07/08/03 16:47:56 FMBRS8DE
「エステル君っっ!!」
もはや泣いてんだか怒ってんだか分からないオリビエの甲高い
声が露天風呂に響き渡る。
「エステル君っ! よくも、僕のポートワインを……!」
返事はない。人影もない。
見渡すと、露天風呂にはオリビエしかいなかった。
「おや……?」
何度見回しても、オリビエ一人。
「おかしいな……」
いったん中に入って女風呂の入り口まで戻る。閉じられた
木の引き戸をノックしてみた。
「エステル君? クローゼ君? 誰かいないのかい? ……
開けるよ?」
声をかけながら、そろそろと引き戸を開ける。脱衣所には、
見覚えのある衣類があった。エステルの服は床に散らばって
いた。たぶん酔って脱ぎ捨てたのだろう。
(ほほう、エステル君のは水色の縞々か。可愛いおそろいの
縞ブラと縞パンだね)
クローゼとティータの服は、きちんとたたまれて脱衣かご
に収まっている。いちばん上に小さくたたまれたショーツは
どちらも純白で、クローゼのは小さなピンクのリボン付き、
ティータのは無地のコットンパンツだった。
(うんうん、清楚でいいねぇ……じゃなくて)
脱衣所から女風呂の入り口をうかがってみるが、何も見え
ない。再びノックしてみた。
「おーい、誰かいないのかい? 開けるよ? 開けちゃうよ?」
声をかけながら、そろそろと扉を開ける。
女風呂に立ち込める蒸気と湯気の向こうには……。
やはり、誰もいない。
念のため、女風呂から露天風呂へと外に出る。
改めて見回しても、やっぱり無人。
そのとき。
「!」
ふと、茂みのかげに白いものが見えた。
急いで駆け寄ったオリビエが見たものは―。
露天風呂用のバスタオルだった。
(さっき調べたとき、こんなものは無かったはずだ。)
もう一度、さっきの茂みを調べてみる。
そこには真新しい魔獣の足跡が入り乱れていた。さらに周囲
の地面や草木にも、争ったような、乱れた跡が残されている。
(これは……)
道筋を少したどると、さらにバスタオルが落ちていた。
もう少し先に、また1枚。
これでバスタオルは3枚になった。
「クッ! なんてことだ……!」
疑いの余地はなかった。魔獣たちが戻ってきて、今度は覗く
だけで飽き足らず、エステルたちを襲って連れ去ったのだ。
オリビエの行動は迅速だった。
脱衣所でエステルたちの衣類をかき集めて部屋に取って返すと、
持てるだけの道具と装備一式とまとめて袋に詰め込んだ。バス
タオルはどうしようかと一瞬迷い、3枚ともベルトに挟み込む。
オリビエは空腹も疲労も忘れ、完全武装で宿を飛び出した。