
を引っこめた。引っこめた手を、そのままの恰好でさまよわせる。
 インターフォンには私の影が落ちていた。まだ宵の口だが、あたりは真っ暗闇
につつまれている。
 私は、左手のチョコの包みを持ち替えた。手にかいた汗で、包みがちょっとふ
やけていた。ためらうような気持ちが、心の中にある。
―やっぱり学校で渡しておけばよかった……。
 後悔が、いまさらになって出てきている。学校でなくても、行きと帰りの通学
路でも、渡すタイミングはいくらでもあった。渡せなかったのは私の悪い癖が出
たからだ。もう十一年も続いている、悪い癖。
 行きの通学路では、学校に着いてから渡せばいいと思い。学校に着いてからは、
昼休みに。昼休みになってからは帰りの通学路に。気が付けば家に帰り、夕食の
下ごしらえが終わった時間になっていた。夕食の下ごしらえもしないままにだ。
 もう一度、インターフォンに手を伸ばした。引っこめる。私はつまらない心配
事を、また心の中で反芻しいていた。一成以外が出てきたら、なんと言い繕えば
いいのか。
 心臓の音がうるさかった。チョコの包みを、少しだけ握り締めた。
―やっぱり、チョコ渡すのは明日にしようかな……。
 私はその場でうつむいた。それに、わざわざ自宅に訪ねて渡すなんて、本命だ
と言っているようなものじゃないか。しかし、明日はバレンタインですらない日
だ。違う日に渡すなんて、一成に対しても失礼な気がする。なんだか泣きそうに
なった。
 不意に、眼の前で明かりが洩れた。玄関扉が開いている。
 一成だった。片手に、青い字の印刷されたゴミ袋をぶら下げている。眼が合う
と、私の心臓は飛び跳ねるように動いた。
―なっ、なんでこんな時にゴミを捨てにっ!
「なんだ、真紀奈か」
 一成が言った。
「こっ、こんばんは……」
 私はまぬけなことを言っていた。一成の視線が私の手もとにきた。チョコを背
後に隠すには、遅すぎる間があった。
「おっ。手に持ってるの義理チョコ?」
「ほっ……!」
―本命に決まってんでしょっ!
 心で叫んだ。口には、出せるはずもない。一成が怪訝な顔をした。


224:チョコっとの勇気
08/02/14 19:24:22 qXK164ni
「ほ?」
「ほ、本命じゃないけど……」
「だから義理だろ。日本語すっ飛んだか?」
「あぁ! もおぉっ!」
 言ったときには、私は一成に向かって包みを思い切り振りかぶっていた。チョ
コが迷いなく飛んでいく。
―しまった!
 私は目をつむった。束の間、落ちたチョコの包みが頭をよぎった。恐る恐る、
眼を開く。しかしチョコは地面ではなく、一成の掌に収まっていた。足下に、投
げ出されたゴミ袋が転がっている。
「これ、もらっていいのか?」
 一成は笑顔だった。胸が、きゅんとなった。
「ちゃっ、ちゃんと食べなさいよ! それ……」
「あぁ、ありがと。毎年貰ってたからさ、今年はもうくれないのかなぁ、て思っ
てたよ」
「そ、そう……」
「ありがと。ありがたく貰っとくよ」
 一成が微笑んだ。私は、心が暖かくなるのを感じた。この笑顔を見るために、
毎年チョコを渡してるという気がする。
「じゃ、じゃあね。またあしたね!」
 言うと、私は駈け足で自宅に戻った。自宅といっても隣の家だ。
 自宅の玄関まで行くと、もう一度一成の家を見た。玄関先で一成もこちらを見
ていた。眼が合う。
 私は慌てて自宅に飛びんだ。

    






225:チョコっとの勇気
08/02/14 19:26:34 qXK164ni
支援終了

226:温泉
08/02/14 21:57:44 MxMwIL/3
>>233 >>237
激しくGJ! いいっすねぇ、恋焦がれる幼馴染。
一挙一動に一喜一憂する…いいですねぇ、本当にいいですねぇ。


とゆうわけで投下しまっす。本編とは全く関係無い、
バレンタインデー限定特別編ってことで。

227:You is me 番外編
08/02/14 22:00:02 MxMwIL/3
 2月14日はバレンタインデー。チョコをもらえて、運が良い男は彼女も貰えるという、天国と地獄が毎年渦巻く
カオスな日だ。
が、俺には縁が無い。俺はモテないのだ。幼稚園ぐらいの頃には結構もらったような記憶がある。いや、小学生の
低学年ぐらいまでなら貰ってた記憶がする。しかし、高学年からさっぱり貰ったことが無い。何故かはわからない。
母親からも貰えない。うちのかーさんは「なんで息子になぞやらにゃいかんのだ」と言いやがる。
つまり、結局俺が貰えるのは―
「はい、ゆーちゃん。今年のやつだよー」
みーのやつしかないのだった。
 俺はみーの家にいる。そして目の前におわすのはみーとチョコレートケーキ。そのケーキは小さい。直径10cmに
届くか届かないかくらいのちっこいやつだ。当然だ。これはみーの手作りのチョコレートケーキだ。
「さ、今年のケーキはどうだ」
 見た目は至って普通。形が崩れているわけでもなく、彫刻などがなされてるえわけでもなく。
「ふっふっふ、ゆーちゃん、覚悟!」
 そう叫びながらみーはケーキを一口大に切り……
「はい、あーん」
 みーが差し出したケーキをぱくっと一口。口の中にカカオの良い匂いとスポンジの柔らかい歯応えが広がる。
「おいし?」
「……うん、うまい。チョコとスポンジのバランスがいいな」
「よかった、今回は全体の一体感に的を絞って作ったの。甘さも丁度いいでしょ」
 みーはそう言いつつ、またケーキを一口大に切り、差し出す。俺がまたぱくり。
 そう言いつつ、またみーが差し出したケーキを食べる。
「なぁ、みー」
「なーに」
「毎年いつも思うんだが」
 そう言いつつ、またみーが差し出したケーキを食べる。

228:You is me 番外編
08/02/14 22:01:29 MxMwIL/3
「一回、自分で食べさせてくれんか?」
「やだ」
「やだ、って、おい」
「えへへ、やーだ。毎年一回の楽しみなんだもん。絶対やだ。はい、あーん」
 笑いながらまたひょいとみーが出す。俺はやれやれと苦笑しながら、みーが嬉しそうにケーキを出すのを
口で受け止め続けた。
 ケーキが小さいこともあって10分程度で食べ終わった。うむ、なかなか旨かった。
「あ、ゆーちゃん口の周り、チョコ付いてる」
「おっと、ティッシュは……」
「えい」
「むぐ、おい、みー」
 俺が止める間もなく、みーが右手の人差し指が少し強めに俺の唇をなぞる。みーの指にチョコが付く。
で、どうするのかと思うと。
 そのままなぞった指を口へ。ちゅっ、という吸う様な音を一瞬響かせて、すぐ口から指を抜いた。
「……何やってんだか、そんなの食べるなよ」
「だって、もったいないし」
 照れた様な笑いをみーは見せる。俺はみーの頭をぽんぽんと叩きながら思った。
 本当にこいつは……ったく。

229:温泉
08/02/14 22:02:17 MxMwIL/3
以上。投下終了。
構想5分、打ち込み30分の代物でした。お粗末。

230:名無しさん@ピンキー
08/02/14 23:31:33 iRMKgMiX
ああもうなんですかこのマカロンをハチミツで煮込んだ後にマシュマロと合わせてチョコレートソースをかけた甘党空間はw

>>232
よく纏まってる王道はやっぱりいいものですね。こういうシチュはいつ見ても飽きませんねw
この構成力が欲しい……。

>>236
短編乙です。心情表現が丁寧で、頬が緩みました。

>>241
どう見てもバカップルなのに……
これで付き合ってないと申しますかw

231: ◆6Cwf9aWJsQ
08/02/15 00:05:07 EkT3/mQ3
ここか、祭りの場所は・・・。

投下ラッシュで歯が浮きそうなってるところ申し訳ありませんが、
とりあえず少量ですが和菓子も追加させてもらいます。

232:シロクロ番外編『手を変え品を変え』
08/02/15 00:09:31 EkT3/mQ3
2月13日深夜。
「どうしよう・・・」
私は自宅のキッチンで1人頭を抱えていた。
時計の長針はもうじき『11』を指そうとしており、
私にタイムリミットが迫っていることを知らせていた。
「どんなチョコなら、啓介に気に入ってもらえるだろ・・・」
今、私の頭の中はバレンタインのチョコをつくろうかで一杯だった。
3歳の頃はチ○ルチョコ。
4歳の頃は板チョコ。
5歳の頃はチョコレートケーキ。
6歳の頃はお母さんに作ってもらったチョコレート。
7歳の頃ははじめての手作りのチョコ(失敗作で彼のお腹を壊してしまった)。
8歳の頃は渡せずじまいだったけど、
去年の17歳の時はハート形のホワイトチョコと、
毎回違うチョコをプレゼントしてるので、違うパターンを考えるのも一苦労だ。
「これ以上のチョコってのも思いつかないわね・・・」
子供の頃からこうやって彼に渡すチョコのことで頭をひねらせるのは楽しみだし、
そもそもどんなチョコでも啓介は喜んでくれる自信もあるけど、
同じものをプレゼントするのもサプライズが無くて芸がないし、
それにどうせなら好きな人にとびきり喜んでほしいというのも乙女心。
いや、私もう乙女じゃなかったっけ。
この前啓介にあーんな事やこーんな事されて奪われたんだし。
でも、悔いはない。
彼にしか渡したくなかったから。
髪の一房に巻き付いた白いリボン―啓介にもらった大切なもの―を撫でながらそう思う。
「・・・はっ、しまった!?」
ようやく正気に戻った頃には、既に日付が変わっていた。

233:シロクロ番外編『手を変え品を変え』
08/02/15 00:10:29 EkT3/mQ3
そして当日。
啓介の自室で、私は啓介と唇を重ねていた。
「・・・ふぅん・・・、ちゅっ・・・」
「・・・うぅん・・・、ぢゅるっ・・・」
ただ触れ合うだけではない互いの味を確かめ合うキス。
だけど、今日のそれはいつものものと違っていた。
やがて、味を堪能した私たちは唇を離す。
「口移しで食わせようとするとは思わなかったな・・・」
「こういう食べさせ方は初めてでしょ?」
少し顔を赤らめてく血の端に突いた唾液を手の甲で拭う啓介に、
私はエッヘンと胸を張ってそういった。
結局、チョコ自体は小さなハート形のものをいくつかつくっただけなんだけど、
食べさせ方を変えることで変化を付けることにした。
ホントは前から―思い出すのも苦労するくらい昔から―したかった食べさせ方でけど、
こういう恋人らしいことは『恋人』になった今しかできないから。
そして、最後の一個も食べ終わる。
「ふぅ。ごちそうさん」
「お粗末様でした」
とても満足そうな啓介の表情を見て、私も満足しそうになる。
でも、まだ終わりじゃない。
「啓介」
「ん?」
「あと一つプレゼントするものがあるの・・・」
私はそういうと、身につけていたセーターやジーンズを脱ぎ捨て、
その下に隠していたものをさらけ出した。
黒髪に巻き付けた白いリボンとは対照的な、黒いリボンに包まれた身体を。
「裸リボン・・・」
啓介がそう呟いたあと、生唾を飲み込む音が聞こえた。
何てわかりやすい反応。そこが可愛いんだけど。
「定番で悪いんだけど、私も食べる?」
そういった直後、私は啓介に押し倒された。

234: ◆6Cwf9aWJsQ
08/02/15 00:11:57 EkT3/mQ3
以上です。
エロシーンは今週末にでも。

235:名無しさん@ピンキー
08/02/15 00:31:37 k0q6Ai57
GJ!

236:名無しさん@ピンキー
08/02/15 01:28:36 Hu/qZPZP
なんかいっぱいきてるーーーーー
どれもGJ!

あまりの甘々空間にめまいがしてくるぜw

237:名無しさん@ピンキー
08/02/15 01:36:47 k66Gc+ri
ぬおお、皆さんGJです! では私も久しぶりに投下します!

238:絆と想い 外伝3
08/02/15 01:37:37 k66Gc+ri
今日は二月十四日。俗に言うバレンタインデーである。
この日、世の男子は二つに分かたれる。勝ち組と負け組。まぁつまりはチョコをもらえる者ともらえない者、という事であるが。
そして周りから見れば勝ち組どころか超・勝ち組といえるであろう少年、高村正刻は、しかし登校途中の通学路で盛大な溜息をついていた。
「あーあ……。遂にこの日が来ちまったか……。」
彼の足取りは重い。何故ならば、これからいかに阿鼻叫喚な光景が展開されるか予想がつくからだった。

そう、毎年バレンタインデーは、正刻にとってはかなり辛い日であった。それはチョコをもらえないからではない。むしろ、その逆ゆえに、
であった。
彼の幼馴染二人は必ずチョコをくれる。だが、やや問題のある渡し方をする事が多かった。

特に酷いのはやはり舞衣で、幼稚園の頃から段々と渡し方がエスカレートしていた。去年などは、大きなメロンのような球形のチョコを二つ
持ってきたかと思えば、「さあ正刻! 私の胸から直接型を取った乳型チョコだ!! 私の愛がたっぷり詰まっているぞ!! 遠慮なく食べる
いい今ここで! さあ!! さあ!!!」……とあまりにもな暴言を吐いた。その直後に唯衣と鈴音に取り押さえられたためにその場は収まっ
たが、後に残された空気は気まずいなどというレベルを遥かに超えていた。友人達も冷やかす気力も湧かなかったようで、ぐったりと俯く
正刻の肩を皆無言で叩いていった。

では唯衣はまともかと思うとそうではない。彼女は学校でそのような行為に及ぶ事は無いが、その分家に帰った後が凄かった。
大体バレンタインの日は宮原家で食事をする事が多いのだが、その日、夕食に呼ばれた正刻が見たモノは、何層にも積み上げられた見事な
……見事過ぎるチョコレートケーキであった。
唯衣の場合、積極的なアプローチを出来ない鬱憤が、どうもチョコ製作の方にいってしまうようで、毎年凄まじいチョコを作り上げてしまう
のである。対して舞衣は、チョコを上手く作れない鬱憤が、過激な渡し方に繋がっているようである。

そして正刻は、巨大なチョコを二個(しかも舞衣の胸型)、更に巨大なチョコレートケーキを一人で食べる羽目になったのである。
ちなみに残す事は許されない。これも毎年の事であるが、必ず二人の前でチョコを食べなければならず、しかも「完食しろ」というオーラ
を二人で撒き散らすのである。食べたら食べたで「美味しかった? 美味しかったでしょ?」という無言のプレッシャーを放ってくる。
そのプレッシャーに抗う事など出来る訳がなく、毎年正刻は笑顔で「美味しかったぞ、二人ともありがとな!!」と言うのである。
まぁもちろんその気持ちに嘘偽りは無いが、しかし毎年バレンタインの日から一週間以上胃薬の世話になる事を考えると、もう少し何とか
してほしい気も当然する。

「でも……二人とも俺のためにわざわざしてくれてるんだもんなぁ……やめろ、とも言えないしなぁ……。」
はぁ、と再び溜息をついた正刻であったが、いきなりその背中をばしんと叩かれて仰け反った。
「いってぇな!! 何すんだ鈴音!!」
「おはよう正刻! いやー、朝っぱらから煤けた背中をして歩いているもんだからさぁ、つい元気を注入したくなっちゃって!」
あっはっは、と正刻の背中を叩いた張本人……鈴音は、悪びれた様子もなく笑った。

239:名無しさん@ピンキー
08/02/15 01:38:22 k66Gc+ri
その笑顔をむすっとした様子で眺めていた正刻であったが、やがて彼女につられたように苦笑を漏らした。
「まったく……お前には敵わないな。」
「そいつはどーも。あ、そうだ正刻、はい、これ。チョコだよ! 甘さ控えめの奴だから、胃にも優しいよ?」
そう言って手渡されたチョコを正刻は笑顔で受け取った。
「おう、ありがとな! 毎年義理なのに気をつかわせちまって悪いな。」
そう、鈴音は唯衣と舞衣に比べ、チョコは割りと普通の物を、普通に渡している……ように正刻は思っていた。確かにチョコは、唯衣と舞衣
の物で手一杯の正刻の事を考え、少量で甘さ控えめな物を選んではいたが。

「良いって別にー。ボクが好きでやってるんだから、さ。」
義理じゃなくって本命なんだから、それくらいの気配りは当然だよ、と鈴音は心の中で付け加えた。
ちなみに一見普通に渡しているようだが、実は鈴音なりの拘りがあった。彼女がチョコを最初にあげたのは正刻で、正刻が今日最初に受け取
ったチョコも、実は鈴音の物である。つまり彼女は、バレンタインの日に正刻が初めて受け取るチョコを、自分の物になるようにしていたの
である。準備に時間がかかる唯衣と舞衣は朝一番から正刻にチョコを渡しはしないので、今のところここ数年間は正刻が最初に受け取るのは
彼女のチョコとなっている。その事に軽く満足感と勝利感を得ながら鈴音は言った。

「で、そんなに暗くなってる理由は、やっぱり唯衣と舞衣のチョコが原因?」
「まぁな……。本人達に悪気がないのは分かってるんだが、でもなぁ……。」
そう言う正刻に、鈴音は意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「ふぅん……。ふふ、それじゃあ正刻、今年は結構予想外の事が起きるかもよ? 色々と、ね。」
その鈴音の意味ありげな物言いに、正刻は不審そうな顔をして言った。
「おい鈴音……お前また変な事してないだろうな? お前がそういう言い方する時って、大概ロクでもない事考えてる時だよな? ええ?」
その正刻の詰問に、猫のような笑顔を浮かべた鈴音はおかしそうに言った。
「さーてねぇ? 心配しなくても、キミに不都合な事は起きないよ、多分ね。」
「……今でも十分不安になったんだが……。」
そう言って三度溜息をついた正刻を、鈴音は面白そうに眺めていた。



「おかしい……。」
正刻は洗い物をする手を止めて呟いた。既に帰宅し、夕食を終え、更には後片付けまでしている正刻だが、実はまだ唯衣と舞衣からチョコ
を受け取ってはいなかった。
学校では舞衣からどんなアプローチをされるかと戦々恐々であったが、彼女は正刻に何のアプローチもしなかった。
その事を不審に思いながらも帰宅した正刻であったが、またも予定外の事が起こる。
唯衣から、今日は夕食は自分でとってくれとメールが送られてきたのだ。それ自体は何てことはないのだが、バレンタインに宮原家で食事
をしないのは随分久しぶりなため、何だか調子が狂ってしまっていた。

いや、それよりも、この時間になるまで唯衣と舞衣からチョコをもらえない時など無かった。いつも学校で、遅くとも夕飯の時にはくれて
いて、それで……。
……と、そこまで考えた時、正刻はとある事に思い至り、ぽつり、と呟いた。
「そっか、俺……何だかんだ言って、あいつらからチョコをもらうの楽しみにしてたんだ……。」
最近があまりにもな事が多かったためにバレンタインが辛いなどと思ってしまっていたが、それでも自分はバレンタインにあの二人にチョ
コをもらうのが楽しみだったのだ。

過激な行動を取りつつも、受け取ってもらえるか不安な目をした舞衣が可愛くて。
チョコを食べる自分をじっとみつめる唯衣が健気で。

今まで当たり前過ぎて気がつけなかった、忘れていた事に気がついて。正刻は、ぽりぽりと頭をかいた。
「全く俺って奴は……。もらえなくなって気がつくなんて、な……。」
明日、二人に何て言おう、そう考えていた正刻の耳に、玄関のチャイムの音が飛び込んできた。


240:名無しさん@ピンキー
08/02/15 01:40:22 k66Gc+ri
「はい、どちら様……って、お前ら……。」
玄関の戸を開けた正刻の目に入ったのは、唯衣と舞衣であった。二人とも、制服の上からエプロンをつけている。よく見ると、所々に茶色い
物体……チョコがついていた。
「……どうしたんだお前ら? そんな格好で……。」
呆然と呟く正刻に、舞衣が口を開いた。

「うん、そのな? 実は、今年は唯衣と二人でチョコを作ろうという話になってな? いや、話せば長くなるんだが……。」
舞衣の話を要約するとこうであった。ニ週間程前、バレンタインの計画を練る二人に鈴音が釘を刺した。去年あれだけの事をしでかして今年も
また酷い事をしたならば、正刻といえどもチョコを受け取ってくれないかもしれない、と。
去年の正刻の有様を見ていた二人は流石にやりすぎた感は持っていたらしく、その意見を否定出来なかった。そこで鈴音から出された案が、二
人で一つのチョコをあげる事であった。今まで二人で一つのチョコをあげた事は無かったため、新鮮であるだろう、と。更に彼女からはもう一
つの案がだされた。正刻の方ももらう事に慣れているようだから、あげる時間を遅らせてやるといい。そうすれば彼も、キミ達のチョコの有り
がたみを思い出すだろう、と……。
ちなみに「貸し一だからねぇ、忘れないでよ?」と言われた事は、流石に言わなかったが。

話を聞いた正刻は、苦笑を禁じ得なかった。
(野郎……ハナッから全部こうなるって分かってやがったんだな……! まったくあいつは一度お仕置きしてやらなくっちゃだな……。)
脳裏であっはっはと笑う眼鏡っ娘にどう報復してやるかを考えつつ、正刻は言った。
「で、ここに来たって事は、チョコを俺にくれるんじゃないのか?」
正刻にそう言われた二人は、ぴし、と身を固まらせた。不思議そうに首を傾げる正刻に、唯衣が言い難そうに切り出した。

「その、ね? 二人で作るのって、案外難しくって……その……。」
そう言いながら唯衣はおずおずとチョコを差し出した。
「…………。」
正刻は無言で受け取り、それを見た。おそらくハートを模した形なのであろうが、ひどく歪になっていて、でこぼことしていた。表面もざら
ざらなままだ。
「あ、無理に食べなくていいんだぞ? 流石にこれは……どうかと思うし、な……。」
舞衣が力なくそう言った。だが。

241:名無しさん@ピンキー
08/02/15 01:41:18 k66Gc+ri
ぱくり、と正刻は齧りついた。

驚きに目を見開く双子の前で、正刻は続けて齧っていく。
やがて全部を口に納め、飲み込んだ正刻は二人を見ると、にっと笑って言った。
「美味いぜ、このチョコ。ありがとうな、唯衣、舞衣!」
その笑顔に二人は見蕩れたが、すぐに表情を暗くし、俯いた。
「いいんだよ正刻、無理しなくても……。」
「そうだ。そんなもの、美味いはずが……。」
しかし二人はそれ以上何も言えなかった。正刻が、二人をそっと抱きしめたからだ。

「美味かったぜ、本当にな。……それによ、俺……嬉しかったんだ。お前らからチョコをもらえてさ。今年はもう、もらえないんじゃないかっ
 って思ってたから、さ。」
そう言う正刻に、唯衣と舞衣は驚いたように言った。
「そんな、正刻……!」
「そんな事……!」
だがそんな双子に笑いかけると、正刻は続けた。
「いや、さ。正直に言うと俺、ここ数年はバレンタインの日はちょっと憂鬱だったんだよ。けどさ、今日気がついたんだ。いや、鈴音の奴に
 気付かされたのかな? まぁとにかく、俺はお前たちからチョコをもらうのが、楽しみだったんだよ。なのに、バレンタインが憂鬱だなんて
 思っちまってさ。だから今年もらえなくても、それは仕方が無い事なんだって思った。自惚れた俺への罰だってな。……だけど、お前達は
 チョコをくれた。それが凄く……嬉しくってさ。だから、さっきのチョコが不味いだなんて、そんな事は無いぜ。本当に……美味かった。
 心に沁みたよ。」

正刻の独白を黙って聞いていた二人であったが、やがて、二人ともぎゅっと正刻を抱きしめ返した。
「全く馬鹿だね、あんたは……。私達があんたにチョコをあげないだなんて、そんな事ある訳ないじゃない。あんたにチョコをあげる物好きは
 そう多くないんだから、私達があげなくなっちゃったらあんたはきっと、誰からももらえなくなっちゃうんだから……だから、私達はずっと
 あげるわよ。あんたが嫌だって言っても……絶対あげるんだから……!」
「全く君は相変わらず私達の愛を過小評価しているな。もっと私達の事を信頼しろ。私達の、君への愛が薄れる事は無い。君が君である限り、
 私達が私達でいる限り……ずっとだ……!」
二人の言葉を聞いた正刻は胸が一杯になり、黙って二人を抱きしめた。二人もまた、正刻を抱きしめ返した。

二月の夜に相応しい寒い夜であったが、この時の三人は、そんな寒さなど感じない程に暖かかった。



ちなみに佐伯道場の双子からとんでもないチョコをもらったり、京都からメッセージと写真付きのえらく豪華なチョコが送られてきたりして、
また一騒動あったりしたのだが、それはまた別のお話。

242:名無しさん@ピンキー
08/02/15 01:42:31 k66Gc+ri
以上ですー。本編も早く投下出来るよう頑張りますー。ではー。

243:名無しさん@ピンキー
08/02/15 03:23:41 ql5Cythx
このスレこんなに人いたんだ(ヲイ

職人の皆様GJです!
甘過ぎてもう死んでもイイ…

244:名無しさん@ピンキー
08/02/15 04:05:08 a9UInHFD
あま~~~~い!w
皆さん甘すぎw
我々を糖尿病にする気ですか~
皆さんの本編の方もワクワクしながらまっております!

245:名無しさん@ピンキー
08/02/15 12:31:58 muKK84H9
さて、インシュリンはどこにあったかな……

246:名無しさん@ピンキー
08/02/15 12:34:25 818q/0zp
なんだこの無差別飽和攻撃はw
ちょっと口腔外科行ってくる。

247:温泉
08/02/15 15:24:10 6ukrkTYh
昨日の今日でなんだが……投下させていただく!

本編です。>>211からの続き。

248:You is me
08/02/15 15:26:11 6ukrkTYh
 そして夜。俺は風呂に入っていた。もちろん、自分の家でだ。しかし、みーは今日俺の家に泊まることに
なっている。今日、みーのとこのおじさんとおばさんは旅行で不在。で、俺のかーさんが「晩ご飯にみーちゃんを
連れてきなさい」と俺に命令。食事終了後、女の子が一人きりは危ないから、とうちに泊まるよう押し切った、
と……以上、状況分析完了。
 只今の時刻、二十三時半。いつも晩飯後すぐに風呂に入る俺としては思い切り遅い時間だ。しかし、家族の
団欒にみーが加わったことで馬鹿騒ぎが起こったり、風呂の順番が変わったり、なんだかんだやってるうちに
とばっちりを食ってこんな時間に。親父とかーさんは既にお寝むの時間。多分、みーも客間で寝ている事だろう。
「まぁそれはいいけどな」
 なんて呟く。今日の昼のキス以降、どうにもみーとの間がぎくしゃくしてしまったのが気になっていた。
 やっぱ、こっちからみーの中に入れたのがまずかったよな……いや、その後か? いやいや、どっちも
まずすぎるか? とりあえず、俺自重。反省しよう、うん。
 とりあえず、明日になってからまた謝って―待て待て、触れずに放って置いたほうが良いのか?
 すると、突如、ゴンゴンと風呂の扉をノックする音が聞こえた。
「うおっ、かーさんか?」
 返事は無い。が、多分かーさんだろう。
「ごめん、かーさん。うるさかったならすぐ上がるから―」
「ご、ごめん。ゆーちゃん、あたし」
「みー?」

249:You is me
08/02/15 15:28:23 6ukrkTYh
 戸惑いを含んだ確かなみーの声。まだ寝てなかったのか
「ちょっと……眠れなくて。そしたらお風呂が音がしてたから」
「そか、すまん。うるさかったみたいだからすぐ上がる」
「ち、違うの。そうじゃないの」
 浴室の扉のすりガラス越しにみーのシルエットが映っている。ピンクのパジャマだ。
「ゆーちゃんに……謝りたくて」
「俺に?」
「うん、お昼のことで……ごめんね」
「何がだよ、さっぱりわからん」
「あっ、あたしがっ、その、ゆーちゃんと、あの……キスしただけで、あんな風になっちゃって、ゆーちゃんは、
気にしないようにしてくれたのに、あたしは、ゆーちゃんに八つ当たりしちゃって……ごめん」
「ば、ばっか、何言ってんだ」
 俺はえらく焦った。本当に焦った。
「悪いのは俺だろうが。俺が勝手にあんなことをしなけりゃ―」
「そうだけど、でも、八つ当たりしちゃったから……ごめん」
 くそっ、好みじゃない。こんな展開は俺の好みじゃないぞ。
 なーんてことを考えてたら、思わずとんでもない言葉を口から出してしまった。
「むしろ、俺は嬉しかったけどな」

250:You is me
08/02/15 15:30:23 6ukrkTYh
「……え?」
「嬉しかったんだよ。みーがキスする前に言ったじゃないか、『ゆーちゃんとしてみたい』って。興奮した。
ああ、物凄く興奮したさ」
「ゆ、ゆ、ゆーちゃん?」
 状況を把握できてないみーの声。俺も状況を把握出来ていない。ええい、かまうものか。後は野となれ山となれ―!!
「それに、極み付けは、キスの後のソファーのあの様だ。あれで、興奮しない男なんているはずが―」
「ゆーちゃん、やめて!」
 その言葉にハッとなる俺。……俺は今何を言っていた? …………死ぬか。
 俺が思わず頭を抱えた直後、扉の向こうからかぼそい声が聞こえてきた。
「ね、ねぇ、ゆーちゃん、あのさ」
「何だよ……」
 くそぅ、次の言葉はなんだ。変態か、言われても仕方ないな……死にてぇ。
「あたしに、興奮、したの……?」
「……はい?」
 この女の子何をおっしゃる。
「ど、どうなの? したの? してないの?」
「い、いや、したかしてないか、で言ったらしたけど……」
 混乱してるからつい俺も正直に答えてしまう。
「ふ、ふーん」


251:You is me
08/02/15 15:32:33 6ukrkTYh
 しばし沈黙。みーはすりガラスにもたれて座り込んだのか、みーの背中が映っている。沈黙を破ったのは
みーだった。
「……男の子って、えっちな女の子が好きなの……?」
「えっと……一般的にはそうじゃないか、とは思うが……」
「そう、なんだ……」
 また沈黙。
 もうだめだ、この空気に耐えれない。なんだこの落ち着かなすぎる空気は!? なんかこう、じっとして
られない、っていうか……その、とにかく嫌だ。よし、俺。ここはウィットに富んだジョークで場を和ませるんだ。
きっと俺にはできる。いけ!
 そして、俺は完全に地雷を踏む一言を発した。
「よし、どうだ、みーも一緒に俺と風呂入るか? なーに、昔は一緒に入ったんだから問題無いって!」
 そらこい! 次にお前は『ゆ、ゆーちゃん! 何言ってるの!?』と言うのだ! フハハハハ……
「じゃ、じゃあ、体もちょっと冷えちゃったから入りなおそうかな」
 ……はい?
 すると、すりガラスに映っていた、シルエットがゆっくり立ち上がったと思うと上着に手をかけ―おいおいおい! 
 なんて思いつつも、目を逸らすことの出来ない俺。
 上着が落ちた。次にズボンが足元に落ちる。そして、最後の場所に手がかかり、ゆっくりと足を抜き― 
「ば、ばっかやろ! 何してんだ!?」

252:You is me
08/02/15 15:34:33 6ukrkTYh
 我に帰った俺はそう叫んで慌てて後ろを向く。その言葉は、効果が無かったようだった。何故なら、後ろで
扉がカラカラカラ、と開く音がしたからだ。ごく、と息を呑んでしまう。ぺた、と足が降りる音。必死に理性を働かせる。
 振り向いちゃダメだ振り向いちゃダメだ振り向いちゃダメだ不利剥いちゃだm……
 その努力は全くの無益だった。
 今度はちゃぽん、と湯に何かが入る音がしたからだ―それもすぐ隣で。そーーーっと横目で確認しようとして
即座に目を逸らした。みーでなければ有り得ない真っ白な足がそこにあった。落ち着け、クールになれ、クールに
なるんだ……! クールになれっってんだろうがぁ!!! さっきからバックバクにうるさい心臓を拳で叩く。
 すると、今度はとん、と背中に何かがもたれかかる。肉質な、それでいて幅広な何か―みーの背中だ。つまり、
今俺とみーは背中合わせなわけだ……全裸で。
 もう頭の中は真っ白だ。興奮だとかそんなのは通りこしている。
 またしても沈黙を破ったのはみーからだった。
「……ねぇ、ゆーちゃん、振動、伝わってきてるよ……凄いどくどくしてる」
「し、仕方ないだろ」
「あたしに……興奮、してるの……?」
「っつ……!」
 その問いに更に心臓が激しく動く。破裂しないだろうな……?
「えへ、また振動が、すごい……」
「そう言う、みーからも伝わってくるぞ」
 口からでまかせだ。もう俺は何が何だかわかってない。多分、そうだろう、と思っただけだ。みーはそんなやつだ。
経験上、わかる。

253:You is me
08/02/15 15:36:35 6ukrkTYh
「やっぱり……わかるよね」
 そのまま二人黙り込む。音はしない。ただ互いのどくっどくっという振動だけ聞こえる。少し冷静になってきた。
そういえば、と俺は思い出した。
「なぁ、みー、こんなこと前にもあったよな……」
「え?」
「ほら、何歳くらいだったかな……風呂で互いの裸を見せ合いっこしたじゃないか」
「あった……ね。そういえば」
 今でもしっかりと覚えている。あの頃と今じゃ違うだろうが、それでも、下半身の―って馬鹿、俺は何を考えてるんだ。
「ね、ゆーちゃん、今、もう一度する?」
「……本気かよ?」
 何を、と聞くほど野暮ではない。幼き日の行為をもう一度、だ。
「う、ん……あたしは、したい」
「そう、か。じゃあ立てよ。俺も立つ」
 水が湯船に落ちる。もう、みーの声以外聞こえない。目を目一杯に見開いて―
「じゃ、いくぞ。いち、にの―」
「さん」
 合図で振り向いた。
 見慣れたみーの顔、唇。徐々に下に。もちろん、まず注目したのは胸。おどろく程白い肌の自己主張の弱い
ふくらみの上に、ピンク色をしたものがあった。……見惚れるのは男として仕方がないことだ、と言い訳しておく。
名残惜しげに胸から視線を下ろす。程よくくびれた腰、へそ、そして―

254:You is me
08/02/15 15:38:36 6ukrkTYh
 と思った時、みーの体が崩れ落ちた。
「お、おい! どうした!? ―ってあらまぁ……」
 みーはのぼせて目を回していた。
 まぁ、みーも緊張しまくってたってことなんだろう、な。なんて冷静に分析してる場合か。
 俺は慌ててみーを引っ張り上げ、脱衣場に出した。って、待てよ、拭いてやらないといかないのか……。
ちょっと視線を下に向けると胸が視界に―って駄目だ駄目だ駄目だ! 見ないで荒っぽくとりあえず拭こう……。
バスタオルを手にとって、そっと拭き―
 ふにょん、としか表現しようのない手応えをタオル越しに感じた。
 ああああああああああ、落ち着け!落ち着け俺!落ち着くんだ!やめやめ!やっぱやめだ!
 俺は大きめのバスタオルをみーにかけて、そのまま運ぶ計画に変更した。居間のソファーに寝かす。急いで
脱衣場に戻って自分の服を身に付ける。あまりの状況のおかしさに頭がどうにかなりそうだった。よーし、
落ち着けよー……落ち着け、本当に落ち着け。クールになれクールになるんだ……よし。二回深呼吸して居間へ。
「う、うーん……」
「お、気が付いたか」
 みーがうっすら目を開ける。
「急に崩れ落ちるからびっくりしたぞ」
「あ、あたし……?」
「のぼせたんだよ、大丈夫か?」

255:You is me
08/02/15 15:40:36 6ukrkTYh
「あ、うん……きゃ、やだ……!」
 そこでみーは自分が服を着ていないことに気付いたようだった。
「服取ってくる」
 一言言って脱衣場。床にくしゃくしゃに脱ぎ捨てられたみーのパジャマが。意識するな、意識しちゃいかんぞ俺……。
呪文の様に呟きながら戻って渡す。
「あ、ありがと……」
「おう」
 後ろを振り向く。タオルがぱさ、と落ちる音。そして布が擦れる音が、っていかんいかん。意識するなっての俺。
思わず床に座り込む。やっと落ち着けそうだった。今度こそ何か言わないと。
「なぁ、みー、さっきのことだけどさ」
「……なに?」
「俺、別に気にしないからな」
「……な、なにを?」
「みーのやる事なら、俺は何も気にしないから。俺は大丈夫だから」
 何を言ってるかは無茶苦茶かもしれないが、本心から言っている。
「だからさ、かけろよ迷惑。俺に。なんでもどんとこい。俺はそこまで狭量じゃない」
「で、でも―」
「良いんだよ。それに、今日程度のことで迷惑とか言われたら、俺はその三倍はみーから貰ってる恩について
どう礼を言えば良いんだ?」
「そ、れでも……」

256:You is me
08/02/15 15:42:36 6ukrkTYh
「許す。かけろ」
「う、ん……」
 俺は後ろを向いているのでみーがどんな表情をしているのかは解らない。だけど、俺は、もう大丈夫だ、と思った。
「じゃあ、迷惑かけて、良い……?」
「ああ、いいぞ」
「今すぐ、でも?」
「おう、どんと―え?」
 振り向くと、そこには真っ赤なみーの顔。口が開かれる。
「ゆーちゃんと一緒に寝たいな」
 ……余計なことを考えるな俺。普通に一緒に寝たいだけと考えるんだ。とりあえず、言うべき事は言う。
「……みー、俺も男だから限度ってもんが」
「あたし、ゆーちゃんなら」
 消え入りそうな声でみー。ゆーちゃんなら……の後は聞こえなかった。うん、聞こえなかった。
「それに、まだあの誕生日プレゼントの時間内だから……」
 みーは今度は呟くようにしかし、ちゃんと聞こえるように言った。
「ゆーちゃんが一緒じゃなきゃ、やだ。ちゅー……、して、ほしいよ」
 ホントに俺は甘いな、みーに。約束も……あるしな。
「わかった、勝手にしろ」
「……ありがとう」
 さっき落ち着いたはずなのにまた気分が高まっているのは……もうどうしようもない。俺の部屋に向かう。
ぎし、と床板がきしむ音が妙に大きい。あっと言う間に部屋についた。


257:You is me
08/02/15 15:44:36 6ukrkTYh
 電気など点けない。俺はそのままいつも自分の寝床としているベッドに潜り込んだ。俺だけでも少し狭く感じる
シングルベッド。今夜はそこに、もう一人。布がすれる音。ベッドのスプリングが重みを受け止めてゆっくり沈んだ。
横向きに寝転がる、俺の横に真っ暗でもわかるほどの距離にみーの顔。
 みーの瞳が、窓から射し込む月の光を反射して、潤んでいた。
「ん……」
 その瞳の光が瞬いた瞬間、自然に唇を合わせていた。触れるだけの拙いキス。なのに、背筋が震えるくらい
気持ちよかった。また触れる。離れる。触れる……ちゅっちゅっというくぐくもった音が小さく響く。
 顎がだるくなってきたので一回やめた。息も荒くなっている。でも、目は逸らさない。みーしか、見えない。
「ね、ゆーちゃん、手繋いで」
 頷いてみーの手を握った。じんわり暖かい。安心する暖かさだ。そこまで思って、俺はさっきと同じ様にまた昔を
思い出した。
「こんなこともあったなぁ、昔。今日の昼に言ってたあの話で」
「……あったね。ゆーちゃんに言われて思い出した」
 みーがくすくすと笑う。
「懐かしいなぁ……」
 きゅっきゅっとみーが手を握ってくる。俺も握り返してやった。
「あたしが、パパとママがいなくて寂しくて泣いて、ゆーちゃんがなぐさめてくれて、一緒に寝て、手を繋いでくれて」
 また握ってくる。握り返す。

258:You is me
08/02/15 15:46:38 6ukrkTYh
「あの時も今みたいに握ったらゆーちゃんが握り返してくれて、ほっとしたの覚えてる」
「……そうだな」
 昔を思い出す。ただひたすらに毎日走り回るだけで楽しかったあの頃。みーが追いかけてきて、手を繋ぐ。
ただそれだけで良かった。他に何もいらなかった、あの頃。
「奇跡ってヤツかな」
「……どうゆう意味?」
「昔と全く同じことを何年も後に同じ事をやって思い出すってことが」
 俺から手を握る。
「うん……」
 身長が変わった。体付きにどうしようもない程男女の差が出た。声なんて聞き分けもできない。考え方も変わった。
でも。それでも―
「って、おい?」
 気付くと規則正しい息の音が。
「寝てる……ん、あれ?」
 今更気付いた。緊張も、興奮も治まっていた。その安心は繋いだ手のぬくもりから伝わっていた。
 疲れたもんな。今日はどっちも、色々ありすぎて。
 そう思うと同時に俺も猛烈な眠気が襲ってきた。……寝よ。
 でも、と俺は意識を手放す前に思った。
 ―本当に幼馴染ってだけだったんろうか、俺は?

259:温泉
08/02/15 15:47:31 6ukrkTYh
以上、投下終了。
もうちょっとだけ続くんじゃ……

260:名無しさん@ピンキー
08/02/15 15:59:20 QHtwyfY0
>>271
GJ
あー、ついにここまで……
その調子で、最後まで突っ走ってください!

バレンタインデーに投下された職人様もGJでした
すっかり虫歯になってしまったよ……

261:名無しさん@ピンキー
08/02/15 16:30:20 FxHk9zko
>>271
GJそして乙。ここ数日投下なさった方々も乙。

投下ラッシュのせいか、それとも風邪で熱があるせいか目眩がします。

262:名無しさん@ピンキー
08/02/15 19:33:19 Db6REbPu
お疲れでした。寸止めが憎い……w


263:名無しさん@ピンキー
08/02/15 21:04:56 LHbIKiKC
絆キター!!
>>271
GJ!!

264:Tokyo Lights 1
08/02/16 01:23:46 15WjgzXC
ピリリリリリ



ピリリリリリ

…?!

携帯が鳴っている。寝ぼけた意識の中、電話に出る。

「もひもひ」
「メールしたから見て」
「は?」
「寝てた?○○駅にいるから」

名前を確認する前に、一方的にやり取りを終了されてしまった。
メールを確認した。

-新着メールあり-

アドレスを見て、眠気が一気に吹っ飛んだ。

件名:こんばんは

本文:こっちに戻ってきてるんだ。今、○○駅。
   迎えに来てくれないかな。

ジーンズを履き、ジャケットを羽織り、マフラー片手に車の鍵、携帯を持ち玄関下りていった。

「出掛けるのか?」

父親が遅い晩酌をしていた。

「うん。車借りる」
「雪の後だ。気をつけろよ」
「わかった」

玄関を出ると、冬の夜の寒さが襲ってきた。吐く息が白い。
車に乗り込むとエアコンをフル回転させた。
ガムを手に取り、包みを捨て口に含む。レモンが口に広がる。
まだ寒いが車を発進させた。

返信はしていない。あいつの性格なら多分ずっと待ってる。
この時間なら駅まで数分で行ける。でも、急な電話だったな。
というか、電話もメールもしばらくしていなかった。
信号待ちがいじらしい。車内は暖まってきた。
ラジオをつけた。FMでは静かな洋楽が流れている。駅入り口の信号でもつかまった。
ロータリーに白いコート、黒のロングブーツの彼女がいた。
縦列タクシーの横につけるとハザードを焚いた。プップッと軽くクラクションを鳴らした。
この車がうちに来て、もう十年近く経つ。気付くはず。
内側から助手席ドアを開けた。無言で乗り込んできた。

265:Tokyo Lights 2-1
08/02/16 01:24:20 15WjgzXC
「ふぅー」

第一声は安堵の一息だった。

「ねえ…」
「…」
「…?!」
「寒いね~」

彼女はそう言うと両腕を摩った。その仕草はかわいかった。

「…酔ってる?」
「ごめん。バスも無ければお金も無かったから。寝てたよね…」
「それより、そんなカッコで…」
「マフラー置いてきちゃったみたいの」
「どこに?」
「あっ今、高校の時の友達と飲んでいて、多分そこ」

ブー

タクシーがクラクションを鳴らしてきた。

「ここまずいからとりあえず出すよ」
「おっけ」

車内は静かだ。ずっと会ってなかったとは言え、特別話すことも無い。
ラジオが流れている。家の角まで来て車を停めた。

「どうする?」

隣同士だが、家の前で降ろすのはなんだか気が引けた。
父親に出掛けるのを見られているし、彼女を迎えに行っただけだと思われる。
だからって別に隠すような事でもないんだけど。

「ドライブしない?」
「はい?」
「ドライブ!」
「こっちに帰ってくる予定だったんだろ。いいの?」
「もともと朝まで遊ぶつもりだったのを抜けてきたから。明日なんかある?」
「いや、ないけど」
「じゃあ決定。行き先は…」
「…」
「横浜!」

進路を西に、湾岸を目差しとりあえず車を出した。
セルフスタンドに寄る。給油中、彼女の後姿を見つめた。

266:Tokyo Lights 2-2
08/02/16 01:24:50 15WjgzXC
真崎惠子。同い年でうちの隣りに住んでいた。
いわゆる幼馴染というやつだ。親同士も仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしている。
しかし、最近は正月や盆位にしか会う事はなかった。
気まずいとかそういう事は無かった…と思う。

スタンド内のカフェで、ミネラルウォーターと缶コーヒーを一緒に会計をした。

「○○リッター入りまして、こちらと合わせて○○○○円になります」

財布を覗く。今月はヤバいな。

スタンドの照明が反射して良く分からなかったけど、
レジからフロントガラス越しに惠子が見えた。その顔を見たら、出費の痛手も吹っ飛んだ。

寝てる。

ミネラルウォーターを頬に当てた。

「ひやっ」

彼女はびくっとして起きた。

あ、余計な事したな。気が利かないな、俺。帰りは寝かせてあげよう。

「これ飲めば酔いが覚めるかもよ。冷えるとあれだからこっちも」
「ありがとー」
「じゃ、行きますか」

車は再び走りだした。

267:Tokyo Lights 3
08/02/16 01:25:17 15WjgzXC
高速入り口を見つけ車線を右に移った。遊園地を左手に川を越える。
しばらくすると観覧車が見えてきた。惠子が口を開く。

「昔話しようか」
「なにそれ」
「保育園のさぁ」
「うちらの?」
「そう。あれ覚えてる?あの膝ぐらいまでしかないプール」
「あったな。夏になると、校庭に、あっ校庭?保育園の場合なんて言うんだっけ?
 広場?お外?まあいいや。そこに骨組み作ってビニールを張ったようなやつ」
「そうそれ。相当大きかったよね」
「そうそう。でも今見ると小さいんだろうな」
「プールの後のあれは覚えてる?せーので言おうか」

せーの

「シャワー!」「シャワー!」

~俺は小柄でおとなしい園児だった。話す相手も決まっていて
あまり話さない子達が来ると大人しくなる。家では正反対だった。
いわゆる内弁慶だった。プールは水泳というより水遊びに過ぎない。
そしてプールの後、シャワーで体を流す。そのシャワーというのが可笑しくて、
水道にホースで延長し、先生がシャワーヘッドを持ってるだけ。
そして、園児はスッポンポンで並んで待つ。それが男女交互に並んでいるのだ。
もちろん順序を守らず、仲間同士、女の子同士になっている所もあった。
俺はそういうの駄目でちゃんと順番を守っていた。
隠す奴も隠さない奴もどっちもいた。隠さない奴の事は全く理解できなかった。
俺の前には女の子のおしり。もちろんそんな意識はない。
ただ自分の番になって体を流すのが嫌だった。だからずっと股間を隠して並んでいた。
俺の両肩に手が乗った。後ろは恵子だった。
恵子は四月生まれ。俺は翌三月生まれ。同学年だがほぼ一年違う。
頭半分くらい大きい恵子は動じない。手を乗せてるので隠す事なく待っているんだろう。
俺は振り向く事ができなかった。~

「今考えると問題になりそうだよな」

同じ映像が浮かんでいるのだろう。恵子は微笑んだだけだった。

~俺の番になると頭上から冷たいシャワーが降ってきた。
首から肩から、そして手を挙げるように促されると股間が晒された。
脇から足にかけて流す。そして、一番嫌な事。それは後ろを向き背中を流される事。
後ろを向くと恥ずかしさから下を向いた。恵子の足しか見る事が出来ない。
また手をどける様に言われると、そうするしかなかった。顔から火が出そうだった。
最後に頭からシャワーを浴びせられる。これも耐えられない。
俺は頭から水を浴びると、アップアップして息が出来なくなるような感じになる。
それから逃れる様にしたら、躓いて後ろの恵子にもたれ掛かってしまった。
恵子は俺をしっかり支えてくれて、後の事は覚えていない。~

268:Tokyo Lights 4
08/02/16 01:25:54 15WjgzXC
二つ目の観覧車。そこを過ぎると大きな海底トンネルが口を開けている。

「コーヒー飲む?手を温めてたからちょっとぬるくなってるけど」
「あー俺はいいや。トイレ近いし」
「そうだったね」

~うちの地区では保育園、幼稚園、小学校低学年時に子供会なる催しがあった。

「洋ちゃん、ジュース飲む?」
「ちょだい」
「駄目よ。寝る前に冷たいもの飲んだら」
「でも洋ちゃん、欲しいってさ」

その年は湖畔でのキャンプだった。
各バンガローに二家族が泊まる。俺のバンガローはもちろん真崎家とだった。
この子供会、父親は殆ど参加しない。うちも恵子のうちもそうだった。
お互い一人っ子のため母親が二人、恵子、そして俺。
定番の飯盒炊爨、カレー、簡単なアスレチック、夜はキャンプファイヤー。
楽しかったな。布団の中。背中をトントンされる。何かを渡された。
水筒だった。振り向くと、恵子はいたずらっ子のようにしめしめと笑う。
中身はレモンジュースだった。声には出さずアリガトの口を作った。恵子は笑った。~

「今もそう?」
「あのね…」

~翌朝、俺は布団から出る事を拒んだ。

「やったな」

さすが母上、良くお気づきで。下半身はいい感じに蒸れていた。
恵子はまだ寝ていた。おばさんはすぐにわかったようだった。
母親に掛布団を剥がされると、夏とはいえ股がひんやりした。

「早くしな。恵ちゃん起きちゃうぞ」

それを聞くと行動しないわけにはいかない。
しかし、母親は濡れたパジャマを持ち外に行ってしまった。
母親同士の暗黙の了解か、おばさんが手伝ってくれた。
タオルで下半身を拭いてくれた。隠しても無駄と分かると従った。

「おねしょだ…」

見られた。

「恵子そこのタオル一枚取って」

俺は股間を隠し、惨めにパンツを履いた。~

269:Tokyo Lights 5
08/02/16 01:26:28 15WjgzXC
空港の明かりが車窓を流れる。先を行く。

~恵子の家で遊んでいた時、いいもの見せてあげると言われた。
そこは、普段遊びに行っても踏み入れる事のない、秘密の扉という感じだった。
ベッドがある。おじさんとおばさんの寝室だ。
そこに入った時の感じは、なんとなくいけないことをしているようなものだった。
ガラス扉の棚には飴色の酒の入った瓶や、ジャンボジェットの模型が並んでいた。

「洋ちゃん、こっちこっち」

俺は飛行機の模型の方に興味があった。名残惜しかったけど恵子の方に行ってみた。
ビックリした。恵子の上半身が無くなっていた。
そうじゃなかった。恵子の上半身は、ベットの下に潜り込んでいた。
恵子はお尻をふりふりしながら出てきた。
平型のダンボール箱だった。開けると見たことも無い物が色々入っていた。
「これこれ」と言い、本を取りだした。エロ本だった。写真中心の物だった。
まだそういうのを知る前だったので、二人して興味津々。
実際、女の裸を見ても母親のそれというような感じだった。

「なんでみんなはだかなんだろね」
「おんなのひとをいじめてるんだよ」
「ちがうよ」

恵子が否定した。

「これえっちしてるんだよ」
「なにそれ」
「テレビで見たもん。好きな人ができるとえっちするって」
「こんなことするの」
「そうだよ、たぶん」
「なんでこことここ黒くなってるんだろ」

俺は結合していない男女の陰部の黒塗りを指差した。

「おちんちんはうつしちゃいけないんじゃない」
「おんなも黒くしてあるよ。おんなはちんちんないよ」
「わかんない」~

270:Tokyo Lights 6
08/02/16 01:26:57 15WjgzXC
あのダンボールはまだあるんだろうか。

「おじさんはまだ飛行機好きなの?」
「そうみたい。最近は国際空港近くの公園で離着陸を見るのが楽しいんだって。どうしたの急に」
「あ、いや、さっき空港通ったから」

~寝室にはその後も何度か行った。またいつもの様に本を取り出した。
俺はもう見飽きたのでベッドに大の字になった。
すると恵子が馬乗りになってくすぐってきた。
今だ体格で勝てないので抵抗しても歯が立たない。
両手を取られた。恵子の顔が近づいてきた。

「ちゅーしよ」
「やめろよ」

本でも見た。このままいくと本の通り、俺の口に恵子の口がくっつく。
その感覚がどうにも理解できなくて、人の顔がこんなに近づくのも
俺の今までの人生では有り得ない光景だった。
なので俺は、恵子の顔がくっつく瞬間、左右どちらかに顔をそむけた。
恵子はそれでも構わない風で、頬にぶちゅうっとされた。
感覚としてはよくわからなかった。
やめろと顔を反対にそむけても今度はこっちの頬に。その繰り返しだった。

この頃の俺は男同士で遊ぶ方が楽しかった。今日本当は、友達と自転車で
些細な冒険をするのを断ったのもあって、こういう女女な遊びはしたくなかった。~

今思うと、こんなにキスを迫られたのはこの時だけだな。ははは

「なんか、思い出し笑いしてない?」
「へ?」

顔が緩んでたかも。

271:Tokyo Lights 7-1
08/02/16 01:27:22 15WjgzXC
「保育園か。懐かしいよね」
「うん」
「小学校はどんな事あったっけ?」
「っと、その前に、ここちょっと寄るよ」
「うん」

大黒PAで休憩。めでたい名前だな。

~両家共通の知り合いの結婚式のため、どちらの親もいない。俺達は惠子の家で留守番。
俺も結婚式に行きたくて、すねた事を良く覚えている。
別にやる事はなかった。おじさんのエロ本も見飽きた。
俺はこの頃、自分の性器が勃つ事に興味を持ちだした。
性的な意味ではなくて、珍しい現象という意味で。その行動は自然だった。

「ねーねー」
「?」

俺はズボンの前を指で引っ張った。ゴム紐なのでズボンは簡単に開いた。
不意の為、恵子はそのまま視線を落とした。

「すげーだろ」
「なにそれ!」
「ちんちんってでっかくなるんだぜ」

小さい性器は皮を被ったまま勃起している。

日曜の朝は普段より若干遅くまで寝ていられる。
でも平日通り目が覚めてしまうため、布団の中でまどろむのが好きだった。
その時、性器が勃起しているのに気付いた。
昔から勃起はしてたんだろうけど、意識した事はなかった。
あったかい布団の中で、パジャマの上から性器を揉んでいるのが好きだった。
余計布団から出れなかった。

「ねー、えっちしようよ」
「なにそれ」
「あの本みたいなこと。行くぞえい!」

恵子を抱きしめた。けど良く分からなくてベッドで跳ねる事にした。
恵子も加わる。テレビで観たトランポリンを思い出し真似る。
手を伸ばしたり足を広げたり。二人で大笑いした。
それがだんだん変な方向にシフトした。跳ねながらズボンを下ろしたり戻したり。
ズボンを脱いだ。恵子もスカートを捲ったりした。
跳ねるのに疲れると、また変な行動にかわった。
体を屈め、足の間から顔を出す。多分エロ本の描写からの真似だと思う。
俺はパンツを脱いで尻を広げた。大笑い。保育園のシャワーの時の恥じらいが嘘の様。
そして、この時初めて女性器を見た。もちろん恵子の。
どういう成行きか、恵子からそうしたのか忘れたけど、恵子もパンツを脱いだ。
同じように足の間から顔を出した。そして尻を両側から開いた。
そこにちんちんでないものを見た。どちらかというと肛門の印象の方が強かった。

そのうち、親達が帰って来て「ばいばーい」と言って家に帰った。~

272:Tokyo Lights 7-2
08/02/16 01:28:27 15WjgzXC
「バレンタイン過ぎちゃったね」
「あー、14日だっけ」
「もらった?」
「ノーコメント」

~小学校五,六年だったかな。義理だろうがなんだろうが少なからず貰えた。
というか、ただ渡したいだけみたいな、バレンタインに酔っている雰囲気が女子連中にあった。
俺はチョコは甘いからレモンの飴が欲しいと、分けのわからない事を言った。
学校帰りに友達と一緒に帰ってたら女子が数人来て、「ほらチョコ」と渡してきた。
友達は普通にチョコ。かわいいピンク色のラッピングをされていた。
俺のは飴の袋を包装紙で包んである不恰好なもの。後悔した。この飴くれたの誰だっけな。~

273:Tokyo Lights 8
08/02/16 01:28:59 15WjgzXC
トイレを済ませ、一足先に車に戻る。

-メールガキマシタ-

聞き慣れない着信音。助手席に携帯が置いてある。
着信ランプは綺麗な桃色だった。

~中学の入学式の朝。恵子と家の前で記念写真を撮った。
学ランとブレザー。正直女子の制服は味気ないと思う。リボンでもあったら様になるのに。
俺のは袖口から辛うじて指が出ている。制服は大きい方がいいと言うから。
校門でも一緒に写真を撮った。ちょっと恥ずかしかった。
桜は、二人が写った卒業式の写真とは違い八分咲き。~

恵子はメールを確認する。

「友達」
「?」
「マフラー忘れたでしょって」
「そう」

~中学三年。受験の年。この時期の二人は今までで一番親密だった。
親同士もなんか笑って、何か言いたげな雰囲気を出している。
互いの家以外にも良く遊びに行った。
中一の時、同じクラスだったけど、学校では話す事は少なかった。
そもそもクラスは男同士、女同士という構図が出来上がっていた。
その頃とは違い、とても自然になった。~

大黒を後にし、みなとみらいを右手にベイブリッジを渡る。
三つ目の観覧車。

~恵子の家で勉強をした。リビング横の和室にコタツのテーブル。俺はしないけど。

「麦茶ちょうだい」
「勝手にどうぞ」

恵子の了解は関係なくて、いつもの様に勝手に冷蔵庫を開ける。
おばさんがいない時だけだけど。恵子の分も持って戻る。

「勉強しないの?」
「まだ大丈夫」
「何がまだなんだか意味わかんない」
「ギリギリまで粘るのが男!」
「意味不めーい」
「うっさい」~

この考えは高校でも変わらなかった。だから後々後悔する事になった…

274:Tokyo Lights 9-1
08/02/16 01:29:25 15WjgzXC
~合間の休憩。俺はニ杯目。

「うちのクラスの由佳いるでしょ」
「うん」

岸田由佳。一年の時同じクラスだった。小柄でかわいい子だった。
みんな好きな人の話になると、大抵岸田と答える。
好きな人に求める条件をしっかり備えていた。
俺も好きだった。
誰が言っても冗談と取れてしまうため、浮いた話は無かった。
みんな本命がいても、言いたく無いための逃げ道の名前ともいえた。
浮いた話がないので、その曖昧さが心地良かった。
その心地良さが中ニの時に崩れた。三年と付き合ってるという噂が流れた。
ちょっと嫉妬した。ちょっとだから本当に好きだったのか分からない。
ただ、今の心地良さにずっと浸かってても何も起きない。
少なくとも行動しないと、付き合うとかそういう事に発展しないとわかった。

「こないだ、ホテルから出てきたって」
「!…それって…あん時の奴?」
「そう。先輩が高校に行っても付き合ってるんだって」
「つーか、どっからの情報?」
「噂。先輩は制服で行ったから補導されたとか、自転車で行ったから、
 自転車に貼ってある学校のステッカーで分かったとかそういう話。
 噂になってるよ。由佳と同じクラスだから結構気まずいよ。男子には広まってないの?」
「聞いたことない。つーか自分も噂を広めてるねー」
「…そうかも。一応内緒ね」
「ホテルってさ。あんのかな…」
「なにが?」
「…回転ベッド」
「あーあれ、丸いやつ?なんか古くない?もしかして一面鏡張りとかも想像した?」
「あははは、想像した!」
「頭ん中バブルか!まー私もあると思ったけど」
「行ってみない?」
「…?!」
「…」
「え?ちょっ…」
「うっそ~ん」
「……かっ、ちょっとねー、そういうのやめてくれる!」
「お怒んなって。勉強しなよ」
「わ、わかってるよ!」

275:Tokyo Lights 9-2
08/02/16 01:30:01 15WjgzXC
沈黙

冗談言ったのに冗談じゃない空気になってしまった。
平静を装って雑誌読んでるけど、なんか意識してしまう。
ずっと一緒にいるけどそんな目で恵子を見たことはなかった。
ちらちらっと恵子を見た。顔はノートを取っているためうつむき加減。
視線には気付かないはず。首筋から胸元に移る。
膨らみが二つ、肘をついた腕の奥にある。
腰をひねった感じに座っている。時折足を掻く。

「ねえ」
「な、なに」

返事がぎこちなくなってしまった。

「好きな人いないの?」
「俺?」
「うん」
「いないっちゃ、いない」
「なにそれ」
「そんなホテルの話されて僕、泣きそー」

わざとふざけた。

「え、もしかして、由佳好きだった一人?」
「そうよん。だから付き合ってるの聞いた時はショックだったなー」
「でも、みんな岸田がいい。岸田、岸田って言うからみんなどこまで
 本気かわからないよね。本気だった?」
「…」
「なんだ。返事に詰まるんだ」
「なんだよ。自分はどうなんだよ」
「…いないな。勉強忙しいし。勉強しなよ」
「いいのいいの。でも俺らガキの頃からずっと一緒だよな。好きな人の話なんか女にしたことねーよ」
「それって女として見てないってことでしょ」
「腐れ縁っつーの?それだよ」
「余りにも日常だよね。お互いがいる事が。空気って言うか。
 普段意識しないけどなきゃ困るみたいな。でも腐れ縁は使い方違くない?
 それは好ましくない時に使うんじゃなかった?」

なんか凄い事言ってるような気がするんだが。

276:Tokyo Lights 10
08/02/16 01:30:31 15WjgzXC
「でもそれって理想の関係かもね。ねっ」
「…」

答えず惠子を見つめる。

「な、なに?!」

コタツ越しの告白。その言葉は自然に出てきた。

「キスしていい?」
「えっ」
「ダメ?」
「…」

長い沈黙。空気が完全におかしくなった。

「するから」
「待って。心の準備が…」

惠子の方に周り、肩に手を置き、唇を合わせた。
恵子の匂いと感触と熱が唇に広がる。
唇を離すと恵子はうつむいた。恥らっている様に見えた。見つめ合う。

「ちょっと、もうやめようよ」

恵子を押し倒した。再びキスをした。胸を触った。
シャツを首まで捲くり、スカートをたくし上げた。
白い下着。恵子は両手で顔を覆っている。
俺はシャツを脱ぎズボンも脱いだ。手をどけると、恵子と目が合った。
その目は、俺には同意と映った。パンツを脱ぐとペニスは完全に勃起していた。
避妊なんてどうしていいかわからないし、持ってないし。
心臓が信じられない鼓動を繰り返す。顔が火照る。
どうしていいかわからないので、恵子の股間に自分のモノを近づけようとした。
俺はペニスを握っていざなうつもりだった。

「!」

白い液体は、恵子の下着と畳を汚した。
体中の血の気が引いていく。

惠子は片腕で両目を覆い、

…泣いていた。

「…ご、ごめん」
「帰って…」
「でも…」
「帰って!」

そうするしかなかった。~

深夜の山下公園。自販機でジュースを買って戻る。

~あれから数日全く会わなかった。
電話で謝った。惠子はもういいからと言った。怒ってはいないけど、後悔してるという。
惠子は俺と目を合わせなくなった。そのまま卒業を迎えた。

277:Tokyo Lights 11-1
08/02/16 01:31:01 15WjgzXC
卒業式の朝。二人で記念写真は撮らなかった。

入学式の朝。二人で記念写真は撮らなかった。
俺は、家の前の道を左へ自転車で行く。地元の公立高校。
恵子は、家の前の道を右へ駅へ向う。都内の女子高。

あの日を思い出してオナニーをした。
人生最悪の射精だった。
その日も、それを済ませると、手を洗うため一階に下りた。
恵子のおばさんが来ていた。

「恵子が……連れてきたのよ」
「あらそう!」
「あ、洋ちゃん…」

おばさんは俺に気付くと、口篭もった。

「それじゃね」

肝心の部分は良く聞こえなかったけど、俺も薄々感じていた。
高校に入ると、恵子と会う事は少なくなった。
あの時を思い出し自分を慰めた直後に突きつけられた、惠子の恋人の事。
自分自身を嫌悪した。大切なものを失った感じがした。~

-心地よさに浸っていても何も始まらない-

車内。下道で帰ることにした。都内に向け北上する。
軽快な着信音。J-POPだ。

「ごめん、出ていい?」
「あ、うん。いいよ」

~東京に来たのは久しぶりだった。現地待ち合わせ。
海外アーティストのドーム公演に誘われた。
そのアーティストにはあんまり興味無かった。
誘ってきたのは恵子だった。急な誘いだった。どうして?と思った。
惠子は恋人がいるのに、俺とも昔の様に話すようになった。

コンサートが終わりトイレに行くから待っててもらった。
トイレから戻ると電話をしていた。なにか緊迫した感じを受けた。

「ゴメン、お待たせ」
「…」
「どした?」
「帰ろ」

その目は泣いた後のようだった~

278:Tokyo Lights 11-2
08/02/16 01:31:30 15WjgzXC
外で話したいからと車を停めた。歩道の端で話している。
ハザードの点滅が惠子の白いコートを、一定の間隔でオレンジに染める。

~惠子の様子が変わった。早足で先を急ぐ。

「どうしたの?」
「なんでもない」
「なんでもないなら、どうして泣いてるの」
「…」
「彼…氏?」

抑えていた物が堰を切った。惠子は、人目をはばからず泣き出した。

地元の駅まで一言も口をきかなかった。家まで歩く。
大分落ちついたようだ。相変わらず、惠子は俺の数メートル先を行く。

なぜこのタイミングだったか良く分からない。

「俺、恵ちゃんが好きだ」
「…」

惠子の足が止まる。

「付き合って欲しい」
「ゴメン」
「子供の頃からずっと一緒で、あまりにも身近にいたから気付かなかったけど…。
 あの時…あの時、お互いが空気のような存在、それが理想の関係って言ったの覚えてる?
 あの事が恵ちゃんをとても傷つけた事。高校に進んで恵ちゃんに恋人が出来た時、
 取り返しのつかない事をしたと後悔した。大切な何かが遠くに行ってしまったと思った。
 恵ちゃんの事は忘れようとしたけど…出来なかった。
 俺にはこんな事言う資格ないんだけど…恵ちゃんを大切にしたい。だから、」
「ゴメン…無理だよ…」
「…」
「私…、先行く…」

惠子は走り出した。俺はその場に立ち尽くした。拳を強く握り締めた。~

279:Tokyo Lights 12-1
08/02/16 01:32:02 15WjgzXC
「ごめん、お待たせ…」
「うん」

~俺は大学受験に失敗した。恵子は上京し家を出た。
二人の関係は致命的に薄れていった。
浪人生活が始まり、予備校とバイトの日々が続く。バイト代はパチンコと風俗に消えた。
東京で大学生活を送る恵子を思うと、情けなくて死にたくなった。~

いろいろあったが、これからを決心した矢先の電話。

車内に戻った恵子は喋らなくなった。

何度目かの信号待ち。

「私…結婚するの」
「…!」

後続車がクラクションを鳴らす。信号は青になっていた。動揺を隠せない。

「約束した人がいるの。いつか結婚しようって」
「…」

恵子の方を向く事が出来ない。視界の端にうつむく恵子が写る。

「でも…今、ふられちゃった」

反射的に恵子を見た。目にいっぱい涙を溜め、今にも頬を伝いそう。

「…」
「重いんだって…」
「…」
「本当は駄目になるってなんとなく分かってた。今の電話も、合鍵を返してだって…」
「…」
「私、やり直せないか聞いてみたけど…」
「もう、」
「無、」
「もう…言わなくていいよ」

俺は、恵子が他人と結婚しても祝福できると思っていた。
一瞬だけその相手を心底軽蔑した。

280:Tokyo Lights 12-2
08/02/16 01:32:32 15WjgzXC
車内。沈黙。川崎の夜景。信号待ち。青になる。アクセルを踏む。
車が左にブレた。急ブレーキ。後続車はいない。
恵子がハンドルを左に切った。

「まだ帰らない」
「?」
「あの日の続きする?」

切られたハンドルの左前方。ネオン看板。

-Hotel Tokyo Lights-

「恵子おまえ、やけになるなよ」
「そうかもね…」
「そうかもって…だったら思ってもない事言うな!」
「…」
「帰るぞ」
「洋ちゃん」
「?」
「私ね…」
「…」

惠子は涙を拭いながら続けた。

「私、小さい時から洋ちゃんの…、へへ…、お嫁さんになるって思ってた。
 子供の頃お父さんの本とか見たよね。小中でもいろいろ知ったし、
 …初めては洋ちゃんだと思ってた。そうなれたらうれしいなって思ってた」
「…」
「あの時、強引にされて本当にショックだった。あれは嫌悪の対象にもなるって思った」
「…恵ちゃん」
「高校の時も彼氏いたけど、なんか違ったんだよね。
 高校の頃は洋ちゃんの事、露骨に避けてたよね。ゴメンね」
「恵ちゃんが謝らないでよ」
「告白された時、本当はうれしかった。でも踏ん切りがつかなかった」
「俺…恵ちゃんがずっと好きだった。思えば恵ちゃんが隣りに越してきた時から。
 高校で恋人ができたって知った時、もう、諦めようと決めた。
 受験に失敗して、これでもう恵ちゃんに合わせる顔も無くなった。
 大学諦めようと思った。悪い方に悪い方に考えるようになった」
「洋ちゃん…」
「今日連絡貰って、恵ちゃんに会って、もうちょっと頑張ってみようって思った」

自然と、本当に自然と涙が溢れてきた。

「キスして」

助手席に体を持っていき、唇を合わせた。

281:Tokyo Lights 13
08/02/16 01:36:15 15WjgzXC
Tokyo Lights 13

「ベッド回転してないね」
「うん」
「鏡もないね」
「うん」
「体逞しくなったね」
「そう?」
「うん」
「恵ちゃんも、綺麗だね」
「本当?変じゃない?」
「全然」
「うれしい」

-Crazy For You!!!-

大田市場から海底トンネルで臨海エリアに抜ける。前方にテレビ局。

「あ、そこのコンビニ寄ってくれる?」
「あ、うん」
「何飲む?」
「え、じゃあ烏龍茶」
「おっけ。ちょっと待ってて」

レジを待つ惠子が見える。自分でドアを開けた。助手席に座る。
ちょっと照れ臭い。

「はい。ハッピーバレンタイン」

コアラのマ○チ…

「これも好きだったでしょ」

レモンの飴。
そう言えばなんだかんだいって、あの時、飴をくれたのは一人だったな。
ずっと覚えてたんだ。

「帰ろ」
「うん」

下道はさすがに無理があった。こんな時間になってしまった。
夜明けが近い。地元の川に掛かる橋を渡る。恵子が口を開く。

「随分遠回りしたね」
「え」
「ドライブ」
「うん」
「それと…」
「それと?」
「私達」

3月14日には、とびきりのお返しを!

おわり

282:名無しさん@ピンキー
08/02/16 01:57:18 Ma+vC3EI
こ、ここで終わりとな
むごい、その仕打ちはあまりにむごい
つづきを たのむ

しかしGJせざるをえない

283:名無しさん@ピンキー
08/02/16 18:19:59 PEuhDLua
GJと言わざるを得ない

284:名無しさん@ピンキー
08/02/16 23:52:21 Te93bLOf
GJだな
紆余曲折の果てに結ばれるというのも悪くない
ただまぁ、もうちょっと最後に甘い展開があればもっとよかったかも
あ、いやあくまで個人的意見よ?

285:名無しさん@ピンキー
08/02/17 06:32:05 4MTIi3dk
終わり方はこれでいいと思うけどなぁ。



286:名無しさん@ピンキー
08/02/17 06:52:37 sPtFHGrR
小説は少なからず読者に空想の余地を持たせるものだからこれでGJ。

287:名無しさん@ピンキー
08/02/17 22:29:46 HNVrM9Ht
GJ!

それはそうと、NVcIiajIyg氏を未だ心待ちにしているんだが…
氏は何処へ…

288: ◆6Cwf9aWJsQ
08/02/18 04:51:54 yKCL4vKD
投下いきます。
バレンタインネタの続きです。

289:シロクロ番外編『手を変え品を変え』
08/02/18 04:53:37 yKCL4vKD
「・・・あうぅ、あんっ・・・・」
既にパンツ一枚になった啓介がベッドに横たわりリボンに包まれた私のカラダを愛撫する。
私は恋人のその行為に身を任せていた。
普段とは逆の構図になってるけれど、
私が啓介にどうすれば喜んでもらえるかがわからないのでこのようにされるがままになっている。
悔しいという想いはない。
啓介が私のためにしてくれることはいつだって嬉しいことだから。
ただ、それに答えられないのが歯がゆい。
だから、少しでも啓介に尽くそうと思って彼に口付ける。
「んむぅっ・・・、くちゅっ・・・」
舌と舌を絡ませ合い、互いの唾液を味わう。
「・・・チョコの味がする」
「そりゃさっきまで食ってたしな」
しばらくそうしたあと唇を離すと、リボンに覆い尽くされた私の胸が啓介に揉まれ、形を変える。
「んぅっ・・・」
初めて揉まれたときは痛みも伴ってたその行為も、
何回か行為を重ねた現在では私にただ快感を与えてくる。
そして、啓介は私の胸のリボンをずらして乳首を露出させると指で摘み始めた。
「はぅ・・・」
コリコリと彼の指の腹で愛撫され、思わず声が出た。
そうして胸の先端が攻められると同時、啓介は私の鎖骨、二の腕、ウェストや太ももに唇を寄せ、
少し強めに吸い上げてキスマークを付けていく。
「うっ、はぅ・・・!」
私はどうやら感じやすい体質のようで、それらが与える刺激に敏感に反応してしまう。
そして、啓介の指が私のクレパスに触れ、なぞり始めた。
「綾乃のここ、濡れてる」
「はぁっ・・・はぁっ・・・うん・・・」
激しい責めで息も絶え絶えになりながらも、私は何とか返事をすると、
お返しに私も啓介の股間に触れた。
「啓介のも、大きくなってる」
「うん」
頷いた啓介は最後に残ったパンツを脱いだ。

290:シロクロ番外編『手を変え品を変え』
08/02/18 04:54:24 yKCL4vKD
「ちょっと待って」
私はそういうと枕カバーの中に手を入れ、そこからあるものを取り出した。
「はい。ゴム」
「おう」
啓介がいつも避妊具を隠している場所はこれまで何度もえっちをした時に覚えている。
啓介もそれを承知しているので素直に差し出されたコンドームを受け取り、自分のものに付けた。
それを確認した私は脚の間を覆っていたリボンをずらして秘所を剥き出しにし、
「・・・いれていいよ」
啓介は頷くと私の割れ目に自分のゴムに包まれた肉棒を押し当て、一気に貫いた。
「ん、くぅ・・・!」
啓介の性器が私の膣内に入り込み、一体になる。
そのときにいつも感じる強烈な快感に苛まれた私は喘ぎ声を漏らしてしまう。
「んはぁっ、今日は、私が、上に、なるね・・・」
啓介が頷くのを見ると、私たちは繋がったまま体勢を逆転する。
「んぅっ、あぁっ!」
「ぐぅっ、ふはぁっ!」
身体を動かすたびに互いの性器がこすれあって、圧倒的な快感が襲いかかってくる。
それに耐えながら位置の交換を完了させると、私はゆっくりと腰を動かし始めた。
「あふっ、ああん、あうぅ、あんっ・・・・!」
「くうっ、あうっ、かふっ、うあっ・・・・!」
私が腰を動かすたび、私と啓介は同時に喘ぎ声を漏らしていく。
私の中に啓介が何度も出入りし、その度に感じる摩擦すらも愛おしく感じてくる。
それを何度も繰り返していくうちに、絶頂が近くなってきた。
「啓介、私、そろそろ・・・」
「俺も・・・」
互いに頷きあうと、私は腰の動きを速めた。
「くううぅっ!!!」
「やああああぁっ!!!」
その叫びを合図に、私と啓介は同時に果てた。

291:シロクロ番外編『手を変え品を変え』
08/02/18 04:55:28 yKCL4vKD
「えっちのときにはなんであんなに積極的なのよ。
普段は照れまくってて自分からはなにもしてくれないのに」
「・・・仕方ないだろ。俺だっていろいろ溜まってるんだから」
「いろいろ?」
「ああ、普段は恥ずかしいけど出来ることなら綾乃とイチャつきたいし
特にえっちしてる時にはそういう気持ちが抑えられなくなって暴走してしまうというか
・・・って何言わせてるか!」
「別に言えって言ってないけど」
行為後の心地よい疲労を感じながら私たちは裸のままベッドに横たわって雑談をしていた。
子供の頃もこうやってベッドの中でおしゃべりはしていたけど、
こういった恋人同士のビロートークでは同じような行為なのにものすごく新鮮に感じる。
そのことと先ほどの啓介の自爆から思わず苦笑が漏れる。
「もっと好きにしてもいいんだけどね。私的には私はとっくに啓介のものなんだし」
「・・・やかましい」
「あっ、赤くなった。かわいい~♪」
「やかましいっつーに!」
そう叫ぶと啓介は彼の頭を撫でていた私の手を掴んだ。
もしかして怒って手を振り払っちゃうかなと考える。
が、それも一瞬のことで啓介は掴んだ私の手を引き寄せ、
それに引っぱられた私のカラダを抱きしめた。
「ありがとな」
そういって私の頭を撫でる。
「うん・・・」
愛しい人の肩口に顔を埋めながら私はそう答えた。
ひょっとしたら、私って啓介に思った以上に愛されてるのかなと少し自惚れた考えをしながら。

292: ◆6Cwf9aWJsQ
08/02/18 04:58:16 yKCL4vKD
以上です。
どうしてもバレンタイン当日に投下したくてこんなことになったんですが、
こんな分量だったらまとめて投下すればよかったですねすみません。

293:名無しさん@ピンキー
08/02/18 17:14:49 PP2DbiQl
ムヒョー

294:名無しさん@ピンキー
08/02/18 21:43:27 Eku2PiWJ
エロス

295:名無しさん@ピンキー
08/02/18 22:56:58 wynQODbD
>>304
ご馳走様でした……

296:“年の差。”を書いてる人
08/02/19 01:56:25 Urz0HZVB
思いつきのネタ、投下しますよ。
勢いのまま書いたんですがどうかという話。
『年の差。』も進めずに何やってるんだろうね全く……

なお、タイトルの『勢い全開喧嘩友達』は存在しない架空の作品です。

297:続・勢い全開喧嘩友達 ◆tsGpSwX8mo
08/02/19 01:57:18 Urz0HZVB
「聞いてるぅ、くずはァ」
「聞いてる、聞いてるから、まずは落ち着きなさい」
 しなだれかかる酔ッパー。対処に困る私。
 ……しなだれかかると言うには、なんとなくポーズが危ないけれど、まあ、私の部屋だ。誰も見てない。
「あ、あいつは、もうあたしのコトなんてもうどうでもいいとか思ってるンだァ……絶対……」
 あ、泣き出した。しかもなにやら大泣き。ぐじゅぐじゅいう音も聞こえる。
 もしかしたらコイツうわぁ汚ねぇハナミズだァとかそんなハナシだろうか。
 だが、離れろ、と直で言ったら余計酷いことになりそうだ。
 ああ、お気に入りのセーターよ、さらば。幼馴染のものとは言え、他人の鼻水が付いた服は即洗濯籠行きだ。
「待て。いいか、落ち着け。落ち着け」
 落ち着け、と三度言うと、彼女―雪津・春猫<ゆきつ・はるねこ>は大泣きをすすり泣きに変えてくれた。
 酒の席。お互いもう大学生で、既に十七年の付き合いになる。
 お互い大学は別だが、住んでいるのは同じ街だ。
 しかしあまり会う機会が無いのは、地元の観光名所にはあまり行かないのと一緒だろうか、などとたまに考えていたのだが、唐突に春猫の方から連絡があった。
『お互い二十になったし、酒飲もう』
 ……至極単純な文言だった。
 しかし、その理由……と言うか言い訳は、既に三回ほど使用されており、お互いもうすぐ二十一になるのであった。
 ぐすぐす泣く、酒に弱い親友の頭を撫でつつ、天井を見上げる。
 ……こうなった経緯は、彼女と私、共通の幼馴染にして、ついこの間春猫の恋人になった馬鹿にあるらしい。
 元々、二人をくっつけたのはこの私―季野・葛葉<きの・くずは>である。
 ならば、私がどうにかせねばなるまい。
 そんな風に意気込みつつ、私は春猫の持ち込んできたビールを飲み干した。
/


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