おんなのこでも感じるえっちな小説8at EROPARO
おんなのこでも感じるえっちな小説8 - 暇つぶし2ch100:名無しさん@ピンキー
07/10/15 20:22:51 UamMUEDP
以前、「ラベンダー」という小品を書いたものです。
この度、縁あってこちらのスレの455さんがイメージ画を描いて下さいました。
スレリンク(erocg板:455番)
お許しを頂いてこのスレにもご紹介します。

ラベンダー
URLリンク(www2.gol.com)


101:名無しさん@ピンキー
07/10/20 00:15:05 qwitRQPR
絵も物語りも萌えた。

102:名無しさん@ピンキー
07/10/20 23:16:19 Q0xUbAJU
強引な和姦。ややラブコメ。3回の投下予定でエロまで長いです。

103:はじめての彼(仮)
07/10/20 23:19:21 Q0xUbAJU
あたしが好きな青山君は人の彼女を奪うのが好きだ。
ほとんどビョーキ。4年半見続けているので間違いない。
顔にそこそこ自信のあったあたしは、中学ン時に告白してあっさりフラれた。
その頃彼は、野球部のエースで4番だった男の子の彼女に猛アタックをかけていた。
ショートカットのおとなしいちっちゃい子。あんな子に負けるはずがないと、
あたしはさらっさらの髪を揺らしながら上目遣いの必殺ワザを繰り出したけれどあえなく撃沈。
藤野さんに僕はもったいないよと、にっこり笑って断る青山君。小首を傾げたまま固まるあたし。
それまでフルことはあってもフラれたことはなかった。あの時味わった屈辱は、いま思い出しても腹が立つ。

ちなみにショートカットのちっちゃい子は、エースで4番だった男の子と別れて青山君と付き合い出したけれど、
すぐに別れた。なんと、次のターゲットは新婚ほやほやの英語教師だった。
信じらンない。なんか修羅場になったみたい。噂がピークに達した頃、その女教師は転任させられた。
あんな、人のものを欲しがるガキなんてサイアクー、こっちから願い下げだッ。はいはい、つぎつぎー。
……とはいけなかった。一目惚れだったから。はじめて本気で好きになった男の子だったから。
いくら口汚く罵ってもあたしは彼を心底嫌いにはなれなかった。ちょっとでも付き合えた彼女達がうらやましかった。
虫も殺さぬやさしい顔で狙った女を確実に落として、泣かせて、ひどい奴。
でも不思議と恨む女の子はいなかった。あの仔犬のような目で困ったようにごめんと言われると、
胸がきゅーんとなって理不尽だと思いつつ、誰もが彼を許した。
さすがに彼女を取られた男子とは険悪になっていたけれど、いつまでも尾を引くようなことはなかった。

告白してフラれた次の日。青山君は何事もなかったかのようにふつーに話しかけてきた。
プライドずたずたのあたしはむっとして距離を置こうとしたけれど、3日で断念。
元来前向きなあたしは、気が付けば友達から恋人へというナイスな作戦を思い付く。
じわりじわりと敵の懐に入り込み信頼を得た頃にはあら不思議、かけがえのない大切な女に。これだッ!
青山君を追っかけて、あたしの頭ではむりと言われた高校も恋のパワーで見事合格。
涙ぐましい努力の甲斐あって、いまでは親しげに繭ちゃんと呼ばれて何でも話せる仲になれた。
あとは青山君があたしの存在の大きさに気付くのを待つばかり。
晴れて彼女になった暁には、薫~と呼ぶ予定だ。

104:はじめての彼(仮)
07/10/20 23:22:37 Q0xUbAJU
―待ちくたびれた。
あたし、このままだとおばあちゃんになっちゃうよ? 処女のまま死んじゃったりして。やだやだやだ。
やきもきするあたしをよそに、青山君は奪っては捨て奪っては捨てを繰り返していた。
なんでそんなに人のものを欲しがるのか、一度聞いたことがある。
長いまつげを伏せてしばし考え、心が動く瞬間を見るのがたまらない、と顔を上げてぽつり。
彼氏を裏切る葛藤で、揺れる瞳に少しずつ強い光りがともっていくのを見るのはぞくぞくするそうだ。
完全に気持ちがこっちに向いた時に見せる、共犯者めいた眼差しが最高らしい。
体中の血が沸騰する感覚が好きなんだよねー、と話す青山君はとても楽しそうだった。
続けて、でもなーだんだん重くなってきて疲れてくるんだよなー、というのを聞いてあたしは殴りたくなった。
はあ? なに勝手なこと言ってんの? 最後まで責任取りなさいよッ! ってむかついたけれど、
途方に暮れたような彼を見ていたら、なんだか可哀相になってきて救ってあげたい気持ちでいっぱいになってしまった。

青山君、あたしと付き合ったらそんなビョーキ直るよ、きっと。
そう言いたかったけれどぐっとこらえた。フリーの子がいくら言い寄ってもだめなのは、散々横で見てきた。
ほんとにぴくりともむくりとも関心を示さない。敵ながらあっぱれ。ある意味感心する。
どうやら、気が付けば友達から恋人へ作戦は失敗っぽい。無駄な時間を過ごしてしまった。
あーあ、ついにポリシー曲げてあの作戦の登場かー。はじめての彼は青山君って決めてたんだけどなー。
こうなったら仕方がない。もう手段を選んでる場合じゃないからね。あたしはやるよ。
郷に入っては郷に従えの精神で挑むそれは、題して寝取られ大作戦!!
敵はとことん狩猟民族だ。あたしは狩られるために彼氏を作る。
彼氏という名の撒き餌。当て馬ともいう。
ちらっと罪悪感がよぎったけれど、恋する乙女は残酷ってことで策を練る。

恋の障害物は大きければ大きいほど青山君はばかみたいに燃える。
こいつから奪いたいと思わせるような男子は誰だろうと考えて、ふと黒澤君の名前が浮かんだ。
いつだったか、いっこ下の子に告られた黒澤君がみんなのいる前でこっぴどくフッて泣かせたらしく、青山君怒ってたっけ。
女の子を泣かせちゃいけない。やさしくしないと、ってどの口が言ってんのよッ、って呆れたんだった。
普段めったに不快感を表したりしないのに、めずらしいなーと思ったのを覚えてる。
気に入らない男子からなら奪いがいもあるだろう。確かあのふたり、同じクラスだったな。
ライバルが近くにいるのもいいかもしんない。よしッ、決めた。
さみしい夏休みを過ごしたあたしは、決意も新たに明日から始まる2学期に備えて早めに寝ることにした。

105:はじめての彼(仮)
07/10/20 23:26:32 Q0xUbAJU

***************

始業式が終わり、ぞろぞろと教室に戻る列の中に黒澤君を見つける。
ちょうど周りに人がいなくなった。チャーンス。ぱたぱたと近づいていく。
黒澤君の白い背中が目の前にある。うその告白とはいえ、青山君以来なんで緊張してきた。

繭子、ほんとにやるの? 自分の下衆い目的のために利用していいの?

さまよわせた視線の先に、笑っている青山君の姿が飛び込んでくる。
となりではバスケ部のキャプテンと付き合っている谷口さんが歩いていた。
身振り手振りを交えて話している青山君の肩を、ばんばん叩きながら谷口さんも笑っていた。
お馴染みのひりつきが胸のあたりを襲う。こんな痛いのもういやッ!
あたしはえいっと一歩踏み出して、黒澤君の横に並ぶ。
こっちを見てる気配がする。あたしは前を睨んだまま口を開いた。

「黒澤君、あたしと付き合わない?」
20秒待ったけれど、なんの反応も返ってこない。あれ? 聞こえなかったかな。
ちらっと横目で窺うと、じっと見下ろされていた。眼鏡越しの視線が鋭い。怖いんだけど……怒ってる?
だめだこれは。まあ、うすうすこうなるとは思ってたけどね。あたしは黒澤君のタイプじゃないだろうなー、と。
たぶん彼は、自分とよく似た頭のいい大人びた女の子が好きなんじゃないかな。勘だけど。
ふふん、こんなこともあろうかと、当て馬候補は他にも数人選んでおいた。ぬかりはない。
さて誰にしようかと考えを巡らせていると、いいよ、ととなりから低い声がした。
ええっ! 思わず大きな声を上げてしまったあたしを気にせず、黒澤君は続けた。

「今日、部活早く終わるから一緒に帰るか?」
「……(あうあうッ!?)。う、うん……じゃあ、あたし図書室で待ってる」
意外そうな顔をした黒澤君は、軽くうなずいて渡り廊下を左へ曲がっていった。
あたしは右に曲がって自分の教室へと向かう。なにいまの!? あたしが本を読むことのほうが告白より驚くことなのか。
……まあいい、とにかく彼氏を作ることには成功した。17年生きてきて、はじめてできた彼。
あくまで仮だけどね。カモフラージュの彼。

1時限目の休み時間。
教室で千明と夏休みのことを報告し合っていると、青山君がにやにやしながらやってきて言った。
「聞いたよ~、繭ちゃん黒澤君と付き合うんだって~?」
「なにそれ!? 繭子それほんと?」
あたしが青山君を好きなのを知ってる千明がびっくりした声で訊いてくる。
「あー(昼休みにゆっくり話そうと思ってたのに)、うー(聞くの早ッ。てか誰から!?)」
「ほんとほんと。俺、藤野と付き合うことになったからって、黒澤君に宣戦布告っぽく言われちゃった。
なんか僕と繭ちゃんの仲を疑ってるみたいだったよ? ただの仲のいい友達なのにね~。
誤解は早く解いといたほうがいいよ~。あ、やば遅れる。つぎ音楽なんだ。じゃ」
しどろもどろのあたしをさえぎって、千明の疑問に答えた青山君は言うだけ言って慌ただしく教室から出ていった。
ただの仲のいい友達発言にぐさりときながら、いつもより早口だったのは動揺してるせいだといいなと思った。
それにしても黒澤君、頼んでもいないのにいい仕事してくれる。

106:はじめての彼(仮)
07/10/20 23:29:58 Q0xUbAJU

「はあ? 寝取られ大作戦!? ばかじゃないのあんた」
「しっ、声が大きい」
いまは昼休み。教室内はざわついている。
誰もこっちを注目していないのを確認してから、興奮すると口が悪くなる千明に言い返す。
「でもあたしが黒澤君と付き合うって知ったらすっ飛んで来たじゃん。
ロックオン状態になると音信不通になる青山君がだよ? 早くも作戦の効果ありッ!
もう谷口さんからあたしにターゲット移行してるかもよ? うわぁ、あたしついにロックオンされちゃうのかー」
「あんたはそれでいいかもしんないけど、道具にされる黒澤はいい迷惑だ。
わたし中学一緒だったから知ってるけど、あいつ性格きつい割りにモテてたよー。けど全然彼女作んないの。
いつも男とつるんでたからホモ疑惑があったくらい。なんだってまたこんなばか女を好きになるかな」
「好き? あはは、それはないって! 好きな子相手にあんな険しい顔普通しないと思う。
黒澤君もなんか事情があるんじゃないのォ。断り続けるのが単純に疲れたとか、それこそホモ疑惑を払拭するためとか。
あっ、もしかしたら……! 黒澤君は青山君のことが好きとか? うわぁ、なんかよくわかんないけどフクザツー」
「……あんたにはついていけない。まあ、方法間違ってると思うけど他の男に目を向けるのはいいんじゃないの。
目を覚ますいいきっかけになりそうだし、どうせ反対したってするんだろうし。わたしは応援するよ、黒澤を」
「えっ、そっち!?」

千明は高校に入ってできた友達だ。最初は嫌いだった。
青山君がまっ先に目を付けたのが彼女だったから。
はっきりした顔立ちの正統派美少女には他校に通う幼馴染の彼氏がいた。
いつになく張り切る青山君。けれど千明はまったく相手にしなかった。その鮮やかな撃退っぷりにあたしは惚れた。
話をしてみると、竹を割ったような性格で妙に気が合う。2年で同じクラスになり、ますます仲が良くなった。
あたし達3人の関係は、傍目には時々ケンカはするけれど仲のいい姉弟のように映っているらしい。
青山君ははじめて土をつけられた千明に頭が上がらず、いい加減人の心を弄ぶのはやめなさいよっ!
って叱られるたびに笑ってごまかしている。お姉ちゃん強し。あたしはさしずめ口答えばかりして言うこと聞かない妹か。

昼休み終了のチャイムが鳴った。
あたしばかだけど、千明がほんとに心配してくれてるのはよくわかってるよ。
席に戻る千明のまっすぐな背中に向かってつぶやく。本気で怒ってくれてありがたいよ。
でもまるで苦いものを飲み込んだような顔はちょっとなぁ。悲しくなる。
それにシワができちゃうよ? 凛々しい顔が台無し。
まあ見てて、今回は手ごたえあるんだ。笑って報告できると思う。あたし、幸せになるからッ!
ってまるで嫁いでいく娘のようだな、あたし。

107:はじめての彼(仮)
07/10/20 23:32:56 Q0xUbAJU

「黒澤君てなに部?」
「将棋部」
訊いた瞬間しまったと思った。告白した相手の入っている部を知らないでどうする。
あせったけれど、黒澤君は別に気にしてないみたい。淡々としたものだ。熱いものがまるで感じられない。
やっぱり黒澤君には黒澤君の事情がある様子。深くは追求しないでおこう。
しょせん仮の彼だしあたしも訊かれたら困るしと、並んで歩きながらそう決めた。

図書室で待ち合わせをして、校門を出るまでの間に結構な数の生徒に目撃された。
びっくりした顔やうらやましそうな顔を眺めるのはちょっと面白かった。
正直、かわいい系が好きなあたしのタイプとは違うけど、ルックスのいい男の子と一緒にいて悪い気はしない。
青山君はあたしと同じくらいの身長だから、こんな風に見上げるのも新鮮だ。首疲れるけど。
「黒澤君、身長いくつ?」
「178センチ」
「視力は?」
「右0.2、左0.3」
「コンタクトにはしないの?」
「眼鏡が好きだから」
さっきから一問一答のような会話(?)が続いていた。
どうでもいい質問に黒澤君は表情を崩さない。変な人だ。一緒に帰るかなんて訊いてくるから、
なにか話でもあるのかと思えば黙々と歩いている。あと少しで駅に着く。
あたしは電車通学だ。3駅先のマンションに両親と兄の4人で住んでいる。
黒澤君の家は駅の向こう側にあって、父親とふたり暮らしだそうだ。
へぇ~、いいとこに住んでるんだねって言ったら外人みたいに肩をすくめてた。

「9月に入っても暑いねー」
「ああ」
黒澤君の顔は涼しげだ。なんだかイライラしてきた。
よく考えたら、青山君は女の子と遊ぶ軍資金を稼ぐために学校が終わるとバイトに直行する。
他の男子と一緒にいるところを見せ付けて、嫉妬心を煽るつもりが無駄足じゃん。
黒澤君の淡々とした態度がイライラに拍車をかける。
この人、なにかに熱くなることあんの? うらやましいほど滑らかな肌が赤らんだりとか、
誰かをめちゃくちゃ好きになって胸が苦しくなったりとか―

「黒澤君て童貞?」

ぎゃあああああああ! なんてこと訊いてんのー、あたしーっ!?
暑さで頭がパーに。わわわ忘れて、いまの忘れてッ!
黒澤君が立ち止まったのは、前からすごい勢いで自転車が来たせいだろうか。
腕を引っ張られたのと同時に、そうだよ、と耳元で囁かれた。
すぐ脇を自転車が走り抜けていく。心臓がばくばくいって止まらなかった。

108:はじめての彼(仮)
07/10/20 23:36:33 Q0xUbAJU

***************

あっという間に3週間が過ぎた。
劇的な変化は現れてないけれど、落ち込んではいなかった。ゆっくりと動き始めている気がする。
噂で、谷口さんが彼氏と別れたと聞いた。でも青山君と付き合い出したとは聞かない。
いつもだったら青山君本人に根掘り葉掘り訊くところだけど、いまのあたしは彼氏(仮)持ち。
他の男の子なんて全然目に入りませーん、という態度を貫いている。
最近、しばしば青山君の視線を感じるようになった。
目が合うと、急にとってつけたような笑顔を返してきたり、なにかを言いかけてやめたりする。
そんな自分に戸惑っているように見える。いままでにはなかったことだ。
やった! もう一押し。とはいっても、どこを押せばいいのかわからない。

「―で、黒澤とはどうなってんの?」
「どうって言われても……別に、ふつーだよ。あー、この間一緒に映画観に行ったかな」
5時限目は体育。制服を脱ぎながらのろのろと答える。
すでに着替えの終わった千明が目を輝かせた。
「おっ、初デート!」
「そんなんじゃないもん。誰誘っても断られるし、女の子ひとりでは行きにくいから付いて来てもらっただけ」
「いったいなに観に行ったの?」
「昔の時代劇。黒澤君、子供の頃おじいさんに連れられてよく観に行ってたんだって」
「へ、へぇ……良かったじゃない。趣味の合う彼氏ができて」
確かに。彼氏云々は置いといて、なかなかする機会のなかった時代小説の話ができるのは嬉しい誤算だった。
あたしが好きな作家の本をほとんど読んでた黒澤君。
すごく詳しくて、他にも色々教えてもらっておススメの本を借りたりもしている。
映画を観に行ったのはその延長線上でのこと。たいした意味はない。

「……だから、家に誘われたのもたいした意味ないよね?」
亡くなったおじいさんが集めていた公開当時のパンフレットとか、
古い映画雑誌がたくさん残ってるから見に来ないかと、黒澤君に言われていた。
にんまりと意味ありげな笑みを浮かべている千明が気に食わない。
あたしはずぼっと体操服をかぶり、自分でもおかしいと思うくらいべらべらと喋った。
「さっ、それより早くグラウンドにいこ。遅れたらエロ本になにされるかわかんないよ。
女子は今日マラソンなんだって。やだなー、あたし走るの苦手ー。男子はサッカーなんだって―」

109:はじめての彼(仮)
07/10/20 23:43:32 Q0xUbAJU
む、またエロ本の奴が見てる。
みんな汗だくで、体操服は体に張り付きブラが透けていた。
ぜえぜえと上下に揺れる胸に舐め回すような視線を感じる。うわっ、いま舌をぺろっとしなかった? 気持ち悪ッ!
影でエロ本と呼ばれている榎本は、嫌がられてるのを承知で体に触ってくるセクハラ教師だ。
走り終えたあたしは、エロ本からできるだけ離れた場所にへたり込む。
発育が良かったせいか、小学生の頃から見られることに慣れているとはいえ、
エロ本みたいな中年おやじの粘りつくような視線には耐えられなかった。生々しすぎて恐怖すら覚える。
同世代の男の子が向けてくるギラつく視線のほうがまだマシだ。

ギラつく視線かぁ……早く青山君にそんな風に見られたいなぁ。
仔犬のような目が狼になっちゃうところを想像して、どきどきと震えた。
最近の青山君の様子から、想像が現実味を帯びつつあり期待で胸が膨らむ。
ただ一方で不安もあった。いざそんな場面になった時、テンパって支離滅裂なことをしてしまいそうだった。
いきなり張り手を食らわすとか大嫌いって口走ってしまうとか……、大丈夫だろうか? 
子供っぽいマネをして、呆れた青山君に嫌われないかと心配だ。
あたし、普段男子とふつーに喋ってるから別に苦手意識なんかないと思ってたんだけど、自分をよくわかってなかった。
誰とも付き合った経験がないせいか、男の子とふたりっきりになった時の距離感がうまくつかめない。
はっきりいって男慣れしてなかった。中身が中学生で止まってる。へたしたら小学生レベルかも。
黒澤君と付き合うようになって思い知った。仮の相手なのに、情けない。
しかもむこうは落ち着き払ってるのに、あたしだけテンパってるのが余計みじめだった。
共通の趣味の話では盛り上がれるんだけど、それ以外だとあきらかにぎこちない。
はっ、そうか! その不自然さが青山君にも伝わっていて、狩猟本能にブレーキがかかっているのかもしれない。
もう一押し足りないのはそれかッ! もっと自然に黒澤君と仲良くしてるところを見せ付けないと。
俄然、やる気が出てきた。習うより慣れよ。迷ってたけど、いっちょ黒澤君ちに行ってみるかー。
あたしの好きな時代劇スターが特集された映画雑誌も見たいことだし。

あーだこーだとひとりごちていたあたしの耳に、あぶねーどけーっ、という怒鳴り声が飛び込んできた。
ん? と振り向いた瞬間、ばしんと顔面に衝撃を受ける。サッカーボールが直撃したのは覚えている。
あたしはひっくり返って、今度は地面にごつんと後頭部をぶつけて意識を失った。


(つづく)

110:名無しさん@ピンキー
07/10/21 04:16:20 u47kPMcT
うおおおお書き手さんキテター.。゚+.(・∀・)゚+.゚
おにゃのこ1人称は何やらかわいらしいですな

111:名無しさん@ピンキー
07/10/21 11:16:19 XmkthONZ
無駄に行動派な女の子かわええ
続き!楽しみにしてる!!

112:名無しさん@ピンキー
07/10/21 22:27:56 nN/gYVcB
黒澤クンに萌えた。
つづき楽しみにしてますよ~!

113:名無しさん@ピンキー
07/10/22 03:39:27 a8PlP/7F
最初は、やな女(というかバカな奴)…と思ったけど
読み進めるうちに可愛く見えてきたよ。
当初の予定が狂って本当に瓢箪から駒となるといいなあ。
がんばれ黒澤君!w

114:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:10:35 LKJ1Xgqw
息苦しさを感じて目を覚ます。
一瞬なにが起こっているのか理解できず、レンズ越しに見つめ合っていた。
吸い込まれそう。きれい……少し緑がかった茶色の瞳。そこに、あたしが映ってる……?

ひゃあああああああ! く、黒澤君っ!? かか顔と顔がくっついてる! てか、唇と唇もッ!
あああたしのファーストキス。なんてことしてくれんのよーーーッ! ばかああぁぁぁあああああ!

言いたいことはたくさんあるのに動転して声にならない。
すっと体を離した黒澤君を睨みつける。つんと鼻の奥が痛くなった。
ごしごしと唇をこすっていると、いつもと変わらない冷静な声で矢継ぎ早に質問してきた。
「藤野、なにが起きたか覚えてるか? 吐き気は? 手足の痺れはあるか?」
「ひひひ(ひどい!)……ヒィィーック!」
マヌケなことに、しゃっくりが出てちゃんと喋れない。涙がぽろぽろとこぼれてどうしようもなかった。
気を失っている間に保健室に運び込まれたようだった。黒澤君は黙って突っ立っている。
なんで他に誰もいないんだろうとしゃくりあげていると、すぐにドアが開いてふたりの足音が近づいてきた。
ひとりは千明で制服を持ってきてくれた。もうひとりは保険の女の先生でトイレに行っていたらしい。
先生に黒澤君と同じ質問をされた。
しゃっくりは止まらないものの、あたしの意識がはっきりしているということで病院には行かず、
ここで休んで様子を見ることになった。あたしが泣いてるのは、腫れた顔面が痛むせいだと思われていた。
君達はもう教室に戻りなさいと先生に言われて、ふたりは出て行った。

「ヒィィーック! ヒィィーック!」
静かな保健室にあたしのしゃっくりだけが聞こえる。
先生もいるはずだけど、なにをしているのかカーテンに仕切られているのでわからない。
ぼんやりとベッドに横たわっていると、いやでもさっきのことが蘇ってくる。
―なかったことにしよう。幸い感触も残っていない。それほどかすかなものだった。
日常生活で肩や腕がぶつかるのはよくあること。それと同じでたまたま唇と唇だっただけ。
し、舌を入れられたわけじゃないし、あんなのキスとは呼べない。たぶん。
そう思わないとやってられない。忘れろ忘れろ忘れろ……さん、にい、いち、はいッ! 忘れた。
ところでなんで黒澤君がいたんだろう? 授業中なのに?
いくら考えてもわからなかった。

115:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:16:46 LKJ1Xgqw
結局あたしはホームルームも出ずにそのまま休んでいた。
まだ少し顔がひりひりしてるけど、他はなんともないので歩いて帰れますと先生に伝える。
制服に着替え終わった頃、千明が鞄をふたつ持って保健室に入ってきた。

「あ、ちあキィィーック! ありがとゥィイーック!」
「はい鞄。やだ、まだしゃっくりしてんの。ふふ、これ見たら止まるかもよ? じゃーん!」
黄門様の印籠よろしく、千明がケータイの画面をこっちに向けて突き出す。
「―ッ!」
心臓が止まるかと思った。そこにはあたしを抱きかかえた黒澤君が映っていた。
ななななにこれ!? 慌てふためきながら、どうやらあたしを保健室まで運んだのは黒澤君らしいと気付く。
でもなんでそんなことになっているのか、さっぱりわからなかった。
「驚くよね~。まさかあのクールな黒澤がこんなことするなんてね~。もうみんな大騒ぎ」
演劇部所属の千明が、ひとり何役もこなして起きた状況を再現してくれた。

「―で、ぐったりと気を失ってるあんたをエロ本が保健室に運ぶことになってね。
それはそれはもうやらしい顔と手付きで迫ってきて、周りにいた女子全員がひィィーっ、繭子万事休す!
ってのけぞった瞬間、現れたのよ黒澤がっ! 俺が運びますからって、颯爽と! 上履きのままで!」
くらっときた。また気を失ってしまいそうだった。まさかそんなことになっていたとは……。
教師も生徒も全員がポカンとするなか、黒澤君はさっさとあたしを抱き上げてその場を去ったらしい。
あとに残った女子の、きゃあーお姫様抱っこーかっこいいー合唱はすさまじかったと熱弁をふるう千明。
それに応呼するように、あたしの顔もみるみる赤くなっていく。
あたし重くなかった? 汗臭くなかった? ああッ、透けた胸を間近で見られた!
恥辱に身悶えていると、この写真はね~、と千明がとどめを刺すように説明し出した。

「黒澤のクラスは理科室で実験中だったんだって。ほら、あの教室ってグラウンドに近いじゃない?
立ってたからよく見えたんだろうね。突然黒澤が教室を飛び出したと思ったら、あとは知ってのとおり。
みんな授業そっちのけで窓に鈴なりになって見物してたらしいよ~。んで、当然激写。これ学校中にバラまかれたよ」
いやああーッッ! 誰か嘘だと言ってええええ。恥ずかしくて明日から学校に来れないッ!
黒澤君もなに考えてんのーっ。ばかばかばか。
「じゃあ、わたし部活あるからそろそろ行くね。気を付けて帰るんだよー」
手を振る千明に上の空で返事をする。いつの間にかしゃっくりが止まっていた。

116:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:21:50 LKJ1Xgqw
すっかり脱力して昇降口で靴に履き替えていると、名前を呼ばれた。
見るまでもない。声ですぐわかった。まともに顔を合わせらなくて、下を向いたままで訊く。
「……黒澤君、今日は部活ある日じゃなかったっけ?」
「休んだ。家まで送るよ」
「いい。ひとりで帰るから」
普段通りの声が出せて良かったとほっとしながら顔を上げると、
てこでも動かない顔をした黒澤君が立っていた。
その背後に、下級生が数人こっちを指差してにやついているのが目に入る。
かあとなって、くるりと背を向けて走り出す。ああ、また子供っぽいことしてると泣きたくなった。

黒澤君の一度言い出したら引かない性格には呆れる。
いいよと何度も断ったのに、結局一緒に電車に乗るはめになってしまった。
案外しつこい。そして認めたくはないけれどやさしい。
手すりも吊り革も使えない場所に押しやられてふらつくあたしに、
ほら、と照れもせず腕を差し出したりする。なんでそんなこと自然にできんの?
ガタンと電車が傾き、とっさに掴んだ腕のたくましさに驚いて、急いで袖を掴み直すあたしはすごく不自然だった。
―ありがとうを言い忘れた。自己嫌悪。ほんとやンなる。恥ずかしい思いをさせられたけれど、
保健室に運んでくれたお礼もまだしていない。部活を休んで(黒澤君、部長なのに)家まで送ってくれることに対してもだ。
ふがいない自分に、ちっとも収まらない鼓動にうんざりして、シャツの袖をぎゅっと握りしめる。
あ、いけない。しわしわになっちゃった。

いつ言おう、いつ言おうとぐずぐずしているうちに家に着いてしまった。
立ち止まってマンションを見上げている黒澤君に声をかける。
「あ、うちここの5階。えと……」
こういう場合、部屋にあがってもらってお茶とか出すんだよね?
お父さんは会社。お母さんも確か今日はパートで遅い。お兄ちゃんは大学のあとバイト。
誰もいない。……むり。あたしにはむり。そんな難題突き付けないで。
早く帰ってと思っていたくせに、じゃあ、と言いかけた黒澤君を大声でさえぎっていた。

「く、黒澤君っ! (げ、呼び止めてる!?)あああの(繭子、お礼お礼。お願いだから余計なことは言わないで!)、
今日はありがとっ、送ってくれて。それから……あのあのッ、保健室に運んでくれたのが黒澤君で良かった! 助かった!
エロ本だったらと思うとぞっとする。あいつ触りまくってただろうから(そ、そんなこと言わなくていいからッ)。
あ、あたし重くなかった? でもっ、意識失った体は重く感じるっていうし、違うの違うのッ(やー、口が勝手にー)。
そそそれと腕もっ、電車の中で。……ありがと。なんか袖、しわくちゃにしてごめんだけど。
えと、なんで黒澤君そんなにやさしいの? 黒澤君は……っ、なんであたしと付き合ってんの?」

117:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:26:04 LKJ1Xgqw
頭の中がまっしろ。もやもやと考えていた反動なのか、ぶちまけるように一気に言葉を吐き出していた。
あたしってば口滑りすぎ。途中からわけわかんないことに。特に最後。
深くは追求しないでおこうって決めてたのに、なに訊いてんの!?
黒澤君、ちょっと眉をしかめてる。けどかなり呆れ果ててるのが伝わってくる。ひゃ、口開いた。

「藤野は思ってた以上に馬鹿で鈍感なんだな」
「はあァ~~~!?」
黒澤君はふっと鼻で笑って、すたすたと行ってしまった。
はあ? はあ? 何度も呼びかけたけれど、振り向きもしなかった。

頭きた。ばかで悪かったな。
そりゃあ常に学年トップを誇る黒澤君からしたらあたしは大ばかだよ。言われなくてもわかってるよッ。
鈍感て鈍感て……え? あ、はいぃぃ? もしかして、好きってことォォ!?
それはないでしょ。急に冷静になる。だってそんなこと一言も。そんなそぶりだってなかった、よねぇ?
時々眩しそうに目を細めて見てるのは気付いてた。その視線に優越感を感じてたから。
でもォ、自分でいうのもなんだけど、目の保養的なニュアンスしかなかったような気がするけど?
最初は警戒してたんだよねぇ。ひょんなことからっていうか自分で訊いたんだけど(いま思い出しても恥ずかしい)、
黒澤君が童貞だと知って、あたしで筆下ろしするつもりー!? それが告白OKした理由かッ!
って血相変えたんだけど、なんか黒澤君全然がっついた感じじゃないんだよねぇ。
実際、手も握られたことないし。なーんだ、あたしの勘違いだったかと安心するやら拍子抜けするやら。

あっ、とひらめいた。なんでそんな簡単なことにいままで気が付かなかったのかと歯ぎしりする。
やっぱりあたしの恋愛偏差値小学生レベルかも。やさしいイコール好きなんかじゃない。
やるためだったら男はなんだってするってよく耳にするじゃない。下心を見せないのも変にやさしいのもすべて演技だ。
最初の直感が正しい。やりたい一心でのことだったんだ。黒澤君はそれを巧妙に隠してたんだ。
ふー、危ない危ない。あやうく騙されるところだった。でもあたしは負けない。
むこうがどんな手を使ってきても華麗にさばいてみせる。相手として不足はない。いい練習相手だ。
居ても経っても居られない気分で、その場をぐるぐると回っていた。

118:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:29:00 LKJ1Xgqw

***************

次の日。登校すると、案の定チラチラと見られた。くすくすと笑われた。
朝から好奇の目に晒され質問攻めに遭い、ほとほと疲れた。
ひとりになりたくて、昼休みは図書室に逃げ込む。
まじめでおとなしい生徒が何人かいるだけ。ここだったらほっといてくれる。
まあ、あと2日の辛抱だ。それで今週は終わる。来週になったら噂も落ち着くだろう。
ため息をつき、寝不足のあたしは机に突っ伏した。

「―繭ちゃん、繭ちゃん」
肩を叩かれて、顔を上げた。ぱっと体を起こす。
「あ、青山君! びっくりした。全然気が付かなかった」
「みたいだね。フフ、黒澤君のこと考えてた? 見たよ、昨日。やるな~妬けちゃった」
うつむいて髪で顔を隠す。色んなことに動揺していた。
吐息がかかるほど体を寄せて囁かれたことに。
からかうような口調とは反対に目が真剣だったことに。
いまのいままで青山君のことを思い出しもしなかったことに。

「繭ちゃん、耳まっ赤」
びくっと肩が跳ねる。髪を後ろになでつけられて、耳をあらわにされた。
あたしは動けない。耳が心臓になってしまったかのように、どっくんどっくんと脈打っている。
青山君にも伝わっているだろうか。男の子にしてはほっそりした指でぐるりと輪郭をなぞり、青山君が言った。
「きれいな耳だね」
「……そ、そんなの、どこで判断するの?」
声がうわずった。
「薄くて華奢で、全体的にきりっとしてて。それにここ」
一段とひそめた声で囁き、耳たぶのすぐ上にある窪みに指先をはめ込む。
「繭ちゃんのここ、狭くて深いね。ここで名器かどうかわかるらしいよ。黒澤君に締りがいいって言われない?」
「そそそそんなこと、したことないもんっ!」
勢いよく立ち上がり、叫んだ。派手な音を立てて椅子が後ろに倒れる。
他の生徒達がいっせいに白い目を向けてくる。なかでも一際冷たい視線があたしを貫いた。

119:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:32:43 LKJ1Xgqw
放課後。おじいさんが蒐集していたものを見に、黒澤君の家に寄ることになってしまった。
誘う黒澤君の表情は他にも話があると強制していて、とても断れる雰囲気じゃなかった。
逃げてると思われるのもいやで、ついうなずいてしまったあたし。
前を歩く彼の影を踏みながら思案に耽る。
繭子、やっぱりやめたほうがいいんじゃないの?
いっちょ黒澤君ちに行ってみるかと、気軽に考えてた昨日とは状況変わってない?
なんか嫌な予感がするんだけど。でも、あんなこと言われたら気になって仕方が無い……。

―黒澤君、いつから図書室にいたんだろう?
鋭い眼光に射すくめられて一歩も動けなかった。時間が止まったみたいだった。
視界の隅でなにかが動いて、やっと感覚が戻ってきて、黒澤君に向かって歩いていく青山君をぼんやりと追う。
立ち止まって、なにか声をかけた。青山君のあんな意地の悪い顔、はじめて見た。
無表情な黒澤君。視線はこっちに向けたまま。怖い。なにを言われたんだろう? 気になる。
青山君は図書室を出て行く前に、あたしを振り返ってにこっと笑った。いつもの天使のような笑顔。
逆に、悪魔のような冷淡な表情を浮かべた黒澤君が近づいてきて言った。

―青山のことが好きなんだろ。協力してやろうか。

協力ってなに? なに考えてんの? 黒澤君の頭の中が覗けたらいいのに。
それにしてもこのへん、立派な家が立ち並んでるなぁ。きょろきょろと周囲を見渡す。
わあ、あそこなんて女の子が夢見るようなお屋敷だなーと感嘆していたら、
黒澤君がそこにずんずん入っていくじゃないの! ってここが黒澤君ちー!?
目の前には蔦の絡まる洋館が建っていた。木が茂り、清涼な空気に包まれる。
ひゃー、世界が違う。目を白黒させて広い玄関に足を踏み入れると、お帰りなさいませというセリフが!
リアルで聞いたっ。小柄な中年の女性がにこやかに出迎えていた。
マサさん書庫に紅茶を、と告げて黒澤君は階段へ足を向ける。
あたしはマサさんと呼ばれた女性にぺこりと頭を下げて、長身のあとに付いていった。
良かった~。他にも人いたんだ。ふたりっきりになるのはマズイんじゃないかと思ってたから安心した。
それに、もしなにかされそうになってもきっぱり拒絶すれば問題ないよね?
黒澤君は無理やり女の子をどうこうするような人じゃないだろうし。
なんだか気が楽になってトントンと階段を上っていった。

120:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:37:23 LKJ1Xgqw
ところで書庫と書斎の違いってなに、という疑問は中に入って消し飛んだ。
うわー、床から天井までびっしりー。難しそうな本がいっぱいー。洋書がたくさんあるー。
前もって用意しておいてくれたのか、低いテーブルの上には古い映画雑誌が山積みにされていた。
黒澤君を振り返るとうなずき返されたので、さっそく手に取って読み始めた。

かちゃかちゃとポットとカップを並べる音で我に返る。
ごつい石の門柱を過ぎてからこっち、テンション上がりっぱなしだった。
自分の現金さにちょっと恥じる。訊きたいことがあるんだったっけ。
マサさんが入れてくれた薫り高い紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせた。
のんびりしてはいられない。こほんとひとつ咳払いをして、向かい側のソファに座っている黒澤君に話しかける。

「黒澤君、図書室でのことなんだけど……青山君になに言われたの? それと、協力ってなんのこと?」
「―いくつか確認したいことがある」
めずらしく即答をさける黒澤君に、あたしは先を促すようにうなずく。
「藤野は青山のことが好きなんだよな?」
しばし沈黙。真っ正面から見つめてくる黒澤君から顔をそらして、こくんとまたうなずく。
なんだろう……胸がざらざらする。
「俺と付き合ってるのは青山を忘れるためか?」
硬い声。黒澤君でも緊張することあるんだなと思ったら、込み上げてくるものがあった。
これは、なに? わかんないわかんない。わかりたくもない。
ぶんぶん頭を振っていたら、やっぱりな、という苦々しいつぶやきが耳に入る。
「そんなことだろうと思った。あいつ、人のものにしか興味持たないからな。彼氏効果が効いてきて満足してるんだろ、藤野。
けどまだ完全じゃないな。青山も言ってたぞ、まだしてなかったんだ、って。物足りなさそうだっだよ。
ふっ、ほんと人のものを奪うのが好きなんだな、あいつ。―協力してやるよ。俺も中途半端なことは嫌いなんだ」

ななななんなの!? 突然べらべらと。惚けたように見ていた。ひしひしと黒澤君の怒りが伝わってくる。 
嫌いなんだ、と吐き捨てながら立ち上がった黒澤君につられるように、あたしも立ち上がる。
かちゃんとカップが揺れた。ものすごく身の危険を感じる。逃げなくちゃ。
が、テーブルを一跨ぎした黒澤君にあっさり腕を掴まれてしまった。無言でもみ合った末、ソファに倒れ込む。
はあはあと荒い息をつきながらぶ厚いドアへ目をやるあたしに、黒澤君が言い放つ。
「手伝いに来てくれてる人はもう帰ったから、助けを呼んでも無駄。それに本が厚い壁替わりになって声も外に漏れないから」
「こ、これってレイプ!? やだッ! やめてよ。こんなの、こんなの……っ、黒澤君らしくない!」
「俺のなにを知ってるんだよ。藤野、おまえ俺の下の名前さえ知らないだろ」
ぎくっと引きつったあたしを見て、黒澤君が乾いた声で笑う。
……知ってるよ。武士みたいな名前。読めないんだって! 
訊けば簡単だけど、なんとなく自力で正解したくて奮闘中なんだよ。
「―俺の、ものにしてやる」
黒澤君は絞り出すように言って、シャツのボタンに手を伸ばしてきた。

121:はじめての彼(仮)
07/10/23 16:42:31 LKJ1Xgqw
まさかこんなことで黒澤君の赤い顔を見ることになるとは思いもしなかった。
冷たくて熱い目。こんなに怒るなんて……、バレても肩をすくめるくらいで済まされると軽く考えてた。
あたし、ひどいことしたんだ。息が苦しい。さっきも感じた、重くきりきりしたものが胸を襲う。
でも自業自得とはいえ、レイプは許せない。黒澤君もあとできっと悔やむ。苦しむ。

シャツの裾を引っ張り出されて、前をはだけられた。胸に視線が注がれる。
ほっぺたが燃えるように熱い。ブラの上から大きな手で包み込まれた。
「やっ! レイプなんてだめだめだめ。黒澤君、絶対あとで後悔するからっ。やめて!」
「さっきからレイプレイプって騒いでるけど、和姦にするつもりだから」
「はあァ? なに寝ぼけたこと言ってんのっ。あたし何度もやだって言ってるじゃないッ」
「こういう時のやめてはアテにならないだろ。だから体で判断することにした。濡れたら合意とみなすからな」
なにその傲慢な言い草ッ。そうこうしている間にも、黒澤君の手は縦横無尽に動きまわる。
髪を撫で、お腹を撫で、背中を探る指がホックを外す。無防備になった胸を下から持ち上げるように揉みしだく。
「いやああッ(なんか下のほうがもぞもぞする!)」
「乳首が硬くなってきてる。感じてるんだ?」
執拗に指でいじられ、赤く尖った先端が口に含まれようとしたその時、
あたしは思いっきり腕を突っぱねそれを阻止した。うがっと変な声がしたけれど気にしない。
「かか感じてなんかないもん! しつこく触るから、ただの条件反射だもん! 寒い時硬くなるのと一緒ッ。
濡れたら合意って、そんなの卑怯! 感じてなくても防衛本能で濡れるもんなのッ。だからだめ。そんなの認めない!」
黒澤君は体を起こして黙り込んだ。首をこきこき鳴らしている。なにやら難しい顔で思案中。
必死の抵抗が届いたのか。冷静になればわかってくれるはず、と期待したのも束の間。

「わかった。じゃあ、触らないで見てるだけにする。それで濡れたら問答無用で抱くからな。いいんだな」
「う、うん……は!?」
あまりにもストレートに抱くと断言されて、うなじの毛が逆立つ。
うそおォォ、あたしってば勢いに押されてとんでもない約束を! いまのなしなしッ。
慌てて起き上がったあたしを牽制するように、黒澤君は付け加えた。
「格好はそのままで。それと、さっきので濡れたんだったら一旦拭いておけば?」
「だからっ、感じてなんかないの! で、見てるってどのくらいよ。さっさと終わらせてよねッ」
売り言葉に買い言葉であとに引けなくなってしまった。迂闊さを呪ってももう遅い。
はたと気付くと、スカートはめくり上がりパンツが見えている。シャツもブラもずり下げられて半裸状態。
猛烈な羞恥に襲われたけれど、押し殺してソファに座り直す。
負けないもん。ぎゃふんと言わせるんだもん。その高い鼻をへし折ってやる!
「藤野の誕生日はいつ?」
意図はわからないものの、7月12日と仏頂面で答える。
足して19か、とぶつぶつ言いながら黒澤君はテーブルの上のものを片付けて、そこに座った。
テーブルとソファの間は50センチくらい。至近距離で対峙する。
「いまから19分。見てるから」
そう宣言して、馬鹿げた睨み合いがスタートした。


(つづく)

122:名無しさん@ピンキー
07/10/23 17:43:49 AaJcFsHZ
つ、続きを、続きをはやくっ!

123:名無しさん@ピンキー
07/10/23 19:34:53 L4ooJ1sj
イケイケ黒澤~!

124:名無しさん@ピンキー
07/10/23 22:14:06 g4U63Ocs
イイゾ黒澤~!


125:名無しさん@ピンキー
07/10/23 23:29:59 cHlau9rz
ゴーゴー黒澤~!

126:名無しさん@ピンキー
07/10/24 13:00:29 RKAroFTm
黒澤君がんばれ!

個人的には青山君派だけどな!!w

127:名無しさん@ピンキー
07/10/24 18:11:42 iNVJpfQg
はやく続きを………ッ
超支援

128:名無しさん@ピンキー
07/10/24 21:46:35 ZoM9RKkw
ま、まちきれない…!!

129:名無しさん@ピンキー
07/10/24 22:09:18 fBWyPkRr
足して19って、意味不明だからっ!
黒澤くん、頑張れ~!
続き、イイコで待ってます!

130:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:11:42 rLJzcOA4
あたしはできるだけ卑屈に見えないようにソファの上で姿勢を正し、
まっすぐ前を向いて黒澤君の後ろの壁にかかっている時計を睨み付けていた。
あれ、壊れてるんじゃないの? ちっとも針が進まない。

―やっと1分が経った! まだ18分もあるのかと思うと気が遠くなる。
19分は長い。てか、なんで足してんのよッ。つっこむタイミングを逃してしまった。
7分、せめて12分にしてとはいまさら言えない。なんか早々に音を上げるみたいでしゃくに障る。
しゃくといえば、余裕しゃくしゃくの黒澤君が憎たらしい。腕を組み、片方の手をあごに置いて見下ろしていた。
じりじりと、視線が肌の上を這い回る。まるで脳裏に焼き付けるかのごとく丹念に。
目の動きでどこを見られているのか、だいたいわかった。
尖ったままの乳首や脚の付け根。思わず手で隠したいのをぎゅっとこらえる。
そんなことしたら余計いやらしく映ってしまいそうだ。太ももの脇で、爪が食い込むほど拳を握る。
見られた箇所が熱を帯びて、煙が立ちのぼりそうだった。黒澤君の眼鏡は虫眼鏡かッ。
無理にでも怒ってないとくじけてしまいそうな気がした。

―あと13分。沈黙に押し潰されそう……。
相変わらず黒澤君は見続けている。一言も喋らず凝視。いったいなにを考えているのやら。
って、そんなの決まってる! すすすすごい、えっちなことされてる、いっぱい。頭の中で。
下腹部がしくんと蠢いた。さりげなく内股をこすり合わせる。なんかいま、違和感が。うそッ、まさか!?
ごくりと唾を飲み下す音がやたら耳につく。意識すればするほど呼吸は乱れた。
熱い。とにかく熱い。うっすらと汗がにじんでいる。喉がカラカラ。

「……黒澤君、紅茶飲んでもいい?」
「ああ」
ポットに残っていたお茶を黒澤君はカップに注ぎ、手渡してくれた。
ばかみたい。おっぱいを晒してお茶を飲んでいる自分がみっともなくてため息が出る。
口の中が苦くて涙がこぼれそうになった。

「藤野の体はきれいだな。他の―、男にも言われたことあるだろ?」
なんだ、その妙な間は。あたしが遊んでるとでも言いたいのか。失礼なッ。
「あるわけないでしょ! いままで誰にも見せたことないんだからッ」
叩きつけるように言い返す。自慢じゃないけどあたしは一途に想うタイプだったの! あれ、過去形?
それになんだかあたし、きれいだと褒められて喜んでるみたい……。
こんなおかしな状況に追い込まれたせいで、頭までおかしくなっちゃったじゃないのーっ。
どこか満足げな黒澤君に不審を抱きつつ、ぐびぐびと紅茶をあおった。

131:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:14:50 rLJzcOA4

「オナニーはどのくらいの頻度でしてるんだ?」
「ぷはあーーーッ!」
大道芸人ばりに紅茶を噴き出す。
幸い、そっぽを向いていたので黒澤君やテーブルの上の雑誌にはかからなかった。
黒澤君はやれやれといった感じで肩をすくめている。
「藤野はすぐ顔に出るからわかりやすいな。バイブを使ってるのか?」
「ばばばバイブなんか持ってるわけないでしょ! 家族と一緒に住んでるんだからッ」
「自分の手か。―青山のことを思い浮かべてしてるんだな」
それはもう質問でもなんでもなくて、断定口調だった。
最近はしてないもん! あ……ほんとだ。あたし、最後にオナニーしたのいつだったっけ?
口を開けば開くほどドツボに嵌っていくのがわかったので、黙っていることにした。
黒澤君がじっと手を見つめているのに気付き、太ももの下にさっと隠す。
動揺ばればれだけど、必要以上に意地を張るのはもうやめた。神経消耗するだけだ。
どうせ黒澤君はなんでもお見通しなんでしょっ。半ば逆ギレ気味に時計を見る。

―やった! あと7分。
黒澤君も腕時計で時間を確認していた。
顔を上げた彼と視線が絡み合う。決意漲る表情にどきりとする。
な、なによ今度は。狂ったように心臓が打ち始めた。
「途中経過見せて」
意味がわからないふりをしていると、黒澤君が膝を立てて脚を開くようにと指示してきた。
いやッ。だってさっき変な違和感があったもん。中からなんか出たような出ないような……。

黒澤君はあたしの知らない間に催眠術でもかけたんじゃないの!?
じゃなきゃ説明がつかない。いやだという意識はあるのに、あたしの体は勝手に動き出す。
そろそろと踵が持ち上がってきた。ソファがぎしっと音を立てる。
右足。続いて左足。だめだったらだめーッ。
ぴったりと合わさった膝はがくがくと震えている。なにも考えられない。
開いて、と少しかすれた低い声。あたしは魅入られたように両脚の力をほどいていった。

132:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:17:40 rLJzcOA4
―見られている。吸い付くような眼差し。こめかみから汗が一筋流れた落ちた。
そんなに見ないでッ。布に隔てられてるとはいえ、恥ずかしさに変わりはない。
ましてやシミができてるかもしれないと思うと気が気じゃない。
きつく口を結んでないとうめき声が漏れてしまいそうだった。
黒澤君はなにも言わない。あ、あたしの勘違い? 取り越し苦労? う、こっち向いた。
かすかに口元を緩ませているのを見て、不安と焦燥が渦巻く。

「藤野の細い指じゃ3本入れても想像つかなかっただろ。実物に触ってみるか?」

はあァァああああああ!? じーつーぶーつーーーーッッ!? さささ触ってみるうううううう!?
心の中で絶叫するのみ。突拍子もない発言になすすべなし。止めるひまもなかった。
固まってるあたしを尻目に、てきぱきとズボンとパンツを脱ぎ出す黒澤君。
え、あ、ちょ……っ! シャツの裾から突き出たものに絶句する。うそでしょ!? 
だってあれ、指3本(てか、1本しか入れたことないって!)どころかあたしの手首くらいない?
それにあの動きはなに? わざと? 陸に上げられた魚みたいにびちびちびちびち。

「―や、来ないでッ」
ぼうっと観察しているうちに実物が目の前に迫ってきていた。
すっかり下を脱ぎ捨てた黒澤君はソファの背に両手をつき、あたしを腕の中に閉じ込める。
「触って」
熱い息がおでこにかかった。
ひやぁと情けない声を上げ、押しやるつもりで胸板に手を当てたとたん、はっとする。
黒澤君の体は硬く、やけどしそうなくらい熱かった。掌からどくどくと鼓動が伝わってくる。
その力強い響きに、なぜか落ち着きを取り戻す。優位に立った気さえした。
軽くM字に開いた膝の間にある実物に目をやる。不思議と嫌悪感は湧いてこない。
ちょ、ちょっとだけなら触ってもいい、かな。ちょっとだけなら……。

好奇心に負けたあたしは、恐る恐る手を伸ばす。
不規則に跳ねる実物の根元をそっと押さえて、先端を触ってみる。
なんでこんな形をしてるんだろう。奇妙としか言いようがない。松茸みたい……ストップストップ! 
食べ物に譬えるのはなしッ。めったに口にしないとはいえ、あとで困ったことになりそうだ。
気を取り直して、先端の割れ目や浮き出た血管を指で撫でさする。
うっと苦しげな声が頭上から聞こえて、ぱっと手を引っ込めた。い、痛かったかな?
指先がぬるぬると光っている。思うより先に行動していた。
くんくんと匂いをかぎ、あろうことかその指をぱくりと咥える。少ししょっぱ、あ、やっちゃった!? 
黒澤君の驚いた気配に正気に戻る。引かれたっ、と思った次の瞬間には押し倒されていた。

133:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:21:40 rLJzcOA4
反則! とっさに浮かんだのはそれだった。
残り時間あと1分というところで黒澤君はあたしの体に触った。
見てるだけという約束を破ったんだから、抱く宣言は無効なんじゃない?
重い体をばしばし叩きながらそう訴える。黒澤君の肩が小刻みに揺れている。笑っていた。

「途中チェックした時に、もう濡れてたよ。自分でもわかってただろ。藤野こそちゃんと約束守れよ」
「そ、そんなこと……ないもん。あ、汗じゃない?」
苦しい言い訳だった。その証拠に言い返す口調は弱しく、黒澤君を正視できない。
往生際が悪いな、と黒澤君はあたしの手を掴んで股間に強く押し当てた。
そして重ねた手をゆっくりと動かしながら耳元で囁く。
「ほら、びしょびしょだろ。藤野は見られただけでこんなに濡らしたんだよ。入れて欲しくて仕方ないんだろ」
「やめ……んっ、やあぁ……きら、い……黒澤くん、なんかっ……大っ嫌い!」
手がほどけて、めちゃくちゃ振り回した拍子に黒澤君の眼鏡が飛んだ。
カシャンと落ちた場所に見向きもせず、黒澤君は足からパンツを抜き取り、顔の前にかざす。
「嫌いな相手にこんなことされて悔しいだろ。言うこと聞かない体が情けないだろ。
―たまんないな、その顔。もっと泣かせたくなる。別の意味でも、だな」

なにかのスイッチを押してしまったのか、黒澤君の様子が豹変した。眼鏡のせい? 
かけてる時とない時では全然印象が違う。さっきまでは興奮していてもからかう余裕があったようだったのに、
いまは激情が抑えられないといった感じだった。とにかく、いじわるモード全開。
着ていたものは瞬く間に剥ぎ取られて、素っ裸にされてしまった。黒澤君も全裸になってる。
見ないで、と言えば全身をじっくり舐めるように眺め回し、
触らないで、と言えば敏感なところを指で責め立て唇がそのあとを追ってくる。

「ああッ、だめえぇぇ……そんなとこ! 恥ずか、やあっ、舐めないで!」
「少しは学習しろよ」
黒澤君はがっちりと抱え込んだ脚の間から顔を覗かせ、小ばかにしたように鼻を鳴らす。
ひどいッ。なに言ってもやめないくせにーーーっ! し、ししし舌があああ!?
ぴかぴかにでも磨くつもりなのか、黒澤君はあそこを何度も何度も舐め上げてくる。
しまいには唇を密着させ、液体を吸い込む下品な音まで聞こえてきた。
やめてーッ。ほんとやめて! おかしくなっちゃううう。助けてえぇぇえええっ!
背中を大きく仰け反らせて、いやいやとすすり泣く。
「あ、あ、あ、やあぁぁあああああ!」

134:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:25:40 rLJzcOA4
クンニでイかされた。悔し涙があふれる。自分の体に裏切られた気分。
茫然と天井を見上げる。もうやだ……なにも考えたくない。
ぐったり虚脱していると、黒澤君が体を重ねてきた。
入れるぞ、と怒っているような泣いているような声がして、硬いものがめり込んでくる感触が走った。
「だ、だめえええっ。ああ赤ちゃんができちゃう!」
「大丈夫。ちゃんと付けてるから」
……そうなんだ、いつの間に。や、そうじゃなくてそうじゃなくて! なんか間違ってる。あたしも黒澤君もなんか間違ってるッ。
暗い目で見下ろしてくる黒澤君がすごく悲しい。胸が張り裂けそうだ。

「はぁはぁ、黒澤く……んあっ、こんなことして……た、楽しい?」
「―ああ」
「うそッ! だったら.……はぁ、なんでそんな……つらそうな顔っ! いたぁっ」
「……出そうなんだよ、食いしばってないと。藤野のここ、熱くてぬるぬるしてて……こんなに気持ちいいとは思わなかった」
ぎゅっと黒澤君に抱きしめられたのと同時に、あたしの中がいっぱいになる。
太ももから肩までぴったり。ふたりの境目がわからないくらいくっついたまま、10秒、20秒―
繋がってる部分に意識が高まる。目を閉じると、さっき目にした魚のように跳ねていたものが脳裏に浮かび、体が打ち震えた。

「―青山のこと、思い浮かべてるのか?」
ぱちっとまぶたを開くと、黒澤君が鬼のような形相でねめつけていた。
悲鳴を飲み込む。怖いけど、どきどきする。
いつも冷静沈着な黒澤君がこんな風に激しい感情をぶつけてくるの、あたし……嫌いじゃないかも。
「……だったら、なに。やめてくれるの?」
思ってもいない言葉が口をついて出てくる。ひゃあああ、なに挑発してんのー!?
絞め殺さんばかりの憤怒の色を浮かべる黒澤君に、痺れるような快感を覚える。
いままでやられっぱなしだったから、一矢報いてほくそ笑んだ。のも一瞬で、首に腕を回され肝を冷やす。
ここ殺されるううう、と思いきや体を引き寄せられただけだった。
なななによッ。混乱するあたしに、黒澤君はいたぶるように腰を突き出して言う。

「見ろよ、ほら。しっかり咥え込んでる。好きでもない奴に処女奪われるのは、どんな気持ち?」
「―! い、いたい……よ。すっごく痛い……やぁ、抜いて……抜いてったらッ!」
「いやだ。それより力抜いて」
くうぅぅ……何度も瞬きを繰り返す。
そんなことをしても、濡れそぼった局部や抜き差しされる肉の棒は消えない。
その事実に打ちのめされる。ばかだ。ふたりともばか。
お互い相手の傷つくようなことをわざわざ口にして、取り返しのつかないことに。
痛い痛いと叫ぶ。黒澤君に突かれるたび、ぼこぼこと心に穴が空くようでたまらなかった。

135:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:29:05 rLJzcOA4
どのくらい時間が経ったのか。気が付いたらすべてが終わっていた。
ずるりとあたしの体から離れた黒澤君は、背中を向けてなにかごそごそやっている。
―パンツ。とりあえずパンツが穿きたい。素っ裸は居た堪れない。
黒澤君はいったいどこへ投げ捨てたのか。よろよろと立ち上がったあたしの手首を掴む者がいる。
……なんなの。力なく振り向いて、ぎょっと目を剥く。
黒澤君は臨戦状態だった。

「誰が一回でやめるって言った?」
「はあァ~!? いい加減にしてよッ。もう気が済んだでしょ!」
「まだだ。藤野がイクまでやめない。初体験は痛かっただけだと記憶されるのは許さない」
「……い、いいから。あたしが許すから、やめて……」
黒澤君は真顔だ。この調子ではなにがなんでもやり通すつもりなんだろうな……。
しゅるしゅると全身から抗う力が抜けていく。つつーっと粘液が内股を伝っていった。
ただ手首を強く握り締められてるだけなのに、あたしの体はソファのほうへと傾き始める。
そして黒澤君の上に座る形で、後ろから貫かれた。

どう考えても、はじめてとは思えない。
首筋に唇を這わせながら両手で胸を撫で回し、その上座った状態で腰まで動かすなんて芸当、初心者のすることォォ!?
「黒澤く……あんッ、童貞って、うそでしょ! な、慣れてるもん……ほかの、ほかの……っ、なんでもないッ!」
この、胸がぎゅーっと締め付けられる感じ。覚えがある痛み。……嫉妬?
後ろを向けていて、吐きそうな顔を見られなくて良かった。
自分でもよくわかってないのに、なにを見透かされるかわかったもんじゃない。
「―他の子としたことはないよ。藤野がはじめてだ……ずっと前から、こうしたかったんだ。
本当は鏡の前でしたかった。繋がってるところや、藤野の乱れた姿を鏡越しに眺めながらしたかった」
「ヘヘヘヘンタイ! やらしいこと言うのやめてよっ、ばか!」
「しょうがないだろ。やらしいことしてるんだし、藤野の体がやらしすぎるんだ……ここ、勃起してるな」
「いやあぁぁんっ!」
黒澤君は片方の手を下に滑らせ、充血したクリトリスを指でこすった。
信じらンない。黒澤君がこんなすけべだったなんて! むっつりすけべってやつだっ。
もっと信じらンないのは、あたしもどうやらすけべだったってこと。そんなの知りたくなんてなかった!
黒澤君のすることなすことに、いちいち反応するあたしの体。どうしてくれんのーっ!?
物欲しそうに揺れるお尻がいやッ。どっから出してんだかわかんない鼻にかかった甘ったるい声がいやッ。

「そこ、だめなのォ……触っちゃ、やぁああ……へ、へんになっちゃうのおォォ……いやあああああっ!」

136:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:32:30 rLJzcOA4
月並みな表現だけど、体中に電流が走った。どこかへ飛んでいってしまいそうな感覚に襲われた。
口が裂けても自分から言うつもりはないけど、確かにあたしはイった。
自分でするより何倍もの恍惚感に包まれた。
黒澤君にそのことを指摘されるのは死ぬほどやだけど、なにか言ってくれないと動くきっかけがつかめない。
もどかしく重苦しい空気が流れるなか、突然あたしのケータイが鳴った。
びくっと鞄を見つめるものの、出る元気がない。
ほっといていると軽快な着信音は止み、それが合図になったかのように黒澤君が喋り出した。

「いまのは……だめだ」
意味不明の顔をしていると、ここでイっただろ、と指先で軽くクリトリスを弾かれた。
「きゃっ!」
「だめだ。俺ので感じないと……俺のでイクところが見たい」
黒澤君の思いつめたような切ない眼差しに、胸がつまってなにも言えなくなってしまった。

ど、どんだけ黒澤君は頑固なの……、どんだけあたしは押しに弱いの!?
みたびたくましい体を迎え入れた時、再び場違いな着信音が鳴り響いた。
誰からだろう、うちでなんかあったとか? 千明? まさか、青山君……?
わずかに見せた狼狽になにかを察知したのか、黒澤君が鞄を手元に引き寄せた。
「ち、ちょっとなに……やめてっ。人のケータイ勝手に、あっ……!」
黒澤君は着信名を一瞥するや否や、素早く開いて通信ボタンを押してしまった。
目を見開き口をつぐんでいるあたしを見据えながら、黒澤君はケータイに耳を澄ませている。
その顔がみるみるいつもの、というかいつも以上の冷淡なものに変化していくのを、かたずを呑んで見守った。
黒澤君が無言でケータイをあたしの耳に押し当ててくる。

『―あれ、おかしいな。繭ちゃん、聞こえてる? もしもーし……』

青山君の明るいのんきな声が耳朶を打つ。
最悪の事態だ。こ、こういう場合はどうすれば……電話。とにかく電話を切らなくちゃ。
かたんと横のテーブルに置かれたケータイに手を伸ばす。
が、当然のごとく黒澤君に阻まれる。
両手を頭の上に押さえつけられ、下半身は釘付けにされていて身動きが取れない。
懸命に体をよじるも、それは単に性器をこすり付ける淫らな行為なだけだと悟り、抵抗をあきらめた。

137:はじめての彼(仮)
07/10/25 00:37:24 rLJzcOA4

「やらしい声、聞かせてやれよ。その方があいつも燃えるだろ」
黒澤君は特に声をひそめることもなく言った。
楽になるぞと言わんばかりのやさしい声音とは反対に、表情は冷ややかそのもの。
なんでこんないじわるするのッ! 泣きわめきたい心境だった。
ケータイと黒澤君を交互に見やりながら、電話切れてますようにとひたすら願い、
やめてよばかばか光線を送り続ける。早く終わってと念じることしかあたしにはできなかった。

黒澤君がぐちゃっぐちゅっとわざと卑猥な音を立てながら腰を使い始めた。
反射的に胸を反らす。ああッ、だめ! そんなことしたら吸って欲しいとおねだりしてるようなもんじゃないっ。
果たして、黒澤君がおっぱいにむしゃぶりついてくる。腰同様に、わざと音を聞かせるように舐めたり吸ったりしている。
足の先からなんともいえない熱い痺れが這い上がってきた。
「―ッ!」
食いしばった歯の間からくぐもった声が漏れる。
声出せよ、と黒澤君が呪文のように繰り返す。あたしは目に涙をためて、首を振り続けた。
「我慢してる姿がどれだけそそるか、わかってないだろ。声出さないと、その顔撮ってあいつに送るぞ」
「や、やめてえぇぇ!」
本気でしそうな勢いに、大声を張り上げて制止する。
一声発して緊張の糸が切れてしまったのか、ぼろぼろと泣き出す。
「うっ、ぐすっ……ひどいよぉ、こんな……うう、いじわる……も、もう知らないッ……ひっく、あ、やあぁんッ」
泣き声があえぎ声に変わっていくのに、そう時間はかからなかった。
あたし……ボロ負けじゃん。完膚なきまでにやられて、逆らってたのがばからしく思えてくる。
もうどうにでもなれという気持ちで黒澤君の動きに合わせて腰を振り始めた。
黒澤君が片脚を肩に担いで、奥まで深く突き刺す。摩擦のスピードが激しくなってきた。
ああッ、えぐるようにこすり付けられるのがたまらないッ! 体がびくびくと痙攣して大きく跳ね上がる。

「あぁっ!? な、なんかくるっ……やあぁ、怖いぃ……あっ、あっ、あっ、あぁあぁぁああああああーーーっ!!」
「まゆっ、―だ!」
……なんかいま、下の名前を呼ばれたような? あとに続いた言葉もよく聞き取れなかった。
だ、だめ……部屋の景色がぐるぐる回ってる。頭が重い……複雑なことは考えらンない。
暗くなっていく視界のなかに、黒澤君の姿が浮かぶ。なんだろう……しまったって顔してる。
うっかりミスはあたしの専売特許だと思ってたけど、なにかしでかしたらしい……うろたえぶりが半端じゃない。
く、くそぉぉ……せっかく黒澤君の弱みを握れそうだったのに……意識が、薄れてきた……む、無念。


(おわり)

138:名無しさん@ピンキー
07/10/25 00:38:19 rLJzcOA4
ラブラブなふたりも書きたいところですが、いかんせん疲れてしまいました。
充電後、つづき書くつもりですが当分先になりそうです。ではまた。

139:名無しさん@ピンキー
07/10/25 02:14:07 teIJW5Yb
GJ!!!超GJ!!!!黒澤くん萌え
続き楽しみにしてるよ
ゆっくり休んでください

140:名無しさん@ピンキー
07/10/25 08:46:56 qAtSsoFD
黒澤くん中出しかw
つーか青山くんどうでるんだろう。
続きすごく気になるけどまったり待ってます。
投下乙でした。

141:名無しさん@ピンキー
07/10/25 09:40:15 7ILuwTb5
>>140
つけてる描写あるよ

乙でしたー。すごく良かった!

142:名無しさん@ピンキー
07/10/25 10:36:31 qAtSsoFD
あれ、そうか。一回め終わったあとの
背中を向けてごそごそやってる…のところで外したのかと思ってた。
じゃあ何にうろたえたんだろう。ますます気になるな~。

143:名無しさん@ピンキー
07/10/25 10:54:16 7ILuwTb5
うろたえたのは、自分がつい言ってしまった言葉に対してだと思われ

144:名無しさん@ピンキー
07/10/25 13:10:45 klGGHakT
GJ! 充電終わるまで待ってるよ!

145:名無しさん@ピンキー
07/10/25 13:42:56 wp8fsf3g
黒澤君頑張れ~!!
書き手さん超GJ!!!

146:名無しさん@ピンキー
07/10/25 23:10:28 iceawEAC
燃えた…ss読んで久々に燃えたよ!!
黒澤君の鬼畜デレぶりがたまらん!
十分に充電してから続き投下して下さい。正座で待ってる

147:名無しさん@ピンキー
07/10/26 07:57:32 aFkzQuNZ
個人的にはお互いが好き合ってないと、もえられないな……
今後の展開によっては結果オーライになるかもしれないけどw

148:名無しさん@ピンキー
07/10/26 11:06:03 PthzLK+v
えー、繭タンにも何かは芽生え始めてると思ったよ。
まだ自覚以前の段階みたいだけど…

作者さん超GJ!夢中で読んだよ!
初めてこのスレ覗いたけどこんな萌え&燃えに出会えて凄く嬉しい
続き自分のペースで頑張って下さい!

149:名無しさん@ピンキー
07/10/26 15:23:40 u5OcELS1
>>148タンに激同!繭タンも嫉妬?って自問自答してたし♡
んも~すげーGJ!!
携帯で青山くんは当然聞いてたワケで、今後どう出てくるのか楽しみっす!
続き、いつまででも待ってますので、ゆっくり書いてくださいね(^^)


150:名無しさん@ピンキー
07/10/26 16:32:21 Xtx+FucU
このSS読んでスレをお気に入り登録してしまったほどに萌えた


151:名無しさん@ピンキー
07/10/26 17:12:52 aFkzQuNZ
>>148
いや、だから自覚してんだかしてないんだか分かんない状態で処女奪われたくねええぇ
…と私は思ったわけで。

152:名無しさん@ピンキー
07/10/26 17:15:43 W+IJBOzi
まあ、そこは人それぞれだよな

153:名無しさん@ピンキー
07/10/26 19:48:51 b9JwGsMF
ネ申SSを読んだ…GJすぐる
天才だよ、おま

154:名無しさん@ピンキー
07/10/30 01:33:46 L6MpzGSt
黒澤くんGJ
繭タソGJ
作者さんGJ

ゆっくり休んで
是非シリーズ化を!

155:名無しさん@ピンキー
07/10/30 06:21:52 LN3bEJms
SS超大作

156:名無しさん@ピンキー
07/10/30 22:11:35 r8FzPa/G
マンセーレスが多いとちょっと引く

157:名無しさん@ピンキー
07/10/30 22:42:22 i1G/s9ke
いいものはいい

158:名無しさん@ピンキー
07/10/31 14:52:56 StqQpDb+
あんまりマンセーが過ぎると、作者さんが今後来にくくなっちゃうよ

159:名無しさん@ピンキー
07/10/31 17:03:19 r0XWHa9E
半年ぶりにこのスレに来た。377氏も繭子たんもGJ。

160:名無しさん@ピンキー
07/10/31 18:46:01 6J8muJNy
つ 【好みはひとそれぞれ】
キャラ名が黒澤じゃなければな、とオモタw
脳内で好きな名前に変換してくる

161:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 20:57:49 /ulSQ3lQ
test

162:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:01:00 /ulSQ3lQ
前スレで『Baroque』『teacup illusion』を書いた者です。
何か陵辱ネタの話が出ていたので、チャレンジしてみました。

あと、HNを付けてみました。トリップも今後これで固定です。
まとめサイトの方には、よろしくお願いします。

163:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:02:53 /ulSQ3lQ
『NO REFUGE, BE PRAYING』

 従兄との、傷つけ合うような、貪り合うような、危険な情事の記憶。

 色恋沙汰も知らない子供のころは、従兄のことが、単に物静かで優しい
親戚のお兄ちゃんだとしか思っていなかった。
 私は昔からわがままで意地っ張りで怒りっぽくて落ち着きがなくて、
今でもそんな自分が嫌いなのだが、従兄はいつもそんな私に少し困ったような笑顔で
付き合ってくれていた。そして私は、そんな彼に最大限甘えきっていた。
 母も叔母も、そんな私たちを見て、仲のいいことだとか、お嫁さんになっちゃえとか、
そんな色んなことを言ってきた。私はそういうことを言われるのが嫌で、いつも癇癪を起こしていた。
そして従兄はそんな私を見て、また困ったような顔で笑うのだった。

164:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:04:50 /ulSQ3lQ
 従兄が高校に入ったとき、寮に入ったため、しばらく会う機会がなかった。
二年間何があったのかはよく知らない。久々に会った彼は、相変わらず物静かだったが、
何となく近寄りがたい雰囲気を持っていた。
「久しぶりだな」
「う、うん」
「しばらく会わないうちに大きくなったな……あ、いや、きれいになったな」
「あー。今、一瞬、子供扱いしたでしょ」
「はは、済まん済まん」
 何か、背の高さといい、声の質といい、喋り方といい、昔とずいぶん変わって見えた。
「なあに、大人ぶっちゃってさあ?」
「そうか? そうかあ。そう見えるのかあ」
 一人で何か難しそうな顔で小首を傾げる。
「ぶっちゃけ、おっさん臭いよ、色々と」
「ははははは、酷いことをいうなあ」
 心なしか、余裕ぶってあしらわれているように感じる。
少し、むっとしたところで、母が割って入ってきた。
「まあまあ、しばらく会わないうちに、大きくなっちゃって」
「お久しぶりです、伯母さん」
「大学受験はどう? 大変でしょ?」
「いやあ、キツイです。できれば一発で受かりたいんですけどねえ」
「ケーキがあるから食べてね。ほら、あんたの分もあるわよ」
「あ、じゃ、いただきます」
「はーい」
 私は母と従兄を追って台所に向かった。小さなしこりを、胸の奥に感じながら。

165:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:08:06 /ulSQ3lQ
 母と叔母が台所で長話に入っている間、ケーキを食べ終えた私たちは所在なく、
居間のソファに並んで座っていた。
 何となく、会話もなく、やや重苦しい空気が流れていた。
「寮は……」
 不意にそんな言葉が口をついて出た。
「どうなの?」
「んー、毎日楽しいよ。食堂はあるし、浴場は広いし、何より個室だし」
「学校は?」
「楽しいね。勉強は大変だけど、バドミントン部は準優勝って実績を残せたし、
図書室は本が一度に五冊も借りられるし」
「じゃあ、勉強は?」
「うーん、それが、だいたい十位以内……二年のときは。
五位以内に入れたり入れなかったりする。最近は二位」
 あまり満足していないような口ぶりだった。高望みしすぎだ、と心の中で思った。
「何よ、一位じゃないんだ?」
「ああ。そこまでくるともう、いかにパーフェクトをキープするかって世界だからなあ。
神経の消耗っぷりも尋常じゃないね」
 目に光がなかった。私もほんの少し前高校受験を経験した身だが、
いくら大変だったとはいえ、ここまで疲れ果ててはいなかったと思う。
 従兄が、深く、溜息をついた。
「もう、老けて見えるよ、本当に」
「うわ酷いことを言われた! ショックだ!」
 おどけてみせている。どこからどう見ても自然に振舞っているところが逆に作りっぽかった。
どうもさっきから気になる。一体何なんだろうか。

166:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:09:33 /ulSQ3lQ
 お茶を台所に取りに行って湯呑茶碗を二つ持って帰ってきたら、
従兄が目を閉じて静かな息を立てていた。
(ああ、なるほど)
 疲れているのだろうと思い、黙って茶碗を置いて横に座った。
 従兄の寝顔は安らかだった。さっきまでの微妙に張りつめた雰囲気が、今はない。
(そうか、親戚付き合いだから、無理して頑張ってたのかな)
 気力だけで極力普通の振りを装っていたのだろうか。だとしたら、あのわずかに感じられた
わざとらしさも分からなくはない。本当は勉強でヘトヘトになっていて、だから目を離した隙に
寝落ちしちゃったりするのだ。
 口の端から少しよだれが垂れている。
(もう、仕方ないなあ)
 人差し指で拭ってあげると、従兄の表情が変わった。やや苦しげに眉をひそめて、
うう、と唸っている。起こしてしまったかと驚いて指を離したが、そのままうなされ続けていた。
悪夢でも見ているのだろうか。
(大変なんだなあ)
 従兄のこんな辛そうな様子は今まで見たことがない。胸がうずいた。
気丈に振舞っているが、本当はいつも気力の限界ぎりぎりのところで生きていて、
夢の中でも安らぐことすらできないのだろうか。
 そっと、従兄の手の甲に、自分の手を重ねた。彼のうめき声が、わずかに小さくなった。
私はそのまま、何も考えずに、しばらくじっとしていた。

167:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:11:50 /ulSQ3lQ
 次に気がついたときには、自分もすうすうと息を立てて、従兄にもたれかかって寝ていた。
眠気が伝染ってしまっていたらしい。
 ふと彼の顔を見ると、彼は目を開けて、ぽかんとした表情で私の顔を見つめていた。
(……あれ?)
 妙なことになっている。私もつられて彼の目を見返してしまった。彼の手が、びくん、と
わずかに強張ったのを感じた。
 そのまま、また、何となく気まずい空気が流れた。
 従兄の方が先に耐え切れずに目をそらせた。私たちの手を見た。肩と肩が触れ合い、
密着しているのを見た。彼の全身が大きく強張るのを、私は体越しに感じていた。
 そのまま、途方もなく気まずい雰囲気が、ずっしりとのしかかってきた。
(な、何か……何かしなきゃ。何か言わなきゃ)
 私も動転していた。飛びのいて離れるのが、この場合最も自然な反応なのだろう。
しかし、私はぎゅっと彼の手の甲に力を込めると、彼の腕をぐいっと自分の腕に絡ませていた。
「お前……」
 従兄が呆れたような声で言う。私はそこでやっと、自分が何をしているのかに気づいた。
「な、何よ、そそそ、そんなんじゃないんだからね!」
「そんなんって、お前……どんなんだよ」
「ななな、何よ、そ、そんなこと、私に言わせるつもりなの、このムッツリスケベ! 変態!」
「へ、変態って何だ! というか、マジで何なんだ一体!」
 自分でもよく分からない。既に混乱の最中にいた。
 彼の表情が私の目に映った。狼狽、困惑、焦燥、悶絶、そうしたものが入り混じった顔。
でも、彼の瞳はただ一つの感情を私に示していた。
 呆れている。
(私に呆れている)
 そういうことだった。それはそうだろう。私にだって分かる。でも、

 いつの間にか私は泣いていた。声を上げずに、ただ涙だけが止めどなく流れていた。

168:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:13:55 /ulSQ3lQ
 従兄は、一瞬歯を食い縛った。苦虫を噛み潰しているのとは違う。
何か、どうしようもない運命を、仕方無い、と黙って受け止めたような顔だった。
 そのまま唇をぐっとへの字に閉じると、空いていた腕を伸ばし、私の背に回した。
 私は、ずるずると身を崩すと、そのまま顔を彼の胸に埋めた。
(何やってるんだろう、私。馬鹿みたい)
 声を出すような真似はしなかった。母や叔母に聞かせる訳にはいかない。
上手に事情を説明できる自信がなかった。
 しばらく彼の胸の中で泣いているうちに、頭が少しずつ冷静さを取り戻してきた。
(本当に、何がどうなって、こんなことになっちゃったんだろう)
 今まで全然意識していなかった。彼は私の行動に動揺したし、私は彼の反応に動揺したことになる。
 どう動揺したのか?
 答えは私が自分で言っていた。性的な意味で、だ。彼は私を異性として認識して、
それで当惑したのだ。そして私は、
(私は?)
 異性として見られて、恥ずかしかったのは確かだ。
(でも、何で私、泣いてたんだっけ)
 恥ずかしくて泣いたんじゃない。悔しくて泣いたんだ。じゃあ、何で悔しいと思ったんだろう?
(彼の目だ)
 私が醜態を晒した後、彼は呆れたような目で私を見ていた。そのとき、私は異性ではなく、
ただの癇癪持ちの変な子供でしかなかったということになる。
 子供として見られるのと、異性として見られるのと、どっちが悔しいか?
逆に言えば、どっちがより嬉しいのか?
(私は子供じゃない)
 異性として見て欲しいかと言われても困るのだが、自分も無意識のうちに彼を異性として
求めてしまっていたのは確かだ。私は彼の手を取って、腕を絡ませた。
 それが、偽らざる本心なのだ。多分。

169:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:17:18 /ulSQ3lQ
 私は彼の胸から顔を起こすと、一つ大きく深呼吸をした。
「大丈夫か?」
 彼が小声で心配そうに訊いてくる。
 私は答えず立ち上がった。そのまま階段まで歩く。
 階段の半ばで振り向いた。彼がまた、困惑の極みのような表情で、
こっちを見ているのが分かった。
 私は無言で彼を手招きした。彼はさらに困惑を極めたような顔になったが、
それもせいぜい三秒くらいで、意外と素直についてきた。

 そのまま、二人して、足音も立てずに二階に上った。

 二階の私の部屋に入ると、私は内鍵をかけた。そんな私の手元を、
彼がまた呆れたような目で見つめた。
 だが、すぐに顔を引き締め、厳粛な表情になった。
「……で、何だ?」
 何だろう。
 二人っきりになりたかったのは確かだ。人の来ない閉鎖された場所で、特に何より私の部屋で。
 で、その後、私は一体何をどうしたいんだ?
(危ないことをしてるな)
 こんな状況を自ら作って、どういうことが起こりうるか、分かっているつもりだった。
 危ないこと。
 私にとって、途方もなく危険なこと。
 痛いかも知れない。傷つくかも知れない。後悔するかも知れない。
取り返しがつかない、何か途方もないことが起きるかも知れない。
 そんなことを、本当に私は望んでいるのか。
 私は、今、おかしくなっている。

 でも。

 私は彼に向き合うと、目と目で見つめ合い、顔と顔を近づけた。
そのまま、唇と唇がくっつく大分手前で、ぴた、と止まった。

170:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:18:35 /ulSQ3lQ
 彼の目の色が変わった。またしても、覚悟を決めたような色だった。
そのまま、息をゆっくりと吐きながら、不思議なくらい安らかな瞳に変わっていった。
 私のあごに優しく手を添えると、唇を半開きにして、私の唇に重ねた。
(わ……)
 私はぎゅっと目をつぶった。これが私のファーストキスになる。
 彼が私の唇をつまむようにして吸う。音が耳元に響くたびに、私の体は硬くなり、
同時に頭は霧がかかったように曖昧になっていった。
 何か、大きなものが、失われていくのを感じた。
(もう、戻れない、かな)
 怖いのに、これから起きるであろう色んなことを、受け入れてしまっている自分がいた。
 唇の端を舐めたり、舌を軽く入れて私の舌をかき回したりして、彼が私のことを求めてくる。
何か、ものすごいファーストキスになっている。
 うっすらと目を開けて彼の瞳を見ると、相変わらず不思議なくらい穏やかだった。
 私は昔読んだ漫画のことを思い出していた。獲物を見つけた獣は、決して唸ることなく、
穏やかな目をするという。
(獣なんだ)
 私の方が唸っていた。苦しいような、切ないような、そんな鼻声だった。

 気がつくと、彼が私の背中をがっちりと抱き締めていた。痛くないが動けないぎりぎりの加減で、
ゆっくりと力を込めてくる。
 ぐい、と傾く感じがあった。彼が体重をかけて、私をベッドに押し倒しているのだ。
 彼の瞳が私の瞳をじっと見据えている。私の反応を慎重にうかがっているような、そんな感じだった。
 また、漫画のことを思い出した。コタツから追い出されようとしている年老いた重い雄猫が、
人間の手を噛んで抵抗する。血が出ないように、ゆっくりと、ゆっくりと力を込めて。
その瞳は、自分の方が人間より偉いのだ、人間が本当に怒る直前のぎりぎりのところまで
そのことを思い知らせてやるという、ご主人様の目だったと書いてあった。
 その年老いた重い雄猫と、従兄とが、かぶって見える。

 少し肩に痛みが走る。そこで私は、自分の体がガチガチに硬くなっていることに気づいた。
彼は私の目を見ながら、少し半眼になって、わずかだが明らかに力を抜いた。
(ずいぶん優しいご主人様だなあ)
 私も体の力を軽く抜いた。そのまま、私の背中が、とさり、とベッドに倒れ込む音を聞いた。

171:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:20:10 /ulSQ3lQ
 手慣れていないが、それでもてきぱきとした手順で、彼はあっという間に私を裸にした。
私の裸体を見て、彼が大きく溜息をつく。
「ほーう……」
「な……何よ」
「きれいだ」
「なっ!」
 恥ずかしくなって、胸と股を手で覆った。
「何言い出すのよ、こ、この、ド変態!」
「いや、かわいいな、その隠す仕草もさ」
「う、うるさい! このムッツリスケベ! エロオヤジ!」
「うん。まあ、否定はしない」
 うんうんと神妙な顔でうなずいている。またあしらわれている、と感じた。
「まあ、いいや。とにかく」
 彼は私の耳たぶに顔を近づけると、はむ、と唇で挟んだ。
「きゃっ!」
 そのままあちこちを、ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて強く吸った。
跡をつけているのだ、と理解するのに、十数秒程度の時間が必要だった。
(こいつ……マーキングしてる)
 ますます獣だ、と思った。人の体を縄張り扱いするな、とも思った。
 不意に、胸を隠している腕と、股を覆っている手の甲に口づけをされた。
「わっ! そこはやだっ!」
「んー?」
 彼は無理に手をはぎ取るようなことはしなかった。ただ、手の甲をひたすら
音を立てて吸っていた。
 妙に抵抗する気にもなれずに、しばらくされるがままになっていたが、
次第に腕と掌に妙な感覚を覚え、その正体に気づいて愕然とした。

 胸の先が尖って、腕に当たる。
 隠している場所が、しっとりと潤っていく。

172:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:21:35 /ulSQ3lQ
(嘘っ!)
 恥ずかしくなってつい手を離して、べたついた掌をまじまじと見つめてしまった。
「これは……」
「ち、違う! そんなはずは……」
「嬉しいね。反応してくれてるんだ」

 信じられなかった。それほど激しい愛撫ではなかったはずなのに、濡れている。
なぜだ。ひょっとして、信じたくはないが、この状況下で私も興奮しているのか。
(……て、いうか、いいのか、私)
 さっきから、一方的にされるがままになっている。今の姿を冷静に考えると、
男の欲望に屈して流されている形になる。そんなことが果たして許されていいものか。
 まして、こんな状況下で興奮している私は、一体何なんだ。マゾか。マゾなのか。
そういう変態さんなのか、私は。

「初めて見るが、こんなんなってるのか。じゃあ……」
 彼が股間に顔を突っ込もうとしていたので、反射的にチョップで沈めた。
「うがっ!」
「ば、馬鹿馬鹿馬鹿! そんなバッチイところ舐めるなっ!」
「舐めるなってお前……舐めないと、後で大変だよ?」
 何が大変なのかは聞きたくなかった。従兄の頭を全力で押し返すと、
意外にも彼は素直に頭を引いた。
 そのかわり、私の体の上にかぶさってきた。
「うわっ!」
「……本当に分かってるのか?」
 体重で潰れない程度に体を浮かせて、私の耳元で真面目な顔で言う。
「わ、分かってるわよ……ていうか、本気?」
「既に俺の中ではそういうモードなんだが」
 彼の目が据わっていた。穏やかだが、何かに酔っているようでもある。
「それに、言い訳っぽいが、誘ってくれたのはお前だ。それは本当に有難う。
で、俺はそれに乗りかかった船だ。最後まで行くよ」
「ううっ……」
 正直、ここまで来ると、怖さの方が強くなっている。
 だが、もう止められない。ものすごい勢いで、雰囲気に流されている感じがあった。
 それに、丁重に感謝までされてしまった。酷い男だ。これじゃ、断れないじゃないか。
「……好きに、すれば」
 私の方も、無責任ながら、そう覚悟を決めた。

173:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:23:49 /ulSQ3lQ
 従兄がズボンのチャックを開く音が聞こえる。
「叫ばれるとアレだから、口を塞ぐ。悪く思うな」
 唇を唇で塞がれた。
「むー……」
 下半身の狭い入口に、何かがあてがわれるのが分かった。
 次の瞬間、入口から脳天にかけて、全身に激痛が走った。
「んんんっ!」
 たまらず彼の唇を噛んだ。
 彼も痛そうに顔をしかめて、そのまま硬直していた。
「んー! んー!」
 悲鳴をあげたが、彼はそんな私を見て、難しそうな顔をするばかりだった。
(あ、そうか。叫ばなきゃいいんだ)
 ぐっとこらえて、彼の脇腹をぱんぱんと叩いた。そこで彼は口を離してくれた。
「何だ?」
「ぬ、い、て」
 彼は言うままに抜いて、どさり、とあぐらをかいて座った。

「血……」
 彼は私の下半身を見て、複雑な表情になっていった。
 そうだ。ヴァージンを彼に捧げた形になる。
 こんな形で。半ば押し切られる形で。

 嗚咽が、つい、口から漏れ出した。

「お前……」
 彼がまた唇を重ねる。また黙らせるつもりだろうか。それともひょっとして、
これで慰めているつもりなんだろうか。
 悔しくなって、つい、彼の舌をがりっと噛んだ。彼はまた痛そうな顔をしたが、
噛まれるままに甘んじていた。 

 悲しかった。痛いのも悲しかったが、それだけが悲しいんじゃない。
やっぱり、もっと優しく抱いて欲しかった。こんな半ば強要されて、
暗黙のうちに受け入れるのを余儀なくされる形なんて、そんなのってない。
 彼は沈痛な面持ちのまま、目をぎゅっとつぶって、私の背を強く抱き締めた。
私も返す形で、彼の背にひびを入れるくらいの心意気で抱き返した。
(傷つけ合っている)
 涙が止まらなかった。何でこんなことになっちゃったんだろう。
 痛かった。傷ついた。今は後悔している。最早、取り返しがつかない。
 全て、分かっていたはずだった。

174:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:26:09 /ulSQ3lQ
 私が泣きやむのを待って、彼が口を離し、そして開いた。
「我慢できなかった」
「は?」
 いきなり何を言い出すのか。
「女として見てしまって、正直、おかしくなっていた」
 今さら謝ろうというのか。
「まあ、今もおかしい訳だが」
 本当に何なんだ。
「だから言う。お前は可愛いよ。それに、会わないうちに、色っぽくなった。
率直に言って、お前が欲しい、と思った。俺のものにしたい、というか」
「は……はああ?」
 こいつ。何でこんな歯の浮くようなこと言ってるのか。素か。素なのか。
「お前の優しさが身に染みたし、お前の覚悟も真剣に受け止めた。
お前の誘いに乗ろうとも思った」
 何だ。何だ何だ何だ。マジでどういうつもりなんだ、こいつは。
「そういうことをひっくるめて、愛してると言っても過言ではない。
いや、愛してるよ、マジで」
「だ……だ、だだだだだ、黙れ! 黙れ黙れ黙れ! それ以上言うとコロス!」
 また脳のどこかが暴走しはじめた。ようやく、こいつがただ単に
本心を吐露しているだけなのだと気づいた。

 そう、本心なのだ。謝るとか、誠意とか、配慮とか、そういうの一切抜きで。
 それが、一番、私の心にダイレクトに響いた。トラックと正面衝突して、
そのまま吹っ飛ばされたような感覚だった。

175:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:29:33 /ulSQ3lQ
 彼は私の背中に手を回して、やや和らいだ表情で続けた。
「そのまま溺れていたら、多分俺は本当に楽になってたんだろう。
だが、そうはいかなかった。お前は嫌だった訳だからな」
「ふ、ふん、何よそれ。好きにすればいいって、私が言ったんだから、
好きにすればよかったんじゃない」
 彼がニヤリと苦笑した。
「そういう強がるところ、嫌いじゃないよ。こういうこと言うとお前は嫌なんだろうけど」
「うん。あまり嬉しくない」
「そうか。済まん」
 苦笑していた彼が、真面目な顔になった。
「まあ、それでだ。お前が痛がっているのに、喜んで続けるほど、
酷い男じゃないつもりだよ、俺は。だから止めた。そういうこと」
 抜け抜けとそう言い放つ。少し、むかっ腹が立ってきた。
「じゃあ、最初からするな、って話にならない?」
「ああ。だが、そこで、我慢できなかった、というところに話が戻る訳だな」
「自分に甘いのね」
 私の言葉に、彼が苦いものでも飲んだかのように沈痛な顔になった。
「……ああ。そこは俺の甘えだ。正直、お前の迷惑をあえて考えずに、
最初の最初で自分の楽な方を選んでしまったきらいはある。済まない」
 ぎゅっと抱き締めてくる。本当に申し訳なく思っているのが伝わってきた。
 不意に、胸が締め付けられるような感じがあった。こういう重い空気は慣れてない。
何か、返事しなきゃ、と思った。
「……あのさ。私が誘ったからってところも、ある?」
 言ってからすぐに後悔した。何で私はこう、自ら退路を断つようなことを言うのか。
「ああ。その辺のお前の覚悟を、真剣に受け止めた、つもりだった。
だが、それが結果的にこうなるんだったら、俺は踏みとどまるべきだったんだろう。
本当に……済まない」
「……」
 この男はこういうところで本当に素直で、本当に冷静で、本当に誠実で、本当に、

 本当に嫌になる。

176:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:31:11 /ulSQ3lQ
「……何をしている?」
 私は彼の上に馬乗りになってのしかかっていた。
「続き」
「続き?」
 言ってる意味が分かってないらしい。
「さっきの続き」
「続きってお前……正気か?」
「正気じゃないわね」
 まだ下半身がひりひりする。だが、最早そんなことはどうでもよくなっていた。
 再び涙が溢れる。自分の感情に耐えられなくなっている。
 こんな状況で交わるなど、正気の沙汰でないことは分かっている。だが、
(全部、こいつのせいだ)
 こいつには、責任を取る義務がある。
 何もかもおかしくなってしまった私を、どうにかすることも含めて。

 依然として固い彼のものを、無言で自分の中に受け入れた。

177:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:34:51 /ulSQ3lQ
 正直、じんじんと痛くて動くどころではなかった。彼もそれは分かっているのか、
私の腰に両手を添えたまま動かなかった。
 ただ、彼と私の呼吸と鼓動が、そして彼のもののわずかな硬化と肥大が、動きの全てだった。
「正直、助かる……」
「それはお互い様だ。まさか第二ラウンドとは思わなかった」
 ゆっくりと痛みが引いていく。わずかに擦れるたびにそこがうずいたが、
我慢できないほどではなかった。
 彼の方は気持ちいいのだろうか。本当は動きたいのではないのか。
「動きたくないの?」
 そんな余計なことを訊いてしまう。さっきから私は、本当にお馬鹿さんじゃなかろうか。
「まだいい。お前の痛みが引いてからだ」
「うん。ごめん」
「お前が謝るこたあないよ」
 彼の表情が和らいでいく。

 それからしばらくの間、私たちは、ひたすら無言で、小さな律動に身を任せていた。

「不思議だな」
 不意に彼がつぶやいた。
「え?」
「さっきまで、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったよ」
「うん」
 私も思わなかった。そう言えば、元はと言えば、第二ラウンドは私が始めたのだった。
 気がつけば、さっきまでの胸を刺すようなやるせなさが、いつの間にか薄らいでいる。
痛みもなくなってきていた。わずかな動きが、どことなく心地よいような気さえしていた。
「本当に申し訳ないが、この流れのまま、最後までやる。悪く思うな」
「……もう」
 そんなこと、いちいち言わなくていい、とかそういうことを言いたかったが、言葉が出なかった。
無駄なことだ、とも思った。
 動いていいよ、とは言わなかった。代わりに、眉を開いて、ふう、と長く息を吐いた。
 彼はそんな私の表情を、長風呂でのぼせたような蕩けた瞳で見ていた。
「実は……」
 彼岸からのつぶやきのような声が、私の耳に届いた。私も少しのぼせてきているようだ。
「そろそろ逝きそうだ」
「うん」
「動くよ。さっきの姿勢に戻る」
「分かった」
 彼がゆっくりと起き上がる。私はちょうどそのまま、ベッドにふわりと柔らかく押し倒されていった。

178:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:40:52 /ulSQ3lQ
 最初は緩やかに、次第に激しく、彼が動いていく。
 痛みはあったが、あえてぐっとこらえた。
「いいのか、おい」
「いいから、最後までちゃんとして」
「……」
 彼が無言で行為に没入していく。汗が額ににじむ。苦しいとも切ないともつかない唸り声が聞こえる。
私もつられて、やはり苦しいとも切ないともつかない唸り声を絡めていた。
(切ない?)
 確かに私も切なくて声を上げている。不思議だ。

 彼の表情が微妙に変わっていく。苦しいとも切ないともつかない唸り声はそのままに、
牙を剥き、私の顔に目をひたと据えていく。
 何となく、人の顔に見えなかった。
(……そうか)
 彼の中の雄の獣の狂気が、ようやく本格的に頭をもたげてきたのだ。

 覚悟はしていたはずだった。男は、こういうとき、愛も何も関係ない、
肉欲だけの獣になりうるということを。
 不覚にも今まですっかり忘れていた。ということは、さっきまで彼がよっぽど我慢していたことになる。
だが、それでも、今の恐怖と嫌悪と虚無がなくなる訳ではなかった。
(人じゃない何かに犯されている)
 最後まで人として扱って欲しい、愛して欲しいというのは、女のわがままなんだろうか。
肉体関係に肉欲が伴うのは当然のことだ。それを嫌がってもしょうがないのは承知しているつもりだった。
でも。でも。でも。

「俺は」
 彼が不意に口を開いた。
「獣になる。お前も獣になれ」
「え?」
 一瞬、ぎょっとした。心を読まれたか、と思った。
「俺は最後までやる。だから、お前も最後までついてこい、と言っている」
「……」
 躊躇していると、彼が正に獣の笑みを浮かべて、こう言った。
「せっかくだ。最後の最後は、自分の中のものを全部解放した方が、きっと楽しいぞ。俺も、お前も」
 獣が、否、悪魔がささやいている。
(そんなこと、私にできるんだろうか)
 迷いながら、静かに首を縦に振った。

 彼の笑みが、究極に邪悪なものに変わった。
 わずかに人らしさを残していた目の色が、完全に人ではないそれに変わっていく。

179:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:44:00 /ulSQ3lQ
 激しい律動の最中、彼の目を凝視した。
 肉を噛みちぎるような強烈な快楽の瞳が、私を射る。
(獣だ。獣だ。獣だ)
 食われてる。食われてる。食われてる。
 従兄が、私を貪って、その快楽に酔い痴れている。

 不意に、小さな痛みが走った。彼がぐっとうつむいて、肩甲骨の上に歯を立てていた。
 信じがたいことに、痛みを上回る強烈な甘い痺れが全身を貫いていた。
脳髄が焦げるような感じがあった。体が異様に重く感じられる。逃げられない。
下半身から何か生温かいものが噴き出しているのが、遠のく意識の中で分かった。

 最早、律動とは関係なく、途方もないだるさの中に落ちていく。
 地獄へ、落ちる。
(そうか。逝くって、こんなんなんだ)
 死の淵を覗き込む行為に似ていた。こんな途方もない境地を、なぜ人は望むのか。
(でも、解放感はあるな、確かに)
 これを楽しいと言い切れる彼の気持ちは、ほんのわずかだが、理解できなくはなかった。

 わずかに、肩甲骨の上に、生温かく柔らかい感触がある。彼が噛んだ跡を舐めているのだ。
ぼうっとした瞳に、彼の目が映った。主人の顔を舐める飼い犬のように、優しく甘えた瞳だった。
どうやら私は、激しい動きではなく、むしろそういう小さな変化に敏感になっているようだった。

 彼が口を肩甲骨から離すと、律動を再開する。
 次第に、彼の周囲が、ふわりと毛羽立って見える。
 瞳の中に、不思議な色が見える。牙を剥いたまま、微妙に表情がまた変わる。
奇妙なことだが、怯えているように見えた。
(何に、なんだろう?)
 何となく思い当たる節があった。さっき、私が噛まれたとき、全身を貫いた快楽。
あれは、望ましいものというより、どこかしら避けるべきおぞましいものがあった。
自分の意思を離れた凶暴な感覚。たとえ、それが快楽であれ。
 自分が失われる、その前兆の予感。
「ううう……」
 彼の声に、明らかに悪寒めいたものが混じった。素晴らしいがおぞましい、何らかの感覚に耐えている。
その恐怖がどんどん大きくなっていき、やがて瞳から、声から、顔全体に拡散していく。
「……くっ!」
 愕然とした表情を浮かべた後、何かに耐えかねたように目を閉じる。
 次の瞬間、私の中に、生温かい感触が注ぎ込まれていた。

(あ……)
 どろどろになった私の全身の毛穴から、彼の精が隅々まで染み込んでいくような気がした。
全身に、ぶるっと、大きな震えが走る。
 精の中に、自分が溶けて、ずぶずぶとどこかに沈み込んでいくイメージがあった。
(二度、逝ったんだ)
 意識を失う中、彼の姿が網膜に焼きついた。
 深くうつむいているその姿は、どこかしら、祈りを捧げる姿に似ていた。

180:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:46:10 /ulSQ3lQ
(それにしても、男って、大変なんだなあ)
 うかつにも、それが意識を取り戻した直後の、率直な感想だった。

 精を全部吐き出したのか、彼の体からオーラが消えた。
 同時に、さっきまで目まぐるしく変化していた表情が、拭ったように消えていた。
 放心したまま、わずかに体が崩れる。
 私の上に崩れ落ちる直前で、がくり、と彼の体が硬直した。そのまま無理やり体勢を立て直す。
 物憂げに腰を離す。白く赤く半透明に濁った液体が、糸を引く。
彼はポケットに手を突っ込むと、ティッシュで丹念に結合部位を拭き出した。
(うん。大変だなあ)
 下半身がひりひりする。だが、私は意外にも、不思議な満足感に浸されていた。
(やり遂げた)
 彼の中の、混沌とした凶暴な熱情を、全身全霊で受け止めたという実感がある。
 彼が私に服を着せる。私の肩を抱きかかえたまま、また難しそうにブラのホックをつける。
「いい。自分でやる」
 何だか微妙にズレているパンツを直しながら、私は彼に背を向けたまま、落ちている服を拾った。
「あのな……」
 彼が何か言っているので、振り向いた。
「何?」
「ごめんな。ありがとうな」
 結局、謝った。彼の性格から、そういうことをする気はしていたのだが、
「ごめんな、は余計だわ。謝るくらいなら、最初からやるな、ってさっき言ったでしょ」
 彼は気まずそうに笑ってうつむいた。
「……そうだな。二度と言わない」
「ふふ。それじゃあ次に何か、もっととんでもないことされたときに困るわ」
 すると、彼は神妙な顔で、こう言い放った。
「……するかも知れないなあ」
「……おーい? 何をサラリととんでもないこと言ってやがりますかこの男は?」
「いや、したい。お前と、また、いつか」
「……おーい」

 本当に、この男は。
 全く、しょうがないんだから。

181:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:48:47 /ulSQ3lQ
 服を全部着終わると、私は彼を、不意打ちの形で、飛んで押し倒した。
「うわっ! 何だ!」
「えへへえ。そういうこという口は、こうだから」
 ちゅーっと、奥深くに舌を突っ込んで、吸った。
「お、お前……」
 唇を離すと、悪戯っぽく笑ってやった。
「これで、仕返し終了。チャラにしておいてあげるわ」
 彼はまたしても呆れたような顔で口を拭うと、私の頭をつかんで引き寄せた。
「わっ?」
「チャラになんかされてたまるか。借りは作ったままにしておく。返すのは次の機会だ」
 さらに奥深くに舌を突っ込まれて、吸い返された。
「……えっへっへえ。そういうことするんだあ」
「ふははっ。そういうことするんだよ」
「あはははは。次まで待ってろって訳?」
「ははははははは。そういうことになるなあ」
 こいつ。
 私を、こう、犯したくなったこいつの気持ちが分かった。
 私も、今、全く同じ気持ちだ。
 私は彼をさらに押し倒した。抱き潰す勢いで、強く、深く。
「次までお預けね」
「ああ。次までお預けだ」
「ふふん。待ってるわよ。次は容赦しないから」
「待たせるよ」
「鬼。悪魔。獣」
「どれも否定しない。だが、俺を押し倒している人間の言うセリフじゃないな」
 彼は足を上げると、振り子の原理で私の体ごと起き上がった。
その勢いで、私をさらに痛いほど抱き潰し、唇をきつく吸った。

 傷つけ合っている。
 傷つけ合いながら、お互い貪り合っている。
 犯し、犯され合っている。
 こんなのって、ない。
 こんな危険な狂った関係、あってたまるか。

 私の下半身から、ごぼっと音を立てて、残っていた液体が溢れた。

182:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:50:27 /ulSQ3lQ
「帰るわよー」
 叔母の声が聞こえ、二人してビクッと震えた。
「やばい。戻るぞ」
「うん。ちょっと待って」
 慌ててパンツにティッシュを挟んだ。やはり汚れている。後で秘密裏に処分しなくてはならない。
「今行く。ちょっと待ってくれ」
 彼は私の手を引くと、部屋を出て階段を降りた。

 彼はまた見事によそ行きの表情を浮かべて、丁重に私と母に挨拶をした。
 私はまた、最大限よそ行きの表情を浮かべて、丁重に従兄と叔母を見送った。
 頬が歪むのを、必死でこらえて。

 体のあちこちの傷がうずいた。下半身、肩甲骨、手の甲、唇。
 彼との、悪魔の契約の印。

 逃れられない。

 彼と再び出会い、あの獣のような交わりに溺れることを。
 彼の欲情に屈し、犯され、貪られ、傷つき、穢されることを。

 祈っている。
 祈っている。
 祈っている。

183:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/01 21:57:14 /ulSQ3lQ
あとがき(超簡素版)

女の子が思い出していた漫画は、「シグルイ(9)」と「とりぱん(たしか3)」です。
「シグルイ」は残酷武士道漫画で、「とりぱん」はほのぼの田舎野鳥動物漫画です。
我ながらよく分からない組み合わせですね。(ていうかあとがきじゃないなコレ)

184:名無しさん@ピンキー
07/11/01 21:58:03 L1sQKWjr
>>183
リアルタイムktkr
GJっす(*´д`*)

185:名無しさん@ピンキー
07/11/01 23:41:37 BcVgHjor
GJ。感じました。
ただ途中までは普通に面白かったのに後半から
話(というか二人の会話)がいまいちわからなかった。

186:名無しさん@ピンキー
07/11/02 09:57:24 3vremv3f
当方♂ですが、面白かったです。
陵辱ものなのに男キャラがややいい人なところはアレですが、マイルドになっているとは思います。

ところで、作者さんってゲーマー?
今回の題名とか、今までの作品の中のオチのフレーズで、どこかで見たようなネタがあるんですけど。気のせい?

187:名無しさん@ピンキー
07/11/02 11:59:55 63+Gydfl
teacup illusionの人だ!
A-Kさんの書くお話は私の好みど真ん中にストレートで入ってきます。
作品全体に漂う雰囲気(?)がたまらなく好きです。

最近久しぶりにteacup~を読み返したばかりだったので興奮気味…

188:名無しさん@ピンキー
07/11/02 21:31:12 +CeeKd4g
同じくBaroqueも好きでした。
A-Kさんのはエロシーンが独特で面白い~。

今回のは凌辱風だけど凌辱じゃなくてw、GJっす。
ヒロインはツンデレ風味ですな。

189:名無しさん@ピンキー
07/11/03 06:07:54 P9UOLpjo
ごめん、無粋だとは重々承知しながら、
避妊の方はどうだったんだろー
と思ってしまう自分がいた。。。
雰囲気とか文体とかは好みでしたー。

190:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/04 23:11:49 2FcGRUZw
あとがき(もうちょっとまともな)

今回はちょっとリアルの方で大変だったので、
書くのに一週間かかってしまいました。
『Baroque』は丸一日、『teacup illusion』は三日だったことを考えると、
どんどん遅くなっています。マズイですね。

本当に色々キツかったので、
「おかしい! 参考資料の某女性作家のエロ漫画が参考にならない! (何やってんだか)」とか、
「女はツンデレ! 男は素直クール! 二人合わせてヤンデレモード! (上手くいってない)」とか、
「今回のBGMは『レイディアントシルバーガン』のサントラにしよう(シューター)」とか、
そういうよく分からない悲鳴を上げながら書いていたような記憶があります。

今回は、元某大生・元SE・元同人作家の知人の男性にバシバシ添削されました。
(前二作の男性キャラのモデルです)
「男がクズすぎる。こんなのにやられる話を喜ぶ女性読者がそんなに多いとは思えない」とか、
「女がリアルじゃない。嫌悪感に切実さがない。メリハリに欠ける」とか、
「女もある程度肉欲に溺れてないと、感情移入する女性読者が辛くなるだけなんじゃないのか」とか、
まあ、メチャクチャ参考になりました。(多分彼の好みの問題もあると思いますが)
今回は彼の協力がなければ(しょっちゅう世話になってるけど)、もっと時間がかかっていたか、
多分途中で投げ出していたと思うので、大感謝です。

仕事が落ち着いて、心に余裕ができて、何か思いついたら、また何か投下します。
ではでは。

191:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/04 23:22:25 2FcGRUZw
>>184,187
ありがとうございます。

>>185
まとめサイトの方だと思いますが、早急な対応、ありがとうございました。
会話については、確かに説明不足が数点見受けられました。次は気をつけます。

>>186
マイルドになったのは、女性読者重視のためです。
『Baroque』は『斑鳩』、『teacup illusion』は『レイクライシス』ネタを入れています。
(というか、このスレでそんなところまで読んでる方がいるとは思いませんでした)

>>188
私も元同人作家ですが、いわゆるツンデレや素直クールやヤンデレについて
あまり分かってないので、「こんなのかなー」と試してみたという側面はあります。
ツンデレは書きやすいですね。作り手や受け手の間で流行るのも分かる気がします。

>>189
本当は「妊娠のリスクに気づいて三か月ノイローゼになるくらい悩む男役」とか
やりたかったのですが、話全体との絡みを考えると読後感が悪くなるので、
今回はバッサリカットしてしまいました。ご了承ください。

192:名無しさん@ピンキー
07/11/05 04:33:07 2Wdi8KzO
弁明じみた後書きも添削してもらったらよかったんじゃないかな

193:名無しさん@ピンキー
07/11/05 06:25:58 BQq0RvfW
>>192
誤爆スレ池

194:名無しさん@ピンキー
07/11/05 07:40:06 b5bDkClv
それにしてもこんな長い後書きいらんだろ…
どれだけ作品が良くてもこれは萎える

195:186
07/11/05 09:04:17 kpUWYZkZ
やっぱりゲームネタだったか。

作者さんには次はアホの子キャラにチャレンジして欲しい。

196:名無しさん@ピンキー
07/11/05 10:24:42 rWDSm0iO
黒澤君、期待アゲ

197:A-K ◆pQ0puWyYi.
07/11/05 20:37:33 HRMter4e
わあえらいことになってる。済みません。

>>192-194
以降自粛します。

>>195
がんばってはみます。

ではROMに戻ります。

198:名無しさん@ピンキー
07/11/05 22:06:54 nbaxp+iY
>>197
ドンマイ!

199:名無しさん@ピンキー
07/11/06 16:30:31 CX70Bf/H
黒澤くんにマジ萌え!
作者さんGJ!
ゆっくり充電して続きを是非vv

200:名無しさん@ピンキー
07/11/06 20:41:18 jHva6vUg
繭と黒澤君のことで頭がいっぱい。
早く続きを!

201:名無しさん@ピンキー
07/11/07 00:07:15 9SM+3wg6
催促するようなレスは控えましょう

202:名無しさん@ピンキー
07/11/07 20:22:41 s6nSrul6
催促する気持ちはすげーわかる
話うまかったもんなー

203:名無しさん@ピンキー
07/11/08 04:05:41 PG1G5EEH
読んでて、何だか高校時代のことを思い出したよ。
あの頃は良かったな。
まゆちゃんも黒澤君もいとおしいよ。

204:名無しさん@ピンキー
07/11/09 01:01:21 wywt4lP1
黒澤くんに惚れました。
クールな男の子がたまに見せる激情っていいよね。

205:名無しさん@ピンキー
07/11/10 23:41:51 P1pRPY4/
首を長くして待ちながら保守

206:名無しさん@ピンキー
07/11/11 23:45:53 DBeu2rM1
黒澤君期待age

207:名無しさん@ピンキー
07/11/12 22:40:57 6oYs6NTe
プレッシャーをかけてはいかん
他の書き手さんも投下しにくいだろうし

208:名無しさん@ピンキー
07/11/13 01:47:26 quywlWq7
他の職人さんもお待ちしています

209:名無しさん@ピンキー
07/11/14 03:19:19 xxJ5OAac
ごめん、つい。

210:名無しさん@ピンキー
07/11/15 01:02:16 7XB/qms8
誰でもいいから投下お願いします

211:名無しさん@ピンキー
07/11/15 15:21:33 WBl/v17F
うぜーw

212:名無しさん@ピンキー
07/11/18 08:23:14 ttJM568v


213:名無しさん@ピンキー
07/11/18 23:54:33 wFmB6sLH


214:名無しさん@ピンキー
07/11/22 03:24:12 yzxrpp49
投下待ち

215:名無しさん@ピンキー
07/11/23 17:18:14 Aepi+Os4
香織のメイド日記 きぼんm(__)m

216:名無しさん@ピンキー
07/11/26 17:58:17 zm3BMbWx


217:名無しさん@ピンキー
07/11/27 22:22:53 KrtoCDBm
過疎ってますね

218:名無しさん@ピンキー
07/11/28 17:01:37 jpdh8CEi
なんでだろうね

219:名無しさん@ピンキー
07/11/29 00:06:01 bfxO7UBT
いつもこんなもんだ、マターリ

220:名無しさん@ピンキー
07/11/29 01:33:43 8JsjlS/S
もう来ないのかな?

221:名無しさん@ピンキー
07/12/01 01:59:58 52GeJubl
期待してます

222:名無しさん@ピンキー
07/12/03 19:26:15 K8khhAKi
エロ薄めでよかったら投下しますが…

223:名無しさん@ピンキー
07/12/03 19:55:27 yhyL0aEg
ばっちこーい

224:無題
07/12/03 21:15:12 mNzvJ3+G
「頼むッ! 恋人になってくれ!」
土下座までするソイツを見て私は踊りだしたいような高揚感に包まれた、と思う。
もちろんそれはおくびにも出さないというか出せないというか。
私たちは幼馴染、というだけでアイツにはいつも好きな女の子がいたし、
私は『一番仲良しの女子』というポジションを崩さないように自分の気持ちを封じ込めていたから
アイツの毎度毎度の恋愛相談にも快くのっていた。
なのに。
「頼むよ。恋人になってくれよぅ」
「どうしたの? とりあえず土下座はやめて、部屋で話そっか」
目の前で起こっている出来事が夢でも覚めないで欲しい、そう願いながら
おそるおそる事情を聞くことにした。

「来週ウチのガッコの学園祭があるんだけど……ダチ全員彼女連れてくるって言うしさー」
「この前告白したミクちゃんとかいう子はどうしたのよ」
「その日は本命の彼氏のガッコの学園祭なんだと」
「それって……」
「うん。 いや、俺がね、本命じゃなくてもいいから付き合ってくださいって告白するときに言ったんだけど」
「自業自得じゃん」
「うん。 だからちー子、頼むッ! 恋人になってくれ!」
……それは。恋人じゃなくて学園祭で自分だけ一人なのが恥ずかしいからってことじゃないの。
「頼めるのお前しかいないんだよぅ」
「もう、情けない声出さないでよ。はいはい、わかりました。学園祭に一緒に行けばいいんでしょ」
「やった! さすがちー子様!」
「お昼ごはんとおやつ、ぜーんぶアンタのおごりよ?」
「もちろんでございますぅぅ」


225:名無しさん@ピンキー
07/12/03 21:17:40 mNzvJ3+G
ウソの彼女だっていい。アイツの彼女として側にいられるなんて、ずっと願ってきた夢みたい。
だから当日、私はケバくないように、でもしっかりとメイクをして、髪もしっかり巻いてセットした。
アイツが友達に「女を見る目がないヤツ」と思われないように。
もしアイツの友達に話しかけられたらおとなしめでいよう、とか無駄に好印象プランを練りまくって。

「すげえな。本当に女の子みてえ」
迎えに来たアイツの目が丸くなってるのがわかる。
「はいはい、どうせ普段はオッサンですよ」
「や、違うって! かわいい! かわいいよ」
ぶーたれる私をなだめようと必死に私を褒めてくれるのが、嬉しい。
にやけそうになる顔を必死にこらえているだけなのに、アイツはまだ一生懸命褒めてくれる。
「どうせだから」
「え?」
「手、繋いで行こっか。 せっかく恋人同士なんだし」
ななな、なんで今日は積極的!? うろたえる私に
「そういや昔はいっつも手繋いでたな」
「それはアンタがすぐ迷子になるから……!!」
わあわあ騒ぎながら電車に乗って、アイツの通う学校に着く頃には私たちは恋人になっていた。

たこ焼き、ホットドック、クレープ、おしるこ、カレー、カキ氷、おでん……
模擬店を各個撃破していると、うきうきした気分で満たされてくる。
当たり前だ。お祭り気分というだけじゃなく、模擬店に行っても展示を見に行ってもアイツの後輩が出てきて
「先輩の彼女さん、キレーっスねー」
と言って私を褒めてくれる。社交辞令にしろその言葉はアイツの彼女としての私に向けられた言葉だ。
ずっとずっと願ってやまなかったその立場に自分がいる。
ウソだけど。
一日だけだけど。
心の奥に刺さった棘がチクンと痛んだ。
「あれ?」
アイツがいない。私がよそ見してる間にどこかへ行ってしまったんだろうか。
子供の頃いつも迷子になって泣いていたのはアイツだった。
今は図体だけはデカくなったけど。
そんなことを考えていたら急に寂しくなって、泣きたいような気持ちになる。
賑やかなお祭りの中でただ一人置いていかれているのは自分だけだ、というような。
「ちー子! すまん、知り合いにつかまってた」
背後から不意に懐かしい声が響いた。
「どこいってたんだよ。ちー子が迷子になるなんて、らしくねえぞ」
「ごめん……」
泣きそうなのをこらえるには、あまり喋らないほうがいい。
「いや、こっちこそごめん。ちー子にとってはアウェーだもんな。ずっと側にいなかったオレが悪かった。
やっぱり手ぇ繋いでよう」
こっちの気持ちはお見通しみたい。今日のアイツは妙に冴えてる。


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