男主人・女従者の主従エロ小説 第二章at EROPARO
男主人・女従者の主従エロ小説 第二章 - 暇つぶし2ch353:名無しさん@ピンキー
08/01/20 19:05:20 uauyzmDJ
男・王子
女・部下の女騎士
でSMありのやつを書きたいんだけど携帯からでいつ書き終わるかわからないので
もう少し案を練ってから登校します。

354:名無しさん@ピンキー
08/01/24 01:39:54 sqo9pfBA
春休みになる前に登校してくれると嬉しいな
スカは苦手だがSMは好きなんでwktkして待ってるよ


355:名無しさん@ピンキー
08/01/25 18:28:52 bXuWGW1m
保管庫から削除してもらえるってユリシスの人が前にブログかいてたけど消えてないように見えるのは俺だけ?
ユリシスの人に削除されてないって教えてやるべき?

356:名無しさん@ピンキー
08/01/25 18:48:51 1Z41W2sm
ほっとけば?

357:名無しさん@ピンキー
08/01/25 22:08:11 kEvu4fum
好きにすりゃいいだろ、そんなの

358:名無しさん@ピンキー
08/01/26 00:17:52 6ECFn8go
>>355
お前みたいなのがいるから職人さん達いなくなったんだと思うんだ。自重しろ。



姉妹スレにも書いたんだけどこっちにも書く。

ここも姉妹スレも過疎ってきてることだし合併してはどうだろう?

359:名無しさん@ピンキー
08/01/26 00:45:55 /tvJ0PPR
>>358
姉妹スレとじゃスレの趣旨が違いすぎないか?

360:名無しさん@ピンキー
08/01/26 01:45:31 q3hHgeZp
>>359
主従スレのことだろ
一緒でいいんでないか

361:名無しさん@ピンキー
08/01/26 19:31:03 xvfDLL0T
合併賛成。だけどタイミングが…。
実はあっちの新スレ立てるときに提案しようと思ってたんだけどいつの間にか立っていたorz
まだ17レスだから、「今から統合です」で間に合うかだけが心配。

362:名無しさん@ピンキー
08/01/31 12:12:04 bKsSLQIB
むこうで次スレからって話が出てるみたいだし、
ここが埋まってから引っ越すのでおk?

363:名無しさん@ピンキー
08/02/04 22:36:33 iKhNGaTw
一応保守


364:名無しさん@ピンキー
08/02/04 23:06:51 151436rC
それでいいと思う。今はどっちのスレも容量あまってるから。

365:名無しさん@ピンキー
08/02/06 13:05:33 jnFUf0GY
保守

366:名無しさん@ピンキー
08/02/08 15:45:13 7uCJ4tfi
俺もそれで良いかな。

ところでここは社長×秘書とか、現代物もいけるのか?

367:名無しさん@ピンキー
08/02/08 15:51:42 xOD/5duO
問題ないかと

368:名無しさん@ピンキー
08/02/08 17:23:46 BKZ5AE00
>>366
大好物です。ぜひお願いします!

369:名無しさん@ピンキー
08/02/08 17:33:41 Qiq/dHTi
社会的な地位や主従関係は男>女で、
男がドMで、女がドSな場合、どっちのスレに投下すればいいんでしょうか?
例:ドSメイドとドMご主人様

370:名無しさん@ピンキー
08/02/08 18:52:14 Yqoa0r/d
>>369
本来の主従関係のスレに一言注意書きして投下するほうがいいと思う
どうしても気になるなら合併するまで待つとか
どっちにしろ注釈は必要

371:名無しさん@ピンキー
08/02/12 18:17:05 haYj7mTD
これは?携帯だけだけど
URLリンク(courseagain.com)

372:王様と書記官 その3
08/02/14 23:41:16 TaR6f0Qz
バレンタインの滑り込みで投下させていただきます。

373:王様と書記官 その3
08/02/14 23:43:39 TaR6f0Qz
「ところでな、これには媚薬が入っているのだ」
 そう言って手渡されたのはチョコレートでした。
 いつものように陛下の元に参上すると、手招きをされ、右手にころんと黒い固まりを落とされたのです。
「びっ……な、何でこんな物を、陛下っ!!」
 そんな汚らわしい物、本当は窓の外にでも投げ捨ててしまいたいのですが、国王陛下から寄越された物を粗末にするわけにはいきません。
「ふ、ふざけたことは止めて下さい。どうせただのチョコレートなのでしょう? 
 そんなっ……媚薬入りのチョコレートなんて、そうそう手に入るわけがないじゃないですかっ!!」
 手の平にチョコレートを載せたまま、半泣きになって陛下を見ると、陛下は金色の目を実に愉快そうに細めておりました。
「実は、今朝方レジオン卿がやって来てな。俺に女性関係の噂が無いので
『これと思う女性がいたら押し倒せば良いんです! やったもん勝ちです、
媚薬でめろめろにして押し倒してしまいなさい!』といってな、これを押しつけられた」
 陛下はその時の事でも思い出したのか、やれやれといったご様子で肩をすくめてみせました。
「レジオン卿ですか…あの方、陛下にまでそんなものを……」
「何だ、知ってるのか?」
「以前、『貴方は嫁き遅れもいいところだから、これでもつけたら誰かが貰ってくれるでしょう』と、ほれ薬入りの香水とやらを頂きました……」
 女性に香水を送り付ける所といい、二重に失礼な方でした。
 私個人への嫌がらせかと思えばそうでもなく、会う人会う人に変な贈り物をして嫌がられているんだとか。
 巷では『愛の押し売り伝道者』と呼ばれている方です。
「それはまた、災難だったな」
「ええ、とっても」
 思い出しても溜息が出ます。
 そう言って溜息をついてみせると、笑われてしまいました。
陛下の笑い声にふくれっ面をして見せながら、そっと陛下のお顔を窺います。
 引き結ばれている口元が緩むと、年齢よりもなお若く、子供のようなお顔になるのです。
 自分でもそれを意識しているようで、陛下はあまり笑いたがりません。
 そんな所が余計に子供じみていて、密かに微笑ましかったりするのですが、それはともかく。
 今は手の上のチョコレートです。
「溶けておるぞ」
「知ってます」


374:王様と書記官 その3
08/02/14 23:45:22 TaR6f0Qz
 手の平の体温で柔らかくなったチョコレートは、溶けすぎてどうにも出来ない状態になっていました。
「食べぬのか」
「謹んでお断りいたします」
「だが、もう返して貰うことも出来ぬほどに溶けてしまっているな」
「こんなもの、手を洗えば済むことです」
「勿体ないではないか」
「チョコレートに媚薬などを混ぜ込んだ時点で既に勿体なくなってます。
 全く、城下にはお腹を空かせている子供だっておりますのに」
 お菓子で遊ぶなんて、と憤ると、陛下がまた笑いました。
「全く、リトレはいつも生真面目だな」
 そう言って私の右手を引き寄せると、手の平をぺろりと舐めました。
「へ、陛下っ……!!」
「勿体ないだろう?」
 思わず引っ込めようとした手を強く引き戻され、体のバランスが崩れました。
「きゃあっ!」
 ここで陛下に倒れ込んだりしては大変です。
 とっさに陛下のお座りになっている椅子の背もたれに手を付いて、何とか踏みとどまることが出来ました。
 根性です。
 私がそんな風になっているのを余所目に、陛下は丹念にチョコレートを舐め取ってゆかれます。 
「陛下、あの……」
「黙っていろ」
 それ以上は言いつのることも出来ず、右手を陛下に委ね、中腰のままじっとしていると、陛下のつむじが目に入りました。
 されるがままという状況が何だか口惜しくて、つむじでも押してやろうかしらと思いましたが、流石にそんな事を国王陛下に出来よう筈もありません。
 暫く左手を陛下の頭の辺りでうろつかせていましたが、指先に触れた髪の毛の感触が思ったよりも硬い事に驚いて、手を引っ込めました。
 舌が掌の上を這う感触はこそばゆくて、何だかこのままじっとしていたいような、暴れだしたいような、妙な感じがいたします。
 そうしてもじもじしていると、陛下は立ち上がりざま私の身体をぐいと引き寄せ、キスをなさいました。
「んっ……」
 口の中に甘くて苦い液体が流し込まれ、こくり、と喉が動きました。
 チョコレートの味の口づけに身体は甘く痺れ、いつの間にか陛下に縋り付いておりました。


375:王様と書記官 その3
08/02/14 23:47:39 TaR6f0Qz
「……どうだ、効いただろう?」
 なぜか得意気な陛下の声に我に返って、急いで身体を離しました。
「そ、そんなわけないじゃないですか。たかがチョコレートですよ、ばかばかしい」
 後ずさりながら早口に言うと、やっぱりそうかと陛下が呟きました。
「レジオン卿が退出するときに言っていたんだ。
 『陛下、女性にとって甘い物はときに媚薬以上の効果を発揮します。
 試してみる価値はあると思いますよ』とな」
「な……。じゃあ媚薬って、嘘じゃないですか!」
「いいや。俺に渡すとき、レジオン卿は確かに『媚薬入りだ』と言ったぞ」
「え? でも……」
「レジオン卿が何を考えているかは、俺にはいまいち分からん。
純粋にチョコレートかもしれんし、本当に媚薬が入っているのかもしれん。
リトレ、そなたはどう思う?」
「えっと……び、媚薬という物を飲んだことがないから何とも言えませんが……
 私には、普通のチョコレートのように感じます」
 口の中に残る甘い味を確かめながら私がそう言うと、陛下はちょっと考えてから
「媚薬だと言うことにしてしまわんか?」
 と、仰いました。
「え?」
「だから、これは媚薬だったのだ。よいな」
 言ってまた、私に長い口づけをなさいました。
「……っ、んっ……」
 思わず漏れた甘い息に、陛下はにやりと笑いました。
 ああ、確かにこれは媚薬かもしれません。
 だって、チョコレートより甘くて熱い。
「効いてきたのではないか。随分と感じた顔をしている」
 言葉に詰まって目をそらすと、陛下は服の曲線にそって私の身体をなぞってゆきます。
 肩から胸へ。
 ゆっくりと降りてきた手は、服のダーツに沿って降りてゆき、腰まで来ると、
また胸へと上がってゆきます。
 陛下の手は何度も胸と腰の間を往復なさいました。
 服と肌がこすれる音が恥ずかしくて辺りに目をやると、タペストリに織り込まれた
女神達が、アーモンドのような瞳で見下ろしておりました。
 まるで見られているような気恥ずかしさを覚えて目を伏せ、胸を揉み込まれる感覚に
耐えていると、スカートをたくし上げられました。
 そのまま下着の中に潜り込んだ指が、室内に湿った音を響かせます。
「もう……よいな」
 我慢できない、という色が滲んだ声で陛下に囁かれ、私も思わず頷いておりました。


376:王様と書記官 その3
08/02/14 23:49:29 TaR6f0Qz
「あぁ……すごい」
 壁に掛かったタペストリの上に縫い止められるような格好で貫かれ、思わず出て
しまった言葉を恥じ入る間もなく突き上げられておりました。
 豊饒の女神の上で交わるなんて、という私の言葉を嘲笑うように
深く、浅く、と責め立てられ、いつしか我を忘れて交わっておりました。
「良かったぞ、リトレ」
 ようやく我に返ったのは、陛下に耳元で囁きかけられてからのことです。
 途中はあまり覚えていないのですが……いえ、思い出したくもありません。
 あんな、ねだるような…………何でもないです、何でもないのです!
「あんなに可愛いお前は初めて見た」
 だから知りませんってば、そんな事!!
 私が真っ赤になってそっぽを向くと、陛下はおもしろがって、最中に私が発した
うわごとを耳元で囁いてゆきます。
「な……何でそんなこと、細々と覚えてらっしゃるんですか、いやらしい!!」
「そうは言っても、あんな可愛らしい声でもっともっととせがまれたら、
忘れろという方が酷というものだろう」
「やめてっ! やめて下さい!!」
「嬉しそうに声を上げて、搾り取られるかと思ったぞ。
 恥ずかしいとか言いながら、あそこは貪欲に……」
「違います! あれは……」
「あれは? 何なのだ、一体」
 反論できるものならやってみろ、とからかう陛下が小憎らしくて睨み付けると、
怖い怖いと首をすくめて笑われてしまいました。
 それ以来、抱かれる時に嫌だと言えなくなってしまいました。
 何しろ、あれほど乱れたのです。
 「嫌」と言っても、陛下は笑いながら「お前は嘘つきだ」と仰るのです。
 そこでやっきになって否定するのも気恥ずかしく、何も言えなくなってしまいました。
 それはその……段々気持ちよくなっているのは確かなのですが、決して積極的に
いたしているわけではありません。
 それなのに、まるで喜んで抱かれているように言われて、反論も出来ないなんて。
 あんまり口惜しいので、残りのチョコレートは全て没収して焼却炉に放り込んでおきました。


 あれから、チョコレートを食べる時に赤面してしまうことは誰にも秘密です。


377:王様と書記官 その3
08/02/14 23:53:51 TaR6f0Qz
以上です。

以前の話にコメント下さった方、有り難うございます。
やっつけなので色々あれですが、せっかくのバレンタインなので投下しました。

378:社長と秘書
08/02/15 03:28:59 mD6FawpP
机のうえの携帯が震えながら光る。



……五分後、私は社長室の前にいた。

五分前にかかってきた電話は社長からだった。通常、会社内の業務連絡などは内線を使う。
そう、これは誰にも秘密の会話…………


社長室の中にはいると、窓際の豪華なデスクに20代後半の青年が座っていた。
その青年こそ、起業して五年でこの会社を名の通る企業に育てた社長、中丸雄二だ。

「……お呼びですか?」

呼び出されてすることはわかっているが、あえて聞く。

「スカートをめくれ」

私は命令通りにタイトスカートを腰までずり上げる。
露出した下半身にはガーターベルトとストッキングを除いて纏っているものは何もない。

「よし、じゃあ始めるか」

そう言って彼がこちらに向かってくる……



ダメだ、つまらないorz

379:名無しさん@ピンキー
08/02/15 04:24:47 dj+aiM4f
王様と書記官きてたー!
今回は王様も心身ともにご満足されたことでしょうw
いじましいなあ。ハムスターから進化できてよかったよかった。
リトレさんの複雑な境遇や心情を思うと切なくなるけれど
今後どう展開していくのか楽しみにしています。

380:弁護士秘書 茉莉花
08/02/17 12:37:06 7rpH2LKG
「木野茉莉加君。何で呼ばれたかは……見当が付くな?」

 怒りを押し殺した低い声で呼ぶと、彼女は青くなりながらこくこくと頷いた。
 その様子を確認しながら、坂井は書類を半ば叩きつけるように机に置いた。
「読んでみたまえ」
「は……はひっ!」
 声がうわずってるな、と思いながら彼女の様子をじっくり見つめる。
 書類をめくる手は小さく細く、あまり労働には向かない手だ。
 茉莉花は震えながら一枚一枚書類をめくっていく。
「それは何だか分かるか?」
「こ、今度の裁判の資料です」
「それを誰が作った?」
「私……です」
「なぜ23箇所も誤植があるんだ?」
「そんなに少ないんですか?」
「木野君っ!!」
 ばん、と机を叩くと茉莉花はびくりと震え、ついでに一歩後ずさっていた。
「す、すいません……でも、前回が51個だったから、随分減ったなあと思ったんです」
「君って人は……」
 坂井が睨み付けると、彼女は身体を縮こまらせた。
 そうすれば書類の陰に隠れられるとでも思っているのだろうか。
 馬鹿じゃないのかと呟くと、今度は狂ったようにぺこぺことお辞儀を繰り返す。
「ご、ごめんなさい、善処します、頑張ります、精進しますっ!」
「昨日もその台詞を聞いたぞ。なのに君には全然進歩がない」
「あの、51から23というのは飛躍的な進歩だと」
「反省の色無しか、仕方ないな……机に手を付いて尻を突き出せ」
 溜息をつき、突き放した口調で命令する。
「せっ……せせせ先生、それは」
「黙ってろ。俺は昨日3時間しか寝てない、つまり機嫌が悪い。
言う通りにしないと手加減は出来ないぞ」
 彼女は暫くおたおたしていたが、坂井が促すように顎をしゃくると、書類を机に置き、
その横に手を付いた。
 そのままゆっくり腰を上げ、椅子に座ったままの坂井を懇願するように見つめた。
 悲痛な瞳に哀れみの感情がこみ上げたが、坂井はわざと視線を外し引き出しを開ける。

「今日はどんな道具が良い?」
 引き出しの中の物を一つずつ、彼女の目の前に並べてゆく。

 バイブレーター、ローター、鞭、セロハンテープ、ローション、消しゴム。

 一つ机の上に置く毎に、彼女は青ざめたり真っ赤になったりする。
 その反応が面白いので、たまに関係のない物を混ぜて並べてゆくのだが、
彼女はそれに気が付いていないようだった。
 それどころか、どのように使うのかと想像しつつ混乱しているらしく、
特大サイズのゼムクリップを置いたら顔が歪んだ。
 飴玉、シャープペン、ホチキスと並べたところで泣き出しそうになったので、
そろそろかと思い、坂井は席を立った。

 坂井は茉莉花の背後に立つとスカートをめくり上げた。
「命令の通りちゃんとガーターをつけてきたんだな。これだけは褒めてやろう」
 言って尻を撫でると、茉莉花はひう、と涙混じりの声を上げる。
 下着を引きずり下ろすと赤い裂け目が濡れそぼっていた。
「まず、誤植の数だけ鞭打ってやる。その後はこの中から一つ使ってお仕置きを
するから覚悟しとけよ」



という、保守。

381:名無しさん@ピンキー
08/02/17 12:52:17 f8MZNAj1
(;´Д`)

382:名無しさん@ピンキー
08/02/17 16:23:38 fONkKLIc
セクレタリーという映画があってだな

383:名無しさん@ピンキー
08/02/17 20:54:54 V4cmlcuU
ああ、あれはいい映画だった。
Mは究極のSという。

保守GJ。

384:名無しさん@ピンキー
08/02/17 20:58:50 wld8HR/w
>>377
遅ればせながら、GJ!

リトレさん、可愛らし過ぎる。
そして、>>379と同じく王様が少しはリトレさんに受け入れてもらえて良かったなぁと(2.5がチト暗かったらね)。

続きを楽しみにしています!


385:保守
08/02/21 00:58:38 oa9x0AYY
「あ、だめです……だんさまっ、ふあっ…いけません! なか、は……あっ、ああっ」
 今にも達しそうな私の高ぶりを内部で感じているようで彼女は力の入らない腕で必死に私の胸を押す。体を離そうとしているくせに、内部は蠢き吸い付き私の精を搾り取らんと複雑に締め付ける。
「大人しくして」
「あっ……できちゃ、っ! あッ」
「いいかい。こうして私たちが交わることは大事なことなのだよ」
 冷静に語りかけたつもりが声がだいぶ上擦っている。
 彼女が一瞬怯んだ隙に、深々と奥まで突き込んで欲望のすべてを吐き出した。
 射精感が全身を支配し、彼女のすべてを満たした歓喜に私は身を震わせる。
「ああ、私の可愛いレディー」
 繋がったまま抱き寄せると彼女の中がきゅっと締まった。
「いけませんと申しましたのに」
「さっきも言ったけれど私たちが交わることはとても重要なことだ」
 髪を避けて額に口づけ、私は彼女に微笑みかけた。
「時にはこうして交わり、その様を皆に見ていただくことでスレの存続を保たねばならない」
「しかし旦那様。それは中で果てることとは関係がないのでは」
「それは違う。私と君の間に子ができればその子が保守というかけがえのない仕事を継いでくれる」
 彼女は納得がいかないような顔をしている。言っていることに嘘はないが、中で果てたかっただけというのが理由の八割だとバレているのかもしれない。
 私はまだ衰えていない滾る欲望を使い、彼女を丸め込むことに決めた。
「ほら、もう一度。神々の降臨を待つ間、スレを保守しなければ」
「や、だんなさま……少しやすませ、ああっ」
「だめだよ。そうして気を抜いている間に圧縮がきたらどうするんだい? 神々を待つ間は私たちがスレを守るんだ。義務なのだから、さあ続けよう」
 ずっとこうしていられるなら過疎でもいいかと思った私の気持ちを見透かしたように彼女が涙ぐんだ目で睨みあげてきた。
 ……冗談です。神々の降臨お待ち申し上げております。
 彼女のこめかみにキスをして、私はしばしの睦事を思う存分楽しもうと誓った。

386:名無しさん@ピンキー
08/02/22 01:20:56 4X7iIiL/
ワロタ

387:名無しさん@ピンキー
08/02/23 15:18:57 Ct22xjSB
保守ついでに質問

このスレの住人は一回の投下がどのくらいの長さ&エロ割合を求めているんだ?
自分の勝手にやれって言われればそれまでなんだが、自分はエロメインに書けないんで参考までに。

388:名無しさん@ピンキー
08/02/23 17:10:13 AfkPDz2g
>>387

あくまで個人意見だが
話は長いにこしたことはない。
エロが多すぎると辟易するけどね
一割くらいがちょうどいいかな

389:名無しさん@ピンキー
08/02/23 18:20:44 h/gZrHg3
正反対っぽい意見になるけど、3スレぐらいで纏めてくれたらありがたいです
私は、短編シリーズ系読むのが好きなもんで…

390:名無しさん@ピンキー
08/02/23 21:45:25 qNqIcdmv
結論
話の出来が良ければ長短問わずOKってことで。 

391:名無しさん@ピンキー
08/02/23 22:55:45 OY+66xAS
うむ

392:名無しさん@ピンキー
08/02/24 00:48:42 AzDND6wU
タイトルにもこの板自体にもエロと入っているとおり
エロがないと一切読まない。

393:名無しさん@ピンキー
08/02/24 01:11:29 tVCzPVcN
エロといっても、キスやハグ、それこそ身体の一部が接触するだけであっても
ものすごくドキドキしたり色っぽいと感じることがあるし、極端な話
会話だけであってもエロいと思えればそれはもうエロだと思う。
あと、服装とか、それこそ綿か絹か麻か、そのさわり心地やしわのつき方の描写でも
読み手を想像力を刺激させることはできる。

逆にいえば行為自体の描写でも単なる組体操だとかホモサピエンスの交尾としか
受け取れないもんだってある。まあそこはたぶん男性女性で見方が変わると思う。


割合でいえば、前ふりが全くないのも味気ないが、たしかに直接関係のない部分が
長く続いても興が削がれるな。正直、たまに途中すっとばし読みすることもある。
だからといって厳密に割合このくらいが自分にはベストといいきれないから難しい。

394:名無しさん@ピンキー
08/02/27 01:14:05 xxw046Ib
過疎age

395:名無しさん@ピンキー
08/03/04 21:16:12 njGy56G3
上司と部下で小ネタ。保守代わりにどうぞ。

396:保守小ネタ 1/4
08/03/04 21:18:47 njGy56G3
 腕を掴んだ手を離され、私の体は柔らかなベッドに沈み込む。だけど、貫かれた部分はそのままで元帥は変わらぬ強さで私を責める。
 腰だけを突き出した体勢で私は元帥に突かれる度にシーツに顔を擦りつけた。
「や、げんす……もっ、だめ」
 まるで抉られるみたいに中を擦られ、たまらずにシーツをぎゅっと握りしめた。
「クロウ」
 腰を折り、元帥は私の耳朶に息をかけるようにして囁く。一瞬何を言われたかわからなくて、けれど元帥は同じ言葉をもう一度口にする。
「ベッドの上では名前で呼んでくれと言ったはずだ」
 元帥の手が腹を伝って下へ。私の体で一番敏感な場所を撫でられて、私は一気に上りつめる。
 元帥の動きが止まり、私の中が自分でもわかるくらいに収縮する。
「俺は個人的に君に協力しているだけで、これは俺と君の職務上の関係とは一切関係ないだろう。だから、名前で」
 私の中にあるものは熱く滾ったままなのに、元帥の声はそれが嘘のように冷静そのものだった。それでも、ほんの少し上擦っているように聞こえるのは彼も興奮状態にあるからだと思う。
「欲しいか」
 元帥に問いかけられ、全身が総毛立つ。
「くださ……クロウの、ほしい」
 必死でねだると元帥は私の腹に手を添えて抱き起こす。膝立ちのまま、ゆっくりと元帥は腰を動かし始めた。
「君が欲しいなら、いくらでも。早く俺の子を孕むといい」


◇◆◇


「俺でかまわなければ協力してやろう」
 祝勝会の席でひっそりとお酒を飲んでいたはずなのに気がつけば広いバルコニーで元帥と二人きり。相当酔ってしまっていたのだと認識できるほどには酔いはさめてきているらしい。
 何に協力して下さるのだろうかと首を傾げると元帥は変わらぬ調子で口を開いた。
「俺では不満か」
 一体何の話をしていたのかと記憶を辿り、思い至った途端に冷や水を浴びたように酔いがさめた。
 今の私は相当顔が赤いだろうと自分でもわかる。はいともいいえとも言いかねてしどろもどろになっている私を見て何を思ったのか元帥は小さく溜め息をこぼした。
「一個人としての俺でかまわないと思うならいつでも訪ねてくるといい」
 そう言って元帥は指から指輪を引き抜き私の手に握らせた。
「それがあれば屋敷へ入れる」
 呆然としている私に背を向け、元帥はバルコニーから立ち去った。




397:保守小ネタ 2/4
08/03/04 21:21:46 njGy56G3
 二日、私は悩んだ。
 そもそもどうして元帥と二人きりで話をしたりしたのかもわからないし、元帥にあんな話をしてしまったのかもわからない。けれど、元帥が協力を申し出て下さったのは夢でも幻でもない現実だ。
 私の家系は少し複雑でその事情により、私は早く子を産まねばならなくなった。でも、恋人なんていないし、知らない人の子なんて嫌。どうしたらいいのかが目下の悩みであったのだ。
 元帥が私の子の父親になってくれたらそれはとても素晴らしいことだと思う。三十を越えてはいるがまだまだ若く魅力的だし、賢く逞しい。子の父親として理想的だ。
 それに、実は密かに元帥に憧れていたりする。遠くから眺めるだけの、元帥はいわゆる高嶺の花だったのだ。
 机に置いた指輪をじっと眺めてみる。元帥の家の紋章が刻まれた指輪はあれが白昼夢ではないという証。何度も何度も確認したから間違いない。
 問題は、元帥が下さるのは子種だけだということ。好きな人に抱かれて子を宿しても、結婚して一緒に育てることは出来ない。それは凄く寂しいことだ。
 だからといって、知らない人の子を産むのはもっと嫌。
 二日も悩んだのに、私は自分では決められずにうじうじしているだけだった。


 三日目に私は元帥の屋敷を訪れていた。子種をもらいにきたわけではなく、もう一度お話をするつもりだったのに、気がつけば私は元帥の腕の中で身を強ばらせている。
 品のよい年配の男性に案内された場所は紛れもなく元帥の寝室で、私が何かを言う前に元帥は私を抱き寄せて唇を重ねた。
「名前で」
 唇を離し、元帥は私を抱き上げた。
「名前で呼んでくれ。今の俺は元帥ではない」
 困惑しながらも私は頷いた。
 寝台に横たえられ、また口づけられる。こうするつもりじゃないんだと言いたいのに、何一つ言い出せない内に元帥は私の服を器用に剥ぎ取ってしまった。
「来ないのかと思っていた」
 露わになった肩に額を当てて、元帥は吐息混じりに呟いた。
「必ず俺が君に子を抱かせてみせるから、俺以外とは寝ないと約束してくれ」
 顔を上げた元帥の顔がことのほか真剣で、今更話をしにきただけなんですとも言えずに私は唾を飲み込んだ。
 そして、頷いた。元帥が協力して下さるなら他の人に協力を求める必要などないのだから、それは杞憂というものだ。
「ありがとう」
 なぜか安心したようにお礼を言い、元帥は体を起こして服を脱ぎ始めた。


398:保守小ネタ 3/4
08/03/04 21:23:28 njGy56G3
 上半身が露わになるとこれから何をするのかということをいよいよ認識させられて私はぎゅっと目を瞑る。でも、目を閉じると衣擦れの音がさっきよりも大きく感じられてその方が恥ずかしいことに気づく。
 とはいえ、元帥の裸を見るのも恥ずかしくて、結局私は天蓋の模様をじっと眺めることで自分を落ち着かせた。
「呼んでみてくれ、俺の名を」
 頬に手を添えられて元帥と視線を合わせられる。
 名前を呼べと言われてもいきなりは恥ずかしい。ごにょごにょと躊躇っていると元帥が私を名で呼んだ。
「俺も君を名前で呼ぶ。だから、君も名前で呼んでくれ」
 姓でなく名で呼ばれるのはなんだかむずむずと不思議な感じで、けれど嫌ではなく嬉しい。元帥の発音は柔らかくて心地良く、私は私の名前が今までよりもずっと好きになる。
 小さく息を吸い、私は元帥の名前を呼んだ。男の人を名前で呼ぶことなど滅多にないから、口に出した途端に恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
「ありがとう。元帥としての俺でない時は名前で呼んでくれ。ベッドの上では特に」
 了承の意味を込めて頷くと、頬に触れていた元帥の手が静かに下方へと動き出す。それが胸に触れた瞬間、私は今から何をするかを思い出して硬直した。
 私の緊張を解すように元帥は何度も何度も優しい口づけを下さり、何度も何度も名前を呼んで下さった。触れる手にはいやらしさなど欠片も感じられず、ただただ優しいばかり。
 氷のようだとか機械のようだとか言われる元帥が実はものすごく優しいのだと気づき、知らず私の緊張は解けていた。


◇◆◇




399:保守小ネタ 4/4
08/03/04 21:27:41 njGy56G3
 あの夜、私は元帥から無事に子種をわけてもらうことができたのだ。
 けれども、一度の交わりでは子はできず、最初の約束通りに元帥は子ができるまではと積極的に協力して下さる。
 今夜もまた宿舎に忍び込んだ元帥と狭いベッドで横になっている。
「お帰りにならないのですか」
 元帥の腕の中は心地良くて本当は朝までこうしていたいのだけれど、元帥との噂が立たないようにするには早々に帰っていただかねばならない。元帥の評判が下がるような噂が立っては後悔してもしたりない。
「君が眠れば帰ろう」
「まだ、眠くないです」
「そうか。それならば、もう暫くここにいよう」
 ずっと眠らずにいられれば。ずっと夜のままなら。そう思いはしても、疲れ果てた体はすぐに重たくなっていき、意識もふわふわと落ち着かない。
 本当はずっと、ずっと一緒にいたいんです――伝えたい言葉を飲み込んで、代わりとばかりに私は元帥の胸に頬を寄せて温もりをしっかりと記憶に刻み込んだ。



◆◆◇◇◆◆◇◇


言い忘れてました。
保管庫入りは辞退します。保管しないで下さい。

400:名無しさん@ピンキー
08/03/04 21:29:32 HaPp/0Zt
Real Time Good Job!

401:名無しさん@ピンキー
08/03/04 22:11:13 7e24XJPu
これはとても素敵

402:名無しさん@ピンキー
08/03/04 22:50:40 pn7oxuyW
GJ!小ネタと言わずに是非とも続いて欲しいです。
読んでてにやにやした。元帥絶対惚れてるね。

403:名無しさん@ピンキー
08/03/05 14:33:27 7xB4fsxT
けしからん!元帥もっとやれ(*'д`)

404:名無しさん@ピンキー
08/03/05 21:25:42 WI9fmZYh
素敵な元帥がいるスレはここですか。期待期待

405:395
08/03/06 00:51:46 5yg3OhAu
保守のつもりだったからあんま細かいこと考えてなかったんだよね。
でも、せっかくだから続き書いてみた。
続きというかただいちゃいちゃしてるだけだけど。

406:元帥×私 1/3
08/03/06 00:54:25 5yg3OhAu
 しゃらりと首から下げた鎖が鳴った。細い銀の鎖の先には元帥からいただいた指輪が通してある。
「あ……クロ、ウ」
 いけないことをしている。それをまるで元帥に見咎められたような気がして、その背徳感が私の快感を二倍にも三倍にもする。
 元帥のことを思い出しながら敏感になった胸の先を摘み、もう片方の指で滑った入り口を擦る。それだけで達してしまいそうな自分の体が怖かった。いつの間にこんなに淫らになってしまったんだろう。
「クロウ……っ、あっ、ん……クロウ、クロウっ!」
 元帥の手はもっと大きくて、元帥の動きはもっと巧みで、本当はこんなんじゃ全然足りない。足りないのに、淫らな私の体は稚拙な指の動きに歓喜する。
 涙で滲んだ視界に、元帥の指輪が映った。
 ごめんなさい。元帥、こんな私を嫌いにならないで下さい。
 いけないことをしているのだと思えば思うほどに快感は高まり、私は背を仰け反らせて声にならない声を上げた。
「はぁ…………しちゃった」
 下着の中から指を引き抜くとくちゅりといやらしい音がした。
「元帥。寂しいです」
 滑った指で指輪を掴み、私はそれにそっと唇を寄せた。


◇◆◇


 東の街に魔物が出た。それがなかなかに強大で現地の派遣員だけでは手に負えないとの報告を受け、元帥が現地へ赴くことを志願した。
『元帥』が出るほどの魔物ではないと反対を受けても、彼は聞く耳を持たない。執務室の机に向かうより、現地で魔物に対峙する方が性にあっているのだと元帥は言った。
 私には討魔の才能などなく、組織を運営するためのただの一般構成員にすぎない。だから、元帥と一緒に東の街へ行くことはできなかった。
 それを寂しく思っても、特別な関係ではない私には元帥に何かを言う権利などなく。その事実が更に私の胸を締め付けた。

 白い手袋をつけ、白い外套を翻して元帥は部屋を後にした。
 出発前に呼び出され、問答無用でベッドに押し倒された私はくたくたの体でその背を見守った。
 その時の元帥を思い出す度に、心地良さと寂しさと狂おしさのないまぜになった感情が胸を焼く。

 東の街の魔物を元帥が問題なく処理したのだという知らせを耳にしたのは出発の翌日のことだった。それを聞いて無事を安堵するとともに、もうすぐ元帥に抱きしめてもらえるのだと喜びが込み上げる。
 けれど、私の期待はすぐさま砕け散ることになる。


407:元帥×私 2/3
08/03/06 00:56:05 5yg3OhAu
 往路は転移の魔法陣を使った元帥が、帰路はそれを使わずに帰るという。道中各地を見回るのだというのだから元帥らしい。
 おかげで私は元帥に抱きしめてもらうことを数ヶ月も我慢しなければならなくなってしまったのだ。


◇◆◇


 早く湯を浴びて身を清めなければならないのに体のけだるさが動くことを躊躇わせる。
 私は中途半端に脱げかけた服のまま、ベッドの上で浅い呼吸を繰り返していた。
「随分と楽しそうなことをしているようだが」
 びくりと体が跳ねる。扉の方から聞こえた声はつい先ほどまで何度も何度も繰り返し思い出したものと同じ声。
「もう、満足なのか?」
 恐る恐る身を起こし、私は扉の方へと顔を向ける。
 真っ白な外套、真っ白な手袋、輝くばかりの金色の髪。そして、優しく細められた目。
「げん、すい……?」
 優雅な動作でベッドへ近づき、そこへ腰を下ろしてから私の額を人差し指で突く。
「クロウ、だ」
 幻ではない。本物の元帥が目の前にいる。
 たまらずにしがみつくと優しく背を撫でられた。
「ただいま」
「おかえり、なさい」
 元帥の唇が髪に触れ、耳朶に触れる。ずっと欲しかった感触が惜しみなく私に与えられる。
「寂しかったかとは聞かないでおこう。さっきたっぷりと見せてもらったから」
 笑みを含んだ声音に思わず顔を赤くする。さっきたっぷりとは、どの辺りから見られていたのだろう。
「俺がいない間、いつも一人で?」
 まだ乾ききっていない指を元帥が引き寄せて唇に含む。
「だめ……汚っ」
「フ、今更だ。何度も口にしてる」
「で、でも」
「こんなにして、すごく濡れているんじゃないのか」
 元帥が下着の上から敏感な場所をやわやわと撫でる。下着はとっくに濡れてびしょびしょになっていた。
「すごいな」
 恥ずかしさで元帥の顔が見られない。たまらずに元帥の服をきつく握り締めて目を閉じた。
「何を想像してた?」
 元帥に協力して腰を浮かすとすぐに下着は取り払われ、手袋を外した指が直接濡れた場所に触れる。
 そんなことは言わなくてもわかっているはずなのに元帥は重ねて問う。恥ずかしさで死にそうになりながらも、私は答えた。
「元帥、の」
「クロウ」
「……クロウの、こと」
「俺のこと? どんな?」


408:元帥×私 3/3
08/03/06 00:58:38 5yg3OhAu
 触れるか触れないかの愛撫がもどかしくて、私の腰は元帥の指を求めてくねる。けれど、元帥は指を引いて私から逃げる。きちんと答えるまでくれないのだと悟り、私は絞り出すように答えた。
「クロウが、いつもしてくれることを、たくさん……たくさん、私のこと抱いてくれるのを、思い出して、それで、たくさん抱いてほしくて」
 そう。早く欲しい。会えなかった分たくさんたくさん抱いてほしい。こんな風に焦らされるのは嫌。
 私はクロウの胸を押し、彼をベッドに倒して唇を重ねた。初めは驚いたようにしていた彼もすぐに口づけに応えてくれる。
 荒々しく貪るような口づけに夢中になっている内に体勢が逆になっていた。
「積極的だな」
 ちゅっと啄む口づけを落とし、クロウが笑う。
「い、いやらしい? 私、いけないことをして……嫌いになった?」
 クロウは瞬きを数度繰り返し、蕩けるような甘い声で囁いた。
「まさか。俺の前でならいくらでも、どんなにいやらしくてもかまわない。嫌いになるわけないだろう」
「本当に?」
「当たり前だ。君があんなに俺を求めていてくれたのかと思うとたまらない」
 嬉しいよと囁き、クロウはいつもより少しだけ荒っぽく私の体に触れ始めた。クロウが触れるだけで私の体は過敏に反応し、一人の時とは比べものにならないほどの早さで高みに上りつめる。
 服を脱ぐのももどかしいとばかりにクロウは下衣の前だけをくつろげて私の中へ入ってきた。
 久しぶりの交わりは獣のように荒々しく激しく、私はクロウの与える快楽の中で正気を保つのが難しくなってきた。そして、大して抗いもせず私はその中へと堕ちた。


◇◆◇


「土産でも買ってくればよかった」
 夜明け前の仄かに白んだ空を見つめているとぴたり寄り添った元帥が気だるげに口を開いた。
「どうも俺は気が利かない」
「いいんです。お土産なんて、私は元帥がこうして下さるだけで嬉しいです」
「……可愛いことを言う」
 ぎゅっと抱き締められ、喜びに体が震える。
「君を喜ばせるには子を与えるのが一番ということか」
 子などできなくても寄り添えるだけで嬉しいのだと口にしかけて、それでは抱いてもらう理由がなくなることに気づき、私は口を噤んで元帥の胸に頭を預けた。どんな理由でも会いに来てくれるだけで嬉しい。
 ほんの少しだけ感じた悲しみは心の奥底にしまい込み、私は今感じる幸せだけを大切に思うことに決めた。

409:名無しさん@ピンキー
08/03/06 01:00:32 5yg3OhAu
また書き忘れてた。
前作同様こちらも保管庫入りは辞退します。

410:名無しさん@ピンキー
08/03/06 01:40:22 bma3wUgk
これはとてもエロス。
このまま結婚してしまえ。

411:名無しさん@ピンキー
08/03/06 03:04:46 mLHKp4eP
私可愛いよ私。
畜生…保管辞退だって?
紙に書いて保存しなければ!

412:名無しさん@ピンキー
08/03/06 16:46:20 49/ivqGK
>>411
アナログなお前に萌えたww

413:名無しさん@ピンキー
08/03/06 17:21:23 Ttq426Sb
なんという萌えるシチュ!
なんて素敵な元帥!転がりながらお待ちしております。

414:名無しさん@ピンキー
08/03/06 22:55:57 8LVndfAN
元帥キター!GJッ!すげぇ私かわいくて萌えたよ!
子供できたらこれ幸いと結婚だと元帥はほくそ笑むけどすれ違いとかでこじれちゃって元帥ヤキモキしちゃってでもすったもんだの末結婚
…なんて要するにもっと続いて下さい!

415:名無しさん@ピンキー
08/03/07 01:37:25 NM4tPhGA
元帥×私 完結編書いてみた。
わかってるとは思うけど時間かけてないから細かい設定ミスにはつっこまないでくれ!

416:完結編 1/4
08/03/07 01:39:46 NM4tPhGA
「……えっと、それは、あの」
 にっこりと華やかな笑みを浮かべて、困惑する私に彼は再度言葉を投げた。
「結婚を前提に、ね。僕はそう言った」
 どうすればいいのかわからずにおろおろするばかりの私の手を取り、彼は優雅に片膝をついた。そうして、おもむろに私の手の甲に口づける。
 それまで見て見ぬふりをしていた周囲の人間が色めきたつ。
「僕では不満かい?」
 何も言えず、俯いた私の耳に彼が小さく笑う声が届いた。
「今すぐでなくてもかまわない。考えてみてくれるかな」
 私が頷くのを見届け、彼は立ち上がる。
 非礼にならないように頭を下げて、私は逃げるようにその場を立ち去った。



 引き寄せられ、思わずもれそうになった悲鳴は柔らかな唇に飲み込まれる。
 突然のことに唖然としたが、背を撫でる手と温もりには覚えがある。
「……元帥」
「今すぐ抱きたい。だめか?」
 唇が離れ、確かめるために名を呼ぶと唸るように元帥は言う。
 駄目も何もここはさっきの場所からさほど離れてはいないし、何より建物の中ですらない。整備された庭の一角、木々の生い茂る人工の林のような場所だ。こんな場所ではいつ誰に見られるとも知れない。
「クロウ……クロウ、クロウ!」
 それなのに、私は元帥の首に腕を絡めて荒々しい愛撫に身を委ねている。
 もっと、もっと欲しいと浅ましい体が悲鳴を上げる。
 木の幹に背が押しつけられて痛いのに、そんなことよりも肌を這い回る熱が嬉しい。
「クロウ、やっ……ん」
「濡れてるな。すごく熱くなっている」
「やだ……いわな……ふぁ、ああっ」
 指が中をかき回し、私の体は快感に震える。
 もっと、そう指なんかじゃ足りない。元帥、元帥が欲しい。
 服の上から撫でるだけで元帥のものが大きく膨らんでいるのがわかった。
「リーファンの言うことなど無視してしまえばいい。忘れてしまえ」
 片足を持ち上げられ、元帥の熱いものが押し当てられる。けれど、リーファンという名前が私の熱を急激に冷ましていく。
「元帥、待って……ここではだめです」
「待てない」
「リーファン様のお屋敷です。人に見られては」
 そうだ。人に見られてはいけない。元帥の名が下世話な噂話にのぼるなんて耐えられない。
「元帥が悪く言われるのは嫌です」
 小さく舌打ちをし、元帥は私の足を離した。
 身支度を整え、元帥は苛立っているのかぐしゃぐしゃと髪をかき乱す。


417:完結編 2/4
08/03/07 01:41:41 NM4tPhGA
「早く帰ろう」
 震える足と指では上手に身支度ができず、見かねた元帥が手伝ってくれる。
 ぎゅっときつく手を握られ、手を引かれるままに元帥に続いて歩いた。


◇◆◇


「嫌がらせだ」
 グラスの中の酒を一気に呷り、元帥は憮然として呟いた。
「リーファンはいつもそうだ。俺に張り合おうとする」
 私はグラスをちびちびと傾け、酒を舐めるように少しずつ飲む。
「俺と君が」
 元帥は一度言葉を区切り、適切な単語を探すように黙り込む。
 屋敷へついてすぐ、元帥は私が立てなくなるまで何度も何度も求めてきた。そして、一人で寝室を離れて酒瓶を二本とグラスを二つ持って帰ってきた。
 私は裸のままベッドにおり、元帥はベッド脇に椅子を引き出して掛けている。
「えっと」
 元帥は機嫌が悪いらしく、私には信じられないような早さで瓶を空にする。
 私は何を言えばいいのかわからずに、口を開いたはいいがすぐに閉じた。
「つまり、俺と君が……恋仲……と勘違いしてああいうことをした。俺への当てつけというわけだ。更に、あわよくば俺から君を奪って優越感に浸ろうという下らない考えに違いない」
 肝心の部分はよく聞こえなかったけれど、元帥は恋仲と言ったのだろうか。
「恋仲?」
「……リーファンにはそう見えたのだろう」
 元帥は不服そうに言う。
「幾つになってもいけ好かない男だ」
 ぽっかりと胸に穴が開いたように空しさが私を襲う。
 苦虫を噛み潰したかのような元帥の顔を見るのが辛くて俯く。
 最初からわかっていたのに、なるべくなら考えたくなくて、ずっと見ない振りをしていた。
 元帥は私の恋人ではないのだ。私たちは体を重ねても愛を語らいはしない。
「泣、いているのか」
 ぽろぽろと涙がこぼれ、私はたまらずにベッドに突っ伏した。
「どうした? そんなに嫌なのか」
 動揺した元帥の声が聞こえるが涙は止まらない。後から後からこぼれてくる。
「俺と恋仲だと思われるのは泣くほど嫌なことなのか?」
 苦しげな声が聞こえ、私は少しだけ顔を上げる。
「一年以上も体を重ねてきた。今更そんな風に泣かれては……俺の方が泣いてしまいたくなる」
「お嫌なのは、元帥ではないのですか」
「なぜ? 馬鹿なことを。君と恋仲だと思われるなら、嬉しく思いこそすれ嫌がるなど有り得ない」
 元帥にきっぱりと言い切られ、私の涙が少しだけ止まる。


418:完結編 3/4
08/03/07 01:43:02 NM4tPhGA
「で、でも、嫌そうな顔をなさいました」
「リーファンが君に手を出そうとするのが嫌なだけだ。俺は君に他の男が触れることが許せない」
 それではまるで嫉妬しているようだと思うと頬が熱くなる。もしかして、元帥は妬いているのだろうか。
 希望的観測が現実のものか確認するために、私は勇気を振り絞って元帥に問いかける。
「それでは、まるで……や、妬いてらっしゃるようではありませんか」
 私と目が合うと、元帥が怒ったような照れたような顔をしてそっぽを向いた。
「そうだ、妬いている。君は知らないだろうが、君に男が近づく度に俺は妬いていた」
 あまりのことに開いた口が塞がらず、私は呆けた顔で元帥の横顔を眺めていた。
 しばらく二人の間に気まずい沈黙が流れる。
 気を取り直して尋ねようと口を開いても、声が上擦って震えてしまう。
「ど、うして?」
「年甲斐もなく恋をしているから」
「恋?」
「伝わっていないようだから言うが、相手は君だぞ」
 今度は違う意味でベッドに突っ伏す必要が生じた。
 今のはもしかしてもしかしなくても愛の告白と言うものではないのだろうか。しかも、元帥から私への。夢を見ているのかも知れない。そういえば体が熱い。眠っていると体温が上がるものだ。これは夢だ。きっと夢―
「どうして顔を隠す? 何か言ってくれないと恥ずかしいじゃないか」
 ゆさゆさと肩を揺すられ、私は逃げるように布団の中へ潜り込む。
「だから、どうして隠れるんだ」
 布越しに私を揺さぶる元帥の手は紛れもなく現実で、夢ではないのだと私に教えてくれる。
 心臓がうるさい。夢にまで見た告白なのに、どうしても元帥の顔がまともに見られない。
 嬉しさから溢れだした涙は止まらず、元帥への愛しい気持ちが込み上げてきて胸がいっぱいだ。
 喜びに浸っていたいのに、元帥は私の気も知らず布団を剥ぎ取った。
「顔を見せて」
 私の両頬を掴んで目を合わせ、私が泣いていることに気づいた元帥は動揺している。
「どうして泣くんだ? 嫌なのか。俺が嫌いか」
「違っ……嬉しい、の」
 元帥は安堵したように息をつく。
「大好き、です」
 勇気を出して、私は元帥に気持ちを伝えた。
「元帥が好き。大好き。愛してます」
 溢れる涙と同じで、一度口にすると止まらない。譫言のように何度も好きと口にする。
 そんな私に口づけを落とし、元帥はいつものように柔らかく笑んだ。


419:完結編 4/4
08/03/07 01:47:26 NM4tPhGA
「……リーファンよりも?」
「当たり前です」
「そうか。リーファンには俺からきっちりと断りを入れておくから君は心配しなくていい。大丈夫。流血沙汰にはならないさ」
 笑みの向こう側にひやりとしたものが見えた気がしたが、見なかったことにしようと決めた。元帥は意外と嫉妬深いのかも知れないと私はその時に初めて気がついた。


◇◆◇


「そもそも、俺は君のような娘が好みなんだ。姿形も性格も立ち居振る舞いも、好みにぴったりかち合う。前々から目をつけていたところにあのような悩み相談などしてくるからこれ幸いとつけこんだわけで」
 流されるままに再度体を重ねた後、元帥はそう語り出した。
「卑怯と言われれば卑怯だ。返す言葉もない。子ができたらそれを口実に逃げられないよう周りを固めて結婚に持ち込む気でいた。下準備は既に整っている」
「……それなら、もっと早く言っていただきたかったです」
「子ができる前に逃げられては困るだろう」
「逃げたりしません」
「……俺だって、惚れた女が相手では多少気弱になるものだ。小細工の一つや二つ仕掛けたくもなる」
 拗ねたような顔をする元帥が可愛くて、私はその頬を人差し指でつついた。
「君だって、一度もそんなこと言わなかった」
「言えばもう抱いて下さらなくなるかと思ったんです」
 お返しとばかりに元帥が私の額に額をぶつける。
「つまり」
「お互い様ということですね」
「そうだな」
 優しい口づけが落ちてきて、私は温かな腕の中でその優しさに浸る。
「愛している」
「私も、愛してます」
 いつまでもこうしていたいと望み、それは叶わないことではないのだと気づき、私は込み上げる幸せに頬を緩めた。



◇◇◆◆◇◇◆◆


元帥と私にラブコールくれた方々のために書いたぜ。保守小ネタのつもりだったのに楽しく書けたよ。ありがとう!


保管庫入りは変わらず辞退させていただく。

420:名無しさん@ピンキー
08/03/07 04:14:00 5CfMOcWb
職人さんGJです!完結編まで書いてくれてありがとう!
私可愛いよ私!やきもち元帥も可愛いよ(*´д`)
お断りシーンとか妄想するとニヤニヤが止まらない。
寝る前に覗いて良かった。脳内に焼き付けます。
良いもの見させてもらいました。本当ありがとう!

421:名無しさん@ピンキー
08/03/07 08:02:38 aqJKk247
おおおおおおおー!なんて素敵な可愛い元帥w
仕事行く前に覗いて良かった~~乙です。GJです!
子供も早く出来るといいね。ありがとう!

422:名無しさん@ピンキー
08/03/07 12:16:26 xJQjhrfZ
小細工を仕掛ける準備万端な元帥が可愛すぎる。
職人さんGJ!!!


423:名無しさん@ピンキー
08/03/07 12:51:36 EweazLXy
女とヤってお金が貰える♪
まさに男の夢の仕事!
出張ホストっておいしくない?
URLリンク(rootinghost.com)

424:名無しさん@ピンキー
08/03/07 14:43:30 EXe9yUe0
>>415
ありがとう…ありがとう(*'д`)
私が一年も抱かれ続けて子供が出来なかったのは、きっと元帥がイチャイチャしたかったからに違いない。
出来たら出来たで子供に嫉妬しそうな奥さん馬鹿になりそうだ。
神さま、ありがとう!

425:名無しさん@ピンキー
08/03/07 20:13:33 lDb7B+qc
久々にこのスレに来たら
とんでもない萌え元帥が投下されてて大興奮
ありがたくメモ帳に保存させて貰いましたぜ!

426:名無しさん@ピンキー
08/03/07 23:31:13 P846oqt6
GJ!続ききてた!私も元帥も大人なのにかわいいよ!
完結編とは悲しいですが職人さまありがとうございました!
二人に倖あれ!

427:名無しさん@ピンキー
08/03/08 02:31:56 IRi7J2TF
「お互いさま」がよかった。
幸せな二人が見れてよかったよ。

428:名無しさん@ピンキー
08/03/11 03:29:17 a6I+wEKk
もっと読みたいけど完結編ってことは続きはなし?結婚もしくは子供できるまで書いてほしいよ

429:名無しさん@ピンキー
08/03/14 21:55:28 xsBO4d67
いやいや、それ以上描くのはヤボというもの。
あとは各自脳内妄想で萌えるなり禿げるなりするのが良かろう。

430:名無しさん@ピンキー
08/03/17 02:07:46 +PPPBYjg
保守

431:名無しさん@ピンキー
08/03/25 01:38:15 RcK1Leks
保守

432:名無しさん@ピンキー
08/03/26 23:22:10 ZgXDvYRd
「いやです!」
 組み敷いた少女から強く拒絶され、男は深々と嘆息する。
「夜伽というのは添い寝のことじゃないぞ」
 少女から返事はなく、男はまたしても息をついた。
「十日も我慢させて、少しくらい申し訳なさそうな顔でもしたらどうだ」
 男が体を起こすと、少女はすぐさまベッドの端に寄り、毛布を体に巻き付けた。
「こ、心に決めた人がいます」
「俺だってお前がいいんだ。手に入れると心に決めてる」
 男の手が少女の髪を撫でる。
「だいたい約束だ何だというなら絶対俺の方が先に目を付けていたのに」
 ぶつぶつ独り言ちる男の声は少女の耳には入らない。
 男の手からも逃れるように少女は毛布の中に頭まで潜り込んだ。
「せっかく迎えにきたのに忘れているんだから」
 男はまたため息をこぼす。


 約束を交わしたあの日の相手が彼であることを少女は知らず、彼女の待ち人が自分であることを彼は知らない。
 二人が事実に気づくのはまだずっと先の話。




不器用ツンデレカップルが見たいです、先生!

433:名無しさん@ピンキー
08/03/27 21:38:05 PjncKg4y
こんばんわ。

イカした>>432の希望を裏切ってスマナイ。
これから、刑事モノ男上司×女部下を投下するぜい。
一応エロ無(だって、本番に行きつくのが無理なんだもん)、ネタ的な意味では微エロ。
3or4レス借ります。

NGワードは【caleidoscopio】で逃げるべし。
では、ドウゾ!

434:caleidoscopio 1
08/03/27 21:43:16 PjncKg4y
 俺の右に出るヤツは誰もいないから、俺はお前をいつでも奪える。

     ***
「ふざけんなよ!」

芦原警察署刑事課の取り調べ室から怒声が飛んだ。
課員の皆が何事かと、ドアに目線を向けた。
あの敏腕刑事で知られる須崎亮警部補が珍しく憤慨していた。
カンカン状態での説教を窺い知ることは出来ない。
「須崎提督がキレた…」
上里が青ざめながら、フルフェイスヘルメットを被る。
元来、彼はヒステリッカーが嫌いで、悲鳴があれば、愛用のヘルメットをかぶる。
しかしこのヘルメット、自作の阪神タイガース仕様とは、手が凝っている。
「警部補、どこか調子悪いからなぁ…イラつくのも無理無いって」
次に喋ったのは中橋。
彼はサプリメントケースに新しいビタミン剤を収めながら、ケラケラ笑う。
食事には気を使うものの、やはりどこかで不摂生になる。
「ああ、上のミスで給料が来なかったからか?」
その直ぐ後に、下山田が市販の点鼻薬を鼻に打ち、天上を仰ぐ。。
「後少しで‥娘がぁ…ユウミが待っている…だが、もう少し待て。待つんだ…下山田ぁ」
急いでティッシュを何枚か抜き取り、口許に当てた。
薬が変な箇所にまわったのだろう。
上里が心配そうな視線を寄越してから、中橋が首をかしげる。
 謎が二点ある。
 一つは下山田の点鼻薬にある妙な汚れ。
 もう一つは、警部補の苛立ち…………前者は気にしないとして。
「いや…情報屋が事件予備軍の匂いを掴まないからじゃないか?しかし、誰に説教を…」
三人の課員がヒソヒソと噂するが、通りすがりの庵原が水を差す。
「…さっき、取り調べ室に遠野を呼びましたよ?」
「「「うえぇ!?トーコ!?」」」
「なんでも、事件だとか」
「「「え?事件…!」」」
窓を背に座る、西ノ宮課長がのほほんとお茶のおかわりを宣言する。
しかし、東山のばあさんは華麗にお盆を投げた。
お盆は課長の喉に衝突し、課長の身体は宙に返る。
「自分でやっとくれ」
ばあさんは後片付けをせずに、帰って行った。
課長がひっくり返った隙に、庵原は鍵の保管庫を調べた。
「んー…」
取り調べ室の鍵がない。
直ぐ隣にも部屋があるのだが、その鍵もない。
マスターキーもない。
「…変態上司め…」
舌打ちし、庵原はキャスターにライターで着火する。

435:caleidoscopio 2
08/03/27 21:45:40 PjncKg4y
 隔離部屋には、須崎以外に、ぺたりと尻餅をついた女性がいる。
 急な呼び出しを食らったのは、芦原警察署刑事課所属の遠野 千春巡査。
 彼女はガクガクと震えながら、涙を堪える。
 須崎はポータブルDVDプレーヤーを机に置き、遠野に座れと命じる。
 再生ボタンを押すと、穴からリビングを覗いたような映像に変わった。
 それこそ、ダブルオーセブンのオープニングに登場する穴に似ている。
「これ……私の…家…」
 一時停止を押すと、画面の右端に3Dの画びょうが止まる。
「お前の顔を知っているヨソの署の知り合いがな、俺に貸してくれたよ」
ぐるりと遠野の背後を周り、肩を抱く。
 遠野がぴくりと反応する。
 須崎は彼女の耳にかかる髪をかき上げて囁く。
「【あんたの部下がホシのオカズにされた】ってな」
「お…おか、ず…?…‥」
 かたかたと小さく震える彼女は不安そうに上司を、相方をやや上目遣いで見る。
「遠野のプライベートを覗いて、喜ぶ…そんなやつが世の中にいるんだ。おまけに遠野の家に忍び込むとは、手癖が悪すぎる」
 それにと、須崎は一本のシガレットをくわえる。
「‥う…そ……」
「刑事が盗撮されちゃ…問題だな」
「------え?」
「ちょっと考えてみろよ。裁判の資料に提出されて、裁判官のジイさんや検察や弁護士や、傍聴人にも見られる」
 すうっと、脳内が冷える。
 もし、この出来事を検察官の兄や海上自衛隊所属の父、中学教師の母に、芦原署の皆に知れてしまったら…。
 課長になんて謝ればいいだろう。
 他の課員は呆れるかもしれない。
 色眼鏡で遠野を視る人間も現れるだろう。
 彼女を煙たがる庵原は馬鹿にして、ネチネチと小言を云うに違いない。
 いつ誰が嗅ぎ付けるか、恐ろしくて考えもつかない。
 それに、もっと公になってしまったら…須崎警部補と捜査が出来ない。

 憧れであり、目標。
 大学での説明会で会ったあの日から、須崎の背中を追いかけてきた。
 その背中を、その名を知ったから、ここにいる。
 所轄を転々としていた須崎の異動を心待にしていた。 
 直ぐ後に、朗報が飛込む。
 須崎の芦原署刑事課異動。
 それから、遠野は須崎の相方になった。
全てが現実だということを、新しい相方と握手をして気が付いた。
 絶対に、足手まといにはならない。
 戒律を守れないなら…辞めてしまえばいい。
 ずっと、守り続けていた約束。
 けれど、降りる気はない。
 降りたら、降りたで後悔する。
 下がるのも、戻るのも、降りるのも、出来ない。
 憧れや目標以外に、もう一つの何かを知ってしまったから。
 尊敬じゃない、何かを。

 遠野は顔色を真っ青にし、須崎の腕を掴んだ。

436:caleidoscopio 3
08/03/27 21:47:49 PjncKg4y
「警部補っ…あたし‥もう覗かれるの嫌です」
「…………遠野…」
「だから……犯人を殴らせてください。事情聴取は私がやります!」
 泣きそうな瞳は訴える。
 やられて嫌な事はしない、させない。
「勝手に覗いて、いい気になっている馬鹿に…お灸をすえてやりたいねぇ」
 この女刑事は盗撮犯をボコボコにする気だ、須崎は手で制し、プレイヤーを片付ける。
「犯人はヨソが捕獲した。そいつに強烈な一発をお見舞いしてやれ。ビデオカメラ回収はその後でな」
 ちょっと失礼と、須崎が断りを入れると、遠野の身体は宙に浮く。
 すぐ下に落ちるが、須崎の手に落ちる。
「ひやっ!…って、でええ!!?」
「つかまっていろよ!」
 ばんっと、取り調べ室を飛び出す。
 庵原は取り調べ室のドアが壁に衝突する衝突音で、ギロリと二人を睨む。
「「「けーぶほおおおお!」」」
「ちょっと行ってきまーす」
 鍵を西ノ宮課長に投げる。
「いってらっしゃーい」
 上・中・下の苗字を持つ、三人組は口を通常より三十センチ大きく開ける。
「下山田、中橋………見た?」
「ばっちりと」
「横抱きにして、かっさらったな」
 二人が飛び出した刑事課は煙草臭さが一層強まった。
「…………………警部補…コロス」
「「「!!!」」」
 庵原の不機嫌さは刑事課のドアを超え、よその部署に影響を及ぼしたとか、しなかったとか。

 ばんっ。
「あがっ!」
 西ノ宮課長がまたお盆の餌食になった頃、泣きべその女刑事が盗撮犯をグーで思いっきり殴ったのだ。
「…っ…刑務所で頭を冷やしてくださいっ!」
 彼女は犯人を預かる署の刑事たちに頭を下げ、一足先に署を飛び出した。
 事情聴取は終了し、残るは盗撮器具の回収となる。
犯人は宅配業者で、郵便受けの裏に張り付けていた鍵を得て、仕掛けたと供述した。
 現場マンションの集合ポストは外部の人間でも開けることが出来るタイプで、郵便物を盗むには可能だ。
 遠野は鍵の紛失を恐れたのだろう。
 ポストの裏に鍵をしまっていたと判明した。
 マンションはセキュリティが充実している物件に限る。
 須崎は相方が角を曲がっても、向こうを見つめていた。

437:caleidoscopio 4
08/03/27 21:55:07 PjncKg4y
「…俺も行くわ。ディスク、ありがとう」
「ああ…そいつの処分はお前に任せるよ」
 須崎は同期の水原に片手を上げ、もう片方の手を上着のポケットに突っ込んだ。
「…ああ……そうだ」
 さも今思い出しましたと須崎は水原の肩を叩く。
「……一発、俺にも殴らせてくれねえか?」
 にっこりと須崎は笑うが、水原は寒気を感じた。
「…………あえ?」
 気のせいだ。
「………?」
 須崎の背後に取り巻く黒い霧も──気のせいだ。
「ごぶぁっ!」
同時刻。
また、西ノ宮課長がお盆と衝突した。

──今すぐ、水原の記憶の一部が消えますように。
 須崎は心の中で祈ってから、部下が待つ車内に合流しなければ。
 行先は彼女の自宅。
 その場所でじっと彼女を監視していたブツとご対面が待っている。
──躯のセンターやや下が疼くのは秘密だな。
 あのディスクで予習するんじゃあなかったと、言ったら嘘になる。

須崎は芦原署刑事課の西ノ宮課長に、この後の予定と直帰を伝えた。
「須崎君、現場検証って‥庵原君の目線が…痛いんだけど‥」
「すんません、課長。俺には出来ません」
その瞬間、庵原のキャスターは灰皿で山になった。
従兄妹の遠野 千春に密やかな好意を寄せている庵原は、須崎を呪わんばかりに、キャスターを延々と吸う。
その遠野本人は何も知らずに、覆面パトの車内で待っていた。
「俺には、遠野にキョウイクをしなきゃならないと思います。また、このような事件が起こるとは限らないですから」
「キョウイクね………うん、いいよ。行ってらっしゃい」
 すみません、課長。
上里・中橋・下山田の上中下コンビには申し訳無い。
刑事課の皆、庵原を止めてくれ。

──これも遠野の狂育のためだ、狂育!
    end
*****
拙くてサーセン;;; ある意味未完成なので保管庫には入れないで下さい。
ありがとうございました!!!

438:名無しさん@ピンキー
08/03/29 16:03:45 YXZoOmdr
>>432>>434もGJ!
久々に萌え分補給させて貰った。


439:名無しさん@ピンキー
08/03/29 20:20:56 oHj+/VKa
先生と生徒というか師匠と弟子も主従に入る?それなら一つ落としたいネタがあるのだけど。ここでいいのかわかんなくて。

440:名無しさん@ピンキー
08/03/29 21:20:05 RJyvDd8N
>>439
上下関係だからここの範疇だと思う
師匠と弟子 先生と生徒 上司と部下 先輩と後輩 箱入り娘と丁稚

441:名無しさん@ピンキー
08/03/29 22:01:08 V8r+i+5f
なんと、先・後輩もこのスレの範疇とな?

442:名無しさん@ピンキー
08/03/29 22:16:00 YXZoOmdr
上司と部下の延長線上に先輩・後輩がある……のかもしれん。
規律の厳しい、共学リリアンみたいなところの先輩後輩とか、
生徒会長と副会長、軍学校のエリート坊ちゃんとお目付役で入学した従者とか、
色々あるよな。

443:名無しさん@ピンキー
08/03/29 23:24:43 RJyvDd8N
>>442
そうそう
そんな感じでいいと思う

444:439
08/03/30 03:22:14 i6Ki5t0K
大丈夫そうなんで前後編予定で前編投下する。
今回エロなしなんでエロだけ読みたいって人は注意。
一応後編にはエロ入れてる、ぬるいけど。

445:忘れ去られた聖地 1/6
08/03/30 03:23:55 i6Ki5t0K
 床に散らばる硝子の破片が素足のシャロンを傷つけたが不思議と痛みはなかった。熱に浮かされたようにふらつく体で彼女は割れた窓へと近づいていく。
「可愛い僕のシャル」
 窓枠に足をかけ、まるで姫君の寝室に忍び込む秘密の恋人といった様子で青年は微笑む。
「僕はね、思うんだ。このまま君を連れ去るのは僕にとって難しいことじゃない。それは、そうだな。君が薔薇園から薔薇を失敬して部屋にこっそり飾るのと同じか、それよりももっと容易い」
 シャロンの枕元に置かれた一輪挿しを一瞥し、青年はくすりと笑う。
「でもね、それが出来ないんだ。どうしてだろうね、君を僕は浚えない」
 ようやく窓際にたどり着いたシャロンは呆けた顔で青年を見上げた。
「ああ、可愛い僕のシャル。君が愛おしい」
 手袋をつけた指がシャロンの頬を撫でた。
「せ、んせい」
 青年の言葉の意味がわからず、シャロンは喘ぐように問いかける。
「先生、何を」
 何をおっしゃっているのかよくわかりません。口にしかけた言葉は音になる前に消えた。
 幾度となく触れた唇が慣れた様子でシャロンの唇を塞ぎ、そして離れる。
「だからこそ僕は怖いんだ。この僕が恐れを抱くなんて、ああ、なんて滑稽なんだろう」
 青年は少しもおかしそうではない、今にも泣き出してしまいそうな顔でシャロンの瞳を覗き込む。
「忘れないで、君は僕のものだ。僕だけのものだよ、シャル」
 指が頬から離れるとともに青年の姿がゆらりと煙のように儚く消えた。
 伸ばした手が宙を掴み、頬を生暖かい何かが伝い落ちる感触にシャロンは叫んだ。
「先生!」
 はっとして辺りを見回す。窓は割れていないし、足も傷ついていない。
 ばくばくと鳴り続ける心臓を押さえ、シャロンは頬を伝う涙を拭う。
 夢だ。何年も何年もシャロンを苦しめる夢。忘れることを許さないとばかりに、シャロンの記憶が薄れそうになる度に夢は鮮明に記憶を色付ける。
 深く浅く呼吸を繰り返してシャロンは意識を落ち着ける。
 そして、すっかり鼓動がおさまると彼女は起き上がって身支度を整える。寝間着から白を基調とした制服へ着替え終え、細身の剣を腰に帯びた頃扉を叩く音がした。
「どうぞ」
 扉が開き、長身の男が姿を現す。詰め襟の上着は本来上から下まできっちりと釦で留めるよう作られているはずだが男は首元をくつろげて着崩しており、しかしすらりとしたズボンはきちんとブーツの中へと納められている。


446:忘れ去られた聖地 2/6
08/03/30 03:24:44 i6Ki5t0K
襟には彼の階級を表す紋章が印されており、それはよくよく見れば彼の身につけた手袋や腰に下げられた拳銃にもあしらわれている。
 シャロンとよく似た格好をしているのは彼も同じ組織に属する人間であり、彼の着ているものも支給される制服だからだ。違うのは色とあしらわれた紋章だけ。
「なんだ、起きてるじゃないか」
「寝ていると思いましたか」
「まあ、少し遅かったからな。他の面子は食堂に揃ってる」
「すみません。ですが、時間には遅れていません」
 壁に掛けられた時計を見やり、シャロンは微笑む。男―レスターは緩やかに波打つ自身の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
「シャロン」
 上着の釦をきっちりと留め、シャロンはレスターの立つ扉へと歩き始める。
「感情ってのは厄介だろう。一度芽生えた情はそう容易く消え去りはしない」
 いつから扉の前に立っていたんだろうかとシャロンは傍らの男を睨みつけたい衝動を賢明に堪えた。
「そうかもしれません。私は彼が憎い。憎しみは正常な判断を鈍らせる。彼を前にした私が憎しみから暴走するとお思いならあなたは私を使わなければよいのです」
 感情を消した顔でシャロンはレスターを見上げた。
「私を使うか使わないか。その判断を下すのはあなたで、私はあなたの判断に従うだけ。置いていくというなら素直に従いましょう」
 レスターは口を開きかけ、力なく肩を竦めた。
「俺はただお前が可愛いだけだよ。強くなったのは魔術と剣術の腕前だけで中身はあの頃のままだから」
 シャロンより頭二つ分背の高い男は、彼女の頬を優しく撫でた。
「レスター。あなたの心配は杞憂です」
「兄弟子としては心配せずにいられないんだが」
「あなたの気持ちは有り難いと思います。ですが、それ以上の気遣いは侮辱に等しい。今や私も一介の魔術師。あなたの庇護下に置かれ守られていた頃とは違うのです」
 レスターは溜め息をこぼし、そうだなと呟いた。
「悪かった。お前が可愛いからついつい世話を焼きたくなっちまう」
「いつまでも兄気分では困ります」
「なあに、今だけだ。公私混同はない」
「当然です。そうでなければ困ります」
 ぽんと頭に置かれた手を払いのけずに受け入れ、シャロンは少しだけ表情を緩めた。
 二人は並んで歩き、食堂を目指した。
 食堂では既に朝食が始まっており、シャロンと同じ制服を着た人々が席について食事をとっていた。


447:忘れ去られた聖地 3/6
08/03/30 03:25:37 i6Ki5t0K
 レスターが入室したことに気づき、皆が食事の手を止めて立ち上がる。
「さて、全員揃ったところで作戦会議といこうか」
 レスターがにんまりと笑い、椅子に掛けながら宣言する。彼の合図に従い全員が着席し、シャロンも自身の席へと腰を下ろした。

 数年間頑として足取りを掴ませなかったクラウスの目撃情報を得たのが三日前。事実関係の確認を急いでいた諜報員が姿を消したのが昨日。
この目撃情報が信憑性の高いものであるとして、レスターを中心とした追跡部隊が数年ぶりに再編成された。足取りを掴むための諜報活動を主としていたものから捕獲あるいは討伐を主としたものへと移行する。
 シャロン、そしてレスターの属する組織《忘れ去られた聖地》は大陸中央を拠点とした巨大な魔術集団である。大陸に存在する魔術師の約六割は《聖地》に属しているとされ、東西南北の地域に支部を置き、他の組織とは一線を画する。
 シャロン達の追うクラウスは元は《聖地》に属する魔術師であり、中核を担う幹部でもあった。しかし、今は《聖地》に追われる立場となっている。
 それは、彼がある日を境に忽然と姿を消したためである。《聖地》の情報網を以てしても目撃情報すら得られない。彼は姿を消したのだ。
 《聖地》が彼を見つけだすことに諦めを抱きかけた頃、彼は不意に姿を現し、そしてまた消えた。
 まるで遊んでいるかのように―現に彼にとっては暇潰しにすぎないのだろう―彼は出奔してからずっと《聖地》の追っ手から逃れ続けているのであった。
 初めの頃は穏便に連れ戻すことを目的としていた上層部も、時が経つにつれ目的を捕獲から討伐へと変えてきた。組織の矜持にかけて出奔者を好き放題にさせておくわけにはいかない。
 そう言った理由から久方振りに現れたクラウスを捕らえ、あるいは抹殺するためにシャロンを含めた追跡部隊は現在作戦会議に及んでいるのであった。





448:忘れ去られた聖地 4/6
08/03/30 03:26:24 i6Ki5t0K
 長い作戦会議が一応のまとまりを見せ、シャロンは自室へと戻っていた。
 寝台へ倒れ込み、枕元の一輪挿しを眺める。シャロンが初めて高等魔術を成功させた祝いに師が贈った品で、稀少価値の高い石材で作られた高価な一品だ。シャロンの好きな花の模様が彫られている世界に一つしかない一輪挿し。

『先生、これってすっごく高いんでしょう? レスターさんが教えてくれました』
 レスターが推定価格を口にした瞬間からシャロンはその一輪挿しを軽々しく持ち歩いていた自分が怖くなって師の部屋へと転がり込んだのだ。
『さあ、どうかな。僕はそれなりに高給取りだけど浪費家ではないから一輪挿し程度に“すっごく高い”なんて称される額は使わないよ』
 師は常と変わらぬ微笑で何でもないことのように言う。一輪挿しと師の顔を見比べ、シャロンは垂れ下がった眉をますます下げる。
『可愛いシャル。それはね、僕が君のために用意したご褒美なんだよ。僕の言いつけを守って毎日鍛錬を怠らず、今の君には難度の高い魔術を成功させた。頑張り屋さんの君へのご褒美』
 その頃にはもう師の腕の中で優しい口づけを受けることは珍しいことではなくなっていたから、シャロンは引き寄せられるままに彼の腕の中にすっぽりと包まれる。
『君の好きな花だ』
 シャロンの手の中の一輪挿し。その模様をさして師は言う。
『君を喜ばせるためだけに作られたものなのに、君が喜ばないとこの一輪挿しが可哀想だ』
 ついでに依頼した僕も可哀想と師は笑う。
『私、割ってしまうかも』
『形あるものはいつか壊れてしまうのだから、それを恐れてはいけない』
 それでもうじうじと思い悩んでいるシャロンを愛おしげに見つめ、師はそっと額に口づけた。
『可愛い僕のシャル。では、君のために僕は魔法使いになってあげよう―』

 目を閉じれば記憶は鮮明に甦る。今なお胸を焼く思い出を振り払おうとシャロンは一輪挿しを床へ払い落とした。
 鋭い音を立て、一輪挿しは砕け散る。けれどもそれは少しの間で、気がつけば元の形へ戻り、床には水と薔薇の花弁だけが散っていた。
 忌々しい。シャロンは舌打ちをして一輪挿しへ背を向けた。
 どれだけ時を経ても記憶は薄れず、師のかけた魔術も効果をなくさない。
「先生……」
 初めは信じられなかった。師が《聖地》を出奔したことも痕跡一つ残さずに姿を消したことも。

449:忘れ去られた聖地 5/6
08/03/30 03:28:04 i6Ki5t0K
それよりも何よりも自分を置いていってしまったことがシャロンには信じられなかった。
 彼は魔術の師であるだげでなく、シャロンにとって父であり、兄であり、恋人であった。かけがえのない大切な、心から愛する人だったからだ。
その思いはシャロンの一方通行ではなく、同じだけの愛情を与えられていると信じていただけに置いていかれたという事実はシャロンを打ちのめした。
 周囲から慌ただしさが消え、ずいぶんと穏やかになってからもシャロンは呆然として日々を過ごしていた。僅かに残された品すらすべて運び出されたがらんとした師の部屋でシャロンは待っていた。
待っていればいつか帰ってきてくれるのだと信じていた。信じていたかった。
 しかし、いつまで待っても師は戻らず、衰弱しきったシャロンを迎えにきたのは兄弟子にあたるレスターだった。
 レスターはシャロンを連れ帰り、師は戻らないのだという事実を長い時間をかけてシャロンに認めさせた。彼はもう先生ではないのだ、と。
 そうして事実を受け入れてからシャロンは魔術の鍛錬に没頭し、護身のための剣術を標準以上の腕前になるまで磨いた。
戻らないのならせめて自分の手で捕まえたい。それがかなわないのなら刺し違えてでも殺してしまいたい。新しい目標は追跡部隊に選ばれるまでにシャロンを鍛え上げた。
 今やシャロンは《聖地》でも上位に位置する魔術師へと成長している。マスターと呼ばれる幹部たちには及ばぬまでも並の魔術師では相手にならないほどには強くなった。
 シャロンは腰の剣へと手を伸ばし、柄を握って目を閉じた。
 きっとクラウスはシャロン相手に魔術を使いはしないだろう。彼が魔術を使えばシャロンは瞬きをする間に殺される。悔しいがそれだけの実力の差がある。
 だからこそ、クラウスと相対することがあればそれは剣術で。シャロンが銃や弓でなく剣をとったのはクラウスが好んだ獲物がそれであったから。
 かつて尊び愛した師と斬り結んでみたい。
 憎悪と愛情がないまぜになり、シャロンの心がクラウスを渇望する。


450:忘れ去られた聖地 6/6
08/03/30 03:28:39 i6Ki5t0K
 結局のところ、シャロンは師に認めてほしいのだ。足手まといだから連れていかなかったというのなら成長した自分を見てほしい。そして悔やんでほしい。こんなに強くなるのなら連れていけばよかったと。
 そうしたら、そうしたら、きっと―
 シャロンは息を飲む。
 どうするというのだろう。彼が自分を置いていったことを悔やんだとして、そうしたらどうするというのだ。
 シャロンはゆるゆると目を開く。
「嘲笑ってやればいい。今更何を言うんだって」
 自分に言い聞かせるように声に出し、シャロンは再び目を閉じた。こんな気持ちのまま眠れば夢見は最悪。それはわかっていたが、今はただ眠りたかった。





以上。前編終わり。
本当に主従スレでよかったのかちと不安だ。

451:名無しさん@ピンキー
08/03/30 04:29:34 XA6q4lR3
おお。いい設定です。
レスターにも頑張ってほしいなあ。

452:名無しさん@ピンキー
08/03/30 23:46:08 i6Ki5t0K
忘れ去られた聖地 後編投下します。

453:忘れ去られた聖地 1/7
08/03/30 23:47:06 i6Ki5t0K
 痛みはもうなかった。それよりも甘さを伴う慣れない感覚が全身を支配しており、それがたまらなく心地よかった。
 自分でもよくわからない体の奥の奥で愛する人を受け入れていることがシャロンの心を満たしている。
「ごめん」
 シャロンの肩に額を押しつけていた師が呻くように言う。けれど謝罪の意味がわからず、シャロンは首を傾げた。
「加減の仕方がわからない」
 さっきまでの激しさが嘘のように師はしおらしく呟く。その拗ねたような声が愛おしくシャロンは小さく吹き出した。
「どうして笑うの」
 師が顔を上げ、拗ねた顔でシャロンを見下ろす。
「だって、先生可愛い」
 素直な気持ちを述べたのだが、師は複雑に表情を歪めた。可愛いと言われても嬉しくないらしい。
「僕は真剣に悩んでるのに。君の体を気遣いたい。それなのに、未だかつてないほどの肉欲と渇望が僕にいたわりを忘れさせる。加減が少しも出来ないんだ。
体の傷はいくらでも癒せるけど、痛いとか苦しいとか君に思わせるのが嫌なんだ。だからといって、無理矢理快楽を呼び覚ますのはもっと嫌だし」
 ぶつぶつと師は独り言のように語り続ける。
 シャロンの体と心を案じてくれているのがひしひしと伝わり、それだけでシャロンは幸せの絶頂へ至る。シャロンの体は確かにまだ喜びを覚えてはいないが、心は幾度となく歓喜の声をあげているのだと師は気づかないのだろうか。
「先生」
 シャロンは未だ自身の中に収まったままの師の一部を撫でるように臍の下辺りに手を置き、師に微笑みかけた。
「私、先生に抱いてもらうの好き。まだちょっと苦しいけど、心は気持ちいい。先生が愛してくれてるって思うと泣きたくなるくらい幸せなの」
 師は黙ってシャロンを見下ろし、吐息混じりに名を呼んだ。
 シャロンの手の下で、萎えていたものが再び熱を帯びていく。
「教え子に手を出すなんて、僕はどうかしていると思ってた。いや、今も思ってる。でも、どうかしているとわかっていても僕は君が欲しくてたまらない。……愛だ。これが愛なんだよ、シャル。ああ、たまらない。君を愛してる」
 感極まった様子で師はシャロンに口づけた。そして、動きやすいように彼女の足を肩にはねのけ、先ほど吐き出した白濁を掻き出すように腰を動かし出す。


454:忘れ去られた聖地 2/7
08/03/30 23:48:04 i6Ki5t0K
 こうなってしまうと何度も欲を吐き出して疲れきるまでシャロンを離さないのだと経験上知っている彼女は強く打ちつけられる腰に僅かな痛みを覚えながらも喜びに咽ぶ。何事にも淡白な師が熱く求めてくれることが嬉しくてたまらない。
 もっと、もっとと慣れないながらも彼女は彼を誘う。ぎこちなく腰を揺らし、甘く掠れた声で師を呼ぶ。欲しくてたまらないのは彼だけではない。シャロンも同じだ。どれだけ与えられても足りない。彼女はいつだって彼に餓えている。
「せんせ……すき、っは、あっ、ン、すき……あッ、せんせぇ」
 屹立はシャロンの中を遠慮会釈なく蹂躙し、その荒々しさにシャロンはのけぞって応える。師が気遣いを忘れて、シャロンを貪ることに夢中になればなるほどにシャロンは満たされた。
 互いの粘膜が触れ合う粘着質な音とシャロンの喘ぎ、そして師の乱れた呼吸だけが室内を埋め尽くし、それは空が白む頃まで幾度も続いた。


 やはり夢見は最悪だ。幸せだった頃の、少なくともそう思っていた頃の記憶はシャロンの心を乱す。かつて愛した人を思い出すことは古傷を抉り塩を擦り込むように痛かった。
 まだ夢を見ているかのようにシャロンの体は火照っている。彼女は自身の体を抱き、胸の内から憎しみを呼び戻す。
 躊躇わずに彼を殺せるように常に憎悪をまとっていなければならない。愛情は刃を鈍らせるだけだ。
 ともに過ごした時間より離れて過ごした時間が長いのにどうして忘れられないのだろう。シャロンは奥歯を噛みしめる。
「シャロン」
 かけられた声にはっとして顔を上げる。
 扉にもたれたレスターがこんこんと扉を叩く。
「ノックはしたんだぞ、何回も」
 シャロンが震える息を吐くとレスターは寝台へと歩み寄り、許可も取らずに腰を下ろした。
「うなされてたな」
「見ていたのですか。悪趣味ですね」
「ずっとじゃないさ。さっききたばかりだからな」
 レスターの手がシャロンの頬を撫で、顎を掴んで上向かせる。
 視線が絡み、彼はゆっくりと顔を近づける。程なくして唇は重なり、どちらからともなく舌を絡めて口づけを深めた。
 レスターに肩を押され、シャロンは寝台へと横たわる。口づけを交わしたままシャロンは彼の上着に手をかけた。


「俺はお前を死なせたくない」
 露わになった背に唇を寄せ、レスターは囁く。
「ああっ、く……ふ、ぁッ」
 レスターは強く腰を打ちつけ、肩に噛みついた。


455:忘れ去られた聖地 3/7
08/03/30 23:48:47 i6Ki5t0K
「俺にはお前があの人に殺されたがっているように見える」
 上体を起こし、突き出した腰を掴んでレスターはシャロンを責めた。
「なあ、シャロン……くっ」
 それ以上喋るなと言う代わりに下腹部に力を込めて、シャロンはレスターを締め付ける。思惑は成功して、レスターは会話を止めて行為に集中する。
 レスターに抱かれると快感を得れば得るほど虚しさで胸が埋め尽くされる。この行為に愛などなく、お互いに傷を舐めあっているだけだと理解しているからだ。
 枕を掴んで顔を埋め、シャロンはレスターの責めから逃れようとする。先に達するのは嫌なのに、レスターは的確にシャロンの感じる部分ばかりを責めてくる。
 逃げようとした腰はしっかりと抑え込まれているし、片手が結合部へと滑りシャロンの敏感すぎる部分を指で撫で始めている。
 快感ですすり泣きながら、シャロンは悲鳴に近い嬌声を上げる。
「レ、スター……いや、だめっ」
「いきたきゃいけよ」
「いやぁ……あっ、い、いや……ああ、あっ、ああああああッ」
 堪えきれずに絶頂を迎え、シャロンの体が強ばる。それでもかまわずにレスターは腰を打ち付ける。レスターを止めようと膣はきつく収縮し、襞がまとわりついてくる。しかしレスターは止まらない。
 悲鳴を上げながら、シャロンは強すぎる快感から逃れきれずに小刻みに体を震わせる。
 逃れられないように腰をしっかり両手で掴み、レスターは自らが達するまで動くことをやめない。彼が満足してシャロンの尻に白濁を散らす頃には、彼女はぐったりとして寝台に体を投げ出していた。
 シャロンは虚ろな目でレスターを見上げた。優しい兄弟子を苛んでいるのは自分の存在だと気づいているのに、離れることが出来ない。いっそ突き放してくれればと思うが、優しい彼が自分を見捨てられないことも知っている。
「レスター」
 泣きすぎて掠れた声で彼を呼ぶと低く穏やかな声が答えた。
「ん? なんだ」
「ごめんなさい」
 困ったような顔で彼は笑い、シャロンの髪がぐしゃぐしゃになるのもかまわずに頭を撫で回す。
「それと、ありがとう」
「……馬鹿だな。お前みたいな可愛い女を抱けるんだから、こういうのは役得っていうんだ」
 レスターはおどけて見せたが、ありがとうとシャロンは重ねて口にした。





456:忘れ去られた聖地 4/7
08/03/30 23:49:34 i6Ki5t0K
 情報に従い、追跡部隊は北部へと向かった。転移魔術で《聖地》支部へ、そしてそこから馬車で三日かけて鬱蒼とした森へ移動した。森の中の古びた館にクラウスがいるという。
 今までの記録から想像するに、追跡部隊が到着した頃にはもぬけの殻になっている。あるいは姿は見せるが交戦の間もなく逃げられる。あるいは―
「以前北部で発見した時は負傷者多数でほぼ壊滅状態だったそうですね」
「気まぐれな人だからな。毎度結果はあの人の気分次第というところだ」
 落とした声でシャロンとレスターは言葉を交わす。
「だが、死人は出てない」
 レスターが不快そうに眉を寄せる。
「死なない程度に痛めつけることが可能だということはあの人は追跡部隊全員束ねてもまだ数段高見にいるってことだ。あの時は一度目の追跡だったから面子も今ほど攻撃に特化した奴ら揃えてたわけじゃなかったが」
 レスターの話を聞き、シャロンはぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
 今回の追跡部隊にシャロンがいることに、きっと師は気づいているはずだ。逃げずに向き合ってほしいと願う。
「クラウスは私が必ず捕まえてみせます」
 この日のためだけにシャロンは十年を越える歳月を生きてきたのだ。
 決意も露わに、シャロンは前方に現れた目的の館をじっと見つめた。



「可愛いシャル。僕の、僕だけのシャル」
 別れた時のまま、目の前で師は笑んでいた。
「会いたくて、触れたくて、気も狂わんばかりだったよ。でも怖くて会えなかった」
 悲しそうに表情を歪め、片手で掴んでいたものから手を離した。それは力なく床へ倒れ込み、師は一瞥もくれることなくそれから剣を引き抜いた。
「……レスター」
 それの腹の辺りからじわじわと血が滲み、それは恐るべき速さで床に血溜まりを作った。
 床に横たわるのは追跡部隊の長であり、マスターと呼ばれる高位の魔術師であり、シャロンの二人目の師であり、クラウスの弟子であるレスターだ。
「せんせい」
 血の臭いがする。レスターの命の臭いだ。
「ああ、シャル。怖いのかい」
「レスターが、レスターさんが」
「仕方がないよ。僕だって嫉妬くらいする」
 体が動かなかった。館へ入ってすぐに体の自由を奪われた。
 攻撃は唐突で確実。シャロンの周りにだけ防護壁が張られ、不意をつかれた追跡部隊は雨のように降り注ぐ強烈な攻撃魔術にさらされた。

457:忘れ去られた聖地 5/7
08/03/30 23:50:38 i6Ki5t0K
当然彼らもすぐに防護壁を張り、姿の見えない敵に備えたが彼の魔術には際限がなかった。応戦することすらままならず、気がつけば立っているのはシャロンとレスターの二人だけ。そこでようやく魔術は止まり、変わらぬ姿の師が現れた。
 この時もまだシャロンの体は動かなかった。動かない体で二人の師が争うのを眺めていることしかできなかった。
 一方的だった。レスターが放つ魔術はことごとく無効化され、クラウスはレスターが無効化できるように加減をして魔術を放つ。クラウスは遊んでいる。それは傍目から見ても明らかだった。
そうして暫くレスターとの小競り合いを楽しみ、クラウスは虚空から剣を取り出してレスターの動きを止めた。
 応戦するレスターが動かなくなるまで痛めつけ、クラウスはシャロンへ向き直る。もう体を戒める魔術は解かれたのだと気づいてはいたが、シャロンは動くことができなかった。
「綺麗になったね」
 へたり込んだシャロンの前に膝をつき、師は彼女の頬にまるで壊れものに触れるようにそっと触れた。
「先生……レスターさんが、死んじゃいます」
 師が余りにも変わらないから、最後に会ったのが昨日のように思える。シャロンは昔のように師の胸にすがりついた。
「大丈夫」
「でも、血が、血がたくさん」
 ぐずぐずと鼻を啜る。師は優しく背を撫でてくれた。
「可愛い僕のシャル。形あるものはいつか壊れるし、命あるものはいつか尽きる。死は誰しも等しく訪れるものだ。それを恐れてはいけない」
 辺りに転がる追跡部隊は傷を負ってはいるが、治癒に特化した魔術師を呼び寄せれば死ぬことはないだろう。クラウスが彼らを殺さぬように治癒を施しながら痛めつけているからだ。
 だが、レスターは違う。あのまま放っておけば出血多量で死ぬかもしれない。
「先生」
 レスターの血に濡れた手で師はシャロンに触れる。
 涙がとめどなく溢れた。恐らく本当にクラウスは変わっていない。姿形だけでなく、内面もあの頃と変わりない。シャロンへ向けられる愛情もあの頃のままだ。
 それを痛いほどに実感し、シャロンは泣いた。
「会えば君を壊してしまいそうだったけど……よかった。僕はまだ君の先生でいられる」
 変わってしまったのはシャロンだ。今のシャロンにはもう盲目的にクラウスだけを愛することはできない。
 それに気づき、シャロンは泣いた。あの日、連れ去ってくれたなら、きっとずっと師だけを愛していられたのに―


458:忘れ去られた聖地 6/7
08/03/30 23:51:29 i6Ki5t0K
「どうして」
 だからこそシャロンは問いかけた。
「私を置いていったのですか」
 師は目を閉じ、深く息を吐いて、それから困ったような顔でシャロンを見た。



 治癒はあまり得意ではなかった。それでも、シャロンは震える手でレスターにありったけの魔力を注ぐ。
「レスターさん……やだ、死んじゃ嫌です」
 独りきりになったシャロンの手を取ってくれたのはレスターで、彼はそれからずっと側にいてくれた。まだ恩返しはできていない。
 師は再びどこかへ消えてしまい、シャロンは今度は自分で選んだ。彼についていくのではなく、《聖地》に残ることを選んだのだ。
 師が去ってから止まっていたシャロンの時間はようやく動き出したのだ。それを伝えて、優しい兄弟子を安堵させてあげたい。もう心配しなくていいのだと言ってあげたい。
「レスターさん、レスターさん」
 大きな傷はすべて塞いだ。足りない血液を補うように魔力を注ぎ込んだ。後は目を開くのを待つことしかできない。
 シャロンはレスターの大きな手を両手で包み、祈りながら待った。
「……シャ、ロン」
 ぴくりと体が動き、レスターが歪めた顔をシャロンへ向けた。
「あ、レスターさん」
 安堵とともに力が抜け、シャロンの頬を涙が伝った。
「シャロン……」
 亡霊でも見たような顔でレスターはシャロンを見上げている。そして、暫くしてからシャロンが握っているのとは逆の手でシャロンの頬を伝う涙を拭った。
「行かなかったのか」
 辺りに師の姿がないことに気づき、レスターは言う。
「馬鹿だな。こんな機会、最後かもしれなかったのに」
 レスターは辛そうに眉を寄せたまま、何度もシャロンの頬を撫でる。
「あの人はお前を待ってたんだよ。追いかけてきて欲しかったんだ」
 シャロンはレスターの言葉を黙って聞きながら曖昧に笑んだ。
「ずっと怖がってた。お前が愛おしくて、愛おしすぎて壊してしまいそうだって。だから逃げた。逃げたくせに、それでも、待ってたんだよ。シャロン、お前を待ってたんだ」
 シャロンは力なく首を横に振る。
「レスターさん」
 それでもレスターは何かを言いかけ、けれどそれ以上は何も言わずに口を閉じた。
「眠って下さい。まもなく医療班が到着します」
 独り言のような呟きに頷き、レスターはゆっくり目を閉じた。





459:忘れ去られた聖地 7/7
08/03/30 23:52:30 i6Ki5t0K
 一年の四分の一を雪とともに過ごす北部でも可憐に花は咲き誇る。庭園の花壇を眺め、中央では見ない種の薔薇をシャロンは愛でた。
「シャロン」
 だらしなさを感じる一歩手前まで制服を着崩したレスターがシャロンの傍らに立つ。
 《聖地》支部にて治癒を受け、追跡部隊員たちは翌日には本部帰還が可能なまでに回復した。レスターも自由に歩き回れるほどに回復している。
「その、なんだ」
 言いにくそうに口ごもり、がりがりと頭を掻く。そんなレスターを見上げ、シャロンは楽しそうに笑った。
「私になにか、レスター?」
 少しばかりの逡巡の後、レスターはシャロンの右手をとった。そして、人差し指の付け根に輝く金と碧の光を見つめる。
「これ、取れんだろ」
「はい。取れません」
「……なんでそんなに嬉しそうなんだ」
「私、決めたんです。今の私では並んで歩けないから、だからまだ駄目なんです。先生が怖がらずにいられるくらい強くなったらそうしたら隣に行こうって」
 愛おしそうに指輪を撫でるシャロンを見下ろし、レスターは深々と嘆息する。
「並べるくらいとなるといつになるかわからんぞ」
「でも、いいんです。先生は私がおばあちゃんになっても待っていて下さるってわかったから」
 レスターの手が頬に触れ、ついで唇が軽く触れる。
「……わかってたけど、前途多難だな」
 不意の口づけに瞬きを繰り返すシャロンを見てレスターは苦笑する。
「レスター?」
「なんでもない。こっちの話だ」
 ぐしゃぐしゃと柔らかな髪をかき回すように頭を撫でられ、シャロンは不思議と好ましい感触をなぞるよう唇に指で触れた。
 髪の影で指輪がきらりと煌めいた気がした。




以上。後編おわり。
前後編ともに保管庫には保存しないで下さい。

460:名無しさん@ピンキー
08/03/31 16:51:55 bBB66fMo
いいものを読ませてもらいました!
GJです!!

461:名無しさん@ピンキー
08/04/01 05:21:16 imI18KrY


462:名無しさん@ピンキー
08/04/01 05:33:19 oIVkXQOZ


463:名無しさん@ピンキー
08/04/02 15:52:43 Xs2zrc7N
このスレに常駐してる職人サンって何人くらいいるんだろう?

464:名無しさん@ピンキー
08/04/02 22:32:37 vty0G0Y2
面白かった!
続き読みたい
先生が謎だなあ

465:名無しさん@ピンキー
08/04/07 02:23:08 Y6sXX+y1
保守

466:名無しさん@ピンキー
08/04/13 02:28:11 FP9Cer48
保守

467:名無しさん@ピンキー
08/04/18 03:13:44 XMq/OC5u
保守

468:名無しさん@ピンキー
08/04/20 02:55:53 UVm6XsqL
保守

469:名無しさん@ピンキー
08/04/23 03:38:46 4UniOlM7
保守

470:名無しさん@ピンキー
08/04/24 05:29:23 N5+GE9ue
凄い勢いで過疎ったね…
職人さんキテー

471:名無しさん@ピンキー
08/04/27 17:41:18 3L0/48pn
投下します。
エロ無しなので、ダメな方はスルーかNGでお願いします。

472:二組の”大佐と副官”-1 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:42:10 3L0/48pn
 副官の机にうず高く積まれた書類の山がユラユラと揺れ始め、あっという間に
崩れ落ちていく様を、この部屋の主は「またか」といった表情で見つめていた。
  部屋の主の襟元には六つの星が並ぶ階級章が輝いている。王立軍の階級章は一つ星で
少尉、二つ星で中尉と言った具合に階級が上がる毎に星が増えていく。六つ星は現場の
トップである大佐を意味している。
 書類が散らかった床の真ん中にしゃがみ込み、オロオロとしている小柄な女性の襟元の
階級章は星一つの少尉のものである。
 暫くして落ち着きを取り戻した女性は、薄桃色のセミロングの髪を揺らしながら書類が
散乱する床に這い蹲った。そして、無数の紙の束を大慌てでかき分け何かを探し始めた。
そのかき分け方が尋常でなく、その場を余計に散らかすことなっていたが、彼女はお構いなし
だった─というよりも正直それどころではなかった。この紙の束に紛れ込んでしまった
本日の大事な会議資料を彼女は探していたのだ。
 しかし、崩れた書類の山は膨大な量で、目当ての資料は簡単に見つかりそうもない。
 「はあ」─部屋の主が額に手を当てながらついた大きな溜め息に反応して、彼女は
伏せていた顔を上げた。
 失態を恥じて彼女の細い秀麗な眉は”ハ”の字に引き下げられ、愛らしい円らな
ヴァイオレットの瞳はいつ泣き出してもおかしくないほどに潤みきっている。そして、
その桜色の可憐な唇を震わせながら、申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すみません、大佐。私、ま、またヘマを……」
 ”大佐”と呼ばれたこの部屋の主は黒髪の細身の男性である。歳の頃は二十代後半。
印象的な鋭い銀の瞳を持ち、鼻梁は彫像のように高くその下の薄い唇は固く引き結ばれている。
理知的で凛々しい印象を受けるその容姿から、彼が多くの女性の衆目を引いていることは
容易に想像できる。  
 額に掛かった前髪をかき上げヤレヤレといった様子で首を二度三度振ると、その男は
ゆっくりと革椅子から立ち上がった。
「こうしていては会議に遅れる。書類は後で構わないから行くぞ」
「で、でも……その会議に必要な書類じゃ……」
 今にも消え入りそうな声で、桃色の髪の女性は男の顔色を伺いながら恐る恐る発言した。
今にも泣き出しそうに歪められた顔立ちは実際の年齢よりも彼女を幼く見せる。
「気にするな、イルマ。一通り目は通し、中身は覚えている」
 長身痩躯の男は散らかった書類の束を避けて、マントを翻し部屋を出ていった。
「た、大佐ぁ!待ってくださいぃぃ!」
 イルマは自分の机に置いてあった革の手帳、羽ペンとインク瓶を抱きかかえるようにして
上官の後を慌てて追いかける。
─スヴェン大佐、怒っていらっしゃるのだろうか。そうだよね、だってとても大事な書類で
昨日もお持ち帰りになって夜遅くまで内容を頭に叩き込んでいたって、仰っていたのに……
私ったら。
 彼女は上官の三歩後ろを歩きながら、いつまで経っても治らない自分の不注意を呪った。
 イルマとドジは昔から同義語であり、士官学校時代から同窓生には散々からかわれていた。
目の前を歩く大佐の副官に任官されてからも、ミス、ヘマが減ることはまるでなかった。
冷淡な鉄面皮として彼女の上官は知られていてから、イルマはいつクビになってもおかしくないと
ビクビクしていた。 


473:二組の”大佐と副官”-2 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:42:57 3L0/48pn
 しかし、歳が十以上─正確には男が二十八歳で、イルマが十七歳なので十一歳も違う
ためか、呆れられることはあっても怒られることは滅多になかった。それでも上官にいつまでも
甘えていてはいけない、とイルマは毎朝出勤前に心に誓うが、就寝前にはやはり間の抜けた
自分を呪う日々が続いている。
─大佐……ごめんなさい。
 途端に前を歩いていた男が立ち止まる。ぶつかりそうになりながらもイルマも何とか踏み
とどまった。申し訳なくて、イルマは振り向いた上官と目を合わせられない。
「イルマ、そう落ち込むな。あの資料が無くとも何とでもなる」
「ど、ど、どうして……私が落ち込んでいるとお分かりなるのですか?ま、魔術ですか?」
 ちなみにイルマの上官は若いながらも優秀な魔導師で王立軍の中でも、一目置かれて
いる存在である。一般的に魔導師は知識と魔術の探求に一生を捧げ、人との係わり合いを
好まない。人里離れた場所に塔を建て研究に没頭する魔導師のイメージはあながち的外れ
ではない。しかし、何事にも例外はあるもので習得した魔術を用い、人の世で生きる魔導師も
少なからずいる。
「……それだけシュンとしていれば魔術など使わずとも誰でも分かると思うが」
「すいませんでした。スヴェン大佐」
「気にするな、と言った。これは上官命令だ」
 到って真面目な口調で、スヴェンと呼ばれた男は応えた。
「はい……」
 許しを得たことで安堵したのか、イルマの声のトーンが心なし上がる。その返事を聞いた
スヴェンは再び前方を向いて、会議室へと歩き出した。

 ◆ ◇ ◆ 

 昼食を挟んだ長い会議が終り、執務室へ戻る途中のスヴェンは終始ウンザリした顔だった。
魔導師らしく合理性に欠けることを好まない彼は、長々とした意味の無い会議が大嫌いだった。
 書類などなくとも自分の報告を完璧に済ませると、スヴェンは目を瞑り飛び交う無味乾燥な
議論に無視を決め込んでいた。
「まったく無駄な時間だった。あんなことをわざわざ仰々しい会議など開いて決める必要が
どこにあったと思う?」
 額にかかった髪をかき上げたスヴェンは同意を求めるかのようにイルマをその銀色の瞳で
見つめた。その銀の目は戦場においては猛禽類の如き鋭い眼光を放つことから、”鷹の目”と
揶揄されている。
「そ、そんな私は……その……」
─大佐の意見には同意したいけど……あれは執政官様が開かれた会議だから、
「つまらない」なんて言うと失礼だし……でも大佐が同意を求めているのだから……いやいや、
どこで誰が聞いているか分からないのだからやはり、「つまらない」などと言ってはいけないわ……。
 まごまごと答えに窮するイルマを見限ったのか、スヴェンは彼女から視線を外し黙って
自分の執務室に向って歩き出した。

474:二組の”大佐と副官”-3 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:44:32 3L0/48pn
─ああ、また私は大佐に嫌われてしまった。
 イルマは肩を落とし、スヴェンの三歩後ろを項垂れながらオズオズと部屋へ戻った。
 部屋に戻ったイルマの最初の仕事は、床一面に散らかった書類の片付けであった。
彼女がそれに取り掛かっている間、スヴェンはオーク材で作られた横長の執務机に
頬杖をつき、うららかな陽気の中で瞼を閉じ考えにふけっていた。
 床の片付けを終えたイルマは入り口に近い自分の机に座り、気取られないようそっと
スヴェンの顔を遠目に眺めていた。滅多に表情を崩さないスヴェンだが、午後のひと時、
黙考に耽っている間だけは穏やかな顔つきになる。イルマにとっては上官のその顔を
覗き見るのが、密かな楽しみであった。
─大佐のああいう顔を見れるのは、この部屋にいる私だけ……。
 だが、至福の時間はそうそう長く続かない。スヴェンが目を開けてしまったのだ。
その瞬間、イルマはすぐさま顔を伏せ、机の上の書類を読んでいるフリをする。スヴェンに
気づかれていないだろうかという心配から、小ぶりな膨らみの下に収められた心臓は
バクバクと大きな音を立て、全身の血が沸騰したのかと思うぐらいに熱くなる。
「イルマ」
 声を掛けられたイルマは思わずビクリと全身を震わせて、スヴェンに顔を向ける。
その様子はまるで油が切れたブリキの人形のようにぎこちない。 
「な、何でしょう?」
─お、お顔を盗み見ていたこと……き、気づかれていませんように……。
「さっきの会議の議事録を一応読んでおくから、貸してくれ」
「はい……えっと……この辺りに……えっ、あれっ?」 
 議場で速記を取っていた紙が見当たらない。
─確か、このバインダーに挟んだはずなのに……ない、ない、ない!!
 慌てたイルマは机の上の書類の束をひっくり返し、引き出しの中、書架の中、あげくの
果てに制服のポケットまで探り始めた。
「イルマ、幾らなんでもポケットには収まらんだろう?」
 スヴェンの呆れ声がイルマの胸にグサリと突き刺った。真っ当に考えれば確かに
そんなところにあるはずなかった。
「は、は、はい。すいません」
─ダメだぁ、またやってしまったわ……どうしよう……。
 本日何度目か数えることもできないヘマを後悔しながら、自分自身にほとほと嫌気が
さしたイルマの曇った視界には、滲んでぼやけたスヴェンの顔が映っていた。
「……ごめんなさい」
 しかし、スヴェンには別段咎める様子はない。彼からしてみれば、何時であろうとイルマの
ミスは織り込み済みなのだ。
「まあいい。アユタナの所に借りにでも行って来くれば良い」
 スヴェンが親しいラインベルガ=スニードの副官を務めるアユタナは、同性ですら
羨やまずにはいられない類稀な美貌に、煩雑な副官の仕事を事も無げにこなす能力を
兼ね備える完全無欠の才女として軍の中でも評判が高い。イルマにとってもまさに
憧れの存在であり、上官同士が仲が良いことから困った時にはいつも助けてもらっている。

475:二組の”大佐と副官”-4 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:45:11 3L0/48pn
 少し間を置いて、スヴェンが珍しく和らいだ声で切り出した。

「議事録は後で構わないから、コーヒーを淹れてくれないか?」

 その言葉を聞くなり塞ぎこんでいたイルマの顔がみるみる喜色の色を帯び、明るく
生き生きとした表情へと変わる。
「あっ……はい!」
 スヴェンの前ではヘマばかりのイルマでも、褒められたことの一つや二つぐらい
あるものだ。勿論多くはないが、その代表格がコーヒーを淹れることだった。特別なことは
していない、と言うよりもできないが、イルマの淹れたコーヒーを必ずスヴェンは「美味しい」と
褒める。だから、イルマも嬉しくて上官が「コーヒーが飲みたい」と言い出すのをいつも
心待ちにしていた。
「美味しいの、淹れますね」
 満面の笑みで応えたイルマの様子を見て、スヴェンは少しホッとしていた。

─イルマの場合は普通の味がするだけでも充分、褒めるに値する……部下の機嫌を
取るのもなかなか一苦労だ。

 込み上げてくる苦笑を必死に噛み殺す。
「ああ、頼む」
 スヴェンは少し口元を緩めると、再び瞼を閉じて黙考に耽った。一方イルマは、はやる
気持ちを抑えながらいそいそとお湯を沸かし始めた。

 ◆ ◇ ◆ 

 西日が差し込む軍本部の廊下にて、軍服がはち切れんばかりの筋骨隆々の大男とその
人物とは対照的な長身痩躯のスヴェン=ホークが立ち話をしていた。
「スヴェン、お前のところの副官はどうにかならんのか?」
 太い眉が印象的な厳めしい顔つきのラインベルガ=スニードの階級章は、スヴェンと同じ
六つ星だ。三十代前半にして大佐に昇り詰めたものの、窮屈なデスクワークよりも
血風吹き荒ぶ戦場に身を投じる方を選んでしまう根っからの武人である。
 獅子の鬣の如き赤髪と巌のような体躯で得物の大剣を振舞わすその姿は神話に登場する
軍神さながらであり、周辺国から”アルセリウスの獅子”と畏怖を込めて呼ばれている。また、
類まれな武勇に加え裏表のない性格で部下からの人望も厚い。
「先程もアユタナのところへ今日の議事録を借りに来たぞ。議事録ぐらいならばどうとでも
なるが、あのような様子では何時か大問題を引き起こすぞ」
 イルマを副官にしてからというもの、ラインベルガのお小言は半年間毎日続いている。
─半年間も毎日欠かさずミスするのは大したものだが、イルマ本人はあれで到って真面
目なのだから可哀想というべきだろうな。
 ラインベルガは決してイルマを悪く言うつもりなどない。純粋に心配しているからだと
いうことはスヴェンにも痛いほど分かるが、ほぼ毎日繰り返されていてはさすがに話半分
に聞き流してしまう。

476:二組の”大佐と副官”-5 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:45:51 3L0/48pn
「おい!聞いているのか、スヴェン!」
「そう言うな、ラインベルガ。あれはあれで良い所があるのだぞ」
 スヴェンの言葉にラインベルガは太い眉を寄せ、怪訝な顔をする。
「もしかして……お前、あういう娘が好みなのか?」
 突如、スヴェンの”鷹の目”が細まり途端に凄みが増す。その瞳に睨まれラインベルガは
全身に悪寒が走るのを覚えた。どうやらこの国きっての魔導師の虎の尾を踏んで
しまったらしい。
「誰がそんなことを言った?」
 聞いたものを凍りつかせんばかりのスヴェンの威圧的な声が響く。剛毅でならす、さしもの
ラインベルガもたじろがざるをえない。
「いや、う、噂だ。あれだけ足を引っ張られてもお前がイルマを解任しないことを不思議
がっている下士官どもの間で流れている噂だ」
「それを真に受けたでもいうのか、ラインベルガ?」
「ゴ……ゴホン。その……あのだな……あくまで、可能性として質問しただけなのだ」
「お前ともあろうものがつまらん風説を口にするとは嘆かわしい。噂は軍紀を乱し、
戦場では敵につけ入るスキを与える。よもやお前ほどの男が知らぬはずがあるまい」
 ピシリと言い放たれた正論に反駁の余地はまるでない。おまけにスヴェンの迫力から
推察するに、反論しようものならただではすまないことをラインベルガは本能的に悟った。
「あ、ああ。すまなかった」
 彼が冷や汗を垂らしながら頷くと、スヴェンの瞳がいつもの色に変わった。
─まったく、イルマのことになるとこの男は人が変わる。それでいて、恋心でもあるのかと
探ってみると今のように本気で怒りかね出しかねない……魔導師という奴らは厄介な連中だ。
 とはいえ、勘繰りを入れたラインベルガ自身がとびきりの朴念仁だったから、スヴェンが
僅かに見せた異質な気色に気がつくことはなかった。
 冷や汗が引き始めた友人を横目に、スヴェンが一言呟いた。
「イルマの良い所はだな……」
 ところが、イルマを褒めようとしたものの次が続かない。スヴェンの記憶の中のイルマは
ミスを犯して慌てている姿か、謝っている姿のどちらかだった。
 興味津々な様子でそのスヴェンをラインベルガは凝視している。
 暫く沈黙が続いた後、スヴェンがおもむろに口を開く。
「……コーヒーを美味く淹れる」
「コーヒー?」
 ラインベルガは呆気に取られたが、スヴェンは到って真面目に頷く。
「ああ、悪いか?」
「…………いや」
─お前、コーヒーだけなら副官にバリスタでも雇え!!
 と、叫びたいラインベルガであったが、命を天秤に掛けてまで口にすることはなかった。

477:二組の”大佐と副官”-6 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:46:46 3L0/48pn
 ◆ ◇ ◆

─まったく付き合いきれん。
 そんな気持ちでラインベルガは自分の執務室に戻った。誰もいないと思っていた部屋の
ドアを開けると、副官のアユタナ=リーランドがまだ書類を整理していた。
「まだ、帰らんのか?」
 ラインベルガの声に、見事なブロンドの髪をアップに纏めた美しい女性が顔を上げる。
銀色の細いフレームのメガネが良く似合う聡明な相貌は何だか嬉しそうに緩められている。
「後、少しで終わりますわ、大佐」
 婉然と微笑を浮かべるアユタナはラインベルガと八歳違いの二十三歳である。文官、
武官を問わず幾人もの傑出した人材を輩出した由緒あるリーランド公爵家の子女だ。
 若く家柄も良くおまけに美しい彼女が、何故むさくるしい平民出の自分の副官になど
志願してきたのか、ラインベルガにとっては未だに謎である。
「ゴホン……そうか、あまり無理はするなよ。根を詰めすぎると身体に毒だぞ」
「お気遣いありがとうございます。ところで、終わったら食事をご一緒して頂けませんか、
ベル?」
 親しげに掛けられた「ベル」という愛称にラインベルガは慌てふためき仰け反ってしま
う。
「リ、リーランド中尉!!」
 アユタナのいないところであれば、いくらでも彼女の名前を口にできる。しかし、面と
向うと、あがりにあがってしまい、彼女が任官されてから半年も経つにもかかわらず、
いまだにラインベルガは副官を名前で呼べない。
「し、執務中はそのように呼ぶのは止めろと言ったはずだぞ」
「あら、では執務中ではなければ宜しくて」
 ほっそりとしたアユタナの指先がメガネのフレームを押し上げる仕草は、相手を本気で
追及する兆候だ。こうなるとラインベルガは、戦場での武勇はどこ吹く風で蛇に睨まれた
蛙の心地に追いやられる。
「……い、いや、そういう問題では……」
「では、どういう問題なのですか?」
 ルージュを引いた柔らかそうな唇が緩み、澄んだ双眸が悪戯心に満ちた輝きを放つ。
 ラインベルガはドサリと自分の執務用の革椅子に巨体を沈めると、長く溜め息を付いた。
「だから……その……ええい!ダメなものはダメなのだ!」
 ラインベルガは友人のスヴェンのように思慮深くもなく弁が立つわけでもない。文官の
中でも一、二を争うほどに優秀なアユタナを相手に舌戦を試みても、勝ち目がないことは
痛いほど良く分かっている。そのため、下手に言い争うよりも半ば強引に話を打ち切る方を
彼は選んだ。
 しかし、ラインベルガの答えに納得がいかないアユタナは、ゆらりと席から立ち上がり
ヒールの音を立てながら彼に歩み寄る。


478:二組の”大佐と副官”-7 ◆GK0/6l5f56
08/04/27 17:49:13 3L0/48pn
 軍の制服の上からでも分かる彼女の抜群のプロポーションには、強靭な自制心を誇る
ラインベルガですらわれ知らず見蕩れてしまう。重力に逆らう張りのある豊かな胸の膨らみ、
一切の無駄がない細く括れた腰とタイトスカートを押し上げる上向きのお尻があいまった
肉感的な体型は、美の象徴である月の女神の彫像が生命を得たのかと勘違いしそうになる。
そして、そんな色香を隠すどころかわざと強調するように、にじり寄ってくるのだから、純朴な
ラインベルガにしてみればたまったものではない。
「そんなつれないことを仰らなくても宜しくはありませんか?」
 薄いレンズ越しにラインベルガを見つめるサファイア・ブルーの瞳が妖しく揺れる。
 口元に微笑を浮かべたままアユタナはラインベルガの執務机の端に横向きに座り、わざと
見せつけるようにスラリと長く伸びた脚を組み替える。黒のストッキングとコントラストをなす
白い脚は生唾ものだ。挑発的な仕草にさしものラインベルガも思わずゴクリと喉を
鳴らしてしまう。それを見たアユタナはさも嬉しそうに微笑む。
「私、あなたがその気になるのをずっと待っているのですよ、ベル。そろそろお気づき頂
いてもいいかと」
「リ、リーランド中尉!か、か、からかうのは止めてくれ!」
 ラインベルガは耳まで真っ赤に染め、そっぽを向いて拗ねたように呟く。
「お、俺みたいな男を……お、おちょくって何が楽しいんだ?」
 その言葉を聞いて、アユタナは怪訝そうにラインベルガを見つめる。
「おちょくるなんて……今も昔もそんなつもりはサラサラありませんが?」
「き、君みたいな魅力的な若い女性が俺みたいなのを相手にするなど、誰が信じるという
のだ!」
 毎朝、鏡で見る自分の顔はゴツゴツと厳めしく武人としては申し分ないが、どう考えて
も女性の興味をひくとは、ラインベルガには到底思えない。そんな武骨な顔立ちと朴念仁の
性格が相まって、彼は三十一歳になる今の今まで女性には無縁の殺伐とした生活を送ってきた。
─そんな自分がアユタナのような若い美女に迫られるなど、夢だとしても信じられない。
これは何かの悪い冗談なのだ。そうとしか考えられん!
 眉間に深い皺を刻み、固く瞳を閉じたラインベルガが丸太のような太い腕を組む姿を見
つめたアユタナは、おもむろに制服の襟元に手を掛ける。

「では、こうすれば信じてくれますか?」

 室内に響くボタンを外す乾いた音に、慌ててラインベルガは瞳を開ける。
「…ちょ、ちょっと待て!」
「待てません!」
 彼の視線の先には、制服のボタンをドンドン外していく絶世の美女の悩ましい姿があった。
肌蹴た胸元から覗く黒い下着に包まれた豊かな膨らみが作り出す谷間に、ラインベルガの
視線は思わず釘付けになってしまう。
─いかん。いかん。な、何をしている!こ、こんな風紀に反するようなことは上官として止めねば!
「リーランド中尉、もう止めろ!じょ、上官命令だ!」 


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