08/02/07 00:02:25 LYR206+n
うー…気にしてるのにぃ。思わず、薄っぺらい自分の胸を見下ろしてしまう。はぁ、現実ってヤダなぁ……
「ほれ、行くぞ」
ゆーちゃんはそう言ってとんとん、とあたしの頭を叩いて先に言ってしまう。
あたしの頭を軽く二回叩くのはゆーちゃんの昔っからのクセで、ごまかしたい時によく使うのだ。ゆーちゃんのばか。
その後、必要だった物も全部買って、袋詰め。カゴを返して外に出る。
「あのなぁ……機嫌直せよ」
「あたしが背低いのとか気にしてるの知ってるくせに」
「だから悪かったってば」
「ごまかそうとしたし」
「いや、その、すまん」
「……本当に悪いと思ってるの?」
「思うって、だからさ……」
「じゃ、ここでちゅー、して」
「……は?」
「早く」
「って、ちょ、おま、ここ人が……」
「しなきゃ許さないもん。ほーら」
目を瞑って、ちょっと爪先立ちになる。手を後ろで組んで、あごをちょっと上げる。
109:名無しさん@ピンキー
08/02/07 00:04:47 XjKaeOC6
「くぁぁ、マジか……」
あたしは心の中で笑った。ゆーちゃんのとまどいが見えていないのに伝わってくるようだった。ホント、ゆーちゃん
はいっつも面白いほどひっかかるなー。それがいつも嬉しいんだけどね。
「ウソだって。うーそ。また信じちゃって」
あっけに取られた顔のゆーちゃん。思わず、にひひと笑いが漏れる。
ゆーちゃんが頭を抱えてうずくまった。
「また引っ掛かった、欝だ……」
「いんがおーほー、ってね、反省しなよー」
「くそぅ、帰るか……」
「はーい」
「ふう、荷物貰うぜ」
「うん」
買った物が入ってる袋を渡す。こうゆう時、ゆーちゃんは無理してでも荷物を持ってくれる。
「ほら、手、繋ぐだろ」
「……うん」
互いの指を絡ませる。すごく、落ち着く。並んで歩き出す。ゆーちゃんの顔を見上げた。不意にゆーちゃんが
振り向いて目が合った。
110:名無しさん@ピンキー
08/02/07 00:06:54 LYR206+n
「どした、ちょっと俺の足速いか?」
ゆーちゃんは、いつも、いつだってあたしを気にかけてくれてる。何をしても笑って許してくれる。いつだって一緒に
いてくれる。
「ううん、だいじょーぶ。普通だよ」
首を振って答えて、あたしは思った。
やっぱりもうちょっと背丈と胸が大きかったらなぁ……
111:名無しさん@ピンキー
08/02/07 00:08:36 LYR206+n
状況終了。またまたレスが付いたら投下するかもだぜ。
ちょっと読みにくいやも知れぬがかたじけない。
112:名無しさん@ピンキー
08/02/07 00:50:41 0h31ilVH
>>115-122
バカップルに乾杯!
113:名無しさん@ピンキー
08/02/07 01:12:31 1talFLXr
>>123
恋人つなぎktkr
くそ、これで付き合ってないとか絶対ウソだろ!
ほのぼのしてていい感じと思いますぜ
ま、焦らずゆっくり書いて下さいな
114:名無しさん@ピンキー
08/02/07 01:26:39 KB0gpyXn
これで付き合ってないとか、お前らいい加減にしろよ?
って周りの心の声が聞こえてきそうだwwww
115:名無しさん@ピンキー
08/02/07 02:20:00 fwdmEtTL
>>126ちょwwww俺の心完全に読まれたwwwwwwww
>>123こういう名作があるからこそ幼馴染みが好きなんだなと改めて実感したよ。
照れくささとか優しさとかが、ひしひし伝わってきた。
二人がいつか一線を越えるのを願って全裸待機in札幌。
GJ!
116:名無しさん@ピンキー
08/02/07 03:16:35 oicYxMo3
>>123
GJ !!
バカップルに幸あれかし
>>127
一同、雪祭り会場での全裸正座に敬礼!
117:名無しさん@ピンキー
08/02/08 02:42:15 jLYu5Sfy
お前さんからはいつかの捕獲部隊の匂いがするw
118:名無しさん@ピンキー
08/02/08 12:50:38 sq9xuYIV
小ネタとして。
∞プチプチ ぷち萌え「幼なじみ編」
URLリンク(plusd.itmedia.co.jp)
このテのグッズにしては比較的珍しく幼馴染Verが発売されるみたいだが、おまえらどう思うよ?
どうも台詞設定が若干間違ってるような気がするんだが・・・
119:名無しさん@ピンキー
08/02/08 17:29:35 JPVp5dld
そもそも「幼馴染み」を表現する端的な台詞というのが思い付かない。
「お兄ちゃん」「ご主人様」「か、勘違い(ry」ですぐに分かってもらえる
他の属性と比べれば一目瞭然(優劣の問題ではないので念のため)。
むしろ>>71が的確に指摘しているような、二人の関係全体が醸し出す
温かいような切ないようなドキドキするような空気こそが肝なのだろう。
そのあたりのとっつきづらさが、幼馴染みキャラはありふれているのに
属性としてはマイナー感があるという上の議論にもつながる気がする。
120:名無しさん@ピンキー
08/02/08 21:12:17 uHknyKWH
俺が幼馴染で好きなのは、呼吸と距離感だなぁ。
台詞だけで表現するには難度が高そうなんぜ?
まぁ、「ちょwwwwwそれで付き合ってないのかよwwwwwwwうはwwwwwww」
って言うのが大好きなだけかもしれんが。
バカップルとかも大好物なんよ
121:名無しさん@ピンキー
08/02/09 00:21:57 DSeWD3LQ
うん、シロクロは俺の大好物だ
122:名無しさん@ピンキー
08/02/09 02:25:36 hy24+hJG
_、_
| ,_ノ` ) ……
_、_
| ,_ノ` ) そいつは付き合ってるのに付き合ってるとはあんまり思えないようなカップルしか書けなくて
_、_
| ,_ノ` ) なおかつシロクロの中の人を勝手にライバル視してる俺に対する挑戦状だな、そうなんだな
123:名無しさん@ピンキー
08/02/09 02:48:23 6KzBB2XQ
>>134
せっかくだから投下をwktkで全裸待機するぜ。
124:エピローグ ~親しき人へ~
08/02/09 03:49:30 JZVDYu37
生まれてからずっと続いてきたことを今更になって変えるのは、なかなか難しい上に、
結構な勇気がいる
言うだけなったら何でもない。でもこれが今現在も進行形な体験談だと、色々面倒臭くなる。
付き合ってる相手となると尚更だ。
いやぁ、もちろん大事にしたいと思ってるぜ。だって、あいつがいない人生がどんなもの
なのか、あの時嫌というほど思い知らされたわけだからな。
時間が経てば、大抵の辛いことは今思えば何とかなると思えたりもする。でも、何となく
生きてきた人生の中で、あの数ヶ月間だけは今でもやっぱり思い出したくない。
まあ、なんだ。だからっつーかなんつーか、俺にとってあいつは絶対必要で、だから俺も
惚れたんだっていうこれ以上ないきっかけにもなったんだけどな。自惚れになるけども、
あいつにとって俺は必要な人間だったと思う。それと同じように、俺にとってのあいつも
絶対に必要な存在だった。
それが分かったから、あの時、早朝の駅前で、躊躇いもせずにあんなこと出来たんだと
思うんだよな。理性とかじゃなくて、ただ、気持ちが爆発した感じだった。
昔のことに思いを馳せれば、実感が湧かなくなる。けど今に至る過程を思い起こせば、
この状態が必然で、最高の結果だった。あの時の選択が間違ってなかったっていう思いは、
消えるどころか霞むことさえない。
色々行き違いがあったり欲に忠実でいたりしたら、何度か浮気まがいなこともしでかした。
そのせいなのか単に年を重ねたからなのか、以前と比べて随分逞しくなったし落ち着いた。
そしてそれでも、変わらず俺のことを好きでいてくれてる。だから今、思うこともある。
そろそろ、その答えを出してやらないといけないってな――
ピリリリリリリリリッ
ピリリリリリリリリッ
………………あー。
朝かー……ちくしょうまだ寝ていたい。でも今日はバイトがあるから起きないといけない、
誰だこんなダルい気分な時にシフト入れたのは。俺じゃねえか馬鹿野郎、ああめんどくせぇ。
「あ、起きたんだ崇兄」
「んー…」
「おはよ」
「おー…」
起き上がり頭をぼりぼり掻いてると、流しに立っていた紗枝に声をかけられる。味噌汁の
匂いを嗅ぎながらぶっきらぼうに返事をすると、「凄い寝癖だよ」と苦笑を洩らされる。
着替えを済ませ髪も梳かされているから、随分早くに目を覚ましてたらしい。……こいつも
後ろ髪の一部が少し跳ね返ったまんまだが。
「よく寝てたね。朝ご飯出来るまでほっとこうと思ってたんだけど」
「昨日夜更かししたからなぁ…」
「思ってたより盛り上がったからね」
「ふぁぁぁ…ねみぃ」
腋(わき)を掻きながら欠伸をかみ殺し、乾いた目を瞬かせて眠気を追い払う。
部屋には、二組の布団が隣り合わせに敷かれてある。まぁこうして朝飯作ってる時点で
言う必要もないかもしれんが、昨晩こいつはここに泊まったのだ。
125:エピローグ ~親しき人へ~
08/02/09 04:11:45 DEP01Mxe
「はー…」
「? 何だよ」
「……」
「何だよー」
話が盛り上がったせいかおかげか、結局昨日は事に及べなかった。まあ盛り上がらなくても、
あんなもん持ってこられて見せられた時点で萎えてたっつーかやる気削げてたけどな。
というか、元々それが目的だったんだろうが。
「どうしたんだよー」
自分の思い通りの展開になったことに満足してるんだろう。天真爛漫な口調とは裏腹に、
口元が清々しくニヤついている。良い度胸だ、そのうち腰が抜けるくらい犯してやる。
枕元には、昨晩を健全な意味で盛り上げたものが無造作に置かれてある。紗枝の成長を
辿ったアルバムだった。赤ん坊から高校の卒業した頃までの写真を、三冊程度に纏めてある。
当然お向かいで幼なじみだった俺も結構な割合で映りこんでいるわけで、表紙のタイトルには
「紗枝(と崇之君)の成長アルバム」と記されてある。大きなお世話だコノヤロー。
『ほら見てみろ紗枝、この眠っそうな面』
『崇兄のこの顔さ、昔と全っ然変わってないね』
『そりゃーお前が物心ついた頃から惚れてた顔だしな』
『別に顔だけが理由だったわけじゃないもん』
『そりゃどーも。お前は今と昔じゃ全然違うよな』
『色々努力しましたから』
そりゃ楽しくなかったって言ったら嘘になる。また布団二つ並べて被って丸まって、
懐かしみながらアルバム眺めたいと思う気持ちがあるのもまた事実だ。
『ほらこれー、何だよこの抱き方。これであたしのことお守りしてたって言えるの?』
『豪快だろ。というか、そうしないと持ち上げられなかったんだよ』
『軟弱者め』
『うるせぇ、この写真撮った時七歳くらいだぞ俺』
しかしだ、そういうことをするなら時と場合を選べと声を大にして言ってやりたい。
前回悪戯が過ぎて怒らせてしまったから、今回はちゃんと優しくしてやろうと思ってたのに。
具体的に言うと、主に言葉で責めようと思ってたのに。
『これは…小学校の卒業式か、校門の前で並んで撮らされたんだったかな』
『この頃にはもう河川敷で遊ばなくなってたよね』
『よく遊んでた奴とクラスが違って疎遠になったからな。つーか、なんで俺じゃなくてお前が
泣いてんだ』
『うるさいなぁ、いいだろ別に』
『気になるもんは気になる』
『えー…』
『言わんというなら、こっちも手段を選ばんが』
『崇兄と一緒に学校通えなくなるのが寂しかったからだよっ』
途中そういう方向に話をもっていこうとしても、向こうがすぐに折れたり話を転換させて
それっぽい雰囲気を作れなかった。ずっと玩具にしてきた弊害か、こっちの意図を上手く
かわされることが多くなった。
『これは中学の制服か。この頃がいっちばん生意気だったな』
『そーなの?』
『そーなの。口調ががさつになってきたのもこの頃だな』
『……』
『反抗期ってやつかなーと思ったりもしたもんだけどな。そこんところどうですかお嬢さん』
『……だって崇兄、他の女の人と付き合ってたから』
『…あー、その時期と被るわけか』
『それだけならともかく、あたしに惚気てきたりするしっ』
しかも自爆までかましてしまったり。一度拗ねさせちまうと、こっちが折れるまでずーっと
口尖らせ続けるから厄介だ。まぁ、そーいう時の紗枝が一番可愛いんだけどな。以前ほど
そういうところを見せてくれなくなってきてるから、嬉しい誤算でもあったわけだ。
126:エピローグ ~親しき人へ~
08/02/09 04:17:10 DEP01Mxe
『…? これ誰だ?』
『えーっと…あぁ、その時仲良かったクラスの男子だね。学園祭の準備の時に撮ったんだ』
『ほー……』
『? どしたの?』
『なかなか澄ましたお顔のお友達だな』
『そうだね、結構モテてたし』
『距離近いな』
『写真に写るためだもん』
『軽薄そーな奴だなぁ、なんでこんなのと仲良くしてんだ』
『別にいいじゃん、あたしが誰と仲良くしようと……って、崇兄』
『ンだよ』
『妬いてる?』
『……は?』
『へー、妬いてるんだー!』
『あぁ? 調子乗んなよお前』
『妬いてるんだ、崇兄妬いてるんだぁ。ふへへー』
中には自爆じゃないレベルのことやらかしたりしたけどな。あれはマジで失態だった。
紗枝に主導権握られるとか、屈辱以外の何物でもない。「崇兄に軽薄とか言われたらおしまい
だよねー」と言われて言い返せなかった自分が悔しい。
『これは……あん時のか』
『うん、崇兄が写ってるのはそれが最後だよ』
『……ふーん』
『どうしたの?』
『いやー…お前のこと泣かしてばっかりだと思ってな、これもそうだし』
『……前の晩、ずっと泣いてたんだ。そしたら、崇兄の前じゃ泣かなくてすむかもしれないって
思ってたんだけど』
『そっか……ごめんな』
『…ううん』
まあ、途中なかなか良い雰囲気になったりもしたんですけれども。頭を撫でてやって、
そのまま肩を抱き寄せてやったら、それまでの態度とは一転して、急に大人しくなった。
ちなみに写真の内容は、俺がこのボロアパートに引っ越す時に、こいつの家の前で紗枝と
一緒に撮ったものだ。確かこの時も頭を撫でてやったんだよな。この頃は他人同士なのに
兄妹みたいな関係がしっくりきて当たり前で思い込んでいたから、あの時は慰めの意味しか
込めてなかった。
「はい」
「おぉ、悪いな」
テーブルの上には味噌汁、納豆と卵焼きというオーソドックスな朝食のメニューが並んでいる。
炊飯器から炊きあがった米をよそってもらい受け取ると、お茶を汲んで箸を取る。
朝が強い紗枝は、泊まった翌朝には決まって飯を用意してくれる。ロシアンルーレットの
ようだった料理の腕前も、あれから随分と上達した。大学には進学しなかったから、おばちゃんに
家事を習ったりそしてそれを手伝ったり、卒業と同時に始めたバイトで金貯めて、料理学校に
通ったりしてるそうな。
それを聞いて思わず「花嫁修業じゃねーか」って突っ込んだらエラい目に遭ってなぁ、
顔真っ赤にしてうるさいことうるさいこと。その時いつもの手を使って黙らせたら、過剰反応
示して茹でダコになって骨まで抜けてしまったのはとても面白かったが。
127:エピローグ ~親しき人へ~
08/02/09 04:24:49 JZVDYu37
「バイト何時からだっけ?」
「今日はちょっと遅めに入れたからな。あと二時間くらいは余裕ある」
「そっか、じゃあ掃除だ」
「せめて飯食い終わってからにしてくれ。埃を被った米や味噌汁食いたくないぞ」
「食べてからの話だよ。膳ももう一式置いてあるだろ」
「おやそういえば」
「……食べる前に顔洗ったら?」
「せめて飯食い終わってからにしてくれ」
「もー」
四つ年の差があったから今まで気付かなかったが、実はこいつ人の世話を焼くのがかなり
好きらしい。それが少しばかり鬱陶しくもあり、楽をさせてもらってありがたかったりする。
まあなんにせよ、朝起きたら既に飯があるってのは良いもんだ。
「でもお前、飯作るのうまくなったな」
「そうかな。ありがと」
ポン酢をかけた卵焼きをおかずにご飯を頬張り、咀嚼しながら料理の出来映えを褒めると、
はにかむように照れ笑いを浮かべる。普段は礼を言ってもその言葉を素直に受け取ってくれない
困ったお嬢ちゃんだが、家事に関しては照れ臭さより嬉しさの方が勝るらしい。ま、料理の腕
磨いてんのは俺のためでもあるだろうからな。こう頑張ってくれてると自惚れたくもなる。
それでなくても、こいつも成人を迎えて色々成長してるしなぁ。精神的な意味でも、身体的な
意味でも。
「お前は今日バイト無いのか?」
「うん。真由と遊ぶんだ」
「あー…いたねぇ、そういう娘も。相変わらずなのか?」
「まぁね、あの性格が簡単に変わるわけないよ」
いつも何考えてるのかよく分からないあの狐面を思い出し、思わず頬を引きつらせると、
紗枝には苦笑を漏らされる。
俺達が付き合うきっかけを作ってくれたその女の子は、地元の大学に進学してるらしい。
ちなみに出来は良いが要領の悪いバイト先の後輩も、同じキャンパスに通っているとか
いないとか。本人の弁では、これといって目立った進展は無いらしいが。
「どれくらい会ってないの?」
「お前らの卒業打ち上げの時が最後だよ、もう二年くらい会ってねーな」
「あぅ…あの時はごめんなさい」
「はっはっは、気にすんなよ」
そうそう、今まで酒とか飲んだことないくせに、打ち上げでカクテルやら何やらを勢い良く
飲みまくり、すっかり酔っ払った紗枝を迎えに行って介抱したのも、もう二年前の話になる
わけだ。
普段以上に俺との仲を聞かれまくり、誤魔化しに飲んでたらいつの間にかぐでんぐでんに
なってしまったらしい。動かなくなったこいつをどうにかしようと考えた真由ちゃんに、
ちょうどバイト上がりだった時に呼ばれてな。
『あなたの大事な大事な愛しい恋人さんが、あなたのことを想いすぎて潰れちゃったんで、
迎えに来てその分しっかり愛情注いであげてください』
あの狐っ娘にそんなこと言われてな、急いで迎えに行ってな。こいつのより俺の家の方が
近かったから、背負ってこの部屋まで連れ帰ってな。
「…あのさ」
「ん?」
「……もしかして、思い出してる?」
「はっはっは、そんなことないぞ」
「うぅぅ……やだなぁ」
そこで話が終わったなら、こいつもここまで気になんかしない。でも面白いのはここからでな、
背負って帰る途中に意識を取り戻した紗枝の態度に、色んな意味で振り回されたわけだ。
赤ら顔で酒臭い息をまき散らしながら、匂い嗅いできたり頭撫でてきたり無い胸押しつけて
きたりずーっとうなじにキスしたりとかな。そんなこと普段は絶対やってこないから、
にやけてしまうとかそういう以前に驚かされた。家に着いて寝かそうとしたら、抱きつかれて
迫られて押し倒されかけたのは流石にびびった。
128:エピローグ ~親しき人へ~
08/02/09 04:27:11 JZVDYu37
まあその時のことを本来こいつは覚えてないはずなんだが、俺がしっかり悪戯心と嫌味を
交えて伝えてやったから、こうして目の前で唸っている。最初はまるで信じなかったんだが、
俺の首筋がやたら赤くなってたり、見ていた夢の内容を思い出すうちに黙り込んじまってな。
今思えばこっちももっと乗り気になっときゃ良かった。据え膳食わぬは何とやらと言うし、
こっちから酒飲ませようとしても中々飲まないし飲んでもちょっとだけでなぁ。
「ごちそーさん。あー食った食った」
食器を重ねて流しに持っていき、再び腰を下ろして軽く腹を撫でる。おもむろにテレビを
つけると、朝のニュース番組がブラウン管に映し出される。こういう雰囲気が、なんだか最近
いちいち懐かしい。
「あたしもごちそうさま。さ、掃除掃除」
「飯食った直後にすぐ動くのは身体に良くないぞ。急ぐわけでもないし、ちょっと休んで
からにしたらどうだ」
「あ、そっか。バイトの時間までちょっと余裕あるんだっけ」
「そういうこった」
「じゃあ…」
欠伸をかみ殺しながら答えると、紗枝はわざわざ俺が使っていた方の布団に倒れこむ。
起きぬけに家事をして気を抜くと、やっぱりそれなりに疲れるらしい。こういうことを恩に
着せない性格は、俺みたいな人間にはとてもありがたかったりする。おかげで毎日図に
乗らせてもらってるわけだが。
「はふー…」
ため息をついて、丸まって枕に顔を埋めている。相変わらず寝顔だけは文句なくあれだなー
可愛いなー。どうしてもちょっかい出したくなる。
「二度寝すんのか?」
「しません」
「でもまたちょっと眠たくなったろ」
「なりません」
「?せ我慢すんなって」
「してません」
……なんという生意気な態度、これは悪戯して俺の気分を晴らさざるを得ない。
「紗枝…」
「うわぁ!」
添い寝するように俺も傍に寝そべり耳元でそっと囁いてやると、過剰に反応を示してくれて
満足感を覚える。やはり紗枝はこうでなくちゃいけないと思う今日この頃。
「なっ、何すんだよっ」
「なんとなくだ」
耳を押さえ逃げようとした身体を、お腹の前に腕を通して固定する。
付き合う時間が二年にもなれば、流石に多少なりとも熱は治まる。座椅子もしなくなったし、
こいつも落ち着いた雰囲気を見せるようになった。最近になってまた髪型を戻してくれたが、
それ以前はロングヘアーになるくらいまで伸びていた。だから、余計にそんな風に見えていた。
そもそも、髪伸ばして欲しいっつったの俺なんだけどな。色んな紗枝を見てみたかった
わけで。
「…ちょっと」
「ん?」
「…離れてよ」
「なんで」
「…こんなことしてたらこれから掃除できないだろ」
「今度でいい」
ひどく冷たい台詞だが、こんなのいつものことだ。右から左へ軽く受け流す。そもそも、
こいつがこういった台詞を吐く時は大抵照れてる時だ。
「そもそも後ろから抱き締めたはずなのにお前の顔と身体がこっち向いてるのは何故だ」
「……知りません」
言葉とは裏腹な態度をわざわざ言葉にしてやると、つっけんどんな口調と裏腹にもぞもぞと
身体を丸めていく。
まあ人間、根っこの部分はそう簡単には変わらないと言いますし。腕に力を込めても、
もう文句を言ってこない。ふふふ可愛い奴め。
129:エピローグ ~親しき人へ~
08/02/09 04:30:27 JZVDYu37
三月になったばかりとはいえ、まだまだ寒い日が多い。今日もご多分に漏れず、朝から
随分と冷え込んでいる。窓からは晴れ間まで差し込んでるっつーのに何でなんだまったく
家でもっとゴロゴロしてぇ。
「あー! バイト行きたくねー…」
「今日行ったらしばらく休みなんじゃないの?」
「だから行きたくねーんだよ」
しかも今日のシフトは中抜け挟んで半日ときている。終わった頃には真夜中だぞ真夜中。
店長の鬼シフトによくここまで耐えてきたもんだ。
「あたしはバイトすっごい楽しいけどな」
「どーせ客少なくて同僚とお喋りして終わりだろ」
「そんなことないよ。これでも看板娘って評判なんだから」
「誰が」
「あたしが」
あー? 舐めた発言しやがって。そんな「あたし可愛いんだよ」的な発言を自分からする
お前なんか認めんぞ。
「お好み焼き焼くのも上手くなってきたんだから。今度作ってあげよっか?」
「そういやお前の職場はお好み焼き屋だっけか」
「そうだよ」
「広島風と大阪風、どっちだっけ」
「広島風だね」
「……あぁ、なるほどな。“おたふく”娘ってことか」
「もー、またそんなこと言うー」
自惚れるお嬢様に皮肉を叩きつけてやったら、頬をぷーっと膨らませて本当におたふく面に
なる。頬を柔らかく抓ると、その表情がいよいよ不機嫌なものになる。
「あにふんだよ」
「お前のほっぺって柔らかいよな」
「うー、ひたひー」
「ぷにぷにしやがって。気持ちいいぞこの野郎」
「はなへー」
朝っぱらからシングルサイズの布団に二人で寝っ転がって抱きしめあって色々悪戯するのは
ダメ人間を極めつつあるかもしれん。しかしこれがまた俺の気分をゆっくり落ち着かせて
くれるんだから仕方ない。快楽主義の四文字が俺の座右の銘だ。
「もうっ」
「うおっ」
堪忍袋の緒が切れたのか、思いっきり手を振りほどかれる。身体もぐいっと押されて
距離を取られ、そのまま上半身を起こしてしまう。
「いい加減にしてよね」
「んだよー、つれねえな」
「前にこんなことしててお互いバイト遅刻したじゃん。これからは厳しくいきます」
「えー」
「えーじゃありません、ビシバシいきます」
「固いこと言うなよ、ヤろうぜ」
「しません!」
「昨日の晩ヤらなかったんだから良いじゃんよー」
「朝からとか絶対やだ」
くそー、相変わらず身持ちが固ぇ。なんて面倒臭い女だ、もっとこう俺のために色々と
気を利かせてだな…
「…今、何て言ったのかな?」
「言葉のアヤだ、聞き流してくれ」
おおお危ねぇ、にっこり笑いかけてきたら本気で怒りかけてる合図だからな。こうなったら
逆らわん方がいい。
「そもそも崇兄だってさ、あたしのこと相変わらず考えてくれないじゃん!」
やべ、スイッチ入っちまった。これは早いこと脱出しないと被害が甚大になる。
「会うのはいっつもここだし、最近デートしてないし、これからのことだって…」
「おっとこれはいかん! 気付いたらバイトの時間が迫っておる! 早く準備せねば!」
130:エピローグ ~親しき人へ~
08/02/09 04:31:45 JZVDYu37
枕元にあった携帯を掴んで開いて時間確認して、紗枝の言葉を遮るように声を張り上げる。
こいつも何か言いたげに一瞬口を開きかけたが、無駄だと思ったのかそれは溜息となって
口から放たれる。ちなみに、まだ時間的に全然余裕あるのは内緒の話だ。
「……だったら早く準備してください」
「いやスマンスマン」
まあ平日はほぼ必ずシフト入れてるし、バイトリーダーだから土日も穴埋めで入ることも
少なくないからな。こいつの方もバイトしてるとはいえ、俺ほど忙しくはない。その時間を
埋めてやれないのは、やっぱり申し訳なかったりする。
まあ、だからっつーかなんつーか。用意してるわけなんだけどな、答えを。そう言い表す
にはちょっと大仰かもしれんが。そしてそれは今、紗枝には見つからないよう押入れの奥に
しまってある。
「まったく。こんなことならとっとと掃除すればよかった」
「悪かったって。ちゃんと埋め合わせすっからさ」
「どんな?」
「秘密」
「どうせうやむやにするんだろ」
「ははははは」
顔を洗って着替えを済ませ、出かける準備を済ませる。そしてバレないよう、こっそりと
それを取り出してコートのポケットに忍ばせる。
今までは確かにそうだった。時間置いたり機嫌とったりして、そのうちうやむやにするのが
いつもの手だった。埋め合わせなんて、合コン行ったのがバレてた時くらいなもんだった。
今日渡そうと決めてたわけじゃない。でも、延々とタイミングを掴み損ねてたら気持ちが
萎んでしまいそうだったし、何より「あたしのこと考えてくれてない」という紗枝の言葉に、
挑発されたような気分になった。そうじゃないってことを見せつけてやりたくなった。
俺だって本当は、その、なんだ。まあ……色々とな、あれだよあれ。
最初に告白したのは紗枝の方で、俺が告白したのは、それから何カ月も経った後だった。
けど年は俺の方が上だし、こっちは男だ。もう一回くらい言っておかないと、埋め合わせに
ならないと思うわけで。だから俺は、今からガラにもないことをやろうとしている。
「よーし、行くか」
「忘れ物ない?」
「ねーよ」
ポケットの中の答えを、突っ込んだ掌で握り締める。そして同時に心を決める。
二度目のきっかけは、俺が作ってやる――
131:名無しさん@ピンキー
08/02/09 04:34:51 JZVDYu37
_、_
| ,_ノ` ) ……
_、_
|; ,_ノ` ) ギコナビじゃ書き込めなくなったり、最初に一行空けてたら投下できないことを忘れてたりして申し訳ない
_、_
|; ,_ノ` ) しかも一度で投下するつもりがこの冗長な文章のせいで持ち越し……本当に申し訳ない
132:名無しさん@ピンキー
08/02/09 07:40:32 f3GSqO1O
GJの極み
133:名無しさん@ピンキー
08/02/09 07:53:18 6KzBB2XQ
>>143
VEEEEEERRRRRRY GOOOOOOOOOOD!いわゆるGJってヤツだぁーっ!
会話のノリがいい、非常に良い
134:名無しさん@ピンキー
08/02/09 09:16:41 UCXVajx7
この二人もとうとう行き着くところまで行くことになりましたか……感慨深い。
大団円を楽しみにさせてもらいます。
135:名無しさん@ピンキー
08/02/09 15:58:15 v6EcuXQa
わぁ、GJ!
徹夜して起きたら投下があったとは!
136:名無しさん@ピンキー
08/02/10 03:21:14 T+MNxqpf
ああ…ついにこのシリーズも完結か
楽しませてもらったぜ、GJ!
137:名無しさん@ピンキー
08/02/10 14:07:37 7yKm9kw6
と、投下するぞ! 予告もないけどしちゃうからな!
途中。エロなし予定。長いかも。
季節遅れの正月ネタ。
138:年の差。
08/02/10 14:08:44 7yKm9kw6
/0.
―そうなのだ。気付いてしまった。
自分とアイツは、同等だってコトに――。
……Ten years after.
/
/1.
十二月三十一日―大晦日、午後四時。太陽は分厚い雲に隠れ、既に夜に等しい暗さだ。
そういえば、毎月三十日は晦日と言うんだったかな―と、どうでもいい知識を唐突に思い出す。
壁際。背には柱があり、尻には座布団があり、眼前には湯飲みがあり、湯飲みには熱い緑茶がある。汲みに行くのも汲みに来てもらうのも面倒くさいので、貧乏臭くちびちびと飲みつつ、宴会の準備でバタバタしている眼前の観察を続ける。
……ウチ―衛山<えやま>家は、昔々この辺の大地主だったそうで、実家と言うべきこの家は豪華な純日本家屋だ。
お盆、そして年末から正月にかけては一族がこの家に集合する。
年近く、親しい従兄弟も数人いたりして、お年玉とともに少しは楽しみにしている行事ではあるのだが、―唯一。
そう、唯一―この家に来たくない理由があった。
勉強が忙しいから、と、中学から高三の今年まで、この家に寄り付かなくなった理由が。
「久しぶりじゃない、春巻<はるまき>」
「……よう、六年ぶりだな―秋菜<あきな>」
背後からの声に、首だけで振り返る。
そこにいるのは、細身の女だ。
名を、衛山・秋菜。俺―衛山・春巻の従姉であり、そして、女主人と言うか、御主人様、と言うか……とにもかくにも、俺の天敵だ。
「髪、染めたのか」
「ばーちゃんが許してくれたからね」
「……そうかそうか」
六年。
歳月と言うものは凄まじいと思わざるを得ない。
六年前も客観的に見れば可愛い部類に入るとは思っていたが、現在では客観的でなくても美人と言いそうになる。
肩口辺りでばっさりそろえた暗い茶髪に、常に鋭く光る明るい瞳。相変わらず、と言うべき倣岸不遜な腕組み姿勢。
139:年の差。
08/02/10 14:09:27 7yKm9kw6
まさに、自信満々。に、と笑う唇の光沢が妙にキレイだ。
……あー、いや。腕の組み方が少し変わって、寄せて上げるような感じになっている。なってはいるが、寄せて上げる脂肪分が全く無いようで、全然効果がない。
……とりあえず今は、体にフィットするセーターとジーパン姿を可愛いと思ってしまった自分を殺してやりたい。
「アンタは……変わらないわねぇ。そのまま拡大したみたい」
「うるさいな。とりあえず背は抜かしてやったぞ」
「は? ―抜かしてない方がおかしいってモノよ、このハルサメ」
「はるッ……!?」
いいや待て、落ち着け、俺。これはまだ手探り、偵察だ。ここでブチ切れたらせっかくのチャンスを潰してしまうことになる……!
一瞬の激昂をそう抑え込んで、笑ったままの秋菜、その目を睨み返す。
「ひでぇ暴言だ。俺、この名前気に入ってるのによ」
「……そうだったの? 叔父さんもネーミングセンスないなって思ってたけど、……遺伝するのね」
「……そうらしいなぁ」
お前の性格の悪さは突然変異らしいが、と心の中で毒づきつつ、緑茶を少し飲む。
「まったく、六年経てば少しは変わるかと思ってたのに―アンタは小学生から進歩してないみたいね」
大げさな動作だ。はぁあ、とため息を吐く動きも入ったそれは、十分な挑発。俺だって一言くらい言い返したくなる。
「お前こそ、胸囲は―」
視界に足の裏が映りこんだ。それは一瞬で拡大し、
「―そげぶッ」
……衝撃。しかも眉間に爪先で。柱に後頭部がブチ当たり、衝撃が眉間との間で反響する。
いたたたたたたた。あいたたたたたたたたた。場合によっては死ぬぬぬぬぬぬぬ。うぁいてぇえたたたたた。
「……確信したわ。アンタ、本ッ当にまったく変わってないみたいね」
降ってくる声は、六年前と変わらない、吐き捨てるような冷酷な響き。……昔の彼女と今の彼女が一致する。感想は一言、変わってない、というオウム返しだ。
……年齢がたった一つ上だからと、俺をこき使ってきた従姉。しかも彼女の家はここなので、来る度に百パーセント出会う。
だが。だがしかし、だ。気付いてしまった。
明日―そう。明日だけは、俺は秋菜の奴隷ではないのだ。
秋菜の誕生日は、一月二日。
そして、明日、一月一日は俺の誕生日。その日だけは、秋菜と対等である―。
140:年の差。
08/02/10 14:10:07 7yKm9kw6
/
そも。あの女と出会ったのは、十五年ほど前―俺が三歳の頃―になる。
忘れもしない。……あの女、二番目に年下だからって、一番年下だった俺に会って早々、『アンタ家来ね!』と宣言をして、そのまま奴隷のように扱ったのだ。
ばーちゃんがわざわざ買って来てくれた誕生日のケーキをわざわざ俺から奪い取って食べやがったし。それを筆頭に、三歳の誕生日は悲惨な思い出に占められている。
次に古い記憶は三歳半のお盆。今度はスイカを奪われ、川に突き落とされ、セミを額に付けられ(未だにセミが苦手だ)、裸に剥かれてそのままお医者さんごっこで血を見た。その後で風邪もひいた。
……これ以上トラウマを思い出すのは止めておこう。とにかく、秋菜に関わってろくな思い出はなく、そんな思い出が毎年二回、十二歳まで欠かさずあるのだから、俺の歪みも当たり前と言うものだろう。
……年上の女性、と言うものが苦手なのだ。
その範疇はその辺のおばちゃんにまで及ぶ。学校でも同級生が年上―俺は早生まれになるので半分以上の女子になるが―だと分かってしまうとどこか引いてしまう。
……克服する方法は、ただ一つ。原因の解消―つまり、あの女に、『ぎゃふんと言わせる』―と、言うのは死語か。とにかく明日、俺は、あの女に打ち勝つ。
が、
「……相変わらずアンタ弱いのね」
……画面に踊る『YOU LOSE』の文字。
格闘ゲーム―十年ほど前からシリーズが続くタイトルは、秋菜の影響で始めたものだ。
中学以来特訓を続けてきたが、やはり……と言うべきか、無理だった。
最新作というコトもあり、秋菜も不慣れだろうと思っていたが、そこは同タイトル、全く問題は無かったようだ。
初戦は偵察のように手加減を。そこで手抜きをするなとばかりに瞬殺された。
クセも見抜けず第二戦、今度は俺も若干の抵抗を見せたものの、ガードの隙間から瞬殺。
第三戦も俺は若干の抵抗を見せたものの以下同文。
……うん。とりあえず、格ゲーでの復讐は無理らしい。
「……お前が強すぎるんだよ」
「このゲーム、買ってから二、三回しかやってないんだけどね」
「馬鹿野郎、反応速度がまず違うだろうが」
ケ、と毒づくものの、内心、相変わらずの反射神経に舌を巻いていた。
何せ昔、飛び立ったバッタを上昇中に掴み取って笑顔で俺に……ああいや、トラウマを穿り返すのは止めておこう。うん。
「だぁあ」
くそ、と転がった。
ここは、秋菜の部屋だ。
生活感がないわけではないが、女の部屋としては殺風景な部類に入るだろう。
日本家屋においては当たり前と言うべき和室。あるのは小さな文机と、その横にある教科書やCD、ゲーム、雑多な本を集めた小さな本棚。タンスや布団は全て押し入れの中で、妙に広いような印象を受ける。
和の空気を壊すようなものは、大型プラズマテレビ―なんでも、夏の間にバイトして、貯金と合わせて買ったらしい―とその下のゲーム機、背後にある石油ストーブ。その三つだ。
一つくらい人形でも持て、と言いたいところだ。
141:年の差。
08/02/10 14:11:08 7yKm9kw6
「だぁあー」
くそっ♪、とおちょくるような口調で、秋菜も寝転がった。音符を付けるな、と言ってやりたいところだが、言ったら後で踏まれるだろうと容易に想像できるので思うだけにしておいた。
「……相変わらず、弱いのねぇ」
「しみじみとした口調で言うな。……お前さ、そんなんじゃ彼氏もできてないだろ。男はプライド高いんだから、少しは勝たせるってコトを覚えないと駄目だ」
「……確かに、彼氏いない暦イコール年齢だけど―まあ、そうね。確かにそうかも知れないわね。……だからと言って、アンタには手加減しないけど」
「うわキッツー」
質量満点の心情を、せめて溜息を吐くコトで軽くする。
この無駄な自信はどうにかならんものか。もう秋菜も十九になるワケだし、性格の矯正も効かなさそうだが。
……と言うか、客観的に見て美人のクセに彼氏無しとは、……良かった。俺の性格観察眼はきちんとした物みたいだ。こんな自信満々な女、彼女にしたら最悪だって事は万人の共通理解であってくれるらしい。
「……世間の目は厳しいんだな」
は、と機嫌悪そうに聞いてくる声を軽く無視する。
……あ。天井に傷発見。確か六年前には無かったものだから、秋菜が付けてしまったんだろう。
ごまかしに丁度いいので、聞いてみることにする。
「いや、天井に傷あるからさ。六年前には無かったと思うんだが」
「え? ああ、あの傷? 何でだったかな……今思い出すからちょっと待って」
思い出そうとしている間に、俺は起き上がってテレビ画面を見る。
そこには俺の扱うバランス型キャラと秋菜のパワーキャラが先ほどの対戦を再現していた。
……リプレイでもボコボコにされる俺のキャラがいい加減可哀想なので、ボタンを押してキャラクター選択画面に戻した。
……そろそろ、夕食の時間だろうか。
横を見て声をかけようとすると、秋菜も起き上がっていた。
思い出した、という訳ではないようで、
「何? もう一戦やる気なの?」
ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべつつ、秋菜は腕組みをした。
「やらねーよ。勝てない勝負ほど面白くないものはない」
142:年の差。
08/02/10 14:12:40 7yKm9kw6
画面を戻した理由まで話したら笑われそうなので、そこで口を噤んだ。
……目を見ていたら考えを見透かされそうなので、目をそらした。
「ふーん……それじゃあ、今度は協力しましょうか? ほら、コレ」
と、秋菜は俺の上を四つんばいで通り、本棚からアクションゲームを取り出した。
……膝を曲げれば腹に付くような姿勢だ。ちょっとだけ劣情を覚えてしまった俺を全力で殺したい。
「そろそろメシだろ、んな時間かかりそうなのはメシ食った後にしようぜ」
「……それもそうね」
秋菜は軽やかに立ち上がると、襖を開ける。
そこには何人かのお子様<ガキ>と子供のハートのままな大人<クソガキ>がいた訳だが、秋菜は蹴散らすようにして追い立てていく。
溜息を吐きつつ、秋菜とは比べ物にならないくらいに鈍重な身のこなしで立ち上がり、居間へと向かう。
/
居間は現在、襖を外され、温泉の宴会場のようになっている。
実際に温泉の宴会場よりも広く、しかも料理も豪華と言うのが笑えないところだが。
「昔はこれが当然なんだとか勘違いしてたなぁ」
番茶を飲みつつ、周囲を眺める。
大地主の家系というだけあるのか、親戚がやたら多い。
厨房にも奥様方が何人も行っているようで(そのせいでかおかずごとに味がちぐはぐで、しかもあまり美味しくないものもあったりする)、未だに料理が運ばれて来ている。
「よくやるなー……」
ずず、とまた湯飲みを傾けた。
上座の方ではジジイとババアが騒いでいるし、もう少し下がると三十代から四十代くらいのおっさんどもが二十代の親類を相手に酒飲み比べの真っ最中。
結局平和なのは一番の下座である俺の座る辺り、子供が寝ていたりゲームをしていたりする場所だ。クソガキども、庭に出て健康的に雪だるまでも作ってやがれ。
「さて」
十分に飯は食った。海老や蟹は美味いが、もうあまり未練はない。上座からじーさま方がやってきても即逃げできる。
十二時になる前に、神頼みしてこよう、と思う。
トラウマの大本だ。クラスメイトに感じる苦手意識など屁でもない。その女に打ち克とうとするには、自力だけでは不安だ。
「……いかんなあ」
……大晦日の、独特の空気。年の瀬が、俺を高揚させている。不安だ、とか言っておきながら、湧き上がって来たのは腹からの武者震いだ。
143:年の差。
08/02/10 14:13:12 7yKm9kw6
茶が無くなったので、従弟―じゃない、こいつはハトコか―にハンバーグと茶の交換を持ちかける。
ハトコはまだガキだ。交渉はあっさりと成功し、俺は茶を手に入れる。
茶をすすりつつ思うのは、冷静にならねば、と言うコトだ。
……復讐。とは言っても、具体的に何が可能なのか。それが問題だ。
俺の女性に対する自尊心を回復できる程度でなくてはならず、しかし秋菜が相手であっても可能である、そんな都合のいい手段。
……いやはや。本当に、マズい。
「……格ゲーで勝負付けばよかったんだが」
負け続けの象徴―とまではいかないが、マグレ以外で勝ったことがない。ちっぽけなプライドを満たすには十分とも言えた、が。
あの反射神経を見る限り、見事な格闘技の腕前も全く衰えていないと見るべきだろう。
元々そんなつもりはないが、腕力的な解決も不可能というコトだ。
口では勝てるわけがないし、第一そんなもので勝っても全く嬉しくない。
困った。……本当に困った。
後の手段が、酒に酔わせるコトくらいしかないというのが問題だ。
ウチの家系は代々ウワバミだ。俺も例に漏れずそうなのだが、……問題は秋菜もウワバミ、と言うコトだ。
六年前は、確か、辛うじて勝ちはしたものの大変な目に―いやいや、トラウマトラウマ。
落ち着こう、と茶を飲みつつ、上座の方を眺める。
そこには、老人どもの中に咲く華一輪。いや、ババアどもの中にいるせいか、主観的にも美人に見えてしまう。
「……やれやれだなー」
ずず、と飲み干して、……遠くから聞こえてくる柱時計の時報を耳にした。
一、二。……合計十一回。そろそろ神社に向かうべきだろう、と立ち上がる。
昔は両親や秋菜の父親に車で連れて行ってもらったが、流石に飲酒運転などさせるわけにはいかない。その程度には倫理観も育っている。
「あ、春巻君? 神社行くの?」
赤ん坊を抱えた女性―ええと、確か親父の従姉妹―が話しかけてくる。
体重が後ろによったり表情が作り笑いになるのは、まあ、仕方ないとしておこう。
「行くんだったら、ウチの神棚にも手を合わせてからにしなさいね」
……古風だね、全く。神社に行こうって俺も、人のコトを言えた義理じゃないが。
頷きを返して、上座方向にある神棚に向かう。
行なうは覚悟。……ジーさん達の野次が来る。
「おう、春坊ォ! 彼女出来たかァ!?」
「エッチはしたんかぁー?」
とりあえず軽く無視し、神棚の前に立つ。
……なんだったかな、一拍二礼―
144:年の差。
08/02/10 14:13:58 7yKm9kw6
「二礼二拍一礼だったと思うけど?」
……と、背後から声。
案の定―と言うべきか。覚悟はしていたが、やっぱりこの女だった。
「何? 神社に行くの?」
「そうだ。……お前はついてくるなよ」
「私も神社に行こうと思ってるんだけど? 車は誰に出してもらうつもり? 雪も降りそうだしね」
酒の入っていない大人がいると思うか、と秋菜は言ってくる。
……いないだろう、ああ、いないだろうさ。
ケ、と心中で毒を吐き、俺に割り当てられた客間に向かう。
「五分以内に表門にね」
「了解」
車で行ける、となると時間には余裕がある。多少遅れても構わない。
だがしかし、俺は早足に廊下を歩いていた。
廊下は寒いというコトもある。が、
「……奴隷根性全開だなぁ」
自嘲の笑みを浮かべ、俺は自室―客間の障子を開いた。
/
その昔、宇宙にはエーテルと言う物質が満ちているとされていた。現在では姿を変えダークマター―暗黒物質とかそういう学説になっているそうだが。それがそうだからどうなんだ、というレベルの、身近からは程遠い話だ。
……宇宙にそんなモノがあるのなら、この車内にあってもおかしくない。沈黙と言う形で。
「…………」
「…………」
満ちる沈黙、失われていく俺の余裕。
女と車内で二人っきり―その点だけ抜き出せば甘酸っぱいユメ状況だ。女がコイツである、となれば途端に最悪の状況に様変わりするわけだが。
……家にあれだけ人数がいて、大晦日のうちに神社なんかに行く酔狂な人間は俺とコイツくらいらしい。
爺様方は一時頃になってやいやい騒ぎながら来るのだろう。
「……の?」
145:年の差。
08/02/10 14:14:20 7yKm9kw6
誰も歩いていない、人家すらまばらな田舎道を車窓より眺める。
……雪が降り始めている。朝まで降り続けるような勢いでの雪だ。
溜息を吐いて、……白く曇ったのでコートの袖で拭いて、どこを見るでもなく外を眺め続ける。
「……うの?」
シャクなことに、秋菜に感謝しなければならないらしい。
三十分も―帰りも考えると、一時間以上になるか―歩いていたら、流石に凍えるだろう。こんなところで行き倒れになるほど恥ずかしい事もなさそうだ。
「……春巻」
「うぁいたたたたたた痛い離せなにしやぁがる!」
つねられた右腕を左肩の位置まで一気に持っていき、秋菜に抗議する。
……感謝なんてするものか。絶対に。
「だから、何願うの、って聞いてるでしょう」
「どうでもいいだろうが」
「気になるでしょう、教えなさい」
「……大学合格だよ、あそこの神社が学業の神さま奉ってるかどうかは知らんが」
「本当のことを言いなさい。推薦でもう受かってるっていうのは知ってる」
そうじゃなきゃ、受験生がこんなところに来る筈ない―と秋菜は続ける。
……いやあ、俺は明日のためなら三日くらい無駄にしたって構わないが。その辺までは、秋菜でも分からないらしい。
「……目的は特にない。来年が不安だから、神さまに祈っておくくらいしたっていいだろ」
「そう。……大学と言っても、周囲は大して変わらないわよ。たまに定年後のおじさんとかいるけど」
「いや、環境は変わるだろ」
「……そうね」
秋菜はそう言って、目を細くした。
正面は、ヘッドライトに雪が照らされ、少し眩しい。
「……神社、か」
吐息に混じって、そんな呟きが聞こえた。
……神社。
ああ。そう言えば―と、トラウマを思い出しかけた瞬間、加速Gが来た。
「と、お前、待て! 若葉マークのクセにこの天気と路面で速度出すな馬鹿! 夏に取ったばかりなんだろ免許!?」
「黙ってなさい。放り出すわよ」
「馬鹿馬鹿大馬鹿止めろド馬鹿何不機嫌になってるんだってもしかして俺のせいか俺何もしてないよな今ァ!?」
「さっき反論したじゃない」
「そんなことでか!?」
「うるさいわね。電柱に突っ込むけどいい?」
「よくねェよ馬鹿! あ、いや、止めてください秋菜お姉様!」
「お姉様? 三十点ね。もうちょっと可愛くなってから言いなさい」
146:年の差。
08/02/10 14:14:44 7yKm9kw6
無理でしょうけど、と秋菜はアクセルを緩める。
こ、コイツ憂さ晴らしに俺を恐がらせやがったのか……!
「……な、なんて性格の悪い……!」
「今度はボンネットに縛り付けて走るわよ?」
ごめんなさい、と適当に謝って、縮まったであろう寿命を想う。
……新手だ。新手の恐怖だ。車という新たな凶器を手にした秋菜に抗う術を俺は持たないようだ。
怜悧な色を浮かべ続ける横顔は、雪に照らされ一層白い。
……その唇が、ゆっくりと開いた。
放つのは一音だ。
「……あ」
「あん?」
「行き過ぎた」
……ため息を吐いて、
「ボーっとしてるんじゃ―」
急ブレーキッ。
「ぐぇえっ」
「ボーっとしてないでね」
……くすくすと笑う声がする。
あー、と深く深くため息を吐いて、性格わりィ、と呟いた。
「何? もう一回やって欲しいの?」
「あーあー、止めといてください。今度はスピンターンになっちまうだろうしな」
その後は間違いなく雪の深く積もった畑に車ごとダイヴ。場合によっては逆さになって。そんなのは流石にゴメンだ。
「……それもそうね」
納得したように超絶馬鹿は言い、道のど真ん中でUターンをしはじめる。
路面は、真ん中だけ盛り上がった圧雪アイスバーンだ。若葉マークがあと三ヶ月はとれそうにない秋菜は苦戦し、……と言うか、まあ、明らかに試験は奇跡で通ったと分かる技能でなんとかかんとか神社に向かう。
「……酒飲んでても、じーさんがたに送ってもらえばよかったぜ……」
「捕まるわよ」
「いいだろ、そうすりゃ三が日騒ぎっぱなしだなんて馬鹿もしなくなる」
「…………ふぅん」
何か無駄に色々と考えてしまうような間があって、秋菜は言う。
147:年の差。
08/02/10 14:15:13 7yKm9kw6
「でも、……懐かしい場所よね」
「ん? まあ、こっち自体俺には懐かしいが、……まあ、そうだな」
「……今年のお盆も来るつもり?」
「わからん。大学入ったらバイト始めるつもりだしな」
金も欲しいし、と言うと、秋菜がクスリと笑った。
「いいバイト紹介してあげようか?」
悪戯っぽい笑みだ。
……トラウマのニオイがする。
「夏休みの間中、私のペット」
……声音が冗談じゃないです、秋菜おねーさま。
「あ、えーと。ほら。神社見えてきたぞ神社」
月明りが木々に遮られた暗闇の中。境内で熾る焚き火に照らされた鳥居が見える。雪の積もった、巨大な鳥居だ。
寂れた小さな神社だが、焚き火の近くにいくらか人影が見えた。
「ああ、本当。―遠かったわね。心情的に」
「遠かったな、心情的に」
秋菜はスピードを緩め、脇にある駐車場へと車を向かわせる。
流石に小走り程度の速度では危なっかしいところもなく、……と思っていたら駐車が思いっきり斜めだった。
「……盆までには練習しとけよ」
「もちろん」
厳然―そう言い放ち、秋菜はシートベルトを外した。
秋菜は灰皿に手を伸ばしつつ、問いを送ってくる。
「お賽銭持ってきた?」
「当たり前だ」
灰皿の中には、小銭が入っていた。タバコは吸わないらしい、と知り、少し安心する。
そう、と秋菜は小銭を取り出し、ドアを開け放つ。
寒風。吹き込むそれは、体外と外界、境界を示すように感覚を送ってくる。
「寒いな」
「そうね」
俺も秋菜に倣い、車外へと出る。
当然、息は白い。露出する手と顔が、一気に熱を失っていく。
「おおお、マジ寒……」
ポケットに手を突っ込み、ザクザクと雪を踏みしめ、先を行く秋菜を追う。
148:年の差。
08/02/10 14:16:05 7yKm9kw6
/
……いよいよ神社が近い。
秋菜の後姿は、颯爽としたものだ。
揺らめく火に輪郭が照らされ、……ひどく、まぶしい。
「―ああ」
そのまぶしさに、俺は―憧れていたのかもしれない。
たった一年の年の差で、こんなにも遠いから。
「……負けてるんだなぁ」
まあ、と思考に前置きをする。だから、勝ちたいんだが、と。
「春巻」
……外気を凌駕する低温の声が、鼓膜を振動させる。
「……何、願うの?」
「さっき言っただろ? 来年の事だ」
「……そう」
秋菜は、速度を緩めない。振り向きもしないし、足取りに迷いもない。
「分かった―」
宣言は氷。
溶けぬ意志で、彼女は言い切る。
「―私も、……ううん。私は、アンタの幸せを願うコトにする」
……木々のざわめきに消えるような声だ。
だがその声は、耳腔に残り続ける。
心臓が重い。肺腑に侵入する寒風が、思考すら凍りつかせていくようだ。
秋菜の背中は変わらず、ブレることなく、神社へと―先へと進み続けている。
……何を、と思う。何を迷おうとしている、と。
実感する。―秋菜は、変わった。
常識を得たからとか、大人になったからとか、そことは違う部分で、だ。
だが、変わっていないのは、―変わっていないように見せているのは何故なのか―。
その結論を出さず、俺は境内へと踏み入る。
時刻は十一時四十三分。
迷いを振り切るには―短すぎる、時間だった。
149:年の差。
08/02/10 14:16:34 7yKm9kw6
新年の瞬間、と言うものを自覚した事はない。
だが、その節目と言うものはある。
携帯電話のデジタル時計が、無味乾燥にゼロを並べる。
「新年―か」
「あけましておめでとう、春巻」
思うのは、どう振舞うのか、という迷いだ。
……俺は、秋菜をどうしたいのか。どうすればいいのだろうか。
答えを出しておくべきだった。
漠然と、なるようになる、と思っていた。
だが、こうして俺は迷いを得たままで――その瞬間を迎えた。
「―ああ。あけまして、おめでとう」
機械的に挨拶を返して、賽銭箱の前に立つ。
焚き火にあたる人達は甘酒を持ちながらの談笑が忙しいらしく、参拝に来る様子はない。
綱が無遠慮に握られ、僅かに鈴が鳴る。
「……願いは決めた?」
顔を見せぬ確認に、俺は無言を返した。
「……そう」
初速よく、腕が振られた。
がらん、と大きく鈴が鳴る。二度、三度と鳴らして、秋菜は賽銭を投げ入れた。
ゆっくりと、手を合わせるような拍。僅かに頭を垂れ、息を止める。
合わせ、俺も賽銭を投げ入れた。
そのまま手を合わせ、……迷った。何を願うべきなのか、と。
「……ん」
秋菜が顔を上げ、目線を送ってくる。
……あの。俺、まだなにも願ってないんですけど。
「帰ろう、春巻」
寒いし、と、有無を問わず秋菜は歩き出す。
……秋菜は、何を思ってあの願いを口にしたのか。
疑問は解決しない。しこりを感じつつ、俺は立ち止まる。
雑音は多い。しかし、彼女はその停止を感じ取り振り返った。
150:年の差。
08/02/10 14:17:34 7yKm9kw6
「……春巻?」
―目が合った。
振り返った秋菜の視線は、蒼く光るようだ。
凍結する空気は、その目線に及ばない。
……俺の瞳は、濁ってしまっただろうか。
秋菜のそれは、昔より鋭く、強く光っている。
「秋菜」
「なに」
短い言葉の応酬。
焚き火に照らされ、蒼い瞳が揺らめいている。
「俺は歩いて帰る」
周囲の音は消え去り、代わりに静寂が聞こえた。
足元からは雪の音が。口元からは息の音が。体内からは心臓の音が。
秋菜は息も吐かず、俺の目だけを見続けている。
「……そう」
頷き、秋菜は眼を閉じた。
そう、と彼女はもう一度言う。
「分かった」
なら、もう用は無い―とばかりに、鳥居へと歩き去る。
……立ち止まらない。
秋菜は、最後までそのまぶしさを減衰させなかった。
「……ああ、くそ」
最悪に惨めだ。
ほう、とため息を吐き、走り去る秋菜の車を見送る。
―加速していく。彼女は、真っ直ぐに走り続ける。
151:名無しさん@ピンキー
08/02/10 14:18:18 7yKm9kw6
投下終了。
ネタ出したのはクリスマスで……ここまで書くのに二ヵ月かかったんだぜ……
152:名無しさん@ピンキー
08/02/10 14:30:17 nzfmrmar
>>163
そんながんばり屋さんな君を私が褒めないわけないだろう?
153:名無しさん@ピンキー
08/02/10 15:03:03 vHuR0IVh
>>163
当然ゴールまではそのままの頑張りやさんでいてくれるよな?
154:名無しさん@ピンキー
08/02/10 20:06:18 vHuR0IVh
なんというがんばり屋さん・・・
一目見ただけで13レスあるとわかってしまった
と、ふざけるのはこれぐらいにして、おれなんて去年中に思いついて全く書いていない
下には下がいると言うことで安心して続きを書いてくれ
155:名無しさん@ピンキー
08/02/10 20:26:45 wuwp7t4/
思いついた時に書かないと、後で面倒になる法則
156:名無しさん@ピンキー
08/02/10 23:15:35 D/QiloTi
つ、続きが気になる…!
157:名無しさん@ピンキー
08/02/10 23:29:39 FAQCI7+W
なかなかやるじゃないか……
わ、wktkなどしておらぬぞ!
158:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:07:30 1E2f64k3
誰もいないよな……
1210より>>115-122の続きを投下するぜ
159:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:09:48 1E2f64k3
そして、家に帰ってきた俺とみー。みーが我先に門開けカギ開け扉開け、先に家に入り、靴を脱いで……
振り向いた瞬間に俺は言った。
「次にみーは『おかえりなさいのちゅー』と言う」
「おかえりなさいのちゅー……あっ!」
「パターンだな」
俺が冷淡に事実を告げると、みーはむくれた。
「だって……したいもん。好きなんだもん。」
「悪い悪い。あんまり予想通りなもんだから、つい」
「ゆーちゃんのばーか」
みーは言って、目を閉じた。俺はゆっくりと一歩近付いて、みーの後頭部に右手を回し、口付けた。
ちょっと湿った唇。ん、という声。呼吸音。なんだか凄く気持ちが昂る。みーがキスが好きな気持ちが少しわかる。
たっぷり五秒ほど経ってから離す。
「ゆーちゃんの……ばか」
「笑いながら言うなよ。説得力ねーぞ」
「えー、無理だよー。それに、ゆーちゃんも笑ってるよ、顔」
「な、なにっ! いつの間に!?」
思わず両手で顔を挟む。なんたる不覚。いつの間にかみーのペースに乗せられていた!
「ほーら、まだお昼まで早いから、その荷物冷蔵庫に入れて、あたしの部屋行こうよ。見せたいものがあるの」
160:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:11:49 1E2f64k3
くそっ、これだから幼馴染って奴は。油断もスキもならん。でも、みーが俺に対して「ばか」って言う時の
笑顔。いつも、その、なんだ……可愛いんだよなぁ―っておい! 俺は何を考えてるんだ!? 俺って
実はマゾなのか!? いやだ! そんなのいやだぁぁぁ!!! うぎゃー!
玄関に階段上からみーの急かす声が響くまで俺は悶えていた。
冷蔵庫に買って来た物を入れて、みーの部屋へ。なんだかよくわからないが見せたい物があるらしい。
「みー、入るぞー」
声をかけてノック、入る。一般的な女の子の部屋。それがみーの部屋だ。(といっても、他の女の部屋
なんて入ったこと無いが)ぬいぐるみがちょっと多いか?とは思うけど。
「ゆーちゃん、ほらこれ」
部屋の中心に座ってるみーが緑の装丁のやたらぶあつい本を見せた。
「ん、アルバムか」
「うん、ずーっと、どこ行ったんだろうと思ってたらこの前、掃除した時に見付かったの」
「どれどれ」
みーの横に座って、アルバムを開く。
「まずは赤ん坊の頃からか……」
写真にはサルのような顔をした赤ん坊が二人並んでいる。
「もうこの頃から一緒だったんだねー」
161:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:12:24 DbYaglmt
いよっしゃあああ!!!!11!
かかってこいいいん!!!!
162:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:13:32 1E2f64k3
「この歳まで縁が続くのも凄いよな、良く考えたら」
「ねー」
次をめくると、ビニールプールで遊んでいる俺とみーの写真が目に留まった。2,3歳ってとこか? ただ、みーが……
「すっぱだかだな」
「いーやー!」
「……別にガキの時分なんて二人全裸で風呂入ったりしたろうが。何を今更」
「忘れて! 今すぐ忘れて!!」
「わかったわかった。3.2.1ポカン! ほら忘れた」
「ホントにぃ~?」
「ホントホント」
今でも結構覚えてるけど、ややこしくなるから言わないでおこう。次のページ。
「幼稚園の入園式か。もうこの辺から……」
多分幼稚園の門の前で、にゅうえんしきと書かれた看板の前に俺とみーが並んでいる。既にみーが俺にキスを
していた。(頬だが)
「思い出した。この時くらいからみーが俺にところかまわずキスしまくりやがって、友達とかからすげぇ冷やかされた
んだった」
「え、えっと……そうだったかな~? 覚えてないなー」
こいつ、覚えてるな。まぁ、いいや。次。
163:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:15:32 1E2f64k3
「幼稚園の年長の……あれ、これなんだっけ」
「ああ、こりゃお泊り保育とか言って、幼稚園に泊まった時のやつだろ。この時もみーが悶着起こしたんだよな、
主に俺に」
「ど、どんな?」
「確かな、この時、俺とみーは違う組で寝る場所も違うはずだったんだけど、お前が夜になってから『パパとママが
いない』つって泣き出して、偶然通りかかった俺が必死になだめて、泣き止ましても、俺が自分の組に戻ろうとしたら
今度は『ゆーちゃんが一緒じゃなきゃやだー!』って泣き出すもんだから仕方なく、俺がみーと一緒の場所で寝―
ってどした」
みーが顔を赤くして俯いてる。
「うう、すごく恥ずかしいよ……」
まぁ、この類の思い出の在庫はまだあるのだが勘弁しといてやろう。みーが早く忘れたいのかページをめくった。
「小学校の入学式かな?」
「だろうなぁ」
この辺は別に大した思い出があるわけでもないが、ところどころの写真で思いでを語りつつ、みーがぺらぺらと
ページをめくり、小学四年のところで手が止まった。あー、これなんだっけ。なんか山みたいなとこでって……やばい!
慌ててページをめくろうとして、みーにその腕を掴まれた。
「ゆーちゃん、この時のこと覚えてる?」
にっこり、とみーが笑う。ただし目は全然笑ってない。こ、このプレッシャーは……!
164:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:17:48 1E2f64k3
「い、いや、何かわからん。さっぱり忘れちまったなぁ!」
「そ、じゃー思い出させてあげる。小学四年の時、この林間学習でゆーちゃんは女子のお風呂をのぞこうとして―」
「アーアー! 聞こえなーい!!」
「ゆーちゃん、現実と戦わなきゃダメだよー」
だって、生涯の痛恨事なんだよー、今まで忘れてたのによー、畜生。昔の俺は坊や過ぎるだろ、いくら他の奴の案に
のっかったからといって!
「他の奴が俺をおいてきぼりにしただけで、別に俺の単独犯じゃ……」
「あたしが庇ってあげたから助かったんだよね~」
「うっ、ぐっ。わ、わかった。その時の借りの代償として、俺がなんでもしてやる」
「……ホント?」
「う、うむ。でも限度はあるぞ」
「その借りキープしてもいい?」
「構わん」
「そっかー……そっか。何か考えとこー、っと」
大丈夫か俺。こんな口約束して。みーなら大丈夫……だよな? 猛烈に悪い予感もするけど……仕方ねぇ。
「あ、もうこんな時間」
みーの声で時計を見た。既に十一時半だった。ノーガードの殴り合いをしていると時間は経つのが早い。
「じゃあ、昼飯作るかぁ」
165:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:19:48 1E2f64k3
みーの声で時計を見た。既に十一時半だった。ノーガードの殴り合いをしていると時間は経つのが早い。
「じゃあ、昼飯作るかぁ」
ようやく安堵を得た俺。階段を下りて二人して台所へ。
さて、焼飯か
「みー、玉葱と人参のみじん切り頼む」
「うん」
とんとんとん、というリズミカルな音が台所に響きだした。その間にさっき冷凍庫から出しておいた一膳ずつ
ラップに包んであるご飯を、ザルに開けて水で洗って置いておく。ボールに卵を割って、かきまぜておいて、と。
フライパンを一応洗って、火にかけて水気を飛ばして……
「みー、切れたか?……ってうわ! 泣いてるし!」
「うう、玉葱が目にしみるよー…ぐすっ。はい、切れたよ……」
「あ、ああ。ありがとう」
さて、気を取り直して、フライパンに油を引いて玉葱を炒める。色が変わってちょっとホントに軽く焦げ目が出るまで炒める……うむ、玉葱の良い匂いがしてきた。
「みー、人参」
「はい」
同じとこに人参も入れて、適当に炒める。火が通ったと思ったら皿に戻して……
「後豚肉とネギも切っておいてくれ」
「りょうかーい」
166:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:21:53 1E2f64k3
よし、ここからが本番だ。スピードが勝負。木べらを持って、まず一気にとき卵を入れる! で、数秒して
すぐにご飯! 木べらで切る様に混ぜて混ぜてフライパンを返して、とにかく卵が焦げ付かないように。玉葱と
人参を入れて皿に炒める。次に豚肉。流石に長年の付き合いだけあってみーとは阿吽の呼吸だ。肉と玉葱と
ご飯の重く良い匂いが部屋に広がっていく。肉に火が通ったら塩胡椒で味付けして……こんなもんか?
用意しておいた小さ目のスプーンでちょっとすくって、と。
「みー、あーん」
無言でみーがぱくり。頷く。
最後にレタスを適当な大きさにちぎって入れて火を止める。
「ゆーちゃん、お皿出しといたよー」
「おう」
食卓の上に出ている二枚の大振の皿に1:1.5の割合で盛り付けてネギを散らして完成! 水を二つ分入れて―
あ、それとこの匂いは。
「はい、わかめスープ。インスタントだけど」
「お、いいじゃないか。食おう食おう」
二人向かい合って座って、手を合わせて。
「いただきます」
「いただきまーす」
まず一口。
「うん、上等上等」
「おいし」
167:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:23:54 1E2f64k3
玉葱とレタスがしゃきしゃきして、人参も歯ごたえが残り、豚肉は旨みを出し、卵はきっちりご飯を覆ってパラパラだ。
やっぱ焼き飯は簡単にできる割には旨いのがいいよな。今回はともかく、冷蔵庫の掃除的な意味でも作れるし……
腹が減ってたのもあって俺は結構な勢いで食べる。みーと色々話ながらも、十分もかからず完食。
「ごちそうさま」
「ゆーちゃん、もっと味わって食べなよ」
「腹へってたからな、仕方ないだろ」
「もう」
みーは別に食べるのは遅いほうではない。人並だ。まぁ、女の子だしな。あんまり早すぎるのもアレだが。よし、
試しにみーの食べる姿を観察してみよう。
ふーむ、一度に食べる量が少ないなぁ。口の大きさがそもそも大きくないしな。女の子だしな、うん。
「ゆーちゃん、じーっと見てなに?」
「ん、ああ、気にするな。食え食え」
「気になるよー……」
困り顔のみー。ちょっと躊躇してまた食べる。しばらくして、少し残して手が止まった。
「うー……お腹いっぱい」
「む、入れすぎたかな? じゃ、その残ったの食べるわ」
「うん、ごめんね……はい、あーん」
168:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:25:54 1E2f64k3
良いって、仕方ないだろ」
言いつつ、みーがスプーンで差し出した焼飯を頬張る。繰り返し。
「ふう、腹いっぱいだ。もう食えない」
最後の二口……あれが効いたな。
「あ、ゆーちゃん変なとこにご飯粒付けてるー」
「何、どこだ?」
顔をまさぐるが、それらしき物に手が当たらない。
「こーこ」
みーの手が俺の顔に伸びて、目元に。そこか。
その取った米粒を、ぱくりと食べるみー。
「全く、そんなん捨てりゃいいのに。ばっちいだろ?」
「三秒ルールだよー」
「いや、どう考えても三秒以上経ってるだろ」
「あたし基準」
「全然意味がわからん」
何が楽しいのかみーが微笑む。……と、いかんいかん、何を和んでるんだ俺は。
「とりえあず、後片付けしようぜ」
二人分の皿を重ねて取り、コップを片手に二つ持つ。
「あたしお皿洗おうか?」
169:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:28:22 1E2f64k3
「いや、良い良い。俺が洗っていくから拭いていってくれ。別に大した量もないしな」
「おっけー」
果たして、食器洗いはすぐに終わった。拭いて収納してお終い。ま、ちょっと食休み。のんびりいこう。
横のソファーに座る。
あ~昼に腹いっぱい食ってだらだらできるなんて俺はなんて幸せ者なんだ…… なーんて思ってるとみーも
ソファーに座る。ただし、俺の股の間に。ソファーでなく、俺にもたれかかるみー。
「あー、そこの娘さん何してるのかね」
「ゆーちゃんいすー」
「おりろ、問答無用で降りろ」
「いいじゃーん。さっきの借りでひとつ」
「ぐぬ……くそ、今回だけだぞ」
「さっすが、ゆーちゃん。太っ腹」
畜生、このアマ何言ってやがる。そのままみーは嬉しそうに体を俺に擦り付ける。気持ちよくなんて無いぞ。くれぐれも
断っておくが!
いや、待てよ。逆に考えるんだ。『今は復讐の機会』と考えるんだ。すばらしいじゃないか。そう考えた途端、
いたずら心がむくむくと―ふへへ、さて何をしてやろうか。そうだ、思い付いた。
とりあえず、逃げれないようにして、っと。そう考えた俺は右腕をひょいと上げて、みーの首に回した。
気付いたみーが首だけを捻って俺を見ようとする。
「んっ、ゆーちゃん、何?」
170:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:29:58 1E2f64k3
「かかったなアホめ! くらえっ」
ぎゅーっと両腕で抱き締めてやった。
「ひゃぁっ! ゆ、ゆーちゃん!?」
更に俺の頬をみーの頬にくっつけてやる。
「え、え、え……!?」
混乱してるみー。頬から熱が伝わってくる。へっへ、みーはこっちから行動を起こすと馬鹿みたいに照れる
んだよな。更に頬擦りまでしてやる! どうだぁ!
「やぁ、ゆーちゃん、離して……!」
今度は頬と言わず、俺とみーが触れてる部分の全てが熱を持ってきた。ふっ、今日はこれぐらいにしといてやるか。
いさぎよく両腕も頬も開放してやった。
「どうだ、思い知ったか。みー、これに懲りたら俺をからかうのは―」
「ゆーちゃんの……ばかぁっ!」
「うぼぉっ!」
傍にあったクッションで振り向きざまに顔をはたかれた。そのままぼふっぼふっと一方的に殴られる。
「最低! バカ! 信じらんない! 変態! スケベ!」
「スケベとか変態なんて思われることはしてねぇ!」
「物凄くされたぁっ! ゆーちゃんのごーかんま!」
「うげぇっ!」
クッションで頭に横薙ぎ一閃。痛みは全く無いが衝撃は凄い。
171:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:30:40 1E2f64k3
「ふんだ、ゆーちゃんのばか!」
そのまま勢い良くリビングを去っていくみー。どかどかどか、という足音が上に昇って行った。
俺はソファーに寝転びながら思った。
あれでスケベとか変態とか……どんなだよ……がくっ。
172:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:32:17 1E2f64k3
投下終了。
……長くてすいませんとしか言えないんだぜ。
どうしてもここまでやっておきたかったんだ。
とりあえず、これでやっと午前中終了。
ところで、そろそろタイトルを決めるべきだろうか?
173:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:34:19 nhB5KfhN
リアル投下ktkr
>>143も>>163も>>184も、超GJ。
一気に読めた俺はどうやらかなり幸せ者らしい。
いやね、決してここ最近仕事が忙しくて家に帰ったら死んでたことに対する悲しみとかじゃなくてだね。
タイトルは【みー×ゆー】とかそんなのでもいいから決めておくと色々便利だと思う。
174:名無しさん@ピンキー
08/02/11 00:37:32 Qtlwu0QQ
>>184
何という幼なじみ
「あーん」とか、「おべんとを食べる」とか素でやるなんて……
前半の思い出しもいい感じね。これで何故付き合ってn(ry
タイトルなぁ。オレは氏の好きなようにしたらいいと思うぞ
ま、あるほうが判別はしやすいが
175:名無しさん@ピンキー
08/02/11 01:08:30 oHgklP3G
幼馴染みを描くには思い出の共有がミソなのだな。GJ!!
176:173
08/02/11 01:41:17 DbYaglmt
ごめんね
いくら誤爆だからってタイミング悪すぎたね
練炭焚いてくるよorz
177:名無しさん@ピンキー
08/02/11 01:57:41 2EGAeQls
>>184
なんといういちゃつきぶり
俺は…夢でもみているようだ……
178:名無しさん@ピンキー
08/02/11 01:58:20 mvLKPy2q
>>188
練炭など必要ない
君の刑罰は妄想を投下する事だ
179:名無しさん@ピンキー
08/02/11 05:20:26 7fHl2qu3
>>184あなたの作品を読む度に気が狂いそうなほどほのぼのして癒される。たまらんねぇこれは。
またの投下を待ってます。超GJ!!
後タイトルだけど、贅沢を言わせてもらうなら、つけていただけると嬉しい。
180:名無しさん@ピンキー
08/02/11 10:35:55 1E2f64k3
話は聞かせて貰った! タイトルを決定する!
いつもいつもレス感謝。ちなみにこれまでタイトルが無かった理由は
そもそも一話完結形式でいつでも放り出せるようにしてたからで。
ここまでこれたのは皆のレスのおかげなんだぜ。
とゆうわけでタイトルは>>185をの提案を変形させて
『You is me』
でいこうと思うのでこれからもよろしく
181:名無しさん@ピンキー
08/02/11 11:34:03 mQCXyMm8
2ch的にタイトルを略すと湯泉になると予想
182:名無しさん@ピンキー
08/02/11 12:30:55 mvLKPy2q
>>193
ゆ、いずみ……じわじわ来るw
183:名無しさん@ピンキー
08/02/11 21:47:11 xrUN3Jv2
「恋人になっても、他人になっても、ずっと友達だよ」って
いいなぁ
184:名無しさん@ピンキー
08/02/12 00:11:55 M88jlCa/
>>195
俺にはそれが幼馴染の血を吐くような言葉に聞こえるんだぜ…
個人的には幼馴染は友達とか他人ではなく、やっぱり幼馴染なんだよな。
他では代えが効かない感じ。
185:名無しさん@ピンキー
08/02/12 03:31:31 aQ1r/o7y
186:名無しさん@ピンキー
08/02/12 09:53:51 M88jlCa/
夜中に書いた物を朝になって見直すと
とんでもないものを書き上げてる件
187:名無しさん@ピンキー
08/02/12 11:31:00 HePDJR3o
>>198
さあ、投下するんだ!
188:名無しさん@ピンキー
08/02/12 12:19:39 0/ELYgDj
>>198
誰もが通る道
189:名無しさん@ピンキー
08/02/12 17:40:27 w0W41vCm
これは?携帯だけだけど
URLリンク(courseagain.com)
190:名無しさん@ピンキー
08/02/12 21:04:01 Bqcxi0fF
191:名無しさん@ピンキー
08/02/12 21:11:39 Bqcxi0fF
ミスった。
>>198
つい最近同じことやった
192:温泉
08/02/12 22:47:09 M88jlCa/
よ、よし、せっかくなので修正せずに……やぁぁぁってやるぜ!
誰もいないようなら三分後から投下
193:You is me
08/02/12 22:50:13 M88jlCa/
>>183からの続き。
あたしは自分の部屋で緊張していた。さっきのいきなりゆーちゃんに抱き締められて緊張したのもあるけど、
それだけじゃない。
目の前には女性ファッション誌。最新号ではない。結構前の号だ。
中身を確認して、うんと頷いて部屋を出る。階段を下りてまたリビングへ。ゆーちゃんはさっきまでと同じくソファー
にいた。
今度は大人しく横に座る。
「あのね、ゆーちゃん」
ゆーちゃんがあたしをもう機嫌直ったのかみたいな目で見る。緊張してるからそれに応じる余裕はないけど。
声が震えそう。どきどきしてる。
「ちゅー、しよ?」
「なんだよ、かしこまって。みーなら確認せずに不意打ちでするだろ、いつも」
「う、うん、そうなんだけど……そうなんだけど。今回はその、ちょっとね……」
「なんだ、歯切れ悪いな」
あたしは勇気を出して言った。
「舌……で」
静寂。空気が固まる。凝固。ゆーちゃんの表情がびしりと固まった。
194:You is me
08/02/12 22:53:01 M88jlCa/
「えーと、俺の認識が間違っていなければ、ディープキスをしてくれ、と言うように聞こえたが」
「そ、そうだよ。……して、ほしい」
「ま、まぁ、うん、やる分には良いが」
ゆーちゃんが顎を右手で擦りながら言う。
「ずっと前に、一回やろうとして、みーが恥ずかしがって逃げ出してからやってないだろ、大丈夫か?」
「恥ずかしいけど、でも……ゆーちゃんとしてみたい」
言った。言っちゃった。心臓がどくどく言う。多分顔は真っ赤。あたしより少し高めの位置のゆーちゃんの顔を、
目を、見つめる。ゆーちゃんは解った、というように小さく頷いた。あたしから、見上げれば顔が触れ合うような
距離まで近付いた。こぶしふたつ分くらいの間を空けて、互いの顔が向かい合った
とくん、とくん、とくん、と胸の内から響く音。目を閉じた。何故か背筋がぴりぴりする……触れ合った。
どっちが先に動いたかはわからない。唇が開いて、互いの舌が触れた。
「……っ! ふ、ん、んん……」
触れた瞬間、電撃の様な感覚が全身に突き刺さる。
う、あ、ゆーちゃんの舌、ざらざらしてる……。
ぴちゃ、と水音が聞こえた。お互いの鼻息の音も聞こえる。
「ふぅ、ん、は……ん、ぅぅっ!?」
突然、ゆーちゃんの舌の動きが変化した。あたしの舌を一気に押し込んで、口内に。
「ゆーひゃ、ん、ひゃめ、んぐっ!」
195:You is me
08/02/12 22:55:07 M88jlCa/
ぐちゃぐちゃという粘着質の音。ゆーちゃんの舌があたしの舌を一方的にねぶる。かきまぜる。歯茎を
さっとなぞり、更にあたしの舌が舌でつつまれる。
絶え間なく、ぞく、ぞく、ぞく、と寒気が走り抜ける。頭にもやみたいなものがかかって……体も細かく反応して動く。
「ゆー、ひゃ……ゃ、ん、ん、ぅ、やぁん……」
あ、あ、はぁぁ……きもち、いい……すごい、よぉ……っ!
口内につばが溜まる。それをこくり、と飲み干した。
ゆーちゃんの、つば……
体が震える。抵抗できない。
唇が離れた。力なく瞳を開けると、つぅ、と唇の間に橋ができて曲線を描いて落ちて行った。口の周りも唾液で
ぐちゃぐちゃになっている。
あ、だめ、ちからが……はいらない。ながされ、ちゃ、う……。
「お、おい。みー大丈夫か?」
声に応じれない。まだ体がぴくぴく動いてる。や、ん……ちゅー、って、こんなに……すごい……。体を思わず動かした、その時。
ちゅく、という粘っこい水音がした。
「!!」
一気に意識が覚醒した。あ、あ、あ、そんな、うそ……!
「ちょ、ちょっと、その……そ、そうだ! 二階の窓開けっ放しだったから閉めてくる!」
「お、おい!」
196:You is me
08/02/12 22:58:01 M88jlCa/
ゆーちゃんの声を無視してあたしは居間を駆け去って、階段を自分でもどうやったかわらないぐらい早く
昇り、部屋のドアを音を立てて閉めて、そのドアにもたれかかった。
おそるおそるスカートの裾を持ち上げて……。
「う、わぁ、やっぱり」
それ以上は言葉に出さずに心の中で呟いた。うう、これじゃゆーちゃんの事が変態とかスケベなんて
言えないよー……ゆーちゃんは気付いてない、よ、ね?
心臓が破裂しそうな程に波打つ。もしも、気付かれてたら、もしも、もしも―
あたしはそのちょっとキスをされただけで酷い有様になってしまった物を脱ぎ捨て、新しい物を取り出した。
スカートにしみなくて良かった、なんて思考が情けない。手が惨めなほどに震える。
これは後でこっそり洗濯……部屋においておけば大丈夫だよね。よっし、平常心。平常心でゆーちゃんのとこに
行かなきゃ……何食わぬ顔で、うん。
部屋を出て、階段を降りて、リビングへ入って。
「あー、ゆーちゃん、ごめんねー、どこも開いてなかったよー」
少し棒読み気味になった……けど、押し切らなきゃ!
「お、おう。そうか」
「うん、勘違いでー」
そこまで言って、ゆーちゃんが座っているソファーの、さっきまであたしが座っていた場所に、大きいシミが
出来ていることに気付いた。
うそ……
197:You is me
08/02/12 23:00:29 M88jlCa/
思わず硬直。そーっとゆーちゃんの顔を確認すると、ゆーちゃんは後頭部を掻きながら顔を少し赤くして言った。
「いや、その……個人差はあるし……別にいいんじゃないか」
頭の中になんかよくわからない大爆発の画像。
「ま、まぁ! 気にするなよ! 俺は気にしないし、ほら!」
「ゆ」
「ゆ?」
「ゆーちゃんの……ゆーちゃんの! ばかー!!」
思い切り大声で叫ぶ。ゆーちゃんが耳を押さえてうずくまった。
「お、おま、声がでかすぎ……」
「ゆーちゃんのばか! ゆーちゃんのばか! ばか! ばか! ばかぁっ!!」
「やめんか、近所迷惑だ!」
「ゆーちゃんが悪いんじゃない! 言わないでよぉ……うう……ぐすっ、ひぐっ、ゆーちゃんのばかぁ」
「あああ、泣くな泣くな」
「ゆーちゃんのばか、ぐすっ、う、ひくっ、ゆーちゃんのばかぁ……」
「たく、ほれ、泣き止めよ。な、俺が悪かったから」
ゆーちゃんがあたしの頭を抱いて胸にうずめた。あたしはその胸を両手で叩く。もちろん……軽く。八つ当たり
なのはわかってるくせに、ゆーちゃんのせいにするあたしは本当に子供だ。
自分のあまりの情けなさにまた涙が出そうになる。
198:You is me
08/02/12 23:03:06 M88jlCa/
勢いに任せて、ゆーちゃんの胸板に顔を押し付ける。
「ゆーちゃんのばか……」
呟いて、黙り込む。とんがった気持ちがすっと落ち着いていく。抱き締められたくらいで気分が落ち着くなんて
……あたしっのほうがよっぽどばかだよ……っ
そっと距離を置いた。
「落ち着いたか?」
「う、うん」
「みー、悪かったな。デリカシーがなかった。すまん」
「違う、ゆーちゃんは別に、そんな、あたしが」
「いいんだよ、こうゆう時は男がこうで」
ゆーちゃんがあたしの頭をぽんぽん、と叩いた。
「さ、落ち着いたとこで、さっきみーが買った菓子でも食おうぜ。紅茶煎れてやるよ」
「あ……うん」
あたしは椅子について、ゆーちゃんは慣れた手並みでティーパックじゃない紅茶を煎れた。レモンが一切れ
浮かんでいる。お茶請けはさっきスーパーで買ったチョコチップクッキー。紅茶はすごくさわやかで、すっきりした。
「おいし……」
「ああ、今回はうまいこと煎れれたな」
笑顔でそう言うゆーちゃん。なんかその姿を見て、また涙が込み上げそうになってしまった。あたしはそれをぐっと
我慢して、懸命に口を動かした。
199:You is me
08/02/12 23:05:39 M88jlCa/
「ゆーちゃん、ありがとう」
ゆーちゃんは、ん、という顔をした後、笑顔で「おう」と返してくれた。
今度は涙は出なかった。でも、何だか、とても胸がぎゅっ、と締め付けられる感じがした。
なんだろう、この感じ……今までとは、違う。あたしは―
200:温泉
08/02/12 23:06:52 M88jlCa/
投下終了。夜中に書いたのを誤字修正だけで出したので
整合性も取れてないかも……
ま、まぁ、よろしくなんだぜ。
201:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:11:32 XxJWN797
>>212
おうGJ!! まぁそういうのは投下している内に慣れていくものさ! しかし濡れすぎて恥ずかしがるみーちゃん可愛いな!!
本番の時にはどうなってしまうのか、今から期待してるぜ!!
202:193
08/02/12 23:22:58 Bqcxi0fF
>湯泉
ふふっ さっそく あいことばをつかっているな。
そうやって ひとびとのこえに みみをかたむけるのだ。
……失礼しました。GJ!
203:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:24:50 mAo5SZnH
>>212
GJ!
一瞬失禁したかとオモタw
204:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:26:57 Bqcxi0fF
うおっ、気付いたらID末尾がfFだった……
205:名無しさん@ピンキー
08/02/12 23:27:58 lfr1JrL2
>>212
GJ!みーちゃんがかわいすぎるの
206:名無しさん@ピンキー
08/02/13 00:30:42 YKN5A7cs
>>212
GJすぎる。GJすぎる。
207:名無しさん@ピンキー
08/02/13 03:23:18 8K8oNbyy
ああもう筆早くて羨ましいなぁGJ!
208:名無しさん@ピンキー
08/02/13 03:44:51 G4WT54+n
>>212
いい仕事だ……!
にしてもこのスレは作品が沢山投下されてていいよなあ。
もう一つの常駐が過疎スレだからたまに恨めしくなるよ。
209:名無しさん@ピンキー
08/02/13 03:53:24 lZYhu3dP
>>212回を重ねる度に神になっていってる気がする。
普通の小説読んでもここまで興奮しないのに、僅か数レスでここまで気持ちが高ぶるとは・・・
この二人はこの後どんな関係になるのか、そんな事を考えながら続きを待ってます。
超GJ!
210:名無しさん@ピンキー
08/02/14 18:20:39 jM1FJ8Cb
>>212
あーもうお前らさっさと付き合え馬鹿野郎!
……と思うくらいGJだな、これは
甘くて死にそう
バレンタインネタを投下してみる
エロなし、つかあんまりラブラブしてない……
嫌な人は「幼馴染とチョコレート」をNGにしてね
では開始
211:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:21:14 jM1FJ8Cb
2月14日。
世間一般では「バレンタインデー」と呼ばれるこの日、
日本ではチョコレート業界の卑劣な策略によって、少数派の喜びの声と、それ以外の怨嗟の声が聞こえることになる、らしい 。
こういうふうに大げさなことを言っている俺も、少数派に入っていないことは間違いない。
一応何個かアテはあるのだが、それだってカウントに入れるかどうかは微妙……というか、普通は入れない部類の相手からである。
一つは母親からの分。こんなものをカウントに入れるのはせいぜい小学生までで、高二となった今ではむしろみじめな気分になる。
そしてもう一つ。こちらは一応、同い年の女の子からもらっているのだが、まさしく義理を果たしているといった感じだ。
何せ昔から隣に住んでいて、兄妹(姉弟ではないと思う、たぶん)のように育ってきた相手である。
親からもらうのと大した違いなどない。やはり、ありがたくない。
そういうわけで、普段はあまり気にしないけれど、この時期になれば俺だって寂しくなるし、世の不条理を嘆きたくなる。
誰か可愛い娘が俺にチョコをくれないかな、なんて、そんな下らないことを考えてみたりするのだ。
だがしかし、現実は厳しい。結局、俺は毎年その二個だけを一人寂しく口に入れることになるのだ。
だが今年は一味ちがった。いや、実は昔からそうだったのかもしれないけれど、それは今だからこそ思うこと。
とにかく、今年のバレンタインはいつもとちょっとちがったのさ。
212:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:21:49 jM1FJ8Cb
寒さも本格的になってきた冬の朝、登校した俺たちはいつものように靴箱を開ける。
と、見慣れた上履きの上に何やら紙が置いてあるのが目についた。
「……なんだこれ?」
手にとって確認する。どうやら便箋のようだ。しっかり封もしてある。
差出人の名前は……ない。
「ん、何それ」
隣から声がかかる。そちらを振り向くと、いつの間にかあいつが俺のそばまで来ていた。
「さぁ、何だろな。手紙みたいだけど」
手紙?と訝しげな表情を返してきたこいつの名前は葉山美貴(はやまみき)。俺の幼馴染だ。
まぁ、幼なじみってより腐れ縁って言ったほうがしっくりくる仲なのかもしれんが。
「で、誰から?」
「さぁ、名前がないからわからない」
しかし、このまま放っておくわけにもいくまい。何かしらの用事があるから手紙を入れたんだろうし。
美貴の視線を感じつつ、便箋を開封する。中には紙が入っていて、こう書いてあった。
『相澤悠斗様
入学したときからあなたのことをずっと見ていました。
あなたを見ているとドキドキして、あなたに声をかけられると胸がキュッとなってしまいます。
恥ずかしがり屋の私は、今までずっと遠くで見ることしかできませんでした。
でも、それもおしまいにしたい。弱気な私とはさよならをして、ちゃんとあなたに伝えたい。
放課後、裏庭の桜の木の下で待っています。』
……何だろうこれは。女の子の可愛らしい字でたどたどしく書かれているこの文面は、つまり。
「よかったじゃない、ラブレターでしょ、それ」
再び美貴の声。ただ、さっきの興味を表に出したのとは少しちがった声音だった。
「……え、あ、あぁ、そうだな」
あやふやな返事をしつつ美貴のほうを見る。
ドキッとした。怒っているわけじゃないようで、むしろ寂しそうな表情をしている。その顔の、何と切ないことか。
「そうか、あんたもそんな物をもらうようになったのね……」
何やら感慨深そうに呟く。失礼な。物珍しそうに言うな。確かに初めてだけど。
「で、どうするの?」
急に聞いてくる。いつもと同じ表情だけど、少しだけ違和感がある。何故だろうか。
「どうすると言われても。とりあえず会ってみないことにはなぁ」
差出人不明とは言え、さすがにすっぽかしては相手に失礼だろう。きちんと返事をするくらいはしないと。
「そう」
すると美貴は興味が失せたような声で相槌をうち、それから後ろへ向いて、
「じゃあ、今日は私、先帰るから。ちゃんと返事するのよ」
そんなことを言って先に行ってしまった。
遠ざかるポニーテールを眺めながら、俺の混乱した頭がようやく話に追い付いてきた。
今日は確かバレンタインだ。日本では男が女からチョコレートをもらう日。
そしてこの手紙。相手はたぶん、こっちに好意を持っている。
この二つから導き出される答え、それは。
……もしかして、俺にもついに春が来たんじゃなかろうか、ということだった。
今は冬だけど。
213:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:22:32 jM1FJ8Cb
「相澤、何だか機嫌良さそうじゃないか。何かあったか?」
昼休み。仲のいいクラスメイトに声をかけられた。そんなに浮かれて見えるのだろうか?慌ててごまかす。
「え、いや、何でもない」
さすがに「ラブレターをもらいました」なんてばか正直に答えたら、クラス総出でネタにされること間違いないし。
「ふぅん……。ま、いいけど」
ニヤニヤしながらそう返される。何だか腹が立つけれど、ここは我慢だ。ムキになったら負け。
「……お、何の話だ?」
そこに別の二人が寄ってきて、結局俺たちはいつもの四人で昼飯を食うことになった。
ちなみにメンバーの名前は佐藤、田原、東。この三人と俺は一緒に行動することが多いのだ。
四人で各々の昼食(弁当やパン)をぱくつきながら談笑するのが、お昼の俺たちの過ごし方。
「……で、お前らいくつもらった?」
今日のお題は、やっぱりバレンタインのチョコの話になるようだ。
「僕は三つ。部活の娘から」佐藤が答える。そういえば吹奏楽部は女子が多いよな。役得、ってやつだろうか。
「俺は一つ。恵から」田原が答える。彼は四人の中で唯一彼女がいる。ごくたまに惚気るからムカつく。
「くそ、うらやましいなお前ら……、オレは0だよ」東が悔しそうに言った。こいつは基本的に女の子と無縁なタイプ。一番飢えてもいるのだが。
さっき声をかけてきたのもこいつだ。
「で、相澤は?」
三人がそれぞれ成果を出しあって、必然的に視線はこちらにきてしまう。
ふと、先ほどの手紙を思い出したが、首を降る。今の成果だけ伝えることにしよう。
「俺も誰からももらってないよ。たぶん0個になると思う」
そういうと、佐藤と田原の二人が意外そうにこっちを伺ってきた。
「0ってことはないでしょ、だって彼女がいるじゃん」
「あぁ、葉山からはもらわないのか?」
そう言いつつ、二人の視線は女子のグループ……その中にいる美貴に向く。
自然、俺と東もそっちを見た。
214:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:22:54 jM1FJ8Cb
葉山美貴は、先ほども説明したが、俺の幼なじみである。
背は女子にしては高めだが、俺と大差はない。スラリとした体型は可愛いというよりカッコいいと表現したほうが似合う。
長い髪はまとめてポニーテールにしている。
中学時代は陸上部に所属していて、その時によくしていた髪型を高校に入ってからも続けているとのこと。
整った目鼻立ちで、大きくて、ちょっとつり目だからか、その顔つきは何となく猫を思わせる。眉は描いたりしているわけじゃないのに細い。
クラスでは明るくて行動的、責任感も強い委員長として、みんなから慕われている。
運動ができて成績も良いという、そこはかとなく完璧人間臭がするチートみたいな女だ。
だがこいつ、ことあるごとに俺に絡んでくるのが玉に瑕だ。
朝は毎度俺の睡眠を妨害しに来るし(母親は美貴をすぐ家に入れるのが困る)、
委員長が受け持つ雑用(主に力仕事)を手伝わされたのは一度や二度ではない。副委員長もいるのに、だ。
オマケに放課後も暇なときはなぜか帰る時間が俺とかち合うし、ひどい時には、俺が自分の部屋で満喫している至福の時間を邪魔して勉強までさせようとしてくる。
いつも絡んできて、正直うっとうしさ通り越して空気みたいに思えてきてしまった。
そしてこいつは毎年、当たり前のようにチョコを渡してくる。
さすがに衆人環視の中でそんなことはやらかさないが、もらうほうとしては気まずいことこの上ない。
正直勘弁してくれと、もらう度に思ってしまう。義理チョコなんてもらっても嬉しくないし。
……そういや、まだ今回はチョコもらってないな。さすがに飽きたか?
215:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:23:17 jM1FJ8Cb
そんな話はさておき。
……しかし佐藤に田原、未だにそういう勘違いしてるのかよ。それともからかってるのか?
「あのな。今一度言っておくが、俺とあいつは単なる腐れ縁で、付き合ってないから」
「でもたいがい一緒にいるじゃん。行き帰りとか」
「時間がたまたま合うだけだ。そうじゃないときも多いだろ?」
「休み時間は」
「ノート写させろって言ってるだけ。あいつ頭いいし」
「でもチョコくらいもらうだろ」あぁもう、あぁ言えばこう言う。うっとうしいことこの上ない。
「あのな、例えば母親からもらったチョコはカウントに入れるのか?俺にとってはそれくらいの意味しかないんだよ」
そう言い切る。そうだ、美貴からのチョコなんて親からもらうのと大差ない。
ふぅん、と俺の台詞を流した佐藤と田原、そして何だか恨みがましい東の視線を感じつつ、俺は話題の転換を図る
「そんなことより、テストの後をしよう。お前ら春休みの予定は決めたか?」
結局、こいつらには例の手紙の話はしなかった。内容如何によっては明日さんざん自慢してやるつもりだが。
今年の俺は一味ちがうのだ。いつまでも美貴のことでネタにされたりしないからな。
216:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:23:37 jM1FJ8Cb
と、いうわけで放課後。俺は手紙の指示通りに裏庭の桜の木の下にいた。
春になったら綺麗な花を咲かせ、初夏には多くの毛虫を降らせてくるこの桜。
何かのおもしろいジンクスがあるかといえば、そんな物は全くない。
そんな何の変哲もない、今はほとんど丸裸の桜の木の下で、俺はこれから来る相手のことを考えていた。
いったいどこの誰だろうか。特に部活も委員会にも入ってない俺に、そんなに仲のいい女子とかいないし。美貴は除外だ。
いや、でも手紙には「ずっと遠くから見ていた」ってあったな。つーことは全く知らないやつの可能性もあるな。
つまり先輩とか後輩かもしれないわけだ。こうなるとも特定は無理だな。個人的には同い年がいいんだけど。
……どんなやつが来るんだろう。
背は俺より高いのか、低いのか。
あんまり高いと悔しいし、やっぱり低めの人がいいかな。あーでも、同じ目線で話したりしたいかも。
個人的には細身のほうが好きなんだよな。スラリとした体型ってなんかカッコいいし。
髪型は長めだといいな。で、後ろでまとめて垂らしてたりすると、なおよろしい。
顔は……そんなに選り好みするつもりはないけど、やっぱり目は大きめの娘がいいかな。可愛らしい感じがするし。
性格は明るい人がいいよな。一緒にいて楽しいだろうし。それでたまに俺相手に照れる顔を見せてくれたら最高だな。
そんな下らないことを考えてたら、何だか寒くなってきた。チラチラと白い物が舞ってるし。
「……雪、か。どうりで寒いわけだ」
時計を見る。待ちはじめてからけっこう時間がたっていた。
「……そういや相手さんはいつ来るんだ?」
手紙には「放課後」とだけあって、時間の指定は特になかった。だからこそ、授業が終わってからすぐ来たのだけど。
どうしよう。コートとか教室だし、荷物を取りに一回戻ろうか。
いやしかし、ここを離れている間に件の人物が来た場合、失礼なんじゃなかろうか。
こんな寒空の下で待たせるのはかわいそうだ。もうしばらく待ってみるか。
と、そのまま二時間、俺は寒空の下で待ちぼうけを食らうことになる。
しかし、待ち人は来ず。俺が騙されたことに気付いたのは、学校の門限を知らせるチャイムが鳴ったときだった、と。
217:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:24:20 jM1FJ8Cb
日も暮れて、すっかり暗くなってから教室に戻ったら、なぜか美貴がいた。
何でここに、と思ったのも束の間、美貴は俺にコップを差し出してきた。
「朝に入れたやつだから、もう冷めてるかもしれないけど」
中身はウーロン茶だった。湯気が立ち上っていることからまだ温かいことがわかる。
俺は美貴の気配りに感謝しつつ、中身を一気に飲み干す。冷えきった体が暖まっていくのがわかる気がした。
「で、どうだったの」
今それを聞くな。タダでさえ自分の間抜けさ加減に腹が立ってるのに。
俺は美貴の言葉を無視して机に向かう。鞄の上に何やら紙が置いてある。
手にとってみると、こうある。
『だまされてやんの』
思わず破り捨てる。この筆跡は東の物だろう。あの野郎明日殺す。
「無視しないでよ、どうだったか聞いてるの」
再び美貴の言葉。あーもうムカつく。
「東の野郎のイタズラだったみたいだよ」
「……イタズラ?」
微妙な空気が漂う。その間に俺は帰り支度を済ませて教室を出ようとする。
「ちょ、ちょっと待って」
呼び止める声。振り返ると、何やら美貴が下を向いて、珍しく気弱な感じで話しかけてきた。
「え、えーと、その。チョコ……あるんだけど。食べる?」
……何だそれは。嫌味か。今まで寒空の下、来るはずもない相手を待ち続けていた俺を馬鹿にしているのか。
「いらねーよ、お前からのチョコなんて、仮に本命だとしてもお断りだ」
ただでさえイライラしていたから、そんな言葉が口から出てしまう。
美貴の顔がさっと朱に染まった気もするが、俺はかまわず続ける。
「大体な、お前が俺にチョコ寄越すのも腐れ縁ゆえの義理だろ?そういうのはな、男のみじめさを増幅させるんだ。
そういうのは女同士でやるか、さっさと彼氏見つけるかしやがれこのバカ」
そうだ、こいつが毎年俺にチョコを渡してくる度に、こいつも俺も周りの連中からからかわれるんだ。本人にその意図はないのに。
お前だって、俺なんかに構わなかったら男なんかいくらでもできるだろ。顔もいいし、ちょっとおとなしくしてりゃあっちからよってくるだろうしよ。
「そういうわけだから、お前からの気づかいはいらない。
俺は今機嫌が悪いんだ。放っておいてくれ」
そんな捨て台詞を残して教室を出ようとする。
「……何よ、私の気持ちなんか知らないくせに」
美貴が小さく呟いた。その声が震えているような気がして、何事かと振り返ってしまう。
「私が、私がいったい、どんな気持ちで、毎年アンタに、チョコ渡してると、思ってるのよ……」
「ちょ、おま」
何故だか美貴は顔を真っ赤に染めて、下を向いて泣いていた。
こいつが泣くところを見るのは何年ぶりだろうか。
俺に対してはいつも強気に振る舞って、こんな弱みなんぞ全く見せなかったというのに。
「わ、私だって、好きでもない男に、ち、チョコなんて、渡したりしないわよ!」
……は?
いきなり顔をあげたと思えばそんなことを叫ぶ。それって、いったい。
「な、何を」
「アンタが、私のことなんて、何とも思ってないことなんか知ってる。知ってる、けど!
けど、私はそうじゃない。いつも一緒にいて、いるのが当たり前で、だから私も何もできないけど、
毎年この日だけは、ちょっとだけでも素直になろうって、いつもドキドキしながらチョコ、渡してるのに。なのに!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、美貴は言葉をぶつけてくる。えー、と。これは、つまり。
「……あー、美貴?それって」
とりあえず全部言い切ったのか、肩で息をしている女に話しかける。
そこでどうやら我に返ったらしい。はっとした表情になると、すぐに袖で涙を拭って、再びこちらをきっとにらむ。
「もうアンタになんか絶対にあげないんだから!アンタなんか……、アンタなんか大っ嫌い!」
それだけ言って、美貴は俺を突飛ばし、逃げるように教室を出ていった。
残されたのは間抜けが一人。しばらく俺は教室で呆然としていた。
……何というかアレだ。今年のバレンタインは悪い意味で一味ちがったらしい。
ラブレターは偽物で、毎年もらえていたチョコも逃してしまったようだ。そして、あいつも傷つけて。
今までの自分に言ってやりたい。自分を思ってくれる人がすぐそばにいるぞ、と。
いや、いたぞ、か。自分の馬鹿馬鹿しさに怒りを通り越して呆れてきた。
「……帰ろう」
ふらふらとした足取りで教室を出る。家までの道のりがこんなに遠く感じたのは初めてだった。
218:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:24:53 jM1FJ8Cb
「おかえり、これちょっと葉山さんのところに持っていってくれない?」
帰ってくるなり母さんがそんなことを言ってくる。勘弁してくれ。
「ごめん、俺疲れてるからパス」
「って言っても、私は手がふさがってるし。晩ご飯が遅くなってもいいならかまわないけど」
……確かに、ここで母さんが葉山家に行くと、一時間は帰ってこない気がする。
美貴のお母さんとうちの母親でそのまま喫茶店とか行きかねない。というか一回あったし。
ただでさえ色々疲れているのに、晩飯まで遅れたら死んでしまいそうだ。
「……わかったよ」
荷物を置いて、母さんが持っていたビニール袋を受け取る。みかんか。
「じゃ、行ってくる」
葉山家は相澤家の隣にある。母さんと美貴のお母さんは、よく家の間で長いこと喋っている。よく話題が尽きないものだ。
チャイムを押してしばらく待つと、美貴のお母さんである薫おばさんが出てきた。
「こんばんは。あの、これ、母からです。親戚からたくさん送られてきたので……」
あらあら、ありがとう、とビニール袋を俺から受け取った薫おばさんは、それからちょっと黙り込んで、
「ね、悠斗くん。もし忙しくなかったら、ちょっと美貴に会ってほしいんだけど」
なんてことをのたまった。
思わず固まる。ギクリ、なんて効果音がしたような気がした。
「あの子、帰ってくるなり部屋にこもって、ご飯もいらないっていうし。私どうしたらいいかわからなくて……」
まさか原因は俺です、なんて言えるはずがない。俺は無言で話を聞いていた。
それにしてもあいつ、そんなに傷ついていたのか。俺も、何だかすごく苦しかった。
「こういうときは悠斗くんに任せたらうまくいくから、お願いできる?」
あいつが傷ついたのは俺が原因だ。そのことについて、俺はちゃんと謝罪しなければいけない。
そして、あいつがぶつけてきた想いにも、ちゃんと返事をしないと。
「……わかりました。じゃあ、おじゃまします」
そうして、俺は葉山家にあがらせてもらった。
219:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:25:19 jM1FJ8Cb
美貴の部屋の前。ノックをしてから声をかける。
「美貴、俺だ」
「……帰って」
部屋の中から返事がくる。その声音は普段の美貴の声とは全くちがっていた。
「その、すまなかった。お前の気持ちなんて考えたこともなかったからさ。
いつもずっと一緒で、毎年チョコくれて、それが当たり前なんだ、ってうぬぼれてた」
そう、いつの間にか、そういう風に思っていた。
こいつが俺のそばにいるのは当たり前で、チョコをくれるのだって単なる習慣だと考えるようになっていたんだ。
でも、そんなわけはない。幼馴染だからって、そんなにずっと一緒にいるわけがないんだ。
「お前にはほんとに感謝してる。
……その、お前の気持ちにちゃんと応えられるかは、いきなりだから、ちょっとわからないけれど」
何せ今までずっと一緒だったから、いきなりそんな関係になれるか、なんてこっちだって想像できない。
それでも。
「今までよりも、お前のことを大切にする。これからもずっと」
これが俺の今の気持ちだ。自分勝手な話だとは思うけど。
しばらく待っても返事はない。そりゃそうだよな、調子よすぎるし。
「あー、ひどいことしたのはこっちなのに、何だかえらそうだったな。
悪かった。許してくれなんていわないから。……また、明日な」
気まずい沈黙が嫌で、その場を離れようとする。つくづくヘタレだな、俺。
と、部屋の扉が静かに開いた。隙間から美貴が体をのぞかせている。
「……今の、ホント?」
そんなことを聞いてくる。さっきとは違って、何だか照れ混じりといった風だ。
「あぁ、絶対に大切にする」
そうだ、これだけ俺を思ってくれるやつなんて、こいつ一人くらいだろう。
その一人を、大切にしないとな。
しばらくその姿勢のまま黙っていた美貴だったが、やがて扉をいったん閉めた。
しばらく待っていると、再び出てきた美貴の手に、綺麗に包装された四角い物が握られていた。
「し、仕方ないから許してあげる。今度いらないとか言ったら瞬殺だからね!」
そういって、毎年くれていたそれを突き出してくる。
何だかいつもと違う心地で受け取った「それ」は、何だかとっても暖かく感じられたのだった。
220:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:25:43 jM1FJ8Cb
余談
次の日、東の野郎を問い詰めたら、
「いつも当たり前のようにチョコをもらっているお前にむかついていた。
お前の思い上がりを正してやろうと思ってやった。今も反省していない。
つーか何でより仲良くなってんだよ、死ね」
とのこと。散々しばき倒してやった。
東にはどうやら協力者がいたみたいだが、それが誰だかはわからなかった。
昼飯は屋上で食べるといったら、佐藤と田原はずっとニヤニヤとこっちを見てきた。
事情を知らないくせに、その顔はやめろ、むかつく。
「見てればわかるよ、お幸せに」
にらんでいたら、佐藤からそんなありがたい言葉をもらった。ほっとけ。
そして、昼、屋上。俺は美貴と一緒に飯を食べていた。
今日登校するときに、こいつが「お弁当作ってきたから、一緒に食べよう」と言ってきたからだ。
「なぁ、何か恥ずかしくないか?」
今までずっと一緒だったが、二人きりで昼飯なんて初めてだ。周りには誰もいないが、何だかとても気恥ずかしい。
「いいの、私も昨日恥ずかしかったし。」
そんなことを言っているが、アレはお前の自爆じゃねぇか、という突っ込みは控えた。
「私はね、もう自分の気持ちに遠慮なんてしないの。だから……」
俺の隣から目の前に場所を移す美貴。こっちをじっと見つめて、
「だから、アンタがちゃんと私を『好き』って自覚するように、ずっと一緒にいるんだから!」
そんな真剣な、でもちょっと赤らんだ表情が何だかとっても可愛くて、思わず顔をそらしてしまう。
……何というか。
俺がこいつに陥落するまで、そんなに時間はかからないんだろうな。
余談
母さんからのチョコは、今年はなかった。
「だって、一人が本命くれたらそれでいいじゃない」
とは母の弁。見たのか、見ていたのか!?
終われ
221:幼馴染とチョコレート
08/02/14 18:27:34 jM1FJ8Cb
以上。
投下してから気づいた。段落の区切りがめちゃくちゃだ……orz
お目汚し、大変失礼。さて逃げるか
222:チョコっとの勇気
08/02/14 19:23:27 qXK164ni
>>233
GJ!!
間をおかずに悪いが、俺もバレンタイン支援
223:チョコっとの勇気
08/02/14 19:23:56 qXK164ni
指がふるえていた。
インターフォンまで数センチ。指先がボタンにつくと、私は弾かれたように手
を引っこめた。引っこめた手を、そのままの恰好でさまよわせる。
インターフォンには私の影が落ちていた。まだ宵の口だが、あたりは真っ暗闇
につつまれている。
私は、左手のチョコの包みを持ち替えた。手にかいた汗で、包みがちょっとふ
やけていた。ためらうような気持ちが、心の中にある。
―やっぱり学校で渡しておけばよかった……。
後悔が、いまさらになって出てきている。学校でなくても、行きと帰りの通学
路でも、渡すタイミングはいくらでもあった。渡せなかったのは私の悪い癖が出
たからだ。もう十一年も続いている、悪い癖。
行きの通学路では、学校に着いてから渡せばいいと思い。学校に着いてからは、
昼休みに。昼休みになってからは帰りの通学路に。気が付けば家に帰り、夕食の
下ごしらえが終わった時間になっていた。夕食の下ごしらえもしないままにだ。
もう一度、インターフォンに手を伸ばした。引っこめる。私はつまらない心配
事を、また心の中で反芻しいていた。一成以外が出てきたら、なんと言い繕えば
いいのか。
心臓の音がうるさかった。チョコの包みを、少しだけ握り締めた。
―やっぱり、チョコ渡すのは明日にしようかな……。
私はその場でうつむいた。それに、わざわざ自宅に訪ねて渡すなんて、本命だ
と言っているようなものじゃないか。しかし、明日はバレンタインですらない日
だ。違う日に渡すなんて、一成に対しても失礼な気がする。なんだか泣きそうに
なった。
不意に、眼の前で明かりが洩れた。玄関扉が開いている。
一成だった。片手に、青い字の印刷されたゴミ袋をぶら下げている。眼が合う
と、私の心臓は飛び跳ねるように動いた。
―なっ、なんでこんな時にゴミを捨てにっ!
「なんだ、真紀奈か」
一成が言った。
「こっ、こんばんは……」
私はまぬけなことを言っていた。一成の視線が私の手もとにきた。チョコを背
後に隠すには、遅すぎる間があった。
「おっ。手に持ってるの義理チョコ?」
「ほっ……!」
―本命に決まってんでしょっ!
心で叫んだ。口には、出せるはずもない。一成が怪訝な顔をした。
224:チョコっとの勇気
08/02/14 19:24:22 qXK164ni
「ほ?」
「ほ、本命じゃないけど……」
「だから義理だろ。日本語すっ飛んだか?」
「あぁ! もおぉっ!」
言ったときには、私は一成に向かって包みを思い切り振りかぶっていた。チョ
コが迷いなく飛んでいく。
―しまった!
私は目をつむった。束の間、落ちたチョコの包みが頭をよぎった。恐る恐る、
眼を開く。しかしチョコは地面ではなく、一成の掌に収まっていた。足下に、投
げ出されたゴミ袋が転がっている。
「これ、もらっていいのか?」
一成は笑顔だった。胸が、きゅんとなった。
「ちゃっ、ちゃんと食べなさいよ! それ……」
「あぁ、ありがと。毎年貰ってたからさ、今年はもうくれないのかなぁ、て思っ
てたよ」
「そ、そう……」
「ありがと。ありがたく貰っとくよ」
一成が微笑んだ。私は、心が暖かくなるのを感じた。この笑顔を見るために、
毎年チョコを渡してるという気がする。
「じゃ、じゃあね。またあしたね!」
言うと、私は駈け足で自宅に戻った。自宅といっても隣の家だ。
自宅の玄関まで行くと、もう一度一成の家を見た。玄関先で一成もこちらを見
ていた。眼が合う。
私は慌てて自宅に飛びんだ。