【SO・VP】 トライエースSS総合スレ5 【ラジアータ】at EROPARO
【SO・VP】 トライエースSS総合スレ5 【ラジアータ】 - 暇つぶし2ch965:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:32:46 9ZBF1cSZ
「早く…っ、…お願い…だか、ら」
約束。
「守って…………」
ここで評価し、優しく懇請を叶えてやれば、また違う結末が待っていたかもしれない。
彼女にそれを言わせたことの重みがわかっていれば、普通はそうするだろう。
だが根っからの愚かな男はここで欲を出してしまった。
「何だよそれ」
セレスの努力を信じられない程あっさりと踏み躙った。
「そんなんじゃ言ったうちに入んねえな」
それが崩壊の合図だった。
一つ要求をのんだらまた次がある。駄目になるまでこうやって弄ぶ気だ。
セレスにはそうとしか思えなかった。
心の中で、ただ楽になりたいがためだけに堕落を口にした己を罵った。
耐え抜いた日々がたった一度の躓きで全部無駄になった気がした。
愚かすぎる。
約束を守ってくれるような人間ではないと、わかっているのに。
二人は久しぶりに正面から互いの顔を見つめていた。
月明かり。
女の目の中は底無しの闇だった。まったく光が映らず、泣き腫らしたように真っ赤な目元をしていた。
そこから数え切れない程落とした涙の粒が、また落ちる。
「…そんな顔すんなよ。いじめてるみてえじゃねえか」
胸を締め付けられたらしい。慌ててセレスの頬に両手を添える。
「一言でいいんだ。な?一言くらい俺を喜ばせてくれたっていいだろ?」
生前星の数の女にそうしてきたように、質だけはいい声に甘みを足して促す。
「言ってくれ」
けれども、そんなもので女がみんな一律平等に落とせると思ったら大間違いである。
返答は狂ったものだった。
「殺して」
ドスのきいた拒絶。エルドがぎょっとして身を退かせた。
「…何言ってんだよ」
「もう、殺して」
「おい!」
「お願い殺して」
これ以上玩具にされたくない。逃れられないのならと幕引きを願う。
エルドは明らかに引いていたが、深呼吸すると勝手に気を取り直す。
「わかったわかったイかせてやるからもう喚くな」
やれやれといった感で体勢を整える。
焦らしたのでヒステリーを起こしたものと都合よく判断したようだ。
命がけの懇願を軽く流されて驚いたのはセレスの方だった。
「や…!嘘っ、もう、やだっ、話を聞………っ、ぁあ、ああぁあっ!!」
手首をとられ押し付けられると潤ったそこに熱い刺激が走る。
心は拒否していたが体はどうしようもなく欲しがっていて、挿入を悦ぶ。
「んんっ、うぅうん…やっ、いやあ、あああぁ、いやっ」
突かれて角度を変えられて揺さぶられて、呻く。
「やめてぇえ…っ」
心は拒絶していても、体はあっという間に達したのがわかった。
引き抜かれた後はいつも通り、肌に情欲を撒き散らされる。
「ほら良かっただろ」
「う…うう…」
自分では優しくしてやったつもりなのだろう。セレスの態度に、ほんの少しだけ気分を害した素振りを見せた。
「何だよ殺してって。そこまでいくとドン引きだぞ」
咎めを受けること自体が信じられなかった。
ついに死を望んだことさえ、この男の耳には戯言としか届いていない。

966:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:33:49 9ZBF1cSZ
涙が溢れ出そうとするのを必死で堪えたが、つらくて勝手に溢れていく。
ひたすらに惨めだった。
「何だよ具合でもわりいのか?」
萎びるセレスの姿が理解できないのか、ばつが悪いとばかり頭を掻く。
「そういう時はちゃんと言えよ。言えばしねえよ」
それはまるで合意の上、恋人同士の褥のような発言だった。
これだけ残酷な仕打ちを続けている口が、平然と『普通の情交だろうが』を垂れ流す。
「どうしたんだよ――」
髪を撫でられた時にぶちっと切れた。
「触らないでっ!!!」
腹の奥から出てきた、それでいて絹を裂くような獣の怒声だった。
空間が静まりかえる。
「…気に入らなくても、約束は約束だわ。…ずっと我慢した。もういいでしょ。これだけ、踏み躙れば、もう」
セレスの突然の変貌に目をぱちくりさせてきょとんとしているエルド。
「う…ううっ…」
ひび割れて原型をとどめるだけの心が軋む。
「すぐ飽きるって言ったのに。……だから…我慢したのに…どうして……」
自然と恨み言が零れてしまう。
ぽかんとしていたエルドも流石にむっとしたらしい。
「我慢て。どこが我慢してたんだよ。すげーよがってたくせに」
今のセレスにその追い討ちは過酷だった。
「…そうね。私は、どうしようもない淫乱だわ。それで、いいんでしょう」
認める返答は棘だらけで冷え切っていた。
それは何もかもを諦め尽くした肯定だった。
「好きな、人が、いるのに。私、汚れてる。私…もう……」
「おい何なんだよ。いいだろ?毎回お前優先ですげーよくしてやってんだから」
「……………」
セレスはそれきり、身を丸めて泣いているだけの状態になってしまった。
エルドは身の置き場が無いとばかりに目を泳がせ、悪態をついた。
「ったく色気もクソもねぇな」
思い描いていた堕落像とあまりにかけ離れているせいだろう、焦燥が見える。
明らかに自分の手中には堕ちてきていないからだった。
エルドが騙した女は墜落した。
だが受け止められるのを拒絶して、壊れてバラバラになってしまった。
彼はそれをまったく理解していなかった。
セレスは自分がもう終わってしまっていることを自覚した。
気まずい空気がこもったまま、窓の外はだんだん白んでくる。
咽び泣く声もだんだんと小さくなり、消えた。
秀でた将軍だったはずの女の背中はひどく小さく見えた。
エルドはわざとらしいため息をついた後、投げやり気味に言葉を吐き出す。
「悪かった。そんなに嫌ならもう焦らしたりしないから機嫌直せよ」
口だけの謝罪は、仕方がないから我儘なお姫様に譲歩してやると言わんばかりの傲慢なものだった。
当然ながら返事はない。
居心地の悪さと返答をもらえない苛立ちに業を煮やし、
「おいってば」
女の肩に手をかけた。
ごろん、と何の抵抗もなく仰向けになる。
男の目に、いつもは逸らしていてあまりよく見えない女の表情が入った。
瞬時、男の目が大きく見開かれる。
夜の帳という魔法が解けると女の肢体は急激に変化した。
焼け付くかのような鮮やかな緋色の髪は力なく布の上に流れ堕ち、光の射さない瞳はただ天井を映している。
「お、い………」
衝撃に、ごくりと勝手に喉が鳴った。
「な…んか、また痩せねえか…お前…」
目の下はクマがぶ厚く、口元はだらしなく緩んでいてまったく彼女らしくない。
ここまできてエルドは、セレスの様子がおかしいという現実を漸く受け入れ始めた。

967:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:34:27 9ZBF1cSZ
「セレ…ス?」
エルドの血の気をなくした顔からどっと冷や汗が吹き出す。
「セレス?」
ふざけて『お姫様』と呼べる空気は既に無かった。
「セレス、おい」
肩を揺さぶっても名前の主からの反応はない。
「ちゃんと食えって言ってんだろ。食いたいもんあるなら何だって買ってやるから」
食欲を失わせている犯人であることに、やっと気付いたらしい。
認めたくなかったのだろう、大声を張り上げる。
「おいきいてんのか、セレスッ!!」
数秒後、虚ろな女の唇が、僅かに細く開いた。
「髪には……」
「何?」
「髪にはさわらないで……」
消え入りそうな懇願だった。
必死になっていて気付かなかったようだが、エルドは長い赤髪を束にして握っていた。
「…何でだよ。理由は?」
訝しげな表情を浮かべる男に説明する気にはもうなれなかった。
「…お願い」
ただ、そう頼んだ。
「お願い……」
潤む瞳は必死だった。
だが身勝手な弓闘士には、彼女に完全に拒まれている事実を認めることが、どうしてもできなかった。
「理由がわからねえんじゃ聞けねえな」
そう言って束に口付けた。
セレスは心のどこかでああ、やっぱりそうだろうなと納得する。
そんなささやかな頼みごとさえ聞いてもらえない関係なのだと、今更だと感じつつも悟ってしまった。
「きれいな髪だ。触るななんて言うなよ。な?」
ご機嫌取りとばかりに甘く優しく口付けられる。
おぞましさが走った後、そこで、ぷつりと切れた。
ついに忍耐の限界を超えた。

混沌の調べが彼女の旋律を叩き壊すまで、ゆうに三週間。

本当に大事に思うなら、エルドは気付いてやるべきだった。
蝋燭の炎が最後に強く燃えるような。
落日が消え入る一瞬強く輝くような、そんな号泣の理由を。
今まであっさりと自分に体を許した女達とは違う種類の女だということも、
拷問に近い虐待をしていたことも、
判断を誤ったことも、愚かな男には理解できなかった。
犯されるのが回避できないのなら、どんな小さな頼み事でもいいから、自分の言うことを聞いてほしいと
願う女心がわからなかった。
もう彼女には何も届かないことを気づこうともしなかった。
花を無理やりに咲かせた代償がどんなに重いものか。
彼の最大の誤算は、強すぎた自惚れと、セレスが心の中にいる男を真剣に愛しているという事実だった。



調達できる限りの食糧を抱えて男が戻ってゆく。
こぼれ落ちそうな程の量は、彼が一夜で爆発的に抱かざるを得なかった不安の大きさに比例していた。
あの日。女を手に入れたその日から、男はずっと楽園にいた。
熟れて食われるのを待っていたかのような、甘ったるくて肉感的な体。
ずっと触れてみたいと思っていた女の肌の上―――
少し酷いことをしたのは最初だけのはず。
色々としてみたかったができる限り優しく抱いたし、顔をのぞきたかったが、あまりしつこくしないようにした。
睦言も常時与えている。
惚れてないなら口付けるなと睨まれたので、星を降らせるように口付けた。

968:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:35:30 9ZBF1cSZ
抵抗は弱いし、重なる度にとても感じている。良い鳴き声も聞けている。嫌では決してないはず。
これだけ大事にしているのだから、言葉などにしなくてもこちらの気持ちはわかるだろう。
もうすぐ訪れる邂逅の時。そうしたらいろいろ進展もできる。
落ちれば。
笑うだろう。
理解はできないが、あんな男ごときに注いでいた情熱を、夢の中でしか見たことのない笑顔を、丸ごと自分に。
嫌がるそぶりを見せていても本当は悦んでいるのだ。
そう、ずっと思っていた。
つい小一時間前までは。
現実は容赦なく矢の雨となって降り注いできた。
腕の中には彼女がいる感覚はない。それを否定したくて作る虚像はあっさりと溶け消えてしまう。
誰か嗤っている。
恐らくあの歪んだ異世界でヴァルキリーに消滅させられたのであろう、未来から落とされた狂気の塊。
正体が晒される以前から時折滲み出る本性が気色悪くてたまらなかった、あの魔術師。
眼鏡の奥から『同類』の必死を心底から嗤っている。
苛立ちかぶりを振ると、途端に彼女の惨状がよみがえる。
喘ぎ声がいつまで経っても悲しげだったことも、背中に手を回されたことがないことも、
そう、あの日から一度も笑ってもらってないことも。
思わず帰路を加速する。
まさか。
まさか
まさか本当に嫌だったのか
ずっと一緒に戦ってきた仲間なのに
それに
…それに、
好きだって、ちゃんと伝えたじゃねえか
息を切らして帰宅すると勢いよく扉を開けた。
「おい、早く何か食……!」
言葉が途切れた。
目の前に広がるのは、血だまり。
衝撃が喉をつこうとした次の瞬間に、視覚が正確な情報を脳に届ける。
その紅をもたらしている正体が血液ではないことを判断する。
それは切り落とされた彼女の髪の毛。
それが赤い海を作っていた。
代償に、頭部には少量の毛髪しか残されていない。
切る時に皮膚まで裂いたのだろう、本物の血が流れた跡がある。
「セレスっ!!」
駆け寄って膝をつき、
「誰に…っ!!」
怒りを露わにして犯人を聞き出そうと二の腕を掴んだ。
だがその凶行は他人の加害ではなかった。
ナイフが被害者であるはずの女の手に握られていたからである。
「…セレス」
愕然としたまま搾り出すような声で名を呼んでも返答はない。
その日からセレスは何もしゃべらなくなった。

無理やり凭れ掛かっていた。
女が潰れて地べたに投げ出された時、泥まみれになった男はやっと気付いた。
何のことはない。
女を踏み台にして作った薄っぺらの楽園がはらりと散った。



エルドと言えど、流石に女が衰弱していく様子を楽しめるような性癖はないらしかった。
常時浮かべていた余裕の冷笑は現実に叩きのめされて欠片も残っていない。
逃れようの無い死から助け出したはずの女は、食べるものも、言葉も、ほとんど口にしなくなっていた。
豊麗の肉体が短い期間で嘘のように削げ落ち、か細く貧相に成り果てた。

969:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:36:25 9ZBF1cSZ
廃人寸前の女に水が差し出される。
「水だけでも飲め」
「…」
何も映らない瞳。こけた頬。憔悴しきった姿。
艶やかだった唇の紅は失せ、死んだ紫に変色していた。
寝台があるのに部屋の隅で毛布にくるまっている。
寝台で横になるのが嫌だった。時折、与えられ続けた地獄が不意に甦ってくるからだ。
水を与えようとしている男が業を煮やして口移しで飲ませてくる。
「んっ」
だが酒を飲まされて犯された悪夢が脳裏に焼きついてしまっているセレスは、反射的に吐き出してしまった。
「くそ…っ」
げほげほとむせているセレスに苛立ちながら、死神は顔にかかる髪をかきあげる。
仕草にはもう一粒の余裕も見当たらなかった。
奪った命は星の数だが介護などしたことがない。慣れない対応への緊張と疲労でエルドも限界だった。
男の気持ちは女にはもう伝わらない。
すべてが淀んでいた。
小刻みに震える女の肩が痛々しい。
「…何が気に入らねえんだよ」
精神の崩壊は着実に進み、生気さえ残酷に奪っていく。
「おいいい加減にしろよ!!全部俺が悪いみてえじゃねえかっ!!」
悪くないつもりらしい。
脳内では既に正当な取引だったという図式が出来上がっているのだろう。
「別にひでえことなんて何もしてねえだろ!?一度…一度だけ失敗したが、それだけだ!!
 むしろずっと大事にしてやったんだぞ!?あれだけあんあん啼き喚いといてふざけんなよッ!!」
ぼうっとしている。
牙をむいて怒鳴られても、何を言われているのかよくわからない。
「おい………まさか陵辱されたとか思っちゃいねえだろうな」
していないと、言うのか。
「その泣き方やめろっ!!」
そう怒鳴られても落涙している感覚さえ既に無い。
「そんなに嫌ならちゃんと言やいいだろうが!!こっちだって言われなくちゃわかんねえよッ!!」
言い草はすべて、まるで合意があり、和姦の末こじれただけのように感じられた。
何度。
何度拒絶しただろう。
どの魂の叫びも本気ではなかったとして、たったの一つもカウントする気がないのだ。
「なあっ!!返事しろよ!!」
何もかもが強い女だとでも思っているのだろうか。
「………返事してくれよ」
彼にとって自分は普通の女であってはならないのだろう。
「頼むから………っ」
珍獣はそうでないとおかしいのかも知れない。
強姦でも動物のように喘いで、求めて、悦ばなければいけないのだろう。
もっと、もっとと猫の発情期のような嬌声をあげながら強請らなければいけないのかもしれない。
無理だ。
剣も鎧もなければただの女なのに―――
「セレスッ!!」
大声で怒鳴られる。
これだけしておいて、思い通りにならなかったからと怒っている。
――こんな男の手をとったのだな。
己がいかに世間知らずで愚鈍であるか、その自覚が、またセレスを追い詰めてゆく。
「しっかりしろよ―――おい、斬鉄姫っ!!」
こんな時に、その二つ名で呼ぶか。
あちらも意地になっているのを感じる。
あの人に斬り捨てられるか、このどん底か。
果たしてどちらが良かったのかなんて、もうわからない。

970:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:37:12 9ZBF1cSZ
ただわかるのは、手を重ねた時点で健全な未来への道はすべて断たれてしまったことだけだった。



月と星屑がきらめく。
すっかり生気が抜けて痩せ細った女を照らす。
まるで別人のようになっていた。
人目を引く美しい女だった面影は欠片も残っていない。
エルドも流石に触れてはこなくなった。
長く艶やかだった赤い髪は無残に切り落とされていた。
口付けられた嫌悪が妙に生々しかった。もう汚れてしまったからいらないと衝動的に切り捨てた。
それはいつの間にか自分自身も、もう、いらないという答えにまで達してしまっていた。
そういえばあれは何時のことだったろう。
何があったかは覚えていない。とにかく戦闘があった。そこそこの強敵。
それが終わって、疲労困憊でただ立ち尽くしていた時だと思う。
まとめた髪をぐい、と思いっきり引っ張られた。
痛みとともに、引っ張った主の身体にどんとぶつかる。
あの人だった。
…………………豚野郎、といつも通りに罵った。
またいつもの嫌がらせかと思って睨み上げると、感情のない目で見下ろされている。
内心で少々驚く。見たことのない表情だった。
ぽつりと、髪だけは綺麗だなと吐き捨てて放すと、さっさと行ってしまった。
髪?
何だったんだろうと唖然としつつも胸は高鳴る。
綺麗。
当然だが彼からそんな褒め言葉を与えられたのは初めてだった。
髪だけは気に入られているのか。変な気分だ。
でも、それでもいい。身体の、存在の一部でも好かれているのなら。
いつかまた触れてもらえる日がこないかと、解放後、仄かな期待を込めて櫛で梳いた。
あの人の双眸と同じ色をした髪がさらりと揺れる。
今では何もかも馬鹿らしい。
珍しい色をした髪ぐらいしか見所がない女だという嫌味だったのかもしれない。
むしろそちらだろう。
でも、とても嬉しかった。
何もかもを嫌われていると思っていたから。
そんなことを考えていたら泣きそうになる。
やっぱり、好きなんだ、という自覚。
あの頃は、よかったな。
無条件で近くにいれて。
でももうあの頃とは違う。
汚れてしまった。
戻りたい
戻りたい……
またそば

きて
……
くれないかなあ…………
「何考えてる」
不意に沈黙を破られたので顔をあげた。
牢獄の看守がこちらを見つめている。
月を背にして窓辺に寄りかかる姿は魂の刈り取りを待つ死神そのものだった。
「…みじめな …願い事…を」
乾いて嗄れた声。涙が頬を伝い、雫となって落ちる。
泣いてるんだと他人事のように思う。
あの人のことを考えるとつらい。だから考えないようにしていたのに、少しでも彼の影を思うと想いが止め処なく溢れてしまう。
嫌われているのはわかっている。こんな状況下でも心に想うことすら、ましてや助けてほしいとさえ願えない存在。

971:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:38:13 9ZBF1cSZ
それどころか今のセレスの悲惨を知ればざまあみろと思うのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。
もうお仕舞いだ。
「嫌われ てること…ぐらい、…何百年も前から、… わかって る…」
「わかってんならとっとと諦めて捨てろよ」
「わかってるわよ… でも」
膝をぎゅっと抱いた。
「私は…」
あの
「好きなの……」
愛しい手のひらが
「馬鹿じゃねえか」
一途な想いを、冷酷な一言が温もりごと容赦なく叩き落とす。
「馬鹿よ。わかって…わ そ…なこと。 ……わかってる」
縮こまって震え続け、これ以上の惨めさの侵攻を必死で防ぐ。
小さく漏れ行く嗚咽が月夜の晩に痛々しく響き続けた。
しばらく間が置かれた後、その疑問はぽつりと相手の耳に届いた。
「あの人は いつ… 来るの?」
「……何だと?」
「呼ぶん、でしょ。…最後に は」
存在を踏み躙る最後の仕上げに、彼が現れる。
エルドへの不信感はそこまで育て上げられてしまっていた。
「顔が…見たい。早く して」
狂っているとは理解していても素直な気持ちが口から零れる。
嗄れ果てても想い人を想う故に優しくなる声色に、エルドのこめかみがピクリと反応する。
「へえ。呼んでいいのかよ。もともとはあの黒いのから逃げるためだったくせに?本末転倒だな」
「私はもう、駄目だ もの。なら…あの人の気が 済む なら…もう、それ で …いい」
「……意味わかんねえ」
どこまでも棘だらけなエルドをよそに、セレスは懺悔に近い心情を紡ぐ。
「私…また…、 大 切な人に 誠実じゃな …かった…。
 呼んでよ。まだ私が…私を、保ててるうち、に、呼んで…」
沸点の低い男には青筋が浮かんでいた。
「そんなにやられてえか」
嬉しいわけがない。好きな人に乱暴されて嬉しい女などいない。
それでも。
「逢いたい……」
命懸けの懇願に耐え切れなくなったのか、舌打ちして窓辺を離れた死神は、
セレスの前で仁王立ちして軽蔑の混じる視線を落としてきた。
「久しぶりにベラベラしゃべったと思ったら男の話かよ」
どうしていちいち心を抉る言葉を選ぶのだろうと思う。
「頭おかしいだろ。顔あわす度に斬るだの殺すだの言われてたくせに何でそんなことになってんだよ」
「わからない ……」
「何だよそれ」
「わからない。…変だって、悩ん…ことも、あった。でも心までは どうしようも…な かった」
不明瞭な返答が至極気に食わないらしい。不機嫌丸出しで吐き捨てる。
「第一、俺があの糞野郎の居場所なんて―――知ってるわけねえだろ」
やはりか、という失意と、一筋の希望が失われたことで、痩せ細った女は一気に落胆した。
エルドが彼との連絡手段を特に持ち合わせていないことは薄々勘付いていた。
二人がかりで、などというのも、まったくのはったりだったのだ。
「…なら、…」
騙された女は震えながら顔を上げる。
「なら。 ねえ、もう…いい、でしょ?ずっと、我慢……わ。 これだけ やればも…い でしょ。
 もう、…弄べ…よ、な、体じゃない。こんな…なった今でも、…疼いて苦しい」
己を抱き締める。
「私は、 手を差し伸べても えた時、とっても、嬉し、かった…本当に助けてもらえるんだと思ってた…
 貴方…こと、信じてた……。だから今、死ぬほど……惨め、だわ。
 ね?だから、もういいで…しょ…もう…いなくなっ てよ……」
解放されたい、ただそれだけを願う必死の懇請も、相手の苛立ちと闇を濃くしただけだった。


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