■ 女が長身で男がチビのエロパロ! ■at EROPARO
■ 女が長身で男がチビのエロパロ! ■ - 暇つぶし2ch50:名無しさん@ピンキー
07/03/11 08:15:47 gkJdCvwT
>>47
GJGJ。只、なんか方言に違和感が。関西弁なのか?
と、関西人じゃない俺が言ってみる。

51:名無しさん@ピンキー
07/03/19 22:41:22 DueQc/cH
保守

52:名無しさん@ピンキー
07/03/28 21:34:28 By3qSx3E
保守!

53:名無しさん@ピンキー
07/03/31 16:31:06 60yaGbt4
バッチこいやぁぁぁぁぁ!!!!

54:名無しさん@ピンキー
07/04/05 16:02:37 1SrdXowq
>>47
こういう設定好きだ
がんがれ

55:名無しさん@ピンキー
07/04/12 20:38:27 Tg4+g6wh


56:名無しさん@ピンキー
07/04/12 22:21:42 bvwhDtsP
>>50
関西人のオレから言わせもらうと


やっばり違和感が…
職人さんは女性?



57:暗愚丸
07/04/13 08:32:31 gjU7viTM
えと、えらいお久し振りです。
やっとこ、三回目仕上がったので、投下します。

58:『僕らのルール』
07/04/13 08:33:01 gjU7viTM
 一悶着はあったものの夕紀と何とか別れて、自分たちの教室に向かう途中。
「……ひー君、ゴメンな」
 隣を歩く美鳥が声をかけてきた。
 心底反省していることは、しょんぼりと肩を落としている様子でもわかるから。
「まぁ、無理矢理仲良くしろとまでは言わないけど、もう少し大人しく出来ないの?」
「…………そんなん言ぅたかて」
 一瞬ふくれ面を浮かべて、すぐしょんぼりと肩を落とす美鳥。
 そんな美鳥の様子を、黙ってみていることなんて洋には出来なくて。
「ま、反省してるんならいいよ。でもね、他の人に迷惑かけたりしないようにしないとね?」
 呟きながら背伸びをして、ぽんぽんっと美鳥の頭を優しく撫でてやる。
 それだけで、嬉しさと照れくささを混ぜたように、にへ~~っと笑う美鳥に、思わず苦笑が浮かんだ。
 背伸びしないと格好が付かないことが、正直に言えば少し辛いけれど。
「ほら、早く教室行くよ」
「ん、そやね」
 そう言いながら、歩く速度を上げる美鳥。
 美鳥が三歩歩く間に、四歩踏み出してその隣に合わせる。
 きっと周りから見たら滑稽だろうなと、そんなことを想いながら教室に向かった。


 いつも通りにざわつく教室に入る洋。
 美鳥が窓際の一番後ろに向かうのを見ながら、自分は教壇の真正面の席に腰を下ろす。
 同時に、ぽんと肩を叩かれて洋は渋々振り返った。
 座ってる時点で視線を上げないといけない事実に、いつも通りに悔しさを感じながら相手を見詰める。
 がっしりとした体格に、立てば美鳥と同じくらいという高い身長の持ち主。
 小学校からの腐れ縁の悪友、大林建昭(おおばやし たてあき)が、二枚目半の顔立ちにだらしない笑みを浮かべていた。
「よ、おそかったっぺの、洋どん」
「……ふぅ」
「おや、溜息をつからはるとは、よっぽどつかれとるじゃっど。そげんこつではあかんとよ? ま、気持ちはわからんでもなかけん、今日もえーもん、みせてもらったさかいの」
 ……まいどの事ながら怪しい言葉遣いを続ける建昭をじろりと睨み上げる洋。
「気持ちゃわかりゃぁで、溜息ばっかついちょったら、せっかくの美顔がわるぐぎゃっっ!!」
「なんか、言った?」
 問答無用でみぞおちに一本拳を叩き込んだ洋は、不機嫌そうな表情を崩しもせずに建昭を睨み付ける。

59:『僕らのルール』
07/04/13 08:34:42 gjU7viTM
「ぐっ…………軽い、冗談だってば」
 机に伏せたまま、苦しそうに言葉を吐き出す建昭。
 それが単なるゼスチャーだと解っているから、冷たい視線を向けてぼそりと呟く。
「……そう言った冗句は嫌いだって、いつも言ってるでしょ」
「いや、そりゃわかっとりゃーで」
「なら、わざとらしくそんなこと言わないでくれる?」
「ま、それが大林君らしい所だと思うんだがね」
 建昭の背後から、少年が顔と口を出してくる。
 亜麻色のショートカットに、洋とは違う意味で整った美貌をハーフリムのシルバーフレーム眼鏡で隠す少年が、皮肉気な笑みを浮かべた。
「むぅ、その言い方はなかろうに」
「実際、君は頭よりも口の方が回転が速い、言うなれば馬鹿の典型だと思うが。少しは落ち着いた言動が出来ないものかい?
 ま、多少落ち着いたところで馬鹿を隠すことは出来ないがね」
 少年―洋の悪友、後藤釆が、いつも通りの毒舌を披露する。
 そんな釆に視線を向けた建昭が、なぜかすぐこちらに顔を向け直してきた。
 何となくその先の光景が予想できて、洋は深い溜息を吐く。
「あー、ったくこれだから予言者さぎゃっっ!!」
 ごずっ、と、耳慣れた音が響く。
 建昭の脳天に、ものの見事に国語辞書が命中していた。
 机に上半身を突っ伏して悶絶する建昭の姿に、洋は思わず苦笑を浮かべる。
 理知的な顔立ちに冷たい笑みを浮かべて、釆が建昭の背中を見下ろしていた。
「……気持ちはわかるけどさ、いくら何でも辞書はやりすぎじゃない?」
「君が気にかける必要などない。壊れ掛けの機械の修理方法は衝撃を与えるって言うのが、世間の常識だ」
「……俺は機械か、おい」
 ゆっくりと上半身を上げた建昭が、額に青筋を立てながら振り返る。
 その様子にただ苦笑するしかできない。
「いや、壊れかけて制御の聞かない迷惑極まる機械未満だ。常々言ってあるはずだ、その例えだけは許せないと。
ソレを覚えられないような低能が機械に勝る筈がない」
「別にえーやにゃーで。親御さんらの期待、一身に背負っちょん、なまえやねんかぇら」
「……両親は両親、僕は僕だ。オカルトライターなんて嘘つきが身内にいるだけでも恥ずかしいのに、大先輩の名前を借りたなんて馬鹿な事を言われて腹が立たない訳がないだろうが」
 ……そのまま、いつも通りに陰険漫才をはじめる二人を見て、苦笑と共に視線を巡らした。

60:『僕らのルール』
07/04/13 08:35:35 gjU7viTM
 雑談を重ねたり本や携帯に集中しているクラスメイト達を軽く流し見て、それから何とはなしに美鳥の方を見詰めてしまう。
 席に着いている美鳥の隣に、やけに大きな身振り手振りで話す赤茶のボブショート少女に、外見にはそぐわないたおやかな仕草を見せる金髪のツインテール少女が立っていた。
 そんな二人と話をしている美鳥は楽しそうで。
 ただそれだけのことが、洋にはとても嬉しかった。
 不意に、美鳥と視線が合って、嬉しそうな笑顔を向けてくる。
 同時に、美鳥の隣にいる少女達がこちらに視線をむけて来て、気恥ずかしさを感じてすぐに視線を逸らした。
 視界の片隅で、美鳥がしょんぼりとするのが見えて、ちくんっと胸の奥が痛みを覚えた。


 いつも通り、退屈そのもののHRに続けてはじまった授業を適当に聞き流す。
 脳裏に浮かぶのは、神戸に住んでいた頃の、美鳥がいつも側にいた頃のこと。
 美鳥の背は子供の時からかなり高くて、そのせいでいつもいじめられていた。
 無論、背の高さばかりではなく、可愛らしい顔立ちと気の弱さが、いじめっ子達の気を引いたというのも理由の一つ。
 そんな美鳥を助けるのは、いつも洋の役目で。
 そのことで陰口をたたかれるのが、すこし辛かった。


 公園の外れにある林の中、ただ一人だけでいる洋は溜息を吐いていた。
 木々の間から友達がサッカーをしているのが見えるけど、。
 本当は一緒に遊びたいけど、みんながみんな自分と仲良くしてくれるわけじゃないから。
 あの中でみんなを集めている少年が、美鳥をいじめてる中心だと解っているから。
 だから、あの環に入ることが出来ないだけ。
 そんなことを考えてる洋に向かって、美鳥が駆け寄ってきた。
 他に誰も来ないと知っているからか、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
『ひー君、ひー君!』
 すぐ側に来た美鳥が、洋の服の裾をぎゅっと掴んで見詰めてくる。
 上から見下ろされるのはやっぱりすこし悔しくて、それでもその気持ちを隠して美鳥を見詰め返す。
『なんの用や、美鳥?』
『用って、用ないと、ひー君のそばおったあかんの?』
 今にも泣き出しそうな表情で見詰めてくる美鳥に、洋はむすっとした表情を向ける。
 ついさっき、美鳥の事でからかわれたばかりで、あまりいい気分じゃ無かったから。

61:『僕らのルール』
07/04/13 08:36:31 gjU7viTM
『別にそんなわけないけど』
『ウチ、ひー君と一緒におりたいだけやもん』
 だけど、上から上目遣いで見られると、その気分もすぐに消え去る。
 この顔をされると、美鳥の言うことを聞いてやりたくなってしまうのだから。
 だから、手を伸ばしてぽんぽんと美鳥の頭を撫でてやる。
『ったく、しょうがないやつやなぁ』
 ただそれだけの仕草でにっこりと笑顔を浮かべる美鳥に、胸の奥がとくんっと跳ねた。
 それがなんなのか解らなくて、すぐにそっぽを向く。
『えへへ、そない言ぅてもひー君ちゃんとおってくれるんやもん』
『はいはい』
 両親達がそれぞれ親友同士で、しかも家も隣同士。
 物心着いた頃から一緒にいるのが当たり前で、ずっと一緒にいるんだとお互いそう思っていた。
『でもさ、もしボクがおらんようなったらどないすんねん』
 その言葉を口にした瞬間、美鳥の動きが完全に止まった。
 口をぽかんと開けて、ただ呆然とこちらを見詰めてくる。
『ひー君が、おらんよなる?』
『ああ、そや。ボクかてずっとお前の側おられるとは限らんやろ』
 一瞬、何が起きたのか解らなかった。ただ体中が温もりに包まれた事だけを理解して。
 少し遅れて、美鳥が抱きついてきているのだと気づいた。
『ひー君、ウチなんかした? なんかひー君怒るようなことしたん? うちイヤや。ひー君おらんよなるなんて、思うんもイヤや』
 ぎゅっとしがみついてくる美鳥。
 その姿にただ笑うことしかできない。
 洋だって美鳥とはなればなれになるなんて、考えたこともないのだから。
『アホ、怒っとうわけない。ボクだけやのうて、もっと他の奴と遊んだらどうや言うてんねん』
 ただ、こうしてくっつかれるのは恥ずかしくて、そんな風にしか言えない。
 途端に美鳥が更に強く抱きついてきた。
『ウチ、えーもん。ひー君おったら、ほか誰もいらんもん。ひー君はウチと一緒なんはいやなん?』
『そんなわけ、ないやろ。ボクだけやのうて、他の奴ともちょっとは仲良うしたどうや言うてんねん』
『ウチ、ひー君だけでえーもん』
 その真っ直ぐな言葉に、嬉しさと気恥ずかしさが入り交じって顔が赤くなる。
 美鳥がぎゅっと抱きついてくるのも恥ずかしさの一因で。
『アホ、二人だけやったらおもんないやん。お前やって、もっと友達つくったらえーやろ』

62:『僕らのルール』
07/04/13 08:37:12 gjU7viTM
 そう言いながら、何とか美鳥から離れる。
 こんな所を他の連中に見られたら、恥ずかしいし情けないから。
『でも~~』
 今にも泣き出しそうな表情で見詰めてくる美鳥。
 その気持ちがわかってしまうから、溜息を吐いてしまう。
『えぇか、美鳥。お前はやる気になったらなんでもできる。お前は宝石の原石や。磨けば思いっきり光れるんや。
友達だってたくさん出来るし、いじめられんようになれる。そやから、ボクと二人だけがえーなんて言ぅな』
 ついこの間、先生にしかられるときに言われた言葉を、そっくりそのまま美鳥に投げかける。
 きっと、納得してくれる。そう思ってた。
『でも~~』
 それでも、美鳥が泣き出しそうな表情を浮かべて見詰めてくる。
 だから、深い溜息を吐きながら見詰め返した。
『あんな美鳥』
『ん』
 一瞬だけ、何か言いたげな表情を浮かべる美鳥に、洋は笑って見せる。
『ちゃんと、一緒にいたるから。ずっと一緒におったるから。やから、お前もがんばれんか?』
『ひー君?』
『美鳥が……、みーちゃんが怖い言うんやったら、ボクが守ったる。やから、みーちゃんもがんばってみーへんか?』
 ぱちくりと目をしばたかせて、美鳥がじっと見詰めてくる。
 それが気恥ずかしくて、そっぽを向くより早く、美鳥がまた抱きついてきた。
『ちょっ! みーちゃん!』
『ひー君、ウチがんばる! がんばるから、ちゃんとお嫁さんにしてくれるんよね!』
 いきなり唐突に飛び出した言葉。
 開いた口がふさがらず、呆然と美鳥を見詰めてから、はっと我に返った。
『って、なんでいきなりそうなんねん!』
『だって、ひー君ずっと一緒におってくれるんやろ? おかーさん達言ぅてたもん。お嫁さんになったら、ずっと一緒におれるって』
『いや、確かにそやけど』
『ひー君とやったらえーもん。ウチ、ひー君のお嫁さんになりたいもん。そやから、ウチ頑張るから、ひー君のお嫁さんにしてくれるよね』
 すぐ近くに、嬉しそうな笑みを浮かべる美鳥の顔があって、きっと大きくなってもずっと一緒にいられると信じられて。
 ずっと、一緒にいたいと願っていて。
『うん、えーで。大きなったら、ちゃんとケッコンしたる。約束や』
『うん、約束!』

63:『僕らのルール』
07/04/13 08:37:50 gjU7viTM
 ふと気がつけば、授業時間も終わりに近づいていた。
 かなり長い時間思い出に浸っていたことに、洋は内心で溜息を吐いた。
 それもこれも、夕紀が絡んでくるようになって、美鳥が以前よりも更にきわどい行動をするようになったせい。
 洋にだって、美鳥が迫ってくる理由も、その気持ちも解っている。
 だけど、今はまだその気持ちに答えることが出来ない。
 大事だから。
 美鳥のことが誰よりも大事だから。
 だから、もう一度内心で溜息を吐いた。

64:暗愚丸
07/04/13 08:44:55 gjU7viTM
ってことで、レス下さった皆様、有り難うございます。
本文で書きましたが、洋と美鳥のは広義の関西弁です。
正確に言うと神戸弁です、はい。
関西=大阪ではないと、こっそり言いたかったり。
次回はいつになるか解らないですが、出来れば早めにお送りしたいなぁと。
それでは、失礼。

65:名無しさん@ピンキー
07/04/21 17:53:31 jBRMzXor
GJ!!!

66:名無しさん@ピンキー
07/04/26 23:36:04 Q5f/FcVA
保守

67:名無しさん@ピンキー
07/05/05 02:17:23 5S9iDXsR
こういうのいい!!

68:名無しさん@ピンキー
07/05/14 23:17:43 KuGmFsvK
これは期待だな

69:名無しさん@ピンキー
07/05/23 11:35:49 7cOCLxNx
バレー選手と中学生か、チビフリーターあたりと絡ませたいけど、
このスレって女側がSなの?Mなの?

70:名無しさん@ピンキー
07/05/23 21:18:45 sRdv3zZM
特に決まってないと思う
ので、投下期待

71:名無しさん@ピンキー
07/05/28 18:16:47 NkT6ZeLQ
長身の彼女
スレリンク(lovesaloon板)

72:名無しさん@ピンキー
07/06/06 21:41:30 av8KSrSd
保守

73:名無しさん@ピンキー
07/06/06 22:53:59 97grU1jB
>>23
俺漏れも。幾つだおまいは

74:名無しさん@ピンキー
07/06/11 00:57:28 h4/IYgbZ
保守

75:名無しさん@ピンキー
07/06/19 02:38:14 pA3EdblW
保守

76:暗愚丸
07/06/21 10:04:09 T+vfosB2
ってことで、忘れられた頃にひっそり投下。
四話目です。

77:『僕らのルール』
07/06/21 10:05:09 T+vfosB2
 四時間目の授業が終わると同時に、洋は教室から飛び出した。
「ひー君!」
 美鳥の声を聞きながして、洋は廊下を走る。
 周囲にも同じ様に走ってる生徒達がいるが、いつものことだから相手にしない。
「美鳥! 席取りっ!」
「うんっ! ウチ、適当に定食な!」
「解った!」
 美鳥の声に応えつつ、洋は走る。
 学食に向かって。
 古関高校の学食は味の良さと内容の非凡さで、近隣に名を轟かせていた。
 校長個人の人脈らしいのだが、一流の料理人が監修する料理が出されているのだ。
 冗談ではなく、学食目当てで古関高校を選んだ生徒もいる辺り、その質の高さも知れようと言うもの。
 特に、先着五十人までのスペシャルランチは、学食で出されているとは信じられないほどの味とボリュームで、毎日こうして凄まじい争奪戦が繰り広げられている程だ。
 身を屈めて、他の生徒達の間をかいくぐる。
 こんな時にしか有利に働かない自分の小柄さに少しだけ苛立ちながら、洋は件の学食に一番手で飛び込んだ。
 ファミレス並にきっちりした内装は、高校と言うよりは大学の有名カフェ提携学食を彷彿とさせ、漂う薫りは胃を強烈に刺激してくる。
 そのまま券売機に駆け寄って、スペシャルランチと、ロールキャベツ定食の食券を手に入れて、ほっと一息つく洋。
 後は食券を交換して美鳥が取っている席に行くだけ。
 カウンターに向かう洋の目に、今日のスペシャルランチの見本が映る。
「今日のスペシャルは、極厚トンカツ定食……、ってまた無茶なメニューだよなぁ」
 自身、料理好きでは人後に落ちない洋だからこそ、そのメニューの無茶苦茶さが理解できた。
 5センチという非常識な厚さのトンカツなど、普通に作ろうとすれば生焼けか揚がりすぎて食べられたものではない。
 低温と高温の油による二度揚げをしているのだろうが、きちんとしたトンカツ専門店ならまだしも、たかだか学食で出すにはあまりにも手間が掛かりすぎている。
 今度、家でやってみようかな、とそんなことを考えながらカウンターに向かった洋は、背後で起きた悲鳴にただ苦笑した。
 スペシャルランチを手に入れることが出来なかった悲鳴もまた、ここでは日常茶飯事なのだから。
 ……しかも、それが毎日必ず響く建昭の声ともなれば、苦笑しても当たり前と言うもの。
 あそこまで間が悪いと、有る意味狙っているやっているんじゃないかと思うくらいだ。
 スペシャルランチ用カウンターで食券を差し出す洋に、調理師―うら若い美人女性―が笑顔を向けてくる。
「スペシャル1、大和煮1、入りまーす。……でもまぁ、凄いね君。毎日、必ずスペシャルランチとってるのって、君くらいだよ?」
 料理が出てくるまでの間、調理師が笑顔を浮かべて話しかけてくる。
 洋も笑顔を浮かべながら答えを返す。
「まぁ、変わったメニューが多いですし、しかも安いですから。この内容で、五百円なんてホントにやっていけてるんですか?」
「あはは、五十食限定だからぎりぎりね。そうじゃなかったら、倍の値段は付けるわよ。何しろ、ちゃんとした職人さんレベルの料理技術が必要なんだもの」
「でしょうね。この間のステーキ定食なんて、オーストラリア産の赤身肉なのに、黒毛和牛レベルくらいに柔らかでしたし」
 思った通りの事を口にした瞬間、調理師はクスリと笑ってみせる。
 それから、少し真剣な表情で見詰め返してきた。
「あれ、赤身肉って気づいたの君くらいだよ。料理とか得意なのかな?」
「一応、それなりに」
「それじゃ、今度お姉さんと料理談義に花を咲かせてみない? 君みたいな可愛い子とおはなしするのって楽しそうだし」
「あー、いえ、謹んでご遠慮させて頂きます」
 背後からの異様な圧力に気づいて、内心冷や汗を浮かべつつ洋は答えを返す。
 ……スペシャルランチの人気の中には、できあがるまでの間、気さくで若い女性調理師と話が出来る機会があるということも含まれているのだ。
「んー、それは残念。あ、料理出来たわね。それじゃ、又、明日ね」
「はい、失礼します」

78:『僕らのルール』
07/06/21 10:05:53 T+vfosB2
 調理師と笑顔を交わし合って、二枚のトレイを器用に持ち上げた洋は、美鳥の待っているいつもの席に向かって歩き出す。
「……流石、女同士。話が良くあって結構なこったな」
 不意に背後で嫌味な呟きが聞こえた。
 ぐっと奥歯を噛みしめる洋。
 客観的に見て、自分が女に見えると言うことくらい自覚している。
 いつも日本全国を飛び回っていた両親のせいで、身につけざるを得なかった料理の腕もそう見える事に拍車をかけていると解っていた。
 例えばこれが、町中や人気の少ない場所なら問答無用でケンカを売り返すけれど、今は両手もふさがっているし学食の中だから、辛うじて我慢した。
「へっ。制服間違えてんじゃねえの? 女の子なら女の子らしく、スカートはいとけよ」
「おい、やめとけよ」
「だぁってろ。聞こえないふりかよ、この臆病者」
 いらつきながらも、無視し歩き出そうとした瞬間。
 聞き覚えのある声が響く。
「そう言うアンタの方が臆病者でしょ!」
 振り返った洋の目に、特徴的なサイドポニーが飛び込んできて。
 思わず、小さな溜息を吐いてしまった。
「なにが女同士よ、なにが制服間違えてるよ! 洋さんはアンタみたいな女の腐ったような奴とは違って、男らしい人なんだから」
「はぁ? あれのどこが男らしいって?」
 夕紀が男子生徒の一人に噛み付いている。
 相手は、身長おおよそ一九〇センチ弱の男子。
 その顔と体型に見覚えがあった。
 常に全国区でベスト4に入るバスケ部で、一年なのにレギュラーに抜擢された生徒だ。
「コタにはわかんないだけでしょ! 人のことえらそうに言えるほどまともでもない癖に、えらそうに言ってんじゃないわよ!」
「……お前に、何が解るってんだよ」
 コタと呼ばれた生徒と夕紀の間に、火花が散る。
 自分が発端なのに、無視するわけにも行かなくて。
「あー、樋山さん。僕は気にしてないからさ」
 一応背後から声をかけるが、夕紀は振り向こうとすらしない。
「大体、昔から後先考えずつまんないこと口にして、アンタがまともな目に遭った事なんてない癖に! もうちょっと言葉遣いってのを考えたらどうなのよ!」
「るっせぇな。いつまで幼馴染みでいるつもりだよ。手前ぇの方が縁切りとか言ってたくせによ」
「アンタが余計なことばっかり言ってるからでしょ!」
「樋山さん、もう、いいから」
 もう一度背後から声をかける洋。
「あーもう、ウルサいっ! この馬鹿をどうにか…………あ」
 振り返りながら、びしっと鼻先に人差し指を突き付けてきた夕紀が、そのままフリーズする。
「僕は気にしてないからさ、早くご飯食べた方が良いよ。他の人の迷惑になるしね」
「あ、いえ、えと、御免なさい、洋さん」
 慌てて頭を下げる夕紀に、ただ苦笑を浮かべる洋。
 そのまま、美鳥のいる席に向かって歩き出す。
 夕紀もソレに合わせて動こうとして。
「……へっ。二股かけるなんて非常識にしてる癖によ。手前ぇみたいのはでっかいのだけ相手にしてりゃ良いんだよ」
 もう一度聞こえてきた声。
 『でっかいの』……、美鳥のことをそう呼んだことが許せなかった。
 例の相手が異常なまでに厳しい視線を向けてくる。
 ソレに、少し訝りながらも、洋は笑みを浮かべて見せた。
 その相手だけでなく、洋に視線を向けていた全ての生徒が同時に顔を引きつらせる程、凄みののある笑みを。
 元々美少女顔と言われるほどに整っている顔立ちだからこそ、洋が浮かべる冷たい笑みは異常な迫力を持っているのだ。
 ソレを知っているからこそ、洋はただ笑みを浮かべて見詰めただけで、直ぐにまた振り返る。
「洋さん?」
「いや、なんでもないよ」
 夕紀の不思議そうな問いかけに普通の笑顔で返して、突き刺さるような視線を感じた。
 その視線の元は、言うまでもなく美鳥。
 そのふくれっ面に苦笑を浮かべながら、洋はそちらに向かった。



79:『僕らのルール』
07/06/21 10:06:50 T+vfosB2
「……なんでそいつが一緒に来るん?」
「アンタにソイツ呼ばわりされたくないんだけど?」
 美鳥と夕紀がいきなり噛み付き合う。
 その様子に苦笑を浮かべながら、洋は美鳥の前に定食のプレートを置いて、自分はその隣に腰を下ろした。
 夕紀も洋の正面に座りながら、それでも美鳥を睨み付ける。
「二人ともご飯の最中くらい仲良くしなよ」
 苦笑混じりに呟いた洋に、渋々といった様子で二人が視線を逸らす。
 今はソレが限度だと解ったから、内心溜息を吐きながら洋は定食に箸を付けた。
「……今日のスペシャルはまたごっついねぇ。いっつも思うんやけど、ひー君よぅそんだけ食べよぅなぁ」
「ま、おいしい物を沢山食べて、運動を沢山すれば健康間違いなしだしね」
 美鳥の言葉に答えを返しながら、極厚カツにかぶりついた洋は、そのまま絶句した。
 厚さとは裏腹に非常に柔らかで簡単に噛み切れて、たっぷりの肉汁が口の中にあふれ出す。
 衣のサクサク感が、肉の柔らかさとジューシーさを更に引き立たせて、慌ててご飯に手を伸ばした。
 ご飯との相性も抜群で、信じられない美味さに一人頷く。
「……ひー君、そんなに美味しいん?」
 羨ましそうな表情でじっとこちらを見詰めてくる美鳥。
 コクコクと頷きながらふた切れ目に箸を伸ばして、期待の眼差しでじっと見詰めてくる美鳥の口元に差し出す。
「あーん、あむ……もぐもぐ…………」
 半分くらいを囓り取った美鳥が口を動かすのを見ながら、残った分を自分の口元に運んで、ご飯をいっしょに掻き込んだ。
 暫しの間。
「……美味しいなぁ、コレ。なんだかんだ言ぅてやっぱスペシャルはごっついねぇ」
 ほんわかした笑みを浮かべながら呟いた美鳥が、半分に切ったロールキャベツを差し出してくる。
「はい、ひー君にもお裾分け」
「ん、はぐ」
 十分に染み込んだスープが、柔らかくなったキャベツと粗挽き肉に絡んで口の中に広がる。
 相変わらず、学食レベルとは思えない美味さに唸りながら飲み込んだ。
「やっぱり、此処のは全部美味しいよね。今度再現してみたいな」
「ひー君やったら、簡単に出来るやろね。メッチャ楽しみや」
 嬉しそうに笑う美鳥に頷き返しながら、じっと見詰められている事に気づいて、洋は視線を前に向ける。
 夕紀が、決意の表情を浮かべていた。
「……えと、洋さん。良かったらどうですか?」
 そう言いながら、カレーをすくったスプーンを差し出してくる夕紀。
 一瞬、冷や汗を浮かべて、洋は考え込む。
 美鳥とのおかずのやりとりはいつものことだけど、さほど親しくもない夕紀とそんなことをする気にはなれない。
 そんな当たり前のことを、それでも出来るだけとげが無いように伝えるにはどうすればいいか、そんなことを考えて内心で溜息を吐いた。
「えと、夕紀さんに悪いからいいよ」
 微笑みを浮かべて首を横に振る洋。
 しゅんと肩を落とす夕紀に、少し悪いことをしたかなと思ってしまう。

80:『僕らのルール』
07/06/21 10:09:42 T+vfosB2
「そんな親しいわけやないのに、そんなんするなんて恥ずい奴やね」
 いきなり横から聞こえた声に、洋は思わず視線を美鳥の方に向けた。
 美鳥が、暗い悦びを乗せて嗤っていて。
 胸の奥がずきんっと痛んだ。
 美鳥には笑っていてほしい。ヒマワリのような、太陽のような、朗らかで明るい笑顔でいてほしいから。
「美鳥」
 だから、呼びかけが咎めるような物になってしまうのはしょうがないこと。
「……何、ひー君?」
 こちらに視線を向けてきた美鳥の浮かべる、どこかすねたような表情にまた胸が痛む。
 洋だって、美鳥が悪くないことは解っているけど、それでもどうしても放っておくことは出来なかった。
「そんな言い方しちゃダメだろ」
 そのつもりは無かったけれど、言葉尻が強く響いて。
 美鳥が傷ついたように項垂れる。
「…………もうえぇわ」
 ポツリと呟いた美鳥が、そのまま定食を凄い勢いで食べ始める。
 見る間に食べ終わった美鳥が、そのまますっと立ち上がった。
「ごちそうさま、ウチ、先戻っとうから」
「あ、美鳥!」
 洋の呼びかけに応えようともせずに、美鳥がそのまま食器を返しに行く。
 それを黙って見過ごすわけにはいかなくて。
「その、洋さん。よかったらこのまま一緒にお話……」「ごめん」
 夕紀がおずおずと話しかけてくるのを、遮って洋も慌ててご飯を掻き込んでいく。
 本当ならそのおいしさに舌鼓を打つところだが、今はそんなことに構っている暇はない。
 立ち上がって背中を向けた美鳥。
 その目が少しだけ潤んでいることを見て取っていたのだ。
 放っておく訳にはいかない。
「ごちそうさま、ゴメン樋山さん。ちょっと用事があるから」
 立ち上がった洋は、そのまま食器返還のカウンターに向かう。
「…………ですか…………なら」
 背後で夕紀が何かを行っていたような気がして、それでも振り返るつもりにはなれなかった。


「美鳥!」
 小走りで教室へと急いでいた洋は、途中の廊下で美鳥を見つけた。
 呼びかけながら立ち止まって息を整える。
「……何、ひー君」
 いつもは見ることのない、冷たい表情の美鳥。
 美鳥がそんな表情を浮かべることが哀しくて、洋は一瞬言葉を続けることが出来なかった。
「用事無いんやったら、気安ぅよばんとってや。あいつんとこ行って、楽しぅ話しとったらえぇやん」
 拗ねてるだけだと、きっとそうだと思ったから。
 洋は一度深呼吸して、美鳥をじっと見詰めた。
「ねぇ、美鳥。美鳥はなんで樋山さんのことあんなに毛嫌いしてるの? 美鳥も樋山さんも、僕の友達なんだから、友達同士仲良くして欲しいって思うのはいけないのかな」
 本当は、美鳥が友達だなんて、思っていない。
 誰よりも大事で、何よりも大切な、自分の全てをかけても悔いは無いと、素直にそう思っている相手だからこそ、今は自分の気持ちをさらけ出すことは出来なくて。
「……そうやね。ウチは、ひー君の、友達やもんね」
 だから、自分が言い間違えたことに、洋は気付けなかった。
 美鳥がじっとこちらを見詰めてくる。
 その冷めた瞳に、また何も言えなくなってしまう洋。
「ひー君にとってはあいつは友達かも知れんけど、ウチには友達でも何でもない。そんなんと仲良うせぇなんてそんなん無理や」
「でもさ」
「でもも何もない! ウチはあいつ嫌いや! 嫌いな奴と、嫌われてる奴と仲良うなるなんて、ウチには出来ん! そんなに仲良うしたい言ぅんやったら、ひー君だけがあいつと仲良うしとったらえーやんっ!!」
「美鳥っ!」
 いきなり叫んだかと思うと、美鳥が全力で走りだした。
 今すぐ追いかけてもきっときちんと話せないことだけは、何となく理解できたから。
 洋は小さく溜息を吐いて、そのままとぼとぼと歩き出した。
 周囲から聞こえてきたひそひそ声は、無視して。

81:暗愚丸
07/06/21 10:12:54 T+vfosB2
ってことで、久方振りです。
レス下さった方に感謝します。
いやまぁ、メインでやってる某スレではいろえろ書いてたんですが、なかなか筆が進まずに(ぉ
ってか、保管庫のお手伝いとかやってて、余計に書く暇が無くなったりしてるわけで。
えと、次回までこのスレが保ってることを祈りつつ、ではまた。

82:名無しさん@ピンキー
07/06/22 17:34:20 zaF7yqdQ
>>81
忘れちゃおらんよGJ!
ハーレムルートを突っ走れ!!

83:名無しさん@ピンキー
07/07/02 23:44:23 NhRZBApr
保守

84:名無しさん@ピンキー
07/07/05 22:00:04 5KfAXIQD
保守age

85:名無しさん@ピンキー
07/07/12 18:11:32 EYQXeSpX
こんな所があったのか
いや、素晴らしい場所を見つけた

>>81暗愚丸氏
全部見ました、GJ!
次回も楽しみにしてます、も一度GJ!

86:名無しさん@ピンキー
07/07/17 14:50:20 bH2aPaXN
>>85
情報室見てるとこういうスレの発掘が楽になるからオススメ。
圧縮が近付いたら自分の気に入ってるスレも守れるし。

87:名無しさん@ピンキー
07/07/21 15:18:55 i4CFoMkv
一ヶ月

88:名無しさん@ピンキー
07/07/28 01:05:42 4N+AX9kO


89:名無しさん@ピンキー
07/08/02 23:23:47 wXCfXoQW
期待

90:名無しさん@ピンキー
07/08/06 21:44:21 0IwmBx16
中性的でシャイな男
90年代中頃でしたでしょうか、「フェミ男」などという言葉が流行りだした頃から、ちょっと中性的でシャイな男がモテるようになりました。
私自身は古い人間ですので、男はちょっと強引なくらいが好みです。
が、最近は特に、女性が年上のカップルも増え、可愛い男、シャイな男が好みだという御姉様方も多いようです。
シャイな男というのは、自ら果敢に攻めるということがないため、気が強くてちょっとわがままな女性や、しっかり者でリーダーシップのとれる年上の女性と付き合うことが多いようです。
ただし、私について来いと言わんばかりの強引なだけの女はNG。いくらシャイでも男は男ですから、弱さや可愛らしさという女の「隙」がなければ恋愛には発展しにくいものです。

俺様系の強引男
俺様系の強引男というのは、男としてのプライドが高く、どちらかと言えば女性を卑下する傾向も強いのが特徴です。
女に対しては綺麗でか弱いという幻想を抱いていることも少なくありませんですので、自分より有能そうなバリキャリの女性や、男勝りで女らしさに欠ける女性などは敬遠しがち。
しかし、じつは俺様系を前面に出している男性こそ、内面は意外と繊細で脆いものです。
弱い犬ほどよく吠える、というアレですね。人間関係で躓いたり、仕事で失敗した時などは、つべこべ言わず優しく側にいてくれる、癒し系の女性に惚れやすいでしょう。
普段は自分が主導権を握っていても、いざという時は女性に甘えるのが俺様系の強引男です。


91:暗愚丸
07/08/18 11:25:24 WrTwMlqR
……なにはともあれ、こっそり投下
今回ちょっと長いです

92:『僕らのルール』
07/08/18 11:26:22 WrTwMlqR
 ……気がつけば、五時間目の授業が終わっていた。
「……はぁ」
 深い溜息を吐きながら、斜め後ろに視線を向ける。
 自分の席に座っている美鳥と目が合って。
 冷たい表情のまま視線を逸らされたことで、洋の胸の奥に痛みが走った。
 いつもと同じ二人組と話し始める美鳥をこれ以上見ることが出来なくて、洋はそのままぐったりと机に上体を預けた。
 ケンカ自体は美鳥が家に来てから何度かしたことはあった。
 けれど、ソレはいつも美鳥のだらしなさや甘えすぎに洋が怒るだけのことで、大体なし崩し的に仲直りしていたから。
 こんな風に本気のケンカなんてしたことがなくて。
 どうすべきか解らなくて、洋は何も出来なかった。
 今下手に声をかけても、何を話せばいいか解らない。
 だけど、放っておいても解決なんてするはずがないことも理解している。
 家に帰ればイヤでも顔をつきあわせることになるし、そんなときまでこんなもやもやした気分を引きずる訳にもいかない。
「洋殿、大丈夫でござるか?」
 背後から建昭の声がかけられると同時。
「るっさい」「ごはっ!」
 振り返りもせず無造作に放った裏拳に、見事な手応えが返ってきた。
 ……わざわざ体を前に傾けて話しかけていたのだろう。
 そうでもなければ当たるはずのない一撃で、元々軽い威嚇のつもりでしかなかったのだ。
「ぐぬぅ……、いくらなんでも、声かけただけで、裏拳はなかろ」
 悶絶中にもかかわらず声を投げかけてくる建昭を無視して、また机に突っ伏す。
 何を言われても相手にする気にはなれないから。
「あらあら、不機嫌なんですね?」
 不意に脇から優しい声をかけられて、渋々顔を上げる洋。
 いつも美鳥と一緒にいる二人組の片割れ、金髪碧眼のツインテール少女が、にこやかな笑みを浮かべて立っていた。
 どう見ても白人にしか見えない顔立ちで、諸々の仕草が典型的日本美人の様に落ち着いている姿は、色々な意味で人目を引くもの。
「河音(かわね)……、なんか用?」
 両親共に白人だが、国籍上は立派な日本人という微妙にややこしい経歴の少女。
 河音澄香(すみか)の姿に、洋は少しも不機嫌さを隠さずに視線を向ける。
 澄香も、建昭と同じく、こちらに越してきた頃からの友人で、中学の時には一悶着あった相手だったから。
 美鳥に向けるのと同じ、普通の言葉遣いで問いかける。
「いえ、美鳥ちゃんと何かあったみたいで心配になりましたの。お二人にはちゃんと仲良くして頂かないと」
 にこにこと笑う澄香の言葉に、ぐうの音も出ずに洋は溜息を吐く。
 渋々顔を上げて、左側に立っている澄香に視線を向けた。
 ゲルマン系コーカソイドらしからぬ低い身長―洋よりも少し低い―に、年齢や身長からみると意外な程の豊かさを誇っている胸が、真っ先に洋の目に入ってくる。
 それが恥ずかしくて視線を逸らすのと同時に、くすりと澄香の笑う声が聞こえた。
「それで、滝沢君はどうして美鳥ちゃんとケンカされているんですか?」
 あまりにも直球な澄香の問いかけに、洋は応えることなく頭を腕に預ける。
「普段だったら、滝沢君が怒って美鳥ちゃんが肩を落とすのが普通だと思いますけど、今回はどうも逆みたいですし」
「……ん、まぁ、確かにそうだけど」
「ケンカしたときは直ぐに謝る、これが一番だと思います。私も彼とケンカしたときは、直ぐに謝りますし」
 喜色を浮かべたその声に、何となく澄香の視線が後ろに向いてるのを何となく察知した。
 澄香は、釆と付き合っているから。
「それは、そうだけどさ」
 澄香の言いたいことは洋だって理解している。
 だけど、今の美鳥はきっと洋の言葉をまともに聞いてくれない。
 謝ってもどうして謝るのかと噛み付いてくるだろうし、結局そのまま口を閉ざしてしまう事も解っていたから。
「ふぅ……。このまま、終わってもよろしいんですか?」
 不意に耳元で声が聞こえた。視線を向ければ、澄香が上半身をまげてこちらの耳元に唇を近づけている。
「もしかして、洋君は自分の気持ちを変えてしまったんですか?」
「…………そんなことは……ないけど」
 自然、声を低めながら答えを返す洋。
 澄香がこちらの呼び方を変えた理由に、見当がついてしまったから。
「それでしたら、いい加減告白したらいかがなんです? ……私にはその気持ちを告げているのに、当の本人には話さないなんて、本末転倒ではないんですか?」
 澄香の声に苦笑の気配を感じて、洋は深い溜息を吐いた。


93:『僕らのルール』
07/08/18 11:27:17 WrTwMlqR


『私は、洋君のことが好きなんです』
 中学の二年になって直ぐの頃。
 校舎裏に澄香に呼びだされて聞かされたのは、そんな言葉だった。
『洋君がいてくれたから、私はイジメられることもなくて、友達だって出来ました』
『別に僕のせいじゃないと思うけど』
 その時は確かにそう思った。
 澄香にたくさんの友人が出来たのは、澄香自身が頑張ったから。
『でも、洋君がいたから、私はイジメから抜け出せたんです』
 澄香がイジメられていたのは小学生の頃で、その姿が何となく美鳥とだぶったから助けただけ。
 澄香のことは、大事な友達でそれ以上でも以下でもない。
 そのことをどう告げるべきか、悩んだのは事実だった。
 澄香は確かにかわいいし、イジメに負けずに明るくなってからは、クラスどころか学校でも一~二を争う人気者になっていた。
 きっと澄香に告白されたという話をしただけで、ケンカを売られてもしょうがないだろう。
『洋君は、私にとって道しるべなんです。私も洋君みたいに明るくなりたい、優しくなりたい。そう思ったから、あの時そう思えたから、今私はこうなっているんです』
 その真剣な告白は、確かに胸を打つもの。
 もし、それが最初だったら、きっと洋は何も考えずに受けて入れていただろう。
『ゴメン』
 だけど、洋の心にはもう一人の女の子がいた。
 澄香の気持ちは嬉しいけれど、洋にとってはその方が大切だったから。
『……謝らないで下さい。何となく、こうなるんじゃないかなって思ってましたから』
 にこりと笑顔を作る澄香の頬を、つっと涙が伝い落ちた。
 そんな寂しげな微笑が悔しくて、だけど言葉を探すことが出来なくて。
『それで……、洋君の好きな人は誰なんですか? 教えてくれますか?』
 淡々とした言葉が澄香から向けられた。
 それはちょうど良いタイミングだったのかも知れない。
 その問いかけがなかったら、洋には自分の気持ちを口にすることなど出来なかったのだから。
『僕がこっちに来る前に住んでた神戸に、幼馴染みがいるんだ』
 おずおずと口を開く洋に、澄香は何も応えずじっと見詰めてくる。
『青間美鳥っていうんだ。背が高いせいでいつもイジメられてて、人の周りにいるのがイヤで僕の後ろをずっと着いてきてた』
 呟いて、その印象を思い出す。
 身長がクラスで一番大きかった男子よりも高くて、洋がいるときはいつもヒマワリの様な笑顔を浮かべていた美鳥。
 だけど、他の子に話しかけられると、直ぐにうつむいてぼそぼそと小さな声で話していた美鳥。
 時々手紙やメールのやりとりをすることはあるけれど、直接顔を合わせる機会はあまり無くて。
 それでも、大分明るくなっていることだけは、漏れ聞いていた。
『僕だけがいればいい。僕さえいれば他の誰もいらない。こっちに来る少し前にそんな風に言われてさ……。それが哀しくて、僕は誓ったんだ。美鳥の面倒を最後まで見るって』
『それって……』
『うん、いわゆる子供の遊びで良くやる結婚の約束ってやつだよね。でも、僕は本気なんだ。美鳥がどう思ってるか解らないけど、僕は美鳥を好きだから。美鳥を幸せにしたいって思ってる』
 自分のことを好きになってくれた人だから、自分の気持ちを包み隠さず伝えたかった。
 大事な友達だったから、これからも友達でいたかった。
 だから洋は自分の気持ちを包み隠さず口にした。
『その青間さんっていう人は幸せですね、そこまで想ってもらえるなんて。……解りました、洋さんの隣に立つことは諦めますね。でも、友達ではいて下さいますよね?』
 寂しげだった微笑みを、優しい苦笑に変えて見詰めてくる澄香に、顔を赤くして頷く洋。
 こちらに越してきてから他の人に美鳥のことを話すのははじめてで、自分が抱いている決意を見つめ直したことがやっぱり恥ずかしかった。

94:『僕らのルール』
07/08/18 11:28:24 WrTwMlqR


「でも妬けちゃいますよね。六年越しの片想いを今でも大事にしているんですから」
 にこにこと笑いながら澄香が話しかけてくる。
 それには応えずに突っ伏した頭を組んだ両腕に押しつけた。
「いい加減、自分の気持ちに素直になるのはいかがです? 私の時にははっきりとおっしゃったんですから、最近まとわりついてるあの子にもはっきり言えばいいのに」
 その夕紀を指す言葉に僅かな棘を感じて、洋は顔を上げる。
 不機嫌そうな表情で澄香がこちらを見詰めていた。
「あの子を放っておくと、どこまでも無茶苦茶になりかねません。美鳥ちゃんと洋君の仲が壊れるのなんて、私は見たくないですから」
 その言い方に、小首をかしげてしまう。
 美鳥が夕紀を嫌うのは解らないでもないけれど、少し離れているはずの澄香さえそんなことを言い出すのが不思議だった。
 澄香が他人に対してあからさまな敵意を向けることなど、洋は見たことがない。
 イジメられていた頃でさえ、ただ泣くだけでいじめてきた相手を嫌っていなかったはずなのに。
「それに、もう良い機会だと想うんです。洋君も美鳥ちゃんもお互いを大事に想ってることは端から見てても解りますし。
だから、つまらない義務感や責任感で自分の気持ちを抑えるのはやめた方が良いと思います。私が言いたいのはそれだけですから」
 すっと、澄香が歩き出す。
 自然その後を追うように頭を巡らせて、美鳥の所にもどった澄香が美鳥に噛み付かれてるのを何となく眺めていた。




 そんな澄香の残した言葉を考えていたせいか、気がつけば全ての授業が終わっていた。
 美鳥に話しかけようと立ち上がるのと、ソレよりも早く席を立った美鳥がわざわざ後ろのドアに向かうのは同時で、洋はそれ以上追いかけることが出来なかった。
「……はぁ」
 溜息を漏らしながら、何となく美鳥の挙動を目で追っていく洋。
 いつもなら部活―新体操部―に向かう前に、洋の方に寄ってきて帰りに待っていて欲しいとか色々喋ってぎりぎりまでいる美鳥が、何も言わずに去っていったのが、少し辛かった。
 けれど、それはしょうがないこと。
「やれやれ、全く君も救いようがないね」
 自分の席から立ち上がった釆が、呆れたような表情で見詰めてくる。
 その理由がわかっていても、洋には応えるつもりは毛頭無くて。
「まぁ、答えるつもりがないのなら、これ以上何も言う気はないがね。まぁなにはともあれ、そろそろ部活の時間だ。行かないのかい?」
「んー、解ってるけどさ」
 ……カップル揃ってのお節介に洋は小さく溜息を吐きながら立ち上がる。
 なんだかんだ言って、二人が自分のことを心配してくれているのだと解っているから。
 それでも、その気持ちに答えることが出来なくて。
「あ、滝沢君」
 そんな中で、不意にドアの側にいたクラスメートに声をかけられた。
「ん、何?」
「お客さんだよ」
 そう言いながら指さしたドアの向こうには、にこやかな笑顔を浮かべた夕紀が立っていた。

95:『僕らのルール』
07/08/18 11:29:12 WrTwMlqR


 簡素な机と椅子がいくつか有り、人体模型や薬品とおぼしき物が詰め込まれた棚のある部屋に洋の姿はあった。
「……それで、何の用事なのかな?」
 何度となく繰り返した言葉を口にして、洋は夕紀を見詰める。
 夕紀に引っ張られるようにして、洋は理科準備室に連れてこられたのだ。
 その間殆ど説明らしい説明がなくて、洋としても少し辟易としていたところだったから、夕紀の纏う微妙な雰囲気に気付けなかった。
「あ、ごめんなさい。どうしても洋さんとお話ししたいことがあったんです」
 そう言いながら、奥まった机に向かった夕紀が、ポットからお湯を汲んだ。
 その慣れた様子に、思わず小首をかしげてしまう。
「えと、それで何でこの部屋に」
「あ、ここうちの部室なんです。今日は休部なんでみんな帰ってるんですけどね」
 理科部というのは何となく夕紀の印象にあっていなくて、小首をかしげつつ洋は笑顔を作る。
「あの、悪いんだけど、用事があるなら早く言ってくれないかな?」
「え、あ、ごめんなさい。少しだけ長引くから今お茶とお菓子用意します。だから、それまで待ってて下さい」
 その言葉と夕紀の好意を無下にすることが出来なくて、洋はそのまま手近な椅子に腰を下ろした。
 窓から差し込む光に照らされる夕紀の横顔はとても楽しそうで、何となく綺麗だなとそんなことを洋は思ってしまう。
 洋の入ってるゲーム同好会は別に一日二日休んだところで、文句なんて欠片も言われないけれど、やっぱり顔くらいは出したかったから。
「あ、洋さんは、紅茶とコーヒーどっちが好きですか?」
「んと、僕はコーヒーかな」
 答えながら、口元に笑みを浮かべる。
 コーヒーの苦手な美鳥がミルク8対コーヒー2の割合でないと飲まないこととか、洋がブラックで飲んでいると脇に来て感心する様に笑う様を思い出したから。
「よかった~。私もコーヒー好きなんです。洋さんはミルクとお砂糖どうします?」
 ふにゃっとした愛くるしい笑顔を浮かべる夕紀に、優しい気持ちを覚える。
 夕紀が自分に好意を向けてくれていることは解るけれど、美鳥とも笑いあって仲良くしてくれればいいのにと、そんな埒もないことを思ってしまう。
 こぽこぽとコーヒーを入れる音が流れ、洋の前にコーヒーカップが差し出されて、その薫りが鼻腔をくすぐった。
「へぇ、ネスリのブレンドドリップだ。微妙に良いの使ってるね」
「はい、活動費から少し借りたんです。でも、薫りだけでそれだけ解るなんて凄いですね」
 くすくすと笑う夕紀が、洋の対面に椅子を持ってきて腰を下ろした。
 苦笑を返しながらコーヒーを口に含んだ洋は、体の中にすっと収まった薫りと苦みと酸味に、小さな違和感を覚えた。
「……あれ? これって、こんな味だったっけ?」
 以前飲んだものよりほんの少し苦みと酸味が強くて、薫りが僅かに薄いような気がして洋が呟く。
「いつもと変わりませんよ? あ、コレもどうぞ。お昼休みの間に用意しておいたんです」
 そう言いながら、スコーンを取り出してくる夕紀。
 材料を混ぜ合わせて置けば焼くだけでできあがるスコーンは、それなりにお手軽なお菓子だ。
「でも、部室でお菓子を手作りって言うのも凄いね」
「あはは、私はこの同好会ではお菓子係なんです。さ、どうぞ食べて下さい」
 言われるままに手を出して、一口囓る。
「あ、できたてなんだ」
 思わず驚きを浮かべながら、またもう一口囓ってコーヒーを流し込む。
 極端に美味いと言うわけではないけれど、手作り故のおいしさを感じながら頬が弛むのを抑えられない洋。
「……ふふっ、まだありますよ。あ、コーヒーの方、お代わりいかがですか?」
「あ、うん。頼んで良いか……な…………」
 手を伸ばして来た夕紀にカップを渡そうとして、洋は言葉を止めた。
 全身から力が抜けたような気がしたのだ。
 そして、夕紀がカップを受け取るのと同時に、洋の体は椅子から転げ落ちる。
「な…………なん……これ…………君……は……」
 凄まじいまでの眠気が襲ってきて、それでも洋は必死で耐えながら夕紀を見上げる。
 アングル的にスカートの中が見えてしまうが、そんなことはどうでもよかった。
「ふふっ……、洋さんが悪いんです。あんなのの事をいつまでも忘れようとしない洋さんが。大丈夫ですよ、ちゃんとあんなのの事なんて忘れさせてあげますから」
 どこまでも優しい笑顔を浮かべたまま呟く夕紀。
 返す言葉もないまま、洋は全身に襲いかかってくる気怠さと眠気に負けてしまう。
 その寸前、夕紀の笑顔がやけに大写しになって見えた。

96:『僕らのルール』
07/08/18 11:30:05 WrTwMlqR
 ……暗い闇の中。
 どこかぼやけた頭のまま、洋は所在なげに座っていた。
 いや、確かに洋自身は座っているつもりだったが、闇が深すぎて本当に座っているのかどうかは全く解らない。
『……聞こえ…………ますか? ……聞こえ……たら…………頷いて……ください』
 闇の向こう側―としか表現できない奇妙な位置から、声が聞こえてきて。
 洋はこくんと頷いてみせる。
『それじゃ……今から…………質問します……。YESの時は頷いて……、NOの時は……首を横に振って……下さい。解りましたか……?』
 問いかけの声に、こくんと頷く洋。
『貴方の名前は……滝沢洋さんですね?』
 その言葉にも頷きながら、声が明瞭に聞こえはじめたことに気づいた。
『古関高校1年B組ですね?』
 また頷きながら、小さな違和感を感じた。
 どうして、こんな暗闇の中に自分がいるのか解らなくて。
『いま、貴方の前に一人の少女がいます』
 そんな違和感を無視するように、声が響く。
 その音が、僅かに不快だった。
 同時に、声に応じたように闇の中に一人の少女の姿が浮かんだ。
『その少女の名前は?』
「……美鳥」
『フルネームで』
「青間……美鳥……」
 それは言うまでもないこと。
 洋にとって特別なのは美鳥だけ。
 こんな訳のわからない状況で、真っ先に浮かぶのは美鳥意外にいるはずが無かった
『……あなたの目の前にいる少女は、貴方のことを嫌っています』
 その声が聞こえた瞬間、洋は頭(かぶり)を振った。
 確かにケンカはしたけれど、それでも美鳥が本気で自分を嫌いになるなんて信じられなかったから。
『っ……いいですか、少女は貴方を本気で嫌っているんです。あなたもその少女を本当は嫌いなんです』
 その声に、体が頷きそうになって、洋は必死でその言葉を否定する。
 もし、もし本当に嫌われたとしても、洋が美鳥を嫌いになる事なんてあり得ないから。
『自分の気持ちに気づいていないんですね。貴方はその少女が嫌いなんです、二度と見たくないと思っているほど、記憶から全部消してしまいたいと思っているほど』
 僅かに苛立ちの籠もった声。
 必死で首を横に振って、その言葉を否定する洋。
 それだけの事が、どんどん難しくなってくる。
『解らない人ですね。ほら貴方の前の少女の姿が薄れていっています』
 その声が聞こえると同時に、美鳥の姿が薄れはじめた。
『少女の姿が消えたとき、貴方の中から少女の記憶が消えます、良いですね?』
 ただ首を振って、その言葉に抗う。
 薄れそうになる美鳥の姿をそれでも必死で思い描いた。
 洋に甘えるように上から上目遣いで見詰めてくる美鳥。
 にっこりと大輪の花のような笑顔を浮かべる美鳥。
 少し頬をふくらませて拗ねている美鳥。
 しょぼんとした様子で肩を落とす美鳥。
 たくさんの美鳥の姿を思い出して、思い描いて、その言葉をただ忌避する。

97:『僕らのルール』
07/08/18 11:31:02 WrTwMlqR
『まだ、解らないんですか? ……その少女の隣に、もう一人少女が現れました』
 どこかぼやけた靄のような人型が美鳥の隣に浮かび上がる。
『サイドポニーの少女です。その少女こそ、貴方が好きになるべき相手です』
 美鳥の隣に現れたそれが、夕紀へと変わった。
 その夕紀が微笑みながら迫ってくる。
『その少女を好きになるべきです。もう一人の少女は、貴方の中から消えています。もう、消えたんです』
 徐々に近づいてくる夕紀。
 薄れていく美鳥。
 だんだん美鳥の姿が幼くなっていく。
「……い」
『もう、消えたんです。貴方の相手はサイドポニーの少女なんです』
 今にも消えそうな弱々しい美鳥の像。
 それは小学生の頃の姿で。
 ぽろりと、その瞳から涙が零れるのが見えた。
 大事な……とても大事な気持ちを壊されそうになっているのが悔しくて。
「いや……だ」
 ソレが苦しくて、想いを言葉にした。
「僕の……好きなのは…………愛しているのは……美鳥なんだ」
『っ!!』
 声が息を呑む気配が伝わってきた。
「僕は……美鳥のために…………美鳥と一緒にいる為に………………生きて、いるんだ。美鳥だけが……、僕の全てで……、僕の全ては……美鳥のために」『もう、貴方は喋ることが出来ません』
 不意に声が聞こえて、喉が凍り付いた。
 洋は言葉を吐き出すことすら出来なくなる。
 けれど、想いが変わることはなくて。
 いつの間にか、夕紀の姿が消えて、美鳥だけが立っていた。
『貴方はもう、動けません。動いてはいけないんです』
 言葉がだんだんと体を縛ってくる。
 それでも、洋は唇を震わせ続けた。
 声が出なくても、想いを唇に乗せる。美鳥を愛していると、ただ美鳥だけを愛し続けていると。
『これから三つ数えたら、貴方は目を覚まします。ですが、私の声に逆らうことは出来ません。私の思いに逆らうことは出来ません。逆らおうと思うことすら出来ません。逆らう理由さえ存在しません。だから、私の言葉に必ず従います。良いですね』
 あまりにも一方的な言葉。
 答えを返すことが出来ない洋を嘲るように、その言葉が意志を縛り上げていく。
『一、二、三』
 世界が変転した。

98:『僕らのルール』
07/08/18 11:31:49 WrTwMlqR


「あ、洋さん。目を覚ましたんですか?」
 不意に声をかけられて、洋は周囲を見渡す。
 そこは、さっきまでと変わらない理科準備室の中で。
 だけど、さっきとは逆に玄関の方に体が向いている。
 自分の身に何が起きていたのか理解できないまま、洋はぼうっと夕紀を見詰めた。
 なにか、奇妙な夢を見ていた様な気がする。
「洋さん……、それ、すごいですね?」
 その声が聞こえた瞬間、ぞくっと背筋が粟立った。
 声を出すことも出来ないまま、ただ股間が固くなった事に気づく。
「もしかして、欲求不満なんですか? 私で良かったら、相手をしますよ?」
 そんなのしなくて良いから。そう言ったつもりなのに、声が出なくて洋の背筋が凍り付いた。
 音もなく近寄って来た夕紀が、洋の両太股に手を置いて大きく割り開く。
 やめろと叫んだつもりで、それでも声が出せなくて。
「ふふっ、大丈夫気持ちよくしてあげますから。ちゃんと勉強したんですよ?」
 ゆっくりとジッパーが下ろされるのを、ただ見ていることしかできなかった。
 大きくふくらんだパンツをズリ下ろされて、ぶるんっと大きく震えながら洋の男根が飛び出した。
「……わ、おっきい」
 頬を赤らめた夕紀が熱い視線を向けてくるのが、恥ずかしかった。
 洋のそれは―体の小柄さとは裏腹に―二掴みしてもまだ先端が少し余るほどの長さを誇っているから。
 自分の体や顔つきとは裏腹に立派すぎるソレは、洋のコンプレックスを増大こそすれ、少しも自信には繋がらなかった。
 しかも、ソレを見ているのが、美鳥じゃないことが悔しかった。
 洋はただ唇を噛みしめる。
 今すぐ、立ち去りたかった。こんな事はされたくなかった。
 けれど、体は言うことを聞かない。
「洋さん、凄いです」
 はぁっと吐き出した息が洋の男根を掠めて、其処から頭の奥にまで一気に熱が奔った。
 ぴくんっと、洋の意志を無視して陽物が震えた。
 まるでそれは刺激を受けたがっているようで。
「ふふっ、可愛い」
 呟いた夕紀が、洋の固くそそり立つ物を両手で優しく包み込んでくる。
 細い指と柔らかな掌の感触、ほんの僅かヒンヤリとした冷たさを感じさせて、限界に達しそうな事を突き付けられた。
「気持ちいいですよね? ほら、ぴくぴく震えてますよ?」
 どこか嬉しそうに、楽しそうに告げてくる夕紀。
 その顔に浮かぶ優しい微笑みが、あまりにも気持ち悪くて洋は顔を背ける。
 同時に、ぎゅっと強く握りしめられた。
「っ!」
 思わず悲鳴を上げたのに、口から漏れ出すのは小さな吐息。
「洋さん、目を背けないで。私は、洋さんが苦しそうだから、してあげてるんですよ?」
 その言葉に操られたかのように、洋の視線が勝手に夕紀の方へと向いてしまう。
 そそり立つ醜魁な肉の棒を包み込む、真っ白な繊手。
 それが、美鳥の物でないことに不快感しか感じられなくて。
 夕紀の顔が徐々に其処に近づいてくることに、洋は今更気づく。
「……に……を」
 やっとの思いで吐き出した言葉に、夕紀が驚いた表情を浮かべて見詰めてくる。
「すごいですね……。でも、ダメですよ? 洋さんは喋る必要なんて無いんですから」
 くすくすと笑いながら夕紀が言葉を投げかけてきて、洋はまた声が出せなくなったことを自覚した。
 そんな洋に、夕紀が微笑みかけてくる。
「大丈夫ですよ。洋さんのこと、全部解ってますから。だから何かも忘れて、私に身も心も委ねて下さい」
 その言葉が、易々と心の中に入ってくる。
 それが気持ち悪くて、抗おうと考えて。
 だけど、そこから先に進めなかった。

99:『僕らのルール』
07/08/18 11:32:39 WrTwMlqR
「大丈夫、ですから。んぅ……」
 夕紀の言葉に従う事に喜びを覚えてしまう自分がいた。
 その理由がわからなくて、洋はただ自身の先端にキスをする夕紀を見詰める。
「ん……ちゅっ、ちゅっ」
 小鳥のついばむような小刻みなキス。
 ゾクゾクと背筋から心地よさがせり上がってきて。
 ソレが気持ちいいと言うことを必死で否定する洋。
 マンガなどで多少の知識はあるけれど、美鳥としたいと思っていたから。
 他人にされるなんて、想像すらしていなかったから。
「れろっ」
「っ!」
 だけど、先端に舌を這わされた瞬間、息が漏れた。
 気持ちいいのだと、体の方が先に理解してしまったのだ。
「れろ……れろ……ちゅっちゅっちゅぅ…………れろんっ」
 洋の男根を激しく舐め上げ、舐め下ろして、幹や先端に唇を押しつけてくる夕紀。
 時折、愛おしげにほおずりしてくる有様も、体は快楽と受け止めて。
 心はただ不快感だけを覚えていた。
「ふふっ、洋さんのすごいです……あーん」
 不意に上目遣いに見詰めてきた夕紀が大きく口を開けて、洋のそれをくわえ込んだ。
 ぞくりと全身が総毛立った。
 温かい口の中に、自分の一番弱い部分を銜えられている。
 その事実が最初にあって、それから粘膜同士の接触が震えるほどの気持ちよさを突き付けてくる。
 それが悔しくて、洋はただ唇を噛みしめることしかできない。
 体が動けば、声が出せれば、拒否するのに。
 ぬちゅぷちゅれろぴちゃちゅぽじゅぽ……
 股間から響く卑猥な音が、洋の耳朶から心へと流し込まれてくる。
「んちゅ……ちゅっれろんっれろっ……じゅ……ん、きもち、いいですか?」
 とろんとした瞳で、口元を嬉しそうにゆがめて、夕紀が言葉を投げかけてくる。
 洋には言葉を返すことが出来ないから。だから、ただ夕紀を睨み付けた。
 そんな洋に笑顔を向けてきた夕紀が、また洋のソレに顔を寄せる。
 コンコンッ
 その瞬間、ドアがノックされた。
「……ひー君?」
 そして、今もっとも聞きたくなかった声が、部屋の外から響いてきた。
「わざわざ人使ぉて呼び出すなんて、なんの用なん? おるんやろ?」
 いらだたしげな声が響く。
 きっと、昼間の事でまだ怒っているはずで、今の状況を見られたらとんでもないことになる。
 だから止めさせたくて。
 だけど、夕紀は停まる気配すら見せなくて。
「……ひー君? 入るで」
 からからと音を立ててドアが開く。
 制服姿の美鳥が、不機嫌そうな表情のままで立っている。
「ほんまになんの……よう…………なん?」
 その表情が、驚愕で凍り付くのが見えて、洋の胸の奥に痛みが走る。
 ……ただ夕紀が口と舌を動かす音だけが、響いていた。

100:暗愚丸
07/08/18 11:38:28 WrTwMlqR
ってことで、えらい久しぶりです
いやまぁ、半月ほど前に一回分は書き上がってたんすが、アク禁の巻き添え食らって書けなかったんです
んで、いつもの倍の量になりました

次回はもう少し早くこれるよう頑張りたいなぁと思いつつ
お手伝いしてる某スレ用のふたネタ書いてきます
前回レス下さった方々、ありがとうございました
では、失礼

101:名無しさん@ピンキー
07/08/19 04:47:16 yJKQ9CpK
うっひょー
続ききてるー!!
作者GJ

102:名無しさん@ピンキー
07/08/19 13:31:22 bImBxc7g
>>100
GJ!
やっぱり美鳥と一緒になって欲しいなあ。

103:名無しさん@ピンキー
07/08/24 22:03:35 6hA/2bT4
もっとでかさ強調のをキボン!!

104:名無しさん@ピンキー
07/09/06 17:59:59 w4Ldb97Z
保守

105:名無しさん@ピンキー
07/09/15 01:08:17 g+mrKCfE
続きはまだかのう

106:名無しさん@ピンキー
07/09/17 23:20:26 9gf5hRiF
書いてみようかと思ったけど、具体的にどんくらいからが長身なのかな……
175あれば充分?

107:名無したん(;´Д`)ハァハァ
07/09/17 23:44:45 a+ZQQVej
あくまで男女の身長差が主眼っぽいし、170でも十分長身だと思う

URLリンク(homepage3.nifty.com)
↑一応ここで、身長別-男女のボディサイズ平均ってのが出てるんで見てみるといいかも
かなり便利

108:名無しさん@ピンキー
07/09/18 22:45:53 Q2muJr05
>>106
175~190ぐらいが理想

109:名無しさん@ピンキー
07/09/20 04:29:39 8oXO8Egw
今北。
おお、なんという神スレ。。。
てか、ひー君マダー?

110:暗愚丸
07/09/20 22:05:54 PrOBLWh3
ということで、お久し振りです。
今回短めですので、ひっそり投下

111:『僕らのルール』
07/09/20 22:07:11 PrOBLWh3
 卑猥な粘着音だけが響く部屋の中。
 呆然としていた美鳥が、洋を見詰めてくる。
「……なに、しとん?」
 目尻に涙を溜めて、美鳥が惚けたような声を上げた。
「んっ」
 ちゅぽっと音を立てながら洋のソレから舌を離した夕紀が、美鳥の方に振り向く。
 その右手が洋の股間を握って来る。
 にちゃにちゅと音を立てなら動く感触が気持ちよくて。
 気持ちいいと感じてしまうことがイヤだった。
「何してるか、見て分からないなんて、あんた馬鹿?」
 そして、聞こえてきた声に、無性に腹が立った。
 その声音は嘲りに満ちていて、きっと嫌気が差すほどに気分悪い笑みを浮かべているこ
とが理解できた。
「ひー君」
 美鳥がじっと見詰めてくる。
 必死で言葉を告げようとして、なのに口が動かない。
「……なんで何も答えてくれへんの?」
「そんなの、あんたの声が聞きたくないからに決まってるでしょ?」
 違うと言いたいのに、声が出せないこちらを嘲笑うように、嬉しげな夕紀の声が響く。
 悔しくて、苦しくて、情け無くて。
 ただ拳を握りしめる。
 その部分くらいしか、自分の意志で動かすことが出来なかった。
「ひー君……、ウチよりも、ソイツの方がえーの? ウチのこと、嫌いになったん?」
「フラれたからって、腹癒せにソイツ呼ばわりなんてしないでくれます?」
 美鳥が子供のように言葉を投げかけてくる。
 その様子が、昔のことを思い出させた。
 引っ越しする時、ボロボロと泣いていた美鳥。
 あの時の約束は今でも胸の中にしっかりと根付いている。
「ひー君、なんか、言ってぇな。なぁ、ひー君」
 美鳥の声がどんどん弱々しくなっていく。
 なのに、ソレを止めることも出来ずに、ただ美鳥を見詰めることしかできない。
 ソレしかできない自分に吐き気がする。
「ホント、しつこい。フラれたくせにその理由を聞きたがるなんて、馬鹿馬鹿しいにも程
があるって分からないの?」
「……ひいくん」
 不意に、美鳥の頬からぽろりと涙がこぼれ落ちる。
 同時に微笑みを浮かべる美鳥。
 その寂しげな微笑の形を、洋は以前にも見たことがあった。
 澄香に告白されたときの、だけど、受け入れられなくて断ったときに見せられた微笑と
同じものだったから。
「ひー君が、ソイツ選んだんやったら、ウチはえーよ」
 ポツリと美鳥が呟いた言葉が、其処に込められた想いが、胸の奥に突き刺さってくる。
「だから、ソイツ呼ばわりやめろって、言ってるんですけどぉ? それとも耳も聞こえな
いんですかぁ?」
 夕紀のわざとらしく伸ばした語尾が、許せないほどに不快で。
 股間から上ってくる快楽を忘れさせた。
「ウチ、ひー君の迷惑なんやね? ……ウチ、おらんようなったほうがええんやね」
 美鳥の声が聞こえるたびに、ポロポロと涙が零れるたび、胸の奥に刺さった傷が痛み、
見えない血があふれ出す。
 そんな、美鳥の声なんて聞きたくない。
 今すぐ、美鳥を抱きしめてそんなことないと伝えたい。
「そう言う事ですよ。ほら、さっさと消えてくれます? それとも、私と洋さんのSEX
を覗くつもりですか? 別に構いませんけど、みじめですよねー」
 くすくすと笑う夕紀。
 嫌いな人間は今までにいくらでもいたし、ケンカだって両手の指では足らない程度に経
験している。
 けれど、生まれて初めて、洋は他人を憎いと感じた。
「……ほな、ウチ消えるな。ひー君、今までゴメンな」
「洋さんの邪魔ばっかりしてたのに、今頃気付くなんて体が大きくて頭まで血が巡ってな
いんじゃない?」

112:『僕らのルール』
07/09/20 22:07:55 PrOBLWh3
 美鳥が、一瞬だけ悔しげに顔を歪めて、それでも何も言わずに背中を向ける。
 許せなかった。
 美鳥を泣かせて喜んでいる夕紀が許せなかった。
 許せなかった。
 ワガママだけを通して、洋の気持ちを考えようともしないことが許せなかった。
 だけど、
 何より許せなかったのは、
 泣いている美鳥を慰めることも出来ない、引き留めることも出来ない自分自身だった。
 自分の無力さが悔しくて、だから夕紀を憎むことしかできなくて、拳に更に力を込めた。
 血の気が失せるほど強く握りしめた拳から、じわりと痛みがはい上がってくる。
 美鳥が後ろ手にドアに手を伸ばす。
「ひー君、今までありがとうな。……バイバイ」
「洋さん、やっと邪魔なのいなくなりましたし続きしましょ?」
 にやにやと、さも嬉しげに嗤う夕紀が振り返ってくる。
 それは胸がムカつくほどに気味悪い笑顔で、そんなものを視界の片隅にさえ留めていた
くはなかった。
 なによりも、美鳥がドアを閉めようとしてる事の方が、洋には辛かったから。
 ただ止めたいと、洋はそれだけを思う。
 あのドアが閉まったとき、美鳥との関係が壊れてしまう。
 それだけがただ脳裏を占めて、そんなことになりたくないと心が必死で叫んでいた。
 握りしめた拳がじくじくと痛んで、胸の奥の傷もずきずきと痛む。
「……って」
 その痛みが、体を縛っていたなにかを弱めたのか、
「待って……、美鳥」
 喉の奥から、声が絞り出た。
 ぴくんっと肩を震わせて、美鳥が動きを止めた。


「う、そ」
 呆然とした表情を浮かべて見上げてくる夕紀。
 だけどそんなものはすぐに意識から消した。
「なんで? だめです。洋さんは動けないんですよ、しゃべれないんですよ」
 夕紀の空虚な声が聞こえた瞬間、洋はまた体が重くなるのを感じた。
 けれど、そんな声も重さも、今の洋には意味など無い。
 堅く握りしめた拳と胸の奥に刻まれた傷の痛みの方が、何倍も重たいものだから。
「美鳥」
 ゆっくりと、それでも確実に洋は声を放つ。
 まだ自分のものを握っている夕紀の肩に拳を突き出して、そのまま押し退ける。
「え?」
 ぼうっとした声と共に夕紀がゆっくりと倒れて、握りしめられていた男根がぬるりと滑
って自由になった。
 最後にぶるんっと震えたそこから気持ちよさが一瞬だけせり上がってくる。
 けれど、そんなモノはまるっきり無視して、洋は立ち上がった。
 まるで、海上の船の上にいるみたいに床が揺れている。
 そう感じるのは、単に体の自由が戻りきっていないだけのこと。
 それでも構わなかった。
 体が動かせるのなら、美鳥の側に行けるのなら、それだけででよかった。
「ひー君?」
 どこか呆然とした表情で美鳥がゆっくりと振り返ってくれる。
 ただそれだけのことが何よりも嬉しくて、もう今まで抑えてきた想いがあふれ出しそう
になっていた。
 否、もう、抑えることも隠すことも出来ない。
 泣かせてしまった美鳥を二度と泣かせないために、伝えないといけない想いがあった。
 だから、洋はただ美鳥をじっと見上げる。
 いつも見上げるしかない身長差に感じていたものより、頬に残る涙の跡に覚えた悔しさ
の方がもっとずっと強く感じた。
 不意に美鳥が僅かに頬を赤らめながら視線を逸らす。
 そんな風に、視線を逸らされるのが哀しくて、洋はただ美鳥の顔を見詰めたまま、口を
開いた。
「美鳥。僕は、僕は美鳥の事が、好きだ。他の、誰かなんて、いらない」

113:『僕らのルール』
07/09/20 22:08:50 PrOBLWh3
 少しずつ、ゆっくりと呟き続ける。
 同時に、声が徐々に強くなっていく事に気付いた。
 ふらついていた体も、今は芯が通ったようにしっかりと立っていられる。
 自分を縛っていたなにかが解けているのを感じながら、洋はただ美鳥を見詰めていた。
 今だけは、自分の想いを正直に、全てを美鳥に伝えたい。その願いだけで、洋は唇に言
の葉を乗せていく。
「いつか、美鳥が、言ってたのとは違う。けど、思うんだ。隣にいて欲しいのは、側にい
て欲しいのは、好きでいたいのは美鳥だけなんだ」
「ひー君……」
 美鳥が嬉しげに目を潤ませて見詰めてくる。
 それだけで美鳥の想いが分かって、それが嬉しくて洋は、気がつけば更に言葉を重ねて
いた。
「美鳥、子供の頃の約束、覚えてるよね?」
 それは問いかけでも、ましてや確認ですらなくて、単なる事実を述べただけ。
 顔を赤くした美鳥がこくんと頷いて。
 また慌てて顔を背ける。
 その仕草の意味が理解できずに、それでも洋は語を繋ぐ。
「僕もずっと覚えてる。今でもそうなりたいって思ってるんだ」
 心の奥に秘めてきた想いを口にすると同時に、耳が熱くなるのを感じた。
 きっと耳まで真っ赤になっているだろうなと、脳裏の片隅をそんな想いが過ぎった。
「僕が好きなのは、美鳥だけなんだ」
 それでも、自分の全ての想いを乗せた言葉に、美鳥は応えてくれなくて。
 困ったような表情のまま、いきなりハンカチを差し出してきた。
「美鳥?」
「その、やね。前、隠してくれへん?」
 言われてゆっくりと視線を下に向ける。
 半ば力を失った陽物が、ひくんっと蠢いた。
「わっ!?」
 思わず、両手で前を押さえる洋。
 慌ててズボンに収めようとした洋は、夕紀の唾液で汚れたままだと言うことに気付いて
思わず動きが止まってしまう。
「った! と」
 慌ててズボンの後ろに手を回した洋は、はたとその動きを止めた。
 あまりにも強く握りしめていたせいで、指が開いてくれない。
「あ、あれ、くそっ」
「もう、しゃあないなー」
 くすりと笑って、美鳥がハンカチを伸ばしてくる。
「ちょっ!? 美鳥、汚いって! 自分でやるから!」
「うん、確かにあいつのつばはばっちいけど、ひー君のやったらウチ構わんよ?」
「いやでも、せめてティッシュでっっ!」
 言葉の途中で洋は全身を震わせた。
 美鳥が手に持ったハンカチで拭って来たのだ。
「んっ! 美鳥っ!」
 ゾクゾクと背筋が震える。
 どうでも良いと思っている相手に直接触れられるより、布越しでも好きな相手に触れら
れていると思うと同時、半ば力を失っていたモノがまた堅さを増した。
 顔を真っ赤にして全てを拭った美鳥が、ゆっくりとボクサーブリーフにソレをしまって
ズボンもきちんとチャックを閉めてくれる。
 それが恥ずかしすぎて、洋は美鳥の顔をまともに見ることが出来なくなる。
「ひー君」
 だけど、美鳥の真剣な声に、慌てて顔を上げた。
 顔は赤いままで、だけどまじめな表情で美鳥がこちらを見詰めてくる。
「ウチ、待っとぅから。ひー君が来てくれるん待っとぅから。そんときに答え返すから」
 それだけを口にして、美鳥がくるりと背中を向けた。
 夕紀との話しをきちんと付けてから、ちゃんと話しをしたい。
 ソレが美鳥の願いだと分かったから。
 からからとドアが目の前で閉まるのを見ながら、洋は小さく溜息を吐いた。
 本当は、そんなことをしたくない。
 けど、ここで釘を刺しておかないと、きっと夕紀はまた同じようなことをしてくる。
 ソレが分かっていたから、小さく溜息を吐いたあと、洋はゆっくりと振り返った。

114:『僕らのルール』
07/09/20 22:09:41 PrOBLWh3


 上半身を起こしてそれでもどこか呆然としていた夕紀が、こちらを見詰めて怯えた表情
を浮かべた。
「ひっ」
 息を呑む夕紀を、洋は冷たい目で見詰めていた。
 洋がこの冷めた表情を女子に向けたことは、ただの一度もない。
 女の子に間違えられることが多いから、と言うわけでもないが洋は女性に対してはいつ
も優しく接してきた。
 けれど、夕紀に対してだけは、そんな気にはなれなかった。
「……一つ言うとく」
 美鳥を泣かせた夕紀が許せなかったから。
 自分のことだけしか考えていないことが、腹立たしかったから。
「二度と、僕と美鳥に関わってくんな」
「そん、な」
 目に涙を溜めて見詰めてくる夕紀。
 その姿に、少しだけ胸が痛む。
 けれど、ソレを表に出す気は全くなかった。
 もし好きになった人に相手がいたら、洋なら何も言わずに身を引くだろう。
 誰かを好きになったなら、その人が幸せになって欲しいと思うのはきっと当然の事。
 そして、もう幸せになっている相手に、自分の気持ちを押しつけるなんて出来るわけが
ない。
 なのに、夕紀はそんな事を考えもせず、自分自身のことだけを一番に考えて無理矢理奪
おうとしてきた。
「こんど、いらんことしてみい。本気で許さんへんからな」
 ……なによりも、夕紀は美鳥を泣かせた。
 その一事だけでも、洋にとっては絶対に許せない相手になったのだから。
「絶対関わってくんな」
 その言葉だけを吐き出して、洋は夕紀に背中を向ける。
「ま、まって下さい、洋さん」
 弱々しい声音に足が止まりそうになる自分を叱咤して、ドアの取っ手に手を伸ばす。
 背後で動く気配を感じても、洋は振り返らない。
「好きです、洋さん! 私が、私こそが、誰よりも貴方のことを好きなんです! だから、
行かないで! 行かないで下さい!」
 不意に、背中に夕紀がしなだれかかってきた。
 しがみつかれる感触が不快に感じられないことが不愉快すぎて、洋は強引に夕紀を振り
払った。
 これ以上ここにいたら、優しい言葉をかけてしまいそうだったから。
 手早くドアを開けて、外に出る。
「ひろ」
 ぴしゃんっと激しい勢いでドアを閉めた。
 いまはただ、全身を蝕む不快感を収める為に、ここから離れたかった。
「い、いやぁあああああああっっっっっ!!」
 背後から泣き叫ぶ声が聞こえて、胸が痛む。
 自分を好きでいてくれた人に、こんな酷い仕打ちをしなければいけないことが洋にはと
ても辛くて。
 けれど、夕紀はもっと酷いことを自分達にしてきた。
 だからこれは当然の結末。
 なのに、胸の痛みを抑えきれないのは、それだけ自分が甘いから。
 分かっていてもソレが情け無くて、小さく溜息を吐いた洋はそのまま歩き出す。
「……あー、ちょい待て」
 不意に後ろから声をかけられて、振り返る洋。
 昼休みにケンカを売ってきたバスケ部員が、表情を消して立っていた。
「なんか用?」
 今は周りには誰もいないし、かなりむしゃくしゃしているから、ケンカを本気で買って
も良いかなと、心の片隅でちらりと思う。
 そんな洋に気付いているのかいないのか、がりがりと自分自身の頭を掻き乱した相手が、
いきなり頭を下げてきた。
「バカが迷惑かけたみたいですまねえ。あのバカは思いこむとすぐ暴走する性質なんだよ」

115:『僕らのルール』
07/09/20 22:10:23 PrOBLWh3
 その言葉は少し意外で、だから洋はまじまじと頭を下げたままの相手を見詰めてしまう。
「許してやってくれなんざ言えた義理じゃねえが、あのバカなりに真剣だったって事だけ
は覚えといてくれ。それだけだ」
 そこまで言って頭を上げた相手が、洋が出てきた部屋に入っていく。
 それで、何となく昼休みに突っ掛かってきた理由が分かった。
 口元に苦笑を浮かべて、また歩き出す洋。
 僅かでも良いから夕紀にも良い結末があるといいなと、そんなことを僅かに想いながら。

116:暗愚丸
07/09/20 22:14:54 PrOBLWh3
前回レス下さった皆様、ありがとうございました。

ってことで、やっと話自体にはほぼオチがつきました。
あとは肝心要というか、このためだけに突き進んできたエロ話とおまけのエピローグを残すのみ。
ベタベタ甘ラブで、多分今回の倍以上に長いエロ話を書いてきます。

それでは、今回もお付き合い頂きありがとうございました。

117:名無しさん@ピンキー
07/09/21 04:05:26 VTPGy4SU
やったー!続ききたー!

終わってしまうのは寂しいけど
続きwktkしてますぜーっ!

118:名無しさん@ピンキー
07/09/21 06:32:14 LfLKv5uR
GJGJ!
この二人には、ほんと幸せになってほしいよ。

でも、ちょっと夕紀が不憫かな。ひー君とトモダチには、もう戻れないのかなあ。


119:名無しさん@ピンキー
07/09/24 04:18:11 fE52Ylfc
>>116
ベタ甘カモーーーーン!!!!


全裸で正座して待ってるんだぜ!

120:名無しさん@ピンキー
07/09/27 19:57:17 z70L1m1n
>>116
GJ!
ベッタベタの甘々ラブラブは大好きだ!!

>>118
確かに不憫かもしれないが、それだけの事をしでかしたんだから、こうなっても仕方ない。

121:名無しさん@ピンキー
07/10/04 12:20:49 xZWQEcRb
保守

122:名無しさん@ピンキー
07/10/12 13:31:15 96yMEMvF
守る

123:暗愚丸
07/10/20 09:16:59 n8xtVMgz
どもひさしぶりの暗愚丸です。
えと、やっとエロに入れると喜んでたら、阿呆みたいに長くなってきました。
ってことなんで、本番手前で一旦投下します。
では、『僕らのルール』投下します。

124:『僕らのルール』
07/10/20 09:17:40 n8xtVMgz
 そのドアには、丸っこい文字で『MidoriChan's Room』と書かれたプレートが貼ってあ
った。
 その前で、洋は逸る想いを抑えるために深呼吸を繰り返す。
 美鳥をこれ以上待たせてどうするんだと、自分自身を叱咤してようやく上げた手でドア
をノックしようと構えた。
 だけど、額に僅かにかかった髪が鬱陶しくて、思わずその手で払いのけたせいで勢いを
失ってしまう。
 美鳥が好きだから、大事だから。
 釣り合いが取れていない自分が隣にいても、迷惑かも知れない。
 今さらそんなことを思ってしまう自分自身に、洋は嫌気を覚えながら溜息を吐く。
 いまさら、告白をなかったことになど出来ない。
 それは、美鳥に対する最も重い裏切りだとわかっていた。
 意を決して、ドアをノックする。
「んー、開いとぅから、入ってきてぇな」
 ドア越しに美鳥の声が聞こえて、洋はためらいを飲み込んでドアを開けた。
 僅かな甘さを感じさせる香りが鼻について、また鼓動が早まる。
 カーテンや絨毯はともかく、壁紙まで洋の部屋とは違うパステル系の色調に彩られた室
内は、女の子の部屋だと強く実感させた。
「ひー君、お帰り」
 ベッドにちょこんっと腰掛けた美鳥が、苦笑を浮かべてこちらを見詰めてくる。
 まだ僅かに濡れている髪を見た瞬間、帰ってきてすぐに入った風呂場で感じた甘い香り
を思い出した。
 美鳥も、告白の先を望んでいるのかも知れない。
 そう感じて、慌てて脳裏に湧いた思いをかき消した。
 今はただ、大切な思いを告げるだけ。
「うん、ただいま」
 そんな言葉を口にしながら、美鳥のすぐ前に移動する。
 普段なら見上げないといけない美鳥を、逆に見下ろしているというのはとても新鮮な感
覚で、胸の奥のざわめきが強まっていく。
 だから、ただ美鳥を見詰めることしかできない。
 誰よりも大事で大切な美鳥。
 生まれたときからずっと一緒にいて、だけど離れてしまって。
「ひー君」
 美鳥がじっと見詰めてくる。
 整った目鼻立ちに長い黒髪、モデル並みの体型と、人目をひく外見をしている美鳥。
 だけど、そんな外見なんて本当はどうでも良かった。
 体が大きくていじめられてた子供の頃を知っている。
 まるで子犬のように、いつも自分の服を握って後をついてきた頃を知っている。
 本当はとても甘えん坊で寂しがりやで泣き虫で弱虫な事も、ずっと昔の幼い約束を未だ
に信じ続けてる事も知っている。
 他の誰よりも、美鳥のことを知っているのは自分だけだと信じていた。
「美鳥、僕は」
 言葉の続きを口にしようとして、洋はまた黙ってしまう。
 そんなこちらの様子に業を煮やしたのか、いきなり美鳥が立ち上がった。
「美鳥? わぷっ!」
 いきなり強く抱きしめられる。
 美鳥の豊かな胸に顔を埋める体勢になって、呼吸するのが苦しくて。
「ひー君、そんな緊張せんでもえぇんちゃう? もう、いっぺん言ぅとうやん」
 優しい言葉と嬉しそうな微笑みに、とくんっと胸の奥が騒いだ。
「美鳥……」
 だから、自分からぎゅっと抱きしめて、美鳥の胸から洋は顔を上げた。
 言いたい言葉は数え切れないほどあった。
 あの日に交わしたケッコンの約束。
 同じ高校に受かったと知ったときの嬉しさ。
 同居することになった時の喜び。
 なのに、いきなり海外出張で両親が出て行った事に、……美鳥と二人きりで暮らすこと
に対する戸惑い。
 夕紀のせいですれ違いかけた時間。
「僕は、…………僕は」
 だけど、どうしてもその言葉が出てこない。

125:『僕らのルール』
07/10/20 09:18:34 n8xtVMgz
 本当に伝えたい想いは一つ。ソレを口にするだけで良い。
 美鳥も受け入れてくれると解ってる。それでも言葉に出来ない自分がいらだしくて、洋
は唇を噛みしめる。
「ひー君、ウチ引き留めたかっただけなん? ほんまはそんなん思ってないん?」
「美鳥」
 美鳥の寂しげな声が、哀しげな微笑が、胸に突き刺さる。
 そんな思いを、美鳥に抱かせた自分が許せない。
 そんなことはないと美鳥にすぐに伝えたい。
 そのために言えば良い言葉は一つだけで。
 だから、美鳥をしっかりと見詰めた。
 見上げなければいけない悔しさは、もう心の何処にもない。
「僕、僕は、美鳥のことが好きだ。なによりも誰よりも、美鳥のことが大切だから。ずっ
と側にいたい。ずっと側にいて欲しいんだ」
 思いの丈を吐き出すのと同時に、膝が崩れそうになって。
 けれど、美鳥が更に強く抱きしめてきてくれて、動きが止まる。
 不意に、美鳥がぽろりと涙を零した。
「やっと」
 美鳥が小さく呟いて、涙を落としながらそれでも嬉しげな微笑みを見せてくれる。
「やっと、言ぅてくれた。ウチ……、ウチもひー君のこと好きや。ずっと、ずっと側にお
りたい思っとぅ。ひー君と結婚したいって今でも思てるんや」
 美鳥が想いを受け入れてくれたことが嬉しくて。
 抱きしめていた右手を伸ばして、美鳥の後頭部に手を添える。
 同時につま先立ちになりながら、美鳥の唇に優しくキスをした。
 柔らく濡れた唇の、甘く優しい感触と微かな甘い薫りに、鼓動が早まっていく。
 どれだけ口づけを続けていたのだろう。
 息苦しくなって離れると同時に、慌てて深呼吸する。
 ソレは美鳥も一緒で、互いに顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「キスで呼吸苦しなるってお約束やね」
「うん、そうだね」
 にこりと笑って、美鳥が自身の唇を指でなぞる。
 その仕草が扇情的で、体が反応しそうになった洋は、美鳥から離れようともがいた。
「……ひー君、どないしたん?」
 そう言いながら、更に強く抱きしめてくる美鳥。
 顔に当たるふわりとした感触が、胸やおなかに感じるなだらかな感覚が、鼻腔をくすぐ
る女の子の薫りが、洋の体を疼かせた。
「あ、いや、なんでもない。だから離れて」
「イヤや~、ひー君のこと離したらん、今日はひー君だっこして寝るんや~」
「あ、アホ! そんなん出来るかい!」
 本気を出せば美鳥を突き飛ばす事は出来るけれど、いくら洋でもソレはしたくなくて。
 だから、抑えきれなくなった。
「あ」
「……だから、離せ言うたんや」
 美鳥が恥ずかしげに顔を赤くして、こちらを見詰めてきて。
 同じように顔を赤くしながら、美鳥を睨む。
 堅くそそり立ったそれが、美鳥の柔らかな下腹部に押しつける体勢になってしまった。
 下手に口を開けばそのまま最後まで進んでしまいそうな雰囲気に、洋は慌てながら必死
で言葉を探す。
 確かに美鳥のことは好きで、こうして抱きしめられるのは嬉しいこと。
 ……その先にある事だって、興味はある。
「はよ離さんかい」
 だけど、美鳥のことは大事だから。
 大事にしたいから、ただ欲望のままに貪るようなことだけはしたくない。
「イヤ」
 なのに、美鳥が更に強く抱きついてきた。
 それだけではあきたらず、堅くなった洋のソレに下腹部を押しつけてくる。
「ちょっ、こら、美鳥!」
「イヤや、ウチ待っとったんや。ずっとひー君とこうなるん待っとったんやから」
 顔を赤くしたまま見下ろしてくる美鳥。
 その目尻に涙が浮かんでいることに気づいて、思わず洋は息を呑んだ。
「ウチ、ひー君のお嫁さんになるんやから、Hも絶対ひー君とするって決めてたんやもん。

126:『僕らのルール』
07/10/20 09:19:21 n8xtVMgz
ウチ一人Hかて、いつもひー君想いながらしてたんや。やからもう、我慢できへんもん」
 美鳥のあまりにもあけすけな好意に、洋には答えることが出来なくて、それでも、心の
枷が外れそうになってることだけは気づいていた。
「だ、だけどなっ! んっ…………っ!?」
 ただ触れ合うだけのキスだと思っていたから、唇の間を割って舌が入ってきた事で一瞬
パニックを起こしてしまう。
 だけど、美鳥は更に強く抱きしめてくるだけで、離してくれない。
 それどころか、激しく口の中をなめ回してくる。
「っ……ちゅっちゅぷ……んちゅ……ちゅる……」
 耳から聞こえてくるいやらしい音と、頭の中で響く粘着音が意識を灼いていく。
 舌を絡めう事が、口の中を蹂躙される事がこんなに気持ちいいとは思っても見なかった。
 だから、抵抗することなど出来なかった。
「じゅっ……じゅちゅっ……ちゅぷ、ぷちゅ、んっ」
 美鳥が抱きしめていた腕を放して、少ししゃがみ込んでくる。
 そして、いきなり背中と膝裏に手を回されて持ち上げられた。
「っっ!」
 まるで女の子のようなその扱いに文句を言おうとして、更に激しく舌を吸われた。
 それだけで抵抗しようとする気力が無くなって、気がつけばとさっとベッドの上に投げ
出されていた。
「……はぁ……はぁ」
 大好きな女の子とキスをしていた。
 しかもそれがいやらしくて飛びっきりHなキスとなれば、意識が朦朧としてもおかしく
はない。
 そう想いながら、プチプチという音を聞き流していた。
「ふふっ、ひー君可愛えぇなぁ」
 その言葉に我を取り戻した洋は、流石に一瞬言葉を失った。
 いつの間にか美鳥がのし掛かってきていて、しかも上半身のパジャマをはだけさせられ
ていたのだ。
「こ、こら美鳥! いきなり何しとう!」
「何って、脱がせとぅだけやん。Hすんねんで? 服脱がな出来へんやん」
 あまりにも平然とした美鳥の言葉に、顔が赤くなる。
 何となく、このまま進むのは負けたような気がして、ごほんっと軽く咳払いをした。
「……それはいいけど、自分で脱ぐからっ! ってか、普通服脱がせて悦ぶってのは、男
の仕事だろっ! 人の話を聞け!!」
 言ってる間にも器用に服をはがされてしまう。
 ずりずりとゆっくりとベッドの下側に移動した美鳥が、そのまま洋のズボンを一気に引
きずり下ろした。
「っ!」
 ぶるんっと大きくそそり立つものが、美鳥の鼻先に飛び出してしまう。
 いくらさっき見られたばかりと言っても、恥ずかしさがなくなるわけはなくて。
「さっきも思たけど、ひー君のっておっきいんやね」
 どことなくぽーっとした表情で見上げてくる美鳥に、思わず顔が紅くなってしまう。
 洋のそれは平均よりも大きいけれど、自分の体が小柄なせいで余計に大きく見えてしま
うことが、少しはずかしくて情け無かった。
 そんな洋の思いに気付いた様子もなく、くんくんと子犬のように臭いを嗅ぐ美鳥の仕草
を見るだけでも恥ずかしくて。
「……ひー君のにおいがする」
 そんな美鳥の呟きに、顔が赤くなってしまう。
 ここに来る前に風呂には入ったけれど、まだあらいきれてなかったんだろうかと、そん
なことを思ってしまう。
「ぅあっ!」
 だけど、いきなり尖端にキスされて、思わず腰が跳ねた。
「えと、刺激きつい?」
 少し困ったような表情を浮かべて問いかけてくる美鳥。
 洋はただこくんと頷く。
 ……本当は、きついと言うよりも気持ちよすぎた。
「ほしたら~」
 れろんっと先端を舐め上げられて、思わず唇を噛みしめた。
「ひー君、気持ちえぇ?」
「っ! そ、それは、うぁっ!」

127:『僕らのルール』
07/10/20 09:20:02 n8xtVMgz
 れろれろと亀頭を舐め回されて、雁首をくすぐられて、そのたびに腰が引けてしまう。
 そんな洋の様子に気をよくしたのか、美鳥が更に動きを激しくしてきた。
「っく、た、確かに、気持ちいい……け……ど」
 直接の気持ちよさよりも、美鳥がしてくれていると言うことの方が気持ちよかった。
 だから、耐えられなくて。
「ちょい、ストップ」
 なんとかぎりぎりで止めることが出来た。
 顔を上げた美鳥が、不思議そうな表情で見詰めてくる。
「僕だって、美鳥を気持ちよくさせたい。美鳥の裸見たい」
 激しく脈打つ鼓動に辟易して、それでも呼吸を呑んで美鳥を見詰める洋。
 一瞬、あっけにとられた表情を浮かべた美鳥が、それでもにこりと笑ってくれた。
「ほしたら~~、ウチが脱ぐ方がえぇ? それともひー君脱がせたい?」
「そんなの、僕がやりたいに決まってるだろ!」
 思わず叫んでしまった。
 それが恥ずかしくて、なのに美鳥が嬉しそうに笑ってくれる。
「ほな、ええよ~」
 ぽすんっと洋の隣にぽすんと寝転がる美鳥。
 上半身を起こして、洋は美鳥の上にのしかかる。
「そ、それじゃ」
 気がつけば手が震えていて、それでも美鳥のパジャマの第一ボタンにゆっくりと手を伸
ばした。
 すこし手こずりながら、それでも一つ目を外してほっと溜息を吐いた。
「あ、あはは、ひー君、大丈夫?」
「う、うん」
 美鳥の優しげな声に頷いて、洋は二つ目を外そうとする。
「ふぁっ!?」
 同時に、美鳥の口元から声が漏れて、とくんっと胸の奥が震えた。
 両手の甲が、美鳥の柔らかなふくらみに当たっていた。
「ご、ごめん」
「ん? なんで、謝るん?」
 頬を赤らめた美鳥と視線が絡み合う。
 その顔に浮かぶ笑みが、続きを促していて。
 洋はそれ以上何も言わずに、ぷちぷちとボタンを外していく。
 徐々に露わになっていく美鳥の白い肌に、心臓の鼓動が早まって。
 そのたびに、ひくんひくんっと自分のソレが動いていることを、洋は自覚していた。
「美鳥、脱がすよ」
「ん」
 全部のボタンを外して、ゆっくりと美鳥の肌を露わにする。
 あれだけ海やプールに行ったはずなのに、殆ど日焼けの後も残っていない真っ白な肌が
目に映った。
 黄色い飾り気のないブラに包まれた大きな胸と、対照的に滑らかで平らかなお腹が視界
を埋める。
「ひー君。ウチのブラ、フロントホックやから真ん中のとこ両手で持って、左右から押し
つけてひねったら外れるから」
「うん」
 美鳥の言葉に従ってぷちんとブラを外す。
 そのまま、何も言わずにブラを脱がして、しばし言葉を失った。
 寝そべっているのに、型くずれしていない大きな胸。
 その白さと美鳥が呼吸するたびに震える様子、なによりその先端にぽつんとある淡いベ
ビーピンクが洋の目を釘付けにする。
 でもとりあえず美鳥を脱がせる方が先決。
 そう思ったから、洋は美鳥のパジャマとブラを、美鳥の腕から抜いた。
「ひー君、その、下も」
 美鳥の恥ずかしげな声にこくんと頷いて見せて、上体をずらした洋は美鳥のパジャマの
ズボンに手を伸ばす。
 細い腰とズボンのゴムの間に指を入れる。
 その滑らかすぎる感触に、洋は逸る気持ちを必死で抑えた。
 手伝う様に、腰を浮かせてくれる美鳥。
 けれど、いざ脱がせようと、ズリ下げた瞬間、美鳥が声を上げた。
「あっ! ひー君、ちょ、ちょいっ! 待っっ! っっ!」

128:『僕らのルール』
07/10/20 09:20:43 n8xtVMgz
 その焦りを含んだ声に少しだけ首をかしげて、もう少し下ろした所で美鳥の言わんとし
ていることに気付いた。
 ……真っ白なシミ一つない肌。
 腰から続く平らで柔らかそうな下腹部がみえて、茂み―と言うにはまだ少し早い、僅
かに固まってみせる和毛(にこげ)が目に映った。
「ぁ、あっ! ご、ゴメン、美鳥!」
 そのつもりはなかったけれど、下着ごと一気にずらしてしまったのだ。
 いきなりすぎて、きっと美鳥も恥ずかしいだろうけど、それは洋も同じで。
 けれど、下着だけ元に戻すのはとても間抜けだとしか思えないから。
「ゴメン、美鳥。でも、その」
「……うん、ええよ」
 美鳥が顔を赤らめたままで、それでも頷いてくれたから。
 洋は美鳥のズボンを下着ごと最後まで下ろして、美鳥の体に視線を向けた。


 静かに横たわっている美鳥。
 その肌はとても綺麗で、胸も形が崩れることもなく上を向いている。
 細くくびれた腰から、なだらかな曲線を描いてるお尻と太股。
 なだらかでソコだけ僅かに色彩の違う、和毛と美鳥の一番大事な部分。
 思わず見詰めてしまう。
「……ひー君、やらしい目してる」
 美鳥のどこか拗ねたような声に、はっと我に返る洋。
 見上げた美鳥が、口を尖らせていた。
「やっぱ、ひー君もウチの体ばっかに興味あるんや。ひー君も男の子やもん、しょうがな
いんやね」
 呟きながらそっぽを向く美鳥に、ちくりと胸の奥に痛みが走る。
 それを抑えて、洋はずりずりと上体を美鳥の上半身の方へと移動させた。
「ゴメン。美鳥の体、綺麗だから見とれてたんだ」
 呟きながら、そっと顔を近づける。
 美鳥がなにか言いたげに唇を開けようとして、ソコにキスを落とした。
「んっ!?」
 驚いた美鳥に答えることなく、何度も小鳥がついばむようなキスをする。
 最初は戸惑っていた様子の美鳥が、洋の首に手をかけてきて、積極的に受け入れようと
してくれる。
 だから、洋は一度美鳥の唇から外れて、右の頬にそっと唇を押しつけた。
「っ? ひー君?」
 不思議そうな声をかけてくる美鳥に答えずに、洋は今度は左の頬にキスをする。
 そのまま、涙の跡を伝って少しずつ頬を上がっていく。
 そして、閉じた瞼の上からキスを落とした。
 ちゅっ、とすこし触れるだけの優しいキス。
 そのまま右の瞼に移動して、今度は右の耳たぶに触れる。
「ふぁっ!? ひ、ひー君、何しとぅの?」
「キスしてる」
 美鳥の焦った声に答えながら、今度は左の耳へと移った。
「あ、でも、その、ひゃっ!? キ、キスって、口とか胸とか、ちゃうんっっ!」
 戸惑いと焦慮の混じる言葉に声を返さず、洋はそのままのど元に優しく唇を押しつけた。
 美鳥自身から立ち上る、ミルクのような甘い香りが鼻腔をくすぐって、ひくりとソレが
蠢くのを抑えられない。
 のど元から左右の首筋、鎖骨へと移動しながらキスを続けていく。
 いつの間にか首に掛かっていた美鳥の手が外れていた。
「ひー君っ、こちょばいっ、こちょばいって」
 くすぐったそうに身をよじる美鳥。
 ソレを見ながら右肩にキスをして、上腕、肘、下椀、手首と移動していく。
 そっと右手を持ち上げて、掌、手の甲、親指か小指まで順番にキスして、今度は左肩に
移った。
「ひー君っ、さっきからなにしとぅのっ?」
 口元をゆるめて、けれどどこか恥ずかしそうに美鳥が声をかけてくる。
 ゆっくりと左肩から下に移動して、指先までキスを続けてから、顔を美鳥に向ける洋。
「美鳥の全部が好きだって証拠、見せてる」
「っ! そ、そやけど、それ、めっちゃハズい」

129:『僕らのルール』
07/10/20 09:21:25 n8xtVMgz
 困ったように眉をひそめる美鳥。それが可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「なんも、笑わんでもえぇやん」
「あ、あはは、ゴメン美鳥。でも、恥ずかしかったりくすぐったかったりするだけ?」
 聞き返した途端、紅潮していた美鳥の顔が更に赤くなる。
 だから、嬉しいとか気持ちいいとか、そんな気持ちになっていることは読みとれて。
 今度は胸を避けて、なだらかなお腹へと移動した。
「ひー、君?」
 きっと、胸に来ると思っていたのだろう。美鳥が不思議そうに問いかけてきて。
 やっぱりそれにも答えず、洋は胸のすぐ下からお腹全体を這うようにキスして、おへそ
にもキスをする。
「ひゃんっ! ひー君、そこあかんっ!」
 よほど綺麗に洗っているのだろう、匂いもほとんどなくて。
 また徐々に下に移動していく。
 ちゅっ、と淡い翳りの寸前にキスをして、今度は右の太股に移動する。
 そのまま、下へ下へと、キスをしながら降りていく洋。
 触れるたびに、美鳥がくすぐったそうに吐息を漏らす。
 それを聞けるのがうれしくて、美鳥の足下にまで移動した。
「ひ、ひー君っ! あかんて、そんな、きたないやんっ!」
 美鳥の驚きの声に答えることなく、美鳥の足の甲や裏、そして、指のつま先に至るまで
キスの雨を降らせていく。
「別に、汚くないよ? 美鳥だから、僕には汚くなんてない」
「そ、そやけど」
 嬉しそうに口元をゆるめる美鳥。
 それが嬉しくて、今度は左の太股にキスをして、下まで移動していく。
「んっ! そやけど、こんなん、ハズい」
「そんなに恥ずかしい?」
 足の指先に至るまで唇を押しつけてから、顔を上げた洋は美鳥に問いかける。
「当たり前や!」
 軽い口調の問いかけに、美鳥が怒った表情を浮かべて見詰めてくる。
 いきなり、美鳥が体を起こした。
「美鳥?」
「ひー君にも同じ事したるんや!」
 美鳥が叫ぶと同時に、こてんとベッドに押し倒された。
 戸惑うよりも先に美鳥の顔が間近にあって。
「ひー君」
「んっ!?」
 ちゅぅっと、美鳥の唇が洋のソレに吸い付いてきた。
 洋がしたようなただ触れるだけのキスではなく、まるで貪るようにこちらの唇を吸い上
げる美鳥。
 ただ唇をこすり合わせて、時々上唇や下唇を甘噛みされる。
 それだけでゾクゾクと背筋が震えるほど気持ちよくて。
 びくんっと腰が震えた。
「ちゅぅっ、んちゅっ、じゅちゅ」
「んっ!?」
 それだけでも気持ちよかったのに、美鳥の舌が唇を割って中に入ってきた。
 上顎と下顎の歯茎と歯の表側を順番に舐められて、くすぐったさにおもわず口を開ける。
 同時に美鳥の舌が入ってきた。
 口蓋をくすぐるように舐められて、歯茎の裏側にも舌が伸びてくる。
 そして、つんつんと美鳥の舌が洋の舌をつついてくる。
 気持ちよさと、気恥ずかしさに戸惑っていた洋は、慌てて舌を伸ばして美鳥のソレと絡
めた。
「っ!」「ん~~」
 美鳥の舌の動きにあわせて、必死に洋も動かしていく。
 舌と舌を絡め合う感触は快感で、ちゅくくちゅと、耳からではなく頭の中で直接響く音
に体よりも心の方が気持ちよかった。
 どれだけソレを続けていたのか、ちゅぽっと音を立てて美鳥が離れる。
 ほんの一瞬、銀の糸が走って途切れた。
「はぁはぁ……っ」
「ふぅ、ふぅ、ひー君、可愛えぇなぁ」
 美鳥が嬉しそうな笑顔を浮かべて見詰めてくる。

130:『僕らのルール』
07/10/20 09:22:05 n8xtVMgz
 洋も同じように笑顔を返して、また気恥ずかしさを感じて。
 また、美鳥の顔が近寄ってくる事に気付いた。
 そのまま、ぺろんっと右の頬を舐められた。
「美鳥?」
「ん~~、ひー君、好きぃ」
 呟いた美鳥が今度は左の頬をれろっと舐めてきて、そのまま舌が這い上がってくる。
 瞼に来るとわかって、洋は思わず目を閉じた。
 右目の上かられろんと軽く舐められて、それが気持ちよかった。
「ひー君、目、開けてぇな?」
 美鳥の声に慌てて、目を開いて。
 視界いっぱいにピンク色が広がったと思った瞬間、ぺとりとなま暖かくてすこしざらつ
いた感触が右目を覆った。
「み、美鳥!?」
 美鳥が目を直接舐めているのだと理解したのは、一瞬遅れてだった。
 ぞくぞくと全身に痺れが走る。
 肉体的な快感は殆どないけれど、心が泣きたくなるほどに気持ちよくて、股間がひくん
っと跳ね上がった。
 それが、美鳥のお腹に触れて、また気持ちよくなってくる。
 美鳥が一旦離れて、見詰めてきた。
「ひー君の目、なんかしょっぱい……、もしかして、泣いとぅ?」
「そんなわけ、ない……。ってか、いきなり、何するんや」
「ひー君、ウチにキスしてくれたやん。ウチもそうしとうだけやもん」
 その言葉を残して、今度は左目に舌を伸ばしてくる。
 左目を開いて、右目は閉じた。
 乗り出した美鳥の、大きな胸が揺れるのが見えてしまうから。
 それが少し恥ずかしいから。
 美鳥が舐めてくる感覚に身を委ねた。
 気がつけば、美鳥が離れていて。
 そのままつつっと左耳に舌を這わせてきた。
「んくっ!」
 ちゅっとキスされて、ぴくっと意識してないのに体が震える。
 そのままれろれろと美鳥の舌が動き始めた。
「美鳥……、恥ずかしいって」
 思わず声が漏れて、体を起こした美鳥が見詰め返してくる。
 その顔に詰る色を感じて、思わず小首をかしげた。
「ひー君、ウチに同じ事しとったやん、なんでウチがしたらあかんの?」
「そ、それは」
「やから、ひー君も抵抗したらあかんのや」
 その言葉に返すことが出来なくて、美鳥が右耳に舌を這わせるのを無言で受け入れる洋。
 気持ちよさにただ身もだえながら、美鳥が首の方に動いていくのを感じていた。
「んくっ!」
 美鳥の舌が這う感触に、我知らず声が出てしまう。
「ひー君、ほんまに可愛えぇなぁ。まるで、女の子みたいな声やし」
 普段だったら怒り出すその言葉に、今だけは洋も返す言葉が見つからない。
 確かに、美鳥の舌が蠢くたびに漏れる声は、女の子の喘ぎ声そのもの。
 だから言葉を返せなくて。
「っ! ふっ!」
 つっとのど元を美鳥の舌が這う。
 その心地よさに、言葉が出ない。
 その舌が、右肩に移動して、一気に下っていく。
「美鳥、待って、んくっ!」
「何で?」
 不思議そうに首をかしげた美鳥が、洋の手を取り上げた。
 そのまま、手首や甲や掌も舐め回した美鳥が、親指を口に含んだ。
「んっ!」
 ぞくりと指から腕へと気持ちよさが走る。
 ちゅくちゅぷと散々舐め回して今度は、人差し指へと移動する美鳥。
 温かくぬめる感触が気持ちよくて、股間が勝手に跳ねてしまう。
「ひー君、気持ちえぇんやね? ひー君、気持ちえぇとウチも気持ちえぇよ」
 美鳥の言葉に、洋はただこくんっと頷く。

131:『僕らのルール』
07/10/20 09:25:50 n8xtVMgz
 今度は美鳥の舌が左肩へ移動して、またゆっくりと伝い降りてきた。
「んっ、んくっ! ふっ……ふぅ」
 じんわりと全身に熱が籠もっていく。
 それは、気持ち良いと言うより心地良いと感じられて。
 今度は左手に美鳥が吸い付いてくる。
「美鳥……」
 ただ美鳥を見詰めながら呼びかける洋。
 手の指に吸い付きながら美鳥が上目遣いで見詰めてきて、普段とは違う媚びの入ったそ
の目に鼓動が早まった。
 美鳥がそのまま移動して、今度は胸の上に舌を這わせて。
 奇妙な感覚に思わず頬が熱くなった。
「ちょっ、こら!」
 美鳥が、ちろちろと乳首に舌を這わせているのだ。
 じわっとそこから熱が湧いて、全身に広がっていく。
「そ、そこはやめろっ! んっ! ふぅ」
 美鳥が楽しそうな笑みを浮かべながら乳首を舐めてきて。
「ひぅっ!!」
 かりっと、甘噛みされて自分でも思ってもいない声が飛び出した。
 美鳥がにんまりとした表情で見詰めてくる。
「ほんまに女の子みたいやね?」
「い、いい加減にせんと、本気で怒るで!」
 思わず素で叫んだ洋に、しょぼんとした表情になる美鳥。
「……うぅ、ひー君が怒ったぁ」
 その様子に、何となく苦笑が浮かんで。
 洋は右手を伸ばして、美鳥の唇をそっと撫でた。
「別に怒ってないけどさ。そこはやめてって言ってるだろ」
「あかんの? 気持ちよぅないん?」
「気持ちいいとか、そう言う事じゃなくて……」
 単にそんな所を弄られて、気持ちよくなる自分が信じられなかっただけ。
 そして、それが恥ずかしかっただけだから。
「そんなに、イヤなん?」
 上目遣いで見詰めてくる美鳥に、洋はこくんと頷く。
 それで納得してくれたのだろう。
 それ以上は何も言わずに美鳥が徐々に舌を下ろしはじめた。
 洋のへそのあたりで止まった美鳥が、ソコを舌でほじる。
 ほんの一瞬、美鳥が微妙な表情を浮かべて、そのまま下へと移動していく。
「あ、美鳥!」
 右の太股を伝い降りた美鳥が、足の指に舌を這わせようとするのを慌てて制止する。
 一瞬、美鳥が訝るように動きを止めた。
「そこ、汚いっ!」
「ひー君もしてくれたやん」
 それだけを呟いた美鳥が、れろっと親指を舐めてきた。
 ゾクゾクと全身が総毛立っていく。
 ちゅるぴちゃと卑猥な音が響き、そのたびに心が驚きの声を上げるほどの心地よさを感
じていた。
 今度は、左の足に移って指をしゃぶる美鳥が、不意に動きを止めて顔を上げる。
「ひー君、気持ちえぇ?」
 その言葉に、ただ頷くことしか出来ない洋。
 同時に洋のソコがぴくんっと震えた。
「ふわ……、結構よう動くんやね?」
 美鳥が目を好奇心で光らせて、じっと洋のソレを凝視してくる。
 つっと、足首から太股を伝うようにはい上がってくる美鳥の舌が、下腹部を軽く舐めて
きた。
 何となく、美鳥のしようとしていることが理解できて、だから、洋は何も言わずにされ
るがままに身を任せる。
 恥ずかしげな表情の美鳥が、堅くそそり立つ洋のソレに顔を近づけてきて。
 そのまま、さっきみたいに先端に優しくキスしてきた。
「っ!」
 それだけの事が気持ちよくて、ぴくんっと腰が震えた。
 美鳥が嬉しそうな笑みを浮かべて見上げてくる。

132:『僕らのルール』
07/10/20 09:26:31 n8xtVMgz
「ひー君、可愛え~なぁ」
 そう呟いた美鳥が、伸ばした手で洋のソレを、きゅっと握りしめた。
「んくっ!」
 しゅにしゅにと美鳥の指が上下に動くたびに、気持ちよさが全身に走っていく。
 ちゅっと先端にキスされるたびに、思わず身悶える程の快感を覚えてしまう。
 だけど、美鳥の刺激はほんの少しだけ、洋の望みより弱くて。
 熱はいくらでも高まっていくのに、体が達することが出来ない。
「ひー君……好き」
 ポツリと呟いた美鳥が、れろんと先端を舐め上げた。
 びくりと、自分でも思っていた以上に強く体が震えて、先走りがにじみ出した。
「これ、変な味やね? でも、なんか凄くHな味や」
「うん……、そう、だね」
 目を潤ませながら見詰めてくる美鳥。
 それが洋の気持ちを昂ぶらせて、その先を求めてしまう。
 それでも、その思いを口に出せない洋に、美鳥がにこりと笑いかけてきて。
「あ~~む」
「っ! みと、りっ」
 一気に洋のソレを口にくわえた。
 美鳥の口の中は温かくて、なのにぬるりとした感触で、びくんっと肩が勝手に震えてし
まう。
「ん~~、ひぃふん……ひもひひい?」
 媚びを含んだ瞳で見上げられる。
 入ったままで喋るせいで、振動が余計に気持ちよさを加速させる。
 だから、頷きながら洋は美鳥を見詰め返した。
「僕ばっかりじゃ、いやだ」
「ん?」
 まだ洋のモノを銜えたままの美鳥が、目だけで問いかけてくる。
「僕も、僕も美鳥を、気持ちよくしたい」
 だから、素直に言葉を返して、美鳥をじっと見詰めた。
 こちらの言葉の意味を理解したのだろう、美鳥が一度口を離して。
 膝立ちになって洋の頭の側にまで来た。
 そのままの体勢で、美鳥が洋の顔を跨いだ。
「……やっぱ、ハズいやね」
 その恥ずかしげな声に答えることも出来ずに、洋は目の前に晒された美鳥の秘処を見詰
めてしまう。
 まだ殆ど一本の線に近い形は、美鳥の体型とは裏腹に幼さを残していて。
 思わずごくりと唾を飲んだ。
 美鳥が体を倒して、洋のモノをまた口に含んできた。
 それを感覚だけで理解して、洋は両手をそっと伸ばす。
「んっ!」
 ぷにゅっとした感触を指先に感じるのと、美鳥が声を上げるのは殆ど同時で、きゅにっ
と竿を握られて、ぞくりと背筋が粟立った。
「美鳥」
 呼びかけながら、その部分を割り開く。
 開いた形はアワビのそれに似ていて、色は鮮烈なまでのサーモンピンク。
 秘豆をくるむ莢と尿道、少し盛り上がってぴくぴくと震え、時折愛蜜を零す入り口を目
にして、どくんっと心臓が今まで一番強く震えた。
 それは、見方によってはグロテスクに見えるもので、
「美鳥、綺麗だ」
 けれど、洋にはとても綺麗に思えた。
「ぷはっ! そんなん、嘘や」
 いきなり洋のソレから口を離した美鳥が拗ねたような声を向けてくる。
 それが不思議で、だけど、今はソレに答える余裕はなくて。
「嘘じゃないよ。どこがどうって上手く言えないけど、でもやっぱり美鳥のココ、綺麗だ
と思う」
 洋から見て下の方、肉莢に包まれたクリトリスのあたりに舌を乗せて、大きく幅を広げ
た舌でれろんと一気に舐め上げた。
 チーズに似た匂いと温くなったスポーツドリンクのような味を感じて、それが昂奮を高
めていく。
「んくっ! ひー君そんないきな、ひゃうっ!」

133:『僕らのルール』
07/10/20 09:27:16 n8xtVMgz
 美鳥が驚きで声を上げるのにも構わず、ただ何度も舌を上下させる。
 甘い涕泣を漏らしていた美鳥が、不意に押し黙ると同時。
 先端が温もりに包まれた。
「っ!」
 美鳥がまた口の中に含んでくれた。そう思っただけで達しそうになって、手を握りしめ
て必死でソレを押さえる洋。
 まだ、イキたくない。美鳥を気持ちよくしたい。
 その思いの方が勝っていた。
 だから、激しく舌を動かしながら両手を伸ばして美鳥のお尻をなで回す。
「ん~~ひー君……それやらしい」
 僅かに咎める声に答えるように、美鳥のお尻をぎゅっと掴んだ。
 適度な柔らかさと掌を押し返すような弾力が、ただただ気持ちよかった。
「ひー君が、その気やったら……」
 美鳥がどこかイタズラっぽい声音で呟いて、次の瞬間、モノの左右から温かく柔らかい
感触が圧迫してくる。
 肉体的には極端に気持ちいいというわけではないけれど、安心感を幾数倍にもしたよう
な不思議な感触に背筋が僅かに震えた。
「美鳥……、何してるの?」
「ウチのおっぱいでひー君のおちんちん挟んでるんやけど?」
 あっけらかんとした物言いに、少しだけ頭が痛くなる。
 美鳥も女の子なんだからもう少し慎みを持って、とそんな言葉が口を衝いて出そうにな
った。
 けれど、こんな事をしている最中にそんなことを言っても意味がない。
「一体、どこでこんな事覚えたんだよ」
「ん~~、冬子と澄香がおっぱいでおちんちん挟むんは男の夢やって言ぅてたんよ。ウチ
やったら楽にソレ出来てえぇなぁって話ししとってん」
 その言葉に、洋は思わず自分の両のこめかみを左右の親指でぎゅっと押さえた。
 美鳥達三人組の一人、妹背冬子の事を思い出して、しかめっ面を浮かべる。
 ボブショートで男性的、かつ姉御肌で男子のエロ話に平然と加わる冬子の事だ。
 きっと、フェラチオとかさっきの乳首へのイタズラも教えたのだろう。
 思わず溜息を吐きそうになって、
「……それとも、ひー君これイヤなん? ウチのやと気持ちよくないん?」
 けれど、聞こえてきた声に思わず苦笑した。
 ぷっくりと大きく膨らんで莢から飛び出したクリトリスに、いきなりキスする。
「ふぁぁっっ!! ひ、ひー君っっ!?」
 美鳥が腰を引きながら振り返ってきて。
 目尻に涙を浮かべて驚いている美鳥に、いつも通りの笑顔を向ける。
「美鳥、気持ち良いよ。美鳥がしてくれて、その、嬉しいよ。だから続けて欲しいな」
 すこし顔を赤らめながら笑いかける洋に、美鳥が嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「うん、うん! ウチ頑張るな!」
 何度も頷いた美鳥がぎゅむっとまた洋のソレを左右から圧迫してきた。
 同時に、先端に美鳥が舌を這わせてきて、気持ちよさを抑えてお尻を鷲掴みにする。
 ぴくっと美鳥の体が震えて、とぷんっと美鳥のソコから愛蜜が零れた。
 ソレを舐めとりながら、美鳥の中へ舌を突き込んだ。
 ぎゅっと締め付けられる感触と、熱い内部のぬめる感覚に、ココに自身を埋めたときの
快楽を想像してしまう。
 けれど、今は美鳥を気持ちよくさせたかった。
 右手はお尻を掴んだまま、左手を下に伸ばして、美鳥の堅くしこったクリトリスを優し
くなでさする。
 そうやって、美鳥を攻めていないと、股間からはい上がってくる快感に負けそうになっ
ていた。
「ん、ひーふん、ひーふん」
 口にくわえたまま美鳥が甘い声を上げて、そのたびに震えた感触が伝わってくる。
 ぞくぞくと気持ちよさがはい上がってきて。
 ソレを抑えるように美鳥のお尻を揉みながら、美鳥の膣内(なか)を思い切り舌でかき
回す。
 美鳥の秘豆をくりくりといじり倒す。
 そのたびに美鳥の腰が前後に動いて、もっと気持ちよくしてと必死で告げてきた。
 だから必死で美鳥を気持ちよくさせ続けて、腰から来る痺れを紛らせ続けた。
「ひーふん、ほうひふの? ひふひふひへふ」


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