【高津カリノ】WORKING!!エロパロNo.5at EROPARO
【高津カリノ】WORKING!!エロパロNo.5 - 暇つぶし2ch500:39『もう一度』
10/04/15 03:06:46 +ldJrd50

二人とも、笑い疲れ、当初のテンションを保てなくなった頃、
「お、怒ってる?」
伊波がイスからにょきっと顔を出した。
小鳥遊はさっきの接触を思い出して赤くなりながら、
「…い、いえ。事故ですから」
目をそらして、一番無難な答えを返した。
「う、うん…」
なぜか、気落ちしたような気配。
それから伊波はイスの陰に顔を隠して、
「ご、ごめんね…」
それだけを呟いた。どこか悲痛な声だった。
小鳥遊は罪悪感に駆られ、
「い、嫌だった訳じゃないんですよ。ただ、びっくりしたというか…」
あわててフォローの言葉をつむぐが、
「…うん」
沈んだ声音は戻らない。
だから小鳥遊は、何も考えずに、不用意に、こう、言ってしまった。

「そ、そういえば、もう一度触ったらどうなるんでしょうね!?
まさかまた、キスされたりとか…あ!」

失策を悟り、あわてて口をつぐむが、時すでに遅し。
その言葉に、伊波はビクッと大げさなほど体をこわばらせる。
そして、
「…………」
伊波は顔を真っ赤にして、無意味にきょろきょろと、室内を見渡したあと、
「…ったら」
「え?」
顔を隠したまま、小鳥遊にだけ、やっと聞こえるような小さな声で、

「だったら、ためして、みる…?」

決定的な、言葉を吐いた。

501:40『何より早く…』
10/04/15 03:10:17 +ldJrd50

引き寄せられるように、伊波の手が、小鳥遊の手が、伸ばされる。
あと少しで手が触れて、答えがわかる。
そんな、決定的な一瞬が訪れる、そのさらに、一瞬前。
「小鳥遊、くん…?」
小鳥遊はスッと、自分の手を引きもどした。
それを、拒絶と感じた伊波は、
「…ご、ごめん、ね。やっぱり、嫌だよね…」
いそいで手を引っ込めて、精一杯の愛想笑いをする。
だが小鳥遊は、どこか戸惑ったような顔をしていて…。
「あ、いえ、そうじゃなくて…。
まあ、単純に殴られたくないな、っていうのはあるんですけど…」
「う、うん…」
だから伊波はそれだけ相槌を打ち、小鳥遊の言葉を緊張した面持ちで待つ。
それを確認してか、小鳥遊は、自分の中から答えを探すように、
「でもそれだけじゃなくて、なんていうか…。
俺だって、自分でよくわからないですけど…」
照れながら、それでも伊波の目を見据えて、
「また触って、殴られて、さっきのが偶然だってわかったら、
それはちょっと、嫌だな、って…」
そんな事を、言った。
それを聞いた伊波が、何を思ったか。
「……ぁ」
あまりに予想外で、想像すらもしていなかった言葉で、
だから伊波本人ですら、自分が何を感じたのか、わからずに…。

―ただ一つ、言える事…。

「あの、伊波さ―」
小鳥遊の唇が、伊波の名前を呼ぼうと動いた時、
その言葉より、染み付いた条件反射よりも、早く、

―ちゅっ。

伊波の唇が、そこに届いた。

502:435
10/04/15 03:11:09 +ldJrd50
YG風に言えば、そんなオカルトありえません的展開。

まあ引き続き雑談をどうぞ↓

503:名無しさん@ピンキー
10/04/15 15:52:52 pp+HJYRN
読んでないけどわざわざ小出しにしてる意味が解らない
1レスコピペしてみたけど3000バイトも容量使ってないんだから3レスぐらいまとめて投下しろよ
詰め詰めにしろと言ってるわけじゃないんだからさ……バランス考えようぜ

504:名無しさん@ピンキー
10/04/15 17:40:45 I0sN74Ra
gj

505:名無しさん@ピンキー
10/04/15 18:14:47 qVHL9XfU
読み飛ばされた気がするからアンカーを付けておこう
>>496

506:名無しさん@ピンキー
10/04/16 19:01:19 uJs6S1Sy
佐藤と八千代で書きたいが無理だ
どうしても佐藤が途中で止めやがる

ヘタレめ……orz

507:名無しさん@ピンキー
10/04/16 19:13:05 OntzVrgs
そういう時は八千代を一歩踏み出させればいいのよ

508:名無しさん@ピンキー
10/04/16 19:13:54 fhG8K72q
>>506
構図を逆転するのよ、ナルホド君!

509:名無しさん@ピンキー
10/04/18 09:28:43 C4/nyD1Z
>>507,508
そっちのほうが難しいだろwwww

510:名無しさん@ピンキー
10/04/18 17:36:00 LhAz5npB
愛は二人で育むものなんだよ!

511:名無しさん@ピンキー
10/04/19 18:44:19 yCCfII1t
いやでも最後の一線(エロ的な意味でなく)はやちの方から越えそうな気がする
きっかけとなるアプローチは佐藤の方からだろうけど

512:名無しさん@ピンキー
10/04/21 20:30:31 g+A9hXG7
ファミレスってことはみんな検便はしてるよな……?

513:名無しさん@ピンキー
10/04/21 22:35:00 u1ResNqR
そんな話は求めていません

514:名無しさん@ピンキー
10/04/21 23:33:03 u1ResNqR
URLリンク(www1.axfc.net)
エロパロの流れで最近難民スレの存在を知った人向けにログまとめをアップ
SS向けネタの宝庫なので、SS作家やってみようという人や、
読者のネタの好みを知りたい人は是非どうぞ
key= WORKING

515:名無しさん@ピンキー
10/04/22 23:43:19 Qwso3cVN
種島って佐藤がやちよ好きって事まだ知らないんだっけ?

516:名無しさん@ピンキー
10/04/23 03:30:50 3HN/XtTJ
知ってるのは小鳥遊、相馬、山田、伊波だけ(あとなんとなく梢も)なはず

517:名無しさん@ピンキー
10/04/23 17:21:25 sLLcnQTe
みっきー無視するな。保険にはいってないと危険だぞ

518:名無しさん@ピンキー
10/04/23 22:16:19 NL5LxCpy
佐藤さんと轟さんと店長で3Pとかどうだろう?

519:名無しさん@ピンキー
10/04/23 22:25:22 V7hw4kBL
>>518
杏子さんはメシ作ってくれるから佐藤もおkだしな。あとは八千代が佐藤と杏子が絡むのに耐えられるかどうか


姉妹の名前に「ず」が入っているのって特に意味あるの?

520:名無しさん@ピンキー
10/04/23 22:32:41 LKN4MyKO
>>519
なんとなく揃えてみたらしい

521:名無しさん@ピンキー
10/04/24 23:33:59 tfuOKS9E
泉姉さんも草花関係の名前だったら良かったのにね

キャラの名前って草花関係がちょっと多い気がする

522:名無しさん@ピンキー
10/04/26 00:36:44 Pk1kbHSA
>>518
見たい
ものすごく見たい







見たい

523:名無しさん@ピンキー
10/04/26 02:32:41 E9vVgJeo
最初は杏子さんと八千代が絡んでその後佐藤が入る感じか?
八千代が自分の気持ちに気付けないでモヤモヤしてるのを感じ
「仕方ない…一肌脱いでやるか」で3Pへ…理由?悩みすぎてボーとしてるからパフェ作らなかったりするから
「八千代~ちょっと来な」で来た所を捕縛後、佐藤を部屋に呼ぶ

以下杏子の台詞のみでダイジェスト
「おい佐藤。お前も八千代のこと嫌いって訳じゃないんだろ?」
「心配すんな…あくまで男の中でなんだろ?嫌いになったりしないよ」
「こんなに濡らして…ほら、もう良いぞ佐藤。男だったらガツンと来い!」
「なんだ?お前初めてか?じゃあ丁度良い八千代も初めてなんだ」
「……?嫌なのか八千代?…嫌じゃないって」
みたいなノリなんだろうと思う

524:名無しさん@ピンキー
10/04/26 03:11:30 bVNB/6Jv
>>523
どうみても近所の世話好きのおばちゃんです本当に(ry

佐藤が飯をつくって八千代がデザートをつくるんだから杏子さんもその順番で二人を食べるんだねきっと

525:名無しさん@ピンキー
10/04/26 03:51:55 lZ3eN/R7
佐藤→八千代の好意を「それ以上は許さん」って言っちゃってるしなあ

526:名無しさん@ピンキー
10/04/26 04:24:18 bVNB/6Jv
ゆでたまご食べたいって言ってた時の心情がいまいちわからん。何がどうしっくりこないんだ?

527:名無しさん@ピンキー
10/04/26 19:49:08 QXTq7+ww
きょこさんやちよ・さとやちももちろん見たいけど
私的には佐藤と杏子さんの二人にも思いっきり絡んでほしいわ

528:名無しさん@ピンキー
10/04/26 19:55:33 lNu0H/Jw
佐藤さんは見た目に反して純情なのか、
それともドライ(好きなのは轟だけど別の女とも性交渉くらいするよ)なのかが気になるところだ

529:名無しさん@ピンキー
10/04/26 20:08:07 Z1PGjvqY
超純情
一般的にはヘタレとも言う

530:名無しさん@ピンキー
10/04/26 20:40:13 bVNB/6Jv
ヘタレだけど異性をからかったり(ぽぷら)好きな人の頭を触ったり(八千代)年上の上司にくだけた口の利き方(杏子、音尾)はできるんだよなぁ
姉か妹でもいるんかな

531:名無しさん@ピンキー
10/04/27 00:32:19 Fa4ADNtW
どうでも良い奴にばかりモテて、本命には手も口も出せない感じじゃない?
別に愛は無くても、Hは出来るわけだし。

532:名無しさん@ピンキー
10/04/27 00:33:42 YOWpcVCF
そこで違う女に手を出せる器用さがあったらとっくに・・・っ!

533:名無しさん@ピンキー
10/04/27 00:52:45 FTc/4a5y
でも惚れた理由は顔っていう結構軟派なところも
・・・まぁ、年上の女性にべったりで帯刀で、
その年上の女性に集ろうとする虫を払ったりしててと
そんなのの性格面で惚れてたらそれはそれで、という感じでもあるが

534:名無しさん@ピンキー
10/04/27 00:54:36 G8SJBkAP
「顔」は照れ隠しも少し入ってて
本音は背後の幽霊への想いそのままなんじゃね?
心配になるっていう

535:名無しさん@ピンキー
10/04/27 23:37:15 R+EEtyvf
ここで音尾×山田

536:名無しさん@ピンキー
10/04/28 03:06:58 +Z+JieNE
音尾さんはお父さんだから無理
個人的には相馬さんが良いと思う

537:名無しさん@ピンキー
10/04/28 18:34:11 h/6OMsag
佐藤が童貞なのか気になる

538:名無しさん@ピンキー
10/04/28 18:40:19 NvFifvQy
よく童貞っぽいと言われるけど童貞じゃないと個人的には思う
ただ16で八千代に惚れたらしいからそこから性格を考えると他の人とはどうかなぁと。
もしくはそれまでに(ry

539:名無しさん@ピンキー
10/04/28 18:43:51 6rwKxu+C
未体験でいいんじゃね?

540:名無しさん@ピンキー
10/04/28 21:17:18 O3Rj0+NU
あんなに大人ぶってるのに…童貞かよ
相馬はぜったい非童貞

541:名無しさん@ピンキー
10/04/29 01:14:51 acShA0ay
やちを忘れようとして一回くらいは…いや一回だけってのも微妙だが

542:名無しさん@ピンキー
10/04/29 01:51:16 dA+mZExM
いや佐藤が童貞はないだろ
4年片思いでも普通16までにはやってるよ

543:名無しさん@ピンキー
10/04/29 02:25:27 gmgjou0h
パロのまとめwikiのこのページ↓
URLリンク(wiki.livedoor.jp)

ごみ箱ってどういう意味?
あんまり気にしないほうが良い?


544:名無しさん@ピンキー
10/04/29 02:40:27 0ax/g1dB
気にしなくておk

545:名無しさん@ピンキー
10/04/29 03:08:07 XgMCRnjB
>>540
相馬は非童貞どころか父親だろ
半分ぐらい公式設定で

546:名無しさん@ピンキー
10/04/29 18:42:34 8E+Sumrp
ザ・山田ファミリー

547:名無しさん@ピンキー
10/04/29 22:34:42 QVX6if79


548:名無しさん@ピンキー
10/04/30 00:19:10 zphi/jnJ
某所で八千代が佐藤にヤられてて
八千代「な、内臓がぐちゃぐちゃになっちゃう…」
佐藤「ならねーよ」
のやり取りを見て 言いそうだなぁ とオモタ


まぁ一行目のシチュがまずあり得ないわけだが

549:名無しさん@ピンキー
10/04/30 03:59:20 5YpDNmwa
姫の父親が相馬説はどこからきてんの?

550:名無しさん@ピンキー
10/04/30 05:56:30 dEBAdccA
>>549
相馬が姫の写真を見せて「可愛いでしょこの子」って言ってる画像を
反転させるか黒で塗り潰すかなんかすると
「俺の」って文字が浮かび上がってきた、というアレ

551:名無しさん@ピンキー
10/04/30 06:26:02 TqaeBSMq
最近アニメ見始めてこの作品の存在を知ったが、>>435GJ!!
そろそろ種島さんもおねがいします


552:名無しさん@ピンキー
10/04/30 10:55:43 XYsNdB8i
はいはい自演自演

553:名無しさん@ピンキー
10/04/30 17:40:29 vaIcHcGt
店長のスタイル良すぎ

554:名無しさん@ピンキー
10/05/01 00:00:11 vwTu3TAZ
いなみんいがいは皆スタイルいいよ。

555:名無しさん@ピンキー
10/05/01 00:15:44 AXwXn33t
山田も?

556:名無しさん@ピンキー
10/05/01 00:16:46 6F7H6ufd
山田だってナイスバデエですよ?

557:名無しさん@ピンキー
10/05/01 00:44:15 NqaQkuM6
あ、忘れてたw
登場人物の多い漫画じゃ良く有ることだよねw

558:名無しさん@ピンキー
10/05/01 10:03:32 loHtXd0x
ルーシーがかわいかったんですけど

559:名無しさん@ピンキー
10/05/01 11:49:36 6F7H6ufd
あれで一回やらせてと言ったらどうなってたんだ・・・

560:名無しさん@ピンキー
10/05/02 00:56:55 +wYmiJ4Z
八千代と店長がやってるところを佐藤が覗きながらシコシコしているところを相馬が写真をとっているところを妄想した

561:名無しさん@ピンキー
10/05/02 01:04:50 KLhglBsM
お前キモイ

562:名無しさん@ピンキー
10/05/03 11:20:58 tItUVxyv
>>560
普通に想像できたわ

563:名無しさん@ピンキー
10/05/03 20:47:17 lpVr/01h
小鳥遊×伊波はいいのぅ

564:名無しさん@ピンキー
10/05/03 23:40:00 aCKRCVCO
伊波たんが気絶している間に手足を切断したい。
で、目覚めた伊波たんにディープチッスを食らわしたい。
伊波たんは必至に殴って抵抗しようとするんだけれど、
肝心の手と足が無いんじゃねぇ・・・・

565:名無しさん@ピンキー
10/05/04 00:09:11 0nxcZkfL
ヒント:頭突き

566:名無しさん@ピンキー
10/05/04 01:25:17 3YL5a3GX
もしやぽぷらちゃん、人気があんまないんかな。
ロリ巨乳と小ささが可愛いのに

567:名無しさん@ピンキー
10/05/04 01:35:58 UN/obUy3
原作では徹底してマスコットポジションだから
少なくとも原作読者はロリ巨乳・小ささ・可愛さは認めてもエロ要員とは認識しないケースが多い

568:名無しさん@ピンキー
10/05/04 02:39:44 rm9HRDh2
ちらほら同人誌でてきているけど八千代はみないな

569:名無しさん@ピンキー
10/05/04 02:49:25 GCW163is
やちあったよ。佐藤さんにやられてたw

570:名無しさん@ピンキー
10/05/04 02:54:13 rm9HRDh2
>>569
詳細わかったりする?

571:名無しさん@ピンキー
10/05/04 04:48:50 5qdfUGAi
絵的に原作のポプラはアニメ版ほど可愛くないからな
俺は好きだがエロには向かないのが残念

572:名無しさん@ピンキー
10/05/04 05:19:03 3YL5a3GX
URLリンク(www.pixiv.net)
18禁で検索したら35件しかないとは。上手いのは多いのに。

573:名無しさん@ピンキー
10/05/04 09:45:48 6ER2ApHO
>>570
URLリンク(shop.melonbooks.co.jp)
これとか

574:名無しさん@ピンキー
10/05/04 12:06:59 /iO1PvVL
夏コミはWORKING相当人気だろうな

575:名無しさん@ピンキー
10/05/04 14:31:47 gAH7joIj
同人や絵の話題やURIは該当板でやろうな

576:名無しさん@ピンキー
10/05/04 15:10:24 Gc/ziBpE
>>573
これがかの有名な内臓がぐちゃぐちゃになっちゃうかww

577:名無しさん@ピンキー
10/05/07 01:00:27 0ZYCJiCp
伊波×小鳥遊×ぽぷら
佐藤×八千代×店長
相馬×山田

まさに王道

578:名無しさん@ピンキー
10/05/07 01:05:31 PNKre1Mo
外道です

579:名無しさん@ピンキー
10/05/08 00:05:47 SXxT5j9A
小鳥遊「店長の乳…」ゴクリ

580:名無しさん@ピンキー
10/05/08 02:51:56 g3B+CKob
>>573
やちかわええww

581:名無しさん@ピンキー
10/05/08 17:10:49 4uQKY6kT
今週の小鳥遊の
「俺は伊波さんとセックスがしたいです!」ってシーンには痺れたな
伊波さんも伊波さんで「私もっ!」って応えるとは思わなかったがw

582:名無しさん@ピンキー
10/05/08 20:54:45 LDJ2bPxU
                            │
                            │
                            │
              そ           │
       つ  エ   ん            │
       ろ  サ   な            │
       う   で                   │
       っ                      │
       た                  │
       っ          て        │
       て           そ         │
     _ r-、__, --─-、.ィ´|          │
   /::: ゝ::::::;:::::;::::::::::::::::::;'-{          │
   l:::::::::::::)::://ノ,|ヽリノリハl i.|)        │
   |:::::::::::::ヘ::i::|'  ̄    ̄ |リ           J
    |::::::::::(::::;ソ ●   ● |        >>581
   i::::::::::::(   """   """ノ)
    !::::::::::::| ` 、 _  Д_,..''
   ノノ:::::::::| ,/j ̄`:、ヽ、  _
   リ!|::::::::| /ー|/| V\/ノ
    ノ:::::::::| /:::/::丿::::ソ、_/

583:名無しさん@ピンキー
10/05/09 05:26:11 qysl0q4q
最近アニメでWORKING!!初めて見て、伊波かわいいと思って
原作全部買ったけど一切後悔のない内容で非常に満足しました。
というわけで小鳥遊×伊波をその勢いで書いてみた!

結構長くなっちゃったけど、よかったら読んでくださいな。
多分14分割、そしてエロはなし。ごめん。

584:衝動ごと抱きしめて
10/05/09 05:30:03 qysl0q4q
「いらっしゃいませー! お客様3名様でよろしいですか? ご案内いたします」

ファミリーレストラン、ワグナリアでウェイトレスとしてアルバイトに励んでいる
伊波まひるが愛想のいい笑顔で客を席へと先導する。

「ご注文がお決まりの頃にまたお伺いしますね」

にこやかにそう言ってから、裏へと戻っていく彼女。
その働きぶりは傍から見て、完璧そのもので同僚で小さい種島ぽぷらはすごいねーと褒めちぎる。
言われた側の伊波は少し頬を染めて、そんなことないよ、と手を振って否定する。

「えー、でも伊波ちゃんの接客って丁寧で、ホントにいらっしゃいませーって感じがするよー」
「あ、ありがとう。でも種島さんだってすごいと思うな、私」
「え、どこが?」

問われて自然と小さくてかわいいもん、と返しそうになって踏みとどまる伊波。
これを言ってしまうと、自分の背の小さいことを痛く気にしているぽぷらの機嫌を損ねてしまうのだ。
さて、何と言い換えたものかと少々考えてから、

「だって、種島さんの笑顔って人を癒すパワーがあるって思うもん。
お客様もみんなきっと種島さんのおかげで元気になるよっ」
「そう? だったらうれしいなぁ、えへへ…」

告げると、ぽぷらはうれしそうに笑う。
それを見て伊波はほっとする。
若干の後ろめたさはあるもののウソは言っていない。
事実彼女の笑顔にはその力は間違いなく宿っているのだ。
幾分か体の小ささから来る気もしないではないが。

「ちょっと照れてる先輩かわいいっ!」
「ひぃっ!」

どこから現れたのか、同じくフロアの接客をしている小鳥遊宗太が声を大にして訴える。
普通なら突然のことでびっくりした、で済むのだが、今小さく悲鳴を上げた伊波まひるには
少しばかり問題があるため、それだけでこの場は収まらないのである
その結果、和やかなファミリーレストランに鈍い音がこだました。

585:衝動ごと抱きしめて2
10/05/09 05:31:24 qysl0q4q
「ご、ごめんね、さっきは。いきなりで驚いちゃって」

背後から現れた男、小鳥遊の顔面にめいっぱいに拳を振りぬいてしまった伊波がしゅんとして謝る。
休憩室で救急箱で自ら治療していた小鳥遊はいえいえと首を振る。

「あれは完全に俺の不注意でしたよ。伊波さんが男嫌いなことをつい失念していたんですから」
「でも……」
「いいんですよ、これくらい。もう慣れましたし」

言われて伊波はため息をつく。
彼女は男性恐怖症の気があり、男性が近づくと防衛本能が働くのか、
とにかくその反動で男性を殴り飛ばしてしまうのだ。
そして、このワグナリアでのバイトでそれを克服しろということになり、
その相手として選ばれたのが彼、小鳥遊宗太なのであった。

「殴っちゃったのに手当てもしてあげられないし、本当にごめんなさい…」
「手当てしようとしても間違いなくケガが増えますからね」
「うっ…、小鳥遊くんは容赦ないよね…」
「伊波さんの拳ほどじゃありませんよ」
「うぅ……」

返す言葉がなかった。
実際小鳥遊とシフトが一緒になった日、彼を殴らなかったことは一度たりともない。
原因を作ったのは何も伊波だけではなく、小鳥遊が伊波を挑発するような態度や発言も
いくらか影響はしているのだが、結局のところ殴ってしまえばそれは伊波の責になる。
殴られる側がいくら大丈夫と言ったところで、伊波自身はその事実で落ち込んでしまう。

その様子にやれやれと小鳥遊が伊波にまっすぐに向き直る。

「伊波さん、さっきのは俺のミスなんで本当に気にしないでください。
つい、先輩のかわいさに釣られて、のこのこ伊波さんの背後に出てしまったんですから」
「そうだけど…」
「だから、伊波さんは悪くないんですよ」
「……」

わかってないな、と今度は別の意味で伊波は嘆息する。
目の前にいる男子も男子で少し特殊な性癖を持っており、
異様なまでに小さなものに執着を持っており、それを心から愛でて、大切にしている。
正直その時の小鳥遊には引いてしまうのだが、伊波はとりあえずそれには目をつぶることにしている。
今この場においては彼の人の心の機微、特に乙女心というものへの鈍さが問題なのだ。

それは小鳥遊の家族が姉3人、妹1人という女性ばかりの環境で、
しかも姉たちに基本的に虐げられてきた(恐らく悪意はない)ために、
その辺の感情に対しての考えを放棄するようになったためなのだろう。

586:衝動ごと抱きしめて3
10/05/09 05:32:40 qysl0q4q
伊波はそんな少年に恋をしてしまった。
好きになったのは、自分の父が娘に悪い虫がついてないかを見に来たその日。
小鳥遊は伊波の頼みで女装し、彼女の父に会いその時、娘がかわいそうだ、謝れと激昂した。
彼からすればそれはどこか家族に翻弄されてきた自分と通ずる部分があったために
勢いで言ってしまったことなのであろうが、伊波にしてみれば、恐怖の対象である男性が
自分のことを思ってしてくれたことで、そんなことを言ってくれた初めての人を意識せずにはいられなかったのだ。

ただ、前述のように彼は何故か伊波の想いには気づかずに、いつもと変わらない態度を取っている。
それが嫌だとは思いはしないが、自分ばかりがやきもきしているのが少しだけ癪だった。
といっても、関係を前に進めようにも小鳥遊を含む男を殴るという病気にも似た症状を治さないことには
そんな関係を築くなど、夢のまた夢だと伊波は思う。

なおも深い息を漏らす伊波に小鳥遊は業を煮やして、語気を強める。

「何なんですか、さっきから。今日の伊波さんはいつも以上に変ですよ?」
「……何でもないわよ」

小鳥遊の言い方に呼応して、伊波の返事も憮然としたものになってしまい、休憩室の空気が一段と重くなる。

「どうしたんですか、お二人とも」
「ひゃあっ!」
「山田か…」

伊波が声を上げた後に小鳥遊が声のした方を見ると、同じくこのワグナリアの
ウェイトレスの山田葵が不思議そうな顔で二人を見ていた。
伊波は今日はよく背後に立たれる日だなと思いつつ、椅子に座りなおす。

「べ、別にどうもしてないよ、私がまた小鳥遊くんを殴っちゃっただけ」
「それにしては険悪なムードですが」

人を殴っておいて、険悪な状態にならない方がおかしいと言おうか小鳥遊が一瞬迷ったが、
そんな常識はこの空間にはあるわけがないかと言葉を選びなおす。

「単に伊波さんの様子がいつもよりもおかしいってだけだよ」
「何それ、私のせいって言いたいの?」
「違うんですか?」
「ひっどーい!」
「人殴るのと比べたらマシですよ!」
「さっきは謝らなくてもいいとか言ったくせに!」
「そもそも伊波さんの男嫌いが一番の原因でしょう!」
「そうだけど、そうだけど、もーー!」

2人の様子を眺めていた山田は、これは何やら面白いことになりそうです、
と腹に一物を抱いて、その場を後にした。

587:衝動ごと抱きしめて4
10/05/09 05:34:09 qysl0q4q
「なるほどねー。伊波さんの様子がねー」

山田に連れられて休憩室にやってきたワグナリアのキッチン担当の相馬博臣が話を聞き終えてから、ニコニコと笑う。
その笑顔を見て、小鳥遊は失敗したな、と肩を落とす。

(伊波さんの挙動不審なんて今に始まったことではないのに、ムキになって付き合ってしまったせいで、
ただでさえ弱みを握られて苦手な相馬さん、プラスうっとうしい代表の山田に捕まる羽目になるとは…)

「小鳥遊くんは伊波さんが変っていうか、様子が違うのは何でなのかわかんないの?」
「わかったらこんな風にもめたりしないですよ」
「だよねえ(本当に自分のことには鈍いなぁ。だからいじり甲斐があるんだけど)」

よし、と一つ声を出すと相馬は伊波に視線を移す。
びくりと一瞬肩を震わせる伊波に微笑みかけて提案する。

「伊波さん、テストをしよう」
「て、テスト…?」

首を傾げるだけの伊波の代わりに、山田がわくわくと相馬に質問する。

「どういうテストをするんですか?」

聞かれた相馬の笑みが邪まな形に歪む。
小鳥遊は逃げ出したい衝動に駆られるが、相手が悪いと判断して様子を見るしかなかった。

「伊波さんが果たして男の人をどこまで耐えられるのかのテスト」
「ええっ! そそそそんなのムリ!」

堪らずと言った様子で伊波が前に出てくるので、さすがの相馬もびくりと後ずさる。
今でこそ、このように距離をあければ話すくらいはできるようになったものだが、
小鳥遊が来る以前は散々殴られて辛酸を舐めてきたのだ。
彼の伊波への警戒はそう易々と解けるものではない。
それでも何故かいつも気配がない伊波にばったり出くわすことは度々あるのだが。

「お、落ち着いて伊波さん。そんな大したことをしようってわけじゃないから」
「ほ、ほんとですか…?」

顔を真っ赤にして涙目で問う伊波。
これを見たらかわいいと思うのが普通なのだろうが、それよりも相馬の中には
しめしめ食いついたというどこか腹黒さの方が先立つ喜びで満ち満ちていた。

588:衝動ごと抱きしめて5
10/05/09 05:35:42 qysl0q4q
「それでまずは何をするんですか?」

腹をくくった小鳥遊が尋ねると、どこか笑いを堪えているような相馬が答える。

「まずはちょっとした質問をしてみようかなと」
「ほほう…」

楽しそうにする山田と相馬を尻目に、伊波は背筋が寒いやら顔が熱いやらで既にいっぱいいっぱいだった。

「じゃあ一つ目。男の人を殴っちゃうのは何で?」
「お、お父さんに男は怖いものなんだって教え込まれて、身を守らなきゃって思っちゃって、それでつい…」
「二つ目。男の人は今でも怖い?」
「こ、怖いは怖いです…けど、最近はそうでもなくなってきたかも…」
「それはどうして?」
「えっと、その…た、小鳥遊くんが面倒みてくれて、それで慣れてきたからだと思います…」
「じゃあ次、男の人って嫌い?」
「気持ちの上ではそんなことはないんですけど、体が嫌ってるっていうか」
「なるほど、頭ではわかってるけど半分反射的に体が動いちゃうんだね」
「伊波さんのパンチはいつだって迷いがないですもんねー」
「あぅ…」

ずいぶんと今更な質問をするな、と小鳥遊は状況を静観する。
(もしかして真面目に伊波さんの男嫌いを治そうとしているのだろうか…)

「気持ちの上では男の人は嫌いじゃないなら、俺のことはどう思う?」
「そ、相馬さんですか…」
「そうそう、好きか嫌いかでもいいし、どんな人かでも何でもいいから」
「山田はお兄さんだと思っていますよ?」
「あ、ありがと…」
「何でも知っていて、ちょっと話していて不安になります…。すみません…。
あ、でも、困った時にはアドバイスくれたりして助かってます! 決して嫌いじゃないです!」
「いいよいいよ、正直に答えてくれてありがとう」

相馬さんのことをいい人だとさらりと言えるのはそうはいないだろうに、律儀にフォローする辺り、
伊波さんもお人好しだなぁ、と小鳥遊が思っていると、一瞬だけ相馬が自分を見た気がして背筋が凍った。
何か嫌な予感がするが、今更この質問を止めるのもおかしいかと思い、小鳥遊は諦めて事態を見守ることにする。

「それなら佐藤君はどうかな? 佐藤君には黙っとくから大丈夫だよ」
「さ、佐藤さんは…、あの、かわいそうっていうか、何というか…」
「もしかして轟さんとのこと?」
「は、はい…」
「あはは、佐藤君はそうだよねー、いい加減はっきりしちゃえばいいのにねー」

キッチン担当の佐藤潤がフロアチーフの轟八千代に恋愛感情を抱いていることが
伊波には同情を引いており、ある種自身に似た状況であることが仲間意識を持たせたのか
そういう意見を口にしていた。

589:衝動ごと抱きしめて6
10/05/09 05:36:57 qysl0q4q
相馬は彼女に同調して場を少しでも和ませると、今までと何ら変わらない調子で
聞きたかった本題を投げかける。

「じゃあ小鳥遊君のことはどう思う?」
「へっ? た、小鳥遊くん?」

明らかに今までと違い、大きく取り乱す伊波。
小鳥遊はあまりに前者二人との反応の違いにむっとしてしまうが、
ついさっきケンカしたことを思い出して、ぐっと我慢した。
その様子を相馬と山田は目ざとく見ており、更に伊波に追いうちをかける。

「どうなんですか、伊波さん! 小鳥遊さんのこと好きですか? 嫌いですか?」
「たた小鳥遊くんは、そのえっと、あの、なんといえばいいか、その…」
「どういうとこがいいの?」
「ど、どこって、あの、何だかんだで面倒見がいいと言いますかですね…」
「いつ頃からですか?」
「そ、それは、お、お父さんにお説教してくれた時に…」
「最近はどんな感じ?」
「あぅ、わ、ちょ、ちょっとは自然に笑えるようになったかなって…」
「あの!」

わたわたしながらも真面目に答えていた伊波を制するように小鳥遊が声を上げる。
さすがに質問が変な方向に行っていると判断したのだ。
というか、そもそもこういうことを聞くためにわざわざあんな基礎的な質問をしていたのだと気づいた。

「一体、何を聞きたいんですか? 伊波さんの男嫌いのためのテストですよね?
俺との関係ばかりそんなに掘り下げても意味なんてないと思うんですけど」
「あー、そうだった?」
「ええ」

ばれちゃったか、と残念に思うが、一応さっきの小鳥遊をどう思うかの質問で
伊波の恋心が小鳥遊本人に知れれば、二人の関係の進展、ひいては男嫌いの解消につながると考えてはいた。
無論、相馬にとっては小鳥遊が伊波をどうするかを見たい方が気持ちとしては大きかったが。

「それにあんなにどんどん質問してあげないでくださいよ。
伊波さんはそういうのは苦手なんですから、もうちょっと伊波さんのペースで」
「へえ…」

小鳥遊がそう諭していると、相馬が何やらニヤついている。

590:衝動ごと抱きしめて7
10/05/09 05:38:20 qysl0q4q
何ですか、と聞こうとする前に、相馬の方からぽつりと言ってくる。

「小鳥遊君、ずいぶん伊波さんのことわかってるようなこと言うんだねー」
「? そりゃわかりますよ。相馬さんだってそれぐらい」
「いやぁ、俺は全然そんなのわかんなかったよ。ねえ、山田さん?」
「はい。山田、伊波さんがそんな風になるだなんて、全くこれっぽっちもご存知ありませんでした」
「何か白々しい…」
「そんなことないってー。いやーすごいね、伊波さん。
小鳥遊君は伊波さんのことをこんなに理解してたなんてねえ」
「えっ、あ、はぃ…///」

相馬がわざわざ繰り返し言ってやると、伊波は元々赤くしていた顔を更に紅潮させて俯いてしまう。
小鳥遊が怪訝そうな顔で伊波を見ると、ぷるぷると体が震えだしていた。
相馬は、あ、このままだとやばいと感じ取ると、話を一旦逸らして伊波を落ち着かせることにした。

「じゃあ、次ー。小鳥遊君もテストしてみようか」
「は? 何で俺までそんなことするんですか?」
「小鳥遊君だって病気持ちじゃない。伊波さんだけテストなんて不公平でしょ?」
「別に俺は病気なんて持ってないですよ」
「小鳥遊さん、ダンゴ虫と山田どっちがかわいいですか?」
「ダンゴ虫」
「!! 相馬さん、やっぱり小鳥遊さんはまだ病気です!」
「おい! 失礼なことを言うな、ダンゴ虫に!」
「自分はいいんだ…」
「それは今はどうでもいいんですよ! 山田、ダンゴ虫に謝れ! 詫びろ! すぐに!」
「山田は別にダンゴ虫のことを悪く言ってないんですけど」
「同列に並べたことがそもそも失礼だ」
「山田に失礼とは思えないんですかね、あの人」
「まあまあ」

全く、と言いつつカッとなって立ち上がっていた小鳥遊は椅子に座りなおす。
その小鳥遊に山田がはっとしたように一つ問いかける。

「山田、この間小鳥遊さんにはぐらかされたことをもう一度聞いておきたいです」
「はぐらかしたこと?」
「山田さん、小鳥遊君に何て聞いたの?」
「小鳥遊さん」
「何だよ」
「伊波さんの胸ってものすごく小さいですよね?」

591:衝動ごと抱きしめて8
10/05/09 05:39:46 qysl0q4q
相馬は山田の素朴な疑問を聞いて、何だそんなことかと思うが、
これが意外と伊波だけではなく小鳥遊も狼狽させているのに気づいた。

「お、お前は何を言い出して…っ!」
「……あわわゎ…」

それを見て、山田が口を閉じられないように相馬が先に口火を切る。

「俺は胸は大きい方がいいと思うけど、小鳥遊君としてはもちろん
 小 さ い 方 が 『 好 き 』 な ん だ よ ね ?」
「え゛」
(おー、これはすごい。小鳥遊君、一応そういう目もあったんだなー)

相馬が心の中でひとりごちると、当の小鳥遊と伊波が固まるやら口をぱくぱくさせるやらで
反論も肯定も怒りだしもしないのをいいことに、山田が目をきらきらさせて小鳥遊に近づく。

「つまり小鳥遊さんは胸に限定すれば、『伊波さんが一番好き』ということなんですね!」
「すっ…って、へぇっ…!!??」
「山田…お前…!」

珍しく手も足も口も出せない小鳥遊を前に山田は楽しそうに動き回る。
それに小鳥遊はイライラと募らせていき、ついに耐え切れず

「ああ、そうだよ! 胸というパーツだけに限って言えば、周りでは伊波さんが一番好きだよ!
しょうがないだろ、小さいものが好きなんだからどうしたってそうなるだろ! これで満足か!?」

狂ったように叫びを上げる。
さすがにその勢いに気圧されたのか山田は相馬の後ろに隠れてしまう。
しばらくその場を沈黙が支配するが、不意にもう一つ大きな気配が生まれつつあることに
小鳥遊、相馬、山田が気がついた。

もはや顔だけではなく全身を赤くして、どこか遠い目をしてうわ言のように
何かをぶつぶつと呟く伊波が立ち上がっていた。
湯気の出ている体をわなわなと震わせ、拳をこれ以上ないほど固く握るその様に
3人は誰からともなく自然と覚悟を決めていた。
具体的に自分たちがどんな目に遭うのかは想像はできないが、
トラウマになるかもしれないほどの恐怖は味わう、そんな予感が全員によぎっていた。

そして、外観だけは至ってフツーなファミレスに轟音が鳴り響いた。

592:衝動ごと抱きしめて9
10/05/09 05:41:19 qysl0q4q
「大丈夫、ですか、伊波さん…?」
「う、うん、ちょっと頭痛いだけだから、だいじょうぶ…」
「氷持ってきたので乗せますね」
「ありがと…」

結果としては伊波は意外な行為に出て、その場を収めた。
意外と言っても、雄雄しさというか荒々しさは予想の通りだったのだが。

伊波は目の前にあったテーブルに思い切り頭突きをかましたのだ。
その後、彼女は力なくその場に倒れて、今しがた気を取り戻したのだ。

「頭をぶつけたんですから、落ち着いたら病院に行きましょう。歩けなければ、タクシー呼びますし」
「うん…」

伊波をからかったことがバレた3名はお叱りを受け、真っ二つに割れたテーブルの弁償代も払う羽目になった。
小鳥遊本人はからかってなどいないのだが、伊波がこうなった要因の一つに自分の不注意があったのは
間違いないことだからと、その罰を負うことにした。

「本当にムリだったら先輩かチーフに頼みますから、言ってください」
「うん…ありがとう」

マジックハンドで氷水を伊波の額に乗せている小鳥遊。
一見するとシリアスさは微塵もないのだが、二人の空気は真剣そのものというか
本気で沈み込んでいた、主に小鳥遊の方が。

伊波の自虐的な頭突きで気づかされたのだ。
今日、殴ってしまったことを伊波が謝った理由を。
あれと先ほどの頭突きの根っこの部分は同じで、伊波は自分の男嫌いで
小鳥遊に迷惑をかけていることに責任を感じていて、それをどうにかしたいと心から願っていたのだ。
そんなことは前提条件として当たり前のことじゃないか、彼はそう思っていた。
そう思っていたからこそ忘れてしまっていた。
こんな奇妙極まりない状況に慣れ、伊波の拳骨の原因への対処をどこか怠っていた。
殴られてやるから、さっさと治せと、お前本人だけで何とかしろと無言の圧力をかけていたとさえ思えた。
そんな自分が情けないと歯噛みしていると、伊波が小鳥遊に呼びかける。

「何ですか、どこか痛みます?」
「ううん、そうじゃなくてね」
「?」
「ごめんね…」
「……」

呆然とした。
こんなことになっても、この目の前の少女は自分を労わってくれるのかと。
そもそも伊波を傷つけて、動揺させたのは自分だというのに、
彼女はそんな自分に涙をこぼして謝罪するのだ。

小鳥遊はその少女の健気な心の前に何も答えることができず、そばにいることしかできなかった。

593:衝動ごと抱きしめて10
10/05/09 05:42:39 qysl0q4q
病院に行き、軽く診てもらったところ伊波の体に問題はないだろうという説明を受けた。
とはいえ、ちゃんと検査は受けた方がいいということで、一晩入院することに決まった。
付き添いで来ていた小鳥遊は店に連絡して、その旨を伝えると、携帯をしまいこんで伊波の病室へと戻った。

「あ、おかえり」

ぎこちなく笑って出迎える伊波に小鳥遊もできる限り最大限にこやかな表情で返す。

「店の方にはちゃんと伝えておきました。
今日も大して忙しくなかったみたいで、暇だーって先輩が言ってました」
「そっか…。不謹慎だけど今日は助かったね」
「ええ。……お母さん来るの遅いですね」
「うちのお母さん、のんびりしてるから」

苦笑いして伊波が言うと、小鳥遊は二の句を継げなくなってしまう。
言いたいことはある。謝らないといけないとわかっているのに、言葉が浮かばない。声にならない。
何を言っても、きっと目の前の少女は優しく受け止めるだろう。
体は男を拒んでも、心が拒んでいるのではない。
だから、何を言ってもそれは詰まるところ自分の心の傷を塞ぐためにしかなっていない。
言った方が伊波も気まずさが紛れていいだろうに、
小鳥遊はぐるぐるとそんなことを考えてしまい、つい黙り込んでしまう。

「私が壊しちゃったテーブルっていくらなのかな?」
「い、いくらでしょう、ちょっとわからないですね」
「私が壊したのに代金は小鳥遊くん、山田さん、相馬さん持ちなんだっけ」
「伊波さんにそうさせたのは俺たちですから、仕方ないですよ」
「…ごめんね、迷惑かけて」
「……っ」

また謝られた。
こっちがそうすべきなのに、そうしたいと思っているのに、何故彼女が。

「男嫌い治さないといけないのに、失敗してばっかりね、私」

そんなことない。
確かに上手くいっていないかもしれないけど、それは努力している証だ。

「それどころか何か小鳥遊くんに慣れちゃったせいか、
気楽に殴ったりするようになっちゃって、悪化しちゃったかも」

前は歩み寄ることすらできなかったのに、今はこんなにちゃんとしゃべれるじゃないか。
それは前に進んでるんだ。

「私もっとがんばる。もう殴らないなんて宣言はできないけど、できるだけ我慢する」

今だって頑張ってるじゃないか。
体全身で耐えたじゃないか、自分を傷つけてまで俺を守ったじゃないか。

「だから、申し訳ないんだけど」
「やめてくれ!」

594:衝動ごと抱きしめて11
10/05/09 05:44:31 qysl0q4q
「え…」
「伊波さんは悪くない! 悪いのは俺です! 真っ先に謝らないといけなかったのに」
「た、小鳥遊くん?」

急に声を荒げて立ち上がった小鳥遊に、伊波は困惑するばかり。
小鳥遊はそんな彼女に構わず自分の思いの丈をぶつける。

「それなのに伊波さんに嫌な思いさせて、怒らせて、果てはケガまでさせて!」
「小鳥遊くん…」
「俺、ほんとは伊波さんの近くにいる資格なんてなかったんです…」
「えっ…」
「もう伊波さんのそばには近づかないようにします。バイトももう辞めます」
「待って、待ってよ! そんなの変だよ!」

彼は少女の言葉も聞かずにその場にひざまずき、頭を下げる。

「すいませんでした。俺の方こそ伊波さんの気持ちを考えずに無神経なことばかり言って」
「やめてよ…」
「許してくれなんて言いません。ただ俺が謝りたいだけの自己満足です」
「やめてってば…!」
「俺のことは忘れてください。今まで本当にすいませんでした」
「やめてよ!」

小鳥遊はそれだけ言ってから、立ち上がって病室から足早に離れていく。
伊波がいくら制止しても、立ち止まらず彼はまっすぐに彼女から去っていく。

そのはずだった。
だが急に体が重くなって、足が動かなくなった。
その原因を探るのは一瞬で済んだ。
伊波が小鳥遊に抱きついていたからだ。

「バカ…」
「い、なみさん…」
「小鳥遊くんのバカ!」

追いつけるはずがないと高をくくっていた。
仮に追いかけてきたとして、彼女には何もできないと思い込んでいた。
彼女から男に、まして抱きついてまで止めるだなんて不可能だと思っていたから。

けれど、現実は違った。
伊波は迷わずに行ってしまおうとする彼を全力で引き止めた。
何があっても離れたくないという一心で。

595:衝動ごと抱きしめて12
10/05/09 05:45:44 qysl0q4q
「男の人が嫌いとかもういいの」
「な、何を…」
「治った方がいいのはもちろんよ。でもね、それよりも大事なことがあるの…」
「大事なこと…?」
「好きな人と一緒にいること」
「好きな人って?」

伊波は深呼吸する。
しがみついた手を離さないままで、小鳥遊の前に移動して、視線を合わせる。
目を逸らしたくなかった。まっすぐに伝えたかった。
誰にも抱いたことのない初めての気持ちを。

「わ、わた、しは、あなたが…、た、小鳥遊くんが、好き…」
「え…」
「伊波まひるは、小鳥遊宗太くんが好きなの!」

小鳥遊は開いた口が塞がらなかった。
頭を何かで思い切り叩かれて、中身が全て吹っ飛んだような不思議な気分だった。
目の前に広がるのは一人の女の子だけ、伊波まひる、それだけだった。

「いなみさんが、おれをすき?」
「うん…好き…」
「な…えぇ…、おかしくないですか?」
「じ、自分でもおかしいと思うけど、でも好きになっちゃったんだもん!」

熱のこもった視線で見つめられて、いまいち思考能力が戻らないままだったが
首を振って何とか考えをまとめられるように努力して、もう一度確認する。

「ほ、本当に…ですか?」
「わ、私がこんなウソつけると思う?」
「いや、ええ、ありえません」
「夢でもないからね…。っていうか、これ夢じゃないわよね…」

今更になって自分が夢を見ているのではと不安がる伊波にようやく小鳥遊は落ち着きを取り戻す。

「ど、どうしよう。これ夢だったら、わたわたし…」

あたふたと困り顔でそう自分に訴えてくる少女に小鳥遊は初めての感情を抱いた。
今までどんな小さくて可愛いものを見ても持ったことのなかった初めての感情を。

愛しい

そう思った。
何よりも誰よりも、大事にしたい、大切にしてほしい、そばにいたい、離れたくない。

596:衝動ごと抱きしめて13
10/05/09 05:47:04 qysl0q4q
「伊波さん」
「ふぇ?」

夢ではないと自分も感じたかった。
これは確かな現実だとかみしめたかった。

「夢なんかじゃありません。俺はここにいます」
「ふぅぇええおうあいえうあ!?」

優しく抱きしめられた伊波は何とも形容しがたい声を漏らす。
けれど、しばしの間そのままじっとしていると、小鳥遊の鼓動が感じられた。
それから包まれている体に彼の温かさが伝わってくる。

「どうですか? 夢じゃないってわかりました?」
「……うん」

こっくりと頷くのを確認すると、胸の中から伊波を解放してから、じっと自分の瞳の中に少女を映す。

「不思議ですね…」
「……何が?」
「ついさっきまで一緒にいられないって思ってたのに、今はそんなことは頭にないんです」
「うん…」
「可愛いよりも上の気持ちってあったんですね」
「それって…?」
「愛してます、伊波さん」
「あい!?」

さすがにそこまでは飛躍しすぎではと伊波は驚くが、小鳥遊の目は本気そのものであり、
熱いような優しいようなその目を見ていられずに、伊波は目を別のところに移す。
彼女にそういう態度を取られてから小鳥遊もようやく自分の発言の過激さに気づく。

597:衝動ごと抱きしめて14
10/05/09 05:48:45 qysl0q4q
「す、すみません、言い過ぎました」
「言い過ぎだったの!? ウソなの!?」
「あ、いやウソじゃないです。ただこういうのって、いきなり愛してるとは言わないのかなって」
「…小鳥遊くん的にはそれで一番しっくりきたんでしょ?」
「まあ…、そうなんですけど」
「じゃあ、それでいい」
「心臓にはよくないですよ?」
「でもうれしいんだもん」

そう言って、伊波がまっすぐに笑いかけると、小鳥遊の心臓がどくんと跳ねる。
そして、衝動的に伊波を抱きしめる。

「た、小鳥遊くん…」
「す、すみません。可愛すぎてつい…」

苦笑しつつ謝る小鳥遊を見上げて、伊波はうれしそうに頬を染め上げる。

「初めて、私に可愛いって言ったね」

実際そう感じたのは初めてですからね、とはさすがに口には出せずにニコリと笑うだけにとどめる。
再び伊波が小鳥遊の胸に顔をしばらく埋めてから、ぱっと顔を上げる。
どうかしましたか、と問われると伊波がはにかみながら言う。

「小鳥遊くん、お願いがあるの」
「何ですか?」
「気を抜いたら私、また殴っちゃいそうだから、目一杯私のこと抱きしめて」
「はい」
「男の人はやっぱり怖いから、手が出ると思うの」
「そうですね。まあ、俺はそれでもいいですけど」
「だ、ダメだよ、何でそんなこと言うかな…」
「そうすれば誰も伊波さんに近づかないから」
「もー、恥ずかしいことを…」
「俺も言ってから恥ずかしくなってきました」
「でね、男嫌いはやっぱり治したいから、これからもずっと私と一緒にいてください」
「はい、もちろんです」

伊波はぎゅっと小鳥遊の背中に込める力を強める。
小鳥遊も伊波をよりいっそう強く抱きしめた。
目の前の彼女を幸せで一杯にして、殴るなんて選択肢が生まれないように。

「小鳥遊くん、大好き…」








598:583
10/05/09 05:52:01 qysl0q4q
以上でした。
もっとWORKING!!人気出るといいなぁ。

599:名無しさん@ピンキー
10/05/09 13:16:40 XEJoX9US
何と言う原作ネタの取り込み率…
これはニヤニヤしつつGJせざるを得ない

600:名無しさん@ピンキー
10/05/09 13:38:27 gsso1nTB
アニメ見て人増えると良いな
ともかくGJ

601:名無しさん@ピンキー
10/05/09 15:39:34 liMmGA1H
なんというグッジョブ
いなみんがかわいすぎて悶える

602:名無しさん@ピンキー
10/05/09 20:00:41 okwrLI60
おお、愛を感じるぜよw

603:名無しさん@ピンキー
10/05/09 21:25:16 nhAHBmb2
gj
自分も書いてる途中のさとやちを早く完成させたいわ

604:名無しさん@ピンキー
10/05/09 22:00:55 qtzDOAkx
小鳥遊×伊波GJ!

>>603
ワクテカしながら正座待機してる


605:名無しさん@ピンキー
10/05/09 23:19:51 VFCO9sq2
わっふるわっふる

え? この後、ふたりがむすばれるまでを、、、

606:名無しさん@ピンキー
10/05/10 00:31:52 K4aL0Dqv
しかしこの作品面白いな
これは確実に今年アニメの天下取ったよな

607:名無しさん@ピンキー
10/05/10 01:12:09 ThOCGvsX
原作ではそんなこと微塵も考えなかったのに、今日のアニメ見たら
ヤンデレななずなを妄想してしまった。。。
なぜだろう。。。。

608:名無しさん@ピンキー
10/05/10 01:12:41 6xO58Z/1
今シーズンで一番面白いよな
でも放送局が少ないのが残念

609:名無しさん@ピンキー
10/05/10 02:22:19 K4aL0Dqv
まぁけいおんを始めとする他の今期アニメが期待はずれだったというのもあるけどw
とにかく今期No.1決定だわ

610:名無しさん@ピンキー
10/05/10 07:35:39 6xO58Z/1
果たして伊波が小鳥に惚れるまでやるのか

611:名無しさん@ピンキー
10/05/10 07:59:57 K4aL0Dqv
WORKINGアニメ界の天下取ったわ

612:名無しさん@ピンキー
10/05/10 08:33:59 KS/aNcPc
>>610
次もう山田出てくるみたいだし、このペースならちょうどそこに届いて終わりじゃね
まあ2期やる想定があるかどうかで違うけど

613:名無しさん@ピンキー
10/05/10 11:36:00 K4aL0Dqv
どのアニメもWORKINGの敵じゃねぇや

614:名無しさん@ピンキー
10/05/10 12:20:49 VxHs5qdp
煽りがやりたきゃヨソへ行け
ここは他のアニメと比較する場所じゃねえ

615:名無しさん@ピンキー
10/05/10 14:30:12 K4aL0Dqv
いやあWORKING!!おもしれーや

616:名無しさん@ピンキー
10/05/10 19:28:55 6xO58Z/1
ぽぷらが恋すれば可愛いと思うんだ

617:名無しさん@ピンキー
10/05/11 01:26:46 SwFkYCrp
足立を逆レイプ

618:名無しさん@ピンキー
10/05/11 03:36:04 lTC9SCaG
>>598
うわあ

うん
これはニヤニヤせざるをえない


で、この二人のうれしはずかし初エッチを詳細に描いたSSはまだかね?

619:名無しさん@ピンキー
10/05/11 07:44:56 oEHz3H3M
WORKING!!こそ神作品

620:名無しさん@ピンキー
10/05/11 10:34:13 nc5XRkIX
アニメも良い出来だが、猫組の方も読みたいね
しほとゆーたとか

621:名無しさん@ピンキー
10/05/11 13:07:42 JyVyC7H4
>>583
面白かったGJ
でもその後まひるがハッと正気になって恥ずかしさのあまり
抱きついたまま小鳥遊の背骨をへし折る展開が目に浮かんだ

622:名無しさん@ピンキー
10/05/12 00:20:05 Bkna1YfQ
伊波さんはかわいいと言われたくらいで腰を抜かして、押し倒されたくらいで失神してたら、
キスされたらどうなっちゃうんだよ・・・

623:名無しさん@ピンキー
10/05/12 00:24:11 37QCYCID
軽く店破壊

624:名無しさん@ピンキー
10/05/12 00:25:35 54vTe0hD
心停止しちゃうんじゃね?

625:名無しさん@ピンキー
10/05/12 01:32:03 gM/ArTje
SS投下しまーす
たぶん4分割くらいかな

小鳥遊×伊波、エロなし
相馬さんファンは注意
さとやちファンはもっとごめん


626:名無しさん@ピンキー
10/05/12 01:33:48 gM/ArTje
ある日のワグナリア、閉店後の雑談タイム。

「相馬さん相馬さん!新作は持ってきて頂けましたか!」
休憩室から楽しそうな山田の声が響く。
いま山田の中では、相馬制作によるおもしろ写真が大ブームなのだ。

「はいはい、今回はちょっと趣向を変えてみたよ」
そう言うと、相馬も得意げに懐から写真を取り出す。

ビルよりも背が高い、巨大な少女が街を闊歩している写真がそこにあった。
その名は大巨人ポプラドン。
・・・もちろん合成写真である。

「本当にこれくらい大きくなりたいなぁ」
「え・・・それはさすがに大きすぎるんじゃ・・・」
後からやってきたぽぷらと伊波も会話に参加する。
ミニコンである小鳥遊がこの場にいれば
「小さいものへの冒涜だ!」というような抗議をしているであろう写真であったが
今日は家の用事で早上がりしていた。

「いやー『なにかの役に立つかと思って』
写真の加工を勉強してみたけど案外面白いねぇ」
(何の役に立てるつもりなんだろう・・・)
伊波が心の中で突っ込みを入れていると
相馬が無駄に爽やかな、爽やか過ぎて逆に警戒心を煽られるような笑みを浮かべつつ
懐から新たな写真を取り出した。

「こんな物も作ってみたんだけど・・・」
「な゛っ・・・」

それは、小鳥遊と伊波がキスをしている、ように見える写真だった。
正面を向いた小鳥遊と、後ろ姿の伊波を重ねただけのありがちな手法ではあるが
素材の選び方と相馬の見せ方が上手いのかちゃんとキスをしているように見える。
もちろん、2人の間にこのような事実は存在しない。
誰であれ、伊波にキスを迫ろうなら前歯を全部折られるくらいの覚悟が必要なのだ。

そんな人物を相手にするのに、相馬は判断を誤ってしまった。
普段は冷静に、危険の無いよう立ち回る彼だが
戯れで作ってみたキス写真が思いのほか出来がよかったがために
テンパる伊波の反応を見たくなってしまったのである。
好奇心が保身を上回ってしまった。
そしてそれが、、、悲劇を呼んだ。

「きゃああああ!ななななな、なんてもん作っているんですかぁぁぁぁ!」
ゴツッ、ドガガガガガガガ・・・
夜の休憩室に重い音が響く。
それはさながらアスファルトを掘削する重機のごとし。

バキッ、グシャッ、ゴシカァァン!
トドメと言わんばかりの一撃が決まり、相馬が地面に叩きつけられる。
「空中に浮かせてからの24HITコンボ!腕を上げましたね伊波さん!」
目の前でちょっとした惨事が繰り広げられているのに山田は何故か楽しそうだ。

「ご、ごめんなさ・・・いやぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃ!!!」
脱兎、、、というには力強すぎる勢いで逃げ出す伊波。
「あらま、伊波ちゃんいまの写真持っていっちゃったよ・・・」

ぼろ雑巾のようになった相馬は、
「調子に・・・乗りすぎた・・・」
そう呟き、気を失った。

627:名無しさん@ピンキー
10/05/12 01:34:52 gM/ArTje
  ***

「ね、ねむれなかった・・・」
翌日、伊波は寝不足だった。

昨夜は勢いで合成写真を持ち帰ってしまったものの、
捨てるに捨てられず、かと言って直視もできず
そのくせちょっと取り出して見てみては爆発炎上していた。

そしてやってきた休憩時間。
幸いにも今日はあまり忙しくはなかったが、それでも寝不足で働くのはしんどい。
ちょっと、休もう。
そこまでしっかりと眠るつもりはなかったのだが、
ソファの柔らかさに身体を委ねた時点で
伊波はもはや睡魔に抗うことはできなかった。

しばらくして、小鳥遊が休憩室に入ってきた。
「っと、寝てるのか」
「・・・」
「まったく、風邪引くぞ・・・」

毛布を手に伊波に近づくと、見覚えのあるヘアピンが目に入る。
「ホワイトデーに俺があげたやつじゃないか」
「律儀だなぁ・・・」
毛布を伊波の肩にかけたあと、小鳥遊はそのまま隣に腰をかけて伊波の寝顔を覗き込んだ。

・・・こうしていればホント普通の女の子なんだけどな。
腕力はとんでもないけど、いつもいっぱいいっぱいで。ちょっと気が弱い部分もあって。
殴られはするけど、家族の愚痴を聞いて貰ったりフォローして貰ったり、結構助けてもらっているように思う。
考えてみれば年上で、比較的近しい存在というのは初めてなのかも知れない。
(※先輩は年上と認めない、断じて)

ぼんやりと思索にふけっていると、ふいに左肩に重さを感じた。
気付くと、小鳥遊の肩に身体を預けるように伊波に寄りかかられていた。

「いなみさ・・・」
「あ、かたなしくーん、杏子さん見なかった?・・・って、あれま。」
小鳥遊が何かを言いかけたところ、タイミングよくぽぷらが現れる。

「せ、せんぱい?」
別に何をしていたわけでもないがなんとなく気恥ずかしい。
「伊波ちゃん疲れているみたいだね。」
「そ、そうですね・・・」
「かたなしくん、いまお客さん少なくてホールは大丈夫だから
もうしばらく伊波さんに肩、貸してあげて?」
「え」
満面の笑みを浮かべるぽぷら。
「そんな!この体勢って伊波さんが目を覚ました瞬間にご臨終コースじゃないですか!」
「しー!かたなしくん大きな声出しちゃだめだよ!伊波ちゃんが起きちゃう!」
小鳥遊にとっては死刑宣告に等しいことを念押ししたあと
ぽぷらは鼻歌を歌いながら去っていった。


628:名無しさん@ピンキー
10/05/12 01:36:17 gM/ArTje
どうしようか、、、とりあえず起こさないように身体を押し返して・・・
と、伊波の首のあたりから糸が出ているのが目に入る。
単なる糸くずか、それともボタンがほつれてしまっているのだろうか。
染み付いた主夫の性でその糸が気になり、手を伸ばした、その時。

「ん…」

「いなみさん?目が覚め・・・」

言いかけて、ハッとする。
やばい、至近距離はやばい。なによりも伊波の肩口に伸びたこの右腕がやばい。
なんだこの状況。端からは寝込みを襲おうとしていたようにも見えるかもしれない。
せめて腕を引っ込めなければ、と思うものの身体が固まってしまい動くことができなかった。

伊波は状況が掴めていなかった。
目を開けると、すぐ近くに小鳥遊の顔があった。
自分は身体を預けて寄りかかる状態になっており、
あろうことか小鳥遊の右手は自分の左肩に添えられている。

ああ、これは夢だ。
相馬さんの写真の影響で、こんなにも現実離れした夢を見てしまっているのだ。
男性恐怖症の私がこんなに小鳥遊くんに密着して、殴ってしまわないはずがない。
これは夢だ。幸せな夢。

「たかなしくん・・・」

--夢だったら、もうちょっとだけ背伸びしてみてもいいよね。

身体に染み付いてしまった悪癖から、普段は叶わぬ願い。
--小鳥遊くんに近づきたい。触れていたい。
その気持ちから伊波は、自分でも思いもしない行動を起こしていた。

伊波はおもむろに首をもたげ、小鳥遊の瞳をまっすぐに見つめた。
そこには見慣れた自分の顔が映りこんでいた。
だんだんとその顔が大きくなってくる。
そして、その瞬間、そっと目を閉じた。

2人の間の距離がゼロになった。
それはキスと呼ぶにはほんのささやかな一瞬。
しかし確かに触れ合った唇と唇。

小鳥遊にしてみれば、全くの不意打ちだった。
殴られる、と覚悟を決めたものの、その一撃は来なかった。
代わりに訪れたのは柔らかい接触。

どくん、どくん、どくん。
心臓がうるさい。
なんだこれ、なんで伊波さんの顔がこんなに近くにあるんだ。

伊波の唇が離れたあと、小鳥遊は何かを言おうとするが、言葉にならない。声すら出ない。
先に声を発したのは伊波だった。

629:名無しさん@ピンキー
10/05/12 01:36:58 gM/ArTje
「きゅぅ・・・」
言葉じゃなかった。

伊波自身は夢の中での行動のつもりだったのだが、それでも刺激が強すぎたのだ。
伊波の顔はかつてないほどに上気しており
目を覚ました早々、また意識を失ってしまった。

「ね、寝ぼけてたんだよな・・・?」
自分に言い聞かせるかのように小鳥遊はひとりごちた。

630:名無しさん@ピンキー
10/05/12 01:37:31 gM/ArTje
  ***

そしてまた翌日…

「おおおおお、おはよう小鳥遊くん!」
「おはようございます、伊波さん」
顔をあわせて早々、最大級のテンパりを見せる伊波をよそに
小鳥遊はいつも通りの笑顔だった。
そうだよね、昨日のあれは夢だよね。
妙にリアルだった気がするけど、夢に決まっている。
「今日は近くでイベントがあるらしくて、珍しく忙しくなりそうですよ」
「そそそそうなんだ?じゃ、じゃあ、はやく着替えてくるね!」
顔を合わせているだけで頭が沸騰しそうだったので足早にその場を走り去る伊波。
「うううー・・・あんな夢見ちゃったせいで小鳥遊くんの顔を見れないよぅ・・・」

伊波が更衣室に消えた後、ぽぷらが小鳥遊に声をかける。
「かたなしくん、ごめん!洗い物の食器を持ち上げるの手伝ってー!」
「・・・・・」
「おりょ?かたなしくん?」
「・・・・・・・・・」
「大変!!かたなしくんが固まってる!?」
むしろ、夢でないという自覚のある小鳥遊の方が重症だった。
ぽぷらの呼びかけにも反応できないほどに。
 
  ***

「・・・さすがにやばい、ほんとうにやばい、死ぬ、もうすぐ死ぬ・・・」
相馬は頭を抱えていた。自分はいま爆弾を抱えている。
何故印刷して持ってきてしまったんだろう。
相馬は決定的瞬間を捉えた写真を握りしめていた。
面白いことになっているような予感を感じて休憩室の様子をのぞきに言った際に『偶然にも』撮れてしまった写真。
とはいえさすがの相馬も、あまりにプライベートな瞬間を写真に収めてしまったため罪悪感も感じていた。
しかもこっそり印刷してきたそれを山田に見つかってしまっていたのだ
「腕を上げましたね相馬さん!山田は感激です!」
「そ、そうでしょ、うまくできすぎちゃったよ・・・その合成、ははは」
そうだ、合成写真ということにしてこの場は切り抜けよう、そして当事者に見つかる前に・・・

「きゃあぁっぁぁぁぁああああぁぁぁ!!なななななななんなんですかその写真んんんんん!!」
伊波さん、何故君はいきなり走り込んでくるんだい・・・?
相馬の脳裏をこれまでの2X年の人生が頭をよぎる。
そして、最期に、あるときの小鳥遊の言葉を思い出していた。
「「「伊波さんは間が悪い!」」」
ああ、本当にそうだね小鳥遊くん。流石、君は伊波さんマスターだ。
遠のく意識の中、自分を兄候補と慕う少女の声が聞こえた。

「、、、20、、、30、、、」
山田が数えるヒット数が50を超えたあたりで、相馬博臣は考えるのを止めた・・・


==終わり==

631:名無しさん@ピンキー
10/05/12 01:40:05 gM/ArTje
いじょーっす。
分割ミスって5分割になってしまってゴメン。

勢いで書いたんでまともに推敲してないけど
2828の一助になれば幸いです。

あと、名前欄に書き忘れたけど、
一応OPの歌詞からタイトルは
「もっとぎゅっと距離を」ということで。


では、おやすみなさい

632:583
10/05/12 03:19:23 31DeuPLL
>>631
2828した!
2828したぞおおおおおおおおおお!!

いいものをありがとう。
伊波がかわいすぎてリアルのWORKING!!がつらい

きっと山田が言うんだろう、かわいそうまさんって。

633:名無しさん@ピンキー
10/05/12 08:08:13 3Bdy/apA
朝から2828誌過ぎて心臓がいたい

634:名無しさん@ピンキー
10/05/12 19:06:23 rOvYR3L+
このいなみんは俺が頂いた
小鳥遊はぽぷらを撫でながらハァハァでもしてな!

635:名無しさん@ピンキー
10/05/12 19:37:00 ymMtXi7r
そして、ぼこぼこにされる634の姿がそこにっ!

636:名無しさん@ピンキー
10/05/12 19:47:50 ZO4vuDyo
伊波さん!伝説の100Hitコンボを会得したんですね!

637:名無しさん@ピンキー
10/05/12 22:31:21 rOvYR3L+
我々の業界ではご褒…ガフッ!!

638:名無しさん@ピンキー
10/05/12 22:42:34 C119qKIz
伊波さん、送ってあげたトゲ付きグローブとか革手錠とかをちゃんと>>634に使ってあげてるかなぁ…


639:625
10/05/12 23:18:24 t/v8vckZ
読んでくれた人ありがとう

仕事中に文章考えちゃうから早目に出したつもりだったのに
続き思いついちゃったぜ・・・w


640:名無しさん@ピンキー
10/05/12 23:31:03 54vTe0hD
続き希望!

641:名無しさん@ピンキー
10/05/13 00:16:06 Ig4vqLX2
なんか人増えてる

642:名無しさん@ピンキー
10/05/13 00:20:50 Yaol+ChK
>>639
タイトルがあるとまとめ収録時に助かる

643:625
10/05/13 00:40:11 eyzO1qkT
>>642
収録して貰えるなら「もっとぎゅっと距離を」で頼んます

>>640
書き上がったらここに投下します。
ここ数日仕事時間中に妄想しすぎたので木金はちゃんと仕事せなw

644:名無しさん@ピンキー
10/05/13 00:47:50 Yaol+ChK
>>643
普通にタイトルを見逃してました
失礼

645:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:38:35 33HjseYO
投下しますよ
佐藤と八千代です。二人の間にどんな記号が入るかは投げますw
エロなし短い。なのにムダに3か4分割くらい
すごくひさしぶりにSS書いたらこのザマだよ!

646:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:39:40 Yaol+ChK
よしこい

647:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:42:01 33HjseYO

「ねぇ佐藤くん。今ちょっと大丈夫?」
 いつも通り微妙に人気のないワグナリアの厨房で暇を持て余していた俺は、フロアの方からやって来た轟に声を掛けられた。

「どうした八千代。俺は新しい種島いぢめの考案で忙しいんだ」
「またそうやって……ぽぷらちゃんと仲良くしてあげてね。ぽぷらちゃん、佐藤くんには何でも話すし特に仲良いんだから」
「そうか? 別にそんなつもりはないんだが」
 いつの間にか隣まで来ていた轟にドキリとしつつもフロアの方に視線を移すと、小鳥遊と伊波と種島が裏で食器拭きをしながら仲良くじゃれあっているところだった。

「相変わらずフロアの高校生組も仲が良いわね。まひるちゃんもだいぶと男の人に慣れてきたみたいだし。これも小鳥遊くんのおかげね」
「こっちとしては殴られなきゃなんでもいい。小鳥遊には悪いが」
 最近の伊波は本人の努力の賜物か、小鳥遊の忍耐の結果か、対男限定の暴力の回数が減ってきていた。
 接客では子供と年寄り以外の男にはまだまだ難があるものの、数少ない男スタッフには少なくとも業務上での最低限のコミュニケーションは取れるほどに改善されてきていた。

「今はね、小鳥遊くんを殴っちゃうのはほとんど照れ隠しなのよ。やっぱり好きな人の為なら頑張れちゃうのね」
 それに気づけない小鳥遊くんは本当に鈍いんだから。もう、ダメね、と頬に手を当てたままぽわぽわした口調で続けた。
 おいおいお前が言うかよと口に出しそうになったものの、自分のヘタレ具合も(不本意だが)多少なりとも自覚があるため短くなった煙草の煙と共に吸い込んでおく。

「それで。何か用があって来たんじゃないのか?」
「そうそうそれでね。まひるちゃんも改善されてきているし、次は佐藤くんの番じゃないかなぁって」
「……はぁ?」
 いやいや何を言っているんだ。俺には苦手なものも理不尽に殴る病気もないぞ。流れで行くなら次は小鳥遊のミニコン辺りだろ



648:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:44:47 33HjseYO

「あのね、佐藤くんは私の事名前で呼んでくれているでしょ? それでやっぱり私も佐藤くんの事を名前で呼びたいの」
「前も言ったが俺は名前で呼ばれると持病の喘息がだな」
「うん……無理は良くないと分かっているけど……これから先、その……前言ってた好きな人にもし名前で呼ばれるような時に咳き込んでばっかりじゃ辛いと思うから……」
 ダメかしら? と少し申し訳なさそうに、見間違えでなければ寂しそうに続けた。
 これくらいの歳になると名前で呼ばれる事もほとんどないし、いやいやそもそも轟に名前で呼ばれるのがダメというか、ダメじゃないが余りの破壊力に咳き込んでしまうというか。

「本当はね、私が佐藤くんを潤くんって呼びたいだけなんだけど……」
「げふんごふん」
「ああっやけに棒読みな咳だけど大丈夫!?」
 やっぱりダメだったかしら、とおろおろと心配そうな顔で覗き込んできた。あぁそうだよこういう顔も性格も好きなんだよ。本当の理由なんて隠しておけばいいだろ。
 まぁ分かってはいたんだけどな。轟は仲の良い同性とは名前で呼び合っているし、一つのバロメーターというか。今までろくに友人のいなかった轟なりの距離感の縮め方なんだろう。
 その厚意から俺は一度、自分勝手な理由で避けていたんだ。
 覚悟は以前に真柴二号といざこざがあった時にしたし、幸いにも相馬は非番でいない。明日出勤してきたらいきなり何か言われそうだがそれでもいいさ。自分で決めた事なんだからな。

「すまん八千代、大丈夫だ。それでだ、何て言うか名前の事なんだがな……その、なんだ別に構わん」
「……本当に?」
 せっかく吹っ切れたのにそんな叱られてうつむいていた子供の前にお菓子を出したような顔で尋ね返されたらたまんねぇじゃねえか。
 普段から轟にアホとか言ってるけど今の自分も相当だな。

「ああ。ひとおもいに言ってくれ」
「ひ、ひとおもいに? じゃあ先に佐藤くんが私を呼んで、その返事で言うわね」
 自分から言い出したのに照れちゃう、と恥ずかしそうにしているのに轟の顔には嬉しさも垣間見える。轟からしてみれば友達の名前を呼べるようになるだけなんだがな……
 『友達』か……それだけ轟にとって俺は良くも悪くも大切な『友達』ってわけか。『友達』……ね。

「佐藤くん? やっぱり嫌?」
「あ? 悪い大丈夫だ。じゃあ呼ぶぞ」
 またネガティブになりかけたが今は目の前の事に集中しよう。そうすれば─




「八千代」



 『友達』かもしれんが一歩進んだ友達になれるかもしれないじゃないか。



「はい、潤くん」


 

649:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:47:54 33HjseYO

「あれ? 八千代さん、さとーさんどうしたの? 二人とも顔が真っ赤だよ?」
「な、なんでもないのよぽぷらちゃん。ね、潤くん?」
「…………ソーデスネ」
「あー! 八千代さん、さとーさんを名前で呼んでる! 仲良いんだね! さとーさん、私も名前で呼んでいい?」
「種島、俺を名前で呼ぶと背が縮むぞ」
「えっ、だって八千代さんは? ……きゃーやめてよさとーさん髪いぢらないでよー」


 この先、この呼び方に慣れる日がくるのだろうか。でも今は取り合えず─





「それでね潤くん、杏子さんがね……」


 惚気話もあまり苦にならんところは有り難いな。



650:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:50:38 33HjseYO


 おまけ

「(宗太くんってよんでみたいなーでも無理だよね……治ってきたとは言え、付き合っているわけじゃないし名前を呼ぶなんて)」
「伊波さん、伊波さん」
「(でもでも、いつかは手を繋いでデート中に宗太くんって呼んでみたりして! きゃー!)」
「伊波さん? おかしいですよ? 大丈夫ですか?」
「えっ? あ、何、かな、そうたく……」
「そう……?」
「そ、そ、そう……そうだ! 14卓にお冷注ぎに行ってこなきゃ!」
「14卓は男性客ですよ?」
「え、あのえっと……ごめんなさい!」
「やっぱ殴られるんですね!!」




 おまけ2

「足立くん。下の名前で呼んでくれないかしら」
「えっあの、どういうことかな?」
「私達付き合ってるんだし、それくらい普通だと思うんだけど。高校生に感化された足立くん」
「ちょ、それはやめてよ。わかったから」
「じゃあお願い。まさか名前を知らないなんて事ないわよね? 着替えようとしてもなかなか出ていってくれなかった足立くん」
「もうやめてください……名前もきちんと覚えてるから!」
「じゃ、改めてお願い」
「…………さゆりさん」
「…………」
「あ、やめてドライアイスは流石にまずいから! 照れてるの!? 嬉しいの!? 恥ずかしいの!?」
「うるさい無理やりキスした正広くんうるさい」
「そっちも名前で呼ん冷たい痛い痛い!」



651:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:53:51 Yaol+ChK
こんなん読んでしまったら胸が痛くて眠れなくなってしまうわ!

652:名無しさん@ピンキー
10/05/13 01:59:04 33HjseYO
終わりです(二つの意味で)

キャラ掴めてないな。というか不憫じゃない佐藤さんは佐藤さんじゃないな。略して不潤。
技術的な面でもパーだよ! オチと場面転換と長文が書けるようにならなきゃね!

小鳥遊×伊波は書いてくださる方がいらっしゃるようなのでさとやちもどきや、ぽぷさとやちもどきや、その他なにかマイナーなの書けたらいいね!
言うのはタダだよね!

653:名無しさん@ピンキー
10/05/13 02:00:37 0ojxxJEn
心臓が痛い!死ぬ!

654:名無しさん@ピンキー
10/05/13 02:18:41 rQHdn1ZW
本スレでたまに書かれる
「ぽぷらは実は佐藤or小鳥遊が好きで・・・」ってネタは需要あるんかな
書きたい感じはするけど失恋エンドになると思うんでw

655:名無しさん@ピンキー
10/05/13 02:20:29 Yaol+ChK
>>652
タイトルあります?

656:名無しさん@ピンキー
10/05/13 02:42:46 netNK7rJ
>>655
タイトル考えるのが苦手で。仕事しながら今日の夜までに考えておきます

657:名無しさん@ピンキー
10/05/13 09:18:51 joof6sLc
>>655
IDが…やおいチェック?

658:名無しさん@ピンキー
10/05/13 09:24:36 qrDOnX4h
エロパロスレなのにエロなしとか



なんという良スレ
すごい勢いでニヤニヤするもっとやってください

659:名無しさん@ピンキー
10/05/13 10:38:49 reeisAzX
WORKING!!アニメ界No.1

660:名無しさん@ピンキー
10/05/13 11:12:59 abCZux1a
少し書いてみて気づいたんだが、
小鳥遊と伊波がイチャつき出すと佐藤さんが不幸な感じになってくる…w

661:名無しさん@ピンキー
10/05/13 12:23:40 reeisAzX
WORKING!!に勝るものなし

662:名無しさん@ピンキー
10/05/13 20:42:49 wItDQks2
佐藤さんの不幸が際だって来る感じたよな。

663:名無しさん@ピンキー
10/05/13 22:18:13 33HjseYO
>>655
タイトルは「やっと呼べた」でお願いします。


664:名無しさん@ピンキー
10/05/14 00:21:56 20eY3Hfv
>>663
㌧です

665:583
10/05/14 02:38:51 iJIWbTiM
どうも。
最近、小鳥遊×伊波の「衝動ごと抱きしめて」を書いた583です。

その後のえっちな続きを読みたいということでしたので書いてみました。
またまた長くなってしまいまして、19分割でお送りさせていただきます。

666:名前を呼んで1
10/05/14 02:40:19 iJIWbTiM
北国、北海道のとある街の、とある通りに面したファミリーレストラン、ワグナリア。
そこで働くウェイターと、ウェイトレスが休憩室でじっと見つめあう。

「いいですよね、伊波さん。俺、もう我慢の限界なんです」
「た、小鳥遊くん…、でも他の人に見られたりしたら」

熱っぽいで少年が少女へと一歩また一歩と歩み寄る。

「大丈夫ですよ、他のみんなはさっきフロアに戻ったばかりですから」
「えと…、ほら私がまた、その、やっちゃうかもしれないし」

少年はいやいやするように懇願する少女の制止も聞かずにまた歩みを進める。

「それも問題ないですよ。伊波さんが目を閉じて、それからやっちゃえば抵抗しないの知ってますから」
「あぅ…、ら、乱暴にしない…?」
「もちろんです。優しくします。だから、目をつぶってください」
「う、うん…」

少年の言葉に従い、少女がすっとまぶたを閉じる。
その頬は朱色に染まり、緊張したように唇を強めに結ぶ。
そんな彼女を見て、少年は思わず笑みをこぼし、それから目の前まで移動する。

「それじゃいきます…」
「お願いします…」

そして少年が少女の一部に触れると、

「んっ…」

少女が一瞬驚いたように体を震わせると共に甘い声を上げる。
しばらく二人がその姿勢を保っていると、少年の方から少女を気遣う。

「どうですか、大丈夫ですか?」

目じりにほんのり涙を溜めている少女はおずおずと頷いてから

「大丈夫、何か気持ちよくなってきたし…」

微笑んで答えてみせた。
その言葉に少年は気が急きそうになるが、一つ深呼吸してから再度少女に触れようとする。

667:名前を呼んで2
10/05/14 02:41:29 iJIWbTiM
「もうちょっと我慢してくださいね、もうすぐですから…」
「うん、もうちょっと早くても平気だから、お願い、小鳥遊くん…」

そして、小鳥遊が伊波に触れようかという瞬間、

「だ、ダメだよ、かたなし君、伊波ちゃん、さすがにそれはここじゃダメー!!」

と種島ぽぷらが休憩室に飛び込んで、大きな声で二人の行為を制した。

「先輩…?」
「た、種島さん!?」

ぽぷらのあまりの勢いに小鳥遊、伊波の両名は動きを止め、目を瞬かせて彼女を見やる。
対してぽぷらはその二人を見て、あれ、と首を傾げていた。
頭上にクエスチョンマークを浮かべた表情でぽぷらが質問を投げかける。

「…二人は何をしていたの?」

その問いに小鳥遊は手に持っていたものをぷらぷらとさせて示す。

「見ての通りです。伊波さんの膝のかさぶたをピンセットで取ってたんですよ」
「うん、私、自分でやるのいつも踏ん切りつかないって言ったら、
小鳥遊くんがやってくれるって言うから、お言葉に甘えてたの」

伊波も続けて事情を説明すると、完全にぽぷらの口があんぐりと開く。

「種島さん、どうしたの…?」
「……さ…」

顔はそのままでぽぷらがこぼすように言葉を漏らしたかと思うと、

「さとーさーん!!!」

刹那の後、ぽぷらは大きな声で、自分に盛大な勘違いをさせた張本人の名を叫んでいた。

668:名前を呼んで3
10/05/14 02:42:30 iJIWbTiM
「さとーさん! どーしてウソついたの!」

ぷりぷりと頬を膨らませて、非難の声でワグナリアのキッチン担当の佐藤潤を追及するぽぷらに
佐藤が向き直ると、いかにも何を言っているんだお前はという顔で反論する。

「おい、種島。俺がいつお前にウソをついたっていうんだ?」
「ついたでしょ! 伊波ちゃんとかたなし君が休憩室で仲良さそうにしてるって!」
「で?」
「で?って…。もー、はぐらかさないでよ!」

頭から煙でも出して怒っている小柄な彼女の頭を、佐藤はむんずと掴むと、
どこかわざとらしいため息をついてみせる。

「種島、今自分で言ったな。伊波と小鳥遊が休憩室で仲良さそうにしているって」
「だから、それが」
「してただろ? 仲良さそうにかさぶた剥がし」
「え……」

佐藤にやれやれと言う感じで言われると、ぽぷらはまたもや硬直してしまう。
が、ここで言いくるめられてはいつもと変わらないとぽぷらは気丈にも立ち向かうことにする。

「で、でも、かさぶたを剥がしてるなんて話は聞いてないもん!」
「ああ、言ってないからな」
「じゃあ、わたしが勘違いしちゃうのもムリないでしょ!」
「勘違いしたのはお前が勝手にしたのにか?」
「え……」
「俺が仲良さそうにしてると言ったら、すぐに休憩室を見に行って、
それで小鳥遊と伊波の話にでも聞き耳立てた結果、お前は赤っ恥をかいた」
「そ、そう。そういう風にさとーさん仕組んだでしょ!」

まさか佐藤からいいパスが回ってくるとは思っていなかったが、話を要約してくれたので
ぽぷらはその話に同調して、攻め立てようとする。
が、それがそもそも間違いだったことに気づかされることになる。

669:名前を呼んで4
10/05/14 02:43:59 iJIWbTiM
「おいおい、いくらお前との付き合いの長い俺でもあんな言葉だけで
お前が、休憩室にあいつらの様子を見に行こうとするなんて想像なんてできないし、
小鳥遊と伊波がいかにもいかがわしいことをしようとしているカップルのように
勘違いするだなんて夢にも思わないぞ」

まるで全てを見ていたかのように話すが、ぽぷらはそっちではなく
何で自分の心が読めるんだろうという疑問に頭がいってしまい、最後の追求のタイミングを逃してしまう。
それを好機と見たか、佐藤はあくまで無表情のままでとどめをさしにかかる。

「種島、お前さあ」
「な、なに…?」
「お前、とんでもないエロいやつだったんだな」
「え、ええええぇぇっ!?」

ぽぷらはそんなことを言われるとは予想していなかったらしく驚いた声を上げる。
だが、顔を赤くし、そんなことはないと訴える。

「わたし、えっちじゃないよ!」
「だって、かさぶた剥がしてただけなのに変なこと考えたんだろ?
それは立派なエロい考えだ。エロい星からやってきたエロリアンめ」
「だからえっちじゃないってば!」
「……種島」
「えっちじゃないよ!」
「身長伸びたか、種島」
「えっちじゃないよ!」
「お前かわいいな、種島」
「えっちじゃないよ!」
「……驚くほど小さいな、種島」
「えっち…ちっちゃくないよ!」

670:名前を呼んで5
10/05/14 02:45:02 iJIWbTiM
「あー、でも佐藤さんにからかわれてぷんぷんしてる先輩かわいい!」

隣でミニコンを如何なく発揮する少年に呆れ半分、ため息半分になる伊波。
何せこの変態チックな男、小鳥遊宗太は伊波まひるの恋人なのだから。

2週間ほど前、ちょっとした口ゲンカから発展した騒動の結果、
伊波は長らく秘めていた彼への想いを告白し、その時小鳥遊も伊波のことを
異性として好きになり、そのまま付き合うという運びになったのだ。
それからの時間は今までにないほど楽しいものだった。
気持ちを伝えることができた喜びと彼に抱きしめられたという事実が
彼女の胸を幸せで満たし、更に彼からの笑顔が以前とは違う優しいものになったのだから。

けれど、自分自身の男性恐怖症が壁となり、
初めて抱きしめ合って以降、そういった行為には至ったことはない。
というよりも、そこに至ることができずにいた。
伊波の男性恐怖症はただ単に男性が怖いのではなく、
その反動が防衛本能に作用して、目の前の男性を叩きのめすという形で表面化してしまうためだ。
何度も手をつなごうともしたが、恥ずかしさと未だ拭いきれない男嫌いが邪魔をして、
どうしても手をつなぐことができず、代わりに拳が飛んでしまった。

その度に伊波は小鳥遊に謝るのだが、ゆっくり治して行きましょうと優しく諭されて、今日に至る。
さっきのかさぶたも小鳥遊がかさぶたを剥がしたがる性癖があるというのは会話の上での建前で
むしろ本質は伊波の男嫌いのリハビリなのであった。

それを思うと、伊波の心は今までとは違う苦しみを覚える。
好きな人を殴る罪悪感は以前からあったが、なかなか先に進めないもどかしさだ。
二人でいる時は幸せな気分に浸っていられるのだが、一人になった時にふと考えてしまう。
やっぱり自分と付き合うことは彼にとっていいことではないのではないだろうか、と。
それ払拭したいが故に前に進みたい、もっと彼の近くに行けたらと、伊波は願う。

けれど、小鳥遊はどうだろう。
取り立てて、そういった焦りや欲求はないように見え、自分との付き合い方の根本は変わっていないと思えた。
そういう彼が好きなのは確かなのだけれど、何か伊波はこのままじゃいけないと想いを募らせていた。

小鳥遊も特殊な趣味は持っているが、それにも大分慣れてきて、
ある程度のことを流して見ることもできるようになった。
やはり伊波自身の男性恐怖症が大きな壁だった。

(こんなに近くにいるのになぁ…)

671:名前を呼んで5(↑の貼るのミスりましたorz)
10/05/14 02:48:39 iJIWbTiM
そんな二人の様子を遠目に眺めていた小鳥遊と伊波は苦笑する他なかった。

「な、何か種島さんに悪いことしちゃった」
「そうですね。いいように佐藤さんにいじられる口実を与えてしまって…」

けれど、すぐに小鳥遊の様子がおかしくなり、どこか恍惚とした表情に変わる。

「あー、でも佐藤さんにからかわれてぷんぷんしてる先輩かわいい!」

隣でミニコンを如何なく発揮する少年に呆れ半分、ため息半分になる伊波。
何せこの変態チックな男、小鳥遊宗太は伊波まひるの恋人なのだから。

2週間ほど前、ちょっとした口ゲンカから発展した騒動の結果、
伊波は長らく秘めていた彼への想いを告白し、その時小鳥遊も伊波のことを
異性として好きになり、そのまま付き合うという運びになったのだ。
それからの時間は今までにないほど楽しいものだった。
気持ちを伝えることができた喜びと彼に抱きしめられたという事実が
彼女の胸を幸せで満たし、更に彼からの笑顔が以前とは違う優しいものになったのだから。

けれど、自分自身の男性恐怖症が壁となり、
初めて抱きしめ合って以降、そういった行為には至ったことはない。
というよりも、そこに至ることができずにいた。
伊波の男性恐怖症はただ単に男性が怖いのではなく、
その反動が防衛本能に作用して、目の前の男性を叩きのめすという形で表面化してしまうためだ。
何度も手をつなごうともしたが、恥ずかしさと未だ拭いきれない男嫌いが邪魔をして、
どうしても手をつなぐことができず、代わりに拳が飛んでしまった。

その度に伊波は小鳥遊に謝るのだが、ゆっくり治して行きましょうと優しく諭されて、今日に至る。
さっきのかさぶたも小鳥遊がかさぶたを剥がしたがる性癖があるというのは会話の上での建前で
むしろ本質は伊波の男嫌いのリハビリなのであった。

それを思うと、伊波の心は今までとは違う苦しみを覚える。
好きな人を殴る罪悪感は以前からあったが、なかなか先に進めないもどかしさだ。
二人でいる時は幸せな気分に浸っていられるのだが、一人になった時にふと考えてしまう。
やっぱり自分と付き合うことは彼にとっていいことではないのではないだろうか、と。
それ払拭したいが故に前に進みたい、もっと彼の近くに行けたらと、伊波は願う。

けれど、小鳥遊はどうだろう。
取り立てて、そういった焦りや欲求はないように見え、自分との付き合い方の根本は変わっていないと思えた。
そういう彼が好きなのは確かなのだけれど、何か伊波はこのままじゃいけないと想いを募らせていた。

小鳥遊も特殊な趣味は持っているが、それにも大分慣れてきて、
ある程度のことを流して見ることもできるようになった。
やはり伊波自身の男性恐怖症が大きな壁だった。

(こんなに近くにいるのになぁ…)

672:名前を呼んで6
10/05/14 02:50:06 iJIWbTiM
申し訳なさそうな顔で眺めていると、視線に気づいた小鳥遊が伊波を見る。

「どうしました?」
「え、ううん。何でもないよ、ちょっと見てただけ」

どこか顔色のよくない彼女を見て、小鳥遊はもしかしてと尋ねる。

「あの、先輩にかわいいって言ったの気にしてます?」
「え?」

伊波にとってそれは意外な発言だった。
小さいものをこよなく愛する彼が自分のそういった嗜好を今更気にするなどらしくない。
誰に何を言われようと、曲がらない一本の信念に近いそれだったにも関わらず、
今の彼はそのことを申し訳なく思っているような顔だった。

「どうしたの、小鳥遊くん。種島さんのことかわいいなんて、いつも言ってるじゃない」

言われて、彼は伊波の目から逃れるように目線を外す。

「いや、そのみんなには秘密とはいえ、付き合ってる彼女の前で
他の女の子をかわいいだなんて言うのは失礼なんじゃないかと…」

その言葉を聞いて、伊波は少なからず驚き、そしてほっとした。
自分だけが付き合ってる相手のことを気にしてるわけじゃないんだとわかって。
ちゃんと愛されているのだと教えてもらえて。

そのうれしさが溢れて、伊波はいつもよりも可愛く甘い笑顔を見せる。

「大丈夫。小さいものかわいがってる小鳥遊くんも好きだもん」

少女の言葉と何よりとびっきりの表情を目の当たりにした少年の心臓がどくんと大きく跳ねた。

(い、伊波さん、その顔は反則だ! 自制が効かなくなる!)

依然満面の笑みでいる彼女から離れるためにわざとらしく咳払いをして

「じゃ、じゃあ、そろそろ休憩終わりですから戻りましょうか」

そう提案する。
伊波はそう照れ隠しをしてみせた小鳥遊に更なる愛しさを感じつつ、

「うんっ」

と一際きれいな声で答えた。

673:名前を呼んで7
10/05/14 02:51:04 iJIWbTiM
その日の帰り、いつものように小鳥遊が伊波を、彼女の自宅近くまで送っていると
思い出したように小鳥遊が伊波に話を振る。

「そういえば今日は少し焦りましたね」
「? 何かあったっけ?」
「佐藤さんが俺たちのこと仲良さそうにしてるって言ってたみたいじゃないですか」

その言葉で伊波はどういう話なのかを理解し、元々ほんのりと赤かった頬を更に赤く染め上げる。

「そ、そうだね。もしかして佐藤さん、私たちのこと気がついてるのかな」

小鳥遊はまさかと思うが、いやしかし佐藤さんなら…と難しい顔をする。
伊波がその様子を見ていると、くすりと笑ってから、大丈夫だよと言ってやる。

「佐藤さんって無愛想に見えるだけですごく優しいじゃない」
「まあ…そうなんですけど……」

尚も歯切れの悪い彼、というかどうもはっきりと何か悪い考えにたどり着いてしまったような顔をしていた。

「小鳥遊くん、どうかした?」
「いや、佐藤さんは別に心配いらないのは確かなんですけど、
佐藤さんが気づいていて、あの人が気づいてないなんてことはないんだろうなと思って…」

そう言われてもわかんないよと思うが、すぐに伊波ははっとする。
彼女も彼の言う『あの人』が誰か理解したのだ。

「もしかして相馬さん…?」
「ええ…。そもそも付き合いだして2週間も経っているのに
相馬さんの方から何か俺たちに言ってくるでもないのって逆におかしい気がしませんか?」

青ざめた顔を小鳥遊を尻目にきょとんとするだけでどうにもそれ以上はピンと来ない様子の伊波。
おや、と小鳥遊は思い、伊波に問う。

「思わないですか?」
「確かに相馬さんは物知りだから知ってるのかもしれないけど、だからって私たちに何か言ったりするかな?」
「だって相馬さんですよ?」
「まあ、たまに何でそんなことまでって思うことはあるけど、それだけじゃない?」
「え……」

その発言ではっきりとお互いの相馬への認識にズレがあることを認識する。
ワグナリアのキッチン担当の一人、相馬博臣。
彼は独自のネットワークを持っているらしく、それを利用して周囲の人間の情報を仕入れ、
それが万端になったところで本人に近づく。

要するに弱みを握ってから、自分が優位に立ったところで相手が
その情報で歯向かえないのをいいことに相手をいいように『説得』する人間なのだ。
少なくとも小鳥遊の中ではワグナリアで敵に回ったら一番厄介だった。
小鳥遊自身の過去を知られているという意味で。

674:名前を呼んで8
10/05/14 02:52:33 iJIWbTiM
「い、伊波さん、相馬さんって、何ていうか時々秘密をばらそうとして
俺たちがそれに慌てるのを楽しんでるような節があるじゃないですか」
「……そうだっけ?」

うーんと頭を悩ませている伊波を見て、小鳥遊はあることを思い出した。
まだバイトを始めてそこそこの頃、相馬自身が言っていたことだ。

―伊波さんと上手くいっているのは君と佐藤君ぐらいだよ!―

そこでピンときた。

「なるほど、そういうことか…」
「え、何が?」

ひとりごちる小鳥遊に伊波は少し不安な顔になる。
彼女のその視線に気がつくと、小鳥遊は、すみませんと苦笑いを浮かべる。

「伊波さんって相馬さんにそこまでこっぴどくいじられてないんでしたね」
「うん、近くにいたら殴っちゃうから距離は取るようにしてるし…」
「相馬さんもうかつにこれを漏らしたら、自分に被害が及ぶかもと思ってるわけか…」
「??」

小鳥遊の推論はこうだ。
自分と伊波が付き合っていると、ばらされてもいいのかと相馬が自分たちに言ってきたとしても、
その発言をした時点でアウトなのだ。
小鳥遊ははっきりとそう判断できる材料を見ていた。
自分が伊波のヘアピンを褒めて、それから伊波がヘアピンを毎日変えるようになったと
相馬が言ってきた途端、伊波は恥ずかしさのあまり、彼を止めようと飛び出してきて、
相馬に駆け寄り、タコ殴りにしてしまった。

その出来事を相馬が教訓にしているのなら、うかつにこのことをばらそうとしても
相馬自身が再び伊波にボコボコにされる可能性が全くないとは言えないからこそ黙っているのだ。
いくら距離を取ったとしても、恐らく同年代の女の子よりも人一倍恥ずかしがりの伊波に
相馬が言ったとばれた時に一体どんな手ひどい報いを受けるか知れない。

ふむと小鳥遊は自分で納得するように頷いて、伊波に微笑みかける。

「すみません。何でもないです」
「そ、そう…?」
「はい。今のところ伊波さんが防波堤ってだけですから」
「ぼ、防波堤?」
「それじゃ行きましょうか、もう遅いですから」
「あ、うん」

止めていた足を動かしながら、帰途に就く二人。
マジックハンド越しに手をつないで、仲睦まじそうにしながらも、
小鳥遊は相馬がこのまま引き下がるとも思えないと判断し、
どうやって彼の魔手から伊波を守ったものかと頭を巡らせていた。

675:名前を呼んで9
10/05/14 02:53:54 iJIWbTiM
そして後ろを歩く伊波もまた、あることを考えながら歩いていた。

(どうしたら小鳥遊くんともっと進展できるのかしら…?)

今日のバイトでわかったのは小鳥遊は自分をとても大切にしてくれて、
ちゃんと恋人扱いをしてくれているということだ。
だったら、やっぱり彼ともっと近くなりたいと思った。

(でも、私からできることって何かあるかな?)

殴る癖さえなければそんなものはいくらでもあるのだろうけれど、
伊波の場合はそうもいかないため、物理的スキンシップはまだやめた方が無難だ。
であるならば、何だろうと考えてまず浮かんだのは笑顔を見せること。
が、それは以前やって既に失敗済みだ。
どうにも変に意識してしまうと照れが勝って手が出てしまったのだ。
実のところ無意識に笑っている彼女を見て、小鳥遊はなかなかに御しがたい衝動に
度々襲われていたのだが、自覚のない伊波はこの案はないかな、と他のことを考える。

(触るのはダメ、笑顔もダメときたら、後は言葉…?)

言葉、言葉、と伊波は、何か言葉を用いたアプローチがないかと自分の頭の中に検索をかける。
しばらくそれを続けていると、一つわかりやすい方法があったことに気づく。

(名前…、苗字じゃなくて下の名前で呼んだら小鳥遊くん喜んでくれるかな…)

自分はどうだろうかと想像してみる。

『はは、まひる、今日も可愛いなぁ』

瞬間伊波は体に火でもついたかのように熱くなるのを感じた。

(た、小鳥遊くんにそんな風に呼ばれたら、恥ずかしくて殴るの我慢できないかも…)

でも、と思う。

(いつかは通る道よね。このまま交際を続けて、最終的にけっこ…)

そこで何て飛躍した事態まで考えてるのだろうと顔をぷるぷると振る。
それ以上先に思考を進めると、今何の罪もない(大体いつもないが)小鳥遊を
殴り倒してしまうかもしれないと、ぐっと堪える。

(ちょ、ちょっと不安だけど、呼んでみようかな、名前で)

伊波はいつも以上に大きく深呼吸してから、意を決して小鳥遊を呼び止める。

676:名前を呼んで10
10/05/14 02:55:38 iJIWbTiM
彼女とは違うことをもやもやと考えていた彼は、その声にはっとしてすまなそうな顔を作る。

「あ、すみません、ちょっと考え事してて…。退屈でしたよね」
「う、ううん、気にしないで! ちょうど私も考え事してたから!」

気遣われて幸せの波に押し流されそうになるが、伊波はちゃんと言ってみないと、と
緊張した面持ちで小鳥遊をじっと見つめる。
どこか決然とした彼女を前に小鳥遊も体をまっすぐに向けなおす。

「あ、あの…たかな…じゃなくて…」
「伊波さん…?」

少女の赤面症がいつにもましてすごいことになっているので、
さすがに心配になり、小鳥遊は体をまっすぐに伊波に向ける。

「……たくん」
「え…?」

消え入りそうな声で漏らした伊波の言葉を小鳥遊は聞き取れず思わず聞き返す。

「伊波さん、今なんて…?」

俯いたまま伊波は再度大きく息を吸い込んでから、きっと顔を小鳥遊に向ける。
その顔は赤いままだったし、表情はかたいままだったが、決意に満ち溢れていた。

「宗太くん!」

大きな声で伊波ははっきりと呼んだ。
愛しの彼の名前を。
そのすぐ後に、言えたことにほっとし、同時にうれしさでいっぱいになる。

(言えた! 呼んじゃった! 宗太くん、宗太くんって言っちゃった!)

きゃあきゃあと恥ずかしさと歓喜で顔を押さえる伊波と対照的に
言われた側の小鳥遊は眉一つ動かさずにいた。
否、完全に彼の中の時間がある一点でリピートされていた。
それは言わずもがな伊波が彼の名前を呼んだ部分。

―宗太くん!―

何度も何度も頭の中で反響する伊波の声。
その度に小鳥遊の中にふつふつと衝動が湧き上がる。
しかも、それを止めようという思考回路が完全に停止しており、
小鳥遊の体は本能のままに動き始めていた。

677:名前を呼んで11
10/05/14 02:56:54 iJIWbTiM
結果、未だ一人で喜びに浸っていた伊波を、小鳥遊は抱きしめた。
さすがにその行動には伊波も正気を取り戻し、そのことに慌て出す。

「た、小鳥遊くん!?」
「違うでしょ?」
「ふぅえ!?」

突然だったので、体が反射的に小鳥遊を殴ろうと動くが、それは叶わなかった。
それほどまでの力で小鳥遊は伊波を抱きしめていたからだ。
そして、お互いの息がかかるほどに小鳥遊が顔を接近させて、どこかぎらついた目で伊波に言う。

「宗太でしょう?」
「へ、あ、え?」
「俺の名前は宗太ですよ」

彼のその瞳は有無を言わさないといった様子で、殴る殴らないの葛藤すら
完全にどこかへ吹き飛ばし、伊波の心を鷲掴みにしていた。

「ほら、言ってください」
「あ…はい…、宗太くん…」

ほとんど命ぜられるように伊波は彼の名を呼んだ。
すると、小鳥遊はどこか妖しさの宿る笑みを見せてから、伊波の頭を撫で、頬に触れる。
伊波は恥ずかしそうにしながらも、従順にそれに喜び顔をほころばせる。

「ふふ、可愛いですよ」
「あぅ……」

蟲惑的な笑顔で言われて、伊波はとろんとしたまま言葉にならない声を漏らす。
そして、小鳥遊が伊波の両の頬を優しく手で包み、最後の言葉を少女の心の真ん中に落とす。

「好きだよ、まひる」
「~~~~っ!!??」

そのまま彼は目を閉じ、伊波の顔に自分の顔を近づける。
そして、その唇と伊波が重なる。
しかし、その感触は小鳥遊の思い描いていた感触とはまるで別物だった。

そう、それは何か自分の唇というよりも顔面ごと何かに激突したような強い衝撃。
少年の手筈では擬音に例えると「ちゅっ」などという甘ったるいそれが聞こえる予定だったのだが、
現実は突き刺さるような「めきっ」、それに続いて深くめり込んでいくような「めりめり…っ」
という世にも恐ろしい骨ごと軋むような残酷な響き。

小鳥遊は世界がスローモーションになるのを感じつつ、悟った。
ああ、これは伊波さんの拳なんだ、と。

皮肉なことに彼の愛のささやきは、伊波の中に眠っていた獅子を呼び起こし、
その結果、少女の守護者たる獅子が小鳥遊の体を数メートル後方へと吹き飛ばしていた。

678:名前を呼んで12
10/05/14 02:58:01 iJIWbTiM
「本当にごめんなさい! 痛かったよね!」
「ははは…、いいんですよ、あれは俺に問題がありました…」

地面にそのまま腰を下ろす、というか足ががくがくで立つこともままならない小鳥遊が
乾いた笑いをこぼし、少し距離を取って伊波が何度も何度も謝り続ける。

「でも、小鳥遊くんがせっかく、その抱きしめてくれて…」
「伊波さん…」
「しかも私の名前も呼んでくれたのに…」

そんな風にもじもじと照れる少女を目の当たりにして、

(あー、可愛いな、伊波さん。これならもう殴られるのもやぶさかじゃあ)

一瞬血迷った考えがよぎるが、

「つい思いっきり殴っちゃって…。でも咄嗟に力を弱められてほんとによかった…」
(すみません、ものすごくやぶさかでした。さすがに死にたくはないです…)

薄ら寒い悪寒を背筋に走らせると共に、すぐに自分の愚かしさを恥じた。

「大丈夫? 立てる?」

大丈夫と答えるのが彼女のためになるのだろうが、体が先ほどから全く言うことを
聞いてくれないことにさすがの小鳥遊も焦りを隠せなかった。
さっきの照れくささや恥ずかしさ、うれしさ、幸せなどの感情の爆発した拳の威力は計り知れず、
完全に小鳥遊の体をKOしてしまった。

このままだと彼女にバレて心配をかけてしまうと判断し、
小鳥遊は体が動くように回復するまで話を引き伸ばせないか試みることにした。

「そ、そういえば伊波さん」
「え、何?」

どこか慌てた様子で言う彼に釣られて伊波もわたわたと答える。

「どうして急に俺の名前を?」
「あ、あれは…、小鳥遊くんが喜んでくれるかな、って思った、から…」
「……」

679:名前を呼んで13
10/05/14 02:59:18 iJIWbTiM
恥ずかしそうに言う彼女をかわいいと思うのと同時に、
伊波の掴んでいるマジックハンドの柄が粉々に握りつぶされているのを見て、
小鳥遊は何ともいえない複雑な感情に襲われた。
とはいえ、やはり彼女のそういう好意は素直にうれしかった。
だからこそ、タガが完全に外れて暴走してしまったのだ。

「そうですね、伊波さんに名前を呼んでもらえて、すごく幸せでした」
「じゃ、じゃあもう一回呼んでみる?」
「い、いやそれはまた後日に!」

この一切の抵抗ができない状態で殴られる可能性のある選択肢を選ぶのは憚られ、
つい彼は力いっぱいそう言ってしまった。
その時のほんの一瞬、伊波のことを理解している自分にしかわからないのではないかと思うほど
小さく伊波の表情に影が差す。

「そうだよね! ごめんね、小鳥遊くん!」

またもほんの少しだけいつもよりも「小鳥遊くん」と呼ぶ彼女の声が揺らいだ気がした。

「どう? 小鳥遊くん、もう立てるようになった?」

けれど、もう目の前に立つ伊波の顔も声も平素の状態に戻っていた。
それはあまりに元気で逆に不自然だった。

「ちょっと…無理みたいですね…」

隠そうと思っていたことを口にしてしまった。
心配させまいとやっていたことなのに、急にこの場から逃げたいと思ってしまった。

「しょうがないんで、タクシー呼んで帰ります。最後まで送れなくてすみません」
「じゃあ、私電話かけるよ」
「はい、お願いします…」

きっとこの行為は、言葉は優しすぎる彼女を深く傷つける。
そんなことはわかっていたはずなのに。

680:名前を呼んで14
10/05/14 03:00:30 iJIWbTiM


タクシーに揺られながら、小鳥遊は伊波のことを想った。
そんなことは今更にもほどがある。
自分は彼女を傷つけた。
そして、そのまま逃げている。

「ひどい顔だ…」

窓ガラスに映った自分の顔を見て、ぽつりと呟いた。
殴られた跡もくっきり残っているが、そういう意味じゃない。
自分の最低な醜い心がはっきりと顔に表れていた。

おもむろに携帯電話を取り出してみる。
そして電話帳で「伊波まひる」を選び出し、通話ボタンに手をかける。
けれど、ボタンを押し込むことが怖かった。
きっと彼女は泣いている。
恋人に傷つけられたのだ。
しかも、元々男嫌いな彼女がそんな目に遭ったのだ。
悲しまないわけがない、つらくないわけがない。
ならば、すぐにでもかけて、謝って、元に戻ってもらいたい。
それはウソではない。けれど、何と言えばいいのか、それがわからない。

「これでよく女慣れしてるなんて言えたよ…」

小鳥遊は自らの情けなさに歯噛みする。
その力はすさまじく本当にぎりぎりと音が響くほどだった。

と、そこで急に車が停止する。
はっとした小鳥遊が外を見やると、別に自分の家の近くに着いた風でもないのだが、

「着きましたよ、お客さん」

運転手はそんなことを言ってくる。
何を言っているんだろう、と小鳥遊が反論する。

「あの、ここ俺の行きたかった場所じゃないですよ。住所勘違いしてますよ」

けれど、運転手はちっちっと舌を鳴らして、小鳥遊の意見を否定する。

「君が本当に行きたかった場所はここのはずですよ」

そう言って外を指をさすと、そこには家が一軒建っていた。
別に見覚えがあるわけじゃなかったのだが、すぐにあることに気がついた。

「伊波さんの家…?」

表札に伊波とそう書いてあったのだ。
恐らくここは伊波まひるその人のいる家なのだ。

681:名前を呼んで15
10/05/14 03:01:51 iJIWbTiM
「ほらほら、早く行かないと、君のお姫様が待ってるよ?」

呆気に取られていた小鳥遊に運転手がやけに親しげに言ってきて、
不思議に思い、そちらを向くと、あまりにも見知った顔がそこにはあった。

「そ、相馬さん、何で…!」
「細かいことはいいじゃない。伊波さんに言うことあるんでしょ?」

そう言われて、小鳥遊はため息をつくが、しばらくして笑みをこぼす。

「はい! 言わないといけないことがあります!」

吹っ切ったように言い切ると彼は車から降りて、すぐさまチャイムを鳴らす。

「はいはーい、どちらさまー?」

のんびりした声と共に伊波の母と思しき女性が小鳥遊を出迎える。

「何かご用ですか?」
「あの、娘さんに、まひるさんに会わせていただけませんか!?」
「はい?」

突然のことで目をぱちくりさせているのを見て、小鳥遊が言葉が足りないのに気がつき

「俺、まひるさんと同じバイト先で働いている小鳥遊です!
すぐにでも彼女に言わないといけないことがあるんです! お願いします!」

それを補いつつ更に増した勢いで頼み込む。

「あら、そうなんですか? でもまひるはまだ帰ってなくて…、あら?」

言っている途中で伊波の母が何かを見つけたように声を上げる。
その視線は明らかに小鳥遊の後ろへ行っている。
小鳥遊が振り向くと、そこには彼の求めた少女が立ち尽くしていた。

「た、小鳥遊くん、どうして…?」

伊波が驚いた顔で聞くと、少年は彼女に歩み寄ってから、頭を下げる。

「お願いがあってきました!」
「お、お願い…?」

何がなんだかよくわからず伊波は少し腫れた目をぱちぱちとさせる。

「俺のこと名前で呼んで欲しいんです!」
「……」

682:名前を呼んで16
10/05/14 03:03:20 iJIWbTiM
言われた彼女は口を半開きにして、言葉を失う。
先ほどあんな目に遭わされたのに、どうしてそんなことを言えるのだろう。
しかも、自分が勝手に呼んだのが事の発端なのに、お願いしてきてくれるんだろう。

「お願いします、まひるさん!」

―どうして、私の名前を呼んでくれるんだろう―

気づけば伊波はぽろぽろと涙をこぼしていた。
心が幸せと安心で満たされて、それでも自分の心の受け皿だけじゃ足りないから、
涙になって伊波の頬を温めた。

だが、小鳥遊は泣かせてしまったと慌てて、どうすればいいか焦ってしまう。

「す、すみません、嫌でしたか!? っていうか、そのさっきも悪いことをしてしまって、
失望されても、嫌われてしまっても当たり前と言いますか…!」

そんな彼を見て、伊波はこれ以上ないほど優しく微笑むと、小鳥遊の手をきゅっと握る。

「そんなことない…」
「……伊波さん」
「まひるって、呼んで?」

頭の中をとろけさせてしまいそうなほど甘えるような声に少年は

「ま、まひるさん…」

半分命ぜられたように少女の名前を口にする。
伊波は笑顔という名の花を大きく咲かせて、心からの想いを込めて言葉を紡ぐ。

「はい、宗太くん…」
「あ……」
「宗太くん、大好きです…」
「俺も…その…まひるさんのことが好きです…」

すっかり照れてしまった小鳥遊だが、目の前の少女に見惚れてしまい、視線が外すことができず、
彼女の言葉に釣られて本心がすらりと外に出てきていた。

「宗太くん…」

また満ち足りた笑顔で伊波が言っていると、

「あらあら、二人は仲良しさんなのねー」

いつの間にかちょうど彼らのすぐ隣に伊波の母が立っていた。
その事実にあっという間に伊波の精神が現実に引き戻され、
小鳥遊の手を取っていた手と反対の手に力がこもる。

小鳥遊は自分が危険な位置にいることを察知するが、
もはや回避できる余裕はないと覚悟を決め、目をつぶった。

683:名前を呼んで17
10/05/14 03:04:45 iJIWbTiM
けれど、声を上げたのは彼ではなく伊波だった。

「痛い! いたいよ、お母さん!」
「もうダメじゃない、まひるったら。好きな人は殴ったりしちゃいけないでしょー?」
「ご、ごめんなさい、でもいたたたたっ!」
「ごめんなさいね、小鳥遊さん。この子がいつも迷惑かけてるみたいで」
「い、いえ、そんなことは…」

小鳥遊が目を開いてみると、そこには母に拳を受け止められて、腕をひねられている伊波が映った。
もしやと思うが、それしかないようだった。
伊波の拳を、この女性、伊波の母は片手で受け止めたのだ。
小鳥遊は不謹慎とは思いつつも、とんでもない母親だと肝を冷やす。

「あら、もしかして小鳥遊さんって小鳥遊くん?」
「え? あ、はい、小鳥遊宗太です。まひるさんと、その、お付き合いさせていただいてます」

あまりにもふわふわとした笑顔で問われたがために、
小鳥遊は秘密にしていたはずの交際の事実を簡単に漏らしてしまった。

「あらー、そうなのー? もうまひるったらあんまり話してくれないんですもの。
そうなのー、よかったわねぇ、まひるー。こんな素敵な人が彼氏で」
「う、うん…。そう思う。けど、お母さん、痛いです…」
「あら、ごめんね、まひる」

そこで伊波はようやく解放されて、ほっとしたように息をつく。

「変なところ見られちゃったね…」
「いえ、そんな…」
「さあ、もう夜も遅いんですから、家に入りなさい」

お互いにはにかんだように笑う二人に伊波の母が声をかけた。
小鳥遊はそうだったと思い出して、伊波に声をかける。

「あ、じゃあおやすみなさい」
「うん、おやすみなさい…」

伊波も少し名残惜しそうだが、笑って答えるが、

「え、小鳥遊くん、今日泊まっていくんじゃないの?」
「「え゛」」

母の台詞にその場に再び固まる若い男女。


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