男主人・女従者の主従エロ小説 第二章at EROPARO
男主人・女従者の主従エロ小説 第二章 - 暇つぶし2ch434:caleidoscopio 1
08/03/27 21:43:16 PjncKg4y
 俺の右に出るヤツは誰もいないから、俺はお前をいつでも奪える。

     ***
「ふざけんなよ!」

芦原警察署刑事課の取り調べ室から怒声が飛んだ。
課員の皆が何事かと、ドアに目線を向けた。
あの敏腕刑事で知られる須崎亮警部補が珍しく憤慨していた。
カンカン状態での説教を窺い知ることは出来ない。
「須崎提督がキレた…」
上里が青ざめながら、フルフェイスヘルメットを被る。
元来、彼はヒステリッカーが嫌いで、悲鳴があれば、愛用のヘルメットをかぶる。
しかしこのヘルメット、自作の阪神タイガース仕様とは、手が凝っている。
「警部補、どこか調子悪いからなぁ…イラつくのも無理無いって」
次に喋ったのは中橋。
彼はサプリメントケースに新しいビタミン剤を収めながら、ケラケラ笑う。
食事には気を使うものの、やはりどこかで不摂生になる。
「ああ、上のミスで給料が来なかったからか?」
その直ぐ後に、下山田が市販の点鼻薬を鼻に打ち、天上を仰ぐ。。
「後少しで‥娘がぁ…ユウミが待っている…だが、もう少し待て。待つんだ…下山田ぁ」
急いでティッシュを何枚か抜き取り、口許に当てた。
薬が変な箇所にまわったのだろう。
上里が心配そうな視線を寄越してから、中橋が首をかしげる。
 謎が二点ある。
 一つは下山田の点鼻薬にある妙な汚れ。
 もう一つは、警部補の苛立ち…………前者は気にしないとして。
「いや…情報屋が事件予備軍の匂いを掴まないからじゃないか?しかし、誰に説教を…」
三人の課員がヒソヒソと噂するが、通りすがりの庵原が水を差す。
「…さっき、取り調べ室に遠野を呼びましたよ?」
「「「うえぇ!?トーコ!?」」」
「なんでも、事件だとか」
「「「え?事件…!」」」
窓を背に座る、西ノ宮課長がのほほんとお茶のおかわりを宣言する。
しかし、東山のばあさんは華麗にお盆を投げた。
お盆は課長の喉に衝突し、課長の身体は宙に返る。
「自分でやっとくれ」
ばあさんは後片付けをせずに、帰って行った。
課長がひっくり返った隙に、庵原は鍵の保管庫を調べた。
「んー…」
取り調べ室の鍵がない。
直ぐ隣にも部屋があるのだが、その鍵もない。
マスターキーもない。
「…変態上司め…」
舌打ちし、庵原はキャスターにライターで着火する。

435:caleidoscopio 2
08/03/27 21:45:40 PjncKg4y
 隔離部屋には、須崎以外に、ぺたりと尻餅をついた女性がいる。
 急な呼び出しを食らったのは、芦原警察署刑事課所属の遠野 千春巡査。
 彼女はガクガクと震えながら、涙を堪える。
 須崎はポータブルDVDプレーヤーを机に置き、遠野に座れと命じる。
 再生ボタンを押すと、穴からリビングを覗いたような映像に変わった。
 それこそ、ダブルオーセブンのオープニングに登場する穴に似ている。
「これ……私の…家…」
 一時停止を押すと、画面の右端に3Dの画びょうが止まる。
「お前の顔を知っているヨソの署の知り合いがな、俺に貸してくれたよ」
ぐるりと遠野の背後を周り、肩を抱く。
 遠野がぴくりと反応する。
 須崎は彼女の耳にかかる髪をかき上げて囁く。
「【あんたの部下がホシのオカズにされた】ってな」
「お…おか、ず…?…‥」
 かたかたと小さく震える彼女は不安そうに上司を、相方をやや上目遣いで見る。
「遠野のプライベートを覗いて、喜ぶ…そんなやつが世の中にいるんだ。おまけに遠野の家に忍び込むとは、手癖が悪すぎる」
 それにと、須崎は一本のシガレットをくわえる。
「‥う…そ……」
「刑事が盗撮されちゃ…問題だな」
「------え?」
「ちょっと考えてみろよ。裁判の資料に提出されて、裁判官のジイさんや検察や弁護士や、傍聴人にも見られる」
 すうっと、脳内が冷える。
 もし、この出来事を検察官の兄や海上自衛隊所属の父、中学教師の母に、芦原署の皆に知れてしまったら…。
 課長になんて謝ればいいだろう。
 他の課員は呆れるかもしれない。
 色眼鏡で遠野を視る人間も現れるだろう。
 彼女を煙たがる庵原は馬鹿にして、ネチネチと小言を云うに違いない。
 いつ誰が嗅ぎ付けるか、恐ろしくて考えもつかない。
 それに、もっと公になってしまったら…須崎警部補と捜査が出来ない。

 憧れであり、目標。
 大学での説明会で会ったあの日から、須崎の背中を追いかけてきた。
 その背中を、その名を知ったから、ここにいる。
 所轄を転々としていた須崎の異動を心待にしていた。 
 直ぐ後に、朗報が飛込む。
 須崎の芦原署刑事課異動。
 それから、遠野は須崎の相方になった。
全てが現実だということを、新しい相方と握手をして気が付いた。
 絶対に、足手まといにはならない。
 戒律を守れないなら…辞めてしまえばいい。
 ずっと、守り続けていた約束。
 けれど、降りる気はない。
 降りたら、降りたで後悔する。
 下がるのも、戻るのも、降りるのも、出来ない。
 憧れや目標以外に、もう一つの何かを知ってしまったから。
 尊敬じゃない、何かを。

 遠野は顔色を真っ青にし、須崎の腕を掴んだ。

436:caleidoscopio 3
08/03/27 21:47:49 PjncKg4y
「警部補っ…あたし‥もう覗かれるの嫌です」
「…………遠野…」
「だから……犯人を殴らせてください。事情聴取は私がやります!」
 泣きそうな瞳は訴える。
 やられて嫌な事はしない、させない。
「勝手に覗いて、いい気になっている馬鹿に…お灸をすえてやりたいねぇ」
 この女刑事は盗撮犯をボコボコにする気だ、須崎は手で制し、プレイヤーを片付ける。
「犯人はヨソが捕獲した。そいつに強烈な一発をお見舞いしてやれ。ビデオカメラ回収はその後でな」
 ちょっと失礼と、須崎が断りを入れると、遠野の身体は宙に浮く。
 すぐ下に落ちるが、須崎の手に落ちる。
「ひやっ!…って、でええ!!?」
「つかまっていろよ!」
 ばんっと、取り調べ室を飛び出す。
 庵原は取り調べ室のドアが壁に衝突する衝突音で、ギロリと二人を睨む。
「「「けーぶほおおおお!」」」
「ちょっと行ってきまーす」
 鍵を西ノ宮課長に投げる。
「いってらっしゃーい」
 上・中・下の苗字を持つ、三人組は口を通常より三十センチ大きく開ける。
「下山田、中橋………見た?」
「ばっちりと」
「横抱きにして、かっさらったな」
 二人が飛び出した刑事課は煙草臭さが一層強まった。
「…………………警部補…コロス」
「「「!!!」」」
 庵原の不機嫌さは刑事課のドアを超え、よその部署に影響を及ぼしたとか、しなかったとか。

 ばんっ。
「あがっ!」
 西ノ宮課長がまたお盆の餌食になった頃、泣きべその女刑事が盗撮犯をグーで思いっきり殴ったのだ。
「…っ…刑務所で頭を冷やしてくださいっ!」
 彼女は犯人を預かる署の刑事たちに頭を下げ、一足先に署を飛び出した。
 事情聴取は終了し、残るは盗撮器具の回収となる。
犯人は宅配業者で、郵便受けの裏に張り付けていた鍵を得て、仕掛けたと供述した。
 現場マンションの集合ポストは外部の人間でも開けることが出来るタイプで、郵便物を盗むには可能だ。
 遠野は鍵の紛失を恐れたのだろう。
 ポストの裏に鍵をしまっていたと判明した。
 マンションはセキュリティが充実している物件に限る。
 須崎は相方が角を曲がっても、向こうを見つめていた。

437:caleidoscopio 4
08/03/27 21:55:07 PjncKg4y
「…俺も行くわ。ディスク、ありがとう」
「ああ…そいつの処分はお前に任せるよ」
 須崎は同期の水原に片手を上げ、もう片方の手を上着のポケットに突っ込んだ。
「…ああ……そうだ」
 さも今思い出しましたと須崎は水原の肩を叩く。
「……一発、俺にも殴らせてくれねえか?」
 にっこりと須崎は笑うが、水原は寒気を感じた。
「…………あえ?」
 気のせいだ。
「………?」
 須崎の背後に取り巻く黒い霧も──気のせいだ。
「ごぶぁっ!」
同時刻。
また、西ノ宮課長がお盆と衝突した。

──今すぐ、水原の記憶の一部が消えますように。
 須崎は心の中で祈ってから、部下が待つ車内に合流しなければ。
 行先は彼女の自宅。
 その場所でじっと彼女を監視していたブツとご対面が待っている。
──躯のセンターやや下が疼くのは秘密だな。
 あのディスクで予習するんじゃあなかったと、言ったら嘘になる。

須崎は芦原署刑事課の西ノ宮課長に、この後の予定と直帰を伝えた。
「須崎君、現場検証って‥庵原君の目線が…痛いんだけど‥」
「すんません、課長。俺には出来ません」
その瞬間、庵原のキャスターは灰皿で山になった。
従兄妹の遠野 千春に密やかな好意を寄せている庵原は、須崎を呪わんばかりに、キャスターを延々と吸う。
その遠野本人は何も知らずに、覆面パトの車内で待っていた。
「俺には、遠野にキョウイクをしなきゃならないと思います。また、このような事件が起こるとは限らないですから」
「キョウイクね………うん、いいよ。行ってらっしゃい」
 すみません、課長。
上里・中橋・下山田の上中下コンビには申し訳無い。
刑事課の皆、庵原を止めてくれ。

──これも遠野の狂育のためだ、狂育!
    end
*****
拙くてサーセン;;; ある意味未完成なので保管庫には入れないで下さい。
ありがとうございました!!!

438:名無しさん@ピンキー
08/03/29 16:03:45 YXZoOmdr
>>432>>434もGJ!
久々に萌え分補給させて貰った。


439:名無しさん@ピンキー
08/03/29 20:20:56 oHj+/VKa
先生と生徒というか師匠と弟子も主従に入る?それなら一つ落としたいネタがあるのだけど。ここでいいのかわかんなくて。

440:名無しさん@ピンキー
08/03/29 21:20:05 RJyvDd8N
>>439
上下関係だからここの範疇だと思う
師匠と弟子 先生と生徒 上司と部下 先輩と後輩 箱入り娘と丁稚

441:名無しさん@ピンキー
08/03/29 22:01:08 V8r+i+5f
なんと、先・後輩もこのスレの範疇とな?

442:名無しさん@ピンキー
08/03/29 22:16:00 YXZoOmdr
上司と部下の延長線上に先輩・後輩がある……のかもしれん。
規律の厳しい、共学リリアンみたいなところの先輩後輩とか、
生徒会長と副会長、軍学校のエリート坊ちゃんとお目付役で入学した従者とか、
色々あるよな。

443:名無しさん@ピンキー
08/03/29 23:24:43 RJyvDd8N
>>442
そうそう
そんな感じでいいと思う

444:439
08/03/30 03:22:14 i6Ki5t0K
大丈夫そうなんで前後編予定で前編投下する。
今回エロなしなんでエロだけ読みたいって人は注意。
一応後編にはエロ入れてる、ぬるいけど。

445:忘れ去られた聖地 1/6
08/03/30 03:23:55 i6Ki5t0K
 床に散らばる硝子の破片が素足のシャロンを傷つけたが不思議と痛みはなかった。熱に浮かされたようにふらつく体で彼女は割れた窓へと近づいていく。
「可愛い僕のシャル」
 窓枠に足をかけ、まるで姫君の寝室に忍び込む秘密の恋人といった様子で青年は微笑む。
「僕はね、思うんだ。このまま君を連れ去るのは僕にとって難しいことじゃない。それは、そうだな。君が薔薇園から薔薇を失敬して部屋にこっそり飾るのと同じか、それよりももっと容易い」
 シャロンの枕元に置かれた一輪挿しを一瞥し、青年はくすりと笑う。
「でもね、それが出来ないんだ。どうしてだろうね、君を僕は浚えない」
 ようやく窓際にたどり着いたシャロンは呆けた顔で青年を見上げた。
「ああ、可愛い僕のシャル。君が愛おしい」
 手袋をつけた指がシャロンの頬を撫でた。
「せ、んせい」
 青年の言葉の意味がわからず、シャロンは喘ぐように問いかける。
「先生、何を」
 何をおっしゃっているのかよくわかりません。口にしかけた言葉は音になる前に消えた。
 幾度となく触れた唇が慣れた様子でシャロンの唇を塞ぎ、そして離れる。
「だからこそ僕は怖いんだ。この僕が恐れを抱くなんて、ああ、なんて滑稽なんだろう」
 青年は少しもおかしそうではない、今にも泣き出してしまいそうな顔でシャロンの瞳を覗き込む。
「忘れないで、君は僕のものだ。僕だけのものだよ、シャル」
 指が頬から離れるとともに青年の姿がゆらりと煙のように儚く消えた。
 伸ばした手が宙を掴み、頬を生暖かい何かが伝い落ちる感触にシャロンは叫んだ。
「先生!」
 はっとして辺りを見回す。窓は割れていないし、足も傷ついていない。
 ばくばくと鳴り続ける心臓を押さえ、シャロンは頬を伝う涙を拭う。
 夢だ。何年も何年もシャロンを苦しめる夢。忘れることを許さないとばかりに、シャロンの記憶が薄れそうになる度に夢は鮮明に記憶を色付ける。
 深く浅く呼吸を繰り返してシャロンは意識を落ち着ける。
 そして、すっかり鼓動がおさまると彼女は起き上がって身支度を整える。寝間着から白を基調とした制服へ着替え終え、細身の剣を腰に帯びた頃扉を叩く音がした。
「どうぞ」
 扉が開き、長身の男が姿を現す。詰め襟の上着は本来上から下まできっちりと釦で留めるよう作られているはずだが男は首元をくつろげて着崩しており、しかしすらりとしたズボンはきちんとブーツの中へと納められている。


446:忘れ去られた聖地 2/6
08/03/30 03:24:44 i6Ki5t0K
襟には彼の階級を表す紋章が印されており、それはよくよく見れば彼の身につけた手袋や腰に下げられた拳銃にもあしらわれている。
 シャロンとよく似た格好をしているのは彼も同じ組織に属する人間であり、彼の着ているものも支給される制服だからだ。違うのは色とあしらわれた紋章だけ。
「なんだ、起きてるじゃないか」
「寝ていると思いましたか」
「まあ、少し遅かったからな。他の面子は食堂に揃ってる」
「すみません。ですが、時間には遅れていません」
 壁に掛けられた時計を見やり、シャロンは微笑む。男―レスターは緩やかに波打つ自身の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
「シャロン」
 上着の釦をきっちりと留め、シャロンはレスターの立つ扉へと歩き始める。
「感情ってのは厄介だろう。一度芽生えた情はそう容易く消え去りはしない」
 いつから扉の前に立っていたんだろうかとシャロンは傍らの男を睨みつけたい衝動を賢明に堪えた。
「そうかもしれません。私は彼が憎い。憎しみは正常な判断を鈍らせる。彼を前にした私が憎しみから暴走するとお思いならあなたは私を使わなければよいのです」
 感情を消した顔でシャロンはレスターを見上げた。
「私を使うか使わないか。その判断を下すのはあなたで、私はあなたの判断に従うだけ。置いていくというなら素直に従いましょう」
 レスターは口を開きかけ、力なく肩を竦めた。
「俺はただお前が可愛いだけだよ。強くなったのは魔術と剣術の腕前だけで中身はあの頃のままだから」
 シャロンより頭二つ分背の高い男は、彼女の頬を優しく撫でた。
「レスター。あなたの心配は杞憂です」
「兄弟子としては心配せずにいられないんだが」
「あなたの気持ちは有り難いと思います。ですが、それ以上の気遣いは侮辱に等しい。今や私も一介の魔術師。あなたの庇護下に置かれ守られていた頃とは違うのです」
 レスターは溜め息をこぼし、そうだなと呟いた。
「悪かった。お前が可愛いからついつい世話を焼きたくなっちまう」
「いつまでも兄気分では困ります」
「なあに、今だけだ。公私混同はない」
「当然です。そうでなければ困ります」
 ぽんと頭に置かれた手を払いのけずに受け入れ、シャロンは少しだけ表情を緩めた。
 二人は並んで歩き、食堂を目指した。
 食堂では既に朝食が始まっており、シャロンと同じ制服を着た人々が席について食事をとっていた。


447:忘れ去られた聖地 3/6
08/03/30 03:25:37 i6Ki5t0K
 レスターが入室したことに気づき、皆が食事の手を止めて立ち上がる。
「さて、全員揃ったところで作戦会議といこうか」
 レスターがにんまりと笑い、椅子に掛けながら宣言する。彼の合図に従い全員が着席し、シャロンも自身の席へと腰を下ろした。

 数年間頑として足取りを掴ませなかったクラウスの目撃情報を得たのが三日前。事実関係の確認を急いでいた諜報員が姿を消したのが昨日。
この目撃情報が信憑性の高いものであるとして、レスターを中心とした追跡部隊が数年ぶりに再編成された。足取りを掴むための諜報活動を主としていたものから捕獲あるいは討伐を主としたものへと移行する。
 シャロン、そしてレスターの属する組織《忘れ去られた聖地》は大陸中央を拠点とした巨大な魔術集団である。大陸に存在する魔術師の約六割は《聖地》に属しているとされ、東西南北の地域に支部を置き、他の組織とは一線を画する。
 シャロン達の追うクラウスは元は《聖地》に属する魔術師であり、中核を担う幹部でもあった。しかし、今は《聖地》に追われる立場となっている。
 それは、彼がある日を境に忽然と姿を消したためである。《聖地》の情報網を以てしても目撃情報すら得られない。彼は姿を消したのだ。
 《聖地》が彼を見つけだすことに諦めを抱きかけた頃、彼は不意に姿を現し、そしてまた消えた。
 まるで遊んでいるかのように―現に彼にとっては暇潰しにすぎないのだろう―彼は出奔してからずっと《聖地》の追っ手から逃れ続けているのであった。
 初めの頃は穏便に連れ戻すことを目的としていた上層部も、時が経つにつれ目的を捕獲から討伐へと変えてきた。組織の矜持にかけて出奔者を好き放題にさせておくわけにはいかない。
 そう言った理由から久方振りに現れたクラウスを捕らえ、あるいは抹殺するためにシャロンを含めた追跡部隊は現在作戦会議に及んでいるのであった。





448:忘れ去られた聖地 4/6
08/03/30 03:26:24 i6Ki5t0K
 長い作戦会議が一応のまとまりを見せ、シャロンは自室へと戻っていた。
 寝台へ倒れ込み、枕元の一輪挿しを眺める。シャロンが初めて高等魔術を成功させた祝いに師が贈った品で、稀少価値の高い石材で作られた高価な一品だ。シャロンの好きな花の模様が彫られている世界に一つしかない一輪挿し。

『先生、これってすっごく高いんでしょう? レスターさんが教えてくれました』
 レスターが推定価格を口にした瞬間からシャロンはその一輪挿しを軽々しく持ち歩いていた自分が怖くなって師の部屋へと転がり込んだのだ。
『さあ、どうかな。僕はそれなりに高給取りだけど浪費家ではないから一輪挿し程度に“すっごく高い”なんて称される額は使わないよ』
 師は常と変わらぬ微笑で何でもないことのように言う。一輪挿しと師の顔を見比べ、シャロンは垂れ下がった眉をますます下げる。
『可愛いシャル。それはね、僕が君のために用意したご褒美なんだよ。僕の言いつけを守って毎日鍛錬を怠らず、今の君には難度の高い魔術を成功させた。頑張り屋さんの君へのご褒美』
 その頃にはもう師の腕の中で優しい口づけを受けることは珍しいことではなくなっていたから、シャロンは引き寄せられるままに彼の腕の中にすっぽりと包まれる。
『君の好きな花だ』
 シャロンの手の中の一輪挿し。その模様をさして師は言う。
『君を喜ばせるためだけに作られたものなのに、君が喜ばないとこの一輪挿しが可哀想だ』
 ついでに依頼した僕も可哀想と師は笑う。
『私、割ってしまうかも』
『形あるものはいつか壊れてしまうのだから、それを恐れてはいけない』
 それでもうじうじと思い悩んでいるシャロンを愛おしげに見つめ、師はそっと額に口づけた。
『可愛い僕のシャル。では、君のために僕は魔法使いになってあげよう―』

 目を閉じれば記憶は鮮明に甦る。今なお胸を焼く思い出を振り払おうとシャロンは一輪挿しを床へ払い落とした。
 鋭い音を立て、一輪挿しは砕け散る。けれどもそれは少しの間で、気がつけば元の形へ戻り、床には水と薔薇の花弁だけが散っていた。
 忌々しい。シャロンは舌打ちをして一輪挿しへ背を向けた。
 どれだけ時を経ても記憶は薄れず、師のかけた魔術も効果をなくさない。
「先生……」
 初めは信じられなかった。師が《聖地》を出奔したことも痕跡一つ残さずに姿を消したことも。

449:忘れ去られた聖地 5/6
08/03/30 03:28:04 i6Ki5t0K
それよりも何よりも自分を置いていってしまったことがシャロンには信じられなかった。
 彼は魔術の師であるだげでなく、シャロンにとって父であり、兄であり、恋人であった。かけがえのない大切な、心から愛する人だったからだ。
その思いはシャロンの一方通行ではなく、同じだけの愛情を与えられていると信じていただけに置いていかれたという事実はシャロンを打ちのめした。
 周囲から慌ただしさが消え、ずいぶんと穏やかになってからもシャロンは呆然として日々を過ごしていた。僅かに残された品すらすべて運び出されたがらんとした師の部屋でシャロンは待っていた。
待っていればいつか帰ってきてくれるのだと信じていた。信じていたかった。
 しかし、いつまで待っても師は戻らず、衰弱しきったシャロンを迎えにきたのは兄弟子にあたるレスターだった。
 レスターはシャロンを連れ帰り、師は戻らないのだという事実を長い時間をかけてシャロンに認めさせた。彼はもう先生ではないのだ、と。
 そうして事実を受け入れてからシャロンは魔術の鍛錬に没頭し、護身のための剣術を標準以上の腕前になるまで磨いた。
戻らないのならせめて自分の手で捕まえたい。それがかなわないのなら刺し違えてでも殺してしまいたい。新しい目標は追跡部隊に選ばれるまでにシャロンを鍛え上げた。
 今やシャロンは《聖地》でも上位に位置する魔術師へと成長している。マスターと呼ばれる幹部たちには及ばぬまでも並の魔術師では相手にならないほどには強くなった。
 シャロンは腰の剣へと手を伸ばし、柄を握って目を閉じた。
 きっとクラウスはシャロン相手に魔術を使いはしないだろう。彼が魔術を使えばシャロンは瞬きをする間に殺される。悔しいがそれだけの実力の差がある。
 だからこそ、クラウスと相対することがあればそれは剣術で。シャロンが銃や弓でなく剣をとったのはクラウスが好んだ獲物がそれであったから。
 かつて尊び愛した師と斬り結んでみたい。
 憎悪と愛情がないまぜになり、シャロンの心がクラウスを渇望する。


450:忘れ去られた聖地 6/6
08/03/30 03:28:39 i6Ki5t0K
 結局のところ、シャロンは師に認めてほしいのだ。足手まといだから連れていかなかったというのなら成長した自分を見てほしい。そして悔やんでほしい。こんなに強くなるのなら連れていけばよかったと。
 そうしたら、そうしたら、きっと―
 シャロンは息を飲む。
 どうするというのだろう。彼が自分を置いていったことを悔やんだとして、そうしたらどうするというのだ。
 シャロンはゆるゆると目を開く。
「嘲笑ってやればいい。今更何を言うんだって」
 自分に言い聞かせるように声に出し、シャロンは再び目を閉じた。こんな気持ちのまま眠れば夢見は最悪。それはわかっていたが、今はただ眠りたかった。





以上。前編終わり。
本当に主従スレでよかったのかちと不安だ。

451:名無しさん@ピンキー
08/03/30 04:29:34 XA6q4lR3
おお。いい設定です。
レスターにも頑張ってほしいなあ。

452:名無しさん@ピンキー
08/03/30 23:46:08 i6Ki5t0K
忘れ去られた聖地 後編投下します。

453:忘れ去られた聖地 1/7
08/03/30 23:47:06 i6Ki5t0K
 痛みはもうなかった。それよりも甘さを伴う慣れない感覚が全身を支配しており、それがたまらなく心地よかった。
 自分でもよくわからない体の奥の奥で愛する人を受け入れていることがシャロンの心を満たしている。
「ごめん」
 シャロンの肩に額を押しつけていた師が呻くように言う。けれど謝罪の意味がわからず、シャロンは首を傾げた。
「加減の仕方がわからない」
 さっきまでの激しさが嘘のように師はしおらしく呟く。その拗ねたような声が愛おしくシャロンは小さく吹き出した。
「どうして笑うの」
 師が顔を上げ、拗ねた顔でシャロンを見下ろす。
「だって、先生可愛い」
 素直な気持ちを述べたのだが、師は複雑に表情を歪めた。可愛いと言われても嬉しくないらしい。
「僕は真剣に悩んでるのに。君の体を気遣いたい。それなのに、未だかつてないほどの肉欲と渇望が僕にいたわりを忘れさせる。加減が少しも出来ないんだ。
体の傷はいくらでも癒せるけど、痛いとか苦しいとか君に思わせるのが嫌なんだ。だからといって、無理矢理快楽を呼び覚ますのはもっと嫌だし」
 ぶつぶつと師は独り言のように語り続ける。
 シャロンの体と心を案じてくれているのがひしひしと伝わり、それだけでシャロンは幸せの絶頂へ至る。シャロンの体は確かにまだ喜びを覚えてはいないが、心は幾度となく歓喜の声をあげているのだと師は気づかないのだろうか。
「先生」
 シャロンは未だ自身の中に収まったままの師の一部を撫でるように臍の下辺りに手を置き、師に微笑みかけた。
「私、先生に抱いてもらうの好き。まだちょっと苦しいけど、心は気持ちいい。先生が愛してくれてるって思うと泣きたくなるくらい幸せなの」
 師は黙ってシャロンを見下ろし、吐息混じりに名を呼んだ。
 シャロンの手の下で、萎えていたものが再び熱を帯びていく。
「教え子に手を出すなんて、僕はどうかしていると思ってた。いや、今も思ってる。でも、どうかしているとわかっていても僕は君が欲しくてたまらない。……愛だ。これが愛なんだよ、シャル。ああ、たまらない。君を愛してる」
 感極まった様子で師はシャロンに口づけた。そして、動きやすいように彼女の足を肩にはねのけ、先ほど吐き出した白濁を掻き出すように腰を動かし出す。


454:忘れ去られた聖地 2/7
08/03/30 23:48:04 i6Ki5t0K
 こうなってしまうと何度も欲を吐き出して疲れきるまでシャロンを離さないのだと経験上知っている彼女は強く打ちつけられる腰に僅かな痛みを覚えながらも喜びに咽ぶ。何事にも淡白な師が熱く求めてくれることが嬉しくてたまらない。
 もっと、もっとと慣れないながらも彼女は彼を誘う。ぎこちなく腰を揺らし、甘く掠れた声で師を呼ぶ。欲しくてたまらないのは彼だけではない。シャロンも同じだ。どれだけ与えられても足りない。彼女はいつだって彼に餓えている。
「せんせ……すき、っは、あっ、ン、すき……あッ、せんせぇ」
 屹立はシャロンの中を遠慮会釈なく蹂躙し、その荒々しさにシャロンはのけぞって応える。師が気遣いを忘れて、シャロンを貪ることに夢中になればなるほどにシャロンは満たされた。
 互いの粘膜が触れ合う粘着質な音とシャロンの喘ぎ、そして師の乱れた呼吸だけが室内を埋め尽くし、それは空が白む頃まで幾度も続いた。


 やはり夢見は最悪だ。幸せだった頃の、少なくともそう思っていた頃の記憶はシャロンの心を乱す。かつて愛した人を思い出すことは古傷を抉り塩を擦り込むように痛かった。
 まだ夢を見ているかのようにシャロンの体は火照っている。彼女は自身の体を抱き、胸の内から憎しみを呼び戻す。
 躊躇わずに彼を殺せるように常に憎悪をまとっていなければならない。愛情は刃を鈍らせるだけだ。
 ともに過ごした時間より離れて過ごした時間が長いのにどうして忘れられないのだろう。シャロンは奥歯を噛みしめる。
「シャロン」
 かけられた声にはっとして顔を上げる。
 扉にもたれたレスターがこんこんと扉を叩く。
「ノックはしたんだぞ、何回も」
 シャロンが震える息を吐くとレスターは寝台へと歩み寄り、許可も取らずに腰を下ろした。
「うなされてたな」
「見ていたのですか。悪趣味ですね」
「ずっとじゃないさ。さっききたばかりだからな」
 レスターの手がシャロンの頬を撫で、顎を掴んで上向かせる。
 視線が絡み、彼はゆっくりと顔を近づける。程なくして唇は重なり、どちらからともなく舌を絡めて口づけを深めた。
 レスターに肩を押され、シャロンは寝台へと横たわる。口づけを交わしたままシャロンは彼の上着に手をかけた。


「俺はお前を死なせたくない」
 露わになった背に唇を寄せ、レスターは囁く。
「ああっ、く……ふ、ぁッ」
 レスターは強く腰を打ちつけ、肩に噛みついた。


455:忘れ去られた聖地 3/7
08/03/30 23:48:47 i6Ki5t0K
「俺にはお前があの人に殺されたがっているように見える」
 上体を起こし、突き出した腰を掴んでレスターはシャロンを責めた。
「なあ、シャロン……くっ」
 それ以上喋るなと言う代わりに下腹部に力を込めて、シャロンはレスターを締め付ける。思惑は成功して、レスターは会話を止めて行為に集中する。
 レスターに抱かれると快感を得れば得るほど虚しさで胸が埋め尽くされる。この行為に愛などなく、お互いに傷を舐めあっているだけだと理解しているからだ。
 枕を掴んで顔を埋め、シャロンはレスターの責めから逃れようとする。先に達するのは嫌なのに、レスターは的確にシャロンの感じる部分ばかりを責めてくる。
 逃げようとした腰はしっかりと抑え込まれているし、片手が結合部へと滑りシャロンの敏感すぎる部分を指で撫で始めている。
 快感ですすり泣きながら、シャロンは悲鳴に近い嬌声を上げる。
「レ、スター……いや、だめっ」
「いきたきゃいけよ」
「いやぁ……あっ、い、いや……ああ、あっ、ああああああッ」
 堪えきれずに絶頂を迎え、シャロンの体が強ばる。それでもかまわずにレスターは腰を打ち付ける。レスターを止めようと膣はきつく収縮し、襞がまとわりついてくる。しかしレスターは止まらない。
 悲鳴を上げながら、シャロンは強すぎる快感から逃れきれずに小刻みに体を震わせる。
 逃れられないように腰をしっかり両手で掴み、レスターは自らが達するまで動くことをやめない。彼が満足してシャロンの尻に白濁を散らす頃には、彼女はぐったりとして寝台に体を投げ出していた。
 シャロンは虚ろな目でレスターを見上げた。優しい兄弟子を苛んでいるのは自分の存在だと気づいているのに、離れることが出来ない。いっそ突き放してくれればと思うが、優しい彼が自分を見捨てられないことも知っている。
「レスター」
 泣きすぎて掠れた声で彼を呼ぶと低く穏やかな声が答えた。
「ん? なんだ」
「ごめんなさい」
 困ったような顔で彼は笑い、シャロンの髪がぐしゃぐしゃになるのもかまわずに頭を撫で回す。
「それと、ありがとう」
「……馬鹿だな。お前みたいな可愛い女を抱けるんだから、こういうのは役得っていうんだ」
 レスターはおどけて見せたが、ありがとうとシャロンは重ねて口にした。





456:忘れ去られた聖地 4/7
08/03/30 23:49:34 i6Ki5t0K
 情報に従い、追跡部隊は北部へと向かった。転移魔術で《聖地》支部へ、そしてそこから馬車で三日かけて鬱蒼とした森へ移動した。森の中の古びた館にクラウスがいるという。
 今までの記録から想像するに、追跡部隊が到着した頃にはもぬけの殻になっている。あるいは姿は見せるが交戦の間もなく逃げられる。あるいは―
「以前北部で発見した時は負傷者多数でほぼ壊滅状態だったそうですね」
「気まぐれな人だからな。毎度結果はあの人の気分次第というところだ」
 落とした声でシャロンとレスターは言葉を交わす。
「だが、死人は出てない」
 レスターが不快そうに眉を寄せる。
「死なない程度に痛めつけることが可能だということはあの人は追跡部隊全員束ねてもまだ数段高見にいるってことだ。あの時は一度目の追跡だったから面子も今ほど攻撃に特化した奴ら揃えてたわけじゃなかったが」
 レスターの話を聞き、シャロンはぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
 今回の追跡部隊にシャロンがいることに、きっと師は気づいているはずだ。逃げずに向き合ってほしいと願う。
「クラウスは私が必ず捕まえてみせます」
 この日のためだけにシャロンは十年を越える歳月を生きてきたのだ。
 決意も露わに、シャロンは前方に現れた目的の館をじっと見つめた。



「可愛いシャル。僕の、僕だけのシャル」
 別れた時のまま、目の前で師は笑んでいた。
「会いたくて、触れたくて、気も狂わんばかりだったよ。でも怖くて会えなかった」
 悲しそうに表情を歪め、片手で掴んでいたものから手を離した。それは力なく床へ倒れ込み、師は一瞥もくれることなくそれから剣を引き抜いた。
「……レスター」
 それの腹の辺りからじわじわと血が滲み、それは恐るべき速さで床に血溜まりを作った。
 床に横たわるのは追跡部隊の長であり、マスターと呼ばれる高位の魔術師であり、シャロンの二人目の師であり、クラウスの弟子であるレスターだ。
「せんせい」
 血の臭いがする。レスターの命の臭いだ。
「ああ、シャル。怖いのかい」
「レスターが、レスターさんが」
「仕方がないよ。僕だって嫉妬くらいする」
 体が動かなかった。館へ入ってすぐに体の自由を奪われた。
 攻撃は唐突で確実。シャロンの周りにだけ防護壁が張られ、不意をつかれた追跡部隊は雨のように降り注ぐ強烈な攻撃魔術にさらされた。

457:忘れ去られた聖地 5/7
08/03/30 23:50:38 i6Ki5t0K
当然彼らもすぐに防護壁を張り、姿の見えない敵に備えたが彼の魔術には際限がなかった。応戦することすらままならず、気がつけば立っているのはシャロンとレスターの二人だけ。そこでようやく魔術は止まり、変わらぬ姿の師が現れた。
 この時もまだシャロンの体は動かなかった。動かない体で二人の師が争うのを眺めていることしかできなかった。
 一方的だった。レスターが放つ魔術はことごとく無効化され、クラウスはレスターが無効化できるように加減をして魔術を放つ。クラウスは遊んでいる。それは傍目から見ても明らかだった。
そうして暫くレスターとの小競り合いを楽しみ、クラウスは虚空から剣を取り出してレスターの動きを止めた。
 応戦するレスターが動かなくなるまで痛めつけ、クラウスはシャロンへ向き直る。もう体を戒める魔術は解かれたのだと気づいてはいたが、シャロンは動くことができなかった。
「綺麗になったね」
 へたり込んだシャロンの前に膝をつき、師は彼女の頬にまるで壊れものに触れるようにそっと触れた。
「先生……レスターさんが、死んじゃいます」
 師が余りにも変わらないから、最後に会ったのが昨日のように思える。シャロンは昔のように師の胸にすがりついた。
「大丈夫」
「でも、血が、血がたくさん」
 ぐずぐずと鼻を啜る。師は優しく背を撫でてくれた。
「可愛い僕のシャル。形あるものはいつか壊れるし、命あるものはいつか尽きる。死は誰しも等しく訪れるものだ。それを恐れてはいけない」
 辺りに転がる追跡部隊は傷を負ってはいるが、治癒に特化した魔術師を呼び寄せれば死ぬことはないだろう。クラウスが彼らを殺さぬように治癒を施しながら痛めつけているからだ。
 だが、レスターは違う。あのまま放っておけば出血多量で死ぬかもしれない。
「先生」
 レスターの血に濡れた手で師はシャロンに触れる。
 涙がとめどなく溢れた。恐らく本当にクラウスは変わっていない。姿形だけでなく、内面もあの頃と変わりない。シャロンへ向けられる愛情もあの頃のままだ。
 それを痛いほどに実感し、シャロンは泣いた。
「会えば君を壊してしまいそうだったけど……よかった。僕はまだ君の先生でいられる」
 変わってしまったのはシャロンだ。今のシャロンにはもう盲目的にクラウスだけを愛することはできない。
 それに気づき、シャロンは泣いた。あの日、連れ去ってくれたなら、きっとずっと師だけを愛していられたのに―


458:忘れ去られた聖地 6/7
08/03/30 23:51:29 i6Ki5t0K
「どうして」
 だからこそシャロンは問いかけた。
「私を置いていったのですか」
 師は目を閉じ、深く息を吐いて、それから困ったような顔でシャロンを見た。



 治癒はあまり得意ではなかった。それでも、シャロンは震える手でレスターにありったけの魔力を注ぐ。
「レスターさん……やだ、死んじゃ嫌です」
 独りきりになったシャロンの手を取ってくれたのはレスターで、彼はそれからずっと側にいてくれた。まだ恩返しはできていない。
 師は再びどこかへ消えてしまい、シャロンは今度は自分で選んだ。彼についていくのではなく、《聖地》に残ることを選んだのだ。
 師が去ってから止まっていたシャロンの時間はようやく動き出したのだ。それを伝えて、優しい兄弟子を安堵させてあげたい。もう心配しなくていいのだと言ってあげたい。
「レスターさん、レスターさん」
 大きな傷はすべて塞いだ。足りない血液を補うように魔力を注ぎ込んだ。後は目を開くのを待つことしかできない。
 シャロンはレスターの大きな手を両手で包み、祈りながら待った。
「……シャ、ロン」
 ぴくりと体が動き、レスターが歪めた顔をシャロンへ向けた。
「あ、レスターさん」
 安堵とともに力が抜け、シャロンの頬を涙が伝った。
「シャロン……」
 亡霊でも見たような顔でレスターはシャロンを見上げている。そして、暫くしてからシャロンが握っているのとは逆の手でシャロンの頬を伝う涙を拭った。
「行かなかったのか」
 辺りに師の姿がないことに気づき、レスターは言う。
「馬鹿だな。こんな機会、最後かもしれなかったのに」
 レスターは辛そうに眉を寄せたまま、何度もシャロンの頬を撫でる。
「あの人はお前を待ってたんだよ。追いかけてきて欲しかったんだ」
 シャロンはレスターの言葉を黙って聞きながら曖昧に笑んだ。
「ずっと怖がってた。お前が愛おしくて、愛おしすぎて壊してしまいそうだって。だから逃げた。逃げたくせに、それでも、待ってたんだよ。シャロン、お前を待ってたんだ」
 シャロンは力なく首を横に振る。
「レスターさん」
 それでもレスターは何かを言いかけ、けれどそれ以上は何も言わずに口を閉じた。
「眠って下さい。まもなく医療班が到着します」
 独り言のような呟きに頷き、レスターはゆっくり目を閉じた。





459:忘れ去られた聖地 7/7
08/03/30 23:52:30 i6Ki5t0K
 一年の四分の一を雪とともに過ごす北部でも可憐に花は咲き誇る。庭園の花壇を眺め、中央では見ない種の薔薇をシャロンは愛でた。
「シャロン」
 だらしなさを感じる一歩手前まで制服を着崩したレスターがシャロンの傍らに立つ。
 《聖地》支部にて治癒を受け、追跡部隊員たちは翌日には本部帰還が可能なまでに回復した。レスターも自由に歩き回れるほどに回復している。
「その、なんだ」
 言いにくそうに口ごもり、がりがりと頭を掻く。そんなレスターを見上げ、シャロンは楽しそうに笑った。
「私になにか、レスター?」
 少しばかりの逡巡の後、レスターはシャロンの右手をとった。そして、人差し指の付け根に輝く金と碧の光を見つめる。
「これ、取れんだろ」
「はい。取れません」
「……なんでそんなに嬉しそうなんだ」
「私、決めたんです。今の私では並んで歩けないから、だからまだ駄目なんです。先生が怖がらずにいられるくらい強くなったらそうしたら隣に行こうって」
 愛おしそうに指輪を撫でるシャロンを見下ろし、レスターは深々と嘆息する。
「並べるくらいとなるといつになるかわからんぞ」
「でも、いいんです。先生は私がおばあちゃんになっても待っていて下さるってわかったから」
 レスターの手が頬に触れ、ついで唇が軽く触れる。
「……わかってたけど、前途多難だな」
 不意の口づけに瞬きを繰り返すシャロンを見てレスターは苦笑する。
「レスター?」
「なんでもない。こっちの話だ」
 ぐしゃぐしゃと柔らかな髪をかき回すように頭を撫でられ、シャロンは不思議と好ましい感触をなぞるよう唇に指で触れた。
 髪の影で指輪がきらりと煌めいた気がした。




以上。後編おわり。
前後編ともに保管庫には保存しないで下さい。

460:名無しさん@ピンキー
08/03/31 16:51:55 bBB66fMo
いいものを読ませてもらいました!
GJです!!

461:名無しさん@ピンキー
08/04/01 05:21:16 imI18KrY


462:名無しさん@ピンキー
08/04/01 05:33:19 oIVkXQOZ


463:名無しさん@ピンキー
08/04/02 15:52:43 Xs2zrc7N
このスレに常駐してる職人サンって何人くらいいるんだろう?

464:名無しさん@ピンキー
08/04/02 22:32:37 vty0G0Y2
面白かった!
続き読みたい
先生が謎だなあ

465:名無しさん@ピンキー
08/04/07 02:23:08 Y6sXX+y1
保守

466:名無しさん@ピンキー
08/04/13 02:28:11 FP9Cer48
保守

467:名無しさん@ピンキー
08/04/18 03:13:44 XMq/OC5u
保守

468:名無しさん@ピンキー
08/04/20 02:55:53 UVm6XsqL
保守

469:名無しさん@ピンキー
08/04/23 03:38:46 4UniOlM7
保守

470:名無しさん@ピンキー
08/04/24 05:29:23 N5+GE9ue
凄い勢いで過疎ったね…
職人さんキテー

471:名無しさん@ピンキー
08/04/27 17:41:18 3L0/48pn
投下します。
エロ無しなので、ダメな方はスルーかNGでお願いします。

472:二組の”大佐と副官”-1 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:42:10 3L0/48pn
 副官の机にうず高く積まれた書類の山がユラユラと揺れ始め、あっという間に
崩れ落ちていく様を、この部屋の主は「またか」といった表情で見つめていた。
  部屋の主の襟元には六つの星が並ぶ階級章が輝いている。王立軍の階級章は一つ星で
少尉、二つ星で中尉と言った具合に階級が上がる毎に星が増えていく。六つ星は現場の
トップである大佐を意味している。
 書類が散らかった床の真ん中にしゃがみ込み、オロオロとしている小柄な女性の襟元の
階級章は星一つの少尉のものである。
 暫くして落ち着きを取り戻した女性は、薄桃色のセミロングの髪を揺らしながら書類が
散乱する床に這い蹲った。そして、無数の紙の束を大慌てでかき分け何かを探し始めた。
そのかき分け方が尋常でなく、その場を余計に散らかすことなっていたが、彼女はお構いなし
だった─というよりも正直それどころではなかった。この紙の束に紛れ込んでしまった
本日の大事な会議資料を彼女は探していたのだ。
 しかし、崩れた書類の山は膨大な量で、目当ての資料は簡単に見つかりそうもない。
 「はあ」─部屋の主が額に手を当てながらついた大きな溜め息に反応して、彼女は
伏せていた顔を上げた。
 失態を恥じて彼女の細い秀麗な眉は”ハ”の字に引き下げられ、愛らしい円らな
ヴァイオレットの瞳はいつ泣き出してもおかしくないほどに潤みきっている。そして、
その桜色の可憐な唇を震わせながら、申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すみません、大佐。私、ま、またヘマを……」
 ”大佐”と呼ばれたこの部屋の主は黒髪の細身の男性である。歳の頃は二十代後半。
印象的な鋭い銀の瞳を持ち、鼻梁は彫像のように高くその下の薄い唇は固く引き結ばれている。
理知的で凛々しい印象を受けるその容姿から、彼が多くの女性の衆目を引いていることは
容易に想像できる。  
 額に掛かった前髪をかき上げヤレヤレといった様子で首を二度三度振ると、その男は
ゆっくりと革椅子から立ち上がった。
「こうしていては会議に遅れる。書類は後で構わないから行くぞ」
「で、でも……その会議に必要な書類じゃ……」
 今にも消え入りそうな声で、桃色の髪の女性は男の顔色を伺いながら恐る恐る発言した。
今にも泣き出しそうに歪められた顔立ちは実際の年齢よりも彼女を幼く見せる。
「気にするな、イルマ。一通り目は通し、中身は覚えている」
 長身痩躯の男は散らかった書類の束を避けて、マントを翻し部屋を出ていった。
「た、大佐ぁ!待ってくださいぃぃ!」
 イルマは自分の机に置いてあった革の手帳、羽ペンとインク瓶を抱きかかえるようにして
上官の後を慌てて追いかける。
─スヴェン大佐、怒っていらっしゃるのだろうか。そうだよね、だってとても大事な書類で
昨日もお持ち帰りになって夜遅くまで内容を頭に叩き込んでいたって、仰っていたのに……
私ったら。
 彼女は上官の三歩後ろを歩きながら、いつまで経っても治らない自分の不注意を呪った。
 イルマとドジは昔から同義語であり、士官学校時代から同窓生には散々からかわれていた。
目の前を歩く大佐の副官に任官されてからも、ミス、ヘマが減ることはまるでなかった。
冷淡な鉄面皮として彼女の上官は知られていてから、イルマはいつクビになってもおかしくないと
ビクビクしていた。 


473:二組の”大佐と副官”-2 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:42:57 3L0/48pn
 しかし、歳が十以上─正確には男が二十八歳で、イルマが十七歳なので十一歳も違う
ためか、呆れられることはあっても怒られることは滅多になかった。それでも上官にいつまでも
甘えていてはいけない、とイルマは毎朝出勤前に心に誓うが、就寝前にはやはり間の抜けた
自分を呪う日々が続いている。
─大佐……ごめんなさい。
 途端に前を歩いていた男が立ち止まる。ぶつかりそうになりながらもイルマも何とか踏み
とどまった。申し訳なくて、イルマは振り向いた上官と目を合わせられない。
「イルマ、そう落ち込むな。あの資料が無くとも何とでもなる」
「ど、ど、どうして……私が落ち込んでいるとお分かりなるのですか?ま、魔術ですか?」
 ちなみにイルマの上官は若いながらも優秀な魔導師で王立軍の中でも、一目置かれて
いる存在である。一般的に魔導師は知識と魔術の探求に一生を捧げ、人との係わり合いを
好まない。人里離れた場所に塔を建て研究に没頭する魔導師のイメージはあながち的外れ
ではない。しかし、何事にも例外はあるもので習得した魔術を用い、人の世で生きる魔導師も
少なからずいる。
「……それだけシュンとしていれば魔術など使わずとも誰でも分かると思うが」
「すいませんでした。スヴェン大佐」
「気にするな、と言った。これは上官命令だ」
 到って真面目な口調で、スヴェンと呼ばれた男は応えた。
「はい……」
 許しを得たことで安堵したのか、イルマの声のトーンが心なし上がる。その返事を聞いた
スヴェンは再び前方を向いて、会議室へと歩き出した。

 ◆ ◇ ◆ 

 昼食を挟んだ長い会議が終り、執務室へ戻る途中のスヴェンは終始ウンザリした顔だった。
魔導師らしく合理性に欠けることを好まない彼は、長々とした意味の無い会議が大嫌いだった。
 書類などなくとも自分の報告を完璧に済ませると、スヴェンは目を瞑り飛び交う無味乾燥な
議論に無視を決め込んでいた。
「まったく無駄な時間だった。あんなことをわざわざ仰々しい会議など開いて決める必要が
どこにあったと思う?」
 額にかかった髪をかき上げたスヴェンは同意を求めるかのようにイルマをその銀色の瞳で
見つめた。その銀の目は戦場においては猛禽類の如き鋭い眼光を放つことから、”鷹の目”と
揶揄されている。
「そ、そんな私は……その……」
─大佐の意見には同意したいけど……あれは執政官様が開かれた会議だから、
「つまらない」なんて言うと失礼だし……でも大佐が同意を求めているのだから……いやいや、
どこで誰が聞いているか分からないのだからやはり、「つまらない」などと言ってはいけないわ……。
 まごまごと答えに窮するイルマを見限ったのか、スヴェンは彼女から視線を外し黙って
自分の執務室に向って歩き出した。

474:二組の”大佐と副官”-3 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:44:32 3L0/48pn
─ああ、また私は大佐に嫌われてしまった。
 イルマは肩を落とし、スヴェンの三歩後ろを項垂れながらオズオズと部屋へ戻った。
 部屋に戻ったイルマの最初の仕事は、床一面に散らかった書類の片付けであった。
彼女がそれに取り掛かっている間、スヴェンはオーク材で作られた横長の執務机に
頬杖をつき、うららかな陽気の中で瞼を閉じ考えにふけっていた。
 床の片付けを終えたイルマは入り口に近い自分の机に座り、気取られないようそっと
スヴェンの顔を遠目に眺めていた。滅多に表情を崩さないスヴェンだが、午後のひと時、
黙考に耽っている間だけは穏やかな顔つきになる。イルマにとっては上官のその顔を
覗き見るのが、密かな楽しみであった。
─大佐のああいう顔を見れるのは、この部屋にいる私だけ……。
 だが、至福の時間はそうそう長く続かない。スヴェンが目を開けてしまったのだ。
その瞬間、イルマはすぐさま顔を伏せ、机の上の書類を読んでいるフリをする。スヴェンに
気づかれていないだろうかという心配から、小ぶりな膨らみの下に収められた心臓は
バクバクと大きな音を立て、全身の血が沸騰したのかと思うぐらいに熱くなる。
「イルマ」
 声を掛けられたイルマは思わずビクリと全身を震わせて、スヴェンに顔を向ける。
その様子はまるで油が切れたブリキの人形のようにぎこちない。 
「な、何でしょう?」
─お、お顔を盗み見ていたこと……き、気づかれていませんように……。
「さっきの会議の議事録を一応読んでおくから、貸してくれ」
「はい……えっと……この辺りに……えっ、あれっ?」 
 議場で速記を取っていた紙が見当たらない。
─確か、このバインダーに挟んだはずなのに……ない、ない、ない!!
 慌てたイルマは机の上の書類の束をひっくり返し、引き出しの中、書架の中、あげくの
果てに制服のポケットまで探り始めた。
「イルマ、幾らなんでもポケットには収まらんだろう?」
 スヴェンの呆れ声がイルマの胸にグサリと突き刺った。真っ当に考えれば確かに
そんなところにあるはずなかった。
「は、は、はい。すいません」
─ダメだぁ、またやってしまったわ……どうしよう……。
 本日何度目か数えることもできないヘマを後悔しながら、自分自身にほとほと嫌気が
さしたイルマの曇った視界には、滲んでぼやけたスヴェンの顔が映っていた。
「……ごめんなさい」
 しかし、スヴェンには別段咎める様子はない。彼からしてみれば、何時であろうとイルマの
ミスは織り込み済みなのだ。
「まあいい。アユタナの所に借りにでも行って来くれば良い」
 スヴェンが親しいラインベルガ=スニードの副官を務めるアユタナは、同性ですら
羨やまずにはいられない類稀な美貌に、煩雑な副官の仕事を事も無げにこなす能力を
兼ね備える完全無欠の才女として軍の中でも評判が高い。イルマにとってもまさに
憧れの存在であり、上官同士が仲が良いことから困った時にはいつも助けてもらっている。

475:二組の”大佐と副官”-4 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:45:11 3L0/48pn
 少し間を置いて、スヴェンが珍しく和らいだ声で切り出した。

「議事録は後で構わないから、コーヒーを淹れてくれないか?」

 その言葉を聞くなり塞ぎこんでいたイルマの顔がみるみる喜色の色を帯び、明るく
生き生きとした表情へと変わる。
「あっ……はい!」
 スヴェンの前ではヘマばかりのイルマでも、褒められたことの一つや二つぐらい
あるものだ。勿論多くはないが、その代表格がコーヒーを淹れることだった。特別なことは
していない、と言うよりもできないが、イルマの淹れたコーヒーを必ずスヴェンは「美味しい」と
褒める。だから、イルマも嬉しくて上官が「コーヒーが飲みたい」と言い出すのをいつも
心待ちにしていた。
「美味しいの、淹れますね」
 満面の笑みで応えたイルマの様子を見て、スヴェンは少しホッとしていた。

─イルマの場合は普通の味がするだけでも充分、褒めるに値する……部下の機嫌を
取るのもなかなか一苦労だ。

 込み上げてくる苦笑を必死に噛み殺す。
「ああ、頼む」
 スヴェンは少し口元を緩めると、再び瞼を閉じて黙考に耽った。一方イルマは、はやる
気持ちを抑えながらいそいそとお湯を沸かし始めた。

 ◆ ◇ ◆ 

 西日が差し込む軍本部の廊下にて、軍服がはち切れんばかりの筋骨隆々の大男とその
人物とは対照的な長身痩躯のスヴェン=ホークが立ち話をしていた。
「スヴェン、お前のところの副官はどうにかならんのか?」
 太い眉が印象的な厳めしい顔つきのラインベルガ=スニードの階級章は、スヴェンと同じ
六つ星だ。三十代前半にして大佐に昇り詰めたものの、窮屈なデスクワークよりも
血風吹き荒ぶ戦場に身を投じる方を選んでしまう根っからの武人である。
 獅子の鬣の如き赤髪と巌のような体躯で得物の大剣を振舞わすその姿は神話に登場する
軍神さながらであり、周辺国から”アルセリウスの獅子”と畏怖を込めて呼ばれている。また、
類まれな武勇に加え裏表のない性格で部下からの人望も厚い。
「先程もアユタナのところへ今日の議事録を借りに来たぞ。議事録ぐらいならばどうとでも
なるが、あのような様子では何時か大問題を引き起こすぞ」
 イルマを副官にしてからというもの、ラインベルガのお小言は半年間毎日続いている。
─半年間も毎日欠かさずミスするのは大したものだが、イルマ本人はあれで到って真面
目なのだから可哀想というべきだろうな。
 ラインベルガは決してイルマを悪く言うつもりなどない。純粋に心配しているからだと
いうことはスヴェンにも痛いほど分かるが、ほぼ毎日繰り返されていてはさすがに話半分
に聞き流してしまう。

476:二組の”大佐と副官”-5 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:45:51 3L0/48pn
「おい!聞いているのか、スヴェン!」
「そう言うな、ラインベルガ。あれはあれで良い所があるのだぞ」
 スヴェンの言葉にラインベルガは太い眉を寄せ、怪訝な顔をする。
「もしかして……お前、あういう娘が好みなのか?」
 突如、スヴェンの”鷹の目”が細まり途端に凄みが増す。その瞳に睨まれラインベルガは
全身に悪寒が走るのを覚えた。どうやらこの国きっての魔導師の虎の尾を踏んで
しまったらしい。
「誰がそんなことを言った?」
 聞いたものを凍りつかせんばかりのスヴェンの威圧的な声が響く。剛毅でならす、さしもの
ラインベルガもたじろがざるをえない。
「いや、う、噂だ。あれだけ足を引っ張られてもお前がイルマを解任しないことを不思議
がっている下士官どもの間で流れている噂だ」
「それを真に受けたでもいうのか、ラインベルガ?」
「ゴ……ゴホン。その……あのだな……あくまで、可能性として質問しただけなのだ」
「お前ともあろうものがつまらん風説を口にするとは嘆かわしい。噂は軍紀を乱し、
戦場では敵につけ入るスキを与える。よもやお前ほどの男が知らぬはずがあるまい」
 ピシリと言い放たれた正論に反駁の余地はまるでない。おまけにスヴェンの迫力から
推察するに、反論しようものならただではすまないことをラインベルガは本能的に悟った。
「あ、ああ。すまなかった」
 彼が冷や汗を垂らしながら頷くと、スヴェンの瞳がいつもの色に変わった。
─まったく、イルマのことになるとこの男は人が変わる。それでいて、恋心でもあるのかと
探ってみると今のように本気で怒りかね出しかねない……魔導師という奴らは厄介な連中だ。
 とはいえ、勘繰りを入れたラインベルガ自身がとびきりの朴念仁だったから、スヴェンが
僅かに見せた異質な気色に気がつくことはなかった。
 冷や汗が引き始めた友人を横目に、スヴェンが一言呟いた。
「イルマの良い所はだな……」
 ところが、イルマを褒めようとしたものの次が続かない。スヴェンの記憶の中のイルマは
ミスを犯して慌てている姿か、謝っている姿のどちらかだった。
 興味津々な様子でそのスヴェンをラインベルガは凝視している。
 暫く沈黙が続いた後、スヴェンがおもむろに口を開く。
「……コーヒーを美味く淹れる」
「コーヒー?」
 ラインベルガは呆気に取られたが、スヴェンは到って真面目に頷く。
「ああ、悪いか?」
「…………いや」
─お前、コーヒーだけなら副官にバリスタでも雇え!!
 と、叫びたいラインベルガであったが、命を天秤に掛けてまで口にすることはなかった。

477:二組の”大佐と副官”-6 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:46:46 3L0/48pn
 ◆ ◇ ◆

─まったく付き合いきれん。
 そんな気持ちでラインベルガは自分の執務室に戻った。誰もいないと思っていた部屋の
ドアを開けると、副官のアユタナ=リーランドがまだ書類を整理していた。
「まだ、帰らんのか?」
 ラインベルガの声に、見事なブロンドの髪をアップに纏めた美しい女性が顔を上げる。
銀色の細いフレームのメガネが良く似合う聡明な相貌は何だか嬉しそうに緩められている。
「後、少しで終わりますわ、大佐」
 婉然と微笑を浮かべるアユタナはラインベルガと八歳違いの二十三歳である。文官、
武官を問わず幾人もの傑出した人材を輩出した由緒あるリーランド公爵家の子女だ。
 若く家柄も良くおまけに美しい彼女が、何故むさくるしい平民出の自分の副官になど
志願してきたのか、ラインベルガにとっては未だに謎である。
「ゴホン……そうか、あまり無理はするなよ。根を詰めすぎると身体に毒だぞ」
「お気遣いありがとうございます。ところで、終わったら食事をご一緒して頂けませんか、
ベル?」
 親しげに掛けられた「ベル」という愛称にラインベルガは慌てふためき仰け反ってしま
う。
「リ、リーランド中尉!!」
 アユタナのいないところであれば、いくらでも彼女の名前を口にできる。しかし、面と
向うと、あがりにあがってしまい、彼女が任官されてから半年も経つにもかかわらず、
いまだにラインベルガは副官を名前で呼べない。
「し、執務中はそのように呼ぶのは止めろと言ったはずだぞ」
「あら、では執務中ではなければ宜しくて」
 ほっそりとしたアユタナの指先がメガネのフレームを押し上げる仕草は、相手を本気で
追及する兆候だ。こうなるとラインベルガは、戦場での武勇はどこ吹く風で蛇に睨まれた
蛙の心地に追いやられる。
「……い、いや、そういう問題では……」
「では、どういう問題なのですか?」
 ルージュを引いた柔らかそうな唇が緩み、澄んだ双眸が悪戯心に満ちた輝きを放つ。
 ラインベルガはドサリと自分の執務用の革椅子に巨体を沈めると、長く溜め息を付いた。
「だから……その……ええい!ダメなものはダメなのだ!」
 ラインベルガは友人のスヴェンのように思慮深くもなく弁が立つわけでもない。文官の
中でも一、二を争うほどに優秀なアユタナを相手に舌戦を試みても、勝ち目がないことは
痛いほど良く分かっている。そのため、下手に言い争うよりも半ば強引に話を打ち切る方を
彼は選んだ。
 しかし、ラインベルガの答えに納得がいかないアユタナは、ゆらりと席から立ち上がり
ヒールの音を立てながら彼に歩み寄る。


478:二組の”大佐と副官”-7 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:49:13 3L0/48pn
 軍の制服の上からでも分かる彼女の抜群のプロポーションには、強靭な自制心を誇る
ラインベルガですらわれ知らず見蕩れてしまう。重力に逆らう張りのある豊かな胸の膨らみ、
一切の無駄がない細く括れた腰とタイトスカートを押し上げる上向きのお尻があいまった
肉感的な体型は、美の象徴である月の女神の彫像が生命を得たのかと勘違いしそうになる。
そして、そんな色香を隠すどころかわざと強調するように、にじり寄ってくるのだから、純朴な
ラインベルガにしてみればたまったものではない。
「そんなつれないことを仰らなくても宜しくはありませんか?」
 薄いレンズ越しにラインベルガを見つめるサファイア・ブルーの瞳が妖しく揺れる。
 口元に微笑を浮かべたままアユタナはラインベルガの執務机の端に横向きに座り、わざと
見せつけるようにスラリと長く伸びた脚を組み替える。黒のストッキングとコントラストをなす
白い脚は生唾ものだ。挑発的な仕草にさしものラインベルガも思わずゴクリと喉を
鳴らしてしまう。それを見たアユタナはさも嬉しそうに微笑む。
「私、あなたがその気になるのをずっと待っているのですよ、ベル。そろそろお気づき頂
いてもいいかと」
「リ、リーランド中尉!か、か、からかうのは止めてくれ!」
 ラインベルガは耳まで真っ赤に染め、そっぽを向いて拗ねたように呟く。
「お、俺みたいな男を……お、おちょくって何が楽しいんだ?」
 その言葉を聞いて、アユタナは怪訝そうにラインベルガを見つめる。
「おちょくるなんて……今も昔もそんなつもりはサラサラありませんが?」
「き、君みたいな魅力的な若い女性が俺みたいなのを相手にするなど、誰が信じるという
のだ!」
 毎朝、鏡で見る自分の顔はゴツゴツと厳めしく武人としては申し分ないが、どう考えて
も女性の興味をひくとは、ラインベルガには到底思えない。そんな武骨な顔立ちと朴念仁の
性格が相まって、彼は三十一歳になる今の今まで女性には無縁の殺伐とした生活を送ってきた。
─そんな自分がアユタナのような若い美女に迫られるなど、夢だとしても信じられない。
これは何かの悪い冗談なのだ。そうとしか考えられん!
 眉間に深い皺を刻み、固く瞳を閉じたラインベルガが丸太のような太い腕を組む姿を見
つめたアユタナは、おもむろに制服の襟元に手を掛ける。

「では、こうすれば信じてくれますか?」

 室内に響くボタンを外す乾いた音に、慌ててラインベルガは瞳を開ける。
「…ちょ、ちょっと待て!」
「待てません!」
 彼の視線の先には、制服のボタンをドンドン外していく絶世の美女の悩ましい姿があった。
肌蹴た胸元から覗く黒い下着に包まれた豊かな膨らみが作り出す谷間に、ラインベルガの
視線は思わず釘付けになってしまう。
─いかん。いかん。な、何をしている!こ、こんな風紀に反するようなことは上官として止めねば!
「リーランド中尉、もう止めろ!じょ、上官命令だ!」 

479:二組の”大佐と副官”-8 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:49:50 3L0/48pn
 それでもアユタナの指は止まらない。上着のボタンを全部外すと今度はベルトのバックルを
緩めに掛かる。
「き、聞こえんのか!上官命令だぞ!」
「……力づくでお止めになったら、如何です?”アルセリウスの獅子”とも称されるお方が
女一人組み伏せることなど、造作もないことでしょうに」
 挑発するような流し目に、ラインベルガはドギマギしてしまう。戦場ではどれだけ白刃が
降り注いでもいささかも変化を見せない心臓の鼓動が、今は早鐘のように滅茶苦茶な勢いで
打ち鳴らされる。
「た、頼む、リーランド中尉。気を確かに持て!」
「持っていますが、何か?」
「いやいや……いつもの冷静な君を取り戻してくれ!」
「普段と何ら変わりませんが」
「…………なあ、頼む。俺を困らせて何が楽しいんだ」
 はぁぁとアユタナは悩ましげな溜め息をつく。
─何て、鈍感なのかしら。
 形の良い顎に手をかけ、見目麗しい副官は暫し思考を巡らせた。
「……ではどうでしょう。私の名前を呼んで頂けるのであれば、今日のところは確実な一歩を
踏み出したということで譲歩致しましょう」
 ラインベルガからいつも「リーランド」と家名で呼ばれることがアユタナには常々、もどかしかった。
好きな人間に自分の名前を呼んで欲しい─まさか、自分がこんな少女じみたことを切に
望むようになるとは、とアユタナは呆れていた。たかだか、名前如きと思っていても、
ラインベルガの低く野太い声で自分の名前を呼ばれることを想像すると、彼女の心は
キュッと甘く締め付けられる。そして、自然と頬が紅くなり目が潤んでしまう。
─本当はいきなり押し倒してもらっても構わないのだけれど、ベル相手では現実的な
ところから一つづつ進展させていくしかないわね。
 ラインベルガは「今日のところは」というところに引っ掛りつつも、事態の収拾を図るべく
副官の提案に不承不承頷き、彼女の名前を呼ぶことにした。しかし、やはりというべきか
色恋沙汰への免疫をもたない彼にはこんなことですら羞恥心が先走り、モゴモゴと言い
よどんでしまう。
 純情なラインベルガが必死に羞恥と葛藤している姿を眺めながらも、アユタナは衣服を
脱ぐ手を止めない。濃紺のタイトスカートが脚をスルリと通り抜け、前が肌蹴た上着を
羽織った彼女の下半身はガーターベルドで止められた黒いストッキングとショーツだけ
という姿になっていた。
 とんでもなく悩ましげで扇情的な姿にラインベルガは頭を抱える。下手をすると夢でも
誘惑されそうだ。しかし、切迫した状況にラインベルガはやっと勇気を振り絞り、彼女の
名前を蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
「…ア、……アユタナ……中尉」
「中尉は余計ですわ」

480:二組の”大佐と副官”-9 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:50:49 3L0/48pn
 まったくどちらが上官かサッパリ分からない。

「…………ア……アユタ……アユタナ。頼むから、この辺で勘弁してくれ」

 ボソリした声だったが、アユタナにしてみれば至上の音楽と同じかそれ以上の響きだった。
あまりの喜びで飛び上がらんばかりに心が弾んだ。たかだか、名前を呼ばれただけにも
関わらず、彼女は身体の奥がキュッと熱くなるのを覚えずにはいられなかった。
 しかし、それとは別の感情も湧いてきた。
「私の裸など見るに堪えませんか?」
 口元には微笑を浮かべながらも、アユタナは少し悲しそうに目を歪めてみた。
「……そういう問題ではない。その、俺だって見てみたい……って、何を言っているんだ、
俺は!!!」
 あまりに恥ずかしい失言に頭を机に叩きつけ、ラインベルガは赤髪を掻き毟っている。
 その羞恥に悶える上官の姿と彼の口からはからずも漏れた本心を聞けたことから、
アユタナは安心した。
─ベルも興味があったのね。良かった。
「と、とにかくだ……服装を正してくれ。だ、誰か入ってきたら困るだろうが」
「私は構いません。できれば、情事の後ぐらいに勘違いしてもらった方が、話が早く良いの
ですが」
 平然とトンでもないことを言い放つ美貌の副官に、無粋の塊である上官は頭を抱える。
─何の話だ!何の!
「約束は守ってくれたまえ……頼む」
 今日何度、アユタナに頼むと言ったか数え切れないな、とラインベルガは思う。
「……仕方ありませんね」
 その返事にラインベルガはほっと安堵の息を吐くが、そんな気持ちとは裏腹に脳裏を
残念という思いがよぎる。慌てて理性を総動員して打ち消そうと躍起になるにもかかわらず
彼はアユタナが着衣を整え終わるまで、その姿から目を放せないでいた。

(了)

481:名無しさん@ピンキー
08/04/27 17:51:20 3L0/48pn
以上です。

お付き合い頂いた方、ありがとう。 


482:名無しさん@ピンキー
08/04/27 19:16:48 Dn0v6mIu
GJ

483:名無しさん@ピンキー
08/04/27 20:01:14 KAGwyLrt
GJ!アユタナ頑張れ!

484:名無しさん@ピンキー
08/04/27 23:14:58 Eu245mOz
GJ!
ラインベルガを追い詰めていくアユタナが可愛いな

485:名無しさん@ピンキー
08/04/28 01:16:19 p2es6Fl4
読んでる間、顔がニヤニヤしっ放しだったよ。GJ!
スヴェンとイルマの仲も進展させてやって下さい。

486:名無しさん@ピンキー
08/04/28 03:00:50 JOHC4jNG
ラインベルガは完全に尻に敷かれてるなw

487:名無しさん@ピンキー
08/04/28 22:57:41 ZP/6CYgg
違います。手玉に取られているだけです。コロコロ

488:名無しさん@ピンキー
08/04/29 01:14:10 smXYP3da
投下期待

489:名無しさん@ピンキー
08/04/29 14:09:41 cANfMZIA
良いもの読まさせて頂きましたGJ!!

490:名無しさん@ピンキー
08/05/01 13:49:05 vOy5XERi
上げとくか

491:名無しさん@ピンキー
08/05/06 01:22:28 TRdg896a
保守

492:名無しさん@ピンキー
08/05/10 23:00:55 whRFehbK
上げておこう

493:名無しさん@ピンキー
08/05/13 11:44:29 YghIJQEG
いつもはクールで表情を表に出さないような女軍人さんが主の前では、デレッデレになっちゃう、っていうのが好きだ

494:名無しさん@ピンキー
08/05/18 22:11:53 0BmPq05P
なんと素晴らしい

495:名無しさん@ピンキー
08/05/19 02:17:46 bGAm9tb1
最初は嫌悪と恐怖で主人に対して脅えている女性従者が徐々に主人に心を開くとかも好きだ。

496:名無しさん@ピンキー
08/05/19 23:49:09 21ldgLF9
上げ

497:名無しさん@ピンキー
08/05/24 10:55:58 wR4duyQO
盛り上がらない

498:名無しさん@ピンキー
08/05/28 00:22:08 RKzp50CP
保守

499:名無しさん@ピンキー
08/05/28 00:47:53 54K/f/J6
>>495
いいねえ。

500:名無しさん@ピンキー
08/05/28 01:33:43 mU45XrXp
人前では馬鹿殿のフリをしている主人が、
女従者の前でだけは素の真面目な顔に戻るとかいうのも好きだ。

501:名無しさん@ピンキー
08/05/28 21:56:12 7Ouqn1wN
ちと女の設定が姫だけど、大河篤姫の殿っぽいな

502:名無しさん@ピンキー
08/05/29 10:40:59 aPX2Xxmn
じゃあお志賀たん(側室)で

503:名無しさん@ピンキー
08/05/30 20:02:30 t/B57+OH
>>500
逆のパターンは結構あるよな

504:名無しさん@ピンキー
08/05/30 21:12:36 lc/gIor6
>>503
馬鹿のふりをしてる男従者だか女主人の前ではまじめってパターン?

505:名無しさん@ピンキー
08/05/30 23:20:07 3QIQmjMz
>>504
女従者と二人きりの時は自堕落でぐーたらしてて、
どうしてくれようこの馬鹿主人、とか思われてるような男主人が
公式な場では真面目一徹な超堅物で通ってる…とかじゃね?

506:名無しさん@ピンキー
08/06/04 05:59:48 StPtNPz/
投下期待

507:名無しさん@ピンキー
08/06/05 08:26:02 Lkc2MIU1

このスレの活性化を願って投下ー。

携帯から&初めてなもんで駄文になるかもだけど目を瞑ってやって下さい

508:名無しさん@ピンキー
08/06/05 08:27:58 Lkc2MIU1
とある世界の、とある街の、とある宿屋。
その一室の窓枠に一人の女が座っていた。

足首ほどまである長く美しい髪は燃え盛る炎のごとく紅く、月明かりに照らされて神秘的に輝いている。
青空を切り取ったかのような蒼い瞳は、優しく細められ、ベッドで眠る主人へと向けられていた。

いや―正確に言えばもう主人ではない。
契約期間である2年の月日は、数分前に終わりを告げたのだから。

「……」

彼女はこの世界では名が知れている。―この世の全てのものの中で最強だと。
そして、彼女を従者に選ぶと、契約期間の切れた日に、その者の命も切れる―と。

「……可笑しなものね。本来ならもう消しているのに」

後者の噂の真実は、彼女が契約主を抹殺していた。……それが彼女の使命だった。

彼女は数十人しかいない戦闘種族の娘。

生物研究者が彼女の一族を知ろうものなら、その身をモルモットとして欲するだろう。
そして多額の金を掛けて、彼女の一族を捕まえてしまうだろう。

数の少ない彼女達にとって、それは何より恐ろしいものだ。
しかし彼女は人目に触れてしまい、名が売れすぎてしまったため、姿を消せなくなってしまったのだ。


509:名無しさん@ピンキー
08/06/05 08:33:43 Lkc2MIU1
ならば情報を漏らす恐れのある者だけ――自分を従者として雇った者だけを消せと、一族は彼女に命じたのだ。

今、目の前で安らかに寝入っているこの青年も消すべき者。


――だというのに、彼女は青年を殺せずにいた。


何故かは、旅の中で知っていた。
彼女は気付かぬうちに、主人であったこの青年に想いを寄せていた。
そんなもの、一生抱くことはないと思っていたのに。

「複雑怪奇ね、感情って」

自嘲するように笑って、彼女は立って外に向き、普段隠している髪と同色の翼を出現させた。

そういえばこの翼を、この容姿を、褒めてくれたのもこの人だけだったな…。

ふと思い出す、今までの雇主。
この容姿を忌み嫌う者。興味のない者。そのどちらかだったはずなのに、彼はそれを褒めた。
不思議に思うだけだったのに、今今思い出すととても嬉しい。

「ありがとう…さよなら」

そうとだけ発し、彼女は夜闇へと飛び立






てなかった。

510:名無しさん@ピンキー
08/06/05 08:43:08 Lkc2MIU1
素早く手首に鎖が巻き付き、彼女を部屋に引き戻したから。
そのまま更に引かれ、よく見知った者の腕の中にすっぽりと収まった。

「…いつから起きてらしたんですか?マスター。いえ、元マスター…かな」

「残念ですが僕は寝てませんよ?」

見上げればにこりと笑っている青年の顔が目に入る。
手首に鎖が巻き付いているせいで、腰に回された腕から逃れたくても逃れられない。

「離して頂戴、元マスター」

「嫌ですよ。離したら貴女、どこかに行ってしまうでしょう?」

「当たり前でしょ。契約期間はもう切れたんだから」

“本当は貴方を殺さなければならないのだけれど。”
言葉の続きを呑み込んで、娘は俯いた。

「フレイヤ、僕のことを殺さなくていいんですか?」

「……!?」

何故知っているのかと驚いて顔を上げた途端、強引に口付けられた。
咄嗟に反応できず、口付けは深くなっていく。

511:名無しさん@ピンキー
08/06/05 09:56:52 Lkc2MIU1
僅かな隙間から舌が入り込んで、娘…フレイヤのものに絡められる。
体の芯が融かされるような感覚がして、力が抜けたフレイヤは青年に体を預けた。

互いに息苦しくなり唇が離れると、二人の間に名残惜しそうに銀の糸が引く。
ベッドに仰向けで寝かせられ、鎖で両手を柵に拘束された。

「も…と…マスタ…何を…っ」

「僕の名は“クロス”ですよ?前に教えたはずなんですが…」

「………」

勿論、覚えていた。
しかし彼は雇主。そして本来ならば殺さなければいけない存在。
だから敢えて呼ばなかった。

「取り敢えず僕は“元マスター”なんて名前ではないので何も答えられませんね」

一度彼女から離れ、もう一つのベッドの脇に置いていた自身のバッグからタガーを取り出した。

「あと…貴女の気持ちに気付けないほど僕は鈍感じゃありません」

一瞬真剣な顔付きになったかと思えば、再び妖しい笑顔を浮かべ、フレイヤの上に跨った。
そして、タガーで下着ごと服を裂く。

「ゃ…止めて!」

「止めて…ですか」

クスッと笑って、クロスは露になった豊かな胸の頂に触れた。
瞬間、甘い電流が体を突き抜けた。

512:名無しさん@ピンキー
08/06/05 10:00:02 Lkc2MIU1
「キスだけで立ってますよ?本当は嬉しいんじゃないですか?」

「…っんぁ…」

「クスッ…。いい声ですね、もっと聞かせて下さい」

固くなった頂を指の腹で弄び、片手ではもう片方の乳房を揉みしだく。

「ん…ぁっ…ひゃぅっ!」

想い人が相手だからか、それとも別の理由からか、抑えようとしても喘ぎが止まらない。

羞恥から涙があふれ、フレイヤの頬を濡らす。
それを舐め取られ、片手が胸から下へ滑っていくのを感じた。

513:名無しさん@ピンキー
08/06/05 11:55:26 Lkc2MIU1
取り敢えず今はここまでしか出来てないんで。
今週中には全部終わらせようと思うんで暫しお待ちを。

514:名無しさん@ピンキー
08/06/06 16:06:39 WTBX1rrb
おおGJ!
こういう展開大好きですwありがとう!

続き楽しみにしてます。
期待の意味もこめてage

515:名無しさん@ピンキー
08/06/06 23:44:28 AWlWCWZ/
>>513
gj!
エロの後も気になるぜ

516:名無しさん@ピンキー
08/06/07 00:56:56 YcIfotGg
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   wktk
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +


517:名無しさん@ピンキー
08/06/09 06:14:44 YESvdlXZ
スマン、昨日までに書き切れなかった。
今日か明日には投下できるようにするよ…

518:名無しさん@ピンキー
08/06/09 07:26:34 cou4Q+qD
がんばって!
期待してるよ!

519:名無しさん@ピンキー
08/06/09 17:59:29 Yb/6wCwo
楽しみです。

520:名無しさん@ピンキー
08/06/09 19:07:25 jAP/pUfl
“元マスター”って呼び方もいいな
正座で続き待ってるよ

521:513
08/06/09 23:52:22 YESvdlXZ
誰も見てないことを願いつつ、書けたので続き投下ー。

多分皆の期待には応えられんような文だと思うけどごめんよ。

522:513
08/06/09 23:53:30 YESvdlXZ
「…ぁ…ゃ…ダメ…っ」

喘ぎ混じりの制止の声も虚しくショートパンツが脱がされ、ショーツだけにされる。
それさえも自らの蜜に濡れ、あまり意味をなしていない。

「…“嫌”なんですか?本当に“駄目”だと思ってるんですか?」

どこか怒りを、悲しみを含めた様な声が耳に届く。
全ての行動が止まり、少しでも快楽から逃れようと閉じていた瞳を開くと、憂いを帯びた顔が目の前にあった。

「本当に嫌ならこんな風にはならないでしょう?」

「はぁ…んっ!」

ショーツ越しでもわかるほどぷっくりと膨らんだ蕾を撫で上げられ、甘い吐息が漏れる。

「気持ち良いんですよね?だからそんな声が出るんでしょう?だから濡れたんでしょう?」

くちゅり、と卑猥な音を立てて、ショーツの間から指が秘部へ3本入り込み、ナカを掻き回す。

「はぁぁ…っ!ひぅん…んっ…!」

「フレイヤ」

名前を呼ばれ、頬に温かい手が触れた。
心地よくてうっとりしていると、また深く唇が重ねられた。
続く下への愛撫に声を上げようとするも、くぐもった声になって満足に喘ぐことができない。

「フレイヤ」

唇が離れてまた名前を呼ばれる。今度は指が抜かれ、その際に吐息が溢れた。

523:513
08/06/09 23:54:30 YESvdlXZ
翡翠色の双眸と見つめ合っていると、少し前の様に妖しくニヤリと笑って耳に口を寄せた。

「貴女は…僕のことが好きなんでしょう?」

ビクリと体が揺れた。
身体は火照ったままなのに寒気を感じた。

鎖が解かれ優しく抱き上げられる。

直ぐに答えようとフレイヤは思ったが、自分の使命がそれを止めた。
彼は一族の存続ために殺さなくてはならない人間。
だから恋愛感情は持ってもそれを通わせてはいけないのだ。

…でも、クロスの哀しそうな瞳と目が合った途端、その心は霞んで消え失せた。

「…好きよ…」

「…僕もですよ、フレイヤ」

嬉しそうに笑うクロスを見て、フレイヤも釣られて微笑んだ。
同時に、胸がちくりと痛む。

自分は愚かだと心の中で自嘲する。
この先、この行為が終わった後に殺すというのに。
この笑顔を…壊さなくてはいけないのに。

「どうしました?」

「ううん、何でもない」

首を振りながら答えると、強く抱き締められた。

不思議に思って少し離して顔を覗くと少し顔を赤く染めて照れているようで。

524:513
08/06/09 23:56:39 YESvdlXZ
「すみませんフレイヤ。僕もう我慢の限界なんです。……いいですか?」

お腹の辺りに何か固い物が当たっているのを感じて、顔に血が上るのがわかった。

ゆっくり頷くと、また…でも今度は優しくベッドに押し倒される。
「勿体無いですが擦れて痛いでしょうから翼、仕舞って下さい」

言われた通りに仕舞いあぐねていた翼を仕舞うと、そっと啄むような口付けをされた。
さほど意味を成してないショーツが剥ぎ取られ、恥ずかしくも濡れそぼった秘部に熱い物が宛がわれた。

「いきますよ…」

「ん…っ!!」

指とは違う質量の侵入に息が詰まる。
そしてクロスも予想以上の締め付けに小さく呻きを漏らした。

「フレイヤ…もしかして、初めて…ですか?」

火照って赤くなった顔を更に赤く染めて頷く。

「そうだったんですか…では」

輝かんばかりにニコリと笑った後、いきなり蕾を擦り上げた。

「んぁぁぁあ…っ!!」

予期せぬ快感に身を捩りながら喘ぎ、締め付ける力が抜ける。
その隙をついて、一気に貫いた。

何かが破れる音がして、一瞬遅れて鈍い痛みが襲ってきた。
シーツを握り締めて痛みに耐えていると、そっと手が重ねられた。

「痛かった…ですよね?」

「ん…っへい…き……」

強がって答えたものの顔に出ているのだろうか、動き出しはしない。
実際破瓜の痛みは相当なもので、簡単には消えそうにもない。

汗で額に張り付いた髪が剥がされ、額に口付けが落ちる。
また見つめ合って、どちらともなく唇を重ねた。

525:513
08/06/09 23:59:08 YESvdlXZ
「…ほんとに…もう動いて…大丈夫だよ」

暫くそうして過ごし、大分痛みが消えてからそう告げた。

クロスは優しく笑って頷き、ゆるゆると動き始めた。
最初は痛みばかり覚えたものの、時が経つにつれ、それは快楽へと変わっていった。

「ぁ…っくぅ…っ!も…と…マス…タ…っ!」

罪に溺れぬよう、快楽に…欲に負けぬよう、わざと名前を呼ばない。
今更無駄なのかもしれないけれど、そうすることで自身に釘を打った。

そうでもしないと、離れられなくなりそうだったから。

「く……っ…!!…僕はクロス…です!」

「んぁ…ゃっ!!そん…激し…っ!!」

呼び方に反応して、クロスの律動が急に早くなった。
勿論そんな事をしても、名前を呼ぶつもりはない。

二人分の荒い呼吸、肌と肌がぶつかる音、互いの奏でる淫らな水音、抑えることのできない喘ぎ声。

静かな部屋にそれが響く。
隣の宿泊客に聞こえるんじゃないかと心配になって、快楽の波に掻き消される。

「ひゃぁ…っぅ…も…ダメ…っ!イっちゃう…っっ!!」

「んっくぅ…っ!!…いいですよ…っ…イって下さ…!」

元々早かった律動が速度を増し、更に奥へと入り込む。そうして絶頂へと駆け上っていく。

「は…っぁぁぁぁぁあん!!!!」

「…っ…フレイ…ヤ…っ!!」

絶頂を迎えたフレイヤはそのままベッドへ沈み、クロスも強い締め付けに殆ど同時に達し、その身体を横に倒した。

「愛してますよ…フレイヤ」

その言葉を残し、彼は気だるさからくる睡魔に負け瞳を閉じた。

526:513
08/06/10 00:00:03 YESvdlXZ
「……ごめんなさい、元マスター…」

今度こそクロスが完全に寝入っていることを確認して、フレイヤは囁いた。

「やっぱり、貴方の気持ちに応えるわけにはいかない」

重たい上半身を無理矢理起こして、隣にある若葉色の髪を撫でた。
この時ばかりは自分がスタミナの多い戦闘種族で良かったと思う。

「今、どんな方々でも貴方を殺せる」

それをせず立ち上がって、窓辺に落ちていたバッグから替えの服を取り出して着替える。

「今なら、ナイフか銃で貴方の心臓を確実に当てられる」

バッグを手に持ち、消していた紅い翼を広げて夜空へ飛び出し、振り向いた。

「ここからなら、ライフルで貴方の心臓を撃ち抜ける」

バッグの中からライフルを取り出し、それに照準を合わせる。

「さようなら……クロス。私がたった一人愛した人…」

ライフルの引金を引いた。
弾は見事に命中した。
明日になればきっと誰かが気付くだろう。

フレイヤの眼からは涙がこぼれ落ち、月光に輝いていた。

527:513
08/06/10 00:04:22 ThSUN6Px
時が経ち、季節は巡って再び同じ季節。

青々と木々が生い茂る森の中で、娘が一人、岩の上に座っていた。

娘の地面に付きそうなほど長い髪は紅く、月光に照らされて神秘的に輝いている。

大空を切り取ったような空色の瞳は、夜空にかかった星屑の川に向けられていた。

「もう…一年も経ったのね」

口元に笑みを浮かばせて、片手を空へ伸ばす。

「星を取りたいだなんて子供みたいなこと考えてるんですか?」

「……」

突然現れた青年に驚くこともせず、伸ばした手をそっと下ろした。

「起きたらいきなり感謝されてびっくりしましたよ。“就職中に開いてる窓から入り込んで荒らしてくる魔物を倒してくださった”…と」

「……」

「貴女でしょう?アレを撃ったのは」

「……何故…私だと?」

「近くに綺麗な紅い羽根が落ちていたので」

「それだけ?」

「貴女しかこんな綺麗な羽根を持つ人はいませんから」

青年は娘に近付くと、その手をとった。
娘は青年の方を向く。

「僕と契約を結んでくれませんか?僕が年老いて寿命が尽きるその時まで」

青年の強欲な申し出に驚いたような顔をした後、娘は嬉しそうに笑って告げた。


「はい…。マスター」




fin

528:513
08/06/10 00:08:41 ThSUN6Px
エロ薄くてごめん、つか下手でスマン。

初めてだから仕方ないと思ってやって下さい!

じゃあ腐った生卵投げ付けられる前に退散しますよ。

神の降臨を陰から願ってます。

529:名無しさん@ピンキー
08/06/10 01:27:12 FtY9SQhI
GJ!
無事再会して良かったよ(*´д`)

つ ゆで卵
これで栄養つけてまた投下してくれ


530:名無しさん@ピンキー
08/06/10 03:02:48 82AAE1VI
513いいぞ!もっとやれ

531:513
08/06/10 06:57:32 ThSUN6Px
スマソ、訂正部分発見。
>>527の“就職中に~”っていう台詞は就職中じゃなくて就寝中だったよ…。
orz


532:名無しさん@ピンキー
08/06/10 10:17:28 FGG/MGWq
方法 が 方々 になってるっぽいところもあったよw

何はともあれ乙でした。

533:名無しさん@ピンキー
08/06/10 23:59:42 0wvGwqcJ
いや~表現オシャレだったよ~GJ!

ただ「就職中に開いてる窓から入り込んで荒らしてくる魔物」って誰のことだったの?フレイヤじゃないよね?

534:名無しさん@ピンキー
08/06/11 06:38:07 HFfvXZPG
フレイヤの監視とエスパー

535:名無しさん@ピンキー
08/06/12 08:07:31 uOe8Dfbi
GJ!
軽く読めたのにエロくて良かった。

つ 新鮮卵かけご飯

536:名無しさん@ピンキー
08/06/14 20:03:37 +0SyWFd4
保守

537:513
08/06/14 21:08:43 afcqWsKB
おお、皆さん自分なんかに感想下さってありがとうございます。

>>532
〇.....TZ
確かに方々じゃなくて方法だな…。
気が付かなかった…。

>>533-534
それはただの魔物のつもり。
フレイヤ達の種族はひっそりこっそり暮らしてます。


ところでここって非エロ駄目だよね?

538:名無しさん@ピンキー
08/06/14 21:16:40 2GIWK6Nx
え?と思って、
確かにスレタイは「エロ小説」だな、と思って、
>>1
> エロなしSSでも主従萌えできるなら全然おけ。
という事のようだ。

539:513
08/06/14 21:43:15 afcqWsKB
>>538
㌧。
エロ話の前後どっちか書きたいと思ってたんだ。
書けたらまた来やす。

540:名無しさん@ピンキー
08/06/18 19:37:10 uTfRxlN/
期待age

541:名無しさん@ピンキー
08/06/24 18:11:12 ntY08BLF
金持ち優秀生徒会長と貧乏お馬鹿元スケ番で主従っぽいのを
書こうかと思っているんだが、
これはこのスレで合ってるかな


542:名無しさん@ピンキー
08/06/24 18:24:37 +0HTXt4U
>>541
男主人で女従者ならここ

543:541
08/06/25 03:21:46 w2+LMDz4
保守を兼ねて投下します。
あんまり設定がしっかりしているわけではないんですが、
↓のあらすじを前提にして読んで下さい。
あとエロくありません。
すみません。

【あらすじ】
元スケ番の水上優子は風紀委員会にはめられて退学になりそうになった所を、
成績優秀容姿端麗運動神経抜群の財閥御曹司で生徒会長というマンガスペックの同級生、
高野道隆に助けられて、その人物像の中に勘違いから男気を見出し、舎弟になると誓う。
舎弟になった暁には高野のためならいざ鎌倉と馳せ参じる覚悟であるといい、
生徒会の役員にも立候補したりと、水上は高野に懐いて付きまとうが、
いつも問題を起こしてばかりなので高野は絶えずイライラを募らせている。



544:痛いでしょう1
08/06/25 03:24:38 w2+LMDz4
午後の授業に見なかったその顔を放課後の生徒会室に見つけて高野道隆は軽く肩をすくめた。
明らかに不審な挙動でこちらのの様子を伺いながら部屋の隅から高野を見ている。
それでいて近寄ってくるわけではない。
ばれたくないのならわざわざこの部屋に来なければいいのに、
水上優子はそれでも毎日ここにやってくるのだ。
頭が悪いことこの上無い。
高野は思い切りいい笑顔をつくるとやんわりと水上に話しかけた。
「水上さん」
「は、はい!」
びくりと水上はあからさまなまでにうろたえた。本当に、不可解な女だ。
「顔、誰にやられたんですか?」
「あ、はい、ちょっとその…誰にやられたのかよくわかりません!それに多分ちゃんと三倍で返したし…」
「そういう問題じゃない。あんた午後どこ行ってきたんですか」
「ちょっとその、野暮用で…」
「授業をさぼってまでやらなければならない野暮用とは?」
「えーと」
真っ青な顔で必死に言葉を探す水上。この高野道隆を論破できるなどとよもや考えていないだろうが、それにしても幼稚だ。
高野はじりじりと水上に詰め寄る。水上は壁際で逃れようがない。
「立場ってものをわきまえて貰わないと困りますよ。あんたこの生徒会の書記でしょう」
「はいっ!すみませんでしたぁ!」
びくりと肩を震わせて背筋を伸ばし謝る姿にはため息もこぼれようというもの。
大体このやり取り、最近週に一度はやっている。
「反省だけなら猿だってできますよ!このっ……ゴリラ女」
「すみません、ほんっとーにすみません!もうしません!」
「何度目だ、そのセリフ。もう呆れてかける言葉もない」
「すみません、本当に本当にすみません。今度こそ、絶対に今度こそ二度としません!」
「俺は信じて裏切られるのは、嫌いなんですよ。いいかげん解任…」
「ごめんなさい!本当にごめんなさいぃ!」
ああ畜生まただ。
水上優子はぶん殴られて赤く腫れたぶっさいくな顔をぐしゃぐしゃにして、ほぼ八割方泣いている。
「……あのねぇ……ちょっと……あーもう。あんたみっともないでしょう」
使い物にならなくなりそうでもったいないが、目の前でぐずぐす泣かれているのも嫌なものだ。
高野はハンカチを水上に差し出した。
「生徒会に居たいんでしょう?」
「……はぃ。ぐすっ」
「なら我慢くらいしなさいって」
「うっ……うぇえ」
「今度は何です?果たし合い挑まれたんですか?後輩の尻拭いですか?」
「だ、だって……」


545:痛いでしょう2
08/06/25 03:26:42 w2+LMDz4
「だってなんです?」
聞き返すと黙り込んでしまう。もういい加減彼女の行動のパターンというものを把握出来始めている。
こういう時は大抵―
「我が校の生徒会長にどんな用事であれ、用事のある方々であれば、きちんと私に取り次いで頂かなくては俺が困るんですが」
「ち、ちがっ」
顔面蒼白だ。馬鹿のくせにこういうことばかり気にして事態を複雑にする。
「違わないでしょうが。その様子からして派手にやったようですね。どうせすぐにわかることです。喋って楽になりなさい楽に」
「違うったら!ちょっと喧嘩売られて……それで」
「私事ですか、仕方ない。それではあなた解任し…」
「…っ!」
こうしていじめ続けるのが楽しくないわけではないあたり、
高野自身も自分の性格が悪いと思うが、差し当たって今回は彼女が悪い。
完全に彼女が悪い。悪いのだが、
「……見事に、腫れましたね。医務室には行きましたか?」
水上の顎に手をやって無理矢理上を向かせると、そのブサイク極まりない顔がよく見える。
ただでさえ殴られた左頬が腫れ上がり醜いのに、べそべそ泣くものだから見られたものではない。
「酷い顔だ。自覚はありますか?」
「これくらい、平気です」
「平気ってねえ、あんた」
「高野さんをお助けするためならこんなの蚊に刺された程度のもんです!」
正真正銘の馬鹿めっ!
言ってしまってからこの馬鹿、気がついたらしい。
水上優子は突然慌てて前言を撤回しようとした。
「や、これは例えばの話でしてね、あの、高野さん!?」
「……これ以上自分の墓穴を掘ってるんじゃないですよ。俺はあんたの馬鹿さ加減には呆れるの通り越して泣きそうです」
事実、頭痛がしてきた。
「水上優子、あんた。土下座してまでやりたいって言うから生徒会に置いてやれば失敗ばかりだし、書記の癖に漢字は間違えるし、何かといえば乱闘騒ぎ、わかってますよね?俺が怒る理由は」
「お怒りは……ごもっともです」
「この上俺の面子まで潰されちゃたまったものではない。……俺があんたの汚い面を盾にしているなんて、冗談でも言われたくないんですよ」
「はい……ごめんなさい」
相手が萎縮すればするほどフラストレーションがたまる。
別に高野は三歩歩けば何でも忘れる水上に反省など期待しない。
だがイライラする。すみません、もうやりませんと言いながら、また同じ問題が起きたら同じ行動をするだろう水上が憎たらしい。


546:痛いでしょう3
08/06/25 03:28:55 w2+LMDz4
殴られて顔を腫らすくらいで済んでいるうちはまだいい方だろう。
それ以上の何かがあっても、水上は高野のために突っ込んでいくのだろうから。
馬鹿は死んでも治るまいから、治そうなどとは思わないが、ちょっと調教してやらないことには高野の精神が安まらない。
「他に怪我はありませんか?」
「え、それはこれといって…えっ!?」
水上の制服のネクタイをグッと引っ張る。そのまま壁に体を押し付けてボタンを外す。
「高野さっ…何を!」
「黙ってろ。あんた嘘をつきますからね。実際見てみなきゃわかりやしない」
「嘘って…」
シャツの裾をスカートから引っ張り出しキャミソールごとまくりあげる。
案の定白い水上の横腹には青黒い大きな痣があった。
指先でなで上げるとひゃんとかなんとか、間抜けな声があがる。
「嘘つきが。蹴られましたね」
「だって……平気……うっ!」
グイッと痣を押すと呻き声があがる。
「痛いですか?」
返事はない。
「痛いんじゃないですか?さあはっきり言え」
「痛いです、痛いっ!」
「よく言えましたって誉めてあげましょう、とりあえずは」
笑いながら水上の首筋に顔を寄せる。汗臭い。そしてその首を舐める。
「きゃっ…やっいやっ」
「静かにしなさい、いちいちうるさい」
首筋を舐めながら徐々に下方に移動する。水上が高野を押しのけようと肩を掴んでいる手に力がこもってゆく。
(このまま最後までしてしまおうか)
そんな考えが頭をかすめた。しかし、
「……ひっ……ふっくっ……ぅうっ……ぐすっ」
「………」
急にどうにもやる気がなくなって、いつの間にか床に落ちていたハンカチを拾い上げると、高野はそれでしゃっくりあげる水上の顔を拭いた。
「高野さん……もうしないから、だからごめんなさい」
「子どもじゃないんですからもう少しマシな謝り方したらどうですか」
「…ずっと………考えてるんだけど、私やっぱり、馬鹿、なんでしょうか……」
「今更何言ってるんですか。あんた馬鹿意外の何者でもないでしょう。学習能力も思考能力もない見事な低脳、役立たず」
「はぁ……」
「別に無理にあんたに頼ろうなんて俺は全く考えてないし、あんたにやってもらえることもない。
俺を気に入らないやつらの処理対応だってあんたの力付くに任せるくらいなら俺がやった方がうまくいく。
あんたになんにも頼んでない。でしょう?水上さん」
水上は黙ってうなずいた。
「もう止めてください。こういうこと」


547:痛いでしょう4
08/06/25 03:32:28 w2+LMDz4
もう一度うなずいた。
「それから人と話しているときに泣くのはよしなさい。……不愉快です」
再びうなずいた。
わかればいいのだ。彼女が理解して行動に示してくれればそれでいい。
それでいいはずなのに、高野のイライラはまだ収まらない。
うなだれる水上を見ていると異常な加虐心がかまくびをもたげる。

水上は馬鹿だ。
救いようがない馬鹿だ。
かつて高野が水上を助けたのはことの成り行きとちょっとの気まぐれが理由に過ぎない。
しかし彼女はそれに異常な恩義を感じて道隆に心酔している。
ずっと欺かれていたと知ったら、どうするのだろう。
それを知った時に高野が全てを奪っていたとしたら、この大馬鹿はどうするのだろう。
殴られて鼻血を吹き出しても泣かないが、高野の一言でボロボロに泣き崩れる水上が。

(これはやはり、)
(どう考えてみても)

高野は水上を愛してしまっているようだ。

(困った)

あんな馬鹿を相手にしていたら、高野はおかしくなってしまう。その結論だけは断固抗議をしたい。
だがしかし、
そう考えないことには高野の苛立ちの奥にある小さな痛みに説明をつけられないのであった。

fin

ありがとうございました。

548:541
08/06/25 04:24:10 w2+LMDz4
高野の一人称など間違いがいくつかあります。
あと日本語として妙な所もあとから見るとありました。
すみません精進します。
エロは書いてるうちにまだムリかなと思ってしまったので今回はフェードアウトしました。
その代わり少しSMっぽい描写でお茶をにごしていますが、いずれ書けたらちゃんとエロも書きたいです。
携帯からですのでお見苦しいところなどあると思いますが
目を通して頂ければ幸いです。
重ね重ねありがとうございました。

549:名無しさん@ピンキー
08/06/26 17:24:36 4rul/7sa
も え た !

550:名無しさん@ピンキー
08/06/26 17:49:32 KESUQ5Cg
も え な い

551:名無しさん@ピンキー
08/06/27 18:25:57 hnky+7fh
このスレ埋まったら次スレから女主と統合するんだよね。スレタイとかどうするんだろう?



保守がてらに一本。
メイド×ご主人様。あくまで軽くだけど逆レイプ要素あり。
ラノベっぽく軽く読める感じを目指してみた。

552:ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 1/5
08/06/27 18:27:21 hnky+7fh
「―またか」
 秀麗な眉を寄せて天井を見据えながら聡子は吐き捨てるように呟いた、と同時にロングスカートを翻して唐突に走り出していく。


「ご主人!」
 スパンと勢いよく襖を開き、聡子は仁王立ちして室内の主を睨みつける。
 先ほどまで何を行っていたかは一目瞭然。シャツの裾を引っ張って露わな下半身を隠しながら、誠一は驚愕と困惑と羞恥を足して三で割って二掛けした表情を聡子へ向けた。
「学生の本分は勉学だ。ご主人が学生である限り学ぶことからは逃れられず、またその苦しくも実りある学業という行為に喜びを見いださねばならん。かくあるべしと先代も申している。理解しておらぬわけではあるまい、ご主人」
 嘆かわしいといった体の聡子に素直に謝ればいいのか怒って追い出せばいいのかわからずに誠一は曖昧な返事を返す。
 とりあえずズボンを履かせてくれ、頼むから。心中で頼み込みながら脱ぎ捨てたズボンに手を出そうとした途端、聡子から再び檄が飛ぶ。
「それを貴様は何だ。一昨日も昨日も今日も自慰に耽り、勉学を疎かにしている」
 何で知ってるんだろうかと自らの赤裸々な下半身事情に羞恥で顔を赤くする誠一を見下ろし、聡子は目を細めた。
「貴様は盛りのついた雄……犬? いや、猫? まあ、とにかく! 畜生にも劣る行い、我が主として実に嘆かわしい。先代とて草場の陰で泣いておろう」
「聡子さん、親父死んでないから。っていうか、十六歳男児として健全な行為だと思うんだけど」
「先代の御前にて、ご主人が当主として真っ当な道を歩むよう誠心誠意お仕えすると私が誓ったことをお忘れか? 貴様の邪なる欲望が勉学の妨げとなるならば、この聡子が誠心誠意ご奉仕するのみ」
「いや、なにそれ、俺が当主になることと関係なくない?」
「案ずるな、ご主人。この聡子、ご奉仕のためなら手段は選ばん」
「聡子さん、ちょっと意味わかんないんですけど! それは最早奉仕じゃな――え、ちょっと、やめっ! うわぁぁぁぁぁぁっ!!」





553:ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 2/5
08/06/27 18:28:02 hnky+7fh
 戒められた手首はいくらもがこうと緩みもしない。暫く抵抗を試みたが聡子にかなうはずもなく、誠一はがっくりと頭を垂れた。
「……何かすごく間違ってる気がする。主従の力関係って普通逆じゃね? メイドに夜のご奉仕を強要するのがご主人様であって、メイドにご奉仕を強要されるご主人様っておかしくない? 絶対おかしい。俺はこんなこと断固として認めん」
 ブラウスのボタンを外し、聡子は自らの豊満な乳房を露わにする。
「往生際が悪いぞ、ご主人。さっきからぶつぶつと何を言っているのだ」
 聡子を見れば白く張りのある肌と淡い色をした突起が嫌でも目に入り、誠一はなるべくそちらを見ないように苦心しながらも素直な反応を示してしまう愚息に呪いの言葉を吐いた。
「う、あっ……っ、く……」
 傍らに座り込んだ聡子の指先が太股に触れる。そのまま触れるか触れないかの絶妙な加減で聡子は誠一の太股を撫でた。
「諦めて私のご奉仕を受けるがいい。貴様が二度と自慰などという愚かな行為に走らぬよう教育してやる」
 誠一はぐっと歯を噛みしめた。奉仕を受けることから最早逃れられぬと悟ったからこそ、誠一は戦うことに決めた。それならばせめて、聡子の奉仕よりも自慰の方がいいのだと思わせて聡子をやりこめてやるのみ。勝率は限りなく低いが負けるわけにはいかない。
「こんなに堅くして、どうやら貴様には羞恥心がないものとみえる。戒められて従僕にいいようにされることがそんなによいか」
「違っ……うあッ」
「ふふ、貴様の性癖なぞとうに把握済みだ。貴様のことで私の知らぬことなどないのだよ、ご主人」
 白魚のごとき聡子の手が誠一の猛った陰茎を握りしめた。痛みはない。快感だけを呼び覚ます程よい力加減で陰茎に指を絡め、聡子は手を上下に動かす。
 既に先端からは滴るほどに先走りが零れ、それを潤滑油代わりにして聡子は滑らかな動きで誠一に快楽を与えた。
「気持ちがいいか、ご主人。貴様の汚れた欲望がここにたっぷりと溜まっているようだな。思うさま出し尽くすがいい」
 空いた手で聡子は陰嚢に触れる。やわやわと優しく揉みほぐされ、誠一はぎゅっと目を閉じて快感を堪える。
 この世に生を受けて十六年、性的な意味合いを込めて他人に触れられたのは初めてのこと。誠一より幾らか年上とはいえ美しい盛りの女性に愚息を撫で回されてはたまらない。


554:ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 3/5
08/06/27 18:28:52 hnky+7fh
 男の手とは違う繊細で柔らかな感触が目を閉じたおかげでより鮮明に感じ取れ、誠一は先ほどの決意が嘘であったかのように呆気なく吐精した。
「……早いな」
 勢いよく飛んだ精液ははたはたと誠一の露わな腹部に落ちた。
 さも愉しげに口角を上げる聡子を誠一は羞恥心いっぱいに見上げた。早いなどと言われてはそれがいくら事実であったとしてもプライドが傷つく。
「もういいだろ。離せよ」
 常よりも荒っぽい口をきいてしまったのは仕方のないことであっただろう。
「まさか。自慰など馬鹿らしいと思うほどの快楽を体に叩き込むと言っただろう」
 聡子は立ち上がり、スカートを脱ぎ捨てた。
「え……?」
 白いレース付きの下着を脱ぎ捨て、誠一の腰を挟んで膝を突く。
「ちょっと、待って! 聡子さん、それはさすがに」
 慌てて腰を振って逃げようとするが膝で挟まれて身動きがとれない。しかも、聡子の半裸姿を目の当たりにしたおかげで愚息は既に臨戦態勢に入っている。
 聡子の手が陰茎に添えられ、ゆっくりと腰が落ちる。滑った場所に先端が押しつけられ、すぐにそこへ潜り込む。
「ほんとにダメだって!」
 半分泣きながら懇願すると聡子はぴたりと動きを止めた。
「何か問題でも?」
「俺、その……は、初めて、だから、その」
 恥じらいながらも意を決して告げた次の瞬間、聡子が一気に腰を落とした。
 とんでもなく気持ち良くてものすごく滑って狭い場所に迎え入れられる感覚は想像以上に誠一に快楽を与えた。ともすれば一瞬で果ててしまいそうだ。
「さ、聡子、さん……」
「初めてだと? そんなことは百も承知だ。古来より若君に性の目覚めを促すのは従僕の役目と決まっている。問題などない」
 きっぱりと言い切られ、誠一は脱力した。聡子の思考回路はやはり誠一には理解できない。
 しかし、聡子の中は気持ちよかった。もうどうなってもいいと思えるほどに。
「動くぞ、ご主人。遠慮なく喘ぐがいい」
 それが女の台詞かとつっこみたい気持ちはあれど、現実に誠一ができたことは女のように喘ぐことだけだった。
 聡子が腰を揺する度に全身が震えるほどの快楽が走る。たゆんたゆんと揺れる豊満な乳房や赤らんだ聡子の顔、結合部から響いてくるいやらしく粘着質な音。何もかもが未経験だった誠一を刺激する。
「さとこ、さ……手、といて」
「ん、だめ、だ……ッ」


555:ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 4/5
08/06/27 18:29:47 hnky+7fh
 あくまで誠一へのご奉仕というスタンスを貫き通すためか、聡子は何かを堪えるように眉根を寄せていた。自身が楽しまぬよう自制しているのかもしれない。
「胸、さわりたい」
 聡子はしばし無言で誠一を見下ろし、やがて動きを止めた。
 身を屈めて誠一の頭上へ手を回し、手首の戒めをといた。
「いいだろう。存分に味わうがいい」
 そうして、聡子は再び動き出した。
 誠一は揺れる乳房に手を添え、初めての感触を堪能する。聡子の乳房は柔らかく、揉んでいるととても気持ちがいい。
「っ……ん、くっ……ご主人」
 堅くなった突起を指で弄りだすと聡子が小さく声を漏らした。その艶めいた響きに誘われるように、聡子の腰に片手を添えながら誠一は強く腰を突き上げた。
「あッ……んんっ」
 ぎゅうっと中が締まり、誠一に吐精を促してくる。
「聡子さんっ! 俺、もう……」
 遠慮会釈なくがむしゃらに聡子を突きながら、誠一は悲鳴に近い声で訴える。
「かまわない。出せ。私の、中に……ああっ、ご主人……出してッ」
 腰を引き寄せるようにして一際強く聡子の中に潜り込んだ瞬間、誠一は二度目とは思えないほどに勢いよく射精した。全身が強張り、徐々に力が抜けていく。
「どうだ、ご主人」
 表面上はいつもと変わらぬ尊大な態度ながらも、聡子の頬は赤らみ呼吸も少し荒い。
「気持ち、よかったよ。自分でするよりも」
 素直に告げれば、聡子は喜色満面な微笑を浮かべた。年よりも幼く見える屈託のない笑顔を向けられ、誠一の胸が一つ大きく鐘を打つ。
「そうか。さすがは我が主。必ずや聡子の言い分を理解してくれると思っ―うあっ!」
 突如として聡子は前のめりに倒れ、後頭部をさすりながら体を起こした。
「聡子! あ、あなたという人は……! 騒がしいと思って来てみれば、私の若様になんということを」
 聡子の頭越しに一人のメイドの姿が見える。
「しかも……な、中出しだなんて、そんな、破廉恥なっ」
 真っ赤な顔でわなわなと震える明葉は崩れるようにうずくまり、ぽかぽかと聡子の背をグーで殴る。
「ご主人が一人遊びのし過ぎで馬鹿にならんよう躾ただけのことだ」
「若様だって、お年頃なんだからそのくらいいいじゃない」
「毎晩自慰に耽って勉学を疎かにしては問題だ」
「だからって、若様にこんな、こんな……っ」


556:ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 5/5
08/06/27 18:30:55 hnky+7fh
 自分そっちのけで自分についての討論を交わされるというのはものすごくいたたまれない。いたたまれないが、聡子が退いてくれないと席を外すことすらかなわない。
「あの、聡子さん、そろそろ抜いてほしいなあなんて」
 おそるおそる声をかけた誠一へ二人のメイドの視線が向けられる。
「なんだ。まだ抜き足りんのか。若いな、ご主人」
「違っ、そういう意味じゃなくて」
「聡子なんかに若様を好きにさせません。若様、ご奉仕ならば私が、誠心誠意を込めて若様に尽くさせていただきます! 聡子なんかより私の方がずっと若様を大事に思っていますからっ」
「男も知らない明葉がご主人を満足させられるわけがないだろう。せめてツーサイズは上げてから言え、貧乳め」
「む、胸が大きければいいというわけじゃないもの! 私には若様への愛があります」
 やいのやいのと再び始まった討論に口を挟む気力がもてず、誠一はぐったりと力無く布団にすべてを預けた。
「……さよなら、俺の童貞」
 ご主人様としての威厳ってどうしたら身に付くんだろう。制御不能なメイド二人を押しつけられた日から幾度となく感じた疑問を誰にともなく投げかけながら誠一は諦めに満ちた吐息を零した。


おわり



保管庫には保存しないで下さい。

557:名無しさん@ピンキー
08/06/28 02:51:41 VxAKkPzb


558:名無しさん@ピンキー
08/06/28 08:41:54 NLPOd6nv
いいよ~GJ!
聡子さんツンデレっぽくて好きだなあ

559:名無しさん@ピンキー
08/06/28 17:10:14 nhmbzcBs
口調からメイドガイしか思い浮かばん・・・orz

560:名無しさん@ピンキー
08/06/28 23:06:27 l+mhu5DB
メイドガイってなに?

561:名無しさん@ピンキー
08/06/28 23:29:56 u919r9GY
筋肉ムキムキのおっさんがメイドというギャグ漫画
今ならアニメでもやってるはず。

562:名無しさん@ピンキー
08/06/29 00:48:03 yh6N987J
>>559
お前のせいでコガラシにしか思えなくなった

563:名無しさん@ピンキー
08/06/29 02:19:39 rm7TdlYE
新規住人呼び込みのためにage

564:名無しさん@ピンキー
08/06/29 20:31:39 pwfGxglj
>>539の小説を期待してるのは俺だけだろうか。

565:名無しさん@ピンキー
08/06/29 21:13:55 UNu83NLe
>>564
俺もだぜブラザー

566:名無しさん@ピンキー
08/07/01 23:39:02 Nx2JWm1c
こんばんは、毎度お馴染み>>513です。
小説書けたのでまたもややってきました。

ただ前に言ったように非エロです。
興味ない方はスルーお願いします。
そして携帯からですのでそこもスルーな方向で。


因みに時系列はエロ話の前です。

567:名無しさん@ピンキー
08/07/01 23:40:11 Nx2JWm1c
青々と木々が生い茂る森の中で、娘が一人、岩の上に座っていた。

彼女の足首まである長い髪は紅く、月光に照らされて神秘的に輝き、大空を切り取ったような空色の瞳は夜空にかかった星屑の川に向けられていた。

彼女は空に手が届くのではないかという錯覚に囚われて手を伸ばす。
でもやっぱり手は届かなくて。

「星を取りたいだなんて子供みたいなこと考えてるんですか?」

近付いてきた青年の第一声はそれだった。

「……」

無視して伸ばした手を下ろすと、突然青年がその手をとった。
今まで触れてくる者などいなくて、驚いて彼女が青年を見るとにっこりと笑っていた。

「僕と契約を結んでくれませんか?」

ふたつめに紡がれた言葉。
笑っているけれど、本気の笑顔には見えない。正直言って怪しい。
契約なんて結ばない方がいいのかもしれない。
けれど、彼女の返事は決まっていた。

「はい、マスター…」

例えどんな人でも、最後には殺すのだから。

568:名無しさん@ピンキー
08/07/01 23:41:02 Nx2JWm1c
――――…………



雨が降り出した。
次第に強くなっていき、水滴が視界を奪う。

「困りましたね…次の街はまだ遠いですよ」

「急ぎたいところですが…」

紅い髪の娘―フレイヤは魔物に警戒しつつ、三ヶ月前に主となった青年―クロスの隣を歩いていた。
暫く歩いていると、雨に霞んではいるが魔物らしきものが遠方に見え、立ち止まる。

「…マスター、止まって下さい」

腰に提げていた拳銃を抜いて、かろうじて確認できる魔物へと銃口を向け、そのまま引金を引く。
銃弾は魔物の足元に当たり泥を跳ね上げ、 銃声と銃弾に驚いたのか魔物は何処かに消えていった。

「……」

おかしい。
気配が消えてから銃を脇に差し直し、小さくフレイヤが呟いた。
その声は雨音に掻き消され、クロスには聞こえない。

おかしい。
いくら威嚇射撃だとしても、先ほど見えた魔物は大きく、簡単には恐れなど抱かないはずだ。
よほど怖がりなのか、それとも何か他に理由があるのか。

「……」

「どうしました?フレイヤ」

気付けばクロスが顔を覗き込んでいて、慌てて何でもありませんと言いながら首を振り、少し距離を取る。


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