【SO・VP】 トライエースSS総合スレ5 【ラジアータ】at EROPARO
【SO・VP】 トライエースSS総合スレ5 【ラジアータ】 - 暇つぶし2ch910:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:09:17 VLPTNd8a
兄であるイージスに彼女との間をどうにかして取り次いでほしいと泣きついてくる男の、なんと多いことか。
トチ狂った青年に有り金全てを目の前に積まれたこともある。
流石に面倒になって自分で何とかしろと突き放すのだが、あの男が怖いんだと被害者面で食いついてくる。
あの小さな男が怖いと怯えるのだ。
セレスの為に戦う気はないがセレスには近付きたいか。
兄と慕われている者として少々癪に障る。
認めたくはないが、彼女が放つ輝かんばかりの艶やかさも、その一緒にいる男によるものだというのに。
「……」
問題は簡単かつ複雑だった。
この一年、どうなることやらとずっとヒヤヒヤしていた。
「ほんとお前は大した女だよセレス。アレを手懐けちまうなんてな」
仔猫に向けられていたセレスの微笑がすっと消える。
「……手懐けたように見える?どう見ても思い切り振り回されてるだけでしょ」
「謙遜すんなって」
「謙遜じゃないわ。私は今も彼の手の内で転がされてるだけよ」
意見がすれ違った為、二人の間はしばらく無言に支配されたが、
「あのね兄さん」
セレスの方からためらいがちに切り出してきた。
「ソファラの言ったことは気にしないで。彼女は何も知らないから、兄さんがどんなに私のために頑張ってくれたのか
 伝わってないだけなのよ」
気を遣われているのがわかる。気持ちは嬉しいのだが逆に気落ちする。
「いや、いいんだ。ソファラは正しい」
その気遣いに頷くなど、イージスには有り得なかった。
「そんなこと。あなたには本当に迷惑をかけたわ。こんなに良くしてもらって、本当に感謝……」
「やめてくれ」
ぴしりと拒絶すると当然のごとく会話は止まってしまう。
だがどうしても、それ以上の謝意を受け取る気にはなれなかった。
「俺は感謝してもらえるようなこと何もできてねえ」
「兄さん」
「いつだってお前の大事な時にはいなかった」
後悔まじりの重苦しい溜め息をつく。
予想外の連続。見通しの甘さ。ストレス、忙殺の日程……どれもこれも言い訳にはならない。
「一寸先は闇とはよく言ったもんだよなぁ……」
重たく底深いため息をついてから項垂れて、
「ビンタ張られて当然だよ」
また、頬をさすった。
もしまた他の仲間達に会える機会があったなら、全員から一発ずつもらっても仕方がない。
それくらい何の役にも立てなかった。
セレスは眉根を寄せて居心地の悪い空気に押され続けてていたが、やがてその重たげな口を開いた。
「ごめんなさい兄さん。私、彼を受け入れようと思うの」
視界が一気に暗くなる。
体内で強烈に重いものが落ちた気がした。
それはイージスが最も耳にしたくなかった答えだった。
「正気か」
惑いを揺さぶろうと鋭く突くように尋ねても、
「正気よ」
しっかりした即答が返ってくる。
「…理解不能だ。一体何されたか、まさか忘れちまったわけじゃねえだろうな」
「わかってる。自分に起こったことだもの。…忘れられるわけがないわ」
「……」
再び無言になるイージスに更なる追撃がかかる。
「大丈夫。自分が何を言ってるか、ちゃんと理解できてる。その先に何があるかも」
決意してしまった人間特有の、何処かすっきりした喋り方だった。
覚悟を決めてしまったのだろう。
「そっ……か…………」
動揺でどうしても会話が途切れる。
一人の自立した人間である彼女の選択に文句をつける気はさらさらない。
が、適当な相槌を打ちつつも、やはりあの男はどう考えても駄目だろと正常な判断力が働いてしまう。
そこに去っていったソファラから送られた軽蔑の眼差しが追い討ちをかける。
だからつい、別の男の話題を持ち出してしまうのだ。

911:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:10:29 VLPTNd8a
「あいつはあいつで元気にやってたらしいぞ」
「そう…」
上の空で相づちを打った後にふと気付いたらしく、さっと顔色が変わる。
「…やって“た”?ずいぶん断言するのね」
「見かけたら連絡をくれるよう頼んでおいたんだ」
固まるセレスの様子は、明らかにその男への想いが残っていることを感じさせた。
「連絡って……誰に?」
「エーレン」
「エーレン…」
「悪りいな。お前には口止めされてたけど、あの時頼んでおいたんだ」
「あの時って……秋に、クレセントと一緒にわざわざ立ち寄ってくれた時?」
「そうだ」
セレスは表情に悲しげな色を浮かべると、軽い苦笑を漏らした。
「……言わないって、約束だったわよね」
「すまん。でも誓ってエーレンにだけだ。お前が気にしてたクレセントには絶対バラさないよう念を押しといた」
秋。元同僚の二人がゾルデを来訪した時、セレスは再会を頑なに恐れ、居留守などというらしくない手段を選んだ。
色々な葛藤があったのだろう。
だがその時イージスもこの終わりの見えない問題に関して疲労の極地に達していた。
だからこそこのまま淀んで停滞する流れに危機を感じ、約束を破ってでも新しい流れを呼び込まなければと感じたのだ。
「けど勿論余計なことは一言も言ってねえぞ。ただあいつを見かけたら連絡頼む、それだけだ。
 エーレンも空気読んでくれてそれ以上追及してこなかったしな」
「そう」
「ま、本当は全部吐き出しちまいたかったってのが本音だが」
「……」
できれば。
まだ、『その男』の方がマシだった。
その男とて不安はある。大量にある。正直、今セレスを束縛している男とどうマシなのか説明し兼ねる程に。
だがセレスの相手として戦乙女の祝福を受けた相手には違いない。
それ以前に、セレスが想っているのは未だ確実にその男なのだ。
その確信を糧に、更に煽り立てる。
「大丈夫かー?ほんとに忘れられんのかー?」
わざと間延びする言い方をして揺さぶると、セレスの面持ちは難しくなる。
そうだ。それでいい。戸惑えセレス。
揺さぶり作戦の成功を感じていたのに、当のセレスは思った以上に厄介な頭の回転の持ち主だった。
「それで、アドニスは何て?」
思わず釣竿を放り出しそうになった。
墓穴を掘ったことに気付く。
「え…や……それはだな…」
悲しいことに思い切りわかりやすい動揺を見せてしまった。
「エーレンは勘のいい人だもの。あの時私が居留守を使っていることに気付いていたと思うの。
 それに律儀な人でもあるから、見つけただけじゃなくて私への言伝も聞いてくれたはずよ」
釣れなかった上に最悪の展開。
「困っているのは、私には残念なお知らせだからなのね?」
鋭い。泣きたくなる程鋭い。
「覚悟はできてるの。教えて」
ここまで来て下手な嘘はつけない。
観念したイージスは、エーレンからの手紙にしたためられていた信じられない言葉を口にするしかなかった。
セレスの想い人は面倒くさそうに舌打ちした後、
「もう関係ねえ。うぜぇ」
そうのたまったらしい。
冷や汗だらだらのイージスだったが、
「まあそうでしょうね」
意外にもセレスの受容は迅速だった。
格段ショックを受けた様子もない。弱く笑って、寂しげな自嘲を漏らした。
「フラれちゃった」

912:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:11:13 VLPTNd8a
「セレス……」
「いいの、わかってたわ。
 故郷が見えて、しかも何度も足を運んだ街。ある意味旅の始まりの街……
 こんなわかりやすい場所にいるのに丸一年、情報収集にすら来てもらえなかった」
そうなのだ。
来ようと思えばいくらでも来れる場所なのに、本当に来なかった。
しかも、実際には更に『二度と顔も見たくねえ』だの『そんな女がいたことすら忘れてた』だのほざきやがったらしい。
あれだけの執心を見せながらどんでもない手のひら返しであるとエーレンも手紙の中で驚いていた。
一体どんな心境の変化があったのだろうか。知るすべもない。
落花情あれど流水意なし。
共に流れていきたい花を置いて、流れはそしらぬ顔をして行ってしまった。
「結局、仇敵としても大した存在じゃなかったのね」
平素を装っても、寂しげな口調はやはり痛々しい。
間抜けな失態に言葉を失いつつ、しかしイージスにも意外な顛末だった。
居場所さえ感知すれば矢のごとく飛んでくると信じていた。彼女を救いあげてくれると信じていた。
ある意味イージスも彼の男を待ち侘びていたのかもしれない。
「なあんだ。こんな近くに結末があったのね」
予想に反して妙にすっきりさせてしまったことを焦る。
「いいのか?お前は。ほんとに、それで。
 人生なんて曲がり角だらけだ。興味なくされたと思っても、ちょっと振りかえりゃ目が合うかもしれないぜ」
「これだけきっぱり振られてしまえば流石にそれはないわよ」
「本当にそう思うのか?思ってるのか?ええ?――お前自分でも絶対しっくりきてねーだろ。今の状態」
「ずいぶん煽るのねえ」
しつこさに呆れてはいるが、すぐに否定で切り替えしてこないのは、彼女もまだ迷いがある証拠。
「そりゃそうだ。俺は兄ちゃんだぞ。妹の幸せを願って何が悪い!」
ふんぞり返るとイージスの妹は少しだけ嬉しげに微笑んだ。
この微笑みをいつまでも、汚い手段を用いてこの女を手に入れた男などに享受させたくない。
セレスには申し訳ないがひょっとしたらそちらの方が本心かもしれなかった。
「悩めよセレス。一生の分岐点だ」
誰にでもある人生の分かれ道。そして後日、あの時こうすれば…と後悔するのは万人共通に用意されている落とし穴。
「アドニスを追いかける気があるなら我慢せずにそうしろよ。
 俺のことは気を遣うな。何か仕掛けられたとしてもそう簡単にくたばってたまるか。
 お前の抜けた穴は何とか埋めるし、お前ん家についてる猫達は俺が面倒を見る」
「兄さん…」
表情をさらなる困惑に歪められても言葉の勢いは止まらなかった。
どうしても頷いてほしかった。うまく表現できないが、イージスには大きな違和感があった。
ここはこの女の居場所じゃない、ということ。
しばらく黙って聞きに徹していたセレスだったが、不意に台詞の波を遮る。
「ごめんなさい。もう決めたの。私は行かないわ」
それはかつて名将と呼ばれた女の、あまりに毅然とした口調だった。
「セレス!」
咎められても退いたりはしない。
「確かに私は選択を間違えたのかもしれないわね。でもいつまでも腐ってもいられない」
立ち上がると、
「エーレンじゃないけど。エルドがいてくれればやっぱり心強いから」
とても自然に笑った。

913:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:12:49 VLPTNd8a
「エルドも私がずっと一緒にいるって確信すれば、もっと落ち着くと思うの」
そう言ってから、愕然としている兄に向き直った。
「今まで心配ばかりかけて本当にごめんなさい。でも私、本当にもう大丈夫だから。今じゃもう逃げ出すことにも嫌気がさしてるの。
 今まで沈んでばかりいたけど、ちゃんと浮上するから」
「セレス…」
「元の位置に戻りたがってるばかりで暗い部分と向き合わないでいると、いつまでたっても前に進めそうにないしねえ。
 あっと…長話が過ぎたわね。じゃあ、そろそろ行くわ」
「いや、ちょ…待て…」
荷を背負うセレスの姿に何となく落ち着かないものを感じる。
「やっぱ俺も行こう…かな」
「…兄さんさっきから何だか変ね。どうしたの?私なら大丈夫だから安心して」
「そうじゃなくて……なんか…すげー悪い予感がするんだよ」
「ちょっとやめてよ」
流石のセレスも顔を歪める。
そう。
気のせいだよな。
――この嵐の予感は。
胸騒ぎを隠し切れず、去り行くセレスの背に向かって注意を喚起する。
「くれぐれも逆ギレとブチギレに気をつけろよ!」
「…それどうやって気をつければいいの?」
呆れ顔で振り返ったセレスについ訊ねてしまう。
「…本当に今幸せなのか?」
その問いに、セレスはやはりほんの少しだけ笑った。
「悪くはないわね」
落ち着かない悪寒に支配されつつも、イージスは教会へと向かう彼女の背中をいつまでも見送っていた。

本当は、もう駄目だと思ったこともあった。
一度狂ってしまった歯車は二度と正常には戻せず、どんどん濁流にのまれていくだけしかないのかと、
悲鳴をあげながら押し流されてゆく姿を見送ることしかできないのかと諦めそうになったこともあった。
けれど新しい朝は巡り、彼女の傷を緩やかに回復させていった。
大木から落ちた花は一筋の光を見つけ、茨道をかき分けてその先へと飛び立ってゆく。
彼女の近くでずっと見守っていた男は、籠に囚われた鳥が解き放たれる瞬間が来るのを感じていた。

914:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:13:35 VLPTNd8a
*****

その墜落劇は、幸福へと続く扉の直前にあった、ほんの少しの暗闇から始まった。
満ちた不穏へ忍びこんできた甘言によって渦は引き起こされる。
約一年前。
闇夜の迫る街の夕暮れ。
食事も出さない古ぼけた小さな宿屋。
セレスはその一室から動けず、去っていく仲間達を見送っていた。
反旗を翻した戦乙女に仕えるという大役は終わった。
彼女らが最後の戦いに向かう直前に解放され、ミッドガルドに全員戻された。
皆、新しい生を歩むために散っていった。
だがセレスには枷があり、その場から動くことができなかった。
遠い昔に一騎打ちを行った相手に再戦を要求されている。
決着をつけなければならない瞬間まで、刻々と近づきつつある。
だが項垂れる女は迷いに支配されていた。
私には殺せない。
実力は僅差だと必死に思い込もうとしても、それは既に遠い過去の話。
戦乙女に使役された回数も比べ物にならず、今や力の差は歴然。
このまま殺されるしかないのだろうか。
――好きになった男に。
苦渋に満ちた表情でかぶりを振る。
何を勘違いしているのだろう。優しくされたわけじゃない。
憎い敵だから、自分の手で落とし前をつけたいから、その時が来るまで他の外敵から守られただけ。
わかっているのに感情は誤作動を起こしている。
しっかりしなきゃ。しっかり……
「泣きそうなツラしてんじゃねぇよ」
はっと顔を上げると、行ってしまったと思っていたエルドが見上げていた。
家路を急ぐ人並みの中で立ち止まり、流れに逆らっている。
疲れたような中年の男が一人だけ、すれ違いざま驚いた顔をしてエルドを振り返り、そのまま流れていった。
少年の容姿に不釣合いな男の声に仰天したのであろう。
深く渋味があり、それでいて年相応に若く、人を捕らえ惹きつける甘い音を纏う声。
あの人に似ている声。
非常に不安になっていた心に、その姿は少しだけ大きく見えた。
気落ちしているセレスの視界で、元同僚が半笑いで小首をかしげる。
「何だよ。ほんとに一緒に行く気あんのか?」
「……」
「だよなぁ。そんじゃあな」
数歩進んで立ち止まり、今度は真顔で振り返った。
「おい本気かよ」
「……うるさいわね早く行けばいいでしょう」
「窓から離れろよ。そうすりゃ視界から消えるぜ?」
「……」
縋る気などまったくなかったが、最後の仲間が行ってしまう瞬間を前に、身体が窓辺から動かなかった。
今度はどんな嘲りの矢を放つのかと身構える。
闇に紛れるすんでで呼び止められたエルドは、訝しげにこちらを見上げている。
エルド。
セレスの生前の人生に大きな変化を与えた人物の一人。
エインフェリアになってからはあの個性的な仲間達の中でもさらに一人遊離した存在となっていた。
伏せていた瞼を開けると、既に街道にエルドの姿はなかった。煮え切らない態度に呆れて行ってしまったのだろう。
良かった。
そうだ、彼に頼ってどうなるというのか。
そう思って半ば安堵のため息をつくセレスに、
「それで?」
エルドが何度目かの問いかけをした。
いつの間にか真横に戻ってきているのでぎょっとして椅子から飛び退く。
この男は行動に音を連れてこない。
暗い部屋で、童顔に収まる大きな目玉だけが鈍い光を灯してセレスを見据えている。
まるで猫のようだと思った。
不意に横切ってゆく闇夜の黒い猫。

915:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:15:02 VLPTNd8a
「怖じ気づいたのか?とっくに覚悟はできてるもんかと思ってたが」
「…うるさいわね。関係ないでしょ」
「けど目は助けてって言ってるぜ」
返事を返さないセレスを嘲笑う。
「お姫様にすがられるとはなぁ。この俺が」
「……」
否定しても皮肉の応酬になるだけなので受け流す。
エルドは昔からセレスのことを時折お姫様、と呼んだ。
既にお姫様でも何でもない、それどころか理想を掲げ祖国に弓引いたセレスをそう呼ぶのは、まぎれもなくエルドが
彼女を馬鹿にしている証拠だった。
発音には常に嫌味が塗りこめられ、陰険な響きを伴う。
だが彼がそうやって馬鹿にされるのは格段セレスに限った話ではない。
この男は世界のすべてを斜めに構え、小馬鹿にしている。
撥ね付けるまなざしは鋭く、淀む闇に引きずり落として飲み込もうとする。
破綻した人格でも、能力で戦乙女に選定されることがある。自他共に認めるその典型的な例。
「俺と行くならそう言えよ。お望みのまま好きなとこに連れてってやるぜ」
彼の手の届かない世界。確かに安住の地と言えるかもしれない。
「……まあ別世界に連れてくことに関しては一目おいてるけど。なんせ身を持って体験してるからね」
「違いねえ」
からからと笑うと、
「じゃ行くぞ」
セレスの手を取った。
冷酷な男の体温に驚き、慌てて振り払う。
「ちょ、ちょっと待ってよ。行くとは言ってないでしょ」
「何だよそれ。はっきりしねえな」
たまにあの人と似た声で、似たような台詞を使う。
「つうか逃げるとかしち面倒くせえ回り道しないでお得意のボディパッセージでさらっと殺ってきゃいいじゃねえか」
「さらっと…」
「また首かっ飛ばせばいいだろ。むしろ解体しちまえよ解体。二度と再生しねえように。あの黒いのが大嫌いな俺も大喜び」
「いや、あの」
「自信ねえなら加勢してやるぜ。ほら」
手渡されたそれらは一体何処から取り出したのやら、クリティカル率上昇アクセサリー。
死神とのやりとりにセレスもだんだん疲れてきた。
「ねえエルド」
「始末してくれっつーんならそれでもいいぜ。
 スピリチュアルソーンならこの世の誰よりも俺のが性能いい。使い込み方が違うからな」
話を全然聞いてない上に自信たっぷりな姿が胃に痛い。
「あのね、あなた…私はもう誰も傷つけたくないし争いたくないから困っているのよ」
「争いたくないって、アレが半端なことでお前のこと諦めるとでも………」
余裕綽々たるにやついた笑いと台詞が会話の後尾で不意に消える。
「どうしたの?」
明らかに何かに気を取られた変化が気になったが、
「いや……」
セレスがそれに疑問を挟む余地は与えられなかった。
「そうだな………なあセレス」
ちゃんと名前で呼ばれたのは久しぶりだった。
「何?」
「あー…と…」
嫌にもったいぶった喋り方をする元同僚にセレスは首をかしげる。
「もう、何よ」
「そう…だな。……どうして俺がまだここに居残っていたんだと思う?」
「さあ?」
「いきなりこんなこと言い出して信じてもらえるかって話だが」
小さく口元を歪めた後、真顔に戻り、エルドはその台詞を吐いた。
「俺、ずっとお前のこと好きだったんだ」

916:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:15:51 VLPTNd8a
数秒の間があく。
セレスは突拍子の無い告白に驚くことすらせず、冷静なまま受け流した。
「こんな時に笑えない冗談ね」
からかいの類としか思えなかったからだ。
「おいおい冗談にしてくれるなよ。本気なんだ」
「こんな時に何よ一体」
「こんな時だから言ってる」
足音も従えずにすっと間を詰めてくる。
「これから真剣勝負なわけだし。決着つけたがってると思ってたんで、変に心を乱すかと思って言えなかった」
至極真面目な回答。
長い睫毛の向こうにある緑色の瞳を何度か瞬かせてから、斬鉄姫はやっと愛の告白に反応を示した。
「……………………やだ。本気なの?」
頬にほんの少しだけ赤みがさす。
「物好きね」
「まあな」
否定はしない。
「本当に突然ね……何て言ったらいいかわからないわ」
生前では戦士として敵味方ともに恐れられていた女、告白などまるで慣れていない。目を泳がせてただ戸惑うしか術は無い。
「だからよ、どうしても助けたいんだ」
手を取られる。驚いて払いのけ、後ずさる。見慣れた仲間が別人のように思えて少し怖かった。
動揺は瞬く間に相手に付け入られる隙となる。
「だいたいよ、再戦なんて本気で受けるつもりなのか?あっちがただぎゃんぎゃんわめいてるだけじゃねえか。
 あんな奴のほざく通りにする必要なんざねえだろ。身勝手な逆恨みもいいとこだ。
 女に負けていつまでもうじうじと情けねえったらねえぜ」
セレスは次々に吐き出される非難の畳み掛けにただただ驚く他なかった。
「お前だって、本当は納得できねえんだろ?
勝手に侵攻してきて無様に負けたくせによ。しかも4年もブランクある女に」
一緒に侵攻してきたのはどこのどなただったろうか……は流れ的にどうもツッコめそうもない。
「お前は十分脅かされてきただろ。見当違いな復讐ならもう十分なはずだ。
 あいつのやってることは男のすることじゃねえよ」
「エルド」
この男がそんな風に考えていてくれているとは思いもしなかった。
「俺が守るから。さあ行こう」
あまりの押しの強さに戸惑って、つい更に一歩後退する。
だが突きつけるように差しのべられた手に頼る気にはなれなかった。
促されても、申し訳ないのだが心には別の男がいる。
「あの、気持ちは本当に嬉しいんだけど」
驚きを隠せなかったが、好意を示された礼はきちんとしたかった。
「私、今好きな人がいるの。だから…ごめんなさい」
丁寧過ぎる謝罪と拒絶を示した女に相手は眉をひそめた。
その顔立ちに苛立ちが混じり、青筋が加味されたのを、頭を下げていたセレスは気付けなかった。
「それに、この件に関しては誰も巻き込まないって決めているから」
「ふうん」
乱雑なため息をついた後、再度訊ねてくる。
「で?そいつ何してんだよ。今。お前がこんな状態に陥ってんのに」
「えっ」
そこで話は終了すると思っていたので、更なる追求をかけられたことに驚く。
「何してるって……彼は知らないもの。私が勝手に好きなだけだから」
「へえ。何だ。解放されたエインフェリアのうちのどいつかなのか」
「…そうよ」
「何だ話にならねえな」
鼻で笑うと、またこちらに向けて手を伸ばしてきた。
「これから殺される女置いてとんずらなんざどんだけクズだよ。そんなのと一緒にするな。俺は違う」
散っていった男エインフェリアの中の誰かだと勘違いしているようだ。
流石にまだこの宿屋に留まっている、これから再戦しようとしている相手だとは明かせなかった。

917:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:17:11 VLPTNd8a
「けど、ま、確かにあの黒いのと正面からごたごたすると面倒だな。
 殺る気ねえんならとりあえずこの場は脱しようぜ。別に今すぐ俺の女になれだなんて言わねえから」
「でもここを凌いだとしても彼は必ず追ってくるわ…」
困り果てて俯く。集中を要する状況にあるのに、気は既に乱されまくっている。
「エルド、ずっと待ち望んでいた解放じゃないの。私みたいな面倒持ちの女に関わらない方がいいわよ」
「面倒持ちの女に惚れたんじゃねえよ。惚れた女に面倒が付き纏ってんだ。仕方ねえだろ」
そのある種気恥ずかしいとさえ言える発言に驚いて顔をあげる。普段闇の濃い童顔は先程からずっと真剣に見えた。
「前世のこと、少しは悪かったと思ってるんだぜ。今回は幸せになってほしいんだ」
「……」
なお態度を硬直させるセレスに業を煮やしたのか、頭をがりがりと掻くと、
「あー、ったくもっとはっきり言わねえと駄目なのかよ」
彼女が夫にしか囁かれたことのないその言葉を吐いた。
「愛してる」
真っ直ぐに見つめられて言い切られてしまうと、流石に根底が揺らぐ。
「エルド……」
じっと見つめても表情も態度も変わらない。
正直セレスはこのエルドという男が苦手だった。
捕らえられ捕虜にされたことは勿論だが、残虐で陰湿、冷酷無比、しかも元暗殺者というある意味輝かしい経歴の持ち主。
生前の腐れ縁がなければ今だって確実に敬遠の対象だったであろう。
言動は気性の荒さを隠さず、主人であるはずの戦乙女にまでくってかかり、発言は常に半信半疑としか受け取れないものばかり。
この男に頼ることが果たして僥倖となるのかどうか。
だがセレスにはもう二度と、自分に好意を寄せてくれる人間を裏切りたくないという過去の負い目があった。
それを、今のセレスに他の仲間達が誰も声をかけず出ていってしまった事実が煽り、せめぎ合う。
目の前にいるのは今現在、たった一人、自分に手を差しのべてくれている男。
「…信じていいのね?」
状況も悪すぎた。
この突然すぎる告白が不穏に包まれ、まるで情熱のように思えた。
生真面目な上、生前の夫以外に男を知らない女は、相手の想いを自分の気持ちなんかより優先すべきだという結論に至ってしまった。
躊躇いがちに伸ばした手を重ねる。
「…お願い、するわ」
女の手を受けた男は小さく笑った。照れて俯くセレスに注ぐその笑みは微量だが、とてもどす黒いものだった。
「じゃとっとと行くか」
「えっ?ちょ……ま、窓から出るの?」
「はちあわせちゃ面倒だろ」

こうしてセレスは目前にまで差し迫っていた再戦からエルドの手を借り脱出した。
ふわりとカーテンが揺れて、宿屋の一室から人の気配が掻き消える。
静まった部屋に小さな舌打ちの音が響く。
唯一人、ドアの向こうで黙って会話を聞いていた男だけが取り残された。

数日が経過した。追ってくる気配はまるでない。
歩き通しの成果もあって件の街からはだいぶ離れたが、遠のくごとに心のもやつきが増す。
本当にこれで良かったのだろうか……。
「どうかしたか」
先を行くエルドに問いかけられてハッと我に返り、戸惑いを振り切る。
「いいえ。何でもないわ」
そうだ。私はこの男の手をとったのだ。
いつまでも別の男のことばかりでは失礼だろう。
手を差し出されたのに気付いて握手して応える。
「助かったわ。本当にありがとう」
感謝の微笑みを浮かべる女に同じく微笑が返される。
だがそれはとても冷酷な、嘲笑めいたものだった。
「ああそれから」
「何?」
「報酬はお前でいいから」

918:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:18:13 VLPTNd8a
時間が止まる。
一瞬、意味がわからなかった。わかりたくなかったのかもしれない。
エルドの言葉から害意と、そして性的な欲求を直感した時、表情が一気に強張り青ざめる。
全身を襲う泡立つ感覚に警報を発せられ、思わず手を引っ込めようとした。
動かない。
「な…」
「もう遅ぇよ。契約は成立してる」
仲間であったはずの死神は、そう言って笑った。
やっとのことで振り払うと数歩後退して距離をとる。
「契約って…」
「あんな棒読みの三文芝居に騙されるなよな」
恐れていたことが嫌味なくらいにはっきりと輪郭を現す。
嘘、だったんだ。
心の何処かで疑惑は蠢いていたとはいえ、衝撃と落胆を悟られたくなくて顔をそらした。
「…そう。まあただでは済まないとは思ってたけど。…ほんと物好きねえ」
「強がるなよ。真っ青だぜ」
見透かされている。
罠にかかった獲物を嘲っているのが手に取るようにわかった。
「大丈夫。大昔同僚だったよしみでサービスしとく。絶対にひでえことなんてしねえからさ」
「それはありがとう。でも」
キッと睨みつける。
「悪いけどそんな契約した覚えはないわね」
見慣れた悪意の立ち込める眼光と火花が散る。
この冷淡がまた己に向けられる日が来ようとは思わなかった。
「冗談。今更。斬鉄姫様ともあろう御方が命の恩人にタダ働きさせる気か?」
「お金なら……」
「話になるかそんなはした金」
先制されて、オースに手を回そうとした手が止まる。
「何が嫌なんだよ。気持ち良くなれて死体になるのからも逃れられるんだ。いい話じゃねえか」
小首をかしげる。本当にわからないといった様子を見せるのがまた恐ろしい。
「ふざけないで。…まったく、そんな魂胆があったのなら謝礼の必要なんてないわね」
「もらうモンはきっちりいただくぜ」
「……本当に話にならないわね。さよなら」
踵を返して早々に立ち去ろうとするも、
「おーい」
去り際、残酷なせせら笑いを背中に投げつけられた。
「逃げても無駄なのはわかってんだろうなぁ?」

嗚呼、やっぱり。
そういうオチがついたか。
月の欠けゆく闇夜にのまれる。
セレスは宿屋の一室で一人、寝台に腰掛けて俯いていた。
とりあえずは振り切ったが、近いうちに必ずまた目の前に現れ、要求してくるのだろう。
寝台の白い海をちらと見やる。
あの男と………?
思わず肌が粟立つ。
男など、ラッセン領主であった夫しかセレスは知らない。
温和で優しい変わり者。
エルドとは正反対の男。
「どうしよう…」
数日前の己の軽率さを恨み、不安まじりの本音を零す。

919:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:19:07 VLPTNd8a
何を血迷ったんだろう。
いくら不安で仕方なかったとはいえ、よりにもよってエルドの助力を仰ぐなんて。
数百年前を思い出す。嫁ぎ先のラッセンがロゼッタ王朝の侵攻によって陥落した夜。
捕らえられ拘束を受ける斬鉄姫の様子を伺いに、同僚を餌にし、さらに見殺しにするなどという汚い手段で勝利を得た青光将軍が現れた。
驚く程に小柄な男だった。多分実妹のフィレスほどしかないだろう。
だが醸す雰囲気は邪悪そのもので、流石将軍位までのし上がっただけの度量はあると感じられた。
近寄ってくると興味津々といった感じで視線で舐め回してくる。
『へぇ。どんな筋肉ダルマがおでましになるかと思ってたのに』
顎をつままれる。思い切り睨みつけても顔色一つ変えない。
一通り観察を終えると、その幼い顔立ちをぞっとする程の邪気で染めあげて嗤った。
『これはこれは……』
大きな目玉の奥で、明らかに雄としての狂気が揺らめいたのを見た。
予想はしていたので覚悟はできていた。
猿轡をかまされていないのは幸いだった。
これ以上触れてきたなら、舌を噛み切って―――
途端。
ばさっと音がした。
張り詰めた空気が一瞬で崩壊する。
エルドは舌打ちして「うるせえなわかってるよ」と吐き捨てると、気分を害したとばかりな粗暴な動きで部屋から出て行った。
唖然とするセレスを黒い鳥が一羽、静かに見据えていた。
それがゼノンの使い魔だということを知ったのは数日後だった。
顔を覆う。
嗚呼、本当に馬鹿だった。
あの男の執拗さと病的な言動をすっかり忘れていたなんて。
占拠したラッセンに常駐し、そのまま敵軍に囲まれ孤軍奮闘の末死んだので、生前直接会ったことは捕虜にされた時を入れても数回しかなかった。
それでもその度奇抜な言動をしてくれたので印象は強く残っている。
牙をむいて喚き散らしていた密偵の娘をずるずる引きずっていったかと思ったら、驚くことに数日後には腕に絡み付かせていた。
うっとりとした面持ちで、乞われるがままに情報を駄々漏らす娘。
そういえばあの娘はあれから一体どうなった―――
悪寒の大波に見舞われ、思わず自分を抱き締めた。
あの娘に起きた災難がこれから己に降りかかってくる。
もうゼノンはいない。
―――その程度で喚くなよ
例え難い恐怖が押し寄せてくる。
―――少し遊ばせてもらうぜ
台詞を皮切りに、獲物を凄惨にいたぶる姿が鮮明に甦る。
殺しを楽しめる者にしかできない壊れた笑い。
それが、これから自分に―――
目をぎゅっと瞑る。
閉ざした窓の外では欠けた月が無慈悲に光を落としているのだろう。
泣きたくなる程の重い孤独が身にしみた。
刹那。
突如ものすごい力が覆い被さってきて、なす術もなく寝台に押し倒された。
続いて、立てかけておいた剣が部屋の隅に蹴飛ばされた衝突音。
何かを口に放り込まれて塞がれる。吐き出すことも許されず飲み込んだ。
瞬時に真っ青になるセレスから手を離し、作戦成功の忍び笑いを浮かべる男が目の前にいた。
「よぉお姫様」
「エル……っ!!」
「いい夜だな」

920:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:20:14 VLPTNd8a
状況を把握して絶望する。
まさかその日のうちに襲ってくるとは思っていなかったせいもある。
心の何処かで背中を預け合った同士という信頼が残っており、会話や別の方法による解決を望んでいたからかもしれない。
そんなことができるわけがなかった。
己の甘さを瞬時に痛感し、後悔し、そして気付いた。
助けられたのではない。
再度その腕に囚われただけなのだということを。
「さぁてと。諦めな。もう飲み込んじまったんだから」
体内へと送りこまれたものの正体を聞きたくもなかった。
恐怖で歪む顔を数え切れない程映してきた碧眼。それが瞬くことなくセレスを見下ろしていた。
凶悪な眼光がぐっと近付く。
狩りを終えた者の勝ち誇る目。
「おっと…目をそらすなよ。気の強ぇお前の怯えきった目がたまんねえんだからよ」
強引に顎をつまんで正面を向かせ、笑いながら残酷な忠告をする。
「いいか暴れるんじゃねえぞ。こっちも下手に傷つけるようなこたぁしたくねえんだから。
 痕が残るぐらいに縛り上げられたくなけりゃ大人しくしてな」
「エルド……ッ!!」
「大丈夫。一回やっちまえばその気になるって」
とんでもない一言を漏らすと、
「じゃ、いくかお姫様」
ナイフを瞬時に踊らせ、あっという間に女の衣服を切り裂いた。
「な…っ!」
肌から滑り落ちようとする布切れを反射的に留めようとする女に、遠慮など皆無の男が容赦なく覆い被さる。
「ちょっ!!エルドッ!何す…っ!!」
拒絶は聞き入れられない。
合意すら得る必要がないとばかり、当然のように事を押し進めてくる。
「へえ」
顔を上げたエルドは、青白い光に照らされて本物の死神のように映った。
「白いな」
あらわになった豊かな双球の片方を手で包む。
真っ青なセレスの頬にボッと赤みがさす。
「や…やめてよ!!いや……っ!!」
必死になって逃れようとするセレスを嘲笑いながら、
「でけえし。張ってるし」
相手の意思などお構いなしに揉みしだき、冷たい笑みを薄く浮かべる。
「柔らけえ。感度も申し分ねえ。こりゃ大当たりだな」
「ちょっ!!」
「きめも細かい」
セレスの素肌に半笑いの唇を滑らせ、その首筋に小さく痛みを灯した。
「っ!!」
「赤が際立つ」
上半身にばかり気をとられていたら、手の平が内股にも蛇のように絡みつく。
「ひっ!!」
どうしても怯えが色濃く顔に出てしまう。
「やめて!!本当に嫌だってばっ!!」
迫り上げる恐怖。

921:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:23:32 VLPTNd8a
「――――ルドぉッ!!」
沸点に達したセレスの右手から強烈な平手が炸裂した。
打たれた衝撃により横を向いたまま、男は数秒間だけ動きを止めた。
だが、それだけだった。
くっくっと笑って、突然セレスの両手首を掴みあげてシーツに押さえつける。
「痛ぅ……っ!!」
「お姫様よぉここまできてちょっと往生際悪すぎじゃねえ」
鼻先での威嚇。血走った両眼はまったく笑っていない。
ぎり、とさらに力を込められて思わず悲鳴をあげる。
「もう一度しか言わねえからな。酷いことされたくなかったら大人しくしてろ」
「…エル、ド」
「立場自覚しろ。もう他に誰もいねえ。後ろ盾も何にもねえんだぜ。大人しく言う事聞いといた方が要領を得てるってもんだ」
現実はあまりに無情だった。
青ざめつつも抵抗の灯火を消す気のないセレスを下にして、に、と嗤う。
「終わってもその目してたら誉めてやるよ」
やめる気も、逃がす気もまったくないらしい。
「さあそろそろ喘いでもらおうか―――?」
おぞましい陵辱の宣言を跳ね除けることができず、セレスはただ目をきつく瞑るしか出来なかった。

頭がよく回らなかった。
媚薬を飲んでしまったのだ。しかもどんな効果の出るものかさえわからない。
逃げおおせたとして、その後どうなる。一人でまともに夜を越せるのだろうか。
身体的にはこのまま身を委ねていた方がいいのかもしれない。命までは獲られないだろう。
でも、嫌だ。どうしても嫌だ。こんな男となんて。
感情がごちゃ混ぜになり思考を停止させる。
心臓の鼓動が荒れ狂っている。
気持ちが悪い。
「う……あ…っ。くぅ…っ」
そういうしているうちにも淫事は進む。変な呻き声が喉の奥からあふれ行くのを止められない。
この男が喜びそうな声など出したくないのに。
「はあっ、あっ、ああぁ」
あまりに手慣れている。そんな男に撫で回されて身体中が熱を帯び、耐えられない程に疼く。
悩ましげな表情で吐息と喘ぎを紡ぎ、吐き出し続けるしか術はなかった。
抵抗したくても壮絶な力で組み敷かれている。
心のどこかで逃げられないことを悟っていた。
「んっ、んん…ああっ」
愛蜜は意思と反してあふれ、びくつき震える肌を伝う。
「や…ちょっと!!あっ、あぁっ、はっ……いや…っほんと…にっ、エルド、やめ…っ!!」
錯乱する精神は平常心を程遠く追いやる。
だが濡れたせつなげなため息と緊張に満ちた荒い喘ぎすら、圧し掛かる男には劣情の糧としかならない。
「無理しねーでもっと声出せよ」
「や…!」
「それじゃかえってそそるぜ?」
脚をさらに大きく開かされる。秘部に触れる空気の冷たさにぞっとする。
「ひあぁあっ!!」
体が大きく跳ねた。
まだ肌を守っていた下着の布を押し込めるようにして、入り口で指先が踊ったからだ。
「あっ、あっ…やだ…っやめて……」
常時怯えが震え声で出て行く。そのセレスらしからぬ声色がよりエルドを煽る。
「やめてとか言われてもこんなに濡らしてちゃ説得力ねーよ」
こんなに冷たい嗤い声は初めて聞いた。
今、その冷温は確実に自分にだけ向けられている。
「やあっ!!」」
体の中に進入してきた長い指が容赦なく蠢き回り、柔肉を蹂躙する。
「あっ!!やっ!!はぁっあああぁっ」
否定、拒絶。それだけが脳内を巡る。

922:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:24:27 VLPTNd8a
「エルドやめて…!!」
「やめてどうすんだよ。飲んじまったんだぜ?」
わかってはいるがどうしても嫌だった。
「そんなに嫌なら酒場の荒くれた男どもでも漁りに行くか?ならどうぞ」
「はあっ、は、はあっ、…」
ふっと上体を離されたので、必死に押し退けて逃げ出そうとしたが、直後に再度押し倒される。
「あ……っ!」
相手は勝手にチャンスを与えたくせに勝手に阻止して青筋を浮かべていた。
「おいふざけんなよ。俺一人より名前も知らねえ野郎どもに縋って輪姦される方がいいとかいわねえよな」
そんなことを問題にしているんじゃない。
「や…だ…っ」
再度開始される嬲りに弱くかぶりを振る。
すっかりパニック状態に陥っていて普段の冷静な判断ができない。
「エルド…!!」
全身で拒絶を訴えるが、獲物に夢中になっている男はその嘆願に勘付こうとすらしない。
「マジでエロすぎだろお姫様」
それどころか必死に抵抗するセレスを足掻かせて、悶え色付きゆく肢体を楽しんでいる。
「いやぁっ!!」
「いつまでもそういう態度してる方がいやでも乱したくなるんだがな」
下卑た薄笑いを浮かべ、下着を剥ぎ取ると女の脚をさらに大きく開脚させる。
「いやっ!!」
「動くな。何度も言わせるなよ」
拒絶の対応が面倒になったらしい。両手首を捕らえられ、まとめて片手で押さえつけられた。
「あ……っ!やだっ、やあぁっ!!」
腕に気をとられている隙に圧し掛かられ、体をがっちり固定されていた。
あらわになった肉芽の周囲を指の腹で何度もなぞられた後、尖るそれを優しく撫であげられる。
「んんっ、ひっあ…っ」
嫌で嫌で仕方ないはずなのに、快楽が体の奥から波打ってくる。
そしてゆっくりだが強く、ぐりぐりと押し潰された時、ついに限界を迎えた。
「ぁあああぁん!!」
反り返る身体に容赦なく唇での愛撫は続き、柔肌にいくつもの赤い小花が咲く。
「やらしい体してんな」
「もう…っや…」
屈辱と恐怖、そして後悔で精神は既に限界だった。
覆い被さる体を必死に押し退けようとするが、小柄とはいえ男、びくともしない。
むしろ小枝にしか見えなかった腕がこんなにも強靭だなんて思わなかった。
既に一糸まとわず、熱して汗ばんだ肌が獣の存在を受け入れられずに悲鳴をあげる。
本能的な危機を感じる。このまま身を任せていたら肉体はおろか精神まで毟られ、侵食される。
わかってはいてもただ翻弄されるしかない。
「いや…いやあ…っ」
窮地に追い込まれたセレスに、先程彼女の衣服を切り裂いたナイフが視界に入った。
没頭し愉しんでいるエルドはその凶器の存在をすっかり忘れている。
反射的に手を伸ばしたのに、それを使用した時相手がどうなるかを連想してしまい、一瞬だけ躊躇してしまった。
挿入されたのが次の瞬間だった。
雄の押し入ってきた感覚に、何かが切れた。
それは絶叫となる。
「やあああっ!!!!抜いてえっいやっいやああぁああああああああああああああああああああ!!!!」
最早狂人のものともとれる拒絶を叫び、半狂乱で腕を闇雲に振り回す。
「やだってばあぁあエルド、やだっ!!ひっ!!あっ!んああっ!!!」
ビクビクと感応しつつも自分に喰らいつく非情な男を剥がそうとして必死でもがく。
けれどいくら爪をたてても髪を掴んでも止まってはくれない。
燃えつくすかのように熱いのに、凍結するかのように冷たい。

923:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:25:37 VLPTNd8a
「いやあぁああぁああああああぁああああ――――――――――――――っ!!!!!」
爪がさらにきつく食い込んで皮膚を裂いても相手は表情一つ変化させない。
笑っている。
嗤っている。
正常からかけ離れた狂気のどん底で磔にされている。
気持ちが悪い―――
抵抗も虚しく、滾った情欲は非情に埋め込まれていく。
「あ……あ………っ」
かたかた小さく震えながら、自分の身に起こった取り返しのつかない事象を受け入れられず、
ただただ真っ白になって天井を見つめるしかなかった。
余裕ができたエルドから冷笑の貼り付いた顔をよせられる。
「痛くねえか」
犯している相手からの優しい声色が逆に鳥肌を誘発し、呆然自失状態から解放される。
「動くぞ」
だが肉体は解放の兆しすら与えられなかった。
体が異物に慣れたのを見計らって、ゆっくりと律動される。
「ああっ!!いやっ、あ……動かな、んあああぁぁっ!!」
嫌なのに、寝台のきしむ音、さらなる潤滑の蜜とともに、例え難い悦が生まれる。
「あああぁん!!やっ!!いやっ、やだああああああぁあっ!!!」
襲ってくる急激な快楽が理性と鬩ぎ合う。
「ああぁ、あっ――あ…?」
大粒の涙とともに諦めがあふれて来る中、昇りつめる一歩手前で動きが止まった。
理性とは間逆に、体が物足りなさを訴える。
「ねだってみな」
「そん…な…………っひ、ど………っ」
震える手が空を切る。エルドは恐ろしい程冷静なまま、疼きに焦る女を観察して嗤っている。
「言えよ。動いて、イかせてくださいって」
出来るわけがない。こんな、倒錯的な快楽なんかに屈するなどと。
「はあっ、はっ、エ…ルド……おねが…っ、早くっ、んんっ、やめ…てぇ…っ」
しかしこの疼きを何とかしてくれる相手は今、目の前にしかいない。
懇願の代わりに絞り出すような声が男の名を連呼する。
恥辱の獄に括り付けられて動くことすらままならない。あても無く伸ばした手が空を彷徨う。
その手を捕らえられたかと思うと、甲に口付けられた。
「大丈夫…」
場違いな優しい声色が耳をくすぐる。
「安心して俺んとこまで墜ちてこい」
「……」
この甘言を受け入れれば確かに楽になれるだろう。
だがセレスは散々酷いことをした後に急に優しくして落とす、この男の手段と本性を知っている。
そしてその後どうなるのかも。
とてもではないがその誘惑に乗るなどできなかった。
「強情」
必死に耐えるセレスをつまらなそうに罵ると、羞恥と煩悶で震える涙を舐めとる。
「まあいい。そんなすぐに抵抗しなくなっても面白くねえしな」
腰を固定し、体勢を整えた後、セレスの耳元で意地悪そうに囁いた。
「イかせてやるよ」
瞬間、腰使いが凶悪になる。濡れた体に遠慮など皆無とばかり思い切り突き上げられた。
「ひぁああああぁっ!!―――っ!!……………………」
あっという間の昇天だった。

924:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:26:26 VLPTNd8a
達した体から、ずりゅ、とそれが引き抜かれる。
虚ろな瞳には力の抜け切った女に満足し、口元を歪める男の姿が映っていた。
「何か言ってみな」
荒い息遣いしか出てこないことを嗤い、鼻を鳴らす。
「バカみたいにかわいい女だ」
陵辱の最後にゆっくり唇を奪われた。
墜ちゆくのを感じる。
おかしくなったのか。
何故か、甘い。

「おーいて。力いっぱいブン殴りやがって」
行為を終えた後は、人々を寝静めた深い闇夜にただ沈むだけだった。
エルドは打たれた頬と無数の引っ掻き傷に不満を漏らしている。
「あんま抵抗してるとかえってつらいんじゃねえの」
隣りで横たわる女にかける声は平然としていた。
彼が抱いた女は緊張と疲労、そして極度の衝撃でぐったりと放心している。
その状態に口元を歪め、解かれた紅い髪を指で梳いて、一束つまみ上げて弄ぶ。
「いい色だよな…飛沫あげる鮮血の色に近い」
同じ色をした小花は首筋を中心に、手をつけた証とばかりに全身に咲き誇っている。
彼女の熱の残る下半身には異物感が生々しく残留していた。
「あの斬鉄姫様が床じゃこんな可愛らしい御方とはな。さすがにこっちも超人並とはいかねえか」
違う。
――――抱かれたんじゃ、ない。
シーツを握る拳が震える。嘗て無い屈辱が重く圧し掛かる。
「こりゃ調教しがいがありそうだな」
思わず目を見開いた後に表情は歪み、シーツをさらに強く握り締めた。
共に死線をかいくぐって来た仲間からそんな台詞を聞く日が来るとは思ってもみなかった。
気力を振り絞り顔を上げ睨みつけると目をそらされる。
「何だよ何も悪いこたしてねーぞ今回は。縛ってもねーしクスリぶち込んでもねえし」
「薬…!」
「そう言っとけば逃げられねえからな」
愕然とするセレスを嗤う。
「解放されたばっかでそんな都合のいいモン持ってるわけねえじゃん。ただの干し肉の破片だ」
「あな……たって人…は……」
曝け出された真実に体内で怒りが暴れ狂い、ろれつが回らなくなる程だった。
あまりに残酷な仕打ちを受け入れたくなかった。
セレスを騙した男は普段と変わらずにやにやしている。
彼がきっちりと服を着たままなのが、通常の情交ではなかったことを証明していた。
指の背が女の頬を撫でる。
「身体の相性もずいぶんいいし」
『者』ではなく『物』を愛でる手つき。
「そんな睨むなよ。待遇はいいつもりなんだがなあ。俺はお前を結構気に入ってるんだぜ?」
半笑いで言われても馬鹿にされているようにしか聞こえない。
「けどよ、お前だって大概だろ?好きな男がいるのに他の男の手ぇとったんだから」
「……っ!」
それを言われると真面目な女は詰まる他できなかった。
そう。己の下した選択でこんな目に遭っている。それはわかっている。でも。――でも。
歯を食いしばるセレスを前に、エルドはごく平然と、不思議そうに呟いた。
「しっかしよ、自分殺そうとしてる男なんかの何がいいんだよお前」
セレスの心臓を掴み上げるような言葉ばかり口にする。
燃え上がる苛立ちから一転、今度はあまりの衝撃に真っ白になった。
この男、気付いている。
「流石お城育ちのお姫様はちょっと感性がイかれてるよな」
この男。
わかっていて―――
「ほんとに…最低……ね」
「そうか?俺は死ぬ程良かったぜ?」
握り締めた拳がぶるぶると震える。

925:女神(終焉BAD)
09/01/26 20:27:07 VLPTNd8a
「死ねばいいのに…っ」
「腹上死かよ。望むところだな」
ああ言えばこういう。口では敵わない。
何でここまで耳障りなのだろう。
付き合っていられなかった。セレスは寝台から飛び出すと、身支度を整え出した。
衣類は刻まれてしまった。素肌につけた鎧がひんやりと冷たいがそんなことに構っていられない。外套を腰に巻く。
「何処行くんだよ。俺まだ飽きてねーんだけど」
その言い草にかっと火がついて、問答無用で拳で殴った。
「さよなら」
殴られてもにやにやしている姿に悪寒が増す。一刻も早くこの狂気じみた監獄から脱出したかった。
ドアの取っ手に手をかける瞬間、背後から半笑いの謝罪が投げかけられた。
「よくなかったなら謝る。久しぶりだったから許してくれよ。明日はもっと優しくするからさ」
「何言って……!!」
勢いよく振り返り牙をむくセレスに、
「すっげえ気に入った」
押されもせずに鳥肌ものの台詞を吐く。
「いい加減にしてっ!!」
「それはこっちの台詞だ。あんまり俺を怒らせんなよお姫様?
 どこぞの誰かさんのおかげで逃げ回られんのが死ぬ程嫌いなのは知ってんだろ」
「…このまま好きなようにされるとでも」
「思ってる」
当然とばかりに答えてくる。
睨みあいが続いたが、エルドがそれを口にすることで緊迫は破壊された。
「二人がかりで輪姦されるより全然ましだろ?」
セレスの瞳が大きく見開かれる。
「二人…って……」
「まぁ気に食わねえ野郎でもやりたいことの方向が一致すれば、な。あんな単細胞言いくるめるのは簡単だし」
もう一人が誰を指すのか、それは流石に訊くまでもなかった。
つま先から頭のてっぺんまで凍りつく。
仲間だと思っていた男から乱暴を受け、脅迫されている現実。
逃げられない事実。
セレスの中で培ってきた何もかもが崩れ落ちていく。
「俺の女になれなんて言わねぇ。俺が飽きるまででいい。
 安心しろよ俺は飽きやすいからな、すぐだ――」
ぎし、と寝台を離れ、音もなく歩み寄ってくる。
幾多の標的を葬り去り血にまみれてきた手が顎をつまむ。
「ああ、孕ますようなヘマもしねぇから安心しな面倒だからな。変に抵抗すんならわかんねえけど」
男の目には濁った薄汚い光だけが妖しく灯っている。
「そういやああのムカつく魔術師はあろうことかエーレンの金魚の糞に殺されてくたばったよな。ざまあねえ」
ククッと嗤う。
ただ立ち尽くすセレスには、ファーラントとクレセントへの無礼すぎる発言を訂正させる余裕すらない。
「あんまりナメたマネしてくれるなよお姫様。忘れたのか?俺に捕獲されたんだぜ」
セレスの真横の壁に拳を打ち付けて、まさに命を狩る直前の死神の形相で凄んだ。
「タダで済むなんて思っちゃいねえよなぁ?」






今回は以上です。ありがとうございました。

926:名無しさん@ピンキー
09/01/26 21:02:43 Pb9Bre2C
ファビョニスキタ━━(゚∀゚)━━ !!!!!
鬼畜だ…だがそれがいい。
GJ!!続き待ってます。全裸で。

927:名無しさん@ピンキー
09/01/26 21:29:45 eeu5QCXR
おーファビョニス来たかお疲れさん
今回は鬼畜だけあってヒデェなw
さてどうやってプロローグの状態まで持ってくのかお手並み拝見
926と同じく全裸待機で待ってます

928:名無しさん@ピンキー
09/01/26 21:52:27 wd6JlVlM
ファビョニスまってたーーーーーーーー!!
それなら俺も全裸で待たねばならんな

929:名無しさん@ピンキー
09/01/26 23:27:18 J/iYM3l9
森谷吉博のアセンション・フォトンベルト投資詐欺商法の手口とは?
URLリンク(www.police.pref.kanagawa.jp)

ラエリアンムーブメントの森谷吉博
URLリンク(sportsnavi.yahoo.co.jp)

ラエリアンムーブメントとは?
URLリンク(life.2ch.net)
URLリンク(life.2ch.net)
スレリンク(charaneta2板)l50x
URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(news2.2ch.net)
URLリンク(hobby2.2ch.net)

(参考資料)衝撃!2ちゃんねるナンバー2★中尾嘉宏詐欺で逮捕
共同通信ニュース速報より 1997 05/06 18:17
北海道警生活環境課と札幌・中央署は六日、インター ネットを利用し
不特定多数の人 から金を集めていたとして、出資法違反(預かり金の禁止)の
疑いで札幌市厚別区もみじ台南七丁目パソコンソフト開発販売会社社長
中尾嘉宏容疑者(37)を逮捕した。
調べによる と、中尾容疑者は同社の事業として一月六日から二月二十五日まで
三度にわたりインターネットに開 設した「新春特別企画 ネット成金への道
 オーナー募集」というホームページで ダイヤル Q2の共同オーナーを
募集し、利用者十七人から二十五口計七十五万円を会社の 銀行口座に振り込ませた疑い。

930:名無しさん@ピンキー
09/01/27 07:10:29 jR/2mLxd
あんたってファビョニスはほんとに書いたのか…
ありがとう
続き待ってます

>>926-928
この寒いのに
ったくこれだから変態紳士の社交場は!

全裸でお隣に失礼します


931:名無しさん@ピンキー
09/01/27 15:52:29 3347k3NI
…ふぅ…



GJ!!
全裸待機の群れに加わって待ってます!!

932:名無しさん@ピンキー
09/01/28 10:37:14 FE0TwoZb
えろい!GJ
この組み合わせは経歴でどんなえろいことされたのかと興奮してたので懐かしい
鬼畜苦手だけど付き合えるとこまで待たせてもらう。全裸で。

933:名無しさん@ピンキー
09/01/28 21:25:23 qTWydlq2
全裸ばっかりかよww

934:名無しさん@ピンキー
09/01/29 10:48:22 WauCW3Zl
なら変態紳士らしく全裸に蝶ネクタイで待機

860と他職人様ももちろんお待ちしています

935:名無しさん@ピンキー
09/02/04 22:30:31 ghQteS55
靴下にネクタイの自分も仲間に入れて下さい

936:名無しさん@ピンキー
09/02/07 00:07:18 WC5zLXaq
いい加減レズ厨死ねよカス

937:名無しさん@ピンキー
09/02/07 10:54:18 4bkcakXC
フレイとレナスが抱き合うところで妄想してもいいじゃない

938:名無しさん@ピンキー
09/02/07 13:45:31 yTlYjtBR
そんなことより昔どこか読んだSO3でフェイトがシーハーツの種馬として隠密方に集団逆レイプされるSS探してるんだけど誰か知らない?

939:名無しさん@ピンキー
09/02/07 21:04:26 AqmbnU6f
百合もの投下きてたのか!このスレにしては投下ラッシュだな!と期待してしまったorz

940:名無しさん@ピンキー
09/02/09 00:13:00 8Swzdfv5
こんばんは>>907です
続きを投下させてもらおうと思ったのですが今回投下分が思ったより長くなってしまい
残りのスレ容量から微妙に多くなってしまいました
なので
新スレを立てる →このスレに落とせるだけ投下 →投下できなかった分を新スレに投下
という形をとりたいのですが、よろしいでしょうか
もしよろしければ
他の書き手さんが投下なされたり、次スレに関しての話し合いを要することがない場合
明後日の夜あたりにスレ立てと投下をさせていただきたいと思っています
勝手ながらどうぞよろしくお願いします

941:名無しさん@ピンキー
09/02/09 07:33:13 +EMKcNtL
乙です待ってます

スレタイにIU追加
他になんかテンプレ変更ある?

942:名無しさん@ピンキー
09/02/09 22:26:08 fBnl1fMn
>>941
使いきるあたりでSO4の発売が被る可能性があるからそこらへん考慮かな?
ネタバレ云々とか

943:名無しさん@ピンキー
09/02/10 00:25:26 UFcletY9
スレタイ
【SO・VP】 トライエースSS総合スレ6 【RS・IU】


テンプレ1
スターオーシャン、
ヴァルキリープロファイル、
ラジアータストーリーズ、
そしてインフィニットアンディスカバリー。

やりこみRPGの雄、トライエース作品の総合エロパロSSスレです。

㈱トライエース公式サイト
URLリンク(www.tri-ace.co.jp)

鬼畜・猟奇・百合・801・死にネタなどは不愉快に感じる人もいるため、
必ず投下前に予告してください(カップリングも予告する方が望ましいです)。
保管庫のあぷろだや黒豆板に投下してこちらにリンクを貼る方法もお勧めします。
読み手の皆さんは、不愉快な作品については自分で回避してください。

前スレ
【SO・VP】 トライエースSS総合スレ5 【ラジアータ】
スレリンク(eroparo板)

保管庫
2chエロパロ板SS保管庫
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現在、過去作品は「トライエース作品の部屋」「スターオーシャン3の部屋」 に収蔵

過去ログ収蔵
エロパロ&文章創作板ガイド トライエース総合
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関連リンク
黒豆板:URLリンク(jbbs.shitaraba.com)





関連リンクのうpろだとチャットは死んでるので削除した

944:名無しさん@ピンキー
09/02/10 00:28:51 UFcletY9
テンプレ2
保管庫の管理人さんは他スレのログ保管も手がけており
大変に多忙なので、
投稿される方は

タイトル
作品名(SO・VPなど)
カップリング
注意属性(グロなど)

を最初に明記されますよう、よろしくお願いいたします。




製品情報
URLリンク(www.tri-ace.co.jp)

スターオーシャン4
URLリンク(www.eternalsphere.com)

インフィニット アンディスカバリー
URLリンク(www.square-enix.co.jp)

ヴァルキリープロファイル2 シルメリア
URLリンク(www.square-enix.co.jp)

ラジアータストーリーズ
URLリンク(www.square-enix.co.jp)

スターオーシャン Till The End of Time DC
URLリンク(www.square-enix.co.jp)





リクSS投下中の職人にスレ立てさせるのも何なんで
これでいいなら今夜辺りスレ立てさせてもらう
訂正あるなら早めにお願い

945:名無しさん@ピンキー
09/02/10 14:54:40 OTQGNNAi
いいんじゃね?

946:名無しさん@ピンキー
09/02/10 19:37:06 UFcletY9
今日の23時半までに話し合いが必要になるようなテンプレ訂正なかったら新スレ立てる

947:名無しさん@ピンキー
09/02/10 20:17:38 uBvYsHsV
まだ立てるのは早いと思うぞ。
970か980で十分だろ。

948:名無しさん@ピンキー
09/02/10 20:37:18 OTQGNNAi
>>947
>>940

949:名無しさん@ピンキー
09/02/10 23:40:08 4K+Gpepb
>948
何レス必要なのかによるんじゃね?
このスレで吸収しきれるなら問題ないだろ。
まさか50レスも使うのか?

950:名無しさん@ピンキー
09/02/10 23:41:41 UFcletY9
新スレ
スレリンク(eroparo板)

951:名無しさん@ピンキー
09/02/10 23:55:00 UFcletY9
>>949
スレが落ちるのはレス数1000だけじゃなく
容量が500KB超えても落ちるんだよ
下にある赤い数字な、今俺が書き込んでる時点では446KBてなってるけど
ファビョニスは今回投下分でこれが500KB以上に達すると言っているんだよ
だから自分でスレ立てしますって言ってたワケ(俺が立てちゃったけど)

952:名無しさん@ピンキー
09/02/11 09:18:56 9ZBF1cSZ
>>907です
>>950さんスレ立て本当にありがとうございました

不明瞭な書き方をして混乱させてしまい申し訳ありませんでした
今後は気をつけます
時間があるのでこれから続きを投下させてもらいたいと思います
注意書きは>>907
NGワードは「女神(終焉BAD)」です

今回投下分は
精神虐待要素が強い上自殺寸前まで行きますので、苦手な方、回避をどうぞよろしくお願いします

953:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:20:10 9ZBF1cSZ
積み上げてきたものが大きな人間ほど、足元をすくわれると見事なほど簡単に崩れ落ちる。
陥れられた、その先。
強すぎる理性の持ち主には破滅だけが嬉しげに手招いていた。

闇夜に小雨が降っていた。
可愛らしい鈴の音が鳴り、田舎の小さな宿屋に久しぶりの来客を招き入れる。
少年と女。宿主の目には最初そう映った。
ご時勢もあるので軽く警戒しつつ、「いらっしゃい」と一応の挨拶を投げかける。
「ああ」
声を聞くと、男の方も女と同じくらいの年齢であることが察せられた。
男女の二人連れ。だったら用意する部屋は一つで十分だろう。
「ご一緒で?」
とりあえず確認の問いかけをしてみると、
「……別々で」
男からではなく脇にいた女から返答があった。
暗く重い注文だった。
明らかに様子のおかしい女。訳ありの不穏な匂い。
宿屋の主人は眉を顰めたが、対処の反応は男の方―――エルドの方の機転が早かった。
「迷惑はかけない。明朝早いうちに発つ」ときっぱり宣言し、有無を言わさず金を握らせる。
宿主はちらりと視線を落とし、握らされたオースが多めなことにほくそ笑むと、「それでは」などと至極簡単に懐柔された。
こんなものなのだな、と女の方―――セレスは心の片隅で思う。
一週間前に初めて乱暴された時の宿も、あれだけの大声をあげたにも関わらず、様子を見にすらこなかった。
その上宿を発つ際も挨拶にも出なかった。厄介者が早く出て行ってくれることを願っているばかりだったのだろう。
あの夜は窓もドアもがっちり施錠し閉め切っていたにも関わらず襲われた。
屋根裏等からの侵入を疑ったが、実際の経路は入り口のドアから堂々と、だった。
ケンカをしてしまった恋人と話をしたいから。
そんな安っぽい嘘をそのまま鵜呑みにし、いや鵜呑みにしたフリをして、宿の主人が金と引き換えに鍵を売った仕業だった。
旅人に義理立ての必要などない。
ただでさえオーブ不在で荒廃したミッドガルド。そうでなくても世の中のシステムとはそんなものなのだ。
エルドの方が何枚も上手、いや変わらない世の常を知っていた。
「こいよお姫様」
腕をひかれたので振り払う。
階段を登り切るまで、中年の宿主がねっとりした視線で羨ましげに舐め回してくるのが心底不快だった。
部屋に入り扉が閉まると、ここが今日の拷問部屋かと心が沈む。
兜に手をかけられてビクッと後ずさる。
頭部を保護していたそれをゆっくり取り上げられ、雨で少し水分を含んだ赤い髪が揺れたが、その向こうにある表情は更に冷たく硬い。
「脱がせ方覚えちまったぞ」
エルドはそれを嗤う。
「いいな。この、余計なモン取り外してく感覚」
セレスを守る甲冑が一つまた一つと剥がされ、その度に、ごとっ、と床に落ちる。
「……っ」
嫌で仕方ないのに、抗えない。未知だった屈辱は予想以上にセレスを萎縮させていた。
初めて乱暴を受けた夜、気を抜かずにちゃんと鎧を纏って剣の柄を握り締めていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。
そんな後悔をしたところで今更だった。
エルドはセレスから鎧を剥がせるだけ剥がすとそのまま寝台に向かい、腰を降ろして、
「こいよ」
依然戸口で立ちすくむ彼女を偉そうに呼びつけた。
無理やり引っ張ったり、寝台に投げ出したりなどという、自分の手を煩わせることはしない。
行動を選ばせる。もっとも選択肢はすべて強要的なものでしかないが。
「立ったまんまがいいならそれでもいいが?」
セレスからしたら論外でしかない下品な媾合も、この男なら本当にやりかねない。
渋々近づいてきたセレスの手をとり甲に口付けを落とす。演出のわざとらしさに虫唾が走る。
「何ぼけっとつったってんだよ。とっとと脱いで横になれ」
要求は率直だった。
迸る嫌悪を抑えきれない。服に手をかけて躊躇していると、男の声色が低くなる。
「あんまり焦らすならひん剥くぞ」
「……っ」

954:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:21:32 9ZBF1cSZ
自分は散々焦らすくせに。
そう反発を覚えつつも、また服を切り裂かれてはたまったものではない。
震える手で衣服に手をかける。
当然ながら言いなりになどなりたいわけではなかった。
だがこの男は気に入らない相手には本当に何をするかわからない。
それに加え、残念だが連れ出してもらっていなければ確実に死んでいたのは事実。
下着を外す。
欲望が満たされれば絶対にすぐ飽きる性癖の持ち主。特に女は一人に執着しない。
生前ゼノンに漏らされた愚痴。それだけが救いだった。
二度目の人生。先は長い。できるだけ無傷でこの災難を凌ぐべく、生存確率の高い選択肢を選ぶ他なかった。
「いい脱ぎっぷりだ」
嫌がっているのをわかっていてそう囃し立てる。
肌から最後の布が滑り落ちた。
肉感的な裸体が弱い月光に照らされ、波打つ白布の海に横たえられた。
惨めだった。
だが、二人がかりで―――それだけはどうしても、絶対に嫌だ。
気持ちをばらされて、そうだったのかよと、嗤いながら、など。
それだけは、どうしても。
「するなら早くして。…早く終わらせて」
「早く?」
顔の両脇に手をつき、ぎしりと覆い被さってくる。
「嫌だね」
「んっ」
乱暴に花唇をこじあけ、噛み付くような口付けをする。
歯列をなぞり奥を貪って、まるで獲物に牙を突き立てるごとくの情欲を示す。
「んむっ、はっ……」
そうやって開始の合図から既に耐え忍ぶだけの悪夢の時間が始まった。
糸を引いて離れた後に強く睨みつける。
「口付けなんて、しないでいいわ」
「何で」
「私のこと別に好きでも何でもないんでしょ」
おかしな要求をする女をしばらく半目で見下ろしていたが、いつも通り口元を歪めると、
「却下」
拒絶を叩き潰しにかかってきた。
ぐいっと水筒をあおったかと思うとそのままもう一度口付けられる。
「ぐっ」
強い酒が注き込まれて喉を焼いた。
「けほっ、げほっ!な……に……っ!」
「いつまでもつんつんしてんじゃねえよ。せっかくだから楽しもうぜ」
むせ返る裸体の女に圧し掛かる男も、構造のよくわからない服を手早く脱ぎ捨てた。
華奢で小枝のようだとばかり思っていた身体もしなやかに筋肉がついていて、男だということを強く認識させられた。
裸身が重なるのが死ぬほど嫌だった。
胸の柔らかみを揉みしだいて突起をつまみ上げ、いじり倒して堪能している。
しばらく上半身を弄ぶと足を割り、顔を埋めてきた。
「ん…んん」
淫靡な水音に頬が紅潮する。
指を挿入されるのも嫌だが、舌を駆使されるのももっと嫌だった。
太腿に伝った愛蜜まで舐め啜る。
生前だったら自刃を厭わぬレベルの屈辱を必死で堪える。
生き残ってしまった。己よりずっと後に生まれた小さ姫、今の王女であるはずの彼女が使命を完遂して逝ってしまったのに。
だったら、何としてでも生き抜いて新しい生を全うしなければならない。
腰を撫でていた手がふいに進路を変えて形の良い臀部をさする。
白桃と比喩してもいいそれの、さらに割れ目へと突き進み、
「こっち処女だろ」
蕾を優しく撫でてきたので思わず目を見開いた。
「やめてよっ!!」
有り得ない場所に触れられて、血走った目で蠢く片手を叩き落とす。

955:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:23:03 9ZBF1cSZ
「変態っ!!何するの!?」
冷静さを欠き、ささくれ立った精神は、まるで追い詰められて怯えて唸る獣そのものだった。
荒ぶる様子を男は残忍に嘲り嗤う。
「そんなこと言わねえでさ。やらせてくれよ。気持ち良くするから」
「いやっ!!」
憎悪の眼差しを心地よさげに受け止める死神。
「……普通に、やればいいでしょう。変なこと、…しないで」
「成程。お姫様的には普通にこっちにぶちこんでほしいと」
秘裂に指をつうと滑らす。
「ひっ…」
「斬鉄姫様ともあろう御方がそんなに怯えなくたっていいじゃん」
面白くて面白くて仕方ないといった様子だ。
「何かお前っていじめたくなるよなぁ」
「………っ」
「まあいい。やめといてやるよ。今はな」
今は。
言葉の意図を考えたくもなかった。
暗殺のための一手段として培われた巧みな性技を容赦なく浴びせてくる。
唇も下も両手も脚も、怯える女の上で触手のごとく這い回る。使えるところはすべて使って責め立ててくる。
「せっかくエロい声してんだからもっと鳴け」
囁く声さえ悪質な凶器。
ただ押し寄せる荒波をすべて受けるしかなかった。
「はあっ、はっ、……ああぁあっ!!…っは、ううっ…ん、くっ。んん……」
高低をつけ弛張する喘ぎ声は痛々しく、凍える吐息は閉ざされた空間に行き場無く吐き出される。
白い太股が絶え間なく溢れさせられる愛液で汚され続ける。
甘い毒に己を見失わないよう強くシーツを握り締めた。
何故こんな男の前で足を開いているんだろう。正気に戻ることは辛過ぎてできなかった。
「嘘つき…」
思わず小さく罵ると相手は嘲笑を色濃くした。
「あっ」
びくりと仰け反る。十分に濡れた入り口へ男根を押し当てられたからだ。
「……」
震える瞼を落とし、さらに耐える態勢に入ったセレスを嗤う。
挿入ってきた。
「あ…ぁああああっ…!」
何度も突かれてその度に声にならない悲鳴が上がる。
起こる摩擦の熱は至極不快でも、交わっている現実だけは残酷に思い知らされる。
最早どこから声を出しているのかさえわからない。
停止を忘れた機械のように壊れた音をあげている。
「あっ、ああん…あん、んっ、はあっ。あっあっあっ」
ぐりぐりと腰を押し付けられて飛びそうになる。
どうしても嬌声を留められないのが悔しかった。
肉体は魂の足枷―――今、心底からそう思う。
そうやって、高めるだけ高めておいて寸止めをされるのが、夫以外を知らなかったセレスには限りなく苛酷だった。
「んんっ…はあっ、はっ、んはぁっ…、早くっ、早くエルド…」
結合部からぞくぞくとせりあがってくる快楽に悶えるしかない。
酒のせいもあるのだろう。疼いて疼いて仕方ない。
「ああっ、は…ん」
「ほしいモンがあるならちゃんと言わなきゃ駄目だろ?ちゃんと強請らねえとやらねえぞ」
「や…あぁ」
くねる女体からは止め処なく潤滑の蜜が滴る。
「駄目っ、苦…し……っ、エル…ド………っ」
「ほら。挿れてください、は?」
「エルド……」
だがこの駆け引き自体は、玩具が壊れてしまうのを危惧したエルドの方が毎回先に折れる。
「っとにしぶてえな」
不平たらたらで突く速度をあげ、腰も大きく揺らめかせて回転が加わった。

956:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:23:55 9ZBF1cSZ
「あっ!?ひああああぁっ!!」
出来上がっている体は到達も早い。
終わった後に汗がどっと吹き出す。
毎回最後は必ず絶頂させてくれはするのだが、不安で満たされている精神では恍惚とは程遠い交わりだった。
そして達しても悪夢の終わりはこない。
間をおき、少し休んで落ち着いたのを見計らって再度覆い被さってくる。
「ちょ、ちょっとっ!?もう、や…っ!」
「次は俺の番だろ」
「なっ」
抱き方が更に手荒さを増す。
「あっ、いやっ、ぁぁああっ!!」
脚をぐっと倒されて受け入れたくないものがさらに深く挿入される。
痛いならまだいい。むしろ大きな快楽に変わるのが耐えられなかった。
「乱暴にした方がいい声聞けるな」
「あっ、やめっ…!んっ」
この時、激しく突かれた上に角度も悪かった。
先端が子宮に達したのに容赦なく突かれてしまったのだ。
「うああぁぁああああああぁあっ!!!」
内臓に衝撃を加えられた故のとんでもない激痛が走り、耐えようと思う間もなく絶叫する。
「あ―――ワリ」
流石のエルドも失敗を認める。責め立てるのを停止して、早々に自身を撤退させた。
「……」
痛みの波が余韻となって全身に響き、びりびりと痺れがとれない。
顔面蒼白でぐったりと横たわる女には生気が薄い。
「おい本当にわざとじゃねえぞ」
気まずく感じたのかエルドは故意ではないことを強調してくる。
ほんの少しだけ申し訳なさげに髪を撫でられた。
嬉しくも何ともない。逆に小刻みに震える肌が粟立つ。
「わりい。痛かったよな」
エルドがどうやってご機嫌を取ろうとしても、セレスには拒絶を続けることへの報復にしか思えなかった。
その無言が、欲情している男には都合よく映る。
慰めのつもりなのか豊潤の肉体を散々撫で回す。
そして弾力と温もりに埋もれた後で、勝手に我慢の限界を超えた。
「…ほんと、悪りいな。もう一回だけ」
戦慄したが、仕置きともとれる激痛を与えられた後で拒否など出来るはずもなかった。
歯を食い縛る。
身勝手な男は表面的なだけの拒絶の無を、勝手に了承として捉えた。
「お姫様は本当にいい女だな」
嬉しげに首筋へ唇を滑らす。
こんな時の褒め言葉は何度耳にしても馬鹿にされているようにしか聞こえなかった。
交わる度に恐怖と痛みの傷口ばかりが抉られ、嫌悪の記憶だけが濃密に積み重ねられてゆく。
エルドが多少は自重した為そこまで深くはなかったが、抜き差しを連続する行為は灼熱の悲鳴を呼んだ。
「あっ、ああ!!あああああああぁああっ――!!」
淫を含む水音。
狂気と隣り合わせの嬌声。
その音に含まれる艶に惑って、背徳を犯す男の何かがぷつんと切れたらしい。
「セレス」
動きが急に本能任せになり獣じみて止まらなくなった。
「あっ」
変貌を感じても下にされている女はついていけない。ただ、怯えて呻く。
「セレス」
むしゃぶりついてくる。
怖い。
ただ、怖い。

957:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:24:39 9ZBF1cSZ
精神が現実逃避して女の目を瞑らせる。
それでも狂おしい熱は追いかけてきて炙り上げる。
囁かれる、場に似合わぬ甘たるい呟き。
「好きだ……」
嘘だ。
牡獣が達するまでの短い時間、叫び出したいのを必死で耐え抜いた。
終わった後にぶちまけられた白濁液が腹をつうと滑っていく。
満足げに荒い息をする目の前の冷酷な男と、頼れる仲間であったはずの男が、どうしても一致しない。
「エル………」
呼びかけて、やめた。
いくら名を呼んでも無駄なのだろうと悟った。
仲間だと思っていたのはこちらだけだったことを思い知らされる。
恐怖と絶望で凍える瞳から大粒の涙が落ちた。
「…っとに、そそる泣き顔するな」
満足した男は女の為に後戯を丹念に行った。
繋がれたと自惚れていた。心さえも。
涙はただの快楽からくる生理的なものだと都合のいい解釈をしていた。
その一粒に閉じ込められているどしゃ降りの驟雨を理解しようともしなかった。
セレスは静かに壊れ始めていた。
圧し掛かられたままで何処に引きずられていくんだろう。
あとどれくらい闇の中で目を閉じればいいのか、見当もつかなかった。



気がつくとキセナ草原を歩いていた。
広がる大地と穏やかな海原。太陽の光が何の障害もなく降り注ぐのに、セレスの視界は暗い。
記憶がブツ切りにとんでいて道程をほとんど覚えていない。
この頃になると抵抗する力はほとんど絡め取られていて、ただ呆然と道を歩いていた。
感情を表に出すのが下手で溜め込んでしまう性格がまた悪循環を生む。
表面的には少々疲労が見える程度だったが、内側は既に繕えぬ程ボロボロだった。
セレスと真逆にエルドの足取りは軽い。はしゃぐ子供のように。
手に入れた玩具がいたくお気に入りらしい。
矢筒に巻かれた青い布がひらひらとそよいでいる。
身体的特徴を罵るのはあまり好きではないが、こんな小さな男に好き勝手されている現実を思うと殺意がわくのを止められない。
わくのだが、同時に何故こんな惨状に陥ったのかという原因――セレスはそれを己の落ち度と思っている――を考えると消沈する。
そしてその苛立ちと同じくらい悲しい気持ちも溢れてくる。
エインフェリア時代は彼の背後に回ることはほとんどなかった気がする。
いつも神がかった弓技で援護してくれたあの頃が嘘のようだった。
今は、暗くなる一方の表情にも、燃料だと思って必死に口にしていた食がついに細くなったことも、何も勘付いてはくれない。
この程度の存在だったのだな。ただ悲観に満たされる。
「グエェエッ!!」
ぼーっとしていたら頭上から醜く短い絶叫が轟いた。
セレスの足元に射抜かれた鳥の魔物が落下する。
ピクピクと絶命までの数分を過ごす魔物。
霧のかかった思考が、この生物に頭蓋骨をカチ割られた方がましじゃないのかと呟いている。
「礼くらいねえのかよ」
紫黒色の禍々しい弓をおろしたエルドから不満が漏れた。
無言で旅路に戻るセレスに舌打ちするも、
「ま、いいけどよ。そんじゃ夜覚悟しとけ」
嗤いを漏らしながら先に行ってしまった。

958:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:25:42 9ZBF1cSZ
エルドのしたことはどう考えても詐欺だった。
だがセレス一人ではあの場から去ることが出来なかったのはまぎれもない事実である。
けれど、ここまでして生きていて、何の意味があるんだろうかとも思う。
疑問と焦燥に苛まれたまま、あっという間に時間だけが過ぎていった。
一体何時終わってくれるのだろう。
潮風に吹かれて、失意に翳りゆく瞳から、一粒だけの涙が落ちた。



目が覚めると朝陽が射し込んでいた。
潮の香りが鼻をつく。
アリーシャが不安と共に門をくぐり、あの半妖精と出会った、始まりの港。
終焉した故郷の見える街。
セレスは消え行く街ゾルデに行き着いていた。
「着いたぞ」
数日前、声をかけられてふと顔をあげると、見たことのある街並みが目下に広がっていた。
「ゾル…デ……?」
「何言ってんだよ。とった経路でわかってただろ」
今更何を、といった怪訝な顔つきで腕組みされた。
呆然とした。
何故、よりにもよって、ゾルデ。
ゾルデと言えば祖国ディパンが近い。
復讐相手の足取りが途絶えたとなれば、あの人も情報を求めて必ず立ち寄るであろう。
とてもではないが逃亡劇の末に腰を落ち着けるような場所ではなかった。
「故郷が見たいかと思って」
優しげに伝えられた理由もつまらない嘘にしか聞こえなかった。
敢えて見つけやすい場所に捨てる、か。
やはり助けてくれる気など欠片もなかったのだと理解する。
だがもう双眸に虚ろな光しか灯らない女にはどうでもよかった。
やっとこの死神とお別れできる。
「…それ、じゃ」
ふらりと歩を進めると、
「おいおい今更つれねえこと言うなよ。もうそんな仲でもねえだろ?」
すぐに間を詰められて、すっと手をとられた。
何も食べていないのに吐き気がする。
何処かへ辿り着いたとしても、エルドから逃げられないことは薄々感づいていた。
終わりは彼が抱く自分への興味が完全に失せた時なのだろう。
手をつなぐという薄汚れた手錠をされたまま、ふらふらと街の中へ吸い込まれた。
空き家を与えられ、夜は同じように犯されて数日が経過した。
「……」
鮮やかな朝焼け。
きれいすぎて自分がいっそう惨めになる。
昇る太陽を見てこんな気持ちになる日がくるなどと思ってもみなかった。
日中、エルドが何をしているのかさっぱりわからない。
好きな時間にふらりと現れる。勝手なことをして、迫ってきて、いつの間にかいない。
セレスは虚脱感ですっかり投げやりになっていた。
もともと貞淑な女、通常の生活もできなくなる程に、与えられたダメージは大き過ぎた。
着いた先で犯されるために歩くような日々が延々続き、辿り着いた先でも未だ解放されないのだから無理もない。
籠の中の鳥を思い出す。
いや、鳥ならかわいい。私など、牙の欠けた醜い獣だ。
しかも檻の鍵はかけられていないのに、連れ戻されて折檻を受けるのが怖くて動けない。
……。
違う。
そうじゃない。
哀れな獣にすらなれない。
私は逃げ出したのだ。
立ち向かわなければならない現実から裸足で逃げ出した。

959:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:26:40 9ZBF1cSZ
そして深い森に迷い込んで、出られなくなった。
もう逃げ道はない。
俯いていると昼が過ぎ夕暮れがきて夜になり、自分にこの家を与えた主が現れた。
「ずいぶんと暗れぇな。無事に逃げおおせて気が抜けたか?」
不遜な態度は留まることをしらなかった。
顎をつままれる。
病的な笑みが映る。
もう振り切る気力もない。
そのまま接吻を受ける。
もう抵抗する余力も残っていない。
何故。
何故こんな男を信じたのか……
「…いや」
寝台へと誘われたので小さく身を引く。
「床の上がいいのか?俺はいっこうに構わねえが」
「も…いやだ……」
かぶりを振るも、
「いやだいやだってガキじゃねえんだから」
相手は真逆に、心からこの状況を楽しんでいる。
「しょうがねえな」
動こうとしないセレスを軽々と抱き上げて、ふわりと寝台に下ろした。
「………」
これからまた乱暴されるのかと凍えても、無力感の支配は強く、もう身体を強張らせるしかできない。
嫌だと言っても聞いてくれるような相手ではない。
口内を犯されつつ服の上から双丘をたっぷり揉みしだかれた後、はだけゆく胸元に冷気を感じて慄く。
いくら言っても無駄だとわかっているのに定期的に口が拒絶を示す。
「やめて…」
「そう言われてもなぁ。俺今お前にすげーハマってるし」
今日もまた男の傲慢が当然だと言わんばかりに覆い被さる。
近づいてくる嗤いが嫌で顔をそらすが強引に顎をつままれた。
「お前さ、嫌がってるフリするわりにはよく鳴いてんだけど」
退廃を誘う、奪い尽くすような口付けがとても嫌だった。
「ん、ふ」
「ちょっといじっただけで乳首もこんなになってるしよ」
胸の突起を指の腹で散々撫で回した後、ぐりっと押し潰した。女体が反応して反り返る。
「あんなエロい顔して散々いやらしくイキまくってたのに、今更」
仕込みあげられた体はエルドの思うがままに感じ、くねり、跳ねる。
「イイんだろ?そろそろ素直にならねぇ?お姫様。ほら」
「ぁああっ!!…………や…っ。あっ、はぁっ、も、やめ…て……」
おかしな薬よりよっぽど酷い。
望まぬ快楽は容赦なく投与され続け、精神と争って辛過ぎる煩悶と化す。
「そろそろ素直になれよ。もっとして欲しいくせに」
耳を穢す戯言の束に耐え切れず目を伏せる。
睨みつける気力もとっくの昔に費えた。
「…嘘つき」
小さな反撃も簡単に一蹴されるだけだった。
最近はただ天井をずっと見つめている。
自分と体を重ねている男の顔すらしばらくまともに見ていない。
背中に手を回したこともない。
まぐわっている時の互いの表情すら知らない。名を呼び合うことも、求め合うことも、微笑み合うこともない。
自分はずっと笑っていないけれど、相手はずっと嗤っている。
犯されているんだな、と現実を認識せざるを得ない。
だが意識を遠くにやろうとしても、長い指を付け根まで埋め込まれて反応しないなど無理に等しい。
「ひっ…。あっ、あ…ああん…。はっ……うぅ…ん」
悲しい程ビクビクと反応してしまう。
まさに犯すように、ゆっくりと中で蠢く。応じて、さらに愛液と喘ぎ声が溢れるのを感じる。
「ふぁっ…。んっ、あぁ…ん」

960:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:27:29 9ZBF1cSZ
じゅぷ、と音がして指が増える。その合間にも乳首に吸い付かれて硬くなった頂きを容赦無しに舐め上げられる。
気持ちが悪い。
歪む顔が懇願する。
「も…っ、やめ…て…」
「お前マジに可愛いな」
セレスの全身を舌技で悪戯しつつ、醜態を嗤う。
「いやなわけねえよな。こんな赤く腫らしといて。大したことしてねえのに毎回毎回すげー濡れてるし。
 なあ?もっといろいろやってみたらこのエロすぎる体は一体どうなっちまうんだろうな?」
耳元で卑猥な台詞をいくつもいくつも吹き込む。
快楽に溺れさせるためか、赤く色付いた肉芽をねぶるのは特に念入りだった。
「ふっ、んん…っ。あっ、はあっ、はっ。うん…っ」
愉悦を抑えきれずに腰をくねらす様子を楽しんでいる。
どんなに嫌でも触れられる度に艶っぽく彩りを増してしまうのは隠しようがない。
散々愛撫した後、次に舌で秘裂の内をかき回され、愛蜜を強く吸い上げられた。
「あ、ひっ!!いやぁああっ!!」
悲鳴じみた嬌声が喉を振るわせる。
「もうちょっと色気ある鳴き声にしてくれよ」
文句を言いつつも、ぴちゃぴちゃと舐めて濡らし急に吸い上げる行為を執拗に繰り返す。
女の抱き方も彼の粘着な性質を色濃く反映していた。
「ん、あっあっ…やめて…もういや……はあぁっ、んんっ!…っく、…もう…」
震える腕では抵抗にもほとんど力が入らない。
それでも、まさかこのまま延々と地獄が継続されるのではと恐れる精神が必死で別れを請う。
「…今日で終わりにして」
「何で」
「んっ、すぐ飽きるって、く……っ、言ったわ。もう二週間経った」
「素直になれって」
「だから……あっ、あぁあん!!はあっ、ぁあ…いや…いや、いや…、いやあっ、…っも、やだ……っ」
「っとに強情だなお前。じゃこいつでどうだ」
「ぁああぁあああああっ!!」
快楽を貪って、自分を陥れた男の下で身をよじり仰け反って高らかな艶声をあげる。
不快の只中で軽く達した主に悪魔が囁いた。
「わかるだろ?もう俺無しじゃいられねえ体だってこと」
「ふあ…っああ…」
男の思惑とは裏腹に、痙攣している女からは微弱な抗いが続いていた。
「いいけど。素直になるまで続くぜー」
襞を巻き込まないように気遣いながら男根を突き挿してきた。
貫かれる。
「やぁ…っ!!」
慣れた女体は意思とは真逆、あっという間にそれを飲み込んだ。
「ああっ…」
両胸を鷲掴まれたまま律動されると陵辱を受けているのを実感する。
「うぁあっ!あああぁあんっ、あん、あん…」
突かれる度に反応する己が至極情けなかった。
もう、いっそ、舌を噛み切って―――
「知ってるか?ここ絞めるとすげえいいんだぜ」
思考は遮断された。
火照りと蒼白が混じった彼女の首に指が絡みついたからである。
絶望する瞳に映る男は嗤っている
いつまでも嗤っている。
「………」
何を言っても揚げ足を取って実行するのはわかりきっていた。
来るであろう死と隣り合わせの行為を耐え凌ぐため、ぎゅっとシーツをつかんだ。
エルドへの感情はただただ嫌悪しか残されていなかった。
面白がって絞め殺してもそのまま嗤っているのだろうな。
本当にただの快楽人形にしか思われていない。
だがエルドは歯を食いしばるセレスに目を丸くすると、絡めた指をすっと解いた。
「冗談だって。本気にすんなよ」

961:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:28:17 9ZBF1cSZ
「……」
冗談。
命に関わる行為の提案を、冗談。
安堵なのか怒りなのかもうわからない。大粒の涙が数滴、震えて落ちた。
もう言葉を交わすことさえ恐ろしかった。どの会話が暴虐を誘うかわからない。
「おい冗談言ったぐらいでそんな怒るなって。つうか嫌なら言わなきゃわかんねえだろ」
嫌だと言ったら、必ずするくせに。
「悪かったって。ほら気持ちよくしてやるから」
侘びのつもりなのか、この日だけは過ぎた焦らしはしなかったので、障害なく昇りつめられた。
規則的に寝台が軋む。
「ああ、あっ…あっあぁ…ぁ…っ」
きっちりイかされた後に吐き出された白い暴力がセレスの胸元を汚した。征服欲を煽るのだろう。
「機嫌直ったか?お姫様」
「……」
「睨む元気あるならまだ大丈夫だな」
また、覆い被さってくる。
限界だった。
「も…許して…」
自分でそう懇願しておいて、何を許されるのかわからない。もうよくわからない。
もう、動けない。
残酷な愛撫を続ける手がふと停止した。
「…少し痩せたか?」
今更そんなことに気付く。
「ちゃんと食えよ。痩せるとこっから減るんだからさ」
豊かにふくらんだ片胸を柔らかく揉まれた。
比較しようのない汚辱を被る日々では、何度交わっても恍惚は訪れなかった。
嬌声は悲鳴まじりで痛々しく、支配欲に養った精神と心さえ蝕まれる。
地獄の終わりを月に願う。
「……いやだ…」
こんな情事になんて慣れたくない。
快楽と理性のギリギリを彷徨わされ、ただただ早く飽きてくれるのを待つしかなかった。
そんな時間が過ぎていくと、そのうち抗うのも馬鹿らしくなってしまった。



エルドからしてみれば、もうそろそろ心さえも手元に堕ちてくる頃合だと踏んでいたのかもしれない。
セレスの状態がその思惑とは正反対に進行していることを、かどわかした男は理解していなかった。
彼には自分が悪い蟲だという意識はまったくなかった。
裸体に喰らいついては正常を噛み千切って、そこら中に撒き散らかしているのを気付かなかった。
何度無理やり絶頂へ連れていっても、心を置き去りにしたままではただの地獄なのを、認めなかった。
撫で回す手のひらは熱すぎて女を爛れさせてしまっていた。
とにかく我慢強く耐えてしまうセレスには、快楽に墜ち果てることも許されなかった。
もらった命だと思えば自ら断つことも躊躇われる。
食欲はすっかり減退し華やかな顔立ちにも大きな陰りができ、精神を蝕み確実な異常をきたし始めていた。
そらした横顔は虚空を見つめ、言葉数も激減し、表情が失われていく。
透明感を纏っていた肌からは生気が抜け、鈍色に劣化した。
弱々しくも必死で抵抗していた両手も次第に動かなくなった。
真っ直ぐな眼差しも虚ろに濁り、常時俯いているようになってしまっていた。
そうやって一ヶ月も経たないうちに、最早カミール17将に数えられたかつての勇将には見えなくなってしまっていた。



呼ばれて隣りに座ると、古ぼけた寝台が聞き慣れた音を立てた。
さも満悦げな薄笑いが横にいる男に浮かんでいる。
やっと自分の言うことを聞くようになり始めた、などと勘違いしているのだろう。
エルドには右目に髪のかかるセレスの表情は見えない。
上機嫌で腰を抱き、首筋に口付けてから髪をかき分けて耳を食む。

962:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:28:58 9ZBF1cSZ
「やめて」
セレスの乾いた唇からお決まりの文句が零れる。
いつもなら構わずに事を進めるのだが、今日はとても掠れた小声だった。
普段の彼女の喉から出る凛とした音が死んでいることをエルドは訝しむ。
「おいずいぶんひでえ声だな。風邪でもひいたのか?」
投げかけられた質問を無視し、セレスは何故か脈絡のないことを、突拍子なく喋り始めた。
「私は本当に好きでいてもらえたんだと思ってた。
 そうよね。あなた女に人気あるものね。そうよね。女の方から寄ってこられる人だもの。
 私みたいな女に、本気なわけないわよね」
縮こまる身体がかたかたと震えだす。
「私…馬鹿すぎるわね……」
涙声とともに、膝においた手の甲に水滴が落ちた。
雨漏りでもしているんだろうか。的外れな思考がよぎったが、数秒後には己の落涙だと悟った。
既に精神も肉体も襤褸切れだった。
もう、心の奥から溢れてくるそれを耐えて留めることなど無理だった。
セレスはやっと、何百年かぶりに素直に泣き出した。
「…どうした。何だよ?戦乙女に捨てられてホームシックか?」
のぞきこんできたので嫌悪に任せて顔をそらす。
からかいではなく本気で言っている。ここまで空気の読めない男だとは思わなかった。
苛立ちも大きかったが、もう自分は駄目だという諦めがそれを上塗りする。
怖かった。
あの人を呼ばれてもっと酷いことをされるかもしれないという恐怖に苛まれ、どうしても逃げることができなかった。
もともとはあの人から逃げるためだったのに、何故こんなことに。
彼女の最大の誤算は、頼った相手への過剰過ぎた信頼だった。
「もう誰もいねえんだぜ。俺以外はな」
知ってか知らずか追い討ちをかけてくる。
言葉による足枷は透明だが頑強でずしりと重かった。
そうだ。誰も巻き込むつもりはなかったが、誰にも手を差し伸べてもらえなかった。
ゼノンもクレセントもエーレンも、友達だと思っていたソファラもキルケも、他の皆も。
ただ笑って去って行ってしまった。
再戦によって確実に死に至るであろう自分を残して。
本当は、誰も私のことなど心配していなかったのかもしれない。
「邪魔な連中が誰もいなくて言うことねえな」
耳障りな男の声が追撃を加える。
何もかもを削り上げられてしまっていた。
そんなセレスのどん底も知らず、愚かしい男は手中にした震える女をぎゅっと抱いて囁く。
「お前と、ずっとこうしたかった」
甘い言葉を与えたはずなのに、さらに縮こまり本格的に泣き出してしまった女に男は戸惑う。
「何だよ本当に。わけわかんねーぞ」
「うっ、うう。ふっ…」
「よくわかんねえけど、ほら――慰めてやるから」
押し倒されて硬直するセレスの唇に同じものを重ねられる。
丁寧な口付け。でもまったく嬉しくない。
涙をこぼす虚ろな目に、曝け出された乳首を口に含まれ、ねぶられているのが映った。
割られた足。いてほしくないのに存在する男。
いつも通りの気持ち悪い浮遊感を味わう。
「うっ、う……はっ、ああ…っく、…ぅん…」
当然だが強姦が慰めになるわけもない。哀れな女は止め処なく泣き続けていた。
耐え凌ごうと思いつつも自制が利かず、もうどうにもならない。
べたべたと震える肌を撫で回す手は、多少は気を遣っているのだろうという動きだった。
その小さな気遣いさえ嫌で嫌で仕方なかった。
「ひっ…っく、うう…」
「おいそろそろ泣きやめよ。こっちまで暗くなるだろ。なんかあったなら聞くから」
初めて見せる一面に困惑しつつも脚を持ち上げてくる。
「俺がいるだろ。何でも言えよ」
「……あ…っ」
深く挿入ってきたので、顎が仰け反る。

963:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:30:57 9ZBF1cSZ
「お前のこと、これからはもっと理解するようにするから。
 体の方もお前がもっと気持ち良くなるように、知るから。
 お前もいつまでも恥ずかしがってないでどうしてほしいのか言えよ」
恥ずかしがっている、とか。
失望が一段と増す中で、また深すぎる挿入で激痛を与えられるのではないか、十分に濡らされても
経験してしまった体は常に怯えている。
本当に、自分のような女を下にして面白いんだろうか。
面白いんだろうな。こういう男には。
どんな汚い手を使って捕らえた獲物でも手中におさめたことには変わりない。
なんせ、斬鉄姫、だ。
打ち負かし地べたを這いずらせて征服欲を満たすには申し分ない相手に違いない。
もうそんな肩書きなど当の昔に散ってしまったのに。
ただの女なのに。
だから手をとったのに。
本当にただの性処理用の道具なんだな、と感情が死んだ部分で思う。
ずっと一緒にいるような雰囲気を漂わせていても、過度の心配無用とばかりにもうすぐ飽きがくる。
近いうちに別れが訪れるだろうことはわかっている。
自分が生きているか死体になっているかは定かではないが。
馬鹿な女だったとそこら中で笑い種にするんだろうな。
その頃、私はどうなっているんだろう…………。
「あ…っ」
己を犯している男を感じて我に返る。
こんなに密着して熱を与えられているのに、どうしようもなく冷たい。
愛してる、か。
…有り得なかった。
「んんっ」
逃避する思考が数百年前に愛した男の元へ漕ぎつく。
ラッセン領主であった夫。
とてもとても優しい人だった。
政略結婚だった。
期待など何もしていなかった。
斬鉄姫などという珍獣を伴侶にしなくてはならないなんて、なんて可哀想な人。
夫婦生活はきっと上手くいかないだろう。
潔く表面だけの関係を受け入れるつもりだった。
そんなセレスをラッセンで待っていたのは、美しいだの私は果報者だの、気恥ずかしい言葉の洪水を
遠慮なしに垂れ流す風変わりな男。
夫は微笑む。
私のような女を受け入れてくれたのに――
自分が裏切った男の懐の深さと優しさを痛感し、いっそう沈む。
あの人の腕の中は幸せだった。
優しくて温かくて。
抱き寄せられてその胸に埋もれると、男の人っていいものだな、と初めて思わされた。
幸福に抱かれて意識がまどろむ。
そんな毎日だった。
あれから夫はどうなったのだろうか。
きっと、今度こそ良い妻を迎えて、幸せな生活を送ったと信じたい。
「……」
罪には罰。
だったら、これは罰なのだろうか。
そう思うと、では仕方がないか、というおかしな納得が、死んだ魚の目の中をよぎる。
それだけのことをした。
差し出された愛を捨てて、平和と統一の理想を求め、あの宮廷魔術師の下へと寝返り、無様に負けた。
本当に。
あの一騎打ちで、死んでいればよかった、な。

964:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:32:04 9ZBF1cSZ
そういえば。
何で、今、我慢してるんだっけ。
そうだ。
あの人を。
一騎打ちの相手を、呼ばれてしまう。
会いたい。
でも、もうこんな姿では。
力が入らないから剣も持てない。
もう、あの人にとっても、何の価値もないだろう。
じゃあ、何で…………
辻褄が合わない。
もう何が何だかわからない。
――考えたくもない。
今目の前にいるのは、夫でもあの人でもない。
気をやる寸前でいつも通り焦らされ、苦しい思いをするのだろうという現実がにやつきながら待っている。
生き地獄でしかない。
悲観にくれていると、危惧していた通りに寸前で焦らされる。
もう体の感じるところ全てを把握されているのだろう。
深いところで留まっている。締め付けられているだろうに、平然としている。
「あぁ…」
全身が火照って熱い。玉の汗が流れる。
「さて、俺もそこまで悠長じゃないんでな。よくしてやるからさ。今日は言えよ」
どうしてもおねだりを言わせたいらしい。
言葉で示される屈服を待ち焦がれているのがわかった。
これがまだ、見知らぬ男の蛮行だったら、どうとでも対処できた。
最悪なことにエインフェリアとなってから戦場にてずっと信頼を預けていた男だった。
これだけされてなお、満足したらやめてくれるのではないか、心の片隅でそんな考えが蠢いていた。
それがついに進出してきて理性とプライドを押し出す。
既に自尊心すら脆く崩れ始めていた。
「言ったら…これで終わりにしてくれる?」
泣き方と同じで、セレスという女には似つかわしい、幼い喋り方だった。
陵辱を行う主に半目で見下ろされながら頬を撫でられる。
「お前がそれでいいならな」
ひと時の安息でもいい。
この男から解放されたい。
「…じゃあ、言うわ。…約束…よ。守ってね」
「わかった」
幼いが邪悪のこもる顔立ちが嬉しげに笑う、それが嫌に悲しかった。
「そうだ、それでいい。素直になるのはいいことだぜ」
口付けを受ける。零した涙の味がした。
満足させればきっと終わる。もうそんな確定事項ですらない希望に縋りつくしか術は残されていなかった。
好きでもない男の下で裸身をさらし、胸を潰され脚を広げて、面白がる指で声を上げて。
必死に耐えてきた。足掻く力はもう残されていない。
どうせ。
もう、駄目になってしまっている。
ふるふると震える唇を開いて、
「…………挿れて、くださ、い」
言った。
「動いて、イかせ…ださい…もっと突いて……ぐちゃぐちゃに、…………かき回して、…」
足りないとか、もっと言えとか、催促を受けるのが嫌だった。
だから、今まで言えと促された卑猥な言葉を、思い出せるだけ、すべて口にした。
それはもう、悲しいとか、悔しいとか、浅い感情からくる言葉の綴られ方ではなかった。
本当に打ちのめされた人間ののどから出る、血反吐を吐くような、傷だらけの涙声。
「言ったわ…。早く……して」
尊厳は死んだ。必死になって感情を押し潰す。
繋がったまま。後は突かれてお仕舞い。
これだけしたのだからきっと守ってくれる。

965:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:32:46 9ZBF1cSZ
「早く…っ、…お願い…だか、ら」
約束。
「守って…………」
ここで評価し、優しく懇請を叶えてやれば、また違う結末が待っていたかもしれない。
彼女にそれを言わせたことの重みがわかっていれば、普通はそうするだろう。
だが根っからの愚かな男はここで欲を出してしまった。
「何だよそれ」
セレスの努力を信じられない程あっさりと踏み躙った。
「そんなんじゃ言ったうちに入んねえな」
それが崩壊の合図だった。
一つ要求をのんだらまた次がある。駄目になるまでこうやって弄ぶ気だ。
セレスにはそうとしか思えなかった。
心の中で、ただ楽になりたいがためだけに堕落を口にした己を罵った。
耐え抜いた日々がたった一度の躓きで全部無駄になった気がした。
愚かすぎる。
約束を守ってくれるような人間ではないと、わかっているのに。
二人は久しぶりに正面から互いの顔を見つめていた。
月明かり。
女の目の中は底無しの闇だった。まったく光が映らず、泣き腫らしたように真っ赤な目元をしていた。
そこから数え切れない程落とした涙の粒が、また落ちる。
「…そんな顔すんなよ。いじめてるみてえじゃねえか」
胸を締め付けられたらしい。慌ててセレスの頬に両手を添える。
「一言でいいんだ。な?一言くらい俺を喜ばせてくれたっていいだろ?」
生前星の数の女にそうしてきたように、質だけはいい声に甘みを足して促す。
「言ってくれ」
けれども、そんなもので女がみんな一律平等に落とせると思ったら大間違いである。
返答は狂ったものだった。
「殺して」
ドスのきいた拒絶。エルドがぎょっとして身を退かせた。
「…何言ってんだよ」
「もう、殺して」
「おい!」
「お願い殺して」
これ以上玩具にされたくない。逃れられないのならと幕引きを願う。
エルドは明らかに引いていたが、深呼吸すると勝手に気を取り直す。
「わかったわかったイかせてやるからもう喚くな」
やれやれといった感で体勢を整える。
焦らしたのでヒステリーを起こしたものと都合よく判断したようだ。
命がけの懇願を軽く流されて驚いたのはセレスの方だった。
「や…!嘘っ、もう、やだっ、話を聞………っ、ぁあ、ああぁあっ!!」
手首をとられ押し付けられると潤ったそこに熱い刺激が走る。
心は拒否していたが体はどうしようもなく欲しがっていて、挿入を悦ぶ。
「んんっ、うぅうん…やっ、いやあ、あああぁ、いやっ」
突かれて角度を変えられて揺さぶられて、呻く。
「やめてぇえ…っ」
心は拒絶していても、体はあっという間に達したのがわかった。
引き抜かれた後はいつも通り、肌に情欲を撒き散らされる。
「ほら良かっただろ」
「う…うう…」
自分では優しくしてやったつもりなのだろう。セレスの態度に、ほんの少しだけ気分を害した素振りを見せた。
「何だよ殺してって。そこまでいくとドン引きだぞ」
咎めを受けること自体が信じられなかった。
ついに死を望んだことさえ、この男の耳には戯言としか届いていない。

966:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:33:49 9ZBF1cSZ
涙が溢れ出そうとするのを必死で堪えたが、つらくて勝手に溢れていく。
ひたすらに惨めだった。
「何だよ具合でもわりいのか?」
萎びるセレスの姿が理解できないのか、ばつが悪いとばかり頭を掻く。
「そういう時はちゃんと言えよ。言えばしねえよ」
それはまるで合意の上、恋人同士の褥のような発言だった。
これだけ残酷な仕打ちを続けている口が、平然と『普通の情交だろうが』を垂れ流す。
「どうしたんだよ――」
髪を撫でられた時にぶちっと切れた。
「触らないでっ!!!」
腹の奥から出てきた、それでいて絹を裂くような獣の怒声だった。
空間が静まりかえる。
「…気に入らなくても、約束は約束だわ。…ずっと我慢した。もういいでしょ。これだけ、踏み躙れば、もう」
セレスの突然の変貌に目をぱちくりさせてきょとんとしているエルド。
「う…ううっ…」
ひび割れて原型をとどめるだけの心が軋む。
「すぐ飽きるって言ったのに。……だから…我慢したのに…どうして……」
自然と恨み言が零れてしまう。
ぽかんとしていたエルドも流石にむっとしたらしい。
「我慢て。どこが我慢してたんだよ。すげーよがってたくせに」
今のセレスにその追い討ちは過酷だった。
「…そうね。私は、どうしようもない淫乱だわ。それで、いいんでしょう」
認める返答は棘だらけで冷え切っていた。
それは何もかもを諦め尽くした肯定だった。
「好きな、人が、いるのに。私、汚れてる。私…もう……」
「おい何なんだよ。いいだろ?毎回お前優先ですげーよくしてやってんだから」
「……………」
セレスはそれきり、身を丸めて泣いているだけの状態になってしまった。
エルドは身の置き場が無いとばかりに目を泳がせ、悪態をついた。
「ったく色気もクソもねぇな」
思い描いていた堕落像とあまりにかけ離れているせいだろう、焦燥が見える。
明らかに自分の手中には堕ちてきていないからだった。
エルドが騙した女は墜落した。
だが受け止められるのを拒絶して、壊れてバラバラになってしまった。
彼はそれをまったく理解していなかった。
セレスは自分がもう終わってしまっていることを自覚した。
気まずい空気がこもったまま、窓の外はだんだん白んでくる。
咽び泣く声もだんだんと小さくなり、消えた。
秀でた将軍だったはずの女の背中はひどく小さく見えた。
エルドはわざとらしいため息をついた後、投げやり気味に言葉を吐き出す。
「悪かった。そんなに嫌ならもう焦らしたりしないから機嫌直せよ」
口だけの謝罪は、仕方がないから我儘なお姫様に譲歩してやると言わんばかりの傲慢なものだった。
当然ながら返事はない。
居心地の悪さと返答をもらえない苛立ちに業を煮やし、
「おいってば」
女の肩に手をかけた。
ごろん、と何の抵抗もなく仰向けになる。
男の目に、いつもは逸らしていてあまりよく見えない女の表情が入った。
瞬時、男の目が大きく見開かれる。
夜の帳という魔法が解けると女の肢体は急激に変化した。
焼け付くかのような鮮やかな緋色の髪は力なく布の上に流れ堕ち、光の射さない瞳はただ天井を映している。
「お、い………」
衝撃に、ごくりと勝手に喉が鳴った。
「な…んか、また痩せねえか…お前…」
目の下はクマがぶ厚く、口元はだらしなく緩んでいてまったく彼女らしくない。
ここまできてエルドは、セレスの様子がおかしいという現実を漸く受け入れ始めた。

967:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:34:27 9ZBF1cSZ
「セレ…ス?」
エルドの血の気をなくした顔からどっと冷や汗が吹き出す。
「セレス?」
ふざけて『お姫様』と呼べる空気は既に無かった。
「セレス、おい」
肩を揺さぶっても名前の主からの反応はない。
「ちゃんと食えって言ってんだろ。食いたいもんあるなら何だって買ってやるから」
食欲を失わせている犯人であることに、やっと気付いたらしい。
認めたくなかったのだろう、大声を張り上げる。
「おいきいてんのか、セレスッ!!」
数秒後、虚ろな女の唇が、僅かに細く開いた。
「髪には……」
「何?」
「髪にはさわらないで……」
消え入りそうな懇願だった。
必死になっていて気付かなかったようだが、エルドは長い赤髪を束にして握っていた。
「…何でだよ。理由は?」
訝しげな表情を浮かべる男に説明する気にはもうなれなかった。
「…お願い」
ただ、そう頼んだ。
「お願い……」
潤む瞳は必死だった。
だが身勝手な弓闘士には、彼女に完全に拒まれている事実を認めることが、どうしてもできなかった。
「理由がわからねえんじゃ聞けねえな」
そう言って束に口付けた。
セレスは心のどこかでああ、やっぱりそうだろうなと納得する。
そんなささやかな頼みごとさえ聞いてもらえない関係なのだと、今更だと感じつつも悟ってしまった。
「きれいな髪だ。触るななんて言うなよ。な?」
ご機嫌取りとばかりに甘く優しく口付けられる。
おぞましさが走った後、そこで、ぷつりと切れた。
ついに忍耐の限界を超えた。

混沌の調べが彼女の旋律を叩き壊すまで、ゆうに三週間。

本当に大事に思うなら、エルドは気付いてやるべきだった。
蝋燭の炎が最後に強く燃えるような。
落日が消え入る一瞬強く輝くような、そんな号泣の理由を。
今まであっさりと自分に体を許した女達とは違う種類の女だということも、
拷問に近い虐待をしていたことも、
判断を誤ったことも、愚かな男には理解できなかった。
犯されるのが回避できないのなら、どんな小さな頼み事でもいいから、自分の言うことを聞いてほしいと
願う女心がわからなかった。
もう彼女には何も届かないことを気づこうともしなかった。
花を無理やりに咲かせた代償がどんなに重いものか。
彼の最大の誤算は、強すぎた自惚れと、セレスが心の中にいる男を真剣に愛しているという事実だった。



調達できる限りの食糧を抱えて男が戻ってゆく。
こぼれ落ちそうな程の量は、彼が一夜で爆発的に抱かざるを得なかった不安の大きさに比例していた。
あの日。女を手に入れたその日から、男はずっと楽園にいた。
熟れて食われるのを待っていたかのような、甘ったるくて肉感的な体。
ずっと触れてみたいと思っていた女の肌の上―――
少し酷いことをしたのは最初だけのはず。
色々としてみたかったができる限り優しく抱いたし、顔をのぞきたかったが、あまりしつこくしないようにした。
睦言も常時与えている。
惚れてないなら口付けるなと睨まれたので、星を降らせるように口付けた。

968:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:35:30 9ZBF1cSZ
抵抗は弱いし、重なる度にとても感じている。良い鳴き声も聞けている。嫌では決してないはず。
これだけ大事にしているのだから、言葉などにしなくてもこちらの気持ちはわかるだろう。
もうすぐ訪れる邂逅の時。そうしたらいろいろ進展もできる。
落ちれば。
笑うだろう。
理解はできないが、あんな男ごときに注いでいた情熱を、夢の中でしか見たことのない笑顔を、丸ごと自分に。
嫌がるそぶりを見せていても本当は悦んでいるのだ。
そう、ずっと思っていた。
つい小一時間前までは。
現実は容赦なく矢の雨となって降り注いできた。
腕の中には彼女がいる感覚はない。それを否定したくて作る虚像はあっさりと溶け消えてしまう。
誰か嗤っている。
恐らくあの歪んだ異世界でヴァルキリーに消滅させられたのであろう、未来から落とされた狂気の塊。
正体が晒される以前から時折滲み出る本性が気色悪くてたまらなかった、あの魔術師。
眼鏡の奥から『同類』の必死を心底から嗤っている。
苛立ちかぶりを振ると、途端に彼女の惨状がよみがえる。
喘ぎ声がいつまで経っても悲しげだったことも、背中に手を回されたことがないことも、
そう、あの日から一度も笑ってもらってないことも。
思わず帰路を加速する。
まさか。
まさか
まさか本当に嫌だったのか
ずっと一緒に戦ってきた仲間なのに
それに
…それに、
好きだって、ちゃんと伝えたじゃねえか
息を切らして帰宅すると勢いよく扉を開けた。
「おい、早く何か食……!」
言葉が途切れた。
目の前に広がるのは、血だまり。
衝撃が喉をつこうとした次の瞬間に、視覚が正確な情報を脳に届ける。
その紅をもたらしている正体が血液ではないことを判断する。
それは切り落とされた彼女の髪の毛。
それが赤い海を作っていた。
代償に、頭部には少量の毛髪しか残されていない。
切る時に皮膚まで裂いたのだろう、本物の血が流れた跡がある。
「セレスっ!!」
駆け寄って膝をつき、
「誰に…っ!!」
怒りを露わにして犯人を聞き出そうと二の腕を掴んだ。
だがその凶行は他人の加害ではなかった。
ナイフが被害者であるはずの女の手に握られていたからである。
「…セレス」
愕然としたまま搾り出すような声で名を呼んでも返答はない。
その日からセレスは何もしゃべらなくなった。

無理やり凭れ掛かっていた。
女が潰れて地べたに投げ出された時、泥まみれになった男はやっと気付いた。
何のことはない。
女を踏み台にして作った薄っぺらの楽園がはらりと散った。



エルドと言えど、流石に女が衰弱していく様子を楽しめるような性癖はないらしかった。
常時浮かべていた余裕の冷笑は現実に叩きのめされて欠片も残っていない。
逃れようの無い死から助け出したはずの女は、食べるものも、言葉も、ほとんど口にしなくなっていた。
豊麗の肉体が短い期間で嘘のように削げ落ち、か細く貧相に成り果てた。

969:女神(終焉BAD)
09/02/11 09:36:25 9ZBF1cSZ
廃人寸前の女に水が差し出される。
「水だけでも飲め」
「…」
何も映らない瞳。こけた頬。憔悴しきった姿。
艶やかだった唇の紅は失せ、死んだ紫に変色していた。
寝台があるのに部屋の隅で毛布にくるまっている。
寝台で横になるのが嫌だった。時折、与えられ続けた地獄が不意に甦ってくるからだ。
水を与えようとしている男が業を煮やして口移しで飲ませてくる。
「んっ」
だが酒を飲まされて犯された悪夢が脳裏に焼きついてしまっているセレスは、反射的に吐き出してしまった。
「くそ…っ」
げほげほとむせているセレスに苛立ちながら、死神は顔にかかる髪をかきあげる。
仕草にはもう一粒の余裕も見当たらなかった。
奪った命は星の数だが介護などしたことがない。慣れない対応への緊張と疲労でエルドも限界だった。
男の気持ちは女にはもう伝わらない。
すべてが淀んでいた。
小刻みに震える女の肩が痛々しい。
「…何が気に入らねえんだよ」
精神の崩壊は着実に進み、生気さえ残酷に奪っていく。
「おいいい加減にしろよ!!全部俺が悪いみてえじゃねえかっ!!」
悪くないつもりらしい。
脳内では既に正当な取引だったという図式が出来上がっているのだろう。
「別にひでえことなんて何もしてねえだろ!?一度…一度だけ失敗したが、それだけだ!!
 むしろずっと大事にしてやったんだぞ!?あれだけあんあん啼き喚いといてふざけんなよッ!!」
ぼうっとしている。
牙をむいて怒鳴られても、何を言われているのかよくわからない。
「おい………まさか陵辱されたとか思っちゃいねえだろうな」
していないと、言うのか。
「その泣き方やめろっ!!」
そう怒鳴られても落涙している感覚さえ既に無い。
「そんなに嫌ならちゃんと言やいいだろうが!!こっちだって言われなくちゃわかんねえよッ!!」
言い草はすべて、まるで合意があり、和姦の末こじれただけのように感じられた。
何度。
何度拒絶しただろう。
どの魂の叫びも本気ではなかったとして、たったの一つもカウントする気がないのだ。
「なあっ!!返事しろよ!!」
何もかもが強い女だとでも思っているのだろうか。
「………返事してくれよ」
彼にとって自分は普通の女であってはならないのだろう。
「頼むから………っ」
珍獣はそうでないとおかしいのかも知れない。
強姦でも動物のように喘いで、求めて、悦ばなければいけないのだろう。
もっと、もっとと猫の発情期のような嬌声をあげながら強請らなければいけないのかもしれない。
無理だ。
剣も鎧もなければただの女なのに―――
「セレスッ!!」
大声で怒鳴られる。
これだけしておいて、思い通りにならなかったからと怒っている。
――こんな男の手をとったのだな。
己がいかに世間知らずで愚鈍であるか、その自覚が、またセレスを追い詰めてゆく。
「しっかりしろよ―――おい、斬鉄姫っ!!」
こんな時に、その二つ名で呼ぶか。
あちらも意地になっているのを感じる。
あの人に斬り捨てられるか、このどん底か。
果たしてどちらが良かったのかなんて、もうわからない。


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