07/11/07 23:33:28 mJ7zga9y
<私が私でいられる時>・7
目が覚めたとき見えたのは、白い天井だった。
記憶にない、模様。
(ああ、そうだ。○×市のホテルに泊まったんだっけ)
自宅から電車で数時間のところにあるそこは、夫のコンサートツアーの会場がある街だった。
昨晩、準備のためにここにやってきて、夫と合流し、
ホテルで彼の世話をして、一緒に泊まった。
午前中、打ち合わせをする夫に秘書役として付き添い、雑務が終わった後で分かれた。
ホテルに置いてきた自分の荷物を回収しに戻り、疲れを感じてベッドで横になったが、
そのまま少し眠ってしまったらしい。
時間は、正午を過ぎていた。
(帰らなきゃ)
スーツについた皺に眉をしかめた。
身体が鉛のように重い。
疲労感がどうしても取れなかった。
特に何をしたと言うわけでもない。
逆だ。
何もしていないから疲れる。
そんなことがあるなんて、思っても見なかった。
今の夫と結婚して、この生活に入るまで。
娘─綾子が小学生の頃、最初の夫が死んだ。
病気とわかって、すぐに。
闘病生活さえ、ほとんどなかったあっけない死は、
しかし、私と娘の生活を変えるには十分すぎる出来事だった。
最初の夫とは、見合い結婚だったが、私はあの人のことを愛していたし、
あの人と、あの人との間に授かった娘との三人の生活も愛していた。
だがそれは、一瞬にして崩れ去ってしまった。
私、石岡美和(いしおか・みわ)……いや、今は龍ヶ崎美和の幸福は。