戦国BASARAでエロパロ 信者4人目at EROPARO
戦国BASARAでエロパロ 信者4人目 - 暇つぶし2ch916:うたかた【4/18】
08/08/13 23:00:01 33bSabfv
「頼む。只でさえ母ちゃんの言付け破って忍術教えちまったんだからさ。
 この上がさつな所が直らなかったら父ちゃんあの世で苦無の乱れ打ちだ」
つい懇願する口調になる。
佐助は気付かないが、それは女房を拝み倒した時と全く同じ口調だ。
そんな父親に冷たい一瞥くれただけで再び翠は外方を向いた。
「また女達を城から逃がすって。親父も警備に当たれって幸村様が言ってた」
「そうか。多分これで逃げる者は最後だろうな」
大坂城には二百人以上の娘が養女の名目で囚われていた。
彼女達は皆良家の子女ばかりで十二になると秀吉の閨に上がり妾となる。
その世話をする侍女達や下働きの者まで含めると女の数は相当なものだった。
「お前も行け。こんな負け戦に付き合う義理は無いぞ」
何度も佐助は促すが娘は頑として受け付けない。言外に父娘でと言っている。
佐助にとってそれは出来ない相談だった。
この戦は言わば天下獲りと言う国を挙げての乱痴気騒ぎの終点だ。
今までその祭の輪の中で踊り続けて来た大人が幕引をするべきで、
若い世代に背負わせる事は無い。
(やれやれ、本当に困った撥ねっ返りだ。頑固な所は一体誰に似たんだか……)
警備の合間、佐助は懐から取り出した玉簪を見詰めながら考えた。
娘の一度決めたら梃子でも動かない頑固さは父親譲りなのだが、
当の本人はてんで気付いていない。
その玉簪はどこにでもありふれた様な品だが、とても大切に佐助は扱う。
石に瑕は無いか暇さえあればしょっちゅう確かめた。
それほど大事な物なのに佐助は何処へでも玉簪を携えていく。
かつてこれを身に着けていた者の姿を重ねているかの様に、片時も離そうとしない。
(なぁ、お前はどう思う?)
朝日に照らされ玉簪の石が光った。
深い翠色を湛えた翡翠の玉を覗き込む佐助の目は、戦場に不釣合いな程穏やかだった。

917:うたかた【5/18】
08/08/13 23:05:03 33bSabfv
警備から戻ると既に幸村は馬上で手綱を握っていた。
出陣が迫っているのだ。
「おお、ご苦労だったな佐助。後の陽動は任せたぞ」
「征くのか旦那」
深刻な顔付きをした従者を幸村は一笑に付した。
「俺は武士だ。武士には武士の道がある。お前達忍に忍の道がある様にな」
道と言う言葉が佐助に重く伸し掛かる。
市井の道を選ばなければあいつは生きられたのではないか―佐助は今も悔やんでいた。
二十年近く経った今も、産まれたばかりの児を見て微笑んだまま逝った顔がちらつく事がある。
(赦してくれ。俺はお前の命を縮めただけだ)
女房の墓前に立つと佐助はいつもそう詫びた。
「若旦那は?」
重苦しいものを振り払う様に話題を変える。
「子供をこの陣には加えん。父として武士の生き様を見せるのみよ」
猪突猛進な熱血漢だった幸村は沈着な武士へと成長した。最早傅役の必要など微塵も無い。
幸村が少年の様な笑顔になった。
「さらばだ佐助。最後までお前には世話を掛けた。だが俺は戦馬鹿の方が性に合う」
佐助もいつもの困った様な諦めた様な笑顔になる。
「あばよ旦那。楽しかったぜ」
「―佐助ぇっ!!」
突然幸村の拳が佐助を襲った。
寸での所で佐助は拳を受け止める。
主従はニヤリと笑い合った。
「また、来世で会おうぞ」
「ああ」
幸村は手綱を廻らせ出陣を待つ兵達を激励した。
「豊臣の兵よ、これがこの国最後の大戦だ!これが武士の晴れ舞台だ!
 今こそ荒ぶる魂を以て己が力を存分に奮え!
 たとえ最後の一兵になろうとも徳川の眼に我等が旗印を焼き付けてやろう!
 ―征くぞ、日の本最強の古兵達よ」

918:うたかた【6/18】
08/08/13 23:10:02 33bSabfv
「始まったか」
青い鎧兜に身を包んだ隻眼の男が呟いた。
「左様で」
傍らには山寺から戻った小十郎が控えている。
「時に政宗様。今少し陣を前に出されては如何でしょう。
徳川殿の目が光っておりまする故」
それは暗に家康が抱える伊賀者達が自軍に忍び込んでいる事を指した。
恐らく将の働きを細大漏らさず報告する為であり、怠けていれば後で咎められるだろう。
「気にすんな小十郎。こっちは昨日散々痛い目見たんだぜ?
 今日は誰かに譲ってやらなきゃunfairnessってもんだ」
「ですが―」
カラカラと政宗は笑う。
「Ha!こんなつまんねぇ戦、高みの見物で充分さ。
 万が一徳川本陣の馬印が倒されたら動く。焦らず構えてろ」
最早小十郎は黙った。徳川の馬印が倒れるなど有り得ない。
それに昨日の戦で著しい損害を受けた自軍を徒に動かす訳には行かなかった。
政宗も本当は戦いたくてうずうずしているが、これ以上損害を被らぬ為に自重していた。
「所でお前のprincessは無事か?」
暇を持て余して政宗は話題を変える。
「はい。真田殿が政宗様に深く感謝しているとの事です」
「Shit!幸村め一切合切俺に押し付けやがって。こっちは良い迷惑って奴だ」
口では悪態をついているが政宗は上機嫌なのが良く分かる。
―あのお二方には敵味方を越えた友誼があるのだ
以前父から聞いた言葉を小十郎は反芻した。
(阿梅殿と私も敵味方を越えて夫婦になれるだろうか。
 ―たとえ私が真田殿を斬り、あの弟をも斬ったとしても)
青ざめ震える阿梅の顔が一瞬胸に浮んだが、小十郎の理性はすぐにそれを打ち消す。
(何れにせよ生きて帰った時の話だ)

919:うたかた【7/18】
08/08/13 23:15:03 33bSabfv
入梅も間近な頃、赤子を抱いて現れた佐助に幸村は仰天した。
先の遠征の直前に所帯を持ったが難産で亡くして鰥夫になったのだと言う。
「結局三月かそこらしか一緒に過ごせなかったよ。可哀相な事したな」
「後添えは貰わぬのか?」
「まだそこまで考えられなくてね。差当り乳母を雇って凌ぐさ」
佐助は子の母親に触れなかったが、長じるにつれそれが誰であるか明らかになった。
「翠は母親に良く似ておるな」
ある時幸村は幼い翠に言った事がある。
「幸村様は母をご存じですか?」
七つになった翠はびっくりした。
「ああ、良く知っておる。佐助から聞いておらぬか?」
翠は首を振る。
「そうか……」
それから数日後、翠は偶然男達の会話を耳に挟んだ。
「……しかしあれも母に益々似て来たな」
「あの忍も恐ろしい女と契ったものよ」
「まさか月下為君とは……。他の男なら死んでおるわ」
「誰ぞあの娘と契って朝まで首が繋がっておるか賭けぬか?」
「止めておけ。あの女の娘なら皆首を掻き斬られてあの世行きじゃ。賭けにならぬ」
「相違無い……」
男達が自分と母の事を話題にしている事は分ったが、何故母が恐ろしいと言われるのだろう。
母の事を尋ねると父はいつも同じ答えを繰り返した。
「顔も性格も皆お前にそっくりさ。翠は本当母ちゃんに良く似てるよ」
父は母を恐ろしいなどと言った事は無い。なのに何故男達はあんな風に言うのだろうか。
「げっかいくん」という耳慣れぬ呼び名と、
あの女の娘なら皆首を掻き斬られてあの世行きだという言葉が
翠の頭にこびりついて離れなかった。

920:うたかた【8/18】
08/08/13 23:20:01 33bSabfv
「母さんって何をしてた人?」
夜、忍具の手入をしている父に翠は尋ねた。
「どうした急に?」
手を休めず父は応える。
「男の人達が言ってた。『恐ろしい女だ』って」
一瞬父の手が止まった。
「聞き違いさ」
「本当だもん。私は『げっかいくん』の娘だから皆の首を斬―」
突然父が拳で力任せに床を叩いた。
翠は驚いて黙る。こんな乱暴な父を見たのは初めてだ。
父は溜め息を吐いて暫く眉間に手を当て考えていたが、真直ぐ翠の目を見て
話し始めた。
「良いか翠。母ちゃんの事をとやかく言う奴は多い。
 でも、連中が何と言おうと母ちゃんは誰より強くて優しい人だった―本当さ。
 嫌な事や辛い事を沢山乗り越えて父ちゃんなんかと一緒になってくれたし、
 命懸けでお前を産んでくれた。
 生きた時間は短かったけど母ちゃんは一生懸命生き抜いたんだ。
 その母ちゃんそっくりのお前も強くて優しい子だよ。
 父ちゃんが言うんだ、間違い無いぞ」
父が初めて語る母は男達が話していたものと程遠い。
だが翠は父の話を信じる事にした。
「でも怒った母ちゃんはおっかなくてなぁ。
 言付け破って父ちゃん忍術教えちまったからきっとあの世でカンカンだ」
慌てて翠は言う。
「私が怒らないでって母さんに言う。父さんは悪くないって」
「ありがとよ。母ちゃんお前には甘いだろうからきっと父ちゃん見逃して貰えるな」
父は翠の頭を撫でて悪戯っぽくパチリと片目を閉じる。
まだ翠が幼く、比較的世も安定していた頃だった。

921:うたかた【9/18】
08/08/13 23:25:01 33bSabfv
夕暮れが迫っていた。
幸村達が出陣してから半日以上が経過している。
中庭に立つ父の傍らに翠は久し振りにそれを見た。
背中の大きく開いた黒服を着た若い女の幻だ。
女は自分だけに見え、いつも後ろを向いている。
「父ちゃん一応隊長だろ?だから色々あるんだよ」
そう父が気遣う娘を丸め込む時、決って若い女は姿を現した。
父の傍らにそっと寄り添い、背や肩に手を置いている事もある。
小さい頃から何度も見て来たせいか怖いと思った事は無い。
今日女は父の背に取り縋っていた。静かにかぶりを振り、肩を震わせている。
翠は息を飲んだ。
初めて振り返ってこちらを見た女の顔は、驚く程自分に良く似ている。
(母さん?)
泣き顔のまま笑みを浮べ、父の肩をポンと叩くと女の幻は淡雪の様に消えた。
「翠か」
背を向けたまま父が呼ぶ。
「親父、今…」
「うん?」
父の手には母の形見の翡翠の簪が握られていた。
恐らく父は母に相談したい事があったのだろう。
母もそれに応えるべく幻となって現れたのではないか―翠はそう直感した。
「母さんに何話してたの?」
「色々さ」
「何か言ってた?」
父は肩を竦めて笑う。
「どうだろうな。でも傍であいつが聞いてた気がするんだ」
「誰か泣いてたよ」
「え?」
「黒い服の女の人が泣いてた。今親父の背中に抱き付いてさ、イヤイヤって」
父は簪に視線を落とした。
「そうか……」
顔を上げ宵の明星を見上げる。
「……そうか」
翠には父が寂しげに笑っている様に見えた。

922:うたかた【10/18】
08/08/13 23:30:02 33bSabfv
「翠、若旦那を連れて阿梅様の元に行け」
父の口調は有無を言わせない忍隊長のものだ。
「これは大人がケリを着ける最後の大戦だ。
 お前や若旦那みたいな子どもに横槍入れられちゃたまらん」
ここで殉じるつもりだ―翠は分った。
「若僧を頼れ。父ちゃんの眼に適う男なんてそうそう居ないぞ」
佐助は父親の顔に戻り悪戯っぽくパチリと片目を閉じる。
「こんな所でお前を死なせたら母ちゃんに合わせる顔が無いからな。
 お前は忍じゃないんだ、好きに生きろ」
翠は唇を噛み締めた。
「うん」
佐助は頷くと翠の手に翡翠の簪を握らせた。
「嫁に出す時渡すつもりだったけど今渡しとくな」
両肩に手を置き改めて女房に良く似た娘の顔を覗く。
翠が生まれた晩を思い出した。


―見て、やっと生まれたわ。女の子よ
微笑む女房の隣に生まれたばかりの赤ん坊が眠っていた。
後産で傷ついた胎内の大きな脈から血が止め処も無く失われ、
女房は血の気の失せた顔色をしている。
―名前は考えてくれた?
「うん。翠だ」
―みどり
青白い手が愛しげに生まれたばかりの娘の頭を撫でる。
―お願い、この子を忍にしないで。私の様な目に遭わせたくない
「分かってるよ。この子が大きくなる頃にはきっと戦も終わってるさ」
突然娘が甲高い声で泣きだした。
「ああ、重湯だな。ちょっと待ってろよ」
慌てて佐助は三和土に降りた。
―よしよし、翠。良い子ね。ほら、泣かないで……
「これじゃ温過ぎるか―」
重湯と手拭を持って振り返った時、楽しい夢を見ている様に微笑んだまま
女房は眠っていた。
二度と覚める事の無い眠りだった。

923:うたかた【11/18】
08/08/13 23:35:09 33bSabfv
尚も甲高く娘は泣き続ける。
佐助は泣かない。
泣きたくても泣けない。
涙は遠い昔に凍て付かせたままだ。
静かに枕元に坐り、まだ温かい女房の頬に触れた。
揺り起こせば目を開けて重湯は、と尋ねそうだ。
(なぁ……お前、幸せだったか?)
望まぬまま生き延びる為忍になり、閨を血で染め、叛き、
紆余曲折を経て自分の元に戻った妻。
生きて居て呉れれば良いと思っていた。
暗闇から救えず、かと言って奪う勇気もなかった弱気な自分の傍に
居て欲しいと頼んだ時、迷わず是と言って呉れた。
ずっと離れず共に生きるつもりだった。
だが寄り添う事が出来たのは児が胎に居たほんの短い間だけだ。
佐助はぎこちなく娘を抱いて重湯を含ませた手拭を吸わせてやる。
娘は拳を握り締め懸命に重湯を吸った。
(翠、いっぱい泣いて呉れ。父ちゃん泣けないんだ。だからお前が代りに泣いて呉れよ)


翠が泣き止まない時は昼夜を問わず肩車をして空を飛んだ。
母が恋しいと言えば、宵の明星を指差して「あそこでいつもお前を見て居る」と教えた。
高熱を出した時は女房に助けて呉れる様に祈った。
良く無事に長じてくれたと佐助は思う。
勝気な所や男勝りな所を矯める事は出来なかったが、それはあの若者に託そう。
「さ、もう行け。達者でな翠」
佐助に背中を押され走り出したが、一度だけ翠は振り返った。
「死ぬなよ馬鹿親父!!」
涙混じりの罵声に佐助は手を挙げて応える。
徐々に遠くなる後ろ姿を見送りながら小さく呟いた。
「……生きろよ」

924:うたかた【12/18】
08/08/13 23:40:00 33bSabfv
安居神社の境内に赤備えを身に着けた負傷者達が座り込んで居る。
彼等こそ徳川本陣深くまで切り込んだ真田幸村率いる真田隊の生き残りだ。
自身も傷を負いながら幸村は休まず他の隊員の手当てをしていた。
槍の先端は既に綻び、彼の腕も二槍を支え切れなくなっている。
「幸村様、やりましたね俺達…」
「ああ。徳川に目に物見せてやった。あの三河守の驚いた顔と言ったら無い」
顔面蒼白の家康は本多忠勝に守られ命からがら撤退した。
ここまで敵の心肝寒からしめた負け戦などあるまい。
圧倒的な兵力差がありながらも馬印を蹴倒した倒した彼等の心は昂ぶっていた。
「真田源二郎幸村殿とお見受け致す」
背後から声がした。
「拙者西尾仁左衛門宗次。御首、頂戴致す」
幸村は振り返りもせず手当てを続けながら静かに言った。
「某逃げも隠れもせぬ。が、暫し待て。この者の手当が先だ」
「幸村様…」
淡々と包帯を巻く幸村を見て西尾は刀を下げる。
「相分かった」
「忝い」
手当てを終えた幸村は最後の力を振り絞って二槍を掴んだ。
―きっとこの武士に自分は負ける。
悔いは無い。
子ども達を政宗の元に託した今、後顧の憂いも無い。
胸に有るのは六文銭の旗の元、数多の戦場を駆け抜けた矜持のみ。
瞼を閉じると巨大な戦斧を傍らに置いた大きな背中が見えた。
あの背中に追いつこうと、自分はいつもひた走り続けてきた。
一体どのくらい近付く事が出来ただろうか。
熱い拳で語り合い、抜山蓋世を体言した様なその出で立ちに若い自分は圧倒され、
仕える事の出来る仕合わせを人一倍噛み締めたものだ。
そして不幸にも、遂にその人を超える主君を幸村は見出せなかった。
(見ていて下され、お館様)
幸村は亡き師に呼び掛け息を整えると二槍を構える。
「西尾殿とやら、いざ参られよ。この真田源二郎幸村がお相手致す」

925:うたかた【13/18】
08/08/13 23:45:06 33bSabfv
暗闇の中、翠は大助を半ば担いで走る。
最期まで城に踏み止どまろうとしていた所を邪魔された大助は激しくもがいた。
「こら翠離せ!破廉恥だぞ!」
「五月蠅い!つべこべ言わずに走れ、馬鹿大助!」
叱咤しつつ、翠は天満門を出てからずっと自分達がつけられているのに気付いていた。
恐らく徳川に与する伊賀者だろう。
(数が多すぎる……!)
尚も暴れもがく大助に苛立ちながら翠は舌打ちした。
大助を守りながら阿梅達の居る山寺まで辿り着けるだろうか。
(ダメだ、弱気になれば負ける)
父が居ない事で自分が激しく動揺しているのが翠には情けない程良く分った。
山寺まで後少しと言う所で遂に囲まれ、翠は大助を庇いながら苦無を構える。
「敵か!?」
徒ならぬ雰囲気を察して大助も獲物を構えた。
父の手ほどきを受けた大助の短槍の腕前は佐助を唸らせた事もある。
「若旦那は筋が良いよ。流石は真田幸村の息子だね。
 ひょっとすると父君を越える日はあっという間にやってくるかもよ?」
そう親子二代の傅役になった佐助に褒められると、大助は舞い上がった。
早く父のような立派な武士になりたいと人一倍鍛錬に励んだものだ。
「囲まれた。いいか大助、絶対私の傍を離れるな」
翠が低い声で言った。
姿は見えなくとも圧倒的な数の殺気がジリジリと二人の肌を焼く。
無意識の内に翠は翡翠の簪をしまった懐に手を伸ばした。
「―!!」
突如新しい気配が猛烈な速さで翠達と敵の間に割り込んで来た。
「良く頑張ったな翠!後一息だ、さっさと走れ」
「隼人…」
僅かに気が弛んだ翠に厳しい声が飛ぶ。
「気を抜くな、行け!坊主、お前も自分で走りな!女に担がれてんじゃねぇ」
「こっちだって好きで担がれ……うわっ」
大助は最後まで言えず再び翠に担がれる。
追おうとした忍の前にすかさず隼人が苦無を投げて遮った。
「あの二人はウチの筆頭のお客でね。お引取り願おうか」

926:うたかた【14/18】
08/08/13 23:50:03 33bSabfv
佐助は満身創痍で城の片隅で壁に背を預け胡座をかいていた。
全身の痛みで感覚が麻痺している。鉢金を外し落ちて来た髪を掻き揚げた。
城内には火が放たれ焼け落ちるのは時間の問題だった。
(なぁ…俺、これで良かったよな?)
ここに居ない彼女に問い掛ける。
突然、頬に誰かの掌が触れた。
その懐かしい感触に目を開けると、薄い浅葱色の単を着た彼女が居る。
「…嘘だろ…」
娶ってから三月半しか共に居られなかった愛しい妻。
彼女が生きていた時の思い出が次々に甦った。
初めて逢った時鞠を手渡した事。
再会した時美しくなっていて気圧された事。
彼女が叛いて敵と味方に分かれた事。
怪我をした彼女を背負って延々と歩いた事。
翡翠の簪を受け取ってくれた事―。
振り返るには遠く、眩し過ぎる日々。
群雄割拠の中陽炎の様に消えたあの日々と共に彼女は逝き、
自分は忘れ形見と共に取り残された。
赤子だった娘が今では母親の生写しだ。
「……夢でもいい、幻だっていい」
痛みを堪え生前のままの彼女に震える手を精一杯伸ばした。
「ただもう一度……お前に逢いたかった」
凍て付き枯れ果てた涙が温かく頬を濡らす。
妻の名前を呟いたものの、最早掠れて声にならない。
金の髪の柔らかい手触りも、触れた手の温もりも、まるで生きているようだ。
「流石に疲れたよ。ちょっと…一眠りさせてくれ」
佐助は妻にゆっくり凭れ掛かる。
―こんな所でうたた寝すると冷えるわよ
まだ上田に居た頃、縁側で寝そべっていると必ず妻に窘められた。
この陽気だから大丈夫だ、と佐助は言う。
そのまままどろむと小袖を掛けておいてくれたものだ。
―風邪引くぞ、馬鹿親父
佐助は僅かに笑みを浮かべる。
妻の温かい胸に抱き止められた刹那、燃え盛る天井が二人の上に崩れ落ちた。


927:うたかた【15/18】
08/08/13 23:55:08 33bSabfv
大坂城は落ちた。
豊臣は滅び、天下は徳川の物となった。
「I'm home, My sweet honey!」
帰還した政宗が妻を軽々と抱き抱上げて口付ける。
「怪我してねぇだか?藤治郎様。何はともあれ、稲刈りに間に合って良かっただ」
嫁いだ時妻は名を改め「愛」と名乗って居る。
愛はその名の通り愛くるしい笑みを浮べた。
「おいおい、夫の無事と稲刈りが同列かよ。相変わらずだな」
政宗は苦笑する。
「藤治郎様も米もどっちも大事だべ。何でそんな事言うだ?」
今度は頬を膨らませた愛の額に唇で触れた。
「Forgive me.」
政宗は膝に愛を座らせ、煙草盆を引き寄せる。
「小十郎の嫁さんは赤いお侍の娘っ子なんだべ?似てるだか?」
背を政宗の胸に預けて見上げながら愛は尋ねた。
「いや、そうでもねぇな。忍の娘の方は母親そっくりだったぞ」
妻の銀の髪を撫でながら政宗は答えた。翠を見た時、忍は年を取らないのかと
一瞬思った程だ。
「本当か?おらも一度会ってみてぇだ」
愛が目を輝かせる。
「ああ良いぜ。今度城に呼んでやるよ」
煙管を咥えながら気安く政宗は応じた。
「今日ぐらいはゆっくりさせてくれ。戦の後のゴタゴタも片付けなきゃなんねぇし……」
考えを巡らせながら深々と紫煙を吐き出す。
遺族への補償、武器と人員の補充―その他にもやるべき事は山積していた。
「半月待ってくれ、それで全部終らせる。それにしても」
「?」
愛は首を傾げる。
「これからは誰も戦場で死ぬ事なんざ出来ねぇ。あぁ、つまんねぇよなぁ」
何か言いかけた愛など目に写らないかの様に遠くを見て政宗は呟いた。
「幸村は―あいつは日ノ本最後の武士になって逝っちまった。
 最後の最後まで勝ち逃げしやがって」

928:うたかた【16/18】
08/08/14 00:00:01 UFOQu5kj
庭の縁側で愛は感嘆した。
「本当だ。あの姉ちゃんそっくりだべ」
愛にまでそう言われて翠は狼狽える。
政宗と良い幸村と良い、雲の上の人達が何故自分の父や母を知って居るのだろう。
「な?言った通りだろ」
何故か誇らしげに政宗が言う。
「懐かしいだ。おめぇの母ちゃんが軍神の側に居たのがついこの間の事みてぇだ」
「お前が一揆の連中纏め上げてたのもな」
隣に坐る煙管を持った政宗が横から口を挟む。
「藤治郎様!」
愛が唇を尖らせた。政宗は本当の事だろうが、とくつくつ笑う。
少し年が離れているが政宗と愛はとても仲睦まじい。
どこか兄妹を思わせるような雰囲気も持っていた。
「私の母はどんな人でしたか?」
勇気を出して翠は尋ねた。
「そうだなぁ……」
政宗は煙草盆に肘を付き、煙管を咥えながら良く澄んだ空を見て考える。
「血の気が多くて、思い込みが激しくて、怒ると怖い―って痛ぇぞ愛!」
愛に尻を抓られ政宗は悲鳴を上げた。妻の怪力は健在だ。
「そんな事ばっか言うでねぇ、藤治郎様」
ブツブツ文句を言う政宗を尻目に愛は翠の方を向く。
長く美しい銀の髪が幾筋か前に垂れた。
「堪忍な。おめぇさんの聞きたい答えじゃなかったべ?」
「いいえ、母の良い事も悪い事も聞き及んで居ります」
その落ち着いた態度に愛は感心した。
「おめぇさん優しくて聡いだな。―隼人」
控えていた隼人が愛を見る。
「おめぇも嫁子貰うならこう言う娘っ子にするだよ」
それを聞いてカラカラと政宗が笑った。
「そうだぜ、隼人。小十郎も娶ったんだ、序にお前も祝言挙げちまいな」

929:うたかた【17/18】
08/08/14 00:05:04 UFOQu5kj
「筆頭、冗談も大概にして下さいよ」
慌てて隼人が言った。
「Ha!何が冗談だ?その娘にattack掛けてんの知らねぇ俺じゃねぇんだぜ?」
政宗が戦場の笑みを浮べて恫喝する。だが次の瞬間愛に頬を抓られ悲鳴を上げた。
「そんな怖い顔するでねぇ。怖がらせてどうするだ?」
「分かったから離せって!ちょ、マジ痛え!」
翠と隼人は顔を見合わせ呆れた様に笑った。
「お方様の言った事、気にするなよ。あの方はいつもああなんだ」
並んで歩きながら隼人は言った。
二人の前を下がった翠は、隼人に送られて厄介になっている片倉の屋敷へ戻る最中だ。
「でもあんな事言い出したのも俺が黒脛巾組辞めるからなんだけどさ」
「辞める?」
翠は驚いた。
「天下泰平で忍抱えてちゃ不穏過ぎだろ?
 豊臣の時みたいに謀反捏ち上げられたら洒落にならないし」
小石を蹴って歩きながら隼人は答える。
「これからどうするの?」
歩みを止めて尋ねた。もう会えなくなるのかと不安になる。
「船に乗るんだ」
隼人は笑顔だった。反対に翠の表情は曇る。
「……遠くへ行くのか」
「ああ。お前も行かない?もし、嫌じゃ無かったらだけど」


二月後、翠は世話になった小十郎夫妻に別れを告げた。
「どうだ翠、背は俺が勝ったぞ」
「五月蝿い。背より頭で勝てなくてどうするんだお前は」
痛いところを突かれて固まった大助を見て翠は溜め息を吐く。
「全く…。精進しなさいよ、日本一の兵になるんでしょ?」
「言われずとも分かっておる!」
むくれてそっぽを向いた大助の頬に柔らかいものが触れた。翠の唇だ。
大助が首筋まで真っ赤に染まったのを見て初心だな、と苦笑する。
「じゃあね、馬鹿大助」
破廉恥、と言う大絶叫を背に、翠は軽やかに駆け出した。

930:うたかた【18/18】
08/08/14 00:10:06 UFOQu5kj
「すまねぇ、遅くなった。大丈夫か?」
佐助は漸く妻と再会した。
遠征から帰ると家が蛻の殻になっていて、手掛りを元に荒っぽい方法で捜し出した。
力ずくだったが今はそんな事に構って居られない。
「平気」
少し痩せた妻は健気に答えた。
その目立って来た腹に佐助は手を当てて話し掛ける。
「おーい、父ちゃんだぞー。ただいま」
ポコン、と何かが妻の腹の中で跳ねた。
「ははっ、返事してら」
男か女か生まれるまで分からないがどちらでも良い。今から楽しみだ。
「じゃ、我が家へ帰りますか」
妻を抱え大鴉に掴まって空を飛びながら気がついた。
(そうだ、名前考えなきゃな)
親から一文字ずつ取ろうかと考えたがどうも上手くいかない。
妻の顔を見る。月下為君、軍神の懐刀―。
「あ」
「何?」
佐助はヘラっと笑う。
「いや、別に」
一緒になって欲しいと妻に差し出した、深い翠色を湛えた翡翠の玉簪。
(女なら翠も良いか)
もう一つ忘れていた事を思い出した。
「なぁ、帰ったらそばがき作って」
「良いけど……」
妻が怪訝な顔をする。
正月の蕎麦切りならまだしも、そばがきを食べたがるのは珍しい。
「よーし、しっかり掴まってろよ!」
佐助は速度を上げた。
―早く帰ろう。そばがき食べて、子どもの名前考えて、仕事もしなくちゃ。
   ああ、それにしても疲れたな。帰ったらまず一眠りしよう―
一番大事な光を大切に抱えて佐助は飛ぶ。
暁の中、その姿は朝日へ吸い込まれて行った。

931:4スレ目588
08/08/14 00:14:22 UFOQu5kj
読んで下さった方、お付き合い頂きありがとうございました。
死にネタで申し訳ありません。
また思いついたら投下させて下さい。

>>743
携帯乙です。でかしたぞ半兵衛!
次作正座してお待ちしております。


932:名無しさん@ピンキー
08/08/14 00:27:22 UFOQu5kj
容量490kb超えたので次スレ建てました。
移動宜しくお願いします。

戦国BASARAでエロパロ信者5人目
スレリンク(eroparo板)


933:名無しさん@ピンキー
08/08/14 01:22:24 Gj0h4VLe
>>931
GJ!!!これは最早SSではない!!芸術であります!!!

読み始めてすぐに泣きそうになって、佐助と幸村が別れる場面からずっと泣いてたよ…。
翠にだけかすがの姿が見えてたり、佐助と翠が昔を思い出す場面が特に切なかった。
SSでこんなに泣いたの初めてだけど、最後に子供世代が幸せになってくれて本当に良かったよ。

あと、一番最後の場面が佐助がかすがを助けた直後っていうのも良い演出でした。
次回作も楽しみにしてます。

長々と感想すいません

934:名無しさん@ピンキー
08/08/14 10:41:15 A2y8myN/
GJでした!
パスタが冷めるくらい読みふけってた。
ちょっとだけ伊達いつも読めてまりがたやーまりがたやー (-人-)

935:名無しさん@ピンキー
08/08/14 13:05:09 8B5/TDTh
GJでした!
泣いた(つД`)

936:名無しさん@ピンキー
08/08/14 16:50:28 3H5vgCqA
乙でした!!!
ああああ…素敵すぎる
目元が熱いです
なんかもう言葉にならないです…胸がいっぱいです‥
ほんとにほんとに素敵な作品ありがとうございましたあああああ
次回作も期待していますっ


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