06/12/21 00:38:09 bIikn7mK
「ばかぁっっっっ!!」
「うっせえっっっ!!」
少年と少女が、激しく睨み合う。
年の頃は十四~五前後。
腰まで届く長い髪を項の辺りで留めているのは、黒の学生服に身を包む少年。
ベリーショートの赤毛をバンダナで纏めているのは、青いブレザーに身を包む少女。
「いつもいつも、ボクのことバカにして、そんなに面白いの 何が男女よ、あんただってどう見たってオカマじゃない!!」
「偉そうに言うなよ! 手前ぇだって、人のことを女みたい、女みたいって、いちいちうっせんだよ!!」
バチバチと、火花が散る。
女性的な顔立ちの低身長の少年と、男性的な顔立ちの百七十㌢はある少女。
「何よ、まだ、ムケてないくせに偉そうに言わないでよね!」
「て、手前ぇ! 天下の往来で何トンでもねえ事言ってやがる! 手前ぇだってまだ生えてないくせによ!」
「い、言ったわね! もう知らない!!」
「うっせえ、バカ野郎!!」
互いに背中を向けて歩き出す少年と少女。
アーケード内は一瞬静まり返った物の、静かなざわめきに満たされていく。
町内一、騒がしいカップルの痴話喧嘩。
当人達が聞けば激怒しそうな見出しの話題が、町中に広がっていくのは時間の問題だった。
「うっ!」
慌ててティッシュをとり、ベトベトに汚れた手とそこを拭く少年。
その顔には、明らかな嫌悪感。
「……何やってんだよ、俺」
先程喧嘩した相手のことを思って、己を慰めている事実に、ただ怒りが込み上げてくる。
「……情けねえな」
本当は、少女と共にいられることが、少女を独占できていることが、少年にとって何よりの喜びだった。
なのに、顔を会わせれば口喧嘩。
感情を素直に表に出せない己に嫌気が差す。
「まあいいや」
無理矢理それを押しやり、もう一度深い溜め息を吐き出した。
「っ、くぅぅぅぅぅぅ!!!」
シーツの端を噛んで、嬌声を押さえる少女。
痙攣をつづけていた体から、ゆっくりと力が抜けベッドに長々と横たわった少女は、暫くして涙を澪し始める。
「……何やってんだろ、ボク」
幼い頃から隣にいた少年。
ただの幼馴染から、友達以上恋人未満になるのは分かり切ったことだった。
自分自身、少年を愛してしまったきっかけは覚えていないと言うのに、その思いはかき消せないほど強くなっている。
「バカだ……、ボク」
少年のことが好きなのに、一人で慰める時でも、いつも思う相手は少年だというのに、その少年の前に出ればいつも口喧嘩をするしかない自分。
「しょうが、ないのかな……」
少女の小さな呟きが、部屋の中に響いた。