おんなのこでも感じるえっちな小説8at EROPARO
おんなのこでも感じるえっちな小説8 - 暇つぶし2ch150:名無しさん@ピンキー
07/10/26 16:32:21 Xtx+FucU
このSS読んでスレをお気に入り登録してしまったほどに萌えた


151:名無しさん@ピンキー
07/10/26 17:12:52 aFkzQuNZ
>>148
いや、だから自覚してんだかしてないんだか分かんない状態で処女奪われたくねええぇ
…と私は思ったわけで。

152:名無しさん@ピンキー
07/10/26 17:15:43 W+IJBOzi
まあ、そこは人それぞれだよな

153:名無しさん@ピンキー
07/10/26 19:48:51 b9JwGsMF
ネ申SSを読んだ…GJすぐる
天才だよ、おま

154:名無しさん@ピンキー
07/10/30 01:33:46 L6MpzGSt
黒澤くんGJ
繭タソGJ
作者さんGJ

ゆっくり休んで
是非シリーズ化を!

155:名無しさん@ピンキー
07/10/30 06:21:52 LN3bEJms
SS超大作

156:名無しさん@ピンキー
07/10/30 22:11:35 r8FzPa/G
マンセーレスが多いとちょっと引く

157:名無しさん@ピンキー
07/10/30 22:42:22 i1G/s9ke
いいものはいい

158:名無しさん@ピンキー
07/10/31 14:52:56 StqQpDb+
あんまりマンセーが過ぎると、作者さんが今後来にくくなっちゃうよ

159:名無しさん@ピンキー
07/10/31 17:03:19 r0XWHa9E
半年ぶりにこのスレに来た。377氏も繭子たんもGJ。

160:名無しさん@ピンキー
07/10/31 18:46:01 6J8muJNy
つ 【好みはひとそれぞれ】
キャラ名が黒澤じゃなければな、とオモタw
脳内で好きな名前に変換してくる

161:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 20:57:49 /ulSQ3lQ
test

162:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:01:00 /ulSQ3lQ
前スレで『Baroque』『teacup illusion』を書いた者です。
何か陵辱ネタの話が出ていたので、チャレンジしてみました。

あと、HNを付けてみました。トリップも今後これで固定です。
まとめサイトの方には、よろしくお願いします。

163:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:02:53 /ulSQ3lQ
『NO REFUGE, BE PRAYING』

 従兄との、傷つけ合うような、貪り合うような、危険な情事の記憶。

 色恋沙汰も知らない子供のころは、従兄のことが、単に物静かで優しい
親戚のお兄ちゃんだとしか思っていなかった。
 私は昔からわがままで意地っ張りで怒りっぽくて落ち着きがなくて、
今でもそんな自分が嫌いなのだが、従兄はいつもそんな私に少し困ったような笑顔で
付き合ってくれていた。そして私は、そんな彼に最大限甘えきっていた。
 母も叔母も、そんな私たちを見て、仲のいいことだとか、お嫁さんになっちゃえとか、
そんな色んなことを言ってきた。私はそういうことを言われるのが嫌で、いつも癇癪を起こしていた。
そして従兄はそんな私を見て、また困ったような顔で笑うのだった。

164:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:04:50 /ulSQ3lQ
 従兄が高校に入ったとき、寮に入ったため、しばらく会う機会がなかった。
二年間何があったのかはよく知らない。久々に会った彼は、相変わらず物静かだったが、
何となく近寄りがたい雰囲気を持っていた。
「久しぶりだな」
「う、うん」
「しばらく会わないうちに大きくなったな……あ、いや、きれいになったな」
「あー。今、一瞬、子供扱いしたでしょ」
「はは、済まん済まん」
 何か、背の高さといい、声の質といい、喋り方といい、昔とずいぶん変わって見えた。
「なあに、大人ぶっちゃってさあ?」
「そうか? そうかあ。そう見えるのかあ」
 一人で何か難しそうな顔で小首を傾げる。
「ぶっちゃけ、おっさん臭いよ、色々と」
「ははははは、酷いことをいうなあ」
 心なしか、余裕ぶってあしらわれているように感じる。
少し、むっとしたところで、母が割って入ってきた。
「まあまあ、しばらく会わないうちに、大きくなっちゃって」
「お久しぶりです、伯母さん」
「大学受験はどう? 大変でしょ?」
「いやあ、キツイです。できれば一発で受かりたいんですけどねえ」
「ケーキがあるから食べてね。ほら、あんたの分もあるわよ」
「あ、じゃ、いただきます」
「はーい」
 私は母と従兄を追って台所に向かった。小さなしこりを、胸の奥に感じながら。

165:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:08:06 /ulSQ3lQ
 母と叔母が台所で長話に入っている間、ケーキを食べ終えた私たちは所在なく、
居間のソファに並んで座っていた。
 何となく、会話もなく、やや重苦しい空気が流れていた。
「寮は……」
 不意にそんな言葉が口をついて出た。
「どうなの?」
「んー、毎日楽しいよ。食堂はあるし、浴場は広いし、何より個室だし」
「学校は?」
「楽しいね。勉強は大変だけど、バドミントン部は準優勝って実績を残せたし、
図書室は本が一度に五冊も借りられるし」
「じゃあ、勉強は?」
「うーん、それが、だいたい十位以内……二年のときは。
五位以内に入れたり入れなかったりする。最近は二位」
 あまり満足していないような口ぶりだった。高望みしすぎだ、と心の中で思った。
「何よ、一位じゃないんだ?」
「ああ。そこまでくるともう、いかにパーフェクトをキープするかって世界だからなあ。
神経の消耗っぷりも尋常じゃないね」
 目に光がなかった。私もほんの少し前高校受験を経験した身だが、
いくら大変だったとはいえ、ここまで疲れ果ててはいなかったと思う。
 従兄が、深く、溜息をついた。
「もう、老けて見えるよ、本当に」
「うわ酷いことを言われた! ショックだ!」
 おどけてみせている。どこからどう見ても自然に振舞っているところが逆に作りっぽかった。
どうもさっきから気になる。一体何なんだろうか。

166:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:09:33 /ulSQ3lQ
 お茶を台所に取りに行って湯呑茶碗を二つ持って帰ってきたら、
従兄が目を閉じて静かな息を立てていた。
(ああ、なるほど)
 疲れているのだろうと思い、黙って茶碗を置いて横に座った。
 従兄の寝顔は安らかだった。さっきまでの微妙に張りつめた雰囲気が、今はない。
(そうか、親戚付き合いだから、無理して頑張ってたのかな)
 気力だけで極力普通の振りを装っていたのだろうか。だとしたら、あのわずかに感じられた
わざとらしさも分からなくはない。本当は勉強でヘトヘトになっていて、だから目を離した隙に
寝落ちしちゃったりするのだ。
 口の端から少しよだれが垂れている。
(もう、仕方ないなあ)
 人差し指で拭ってあげると、従兄の表情が変わった。やや苦しげに眉をひそめて、
うう、と唸っている。起こしてしまったかと驚いて指を離したが、そのままうなされ続けていた。
悪夢でも見ているのだろうか。
(大変なんだなあ)
 従兄のこんな辛そうな様子は今まで見たことがない。胸がうずいた。
気丈に振舞っているが、本当はいつも気力の限界ぎりぎりのところで生きていて、
夢の中でも安らぐことすらできないのだろうか。
 そっと、従兄の手の甲に、自分の手を重ねた。彼のうめき声が、わずかに小さくなった。
私はそのまま、何も考えずに、しばらくじっとしていた。

167:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:11:50 /ulSQ3lQ
 次に気がついたときには、自分もすうすうと息を立てて、従兄にもたれかかって寝ていた。
眠気が伝染ってしまっていたらしい。
 ふと彼の顔を見ると、彼は目を開けて、ぽかんとした表情で私の顔を見つめていた。
(……あれ?)
 妙なことになっている。私もつられて彼の目を見返してしまった。彼の手が、びくん、と
わずかに強張ったのを感じた。
 そのまま、また、何となく気まずい空気が流れた。
 従兄の方が先に耐え切れずに目をそらせた。私たちの手を見た。肩と肩が触れ合い、
密着しているのを見た。彼の全身が大きく強張るのを、私は体越しに感じていた。
 そのまま、途方もなく気まずい雰囲気が、ずっしりとのしかかってきた。
(な、何か……何かしなきゃ。何か言わなきゃ)
 私も動転していた。飛びのいて離れるのが、この場合最も自然な反応なのだろう。
しかし、私はぎゅっと彼の手の甲に力を込めると、彼の腕をぐいっと自分の腕に絡ませていた。
「お前……」
 従兄が呆れたような声で言う。私はそこでやっと、自分が何をしているのかに気づいた。
「な、何よ、そそそ、そんなんじゃないんだからね!」
「そんなんって、お前……どんなんだよ」
「ななな、何よ、そ、そんなこと、私に言わせるつもりなの、このムッツリスケベ! 変態!」
「へ、変態って何だ! というか、マジで何なんだ一体!」
 自分でもよく分からない。既に混乱の最中にいた。
 彼の表情が私の目に映った。狼狽、困惑、焦燥、悶絶、そうしたものが入り混じった顔。
でも、彼の瞳はただ一つの感情を私に示していた。
 呆れている。
(私に呆れている)
 そういうことだった。それはそうだろう。私にだって分かる。でも、

 いつの間にか私は泣いていた。声を上げずに、ただ涙だけが止めどなく流れていた。

168:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:13:55 /ulSQ3lQ
 従兄は、一瞬歯を食い縛った。苦虫を噛み潰しているのとは違う。
何か、どうしようもない運命を、仕方無い、と黙って受け止めたような顔だった。
 そのまま唇をぐっとへの字に閉じると、空いていた腕を伸ばし、私の背に回した。
 私は、ずるずると身を崩すと、そのまま顔を彼の胸に埋めた。
(何やってるんだろう、私。馬鹿みたい)
 声を出すような真似はしなかった。母や叔母に聞かせる訳にはいかない。
上手に事情を説明できる自信がなかった。
 しばらく彼の胸の中で泣いているうちに、頭が少しずつ冷静さを取り戻してきた。
(本当に、何がどうなって、こんなことになっちゃったんだろう)
 今まで全然意識していなかった。彼は私の行動に動揺したし、私は彼の反応に動揺したことになる。
 どう動揺したのか?
 答えは私が自分で言っていた。性的な意味で、だ。彼は私を異性として認識して、
それで当惑したのだ。そして私は、
(私は?)
 異性として見られて、恥ずかしかったのは確かだ。
(でも、何で私、泣いてたんだっけ)
 恥ずかしくて泣いたんじゃない。悔しくて泣いたんだ。じゃあ、何で悔しいと思ったんだろう?
(彼の目だ)
 私が醜態を晒した後、彼は呆れたような目で私を見ていた。そのとき、私は異性ではなく、
ただの癇癪持ちの変な子供でしかなかったということになる。
 子供として見られるのと、異性として見られるのと、どっちが悔しいか?
逆に言えば、どっちがより嬉しいのか?
(私は子供じゃない)
 異性として見て欲しいかと言われても困るのだが、自分も無意識のうちに彼を異性として
求めてしまっていたのは確かだ。私は彼の手を取って、腕を絡ませた。
 それが、偽らざる本心なのだ。多分。

169:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:17:18 /ulSQ3lQ
 私は彼の胸から顔を起こすと、一つ大きく深呼吸をした。
「大丈夫か?」
 彼が小声で心配そうに訊いてくる。
 私は答えず立ち上がった。そのまま階段まで歩く。
 階段の半ばで振り向いた。彼がまた、困惑の極みのような表情で、
こっちを見ているのが分かった。
 私は無言で彼を手招きした。彼はさらに困惑を極めたような顔になったが、
それもせいぜい三秒くらいで、意外と素直についてきた。

 そのまま、二人して、足音も立てずに二階に上った。

 二階の私の部屋に入ると、私は内鍵をかけた。そんな私の手元を、
彼がまた呆れたような目で見つめた。
 だが、すぐに顔を引き締め、厳粛な表情になった。
「……で、何だ?」
 何だろう。
 二人っきりになりたかったのは確かだ。人の来ない閉鎖された場所で、特に何より私の部屋で。
 で、その後、私は一体何をどうしたいんだ?
(危ないことをしてるな)
 こんな状況を自ら作って、どういうことが起こりうるか、分かっているつもりだった。
 危ないこと。
 私にとって、途方もなく危険なこと。
 痛いかも知れない。傷つくかも知れない。後悔するかも知れない。
取り返しがつかない、何か途方もないことが起きるかも知れない。
 そんなことを、本当に私は望んでいるのか。
 私は、今、おかしくなっている。

 でも。

 私は彼に向き合うと、目と目で見つめ合い、顔と顔を近づけた。
そのまま、唇と唇がくっつく大分手前で、ぴた、と止まった。

170:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:18:35 /ulSQ3lQ
 彼の目の色が変わった。またしても、覚悟を決めたような色だった。
そのまま、息をゆっくりと吐きながら、不思議なくらい安らかな瞳に変わっていった。
 私のあごに優しく手を添えると、唇を半開きにして、私の唇に重ねた。
(わ……)
 私はぎゅっと目をつぶった。これが私のファーストキスになる。
 彼が私の唇をつまむようにして吸う。音が耳元に響くたびに、私の体は硬くなり、
同時に頭は霧がかかったように曖昧になっていった。
 何か、大きなものが、失われていくのを感じた。
(もう、戻れない、かな)
 怖いのに、これから起きるであろう色んなことを、受け入れてしまっている自分がいた。
 唇の端を舐めたり、舌を軽く入れて私の舌をかき回したりして、彼が私のことを求めてくる。
何か、ものすごいファーストキスになっている。
 うっすらと目を開けて彼の瞳を見ると、相変わらず不思議なくらい穏やかだった。
 私は昔読んだ漫画のことを思い出していた。獲物を見つけた獣は、決して唸ることなく、
穏やかな目をするという。
(獣なんだ)
 私の方が唸っていた。苦しいような、切ないような、そんな鼻声だった。

 気がつくと、彼が私の背中をがっちりと抱き締めていた。痛くないが動けないぎりぎりの加減で、
ゆっくりと力を込めてくる。
 ぐい、と傾く感じがあった。彼が体重をかけて、私をベッドに押し倒しているのだ。
 彼の瞳が私の瞳をじっと見据えている。私の反応を慎重にうかがっているような、そんな感じだった。
 また、漫画のことを思い出した。コタツから追い出されようとしている年老いた重い雄猫が、
人間の手を噛んで抵抗する。血が出ないように、ゆっくりと、ゆっくりと力を込めて。
その瞳は、自分の方が人間より偉いのだ、人間が本当に怒る直前のぎりぎりのところまで
そのことを思い知らせてやるという、ご主人様の目だったと書いてあった。
 その年老いた重い雄猫と、従兄とが、かぶって見える。

 少し肩に痛みが走る。そこで私は、自分の体がガチガチに硬くなっていることに気づいた。
彼は私の目を見ながら、少し半眼になって、わずかだが明らかに力を抜いた。
(ずいぶん優しいご主人様だなあ)
 私も体の力を軽く抜いた。そのまま、私の背中が、とさり、とベッドに倒れ込む音を聞いた。

171:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:20:10 /ulSQ3lQ
 手慣れていないが、それでもてきぱきとした手順で、彼はあっという間に私を裸にした。
私の裸体を見て、彼が大きく溜息をつく。
「ほーう……」
「な……何よ」
「きれいだ」
「なっ!」
 恥ずかしくなって、胸と股を手で覆った。
「何言い出すのよ、こ、この、ド変態!」
「いや、かわいいな、その隠す仕草もさ」
「う、うるさい! このムッツリスケベ! エロオヤジ!」
「うん。まあ、否定はしない」
 うんうんと神妙な顔でうなずいている。またあしらわれている、と感じた。
「まあ、いいや。とにかく」
 彼は私の耳たぶに顔を近づけると、はむ、と唇で挟んだ。
「きゃっ!」
 そのままあちこちを、ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて強く吸った。
跡をつけているのだ、と理解するのに、十数秒程度の時間が必要だった。
(こいつ……マーキングしてる)
 ますます獣だ、と思った。人の体を縄張り扱いするな、とも思った。
 不意に、胸を隠している腕と、股を覆っている手の甲に口づけをされた。
「わっ! そこはやだっ!」
「んー?」
 彼は無理に手をはぎ取るようなことはしなかった。ただ、手の甲をひたすら
音を立てて吸っていた。
 妙に抵抗する気にもなれずに、しばらくされるがままになっていたが、
次第に腕と掌に妙な感覚を覚え、その正体に気づいて愕然とした。

 胸の先が尖って、腕に当たる。
 隠している場所が、しっとりと潤っていく。

172:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:21:35 /ulSQ3lQ
(嘘っ!)
 恥ずかしくなってつい手を離して、べたついた掌をまじまじと見つめてしまった。
「これは……」
「ち、違う! そんなはずは……」
「嬉しいね。反応してくれてるんだ」

 信じられなかった。それほど激しい愛撫ではなかったはずなのに、濡れている。
なぜだ。ひょっとして、信じたくはないが、この状況下で私も興奮しているのか。
(……て、いうか、いいのか、私)
 さっきから、一方的にされるがままになっている。今の姿を冷静に考えると、
男の欲望に屈して流されている形になる。そんなことが果たして許されていいものか。
 まして、こんな状況下で興奮している私は、一体何なんだ。マゾか。マゾなのか。
そういう変態さんなのか、私は。

「初めて見るが、こんなんなってるのか。じゃあ……」
 彼が股間に顔を突っ込もうとしていたので、反射的にチョップで沈めた。
「うがっ!」
「ば、馬鹿馬鹿馬鹿! そんなバッチイところ舐めるなっ!」
「舐めるなってお前……舐めないと、後で大変だよ?」
 何が大変なのかは聞きたくなかった。従兄の頭を全力で押し返すと、
意外にも彼は素直に頭を引いた。
 そのかわり、私の体の上にかぶさってきた。
「うわっ!」
「……本当に分かってるのか?」
 体重で潰れない程度に体を浮かせて、私の耳元で真面目な顔で言う。
「わ、分かってるわよ……ていうか、本気?」
「既に俺の中ではそういうモードなんだが」
 彼の目が据わっていた。穏やかだが、何かに酔っているようでもある。
「それに、言い訳っぽいが、誘ってくれたのはお前だ。それは本当に有難う。
で、俺はそれに乗りかかった船だ。最後まで行くよ」
「ううっ……」
 正直、ここまで来ると、怖さの方が強くなっている。
 だが、もう止められない。ものすごい勢いで、雰囲気に流されている感じがあった。
 それに、丁重に感謝までされてしまった。酷い男だ。これじゃ、断れないじゃないか。
「……好きに、すれば」
 私の方も、無責任ながら、そう覚悟を決めた。

173:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:23:49 /ulSQ3lQ
 従兄がズボンのチャックを開く音が聞こえる。
「叫ばれるとアレだから、口を塞ぐ。悪く思うな」
 唇を唇で塞がれた。
「むー……」
 下半身の狭い入口に、何かがあてがわれるのが分かった。
 次の瞬間、入口から脳天にかけて、全身に激痛が走った。
「んんんっ!」
 たまらず彼の唇を噛んだ。
 彼も痛そうに顔をしかめて、そのまま硬直していた。
「んー! んー!」
 悲鳴をあげたが、彼はそんな私を見て、難しそうな顔をするばかりだった。
(あ、そうか。叫ばなきゃいいんだ)
 ぐっとこらえて、彼の脇腹をぱんぱんと叩いた。そこで彼は口を離してくれた。
「何だ?」
「ぬ、い、て」
 彼は言うままに抜いて、どさり、とあぐらをかいて座った。

「血……」
 彼は私の下半身を見て、複雑な表情になっていった。
 そうだ。ヴァージンを彼に捧げた形になる。
 こんな形で。半ば押し切られる形で。

 嗚咽が、つい、口から漏れ出した。

「お前……」
 彼がまた唇を重ねる。また黙らせるつもりだろうか。それともひょっとして、
これで慰めているつもりなんだろうか。
 悔しくなって、つい、彼の舌をがりっと噛んだ。彼はまた痛そうな顔をしたが、
噛まれるままに甘んじていた。 

 悲しかった。痛いのも悲しかったが、それだけが悲しいんじゃない。
やっぱり、もっと優しく抱いて欲しかった。こんな半ば強要されて、
暗黙のうちに受け入れるのを余儀なくされる形なんて、そんなのってない。
 彼は沈痛な面持ちのまま、目をぎゅっとつぶって、私の背を強く抱き締めた。
私も返す形で、彼の背にひびを入れるくらいの心意気で抱き返した。
(傷つけ合っている)
 涙が止まらなかった。何でこんなことになっちゃったんだろう。
 痛かった。傷ついた。今は後悔している。最早、取り返しがつかない。
 全て、分かっていたはずだった。

174:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:26:09 /ulSQ3lQ
 私が泣きやむのを待って、彼が口を離し、そして開いた。
「我慢できなかった」
「は?」
 いきなり何を言い出すのか。
「女として見てしまって、正直、おかしくなっていた」
 今さら謝ろうというのか。
「まあ、今もおかしい訳だが」
 本当に何なんだ。
「だから言う。お前は可愛いよ。それに、会わないうちに、色っぽくなった。
率直に言って、お前が欲しい、と思った。俺のものにしたい、というか」
「は……はああ?」
 こいつ。何でこんな歯の浮くようなこと言ってるのか。素か。素なのか。
「お前の優しさが身に染みたし、お前の覚悟も真剣に受け止めた。
お前の誘いに乗ろうとも思った」
 何だ。何だ何だ何だ。マジでどういうつもりなんだ、こいつは。
「そういうことをひっくるめて、愛してると言っても過言ではない。
いや、愛してるよ、マジで」
「だ……だ、だだだだだ、黙れ! 黙れ黙れ黙れ! それ以上言うとコロス!」
 また脳のどこかが暴走しはじめた。ようやく、こいつがただ単に
本心を吐露しているだけなのだと気づいた。

 そう、本心なのだ。謝るとか、誠意とか、配慮とか、そういうの一切抜きで。
 それが、一番、私の心にダイレクトに響いた。トラックと正面衝突して、
そのまま吹っ飛ばされたような感覚だった。

175:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:29:33 /ulSQ3lQ
 彼は私の背中に手を回して、やや和らいだ表情で続けた。
「そのまま溺れていたら、多分俺は本当に楽になってたんだろう。
だが、そうはいかなかった。お前は嫌だった訳だからな」
「ふ、ふん、何よそれ。好きにすればいいって、私が言ったんだから、
好きにすればよかったんじゃない」
 彼がニヤリと苦笑した。
「そういう強がるところ、嫌いじゃないよ。こういうこと言うとお前は嫌なんだろうけど」
「うん。あまり嬉しくない」
「そうか。済まん」
 苦笑していた彼が、真面目な顔になった。
「まあ、それでだ。お前が痛がっているのに、喜んで続けるほど、
酷い男じゃないつもりだよ、俺は。だから止めた。そういうこと」
 抜け抜けとそう言い放つ。少し、むかっ腹が立ってきた。
「じゃあ、最初からするな、って話にならない?」
「ああ。だが、そこで、我慢できなかった、というところに話が戻る訳だな」
「自分に甘いのね」
 私の言葉に、彼が苦いものでも飲んだかのように沈痛な顔になった。
「……ああ。そこは俺の甘えだ。正直、お前の迷惑をあえて考えずに、
最初の最初で自分の楽な方を選んでしまったきらいはある。済まない」
 ぎゅっと抱き締めてくる。本当に申し訳なく思っているのが伝わってきた。
 不意に、胸が締め付けられるような感じがあった。こういう重い空気は慣れてない。
何か、返事しなきゃ、と思った。
「……あのさ。私が誘ったからってところも、ある?」
 言ってからすぐに後悔した。何で私はこう、自ら退路を断つようなことを言うのか。
「ああ。その辺のお前の覚悟を、真剣に受け止めた、つもりだった。
だが、それが結果的にこうなるんだったら、俺は踏みとどまるべきだったんだろう。
本当に……済まない」
「……」
 この男はこういうところで本当に素直で、本当に冷静で、本当に誠実で、本当に、

 本当に嫌になる。

176:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:31:11 /ulSQ3lQ
「……何をしている?」
 私は彼の上に馬乗りになってのしかかっていた。
「続き」
「続き?」
 言ってる意味が分かってないらしい。
「さっきの続き」
「続きってお前……正気か?」
「正気じゃないわね」
 まだ下半身がひりひりする。だが、最早そんなことはどうでもよくなっていた。
 再び涙が溢れる。自分の感情に耐えられなくなっている。
 こんな状況で交わるなど、正気の沙汰でないことは分かっている。だが、
(全部、こいつのせいだ)
 こいつには、責任を取る義務がある。
 何もかもおかしくなってしまった私を、どうにかすることも含めて。

 依然として固い彼のものを、無言で自分の中に受け入れた。

177:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:34:51 /ulSQ3lQ
 正直、じんじんと痛くて動くどころではなかった。彼もそれは分かっているのか、
私の腰に両手を添えたまま動かなかった。
 ただ、彼と私の呼吸と鼓動が、そして彼のもののわずかな硬化と肥大が、動きの全てだった。
「正直、助かる……」
「それはお互い様だ。まさか第二ラウンドとは思わなかった」
 ゆっくりと痛みが引いていく。わずかに擦れるたびにそこがうずいたが、
我慢できないほどではなかった。
 彼の方は気持ちいいのだろうか。本当は動きたいのではないのか。
「動きたくないの?」
 そんな余計なことを訊いてしまう。さっきから私は、本当にお馬鹿さんじゃなかろうか。
「まだいい。お前の痛みが引いてからだ」
「うん。ごめん」
「お前が謝るこたあないよ」
 彼の表情が和らいでいく。

 それからしばらくの間、私たちは、ひたすら無言で、小さな律動に身を任せていた。

「不思議だな」
 不意に彼がつぶやいた。
「え?」
「さっきまで、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったよ」
「うん」
 私も思わなかった。そう言えば、元はと言えば、第二ラウンドは私が始めたのだった。
 気がつけば、さっきまでの胸を刺すようなやるせなさが、いつの間にか薄らいでいる。
痛みもなくなってきていた。わずかな動きが、どことなく心地よいような気さえしていた。
「本当に申し訳ないが、この流れのまま、最後までやる。悪く思うな」
「……もう」
 そんなこと、いちいち言わなくていい、とかそういうことを言いたかったが、言葉が出なかった。
無駄なことだ、とも思った。
 動いていいよ、とは言わなかった。代わりに、眉を開いて、ふう、と長く息を吐いた。
 彼はそんな私の表情を、長風呂でのぼせたような蕩けた瞳で見ていた。
「実は……」
 彼岸からのつぶやきのような声が、私の耳に届いた。私も少しのぼせてきているようだ。
「そろそろ逝きそうだ」
「うん」
「動くよ。さっきの姿勢に戻る」
「分かった」
 彼がゆっくりと起き上がる。私はちょうどそのまま、ベッドにふわりと柔らかく押し倒されていった。

178:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:40:52 /ulSQ3lQ
 最初は緩やかに、次第に激しく、彼が動いていく。
 痛みはあったが、あえてぐっとこらえた。
「いいのか、おい」
「いいから、最後までちゃんとして」
「……」
 彼が無言で行為に没入していく。汗が額ににじむ。苦しいとも切ないともつかない唸り声が聞こえる。
私もつられて、やはり苦しいとも切ないともつかない唸り声を絡めていた。
(切ない?)
 確かに私も切なくて声を上げている。不思議だ。

 彼の表情が微妙に変わっていく。苦しいとも切ないともつかない唸り声はそのままに、
牙を剥き、私の顔に目をひたと据えていく。
 何となく、人の顔に見えなかった。
(……そうか)
 彼の中の雄の獣の狂気が、ようやく本格的に頭をもたげてきたのだ。

 覚悟はしていたはずだった。男は、こういうとき、愛も何も関係ない、
肉欲だけの獣になりうるということを。
 不覚にも今まですっかり忘れていた。ということは、さっきまで彼がよっぽど我慢していたことになる。
だが、それでも、今の恐怖と嫌悪と虚無がなくなる訳ではなかった。
(人じゃない何かに犯されている)
 最後まで人として扱って欲しい、愛して欲しいというのは、女のわがままなんだろうか。
肉体関係に肉欲が伴うのは当然のことだ。それを嫌がってもしょうがないのは承知しているつもりだった。
でも。でも。でも。

「俺は」
 彼が不意に口を開いた。
「獣になる。お前も獣になれ」
「え?」
 一瞬、ぎょっとした。心を読まれたか、と思った。
「俺は最後までやる。だから、お前も最後までついてこい、と言っている」
「……」
 躊躇していると、彼が正に獣の笑みを浮かべて、こう言った。
「せっかくだ。最後の最後は、自分の中のものを全部解放した方が、きっと楽しいぞ。俺も、お前も」
 獣が、否、悪魔がささやいている。
(そんなこと、私にできるんだろうか)
 迷いながら、静かに首を縦に振った。

 彼の笑みが、究極に邪悪なものに変わった。
 わずかに人らしさを残していた目の色が、完全に人ではないそれに変わっていく。

179:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:44:00 /ulSQ3lQ
 激しい律動の最中、彼の目を凝視した。
 肉を噛みちぎるような強烈な快楽の瞳が、私を射る。
(獣だ。獣だ。獣だ)
 食われてる。食われてる。食われてる。
 従兄が、私を貪って、その快楽に酔い痴れている。

 不意に、小さな痛みが走った。彼がぐっとうつむいて、肩甲骨の上に歯を立てていた。
 信じがたいことに、痛みを上回る強烈な甘い痺れが全身を貫いていた。
脳髄が焦げるような感じがあった。体が異様に重く感じられる。逃げられない。
下半身から何か生温かいものが噴き出しているのが、遠のく意識の中で分かった。

 最早、律動とは関係なく、途方もないだるさの中に落ちていく。
 地獄へ、落ちる。
(そうか。逝くって、こんなんなんだ)
 死の淵を覗き込む行為に似ていた。こんな途方もない境地を、なぜ人は望むのか。
(でも、解放感はあるな、確かに)
 これを楽しいと言い切れる彼の気持ちは、ほんのわずかだが、理解できなくはなかった。

 わずかに、肩甲骨の上に、生温かく柔らかい感触がある。彼が噛んだ跡を舐めているのだ。
ぼうっとした瞳に、彼の目が映った。主人の顔を舐める飼い犬のように、優しく甘えた瞳だった。
どうやら私は、激しい動きではなく、むしろそういう小さな変化に敏感になっているようだった。

 彼が口を肩甲骨から離すと、律動を再開する。
 次第に、彼の周囲が、ふわりと毛羽立って見える。
 瞳の中に、不思議な色が見える。牙を剥いたまま、微妙に表情がまた変わる。
奇妙なことだが、怯えているように見えた。
(何に、なんだろう?)
 何となく思い当たる節があった。さっき、私が噛まれたとき、全身を貫いた快楽。
あれは、望ましいものというより、どこかしら避けるべきおぞましいものがあった。
自分の意思を離れた凶暴な感覚。たとえ、それが快楽であれ。
 自分が失われる、その前兆の予感。
「ううう……」
 彼の声に、明らかに悪寒めいたものが混じった。素晴らしいがおぞましい、何らかの感覚に耐えている。
その恐怖がどんどん大きくなっていき、やがて瞳から、声から、顔全体に拡散していく。
「……くっ!」
 愕然とした表情を浮かべた後、何かに耐えかねたように目を閉じる。
 次の瞬間、私の中に、生温かい感触が注ぎ込まれていた。

(あ……)
 どろどろになった私の全身の毛穴から、彼の精が隅々まで染み込んでいくような気がした。
全身に、ぶるっと、大きな震えが走る。
 精の中に、自分が溶けて、ずぶずぶとどこかに沈み込んでいくイメージがあった。
(二度、逝ったんだ)
 意識を失う中、彼の姿が網膜に焼きついた。
 深くうつむいているその姿は、どこかしら、祈りを捧げる姿に似ていた。

180:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:46:10 /ulSQ3lQ
(それにしても、男って、大変なんだなあ)
 うかつにも、それが意識を取り戻した直後の、率直な感想だった。

 精を全部吐き出したのか、彼の体からオーラが消えた。
 同時に、さっきまで目まぐるしく変化していた表情が、拭ったように消えていた。
 放心したまま、わずかに体が崩れる。
 私の上に崩れ落ちる直前で、がくり、と彼の体が硬直した。そのまま無理やり体勢を立て直す。
 物憂げに腰を離す。白く赤く半透明に濁った液体が、糸を引く。
彼はポケットに手を突っ込むと、ティッシュで丹念に結合部位を拭き出した。
(うん。大変だなあ)
 下半身がひりひりする。だが、私は意外にも、不思議な満足感に浸されていた。
(やり遂げた)
 彼の中の、混沌とした凶暴な熱情を、全身全霊で受け止めたという実感がある。
 彼が私に服を着せる。私の肩を抱きかかえたまま、また難しそうにブラのホックをつける。
「いい。自分でやる」
 何だか微妙にズレているパンツを直しながら、私は彼に背を向けたまま、落ちている服を拾った。
「あのな……」
 彼が何か言っているので、振り向いた。
「何?」
「ごめんな。ありがとうな」
 結局、謝った。彼の性格から、そういうことをする気はしていたのだが、
「ごめんな、は余計だわ。謝るくらいなら、最初からやるな、ってさっき言ったでしょ」
 彼は気まずそうに笑ってうつむいた。
「……そうだな。二度と言わない」
「ふふ。それじゃあ次に何か、もっととんでもないことされたときに困るわ」
 すると、彼は神妙な顔で、こう言い放った。
「……するかも知れないなあ」
「……おーい? 何をサラリととんでもないこと言ってやがりますかこの男は?」
「いや、したい。お前と、また、いつか」
「……おーい」

 本当に、この男は。
 全く、しょうがないんだから。

181:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:48:47 /ulSQ3lQ
 服を全部着終わると、私は彼を、不意打ちの形で、飛んで押し倒した。
「うわっ! 何だ!」
「えへへえ。そういうこという口は、こうだから」
 ちゅーっと、奥深くに舌を突っ込んで、吸った。
「お、お前……」
 唇を離すと、悪戯っぽく笑ってやった。
「これで、仕返し終了。チャラにしておいてあげるわ」
 彼はまたしても呆れたような顔で口を拭うと、私の頭をつかんで引き寄せた。
「わっ?」
「チャラになんかされてたまるか。借りは作ったままにしておく。返すのは次の機会だ」
 さらに奥深くに舌を突っ込まれて、吸い返された。
「……えっへっへえ。そういうことするんだあ」
「ふははっ。そういうことするんだよ」
「あはははは。次まで待ってろって訳?」
「ははははははは。そういうことになるなあ」
 こいつ。
 私を、こう、犯したくなったこいつの気持ちが分かった。
 私も、今、全く同じ気持ちだ。
 私は彼をさらに押し倒した。抱き潰す勢いで、強く、深く。
「次までお預けね」
「ああ。次までお預けだ」
「ふふん。待ってるわよ。次は容赦しないから」
「待たせるよ」
「鬼。悪魔。獣」
「どれも否定しない。だが、俺を押し倒している人間の言うセリフじゃないな」
 彼は足を上げると、振り子の原理で私の体ごと起き上がった。
その勢いで、私をさらに痛いほど抱き潰し、唇をきつく吸った。

 傷つけ合っている。
 傷つけ合いながら、お互い貪り合っている。
 犯し、犯され合っている。
 こんなのって、ない。
 こんな危険な狂った関係、あってたまるか。

 私の下半身から、ごぼっと音を立てて、残っていた液体が溢れた。

182:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:50:27 /ulSQ3lQ
「帰るわよー」
 叔母の声が聞こえ、二人してビクッと震えた。
「やばい。戻るぞ」
「うん。ちょっと待って」
 慌ててパンツにティッシュを挟んだ。やはり汚れている。後で秘密裏に処分しなくてはならない。
「今行く。ちょっと待ってくれ」
 彼は私の手を引くと、部屋を出て階段を降りた。

 彼はまた見事によそ行きの表情を浮かべて、丁重に私と母に挨拶をした。
 私はまた、最大限よそ行きの表情を浮かべて、丁重に従兄と叔母を見送った。
 頬が歪むのを、必死でこらえて。

 体のあちこちの傷がうずいた。下半身、肩甲骨、手の甲、唇。
 彼との、悪魔の契約の印。

 逃れられない。

 彼と再び出会い、あの獣のような交わりに溺れることを。
 彼の欲情に屈し、犯され、貪られ、傷つき、穢されることを。

 祈っている。
 祈っている。
 祈っている。

183:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:57:14 /ulSQ3lQ
あとがき(超簡素版)

女の子が思い出していた漫画は、「シグルイ(9)」と「とりぱん(たしか3)」です。
「シグルイ」は残酷武士道漫画で、「とりぱん」はほのぼの田舎野鳥動物漫画です。
我ながらよく分からない組み合わせですね。(ていうかあとがきじゃないなコレ)

184:名無しさん@ピンキー
07/11/01 21:58:03 L1sQKWjr
>>183
リアルタイムktkr
GJっす(*´д`*)

185:名無しさん@ピンキー
07/11/01 23:41:37 BcVgHjor
GJ。感じました。
ただ途中までは普通に面白かったのに後半から
話(というか二人の会話)がいまいちわからなかった。

186:名無しさん@ピンキー
07/11/02 09:57:24 3vremv3f
当方♂ですが、面白かったです。
陵辱ものなのに男キャラがややいい人なところはアレですが、マイルドになっているとは思います。

ところで、作者さんってゲーマー?
今回の題名とか、今までの作品の中のオチのフレーズで、どこかで見たようなネタがあるんですけど。気のせい?

187:名無しさん@ピンキー
07/11/02 11:59:55 63+Gydfl
teacup illusionの人だ!
A-Kさんの書くお話は私の好みど真ん中にストレートで入ってきます。
作品全体に漂う雰囲気(?)がたまらなく好きです。

最近久しぶりにteacup~を読み返したばかりだったので興奮気味…

188:名無しさん@ピンキー
07/11/02 21:31:12 +CeeKd4g
同じくBaroqueも好きでした。
A-Kさんのはエロシーンが独特で面白い~。

今回のは凌辱風だけど凌辱じゃなくてw、GJっす。
ヒロインはツンデレ風味ですな。

189:名無しさん@ピンキー
07/11/03 06:07:54 P9UOLpjo
ごめん、無粋だとは重々承知しながら、
避妊の方はどうだったんだろー
と思ってしまう自分がいた。。。
雰囲気とか文体とかは好みでしたー。

190:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/04 23:11:49 2FcGRUZw
あとがき(もうちょっとまともな)

今回はちょっとリアルの方で大変だったので、
書くのに一週間かかってしまいました。
『Baroque』は丸一日、『teacup illusion』は三日だったことを考えると、
どんどん遅くなっています。マズイですね。

本当に色々キツかったので、
「おかしい! 参考資料の某女性作家のエロ漫画が参考にならない! (何やってんだか)」とか、
「女はツンデレ! 男は素直クール! 二人合わせてヤンデレモード! (上手くいってない)」とか、
「今回のBGMは『レイディアントシルバーガン』のサントラにしよう(シューター)」とか、
そういうよく分からない悲鳴を上げながら書いていたような記憶があります。

今回は、元某大生・元SE・元同人作家の知人の男性にバシバシ添削されました。
(前二作の男性キャラのモデルです)
「男がクズすぎる。こんなのにやられる話を喜ぶ女性読者がそんなに多いとは思えない」とか、
「女がリアルじゃない。嫌悪感に切実さがない。メリハリに欠ける」とか、
「女もある程度肉欲に溺れてないと、感情移入する女性読者が辛くなるだけなんじゃないのか」とか、
まあ、メチャクチャ参考になりました。(多分彼の好みの問題もあると思いますが)
今回は彼の協力がなければ(しょっちゅう世話になってるけど)、もっと時間がかかっていたか、
多分途中で投げ出していたと思うので、大感謝です。

仕事が落ち着いて、心に余裕ができて、何か思いついたら、また何か投下します。
ではでは。

191:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/04 23:22:25 2FcGRUZw
>>184,187
ありがとうございます。

>>185
まとめサイトの方だと思いますが、早急な対応、ありがとうございました。
会話については、確かに説明不足が数点見受けられました。次は気をつけます。

>>186
マイルドになったのは、女性読者重視のためです。
『Baroque』は『斑鳩』、『teacup illusion』は『レイクライシス』ネタを入れています。
(というか、このスレでそんなところまで読んでる方がいるとは思いませんでした)

>>188
私も元同人作家ですが、いわゆるツンデレや素直クールやヤンデレについて
あまり分かってないので、「こんなのかなー」と試してみたという側面はあります。
ツンデレは書きやすいですね。作り手や受け手の間で流行るのも分かる気がします。

>>189
本当は「妊娠のリスクに気づいて三か月ノイローゼになるくらい悩む男役」とか
やりたかったのですが、話全体との絡みを考えると読後感が悪くなるので、
今回はバッサリカットしてしまいました。ご了承ください。

192:名無しさん@ピンキー
07/11/05 04:33:07 2Wdi8KzO
弁明じみた後書きも添削してもらったらよかったんじゃないかな

193:名無しさん@ピンキー
07/11/05 06:25:58 BQq0RvfW
>>192
誤爆スレ池

194:名無しさん@ピンキー
07/11/05 07:40:06 b5bDkClv
それにしてもこんな長い後書きいらんだろ…
どれだけ作品が良くてもこれは萎える

195:186
07/11/05 09:04:17 kpUWYZkZ
やっぱりゲームネタだったか。

作者さんには次はアホの子キャラにチャレンジして欲しい。

196:名無しさん@ピンキー
07/11/05 10:24:42 rWDSm0iO
黒澤君、期待アゲ

197:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/05 20:37:33 HRMter4e
わあえらいことになってる。済みません。

>>192-194
以降自粛します。

>>195
がんばってはみます。

ではROMに戻ります。

198:名無しさん@ピンキー
07/11/05 22:06:54 nbaxp+iY
>>197
ドンマイ!

199:名無しさん@ピンキー
07/11/06 16:30:31 CX70Bf/H
黒澤くんにマジ萌え!
作者さんGJ!
ゆっくり充電して続きを是非vv

200:名無しさん@ピンキー
07/11/06 20:41:18 jHva6vUg
繭と黒澤君のことで頭がいっぱい。
早く続きを!

201:名無しさん@ピンキー
07/11/07 00:07:15 9SM+3wg6
催促するようなレスは控えましょう

202:名無しさん@ピンキー
07/11/07 20:22:41 s6nSrul6
催促する気持ちはすげーわかる
話うまかったもんなー

203:名無しさん@ピンキー
07/11/08 04:05:41 PG1G5EEH
読んでて、何だか高校時代のことを思い出したよ。
あの頃は良かったな。
まゆちゃんも黒澤君もいとおしいよ。

204:名無しさん@ピンキー
07/11/09 01:01:21 wywt4lP1
黒澤くんに惚れました。
クールな男の子がたまに見せる激情っていいよね。

205:名無しさん@ピンキー
07/11/10 23:41:51 P1pRPY4/
首を長くして待ちながら保守

206:名無しさん@ピンキー
07/11/11 23:45:53 DBeu2rM1
黒澤君期待age

207:名無しさん@ピンキー
07/11/12 22:40:57 6oYs6NTe
プレッシャーをかけてはいかん
他の書き手さんも投下しにくいだろうし

208:名無しさん@ピンキー
07/11/13 01:47:26 quywlWq7
他の職人さんもお待ちしています

209:名無しさん@ピンキー
07/11/14 03:19:19 xxJ5OAac
ごめん、つい。

210:名無しさん@ピンキー
07/11/15 01:02:16 7XB/qms8
誰でもいいから投下お願いします

211:名無しさん@ピンキー
07/11/15 15:21:33 WBl/v17F
うぜーw

212:名無しさん@ピンキー
07/11/18 08:23:14 ttJM568v


213:名無しさん@ピンキー
07/11/18 23:54:33 wFmB6sLH


214:名無しさん@ピンキー
07/11/22 03:24:12 yzxrpp49
投下待ち

215:名無しさん@ピンキー
07/11/23 17:18:14 Aepi+Os4
香織のメイド日記 きぼんm(__)m

216:名無しさん@ピンキー
07/11/26 17:58:17 zm3BMbWx


217:名無しさん@ピンキー
07/11/27 22:22:53 KrtoCDBm
過疎ってますね

218:名無しさん@ピンキー
07/11/28 17:01:37 jpdh8CEi
なんでだろうね

219:名無しさん@ピンキー
07/11/29 00:06:01 bfxO7UBT
いつもこんなもんだ、マターリ

220:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:33:43 8JsjlS/S
もう来ないのかな?

221:名無しさん@ピンキー
07/12/01 01:59:58 52GeJubl
期待してます

222:名無しさん@ピンキー
07/12/03 19:26:15 K8khhAKi
エロ薄めでよかったら投下しますが…

223:名無しさん@ピンキー
07/12/03 19:55:27 yhyL0aEg
ばっちこーい

224:無題
07/12/03 21:15:12 mNzvJ3+G
「頼むッ! 恋人になってくれ!」
土下座までするソイツを見て私は踊りだしたいような高揚感に包まれた、と思う。
もちろんそれはおくびにも出さないというか出せないというか。
私たちは幼馴染、というだけでアイツにはいつも好きな女の子がいたし、
私は『一番仲良しの女子』というポジションを崩さないように自分の気持ちを封じ込めていたから
アイツの毎度毎度の恋愛相談にも快くのっていた。
なのに。
「頼むよ。恋人になってくれよぅ」
「どうしたの? とりあえず土下座はやめて、部屋で話そっか」
目の前で起こっている出来事が夢でも覚めないで欲しい、そう願いながら
おそるおそる事情を聞くことにした。

「来週ウチのガッコの学園祭があるんだけど……ダチ全員彼女連れてくるって言うしさー」
「この前告白したミクちゃんとかいう子はどうしたのよ」
「その日は本命の彼氏のガッコの学園祭なんだと」
「それって……」
「うん。 いや、俺がね、本命じゃなくてもいいから付き合ってくださいって告白するときに言ったんだけど」
「自業自得じゃん」
「うん。 だからちー子、頼むッ! 恋人になってくれ!」
……それは。恋人じゃなくて学園祭で自分だけ一人なのが恥ずかしいからってことじゃないの。
「頼めるのお前しかいないんだよぅ」
「もう、情けない声出さないでよ。はいはい、わかりました。学園祭に一緒に行けばいいんでしょ」
「やった! さすがちー子様!」
「お昼ごはんとおやつ、ぜーんぶアンタのおごりよ?」
「もちろんでございますぅぅ」


225:名無しさん@ピンキー
07/12/03 21:17:40 mNzvJ3+G
ウソの彼女だっていい。アイツの彼女として側にいられるなんて、ずっと願ってきた夢みたい。
だから当日、私はケバくないように、でもしっかりとメイクをして、髪もしっかり巻いてセットした。
アイツが友達に「女を見る目がないヤツ」と思われないように。
もしアイツの友達に話しかけられたらおとなしめでいよう、とか無駄に好印象プランを練りまくって。

「すげえな。本当に女の子みてえ」
迎えに来たアイツの目が丸くなってるのがわかる。
「はいはい、どうせ普段はオッサンですよ」
「や、違うって! かわいい! かわいいよ」
ぶーたれる私をなだめようと必死に私を褒めてくれるのが、嬉しい。
にやけそうになる顔を必死にこらえているだけなのに、アイツはまだ一生懸命褒めてくれる。
「どうせだから」
「え?」
「手、繋いで行こっか。 せっかく恋人同士なんだし」
ななな、なんで今日は積極的!? うろたえる私に
「そういや昔はいっつも手繋いでたな」
「それはアンタがすぐ迷子になるから……!!」
わあわあ騒ぎながら電車に乗って、アイツの通う学校に着く頃には私たちは恋人になっていた。

たこ焼き、ホットドック、クレープ、おしるこ、カレー、カキ氷、おでん……
模擬店を各個撃破していると、うきうきした気分で満たされてくる。
当たり前だ。お祭り気分というだけじゃなく、模擬店に行っても展示を見に行ってもアイツの後輩が出てきて
「先輩の彼女さん、キレーっスねー」
と言って私を褒めてくれる。社交辞令にしろその言葉はアイツの彼女としての私に向けられた言葉だ。
ずっとずっと願ってやまなかったその立場に自分がいる。
ウソだけど。
一日だけだけど。
心の奥に刺さった棘がチクンと痛んだ。
「あれ?」
アイツがいない。私がよそ見してる間にどこかへ行ってしまったんだろうか。
子供の頃いつも迷子になって泣いていたのはアイツだった。
今は図体だけはデカくなったけど。
そんなことを考えていたら急に寂しくなって、泣きたいような気持ちになる。
賑やかなお祭りの中でただ一人置いていかれているのは自分だけだ、というような。
「ちー子! すまん、知り合いにつかまってた」
背後から不意に懐かしい声が響いた。
「どこいってたんだよ。ちー子が迷子になるなんて、らしくねえぞ」
「ごめん……」
泣きそうなのをこらえるには、あまり喋らないほうがいい。
「いや、こっちこそごめん。ちー子にとってはアウェーだもんな。ずっと側にいなかったオレが悪かった。
やっぱり手ぇ繋いでよう」
こっちの気持ちはお見通しみたい。今日のアイツは妙に冴えてる。

226:名無しさん@ピンキー
07/12/03 21:19:48 mNzvJ3+G
お腹がはちきれそう。甘味の屋台を巡るのにもそろそろ限界だ。
「少し休憩するか」
アイツの言葉に私は素直にうなづいた。

私の手を引いたアイツは人ごみに逆らって校舎の中を奥へ奥へ、人気のないほうへと進んでいく。
「美術準備室」と書かれた部屋の前でアイツの足が止まった。
「ここの窓、鍵が壊れてんの。ちょっと待ってて。ドア開けるから」
そう言うとアイツは泥棒みたいに窓から部屋に入っていった。
ドアを開けてもらって入ったその部屋は埃っぽくって、それでいて落ち着きを感じさせる空間だった。
デッサン用の石膏像や描きかけのキャンバスもあって雑然としているけど、かえってそこが落ち着く、みたいな。
「コーヒー飲むか?」
「うん」
そう言うとアイツは教員用らしいコーヒーメーカーを使ってコーヒーを淹れてくれた。
「慣れてるのね」
「美術部にもダチいるし、よく来るんだ」
「ふーん」
私の知らないアイツ。
「そういえば、ちー子昔はコーヒーダメだったよな。今は大丈夫なんだな」
「……今も得意じゃないけど」
「ゴ、ゴメン」
「謝らなくていいわよ」

「今キスしたらコーヒー味だな」
不意をつかれて私はフリーズした。
アイツはそのまま何も言わずに私の髪に手を伸ばした……そう思った瞬間にはキスしていた。
「イヤか?」
それはコーヒー味が? キスが?
返答に困っていると、もう一度キスされた。
今度はいわゆるディープキスというやつ。
もうコーヒー味とかそんなの全然わからない。心臓がバクバクする。顔もきっと赤かったと思う。
「……ゴメン」
長いキスの後、最初に口を開いたのはアイツだった。
なんで? なんで謝るの? そう聞きたかったけど、何か怖かった。
「今日ちー子と一緒にいてさ、スゲー可愛いと思った。で、さっきの顔見てたら、つい……キスしたくなったんだ。
だけど、お前の気持ち無視して本当にゴメン! 形だけの恋人って約束、忘れてた。」
え? え? それって……どういうこと?
「今の、忘れてくれ」
「忘れられるわけないじゃない。ファーストキスなのに」
「ウソだろ」
「本当。ついでに言うと、ずっとアンタのことが好きだった」
隠していた想いが堰を切ったようにあふれ出してくる。
「ウソでもいいから恋人になれて、嬉しかったの。デートできて、めちゃくちゃ嬉しかった」

「「恋人になってください」」
重なる、声。

227:名無しさん@ピンキー
07/12/03 21:21:02 yhyL0aEg
投下乙
とりあえずガリレオ終わったらゆっくり読みます

228:名無しさん@ピンキー
07/12/03 21:22:59 mNzvJ3+G
引き寄せられて、抱き合う。
何度キスしたか途中で数えるのを私はやめた。
「やべえ」
「どうしたの?」
「いや……」
アイツの目線の先には、膨らんだズボンの股間。
「お前を抱きたい。ケーベツされるかもしれないけど、お前のこと好きだからこうなっちゃったんだもん」
「今、ここで?」
「できれば。お願いしますちー子様」
哀れっぽく言うその姿に思わず笑ってしまう。
「初めてなんだからね」
「じゃあ手でお願いします」
「いいけど。私、その……初心者だから、うまくできるか自信がないんですけど」
椅子に腰掛けてズボンとパンツを下ろしたアイツの姿は、傍目に見るとややマヌケだったと思う。
けど、私はそんなことを考えている余裕もなくて、目の前に出されたソレの存在感にただただ吃驚するばかりだった。
「どうすればいいの?」
「キツく握って。大丈夫だから。で、上下に動かしてみて」
言われたとおりにやってみたつもりだけど、よくわからない。
アイツの顔を見てみたけど、アイツが嬉しそうな顔して私を見ているのに気がついて目をそらしてしまった。
勢い、ソレだけに注目している状態になってしまう。
気持ち良くなってくれますように。それだけを感じながら懸命に手を運動させる。
「たまんねえ」
感極まったような声を吐くアイツに運動は中断させずに問いかける。
「気持ちいい?」
「なんつーか、このぎこちなさといい、初々しくて最高です!」
でも、男の人の「おわり」にはまだ達しそうもない。

229:名無しさん@ピンキー
07/12/03 21:25:19 mNzvJ3+G
私は思いきって、いつか見たHな漫画を思い出しながらソレに唇をつけた。
「わ、わっ! ちー子っ」
「嫌? 気持ち悪い?」
「いや、スゲー気持ちいいんですけど……無理しなくていいんだぞ」
「大丈夫」
最初はキスの雨を降らせるように。徐々に大胆に舌を絡めてゆく。
思い切って口に含んでみる。
「いい。スゲーいいよちー子。そのまま上下に動かせるか」
リクエストどおりに自分が行動できてるかは自信がなかったけど、気持ちよくなってほしい一心で何でもしてあげたいような気持ちだけが私を動かしていた。
クチュクチュ、ピチャピチャという湿ったいやらしい音とアイツの吐く息、それに私の心臓の鼓動だけが時間の流れを表していた気がする。
「ちー子」
呼び止められて顔を上げる。
「もう、いいから…… ティッシュ取ってきてくれ」
「ん」
戻ってきたときにはアイツは息を荒げて、辛そうな苦しそうな顔をしていた。
「手のひら、ここに当てて?」
訳がわからないまま先端に手をあてた、と思ったら
「「!!」」
精が放たれた。


「ゴメン。本当にゴメン」
「謝んならすんな」
冗談交じりに憎まれ口をたたく。
「でも、本当に気持ち良かった。ありがとな」
「ん」
「愛してるから」
「ホンマかぁ~?」
思わず関西弁でツッコミを入れた。
「ずっと…」
「「そばにいてください」」

この瞬間は、ウソじゃない。

(完)

230:名無しさん@ピンキー
07/12/03 22:22:07 yhyL0aEg
乙す
読みました
初々しくて良い感じですが、もうちょっと「人が来たらどうしよう」的なドキドキ感も欲しかったなぁと思います。
この二人の初エッチも読んでみたいなーと思います。
気が向いたらまた書いてくださいねー

231:名無しさん@ピンキー
07/12/04 02:04:33 8012KFsF
乙です!
テンポよく読みやすかったです
ただこの流れでは、ちー子がセフレにされるんじゃないかと心配になったw

嘘の恋人だと友達にばれてちー子争奪戦とか、性欲以外に♂の愛情が見えるエピがあったら
エロも萌えも高まると思いました

232:名無しさん@ピンキー
07/12/04 02:18:08 oHF9oMvE
キャラと状況設定と長さがうまくバランスして理想的。
読んでて気持ちよかったよ、GJ。

233:名無しさん@ピンキー
07/12/07 18:53:41 POjfzOqN
乙!かわいい話で良かったです。
この長さの話に盛り込むのは大変だと思うけど、
男の子→ちー子なところがあったら、なおGJでした。


234:名無しさん@ピンキー
07/12/09 06:01:35 1gU/jhk7
微エロにも満たない微エロですが…

電気を落とした部屋は寒い。
その中で彼女は自分の布団だけが嫌に暖かいのでなかなか寝付けないでいた。
「はぁ…熱い…」
もぞもぞと布団から顔を出すと黒く冷たい空気がひんやりと頬に気持ちいい。
毎日寒い日が続いたにもかかわらず…と、彼女はうたたねをしてしまった事に後悔をした。
ため息をついたらうとうとと眠れそうな気がする。
ふぅと一つ息をはいたらすばやく布団の中をくぐる音がして、背中にひんやりとした感触がひたついた。
「ちょ…何してるんですか!」
「冷え性で寝付けないんでな」
彼は彼女の背中から手を離すと狭い布団に潜り込み、暖かい寝巻きに唇を寄せた。
「言ってる意味が…」
分かりません、と繋ごうとした唇を無理やり塞がれた。
強引に引き寄せられた首の痛みと共に、彼の冷たい体のにおいが首筋をのぼってくる。
「ん…!」
身じろいだ隙に、寝巻きのすそから冷たい手が入り込む。
その冷たい感触だけでぞくぞくとしたものが背中を走るのに、彼の指は胸を執拗に攻め始めた。
「んぅ、ん…ぁ!」
声が全部舌に吸い込まれて消えていく、たっぷりと蹂躙された後ようやく唇が離れた。
「か…風邪感染りますよ」
「お前の弱っちぃ風邪なんか感染らねぇよ」

235:名無しさん@ピンキー
07/12/09 06:04:16 1gU/jhk7
そう言い終わらないうちに彼女の熱い首筋に軽く歯を立て、親指で突起をいじる事に専念する。
「あ、いや…んっ」
彼女の細い指が力なく彼の肩に抵抗するが、彼の舌はいともゆっくりと首筋から鎖骨に伝い、胸の先までたどり着く。
「熱いな…」
「だめ、ですってば…!」
痛みと痺れるような快感が胸の先からちりちりとうなじまで上ってくる。
まばたきですらも高熱を感じさせる、もう良いだろう?と呟いて、彼は手を火照る彼女の下半身へと伸ばした。


次の日
「ゴホッ」
「あー、やっぱり風邪ひきましたね」
「ひいてねぇ」
「ひきました」
「ひいてねぇ」
「ひーきーまーしーた!」


―――――
以上です。
実際、風邪の時は本当ダメらしいですね。
携帯からな上、短くてすみません。


236:名無しさん@ピンキー
07/12/09 21:44:27 AS2REL+u
>>234-235
イイヨーイイヨー
こういうちょっとした話って好きだ

237:名無しさん@ピンキー
07/12/10 23:53:42 lvxf9BZw
224です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
書くの久しぶりというか、以前一回書いたっきりだったので自信がなかったんですが
反響がかえってきて嬉しかったです。

言われてみれば確かに、恥じらいの無いバカップルですいませんw
(実は最初の構想ではちー子の経験&知識不足にアイツがつけこんで
最後までヤってしまう…という展開だったのですが、
さすがに初体験でどんなプレイだよwということでこういう風になりました。)
アイツの心理描写が甘かったのも、確かにそうですね。

今読み返すとアイツが自分の手でフィニッシュまでもっていく描写も入れ忘れてた… orz
次は頑張ります。

238:377
07/12/14 17:38:48 VzljUG6Q
お久し振りです、投下します。
ちょっくら長いです。

239:VS幼馴染+α 1/24
07/12/14 17:40:51 VzljUG6Q

 ていうか、あいつ嫌いだ。
 男の癖に私より顔がキレイで髪がサラサラだし。
 勉強出来るし運動出来るし、センスとか全然無いけど、もてるし。
 性格イヤミの癖に人望あるし、家は金持ち。なんだこの完璧超人。

 …ひがみなのか?と自分も思ったし、他人にも本人にも言われた事ある。悩んだ事もあ
る。けど、今は――というか、小学校2年生くらいでもう悟った。単純に嫌いなだけで、
あいつがブサイクだろうが貧乏だろうが、きっと変わらなかっただろう、と。
 なので、一緒にいると精神衛生上悪いから離れようとしたんだけど…
 なんか知らんけど、今度はあいつがわざわざ私に突っ掛かって来るようになった。
 用も無いのにわざわざ寄って来てイヤミを言って来るし、変な技掛けてくるし…

 あいつとは、ただ単に本当に相性が悪いだけじゃなく、きっと前世は巨人ファンと阪神
ファンか源氏と平家かLAWとCHAOSか何かの、争うべき立場だったんだろう。

 ――いや、ホントのホントに自分でそう思っていたんだけど。




「…?」
 現在、時刻は9時43分。ドラマのちょうどいい所でチャイムが鳴った。イラっとしな
がら、覗き窓から来訪者の顔を見る。どうせ酔い潰れた工藤か、ケンカして来た三沢だろ
うかと思っていたけど、アラ勘違い。

「え?マジ?」
 顔が引き攣るのがわかった。だってそこには、あいつが――立てば悪口、座ればイヤ
ミ、歩きながらのブレーンバスター、最早自分で何を考えているかもわからんくなるくら
いに嫌いなあいつ、千田昌平の野郎が。
「すいません、どちら様ですか」
 とりあえず、他人のフリをする。バレたら妹が来てるって事にしよう。
『…先に言っておくが、お前に妹はいない』
  バレるどころの話ではなかった。
 くそ、人の行動パターンとかも逐一読みやがって…私は負けたと思ったので、ドアチェ
ーンは外さずに戸だけ開ける。あれか、何かの罰ゲームとかか?

「…なんだよ。これ以上は開けないし、入れんぞ」
 こいつの性格を考えて、爪先も入らないようなくらいちょっとだけ開ける。
「ふん、俺だってお前の部屋になんぞ入りたくも無い」

240:VS幼馴染+α 2/24
07/12/14 17:42:53 VzljUG6Q
「じゃあ帰れ」
 そう言って、ばたん、と閉めてすぐに鍵も掛ける。ドラマは頼まれて録画してあるから、
テレビを消して寝てしまおう。そう思ったのに。

 ぴんぽーん、ぴんぽ、ぴん、ぴん、ぴん、ぴんぽーん。

 …千田の癖に、中々切羽詰った?状況なようで。私はちょっとだけ優越感を感じながら、
とりあえず『うるせー、死ね』と、メールを送る。すぐに返事。『黙れ、お前が死ね』。よ
っしゃ、私は更に返信『あーあ、傷付いた。せっかく入れてあげようと思ったのに』と。
 送ってすぐに電話が掛かって来た。
『最初からそんな気も無い癖に言うな!!』
 名乗らずに、怒った声で叫んですぐ切れた。ていうか、何がしたいんだこいつ。私は携
帯の電源を切って、さっさと寝る準備に掛かる。が、またチャイムが鳴る。くっそ、こっ
ちも電源切ったろかと思いつつも、ここまでしつこいと気になって来てしまう。
「用件だけ言え」 
 根負けして、私はさっきと同じだけドアを開いて言った。
「お前は来客に対して」
「閉めるぞ」
 まずイヤミかよ、と思ったけど、こっちが今は上なので、強気に被せる。珍しく悔しそ
うな顔をしていた。
「…入れろ」
「断る、嫌だ、絶対に嫌だ。死んでも嫌だ」
 即座に断る。ふざけんなバーカ。なんで嫌いな奴を部屋の中に入れなきゃいけないんだ。

 まあ、こいつが私に何かする、というのはプロレス技かイヤミ言うかくらいで、なんつ
ーか、ホレ、そういう事したいってのは、限りなくZeroどころかマイナスだろうけど。
 うう、なんか一瞬そういう『へっへっへ、もう逃げられないぜ』『きゃー、いやー、おか
あーあさぁーん』『観念しなー』『ああぁ~…』ぽと。(←椿かなんかの花が落ちる音)…と
か想像して、マジ寒気がして来た。自分の想像力の貧困さにも泣けて来た。
 千田は私の顔を見て、やっぱり同じような想像をしたのか顔を引き攣らせながら。
「安心しろ、お前をどうにかするくらいなら工藤をどうにかする方がまだいいしい楽だ」
「…どの工藤だ」 
 因みに、工藤は三人いる。
「三人全部だ」
「ハゲて死ね」
 ばたん、と閉める。もう開ける気は無い。けど。
「――っ!?」 
 ドアを開ける音。
 しまった!鍵忘れてた!でもドアチェーンが、とか油断していたら相手の思うツボ!!
「…俺を入れんと、借金取りの真似事をするぞ」


241:VS幼馴染+α 3/24
07/12/14 17:44:55 VzljUG6Q
 この野郎、何が目的かは知らんが強行手段飛び越えて脅しに掛かってキヤガリマシタ
ヨ!ていうか、ここまでアレだと、なんか必死に見えて来る。とりあえず趣味の悪いグラ
サン掛けて発声練習してやがる。
 ま、こいつは本気で私に何かしようとかは無いだろうしな。いやいやホント。
 物凄く嫌だけど、恥をかくくらいなら、と私はこのバカタレを部屋に招く事を決めた。



「さて、なんの用だ。すぐ死んでくれるとありがたいけども」
「お前が先に死ね」
 ふん、とでかい態度でそっぽ向くけど、なんとなく若干いつものキレが無いような気が
する。とりあえず何か飲み物でも…
「冷えた豚汁と水道水、どっちがいい」
「あっためろ」
 ツッコミは一応機能している。若干、震えている…のか?本当に、犬猿どころか軍鶏VS
軍鶏みたいな関係の私の家に来るって、本当にどういうつもりなんだか。とりあえず、指
差して笑うのは、もう少し情報入手してからだな。とりあえずは油断させるか。

「ほれ、生ぬるい豚汁」
 あっつあつにしては、逆に罠かと思われる。なので、中途半端に油が浮いてぬるい豚汁
を湯飲みに入れて渡した。イヤーな顔しながら、でも一応飲む千田。ほっと一息ついた所
で、湯飲みを机の上に置いて…なんか、急にいつもの横柄なオレ様千田に戻る。
「よし、出てけ」
 私は改めての挨拶代わりに玄関を指差す。が、千田は動かない。
「ふん、相変わらず礼儀がなってないな。この俺がわざわざお前の掘っ立て小屋に来てや
ったんだ。丁重にもてなせ」
 
 …やっぱ、こいつにいつものキレは無い。ボケが甘い。ここは掘っ立て小屋じゃない。
立派な賃貸マンション、しかもこいつの親の持ちもんだっつーのに。
 普段の千田なら、こういう細かい所で突っ込まれるようなボケは放たない。因みに、な
んで私がこいつの親のマンションにいるかっていうと、こいつの親とは仲良しだからだ。
 まあ、実家近いし、親の前じゃ千田もいいこちゃんぶってるから、それに乗って仲良し
でいると物凄い形相で千田が睨んでくるから面白くて面白くて。
 結果『貴枝ちゃんがお嫁さんになってくれればいいのに』と言われている現在。
 …おばちゃんには悪いけど、それは多分無い。ま、それはさておき女の子のひとり暮ら
しはこのご時世危ないという事でイイお値段で部屋を借りている訳だ。
 で、こいつなんだけど。
「お前、おばさんに言うぞ。このマンション掘っ立てとか、夜這い掛けに来たとか」
 あまりに私に優位過ぎる状況で威張ろうったって、土台無理な話なのに。やっぱおかし
い。ここはひとつ、大人な私が降りてやるしかないのだろうか。


242:VS幼馴染+α 4/24
07/12/14 17:47:13 VzljUG6Q

「…ふん、俺がお前を夜這いだと?」
「うん。変なグラサン掛けて、私がお前に借金してるって嘘言いふらすとか脅し掛けて部
屋に入って来るって…立派に親御さんに言える」
 だから、馬鹿だなあ。問題はお前の気持ちじゃなくて、歪曲も何もしていない事実を伝
えられた側がどう思うかって、今は思い付かないのか。

「――もう。まあいいや。馬鹿話は後だ。用件言え。今からスーパー真面目タイム。茶
化しは無し」
 これ以上はもう、ただの繰り返しになる。有益な情報も手に入らない。私は姿勢を正し
て、千田の顔を見る。千田もスーパー真面目タイムと聞いて、ようやく我に返る。

「…お前、霊とかそういうの、信じる方か」
 お前、宗教走ったんかい。と、すぐさま口をついて出そうになったけど、止めた。なに
せ今はスーパー真面目タイム。元はスーパーのタイムセール品を両方のお母さんに買って
来いと言われ、その時だけは争いなしで協力し合う時の言葉だったんだけども。
「…私は、そういうの感じた事無いけど…信じるかっていったら、ちょっと信じる」
 ちょっと、と、親指と人差し指をくっつけて、1cmくらいだけ離す。ほっ、と千田は
安心したような顔になる。
「――工藤の新居、行ったか」
「え?うん、行った。高校ん時から住みたいって言ってたし。自分らがゲットするまで場
所とか教えてくれなかったから、興味あったし。あそこいいよね。すっごい住みやすい」 
 でも何故か、そこには工藤の内2人しか住んでいない。別にいいんだけど。

 はん、と、なんか鼻で笑われた。スーパー真面目タイムなのに、カチンと来た。私は千
田を睨んでやる。けれども意に介さず。
「――ふん、やはりな。お前みたいな鈍い人間にはわからんか。工藤達もお前レベルだ
からこそ、あんな所で住めるんだろうがな」
「そんな事より、お前が言うと工藤が結婚したみたいだな」
 わざと、話の腰を折る。先にルール違反したのはそっちだ。商談not成立だ。
「で?鋭い千田様はなにがおわかりになったんですか千田様。ご自慢が終わったら早急に
お帰り下さいな」
 べー、と舌を出す。ホントにこいつ嫌い。ていうか工藤も水沢もなんでこいつとつるん
でんだかわかんない。まあ、あいつらもお世辞にも性格がいいとは言えないけどさ。

「…つまりだな、俺はお前と違っ」
「寝言は寝て言え、この珍滓が」
 つまり、の時点で被せてやったわ。
 そして、ルール違反は見逃してやる。こいつ、おかしい。支離滅裂にも程がある。同じ
事を短時間に何度も言いやがって。もう本当におかしい。


243:VS幼馴染+α 5/24
07/12/14 17:49:15 VzljUG6Q
 私は冷蔵庫に走り、中からマヨネーズを取り出し、蓋を開けて顔に突き出す。
「単刀直入に何があっただけ言えええええええええええええ!!」
「工藤の家でめっちゃ怖い幽霊が出てこっち向かって来たんで逃げてきましたあああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 眼球に刺さる勢いで突き出したのにマジビビリしたのか、絶叫してくれた。
 そして、今がチャンスと思い、私はマヨネーズの蓋をしめて、指を差して。
「っはん」
 と、鼻で笑った。
 けれども、一旦その恐怖っつーの?開放してしまったらもう抑え切れなくなったのか、
私の嘲りをスルーして、顔をみるみる青褪めさせて変な動きをして語り始めてしまった。

「だからな?カラオケ行って遅いから工藤ん家呼ばれて、コンビニ新商品祭しようって話
でさ。俺は普段そんなコンビニのもんなんか食べないだろ?もうすっげぇ食いたくて、そ
んでもって家入った瞬間だよ、なんか、首がそこまで曲がっちゃいけないだろ確実にって
くらい曲がってスーツで血塗れの頭髪の不自由な30代から60代のオッサンが、俺の方
だけ見て、眼が合ったら一目散に追いかけて来て、俺、全力で走って全力疾走して、気が
付いたら、その…ここに」
 ガクガクと変な動きして、大分変な日本語で状況説明してくれた。

「あ、だからさっきからお前のコートに血ぃ付いてたんだ」
「ひぎぃいいいぃぃいっ!?」
「わ!?」 
 明らかにウソ丸出しなのに、変な喘ぎ声みたいな叫びで私に飛び掛って来た。重い。抱
き付くな。ていうか、本当だからすげー怖い。コートの肩付近に血の手形がべっとりと。
いや、気付いたのはついさっきなんだけどさ。
「っ、う、うううう、ウソ、嘘だろ!?」
「いや、あの、嘘だったらよかったよね」
 …これ、工藤達と千田の壮大なドッキリならいいのになあと思いつつ、私はとりあえず
千田のコートを脱がせる。そして。
「捨てて!捨てて棄ててすててえええええええっっ!!」
 見た瞬間、また大パニックを起こす。とりあえず、私は玄関まで飛んで行って、丸めて
外に置いておく。このコート、千田はもう着ないだろうな。私欲しかったから、血ぃ取っ
て塩撒いてから着ようっと。
 玄関を閉めてしっかり鍵を掛けて、ついでに、そこらにあった水沢から旅行の土産で貰
った変な魔除けの人形をドアノブに引っ掛けておく。ストラップ付きだから、多分こうい
う時の為にあったんだろう。ご利益無くて、もしえらい目にあったらその時は化けて出る。
 くっそ、嫌がらせか。戻ったら千田は小鹿のようにプルプル震えやがってた。
「…ほれ千田、もう大丈夫だから。水沢の協力もあって多分奴は入って来れない」


244:VS幼馴染+α 6/24
07/12/14 17:51:20 VzljUG6Q
 とりあえず、水沢の名前出しときゃ大丈夫だろ。あいつ素で霊丸とか廬山昇龍覇を撃て
そうだし。
「ほ、ホント?じゃあ、俺生きたまま脳ミソ弄られて情報搾取とかされない?」
「…お前から有益な情報出ないから大丈夫だっての」
 はあ、と溜息をつく。こいつ、恐怖のあまり普段のうっすい殻が完全に剥げ落ちてやが
る。ていうか、もしかして。

「泊まる気?」
「――さて、彩川。お前俺に言う事があるだろ?」
 視線で気付いたのか、うっすい、ぺっらい、いつもの殻をようやく被って、若干まだ青
褪めながらもいつもの千田に戻った。ていうか、言う事とは?

「ヘタレ」
「…違う。この俺がここまでお膳立てしてやっているんだ。馬鹿なお前でもわかる筈だ」
 いやいやいやいやいやいや。
 いや、本当にわからないって。どういう事だ?そんな事より、明日休みとはいえもう眠
くて仕方ないんだけど…
「あの、もう寝るからさ、頼めないんなら家出すよ?お前は本当にいいとこのボンボンの
癖して礼儀がなってないよな」
「…彩川、お前俺が好きだろう。受け入れてやるから告白してもいいぞ」 
 びしっ、と、なんかキメやがった。別の意味でもキメてやがるな。恐怖で。

「あのさ。お前はもう、泊めてやるからそこで寝ろ」
 もう、疲れた。本当にこいつ嫌い。どうしてこんな自信過剰でアホなんだろ。こんなや
つ好きにはならないっての。
「ベッドよこせ。後、流すな」
「…流しもするわ。な、千田」

 こういうのだけは、こいつは本気でわかってなかったとしたら今後も大変だろうし、そ
うでなくたって凄く不愉快になったから、言う。
「…お前、人に――私にものを頼むのが嫌だからってそういう事言うんだろうけど、そ
れって凄く嫌だ。仮に、本当に仮に、百歩譲って仕方なく、仮定として言うけど、私が本
当にお前を好きだとしても、そんな事言われたら嫌いになる。それに」
 珍しく神妙に、黙って私の話を聞いている。
「それに、なんで今この状況でそういう事言うんだよ。これで付き合う事になったら、一
緒の布団で寝られるから怖い思いしないで済むってか?」

 …千田との口喧嘩は、大抵お互い捨て台詞を言って別れて終わる。だから。

「――」


245:VS幼馴染+α 7/24
07/12/14 17:54:04 VzljUG6Q
 息を飲む音が聞こえた。
 私は言うだけ言って、寝室に向かう。付き合いが長いんだから、私がもう話を一切する
気が無くて、寝るのだってわかった筈だ。
 顔も見ない。どんな表情してるかも考えない。私はこいつが大嫌い。
 静かに戸を閉めて、一気にパジャマに着替えて、布団の中に潜り込む。何も考えずに眼
を閉じる。元々眠かったから、すぐに寝れそうだ。けど。

 戸が開く音。しまった、また鍵忘れてた。ぱっ、と、電気が付く。ひた、ひた、と、力
なくこっちに近付いて来る。というか、これ例の悪霊だったらどうしてくれる。水沢超ご
利益無ぇ。今度会ったらボコってやる。それより、今日この事態が既に悪夢みたいなもん
だけど――
「…ベッドよこせ」
「断る。床で寝ろ」
 千田は人の話も聞かんと、人の布団の中に入って来ようとする。私は壁側を向いて、意
地でも顔を合わせようとしなかった。


「彩川」
 無視する。無視無視。こんな奴、もう知らない。私は何の反応もせずにただ、眼を閉じ
て意識が落ちるのを待つ。けど。
「…俺は、お前が好きだけど」
 
 割と、嫌じゃなかった。さっき想像したのに、あいつが驚いて私に抱き付いて来た時だ
って、嫌悪感はそれほど無かった。思っていた悪寒なんか何も無くて、今だって触られて
いるのに、ていうか一緒の布団に入っているのに、嫌だとは思わない。多分、きっとこい
つがようやく折れてしまって、今の言葉込みでなんだろうけど、それでも不思議。
「お前がさっき言ったみたいになんか、思ってない。それだけは訂正させろ」
 千田は細い。身長は私より5~6cm高い程度。体重はきっと私が重い。私のが食うし、
どう見たって千田モデル体型だし、きっと私の手首の方が太い。


 嫌い。だって、いつだってこいつはイヤミで馬鹿で根性悪で、そうだ、プロレス技だっ
てしょっちゅう掛けて来るからこんなに近いのなんて大した事じゃない。なんでこいつの
手、こんなに大きいんだ。後ろから抱き締めて、人の手首握るな。

「…お前、何キロ」
「聞くかそれ。お前より重いわ」
 またイヤミかよ。ふざけんな、この期に及んで一人になりたくないくせに、イヤミだけ
は言うのかよ。ていうか、やべえ喋っちゃった。無視する気だったのに。
「普段からそれ言ってるよな。悪いけど、俺お前より多分10キロは重いぞ」


246:VS幼馴染+α 8/24
07/12/14 17:56:09 VzljUG6Q
「――へ?」
 
 へ?と言ったはいいものの、千田の野郎もそれ以降は黙ってしまった。
 今日は少し寒いし、こいつがくっついているとあったかい。けど、これって問題だろ。
相変わらず私の手首を掴んで、がっしりとくっついたまま離れない。くそ、足くっつけん
な鬱陶しい。

「…嫌がらんのか?」
「嫌がったら出てってくれんの?」
 いつものような軽口。違うのは、こんなにくっついているのに、技を掛けられているで
もなし、イライラした感情もなし。
「流石に、お前が泣き叫んだら引き下がるしか無いだろ。なんでお前は無反応なんだ」
 馬鹿にしたような口調。すん、て音。後頭部に鼻くっつけやがった。びくっ、とした。
「あ、なんか、嫌だ」
 今までのはまだいい。けど、今みたいな匂い嗅がれるとか、それはちょっと。
 だって、それってちょっと違う気がする。
「今更それって何だ。止まるか」
「――あ、あ?」 
 びく、が、ぞわ、になった。なんて事すんだこの馬鹿、人の首の裏――えと、うなじ
に口付けやがった。抱き締める力も強くなった。

「普通、嫌いどころかちょっと好き程度でも、こんなんなったら何がしかの反応するだろ。
倦怠期の夫婦か、俺らは」
「…間柄としては近いかもなあ」
 付き合い、ホント長い。でも、ケンカばっかしてて、こいつは組み技が得意になってっ
て、私は殴る蹴るが得意になって、幼稚園から今まで、なんでかずっと一緒で、でも、ず
っと嫌いだったし、今更――ああ、本当に今更感丸出し。
「今更だよ。今から関係変わったら、きっとしんどい」
 
 すとん、と、はまったような気がした。うん。きっとそうだ。
「…私、ずっとお前が嫌いだと思ってここまで来たんだ。急にそんな事されたって、本当
に今更だよ。しんどい。お前とはずっと嫌い同士でいいよ。その方が」

 …楽しいし、心地好いし、楽だ。
 なんだかんだ言って、嫌いだけど、わかってる。そんなの最初から知ってる。千田とい
る時が一番楽しい。嫌いだけど。だから、別の関係になんて今更なれない。それに。

「ごめん。わかんないんだ本当に。気が付きゃお前とばっかいたから、私に好きとかそう
いうのはわからない。恋とかした事無いんだよ。だからやめとけ」
 ぺし、と、手を叩いてやる。


247:VS幼馴染+α 9/24
07/12/14 17:58:29 VzljUG6Q
 一応、自分としてとても納得出来る断りのお言葉を、出来るだけ真摯に伝えた。千田だ
って馬鹿じゃない。むしろ頭いい。だから、きっとわかっ――
「――っ!?」
 胸。おい。胸、胸。何触って、しかも揉みしだいてくれてやがりますかこの野郎。
「ちょ、おま、聞いてなかったのか?さてはお前寝てたのか!?わかってくれてんだろ?
お前はいつだってわかってんじゃんか!」
「だから、ここまで来て今更だと言うとろうが!それにな、お前は俺がずっといたから恋
愛がわからんと、馬鹿丸出しな事を言ってるがな、いいんだよそれで!これからわかれ。
俺はずっとお前といるからな。この俺からここまで言われて、まだ何も思わんというか、
この罰当たりが!!」

 …硬直は、する。だって、こいつ馬鹿だ。あまりの馬鹿っぷりに逆に引くわ。ナニコノ
永久ストーカー宣言。男のヤンデレってただの犯罪者か801のどっちかだって誰かが言
ってたけど、こいつは正にそれじゃんか。

「ば、罰当たりって何…やだ、やだやだ、やめて、やめてって」
 急に、怖くなる。怖い。さっきの千田みたいに、パニック起こしそうになる。さっきは
あんなに怖がっていた癖に、忘れたみたいに私の事性的に抱き締める。
「いいから、観念しろ。お前の相手は俺しかいないし、逆もまた然りだ。どうせ近い内に
こうなっていた。その時が今来たと思え!」
 せ、説得力のカケラも無ぇ!お陰で怖さが持続しねぇ!ていうか、マジ?私、マジでこ
いつに犯られるんか!?
「い、いやいやいや、お前、実はまだどっか変なままだろ?私だよ?勃つんか?勃たんだ
ろ?いやホン――」
 イヤホン?
 …自分で言って、本当に何を言ったのかもわからなくなった。
 今まで、なんとか、抱き締められながらも後ろを向いて抵抗していた訳だけれども、い
とも簡単に転がされて仰向けになってしまう。思わず瞑っていた眼を開いてしまって、そ
してその目の前にはいつものように人を見下して笑っている千田。
 ホント、こいつキレイな顔してる。ちっさい頃は女の子によく間違われてた。成長した
今は、女に間違われるなんて事は当然無いけど、線は細くて、でも実際に女装でもしよう
もんならホンモノ臭く見えてしまうだろう的な感じで、なんていうか。
 …だから、あの、性的なモノは感じなかったというか、それなのに。
 私の手を取って、あろう事か、友だちんこをしよった。いや、それって普通笑うか怒る
かドン引くかなんだけど、なんで、私、どうして。

「充分、勃っているだろう。満足か?」
「う、あ――あ、は、はい」
 ここまで堂々と言われたら、そりゃ返事するしか無い。うんうん、と千田は満足そうに
頷いて、私の手を放した。


248:VS幼馴染+α 10/24
07/12/14 18:00:35 VzljUG6Q

「さて、逃がす気は毛程も無い。お前は俺の事だけ考えていろ。何もせんでいい」
 犯る気満々でビンビンでギンギンの千田さん。私はもう、諦めるしか道は無い模様。こ
こまで愛してくれるんだったら、最初からそうしてくれればいいのに…
「いや、あの、だからさ、私は別にお前とするなんて言ってないし、パジャマ脱がすな。
だから、あの、その、勘弁して下さい。服脱ぐな」
 人の服脱がしたら、次は自分か。私は微妙な寒さと状況の寒さに慣れる事が出来ない。
そもそも、こんなんしてたら『バリバリオッケーです!どんと来い生殖活動!!』と言っ
ているようなもんなんだけど、なんで私は無抵抗なんだろうか。
 部屋明るいし、本当にお互い丸見えだし、実感が湧かない。だって、これから私、千田
とやるんだよなあ。初めてなのに。そういや、千田はどうなんだ?
「…千田、お前どうなの?」
 付き合いが長いから、それ、とは言わなくても察する事は出来る。
「ふん。俺のこの華麗な身のこなしを見てわからんか?」
 自信満々のご様子。華麗かどうかはともかく、なんとなくわかってたけど。でも。
「千田はいつから私が好きだったの?」
 でっかい眼が、もっとでっかくなる。私は素っ裸の幼馴染を見て、純粋に疑問に思った。
私が千田を好きだから、千田は私を好きになったって言った。でも、私にはまだ、千田を
好きかどうかもわからない。それで、千田は私が好きなのに、他の女の子と付き合ったり
やる事やったりしてたとなると、どうなんだろう?

「…そんな事、どうでもいいだろう」
 一瞬だけ、迷ったような顔をして、私の胸に掴み掛かる。さっきは身体が横になってた
から揉み甲斐はちょっとあったかもしれないけど、今は仰向けだから無い胸が更にナイム
ネに。ていうか、スタイル悪いよな私。今は千田の方が重いってわかったけど、腹もちょ
っと出てるからなあ。幻滅してないか。また、物笑いの種にされないか。
「彩川」
 声が掛かる。う、ほら来た。乳無いとか、腹出てるとか、太ってるとか。
「…お前、身体つき、幼いな」
 これまた、対処に困る。言い方が戸惑っているから、悪口じゃなくて心底思っているっ
ぽくて、逆に悲しくなって来る。
「なんか、あの、お前は背があって、手足長いのに、胸とか…こことか、なんかアレで、
逆にやらしい。なんか、子供の頃のお前にイタズラしているような気になる」
 たどたどしく、なんか危険な発言をしているバカが1人。お前、子供に対してその下半
身かよ。後、さわんな。ついでに生えてないのがそんなに珍しいか。
「剃っているのか?」
「…ううん」
 声が、弱弱しくなる。そりゃ、こんなの親にだって見せてない訳だし、一番最初がまさ
かこいつになるなんて思ってもいなかった。
「あの、笑うなら笑えよ?お前になんか変に気ぃ使われるの、一番嫌だ」


249:VS幼馴染+α 11/24
07/12/14 18:02:52 VzljUG6Q
 少し、声が上ずる。そっか、腹出てるのとか、太ってるんじゃなくて、幼児体型みたい
なもんか?しかも、それで欲情するって、マジでバカかこいつ。なのに、なんでそんな顔
すんだ。同情してるなんてカケラ程も思えない。こんな顔、初めて見る。
「彩川」
 既に、私の言葉なんか耳に入っていない模様。駄目だこいつ。もうやる気だ。
「…っ」
 触れた。指が、あそこに。怖い。くすぐったい。するっと指が、ウソ、中に簡単に入っ
た。すぐに抜かれて、でも、またすぐに中に入れて来て、なんか、太い。指細いと思って
たし、実際細いのに、なんでこんなに太いんだ?
 そう思っていると、もう片方の手が頬に触れた。その手に、手を重ねて、多分入ってい
る人差し指を摘まむ。やっぱり、私よりは太いけど、こんなもん…だよな。
「…2本、入れてる?」
 びっくりする程声が出ない。身体がだるい気がする。
「いや、1本だ。痛いか?」
「…痛くは、ないけど…凄く太く感じる」
 凄くバカっぽい会話だったと思う。それでもいつもみたいに鼻で笑うとかそういうのは
無しに、そうか、とだけ呟いた。
「でも、そんな指太くないな、お前」
「…ああ」
 浅く入れていた指が、もう少しだけ奥に入り込む。身体は震えるし、涙が出そうになる。
声が出そうになるのを必死で我慢した。
「お前、怖いなら俺にしがみ付いてもいいぞ」
「あ、遠慮する」
 う。なんか、千載一遇のチャンスを自ら潰した気がする。こういう所、可愛くないんだ
ろうなあ。くそ。でも、そんなのしちゃったら、きっと、もう。
…不意に、千田の視線が外れる。怒っちゃったのかと思ったけど、違った。
「や――だめ」
 こんな事してる時点でもう駄目なんだろうけど、それでも、ベタベタするよりはこうい
う風に一部分とかだけくっついていた方が、まだ。手遅れにならない気がする。
 千田の口の中に、私の胸がある。熱い息が掛かる。凄く、見た目いやらしい。
「待って、だめ。だめ、だめ――」
 駄目って10回言ったらやめて貰える気でいたけど、そんな事はけして無くて、そのま
ま吸ったり、口の中で舐めたりする。ゾクゾクして、千田の髪の毛を引っ張ったりしても、
全然やめてくれない。その間にも私の中で指がなんか、蠢いてるみたいな動きをしていて、
気が気じゃない。わざと音を立てるみたいに胸を吸っているし、下の方も湿った音がする。
 千田とこうなる前に、なんで私は家に入れちゃったんだろう、と、今更ながらに後悔し
始めていた。

 こいつ、気持ち悪い。


250:VS幼馴染+α 12/24
07/12/14 18:05:29 VzljUG6Q
 次から次に、私の身体を全部舐めそうな勢いで舐めて来る。一心不乱というか、眼が虚
ろというか、レイプ眼というか。
 徐々に、怖いよりもキモイになって来る。でも、こんな事されて喘いでる自分もキモイ
事には変わりないんだろう。
 
 …こうなって来ると、やっぱり千田も、努めて必死に私を好きになろうとしているんじ
ゃないかと思って来る。心のどこかで、もうやめたいなんて思ってるんじゃないかと。自
分は彩川貴枝が好きなんだって、必死で言い聞かせているように見える。

 だってキス、して来ない。普通する…だろ?それなのに、身体ばっかり舐めてる。
「――入れる」
「へ?」
 突如、がばりと私の脚を開いた。あ、入れるってそういう事か。
 …怖いという気持ちは吹っ飛んでいる。今は何もかも、顔も行動も全てがキモイ。理不
尽なくらいに熱いのが、押し付けられる。それでもあまりくっつかない。
 今殴れば、正気に戻るかな。戻るかも。そう思ったけど、腰を浮かされて、先端がめり
込んで来た時にもうアウトだと思い知った。

「彩川――彩川、彩川、彩川っ」
 綺麗な顔を歪ませて、泣きそうな顔で、千田は私を呼ぶ。
「いっ」
 不意に、鈍い痛み。下を見ると、先端の方が私の中に埋まっている。ウソ。これ、だけ?
それなのに、なんで身体の奥まで締め付けられるみたいな感覚なの?だって、先っぽだけ
だろ?
「あ――あ、ぁ!?」

 そこで、初めて私は言いようの無い恐怖を感じて、引き攣った声を上げた。
「っ」
 同時に、私の手首を掴む。右も、左も。
「…彩川、しがみつけ。楽だぞ」
 いつの間にか出ていた涙を舐め取って、もう一度、千田は呟く。一瞬戸惑うけど、もう
少しだけ楽な言葉をくれる。
「様式美だ」
 …そう言われるとなんとなく、そうした方がいい気になって、ようやく私は千田に抱き
ついた。あ、楽だ。本当に、そう思った。
 千田のかたい身体と、匂いと、体温と、全部が楽だ。擦れ合う頬が気持ちいい。
「まだ、辛いか?」
 頬で頬を擦られる。耳元を声がくすぐる。さっきから、私の中で何も動かない千田。私
は反射的に首を横に振る。と、嬉しそうな顔で。
「そうか」


251:VS幼馴染+α 13/24
07/12/14 18:07:40 VzljUG6Q
 とだけ呟いた。さっきから口数が少ない。千田といえば余計なまでにくっちゃべるのに。
「っ――」
 また、少しだけ私の中に入って来る。さっきの状態でも痛かったのに、更に。でも、大
丈夫と伝えた手前、声を上げるわけには行かない。
 我慢する。大丈夫。死にはしない。きっと死にはしない。けど。

「…痛いだろ。無理をするなバカタレ」
 また、千田は動かなくなった。鈍い痛みは、動かなければなんとかなる。楽になったけ
ど、でも、なんでわかるの?
「え――なん、で?いたく、ない」
「…気付いていないのか?」
 普段だったら、こういう私がわからなくてこいつがわかる、みたいな時は心底バカにし
た顔なのに、今は違う。呆れたような顔はしているけど、なんだか違う。
「お前に気を使われるのは御免だ」
 どこかで聞いたような言葉。おでこをおでこにくっつけて、ようやく唇にキスされる。
 …なんだか、何かが終わってしまったような気がした。

「…だい、じょうぶだから…いつもは、私が何言ったって好きに、する、だろ…平気だよ、
いたくない。いたく――っぐ!?あ…あっ!」
 びち、と、こめかみにデコピン(?)しやがった。一瞬視界が真っ暗になって、同時に。
「折衷案だ。お望み通りにしてやった。暫く動かんから、もっとしがみついていいぞ」
 変に身体が緩んだ隙に、一気に入れやがった。声が、出ない。なんか撃ち抜かれたみた
いな感覚。そんな経験無いけど。
 私は痛くて、反射的に千田を抱き締める力を強めてしまった。頬とこめかみと目頭が熱
くて、下半身が焼けるみたいに痛くて涙がぼろぼろ出て来る。
 痛い。苦しい。でも、それでも、口で痛いって言う訳にはいかないような気がした。
 きっと、千田にはもう全部わかられているんだろう。いつもと同じだ。でも、それでも。
「…だから」
 涙で濡れてしまった頬に、また頬擦りして来る。涙を吸って、頭を撫でる。

「痛いんだろ。ていうか、俺も痛い。背中。背中。お前、そんな事にも気付かないくらい
痛いのか」
「――え?」
 何を言っているのかすら、よくわからなかった。背中?
「あ」

 私、ぶっ刺してた。爪、思いっ切り、千田の背中に。
 気が付かなかった。力の限りしがみ付いて、千田にこれ以上ないってくらい、頼ってた。
「っ、ごめん――ごめん」
 ぱっと手を放す。反射的に謝ってしまう。そりゃそうだ。相当痛かったろうに。


252:VS幼馴染+α 14/24
07/12/14 18:09:46 VzljUG6Q
「痛い?」
「多分、お前よりかは痛くないだろうな。お前が俺にしがみついて、こうなるまで1セッ
トの様式美だから気にするな」

 一度したからって、もう当たり前みたいにキスして来る。言っている事がわかるような、
わからないような感じで、なんだか翻弄されてるみたい。仕方が無い。こっちに関しては、
私は全くの素人なんだから、こいつに一日の長があるのは仕方が無い。

 …でも。
「どうして、さっきまでしなかったのに、今、するの?」
 それがキスの事だというのは、すぐに気が付いたみたい。
「…うるさいっ、バカタレが」
 一瞬だけ不機嫌な顔をしてから、悪態をついて私の口を塞ぐ。勿論キスで。それでなん
となくわかった。嬉しかった。素で忘れてただけなんだ、と。
 嬉しくもあったけど、それでも内心はやっぱり複雑。
 こんな事になっているのに、未だに吹っ切れないのにも、腹が立つ。嫌い嫌い言ってい
たのだって、もう、最初から詭弁だったって認めてる。
 嫌いっていう言葉は、全部『すき』って言葉だった。なにもかも、気に入らない所はな
にもかもすきな所だった。こんな事許すのなんて、こいつしかいない。ううん、こいつに
なら何をされてもそれが自然だと、だから、今となっては全部予定調和だったんだ。

 ――そう、必死で思い聞かせる。理屈ではわかっている。私はこいつしかいない。こ
いつも私しかいない。身体だって、徐々にこいつを受け入れている。息だって荒くなる。

 鈍い痛みは取れない。それでも少しずつ、少しずつ慣れて行く。私の中に千田がいる事
が当たり前みたいな感覚になる。不意に、千田が繋がってる所、より上に触れて来た。反
射的に、きゅっ、と千田を締め付けてしまう。声も出る。何より、悪くなかった。寧ろ、
変になるくらい気持ち、良かった。
 千田はそれがわかってる。私がそれに戸惑っている事も、受け入れたくない事も。

 なんでこいつ、人の気持ちを読むのが得意なんだろう。そういう奴だから、といえばそ
うだけど、空気だって凄く読むし、そうだ、空気読めない工藤と空気読まない水沢と、こ
いつら3人セットだとバランスいいんだよな、割を食うのはこいつなんだけど――

「あ――っ」
 ずるりっ、て感触。そんな音する訳無いけど、そんな音が頭に浮かんだ。抜かれる。痛
くは無い。熱い。やらしい声が出る。
「…ふざけるな。俺の事だけ考えていろと言ったろうが」
 怒った声。わかられてた。悔しい。抜かれた時と同じくらいの速度で、また入って来る。
何度も、征服されてるみたいな気分になる。


253:VS幼馴染+α 15/24
07/12/14 18:11:59 VzljUG6Q
「っ、はぁ…あ、あ…っ、あ」
 だらしなく口が開く。引き攣ったような声しか出ない。声を我慢しようとすると、そん
な声になってしまうけど、我慢しなかったらもっとマヌケな声になると思って、我慢しか
出来ない。

 痛い。でも、それが気持ちいい。全部、とけそうになって、爪はもう立てたくないけど、
しがみつきたくて、さっきのこいつみたいに、匂い、かいで、いい。凄く、いい。
「っ、せん、っ、千田…千田」
 名前を、呼ぶ。名前じゃないけど、きっと一生、こう呼んでる気がする。
「――彩川」
 こいつも、きっとそうだと思う。私らは、多分そんなだから、ずっと一緒にいたんだし、
これからもいるんだと思う。でも、そうだったのに、これからは――
「っ…あ、あ、や、やあ――っ、や――」
 考えが、中断される。自分の身体が変になる。声が、我慢出来ない。自分の身体が、千
田に吸い付く。もう、何も考えられなくなる。また、涙が出て来る。

 頭が、ぐらぐらした。身体中が気持ち良くて、それしか考えられなくて、それしか考え
ないまま、私はどうにも眠くなって、そのまま意識が遠くなって行った。





 暗い中、目が覚める。隣には千田。静かに寝息を立てている。ゆっくりと、千田を起こ
さないように身体を起こす。

「…れ?」
 なんでだろ。
 さっき、散々泣いたからもう出ないと思ってたのに、痛くないのに、涙が出て来た。
 理由は、すぐにわかった。悲しいんだ。
「――あや、かわ?」
 目覚めてしまったのか、はたまた最初から起きていたのか。ぐずっている音で、千田を
気付かせてしまった。
「泣いてるの?」
 千田の手が、頬を撫でる。私はやんわりとその手を拒否した。

「どして、私と、したの?」
 触られたくない事を察してくれたのか、千田は私に触らなかった。千田の気の付きよう
に今は感謝しながら、自分が落ち着くのを待った、そして、聞いた。わかっていたのに。
聞いても答えられてもどうしようもないの、知ってたのに。


254:VS幼馴染+α 16/24
07/12/14 18:14:01 VzljUG6Q

「…好き、だから。好きで、ずっとこうなりたくて、だから」
 幽霊云々はきっと本当だったんだろう。それを忘れたかったのも、あったんだろう。で
も、それ以上にこれがチャンスだからと、そう思ったから、こうなったんだろう。
 思っていた事は殆ど当たっていて、さっきの問いも――いつから私を好きだったのか
も、ちゃんと答えてくれた。

「きっと俺はお前が最初から好きだった。子供の頃、お前に離れられそうになった時、そ
れっきりになりたくなくて、ずっとお前に纏わり付いてた。それがわかったのは、本当に
最近で、俺はお前と嫌い合って殴り合っている関係が凄く楽で楽しいって思っていた」
 千田とは思えないくらいに乱暴に私を抱き締める。
 その乱暴さが心地好くて、私も千田を抱き締める。
 こうなって、後悔はしていない。私だって、結局こいつといたいし、好きだと…多分、
思う。こいつ意外に楽しくて楽で、よくわからないけどこんな気持ちになる奴なんて、き
っといないけど。

「…うん。楽しい。多分――多分な、そういう今までの私らの関係って凄く幸せだった
んだと思う。だから、そういうの捨ててまで、今まで以上に楽しいのかなって、そう思っ
て、もしかして、凄く大切なものを自分で手放したんじゃないかって思って」
 そんで、涙が出た。
「俺も――ん。気が合うな。俺もそれ考えた。それでも、他の誰かにお前を取られるよ
りかは、いいと思った。だから、行動に移した」
 
 …それでも。
 手放したものが、手に入れたものより大切ではなくても、充分大切で、心の中を占めて
いたものだとはわかっていて、だから、悲しい。

「…もう、前みたいには出来ない?」
「…さあなあ。そればかりはわからん」
 私を抱き締めたまま、寝転がる。
「楽しかったよなあ。お前ってなんで組み技とか寝技専門になったの?まさか私に触りた
かったとか?」
 あはは、だとしたらキモイ。超キモイ。でもあり得る。
「半分正解。後の半分は『グラップラー』という響きに憧れてな。因みにお前はストライ
カーだ」
 …いや、マトモに答えられても凄く困った。マジだこいつ。
「私はお前に寝技掛けられてるの水沢に見られて『健康的エロス!!』て言われて、なん
か怖くて、必死に捕まりたくなくてそっち行ったなー。それ言われたとき中1だぞ?絶対
ぇ水沢頭おかしいよ」
「まあ、奴の頭がおかしいのは認めるが」


255:VS幼馴染+α 17/24
07/12/14 18:16:08 VzljUG6Q
「うん。それに大きく分ければお前と水沢は同じ所にいるしなあたたたたた」
 ストーカー気質と陰湿エロ、という括りで。いや、実際は知らんけど。ていうか。

「…なんだか、変わらないかも」
 頬を引っ張って、笑う。
「そう、だな。なんだか考え過ぎているのが馬鹿らしくなって来たな」
 やっぱ、変わったような気もする。柔らかく笑う千田が、なんだか嬉しい。というか。
「もしかして、こうなる方が難しいのかも」
 手を引っ込めて、いままで引っ張っていた場所に口付ける。似た様な場所に、千田が口
付ける。
「ふん、構わんさ。そんな時はこう言えばいい」

 ――やっぱ、付き合い長いっていいのかも。同じような言葉が頭に浮かんだ。そして、
同時に口に出す。


『スーパー恋人タイム』
「ってか?」
「だろう?」
 顔を見合わせて、にんまり笑う。そして。

「とっとと寝ろ。その年で夜泣きかバカタレが」
「うっせー。文句あんならFULL珍で床で寝ろ。その間にオッサン幽霊来るぞ」
 …お互い、痛いところを突く。本気で腹立つ。けど、これでいい。

「ふん、まあいつまでも泣かれていては鬱陶しいからな。特別に胸を貸してやろう」
「はん、そんな事言ってオッサン怖いんだろ?生まれたての小鹿みたいにぷるぷる震えて
ろよ。あ、漏らすなよ?」
 顔を見合わせる。お互い引き攣った顔してるんだろう。
 ふん、と鼻を鳴らして布団を被った。まだ納得した訳でもしっくり行った訳でも無い。
それでも、これで良かったんだと思える程度には――


「安心した」
「何がだ?常識でわかる範囲内で説明してくれ。お前の頭を酷使する羽目になるだろうが」


 安心し過ぎて、こいつの事殴りたいなー、と、やっぱり今日も思った。




256:VS幼馴染+α 18/24
07/12/14 18:18:37 VzljUG6Q

 ‐後日談‐

「ああ、それですね。知っています。通称三田村屋敷事件です。俺の地元じゃそれなりに
有名ですよ」
 休み明け、なんとなく工藤の新居であった事を工藤に聞いてみたら、水沢が答えた。
「へーぇ、そうなんだ。ま、僕達は普通に暮らせてるから、別にいいけど」
 当事者である工藤(晴)は、全く興味が無さそうにしている。
「そんなんよりかさ、貴枝ちゃんはなんで昌平くんのコート着てんの。僕だってそれ欲し
いなーって思ってたのにズルイ。謝罪と賠償と慰謝料と生活費とお小遣いを要求します!」
 染み抜きしたら、血っぽいのカンタンに取れた。千田は二度と着ないと言っていたので
貰った。本人は捨てて欲しいっぽいけど、もったいない。高いし。ていうか工藤図々しい。
「なんか、霊感ある人に向かって行くんだって」
 自分の言った事に責任は全く持たないのか、早速別の話題に移る工藤。という事は、千
田は霊感があるって事なのか?
「加えて、お金持ちの人が大嫌いだそうです。匂いでわかるんですかねぇ。三田村正二、
当時47歳。銭ゲバですが、自分の息子に裏切られ、犯された挙句に首を折られて殺され
たそうです。それ以来あの屋敷に霊感のある人が入ると無差別に襲い掛かるそうです」
 これまたあっさりと、おっとろしい事を言いやがる。中盤が特に恐ろしい。
「へーぇ大ちゃん詳しいねぇ。もしかして実際お目にかかったとか?大ちゃん素で念とか
固有結界使えそうだし」
 …有りうる。確かに水沢なら霊感とかありそうだし。近所だし何より詳しい。少し期待
しながら水沢を見る。が、当の本人は少し困ったように笑って。
「いいえ。実は叔父と不法侵入した事はあるんですけど、2人揃ってなーんも見えも聞こ
えも感じもしませんでしたよ。詳しいのにも理由はあります。その息子本人と名乗る人が
この話を道行く人にしまくるっていう事がありまして。あ、俺が小学生の時です。でも不
思議なんですよね。確かにその家の管理をしている人なんですけど、息子本人は警察に捕
まる前に首を吊って死んでいるんですよ」
 やっぱりさらっと水沢は言ってくれたけど。
 ――なんとなく、空気が凍った気がした。工藤も、表情を固まらせている。
「…なんか微妙な人だと思ってたら、虚言癖でもあるのかな?千萩に気を付けるよう言わ
なきゃ…」
 お前も怖いわ。物凄くズレてると思うけど、今は工藤のズレ方と、水沢の神経がとても
羨ましい。この場に千田がいたら、卒倒してるんじゃないか?

「でも――うん。実際に殺された人はまだいないんだよね?」
 何かを思い付いたように、工藤は物騒な質問をする。
「ええ。どうも霊の方は屋敷から出れないようですし。となると、千田さんは幸運だった
のかもしれませんね」
「ていうかさ、捕まったら、どうなるんだろね。今度実験してみない?」


257:VS幼馴染+α 19/24
07/12/14 18:20:40 VzljUG6Q
 おいおいおい。いきなり物騒な事言い始めるなあこの男。
「なに?千田か工藤連れてくの?2人とももう、敷地内どころか半径100m以内にも近
付きたくないって思ってるだろうに」
「ううん。ちょうどいいのがいるから。多分その子霊感あると思うし。最近さあ、千早に
彼女出来たんだけど、それが凄く嫌な子で、千早カンッペキに騙されてるんだよね」
 …あらま、憎々し気な顔しちゃって。いつもにこにこしてる工藤にしちゃあ珍しい。
「…工藤さん、顔が怖いですよぉ?ていうか、本気ですか?」
 本気なんだろうなあ、という顔だ。こいつこういう所怖いんだよなあ。
「俺は反対ですよ。人が死ぬかもしれないのをあえて見過ごすなんて嫌過ぎです」
「私も反対。ていうか、お前気に食わないなら直接対決しろ。その子にしろ、工藤にしろ」
 まあ、その嫌な子と工藤の問題なんだから、工藤には関係無いと思うんだけど。
「――いいよ、別にあんな子死んでも」
 プイっ、と顔を背けて拗ねてしまう。ていうか軽くヤバくね?
「…千萩と千早にはこの事言わないでよ?…ウソだよ、僕の生活スペースにあんな子入れ
たくないもん。だから、僕がその子嫌ってるって事言わないでね。2人とも騙されてるも
ん。人に取り入るのだけは上手いんだからさ」
 そのまま、頬を膨らませて黙り込んでしまった。

「そういえば、千田さんはどうしたんですか?」
 私、若干引いてるのに水沢はなーんも気にしとらんと、話題を普通に変える。
「え、あ、え――せ、千田?あ、千田?知らない」
 別に、意識していた訳でもないんだけど、いきなり振られると口ごもってしまう。


 朝になって最初に眼が覚めたのは私だった。幸せそうに寝てる千田の顔を見たら、なん
だか変にソワソワして、叩きたくなったので、落ち着ける為にお風呂に入る事にした。
 で、身体洗ってたら、急に転げ落ちるような音がして、家中を走り回る音がして、もし
かしてこの時間になってオッサン来たのかと思ってたら、風呂の戸が開いて、そこには全
裸の千田様が血相変えて立っていた。

「え…え?ど、どしたの?あ、おはよ…」
 ぜーはー荒い息をついて、私を凝視する。私は泡の付いたスポンジくらいしか持ってな
かったし、半分呆気に取られていたので叫ぶ事もせずに、とりあえず手で身体を隠した。
「あ――あ、お、おはよ」
 ようやく我に返ったのか、千田も手を上げて挨拶をし返す。

「…いや、あの、その――もしかして、夢だったのかと、思って」
「FULL珍で、人のベッドで寝ておいてか?」
 よっぽど自分様の御身体に自信があるのか、堂々と私に身体を見せ付けている。多分、
気が付いていないんだろうけど。


258:VS幼馴染+α 20/24
07/12/14 18:23:54 VzljUG6Q
 言われてようやく気付いたのか、急に顔が真っ赤になる。バーカバーカ。更に元気にさ
せてみようと、私は追撃を仕掛ける。
「で、どうするよ?もしかして、昌平ちゃんは一緒にお風呂入りたいんでちゅかあ?」
 うぇへへへへへ、と、下品に笑ってみせる。ここまで馬鹿にすりゃあフリーズ状態から
再起動するだろ。そのまま帰るもよし、不貞寝するもよし。

 ――が。

「……………………」
 今度は、私がフリーズするハメになった。別の場所が再起動しよった。



 結局、私がこの期に及んで、昨日の夜にすりゃあよかったように、泣き叫んでそこらにあ
ったものを投げ付けて、ちょうど満タンに入ったボディソープの容器が元気になったうま
い棒にクリーンヒットして、千田は悶絶した。

 その後怒って帰って、会っていないままだ。



「そうですか。この間借りたDVD返そうと思って持って来たんですけどね」
「へー、どんなの?」
「こんなのです」
 時と場所を考えろ。ここ構内だぞ。なんだ『美人教師・由愛子の淫乱性指導―困惑の生
徒23人レイプ・レイプ・レイプ―』って。センスのカケラもねぇな。それよりも乳でけえ。
「なにそれなにそれ!あ、由愛子の新作じゃん!僕に貸してよ!!」
 一瞬で機嫌が直ったのか、すぐに飛び付いて来る。新作て。
「え、その由愛子って有名なの?」
 私が周りに人がいないかどうか確かめながら聞くと、水沢は普通に頷いて。
「一部では、ですね。ええ。後工藤さん、駄目です。借りるなら千田さん本人に言って下
さい。又貸しはマナー違反ですよ」
 そう言ってDVDをカバンにしまう。そっか。千田は巨乳好きなのか。

「あ、昌平くん!愛してる!!」
「千田さん、俺は愛していません」
 思うところあって、少し考えていると、不意に愛の告白と逆告白のお言葉。振り返れば
奴がいた。微妙に不機嫌そうなお顔の千田。
「よう、巨乳大好き千田さん」
 私はげひひひひ、と笑いながらあいさつする。


259:VS幼馴染+α 21/24
07/12/14 18:26:28 VzljUG6Q
「…工藤、お前の愛は重い。水沢、奇遇だな俺も愛していない。でもって彩川」
 よっぽど、お前の方が幽霊みたいだと思った。
 首を少しだけ傾げて、ゆっくりと私の方へ向き直る。おお、千田のなく頃にか?
「俺が巨乳好きだといつ言った」
「へ――?え、それは――」
 水沢が借りたDVDが、と言おうとしたんだけど、私の手を掴んで、もと来た道を戻る。
「せ、千田?」
 うわ、怒ってる。なんでか知らんけど怒ってる。私はどうしよう、と思いながら千田に
されるがままに引き摺られていた。

「僕、左ストレートで貴枝ちゃんの勝ち。大ちゃんは?」
「俺はバックドロップで千田さんに」
「僕が勝ったら大ちゃんの彼女のおっぱい揉ませて」
「じゃ、場外乱闘という事で今ここで決着付けましょうか」
 カーン、と、あっちでもゴングが鳴ったような気がした。予想としては、2秒で水沢勝
利。予想通りにすぐになんか、しちゃいけないような音がしたけど気にしない。
 今は、千田だ。どこに連れて行かれるかわからなかったけど、多分あまり人目の無い所
だろう。うう、こいつがこんなので怒るなんて思わなかった。

「――さて、彩川」
 私を壁際に追い詰めて、相変わらず物凄く不機嫌そうな顔をして、私を睨んだ。
「な、なんだよ。やるか。やるんだったらお前もさっきの工藤みたいに2秒で――」
「…いつ、どこで、誰が、何時何分何秒、巨乳が好きだと言った」
 しょ、小学生かお前は。若干呆れながら千田を睨もうとする、けど。
「もしかしなくても、傷付けたか?身体つきが幼いって言った事」

 ――ん?
 私は、首を傾げる。え?何それ?え?とりあえず頭をフル回転させる。あ、言ったか?
そういやあの時、妙にそれで興奮?してたのキモイって思ったな。あー、あ、そういう事?

 …うわ。思わず、下を向いてしまう。
 やべ、なんか頭の裏っ側が熱くなったような気がした。いや、照れてる場合じゃあない。
何、勝手に罪悪感持ってんだバカ。
「あ、違う。違うんだって。あの、水沢がお前にDVD借りたの返したいって言ってて、
それ見せてもらってさ。あー、お前ああいうの好みなんだなあって、そう――」
 しどろもどろに話す。ていうか、なんだかくすぐったくて居心地が悪い。私、なんだよ、
千田にすっげぇ大事にされてるなあって実感しちゃった。どうしよう、なんだか、凄く。
「あ、あの――」
 俯いていた顔を上げる。が、既に千田はそこにはいなかった。
「え、え?千田?」


260:VS幼馴染+α 22/24
07/12/14 18:28:31 VzljUG6Q

 消えた!?
 幽霊に連れ去られたかと一瞬思ったけど、違う。多分――




「何してくれてんだお前はああああああああああああっ!?」
「え、ちょ、えええ、なんでそんなに怒っているんですか、引きますわー」
「お前の態度に引くわ!!」

 …元いた場所で、千田と水沢が追いかけっこをしていた。
 あら可愛い、千田は自分の性癖?を知られた事がそんなにショックだったのか?今まで
だったら気にしなかった…のか?それはわからないけど…

「おはよ貴枝ちゃん。ねー、どうしたのあの2人。工藤くんたら、賭けだけ持ち掛けて原
因教えてくれないの」
 観戦モードに入っている三沢がいつのまにかそこにいた。ていうか、工藤まだ倒れてる。
「あ、おはよ三沢。なんか、痴情のもつれ?」
「え、ウッソー。なになに?じゃあ、そこで倒れている工藤くんは?負けたの?それとも
賞品?だから原因教えてくれないの?」
 なんか、妙に輝きながら私に聞く。
「…知るか。ていうか、いらねー」
 なんだか、よく言っている事がわからないけど、ロクでもないという事だけはわかった。
「ところで貴枝ちゃん。どうして千田くんのコート着てるの?」
「ああ、なんか工藤の家で頭髪の不自由なオッサンに襲われて、体液付着しちゃったから
もう着たくないっていうし…染み抜きして貰った」
 一応、端的に説明する。

「――っ、千田総受伝説の幕開け!?じゃあアレは襲い受け!?」
「そこ!バカに変な知識を植え付けるなバカタレが!!」 
 水沢を追っかけながら、三沢へのツッコミも忘れない。うーん苦労性。しかし、そんな
隙を見逃す水沢じゃあない。ツッコミに行く、と判断した瞬間に別方向に逃げ出した。そ
して千田が振り返った時には、もう遅かった。

「…ちぇっ、私の負けかあ。工藤くんはい、これ」
「まいどありー。ね、僕の言った通りでしょ」
 負けたらしい三沢は、勝負が付いた時にはもう起き上がっていた工藤に持っていたパン
の紙袋を渡す。あ、アゲアンパンと苺牛乳だ。いいな。



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