08/02/24 10:32:43 ANp+Yi6A
その日の朝、元老院から使者が訪れて姫の身柄の移送が決定された事と、その際に護衛隊が
この修道院へ派遣されて来る旨を告げた。
オーボンヌ修道院長シモン・ベン・ラキシュはこの突然の報せにわなないた。
とうとう姫が―ここを去る時が来てしまった。
いつかその時が来るとは思っていたが、やはり戦乱の兆しが見える今、避け様の無い成り行きであろう事は
想像に難くない。
しかし、幼い頃からその成長を見守ってきた姫がいない日々を過ごすなど、シモンにとっては
人生の彩を失うに等しい悲しみに感じられた。
妻を娶らず、子を成さなかった自分が我が娘の様に愛情を注いだ姫があと十日も経てばここを去ってしまう。
おそらくはこれが今生の別れ。せめて老い先短い自分が存命の内はどこにも行かずここにいて欲しいと
切に願っていたのに。
この後も転々とした末に御身が無事であればいずれ政治の道具として政略結婚をさせられるだろう。
結婚。初夜。そして夫と定められし男から破瓜の痛みをもたらされ―
耐えられない、限りなく優しく触れてやらなければ壊れてしまいそうな危うさを湛えた姫が男に組み敷かれて
痛みに涙するなど!
聡明なる老人は失意のあまり、長年に亘って己の中に潜んでいたドス黒く歪んだ欲望を正当化し始めた。
……それならばいっそ、この私が姫が苦痛を味わわぬ様に無痛の破瓜を! 甘美な眠りの中で安らかな破瓜を!
その日の晩、夕食を終えた後になってオヴェリアはシモンから十日後の移送の件を知らされた。