ケロロ軍曹でエロパロ 其の6at EROPARO
ケロロ軍曹でエロパロ 其の6 - 暇つぶし2ch661: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:21:57 vZLRMV3J
「…『だめ』というわけでは…」

「イヤ、なの?」

「ちょ、ちょっと待て!嫌なわけが無いだろう!どうしてそうなるのだ!」
夏美からの全く予想外の問いかけに対して、ギロロは思わず大声で応じる。
『戦場の赤い悪魔』の異名を縦にする歴戦の勇士も、この“奇襲”は全くの予想外だった。
どれほど巨大な戦力を擁する戦闘集団も、完全な奇襲に対しては瞬間的にせよ全く無力となる。
それはギロロの場合も例外ではなく、大声を出したのは二重の意味で失敗だった。
一つは、周囲の視線を自分たちに集めてしまったこと。
もう一つは-こちらの方が余程重要なのだが-、
敢えてこのような質問を“しなければならなかった”夏美の心情を理解する努力を怠った挙げ句、
形だけとはいえ、怒鳴りつけるようなかっこうになってしまったこと。

「じゃ、どうして、手を繋いでくれないの…?」
ギロロの顔をそっと見上げる夏美の眼差しは、
決してギロロを責めても怒ってもいなかったが、しかし、耐え切れぬ程のやりきれない切なさに満ちていた。

ギロロの心の中で、とても優しくて暖かいスイッチが、パチン!と軽やかな音を立てて入った。

すっと伸びてきたギロロの手が、力なくだらりと提げられている夏美の指先をキュウッと握り締める。

「あっ…」
「す、すまん。痛かったか?」

「ううん…」
「そうか…」

夏美の頬が鮮やかな血色を取り戻し、その表情からも、身体からも、嫌な強張りは去って、
完全に普段の健康的でさわやかな雰囲気が戻ってきた。
だが、頬は、いつもの鮮やかな肌色を回復してからも、更に赤くなり続けた。

「ギロロ…」
「ん?」

ギロロの逞しい指に握られていた夏美の指がキュッと丸められ、逆にギロロの指を握り締める。

「ありがと…」

「ああ」

「とっても、嬉しい…」

「そうか…」

ギロロは、夏美に握られている指をちょっと動かして、夏美の指をそっと握り返した。

夏美は、その指を握り返しながら、とても幸せそうにギロロの顔を見上げる。

ギロロは、照れながら、チラリと横目で夏美の表情を窺う。

二人の目が合う。

ギロロは恥ずかしがって、慌てて視線を逸らしてしまう。

662: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:23:00 vZLRMV3J
「ウフフフ」

夏美は微笑みながら、指先に込めていた力を一旦抜いた。
ギロロも、それに従って指を緩め、夏美の細い指先を解放する。
次の瞬間、力が抜けて間隔が疎らに空いたギロロの指にさっと夏美の指が複雑に絡み付くと、
そのままキュッと優しく締め上げた。

「ギロロの手、大きいね…」

「そうか…」

ギロロは、自分の顔を一心に見上げる夏美と敢えて目を合わせようとはしなかったけれど、
しかし、その横顔はとても優しく微笑んでいる。

と、ここで、夏美が大切なことを思い出した。

「あ!そうだわ!」
「どうした?」
「アイスクリーム!!」
「ああ!そうだったな…。だが…」

「?」

「な、夏美と、二人で食べるなら…」

「あたしと二人だったら…?」

「何処のアイスクリームでも…」

「何処のアイスでも…?」

「最高に旨いと思うぞ…」

「ギロロ…」

耳の先まで蛍光ピンクに染まり切ったギロロの横顔を、夏美は、夢見るような眼差しで見上げた。

663: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:24:16 vZLRMV3J
「ウフフ」
「…」
「ねえ、こっち向いてよ…!」
「え…、あ…、歩くときは…、ちゃんと…、前を見て…」
「あ~あ、こっち見てくれないと、あたしたち、仲が悪いんじゃないかって思われちゃうかも…」
「えー!なんだそりゃあ!」
「だ、か、ら、こっち向いてよ!」
「こら…!お…、大人を、からかうもんじゃ、ないぞ…」
もう恥ずかしさでいっぱいいっぱいのギロロはしどろもどろで、その声は完全に裏返ってしまっている。

「あ!あったわ!ほら、あの薄いブルーのきれいなワゴン車がそうよ。早く行きましょ!」
「ちょっ、待っ!そんなに引っ張るな!」

夏美がぐいぐいとギロロの腕を引っ張ってアイスクリームの移動販売車に小走りで駆け寄るその姿は、
誰がどこから見ても、紛れも無く、付き合い始めたばかりの恋人同士だった。

その後二人は、アイスクリ-ムを食べながら公園内を一通りそぞろ歩いたが、
残念ながら、緊張のためにアイスの味は殆んど分からなかった。

日差しは、『西日』と呼ぶべき位置に傾きつつあった。
もうそろそろ帰らないと、冬樹が心配するし、食事の支度に差し支えるだろう。

「そろそろ帰ろっか」
「り…、了解…」

ギロロが今、何よりも聞きたかった一言が、ようやく夏美の口から出た。
もちろん、ギロロだっていつまでも夏美と一緒にいたいのは山々だったが、
余り戦い慣れない“心理戦”に不意打ちで引き込まれた挙げ句、終始相手のペースでの戦いを強いられて、
さすがの歴戦の勇士も、今や全身はじっとりと嫌な汗に塗れ、心身ともにくたくたに疲れ果てていた。

夏美に導かれるようにして家路を辿るギロロは、何処をどう歩いてきたのか覚えていなかったが、
とにかく日向家に帰り着いた。

ピンポーン!

「はーい!あ、姉ちゃん、お帰り!ギロロも…、お帰り…」

家に帰った二人は冬樹の出迎えを受けた。
冬樹は、ギロロのくたびれ加減と夏美のウキウキ、ソワソワした様子から瞬時に大体の事情を察したが、
特にギロロの様子を見るに、自分からはそのことに触れないほうが賢明だとの結論に達した。

ギロロの変身が解けたのは夏美が夕食の支度に取り掛かったのと同時だったが、
夏美は、ケロン人姿に戻ったギロロに、つい今しがたまでと全く変わらぬ態度で接した。

この日から夏美は、チャンスを見つけてはギロロと一緒にいる時間を作るようになった。
冬樹が家事当番の時に予期せぬ用事でその帰宅が遅れた場合など、自分に時間的な余裕があれば、
冬樹に代わって、ギロロと一緒に食事の支度や庭掃除などをして過ごした。
もちろんギロロはケロン人姿のままだったが、外見など、今の夏美にとってはどうでもいいことだった。

だが…

664: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:25:30 vZLRMV3J
そんな一週間が過ぎた日、夏美はクルルズ・ラボを訪ねた。
そう、地球人姿のギロロに再び逢うために。

「ねえ、クルル」

夏美の呼びかけに、クルルがセンターコンソールの椅子をくるりと回して夏美のほうへ向き直る。

「どうした?アンタがわざわざここまで来るなんて珍しいな。
おっと!俺たちゃ、何にもしてねぇぜ。隊長は、まだ軍本部から戻ってきちゃいねぇし、作戦の指示もねぇ」

「文句言いに来たんじゃないわよ…」

「ん?だったら、何だ?」

「ギロロのことなんだけど…」

「オッサンが、どうかしたのかい?」

クルルの口元が瞬く間にいやらしくニヤリと歪み、
その口調も声音もあからさまに何時ものからかい半分のヘラヘラしたものになった。
それでも夏美は、怯むことなく話を続ける。

「千円で、いいのよね…?」

「ん?何が?」

「ギロロを変身させるのに、タダってわけにはいかないんでしょ?」

「ほう…。今日も、オッサンとどこかへ出かけたい、と…?」

予想通りの、厭らしい質問。
だが、こんなことで怯んでなどいられない。
昨日から徹夜で考えた尤もらしい理由だって用意してあるし、
何より、ギロロを変身させることを拒めば、最終的に困るのはケロロたちなのだ。

665: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:26:20 vZLRMV3J
「違うわ。地球人姿のギロロの方がボケガエルなんかよりよっぽど役に立つから、
アイツが帰ってこないうちに、ギロロに手伝ってもらってやってしまいたいことが沢山あるのよ」

「(どうよ、この完璧な理由付け!)」

「ま、地球人の手伝いをするには、地球人の姿のほうが都合がいいからな…。
了解だ。オッサンを変身させてやるよ」

「(あら、あっさりしたものね…。『案ずるより産むが易し』って、昔の人はよく言ったもんだわ!)」

「じゃ、千円ね」

「いらねーよ」

「言ったろ?『日向家の手伝いをしっかりやれ』って隊長からきつーく言われてるって」

「あ…。え、ええ。この間、聞いたわ」

「ま、そういうことだ。だが、その代り…」

クックックッと含み笑いを噛み殺すクルルに、夏美は、恐る恐る尋ねる。

「な、何よ…」

「アンタが自分で、オッサンをここへ連れて来るんだ。俺は今、手が離せないんでね…」

『今、手が離せない』なんて言ってはいるが、誰がどう見ても、クルルが今、全く暇なのは明らかだった。

「わかった。連れてくるわ」

夏美としては、もう、恥も外聞もあったものではなかった。
ケロン人姿のギロロも決して悪くは無かったが、
しかし、『“中身”がギロロ、外見が“自分の理想の地球人男性”』という黄金のコラボに敵うものは無かった。

「よし…」
クルルは、コンソールのシートからひょいと身軽に飛び降りると、
白い小さなリモコンのスイッチを押しながらわざと夏美に聞こえるように独りごちた。
「じゃあ、『地球人なりきりセット』の準備をしますかねっと…」

いったん開き直ってしまうと、そんなクルルのあからさまな冷やかしすら返って心地良く感じられるから不思議だ。

「すぐに連れてくるから!」
汎用人型決戦兵器を使用しての戦闘を指揮する軍装の麗人さながら、
夏美は、クルルに毅然とした態度と口調で言い放つと、さっと身を翻してラボを出て行く。

パシュッという軽い音と共に自動式の装甲扉が完全に閉まったことを横目で確認すると、
クルルは、誰にも聞こえないような小声で今度は本当に独り言を呟いた。

「一週間、か…。年頃のお嬢ちゃんにしちゃ『よくがんばった』というべきか、
普段強がってる割には『あっけなかった』というべきか…。だが、ともかく、第一段階、クリアー…」

666: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:27:25 vZLRMV3J
南中の太陽が肌を刺すような日向家の庭。
夏美は、ギロロのテントに呼びかける。

「ギロロ、いる?」

「ああ。どうした、夏美」

テントから、ギロロがひょっこりと顔を出した。

「あのさ、地球人姿になってくれるかな?」

「あ、ああ。構わんが…」

「じゃ、あたしと一緒に来て」

「よし」

ギロロの声に少し元気が無かったが、
この暑さじゃ無理も無いわね、と、心の中で夏美はそれを気候のせいにした。
だがそれは、とんでもない間違いだった。

夏美たちがラボに入ったとき、クルルは既に例の装置のウォームアップを完了していた。

「面子が揃ったな。じゃ、始めるぜ…」

夏美はヘッドギアを被って診察台に寝そべり、ギロロは壁を背にして立つ。

「いいわ」
「こっちもだ」

667: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:28:23 vZLRMV3J
ここで、ギロロの表情の硬さに気付いていたクルルが、探りを入れるために“問診”を始める。

「先輩。現在、肉体に異常は無いですね?たとえば、骨折、激しい打撲、捻挫、あるいは風邪…」
「ああ、大丈夫だ」
「精神面も?」
「問題ない」

ギロロの声のトーンが、明らかにいつもと違う。元気が無いというべきか、少しばかり上の空なのか…
「(ああ、こりゃ、何かあるな…。もちろん医学上の疾病じゃなく、あくまで気分的なもんだろうが…。)」

「念のためにもう一度言っとくが、この装置の構造と作動原理上、
被験者の精神および肉体に悪影響が及ぶということは全くありえねぇ」

「わかってる。大丈夫だ」

診察台の上では、夏美がちょっと上半身を起こして、二人の遣り取りを少し不安げに見守っていた。

それに気付いていたクルルは、夏美が中止や延期を申し入れる前に、と、
わざと景気の良い掛け声をかけた。
「なら、いくぜ!」

怪光線がギロロを包み、ギロロの身体から発煙。そして、その煙がゆっくりと晴れていく。

一刻も早く“地球人ギロロ”の姿形を見たい夏美は、ヘッドギアを着けたままの頭をひょいと持ち上げた。
それを横目で見ていたクルルが夏美に声をかける。
「あ、それ、もう脱いでもOK!」

「ギロロ!」
ヘッドギアを外した夏美は身軽な動作で診察台から降り、とても嬉しそうにギロロの元に小走りに走り寄る。
夏美の身近にいる人物の中で、こちらの秘密を知られると一番厄介なのはもちろんクルルなのだが、
夏美は、そのクルルの見ている前で、いや、クルルに見せ付けるようにギロロに走り寄ったのだった。

最早、夏美は、ギロロとの関係を誰にも隠し立てするつもりは無かった。

「ありがと!クルル」
「ど~いたしまして!」
抱き付かんばかりにギロロに身を寄せた夏美は、身体をぐっとひねってクルルを振り返って礼を述べ、
それに対してクルルは、きわめて慇懃に頭を下げた。

「行きましょ、ギロロ!」
「ああ」
夏美に腕をとられてギロロはゆっくりと歩き出すが、その表情はやはり冴えない。

「お幸せに~!!…って、おやおや…」
クルルは、今まさにラボを出ようとする二人の背中に呼びかけたが、全く無視されてしまった。

「『ありがと、クルル』か…」
その場に一人残されたクルルは、ポツリと、さっきの夏美の口調を真似た。

装置がクールダウン態勢に入り、冷却ファンの作動音が一段と高まる。

「実は、有り難いのは、こっちだったりしてな…。クックックッ…」
クルルの呟きは、冷却ファンの騒音に溶けていった。

668: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:29:15 vZLRMV3J
基地の自動スライド式の廊下に乗って進む二人。

「ねえ、腕、組んでいい?」
ギロロにピッタリとくっ付いている夏美が、ギロロの精悍な顔を見上げながら、その腕をねだる。

「夏美…」
「何?」

夏美の願いを聞き入れず、逆に夏美に呼びかけるギロロの少し沈んだ顔を見上げながら、
夏美は心の中で自問自答する。

「(機嫌が悪いわけじゃなさそうだけど、どうしたのかしら…。やっぱり、暑さのせいかな?
それとも、あたしがいろんなお手伝いを頼みすぎて、疲れてるのかも…)」

「話があるんだ…」
「うん…」

「(何だろう、改まって…。なんか、不安だわ…)」

夏美の“勘”は、当たっていた。
もしギロロが夏美に「好きだ」と告白したい、または、これからそういう告白をする、というのであれば、
いつものように耳の先まで真っ赤になって俯きっ放しになるはずだった。
だが、今のギロロの顔色はそんな“幸せの赤”とは程遠く、どちらかといえば少し青褪めていた。

ここ一週間全く無かった、
いや、ギロロと夏美が出会って以来一度も無かったような冷たい沈黙が、二人の周囲に漂っている。

ゆっくりと歩くギロロの後ろに夏美が従う形で、二人は日向家のダイニングに入った。

どちらからとも無くソファーに腰を下ろすと、ギロロが重い口を開いた。

「夏美」

669: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:30:09 vZLRMV3J
「何?」

「夏美が俺のことを慕ってくれるのは、とても嬉しい…」

「うん」

「今更こんなことを言うのは、かえってお前の心を惑わすことになるかも知れないが、しかし、聞いてくれ」

「うん…」

「俺は、お前のことが、好きだ」
「あ、ありがとう!!」

この状況での、『告白』というには余りに深刻すぎる告白に、それでも、夏美は嬉しさを隠せない。

「だが、この気持ちというのは、冷静に考えれば、『所詮、地球人とケロン人は結ばれるはずが無い』
という大前提の下での、“火遊び”のようなものだったんじゃないか、と思うんだ…」

「え?それって、どういう…」
夏美は、『結ばれるはずは無い』『火遊び』という単語に、激しい衝撃を受けた。

話が本筋に入ったのか、ギロロの顔が青白さを増し、話しにくそうに、何度も何度も両の唇を湿らせる。

「つまり、俺たちは、どれほど親密になろうと、侵略する側とされる側、
その立場は変わらないし、その相違は決して乗り越えられない、ということだ」

ギロロは一言一言を区切りながらゆっくりと話したが、
夏美を傷付けまいとの配慮から直截的な言い回しを避けたため、
不安に苛まれ混乱している夏美は、かえって、その内容をすぐ正確に把握できなかった。
だが、ギロロの言葉が二人の離別に関係しているということだけは直感的に理解した。

「それ…、どういうことよ…」

「俺たちは、もう、これ以上親しい関係にならないほうが、お互いのためなのではないかと思…」
「な、何よそれ!?どうしてそうなるのよ!!」

ギロロの言葉を遮って、夏美が悲鳴に似た声で反問する。
どうしてそうなるか-つまりその“理由”については直前にギロロが述べたばかりなのだが、
混乱の窮みにある今の夏美に対して、もしもそのことを指摘する者がいるとするなら、
その者は大怪我をするに違いなかった。

670: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:31:23 vZLRMV3J
「どんな時だって、ギロロはあたしの味方をしてくれたじゃない!!」

「そ…、それは…」
そうなのだ。
問題はそこにあり、ギロロにとっては、夏美の身の安全や地球人として立場を護るためならば、
ケロロの命令を無視したり、その作戦を妨害したりすることなど何とも思ってはいなかったし、
あのガルル小隊による侵攻の一件以来、
夏美専用パワードスーツの起動用リモコンは夏美に預けっぱなしになっており、
先日の、氷山を改造した半潜水基地を用いた作戦の際には、夏美はパワードスーツで出撃し、
あろうことか、クルルが開発中だった新兵器でその基地を融解して作戦を失敗させていた。
これらは、何処の誰がどう観察しても明白で重大な利敵行為に他ならず、
もしケロロが謹厳な性格であれば、ギロロは今までに何十回も銃殺刑に処せられているはずだった。

「ほら見なさい!ギロロは、あたしのことが好きなのよ!あたしだって、ギロロのことが大好き!!
だから、もう、『一緒にいても、どうしようもない』みたいな事は言わないで!!」

「しかし、俺はケロン軍の軍人であって、
俺がここに来たのは、この地球(ペコポン)をケロン星の支配下に置くという目的を達成するためだ」

「そんなこと、わかってるわよ」

「だが、お前は、この地球を守ろうとする。もちろんそれは当然のことだ。
もし、俺がお前と同じ立場に置かれれば、お前と同じ、いや、それ以上の行動をとるだろう」

「…」

「だから、侵略する側の俺と、それを排除する側のお前は、どうしても相容れぬ存在、立場が正反対…」
「立場が反対でも!水と油みたいでもッ!!」
「…」
「でも…、あたしたち、遠い遠い星で生まれて、でも…、こうして出逢って…」
「…」

「大好きになって…」

夏美の美しいガーネットの瞳から、小粒の真珠のようなきれいな涙がぽろぽろと幾つも零れ落ちる。

671: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:32:18 vZLRMV3J
「夏美…」

ギロロは、すっくと立ち上がると、
別離を切り出して夏美を哀しませた我が身には最も相応しくない行動とは知りながら、
夏美のすぐ隣に座りなおす。
夏美は、ギロロの胸元に縋り付くように両の掌を押し当て、その掌にぎゅっと力を入れる。

「…だが、俺た…」
「いいから、あたしの傍にいて…!」

「しかし、夏…」
「あたしの傍にいなさいよ!」

「夏美、落ち着いてよく考…」
「うるさい!黙って、わたしの傍にいてよ!!ずっと、ずっと、私の傍にいなさいよ!!!」

「お願いよ!ギロロッ!!」
感極まった夏美は、ギロロにしがみつくように抱き付くと、ギロロの胸で激しく慟哭した。
ギロロは、その広い掌で、激しく震える夏美の肩先を宥めるようにそっと包む。

夏美は、ギロロの胸の中で何度も何度も大きくしゃくりあげ、喉を詰まらせる。
ギロロの掌が、夏美の背中を何回も優しく撫でた。

夏美の様子が少し落ち着いたのを見計らって、ギロロは再び説得を試みようとする。

「夏美」
「うん」
「お前の気持ちは、本当に嬉しい」
「うん」
「だが、やはり、俺たちは…」

ギロロが説得を諦めていないことを知った夏美は、
ギロロの胸元に埋めていた顔をさっと上げ、ギロロの黒曜石のような漆黒の瞳をキッと睨み付ける。
そして、ギロロの身体を突き放すようにして、それまで密着させていた上半身を離すと、
ネックストラップでギロロの胸元にぶら下がっているIDカードが入ったクリアホルダーを掴んだ。
そして、次の瞬間、その手を自分の胸元へと思い切り引き付けた。

「!」

クリアホルダーの上の取付金具がピン!と弾け飛び、
ネックストラップの紐だけがフニャリと力なくギロロの胸元へと戻っていく。

夏美の手には、IDカード入りのクリアホルダーだけがしっかりと握られている。

「アンタみたいな、たった一人の女の気持ちを受け止められないような意気地無しに、
大事な任務なんて、上手くこなせるはず、ないわ!!」

672: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:33:33 vZLRMV3J
夏美は、ギロロの瞳を睨み付けながらケースからIDカードを摘み出す。
そして、ケースを横にポイと捨てると、カードの真ん中あたりを両手の親指と人差し指で固く握り、
両肘を外側にグイッと張った。
そのまま夏美が両腕に力を込めて捻れば、IDカードはひとたまりも無く破れるか、無残に折れ曲がるだろう。

反射的にギロロはカードを取り戻そうと手を伸ばすが、夏美は素早く身をかわす。

「ちょっと待て!夏…」
「いいえ!待たないわ!アンタみたいな腰抜けで役立たずの兵隊がいると、
他の立派な兵隊さんが凄く迷惑すると思うの!だから、こうしてあげる!!」

夏美の両腕に、ぐっと力が入れられようとした、その瞬間…

「違うんだ!IDの裏側には、お前の写真があるんだ!!」

ギロロの切ない叫びに、夏美の身体全体がフリーズする。

「本当だ。裏を見てみろ…」

夏美が、細かく震え始めた指でカードをそっと裏返すが、自分の写真は無い。白い無地だ。

「…?」

「…『裏』というか、IDの“後ろ側”に、だ…」

言われたとおり、カードを持っている指を少しずらしてみる。

すると…

あった。

カードの裏側にピッタリと重なっていたから分からなかったのだ。

今は裏返しになっている、少し指の圧迫痕が付いてしまった写真を、恐る恐る裏返す。

確かに、自分の写真だった。

673: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:34:37 vZLRMV3J
どういう状況で撮影されたのかは定かではないが、
学校指定のカーディガンを着て、
いかにも小生意気に眉をちょっと吊り上げて左目でウインクをしている表情を、
左やや下から撮影したようなその写真は、紛れも無く夏美のものだった。

写真を見たまま再びフリーズしている夏美に、ギロロが優しく説明する。

「その写真は、俺がいつも肩から掛けているベルトのバックルの中に、“お守り”として入れているものだ」

「(あたしの写真を、“お守り”に…)」

いつも無茶ばかりしているギロロ。
真っ先に危険な場所に飛び込んでいくギロロ。

平和なこの国で暮らす平凡な中学生の自分には戦場の本当の危険さなんて分かりっこないけど、
兵隊さんていうのは、命ぎりぎりのところで働く職業だってことくらいは分かる。

そんな、生きて帰れるのが不思議なくらい危ない所へ行く時の心の支えとして、
あたしの写真を、いつも肌身離さず持っていてくれたんだ。

もし、ギロロに万が一のことがあったときには、
あたしの写真が、最後までギロロと一緒にいて、最期にギロロを看取ることになるんだ。

そんなにまでこのあたしのことを思っていてくれるギロロのこと、あたし、ひどい言葉で罵った…

夏美の身体が、ガタガタと震えだす。
ガーネットの瞳から止め処なく溢れ出る熱くて綺麗な涙が、絶え間なく頬を伝い落ちる。

「ごめん…」

「夏美…」

「あたし、ギロロのことを『意気地無し』って、言った…」

674: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:36:03 vZLRMV3J
「いいんだ」

「『腰抜け』って、言った…」

「気にするな…」

「本当に、ごめん…」

「夏美」

「本当に、本当に…、ごめんなさい」

ギロロは、夏美の傍にそっと座り直した。
それと同時に、二人は、どちらからともなく腕を伸ばして、互いの身体をとても愛しげに抱き締めあった。

「ギロロ…」
「ん?」
「あたし、ギロロがいないと、だめみたい…」
「俺も、やはり、夏美がいなければだめなようだ…」

ギロロだって、夏美を悩ませ泣かせようとして好き好んで将来の別離を話題にしたのではなかった。
今、わざわざこうしたことを話題にしたのは、もちろん、ギロロ自身の心を整理するためもあったが、
しかし、将来必ず訪れる凄まじい“矛盾”から夏美を守ろうとしてのことだったのだ。
だが、それを夏美に告げた結果、
誰あろうギロロ自身が、夏美無しでは生きられなくなっていたことに気付かされたのだった。

また、ギロロにこのタイミングを選ばせたのは、ギロロの『戦士の第六感』だった。

ケロロが軍本部に出頭してから一週間以上、そして、クルルが肝心な場面で妙に親切…
異変が起きるとすれば、それは近々中で、しかも相当大規模なものとなるだろう。

だが、自分自身の命令違反やケロン軍の武器の夏美への不当貸与などの利敵行為について、
今まで何とか軍中央に発覚せずにすんでいたのだ。これからだって、上手くやれるに違いない。

今日これまでの夏美との遣り取りを通じて、
ギロロは、ようやく、これからの人生を夏美のためだけに生きていく覚悟が出来たのだった。

675: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:37:06 vZLRMV3J
「ギロロ」
夏美が、ギロロの胸元を掌でゆっくりと撫でながらその名を呼んだ。

「ん?」
ギロロが、夏美の艶やかな赤い髪に顎先を埋めながらそっと返事をする。

「今まで、頼れる大人の男の人がいなかったの…」

「うん」

「そういう男の人が欲しかったの…」

「うん」

「やっと、見付けた…」

ギロロが、夏美を抱く腕にぎゅっと力を込める。
それに応えて、夏美も、ギロロの胸元にいっそう深く頬を埋めた。

「夏美」

「何?」

「俺は、お前の期待に応えられるような男かどうかは分からない。
だが、お前に寂しい思いをさせたり、哀しませたりするようなことだけは、しないつもりだ」

「ありがと、ギロロ…」

「夏美…」

「ギロロ…」

愛しげに互いの名を呼び合う二人の声が途切れ、柔らかな沈黙が訪れる。

ギロロは夏美の身体を優しく抱いていたが、しかし暫くすると、夏美の身体が少し重くなったように感じられた。
その呼吸も、静かに、規則正しくなっていた。

676: ◆K8Bggv.zV2
08/05/28 21:38:10 vZLRMV3J
「夏美…?」

返事が無い。

ギロロがそっと夏美の顔を覗き込むと、
幸せそうにふんわりと微笑んだ頬に涙の痕を残したまま、夏美はギロロの腕の中で寝入ってしまっていた。

無理も無かった。

平凡な中学生の女の子が、ほんの数時間のうちに、
恋愛の歓喜と地獄を体験し、その上、宇宙規模の問題にまで結論を出すことを強いられたのである。
その精神的負担は計り知れないものであったに違いない。

「夏美…」

その甘酸っぱい匂いを鼻腔いっぱいに感じながら、
ギロロは、自分の腕の中ですやすやと健やかな寝息を立てている大切な大切な女にそっと囁きかけた。

「お前を、必ず、護るから…」

677:名無しさん@ピンキー
08/05/28 21:42:00 vZLRMV3J
今回は、以上です。

だいぶお待たせしたのに、何だか、
新聞の一番最後のページの中段少し下に掲載されてる連載小説みたいになっちゃって、
すみません。

次回は、ギロロと夏美をイチャイチャさせてみたいと思います。

678:名無しさん@ピンキー
08/05/28 21:51:50 PoYuXYJw
>>691
乙!次回もまってるよ

679:名無しさん@ピンキー
08/05/30 00:49:48 hUpA4rMR
>>691
GJ!!やっぱギロ夏は最高だわ


680:名無しさん@ピンキー
08/06/04 19:13:50 XOjuIo/1
ギロ夏SSの続き、密かに楽しみにしてる

681:名無しさん@ピンキー
08/06/07 20:12:49 Li9cmR1n
トモキリン


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