08/10/19 16:03:52 SUuOAVca
「あーあ。やっぱり弥生ちゃんは来れないって」
早苗はアイスティーを差し出しながら、心底がっかりしたという表情を美子へ向けた。
すでに夏休みも終盤のある日。
早苗の家には、はるばる北海道から藤沢美子が泊りがけで遊びに来ていた。
親戚へ顔を出す用事があるため、家族一同で上京していると早苗と弥生二人に連絡が入ったのは昨日のことだ。
しかし生憎、弥生は月末まで三杉の別荘へと遅い避暑休暇に出かけているとのことだった。
弥生も非常に残念がってはいたが、次は絶対三人で会おうと約束を交わし電話を切った。
「しかたないわ。急に連絡したわたしが悪いんだもの…。早苗ちゃんもいきなり
押しかけたりしてごめんね」
そう言って美子は申し訳なさそうにグラスを受け取る。
「全然!新学期まで部活も自主練習だけだから暇だったの。うちも今日は皆帰りが遅いから
ゆっくりしていってね!」
美子の恐縮した様子に、早苗はあわてて笑顔でそう答えた。
そもそもほぼ無理やりの形で自宅へ呼んだのは早苗のほうだ。
このサッカー部のマネージャー同士という縁を通じて知り合った友人は、弥生と違い控えめな
性質ではあったが、芯はしっかりとしていて話も合う。
そして何より、自分があの大空翼と交際をしていることを知っている数少ない女友達だ。
彼女の彼氏もまたサッカー選手であったから、そういった方面も包み隠さず話し合える大切な相談相手なのだ。
だからこそ、早苗は二人きりのこの状況に実は感謝をしていた。
今の胸の痛みを吐露するべき相手は、弥生ではなく彼女が適任だと思っていたから。
さて、とタイミングを計った時だ。
「翼くんの相談…かな?」
ふわりとした控えめな笑みで切り出された。
「……。やっぱりわかる?」
美子の聡明な機転に感服し、早苗は素直にそれを肯定した。
どう切り出すか悩んでいた雰囲気を感じ取り、あくまでやんわりと悩みの捌け口を自ら引き受けてくれる。
早苗は美子のそんな頭の良さが好きだった。