三雲岳人作品でエロパロat EROPARO
三雲岳人作品でエロパロ - 暇つぶし2ch232:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのにじゅうろく
08/01/18 22:24:05 hfbVYg5o
 
 どれくらい、そのままでいたんだろう。そんなに長い間じゃなかったはずだけど、私には何時間にも思えた静寂のあとに、操緒さんはおもむろに目を伏せて、呟いた。
『それで……あたしに何言えって……言うんですか……』
「……なんにも。言わなくていいです。……私が言いたいこと言ってただけですから」
『そんなのって……ずるいじゃないですか』
「そうですよ? ……おあいこです」
 操緒さんは顔を上げた。私が澄ました顔で見返すと、操緒さんは段々と目を眇めるなり、いきなり、にやりと笑った。
『先輩って、やっぱ意外と……』
 まだ言いますか。
「あの……ですから、意外と、は余計です……私、一応ほら、年上で……」
 操緒さんは吹き出した。ええと……その……もう、何がそんなにおかしいのー!
『先輩……せんぱい』
 操緒さんは笑い声の下から、切れ切れに言う。
『先輩、可愛いっ。可愛過ぎっ』
「え。ええっ……」
 あのう……操緒さん。たった今私が言ったこと、聞いてました?
『そんなに可愛いの、反則ですよー……まいったなあ。あたし、百合じゃないはずだったのにい』
「……まいるの、こっちですよう……それに百合って、なんなんですかあ……」
 くすくす笑い続ける操緒さんと、しょげる私。そこに、ともはちゃんが戻ってきた。
「……何やってんですか。二人して」
『んー』
 操緒さんがいたずらっぽく目を輝かせて、
『女の子のヒ・ミ・ツ。ともはちゃんには、まだ早いかなー。もっと大人になったら、教えてあげるね』
「何だよ、それ……」
 ともはちゃんが物問いたげに私を見るけど、私も乾いた笑顔を向けるのがやっとだった。とてもじゃないけど、年下の女の子に可愛いって言われたなんて、口にできない。
 ともはちゃんは要領を得ない顔つきのまま、肩をすくめた。
「あー……。お待たせしました。行きましょうか」
「はい」
 私もお弁当箱を持って、立ち上がる。残り物を詰め直した方をともはちゃんに渡してあげると、ともはちゃんがふと思い出したように、
「そういえば……プレゼント、結局決まらないままですね。すみません」
 ああ、そうだった。うん、それはね。
「いいえ、大丈夫ですよ。もう、決まりましたから」
「え?」
 ともはちゃんは何のことだか分かってない顔だったけど、私は何も言わずに、ふふ、とだけ笑った。操緒さんが笑うのを止めてジト目で睨んでくるけど、気にしない。
 まあ、いろいろあったけど、結果オーライ。けっこう収穫があったなあ、と体の向きを変えた私の目に、あるものが飛び込んできた。
 壁の広告。レディース冬物バーゲン。8割から9割引き。

233:名無しさん@ピンキー
08/01/18 22:25:05 hfbVYg5o
今回はここまで。あと2回の投下でおしまい。

234:名無しさん@ピンキー
08/01/19 01:21:06 fniA4VvX
楽しみにしてるぜ

235:名無しさん@ピンキー
08/01/19 23:28:21 1xXYyb1M
続き楽しみにしてます。
てか最近また人減った気がするんだが・・・いる奴ちょっと返事してー。

236:名無しさん@ピンキー
08/01/20 01:20:04 vO9fA8ds
>>235
あいよ~。書きたいけどうまくいってないから見てるだけ。

237:名無しさん@ピンキー
08/01/20 01:44:18 NZf4TfHX
俺、書いてる途中だけど時間がなくて中々進まん

238:名無しさん@ピンキー
08/01/20 06:22:49 UKCysXEt
人が居ないのは受験シーズンだからさ…俺以外にも受験生がいるはずだ




浪人生なのにorz

239:235
08/01/20 10:09:57 bz3uwMe1
俺ふくめて4人か・・もっと隠れてそうだけど、
とりあえず書き手さん残ってるみたいで良かった。

>>238
受験かぁ、体に気をつけてがんばってください。

240:233
08/01/20 12:48:48 i04zFUko
皆さんお忙しいとは思いますが、どうぞよろしゅう... <(_ _)>
いくら保守代わりとはいえ、こんな温い話でスレを埋めるのが正直
段々心苦しくなってきたところなんだ。

しかし、この次用に智春&操緒×紫浬&朱浬のエロも一応書き上げて
みたが、えらく苦労した。
操緒の射影体とか嵩月の興奮発火体質とか朱浬さんの改造肉体とか
エロ抑止ギミックがこれでもかと盛り込まれていて、これは三雲め
絶対わざとだろ、とか思ったり。

機巧魔神にせよ悪魔にせよ、鬱要素テンコ盛りの設定だし。どういう
カップリングでもその延長線上にハッピーエンドを想定しにくいったら。
それを思うと、2巻183pの佐伯妹のセリフがやはりFAかもしれんのう...。

愚痴レスですまん。ではまた来週末にでも。

241:236
08/01/20 16:07:20 vO9fA8ds
>>238
武運を祈ってるよ。

>>240
いや。気に病む必要もないでしょ。
俺もどうにかしないとねえ。だけどいかんせんこういうのは不得手でねえ。
何はともあれ、続きを期待。

242:名無しさん@ピンキー
08/01/21 11:59:34 NjetFBy7
そうだよな、都合の悪い部分はスルーするかオリジナル設定作らなきゃエロにもっていくのが難しいよな
何か対策しとかないと嵩月の処女喪失と同時に智春が部分的に再起不能な大火傷しそうだし

朱浬さんが智春とセクロスしたら、やっぱり機巧魔神の力を使えなくなるのかな?

243:名無しさん@ピンキー
08/01/23 02:46:58 FcsT0XYH
>>242
一部でもアレだけど、最悪塵と化しそうで…

244:名無しさん@ピンキー
08/01/24 02:02:32 mEL/AIuv
氷羽子も入れた3Pなら炎と氷で打ち消し合うかも、という妄想が
ふと浮かんだが、成り行き次第ではもっと悲惨なことになりそうだ。w
氷羽子については情報不足で、己にゃまだss化は無理だしナー...。
あとは、律都さんになんかあやしげな薬を処方してもらうとか?

朱浬さんについては、演操者(朱浬さんの場合は兼副葬処女?)同士で
ヤるとどうなるか、という設定は今のところ出てないはず。
「顔と胴体は自前」らしいので、マグロでいてくれればセクロスするに
支障はないはずだが、いかんせん怪力設定がなあ...。
我を忘れられると、智春のいろんなとこが2巻p72の木刀のような目に
合いそうだ。ナムナム (-人-)

245:名無しさん@ピンキー
08/01/24 02:06:10 mEL/AIuv
あ、2巻p72じゃなくて3巻p72だた。

246:名無しさん@ピンキー
08/01/24 20:57:50 zp0WY4x5
能力の制御法でもあるんじゃないか?
2巻で嵩月が自分から契約を誘うようなこと言ってるし、対策はあるんじゃないかと

由璃子さんと谷やんはどうだったんだろうね

247:名無しさん@ピンキー
08/01/26 01:41:16 WJli6vR9
ひかり先輩×ともはさんの第8回。
このお話の唯一のエロ回... いや嘘ですゴメンなさい。

248:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのにじゅうなな
08/01/26 01:42:30 WJli6vR9
 
 これは見過ごせない。女として。いや人として。見過ごすことは許されない。
「……あの、なにか?」
 いきなり私にがっしりと袖口をつかまれたともはちゃんが、けげんな顔で尋ねる。
 ともはちゃん。バーゲン。
「はあ」
 ともはちゃん。バーゲンはね、女の戦場なんだよ。
「は?」
 そこでは、逃亡も撤退も敗北も許されないんだよ。
「ええと、先輩?」
 贅沢は敵だけど、足らぬ足らぬは工面が足らぬ、なんだよ。欲しがりましょう買うまでは、なんだよ。あらまた一着、もう一着、なんだよ。
「いや、もうすでに意味が分かりません」
 だからね。黙って来なさい。分かった?
「……はい」
 素直でよろしい。ところで、ともはちゃん。
「はい、なんでしょう」
 私、さっきから何も口に出してしゃべってないのに、なんで会話が成立してるのかな。
「いや正直、何も分かんないんですけど。答えだけがなぜかひらめくんですよ……」
 なんかすごい。でも今は、それどころじゃない。ともはちゃんの手を引いて、いちもくさんに、バーゲンのフロアへ向かう。かなり出遅れちゃったから、めぼしいものは残ってないかもしれないけど、とにかく行ってみなきゃ。
 エスカレータを降りると、探すまでもなく、黒山の人だかりで、目当ての場所は分かった。
「……あの、ひかり先輩? もしかしてあの中に突っ込んでいこう、とか……?」
 不安げに尋ねてくるともはちゃんに、にっこりと笑いかける。ともはちゃん、そんなに顔を引きつらせて後ずさるようなことは、なにもないんだよ?
「言ったでしょ? 戦場だって。突撃あるのみですから」
「ええっ……ぼ……私は別に……そういうの興味なくて……」
「撃ちてし止まむ、ですから。では、そういうことで。いざ」
「いえだからそういうことってどういうことですかっ」
『ともはちゃん』
 いつの間にか、操緒さんがともはちゃんの背後にぴったりとくっついていた。私と、全てを分かち合った戦友同士の熱い視線をかわす。
『これはねえ、女の子が必ず通らないといけない道なんだよ。そうやって、大人への階段を上るんだよ。花は手折られてこそ花なんだよ』
「いやお前の言ってることも意味不明だしっ」
 ええいもう、往生際が悪いなあ。
「操緒さん」
『らじゃー』
 言わず語らず、以心伝心で響き合うなんて。ああなんて美しい女の友情なのかしら。
「お……おい、ちょっと……? あ、脚がっ……操緒っ、まさかっ」
 ともはちゃん、大丈夫だよ。ちょっと今は、初めてで勇気が足りないだけだから。私と操緒さんが手伝ってあげるから。何も心配ないよ。
「ちょっと待てえええええっ」
 上半身だけでむだな抵抗を示しながら、下半身を操緒さんに操られたともはちゃんは、私といっしょに人混みの中へ駆け入っていった。

249:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのにじゅうはち
08/01/26 01:43:29 WJli6vR9
 
「うううっ……汚されちゃった。汚されちゃったよう……」
 試着室へ向かう列の中、持てるだけの品物を抱えながら、ともはちゃんはさめざめと泣いていた。おおげさだなあ。それに、OLさんからそのカットソーをもぎとった時のともはちゃん、かっこよかったよ。
「いや、ですから……あんな浅ましいマネは、ほんとのぼ……私じゃ……」
 だから、戦場だって言ったじゃない。ひるんだ方の負けなんだから。いいのいいの。操緒さんだって、うなずいてるよ?
「いいんですか……それで……?」
 なんだか、連続殺人犯でも見るような目つきで私を見るのは、やめてほしいなあ。「理性とか礼節とか、人としてはもっと大事なことが……?」とかぶつぶつ言うのも、どうかと思う。ともはちゃんだって、あっという間に目の色変わってたくせに。
「変わってませんよっ。人を同類扱いしないでくださいっ」
 なら、そこに抱えた品物は何? ともはちゃんが何もしないのに、品物がひとりでに飛び込んできたとでもいうのかしら?
「ううっ……。もう、いいです……」
「あの、お客様」
 近くの商品棚に向かってのの字を書き始めたともはちゃんにびくつきながら、店員さんが声をかけてきた。
「大変申し訳ありませんが、ただ今非常に混み合っておりますので、試着室はお連れ様とごいっしょということで、お願いできますか?」
「あ、はい」
 前の人たちもそうしていたから、当然のことだと思って、うなずく。ところが、
「え……ええええっ」
 背後で、ともはちゃんが悲鳴を上げていた。何なの、うるさいよともはちゃん。
「い一緒って、ぼ……私と、先輩が……?」
「はい。なにか?」
 店員さんは首をかしげるばかり。そうだよね。女の子が連れだって試着室に入っても、何も問題ないはずだもの。女の子同士だもん。
「そ、それはさすがにまずいんじゃ……」
 そうね、三人だとちょっと狭いかも。でも、操緒さんは宙に浮けるわけだし。
「いや、そうじゃなくて……」
 しつこく言い募るともはちゃんを、私は制した。
「ともはちゃん、わがまま言っちゃだめでしょう? ええ、はい、大丈夫です。すみません、連れが聞き分けなくって」
「はあ」
 店員さんは今ひとつすっきりしない顔だったけど、列の後ろの方へ同じことを告げに去っていった。
「せ先輩」
 ともはちゃんが、私の耳のすぐ側で囁いてくる。ううん、くすぐったいっ。
「いやなにをうっとりと悶えとるんですかあんたは。じゃなくて、一緒に試着室って、それは……」
「ともはちゃん。私の着替えなんか、グランクリユで何度も見たじゃないですか。いまさら、何言ってるんです」
「うううっ……それはっ……」
「ね?」
 ほら、何も問題ないじゃない。だからともはちゃん、いい加減泣くのを止めなさい。

250:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのにじゅうきゅう
08/01/26 01:44:32 WJli6vR9
 
「ああっ……先輩……そんなにしたら……締まる……」
「ともはちゃん……まだよ……まだだめ……」
「だって、先輩……私……も、もう、動けない……動いたら……」
「こう? これはどう? いえ、こうかしら?」
「ああっそんなっ……だめっ……許してっ……そんなにしたらっ……出ちゃうっ……」
「我慢するのよ……もう少しで、私も。私もっ」
「あっ……だめ、もう我慢できない……先輩、私、もう、こんなの……やだ……先にいっちゃったら……やっぱりダメ?……もう私……」
「だめだよ……私を置いて先にいっちゃうなんて、許さないから……ほら、もっと締めたげる。ほら、ほらっ」
「ああっ……も、もう、ほんとに、だめえええっ……!」
 ともはちゃんがのけぞるようにして背筋を伸ばす。その瞬間、私も何とか目指すものに到達することができて、喜びの声を上げた。長いようで短い濃密な時間のあと、目的を果たした二人は、ぐったりとなって寄り添ったまま、荒い息がおさまるのを待つ。
「せ、先輩……」
 ともはちゃんが、涙目になって振り向いた。
「こ、これ……やっぱり、息できませんよう」
「うーん……やっぱり、ちょっとウエストがきつかったですか? コルセットはあんなに締めたんですけど……」
「ちょっとどころじゃ、ないです……うえ、さっき食べたのが、出てきそう……。だから、さっきので終わりにしようって、言ったじゃないですか……」
「だめですよ。試着室に持ち込んだものは、ぜんぶ試さなきゃ。私もまだ何着か残ってるんですから。一人だけ先に出て行こうだなんて、許しません」
「ふええ……」
 うーん。タイトなドレススーツに何とかかんとかともはちゃんを押し込んでみたんだけど、ちょっと無理があったか。でも、こういう大人っぽい恰好、すごく似合うんだけどな。少し直してもらったら、これだって大丈夫じゃないかって思うんだけど。
「せ、先輩……もう限界……早く脱がせて……」
『ともはちゃーん』
 少し上空から、さっきからの顛末を何故かジト目で見守っていた操緒さんが、
『その言い方、かなーり、やらしい』
「な……何がだよ……」
 ともはちゃんが息も絶え絶えの状態で抗議する。なんで、やらしいのかな。きょとんと操緒さんを見上げた私を見て、操緒さんは呆れ果てたように首を振った。
「は、早く……」
 そうするうちにも、心なしか、ともはちゃんの顔色が土気色になってきたような。
「う、うん。ちょと待って」
 あわてて、さっきはめたばかりのボタンを外そうとしたけど、これがなかなか難物だった。そうだよねえ、もう食い込んじゃってるもんねえ。
「あの……先輩……? それはもう、だめということで……?」
 ともはちゃんが情けない声を上げた時だった。試着室のカーテンがさっと開かれて、誰かが中に顔を突っ込んできた。
「あのねっ、まだ次がつかえてんのよ。いつまで無駄な努力してんのっ。みんな待ってんだから、入らないもんは入らないってさっさと諦めなさい、って……え? ともはちゃん?」
 はい?

251:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのさんじゅう
08/01/26 01:45:42 WJli6vR9
 
 振り向くと、そこには、モデルばりのでたらめな美人さんがいた。この人、知ってる。確か、ともはちゃんといっしょに科學部にいる、
『朱浬さん……』
 私より先に、操緒さんが、その名前を呼んだ。黒崎朱浬さんは、まだ驚きを隠せない様子で、
「操緒ちゃんも……それにあなた、沙原ちゃん?」
「あ、はい……」
 黒崎さんの視線が、試着室の中をぐるりと一巡する。なんだか、強烈なサーチライトに照らされてるみたいで、私はびくりと身をすくませた。
「ふーん」
 黒崎さんは、にっこりと笑った。とっても綺麗ですてきな笑顔だった。なのに、なんでこんなに怖いのー!
「おもしろそうなこと、やってるじゃない」
「あ、あのう……これは、そのう……」
 何か説明しなくっちゃ、と気ばかりは焦るんだけど、おろおろするだけで、言葉なんか出てこない。黒崎さんは構わず、いったん試着室から顔をひっこめた。
「奏っちゃん! こっち来ない? すごいもの見ちゃった」
 え。え。奏っちゃんって、嵩月さんもいるの? そ、それって、まずいよう……。
 凍り付く私が何もできずにいる間に、カーテンの隙間から、これまたとんでもない美少女さんが、試着室の中を覗き込んだ。嵩月奏さん。ともはちゃんのクラスメイト。悪魔四名家の一、炎を操る嵩月家の跡取り娘さん。それが、なななんでここに……?
「あー……」
 黒崎さんに強引に押し込まれたらしい嵩月さんは、きょとんとした表情で、ゆったりと中を見回す。その視線が、ともはちゃんに止まった。
「……夏目くん?」
 は? 嵩月さん、今なんと?
 なんで、ともはちゃんのこと、知ってるの?
 ええっと、それって……。ということは……。
 全然考えなんかまとまらないでいると、嵩月さんの目が、ゆっくりと、私に向いた。
「ひゃっ……」
 思わず、小さく悲鳴を上げてしまった。さっきの穏やかな眼差しから一転して、まるで終生の仇敵を見るかのような、冷たく真剣な目つき。あ……あのあの、どうして私がそんな目で見られなきゃいけないんでしょう……?
「あなた……たしか……沙原先輩……」
「ははははい!」
「何をしてるんですか……こんなところで……そんな恰好で……」
「え」
 自分の体を見下ろして、ようやく、シュミーズ一枚の恰好だったことを思い出した。……え、ええと、これはですね、私が試着服を脱いだところで、ともはちゃんが困っているのを助けることになったからでして、決してその、ご想像のようなことは……。
 私がもじもじしているのをどう受け取ったのか、嵩月さんの表情がどんどん硬くなってく。
「夏目くんに……何、してるんですか」
「ああああのその、これは……一緒に……お買い物を……ってだけでして……」
『あのさ。どうでもいいんだけど』
 私の窮地を救ってくれたのは、操緒さんだった。
『ともはちゃん、そろそろ窒息しそうだよ?』

252:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのさんじゅういち
08/01/26 01:47:00 WJli6vR9
 
 それからは、ちょっとしたてんやわんやだった。ともはちゃんを何とかドレススーツから解放し、ぐったりしたともはちゃんを介抱し、二人とも慌てて元の衣装を身につけ、店員さんとか他のお客さんに謝り倒し、結局何も買わずに逃げるように、フロアを立ち去った。
 そして今、私たちは喫茶店にいる。ともはちゃんと、その左側に私、右側に操緒さん。向かい側には、黒崎さんと嵩月さん。
 黒崎さんが「ちょっとお話しましょ?」と誘ってくれて、ほんとは遠慮したかったんだけど。黒崎さんと嵩月さんの目の色が、私たちには断る権利なんてない、って明らかに言ってたので、ともはちゃんと操緒さんと私は大人しくついて来たのだった。
「いやー、奇遇ってあるものねえ」
 黒崎さんがしみじみと言う。ともはちゃんと私は、かしこまって座っているばかり。一応目の前には、注文したコーヒーなんか出てきてるけど、味なんて分かるわけない。
「まさか、バーゲン会場で、ともはちゃんに会うなんて……ねえ? 奏っちゃん」
 会話を振られた嵩月さんは、相づちも返事もしなかった。ただ、ともはちゃんと私にじっと目を据えている。あのう、そんなに睨まないで……いえその、すみません……いいんです……。
 そんな嵩月さんを見て、黒崎さんが苦笑した。あらためて私たちに向き直り、
「で? なんだって、こんなおもしろいことになったの」
 やっぱり、ここは私が説明しなきゃだめなんだろうな。念のため、ともはちゃんをちらりと横目で見てみたけど、もう全てを諦めた世捨て人みたいな顔をしてたし。
「あ、あの……私が、誘ったんです……その……ともはちゃんとは、グランクリユで……いっしょにお仕事するうちに、何となくともはちゃんのこと、分かっちゃって……」
 それを聞いて、黒崎さんが、あああれ、という風にうなずく。ともはちゃんがあそこで働くことになったのは黒崎さんの紹介だったから、細かいところまで話さなくてもいいのは助かる。
「でも、ともはちゃん、綺麗で、うらやましくて、いつか、いっしょに遊べたら、楽しいだろうな、って……そう思ってて……それで、ちょっとお願いしたいこともあったから……」
 というか、こういう事態になることを避けるために、夏目くんじゃなくてともはちゃんといっしょにお出かけしたのに、どうしてこうなるんだろう……。ともはちゃんのことが、こんなに色んな人に知られてるなんて、考えてもみなかったなあ……。
 考えるうちにたまらなく情けなくなって、涙が出てきた。この人たちの前で泣きたくなんてなかったから、一生懸命こらえようとしたのに、結局、二、三粒がぽろぽろと頬の上を転がり落ちていってしまう。
「あー……」
 それを見たのか、黒崎さんが少し気まずそうな声になる。いやだ。同情なんか、されたくない。私は急いでティッシュを取り出して目のあたりを拭うと、黒崎さんや嵩月さんと正面から顔を合わせた。

253:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのさんじゅうに
08/01/26 01:48:04 WJli6vR9
 
「……ふふん?」
 私と目を合わせた黒崎さんは、ちょっと意外そうに目を見開き、やがて面白そうな光を目に宿らせた。
「沙原ちゃんって……なかなか」
 ともはちゃんには、今回いろいろ迷惑かけちゃって申し訳ないって思うんだけど、黒崎さんや嵩月さんには関係ない。この人たちの前で、うなだれてなきゃならない理由なんて、何もない。だから、私は顔を上げて前を見ていればいいんだ。そのはずだ。
 私とにらみ合うようなかっこうになっていた黒崎さんは、しばらくして、ふ、と息を吐いた。
「まあ、確かに……いかに大切な科學部員とはいえ、トモハルが休日に誰と出歩こうが、あたしたちがとやかく言うことじゃないかもしれないわね。トモハルの自由なんだし」
 それを聞いて嵩月さんが、戸惑ったように黒崎さんを見る。良かった。分かってもらえたんだ。思わず安堵のため息をついたんだけど、
「……でもね。ともはちゃんについては話が別なの」
 は?
「今回の件であたしが気に食わないのはね。あたしのあずかり知らぬところで勝手に、ともはちゃんが出歩いてる、ってことなのよ」
 な……何なんですか……そのワガママめいっぱいな言いがかりは……。
 あまりのことに呆然としている私たちの目の前で、黒崎さんは堂々と続ける。
「大体ね、ともはちゃんの生みの親はあたしなのよ。それに一言の相談もなく、人目にその姿をさらしてまわるなんて、ありえないわ。そんなの、親を呼ばずに結婚披露宴やっちゃいました、みたいなもんなのよ。人倫に反するわ。そう思わない?」
 いや……あまり思いません。というか、全然思いません。ともはちゃんも、「そんな理屈ってあるのか……?」とかって、頭を抱えてるじゃないですか。嵩月さんも、結婚披露宴とかいう単語に反応して唇の端をひくつかせるのは、お願いだからやめてください……。
 なんか、六夏ちゃんがこの人を嫌いな理由が、良く分かった。お互い、ゴーイングマイウェイなところがそっくりだから、同類嫌悪なんだ。きっと。
「というわけでね。沙原ちゃん」
 え。ええと、私ですか?
「あなた。ともはちゃんのマネジメントを仕切ってるあたしの縄張りを荒らしておいて、どう落とし前をつけてくれるのかしら?」
「あ……あの、何がどうなって、そういう話に……」
「どうなの?」
 黒崎さんの目がすっと細くなる。
 別に、恐ろしい顔をしてるわけじゃないの。見た目は、とってもにこやかで優しい笑顔……なのに、どうして今日が私の命日かもって感じがひしひしとするのかな。背中に嫌な汗が流れるのかな。横を見ると、ともはちゃんも、この世の終わりみたいな顔をしてた。
 この世のものとは思えない理不尽な状況の中、思わず、両手をともはちゃんの腕にからめ、手と手を握り合わせる。ええと……その、深い意味はなくて、ちょっと助けてほしいというか、お互い支え合おうねというか、それだけなんだ、けれ、ども。
 それを見た瞬間、黒崎さんと嵩月さんの顔から、表情がぜんぶ消えた。
 ……お父さんお母さん。すみません。不憫な娘が先立つ不孝をお許し下さい……。

254:名無しさん@ピンキー
08/01/26 01:49:07 WJli6vR9
今回はここまで。次回でおしまい。

255:名無しさん@ピンキー
08/01/26 10:41:15 EzTOG5YB
ナイスエロ!

256:名無しさん@ピンキー
08/01/26 13:48:44 t/iENf7V
これは、いい修羅場www

257:名無しさん@ピンキー
08/01/30 12:49:46 Wzoqz9Pj
GJ!!

>>250
ベタだね~www
だがそれが( ´∀`)bイイッ

>>254次回で終わり!?
頑張って書き上げてください!
全裸&正座で待機します!

258:名無しさん@ピンキー
08/02/01 17:15:39 VNDI81rM
ひかり先輩×ともはさんの最終回。

259:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのさんじゅうさん
08/02/01 17:17:00 VNDI81rM
 
 ……ああ。生きてるって、やっぱり、いいなあ……。
 私は、一人きりで公園のベンチの上にへたり込みながら、ぼんやりと、抜けるような青空を見上げていた。風は少し冷たいけど、午後の日差しはそれなりに暖かくて、気持ちいい。
 いやほんとに、喫茶店でのあの瞬間は、「ふぁすたー・ざん・……」とか思わず口走りそうになっちゃったくらい、身の危険を感じた。無事に生きて出てこられたのが、奇跡みたい。
 もちろん、何の犠牲もなし、というわけにはいかなくて、ともはちゃんは黒崎さんに拉致されていっちゃった。「というわけで、ともはちゃんはあたしが預かるわ。文句ないわね?」とにっこり言われたら、首を縦に振る以外のことなんてできなかった。
 ともはちゃんが黒崎さんに引きずられていきながら、こっちによこしたすがるような目には気付かない振りをして、心の中で手を合わせるのが精一杯。ごめんね、ともはちゃん。私、か弱い普通の女の子だから。全身これ武器の改造人間の相手は、ちょっと荷が重いの。
 それにしても黒崎さんて、ともはちゃん……夏目くんのこと、どう思ってるのかな。単にからかいがいのある後輩っていうだけじゃなくって、何ていうか、言動の端々に、夏目くんは自分のものって思ってるのが透けて見えて。本人は意識してないのかもしれないけど。
 夏目くんの方も、年上は嫌いじゃないって言ってたし、あれだけ大人っぽくて美人でスタイルがいい人が身近にいたら、中身はどうあれ、くらっと来ちゃうことも、男の子だから、あってもおかしくない。
 私も同じ年上なのになあ。子どもっぽくて、頼りなくて、美人でもなくて、出るとこも控えめで。なんだって、こんなに差があるんだろう。
 ……なんて考えてると落ち込む一方だったので、背筋を伸ばして、両手で頬を軽くはたく。とにかく、夏目くんには来週にでもきちんと謝るとして、今日のお出かけの目的は果たしたんだから。うん、予想以上の収穫だった。
 膝の上のお弁当箱を見ながら、あらためて拳を握る。残念ながら、夏目くんに持って帰ってもらうはずだったこれは、あのどさくさの中で私の手元に残っちゃったけど、夏目くんに何を贈ってあげたらいいかという答えは、そこにあった。
 そう。何か、手作りのもの。お弁当でもいいけど、クッキーとかケーキとか、お菓子の方が日持ちがしていいかな。手編みは、今年はもう時間がないから来年の宿題ということにしよう。
 それに、そのうちに、夏目くんの家にご飯を作りに行ってあげようかな。それとも、うちに来てもらってもいいかも。別に、彼氏だとか彼女だとかいうんでなくても、友だちとしてでもいいから、夏目くんに何か、家庭のあったかさを感じさせてあげたい。そう、思った。
 その時に、夏目くんがどんな風に笑ってくれるかを想像したくて、目を閉じる。
 そのおかげだったかもしれない。足音もしなかったし、声をかけられたわけでもなかったけど、その人がすぐ側に来たことがはっきりと感じられて、私は微笑んだ。
「待ってたよ。嵩月さん」

260:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのさんじゅうよん
08/02/01 17:18:03 VNDI81rM
 
 こっちから声をかけたのは、先制したつもりだった。
 でも目を開けると、私から二、三メートルくらいのところに立っている嵩月さんの表情には、驚きも当惑もなくって、ただ、じっと私を見てた。弱い風につややかな長い黒髪をなぶらせたその姿は、恐いくらいに綺麗で、危ういくらいに張りつめてた。
 私も、ベンチから立ち上がる。座ったままでは失礼に思えたし、なにより、足を踏ん張ってないと気圧されてしまいそうだったから。
「来てくれて、ありがとう。私も、嵩月さんとは、少し話したかったんだ」
「……あまり、夏目くんに近づかないで」
 いきなり、そう来たかあ。どうでもいいけど、タメ口で話してるね、私たち。今は対等、ってことかな。悪魔の家柄とか先輩後輩とか関係なくって、ある男の子を大事に想ってる女の子同士、ってだけなんだ。それはそれで、なんとなく嬉しい。
「……どうして?」
「それは……夏目くんが……苦しむことになるから」
「そうなんだ」
 思わず苦笑する。それは片手落ちだよ、嵩月さん。
「だったら、嵩月さんが夏目くんと親しいのは、どうなの?」
「私は……」
 嵩月さんは、少し口ごもってから、
「私は、何があっても、夏目くんを守る、から」
 きっぱりと言ってのけた。
 こういうところは敵わないなあ……と、思う。たぶん嵩月さんは、夏目くんの彼女になるとかならないとか、夏目くんと契約するとかしないとかに関係なく、夏目くんを守るって決めてるんだ。下心もとい乙女心ありありの私は、まだそこまでは割り切れてない。
 でもね、嵩月さん。
「でも、嵩月さんが側にいて……嵩月さんに何かあれば、やっぱり夏目くん、きっと悲しむよ。苦しむよ。それは、同じじゃないかな」
「それは……」
 嵩月さんの顔が、ちょっとだけ歪む。痛いところだよね。私も同じだから、よく分かる。でも、遠慮なんかしない。たぶん、この機会を逃したら、嵩月さんとは二度とこんな話はできない気がする。
「嵩月さんは、夏目くんと契約しないの?」
 口にしてしまってから、でもやっぱり、ちょっと後悔した。嵩月さんが一瞬泣きそうな顔になったから。
「……夏目くんが、望まないから」
「夏目くんが望んだら?」
「……」
 その沈黙は、嵩月さん自身が迷ってる、ってことだね。嵩月さんのことだから、自分のことよりもまず、契約したときに夏目くんにかかる責任や負担のことを心配してるんだろう。けど。
「嵩月さんの方は、そうしたいんだって思ってたけど」
「……あなたには……分からない」
 やっぱり、私なんかには言えない? だったら、こっちも言いたいことを言うだけ。
「うん。分かんないよ。そんなの」

261:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのさんじゅうご
08/02/01 17:19:08 VNDI81rM
 
 嵩月さんがきっ、と私を睨み付けたのは、私が笑いながら軽い調子でそう言い放ったからだ。でも、私は動じない。
「嵩月さんが、一人で悩んで、一人で決めて、一人で迷って、でもそんなの、私は分からない。分かってあげない」
「……」
「夏目くんだって、いろいろ考えてるよ。嵩月さんが夏目くんを守るなら、夏目くんも嵩月さんを守りたいって思ってる。嵩月さんが、夏目くんのことを第一に考えて、自分のことなんかどうでもいいって思ってるなら、それは、夏目くんをバカにしてる」
「……私、はっ……バカになんかっ……」
「だめだよ。嵩月さん」
 嵩月さんの血を吐くようなうめきにも、気付かないふり。
「私、嵩月さんのことがうらやましい。夏目くん、私なんかよりずっとずっと、嵩月さんのことを大事に思ってるよ。その気持ちは、ちゃんと受け止めてあげてほしいんだ」
「……」
「……まあ、というのも、私のわがままなんだけど。私ね。夏目くんといっしょにいたい。これからもずっと。でもね、嵩月さんだけが勝手にいなくなっちゃったら、夏目くん、もうぜったい私のことなんか見てくれなくなると思うんだ。だから」
 一歩、二歩、三歩。嵩月さんに近づく。嵩月さんが後じさるかな、と不安だったけど、嵩月さんは彫像みたいに動かなかった。
「嵩月さんも、ずっといっしょにいて……私と夏目くんを取り合って……私にやっかまれててほしいんだ」
 嵩月さんの手を取って、握りしめてあげた、とたん、嵩月さんの美貌がくしゃくしゃっとなって、その大きな瞳からぼろぼろと涙がこぼれ落ちてきた。
「わ……私……私、だってっ……いっしょに、いたいっ……夏目くんと……ずっと……」
「うん。うん」
 ほんとは抱きしめてあげたいところだったけど、嵩月さんの方が私よりずっと背が高いから、ちょっと無理。代わりに、嵩月さんの腕を私の背に回し、ぴったりと寄り添ってあげる。うーんそれにしても、私の頭を柔らかく受け止めてくれた胸は、やっぱありえないよ。
「だったら。だったらさ。いっしょに、いようよ。夏目くんだって、絶対諦めたりしないよ。夏目くんなら、絶対何とかしてくれる。私たちも、夏目くんといっしょに、頑張ろうよ」
 嵩月さんは何も答えずに、ただしゃくり上げるだけだったけど、私はそれを、うなずいているんだと勝手に解釈することにした。
「だから、勝手に諦めないで。契約したければ、しようよ。いっしょにいたければ、いようよ。夏目くんとなら、何だってできる。私、信じてる。嵩月さんは、信じないの?」
 嵩月さんの顔を見上げる。こんなにボロ泣きしてても美人に見えるなんて、いいなあ。
「……わ……」
「うん?」
「……私、も……信じ……てる」
「うん」

262:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのさんじゅうろく
08/02/01 17:20:23 VNDI81rM
 
 嵩月さんが泣きやむまでには、ちょっと時間がかかった。それまでの間、私たちはずっと抱き合ったままだった。ええとその……そろそろ日も傾いて寒くなってきてたし、嵩月さんはあったかくて柔らかくて、触れ合ってると、とっても気持ちよくて安心できたから。
 ようやく鼻をすすり上げる音がやんだところで、私はそっと嵩月さんから体を離す。嵩月さんときたら、目は真っ赤だし、顔は鼻水やら涙やらの跡だらけだし、髪は風にあおられてぐしゃぐしゃだし、もろもろひっくるめて、とっても綺麗だった。
「……私、そろそろ、行きますね」
 私は呟くように言う。いまさらなんだけど、猛烈に恥ずかしくなってきた。私、いったい偉そうに何を言ったんだろう。嵩月さんのことを良く知りもしないのに。
 嵩月さんは、答えない。目も伏せて、何を考えているのか、私には分からない。怒ってる……かなあ、やっぱり。
 私は、ベンチへ戻ってお弁当箱を抱え上げ、足早に立ち去ろうとして、そこで、一つだけ嵩月さんに訊いておきたかったことを思い出して、振り返った。
「……嵩月さん」
 嵩月さんは、うつむいたままだった。構わずに、
「私たち……友だちに、なれます、よね……?」
 嵩月さんが瞳をゆっくりとこちらに向ける。まだ涙が残っているのか、夕陽を浴びて輝く黒い瞳。
「……あー……私……」
 嵩月さんはとつとつと、けど迷いのない口調で、
「……やっぱり……沙原先輩のことは、嫌いです……」
 がっかりはしなかった。何となく予想はついてた答えだったから。それでも、理由くらいは教えてほしいな。
「……どうしてですか?」
「……夏目くんが……沙原先輩には、優しいから……です」
 うーん。それは、あんまり嬉しくない指摘だなあ。なぜって、
「あのう……それってたぶん、私が頼りないだけ、じゃないでしょうか……」
 そんなことを言われても自惚れたりできないくらい、自分が大した人間じゃないってことは良く分かってるし、何よりも、夏目くんの優しさを誤解なんかしたくない。力無く笑う私を見て、嵩月さんはさらに続けた。
「……それと……私が……沙原先輩のこと嫌いなのに」
 二度も言わないでほしいなあ。さすがにちょっとへこんだ私が視線を泳がせた隙に、
「沙原先輩が……私なんかに……優しいから」
 言うなり、嵩月さんはぱっと振り向いて、走り去って行ってしまった。あっという間に遠くなる嵩月さんの後ろ姿を見送りながら、こっちは呆然とするしかない。
「……やられた……」
 さすがに、これは予想できなかったよ。嵩月さん。一本取られました。ええと……どうしても、にやにやせずにはいられそうにないから、家に帰るまで不審者扱いされないといいけどなあ。

263:ひかり先輩、ともはさんと買い物に行く そのおしまい
08/02/01 17:21:38 VNDI81rM
 
 ふう。

 なんだか、思ってもみないくらいに大変な一日だった。つくづく、ともはちゃんには、悪いことしちゃったな。けど、いろんな人と会えて、それはそれで良かったんだと思う。

 佐伯くんの妹さん。ほんと、お互い苦労するよね。でも、夏目くんはちゃんと妹さんを見てくれてるよ。妹さんも、分かってるはずだよね。だから、もうちょっとだけ、素直になってみてもいいんじゃないかな。私の経験から言うと、それでも結構むずかしいんだけど。

 操緒さん。操緒さんは私のこと可愛いとか言うけど、操緒さんだって、とっても可愛いよ。夏目くんにはちょっともったいない気もするくらい。だからいつかきっと、夏目くんに、自分がどんなに果報者かってこと、ちゃんとはっきり、思い知らせてあげようね。

 黒崎さん。夏目くんのこと、ほんとはどう思ってるのか、そのうちゆっくり聞いてみたいな。きっと本音なんか言ってくれないだろうけど、でも、だったら私も遠慮なんかしない。どんなに美人で親しくても、ただの部活の先輩だっていうんならね。それでもいい?

 嵩月さん。今日のことは、夏目くんには当分ないしょだね。だって、最後に見せてくれた真っ赤にむくれた顔は、とんでもなく殺人的に可愛くて、あんなのを見せられたら、さすがの夏目くんもいちころだと思うから。二度も嫌いって言ってくれた、お返しだよ。

 はあ。

 困ったね。ほんとに、素敵な子ばっかり。分かってたけど。覚悟の上だけど。

 でもね。だから。

 夏目くん。そろそろ、覚悟を決めてね。私たちは、夏目くんから離れたりしないよ。夏目くんが一人で全部抱え込もうとしたって、そんなの、許してなんかあげない。だから、夏目くんが選んだ道を、いっしょに行こう。私たちは、もうとっくに選んだんだから。

 だいじょうぶだよ。こんなに可愛くてけなげな女の子たちがいっしょなんだもん。ぜったい、何があっても、だいじょうぶ。

264:名無しさん@ピンキー
08/02/01 17:23:18 VNDI81rM
これにておしまい。最後までゆるゆると温いお話ですまんかった。
なんか書き進むほどに、ひかり先輩がすっかり別人に。orz
まあ結局何が言いたかったかというと、
・女の子たちがみんなハッピーエンドを迎えますようにナムナム
・いやその前に原作がきちんと完結しますようにナムナム
・玲子かわいいよ玲子
・朱浬さあーん! 好きだあーっ!
・杏…ッ! 不憫な子…ッ!

265:名無しさん@ピンキー
08/02/01 21:09:20 pYckFBVo
ハーレムルートktkr、ってアニアが・・・
なにはともあれGJでございました

266:名無しさん@ピンキー
08/02/02 13:54:37 wf4TR7bM
乙でした
次回作も楽しみにしてます

267:名無しさん@ピンキー
08/02/02 23:04:57 IqMyKU2a
俺も楽しみにしてるよ!
まさかここまでの神作品が投下されるとはな…
普通に原作の外伝レベルじゃないか

268:名無しさん@ピンキー
08/02/03 23:57:38 pvc2RT1y
俺さ、受験に成功したらSSを……いや、成功したら何も言わずにこの言葉の続きをするべきだよな




成功したらな………

269:名無しさん@ピンキー
08/02/04 07:25:45 TGvwv41v
>>268 ガンガレ。合格と投下を、心から祈ってる。

270:名無しさん@ピンキー
08/02/05 18:07:07 MCYxTwoL
ワイヤレスハートチャイルド、和緒の彼氏も大概お年頃なんだよな。
和緒相手のエロ妄想がだだ漏れですっかり耳年増になって、ちょっと試してみたくなる和緒とかどうか。
内緒でなつみさんに相談してみたりとか。
……ワイヤレスは知名度低いか?

271:名無しさん@ピンキー
08/02/05 19:36:11 GIEy330X
デュエル文庫の作品なんてバリバリに知名度は低いだろうが
わざわざ三雲岳人のエロパロ読みたくてこのスレ覗くような濃いここの住人なら知ってて当然レベルかな

密かに絵師とか二次元ドリームノベルで挿し絵したとか追いかけたし

272:名無しさん@ピンキー
08/02/08 22:20:10 An6tiquO
智春&操緒×紫浬&朱浬。エロ。鬼畜要素はない…と思う。
3回に分けて投下。まずはお膳立て篇。
前置きなげーよという人や、寸止めイクナイという人は、このあたりはスルーヨロ。

273:絶対封印プラグイン 第1回-A
08/02/08 22:21:19 An6tiquO
 
 それは、レゾネータ、というらしかった。
「……新しいプラグイン?」
「そ」
 化学準備室で朱浬さんが取り出したケースを前にして、のっけから腰が引けた声を出した僕に、朱浬さんは例のごとくおっとりした微笑で応えた。
 この人の場合、こういう虫も殺さない顔をしているときが一番恐ろしい。また何か、ろくでもないことを企んでいるんじゃないだろうな。この人の、当人曰く罪のない思いつきのせいで、こちらに被害が及ばなかった例がないときては、警戒せざるを得ない。
「トモハルも、興味あるでしょ?」
「いや……ないです」
 正直にいえば、ないことはなかった。機巧魔神にかかわる総てのことに興味を持たざるをえない立場に、僕はいる。どんなことであれ、操緒を《黑鐵》から解放できるカギになりえるのだから。
 だが一方では、プラグインというものにはとにかくろくな記憶がなくて、状況も分からないまま無闇に関わりたくもない。微妙なところだった。
「ふーん?」
 その瞳に面白そうな光をきらめかせる朱浬さんも、こちらの内心の矛盾を分かっているのだろう。僕の答えになど取り合わず、無造作に、机の上に置いたケースを僕の方へ押しやった。僕だけでなく、その場にいた操緒や嵩月、アニアの視線も否応なくその上に集まる。
「まあ、見てみなさいよ」
 僕は、おそるおそるケースを覗き込んだ。ケースの中はほとんどが詰め物で、真ん中が、ちょうどそのプラグインがすっぽり収まる形にくぼんでいる。レゾネータは、そこで冷たい銀色の光を放っていた。
 形は、例のイグナイターなどという卑猥な代物に比べれば、いたって普通だ。いわゆる音叉というやつで、ただ、全面に細かい紋様が彫られていることだけが特徴といえた。
『これって、なんなんです?』
 慎重に黙っている僕に代わって、操緒が尋ねる。
「んふふー。さあて、なんでしょーね」
「私も、初めて見るな」
 アニアがプラグインをまじまじと見つめながら呟く。機巧魔神に関する研究では世界でも屈指のこの天才少女でも、これが何なのか知らないのか。
「なんだこれは?」
 自分の知識を超えるというのがややプライドに障ったのか、詰問に近い口調で質すアニアに、朱浬さんは頬に人差し指を当ててみせた。
「うーん。実はあたしもよく知らないのよ」
 さっきはあれだけ勿体ぶって思わせぶりなことを言っていたくせに。思わずそこにいた一同が白い眼を向けるのに、朱浬さんは動じるそぶりも見せない。
「こないだ、王立科学狂会がどこぞで掘り出したらしいんだけど、良く分かんないからって、こっちに回してきたのよ。トモハルにも見せといてくれ、ってさ」
「え……僕に?」

274:絶対封印プラグイン 第1回-B
08/02/08 22:22:18 An6tiquO
 
 それはまた、うさんくさい話だ。
「兄貴ならともかく。僕なんかが見たって、分かるはずないでしょう」
「あたしもそう思うんだけど」
 しれっという黒服の上級生に軽く殺意を抱く僕の横で、アニアがあっさりとプラグインを手にとった。いろいろとひねくり回しながら、
「ふむ、特に目立ったインターフェースや機構部分は見当たらぬな……? レゾネータというからには、機巧魔神を何かと共鳴させるのだろうが、一体何とどうなるというのだ。表面の紋様も、特段何か意味がありそうには見えぬが」
「うーん。ニアちゃんでも分かんないか。実はちょっと期待してたんだけど。こうなったら、部長にでも訊くかなー」
「む」
 アニアはむっとした様子で、
「何も、今すぐ思い当たるふしがないからといって、私に解らぬはずがない。少し時間をかせ。必ず調べだしてやる」
「そう? んふふ。期待してるわよん」
 にっこりと笑う朱浬さんは、今の会話でまんまとアニアを乗せたに違いない。まったく、この人は悪人だ。倉澤六夏のように分かりやすい悪人面でない分、いっそうタチが悪い。思わずそんな感慨にふけっていると、
「ほれ」
 横合いからプラグインが僕の目の前に差し出された。
「アニア? えーと、それはちょっと」
「愚か者。いきなり《黑鐵》に組み込んでみろなどと乱暴なことは言わん。一応、手にとってみるがよい。演操者には何か反応しないともかぎらんからな」
「う……」
 反応してもらっちゃ困るのだが、ここで断るというのも大人げないだろう。何も起こらないことを祈りつつ、アニアからそれを受け取った。
 ほっとしたことに、何も起こらない。
「ふむ。なるほど」
 アニアがうなずく。僕は手にしたプラグインが意外に軽いのに驚きながら、
「これって……音叉っていうんだろ」
 軽く、指をその上に滑らせてみた。その瞬間、涼しげな鈴のような音が、僕の聴覚を打つ。それと同時に、
『「んっ」』
 ため息のような声が重なって聞こえた。
 顔を上げると、朱浬さんが神妙な表情で胸に手を当てていた。ちょっと上を振り仰ぐと、操緒も同様の姿勢で、ほう、と小さく息を吐くのが聞こえる。
「朱浬さん……? 操緒……?」

275:絶対封印プラグイン 第2回-A
08/02/08 22:23:24 An6tiquO
 
「ん、あ」
 朱浬さんが、つと我に返って、
「あ、何でもない。……何でもないわ」
「いや、でも……? 操緒も」
『え? あたし……ええと、あは、何でもないってば』
 とても二人ともそんなふうには見えなかったので、さらに問い重ねようとしたとき、
「智春っ。プラグインっ」
 アニアの鋭い声がして、僕は自分の手の中のそれに視線を戻した。
「う……わっ」
 驚いた。レゾネータは、淡いオレンジ色の光を放ちながら、その先端から粒子状になってさらさらと崩れつつあった。あまりのことに、思わずそれを取り落とす。
「な……何だ……」
「智春っ。何をしているっ」
 アニアが、大急ぎで床の上にかがみこみ、目を凝らして観察を始めた。しかしその甲斐もなく、床の上に軽い音を立てて落ちたそのプラグインは、止まることなく空中に溶け続け、やがて全てが消え失せた。
 僕たちは呆然として、何もなくなった床の上を見つめる。
「何だ、今の……?」
「プラグインが、分解した……?」
 僕の問いのような呟きに、アニアが独り言のように答える。確かに、そんな風に見えた。アニアは鋭い視線を僕たちに投げかけ、
「智春。操緒も。何か、変わったことはないか?」
「い、いや……」
 僕自身には、取り立てて目立った変化はない。ちょっと、どきどきしているだけだ。
『あたしも、何ともないよ?』
 操緒も、きょとんとした顔で応じる。何なんだ、一体。
「……うむ……」
 アニアは、難しい顔をして考え込む。
「こんなプラグインは、見たことも聞いたことも……是非とも、調べなくては」
 ぐい、と僕を引き寄せたその双眸には、研究者魂があかあかと燃えていた。
「智春。今宵さっそく始めるぞ。図書館で一晩つき合え。奏もだ」
「え……ええっ」
 僕がのけぞったのは、嵩月やアニアを相手に一晩過ごすというので、けしからぬ想像を逞しくしたからでは、もちろんない。徹夜で、題名を読めもしない本を探したり、お茶やお菓子の給仕をしたり、アニアに無能だのトロいだのと罵られるのが容易に想像できたからだ。
 何とか、断るための口実を探す。ええい。この際、方便も許されるだろ。
「えっと……今晩は、テスト勉強が……」
「む? 奏、本当か?」

276:絶対封印プラグイン 第2回-B
08/02/08 22:24:25 An6tiquO
 
 わ。そこで裏を取るなんて、どこでそんな知恵を付けたんだ。真面目な嵩月が、咄嗟に口裏を合わせてくれたりするわけがないじゃないか。案の定、嵩月が罪のない口振りで、
「あー……テストは、たしか来週末……」
 暴露してくれてから、ちょっと慌てて口を押さえる。嵩月、遅いよ……。
「決まりだな」
 アニアが邪悪とも言えそうな笑みを浮かべ、僕はうううっ……、と呻いた。何てことだ。しかも、張本人の朱浬さんときたら、
「トモハルと操緒ちゃんが付き合うなら、あたしはいいわよねー。先に帰るわ」
 しれっと、まるで他人事のように言ってくれる。
「う、うむ」
 アニアにしてみれば、朱浬さんも観察対象にしたかったはずだが、さすがに朱浬さんの笑顔を前にしてごねる度胸はないらしい。そのかわり、二人分たっぷりつき合えとでも言うように、僕を睨み付ける。あー、はいはい。どうせ僕はそういう役回りだよ。
 そんな風に少しいじける僕を後目に、
「じゃねー」
 朱浬さんは軽く言って立ち上がり、それから、滅多にないことに、よろけた。すぐ近くにいた僕は、慌てて立ち上がり、朱浬さんの二の腕をつかんで支える。
「……大丈夫」
 ですか、と言いかけて、朱浬さんと目が合った瞬間、僕は息を呑んだ。
 いや、確かに朱浬さんは美人だ。それも、でたらめなくらいに。中身がアレなことは重々分かってはいても、いざその美貌をこんなに間近で見れば、健康な青少年男子としては、やはりいくらかは緊張する。
 だが……その香りは、こんなに芳しかったろうか。肌は、こんなに吸い付くように滑らかだったろうか。瞳は、こんなに潤んだ光を宿していたろうか。唇は、こんなに艶めいていたろうか。吐息は、こんなに甘かったろうか。腕は、こんなに華奢で柔らかかったろうか。
「あ」
 一瞬のことだったと思う。朱浬さんは目を丸くして僕から飛びすさり、
「ごめーん。ありがとね、トモハル」
 もう、いつもどおりの朱浬さんにしか見えなかった。目をこすりたい思いで見つめる僕に向かって、
「ふふーん? どったの? いまさらながら、あたしの魅力にまいったとか?」
 おっとりと、だが悪戯っぽい目つきと笑みで訊ねてくる。
「あ、いや……」
 首を振るのが精一杯の僕の背中に、
『智春おー?』
 いやに優しげな操緒の声と、やけに冷たい嵩月の視線が突き刺さった。いや、なんでもないんだ。君たち。話し合おう。別に、ちょっとした人助けをしただけじゃないか。
 おおわらわでそっちへの対応に追われる僕が背中を向けた隙をぬうようにして、朱浬さんはさっさと化学準備室を出ていってしまった。やれやれ。相変わらず、周囲を引っかき回すのだけは上手い人だ。
 それにしても……いったい、何だったんだ。今の。

277:絶対封印プラグイン 第3回-A
08/02/08 22:25:27 An6tiquO
 
『智春。やっぱ、風邪?』
 満月にもうあと二、三日という感じの月明かりに照らされた夜道で、僕と並んで鳴桜邸への帰路をたどりながら、操緒が訊いてきた。
「んー……どうかな」
 僕の答えは、頼りない。本当に、よく分からないのだ。頭がぼうっとして、体がふわふわした感じはあるが、頭痛も喉の痛みもないし、洟も咳も出ない。それに、いつぞやの風邪のときと違って、操緒も普通に出てるし。
『ふーん。ま、でも、良かったじゃん。ニアちゃんに勘弁してもらえたんだし』
「そうだな」
 僕は苦笑する。有り体に言えば、アニアには叩き出されたも同然なのだった。本を探しにいけば書棚の間でぼうっと突っ立っているし、お茶を出せばアニアが読んでる本の上にぶちまけるし、話しかけられても全て生返事とくれば、まあ致し方ないだろう。
 その挙げ句に、あやうく、激怒したアニアに運気のことごとくを吸い取られようとした時に、嵩月が「あー……夏目くん、風邪かも……」と取りなしてくれたのだった。
 アニアもこれには拍子抜けしたらしく、「病気か。だったら、早く言え。病人に徹夜させるほど、私も人でなしではない。さっさと帰るがよい」と、あっさり放免してくれた。
 本来ならアニアも一緒に鳴桜邸に戻るべきだったろうが、本人がすっかりやる気なので、図書館に残してきた。アニアがあの図書館で夜なべ仕事をするのは、これが初めてというわけでもないし。
 そのために今や、ベッドをはじめとした色々な家財道具が運び込まれていて、一晩や二晩過ごすのには何の不便もない。まあ、お風呂だけはさすがに付いていないが、それは、最初にみんなで夕食を取りに出たときに、さっさと銭湯で済ませてきたし。
 それに、生徒会関係者をはじめ演操者がごろごろいる洛高に、たとえ夜中だろうと忍び込んで悪さをしようなんて輩はまずいないから、むしろ、鳴桜邸にいるよりも安全で快適かもしれない。まあ、せめて短時間でも、暖かくして睡眠を取ってくれるように祈るばかりだ。
 嵩月は、僕と一緒に引き上げた。僕を鳴桜邸まで送ると言ってくれたが、こっちもそこまで体調が悪いわけじゃないので、せっかくだけどお断りした。いくら強力な悪魔だといっても、こんな夜遅くに鳴桜邸から自宅まで女の子を一人で歩かせたくない。
 嵩月はそれでも少し渋ったのだが、操緒が「だいじょうぶだって。あたしもいるし」と受け合ったので、諦めてくれた。なんか、僕より操緒のセリフで納得してくれるというのが、微妙な感じではあったが。
 嵩月の自宅の門前で別れ際に、「……夏目くん。お大事に」と真剣な面持ちで言ってくれたのは、本当に有り難かった。とにかく、僕の周りときたら最近、人の迷惑も考えないような人間ばかりだから、こういう素直な善意はとても心にしみる。
 ほのぼのと嵩月の控えめな笑顔を思い出していたら、肩の上から冷たい声がした。
『智春。鼻の下伸びてる』
「んなこと、ないだろ」
 思わず鼻の下をこすりたくなるのを懸命にこらえて、操緒を見上げる。
『ふーん? どーせ、嵩月さんのことでも思い出してたんでしょ』
「う……」

278:絶対封印プラグイン 第3回-B
08/02/08 22:26:30 An6tiquO
 
 こいつは、ほんとに時々、こっちの心が読めるんじゃないかと思う。言葉に詰まった僕を見て、操緒は半眼になり、
『スケベ』
「別にそんなんじゃ……」
『さっきのコンビニでも、やらしい雑誌見てたし』
「いや、あれは……」
 しかし、それは事実なのだった。自分でも、どうかしてたと思う。ちょっと買い物に立ち寄ったコンビニで、ふと気付いたら、十八歳未満お断りのスペースで大人の雑誌に手を伸ばしていた。操緒の鋭い制止の声がなかったら、そのまま手にとっていたに違いない。
 普段なら、それはもちろん興味がないと言えば嘘になるが、操緒もいることだし、そんなことはしない。だが、その雑誌の表紙の上で、ストレートセミロングで長身の美女が黒い下着姿で微笑んでいるのを見たとき、僕はふらふらと惹き付けられてしまったのだった。
 何がなんだったのか、自分でもよく分からない。
『やっぱ、ヘンだよ。今日の智春』
 僕の首に操緒の腕が回されて、思わず身を固くした。実際に締め上げられたりするおそれはないとはいえ、気持ちのいいものではない。と思ったら、僕の頬に自分のそれをすり寄せるようにして、操緒が背後から顔を寄せてきた。
『こーんなに可愛い女の子がすぐ側にいるのに。それじゃ不満?』
「操緒……」
 どうしたんだ、こいつ。いつもなら、険悪な罵声が飛んでくるところなのに、僕の耳のそばで聞こえたのは、やけにしっとりした囁きだった。新手の嫌がらせかと警戒しながら横目で見やると、何というか……妙に、頬が上気していて、表情が柔らかい。
「ヘンなのは、そっちだろ」
『え』
 僕に言われて、びっくりしたような顔になる。自分じゃ、気付いていなかったのか。慌てて僕から離れて、
『あ……あれ……? え、と……あたし?』
 何度か瞬きし、首をかしげた。僕はため息をついて、
「なんか、二人ともおかしいな。今日は」
『うん……そうかも』
 図書館でぼんやりしていたのは、僕だけではなかった。操緒までもが、気付くとあらぬ方を見ていたり、何度も呼びかけても答えなかったりしていたのだった。アニアが早々に諦めてくれた理由には、そのことも含まれていたかもしれない。
「……今日は、さっさと寝た方がいいかもな」
『そだね』
 といっても、もう十分に遅いのだが。とりあえず鳴桜邸の門構えが見えてきたところで呟いた僕に向かって、操緒も頷いた。それから、
『ん?』
 不意に空中に浮かび上がり、手びさしをしながら鳴桜邸の方角を見る。
「どうした?」
 訊いた僕に、操緒は戸惑った顔で声を潜めて、教えてくれた。
『灯りがついてる』

279:絶対封印プラグイン 第4回-A
08/02/08 22:27:35 An6tiquO
 
「ほんとだ……」
 鳴桜邸の門をくぐったところで、僕と操緒は足を止めて、誰もいないはずの建物の二階の窓から漏れる灯りを眺めた。それも、よりにもよって、
『あれって……智春の部屋じゃん』
「……だよな」
 間違いない。東南の角部屋だ。
「何だろうな」
 言いながらも、実はあまり狼狽えてはいなかった。慣れたくはないが、前例がないわけではない。嵩月に始まり、朱浬さんとか真日和とかこないだの友原さんとかいう家出少女とか、この屋敷には招かざる客が勝手に入り込んでいることが多いのだ。
『どーする?』
「そりゃ……確かめるしかないだろ。ここ以外に、帰るとこないんだし」
 願わくは、あまり物騒な輩ではありませんように。僕は物音をさせないように玄関に歩み寄り、鍵を開け、中に入った。ええと、玄関の鍵が閉まっていたということは、相手は窓とか地下とかから入り込んだということか。
 そのまま、忍び足で廊下をわたり、階段を昇る。古い家だから床がどうしても軋むので、ゆっくりとしか進めない。電灯を点けることもしなかったが、自分の部屋までなら慣れたものなので問題ない。
 ようやく自分の部屋の前にたどりつき、そこで一息つく。
『見てこよっか?』
 操緒が囁く。
『天井のとこからちょっと覗くくらいなら、向こうにも気付かれないかもよ?』
「いや……」
 僕はかぶりを振った。相手が分からない以上、ここは慎重に行こう。扉にそっと耳を寄せて、室内の様子を窺う。しばらくは、自分の鼓動の音の方が大きくて何も聞き取れなかったが、そのうちに段々と耳が澄んできた。
 かすかに、何かがこすれる音。衣擦れだろうか。続いて、
「……ふっ……」
 聞こえてきたのは、どう考えても、人間の吐息だった。僕と操緒は顔を見合わせる。再び扉に耳を付けると、今度はもっと鮮明に聞こえた。
「は……ふ……ふぅ……は、あ……あ、ん……は」
 声音からすると、どうやら女の人らしい。どことなく聞き覚えがあるような気がしたが、しかしこれは。
『何やってんだろ』
 呟いた操緒の声にも、ねっとりとしたものがまとわりついていた。確かにこれは……悩ましすぎる。一体、人の部屋で何をやってるんだ。まさか、どこぞのカップルでもしけこんでよろしくやってるんじゃあるまいな。
 それでも相手の様子から、どうやら室外へはあまり注意を払っていなさそうだと見当をつけた僕は、そうっと扉を開き、おそるおそる中を覗き込んだ。何も反応が返ってこないことを確かめると、室内へ体を滑り込ませ、まずベッドの上に目をやった。
 案の定、そこにいた。一人だけだ。やっぱり、女性だった。ベッドにうつぶせになり、今やはっきりと荒くなった息づかいとともに、体を小刻みに動かしている。これじゃ、まるで。

280:絶対封印プラグイン 第4回-B
08/02/08 22:28:40 An6tiquO
 
『な……なにしてんのよっ!』
 想定外の情景に言葉を失った僕の代わりに、操緒が大きく叫んだ。その声に、女性の動きが止まり、ややあってから、のろのろと顔を上げてこちらを見る。
 その顔には、見覚えがあった。だが、あまりの意外さに、僕は凍り付いた。
「……朱浬さん……?」
 いや、ある意味では、そこにいても不思議のない人ではあった。朱浬さんは、どうもこの家を自分のセカンドハウスとでも思っているふしがあって、よく勝手に入り込んでは、僕のワイシャツ一枚というきわどい恰好で、ぶらぶらしていたりするのだ。
 そう、まさに、今もそんな恰好だった。ベッドの上で肘をついて上体を起こした朱浬さんは、やはりワイシャツ一枚で、だがいつもと違って、そのボタンは半ば以上が外されて滑らかな胸の谷間を垣間見せていた。さすがにここまで無防備な姿は、見たことがない。
「え……」
 朱浬さんは当初、誰が入ってきたのか分からなかったらしい。徐々にその瞳が焦点を結び、僕と操緒の姿を認めたのか、やおらベッドの上で飛び上がった。ワイシャツの裾がめくれ上がり、すらりと伸びた素足の根元のショーツまで丸見えになる。
「ト……トモハルくん? な……なんでっ……」
 いや、自分の家に帰ってきただけなのに、なんだってそこまで意外そうな顔でそんなことを言われなければならないんですか。
「いや……なんで、って訊きたいのはこっちで……一体、何して……」
「だ……だって……どうして……トモハルくん、今日は帰ってこないって……」
「それは……いやその、人が留守にしてるからってですね」
 言いながら、いわく言い難い違和感と既視感を覚える。その正体を確かめたくて、朱浬さんの顔をまじまじと凝視した。どことなく、気弱っぽくて頼りなげで、優しくて柔らかい表情。これは……朱浬さんじゃない。まさか。しかし。まさか。
「紫浬、さん……?」
「あ……」
 一瞬、あっけに取られたように目を見開いたあと、黒崎紫浬さんは、心の底から嬉しそうな笑顔をひらめかせた。
「トモハル、くん」
 その弾んだ声を聞いたときだと思う。僕の中で、スイッチが入ったのは。今日の午後からずっと、もやもやと体内でわだかまっていたものが、はっきりと形を成したのは。
『ト……智春っ?』
 操緒の慌てた声がどこか遠くに聞こえた時には、僕はベッドのすぐ側まで近寄って、紫浬さんを見下ろしていた。僕は……何をしてるんだ。
「トモハルくん……」
 紫浬さんの声にも、いくらかの怯えが混じる。ベッドの上で後ずさりして壁に背をつけ、小さくいやいやをしてみせる。
「だめ……トモハルくん……だめ、です……」
 いや、紫浬さん。そんなに熱っぽく潤んだ眼差しを投げかけながら、そんなに期待で震える声で囁くなんて、こっちを誘ってるとしか受け取れません。貴女も、そのつもりなんでしょう? 僕と……同じなんでしょう?
 僕はベッドの上に膝をつき、紫浬さんを壁際に追いつめる。そのおとがいに指をかけると、紫浬さんの唇がわずかにおののき、軽く開かれるのが見えた。僕は……ああ、もう何もかもが、どうでもいい。目の前の相手とひとつになること以外に、何も考えられない。
『智春っ……何して』
 操緒の悲鳴のような叫びは、僕が紫浬さんに唇を重ねると同時に、断ち切られた。

281:絶対封印プラグイン 第5回-A
08/02/08 22:29:50 An6tiquO
 
 お世辞にも、上手いキスとは言えなかったと思う。そりゃ、こっちは(露崎だとか鳳島氷羽子との件は数えずに)初めてだし、紫浬さんにしたって、ぎこちないものだった。それでも、お互いを求める荒々しさだけを頼りに、僕たちは相手の唇をむさぼり合った。
「ふ……あ……」
 ちょっとだけ二人の唇が離れる都度、かすかに漏れる紫浬さんの甘い吐息が、お互いの動きをいっそう加熱させる。何度も何度も、一番ぴったりと隙間なく相手と触れ合える位置を求めて、僕たちは息継ぐ間もなくキスを続けた。
 さすがに息が切れるまで、どれくらい経っただろう。荒い呼吸を繰り返しながら、それでも至近距離で目線を合わせたままの僕たちに、横合いから、操緒が倒れ込むようにしなだれかかってきた。
『は……あ……なん、なのお、これえ……』
 そちらに目をやると、操緒も息を切らし、頬を紅潮させ、熱に浮かされたような瞳をしている。どういう仕組みなのか、服の胸元までが少しはだけていて、実に扇情的だった。
「操緒……」
 これは……おかしい。紫浬さん、いや朱浬さんも……操緒も……僕も……何を、してるんだ。こんな……こんなことは……あるはずがない。
 僕の脳裏に浮かんだ疑問は、しかし、
「……トモハルくん。よそ見は、ダメ」
 紫浬さんが僕の顔に両手をかけて自分に向き直させた途端に、どこかへ霧散してしまう。
「ね」
 たしなめるように小首を傾げるなり、今度は紫浬さんから挑んできた。
『はあっ……』
 操緒の喘ぎが聞こえたような気もしたが、構っていられない。紫浬さんの舌が、最初はおずおずと、でもすぐに大胆な動きで、僕の中に入ってくる。唇の裏や歯をなぞってくれる。背筋がぞくぞくするような快感を覚えながら、僕も舌を動かした。
「ふ、うっ……」
 互いの舌の先端が触れ合った瞬間、紫浬さんの体が大きく震え、その息が僕の口に吹き込まれた。さらに、闇雲に舌を絡め合ううちに、僕の舌が紫浬さんの舌の裏側をかすった時、紫浬さんの背筋が軽くのけ反る。
「は、あ」
 予想外の感覚に少し驚いたのか、やや身を引き気味にした紫浬さんを僕は逃さず、そのポイントを責め立て続けた。最初は受け身のまま体をくねらせていた紫浬さんも、やがて積極的に、同じようなやり方で反撃し始める。だめだ。気持ちよすぎる。
『あ、あんっ……だめ、そんなっ……』
 僕が快感に陶然となるのと同時に、操緒の感極まった声が聞こえた。もしかして、僕と感覚がシンクロしてるのか? 一体、どういうわけだ?
 だが、そんな思考も長くは続かない。僕と紫浬さんは、操緒の途切れ途切れの嬌声を背景に、酸欠気味でぼんやりとなりながらも、ひたすらにお互いの口腔と舌を犯し続けた。
 そのうちに、紫浬さんの動きがやや緩慢になり、耐えきれないような吐息が漏れ始める。そろそろ、僕も限界かもしれない。最後のあがきとばかり、紫浬さんの顔を思いっきり引き寄せると、舌全体で紫浬さんの舌を裏側から舐めあげ、吸い立てた。
「っ……!」
 紫浬さんの全身が、一瞬硬直するなり痙攣した。僕は、ぎりぎりまで紫浬さんの舌と反応を堪能してから、唇を離す。
「は……ああああっ」
 紫浬さんは深い深い吐息とともに、脱力した上半身を僕に預けた。
 しばらく、二人とも息を静めるのに精一杯で、何もできず何も喋れなかった。いつの間にか、上着をはだけさせられてシャツだけになった僕の胸の中で、紫浬さんの体がどこまでも熱く柔らかい。
『智春お……』
 操緒が、とろけそうな表情と声で、僕の眼前に現れた。

282:絶対封印プラグイン 第5回-B
08/02/08 22:30:58 An6tiquO
 
『あたし、ヘン……あたし……』
「ああ……でも、いい、だろ……?」
『うん……』
 理性のかけらもないやり取りだったが、操緒は頷いてくれた。そうか。なら、このまま。
「紫浬さん……」
 紫浬さんの耳にそっと囁くと、その肢体が軽くわなないた。僕の胸に手をついて少し体を離すと、耳まで真っ赤になった顔を見せてくれる。
「トモハルくん……もう、わたし」
 そこで、いきなり僕を仰向けに突き倒す。不意打ちに抵抗すらできずベッドに倒れ込んだ僕の上で、紫浬さんは馬乗りになった。僕の顔の両側に手をついて、おおいかぶさってくる。
「ゆ……」
 呼びかけようとした僕を、微笑みで黙らせると、完全に僕と抱き合うところまで体を重ねる。不思議と、ふだんなら感じるはずの怪力も体の重さも、苦にならない。なんだか、僕の体の中からそれを跳ね返すに足るだけのエネルギーが湧き上がってくるようだった。
 紫浬さんは、僕の上で深い深い吐息をついた。ノーブラの胸が僕の胸の上でつぶれてやわやわとうごめき、そのしなやかな手が僕の脇腹から背中を撫でる。それらの感触全てに、僕も頭がどうにかなりそうだった。僕の肩におとがいを乗せると、耳元で囁いてくる。
「もう、わたし……がまん、できません。だって、ぜんぶ、あれの……せいですから……仕方ない、ですよね? トモハルくんだって……」
「あれ、って……?」
 首筋に感じる紫浬さんの息づかいに我を失いそうになりながら、かろうじて訊ねる。紫浬さんは僕の耳から首に軽い口づけを繰り返しつつ、一言だけ呟いた。
「共鳴……器」
「あ……」
 あれか。レゾネータ。紫浬さんは、僕の顔に頬をこすりつけ、唇で僕の顎をなぞり、細い指先で僕のシャツのボタンを器用に探り当てて外しながら、続ける。その間も、僕の胸の上のふくらみと腹の上の柔らかい盛り上がりとが、微妙にうごめいて僕を刺激していた。
「トモハルくんも、もう分かるでしょ……あれは、機巧魔神同士を……その通じ合う部分を増幅して……魔力がぐるぐる回って強め合って……でも、こんな……こんなふうに響き合うなんて……ああ、でも」
 共鳴。機巧魔神同士の。そう言われてみれば、僕は演操者で、操緒は射影体で、紫浬さんの体には機巧魔神の技術が使われていて、しかしそれが、どうして……?
 いやだが、確かに、この体の底から揺るがされるような衝動は、《黑鐵》を呼び出すときのそれに通じている。紫浬さんと……共鳴し合う相手と、どこまでもひとつになって融け合ってしまいたいという、抗いがたい切望が、僕の裡で渦巻き、荒れ狂っている。
 ああ。僕も分かっていた、のかもしれない。あの午後の化学準備室で、朱浬さんと目を合わせたときから。僕と操緒と、朱浬……紫浬さんが、離れていられたりするはずがないってことを。コンビニで見かけた雑誌の表紙モデルも、思えば、朱浬さんに少し似ていた。
 呆然と横たわる僕は、ふいに胴体に冷たい空気を感じて、視線を下ろした。紫浬さんがいつの間にか、僕のシャツを左右にはだけさせ、Tシャツを胸のところまでまくりあげてしまっていた。悪戯っぽい、でもどことなく怨ずるような目つきで僕を眺めながら、
「ふふ……トモハルくんが……悪いんですよ? あんなの……起動しちゃって。トモハルくんのシャツとベッドで……それだけでがまんするつもりだったのに……いきなり帰ってきて……あんなふうに呼ぶから……あんなキスするから……だから、わたしだって」
 その声の甘やかすぎる響きにくらくらし始めた僕の胸から脇腹を、紫浬さんは、さも愛おしげに指でなぞった。
「う……」
『ひゃっ……』
 うめき声を上げたのは、僕だけではない。操緒もまた、僕と同じ快感を共有したらしかった。それを見て、紫浬さんが目を細める。
「ふふ……可愛い。トモハルくんも。操緒さんも」

283:名無しさん@ピンキー
08/02/08 22:32:14 An6tiquO
今回はここまで。次回は紫浬さんタチ篇+朱浬さんネコ篇。

284:名無しさん@ピンキー
08/02/08 22:44:36 1+1Pj6aA
GJ!
続き全裸で待ってます!

285:名無しさん@ピンキー
08/02/08 22:59:09 Onb4Cs3a
じゃあ俺は全裸どころか皮剥いて待ってる!

286:名無しさん@ピンキー
08/02/08 23:20:47 MUoDGkQR
GJ!!!
全裸でおったてながら待ってる

287:名無しさん@ピンキー
08/02/10 02:42:58 MJnij+Yg
俺はガマン汁垂れ流しながら続きを待つ!

288:名無しさん@ピンキー
08/02/11 21:11:39 2wKML7zW
「はい、トモハル」

突然、朱浬さんに部室に呼ばれたかと思うと謎の物体を手渡された。
今僕の手の中にあるこれはゴムのような透明な容器であり、中には透明な液体が入っている。
経験上このパターンは何かしら悪魔にかかわることで、更にまた佐伯兄と一悶着が起こる。間違いない。
既に(と言うより呼び出された時点でだが)覚悟を決めた僕は朱浬さんを見つめて何をすればいいのかと聞くことにする。
「えー…コレは何で僕は何をすればいいんですか?」
僕の後ろに漂う自称守護霊の操緒もやはり諦観の境地に達しているらしく、ただ疲れたため息を吐き出すのみである。
もはや単なる雑用係と言うべき立場であるのに文句を言わさせないのは朱浬さんが相応の"暴力"と"魅力"を持っているからだろうか?
そんな考えを持っていた僕に返ってきた答えは意外なものであった。
「ん?コレはローション。あと別に何もする必要はないけど」
『………絶対嘘』
操緒の限りない疑惑の目線を軽く受け止め、僕にコレの説明をした。
「うーん、トモハルには関係あるけど別になにしろって事では無いわ。奏っちゃんに渡すか大事に保管しておくかどちらかしておけばいいわ」
「…でもローションって事はあの、つまり化粧水ですよね。コレは何か特別なヤツですか?」
どうやら特に貴重品でも無いのはぞんざいな扱い方をしているのでわかったし面倒事に巻き込まれる心配もあまりなさそうだ。
しかし、僕の発言を聞くや否や朱浬さんはその紅唇を楽しげに歪ませて僕をしっとりと見回した。
「あの…?」
「訂正するわ。奏っちゃんに渡しなさい。それもなるべく早くにね」
目が狐のように弧を描くような笑い方を表現した。
操緒はどうやらとても嫌な予感がしたらしく
『智っ!用事は済んだんだから戻るわよ!』
強引に用事を切り上げてしまった。
あわただしく去る僕達の背中を見送った後、朱浬さんが笑顔で
「がんばって頂戴、トモハル」

と誰しれず呟いたのは当人以外は知るはずも無かった。

289:名無しさん@ピンキー
08/02/11 21:13:52 2wKML7zW
>>288

一方の僕はと言えば教室に戻り、嵩月に例の物を渡し終えた所だった。
「これは……」
「朱浬さんが嵩月に渡せって……どうかした?何だか表情が暗いけど」
だいたいペットボトル程度のソレを手に、嵩月は眉をハの字にしてなにやら困っている。
とするとやはり何か変な物では無いのか?コレ。
その様子に操緒も興味津々とばかりに覗くがやはりただの透明な液体である。
水のようにも見えるがよく見ればほんの少し粘性があるようにも見える。
そんな僕と操緒の視線に気づかずに嵩月は手渡されたままの格好で「あの…」だの「…その、」だの呟くのみだ。
心無し顔が赤く染まってるようにも見えるがただの光の加減だろう。むしろ化粧水を渡されて照れるような理由が無い。
とりあえずこのまま立っていてもしょうがないので席に戻ろうとした僕の制服の袖が掴まれた。

「私の家に来て下さい!!」

……教室が静まった。
校内有数の美少女が大声であまり冴えない男を家に誘う姿を見れば納得できる現象であろう。
その中心に居た僕と嵩月。
嵩月は顔をうつむかせて僕の袖を軽く焦げ臭くなるまで握り締めているだけだが、僕はそうはいかない。
「……………」
「……………」
『…………』
クラスメイトの大半が僕を睨む中、特に佐伯妹と杏、操緒の目線が痛かった。
杏はびっくりしたような顔をすると僕を居ないかのように無視し始め、佐伯は口を「シ・ネ・ヘ・ン・タ・イ」なんて動かす。
操緒はむしろ笑顔だがそれが怖い。
そんな中、嵩月は僕の返事を待っている。
無論ここで波風を立てない選択ができるならそれがいい。だが朱浬さんの指示の延長線にこの嵩月の行動があるのだ。
災いの種というのは放っておけばすぐに芽がでて成長するものなのである。
ならば、何かが起きる前に手を打てればそれが最上だ。
僕は物理的な殺傷力を持ちかねない視線に晒されながらその申し出を受託した。

290:名無しさん@ピンキー
08/02/11 21:14:32 2wKML7zW
>>289

『変態』
かくして、表面上は何事もなく平穏な毎日に分類されるであろう1日が
『なに鼻の下伸ばしてるの?馬鹿みたいだよ?』
…1日が、ようやく1/4も終わり、約束通り僕は嵩月の家へ
『やっぱ胸に釣られたんだね。あーあ、ニアちゃん悲しむだろうなー』
……嵩月の家へ、
『佐伯さんも恨みがましい目で見てたしあれは夜道に後ろからブスッて刺すね』
…………………
『何?どうかした?』
何故かずっと不機嫌…いや、表面上はいつも通りの操緒はずっと帰り道から愚痴(?)を僕の耳元で独り言のように話していた。
おかげであの化粧水は何だったのか?とかやっぱ佐伯妹が睨んでたから悪魔に関係するものだろうか?などといった思考も途中で寸断された。
それを止めるように言ってみたが『独り言を言ってるだけだし』と言って聞く耳を持ちやしない。
なので、止めさせる事を諦めて延々続く自称独り言をBGM代わりに嵩月の家へとたどり着いたのだ。
「…ぉじゃましまーす」
そして奇跡的に誰にも会わずに例の純日本家屋!とでもいった建物へと着き、中でなにが起こるのかと心配が伺える情けない声で挨拶をした。
『…誰もいないのかな?』
しかし返ってくる声は無く、暗い闇がそこに在るばかりであった。
これでは仕方がないな、と安心半分不安も半分で肩の力を抜き、帰ろうかと踵を返そうとしたその時。
「…お待ちしておりました」
しっとりと、どこか艶を感じさせる嵩月の声が闇の奥から聴こえた。

291:名無しさん@ピンキー
08/02/11 21:17:26 2wKML7zW
こんな先の読める展開だけど続く。
あと1/4じゃなくて3/4だったわホント馬鹿な奴だ
もう一回投下で完成なんで無視でも生暖かい目で見るのでもどっちでもいいんでこのスレを少し借りさせてもらう

292:名無しさん@ピンキー
08/02/11 21:29:52 X+ZyaF7Z
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 嵩月!嵩月!
 ⊂彡

293:名無しさん@ピンキー
08/02/12 20:31:55 7jCdrB9M
GJ!
少しなんて言わずにどれだけでも使ってください。

294:名無しさん@ピンキー
08/02/13 00:01:17 tAGEF9Fu
GJ
ワッフルして続きを待ってる

295:名無しさん@ピンキー
08/02/13 11:08:16 uh9F2moW
これは?携帯だけだけど
URLリンク(courseagain.com)

296:名無しさん@ピンキー
08/02/15 15:18:06 iXM7OtZl
智春&操緒×紫浬&朱浬の続き。紫浬さんタチ篇+朱浬さんネコ篇。
早いとこ突っ込めバカ野郎。という人は、スルーヨロ。

297:絶対封印プラグイン 第6回-A
08/02/15 15:19:40 iXM7OtZl
 
 そのセリフに、紫浬さんと過ごした短い日々のことを思い出す。そういえば、大人し目な話し方と表情のわりに、大胆でSっ気のある振る舞いをするひとだった。
「ほんとに、可愛い、です……」
 言いながら、僕の乳首に舌を這わせてくる。うおっ。
『あん……はあっ』
 僕は何とかこらえたというのに、操緒は僕の横で身をよじり、あられもない声を上げた。《黑鐵》とじかにつながっている分だけ、僕よりも共鳴効果が強くて深いのかもしれない。それを見た紫浬さんは、うっとりと笑った。
「ふふ……ここが、気持ちいいんですね? 操緒さんも……トモハルくんも」
「あ……」
『や……ああっ……やんっ、やっ……だめえっ』
 紫浬さんは容赦なく、舌でくすぐり、舐め、唇全体で吸い立ててくる。女の子に責められてだらしなく喘ぐのだけは避けたくて、僕は懸命に歯を食いしばるのだが、いかんせんそのすぐ横から、抑えきれない風情の嬌声が響いてくるとあっては、努力の甲斐もない。
 何とか体を起こして、一方的に握られた主導権のいくらかでも取り戻したいのだが、体の自由がうまく利かなかった。もしかすると、操緒が僕以上に、紫浬さんの愛撫にすっかり酔ってしまっていたからかもしれない。
『あ……はあっ、は、あ、んんっ……しゅ、朱浬……さん……ま、待って……』
「あら」
 操緒がそれでも試みる、言葉だけの空しい抵抗は、紫浬さんの嗜虐心をいっそう煽っただけらしく、
「操緒さんは、わたしをちゃんと呼んでくれないんですか……? だめですよ。そんなの」
『で、でもっ』
「これでも……?」
 言うなり、白い歯を使って甘噛みされた。さらに、両手で、もう片方の乳首をいじりながら、脇腹から背中をさすってくる。
「ううっ……く……」
『ふ、あ、あう、ああっ、あ、ふ、ん、く、くうっ、あ、あ、は、はうっ』
 ひとしきり、唇と舌と指で好き放題に操緒と僕を弄んでから、紫浬さんは上気した美貌を少し持ち上げて、上目遣いに微笑む。
「操緒さん? さあ」
『は……あ……ゆ……ゆか、紫浬、さん……』
「はい。よくできました」
「くうっ」
『う、は、はあんっ……』
 今度は操緒だけでなく、僕も一緒に高い声を上げてのけ反った。紫浬さんが、僕の股間に手を這わせたからだ。ここまでのところで、もうすでに十分以上にいきり立っていたそこは、紫浬さんの微妙なタッチに、一段と膨れあがったように思えた。
「ああ、すごい……」
 紫浬さんの声も、さっきよりも明らかに情欲に濡れていた。操緒と僕の反応に、向こうもあらためて火がついたらしい。潤んだ瞳で僕の目を覗き込み、
「すごいですよ……トモハルくん……」

298:絶対封印プラグイン 第6回-B
08/02/15 15:20:49 iXM7OtZl
 
「ゆ、紫浬さん……」
「ふふ……うれしい。わたしで感じてくれてるんですね。これから、もっともっと、よくしてあげますから」
 鋭い金属音がして、不意に僕の下半身から衣服の感触が消えた。
「え……」
 ぼうっとしながら紫浬さんを見ると、少し舌を出しながら、
「ごめんなさい……ベルトとかチャックとか、面倒だから……」
 言い訳のように呟くその右手の先に、一瞬だけ銀光が閃いて、消えた。いや……そういう使い方もあるのか。この際、どうでもいいが。
「ふうん……」
 紫浬さんは、むき出しになった僕のそれをしげしげと見る。あのう、それはちょっと恥ずかしいのですが。
「こうなるんですか……この間とは、ずいぶん」
 そうなのだ。このひとは、あろうことか僕の一物を見て触ったことがある。あれは、風邪で抵抗力の弱った僕の下の世話を強引にしてくれた時だった。考えてみると、今もあの時の状況と、そう変わらないような気もする。
「ふふふ。なんか、もう出てますよ」
 紫浬さんは、その細い指を、僕の先端に滑らせた。しみ出していたものをすくい取り、敏感な箇所に塗り広げる。
「おっ……」
『は、あ、ああっ、あ、あ』
 僕と操緒が、同時に腰を跳ね上げる。だめだ。もう、保たない。紫浬さんも初めてで興味津々だったのか、遠慮なく掌全体で包み込むようにしていじってきたから、ひとたまりもなかった。
「う、お……」
『や、だ、だめ……っ』
 一瞬、意識の全てが吹っ飛ぶ。こらえていたものが全て、勢いよく噴き出すのだけが分かった。それから大きく息を吐き、吸って、薄目を開けた視界の中で、紫浬さんはさすがに少しびっくりした顔をしていたが、すぐに婉然と微笑んだ。
「うふふ……いっぱい、出ましたね……」
「は、はあ…」
 こちらは、満足な返事をするだけの余裕もない。横を見ると、操緒に至ってはようやく硬直が解けて、ぐったりと横たわるところだった。
『ふ、あ、は、はあ……ん』
 僕の耳のすぐ横で、とろけきった吐息を漏らす。スタイルのよい肢体が全体に紅潮してひくひくと震え、焦点の合わない目が僕をぼんやりと見つめていた。そのあまりに扇情的な姿に、僕の背筋がぞくりとなり、腰の奥にあらためて熱が宿る。
「あ……トモハルくん。また」
 紫浬さんが、からかうような喜ぶような声を出した。
 そう。僕は復活していた。体の奥から、とめどもない活力が湧いてきて、あっという間に僕の体を満たす。これは……レゾネータによる魔力循環と増幅の結果ということなのか? 呆然とする僕の目の前で、紫浬さんが、いきなりぶるっと体を揺すった。
「あ……そんな……わたしにも……これが……共鳴……?」
 紫浬さんはしばらく、その感覚をとっくりと味わうように軽く目を閉じていたが、やがて、僕に向かってあでやかな笑顔を開かせた。
「まだまだですよ……トモハルくん。わたしもさっき一回……ね、ですから、これでやっと、おあいこです。もっともっと……気持ちよくしてあげますから」

299:絶対封印プラグイン 第7回-A
08/02/15 15:21:54 iXM7OtZl
 
「ゆ……紫浬さん」
 僕は体を起こそうとしたが、果たせない。もしかして、操緒が脱力しきっているのがこちらにもフィードバックされているせいなのだろうか。紫浬さんは、全てわきまえているかのような余裕の笑みを見せ、
「大丈夫ですよ……やさしくしますから」
 えーと、そのセリフを言う立場は逆だと思うのですが。突っ込みを入れようかと思ったが、紫浬さんはそんないとまなど与えてくれない。再び、僕のそれに触れる。
「うっ……」
 再び襲ってくる快感に、僕の全身が打ち震えたが、
『は…あ、あああっ』
 操緒は、もっと目覚ましい反応を見せた。死人が息を吹き返したかのように、体を跳ね上がらせる。
『だめっだめっそんなっ……あたしっ……そ、そんな、すぐ……だ、だめえ……』
「ふふふ……女の子は、いくらでも、よくなっちゃえるんですよ。だから、ね?」
 紫浬さんは、すっかりいじめっ子モードに入ってしまったらしい。僕と操緒の反応を確かめながら、全体をしごき、筋をなぞり、先端をさすり、根元をやわやわと揉みほぐしてくる。さすがに手つきはぎこちないが、かえってそれが微妙なタッチを生んで、気持ちいい。
「こう……こうかしら? あら、これでこう……ふうん……ああ……」
 言葉面だけ聞けばけっこう冷静なようだが、自分の行為で自らも興奮しきっているらしく、声音は蜜が滴り落ちんばかりに甘い。僕はその言葉と愛撫の前に、射精を我慢するだけで手一杯だった。操緒はといえば、
『や、や、そ、そこ、だめ、だめ、あ、は、やあっ、あ、あう、ふ、は、い、いや、いやいやいや、そ、それ、あ、はう、お、や、やあっ』
 紫浬さんの指使いの一つ一つに敏感に応え、スレンダーな裸体をのたうち回らせている。快感の波にうち寄せられ引きずられる、そのリズムが僕と同調していて、否応なくお互いを高めていく効果があった。
「ふふ……トモハルくんも、操緒さんも、スゴいです……」
 紫浬さんも、だんだん余裕がなくなってきたらしい。手つきから容赦がなくなり、有無を言わさずに僕と操緒を追いつめ始めた。
『や……や……あ……は……だ……だめ……だ……め……』
 操緒は、もはや途切れ途切れに声を漏らすことしかできない。僕も、限界だった。紫浬さんの手の動きに合わせて腰が動くのを、止められない。紫浬さんが、全てをしぼりだそうとでもするかのように激しくしごいた瞬間、僕は耐えきれずに、ふたたび放った。

300:絶対封印プラグイン 第7回-B
08/02/15 15:22:56 iXM7OtZl
 
『は……く……ううっ』
 同時に、操緒のうめくような声がする。だが紫浬さんは、そこで僕たちを解放してくれず、
「だめ……もっと……もっと……わたし、も……」
 熱に浮かされたような声を出しながら、僕をしごき続けた。
「う、わ……」
 驚いたことに、今し方一回終わったばかりだというのに、軽い射精感が僕を襲う。それも繰り返し。これは……一種の拷問だ。だが、共鳴し増幅された魔力のおかげか、何とか持ちこたえる。
 操緒は、声すら立てられないようだった。僕にもそちらの様子を確かめる余裕などなかったが、お互いの感覚共有が進んでいるせいか、繰り返し絶頂に押し上げられて、きつく強張らせて反っくり返った体を、小刻みに痙攣させているのが、気配で感じられる。
 どれだけそうしていたのか、そのうちに力つきて一旦ぐったりとなり、そこでようやく声を出せるようになったらしく
『や……は、だめ……もう、だめ……ゆるして……』
 息も絶え絶えに懇願するのが聞こえた。僕と操緒の反応が鈍くなったことに気付いたのか、紫浬さんもとりあえず手を止めてくれる。だが、声はやや不満げで、
「もう……まだ、ですよ……わたしも……よくなりたいのに」
 僕が荒い息を整えようとしながら、そちらを見ると、紫浬さんは片手を僕に添えながら、もう片手を自分のシャツの裾の中に潜り込ませていた。その手と腰が、微妙に動いている。たまらなく、色っぽい。
「ゆ……紫浬さん……」
 頭をもたげてみると、意外に簡単に動いた。さっきより、体に力が戻っている。どういうことだ? 頭を振った僕をどう見て取ったのか、紫浬さんは再びゆるゆると、硬さを保ったままの僕をさすり始めた。
「うふ……また……」
 いやに熱っぽい視線で、僕のあそこを凝視する。まさか。そんな、精液まみれのそれを。ありえない、と思う僕の目の前で、紫浬さんは、かすかに頬笑みながら、それにそっと口づけた。その接点から響く感覚が、僕をまたもやのけ反らせる。と同時に、
『は、はああんっ!』
 横合いから、操緒の甲高い声がほとばしった。必死な声で、
『や……だ、だめっ、だめっ! 今はほんとにだめっ、それだめっ、だめだめだめええっ!』
 そう叫んだが、そんな弱みを見せてしまえば、紫浬さんが簡単に許してくれるわけがない。
「うふふ」
 含み笑いとともに、紫浬さんは、舌の先で僕の先端をちろり、と舐めた。

301:絶対封印プラグイン 第8回-A
08/02/15 15:23:59 iXM7OtZl
 
「うおっ」
『あ、お……んっ、は』
 指とは全く異なる、柔らかくて暖かくて繊細な刺激に、僕も操緒も、ほとんどうなり声のような喘ぎを放つ。そんな僕たちの耳に、紫浬さんのうっとりした声が流れ込んできた。
「ああ……すっぱあい……うふふ」
「ゆ、紫浬、さん……」
 最初の一撃のあと、少し間が空いたので、紫浬さんの方を見る。紫浬さんほどの整った美貌が、真っ赤に上気して妖艶きわまりない微笑を浮かべ、僕のそれに寄り添っている様は、この上なく僕の劣情をそそり立てた。つい、腕を上げて紫浬さんの耳のあたりを撫でる。
「んんっ……」
 紫浬さんはむずがるような声を出し、それから、少しだけ咎めるような表情を僕に向けたが、目が疑いようもなく笑っていた。
「トモハルくんたら……まだ足りないんですね……えっち」
 いや、休みなく責め立ててくれてるのはそちらなんですが。僕が苦笑いした瞬間、紫浬さんが僕のものを口に含み、舌をそっと這わせてきた。
『は……ん……』
 それだけで、操緒は軽く達したのかもしれない。しばらくせっぱ詰まった呼吸音だけがしていたが、紫浬さんの唇と舌の動きが激しくなるにつれ、
『は、や、はあっ……や、や、そこ、いや、いやいややあっ……や、は、あんっあっあっあっ……だめ、だめ、いや、だめえ……だ、……め、……だ……は……あ……あ、あ、また、あ、もう、あ、だめ、いや、だめ、もう、も……う……ん、ん、は』
 少しずつ悲鳴のオクターブを上げていっては途切れ、また元に戻るという繰り返しを続けた。もちろん、僕も同じように翻弄され続けていて、操緒のように間断なく頂点を極めるわけではなかったが、ほぼそれに近い状態だった。
 紫浬さんの舌使いが妙にツボを心得ているとか、共鳴現象のおかげで体力気分ともに盛り上がっているというのもあったが、そもそも、紫浬さんが僕のものに口でしてくれているという状況そのものが、僕をたまらなく興奮させる。
「ゆ……ゆか……り、さん……もう……」
「んー?」
 僕と目を合わせた紫浬さんは、そっと僕から唇を離す。
「なあに? トモハルくん」
「い、いや……だから……」
 なんでやめるんだ、そこで。同じように責めから解放された操緒の荒い呼吸音の中で、僕は不意に勘づいた。紫浬さん、まさか。
「なんですか……?」
 紫浬さんは触れるか触れないかのタッチで、僕の裏筋を撫でる。操緒が『は……っ』と身をよじるのが感じられた。僕も、その一撫でだけで、こちらには交渉の余地などなくなったことを悟る。
「ゆ、紫浬さん……」
 それでも何とか言葉にせず、目だけで訴えてみたが、紫浬さんは素知らぬふうに、
「なにか、言いたいことがあるんですか……?」
 ゆっくりと、僕のそれをなぞるようにして舌を上下させながら、訊いてくる。く……くそっ。なにが、Sっ気だ。ドSじゃないか。いつの間にか、また朱浬さんになってしまったとかいうんじゃないだろうな。

302:絶対封印プラグイン 第8回-B
08/02/15 15:25:02 iXM7OtZl
 
「で、ですから……」
「ですから?」
 指と舌で僕を生殺しの状態に保ちながら、よくもそんな無邪気な声が出せるものだ。女は、魔物だ。僕は、全面的に降伏せざるをえない。
「つ、続けて……」
「なにを?」
 なおも言いながら、僕の先端を舌裏でくるりと一周する。操緒が『はお……うっ』と鳴き、僕もその一撃に思わず達してしまいそうになったが、最後の瞬間に紫浬さんに根元を強く握りしめられて果たせなかった。アンタ、いつそんな技を覚えたんだ。
「なにを、ですか……?」
 だめ押しで訊かれて、けれど、こっちには暫く応える余裕なんてない。深呼吸を繰り返すのだけで精一杯だ。そんな僕を見て、紫浬さんは妖しく頬笑む。
「言ってくれないと、わからないです……」
「で、ですから……続けて……僕の……」
「僕の?」
 僕にためらいなど持たせないためか、指と舌で全体をつつうっと撫で上げる。おおっ。
「ぼ、僕の……ペ、ペニス……最後まで、続けて……ください……お願い、します」
「ふふ。……ほんとはもうちょっと、ですけど……トモハルくん、可愛いですから、許してあげますね」
 そんなことを言って、紫浬さんも限界だったんだと思う。待ちかねたように思い切り、僕の一物を頬張った。
『あっ、ああああっ……は、あ、や、や、や……は……や……もう……ヘンに……な、っちゃ、う……や……も、も……う、だ……だ……めえ……』
 とたんに、操緒のソプラノが響き渡る。それも、紫浬さんが情け容赦なく吸い立てなぶってくるうちに、沈黙した。呼吸音すら聞こえないが、僕の方もそれを気遣うことなどできない。目をきつく閉じ、紫浬さんの頭をつかまえると、僕の股間に押しつけた。
「!……っ」
 紫浬さんから驚きが如実に伝わってくるが、離したりしない。紫浬さんもすぐに、動きを再開し、それも、より一層加速させた。ああ。もう、ダメだ。
「う……くうっ」
 僕の腰が跳ね上がり、そこで凝固する。委細構わず、僕は暖かく湿った中に包まれて、全てを解き放った。それも、三回くらいは波があったと思う。
『ん……あ……は……はあ、はああああっ……』
 我に返ったのは、操緒の感極まった後の深いため息を聞いたときだった。少し手の力が緩んだせいか、紫浬さんが急に体をもぎ離すようにして上体を跳ね上げ、それから僕の上に倒れ込んでくる。
「う……げ、げほっ……か……あっ」
 背を丸めて、咳き込んでいた。それを見て、少し背筋が冷える。僕は、何をしたんだ。

303:絶対封印プラグイン 第9回-A
08/02/15 15:26:23 iXM7OtZl
 
「あ……す、すみません……大丈夫……ですか……?」
 紫浬さんは、口元に手を当てながら、僕を睨んだ。目に、うっすら涙がにじんでいる。真剣に恨みがましい口調と目つきで、
「ひ……ひどいです……け、けほっ……トモハルくん……」
「い、いや……すみません。夢中で……でも、紫浬さんが……」
「わたしが?」
「いや、何でもないです……すみませんでした」
 体を起こし、紫浬さんを覗き込む。おや。案外にすんなりと体が動く。
「本当に……大丈夫ですか?」
「だいぶ……飲んじゃいました……もう……」
 本当に、申し訳ないことをした。決して美味しいもんじゃない、というか、はっきり言うと、不味いだろうに。お詫びのつもりで、紫浬さんの頭を軽く撫でると、紫浬さんは僕の胸に顔を擦りつけてから、僕を見上げてくる。
「もう……責任、取ってくださいね?」
「えーと……」
 ちょっと怖いことを言われた気がする。あのう、責任といっても、いろいろあるのですが。などと考えていると、紫浬さんが背伸びをして僕に顔を近づけてくる。僕は、僕が放出したものにまみれたその口元に、こちらからキスをした。
 まあ……何というか、ヘンな匂いと味だった。自分でもそう感じるんだから、他人にこんなことは二度と頼めないなあ、と思う。せめてもの罪滅ぼしのつもりで、できるだけ、紫浬さんの唇や口の中のそれを、舐め取ってあげた。
「ん……ふ」
 紫浬さんの体が軽く震え、僕から顔を少し離す。有り難いことに、恥ずかしそうな頬笑みを浮かべてくれていて、こちらもほっとする。
「もう……トモハルくんたら」
「紫浬さん……」
「わたしに……わたしったら、あんなこと……ほんとに……もう」
 ああ、ちくしょう。反則的に、可愛い。僕の中で、何かがむくりと頭をもたげた。またか。あの罰当たりなプラグインの影響がどこまで続くのか、良く分からなかったが、今はそれに身を委ねるしかないのか。
「紫浬さん」
「は……はい?」
 急に真面目な声を出した僕に、少し戸惑った感じの紫浬さんを、僕は横向きざまに押し倒した。ベッドの上で体を入れ替えるようにして、紫浬さんの上にのしかかる。半ば意外なことに、紫浬さんも目立った抵抗をせず、ぐったりとしどけなくベッドに横たわった。
「トモハル……くん……?」
「紫浬さん……いいですか……?」
 紫浬さんは、言葉では答えなかった。ただ、恥ずかしそうに目を細め、僕の首に腕を回してくる。
『ト……智春お……?』
 そんな僕たちを、操緒が横から覗き込んできた。ようやっと、忘我の境地から復活してきたらしい。艶やかな髪がほつれて肌にこびりつき、全身が桃色に染まって、これが操緒かと思うくらいに、色っぽかった。

304:絶対封印プラグイン 第9回-B
08/02/15 15:27:37 iXM7OtZl
 
『まだ、するの……?』
「操緒さん……その……」
 紫浬さんが目を伏せ、腰をもじもじさせる。あの、済みませんが、こっちと下半身が触れ合った状態でそういうことをされると、正直辛抱たまらんのですが。
「わたし……まだ……」
 その上に、こっちの理性を吹き飛ばしてしまいそうな呟きを漏らしてくれる。思わず僕も頷いてしまい、
「操緒……僕も、ガマンできない」
『ふーん』
 操緒はジト目で睨み付けてくるが、その表情にも悦楽の余韻がそこかしこに色濃く残っていて、迫力に欠ける。そうするうちに、操緒は、ふっ、と息を吐いて少し肩をすくめた。
『止まんないんだよね……あれのせいなら……仕方ない、ってことにしといたげる』
「ごめんな」
 僕が、一応済まなさそうに微笑ってみせると、操緒はそっぽを向いたが、頬から耳にかけてが赤く染まっていた。こいつも、こんなに可愛かっただろうか。プラグインの影響だかなんだか知らないが、今日はいろんなものが日頃と違って見える。
 僕は、あらためて紫浬さんに目を落とした。一分の隙もなく整った美貌。おっとりとした笑顔。熱っぽく潤んだ黒い瞳に、紅潮した滑らかな頬。細い首筋。繊細な鎖骨の曲線。半ば以上はだけたワイシャツを持ち上げるふくらみの先端が、はっきりと尖っている。
 僕はその光景に息を呑みながら、少し震える指でゆっくりと、ワイシャツの残るボタンを外していった。紫浬さんはその間なすがままになっていたが、ボタンを外し終わった僕が肩口からシャツを引き下ろすと、少し背中を浮かせて袖から腕を抜いてくれた。
 綺麗だった。いつぞや、ちらりとだけ見た時にもそう思ったが、今こうしてゆっくりと眺めていると、感動すら覚える。すらりとして、それでいて女性的な曲線に満ちた肢体。程良く豊かで形のよい胸。しみ一つなく最上質の白磁を思わせる肌。全てが神々しかった。
「や……」
 僕の視線に耐えきれなかったのか、紫浬さんが少し体を捩る。
「トモハルくん……」
 誘うように名を呼ばれて、僕は紫浬さんの胸元に顔を近づけた。細い鎖骨に、そっと口づける。
「あんっ……」
 紫浬さんの吐息に力を得て、肩先へと唇をすべらせた。と、そこにうっすらとした線のようなものを見た気がして、僕は自分の動きをいっそう優しくした。
 そうなのだ。このひとの体の半分は機械……というか、兵器なのだ。最近は当たり前にすら思っていた事実が、この時だけは、僕の心に突き刺さった。嬉々として膨大な火力を振り回すこのひとが、その裏でどんな想いを抱えているのか、僕は、何も知らない。
 あの飛行機事故で致命傷を負った体を黒科学で繕ってまでして、《白銀》の副葬処女となった双子を救い出す術を求めて。なのに哀しみも苦悩も決して表に出さず、自分のことすら偽って、いつもおっとりと余裕な顔で笑って。どうしようもなく悪戯好きで傍迷惑で。
 ああ。僕はこのひとを知っている。黒崎紫浬でもあり、黒崎朱浬でもある、このひとを。だが、僕が知っているこのひとは、ままならない世界に向かって精一杯突っ張った挙げ句に、ある名前を高らかに告げるのだ。僕にも、その名前でこのひとを呼べと言うのだ。
「……トモハルくん?」
 僕の動きが鈍くなったためか、やや不安げな声がした。機械の部分を前にして、僕がためらったとでも思ったのだろうか。見損なわないでほしい。僕は顔を上げてその双眸を覗き込み、囁いた。
「……綺麗ですよ。朱浬さん」

305:絶対封印プラグイン 第10回-A
08/02/15 15:28:51 iXM7OtZl
 
 反応は、速やかだった。瞳が揺れたかと思うと大きく見開かれ、うっとりとした笑みが薄れ、僕の首に回された手がゆるむ。
「え……」
 この上なく戸惑ったその表情に向かって、僕はもう一度、その名を呼んだ。
「朱浬さん」
「ええっ……ト……トモハル……くんっ……な……なに……」
「何って……僕の知ってる朱浬さんは……朱浬さん……ですから」
「あ……」
 何か言おうとしたらしいが言葉にならず、しばらく口を開けたり閉じたりした後、見る見るうちに耳まで真っ赤になると、いきなり胸を腕でかばい、こちらに背中を向けた。えーと……どうしたんだ、一体。
「や……やあっ……トモハルっ……見ないでっ」
「え、ええと……」
 つい今し方までの態度との落差に、僕は呆然とせざるを得ない。
「あの……朱浬さん?」
「あ……や、あたし……あたしっ」
 僕の呼びかけに、一層背を丸めて、縮こまる。これは、もしかして。
「……恥ずかしいんですか?」
 耳の側で小声で訊いてみる。ぴくりと震えた体が、何よりも返事になっていた。なんてことだ。紫浬さんでいる間は、あれだけ大胆に振る舞った人が、いつもの名前で呼ばれた瞬間に我に返ってしまったらしい。しかしそれにしたって、
「朱浬さん……だって、いつも僕の前じゃ……」
 素肌にしろ下着にしろ普通に見せたり触らせたり、恥じらいなど微塵も感じさせたことがないというのに、これは一体どういう風の吹き回しなんだ。
「そ、それは……違っ……あ、あたし……あんな……こんな……」
 それでも、身も世もなく体を竦ませる朱浬さんは、ひどく新鮮で可愛かった。この人は、こんなところがあったのか。
『へええ……』
 隣から操緒の声がして振り向くと、そっちもかなり驚いた顔をしていた。僕と目を合わせると、だが、にやりと笑ってみせる。
『これはこれは……』
 何か、よからぬことを考えてるんじゃあるまいな。ちょっと不安になりながら、
「朱浬さん」
 僕が再び耳に囁くと、朱浬さんはびくっとした。そのまま無理にでも体を開かせてしまいたいという、自分の中で荒れ狂う衝動に必死に耐えながら、訊いてみる。
「……嫌、ですか……?」
 朱浬さんは、答えない。綺麗な黒髪が顔にかかって、どんな表情をしているのかも良く分からない。僕は、そっとため息をついた。ここで引き返せるかどうか自信など全くなかったが、朱浬さんがどうしても嫌だというなら、努力はしてみよう。
「……嫌なら……」
「……じゃ、ない」
 ごくごく小さな、呟きだった。

306:絶対封印プラグイン 第10回-B
08/02/15 15:30:05 iXM7OtZl
 
「はい……?」
「じゃない、けど……あたしも……だけど……」
 朱浬さんらしからぬ弱々しい声音に、それ以上何かを言わせるのは、酷だと思った。だから、僕は唇を朱浬さんの首筋へ移した。僕の吐息がかかるだけで感じるらしく、時折ぴくりと反応し、軽い喘ぎ声を漏らしてくれる。
 お互いの間の共鳴現象は、まだ僕たちを解放してくれていないのだった。それでも、一気に朱浬さんの肉体を蹂躙してしまいたくなる自分を辛うじてコントロールしながら、ゆるやかに愛撫を続けるうちに、
「は……あうっ」
 朱浬さんが鮮烈な反応を示したのは、僕の唇が肩胛骨のあたりをなぞったときだった。丸くなっていた背中がきれいにのけ反る。僕は、同じところに舌を這わせた。
「そ……そこ、だめえぇっ……どうして……生身じゃ……ないのにいっ、うん、んっ、あ、は、あ」
 違う。生身ではないから、機巧魔神の部分だからこそ、感じるのだ。僕や操緒と、《黑鐵》と、響きあうのだ。ああ。これ以上自分を抑えるのは、僕にとっても無理だ。
「朱浬さん」
 僕は、朱浬さんの肩をつかむと、やや強引にその体を仰向かせた。朱浬さんも抗いかけたが、僕の力の方が強い。朱浬さんの心理的な変化を抜きにしても、さっきまでと物理的な力関係が逆になってしまっているのは、どういうわけなんだ。
 朱浬さんは、少し眉をひそめながら、それでも僕を真っ直ぐに見た。
「トモハル……」
「すみません……僕も……もう限界です」
『そうですよ……朱浬さん? 智春が、可哀想ですよ』
 横合いから、操緒も朱浬さんを覗き込む。
『大丈夫……よくしてあげますから。あたしもついてますって』
 その口調にやや不穏なものを感じはしたが、僕は朱浬さんから視線を外さなかった。
「お願いします……このままだと」
「うん……」
 朱浬さんは軽く目を閉じて、熱くてかぐわしい息を吐いた。
「あたしも……ダメ、みたい。トモハル……こんなの……でも……」
「……すみません」
 朱浬さんは、かぶりを振った。
「謝らないでよ……そんなこと、しないで。トモハルは……あたしのこと……嫌いじゃ、ないでしょ?」
 好きか、とは朱浬さんは訊かなかった。僕も、そう訊かれたら、どう答えたらいいか分からなかった。逃げかもしれないが、今の僕たちの間柄には、朱浬さんが口にしたような微妙な表現がぴったりだと思う。だから、僕は答えを迷わなかった。
「嫌いじゃないですよ。もちろん」
「ん……なら、いい」
 朱浬さんは、少しだけ唇を尖らせ気味にして、微笑んだ。僕はそこに向かって、自分の唇を寄せる。紫浬さんと交わしたのとは全然違う、軽くて、それでいて熱い口づけだった。

307:絶対封印プラグイン 第11回-A
08/02/15 15:31:14 iXM7OtZl
 
「んっ……」
 キスを終えた後も、朱浬さんの表情は何かを堪えるように、妙に固かった。やはり嫌なのか、と少し迷った僕の横に、操緒が顔を出す。
『ふふ……朱浬さん。可愛い』
「操緒……?」
『いーのいーの。智春は続けてっ』
 言われるままに、僕は朱浬さんの顎の線をそっとなぞり、柔らかそうな耳へ唇を近づけた。耳にかかる艶やかな黒髪を指でそっとかき分け、真珠みたいに色づく耳たぶをそっと撫でてあげる。
「っ……」
 くすぐったいのか、朱浬さんが肩を竦ませた。僕はできるだけ優しく、その耳孔のあたりに舌を触れさせる。
「……っふ……っ」
 途端に、朱浬さんが僕から逃げるようにして首筋をそらせた。僕の眼前にさらけ出された、血管さえ透けて見えそうにきめ細かな皮膚が、目に鮮やかだった。特に香水など付けてはいない筈が、えもいわれぬ芳香がにわかに立ち上ってきて、僕の嗅覚を痺れさせる。
 頭がくらくらしながらも、僕は乱暴にならない程度に朱浬さんの頭に手を添え、その耳朶と首筋へ軽い口づけを繰り返した。キスマークは……やっぱり、まずいんだろうな。それでも、そんな微かなタッチにも朱浬さんは時折反応して、体を震わせる。
 そして、僕が耳元から首筋へ移ろうとして、耳と生え際の間あたりに舌を滑らせたときだった。
「んっ……く、はっ……」
 朱浬さんが首を大きくのけ反らせ、堪えきれなかったかのような吐息を漏らした。僕の拙い愛撫でも感じてくれているらしい。それが嬉しくて、再び同じところを唇と舌でくすぐってあげる。
「は、あっ……あ、ん……や、あ……んんっ」
 今度は、艶めいた声が上がった。いったん顔を上げて、朱浬さんの表情を覗き込むと、僕とは反対側に反らせた顔は見事に紅潮し、片手の人差し指を唇の間に噛み締めている。どうも紫浬さんとは違って、朱浬さんはあまり大胆に振る舞えないひとらしい。
「朱浬さん……」
 耳に囁くと、僕の息がかかるだけで感じるのか、いっそうきつく目を閉じた。
『うふふ。朱浬さんたら。びんかーん』
 操緒が嬉しそうに言う。
『これは、やりがいがありそうだわー』
 何をするつもりだ、お前。僕が軽く睨むと、操緒は含み笑いで応え、さっ次、と僕に指示した。言われなくたって、続けるさ。しかしこれは……レゾネータの影響で、全身が感じ易くなっているとしか思えない。でなければ、僕の稚拙な愛撫にこうも反応しないだろう。
 僕はあらためて、朱浬さんの首筋から肩先へ唇を走らせた。ところどころで鋭い反応を示すポイントを、できるだけ丁寧にケアしてみる。その都度、朱浬さんは呼気を荒くしたが、声を上げるのだけは、どうやら我慢しているらしかった。
 だが、その忍耐も、僕が鎖骨の端から、すっきりと絶妙な曲線を描く肩へと移動したとき、破られた。
「く、は、あ……あ、あ、や……やあっ、や……」

308:絶対封印プラグイン 第11回-B
08/02/15 15:32:20 iXM7OtZl
 
 単に、二の腕に唇を這わせただけなのだが、朱浬さんは大きく身を捩らせる。そうか。さっきの肩胛骨と同じで、このあたりは機巧魔神の部分なのだ。
 僕が、すらりとした腕の背中側を掌と指でなで下ろし、血管の透ける肘の内側や細い指とその間を舌でくすぐってゆくと、朱浬さんは必死に声だけはこらえながら、背中をのけ反らせて体をくねらせた。その痴態はあまりに美しく、僕の理性をじわじわと蚕食する。
 ひとわたり腕への愛撫を終えたあたりで、操緒が朱浬さんの顔を覗き込んだ。
『ふふっ。朱浬さん、頑張っちゃって。かわいーい。でも、ムダだよ?』
 操緒の声と同時に、僕は浬さんの腕を上へ持ち上げると、白い腋の下が露わになった。
『わ……きれいにしてある』
 操緒が感心したような声を上げる。腋毛の処理のことだろうか。ぼんやりと考えながら、僕はその柔らかい肉の上に舌を滑らせた。
「あ……やあっ」
 朱浬さんが悲鳴を上げ、腕を下ろそうとする。僕が腕を押さえつけているために、それができないと悟ると、体を横向きにして、僕から逃れようとした。構わずに、僕は腋の下の柔肌を舌でくすぐり、胸筋の付け根のあたりを唇で吸い立てる。
「ん……んんっ……く、は……や……や……ん、あ……や、あ……」
 朱浬さんはそれでも、手の甲を口に押し当ててまで、声を必死に押し殺そうとしていた。やっぱり、恥ずかしいのだろう。しかし、こんなところで感じるものなのか。我ながら、どうやってこんなことを思いついたのか不思議だった。その疑問が氷解したのは、
『朱浬さんも粘るねー……でも、ムダだって言ったでしょ。女の子の感じるとこなんて、分かってるんだから』
 操緒がそう含み笑いしながら言うとともに、自分が朱浬さんの腋の下から乳房に唇を移したときだった。どうやら、操緒に導かれているらしい。操緒が僕を乗っ取って操っているというわけではなく、僕と操緒が一体になってしまっている感じだった。
 朱浬さんの胸は、豊かに丸く張りつめ、その頂点で乳首が真っ直ぐに上を向いていた。これって、興奮して充血してるってことだよな。なんだか感動すら覚えながら、その下側の付け根あたりから頂点に向かって、唇と舌で軽く撫で上げる。
「ふ……あっ」
 朱浬さんの体が跳ねた。構わず、両脇から全体を柔らかく揉みほぐすようにしながら、乳首の上にすっぽりと唇をかぶせる。かすかにおののく乳頭にゆっくりと舌を這わせた。
「う、あ……や、や……や……は……ん、く……うぅっ……い……や……あ、ふ」
 朱浬さんは、苦悶するように首を左右に打ち振り上体をあちこちへくねらせながら、途切れ途切れの嬌声を漏らす。何というか、大げさに喘がれるよりも、よっぽどこっちの腰の奥底に響いてくる気がした。
 そのまま何かに突き動かされるように、僕はいっそう、弾力に富んだふくらみを揉みしだき、乳首を吸い立てながら甘噛みしてみた。その瞬間、朱浬さんの背中が僕を持ち上げるようにしてそっくり返り、
「……っ、は……あ、だ……だめ、そ、ん……な、や、いや、だめ、だめ……え……えぇぇっ……っ」
 か細い悲鳴が次第に消え入り、そのままの姿勢でしばらく凝固していたかと思うと、不意に脱力してベッドの上へと崩れ落ちた。これって、もしかして。
『あらー。もう?』
 操緒が、胸を大きく上下させるので精一杯な風情の朱浬さんに寄り添うようにして横たわり、囁いた。
『まだまだ序の口なのになー。さっきは、ずいぶんよくしてくれたもんね……お返しだよ。いっぱい、喜んでね』

309:絶対封印プラグイン 第12回-A
08/02/15 15:33:43 iXM7OtZl
 
 そう言う操緒の声に込められた情念はちょっと怖かったが、僕は敢えて逆らわないことにした。僕一人なら、ぎこちない愛撫の果てに途方に暮れてしまったのかもしれないのだし、こんな成り行きでも朱浬さんを大事に扱ってあげられるなら、なんだって構わない。
 僕は、愛撫の対象を乳房から脇腹へ移した。肋骨さえ透けて見えそうなくらいに贅肉のひとかけらもない肌を舐め、撫で、くすぐり、吸う間も、朱浬さんは声を立てず、ただ絶えず背をのけ反らせ、体をよじって快感に耐えていた。
 しかしそれにしても不思議なのは、本来ならこの人が本気になれば、僕を吹っ飛ばすくらいは簡単な筈なのだ。それがさっきから、せいぜいが腕で力無く僕を遠ざけようとするくらいで、それも僕の動きの前にあっさり抵抗力を失うばかりなのは、どういう訳なのか。
 訝しく思いつつも、僕はさらにその下へ移動し、へそのあたりをしきりにくすぐって朱浬さんの身体を震わせたあと、ショーツのすぐ上の腰骨の上に唇を当てた。
「あ……は、あっ」
 そこで、朱浬さんが声をほとばしらせた。なるほど、ここか。口を少し開いて広めに吸い立ててあげながら、舌で撫で上げる。
「ふ、や、あっ、あ、あ、だ、だめ、や」
 朱浬さんの腰がうねるが、僕はがっちりと掴まえて離さなかった。反対側の腰骨のあたりも同じように愛撫してあげてから、ようやく一息入れる。
「は、はあっ……は……ふ……」
 朱浬さんも胸を大きく上下させ、荒い呼吸を繰り返す。操緒がその顔を覗き込んで、にんまりと笑った。
『んーん、いい感じ……次は、このきれいな脚かな。腕であんなに喜んでくれたんだから、こっちも、いっぱい可愛がったげるね』
「あ、やあ……」
 朱浬さんが少し頭をもたげ、哀願するような視線をこちらに寄越したが、操緒も僕も斟酌などせずに、長くて美しい太腿へと舌を滑らせた。
「んくう……う、は、あ……は、や、やっ……や、あ、あ……ふ、あ……」
 身をくねらせる朱浬さんの動きに合わせながら、とても機械とは思えないほど柔らかくて暖くて感じやすい脚を伝い、膝のお皿をひとしきりくすぐり、足の甲にそっと口づけたときだった。
「は……あ、あうっ、あ」
 朱浬さんが、高らかな悲鳴とともに、腰を浮かせた。
『ふーん……こんなとこも、なんだ』
 僕の横で、操緒の熱に浮かされたような声がする。僕は足の甲からさらに、足の指の股へ舌を差し入れた。そこでの朱浬さんの反応は、さらに鮮烈だった。
「あ、や、やあっ、あ、は、だめそこっ、だめえっ……な、なんで、は、あ、そ……ん……なあっ、とこ、でえっ……ふ、や、だめ……だ……め……い、や……」
 自分で責めておきながら言うのも何だが、意外なところが弱いんだなあと感心しながら、続けて指を一本ずつ吸い立て、その間を舌でくすぐる。朱浬さんはそのうちに声さえ出なくなったようで、ただベッドの上で左右に美しい肢体をのたうち回らせていた。
 ようやく僕(と、たぶん操緒)が朱浬さんを解放したとき、朱浬さんはただぐったりと横たわり、荒い呼吸を繰り返すだけだった。もしかすると、軽く達していたのかもしれない。
「……ふ……ふ、は……は……あ……」
『朱浬さん、どう……? こっからが、ヤマよ?』
「あ……」
 操緒のねっとりした声にも、訝しげな瞳でこっちを見るのが、やっとらしい。それもすぐに、僕が、モデル並にすらりと長くて美しい脚を伝って戻っていきながら、膝の内側の柔らかい部分や内股の張りつめた肌に舌を這わせると、朦朧と閉じられてしまった。


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