SIREN(サイレン)のエロパロ第3日at EROPARO
SIREN(サイレン)のエロパロ第3日 - 暇つぶし2ch250:月下奇人
08/04/16 09:42:54 IHnkP8PT
 ××先生へ

お手紙ありがとうございます。
夏の間、二人の娘ともども、大変お世話になりました。
わたしと柳子は、かわりなく元気でやっております。
ただ、柳子は陏子ちゃんと会えなくなったのがさびしいらしく、
少し落ちこんでいる時もあります。
やはり、双子の姉妹ということなのでしょうね。
時々、寝言で陏子ちゃんを呼んでいたりもします。
夢の中で、陏子ちゃんと遊んででもいるのでしょうか?
先生のおっしゃるように、離れ離れになった双子というのは、
不思議な力をはっきするものなのかもしれません。

それから謝礼金の方ですが、間違いなく頂戴致しました。
当初のお約束よりずいぶんたくさん振り込んで頂けましたようで、
本当に、本当にありがとうございます。
これだけあれば、柳子の小学校の入学準備も、充分にしてやれそうです。
先生のご研究のお役にも立てたようで、本当にうれしく思います。

 それでは。今後も先生のご研究が発展しますよう、心よりお祈り申し上げ×××
 どうかお元気で。

                               木船××


 全部読み終えた後も、ぼくは暫し呆然として手紙を見つめ続けた。
 古い手紙の為か、処々に染みが出来て読めなくなっている部分もあったが、
情報としては充分だろう。

 これで、大体のことが判った気がする。
 まず、この廃屋敷の持ち主が、この××先生であったということ。
 その先生が今ここに居ないのは、余所に越してしまったからか、あるいは、死んでしまったのか―。

 “先生”とやらは、双子の少女を使って何かの実験をしていたらしい。
 その双子こそが、“イクコ”と“リュウコ”。
 何らかの理由で離れ離れに暮らしていた双子の姉妹は、
ひと夏の間だけ、この屋敷で一緒に過ごした。
 お母さんも交え、仲良く水入らずで―テラスでたけくらべをしたのも、その時のことなのだろう。

 そして――。

「郁子!」
 ぼくは手紙をポケットに突っ込むと、郁子を追うため、隣の薄暗い部屋に入って行った。

 そこは、天井の高い広々とした部屋だった。
 壁の一面がガラス張りになっていて、その向こうには、裏庭とそれに続く森の木々が見える。
 部屋の中央は一段高くなっていて、そこに、立派なグランドピアノが置いてあった。
「ピアノホールか……」

 部屋の照明は付いていないものの、雨上りの夜空から射す月の光が意外に明るかった。
「郁子! 居ないのか?!」
 ぼくの声が、辺りに反響する。
 月明かりの照らす中、ぼくの影法師が長く伸びている―。

「まもる……」
 ぼくの影が喋った。
 いや、影が喋ったんじゃない。ぼくの影に被さる様にして佇んでいた女が、喋ったのだ。
 ――いつの間に……。
 戸惑うぼくに、女はゆっくりと近付いて来る。

251:月下奇人
08/04/16 09:43:37 IHnkP8PT
 彼女は、素肌の上に白いドレスをまとっていた。
 ドレス、と言うより、ネグリジェと言うべきか。
 それは非常に薄い布地で作られており、乳首も、臍も、その下も、
躰のありとあらゆる場所が透けて見えている。
 到底、衣服としての役目を果たしているものではない。

 そんな、何もかも透け透けの彼女は―郁子だった。
「まもる……好きよ」
 郁子はぼくの前まで来ると、白い腕をぼくの肩に廻した。
 甘ったるい蠱惑的な香りが鼻をくすぐる。

 ぼくは、郁子の顔を見下ろした。
 月明かりで見る郁子は、普段よりも幾分髪が黒く、長いような気がした。
 その黒髪は乱れていて、彼女の顔の左半分を隠してしまっている。

 それでも、彼女は充分に美しかった。
 こうしてジッと見つめていると、その半開きの唇に、思わず吸い寄せられそうになる。
 でもぼくは、湧き上がる衝動を抑え、彼女に言った。

「君は……柳子だろ」

 彼女の潤んだ瞳が、スウッと鋭くなった。
 浴室で見せた馬鹿力を思い出し、ぼくは慌てて身を引いた。

 女は、けたたましい笑い声を上げた。

「やっぱりそうか……!」
 柳子は笑い続けている。
 と、その顔が徐々に変化し―ぼくの怖れる、夜見島の女の顔になった。
「うわっ?!」
 ぼくは驚きのあまり飛び上がった。それを見た柳子は、更に大声で笑う。
 ――こいつ!!
 ぼくはカッと頭に血が上り、発作的に、手に持ったナイフで彼女に切りつけた。

 その途端、柳子の姿は、幻のように掻き消えた。


「…………」
 気付くとぼくは、ぽかんと口を開けたまま床に座り込んでいた。
 手にしたナイフは、床に残された白いドレスの胸元を貫いている。
 ぼくは呆然とナイフを引き抜き、床のドレスを拾い上げた。

 今のは―幻覚?
 いや。それは違う。
 この手に残された白いドレス。彼女が今、ここに存在していた証拠だ。
「どういうことなんだ」
 ぼくはドレスを握り締めて立ち尽くす。

「守!」
 いきなり廊下側の扉が開き、郁子が飛び込んできた。
 一瞬、柳子が戻ってきたのかと思ってビビッたが―今度は、間違いなく郁子のようだ。
「……柳子がここへ来たのね?」
 郁子は、ぼくの強張った顔と、手に持ったドレスとを見比べて言った。

252:月下奇人
08/04/16 09:44:51 IHnkP8PT
「守……私、守に話さなきゃならないことがある」
「うん。おれも郁子に聞かなきゃいけないと思ってたんだ。
 君が……柳子やお母さんと一緒に、ここで過ごした時のことを」
 郁子が大きく眼を見開く。
「守、どうしてそれを?!」

 ぼくは、さっき見つけた写真と手紙のことを話した。

「郁子はこの屋敷のこと……覚えてなかったの?」
 ぼくの言葉に、郁子はおずおずと頷いた。
「ほんと変な話なんだけどね。私、さっき子供部屋を見つけるまで、ここに柳子と居たこと、
 完全に忘れてたんだ」
「子供部屋?」
「そこに、柳子とお揃いで貰ったお人形があったの。
 それを見たら、いきなりワーッと記憶が甦ってきたっていうか」
「まあ、忘れるのも無理ないかもな。まだ小学校にも上がってない、うんと小さい時の話なんだから」

「そう……だよね」
 郁子は静かに微笑む。それはなぜか、とても寂しげな笑みだった――。

 「柳子とはここで初めて逢ったの」
 ピアノにもたれ掛り、郁子はぽつぽつと語り出した。
「お母さんと逢えたことも、勿論嬉しかったけど……
 それよりなにより、柳子と出逢ったことの方が、衝撃大きかったよ。
 だってそうじゃん? 眼の前に、自分と全く同じ顔した女の子が居るんだもん」

「……うん。男の人も居た。私達、“先生”って呼んでたよ。お母さんが、そう呼んでたから……
 三十後半くらいの、背の高いおじさん」

「あの実験……先生は“実験”って言ってたけれど、
 私と柳子に取っては、遊んでるみたいな感じだったなあ。
 カードを当てたり、意識を集中して、紙を動かそうとしてみたり……二人で競争とかしてた。
 結構、面白かったよ」

「ここを出て、別れ別れになってからも……私達、夢の中で一緒に遊んだ。
 どんなに離れててもね、気持ちさえ合わせればいつだって逢えたんだ。私達。
 ここに来て、その方法が判ったから簡単だった。なのに…………」

 不意に郁子の表情が曇った。
「なのに……小学校に通うようになってから、段々、柳子と逢えなくなってきたの。
 逢いたい! って意識を集中しても、なんでか波長が合わなくなって。
 それで気付いた時にはもう、全然……。
 で、いつの間にか柳子と遊んだこと自体も忘れちゃってた。今日、ここに来るまでずっと」

 郁子は大きく溜息を吐いた。
「そんなことがあったんだ」
 ぼくも、つられて息を吐く。
 偶然迷い込んだかに思われたこの廃屋敷に、そんな過去が秘められていたなんて。

 ――偶然?

 いや―多分そうではないのだろう。
 思えば、山道で起こったブレーキの故障は、少しおかしかった。
 あれさえも、柳子に仕組まれたことだったとしたら――。

「柳子……私のこと、怒ってるんだ」
 肩を落として、郁子が呟く。
「私が、柳子を忘れたから。この屋敷でのことも忘れて、柳子とお母さんを、見捨てたから」
「それは違うよ」

253:月下奇人
08/04/16 09:45:23 IHnkP8PT
 ぼくは強く否定する。
「要するに、お互いの環境の変化に伴って、精神が同調しにくくなってしまったってことなんだろ?
 そんなの郁子だけのせいなんかじゃない。
 だいいち、そんな十数年も昔のことを未だに根に持って、こんな陰険な復讐をしてくるなんて…… 
 こう言っちゃなんだけど、今の柳子はマトモじゃない」

 そう。柳子の精神状態はマトモではない。あの狂笑を思い出してぼくは思う。
 今まで、ぼくと郁子との間に起こった不協和も、柳子が仕組んだことなのだろう。
 柳子は、ぼくと郁子の絆まで断ち切ろうとしているのだろうか?
 何のために? まさか、郁子の幸福を奪い取るため?
 ――そんな馬鹿なこと……。

 柳子。なんと怖ろしい女なのだろうか。
 それにあの、郁子のそれを遥かに凌駕する、凄まじいまでの超能力の数々―。

「十数年前……そうなんだよね。何で今なんだろ? これまで何もしなかったのに、今になって何で?」
 ぼくの恐慌をよそに、郁子は妙な処を訝しんでいる。
「それは……なんか急に思い立った、とか」
 ぼくの我ながら間の抜けた言葉を無視して、郁子は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。

「日記……」
 郁子が唐突に呟いた。
「え?」と聞き返すぼくを見上げ、郁子は真剣な口調で言い放つ。
「ミイラの部屋へ戻ろう! あそこにあった日記……多分あれで、何か判ると思う」


 廊下へ出て二階へ向かおうとしたぼくらの前に、急にまたあのヨロイが現れた。
「きゃあっ!」
「うっ?! ま、またか……!」
 ヨロイは剣を振り上げた。
 ぼくらはそれを寸での処で避け、床に転がる。

「このヨロイ……きっとこいつも、柳子が動かしているんだ!」
「りゅ、柳子が?!」
「念動力……つまり、念の力で自由に物を動かせる力だよ!」

 双子とはいえ、郁子と柳子では持っている能力に違いがあるようだ。
 精神感応能力を持つ郁子に対し、柳子が持っているのがこの念動力という訳だ。
 更に。ピアノホールでの一件を思い返すに、柳子はテレポーテーション能力―
つまり、瞬間移動の能力までも持っている可能性が高い。
 全く冗談じゃない―それって、何でもありってことじゃないか!

「郁子! 例の感応視で何とか出来ないか?!」
「む、無理だよぉ……こんなに剣を振り廻されてたら、集中するヒマも……ひいっ!」
 剣の切っ先が、郁子のジーンズの腰の真横をかすめる。
 腰の部分を薄く切り裂かれた郁子が、悲鳴を上げて座り込んだ。

 ――野郎!!
 頭の中が赤く燃えるような思いで、ぼくはヨロイに蹴りを入れた。
 ヨロイはガン、っと派手な音を立てたが、応えている様子はまるでない。
 ――くそっ! このままでは郁子が!!

 ヨロイはぼくを剣で牽制しながら、郁子の傍ににじり寄る。
 そして――。
「ひっ?! い、いやあぁああ?!」
「い、郁子ぉっ!」

254:月下奇人
08/04/16 09:46:00 IHnkP8PT
 ヨロイはいきなり剣を捨て、郁子の躰を高々と抱え上げた。
「やっ! お、降ろしなさいよ! 降ろしてぇっ!!」
 郁子がバタバタと手足を振り廻している。しかし、ヨロイから逃れることは出来ない。
 ぼくは郁子を救うため、ヨロイに組み付こうと身構えた。
 すると突然、ヨロイは、郁子もろともぼくの前から掻き消えた。

「郁子……郁子!」
 ぼくは、慌てふためき辺りを見廻す。
 どこへ行ったんだ! 郁子は――ぼくの、郁子!

「まもる。私はここよ」
 曲がり角の向こうから声がした。
 暗く陰になった廊下の隅に佇んでいる、腰周りの豊かな女体のシルエット―。
「柳子……!」
 ぼくは、柳子に詰め寄るべく、廊下の隅に向かう。が、もうそこに、彼女は居ない。
「うふふ……こっちよまもる。早く私を捕まえて」
 今度は後ろの方で声がした。ピアノホールの入口だ。
 急いで戻ると、さっきの薄物をまとった柳子が、扉にもたれて艶然と微笑んでいた。

「貴様……ふざけるな! 郁子をどこへやった?!」
「あの子は今頃ヨロイさんとよろしくやってるわよ……ねえそんなことより」
 柳子はぼくの耳元に唇を寄せる。
「あんな子のことは忘れて、私といいことしない?
 お風呂場でしたのより、もっと凄いこといっぱいしてあげるわよ」
 柳子の指先が、ぼくのジーンズの股間をたどる。ぼくは、嫌悪の情も露わにそれを振り払った。
「ごめんだね。おれは君みたいな、実の姉妹を傷付けるような女はタイプじゃないんだ」

 ぼくの台詞を、柳子は鼻で笑った。
「ほほほ……言ってくれるじゃない。何も知らない癖に。
 そうよ。あんたは何も知らないんだ。郁子とだって……まだ寝てもいなかったんじゃない。
 驚いたわよ。一年も付き合ってたのに、まさか何にもしてなかっただなんて」
「そんなこと」
 お前に関係ない! と言おうとしたぼくの耳に、郁子の悲鳴が飛び込んできた。

「郁子?! ……おい! 郁子に何をしたんだ?!」
「さあ? ヨロイさんが、あんまり優しくしてくれなかったんじゃないの?
 あの子まだ処女みたいだし、痛くて泣いちゃったのかも」

 ぼくは柳子に掴み掛かろうとして―
今はそれどころじゃないと思い直し、柳子を放って廊下を駆け出した。

 ――今の声は……二階からだった。
 ぼくは階段を駆け上り、大声で郁子の名を呼んだ。
「郁子ぉーっ! どこに居る?! 頼む、返事をしてくれーっ!」

 返事はなかった。
 その代わり、一つだけ細く開いたままになっている扉が眼に入ったので、覗いてみた。
 郁子は居ない。
 ただ、真っ暗な部屋の絨毯の上には、バラバラになったヨロイの部品が散らばっていた。
「……」
 ぼくは、がらんどうの手足や兜を言葉もなく眺めた。

 こうしてはいられない。
 ぼくは他の場所を探るべく、部屋を出ようとした。
 が、その時ふと、部屋にある大きなタンスに眼をやった。
 ――まさか……この中に郁子が。なんてこと……。
 奇妙な予感めいたものに囚われ、ぼくは、観音開きのタンスの扉をおそるおそる開いた。

255:月下奇人
08/04/16 09:46:35 IHnkP8PT
 その途端、中から真っ赤な塊がぼろぼろとこぼれ出してきた。
「うわあぁっ」
 それは、タンス一杯に押し込まれていた、月下奇人の花だった。
 扉を開けたぼくは、溢れ出る月下奇人に襲われて、ひっくり返ってしまう。
「く……くそ! 馬鹿にすんのもいい加減にしやがれ!」
 月下奇人は、もう沢山だ。
 躰にまとわり付く花弁を振り落としつつ、ぼくは逃げるように部屋を出た。

 それから二階をあちこち捜索したが、郁子の姿は見当たらなかった。
「郁子……どこにいるんだよ!」
 もう残っているのはミイラの部屋と、あの、開かずの間だけだ。
 開かずの間の黒い扉は、以前と変わらず釘を打たれたままで、開いた形跡は無い。
 ――これじゃあここにも居ないだろう。あと残るは……。


 ぼくはミイラの部屋に来た。

 驚いたことに、ミイラは車椅子ごと元の位置に戻っていた。
 おそらくは、柳子が元に戻したのに違いない。
「郁子!」
 大声で呼びかける。
 だが、ここにも郁子は居なかった。これで二階は全滅だ。
「郁子……」

 どうしよう? 二階は諦め、下を捜すべきなのだろうか? 途方に暮れてミイラを眺める。
 車椅子にもたれたミイラの膝には、赤い日記帳が乗せられていた。
 どうせこれも、柳子がやったのだろう。

 日記を手に取りめくってみた。
 ――ミイラの部屋へ戻ろう! あそこにあった日記……多分あれで、何か判ると思う。
 ピアノホールでの、郁子の言葉を思い出す。
 本当にこれで、何か判るのか?

 日記には、細々とした文字で、何か小難しい言葉が並べ立てられている。
 これは、この屋敷の持ち主だった先生が書いたのだろうか?
 とにかく内容が難解な上に、達筆過ぎて物凄く読みづらい。
 しかも、今のぼくらにはあまり関係無さげな内容だ。

 どんどん読み飛ばしていくと、途中に例の月下奇人の押し花が出てきた。
 そして、その次のページをめくると―急に日記の様子ががらりと変わった。
 可愛らしい、小ぢんまりとした女文字で記された文章は、
明らかに前頁までとは別人によって書かれた物だ。
 ぼくは、身を入れてそれを読んだ――。


8月10日
 曖昧な眠りの中をさまよい、いつの間にか私はここにたどり着いていた。
 懐かしい。
 13年も前に、ひと夏過ごしただけの家だというのに。
 あれから間もなく廃屋になってしまったらしく、中も外もぼろぼろだけど……。
 でも今の私にはきっと、お似合いのおうち。

8月14日
 時間の感覚が曖昧だ。
 家の中は暗いし、時計も狂ってる。朝だか夜だかよくわからない。
 それでも、時間も日にちも簡単に調べられる。
 昔、ここで先生に教わったことが、今の私の助けになっている。

256:月下奇人
08/04/16 09:47:42 IHnkP8PT
8月26日
 ここに居ついてからというもの、私は寝てばかりいる。
 疲れきっているのだ。無理もない。あんな状態から立ち直り、ここまで歩いて来たのだから。


9月30日
 前の日記からひと月以上も経っていることに驚く。
 さすがに眠り過ぎだ。
 こんなことではいけない。これではまるで生ける屍だ。
 でも体がいうことをきかないのでは、どうしようもない。
 なんとかしなければ。

10月1日
 近くの病院から車椅子を持って来た。
 持って来た。なんて言うとまるで泥棒みたいだけど、ここ以上にぼろぼろの廃病院だったから、
 問題ないと思う。
 これで明日から屋敷内を自由に動けると思うと、とても嬉しい。
 起きたら、大好きだったテラスやピアノホールを見に行こう。

10月4日
 屋敷内を全部見てまわる。
 懐かしさと共に、私の中で封じられていた記憶の扉が、次々に開いていくのがわかる。
 子供部屋で、あの人形を見つける。
 陏子とお揃いで貰った、可愛いお人形。
 ずっと忘れていたあの子のことを久しぶりに思い出した。
 陏子。もう一人の私。
 あの子は今、どこで何をしているのだろう……。

10月15日
 屋敷はもうすっかり見つくしたけど、あの部屋にだけどうしても入れない。
 釘を打ち付けられた、黒いドアの部屋。
 先生からも、けっして近付いてはならないと言い含められていた、開かずの間。
 何とかして入ることが出来ないものか……。

11月9日
 屋敷を見てまわるのも、もう飽きてしまった。
 お人形と遊んで過ごすが、あまりおもしろくない。
 理由はわかってる。陏子が居ないからだ。
 一人きりで遊んだって、つまらないに決まってる。
 陏子。なぜここに、陏子は居ないのだろう?

11月25日
 明日は、私と陏子の誕生日だ。
 陏子を呼んでお祝いしよう。
 ケーキを焼いて、お部屋を花で飾って。
 陏子はちっとも私と会ってくれないけれど、お誕生日くらいはきっと来てくれるに違いない。
 今からとても楽しみ。明日は早起きしなくっちゃ。

11月27日
 陏子は来なかった。
 もう日付も変わってしまった。
 どうしてなの?
 ケーキだってうまく焼けたのに。
 空いたままの席に向かい合っていると、とめどなく涙があふれて来る。
 陏子はもう、私が嫌いになってしまったのだろうか?
 陏子。陏子。陏子。陏子……。

257:月下奇人
08/04/16 09:48:17 IHnkP8PT
12月2日
 あれからずっと、陏子のことばかり考えてすごす。
 わたしは、陏子に見捨てられてしまったのだろうか?
 いやちがう。
 陏子はそんな、薄情な子じゃないはず。
 わたしとおなじ心をもっているのだから……。
 きっと、なにか事情があってここにこられないだけなのだ。きっとそう。
 それさえわかれば……。

12月2日
 こうしてはいられない。
 わたしはここを出て陏子をさがしにいくことにする。
 当てなどない
 陏子が今 どこにいるかもわからないのだから
 もしかすると、これでわたしは力をつかいはたしてしまうかもしれないけど。
 でも 陏子にあうためならわたしは

12月23日
 ついに陏子をみつけた
 やはりあの子は わたしをわすれていた
 わたしをひとりにしておいて 男のそばにいた
 陏子

1月4日
 もうすこしであの子をこちらに引き込めそうだったのに あの男が邪魔をした
 いやな男
 あんなやつとなんかはやく別れてしまえばいいのに。

2月21日
 なかなかうまくいかない。
 陏子の心はもうほとんどこちらがわにあるはずなのに
 あの子はなぜか ふみ止まっている。
 きっと、あの男が邪魔しているせいだ。苦しいでしょうに。
 かわいそうな陏子。

3月15日
 今日はいいところまでいった。
 風で帽子が飛んで 強い日差しをあびたのが幸いしたようだ。
 でも例によってそばにいた男が邪魔したので 完全に目覚めるにはいたらなかった。

 あいつ……そろそろ消すことを考えるべきかもしれない。

3月21日
 陏子の強情さにうんざりする
 わたしのこと 忘れてるわけではないはずなのに。
 陏子は 耳をふさいでわたしの声を無視しようとする。
 陏子。あなた本当にそのままでいいの?
 双子なのに顔が違うなんて、おかしいとは思わない?

4月27日
 ついに陏子が目覚めた。
 これで姉妹水入らずで暮らせる、と喜んだのも束の間、
 あろうことか陏子は、男にすがり付いて自分を取り戻してしまった。
 信じられない。
 そんなにわたしと一緒になるのがいやなの?
 悔しい。もう殺してやりたい。
 だけど、わたしにはそこまでの力はないみたいだ。悔しい。ほんとうにくやしい。

258:月下奇人
08/04/16 09:48:49 IHnkP8PT
 月 日
 あれから、どれだけの時間が流れたのだろう?
 陏子に拒絶され、一度はすべてを諦めかけた私だったけれど、まだこうしてここに居る。
 私は今、あの開かずの間の中に居る。
 突然開かずの間に大穴が開いて、そこから凄い力が噴き出してきたのだ。
 半分消えかけていた私が甦ったのも、その力のおかげ。
 私は確信する。ここに陏子を連れて来さえすれば、きっと、目覚めさせることが出来る、と。


8月2日
 開かずの間は、私に素晴しい力を分け与えてくれた。
 今の私は、以前とは比べ物にならないほど強い能力を使うことが出来る。
 以前は出来なかったことも、今なら出来る。
 準備は整った。
 陏子を乗せた車は今、すぐ近くの山道を走っている。
 これから私は男に暗示を与え、陏子をこの屋敷まで連れて来させる。
 きっと上手くいくはずだ。

 陏子。とうとう私達、一緒になれるんだよ……。



 これは――何だ?
 終いまで読み終えたぼくは、衝撃のあまり床に座り込んでしまった。
 眼を閉じ、頭を抱える。情報を整理しよう。

 この日記が柳子の書いたものであるのは、まず間違いがないだろう。おそらくはこうだ。

 約一年前、柳子は一人でこの廃屋敷に迷い込んだ。
 柳子がこんな人里離れた山中にある屋敷にたどり着き、孤独に引き篭っていた理由は判らない。
 日記の様子から察するに、相当躰が弱っていたようだが――。

 そして、廃屋敷に一人きりで暮らすうちに、柳子の精神は次第に荒廃してゆく。
 孤独な柳子は、かつて、屋敷で共に過ごした双子の片割れである郁子に執着するようになる。
 柳子は生まれ持った超感覚を研ぎ澄まし、ずっと音信不通になっていたと思われる、
郁子の行方を捜し始める。

 発見した郁子と一緒に居たという男は―もちろん、ぼくだろう。
 この日付―十二月二十三日は、ぼくの誕生日だった。
 事前にさんざんアピールした甲斐あって、この日郁子は、
ぼくの部屋にケーキを持ってお祝いに来てくれたのだ。

 ぼくの誕生日と、ひと月前の郁子の誕生日と、クリスマスと忘年会と。
 とにかく諸々を一緒くたにして祝ってしまうという、非常に効率重視な夜で、
なんだか慌しかったけど、凄く楽しかったのを覚えている。
 そんな、ぼくらが幸せに過ごしている様子を、柳子はこの暗い屋敷から
独りぼっちで見ていたというのか――。

 それに気になることがある。
 日記の最も新しい記述。柳子は“男に暗示を与える”と書いている。
 つまり―柳子はここからなんらかの力を使い、このぼくを操ったというのだ。

 それは例の、山道で見かけた裸の女の幻か。或いは、ブレーキの故障?

259:月下奇人
08/04/16 09:49:23 IHnkP8PT
 そうだ。あの故障は果たして本当にあったことなのか? それにあの時の対向車も。
 車を失ってからも、ぼくはやけにスムーズにこの屋敷までたどり着いた。
 中に侵入することに対しても、ほとんど迷いがなかった。

 それもこれも、全て柳子によって仕組まれた罠だったというのか。
 ぼくは鳥肌のたつ二の腕を自ら摩った。
 恐怖心。おぞましさ。そして、どうしようもないほどの無力感。
 かつて夜見島で化け物どもと戦ってきたぼくではあるが、この戦いはあまりに荷が重い。
 何しろ今度の敵は狂気の超能力者だ。しかも、恋人の郁子と全く同じ顔をした、双子の―。

 さらにもうひとつ。重大な疑問点―というか、矛盾がある。
 それは―今ここに居るミイラの存在だ。
 この、髪の長い女性のミイラ。ぼくは、恐る恐る近付いてミイラの顔を凝視した。
 茶色く干からびた顔の、左のこめかみの辺りが大きく陥没しているように見える。
 ぼくは医者じゃないからはっきりと断定出来ないが、
もしかすると、彼女の死因はこの頭部の傷が原因なのかも知れない。

 ぼくは、ミイラの傷跡を見ながら額に脂汗が滲むのを感じていた。
 おそらく、顔も蒼ざめていることだろう。
 こいつの存在と日記の文章とを照らし合わせ、それにより到達した怖ろしい結論に、
ぼくは慄然としていたのだ。
 ――そんな。そんな、ばかな……。

 ぼくは、よろよろと立ち上がった。
 ここで逃げる訳にはいかないんだ。ぼくは、確認せねばならない。
 郁子のため、そして―この事態に決着をつけるためにも。

 部屋を出て一階に下りると、微かにピアノの音が聞こえた。
 ――彼女が弾いてるんだな……。
 ぼくはピアノホールへ向かった。


 ピアノホールの扉は開いたままになっていた。
 そこに郁子はいた。
 黄色いシャツを着て、ピアノの前に座っている。

「それ、何て曲?」
 ぼくは彼女に近付きながら尋ねた。
「さあ……小さい頃ここでお母さんが弾いてたのを、覚えてただけだから」
 鍵盤に指を滑らせながら、彼女は答える。
 ぼくは、郁子がピアノを弾く姿を、黙って見つめ続けた。

「柳子の日記を読んだのね?」
 ぼくに横顔を見せたまま、郁子は言った。
「読んだ」
「可哀想だよね。柳子」
「……」

「可哀想だと思わないの?」
 ピアノの音が途切れる。
 白い指先が微かに震え―いきなり、ガンッと乱暴に鍵盤を叩いた。
「やっぱり判ってくれないんだね。そうだよね。あんたも所詮は他人だもの」
 郁子はぼくに光る眼を向ける。
「でも……私は違う。私達は血の繋がった双子の姉妹。かけがえのない、二人きりの……」
 郁子は、遠い眼をして再びピアノを奏で始めた。もう、ぼくの方を見ようともしない。

「私ね、ここで、柳子と暮らすことにしたんだ」

260:月下奇人
08/04/16 09:53:18 IHnkP8PT
 夢見るように郁子は言う。
「今まで一緒に居られなかった分……これからは、ずっとずっと一緒。絶対離れたりしない」
 暫くピアノの音だけが続く。

「帰って」
 無言で立ち尽くしているぼくに業を煮やしたのか、郁子は冷たい声で言い放った。
「聞こえないの? 私、もうここに居るって決めたんだから。あなたは一人で帰ればいい」
「……それが郁子の希望なら」
 ぼくはようやく返事をした。
「だけど……ちゃんと郁子の言葉としてそれを聞くまで、ぼくは帰る訳にはいかないよ……柳子」

 ピアノの音が、止んだ。

「そう。今の君は柳子だ。そして郁子は……」
 ぼくは、彼女のこめかみに指を当てる。
「この中に……君と交代して、今は眠らされているんだろう」
「……何言ってんの?」
「始めからおかしいと気付くべきだったんだ。君と郁子は、必ず別々に現れる。
 絶対同時に現れない理由。それは、同じ躰を二人で共有していたからなんだ」

 彼女は嘲笑を浮かべてぼくに向き直った。
「私が二重人格だとでも言いたい訳? はっ! ばっかみたい! 漫画の読みすぎなんじゃないの?!
 いい?! 私は……」

「いや。君は二重人格なんかじゃない」
 ぼくはきっぱりと言いきった。
「柳子は郁子が作り上げた別人格なんかではない。ちゃんと実在しているんだ……あそこに」
 ぼくは、指先を天井に向けた。
「あの車椅子のミイラ。あれが、君の本体だ」

 柳子の肉体はこの屋敷で、すでに死んでいたのだ。
 彼女の死の経緯は、ぼくには全く想像出来ない。
 しかしあのミイラが身に着けていた白い着物。何かおかしい気がしたんだ。
 あれは―死に装束だ。

「あのミイラが柳子? 何でそう思うの?」
「あの日記に、ミイラに関する記述が無いからさ」
 彼女の質問にぼくは即答する。
「他にも色々とおかしな部分はあるけれど、あの日記の一番奇妙な点はそこだ。
 ミイラが……初めからあったにせよ、柳子が来たのち誰かが死んでミイラになったにせよ、
 そんな一大トピックについて何も書かないなんて、逆に不自然じゃないか」
「……」

「理由は簡単。柳子自身が、あのミイラだったからさ。
 日記を読む限り、柳子は半死半生でここにたどり着いた様子だった。
 おそらく、ここに来て間もなく最期を迎えて……
 でも何故か、死んだ肉体に魂は留まり続けたんだ。そして、あの日記をつけ続けた」

 郁子―いや、郁子の肉体に宿った柳子は、無表情でぼくの言葉を聞いていた。
 顔こそぼくの方を向いているものの、その視線はぼくを通り越し、
 どこか遠い処を彷徨っているようだ。

「死んだ肉体から魂が離れなかった理由は、判らない。
 君の持つ超能力が関係しているのか……あるいは、この屋敷の持つ妖力によるものなのか」
 ぼくは柳子の前に仁王立ちして語り続ける。
「とにかく。肉体を失った君は、霊体となってこの屋敷に住まい続けていた。
 超能力を駆使して郁子を捜し当て、彼女をこの屋敷に引き寄せようと画策してきた。
 そして今夜、その望みを果たした訳だ」

261:月下奇人
08/04/16 09:59:22 IHnkP8PT
「姉妹は一緒に居るべきなのよ」
 遠い眼をした柳子が、ぽつりと呟いた。
「それを望むことは罪? 私、なんにも悪いことしてないよ……」
「郁子もそれを望んでいるんなら……な」
「……」

「これからどうするつもりなんだ? そうやって郁子の肉体を乗っ取って、
 朽ち果てるまでここで隠遁生活を続けるつもりか?
 あるいは……郁子に成り済まして新しく人生をやり直そうとでもいうのか?
 自分が生き続ける為に、郁子を犠牲にして君は」
「違う!」
「何が違うんだ!」

「違うのよ……」
 柳子はふらりと立ち上がった。
 顔を上げ、か細い指先でぼくの頬をなぞる。

「まもる」
 温かい吐息がぼくの唇に降り掛かった。
「あなたはいい人だわ。私、本当は判ってた。
 郁子はきっと……あなたと一緒に居るのが、一番幸せなんだって」
「じゃあどうして……?!」
 ぼくは柳子の手を掴んで問い質す。

「郁子はね……駄目なのよ」
 柳子は、力無く微笑んだ。
「郁子はあなたと一緒にはなれないの。拒絶しているのよ……他の、世間の人達と同じようにね。
 だから私が一緒にいてあげないと」
「嘘だ!」
「本当よ」
 柳子の瞳が、真っ直ぐにぼくを見据える。

「私の言葉が信じられないのなら……直接本人に聞いてみればいいわ」
「本人に?」
 柳子の瞳が、ぐるんと反転した。
 白眼を剥いたまま、彼女の躰は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
 ぼくは慌ててその躰を抱きとめた。

「う……ん」
 程なくして、彼女はまるで寝起きのような声を漏らし、眩しげに眼を開いた。
「……郁子か?」
「守……? 私……」
 彼女はぼくに抱きかかえられていることに気付くと、表情を強張らせた。
「あ、ご、ごめん」
 別に謝る必要はないと判っていながらも、つい反射的に謝罪の言葉を口にしてしまう。
 おずおずと彼女の躰から離れつつ思った。この感じ―間違いなく郁子だ。

「郁子。すぐにこの屋敷を出よう」
 ぼくは郁子の背中に呼び掛けた。
「もう雨も上がってる。じきに夜も明けるはずだ。行こう。もう、ここには居ない方がいい」
 柳子が郁子を解き放った今の内に―そう思って、ぼくは郁子の腕を取ろうとした。
 しかし、郁子はぼくの手を振り払った。

「郁子?」
「守……ごめん」

262:月下奇人
08/04/16 10:00:03 IHnkP8PT
 郁子はぼくを振り返った。
 ぼくに向けられた郁子の瞳は―涙で濡れていた。
「全部……柳子の言った通りなの」
 郁子は、零れ落ちる涙を隠すように再び背を向けた。
「ここに来て……昔のことを思い出して……柳子と話をして……はっきり判ったんだ。
 私は、守の傍に居ちゃいけないんだって」
「郁子!」
「近寄らないで!」

 郁子の肩を掴もうと伸ばしたぼくの腕は、郁子の叫び声に遮られた。
「もう私に関わらないで……私のことなんて忘れて、もっと他の、まともな女の子と付き合って。
 その方が、あなたに取って幸せだから」
「そんな……何を言って……」
「私は化け物なのおっ!」

 頭上で、ぱん、ぱん! と鋭い破壊音が響いた。
 どうやら天井のシャンデリアが割れたらしい。
 暗い中、ガラスの破片が月の光を照り返しながらぱらぱらと降り掛かってくる。

「……郁子!」
 ぼくが破片を避けている合間に、郁子はガラスのシャワーの向こう側へ立ち去ろうとしていた。
「お願い……もう行って! 私のことは……放って置いて。お願いよ……私……」
 郁子の声が遠ざかる。ぼくが廊下に出た時には、既にその姿も消えていた。
「くそ……! 何なんだよ?! 一体どうして……」
 本当に訳が判らない。郁子はなぜ急に、ぼくを避けるようになったのだろうか?

 それに今の超常現象。
 どういうことなんだ? タイミング的に、あれは郁子がやったことのように思えるが―。
 いや―本当にあれは郁子の仕業なのか?
 というか寧ろ―さっきのあれは、本当に郁子だったのだろうか?

 ――判らない。
 ぐるぐる廻る思考の渦を断ち切るように、ぼくは頭を振った。
「郁子……」
 廊下をよろよろと歩き出す。
 はっきり言って、先ほどまでのガッツは残っていない。
 他ならぬ郁子自身に、ああもはっきり拒絶されてしまっては―
 本当に、このまま郁子を置いて帰ってしまった方がいいのではないか?
 ―そんな気にさえなってしまう。

 それでもこうして郁子の後を追い続けているのは、やはり彼女を置いて行きたくはないからだ。
 例え、未練がましい行為だと判っていても。
 郁子と別れてしまうなんて―
もうこれっきり、郁子と逢えなくなってしまうだなんて、考えたくもなかった。

 ――もう一度……もう一度だけ、郁子と話してみよう。
 それでもし駄目だったら―更にもう一度話す。
 そんな風に考えながらホールまで到達した時のことだった。

   キィ……キィ……キィ…………。

 どこからともなく車輪の軋む音がした。
 周囲を見廻す。どこだ? どこから来ているんだ―?
「……!」
 気が付くと、ぼくの眼の前にはミイラの車椅子が停まっていた。
 ぼくは、暫し無言でミイラの眼窩の空洞と見つめ合った。
 ミイラの揃えた膝の上には、例の日記帳が開いて置いてある。ぼくはそれを覗き込んだ。

263:月下奇人
08/04/16 10:00:34 IHnkP8PT
 まもるさんへ

あなたがまだ陏子のことを諦めないのなら、一度だけチャンスをあげます。
あの子は今、開かずの間にいます。
そこで、あの子の真実と向き合ってあげて下さい。
もしもあなたが、陏子の苦しみを受け入れる事ができるなら。
あの子の全てを、深い愛情でもって受け入れて下さるのなら……
どうぞ、あの子を連れて行って下さい。
でもきっと、それは無理な話でしょうね。

ここに来てからというもの、私は陏子と一緒になる事ばかりを願ってきました。
それはもちろん私自身の願望でもありましたが、それだけではありませんでした。
陏子が……あの子が心の奥底でそれを望んでいる事が、私には分かっていたからなのです。
あなたと出逢ってからの一年間。
陏子はあなたと、私たち姉妹の住まうべき闇の世界からの呼び声との狭間で苦しみ続けていた。
私はその中途半端な状態から陏子を救い出してあげたかった。
あなたからすればそれも私の身勝手な言い分と取られるのでしょうが……
これが私なりの、あの子への愛。

分かってくれとは言いません。でも、知って置いて欲しいのです。
この世界にいるのは、あなたがた光の世界の住人だけではないのだという事を。
古き闇の住人は、あなた方のすぐ近く……
思いがけないほどに近い場所から、いつでもあなた方を見つめているのだという事を。
隙あらば光の者とすり替わり、再び地上に君臨するために……。

長々と書いてしまいました。
私はしばらくの間、元の体にもどって休む事にします。
あなたが陏子との関係に決着をつけるまで……。

あなたが陏子を連れて帰るにせよ、置いて去って行くにせよ、
これでもう二度とお会いする事はないでしょう。

さようなら。どうか、いつまでもお元気で。

                                   木船柳子



 ―真新しい頁を埋め尽くす丁寧な女文字。
 いつしかぼくは日記帳を手に取って、食い入るようにその文章を読み耽っていた。

    キィ……キィ……。

 微かな物音に顔を上げると、いつの間にか背を向けていた車椅子が、
 ホールの奥の暗闇にゆっくりと消えて行く処だった。
(柳子……)
 密やかな泣き声を思わせる車輪の音は少しずつ小さくなり、やがて掻き消えた。
 日記帳を胸に、ぼくは柳子の消え去った暗闇を、暫くの間見つめていた。

 ぼくは、瞳を閉じて深呼吸をした。胸の中で、沸々と熱い心が甦る音がする。
 これは、試練だ。
 ぼくが郁子にふさわしい男であることを示さなければ、彼女を手に入れることは出来ないのだろう。
 ――望むところだ!
 ぼくは階段を駆け上る。

264:月下奇人
08/04/16 10:01:04 IHnkP8PT
 ぼくには、確信があった。
 柳子の言う闇の世界。それは、あの夜見島で見た異世界のことに違いない。
 一年前、ぼくと郁子とで終わらせたと思っていたあの事件は、実はまだ続いていたのだ。
 柳子と郁子が生まれながらにして持っていた超能力。
 きっとそれこそが彼女らに秘められた闇の因子であり、郁子は――。


 開かずの間の前にたどり着いた。
 威圧感に満ちた黒い扉は、相変わらず釘を打たれて閉ざされたままだった。
 でも柳子は、郁子が居るのはここだと言った。その言葉に嘘はないとぼくは信じている。
 では郁子はいったい、どうやってこの部屋に入ったのだろう?

 ――きっとこの扉以外にも、出入り口があるに違いない。
 考えた末―ぼくは、開かずの間の隣の部屋に眼をつけた。

 その部屋には、バラバラになったヨロイと、月下奇人の真っ赤な花が雑然と散らばっている。
 さっき郁子を捜していた時、最初に入った部屋だ。
 部屋の左側の壁に眼をやる。この壁の向こうに、開かずの間はあるのだ。
 ぼくは、開け放たれたままのタンスの前に立つ。
 月下奇人が一杯に詰め込まれていたタンス。妖花の残り香に満ち満ちた扉の中を覗き込んでみる。

 このタンスは、絶対に怪しい。
 昔やったゲームを思い出し、ぼくはタンスを横から押してみた。
 こういう場合、たいていタンスをどかした後ろに隠し扉が見付かるものなんだが―。
「……駄目か」
 右から押しても左から押しても、タンスはビクとも動かない。
 ぼくはタンスのてっぺんに手を置いて寄り掛かり、深々と溜息をついた。

 すると―。

「うわぁっ?!」
 ガクンと力の抜けるような手応えと共に、なんと、タンスが床に沈み始めていた。
 ビックリして見守るぼくの眼の前でタンスはどんどん沈んでいき、遂には完全に床に埋没してしまう。
「……どうなってんだこの屋敷は」

 驚き呆れるぼくの前には、小さな黒い空洞が待ち構えていた。
 破れた壁紙の下、露出したセメント材が無残な灰色を晒している。
 それはあらかじめ穿たれていた入口ではなく、明らかにハンマーか何かで打ち壊した跡だ。
「……」
 ぼくは緊張にすくむ脚を無理に動かし、身を屈めてその空洞の奥へと進んだ―。


 開かずの間の中は、真っ暗闇だった。
「……郁子!」
 郁子を呼ぶぼくの声は、すぐ眼の前にあると思しき壁の中に吸い込まれる。
 ――意外と狭い部屋なんだな……。
 全く視界の利かない室内を手さぐりで探索する。

 ここは本当に狭い部屋のようだった。いや。狭いというよりも、幅が無いのだ。
 ただし。眼の前の壁の感触から、ここにはもう一つ鉄製の扉があることが判る。
 そのゴツゴツとした手触り。扉はかなり物々しく、厳重なものである様子が覗えた。

 更に。
 鉄製ドアと対面するぼくの右側から、なんというか、ひんやりとした空気が流れてくるのを感じる。
 ぼくは―誘い込まれるように、その空気の流れてくる方へと手探りで向かった。

265:月下奇人
08/04/16 10:01:36 IHnkP8PT
 この、下から吹き上げてくるような空気の流れには、覚えがあった。
 あの夜―冥府へ続く七つの門を開いたのちに出現した、あの地下洞道。

 暗闇に慣れ始めたぼくの眼に、下へと続く小さなはしごが見える。
 ぼくは、迷うことなくそれを降りた。
 それは随分と長いはしごだった。
 かれこれ七、八メートルは下っただろうか? 暗いので、周りの様子はよく判らない。
 しかし下るにつれて次第に空気が湿り気を帯び、
人工的な壁ではなく、自然のままの岩肌に周囲が包まれてゆくのを肌で感じ取っていた。

 そうして、ようやく足の裏が地面に着いた。
「……これは」

 降り立った岩場は、不思議な光明に包まれていた。
 赤みがかった妖しい光―そしてこの岩場の下には、尚も下へと続く鉄の螺旋階段が伸びている。

 ――ここ……どこだ?
 激しい既視感。混乱と懐かしさの入り混じった複雑怪奇な感動に、ぼくは眩暈を覚える。
 それでもぼくは―意を決して螺旋階段を下り始めた。

 鉄の段を踏みしめながら、ぼくの心は奇妙に静まり、落ち着きを取り戻しつつあった。
 これは、あの夜の再現なんだ。
 闇の女に誑かされ利用された、悪夢の一夜。
 眼下に広がる赤い海も、あの時と同じ――。

 下りてゆくに従って、その赤い海の全容が明らかになる。
 案の定、赤い海の正体は、群生する月下奇人だった。
 広大な洞穴を埋め尽くす、月下奇人の赤い色。

 そして―その赤い海の中に、彼女は居た。

「…………守」
 階段を下りきったぼくの前で、郁子は弱々しく立ち尽くしていた。
 俯いて、肩を落として―こんなに消沈した彼女の姿を見るのは、これが初めてだ。

 今にもくずおれそうな様子を見せながらも、郁子は顔を上げ、ぼくの眼を見た。
「ねえ……見て?」
 聞き覚えのある台詞に、ぼくはハッとする。

 あの夜のあの女と同じように―赤色に囲まれた郁子が、ゆっくりと衣服を脱ぎ始めていた。
 黄色いシャツを捲り上げ、肩から抜き取る。
 一瞬零れ出た乳房が見えたが、すぐに手で覆われて、隠れてしまった。
「郁……!」
「…………」
 郁子の裸の肩は震えていた。
 先ほど以上に深く俯いているし、ぼくはてっきり彼女が泣いているものだと思ってうろたえた。

 だが、再度上げられた郁子の瞳に、涙は浮かんでいなかった。
 ぼくの困惑している様子がおかしいらしく、ほんの少しだけ微笑んで―
 そして、掻き合せていた腕を開いた。

「………………」
 今、郁子の乳房は、完全に曝け出された。
 お椀を伏せたように丸く、可愛らしく並んだ二つの膨らみ。
 上向きの小さな乳首がちょっと生意気そうで。ずっと想像してきた通りの、魅力的なおっぱいだ。

 ただひとつ想像と違っていたのは―その綺麗な乳房に、大きな痣がついていることだった。

266:月下奇人
08/04/16 10:02:18 IHnkP8PT
「見て。お願い……私を見て」
 二つの乳房に一つずつ。それは、どう見ても人間の眼にしか見えない。
 しかもその眼に、ぼくは見覚えがあった。

「あ……あ」
 叫び出しそうになるのを堪えるのに必死だった。
 腰も抜けそうに驚いて―正直、このままへたり込んで座り小便をしないのが不思議な位だ。

 驚愕と恐怖に、がくがくと全身を揺さぶられて立ち尽くしているぼくの面前で、
郁子もまた、乳房を晒したまま立ち尽くしていた。
「これが、本当の私なの……」

 郁子は、紙のように白い顔でぼそりと呟いた。
「私と柳子には、生まれた時からこの痣があった」
 郁子の指先が、痣に触れる。
「最初は小さな痣だった。それこそ、乳首と見分けがつかないくらいの。
 でも成長するにつれてどんどん大きくなって……あの力と、比例するみたいに」

 郁子の痣は、乳首を取り囲むように浮かび上がっていた。
 赤みを帯びた痣の中心で、郁子の乳首が瞳のように、ぼくの間抜け面を見据えている。
「小学校の頃はまだブラしてなかったから。着替えの時にクラスの子に見付かって、軽く虐められた。
 私、生まれも特殊だったし、変な力もあったからさ。
 これが無くたって、遅かれ早かれ虐められたろうとは思うけど」
 郁子は、悔しそうに唇を噛んだ。

 ぼくはといえば、そんな彼女をただ黙って見つめるだけだ。
 ぼくの沈黙をどう受け止めたのか―郁子は乳房を手で隠し、再び顔を落としてしまった。

「なんで私にこんなのがあるのか、私にだって判んない。
 きっと私が普通の人とは違う化け物だから……なんだよね。怖いよね。ほんと、気持ち悪い。
 ……だけど」

 郁子はぼくを見た。眉根を寄せながらも、口元は微笑んだ泣き笑いの表情。
 溢れる涙は頬を伝い、顎先から胸元に零れ落ちていたが、それを隠そうとも拭おうともしない。
 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、郁子は言葉を継いだ。

「……だけどこれが、本当の私! 今まで守に隠してきた、本当の私の姿なの……。
 これがあったから私、守の気持ちをはぐらかしてきた。本当は、知ってたのに。
 だって……無理じゃん? こんなんなんだもん、私。
 こんなんなのに……無理だよ私……私は守に好かれる資格なんてない。私……」
「郁子……」

 ぼくはようやく口を開き、少しずつ少しずつ、郁子に近づいて行く。
 呪いが掛かったように重い足取りではあったけれど。ぼくは今、こうしなければならないのだ。

「来ないで!」
 郁子は泣きながら、ぼくを拒絶し後ずさって行く。
 ぼくは立ち止まりかけたが―なんとか歩き続けた。

「なんでよ……駄目だよ……私には守に好かれる資格なんてないのに……。
 守を……好きになる資格なんてないのに!!」

 突然、強い衝撃波に襲われた。
 突風に舞い上がる木の葉のように、ぼくの躰は後ろに吹っ飛ばされる。
「っ痛……」
 岩場に強か打ちつけられつつも、ぼくはめげずに起き上がる。
 立ち上がった途端に軽い眩暈を覚えたが、真っ直ぐに郁子を見据えて再度歩き始めた。

267:月下奇人
08/04/16 10:02:49 IHnkP8PT
「守……」
 郁子は少し怯えたように顔を強張らせ、更に二、三歩後ろへ下がる。
 額から目元に何かの液体が流れ込んでくる。多分、血だろう。
 ――倒れた拍子に頭が割れたんだろうなあ。
 心の片隅で他人事のように考えながら、ぼくは郁子の元へ向かう。
 流れる血液に加え眼鏡もどこかに落としてしまい、物凄く視界が悪かったが、
構わず郁子の元へ歩いてゆく。

「来ないで!」
「いやだ」
「駄目……」
「駄目じゃない!」
「や…………」

 ぼくが近付くにつれ、弱々しくなっていく拒絶の言葉。
 5メートル。2メートル。1メートル。もう、彼女の息吹きさえはっきりと感じ取れる。

 そして郁子の眼の前まで到達した処で、ぼくは足を止めた。

「郁子」
 眉毛に溜まった血を拭い、ぼくは郁子に語りかけた。
 胸を覆い、身を縮める郁子の剥き出しの肩を、両手で掴んだ。
 伏せられた顔の、ぴったりと引いた顎に指をかけ、顔を上げさせた。

「郁子……」
 ぼくは、有無を言わさず彼女の唇に唇を重ねた。
 郁子はぼくの躰を両手で押し返そうともがく。が、ぼくはそれを許さなかった。
 唇を強く吸いあげ、微かに動かして彼女の下唇を上下の唇で挟み込む。
 唇で唇を愛撫し、郁子の抵抗が弱まった処で、思い切って唇の中に舌を差し入れた。
「ん……む」
 郁子が小さく呻く。ぼくは唇を強く押し付けて、舌に舌を乗せ、舐めて、押して、絡みつく。

 ぼくらの躰は、重なり合ったまま月下奇人の中へ倒れこんだ。

「あ……」
「あぁ……」

 郁子が脱力してしまったからか、あるいは、ぼくが勢い余って彼女を押し倒してしまったのか。
 自分らでもよく判らないまま、ぼくと郁子は、赤い花に埋もれて向き合っていた。
「郁子」
 両腕を郁子の肩の両脇に置いて突っ張り、上から郁子を見下ろす。
 郁子の黒い瞳が、涙を残したままぼんやりぼくを見上げていた。

「郁子……おれは郁子が好きだ。郁子を、抱きたい」

 郁子は、まんまるく眼を見開いてぼくを見た。
 驚き。困惑。不安。そして多分、喜び。
 彼女の瞳の奥で、複雑な感情が目まぐるしく交錯しているのが判る。
 それはテレパスではないぼくにすら、はっきりと判った。

「……」
 郁子の唇が動き、何かを言おうとしている。
 その唇を、ぼくは唇で塞いだ。
 郁子が何を言うつもりかは知らないが、それはきっと彼女自身を傷つける言葉に違いないと、
ぼくは直感的に思ったのだ。

268:月下奇人
08/04/16 10:03:19 IHnkP8PT
 ――もう、何も言う必要はない。
 郁子が今まで一人きりで抱え込んできた苦しみを分けて貰うのに―言葉だけでは駄目なんだ。

 ――ぼくが郁子を本気で愛しているという証拠を、示さなければ……。

 吐息が火のように熱くなる。
 ぼくの熱で、郁子の頑なな心も溶けてくれることを願いながら―ぼくは、郁子の唇を、舌を、
 心を込めて愛撫し続けた――。



 長いキスの後、ぼくは郁子を見つめた。
 赤い花の香気が陽炎のように漂い、空気さえも赤色に染めているように思えるこの場所で、
胸の上で手を組み、赤い花に埋もれる郁子は、なんだか棺の中の白雪姫のようだ。
 彼女の白い肌は周囲の赤を照り返し、少し赤く染まって見える。
「郁子……」
 綺麗だ。と続けるつもりが、ちょっと気恥ずかしくて言い淀んでしまう。
 仕方なくぼくは、そのまま先へと進むことにした。

 まずは郁子の組まれた手を外しにかかる。
 何らかの抵抗を見せるかと思いきや、それは、あっさりほどけて腰の両脇に力なく落ちた。
 露わになった乳房を、ぼくは見つめる。
 大きな眼が、ぼくを睨みつけてくる。ぼくはその眼を負けじと睨み返す。
 ――負けるもんか。こんなの……ただの痣に過ぎないんだ。

「あっ……!」
 郁子の微かな叫び声。
 ぼくの唇は、郁子の乳首に強く吸い付いていた。
 小さな乳首は未だ柔らかく、唇の中で蕩けてしまいそうに、甘く感じる。
 ぼくは、眼を見開いたままそれを吸い続けた。
 吸い上げて、吸い上げて、吸い上げて。柔らかだった乳首の先が、コチコチに硬く尖り始める。

「あ……は……」
 郁子は、耐えかねたように大きな溜息を吐いた。
 荒くなってゆく息遣いと共に、乳房全体が心なしか大きく膨らんでいくように思える。
 ぼくは口を開け、膨れ上がった乳房を口に含めるだけ含んでみた。
「あぁん、や……め」
 郁子の手が、ぼくの肩に添えられる。
 か細い指先はぼくを押し返そうとしているのか、はたまた引き寄せようとしているのか。
 その弱々しい指の感触は、なぜか異様にぼくの気持ちを昂ぶらせる。
 ぼくは興奮し、いっそう強い力でもって郁子の乳房を食んだ。

「ああんっ! やめて守! い……たい……」
 郁子の躰が反り返り、少し鼻に掛かった声で苦痛を訴える。
 ――……郁子!
 ぼくの腕は郁子の仰け反る腰に絡みつき、強い力で抱きすくめた。

 郁子の乳房は、見た目に反して少し硬い感じだった。
 こりこりと芯があって―それは郁子の印象そのものに、勝気で初々しい感触だ。
 そんな郁子の乳房にぼくは、これでもかとキスの雨を降らせた。

「守……守……まも……」
 ぼくの名を呟くたびに、隆起した乳房が大きく上下する。
 その頂点で尖りきっている乳首が、紅く色づいて見えた。
 ぼくは郁子の鳩尾の上に頬をすり付けるようにして、真下から二つの乳房を仰ぎ見た。

「やだ……そんな見ないでよお……」

269:月下奇人
08/04/16 10:04:10 IHnkP8PT
「恥ずかしい?」
「ん……ていうか……だって……」
 何かを言いよどみ、郁子は目線を逸らす。
 多分、胸の痣のことをまだ気に病んでいるのだろう。
 ――気にすることなんて、ないのに。
 ぼくは躰を起こし、郁子の顔を覗き込んで微笑んだ。

「恥ずかしがることないじゃん。思ってたより全然綺麗なおっぱいだよ……
 郁子って、もっと貧乳だとばっかし思ってたのに」
「えぇ? 何それ! ひっどい!」
「だって郁子、おれにちっともおっぱい見せてくれないからさ」
「当たり前じゃん! どこの世界に意味もなくホイホイおっぱい見せる女が居んのよっ!!」

 こんなおっぱい丸出し状態にされてても、郁子の口は減らない。
 ぼくはそんな生意気な郁子の、生意気な乳首をきゅっとつまんでやった。
「あはぁっ……あっ、きゃ……」
「感じる?」
「あぁっ……ば、ばかぁっ……あんっ、あ、あ、あ」

 乳首をつまんだ指先を、紙縒りを作るように擦り合わせる。
 きゅっきゅっと揉んだり、尖端をとんとん押してみたり。
 ぼくが指を動かす度に、郁子は全身を小刻みに震わせ、子猫のような甲高い鳴き声をあげた。

 郁子の可愛らしい鳴き声や瑞々しい肌の感触に、ぼくの興奮も次第に高まってゆく。
 躰の深い部分―アソコから腰全体にかけて、堪らない衝動が湧き上がるのを感じる。
 ぼくはいったん郁子から躰を離すと、引きちぎるようにシャツを脱ぎ捨てた。
「守……」

 ぼくが服を脱いでいく様を、郁子はぼんやりとした眼差しで見上げていた。
 なんだかちょっと、照れ臭い。
「そんなに見んなよ、えっち」
「ばっ……な、何よっ! 人のは散々見といてさ……」
「それはそれだよ……ていうか、そんなにおれのちんちん見たい?」
「うん。見たい」

 思わぬ切り返しに、ぼくは意表をつかれて面食らってしまう。
 言葉を失うぼくを見て、郁子は少しだけ笑った。
「そーかよ。じゃあ今見せてやっからな。よーく見とけよな!」
 ぼくはやけくそのように言い放ち、ジーンズの前を開ける。
 すでに硬直しきっていたぼくのものは、抑えを失って勢いよく飛び出した。

「ひゃっ」
「なんだよ。なんで眼ぇ隠してんの?」
 下着ごとジーンズをずり下ろすぼくを前にして、郁子は両手で顔を覆ってしまっている。
「郁子が見たいって言ったんじゃん」
「いや、でもやっぱ……ごめんなさい」
「ごめんなさいってなんだよ。ちゃんと見ろよほら」
「いやー! やめてー!! 顔に近づけるのやめてー!!!」

 郁子の眼の前で勃起したペニスを振り廻すと、彼女は両手で顔を覆ったまま後ろを向いてしまった。
 なんか―異様に興奮する。
 いかんいかん。これじゃあまるで変態だ。

「郁子……」
 ぼくは、郁子の背中に寄り添うように横になった。
「もうしないからさ……こっち向いてよ」
「……」

270:月下奇人
08/04/16 10:04:43 IHnkP8PT
 郁子は、背中を向けたままだった。
「ねえ郁子……頼むよ。機嫌直して」

 ぼくは郁子の耳元にそっと囁きかける。それでも郁子は振り向かない。
(まいったな……)
 ぼくは背後から郁子の肩を抱き、耳たぶや首筋にキスをしてみた。
 でも郁子は身を固くしたまま無反応―とぼくは思っていた。

 下の方から、かちゃかちゃと微かな音が聞こえた。
 いつの間にやら両手を下ろしていた郁子が、
自分の穿いているジーンズのホックに手を掛けていたのだ。
「郁子……?」
 郁子はジーンズの腰に手を宛がい―ぴったりと張り付いていた青い布地を、
ずるりと腰から抜き取った。

「あ……」
 剥き玉子のような白いお尻が、ジーンズの中から現れた。
 きついジーンズに引きずられて下着も半分脱げてしまい、
みっちり合わさった二つの山の切れ込みまでもが、ぼくの眼の前に晒されている。

「守だけ脱ぐの、不公平かなって思ったから……」
 背中を向けたまま郁子は呟く。
 そして小さく躰を丸め、足の先からジーンズを引き抜いて、赤い花の上に放り投げた。
 月下奇人の芳香が、強く鼻孔を刺激する。
 一瞬、頭の芯がぶれるような感覚に襲われた。そして―。

「郁子!」
 考えるより先にぼくの手は動いていた。
 郁子の腰に残った下着を掴み、一気にずり下ろしていた。
 そのまま全裸になった郁子の躰をひっくり返し、再び、真上からその肢体と向き合った。

「郁子、すごい……綺麗、だ……」
 たどたどしいながらも、今度ははっきりそういった。
 それは、心の底から溢れ出た真実の言葉だった。
 何も身にまとっていない郁子の姿は、本当に、信じられないくらいに美しかった。
 ぼくは真っ直ぐに横たわる郁子の躰を、上からゆっくりと眼でたどる。

 花の照り返しばかりではない、明らかに紅潮している頬。
 首の頚動脈は大きく脈打ち、乳房も激しく上下している。
 そして―そしてなだらかなお腹の可愛く窪んだへその下、
黒く輝く若草に覆われた小高い丘と、その麓に隠されたちいさな小川―。

 ぼくは郁子の隆起した乳房からくびれたウエスト、次いで豊かな腰のラインと、
美術品を鑑定するように、丁重に手指で確かめた。
「あ、あぁ……こ、こそばい……」
 消え入るようなか細い声で言いながら、郁子は切なげに身をよじる。
「くすぐったい? ……じゃあ、これは?」
 ぼくは脇腹から乳房の横の辺りまでを、一息に舐め上げた。

「あああぁっ」
 郁子の躰が、小魚のように跳ね上がった。
 その動きに合わせ、それまでぴったりと閉じられていた脚が僅かに開く。
 開いた脚の間で、何かが光った。
「郁子……?」
「へ? あ……あぁっ!」
 ぼくが股間を覗き込んでいることに気が付くと、郁子は慌ててそこを両手で隠した。
 しかしもう遅かった。郁子の脚が開いた瞬間―ぼくはもう、はっきりと見てしまったのだから。

271:月下奇人
08/04/16 10:05:16 IHnkP8PT
 郁子は両手を股間に差し入れ、腰をひねって横に向けている。
 ぼくはその腰をこちらに向かせ、性器に宛がわれている両手を、そっと外した。

 やはりそこは―大量の体液で濡れていた。

「あぁ……」
 ぼくに両手を押さえつけられた郁子は、全身の力が抜けてしまった様子でぐったりと動かない。
 僅かに広げられた脚もそのままで、自ら閉ざそうとはしなかった。
「郁……」

 ぼくは躰中の血がカアッと熱くなるのを感じた。
 何か言おうと思ったのだが言葉が出ずに、ただ、咽喉の奥で密かに呻いた。
 そして、震える指先を彼女に伸ばし―すべすべとした内腿を掴んで、ぐっと広げた。

 大きく開かれた股の中心部には、濃い桃色の裂け目が見える。
 薄い恥毛に縁取られたそこは、何かを求めるように半開きになっていて―。
 柔らかそうな粘膜部分が、振り零した愛液できらきらと光って―。

「あっやだ……駄目っ! だめぇ……」
 気付くとぼくは、郁子のその、一番大切な部分に口づけていた。
 それはほとんど衝動的な行為だった。
 女の子の躰にここまでするのは、はっきり言って初めての経験だ。
 ――ああ、なんかすげえ……。
 汗にも似たしょっぱさと僅かな酸味。
 そして周囲の花の香に負けないほど強い女の芳香が、ぼくの感覚を支配する。

 ぼくは、ぼくの舌は、郁子の溶け崩れた裂け目に割り込んで、掻きまわしていた。
 ぐりぐりと抉り、しゃくって、ぬたりと這い廻る。
「やっ、はっ、あ……はあぅっ……く」
 郁子の腰が蠢いて、途切れ途切れに声が漏れる。
 ぼくが舌を動かす毎に、熱を持った郁子の入口は小刻みに震え、自発的な痙攣を繰り返した。
 溢れる蜜は止まる処を知らず、ぼくの唇から、顎から、頬に至るまでもべとべとに濡らす。

「あ……ふう……んっ」
 郁子の腰が、大きく跳ねた。ぼくの鼻先がクリトリスに当たったからだ。
 小豆大のクリトリスは真っ赤に膨らんで、彼女の呼吸に合わせてぴくぴくと蠢いている。
 何とも言えず、物欲しそうなその動き―。

 ぼくは、こりこりと弾力のある小さな肉芽を唇で挟み、強く吸い上げた。
「あ、あ、あ!」
 郁子の腿が、ぼくの両耳を挟んで締め付けてくる。
 熱い粘膜と柔肌に包まれてぼくは―ぼくは―。

「ぶはぁっ!」
 ぼくは窒息しそうになって郁子の股間から起き上がった。
「あ……ごめ……苦しかっ、た……?」
 まるで別人のように掠れてしまった郁子の声。
 ぼくは「平気」と返し、半開きの唇にキスをした。
「うえ……変な味がする……」
「郁子の味だよ」
 郁子は「キモい」と言って笑った。

 それからぼくらは、どちらからともなく抱き合った。
 肌と肌とを合わせ、しなやかな躰を抱き締めながら肩に巻きつく細い腕を感じていると、
かつてないほどの多幸感が胸に満ち溢れてくる。

272:月下奇人
08/04/16 10:05:45 IHnkP8PT
 もう痣に対する恐怖心なんか、ぼくの念頭からは消え去っていた。

「郁子……いい?」
 ぼくは、郁子の耳元に囁きかけた。
 郁子は、ぼくの肩にぎゅっとしがみ付いて、頷いた。

 ぼくは郁子と抱き合ったまま、傍らで花に埋もれたジーンズを引き寄せ、ポケットを探った。
 小さなプラスチックの包みを取り出す。
 その中身は、一見リングのようにまとまった極薄のゴム袋だ。
 包装を開けて、輪の端を持ってペニスの先に宛がう。
 後はこれを巻き上げれば―と思ったら表裏を間違えていた。

 片手でごそごそやってるぼくの下で、郁子は何となく気まずそうに顔を逸らしている。
 ――段取り悪くて、萎えちゃったのかな?
 なんとか装着を終えて郁子の顔を覗き込む。すると郁子は、両手で顔を覆ってしまった。

「どうしたの?」
「……」
 郁子は黙って首を振る。そして―膝を立て、半ば開いていた脚を更に少し開いた。

 赤い花の中で、郁子の白い肌が、何故かぼんやり滲んで見える。
 郁子……緊張してるんだな。唐突に、そんな考えが浮かぶ。

 特別な能力を持つ故に人との関わりを避けてきた郁子は、
これまで、男性と深い関係を持つことなど無かったに違いない。
 寂しかっただろうな、と思う。
 でもそれは、ぼくに取って有難いことでもある。

「郁子……」
 ぼくは花の上に腕を突き、開かれた脚の間に割り込んだ。
 心なしか郁子の躰が硬くなった気がする―やはり、緊張しているんだろう。

「そおっと、ね?」
 郁子は顔を覆った手をずらし、ちらっとぼくを見上げた。
「……大丈夫だよ」
 彼女の緊張感を少しでも解いてやるために、ぼくは言う。
 そして躰を落とし、肘を突いて腰をさらに割り入れた。
 片手で勃起したものを持ち添え、郁子の熱く濡れた部分に宛がうと―。

「あ……」
 郁子の微かな声。同時に、ねっとりとぬめる粘膜も小さく震えた気がした。
 ――焦るな。少しずつ少しずつ。
 自分自身に言い聞かせながら、ぼくは腰を押し進め、郁子の初めての場所に這入り込もうとする。
 さすがに、きつい。
 郁子が大きく脚を開き、微動だにせずぼくを受け入れようとしてくれているのにも関わらず、
その部分は硬く強張り、亀頭さえも軋んで入らない。

 とろとろにぬかるんで欲しがっている様子を見せながら、
その一方でぼくの侵入を頑なに拒んでいるようでもある。それはとても矛盾した感触だ。

 ぼくは腹の底から息を吐くと、ペニスを持つ手に力を入れ、
閉ざされた部分にねじ込む感じで突き進もうと試みた。
 すると郁子は顔を半分隠したまま、苦しそうに呻いた。
「うぅ……ちょっ、ちょっときつい……かも」
「ご、ごめん……」
「んーん、大、丈……夫」

273:月下奇人
08/04/16 10:06:20 IHnkP8PT
 郁子は顔を覆っていた手を外した。
 そのまま両手をぼくの腕に添えて、眼を閉じる。
「大丈夫、だから……ね?」
 弱々しいながらも、強い決意を感じさせる確かな口調。

 それは、ぼくの決意を促す声でもあった。

「判った。じゃあ……いくぞ」
 ぼくは喘ぐように言い放って、腰を据え直した。
 柔らかな陰唇の奥、小さく締まった膣の入口に亀頭の先を嵌め込めるだけ嵌め込んで、
郁子の腰に腕を廻す。
 郁子の腕は、ぼくの背中に廻った。
 互いの躰を絡ませあいながら、ぼくらは熱い吐息を交換する。
 郁子の額に浮かぶ汗の玉を見やりつつ―ぼくは、捏ねるような動きで腰をめり込ませていった。

「うっ……くうぅっ……!」
 郁子の白い歯が食いしばられる。
 ぼくの背中を抱き締める指先が、何かを訴え掛けるように皮膚を掻きむしるようになった頃、
ぼくは、ぼくの男の部分は、郁子の中に、完全に埋没していた。

 ぼくらは、揃って声を上げた。

 狭い肉の入口をずるずると掻き分け、ついに到達した郁子の躰の最深部。
 そこは、ぼくのものを狂おしいほどに甘く噛み締め、ぼくを、めくるめく恍惚感にいざなう。
 全ての肉襞が、ひくひくと吸い付くように纏わりついて、ぼくは、ぼくは―。

「はぁ、はぁ……は、入った、の?」
 郁子の上ずった声が訊ねてくる。
 ぼくは郁子の首筋に顔を埋め、身動きひとつせずにその胎内の感触に酔い痴れながら、
「……入った」
 とだけ答えた。

 郁子の躰は、信じられないほどに素晴しいものだった。
 単に気持ちがいいだけではない。
 まるで母なる海の如く温かい。優しい感覚は、ぼくの全てを包み込んでしまうようで―。
 きっとこれは、郁子の気性その物なのだと思った。
 勝気で、少々意固地な風にも感じられる普段の郁子。
 でもそんなうわべの殻の下に、彼女はいつでも、包容力に満ちた優しい心を隠しているんだ。

 郁子の腕が、ぼくの背を撫ぜた。
「守……」
「郁子……」
 ぼくらの顔が、至近で向き合う。
 ぼくらは、そのままキスをした。

「郁子……痛い?」
「うん平気……ちょっとだけ、きついけど」
「きつい? じゃあ、まだ暫く動かない方がいいのかな……郁子?」
 突然、郁子は涙を流し始めた。
 微かに顔を歪め、真珠のような涙をぽろぽろとこめかみに落としている。
「そ、そんなに痛い?!」
 ぼくは焦った。ここはひとまず、引くべきなんだろうか?

 しかし郁子は大きく首を振ってしがみ付いてきた。
「違うの」
 ぼくの胸元に頬をすり寄せて呟く。
「違うの……私……わたし……」

274:月下奇人
08/04/16 10:07:04 IHnkP8PT
 郁子は、ぼくの胸の中でむせび泣いていた。
 彼女の嗚咽を、熱い涙を肌で感じているうちに、ぼくの胸にもなんだか熱いものが込み上げてきた。

 ぼくは、郁子の躰をぎゅっと抱き締めた。
「守……私、私達、本当に……これ、夢じゃないんだよね?」
「ああ……本当だよ。おれ達は、本当に……」
 それだけ言うのがやっとだった。
 感情が昂ぶって胸が張り裂けそうになるのを堪えながら、ぼくは郁子の髪の毛に口づける。

 そしてゆっくりと躰を蠢かせ、彼女の膣を突き上げ始めた。
「あぁ……うあぁ……」
 ぼくが動き出した途端、郁子の膣口は緊張したようにきゅうっと引き絞られた。
 膣全体も、上下からぼくのものを挟み込んで押し潰さんばかりにきつくなる。
「ううぅ」
 こんなにされたら―堪らない。ぼくは、我を忘れてうっとりと呻いてしまう。

 どうしようもない衝動につき動かされたぼくは、腰の動きを段々と大きく、激しくしていった。
「はっ、はっ、はあっ、いっ、郁子っ……郁子おっ!」
「あっ、ああっ、まも……くあっ、や、ああ……あああっ」
 ぼくに揺さぶられる毎に、郁子の唇からは苦痛とも快楽ともつかない喘ぎ声が零れ出た。

 ――もう少し、セーブしないと……。
 郁子は、初めてなんだ。
 あんまり激しいのは、きっと辛いに違いない。
 重々承知はしていた。
 承知していながらもなお、ぼくは強く、素早い動きで郁子の躰に抜き挿しを繰り返していた。
 興奮のあまり、抑えが利かなくなってしまっているのだ。

 自分勝手な欲望に翻弄されつつあるぼくの下で、郁子は堅く眼を閉じ、
文句ひとつ言わずにこの仕打ちを耐え忍んでいる。
 額を、全身をじっとりと汗で湿らせ、半ば開いたままの唇からは乱れた呼吸に混じり、
絶え入るような悶え泣きの声を漏らし続けていた。
「ああ……あっ、ああ……守……守うっ!」

 郁子の腕が、ぼくの頭をくるんで引き寄せる。
 輝かんばかりに白く膨れ上がっている乳房に、顔を押し付けられた。
 柔らかで張りのあるその感触。むせ返りそうなほどの郁子の匂い。
 繋がりあった部分からは、濡れた粘膜の擦れあう音がくちゃくちゃくちゃくちゃ、
ヒワイでいやらしい音色を奏でている。
 郁子の中の熱い、蕩けそうにしこった気持ちのいい粘膜が、堪らない。ああ。たまらない。

「あー、郁子……もうだめだ……あー、もう、やばい……」
「守ぅ……ああん、あぁ……なんか、変だよぉ……」

 激情に駆られたぼくらは、意味不明な言葉でもって互いの感覚を訴え合っていた。
 なんという甘い慟哭だろう。
 郁子の鼓動にうずもれ、そのひくひくとわなないている肉の中でぼくは、
頭の髄が白く焼き切れそうなほどの恍惚感に引き込まれる。

 ああ、郁子の奥から熱いしたたりが溢れ出して―。
 洪水のように。ぼくのものを打ちつけて―とろりと包み込んで――。

「うぅ……郁、子……っ」

 ぼくは、弾けた。

275:月下奇人
08/04/16 10:07:33 IHnkP8PT
 どくん。と震えるのと同時に、止め処もない快楽が、後から後からほとばしり出た。
 陶酔に意識の全てを持っていかれそうになって、ぼくは思わず、郁子の腰にしがみつく。

「はあっ……」
 ぼくが絶頂を迎える一方で、郁子の平らな腹部は、呼吸と共に大きくうねった。
 根元の辺りを中心に、繊細な筋肉がぴくぴくと蠢いている気がした。
 そして。

「あぁ、はあぁぁ……あぁあ……あぁ、ああぁ……」

 郁子の肢体が、小刻みな痙攣を起こしていた。
 ぼくの頭をいだく腕に力が篭り、足先は真っ直ぐに伸ばされているようだ。
 痙攣はやがて狂おしい震動となり、全身を、抱えたぼくの頭ごとびくんびくんと揺るがした。
「あぁ……あぁ……あぁ……」


 郁子の蠢きは徐々に収まり、その手足からがっくりと力が抜け落ちた。
 その後はただ静寂。
 互いの息遣いと、耳の奥でどくんどくんと血潮が波打つ音だけを聞きながら、
ぼくらは崩れるように弛緩して、重なり合うのみだった。


 思い出したように鼻腔が捉えた花の香りが、セックスの余韻と融けあい、
赤い微睡みが、ぼくらをゆったりと引き込んでいった―。




「……中二の頃、クラスでイジメがあったんだ」

 一刻の微睡みのあと、ぼくと郁子は並んで寝転んでいた。
 二人して仰向けになり、洞穴の果てしなく高い天井を見上げていた。

 洞の天井は、その高さのせいか赤い闇に沈んでしまい、はっきりとは見通せない。
 あの屋敷の地下にこれほど深く広大な洞穴が広がっていたなんて、全く信じがたいことだ。

 この不思議な赤い空間の中、いつしかぼくは、ぽつりぽつりと問わず語りを始めていた。

「虐められてたのは、池田麻衣という女の子だった。
 大人しくて……ごく普通の子だったんだけど、学校ではいつも孤立していた。
 いつも無視されて、陰でこっそり“化け物”なんて言われたりして……」
「なんか私みたい」
「……おれは、自分のクラスでそういうことが起こっているのが嫌だった。
 イジメなんて、卑劣なみっともない行為だと思ったし……
 はっきり言って、そんなことしてるクラスの連中に心底ムカついたよ。
 しかもさ……そのイジメの理由ってのが、本当にくだらないことなんだ」
「どんな理由?」
「彼女の胸にある痣がその理由だったんだよ」
「……」

 天井を向いたまま話すぼくの片頬に、郁子の視線が注がれる。
 ぼくは、構わず喋り続けた。

「彼女の胸には、まるで人の眼みたいに見える赤い痣があったんだそうだ。
 それが原因で、彼女は小学校の頃からずっと虐められ続けていたんだ。
 そんな、本人が悪い訳でもない身体的特徴を理由にイジメをするなんて……
 許せないと思った。だから……」

276:月下奇人
08/04/16 10:08:03 IHnkP8PT
「だから?」

「……少なくとも、おれだけは彼女と普通に接することにしたんだ。
 出来るだけ彼女が孤立しないように進んで話しかけたし、
 学校行事の時、彼女があぶれている時にはおれのグループに入れてあげた」
「偉いじゃん。守って、学級委員タイプだったの?」
「そんなんじゃねえよ……ただ、おれって昔っからオタクだったからさ。変わり者で通ってたし。
 そういうことしても、あいつ変わってるからな。で済まされるから、やり易かったんだ。
 それで暫く経つと、ほとんど口利かなかった彼女も、段々と心を開いてくれるようになってさ」

「ねえ守」
 郁子はごろんと寝返りをうち、うつ伏せになって半身を起こした。
「守って、その子のことが好きだったの?」
「……いや。それは、違うんだ」
 ぼくは、複雑な心境で郁子に眼をやる。
 頬杖をついてぼくを見下ろす郁子の、肩甲骨から急勾配を描いて落ちる背中のライン、
そして、そこからまた一気に盛り上がる見事なヒップラインを一瞬で確認して、再び語り始めた。

「おれ……本当に、ただイジメが許せなかっただけだったんだよ。
 池田さん自身にはそれほど興味がなかった……。
 もっと正直にいうと、女の子としてはどっちかっていうとあまりタイプではなかった。
 なのにおれは、学校では彼女と親しく付き合っていた」
「……」
「池田さんは、日に日に明るい子になっていった。
 イジメが完全になくなった訳ではなかったんだけどね。
 少なくとも、彼女に聞こえよがしに悪口をいうようなことは無くなったし、
 おれの仲間内では、彼女は居てもいい存在になっていた。
 ……そんなある日のことだったんだ。あの事件が起こったのは」

 ぼくは、一旦ため息をついた。
 この話を人にするのは初めてのことだ。気が重い。ぼくの心に、未だ根深く残された傷跡。悔恨。
 でもぼくは―言わなくちゃいけないんだ。

「あの日……近くに温水プールが出来たから、みんなで行こうって話をしていたんだ。
 それで、仲間内にいた女子が、じゃあ池田さんも誘おうかって言いだした。
 初めてのことだったよ。クラスで、おれ以外の人間が彼女を進んで受け入れようとするのは。
 あの時おれは……素直に喜ぶべきだったんだ。
 それは、彼女が特別な存在でなくなりつつある兆候だったのだから。なのにおれは……」
「守は……どうしたの?」
「……おれは、怒鳴りつけた」
「誰を?」
「その、池田さんをプールに誘おうって言った女子をだよ。
 痣のある池田さんを、水着になんかさせたら可哀想じゃないか! ……ってね」

 郁子の表情が曇った。
 その気持ちは判る。ぼくももう中学生ではないから。

「池田さんは、おれがそう言ったのをどこかで聞いていたらしいんだ。
 で、その日の内に彼女、自宅のベランダから身を投げた」
「…………!」
「……幸い、命に別状はなかった。でも、おれのせいで心に深い傷を負っているのは、間違いなかった。
 彼女、飛び降りる前におれ宛の遺書を残してたんだよ。
 おれに痣のことを言われたのが、ショックだったって。そう書いてあった」

 ぼくは、両手で顔を覆った。
 泣きはしないが、泣きたい気分だ。
 郁子はそんなぼくの頭に手を伸ばし、髪の毛を優しく指で梳いてくれた。

277:月下奇人
08/04/16 10:18:46 yfQs0/cN
「守は……なんにも悪くなんかないよ」
 暫しの間を置いて、郁子は言った。
「そりゃあ、ちょっとデリカシー足りない台詞だとは思うけどさ。
 別に悪気があってのことじゃないんだし。その池田って子が勝手に」
「いや……違うんだ」
 ぼくは、顔を覆ったままで続ける。

「おれさ……その事件のせいで……気付いちまったんだよ。自分の中の欺瞞に」
「欺瞞?」
「そう欺瞞。結局おれがしてたことって、ただの自己満足に過ぎなかったんだ。
 おれはただ……自分が他の奴らとは違う、立派な人間だって思いたかっただけだったんだよ。
 その為だけに……別に好きでもない子と仲良くして……優しいそぶりを見せて……。
 何もかも、おれ自身の満足のためだけの行動だった。
 池田さんの気持ちなんて、実際は何も考えていなかった」
「…………」

「おれが無神経に発した一言は、その事実を端的に表していた。浅はかなおれの本心をね……」
 ぼくは顔を覆っていた手を外して郁子を見上げた。
 そんなぼくを郁子は、微かに眉をひそめて無言で見つめるだけだった。

「それから……池田さんは退院と同時にどこかへ転校していった。
 意外なことに、この件でおれを責める人は誰一人として居なかった。
 クラスメイトも、先生をはじめとした周りの大人たちも、おれを不幸な被害者として扱った。
 日頃、何くれとなくイジメから庇ってきた一樹を、名指しで非難する遺書を書くなんてあんまりだ。
 そんな風に、むしろ池田さんの方が悪いように言う者さえいた。
 でもそれは、おれにとってなんの救いにも慰めにもならなかった。
 おれは虚しかった。
 結局おれは、池田さんを本当の意味で救うことができなかったばかりか、
 彼女にさらに深い傷を負わせてしまっただけだった。
 周りが池田さんを非難するたびに、おれはその事実を再確認するばかりだった……」

 あの日以来―七年もの間、胸の奥底にしまい込んできた辛い思い出。
 ぼくはついに吐き出した。
 最愛の人の前で。想いを遂げたばかりの、恋人の前で。

「軽蔑する?」
 ぼくの問いかけに、郁子は黙って首を振る。その表情には、微かな困惑の色が見て取れた。
 そりゃあ、いきなりこんな話を聞かされたら、誰だって困るだろうなあとは思う。
 少なくとも、初エッチ直後のピロートークの話題として相応しくないのは確実だろう。

 だけど――。

「つまり……こういうこと? 守は、池田さんを救うことが出来なかったから、代わりに私を……
 池田さんと同じように痣があって、池田さんと同じように独りぼっちの私を救いたかった。
 だから私を……こういう風にしてくれたの……?」
「いや、それは違う!」
 ぼくは思わず飛び起きた。
 びっくりして眼を丸くしている郁子に向き直り、ぼくは言葉を継いだ。
「おれはさ、ただ……後悔したくなかっただけなんだ」

 中二の頃のぼくは幼すぎて、自分のことだけで―自分を守ることだけで、手一杯だった。
 あの時、自殺未遂を図った池田さんの身を本当に案じるのであれば、
もっと出来ることはあったはずなのだ。
 それまでに積み重ねてしまった様々な誤解を解く為にも、
彼女とは直接会ってきちんと話し合うべきだった。

278:月下奇人
08/04/16 10:19:25 yfQs0/cN
 なのにぼくは、何もしなかった。
 池田さんに会って、直に責められるのが怖かったからだ。

 要するに、逃げたってことだ。

 怖いこと、煩わしいことから逃げたのだという認識は、
自分で自分のプライドを傷つける結果となった。
 自責の念は永きに渡って心を支配し続け、ぼくの少年時代に暗い影を落とした。
 もう二度と、あんな思いはしたくない。

 だから。

「おれは、諦めたくなかったんだよ……郁子のこと」
 郁子は、澄んだ瞳を見開いてぼくを見上げている。ぼくはその瞳を真っ直ぐに見返した。
「かつてのおれは、池田さんとのコミュニケーションを中途半端なまま諦めてしまった。
 おれはそのことで、ずっと苦しんできたんだ。もう二度と、同じ過ちは繰り返したくなかった。
 もう二度と……お互いに誤解しあったまま、関係を断ち切られてしまうようなことは……」

「でもさ……」
 ふいに郁子が口を挟んだ。
「私は、守にそんな風に想ってもらえてすごい嬉しい。けど守は……本当に、いいの?
 わ、私なんかで、さ……。私、普通の女の子じゃないんだよ?
 人の心を読む能力を持ってるなんて。気持ち悪いでしょう……?」
「そんなことないよ」
「嘘!」
 
 ぼくの否定に、郁子は声を荒げた。
「守だって本当は、嫌なんじゃないの?!
 嫌だったから……夜見島で、私が最初にちからのことを言った時、手を離したんでしょう?!」
「……」
「隠さなくたっていいよ。誰だって、自分の心を読まれるのなんて嫌に決まってるし。
 そんなちからを持ってる奴を避けたいって思うの、当たり前なんだから……」
 郁子はそう言うと寝返りを打ち、恥じ入るように背中を向けた。
 ぼくは郁子のお尻のえくぼに眼をやりつつ、小さく咳払いをした。

「あの時のあれは、違うんだよ。つまり……ああ、あれだ」
 ぼくは3年前、アトランティス編集部にバイトとして入ったばかりの頃にあったことを話した。
 その時ぼくは、ある遺跡の取材に同行していた。
 写真撮影のための機材の持ち運び等、雑用中の雑用をこなしていた訳だが、
 その取材中、ぼくらを制して、先に遺跡に入り込もうとしてきた男がいた。
 先輩に命じられてぼくは、その男を引き止めた。
 だが振り返った男の顔を見て、ぼくは思わず手を離してしまったのだ。

「……その人は、竹内多聞という有名な民俗学者だったんだ。
 おれ、竹内先生のことすごく尊敬してたからさ、ちょっと、ビビり入っちゃって」
「……はあ」

 郁子は話の途中から身を起こし、ぼくの前に向き直っていた。
「それってつまり、どういうこと?」
「いや、だからね」
 ぼくは人差し指を立てて、きょとんとした表情の郁子に説明を試みる。
「つまり……そういうことなんだよ」
「説明になってないじゃん! 全然判んないよ! その竹内先生の話が、私と何の関係があるのよ?!」
「ええとその、要するに、だ」
 ぼくは段々、気恥ずかしくなってくる。
「あの時……郁子が夜見島で、特殊能力について話してくれた時、おれ、思っちゃったんだよね……
 その、かっこいい……ってさ」

279:月下奇人
08/04/16 10:19:55 yfQs0/cN
「はあ?!」

 そうだったのだ。
 郁子は夜見島で、敵の動きを止めたり、敵の意識を乗っ取って自在に操ったりしていた。
 人知を超えたそのちから―まるで、SF小説のヒロインのような彼女。
 彼女自身がその能力ゆえに苦悩している姿もまた、ドラマチックでグッと来た。
 S・キングのキャリー、ファイアスターター。筒井康隆の七瀬三部作。柴田昌弘の赤い牙シリーズ。
 ぼくは郁子を、そういった作品群の超能力少女達と、重ね合わせたイメージで捉えてしまっていた。

―こんなことを言うと郁子にキレられるような気がして、ずっと言えずにいたのだ。

「かっこいいって……何それ?
 守は私のこと、アニメのヒロインか何かみたいに思って見てたってこと?!」
「いや、そこまで腐った眼で見てた訳では……でもまあ、近いものはあるかな……」
「あんたって人はほんと……馬っ鹿じゃないの?! この、オタク編集者!」
 郁子はぼくに思いっきり顔を突きつけて、罵声を浴びせかけた。
 ……そら見たことか。
 やっぱり怒られたぼくは、しゅんと肩を落としてしまう。

「だってさ……思っちゃったんだから、しょうがないじゃないか」
 ぼくは半ばヤケクソになり、上目遣いで郁子に反論した。
「何がいけないっていうんだよ。
 だいたい超能力なんて、もろにオタク心をくすぐるアビリティーを取得してる人間に対して、
 憧れや畏怖の念を抱くなと言う方が無理ってもんだ。そこは理解してくれよ。
 そういった個性を持って生まれてしまった者の宿命だと思って、諦めてくれ」

「個性?」
 ぼくの言葉を、郁子は意外だと言わんばかりに聞き返す。だからぼくは言ってやった。
「そう、個性。そして、木船郁子という女の子を構成するひとつの要素だ。
 郁子は生まれ持った超能力のせいで、これまでに色々辛い思いをしてきたのかも知れない。
 だけど、そういったマイナスの部分とかも全部ひっくるめて、今の郁子があるんだと思う。
 そして、そんな郁子のことを、おれは……」
「守……」

 郁子の超能力が闇の因子に因るものならば、それは忌まわしい力というべきなのかも知れない。
 だがしかし、それがいったいなんだというのか。

 郁子は、郁子だ。

 心が闇に囚われない限り、郁子は、ぼくと共に光の下で生きていけるはずだ。
 ぼくがきっと―そうさせて見せる。
 いつも郁子のそばに居て、郁子を見守る。
 そして、郁子の全てを愛し抜く。郁子の中の闇の因子をも含めた、全てを―。

「そうだ。超能力だけじゃない。これだって」
「あんっ」
 郁子の甘い声。ぼくは、郁子の乳首の周りをそっと指でなぞっていた。
 正確には―乳首を取り囲む痣をなぞっていた訳だが。

「郁子はさ……これが気になってたから、今まで彼氏つくんなかったんだろ?
 そのおかげでおれは、郁子の初めての相手になれたんだ。だから……」
「だ、だから?」
「だから、えっと……これは、あってよかったものなんだよ」
「あ……あぁんっ」

 流れで痣に―というか乳首に口づけると、郁子は身を仰け反らせて喘いだ。
 アバタもエクボ、なんていうけれど、確かにぼくはすでにこの痣の存在に慣れてしまい、
完全に彼女の躰の一部として受け入れていた。
 この痣はもはや、郁子の豊かなヒップと同じ、彼女の魅力的な個性のひとつに過ぎなかった。

280:月下奇人
08/04/16 10:20:33 yfQs0/cN
「郁子? どうかした?」
 郁子の眼に、なぜか涙が浮かんでいるようだったのでぼくは訊ねた。
 彼女は「何でもない」と言って指先で目じりを拭う。
「何でもないことないだろ? 言えよ。おれ達の間で、今さら隠し事なんて」
「ほんとに何でもないったら……守が変なことするから、ちょっと変な感じになっちゃっただけ」
「変なことって……これ?」
「あんっ、やぁん……」

 乳首をちゅっと吸い上げてやると、郁子はびくんと肩を震わせた。
 更に舌先を高速で上下させて、口の中の乳首をぷるぷると弾く。
「あはぁあ……」
 郁子は、喘ぐような息をはいて仰向けに倒れてしまった。

「ま……守ぅ……」
 倒れる郁子を追って上から覆い被さったぼくの頭を、郁子は再び掻い込んだ。

 ――こりゃあ……二回戦開始か?
 躰のもやもやがぶり返している。きっと郁子もそうなのだろう。
 ぼくは郁子の乳を吸う一方で、背中の方に腕を廻し、その下のお尻の膨らみを撫で廻した。
 あああ、この弾力とボリューム。
 やっぱ今度は、バックからがいいなあ。このお尻を鷲掴みにしながら―。
 でも、二回目でいきなりそんな要求をしたら引くだろうか?

 てなことに思いを巡らせているぼくの下で、ふいに郁子は身を固くした。
 ぼくの愛撫に応えてくねくねと身をくねらせていたのが、ピタリと止まる。
 何だ? ……ひょっとして、ぼくの心を読んだとか?

「……柳子」
「え?」
「柳子が、何か言ってる」

 郁子はぼくの腹の下からするりと抜け出ると、素早く立ち上がって中空を仰いだ。
「どうしたんだ?」
「しっ! ……待って。 ……何? いったい何をそんなに……」
 郁子はぼくに背を向け、彼女にしか聞こえない柳子の声に耳を傾けているようだった。
 夜見島で幻視能力を使った時と同じく、胸の前で手を組んだ格好で意識を集中させていたが―。

「ええっ?! そんな……」
 白い背筋がぴくんと伸びた。
 何を聞いたんだろう? そう思う間もなく、郁子はぼくに振り返った。
「守、大変! 急がないと……ここから出られなくなっちゃうって!」
「ええっ?! ……なんだって?!」


 郁子が聞いた柳子の言によると―
地下のボイラーが負担に耐え切れずに爆発し、それが原因で屋敷が火事になってしまったのだという。
「早くしないと! 此処の出口はあの開かずの間しかないの!
 あそこが塞がっちゃったりしたら……!」
「判った、急ごう!」

 ぼくらは即行で衣服を身に付けると、錆びた鉄階段を上り始めた。
「郁子、大丈夫か?!」
「う、うん、ごめん。早く動けなくって……」
 郁子は、普段の半分くらいの歩幅でしか進めないでいた。

281:月下奇人
08/04/16 10:21:06 yfQs0/cN
 無理もない。なにしろあんなに激しい初体験の直後だ。まだ、傷が痛んでいるのだろう。
「よし、こうしよう」
 ぼくは、郁子の背中と膝の裏に腕を廻し、横抱きにかかえ上げた。
 いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。

「ちょ、まも……うわぁ!」
「しっかり掴まってろよ!」
 ぼくは郁子を抱いたまま、猛スピードで階段を駆け上がり始めた。
 そのまま一気に地上へ―といきたい処ではあったが、
お姫様抱っこをしたままはしごは登れないので、そこはやむなく郁子を下ろし、
自分で登って貰う事にした。

「守……なんか、すでに焦げ臭くない?」
 はしごの途中で郁子が言った。
 彼女の言うとおりだった。
 郁子よりも先にはしごを登っているぼくは、その不吉な臭いをよりいっそう強く感じている。
(まずいな……もしもすでに火が二階にまで廻っていたら……脱出が困難になってしまうぞ)

 不安な思いを胸に、ぼくらは開かずの間にたどり着いた。
 着いたのはいいが……。
「ごほっ……ひどい煙!」
 開かずの間には、黒い煙が充満していた。息苦しいし、眼に沁みて涙が出てくる。
「……あんまり煙を吸うと、一酸化炭素中毒になってしまう!
 なるべく息を止めて、躰を低くして進むんだ!」

 ぼくらは、身を屈めて部屋を出た。廊下を進み、ホールの階段の処まで這うように進む。
(ホールに降りられれば、出口はすぐ眼の前だ!)
 ぼくは郁子を庇いつつ階段に近付いた。

 階段からホールにかけての空間は、火の海と化していた。
 オレンジ色の炎は古い木材を舐めるように這い廻り、耐えがたい熱気と共に、
全てを焼き尽くそうとしていた。
「……行くしかない! 覚悟はいいか?!」
「平気よ。守と一緒なら」
 ぼくらは一瞬見つめ合う。そして、短いキスをした。
 ほんの一瞬―だけど、強く確かなキス。

 ぼくは郁子の肩を腕で覆い、燃える階段を一気に駆け下りた。
 下りた途端に、階段は燃え落ちた。
 火勢はますます激しい。
 建物はあちこち崩れ、屋敷のその威容は、もはや見る影もない。
 炎と煙にまかれ、ぼくらは、行くべき方向を見失いかける。
 その時、真横でぱん! という破裂音が響いた。
 なんという僥倖。あの巨大水槽が割れて、眼の前の炎を少しだけ消したのだ。

「……あっちだ!」
 僅かな活路を見逃さず、ぼくらは炎の中を駆け抜け、玄関の扉に喰らいついた。
 これでいい。これで、助かる―。

 これで助かる――はずだった。

 が。

「…………開かない!」
 観音開きの大扉は、押しても引いてもびくともしなかった。
 もう、後がない!
 ぼくはパニックを起こしそうになりながら、死に物狂いで扉に体当たりをかます。

282:月下奇人
08/04/16 10:21:46 yfQs0/cN
 だが、郁子も一緒になって体当たりしているにも関わらず、扉は、全く開く気配がなかった。
 ――くそ! もう、これまでか……!
 絶望の中、ぼくらは虚しく扉にすがりついていた―。

   キィ……キィ……キィ…………。

 屋敷の燃える音に混じり、微かな車輪の音が聞こえた。
(……まさか)
 ぼくと郁子は振り返る。
 紅蓮の炎の中から黒いシルエットが現れた。郁子が呆然と呟く。
「……柳……子?」

 それは、ミイラと化した柳子を乗せた車椅子だった。
 車椅子は柳子を乗せたまま、扉に向かってまっしぐらに突進してくる。
 そしてぼくと郁子が見守る中、轟音と共に扉に激突した。

「柳子……!」
 郁子が叫ぶのと同時に、破壊された扉が熱風で吹き飛ばされた。
 破壊され、吹き飛ばされたのは扉だけではない。
 車椅子も―柳子の肉体も、衝撃で木っ端微塵に砕け散っていた。
「柳…………!」
 悲鳴を上げかけた郁子の躰を引きずって、ぼくは、取るもの取りあえず脱出する。

 ぼくらが扉から転がり出るのとほぼ同時に、屋敷の屋根が崩壊した。
 入口は落ちた柱に塞がれ、もう戻ることは出来ない。
「あああ……柳子、りゅうこおおおっ!!」
 恐慌をきたして泣き叫ぶ郁子の腕を強引に引っ張り、ぼくは走り出した。
 少しでも屋敷から離れなければ……。
 背後から、屋内に充満した有毒ガスが、屋敷のあちこちで小爆発を起こしている音が追ってくる。
 このままいくとやがて、屋敷が大爆発を起こすに違いない。
 萎れかけ、小さく縮こまっている月下奇人の花を踏み散らし、ぼくはただひたすらに走った。

 そして――。

 腹の底に響くほどの爆音と共に、一瞬、辺り一帯が昼間のような明るさに照らされた。
 吹き上げる爆風に躰が押され、ぼくらはひっくり返る。
 真っ白な衝撃。

 ――郁子!
 眼が眩み、視界が奪われた中で、ぼくは郁子の存在を捜した。

 郁子はぼくのすぐ近くに転がっていた。
 細い手首を探り、手の平から指の間に、指を滑らせる。
 ――もう二度と離さない。
 ぼくが郁子の手を握り締めると、郁子は微かな呻きと共に握り返してきた。
「守……」
「郁子、大丈夫か?」

 お互い、躰中煤だらけで一見酷い有様ではあったが、実際は軽い焼けどを負っているくらいで、
大したダメージは受けていないようだった。
「お屋敷は……?」
 郁子は起き上がって屋敷の方を見る。
 月下奇人の向こう側。屋敷は炎と黒煙に包まれ、完全に焼け崩れつつあった。


「柳子……」
 郁子はふらふらと屋敷の方へ歩いていく。

283:月下奇人
08/04/16 10:22:17 yfQs0/cN
「よせよ郁子! 危ないぞ!」
 ぼくは後ろから肩を掴んで引き止めた。
 郁子は虚ろな眼差しで、眼の前の見えない何かを捕まえようとするかの如く、
ゆらゆら手を振っている。
「ああ……消える……柳子が……柳子の魂が……」

 屋敷が崩壊したせいか。あるいは、本体であるミイラが破壊され、焼失してしまったせいなのか。
 郁子の半身は今、屋敷と共に天に召されようとしているらしい。
 ぼく達二人を結びつけ、そして、ぼく達二人の命を救ってくれた、優しい柳子―。

「ああっ……消えた! 柳子が、柳子が消えちゃったよぉ……」
 赤々と燃える屋敷を前に、郁子はがっくりと膝を落とした。
 そのまま地面にうずくまり、月下奇人に埋もれて泣き崩れてしまう。

 ぼくには為す術がなかった。
 郁子の横に座り込み、ただ、うずくまる彼女の背を撫でてあげるぐらいしか、出来ることはない。


 暗い空の片隅から、朝の気配が漂い始めていた。
 赤く咲き誇っていた月下奇人の花々は、その言い伝えのとおり、
朝日を見るまでもなく項垂れ、萎れ果てていた。

 いつしか郁子は、ぼくの膝にすがり付いて泣きじゃくっている。
 その背中を摩りながらぼくは、考えていた。
 夜が明けたら。
 陽が昇り、世界がきらめきを取り戻す頃には、郁子の涙雨もやむだろう。

 そうしたらぼくは、郁子に打ち明けようと思う。
 予定していた計画の最終事項。ぼくと、郁子の将来に先がけた第一段階への提案。

 ジーンズのポケットに手を入れる。
 そこには、郁子の為に新しく作った部屋の合鍵が入っている。
 ポケットの中、ぼくはそれを、強く握り締めた。

 ――ずっと傍に、居て欲しい。

 この一言を告げること。それが、今回の小旅行の目的であったのだ。


 燃えゆく屋敷に照らされながら、ぼくは郁子の泣き伏す姿を見下ろし続ける。
 かわいい郁子。かけがえのない恋人。
 彼女を、ずっとずっと守ってあげたい。ぼくに負けないくらいに彼女を愛していた、柳子の為にも。

 郁子の泣き声は、じょじょに小さく治まりつつあった。
 肩を震わせしゃくりあげる音だけが、余韻のように後を引いている。
 ぼくは顔を上げた。
 すでに空は白み始め、星々は、頼りなくその姿を隠そうとしていた。
 耳を澄ますと、どこからか鳥の声も聞こえる。

 ぼくは膝にすがる郁子をそのままに、空を仰いで寝転んだ。
 ゆっくりと瞼を閉じる。そして夜が明けるのを、密かに待った。

 【終】

284:名無しさん@ピンキー
08/04/17 11:06:24 mxvuNLoi
うーん、思わず読み耽ってしまった。
幸せな感じの話もいいね。


285:名無しさん@ピンキー
08/04/20 14:25:15 bobY+Nd4
新作が発表されたのになんなんだこの過疎は
皆屍人になってしまったか

286:名無しさん@ピンキー
08/04/20 15:57:05 xFHmOcto
新作発表されたな

287:名無しさん@ピンキー
08/04/21 00:06:29 0EMzy0O+
>>283
なんという神…

288:名無しさん@ピンキー
08/04/21 11:26:57 14vIZSNm
読み耽ってしまった
前半の盛り上げ方もいいな
超乙!

289:名無しさん@ピンキー
08/04/23 03:07:47 ZaZ27rP0
長かったけどいつの間にか読みきってしまった
GJ!

290:名無しさん@ピンキー
08/04/28 07:37:43 SeipULUx
保守

291:名無しさん@ピンキー
08/04/29 19:59:56 JlUGW461
保守

292:名無しさん@ピンキー
08/05/01 00:56:56 Q34PXr4s
まだ皆新作の攻略に手間取ってるようだな
俺?PS3なんて持って無いっすよ

293:名無しさん@ピンキー
08/05/01 10:01:25 LXoH6SHi
新作の攻略??もしかて2のこと?それともNew Translationのこと?
New Translationのことならまだ発売してないよ。

294:名無しさん@ピンキー
08/05/01 21:33:00 lSIh0zLT
NT体験版には手を出してないぜ。
7月に発売されたらPS3ごと買うつもりなんだぜ。

というかこのスレ的に問題なのは、NTにおいてエロが成立するかどうかだぜ。

295:名無しさん@ピンキー
08/05/01 22:42:52 5nJK3KYN
先代美耶子っぽい日本人いるからエロは成立しようと思えば成立すんじゃね?
需要があるかどうかは知らんが

296:名無しさん@ピンキー
08/05/01 22:54:20 LXoH6SHi
問題はSDKがでるかどうかだな。それより、容量的に次スレの季節だけど、どうする?

297:名無しさん@ピンキー
08/05/02 00:19:18 V0ckidkD
>>296
雑談がほぼ無きに等しい状態なので、次スレは落とすSSを用意した書き手が立てるのがいいと思う。
万一本人が立てられなければ、ここか、質問スレ辺りでスレ立て代行を頼むということで。

しかし次スレの終了条件2は『過疎』からの脱出。に変えた方がよさげだねえ……。

298:名無しさん@ピンキー
08/05/02 16:15:37 Gzrp9ivx
しかしこのスレは過疎すぎだ

299:名無しさん@ピンキー
08/05/03 00:57:59 2uo7qZOZ
過疎でも細々と続いているからには、一応需要はあるのだろう。

時にNTは、1を元にした全くの別物と思った方がよさそうだね。
その後の羽生蛇村でもなく、パラレルワールドでもなく。
病院は出ていても宮田医院じゃないそうだし、異聞との接点も無さそうだ。
外伝、というよりシリーズのアーカイブ的な存在なのかもしれん。

300:名無しさん@ピンキー
08/05/04 07:58:27 1z9tAamj
関連スレで言われてたがNTは外人向けにループを断ち切る終わり方になると予想してる
SDKは間違いなく出てくるだろ



ただ体験版遊んでみたが、ふりほどきの操作方法を従来に戻して欲しい…

301:名無しさん@ピンキー
08/05/04 16:45:34 sFbQNVKm
保守

302:名無しさん@ピンキー
08/05/05 10:16:45 Vec6UPZL
操作方法はあんまし変えないで欲しいよなあ・・・
ジャックしながら歩きというのも実際使えるのかどうか。

303:名無しさん@ピンキー
08/05/05 11:47:52 RMIkm/me
ツン子(*´Д`)ハァハァ

304:名無しさん@ピンキー
08/05/05 12:46:06 LaFe5Yaa
須田美弥の血の契約がエロだったらよかったのに(´・ε・`)

305:名無しさん@ピンキー
08/05/05 12:52:48 p2dhrodS
過疎ってる……のか?

306:名無しさん@ピンキー
08/05/06 18:52:29 qt+nI3Du
保守

307:名無しさん@ピンキー
08/05/07 05:51:49 aAOSv7Jt
保守

308:名無しさん@ピンキー
08/05/08 07:14:28 tnNZcpih
保守

309:名無しさん@ピンキー
08/05/09 07:53:47 T6cG+QWB
保守

310:名無しさん@ピンキー
08/05/10 19:40:11 SeAoN54X
保守

311:名無しさん@ピンキー
08/05/11 13:10:38 r5GUu/mr
保守

312:名無しさん@ピンキー
08/05/12 07:30:33 XHVk+LNl
保守

313:名無しさん@ピンキー
08/05/12 17:42:39 iLkVpHYY
ここのスレって雑談少ないな

314:名無しさん@ピンキー
08/05/12 21:13:30 XHVk+LNl
住人が少ないからでしょ

315:名無しさん@ピンキー
08/05/13 08:23:08 zWnVA7a9
保守

316:名無しさん@ピンキー
08/05/13 20:46:14 aEN5eMLy
NTに志村晃一と先代の美耶子が出てくるといいな

317:名無しさん@ピンキー
08/05/14 09:41:21 mAga50VT
保守

318:名無しさん@ピンキー
08/05/15 07:16:14 7Fm3Jo7x
よく考えたら、保守じゃなくてうめだね。

梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
楳梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅
梅梅梅梅梅梅梅梅梅梅

319:名無しさん@ピンキー
08/05/15 18:38:05 YPP71Nuw
パンツ予想
美耶子:純白のオパンティー、もしくは「パンツ…?何それ?」



320:名無しさん@ピンキー
08/05/15 18:49:19 ZjW8lucD
ともえたんが穿いてないのはガチだな

321:名無しさん@ピンキー
08/05/15 21:32:39 WELF9Gjm
ともえたんかわいいよともえたん

322:名無しさん@ピンキー
08/05/16 06:59:40 LUZ864Di
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー

323:名無しさん@ピンキー
08/05/16 16:37:48 KWnBQcIN
うんこうめー

324:名無しさん@ピンキー
08/05/17 15:54:49 FR13u4BF
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
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うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー


325:名無しさん@ピンキー
08/05/18 10:36:52 ytORWKYD
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
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326:名無しさん@ピンキー
08/05/19 07:53:23 BHvvaO8O
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
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うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー
うめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめーうめー





327:名無しさん@ピンキー
08/05/20 07:58:27 lZN7eqfU
サイレンのエロ絵ってなかなかないですよね。見てみたいけど

328:名無しさん@ピンキー
08/05/20 15:47:55 dBhTXILe
やおいなら山ほどありそうだけどね

329:名無しさん@ピンキー
08/05/21 05:54:58 6V+4AHps
ツン子かわいい

330:名無しさん@ピンキー
08/05/21 20:49:16 GRF3pV7k
美耶子の髪の毛の匂い予想
牛乳石鹸

331:名無しさん@ピンキー
08/05/21 21:35:31 6V+4AHps
ちょwww牛乳石鹸懐かしいwww

332:名無しさん@ピンキー
08/05/21 21:48:25 1khqEF5E
良い石鹸

時に美耶子にはSDKが鉄板ですか?

自分的には淳にいぢめられる美耶ちゃんも有りな気がするが

333:名無しさん@ピンキー
08/05/22 06:57:11 3hVpTrAY
ゲームの内容が内容だけに、暗めな内容の小説の投下が多いから、
コミカルな内容の小説の投下が多くなればいいな。



























次スレで……。

334:名無しさん@ピンキー
08/05/22 12:57:02 HFFFmW4G
次スレ立ててから埋めろよばか

335:名無しさん@ピンキー
08/05/22 17:48:56 bdaYVWOg
>>332 意外と美耶子とSDKのやつ無いからな。見たい。
    でも淳に虐められるのも良いかもしれない。

336:名無しさん@ピンキー
08/05/23 09:27:35 avM3rpXB
保守

337:名無しさん@ピンキー
08/05/24 14:57:31 RlUTemjR
>>335
須田美耶って少ないの?
ノーマルカップルでは一番人気かと思ってた。

338:名無しさん@ピンキー
08/05/24 20:44:12 HtCmmKX7
>>337 保管庫を見てごらん。あまりの少なさに絶望。

339:名無しさん@ピンキー
08/05/24 22:32:54 RlUTemjR
二つこっきりなのね(´・ω・`)
つーか恭也vs美耶知市子ってw
どんだけだwww

340:名無しさん@ピンキー
08/05/25 03:54:13 uaXnm/+2
自分は宮田の少なさに絶望した。

341:名無しさん@ピンキー
08/05/25 14:00:24 I3R8i+WY
牧野と八尾さんのエロさには勝てないのか


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