08/08/08 19:03:44 N1P+28b6
>>851 続き
上流へ登って行くと辺りの空気が冷たく感じた。
滝の流れる大きな音が聞こえる。
「ほら、見えて来たわ。」
遠くの方にさほど大きな滝ではないが、確かに立派な滝があった。
「うわぁ…。」
近くまでいくと、寒いくらいに涼しく感じる。
「気持ちいいね、水も綺麗だし。こんな場所があるなんて。」
姫子はうーんと気持ち良さそうに背伸びをした。
「こうするともっと気持ちいいわよ。」
千歌音は靴を脱ぎ、岩場に座って川の水の中に足を入れる。
姫子も千歌音の隣に座って同じように足を入れた。
川の水は冷たくて、歩き疲れた足を癒やしてくれる。
二人は持ってきたお弁当を食べてのんびりと自然の中で過ごす。
いつもの慌ただしい日常を忘れ心も体も癒されていくのを感じた。
昼を過ぎたあたりだろうか。
空を見上げるとさっきよりも雲が増えている。
「もしかしたら雨が降るかも…残念だけれど、そろそろ帰りましょうか?」
「そうだね、じゃあ帰ろうか千歌音ちゃん。」
荷物を片付けて、二人で山を降りて行くと空はどんどん暗くなり、ポツリポツリと雨が振り出した。
二人は急ぐが、雨足はさらに強くなっていく。
服はもう既に濡れてしまっていた。
本当なら雨が収まるまで雨宿り出来ればいいのだが。
こんな山の中では…。
そんな事を考えながら急ぐ姫子の腕を、突然千歌音が掴んだ。
「どうしたの、千歌音ちゃん!?」
「まって姫子、こっち。」
千歌音は姫子の手を取り、帰りの道とは違う草むらの中を歩いて行く。
(どこに行くんだろう?)
「あ…」
さらに奥へ進むと、急に道が開けた。
「あそこでしばらく雨宿りしましょう。」
千歌音が指を指した先には、小さな小屋があった。
中に入ると農業に使うような道具が色々と並んでいる。
思った以上に中は広く、きちんと片付けられていて雨宿りするにはちょうど良かった。
「ここって…?」
「ここの近くに姫宮家の菜園があるの、そこの道具小屋よ。昔ここに来た事を思い出したの。まだあって良かったわ。」
「そうなんだ。」
「あ…姫子、髪が濡れてる。」
姫子の服と髪は雨で濡れてしまっていた。
千歌音が白いハンカチを取り出し、姫子の髪や頬を拭いてくれる。
「私はいいから、千歌音ちゃんだって濡れてるよ。風邪でもひいたら…」
そう言いかけて、姫子は言葉を詰まらせた。