死神萌えat EROPARO
死神萌え - 暇つぶし2ch522:名無しさん@ピンキー
08/03/07 01:08:02 jPkMAnO8
>>518
死の神だからもっと根幹的な部分で死に関わってればいいんじゃないかな。
死者を選定する義務とか憑かれた人は必ず死ぬとか殺さないと死んでしまうとか。
我ながら意味不明なのでパス。

523:名無しさん@ピンキー
08/03/07 15:49:35 nj+1qa2P
上のほうにはヴァルキュリア(ヴァルキリー)風味のもあったからスタイルは別にいいんでね?

524:名無しさん@ピンキー
08/03/07 20:52:51 dMb+m2Lm
死神事態の存在が人間の編み出した空想なんだから、明確な定義なんて存在しない。
つまり、自分の中で彩られた死神と言う妄想をぶちまければいいんだ。
ただ、大衆のイメージを大きく外れてしまえば、死神と言う認識からは外れてしまうだろうがな。

525:名無しさん@ピンキー
08/03/09 13:40:10 hkxLNxTn
>>518
1.世界の魂の量を調整する
着物姿、和風、卍か(ry

2.このノートに名前を書かれたら(ry

3.世界の敵を倒すために浮かび上がってくる
口笛を吹く不気味な泡

4.真っ白いロリっ娘

526:名無しさん@ピンキー
08/03/09 13:43:46 hkxLNxTn
5.彼岸人と呼ばれる種族、右手から武器を精製
違法ゾンビ、契約ゾンビ問わずその命を狙う
核心を奪われるとしゅごキャラみたいになる

527:名無しさん@ピンキー
08/03/11 00:33:41 BO4Idv4O
つまり世界観ごとに定義が違うから、設定が書かれてなかったら脳内補完しとけってこと

528:名無しさん@ピンキー
08/03/12 01:50:32 eisH3rD/
6、ドラキュラ伯爵の腹心

529:名無しさん@ピンキー
08/03/20 00:41:57 XCzhcvgR
保守

530:名無しさん@ピンキー
08/03/20 12:06:57 ldeDPTUP
初めて、ここで投下します。
長いんですが、よろしくお願いいたします。

531:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:08:16 ldeDPTUP
草木が萌え出で、鳥たちが歌いはじめる季節。
人々は、新しい季節に喜び唄い「春」という季節を待ち望んでいたかのように、ざわめき始める。
目の前を、わたしと同い年ぐらいの女子高生達が、サルのようにきゃっきゃと
けたたましく騒ぎながら歩いていった。
一体何が楽しいんだ。わたしが一番嫌いなタイプの人間達。
地上で最もうるさい人類かもしれない。ムカつくなあ。
春という陽気のせいか、それが輪をかけてウザく感じる。
いっその事、わたしの力を使えば消せるのもなんだが、こんな無駄遣いはいやだ。
わたしは、こんな季節が大嫌い。
無くなって欲しいとも思っている。早く冬が来ればいい。

わたしは、ひと気のない桜並木を一人して歩く。
肩から膝下まで伸びた雨合羽のような黒いワンピース。
フードがついているのだが、邪魔なので被っていない。
襟元には、可愛らしい黒いリボンがワンポイント。肩から袈裟懸けのポーチも自慢。
黒猫の化身の名残のネコミミがわたしには生えている。もちろん、尻尾も。
こげ茶の編み上げブーツで歩くたびに、落ちた花びらがふわりと舞い上がる。
落ちてきた桜の花びらが、ぺたりとわたしのメガネにひっつく。そんな、桜の季節をわたしは、忌み嫌う。
できれば死神の証、大鎌でぶんと、桜の枝をなぎ払ってやりたいくらいだ。
尤も、最近では、市中は危ないと言うので鎌は天上界の自宅に置いてあり、
代わりに、先に大きな輪がついた杖を肩に掛けて持ち歩いている。
「なぜ、桜は咲くんだろう…」
当たり前のような疑問がふと、頭によぎる。
生暖かい春風が、栗色のくせっ毛ボブショートをふわりと揺らす。


532:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:08:55 ldeDPTUP
わたしが、嫌う公園の桜のアーチを歩く中、一人の男が池を見てたたずんでいる。
彼は、時代を五十年程遅れてきたような着物姿で、なにか物憂げな雰囲気を漂わせる。
「うん。この人にしよう」
彼のたもとにすっと立つ。彼は、私のことに気付いているようだが、わたしに振り向く事はまだしない。
「桜がきれいですね」
わたしは、人間に話しかける時の常套句を使って、接触を試みる。
もちろん、個人的にはこんな言葉を使うのは、反吐が出るほど大嫌い。
しかし、わたしの本分のためなら、仕方あるまい。

「桜は、嫌いだよ」
彼は、予想外の言葉を返してくる。
「桜は、人の心を悲しくさせる。彼らも、咲きたくて咲いてるんじゃなかろうに」
「…わたしも、桜は嫌いです…」


533:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:09:24 ldeDPTUP
わたしは、彼に非常に興味を持った。
「わたしですね。死神なんです」
思い切って、自分の正体を明かしてみる。意外にも、反応は薄かった。
「面白い事をいうね、死神に初めて会ったよ。いい思い出になった」
わたしのネコミミがくにーと垂れる。今までにあったことのないタイプの人間に少し戸惑う。
どのように、対処すればいいんだろう。そんな、マニュアルは一切ない。
「わたしのこと、疑わないんですか?どう見てもおかしな人ですよね?耳もヘンだし…」
「疑う理由が見つからない」
そんな彼に、ますます興味を持つわたし。

「死神って、ドクロの顔をしてたりして、怖いイメージだと思っていたけど、
君を見ていると『死』というのが怖くなるね。むしろファンタジア、幻想的だ」
「相手を引き込む作戦です。ただ、天上界と地上界では少々、感性が違うようで…」
「ぼくも、よく『人と違う』って言われるから、きみの寂しさは良く分かる」
彼は、そんな事を言いながら、ぶんと池に小石を投げ入れる。
わたしも真似をして、ぶんと池に小石を投げ入れるが、足元でポチャンと落ちてしまった。
「そういえば、わたしの名前を言ってませんでしたね。
『紫』といいます。むらさきとかいて『ユカリ』。あなたはなんていうんですか?」
「『長谷部』といっておこうか。これ以上は言えないな」
といい、下駄を鳴らしながら去っていった。
長谷部が投げた小石がまだ、水面を切って跳ねている。
うん、彼にしよう。わたしは、ぐっと手を握り締め、心に決める。


534:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:10:05 ldeDPTUP
次の日。今朝は、ダンボールの家のおじさんから、小さなおにぎりをもらった。
人の温かさに触れた肌寒い朝。おじさんも、天上界にいけますように。
この日の午後も、長谷部と同じ場所で出会った。ウグイスが遠くで鳴いている。
「長谷部さんは、よくここにこられるんですか?」
「ふふふ。ここしか来るところがないのさ」
人のことを言えた義理でもないのだが、身なりからして、彼が気ままに生きている事が分かる。
「そういえば、紫さんは『死神』とか申してたね」
「はい。わたしは『死神』です」
「きみを見る限り、どうも人を恐怖に陥れる悪いやつに見えない。
むしろ、ぼくらの友達としてこの世界に来てるんじゃないのかな?」
わたしの血が一瞬引いた。
ネコミミもくるりと警戒し、尻尾がわたしのお尻に隠れようとする。

「…わたし達の仕事は、地上界の者を天上界に迎え入れる事です。
地上界では『死』といい、無に帰る意味になりますが、わたし達の世界では天上界に戻り、
永遠に生き続ける意味になるんです。つまり、分かりやすく言うとエリートです」
「なるほど」
「むしろ、死神に見放された人たちは、かわいそうな人たちです。
天上界にも行けず、グルグルと地上界に後戻り。なんでも輪廻転生って言われているらしいんですがね。
『あなたの前世は天草四郎だった』とか言って、人間同士で騙そうとする人間もいます。
決して前世があることは良い事じゃないんですよね。むしろ、不幸せな人たちです。
『お前は、天上界ににどとくんな』って。…ごめんなさい。少し難しいお話になっちゃいましたね」
「ははは、構わんよ。ぼくも、よく『何を考えているか分からないから、話にならない』とよく言われる」
彼は腕を組みながらケラケラと笑った。
ますます、彼に興味を持った。彼こそが、天上界にふさわしい人物かもしれない。


535:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:10:36 ldeDPTUP
わたしは、天上界からの使者。上役への報告義務がある。
そろそろ、上役に報告をしなければいけない。とても面倒だ。ゆううつだ。
また、お説教されるんだろうな。春の陽気が輪をかけて、わたしを陰鬱にさせる。
どんな水面でもいい。その水面をちょんと杖の先でつつくと、水面が大きな画面になり、
相手が浮かび上がる。天上界にいる上役に直接会話が出来る仕組みだ。
もちろん、人間達には、その水面の画像を見る事は出来ない。

「亜細亜州日本国東京。0024番の紫です。定期報告をいたします」
水面にはわたしより若干年上のお姉さんが映る。彼女もまた死神。
同じく、黒猫の化身の証、ネコミミが生えている。
「紫さんですね。突然で申し訳ないんですが、あなたがこの間、天上界にご案内した
東京都の『小椋ひいな』さん。地上界日本国滋賀県琵琶湖のフナに戻る事になりました」
「…えっ」
厳しい口調でお姉さんが、紫を責立てる。
一ヶ月ほど前、紫が天上界に連れて行った、女子中学生の名前であった。
学校でいじめられて、地上界で生きるのが嫌になり、公園で出会った紫と話しているうちに意気投合。
そんな彼女を哀れに思い、天上界に連れて行ったのだ。死因は、睡眠薬の多量摂取となっている。
「彼女はあまりにも天上界での素行が不良で、大審院からこの世界にふさわしくないと判断され
彼女は、もう一度地上界に戻ってもらう事になりました。わたし達としても非常に遺憾です」
地上界で性格の悪い子は、天上界でも変わる事が出来なかったのか。
話した感じ、いい子だと思っていたのに。わたしは自分の力不足を恨んだ。
「…はい。ごめんなさい」
天上界でのわたしの査定は、このことにより大きく響く。
わたしの同期の死神たちはどんどん出世して、天上界でバリバリ働いているというのに
未だに地上を駆けずり回る、初心者レベルの仕事をしているのだ。
なので、同期の奴らは、みんなわたしの事をバカにしている。
不器用なわたしは、泣きたくなった。わたしは弱い死神なのだろうか。


536:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:11:04 ldeDPTUP
首をうなだれ、暗くなったわたしを慰めるように、お姉さんが優しく語り掛ける。
「大丈夫。まだまだ、あなたは若いんです。ところで、最近の調子はどうですか?」
「…まずまずです。それより、調べて欲しいことがあるんですが…」
「はいはい。なんでも言ってみて下さい。力になりますよ」
「ある、人物の名前なんです」

わたしたちが、活動するには必要なもの。それは、天上界に召す人物のフルネーム。
これが分からないと、わたしたちは手も足も出せない。
そこで、天上界の本部に調べてもらい、わたしたちは円滑な活動をするのだ。
わたしは、長谷部のことを話した。いつ、どこで会ったか。どんな風貌かを詳しく説明する。
本部では、わたしの行方と行動で、接触した人物を調べるのだが、
何せ、地上の人間の数を考えると時間がかかるのは必至。気長に待つしかない。
「わかりました。ある人物の名前ですね。リサーチするには、時間がかかるので、
そちらでは活動を進めてください。次の定期報告の時にお教えできると思います」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
定期報告を終えると、水面は元に戻り静けさを取り戻した。


537:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:11:45 ldeDPTUP
石を投げつけたくなるくらい、青空が美しいある朝。
わたしは、料亭のゴミ箱から拾ってきた、ある宴会料理の残りを公園のベンチで貪り食っていた。
エビや魚のフライ。朝っぱらから脂っこい料理だが、おなかを満たすためには、仕方がない。
こういうことをするヤツらが、天上界に来るとわたしはムカつく。
天上界の品格が落ちてしまうし、フライになる為に命を落とした、エビや魚たちが浮かばれない。
食い残したやつはみんなエビになれ。エビになってフライで揚げられて、食われてまたエビになれ。
そして、天上界には決して来るんじゃない。

そんな、死神の文句をたらたら流していると、わたしの脇に、雑誌が忘れ去られているのを見つけた。
本には、さらさら興味がないのだが、今日は不思議と気にかかる。死神に魔が差した。
時間も腐るほどあるし、パラパラとめくる。
表紙は下品、地上界のありとあらゆる下世話なこと書かれており
決して手にしようとは思わないものだった。しかし、わたしが一番興味を持ったのは
4ページ程の短編小説。一話完結の話のようだが、わたしは、このページにのみ惹かれた。
なぜ、こんな上品な文章がこのような雑誌に載っているのだろうかと思うほど、美しい文章。
小説というものは初めて読む。しかし、この文章はわたしに共感しやすいのか、すらすらと読むことが出来る。


538:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:12:13 ldeDPTUP
数分後、わたしは、生まれて初めて小説を読破した。
なんだろう、この快感。すっとする気分。うーんと伸びをしてみる。
人間達が、やれベストセラー、ロングセラー、そして映画化決定と興奮する理由がわかってきた。
この小説の筆者らしき名前が始めに載ってある。
「津ノ山修」かあ。覚えておこう。
わたしは、津ノ山修の本を探しに本屋へ行く。こんな場所ははじめて行く。
必至に探すが、あまり人気のない作家なのか著作が見つからない。
とりあえず、見つけた一冊を購入する。地上界の金銭は念のためにと、天上界から支給されている。
わたしは、それ以降、津ノ山先生の作品にどっぷりはまった。出来れば毎日読んでいたいくらいだ。
もっと読みたいと思い東京中探しても、あと一冊ほどしか見つからなかった。
彼は、まだまだ無名らしい。これから大きな名前になってくるのだろう。
わたしは、いつでも読めるように、二冊をポーチに入れて持ち歩くことにする。
わたしは、期待している。きっと、将来すごい作品を読ませてくれることを。


539:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:12:49 ldeDPTUP
今日は、定時報告の日。わたしは商店街を歩いている。
世間は日曜日なのか、人通りが結構ある。午後のうららかな日。
電器屋のテレビはクイズ番組を映し出していた。
「今日は、ある人物を当てていただきます」と司会者である紳士の声がする。
そうだ、思い出した。長谷部のフルネームを教えてもらう約束だった。
いそいで、水面がある場所へ急ぐ。
路地裏に、水の入ったバケツがあった。一目がないのを確認して、ちょんと水面を突付く。
「お疲れ様です。調子はどうですか」
「はい、順調です。その、この間の事なんですが…」
「はいはい。ちゃんと調べておきましたよ。彼の名前は『長谷部龍二郎』ですね」
「『はせべりゅうじろう』…。ありがとうございますっ!」
「彼は、私たちの調査では品格良好で、天上界でも期待されていますよ。頑張ってください」
「はいっ!がんばります!!」
「この仕事が認められると、あなたも次のランクに上がるチャンスですので
わたし達も期待しています。では、仕事を続けてくださいね」
わたしは、このとき死神になって初めて仕事のことで笑ったと思う。
陰鬱な春が少し、いつもより暖かく感じる。


540:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:13:19 ldeDPTUP
曇りがちの月曜日。雨が今にも降りそうなのだ。
だが、そんな天気がわたしは大好き。大雨なんかになると、これ以上ない喜び。
世間も少しどんよりしている。わたしの気持ちも少し楽になる。
いつもの池のほとりで長谷部に会う。
彼はいつものように、飄々としてたたずんでいた。わたしは、いたずら心で少しおどかしてみる。
「わっ!こんにちは!」
「なんだ、紫さんか」
反応は薄かった。しかし、長谷部の顔は少し笑っているように見える。
そんな長谷部は、わたしにいきなり思ってもいなかったことを言い放つ。
「ぼくは、君の言う『天上界』に興味を持ったよ。今すぐ、連れて行ってくれないか?」
なんという、とんとん拍子。わたしのネコミミがぴんと立つ。
上手くいくと、初めて仕事で誉められるかもしれない。そう考えるとわくわくする。
同期のバカどもを見返してやるぞ。
「…本当ですか?覚悟はいいんですか?」
「ああ。こうして生きてゆくのも、ちょっと飽き飽きしてきた頃なんだ。
ぼくには、この地上界が狭すぎる。窮屈さ」
「では、早速準備します!ところで、あなたの名前は…えっと『長谷部龍二郎』さんですね!」
不思議と長谷部は驚く気配もなかった。
「ははは。そうだよ」
わたしは、すこし頬を赤らめて興奮している。ネコミミも絶好調。


541:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:13:53 ldeDPTUP
「後悔は、ありませんね」
「うん、はじめてくれ」
「…では、契約を…始めます」
桜の花に囲まれながら、わたしの仕事が始まる。人間をいわゆる「あの世」へと送り出す尊い仕事。
「はせべ・りゅうじろう、下賎なる地上界に営み続ける魂を天上界に送らんと…」
わたしは、必至に長い長い呪文を唱える。天上界への道を開く為の呪文。
長谷部は笑って立って見つめている。
「神に近づかん事を願う!!」
ぶんとわたしの杖を体いっぱい使って振ると、杖は鋭い剣に変わる。

刀身は、およそわたしの背丈と同じ長さ。細く鋭く、まるで氷のように冷たく見える。
「…ほんとうに、後悔はないんですね」
「…わくわくしてるよ。楽しみだなあ」
わたしは、剣を両手でしっかり持って構える。体が震えて、刃先も一緒に震えている。
「いき…ますよ…」
長谷部はうなずく。
「…」
わたしの心臓がいつもより激しくうなっているのが、耳の後ろの動脈の音で分かる。
次の段階に、なかなか一歩が進み出せない。足元がすくむ。勇気が欲しい。

わたしは、上を見上げると桜の花が咲いているのが一面に見えた。
憎らしいぐらいに美しい桜。その、桜への憤りを思いっきりわたしの剣に託す。
「にゃああああああ!!」
わたしは剣で、長谷部の首筋をぶんと斬り付けた。
ぱっと、桜の花びらと一緒に赤い血が霧のように飛び散る。
わたしには、ゆっくりと舞う赤い玉が美しく見えた。後戻りは出来ない。

が、これは実際の長谷部の血ではない。事実、彼はニコニコしながら未だに立っている。
地上界の醜く淀んだものを、瀉血させているのだ。天上界に、余計なものを持ち込まぬように。
この技術次第で、天上界での品格が出来上がる。
前回は、この技術が余りにもお粗末だったため「小椋ひいな」のような失態が起きたのだ。
が、今度は手ごたえがある。長谷部のために全力で斬り付けた。もう、失敗は出来ない。
わたしが、見込んだ人間だから幸せにしてあげたい。


542:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:14:19 ldeDPTUP
刃先に血のついた剣が落ちる音が響く。
「もう、これで…戻れませんよ…」
わたしは、俯いて今にも吐きそうな気分になった。立ちくらみがする。
かなりの体力を使うため、わたしは今にも倒れそうなのだ。
「これから、24時間以内にあなたは死にます。死因は、わたしにも分かりません」
「ありがとう」
「…このあと、わたしは契約を結んだ者と会うことが許されません。
次に会うとしたら、天上界ですね。尤も、わたしがそちらに行く事ができればですが…」
「ははは、そうかい。すっきりしたよ。じゃあ、また会う日まで」
「待って!」
わたしは、長谷部の胸元に飛び込んだ。初めて、男性の暖かさを知る。くんくんと匂いを嗅ぐ。
「…幸せになってくださいね…」
何故だろう、目頭が熱いぞ。こんな感覚初めてだ。
人と別れることは、仕事上慣れっこのはずなのに、何故か今日はそれがやけに切なく感じる。
寂しいのかな。長谷部にぎゅっと抱きつけば抱きつくほど、わたしの心臓の音が激しく聞こえる。
「天上界での幸せは、わたしが保証します」

そういえば、この気分の高まりは、初めて津ノ山先生の本を読んだ感覚に似ている…。
小さなわたしの胸が痛い。



543:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:14:50 ldeDPTUP
仕事を終えた翌日。わたしは、公園のゴミ箱で雑誌を拾う。
以前拾ったものと同じ雑誌の最新刊。相変わらず下品な表紙で、下世話な記事で埋め尽くされている。
そんな中、唯一ほっとするのが津ノ山先生の作品だ。
これの為だけに、読み漁っているようなもの
なんだか、内容が身につまされるものだ。死神なんぞ出てきている。
自分のことが書かれているみたいで、不思議な感じがするが、彼の上品な文ですっと読むことが出来る。
やはり、もう彼の文章の虜になっている。はやく次回作も読んでみたい。
しかし、その気持ちはガラスのように打ち砕かれる。

「※津ノ山修先生は、先日亡くなられました。ご冥福をお祈りします」
ページのはみ出しに、小さく書かれていた文字は、わたしを凍りつかせた。
メガネを拭いてもう一度見てみるが、文章は変わらなかった。
津ノ山先生が死んだ。
死に携わる仕事をしているとはいえ、わたしのショックは大きい。もう、珠玉の文章を味わえないなんて。
その日の夕刻、とぼとぼと商店街を歩いていると、電器屋のテレビで津ノ山先生の訃報が報じられていた。
淡々とニュースキャスターは話す。
「昨夜、作家の津ノ山修さん(35歳)が池で亡くなっているところが発見されました」
もう、そのニュースは悲しくなるからもういいよ、と思っていたところ、キャスターの声を疑った。
「津ノ山修さん、本名・長谷部龍二郎さんは…」
画面に生前の写真が映る。どう見ても、長谷部の顔だ。
わたしの血が全て冷え固まった。


544:紫〈ゆかり〉
08/03/20 12:15:23 ldeDPTUP
定期報告の義務があるため水辺に向かう。長谷部もとい津ノ山先生と出合った池にする。
本当はそんな元気もないのだが、義務は義務。
いつものように、ちょんと池の水面を杖で突付く。
「亜細亜州日本国東京。0024番の紫です…。定期報告を…いたします」
「紫さん。やりましたね。天上界でも大喝采ですよ」
「…はい」
お姉さんは満面の笑みで話しかけてきた。なのに、わたしの気分ったら暗く沈んだまま。
「今回、ご紹介頂いた長谷部龍二郎さんは将来、天上界でも期待できる人材です!」
なんだろう。仕事で誉められてるのに、ちっとも嬉しくもないぞ。悲しみと怒りしか浮かばない。
「もちろん、紫さんの評価もかなり上向きに…」
「うるさいっ!もう、黙ってよ!!」

わたしは、お姉さんに声を荒らげてしまった。
出世なんか、どうでもいい。天上界の奴らも、もう好きにしろ。
メガネを外し、わたしは涙をぬぐう。
お姉さんも困っている。
「…とりあえず、ほうこくをおわります…」
兎に角、何も話したくないわたしは、無理矢理報告を終わらせその場でしゃがみこんだ。

わたしは、この夜ここで一晩過ごした。
津ノ山先生の本を抱いたまま、泣いて過ごした。
朝は、問答無用にやってくる。相変わらず桜が咲いている。
光が、わたしの気持ちを逆なでするかのように浴びせられる。
やっぱり、春は嫌い。桜はもっと嫌いになった。


おしまい。


545:紫〈ゆかり〉~あとがき~
08/03/20 12:17:18 ldeDPTUP
こんな長文は、はじめての体験でした。ふう
以上で投下終了です。

546:名無しさん@ピンキー
08/03/20 14:47:24 WN4GQumu
これは面白い、どきどきする・・・
ところで、伊坂幸太郎の死神の精度ってのは読みましたね?

いや、あれより紫のほうが今のところ好きだけど

547:名無しさん@ピンキー
08/03/20 18:10:04 XCzhcvgR
できればエロが欲しかったなーってのは俺だけ?
設定が良かったので続きが読みたいです先生!


>>546
上司が犬だっけ?

548:名無しさん@ピンキー
08/03/24 20:22:42 Y9ucpZyR
百合とかは、ありなのかな?

549:名無しさん@ピンキー
08/03/25 17:34:24 r91ecV18
死神が関係してるならいいんじゃね?
百合だから嫌いなひとはスルーでとか書けばいいし

550:名無しさん@ピンキー
08/03/26 22:27:19 vw9xtDrN
前作の「紫〈ゆかり〉」の続きを書いてみました。
コレは、ちょっと百合は入るのかなあ。でも、エロも少しありますので。

投下開始します。


551:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:28:41 vw9xtDrN
「お互い、死神同士で認め合えるような仲間が欲しい」
孤独なわたしの口癖のひとつ。

「ふっふー。紫せんぱーい、何してるんですか?」
桜も大分散り始め、肌寒さも緩んだ頃、後輩の「荵」が駆けて来る。
春のせいで眠いわたしには、彼女の一声はズキリとくる。

彼女の髪は紺がかった黒色、片方をピンで留めた前髪で開かれた額が健康的だ。
そして、外はねの後ろ髪が彼女の元気さを表している。
もちろん、彼女も死神なのでネコミミにしっぽを持っているのは言うまでもない。
彼女は、黒っぽいセーラー服を着ている。若い彼女にぴったり、という天上界の判断か。
そして、わたしと決定的に違うのは、ネコミミに付いた金色のリング型のピアス。
今までの死神としての功績の証である。そう、彼女は死神として優秀なのだ、私と違って。

初めて彼女と会ったときのことは、鮮明に覚えている。
「荵といいます。草冠に忍で『シノブ』ですっ!」
元気よく、ぴょこんとお辞儀をする。髪からは微かに、石鹸のいい匂いが漂う。
澄んだつり目の笑顔からは、八重歯が覗いている年齢より若く見えるかもしれないロリ顔。
彼女は、わたしとは違うタイプの死神だ。

わたしより三つ年下の若い子。こんな忌み嫌われそうな仕事をしているのに彼女は明るく、
いつも周りにはいつも同僚達が集まって、向日葵が咲くように華やいでいる。
彼女は、いわゆる『クラスの人気者』タイプ。わたしにとっては最も苦手な部類であり、
嫌いな部類にも当てはまる。なのに、彼女はわたしに付きまとう。


552:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:29:38 vw9xtDrN
「この間の事で、まだ落ち込んでるんですか?」
わたしの顔をぐいと覗き込みながら、荵が話しかける。
「ほっといてよ」
「その分、仕事で取り返しましょうよ。ね?」
彼女は人懐っこく、わたしにまとわり付く。正直いい加減にして欲しい。

「そんなことより、新しいグロス。買っちゃたんですよー」
あごに人差し指を当てて、わたしに媚びる様に自慢する荵。
荵のピカピカに潤んだ唇に、幼げな色気を感じられる。年下なのに。

ちゅっ。

わたしが油断した瞬間、荵がわたしの唇を奪う。
「へへへ。わたしのキッス。試してどうでした?その気になった?」
「うるさいな!もう」
荵の頭のなかは、何を考えているのかさっぱりわからない。
「実はですね…。ちょっと今からお仕事なんですが、付き合ってくれます?」
断る理由も無いので、荵についてゆくことにする。ああ、眠いなあ。


553:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:30:56 vw9xtDrN
東京千代田区・秋葉原。
昼まっから、人間がごった返し渦巻いている。
道には、アニメのコスプレやメイドの格好をした若い女性が歩いていたり
非日常的な空間が広がる、日本の中ではかなり特殊な地域である。

「ふっふー。場所柄、わたし達の格好はここでは浮く事ないんですよ。ほらっ!あそこにもネコミミ!」
「で、何かあるの?ここに」
「人に会うんです。さあ、お仕事ですよ!!」
前髪のピンを外す。前に垂らした、前髪のおかげで、ただでさえ幼いイメージがあるのにさらに幼く見える。

「お客さんです」
荵はいかにもアニメが好きそうな、とある大人しそうな男子高校生に手を振る。
「おひさー」
荵はそのお客さんの腕に子猫のように絡みつき、しっぽをくるくる回す。

「ねえ、ちゃんと考えた?」
「う、うん」
お客さんである少年は、気弱そうに答えた。
わたしは黙って付いてゆく。
「じゃあさ、約束した所に行こっかあ?わたし、楽しみだな」
荵は、左手で彼の乳首あたりをつんつんと突付き、
まるでその少年の恋人のように振舞う。わたしには、理解に苦しむ光景。


554:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:31:34 vw9xtDrN
今、ネットカフェのブースにわたし達はいる。仕切りがしてあるので、外からは完璧に見えない。
荵と少年が一室。そしてわたしが別の一室にそれぞれ入る。荵からの希望だ。
すると早速、薄い荵側のブースの壁から、二人が絡み合う音が聞こえてくる。
ちゅ、むにゅ…
「ほら…。ちゃんと舌を入れて…あん…」
「う、うん」
薄い壁にわたしのネコミミを当てながら、隣を察する。
この上ない、異常な事態とは分かっているんだが、わたしは黙って聞くだけだ。
下手に動くと、周りが騒ぎになる。

「憧れの、ネコミミ少女とえっちするのは気持ちいいでしょ…」
「…う、うん」
「ほら、わたしもこんなに濡れてるってばあ。ほーら、すりすりすりっ!」
断片的に、こんな言葉が聞こえてくる。荵もまるでオトナのような甘えた声を出してる。
「死んじゃったら、こんな事もう出来ないよね」
「はあ、ううん。イキそう…」
「ちゃんと、生きる?生きるね?」
「うん」
「あんっ!あんっ!…ふぁああ…いっぱい出ちゃったよお…。ちゅっ。
はあ。もう、アンタのったら、ねばねばしてるんだからあ。だめだよ、こんなに溜めちゃ」

わたしは、ぞっと背筋が凍りだした。
死神の条件。それは『処女である事』
『生』に関わることは、死神にとってタブーだ。
成人男子はザーメンを持っている為、死神になり得ない。尤も生殖能力のない老人は、例外だが。
女子でも処女を失う事は、『生』に関わる為に、死神の資格を失う。


555:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:32:17 vw9xtDrN
少年を先に返し、事を済ました荵がわたしのブースに入ってきた。
「ふう、案外ちょろいもんだね。あの子も」
荵は今までもたことのない笑顔で、わたしに近づく。
「ちょっと、荵。何考えてるの!?死神は処女じゃなきゃだめって知ってるでしょ!?」
「素股だよ。素股」
荵は白い内腿に未だベタ付くものを、手持ちのティッシュでしつこくふき取りながら言う。

「本当にやるわけないじゃん。そういう点はちゃんとわきまえてます。わたしは、ちゃんと処女ですからご安心を。
あの子は体験ナシだから、すっかりその気になってるんですよ。かわいいもんで、十三分で済んじゃいました。
ま、紫先輩はお子ちゃまだから、こんな現実は分からないと思いますけどね。ふっふー」
八重歯をにっとさせながら、上目使いでほくそえむ荵。

ほっとするやら、ヒヤヒヤさせられるやら、荵の発言がいちいちムカついてくる。
「こうやって、天上界に来るべきでない人間に自信を持たせて、地上界に思いとどまらせるんです。
これが出来る、出来ないでわたし達の能力の差が出ます」
得意気な荵。ニコニコと笑顔が向日葵のようだ。とても眩しく輝いている。
でもなんだか、わたしがバカにされているようなのだなあ。


556:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:33:06 vw9xtDrN
「あの子は、初めて会った時『オレは、死ぬ死ぬ』って言ってたんですよ。
でも、彼には生きていて欲しいんです。わかりますよね?この理屈。
そんでもって、わたしは彼にいきなりキスしたんですけど、アレが効いたのかな?」
右手を頬に当てて、にやけた顔を赤らめる荵の自慢話は続く。

「これで、あの子も二度と『死んでしまいたい』なんてバカなことを言わないでしょうね。
ああ、いい事をした。人助けは気持ちいいなあ。ふっふー」
「ねえ、本気でやってるの?ソレ」
なんとなく、荵のことが心配になったわたしは、老婆心ながら聞いてみる。

「そんなわけないじゃん。あんなのと」
キッと急に真面目な顔に戻り、ポケットからピンピンの五千円札を取り出しわたしに見せびらかす。
「きょうも、これで豪華なディナーだ。ふっふー」
まったく、荵のやんちゃ振りには、はらはらさせられる。
荵なんか、いつか痛い目に遭えばいい。その時は、大笑いしてやるから、よろしくねっ。


557:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:33:43 vw9xtDrN
わたしは、その日以来、秋葉原のネットカフェに入り浸ったている。
「神」の端くれなのにネット難民だなんて、この世の中とち狂ってる。
ネットのニュースを見ていると、まったく大勢の人たちが死んでゆくなあと思うと
わたし達の仲間がさぞかし働いてる事なんだろう。わたしって、なんて怠け者なんだろう。
ちぇっ。わたしは、競争社会の落ちこぼれかよ。

『先生!八の段を覚えました!』ってわたしが言っている間に、みんなはもう微分積分を解いてるような感じがする。
脳内で『せんぱーい。4×8を31って言ったんですって?』と、荵の人を小バカにした笑い声が聞こえてきた。
ちくょう。ムカつく世の中になったものだ。
それに、わたしとほぼ同い年の子達の死のニュースの多さったら。
わたしにとっては、ビジネスチャンスなのだろう。
でも、不思議と心が痛む。わたしはきっと未熟な神に違いない。
そうやって、自分で理解するしかない。ああ、マウスのホイールを回す人差し指がつりそうだ。

ずっと、ネットカフェに引きこもるわけにもいかないな。
定期報告もしないといけないし、第一仕事にならない。
とにかく、お腹がすいたわたしは、近所のコンビニでおにぎりを買い、
歩道の脇のベンチに座り、もくもく食べる。白米が薬くさい。
「チョット、写真トラセテクダサーイ」
観光客の外人が、デジカメでわたしを狙う。わたしのスイッチが入る。

「失せろ!!この、異人どもー!」
一瞬の怒りに負けて、食べかけのおにぎりを彼らに投げつけてしまった。あーあ、貴重なお昼ごはんが…。
「ちょっと、おはなし。いいですか…」
「うるさいよ!もう」
声を荒らげるわたし。声をかけてきたのは、意外にもわたしと似た格好のコスプレ少女だった。


558:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:34:26 vw9xtDrN
年のころは、わたしと同じくらい。
ミディアムロングの髪が黒々とし、手足は色白で。いかにも幸薄そうな顔つき。
瞳は黒目がちな、いかにも守ってあげたいような、そんな感じの少女。
彼女は、ネコミミのカチューシャを付け、しっぽのついた黒いワンピースを着ていた。
その少女は、とんでもない事を言い出す。
「もしかして、死神さん?」
わたしの心臓が止まりそうになった。
「否定しない所を見ると、そうですね」
否定しないから、肯定だ。という、米国式の考え方には引っかかるが、わたしは死神なのでしかたがない。
「そうだよ」
「死神さんなら、聞いてもらえますか?わたしの話…」

いちおう、彼女の話だけ聞いてみよう。くだらなかったらすぐに逃げ出す事に。
「わたし。死神に狙われてるんです。ホントです」
「えっ?ナニそれ」
「この間から、あなたと似た女の子につけまわされて『天上界に必要なのよ。あなたは』って言うんです」
結構リアルな話。『天上界』なんて言葉はそうそう出てこない。
「その子は、どんな子?」
「えっと、同じようにネコミミで…、後ろ髪が跳ねてて…」
もしかして、荵か?とにかく、わたしは彼女に興味を持った。

わたしを信用してもらえるように、自己紹介をする。
「…わたしは、死神の『紫』です。ムラサキって書いて『ゆかり』と読みます」
「じゃあ、わたしも。『宇摩ゆきの』っていいます。あっ、このコスプレは…」
アニメには疎いので、もういいと遮った。


559:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:34:59 vw9xtDrN
彼女が死神に初めて会ったというのは、一ケ月前くらいのこと。
放課後、今日のようなコスプレで秋葉原を歩いていたゆきの。
こうすれば、地味なわたしにでも声をかけてくれるから、少し楽しいらしい。
そして、死神に出合ったのは、夜中の秋葉原のカフェにてだという。
「ふっふー。座っていいかな?」
と、同じような耳をしている黒いセーラー服の子と相席になったのだ。
(こんな掛け声をするのは荵しかいない)
わたしは、直感する。ゆきのは、続ける。

「『きっと、この子もこういうのが好きなのかな』と思ったわたしは
『わたし『宇摩ゆきの』っていいます。あっ、このコスプレは…』って話しかけたんです。
わたしの中で、人生最大の挑戦だったかも。すっごく緊張しました」
流水の如く、アニメの話をすると、相手は興味を持ってニコニコと聞いていたという。
同性の友達が出来て、少し嬉しくなったゆきのは、お互いの事を話し
あっという間に意気投合していたという。
「で、友達が出来たって思ったわたしがバカだったんです」
ゆきのの顔が暗くなる。

こんな夜会が毎日のように続き、心を許してしまったゆきの。
ある晩の会話。ゆきのは、何気なく話を切り出す。
「わたしね、このまま生きててもいいのかなって思うの」
「ふーん、実はね。ゆきのっち、いい?わたし、死神なのね」
「うそばっかり」
「あなたの夢。叶えてあげようか?」
と、いきなり手を引っ張られ、路地裏に連れ込まれた。
持っていた杖をブンと振ると、冷たい剣に変わってゆきのに斬りかかろうとしたらしい。
「荵!」
もー。アイツったら…。
ゆきのは、必至に逃げ出しそれ以降、その店に近寄ってないとのこと。

もちろん、こんな悩み事は誰も取り合ってくれない。
ネットの書き込みで勧められて心療内科に行ってみたが
「緊張によるものでしょう。落ち着く事が大切です」と
血圧を下げる薬を処方してくれるだけ。彼女にとっては根本的に解決しなかった。
「引きこもってちゃだめだ。あの子と話し合わないと、と思って
ここまで出てこれたんですけど、あの日以降、あの子に出会わないんです」
ゆきのは頭を抱えて、髪をくしゃくしゃにした。泣いているようにも見える。
「夜が怖いんです。助けてください」
「大丈夫。わたしは死神だけど、力になれるかもしれない。ゆきのはいい子」
わたしは、ゆきのを誉める。


560:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:35:34 vw9xtDrN
とにかく今日は、ゆきのと一緒に過ごそう。
ゆきのは、いわゆる三多摩地区のあるアパートで、一人暮らしをしている高校生。
訳あって、実家にもう帰りたくないとの事。同世代なのにしっかりしているなあ、と感心する。
家賃も最低ランクのもので、共同のトイレ・キッチンがあるだけ。風呂はない。
歩くと、ギシギシと床が鳴る。そんな、アパートに女子高生が一人。
窓からは、夕日で紅くなった光が差し込んでいる。

「狭いですけど、どうぞ」
本当に狭い。4畳半の土塗りの壁に囲まれた部屋に一人暮らし。
家具があるので、余計狭く感じる。
棚には、アニメのDVDや古今東西の本・漫画がぎっしりと詰まり、インクの匂いが漂っている。
くんくんとインクの匂いを嗅ぐのは、わたしは大好き。
「すきなの?こういうの?」
「うん」
「いい趣味だと思うよ。あっ、この置き時計かわいい」
「ネットオークションで買ったんだけど、これいいでしょ」
ゆきのは、素直な子だ。私と違って。そんなゆきのをどんどん誉める。

でもあまりにも、彼女が真面目のまー子に見えてくるので、わたしの中で
少しからかいたくもなってくる。とにかく、純粋すぎるのだ。
「実はね…。わたしたち死神に頼みごとをするには、お金がかかるんだよ。
えっと、今回の場合は1000万ぐらいかな。ちゃんと用意できるの?こんな暮らしで」
わたしのメガネを人差し指でつんと持ち上げ、芝居を打った。
「…そうですか。やっぱり、人に頼ろうとしていたわたしがバカでした。ごめんなさい」
ゆきのが泣きそうになったので、慌ててウソだと謝る。
びっくりするぐらいの純粋な子。天上界も欲しがるわけだ。
(ゆきのを、絶対守ってあげる)
そう、わたしは誓う。夕焼けがいつの間にか、夜空に変わっていた。


561:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:36:03 vw9xtDrN
この晩はゆきのの家に泊まり、一緒に同じ布団に入る。こんな経験は初めてだ。
ゆきのと顔が近づく。彼女の息が暖かく、わたしの鼻をくすぐる。
わたしには、百合っ気はないんだが彼女の不思議な魅力に陥ってしまったのだろうか…。
「この耳って、本物ですか?」
わたしの耳を軽く抓るゆきの。
「本物だよ。息を吹きかけてみる?」
ゆきのは、俯いて赤くなった。

次の日、ゆきのは学校を休んだ。
どこにも出たくないとの事。わたしも付きっきりで付き合う。
次の日も、次の日も学校を休む。
なにもせずゲームしたり、マンガ読んだりと、だらだらした生活。
そして、たまーに、わたしはゆきのをからかう。
「明日使える雑学だよ。れんこんって、農家の人が一つ一つ穴を開けてるんだよ」
「へー。それって、何気にすごいね!!」
「ウソだってば!」
そんな会話ばっかりしている気がする。わたしは、死神である事をすっかり忘れてしまったかのように。

十日目の夜。布団の中で、突然ゆきのが話しかける。
「ねえ、紫さん」
「なにー?」
「わたし…しっぽが生えてきたみたい…」
「ウソ?」
「なんだか、腰の方が熱くって…」
ばっと布団を捲って、ゆきのを見るがしっぽなどない。
「ふふふ、紫さん。騙されましたね」
すっかり、ゆきのは悪い子になってしまった。わたしのせいだろうか。
そんな暮らしが二週間も続く。定期報告もすっかり忘れてしまった。


562:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:36:31 vw9xtDrN
いつものように、布団に入る春先の夜。何もないのが逆に不安に感じるのか、
ゆきのは、日に日にわたしにくっついてくるのだ。
(わたし、死神の癖に何してるんだろう)
ミシっと、部屋が鳴る音が聞こえた。

深夜1時過ぎ。突然、扉を叩く音が聞こえる。
わたしとゆきのは目を覚ます。
「アイツだ!アイツがやってきたよ!」
布団に隠れ、息を荒くしながら怯えるゆきのに目の前にしたわたし、悲しいくらい今、非力だ。
「大丈夫だってば…」
無言で、わたしはゆきのの背中をさすっていた。
「ちょっと待ってて」と、ゆきのに言い残し、玄関に向かいドアスコープを覗くと
わたしの不安が的中していた。荵だ。

「開けてくださーい」
能天気な荵の声が余計に不愉快だ。
「空けるもんか、バーカ。一生、男と寝て暮らしてろ」
まるで、小学生の喧嘩のようなボキャブラリーで荵を罵倒する。
わたしは、悪い先輩だ。後輩の面倒もろくに見ず、ダメ死神と後ろ指差されて
人間の味方をしようとしている卑怯者だ。
目の前の獲物をやすやす見逃し、飼い主に襲いかかろうとする猟犬のようだ。

「紫先輩でしょ?わたし、何でもわかるんだから。とにかく、外で話しましょう」
わたしは、頭が沸騰していたのだろうか。
荵に諭され、外に出ようとしてドアノブを回し、扉を開ける。
わたしが、荵と付きっ切りならゆきのは大丈夫だろう。
「すぐ、戻ってくるから。うん」
ゆきのに優しく話しかける。ゆきのは黙ってうなずく。
しかし、そんなわたしが甘かった。


563:名無しさん@ピンキー
08/03/26 22:36:59 vw9xtDrN
アパートの玄関先。深夜なので、全く人通りがない。
わたしは、ゆきののつっかけを履いている。ブーツを履いている暇などない。
夜の風は、わたしの足を容赦なく冷やす。
「お久しぶりですね。紫先輩」
「…」
「先輩もお元気そうで」

「ねー、紫先輩。お仕事はかどってる?」
ニコニコしながら、荵はわたしに聞いてくる。
「知らないよ。そんなこと」
「仕事を放っぽりだすなんて、先輩らしいですね」
カチンときそうになったが、いけない。荵の作戦かもしれない。

「とにかく、今は仕事をしたくないの」
「へへへ。とうとうニート死神の誕生ですね」
と、言い終わるか終わらない瞬間、荵はブンと持っている杖を振る。
そう、荵の杖は剣になる。不浄の血を瀉血するための剣。
月に照らされた、鋭い剣先をわたしの喉もとに突きつけ、アパートの壁に追い詰める荵。
荵の目は何時になく真剣で、この剣のように鋭く見えた。

いままでかいたことのないような汗が背中に噴出す。心臓の音が鼓膜にまで聞こえてきた。
「わたしが、先輩を殺してもいいんですよ。先輩も、もう死神として働かなくていいし、
天上界も不埒な死神を消したって喜ばれる。一挙両得だあ、ふっふー」
荵のバカ笑いが耳に突く。剣先はわたしのメガネに向けられ、レンズをツンツンと突付く。

怖い!怖いよ!
わたしは、ゆきのと同じ恐怖を感じているんだろうか。
死神に殺される!


564:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:37:35 vw9xtDrN
この剣で斬られても、痛くはないはずなんだけど、きっと血はたくさん出るんだろう。
わたしなんか、醜い死神だからだくだくと瀉血しないと、天上界に戻れないね。
半分以上の血が流れちゃうかも。あはは、ダメじゃん。
荵は優秀だから、きっと上手に斬ってくれるはずだ。
そもそも、天上界に受け入れてもらえるのかな。きっと「お前なんか、くるな」ってね。
ならば、地上界に戻って、ゆきのと一緒に暮らしたいな。
誰にも邪魔されずに、小さな部屋を二人で借りて、のんびりお茶でも飲みながら暮らしたいな。

と、思っている隙に荵が突然、アパートに駆け込んだ。
しまった。ゆきのが一人っきりだ。
「バカ!!」
急いで、荵の後を追うが、つっかけでは走れず転んでしまった。
走りたいのだが膝をすりむき、足をくじいて歩けない。悔しい、無念だ。
最後までゆきのに付き添えなくて。
「やめて!」
深夜ということ忘れて大声で叫ぶわたし。泣いてしまいそうだ。

しばらくすると、荵がアパートから戻ってきた。
「びっくりしたなあ。全然、血が出ないんだもん。あんないい子いないって」
荵は杖を片手にわたしに近づいてきた。もう片方の手には、わたしのブーツやら私物が。
「ねえ、紫先輩。契約を結んだ人間は、死神に24時間以内は近づいちゃダメなんだよねー。
『天上界ヨリ派遣サレタル者ノ法・第34条ノ2』これ、常識ですよね」
わたしと荵は、ゆきののアパートから遠ざかった。
「さ。先輩のおごりで吉牛に行きましょう。深夜の吉牛はすんごくおいしいんですよ」
足が痛い。嫌だけど、荵の肩を借りて漆黒の住宅街をゆっくり歩く。

もう、ゆきのと会うことが出来ないんだろうな、きっと。足の痛さと、悲しみで涙が出る。
『大丈夫』って言ったのに、大ウソツキだ。わたし。
天上界で良くしてもらう様に、わたしは祈る事しか出来ない。


565:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:38:22 vw9xtDrN
翌朝、足の痛みも和らいだわたしは、荵と別れ天上界に報告に行く。
全く報告していなかったので、アチラはお冠だろうな。
「アイツをクビにしてしまえ!」とか言ってるのかな。
おもしろい、クビに出来るものならやってくれ。そして、暴露本を書いてやる。
楽しい印税生活が待っているぞ。ざまあみろ。
しかし、いやだなあ。定期報告はいつも嫌だけど、今日は特に嫌だ。
公園の池にチョンと杖で突くと、不機嫌そうなお姉さんが現れた。

「亜細亜州日本国東京。0024番の紫です。定期報告をいたします」
「…心配しましたよ。全然連絡は来ないし、何かあったんですか?」
「いえ、別に…」
もう、会話をするのも面倒くさい。早く終わらせたい。いや、あの事を聞いておかないと。
「あの、ちょっと聞いていいですか?0068番の荵と契約した『宇摩ゆきの』についてなんですが」
「えっ?そんな契約の報告ありませんよ? しかも、人の契約についてなんて。
自分の契約はぜんっぜん伸びてないんですよ。しっかりしてください!」

そんなバカな。確か、昨夜は荵が、ゆきのと契約を交わしたはずだ。
「とにかく、あなたは報告義務を怠りましたねえ。大審院にバレたら一ヶ月の減俸ですよ」
お姉さんは、わたしを責める。責められて当然なんだが、そんな正論聞きたくない。
「ふぁーい。すいませーん」
やる気のない声で返事をしてしまった。

「まだまだ、あなたは伸びると思いますので活動を続けてください。でも、またこんな事起こさないでくださいね」
このクソババア。わたしが天上界に行ったら覚えてやがれ。


566:荵〈しのぶ〉
08/03/26 22:38:53 vw9xtDrN
秋葉原のカフェで荵と出会う。
「昨夜のゆきのの事なんだけど…」
「…そうね。紫先輩には、申し訳なかったね。でも…」
荵は、暗い顔でジュースを飲む。一方、わたしは、アイスティーをストローでぶくぶくぶくっと息を吹き込む。
「わたし、契約交わしてなかったんですよ」
わたしは、目を丸くしてストローで息を吹き込むのをやめた。
「だって『全然、血が出ない』って言ってたじゃない」
「そりゃ、契約してないから当たり前じゃないですか。斬れなかったもんっ。
ゆきのっちたら、昨夜に紫先輩と契約を交わしてしまったって言うんですよ。
それに、契約者に近づいちゃって、もうわたしゃダメダメだよ」

わたしは、一切ゆきのと、契約なんぞしていない。
きっと、ゆきのは荵にウソをついたんだろう。一緒にわたしと暮らしていたから
すっかり、わたしの様にひねてしまったゆきの。
あの時の荵は、自分で自分を傷つけたくなかったのだろうか。
わたしは陰ながら、ゆきのを誉める。

「荵、どうするの?これから」
「とにかく、わたしは三日間活動が出来ないんですっ!あーあ。男の子と遊びたいなあ」
荵は痛い目に遭い、かなりへこんでいる様子。荵の耳には、優秀な死神の証のピアスがなくなっていた。
わたしは、荵の事を大笑いしてやりたい気分だが、わたしも同じく痛い目に遭っているのだ。人のことが言えない。
「荵のバーカ、あとでご飯食べに行こっ。おごるからさ」
「まじっすかあ!?うわーい」
まるで幼稚園児のように喜ぶ荵。早くお互い認め合える仲間になりたい。
きっと、わたしも荵も孤独が怖いんだろう。

そして、後でゆきのの家に行ってみよう。


おしまい。


567:荵〈しのぶ〉~あとがき~
08/03/26 22:40:05 vw9xtDrN
前作のキャラにさらにあらたなキャラを加えてみたんですが
書いている自分でもキャラを掴むのが難しかったです。
>>547さんの言っていた「死神の精度」は>>547さんから教えていただくまで
実は、存じませんでした。それで、今週一気読みした所です。
ちなみに、前作は漫画「ブラック・ジャック」の一遍からヒントを得たものです。
そういえば「ドクター・キリコ」も死神っぽいなあ。

投下中に急に上げてしまってスイマセン。
以上で投下終了です。


568:名無しさん@ピンキー
08/03/28 11:41:40 bCegAFHi
すごいクオリティーGJ!!

569:名無しさん@ピンキー
08/03/29 13:57:54 f25alJhH
GJ!
ほす

570:名無しさん@ピンキー
08/04/01 21:10:18 snDPo9hD
死神さんて
①人を恐怖に陥れる悪役
②か弱い善人

どっちなんだろう。

571:名無しさん@ピンキー
08/04/02 01:14:58 1NeEiX6O
なんて愚問。それは当然


②ダトイイナ…

572:名無しさん@ピンキー
08/04/02 02:57:53 VFJ42UJn
何か色々割りきりまくった気だるげな勤め人。

573:名無しさん@ピンキー
08/04/02 03:07:40 Bh7L9ZOT
死を扱うが故に生者にとっての死の意味を理解できない人々

574:名無しさん@ピンキー
08/04/05 12:09:55 ZbNu+YUJ
ほしゅ

575:名無しさん@ピンキー
08/04/12 00:00:14 8rrLN8z8
死を司るが故に無い筈の自らの死に狂的な恐怖心を持つ人

576:名無しさん@ピンキー
08/04/12 16:15:25 1ZxoEjii
>恐怖心を持つ人
……人?

577:名無しさん@ピンキー
08/04/12 16:20:59 hPy/h74k
575の中の死神は職業って分類なんじゃね?

578:名無しさん@ピンキー
08/04/16 02:15:36 i4sEU+nk
物語中の人物みたいな意味じゃないか?

579:名無しさん@ピンキー
08/04/21 07:57:30 2/lCODEJ
死神さん、いらっしゃい

580:名無しさん@ピンキー
08/04/27 12:33:09 kGA/lE0w
続きに期待保守!

581:名無しさん@ピンキー
08/04/30 00:16:38 1lTTG70J
ほす

582:名無しさん@ピンキー
08/05/02 07:44:09 S6JxVW0f
ほしゅ

583:名無しさん@ピンキー
08/05/03 11:33:43 Kzu3yey1
age

584:名無しさん@ピンキー
08/05/05 13:02:12 /BolMvj9
保守

585:名無しさん@ピンキー
08/05/06 14:37:52 QYC0b1jO
あんたの魂いただくよ(棒

586:名無しさん@ピンキー
08/05/09 01:28:27 Q1a+k+WY
「脳天直撃死神チョップ」
「きゃん」

587:名無しさん@ピンキー
08/05/09 22:19:45 lskcjUEu
やる気なさすぎワロタ

588:名無しさん@ピンキー
08/05/09 22:35:34 wsP7kUDu
w

589:名無しさん@ピンキー
08/05/10 05:20:41 Oeg07Kq6
>>586
その死神には潔癖症の息子がいるんですね
分かります

590:名無しさん@ピンキー
08/05/17 00:09:39 gLhWs63W
hossyu

591:名無しさん@ピンキー
08/05/25 09:09:02 ovCaem5N
浮上

592:名無しさん@ピンキー
08/05/30 00:31:02 OXRyj2QN
沈下・・・

593:名無しさん@ピンキー
08/05/31 01:46:27 7CzOvfuW
豆知識

死神の手帳には標的の卒業文集が記載されている。

594:名無しさん@ピンキー
08/06/01 00:49:56 zMplupX8
厨房で携帯からの自分ですが、投下します。終

仕事の帰路、こつこつと靴を鳴らし歩いていると、路上に何か赤いものが在る事に気付いた。
暗いので良く視えはしないが赤いものがあると確信できる。 なんだろうか?
ここは田舎とも都会ともいえない所である。
ましてや、自分の住居は離れにある。
そのまま、赤いものが在る方に歩いて行く。
少しずつ近づいていく。
「えっ?」
近付いて行き、ハッキリと分かる位置になったと思ったら間抜けな声を上げてしまった。
その赤いものは人だった。
マントの様な物を羽織っているらしい。
街灯も無く、顔が良く視えな
い。
「……………」
考える。
「大丈夫ですか?」
取り合えず声をかけてみた。
すぅ、すぅ。
返事は寝息で返ってきた。
どうやら生きてはいるらしい。「貴方のお名前は?」
「……鈴原敏行」
何故か、動揺せずに名前を言えた。

「すずはらとしゆきさん。ですね?」
顔は良く見えないが口調からして女性だとようやく気付く。「はい、そうですけどあ─」
「貴方は誰ですか?とおっしゃろうとしたんですよね?」
「は、はい…」
「わたしは死神です」
自分は書物を読む方なので妖怪や神等が登場するものも読んだ事が有

595:名無しさん@ピンキー
08/06/01 00:57:47 zMplupX8
途中で切れてました。
済みません。以下続きです。

しかし、実際には、いないも
の。存在し得ないものだと割り切って読んでいた。
その、割り切っている筈の、空想である筈の死神は言った。「残念ながら、貴方の余命は明日だそうです」
「それは、残念です」
自分はさも当たり前かの様に返した。
「驚かないんですか?」
明日死ぬというのに他人事のように言う自分に、奇異の視線を向け死神は言った。
「ほんと、なんででしょうね」 すると、死神は。
「早くて助かります。では早速………」
死神は何処から出てきたのか大きな鎌を出し、大鎌を横に振った。
「えいっ」
斬られる痛みこそ無いが体からごっそり力が取られるような感覚の後。
その感覚もやがて消え掛ける。
消え逝く意識の中に頭に残るのは。
あぁ、物語通り神々は適当なんだな………。と。

以上です。
続きは考えていますがまだ途中です。失礼しました。終

596:名無しさん@ピンキー
08/06/01 02:18:49 i7jolVBn
やったー!約3ヶ月ぶりの投下かな。
死神に出会ってもあっさりしている鈴原氏が今度どうなるか
天界から見守りましょう。
わしもなにかここで書いてみるかな。

597:名無しさん@ピンキー
08/06/01 11:20:38 gd0n70Bh
イイヨイイヨー

598:名無しさん@ピンキー
08/06/05 00:09:51 Lc9wtzh4
浮上

599:名無しさん@ピンキー
08/06/08 06:58:05 e4WM9aPR
保守

600:名無しさん@ピンキー
08/06/08 19:16:58 7DGtfrl+
600

601:名無しさん@ピンキー
08/06/09 19:47:41 PZ4dp8qk
ほしゅ

602:名無しさん@ピンキー
08/06/14 14:10:24 q16/o2Pv
保守してもいいですか><

603:名無しさん@ピンキー
08/06/19 12:11:03 sK4t5vFJ
生きていてもいいですか

604:名無しさん@ピンキー
08/06/19 21:03:16 UmkiHT8p
>>604
生㌔

って今日家の近くにある商店街の交差点で見かけた
黒装束着けたいい年の女の子がつぶやいていた

605:名無しさん@ピンキー
08/06/19 21:03:58 UmkiHT8p
自分に生きろといって俺はどうするんだ\(^o^)/
とりあえず>>603生きろ

606:名無しさん@ピンキー
08/06/20 01:02:35 YixRHvzM
誰もが答えを知っているから、誰も答えない。

607:名無しさん@ピンキー
08/06/22 08:13:20 JriVfT1I
知っている筈が、皆違う答えを浮かべる喜劇

608:名無しさん@ピンキー
08/06/22 11:37:21 OGp3Om7R
zakzakCMのウザさに勝るCMなんてあるの?

609:名無しさん@ピンキー
08/06/22 12:30:12 LOmwTy87
>>605
どうもこうもありません。
二倍速で激しく生きなさい。

そうすることであなたの死は、
より一層芳醇なものとなるのですから。

610:名無しさん@ピンキー
08/06/28 00:58:01 mhJqz6gL
保守

611:名無しさん@ピンキー
08/07/01 00:26:25 u2TTiBnv
ほしゅ

612:あれ…?エロ無くてもいいんだよね?
08/07/03 15:46:42 hRpaBJAo
「……はい、終了です。回収して下さいー」



……あー…やっとテスト終わったー……

中間は結構良かったのに、期末になるとやる気の無さが浮き彫りになってくるよねー。

「……なーなー、梨亜はどうだった?結構埋まったか?」
「………あつっくるしいからくんな」「酷っ!!」……ったく…

私の名前は『芹沢 梨亜<セリザワ・リア>』。
単なる高校に通ってる一部を除いて普通の高校生。
…見ての通り、数学嫌いだ。誰かアレの楽しさを教えてくれ。

「……おつー」「…むり、せんかを止めて……」「……あたしにゃむりだわ」

……このひとまわりちっけぇのは、『虚 夢李<ウツロ・ムリ>』。
普段はかなりはっちゃけてる奴だが、流石にこの暑さの下では名前通りになるらしい。
…んで、あのうざいのが『宵町 茜花<ヨイマチ・センカ>』。説明は省く。

「梨亜はさ、この後なんかあるわけ?なかったら一緒に飲もうぜ」「……わーい、残念ながら用事はあるけどサボるー、行くー」
「だーめ。ちゃんと用事は済ましてから来なさい。…つーか茜花、飲むのはジュースよね…?」


「……リアよ、何故悲しい。……それはね、……」『何独り言呟いてんの~』
……何が悲しいって、そりゃさ。

 テスト明けに死神やってりゃ疲れるっての。

『りあ~、時間~。体よこせっ!』「あまり無理しないで欲しいのだが」

死神とは何か。死神とは、死神である(言い訳的な意味で)。
漫画やアニメでは、バケモノだったり戦士だったりノートくれたりと、色々あるでしょ?
こいつは、精霊、とでも言うのか。幽霊みたいにとり憑いたりするけど。そういう種族なのだ。

「っと、チェンジ完了……りあはかなり疲れてるのな。身体が軋むぞ」『分かったら遊ばせろ。早く終わせ』「ん」

地上の死神の仕事は。
・浮遊霊を導く
・悪霊をかっさばく
・自殺を止める
……これが大体かな。今自殺とか多いからね。
悪霊なんて。いてもたいしたことないやつらばかり。かっさばいてもストレス解消にもなりゃしない。

そんなわけで、浮遊霊に死を自覚させに今日も仕事だ。あーめんどい。

613:名無しさん@ピンキー
08/07/03 18:20:45 LgLS6g6G
新作キテタ!イイヨイイヨー
続きをヨロシク。

614:なんだエロ無しでおけーか。よかった。
08/07/03 21:30:13 hRpaBJAo
「……あ、あなた死神ですか?」「ですね」「あー…やっぱり死にましたか。それで、何すればいいんですかね?」

「……ハイハイこちら死神名[Lia=Recall]、あん?りあは今借りてるから無理!仕事中だってんの!」
『……リア、今の』「りあのクラスメートだよ。仕事終わせってよ」『携帯ならまだしも死神通信機にハッキングしたなあいつら…』

「……嫌だ!死にたくない!生き返らせてくれ!!」「…上に内緒でたまに生き返らせたりしてるんだが、あんたのは手遅れだなー…内臓破裂、複雑骨折。」
『ついでに脳挫傷もね。』「うわぁぁぁあん!!」

……一段落ついて。

「……なー、りあ」『なんだいりこーるさん』「最近『死』に無関心なのが増えたな」『……かもね』

…最近は、自分が死んだ事を聞き、落胆する人間が少なくなってきた。
―『……別に死んでもいいや。』…こういう奴らが増えてるのだ。

「…あーでも練炭とかは正直勘弁だよな。硫化水素とか。」『あれは自殺じゃなくて『集団友人殺害事件』でいいよもう』

……さて、死神化を解除して、後は夢李たちと夜のお茶しに―、


「……アイツなんだ?」…リアが指差す。
 その先には、ビルの屋上。
『……ッ!!!![RIZE UP]!!』「了解ッ!!」
精神力を高め、霊力を解放し、瞬間移動。

「……ちょっと!アンタは何やってんの!!」……ビルから墜ちる予定だった少年は、いきなり現れた私に気付いたようだった。
「……ダレ?天使?悪魔?」「死神!!むしろ人間!!」「……人間?」
……死神化は解除したから、今の私は単なる人間だ。多少霊術は使えるが。
「……人間が死神になって、平気なの?」「毎晩仕事で寝不足よ、自殺志願者止めたりしてるから!!」
……睨む。流された。

「…とりあえず、私が死神仕事辞めない限りは自殺すんじゃねぇ。これ以上仕事増えんのは迷惑だ」「……ならさ、

 俺も死神にしてくれよ。

 ……駄目?手伝うぜ?」

………なんだよこの唐突な奴は。そんなに生きたくないか。

「…了承貰うまで待つからな」「『………』」

……最近はこういうのも増えてきてる。

615:名無しさん@ピンキー
08/07/04 00:47:01 YGnApktt
神降臨にwktkしてます!
わくわく

616:んじゃ。ほれ
08/07/04 14:34:30 KX5GQLDM
……言い忘れた設定。

まず、私達の学校には、一部変なのがいる。
その内の一人は私だが、友人達も負けてはいない。

宵町茜花。彼女は超能力者だ。
透視から念動までなんでもだ。故に、多少の寝坊では遅刻しない。テレポートできるから。
…ちなみに、死神の情報網にハッキングしたのはコイツの仕業。

さて、虚夢李。彼女は魔法使いだそうだ。
……なんでも最強の魔法使いにスカウトされたとか。なんだそりゃ。
魔法については、ゲームなんかと同じく『属性』が絡むという。楽しそうだ。


………で、さっき屋上に行ったら。

「…よっ」「…………」

「アンタ、ここの生徒だったんだな」「おい自殺志願者。
 なんでこの学校にいる?
どこぞのギャルゲか?ネオロマンスか?B級エロゲなのか?
てゆーか死にてぇなら虐められろ。引き込もれ。イジメ理由に自殺しろ。」
「……いきなりだな」「むしろ死ぬな。仕事が増える。死にたきゃ引っ越してから氏ね」「……」



……溜め息ばかりの毎日は始まったばかりだ。
打ち切りエンd「うぉーい、何終わしてんだ」

……ちっ。

617:名無しさん@ピンキー
08/07/04 22:44:55 yTIoDXMx
保守

618:名無しさん@ピンキー
08/07/05 11:22:09 a/BMEKF5
いい感じですね

619:名無しさん@ピンキー
08/07/06 00:38:44 HFqDOY7n
( ^ω^)

620:名無しさん@ピンキー
08/07/13 13:06:32 ol5gmbGH
(・ω・)

621:名無しさん@ピンキー
08/07/15 21:36:08 2Hrhqdd+
('A`)

622:名無しさん@ピンキー
08/07/20 20:05:30 W7UCORsV


623:名無しさん@ピンキー
08/07/21 21:12:06 u1jEmt4W


624:名無しさん@ピンキー
08/07/21 21:59:51 Dpy+oBGs
「ゆっくり死んでいきな・・・」
黒いローブを着た女性が、部屋の窓枠に腰掛け、ベッドの上にいる俺を見ている。
俺は、やがて息を引き取るだろう。それも、こいつがいるせいで。
「いいじゃないか、こんな美しい女性に看取られるんだぜ?
 一人孤独に死ぬよかマシだろう。」
……ああ、なんだか頭にノイズが走る。
「さて、ここで一つ選択させてやろう。
 A.病で死ぬ。
 B.鎌で首を刈り取られて死ぬ。
 C.近くの川か海に落とした後、溺死して死ぬ。
 D. ……ええと、思いつかないな。

 さ、どれがいい?」
彼女は、俺に向かって残酷な形相で微笑む。

俺は、思った。
――ああ、やっぱこいつ、死神だな、と。




625:名無しさん@ピンキー
08/07/23 13:21:42 X+TTfmE9


626:名無しさん@ピンキー
08/07/23 23:05:22 pN12UWko
ゅw

627:名無しさん@ピンキー
08/07/24 03:20:42 z/KvKiGZ
>>626
最初の文字もこっそり ゆ だったりする

あまりに過疎ってるのでちょっと明日にでもなんか書くかも 忘れるかも

628:名無しさん@ピンキー
08/07/25 17:13:53 t6EXTueP
期待

629:名無しさん@ピンキー
08/07/30 12:31:10 50t9MUcK
>>627
長編書いてて時間が掛かってるんですねわかります

630:名無しさん@ピンキー
08/07/30 14:59:53 OM2Vw1zK
「――死なせてよ。」
とある廃ビルの屋上。そこに立つは、死を欲求する髪を茶色に染めた青春真盛りのお年頃の少女。
対するは、黒、いや漆黒と言うのが正しいだろう黒よりも黒い髪を持つ二十歳位の女性。
「あなたのような子が人生を捨てるだなんて、勿体無い。
 まだまだ私みたいなおばさんより、はるかに道は残されてるでしょ?」
本来驚くべきことは少女が屋上のヘリ――一歩踏み違えると落ちてしまう位置にいることだが、
この場合、むしろ……女性が宙に透明の椅子があるかのように座っていることに驚くだろう。

「……誰も私を気にせず、誰も私を愛しない。そんな私が生きてても、ただ苦痛を感じるだけなの。」
(誰も私に関わろうとしない。ただ、私のことを遠くで見守るだけ。)
「でも、今私があなたを相手にしているじゃない。」
「どうせあなたには私の気持ちは分かっていない。今更私のことを相手にしないで。」
(どうせあなたは、私が死ぬのを止めたいだけでしょう。)
「知ってる?寿命を残して死ぬと、その残った分に応じて、"罪"と"罰"を背負うのよ。」
「……そんな迷信がどうかしたの?」
(……脅してるのかしら。)
「ただの警告。あなたが死んだ場合、あなたはその"罪"で嘆くことになる。」
「どいて。脅しのつもり?私はもう死を恐れてなんかいない。」
(そう、私はもう死ぬんだ。これ以上生きていける自信が無い。)
「足が震えているわよ?」
「……うるさい。」
(うるさい。どけ。)

私は目の前に立つ女性を押しのけ、廃ビルから飛び降りる。
私は頭から落ちていく。廃ビルの5F、4Fが経過して、3Fが過ぎ、2Fが去って、1F――

私は、死んだ。

そして、私は、生きていた。
なんで?私、死んだはずでしょ?



631:名無しさん@ピンキー
08/07/30 15:00:28 OM2Vw1zK
『それがあなたの罪と罰。あなたは、"死なない"。
 よかったじゃない。みんなの憧れる不老不死を手に入れたのよ?』
病院の質素な天井をぼんやりと見ている私に、どこかからあの女性の声が聞こえてくる。
『あなたは、死なない。でも、あなたは魂を持っていない。魂を持っていないから、
 あなたは生き続ける為に、魂を消耗する代わり、エネルギーをひたすら消耗し続ける。』
『例えエネルギーがなくなっても、死ねるわけじゃない。 ただ、苦痛を味わい続けることになる。』
『そう、これがあなたの忠告されて自殺した"罪"への、苦しみ続けなければならないという"罰"。
 あなたは、苦しみながら生き続けなければならない。』
『ああ、心配しなくてもいいわ。おそらく、10000年くらい経てば、
 あの世から文字通り"お迎え"が来てくれるはずだから。』
『それまで、あなたは苦痛を味わい続けることになる。』

私は、両親に迎えられ、無事?に病院を退院した。
『消耗するエネルギーだけど、実際エネルギーなら何でもいいのよ。
 例えば、食べ物から手に入るタンパク質とかアミノ酸、ブドウ糖でも構わない。
 でも、その程度じゃ足りないの。すぐ消耗しきってしまう。』
『なら、消耗し続けるだけで、そのうち苦痛を軽減なんてできなくなる、
 そう思ってるでしょ?……もちろん、その通り。』
私は、親の運転する車の中で、その声を聞く。
『だけど、そんなあなたにうれしい情報。わたしは、あなたに一つの鎌をあげる。』
私の指には、一つの指輪が。
『それはあなたの想像に応じて、刃を創造する。……なんてね。』
『その刃で人を貫け。そしたら、あなたはその人のエネルギーを奪って生きられる。
 あなたが憎む人を貫き、殺しなさい。あなたの復讐もかねて。』

彼女は、私の身の上を知っているかのように話す。
ならば、私は答えよう。私は、憎きあいつらを殺す。
私は、魂を刈り取る死神と化そう。



632:名無しさん@ピンキー
08/07/30 15:01:24 OM2Vw1zK
>>629
ごめん、忘れてたんだ。
今さっき巡回したら思い出したから簡単に最初だけ書いた
続きは書く かも

633:名無しさん@ピンキー
08/07/30 16:00:21 50t9MUcK
>>632
GJ、続きを期待してるから忘れないでください(´・ω・`)

634:名無しさん@ピンキー
08/07/30 23:46:18 HWKBta1K
ほしゅ

635:名無しさん@ピンキー
08/07/31 03:51:12 +pmx5LXa
素晴らしい展開!続きもヨロシク。

636:名無しさん@ピンキー
08/08/01 22:50:11 aPKVrGvf
続き待ちの場に、短篇でもいかがでしょうか。
随分前に投下させていただいた>>531>>551の続篇とか書いてみました。
では。

637:紫、ふたたび
08/08/01 22:50:40 aPKVrGvf
一人で夜の街を歩いているとき、わたしが死神でよかったなと思う。
このくたびれた若者も、あの後先見ないスイーツ女もみんな死んでいくんだと思うと
死神としてわたしはどうしても笑ってしまう。
人間なんて、死んでなんぼ。死んだときにどのくらいの人が泣いてくれたか
死んだ後にいつまで覚えてくれているかで、人間の価値が決まるのだ。
そんなわたしは人間の価値は決められないけど、死に時くらいは提供してあげられるからね。
心も何もかもがひんまがったヤツなんだ、わたし『紫(ゆかり)』は。

死神の仕事は天上界に地上界の人間を送ってやる事。
ただ、天上界が求める人間は真っ直ぐで優秀なヤツ。すなわち地上界で言う『エリート』、
真っ当に、清く正しく生きてきた人間を汚れなき天上界に誘う。
彼らが住むには、地上界は薄汚れすぎている。
天上界には、誠実で素直な人間が求められているのだが、人間は環境の生き物。天上界で豹変する奴も少なからず存在する。
そんなヤツらを上のものが放っておくハズがなく、天上界にそぐわないヤツだと判断されれば、そいつは地獄にまっさかさま。若しくは地上界に舞い戻り。
そして、そんなヤツを連れてきた死神は『死神として役立たず』の烙印を押されてしまう。
で、わたしはてんでからっきしな『ダメダメ死神』だと天上界では少しは名が通っているのだね。ちぇっ。

風は心地よく小鳥が楽しくさえずっているのに、今日はやる気が全く出ない。
天上界でバリバリ働く同期の死神から、少し悪い噂を聞かされて気分が悪いからだ。
「紫が連れてきた子のことなんだけど…」と。
わたしをバカにしているのか?それとも、同期のよしみで心配してくれているのか?
どっちに取るかは、わたしの気分次第。今なら確実に前者の方だ。


638:紫、ふたたび
08/08/01 22:51:05 aPKVrGvf
そんな時は、地上界の唯一の友人、宇摩ゆきのの家にでも立寄ってみよう。
彼女とは少し前に知り合った、いまどき珍しい孤独を愛する女子高生。
宇摩ゆきのは、都心から離れた小さなアパートに一人で住んでいるのだが、
花も恥らう女子高生が好んで住むようなものにはほど遠く、
むしろ生きることにくたびれた、名もなき世捨て人の為の様な木造の建物であった。
そんな古い建物の薄い扉をノックすると、色白の少女が中から出てくる。
「いらっしゃい」
「元気?」
「うん」
黒く長い髪を揺らし白い歯を見せ、暖かくわたしを迎える少女が宇摩ゆきの。
わたしはネコミミで尻尾の生えたという、どう見ても近寄りがたい格好なのに
そして、荒んでひねくれたわたしなのに、昔からの友達のように優しくしてくれるゆきの。
小さいながらこざっぱりしていて、部屋いっぱいの本やアニメのDVDもわたしの趣味にぴったり。
わたしはぎしぎしと鳴く畳を踏んで小さな部屋にお邪魔すると、ゆきのは冷たい麦茶をわたしにすすめてきた。


639:紫、ふたたび
08/08/01 22:51:26 aPKVrGvf
「紫さんが来てくれて、うれしいね」
コトンとグラスを置くと、にっこりと笑いこんなわたしでもおもてなししてくれる。
わたしの事情を根掘り葉掘り聞こうとしないので、自然とわたしも笑みがこぼれる。
「ゆっくりする?」
「うん」
ゆきのの家では本当にどうでもいいことばかりしているな。
わたしが死神である事を忘れさせてくれる、唯一の場所でもあり、唯一の人がゆきのである。
ぐだぐだと寝転びながら、取り留めのない会話をする。空は青く、雲も白い。
そんな会話に嫉妬したのか、風鈴が静かにチリンと。

「ねえ…知ってる?この都市伝説…」
「ふーん、なに?」
相変わらず、ゆきのはこの手の話題が好きなようで。
まあ、根がおたくだから当然かも。何しろ初めて会ったときゆきのは、
ネコミミのコスプレをしていたしね。そして、第一印象は純な子だった…はず。

「ある犯罪者に関する都市伝説なんだけど…興味ある?」
「なになに?教えて!」
「えっとねえ…ちょっと有名な話なんだけど」
「だけど!」
「こっからは100円ちょうだい!」
「けち!」
わたしとゆきのは笑っている。あははと笑う。
こんな時は、死神のわたしだって思いっきり笑うのだ。あはは。
わたしのせいで少しおかしな子になってしまったのは申し訳ない。


640:名無しさん@ピンキー
08/08/01 22:51:48 aPKVrGvf
ある日のこと。
わたしは故あって天上界に出かける。何ヶ月ぶりだろうか。ネコミミの後ろが熱い。
しかし、けっして喜んで向かっているわけではない。呼ばれたから仕方がない。
どうせお説教が待っているんだろうな、死神として芳しくない成績を叩き上げるわたしは
天上界のお荷物ですからね。ふん、誰にも媚びない黒猫のわたし。
ピンピンはねる尻尾も今日は絶好調なのであった。ふう、どうして上司って存在するのだろうか。

人目の付かない公園の片隅。誰も見られてないのを確認すると
わたしがいつも持っている死神の剣をぶんと振る。すると、切り裂かれた空気の隙間から真っ白な階段が現れる。
天上界へ行くには、人間どもには見えない階段を登ってゆくのだ。この階段がわたしには13階段に見える。
白く輝く天へと続く階段をのこのこと歩き始めるわたし。真っ黒のワンピースがくっきり浮かび上がる。
やがて階段は雲に包まれ、天上界と地上界の境目か、周りは混沌としている景色は久しぶりだな。
雲の中を歩いていると、見覚えのある少年が一人やって来た。確かこの子は、あの時の…。
「覚えてますか!」
「………」
「やだなあ、紫さん。ぼくですよ、悠太ですよ」
そうだ、由良川悠太だ。コイツは。


641:紫、ふたたび
08/08/01 22:52:08 aPKVrGvf
――3ヶ月前。
由良川悠太との出会いは空が茜色に染まる頃、とある駅のホームの上だった。
家路に向かう人間を腹いっぱい詰め込んだ電車が滑り込む中、彼はフラフラと果敢にもその電車に向かって飛び込もうとし、
あろう事にも死神であるわたしが助けてしまったのだ。ほっておいてもよかったけど、
まあ、わたしの得点稼ぎに協力してもらおうか、とその時のわたしは思っていたのだろう。
ぎゅっと羽交い絞めをすると、仄かに生きている証の暖かさが少年から伝わってくる。
生きてる。少年は生きてる。
「どうせさ、死ぬんだったら、わたしと話をしようよ!」
「……うん」
少年をわたしの奢りで喫茶店に連れ出し、この子を落ち着かせる。

静かに時間だけが進むこの空間、どうしてくれる。
いつまでも俯いたままの少年の相手をしなければならないのかと思うと、わたしは少し後悔をする。
しかし、誘ったのはわたし。わたしのバカ、わたしのバカ。
何もする当ても無いので、わたしは自分のメガネでも拭きますか。
すこしぼやけて見える無口の少年は、きっと周りからもこのように見られているのだろうと思うと、
少し他人には見えなくなってしまった。沈黙をわたしが破ってみせる。

「ね、お姉さんになんでも言ってごらん。わたしとあんたは無関係なんだから、得も損もないでしょ?」
「………」
「あーあ。このジュース、タダじゃないんだよね」
「だって、みんなぼくのことを『死ねばいいのに』って言うんだ」
「それであの騒ぎを起こしたの?」
「…みんなが言うから」

話を聞いてみると、びっくりするくらいの素直な子。この純粋さは地上界では仇となる。
わたしが地上界の人間だったら間違いなく「死ねばいいのに」って言って、いじめていたであろう。
そんなことはさておき、彼にわたしが死神である事を伝えると、すんなりと受け入れてくれた。
もう、藁にもすがりたい気持ちなのか。だから、ヘンな宗教とか、スピリチュアとかが流行るのかね。
言っておくけど、わたしはそんな詐欺まがいな事をしているのではないぞ。念のため。


642:紫、ふたたび
08/08/01 22:52:34 aPKVrGvf
「ぼくは、生きていても…いいのかな。紫さん」
「困ったときって、選択肢があると気持ちが楽になるのよね」
「じゃあ…どうするの?」
「わたしと契約を結んで、天上界に行く。即ち、死んでしまうって事。
もう一つは…このまま生き続けること。さあ、どうする?」
「楽になる方がいい。紫さん、助けて」
やけになっていた悠太の気持ちを察し、その純真さと意気込みを気に入ったわたしは
彼と契約を結んで無事に天上界に送ってやった。前向きな悠太の笑顔が眩しい。
―――そして、地上界をおさらばして天上界でのんびりとしている…はずなのに。
しかし、何でこんな所にいる?

「紫さんは、天上界に帰ってくるんですか?」
「い、いや…。まだなの」
「そっかあ」
にやりと笑う悠太の気持ちはこの時は分からなかった。
あいさつもそこそこに、悠太は口笛を吹きながらどこかへ行く。

さて、わたしは今からお説教を食らいに行くか。
きっと天上界のババアからたんまりと嫌味を言われるんだろう、分かってるんだから。
でも、ただお説教をされるわけじゃないぞ。ケンカをしに行ってやるからな。覚えていろよ。


643:紫、ふたたび
08/08/01 22:52:55 aPKVrGvf
夕方近い路地裏、ここは地上界。
昨日は昨日のことですっかり忘れる事にしたい。あんなにボロッカスに言われるとは
露も思っていなかったから、いまでもモヤモヤする。
天上界の上層部、ヤツらの文句は『このままだと、あなたはクビですよ』的な警告。
「あなたはあまりにも、のほほんとしすぎてませんか?」
(そのくらい、分かってます)
「後輩たちもぐんぐん育っているんですよ…」
(知るかよ)
一言も言い返せなかったわたしはヘタレだ。思いっきり目の前の空き缶を蹴飛ばす。
そんな時は、昨日は昨日でとっとと忘れて笑ってくらそう。
死神だって笑顔でいたい時もある。笑いは偉大だ。

「紫せんぱーい。お久しぶりっす」
後輩の『荵(しのぶ)』が尻尾を振ってやってきた。
わたしの後輩のくせに死神としての成績もよく、明るい人気者タイプの子。
ことあるごとにわたしをバカにするのだから、あんまり好きじゃない。この子は。

「わたしですねえ。ひっさびさに天上界に行ってきたんですよ」
「ふーん。それで」
「で、ヘンなヤツ見つけちゃったんすよっ。ヘンなヤツ!」
わたしと同じようにネコミミをピンピンさせて楽しげな荵。
まあ、優秀なヤツだから天上界でも可愛がられているんだろう。
「ソイツはね、天上界でもちょっとした大バカヤロウでしてね。
人の悪口ばっかり言ってまわるわ、仕事はしないわ…。困ったもんですねえ」


644:紫、ふたたび
08/08/01 22:53:13 aPKVrGvf
そういうヤツは天上界にも、一人は二人いるのだ。で、目に余る場合は
エリート社会で塗り固めるのがよしとする天上界の恥さらし者とされて、もう一度地上界に送り戻されるのである。
もう一度、地上界でやり直せと。人間になるか、フナになるか、それとも…それは天上界のヤツにしか分かりえない。
「で、どこがヘンなの?」
「ソイツ…紫先輩の事が好きなんだって!ふっふー」
「殺すよ」

もっとも、死神には色恋沙汰はもってのほか。わたしたちに『人を好きになる』と言う感情が
強くなればなるほど、死神の力は薄まってゆく。
なぜなら、『好きになる』と言うことは、『地上界で生きる喜び』、即ち『生きる』ことは死神の力に相反するからだ。
そして、キス…セックスまで及ぶと、無論…。死神ではありえなくなる。
それは恐ろしい事。

なのに、荵はケラケラと笑いながら、わたしの顔を下から覗き込む。
わたしは荵の足をぎゅうっと踏みつけてやった。ざまあみろ。荵の泣き顔はいつ見ても面白い。
それでもめげないのが、荵の良い所であり悪い所でもある。
「こんな先輩、大好きっす」
「ホント、殺すよ」


645:紫、ふたたび
08/08/01 22:53:33 aPKVrGvf
泊まるあてのないわたしは、宇摩ゆきのの家へ。何となく今日あった事、荵の事、色々と話す。
ゆきのの話は嫌な事を忘れさせてくれる。
「ねえ。この間の話の続き…聞きたい?」
「えっとお、何だっけ」
「ほら、犯罪者の都市伝説」
そういえば、そんな話もしてたっけ。ゆきのはニヤニヤと笑っている。
「聞かせてくれる?ソレ」
ゆきのはお茶をごくりと飲んで話し始める。わたしは黙って聞き入る。

「いまさら話すのも恥ずかしいほど有名な話なんだけどね…。
ある凶悪な殺人犯に行った心理テストでね、いい?よく聞いてて。
『父、母、息子の一家の話。事故で父が亡くなり、葬儀が行われました。
その葬儀に来た、とある若い青年。その青年は父の同僚です。しかし、母は
その青年に一目ぼれ。暫くして母は子供を殺してしまいます…』どうしてでしょうか…というお話」
ゾッとする話だ。この話の内容でではない。由良川悠太のことでなのだ。
もしかして、いや…確実に由良川悠太にこの質問をすれば、こう答えるのだろう。
「紫さん。答えはね…『また、青年に会えるかもしれないから』」


646:紫、ふたたび
08/08/01 22:53:54 aPKVrGvf
「お久しぶりですね、紫さん」
雑踏の中、いきなりわたしに話しかけられたその声は紛れもなく由良川悠太のものだった。なぜ地上界に?あんたはとっくに斃れていたはずなんだぞ。
この世とはおさらばして、天上界で下界のヤツラを笑っているはずなのだぞ。
「会いたかったんですよ…ぼく」
「…はあ」
「ホントのこと言っていいですか?」
勝手にしろ。
「ぼく、紫さんのことが…好きです」
「………」
「だって、あんなにぼくの話を聞いてくれたのは、紫さんが初めてだったから」
「……わたしは…嫌いだな。アンタの事」
「紫さんはウソが下手糞だ」
わたしは由良川悠太が怖くなってきた。何か見透かされているんじゃないかと。

「でも、こうやって会えることって…ぼくが『死んでしまいたい』って思わなきゃ
紫さんに会えないんですよねえ。つまり…」
「ホントに死にたいの?」
「はい!」
「ウソ」
人間は臆面もなくウソを付く、人間の素直さは時として、残忍な凶器になることはよく知っている。
由良川悠太は青白く光る見えないナイフをちらつかせる。
「わたしは分かってるよ、アンタの腹の内。悠太さ、バカでしょ?」
「やだなあ、紫さん。折角こうして話が出来るのに…」
「うるさい!アレでしょ?こうすりゃ、いつまでもわたしと会えるから天上界と地上界を
行ったり来たりしようって事でしょ?あんた、何考えてるのよ!」
「紫さんと…」
わたしは思いっきりヤツの頬を引っ叩く。手が痛い。


647:紫、ふたたび
08/08/01 22:54:14 aPKVrGvf
由良川悠太はそれでもにやりと笑いながら、わたしに向かって恐ろしい事を話し出す。
「…そりゃないよ。折角、紫さんに会いに来たのに。
ぼくは紫さんに会うためにどんなに頑張った事か。紫さんはわかんないの?」
「だって、あんたが死んでしまいたいって言ったから、わたしが天上界に送ってあげたのに」
「ぼくは初めて人を好きになったのは、紫さんです!だから!!」
「死神は人を好きになっちゃいけないの!!バカ」
思ったままの感情を由良川悠太にぶつける。そして、
「お願い!もう一度…死んでくれない?!」
「何度でも紫さんに会えるのなら…何度でも死にますよ。そして何度でも…」
「それはダメ!!」
夢中で腰の剣をパッと抜き取り、由良川悠太の首に突きつける。
天上界へと送る為の剣。この剣でアイツを斬れば、大人しく天上界に逝ってくれるはずなのに。
あくまでもこれは儀式。体の中の不浄なものを抜き取り、清らかな天上界に持ち込ませないためだ。
剣先が小刻みに震える。由良川悠太よ、怖くないのか。わたしはあんたを殺そうとしてるんだぞ。
「紫さん…無駄だよ。また戻ってくるから」
「うるさい!」
わたしが目をつぶって腕をぶんと振ると、剣は何も言わずに由良川悠太の首を引っ掻く。
剣は由良川悠太の血で染まる。もちろん本物の血ではない。
地上界でも汚れたものが具現化したものなのだが、びっくりしたことにコイツは殆ど流れない。
ホントに汚れきっていない純粋なヤツなのだろうか。何事もなく由良川悠太は立っている。
まあ、ホントに斬っている訳じゃないので当然なんだが。
「この後ね、地上では死神に会っちゃいけない決まりなの。だからね」
「うん、それじゃあまた…」
「二度と会うもんか」

わたしは彼に再び会えるだろうか。…何言ってるんだ、わたし。


648:紫、ふたたび
08/08/01 22:54:40 aPKVrGvf
あの日以降、約束どおりにわたしは由良川悠太に会っていない。
彼は無事に天上界で暮らしているのだろうか。いやいや、死神に情けは不要。
彼は彼、わたしはわたし。もう二度と会うことはない…と信じたい。
わたしは地上界での生活に慣れきってしまって、自分が死神だって事を忘れてるんだろうか。
もしかして、これがゆきのの話に出てきた『一目ぼれ』ってやつなのか。
そんなことどうでもいい。健やかな青空が更にわたしをムカつかせる。

しかし、疑問が一つ。
どうして由良川悠太が由良川悠太の姿で、地上界に戻れたかだ。
同じ過ちを繰り返させないという観点から、天上界から地上界に戻る場合、
けっして元の姿のまま、地上界に舞い降りる事はないはずなのになぜだ。
理由が何かあるのだろうか。と、恐ろしい考えがわたしの脳裏に浮かんだ。
もしかして何か大きな力で『わたしを消そうとしているのではないか』。
わたしと由良川悠太を接触させて、恋愛関係に持ち込ませる。即ち、死神『紫』の死だ。
この間の天上界から『このままだと、クビですよ』の警告。それを自然に遂行する為に
わざと由良川悠太を地上界に下ろしたに違いない。そして、由良川悠太がわたしの事を好きだと知っているヤツは…。

セミが鳴き始め、あさがおが咲く季節。日差しが眩しく照り続けている。
未だに由良川悠太は現れない。別に待っているわけではないが、由良川悠太は現れない。
この事を無二の親友、宇摩ゆきのに話すと思いもよらない答えが返ってきた。
「ふーん。実は…」
「え?」
「悠くんとは…」
「まさか、由良川悠太と?」
「そうです。えへへ…わたしの彼氏になりました」
そうなんだ。隠しているなんて、照れくさいぞ。ゆきの。


649:紫、ふたたび
08/08/01 22:55:04 aPKVrGvf
「悠くんとは、この間商店街で出会ってからのお付き合いなんです。
とっても素直な子でしてね、かわいいんですよお」
わたしのネコミミがぴんと立つ。しかし、ゆきのは続ける。
「という夢を見ました」
わたしは初めてゆきのを軽くデコピンした。ゆきのは、てへへと笑う。
つられてわたしもえへへと笑うのであった。

夕方、いつもの様に出歩くと由良川悠太の代わりといっちゃなんだが、
荵がいつものように人懐っこくまとわり付く。コラコラ、尻尾を引っ張るな。
「それにしても、紫先輩は地上が好きなんですね。この間天上界で紫先輩をちらっと見たんすよお。
大審院に呼び出し食らってるって聞いたから、すっかりクビになって呼び戻されて…」
「あんたの言うことって、いちいちムカつくね!」
「ふっふー。でも、みんなに言いふらかしちゃったんだよねー。あのヘンなヤツにも…。
どうしよう。わたし、大ウソツキになってしまいましたっ!」
「………」
「そのヘンなヤツ…。わたしが『紫先輩がクビになりました』って言って以来、見ないんだよね」
「だから、クビになってないって…」
今頃、由良川悠太はわたしが居るはずも無い天上界を一人彷徨い、わたしを探しているんだろうか。
とにかく、そのことは誰にも分からない。

でも、なんだろう。わたしは決して泣いていないぞ。
瞳なんか潤んでいないぞ。目頭なんか熱くないぞ。鼻なんぞすすってないぞ。
由良川悠太のことなんか…好きじゃないぞ。うん、大嫌いだ。あんなヤツ。
ぜったいすぐに…忘れてやる。

「紫先輩、泣いてるんすか?」
「あんたのバカさ加減にね」


おしまい。


650:名無しさん@ピンキー
08/08/01 22:56:12 aPKVrGvf
エロ無しって書くの忘れてました。すいません。
投下終了っす。

651:名無しさん@ピンキー
08/08/05 22:46:26 ysEdyaTt
ゆかりんのメガネにぶっかけたい

652:名無しさん@ピンキー
08/08/13 13:22:11 sTZ3MTYB
ほしゅ

653:花見酒 1/2
08/08/14 01:00:45 3LQ9yKXO
死神っ娘とガチで戦ってみよう!ということでエロ無し超短編。
初投稿なので少し緊張気味ですが、批評は大歓迎です。

▼花見酒

冬、12月24日。
世間様はクリスマスイブとやらで盛り上がっているようだが、残念ながら俺には寄り添う恋人なんていない。
俺のように孤独な貧乏学生なんて世の中には溢れてるんだろうが、それでも何かしら理不尽さを感じてしまう。つるんでる友人達はちゃっかり相手を見つけてやがったりするからなおさらだ。
今夜は一人でヤケ酒でもして寝るかと思い、煙草を燻らせてバイトからの帰り。雪がちらほら舞っているが、傘を差すほどでもない。
割と広い裏通りなのだが、やはり皆は表通りにいるようで、うっすらと積もった雪には誰の足跡も付いていない。
雪見酒というのも中々にオツなものだが、この時期に窓を開けて泥酔してたら凍死するんじゃないか、なんて思ったその時。視界の端で何かが煌めいた――
「―――っ!」
反射的に転がるようにして体を横に飛ばす。受け身を考慮する余裕など無かったので、無様に地面を雪まみれになって滑る。一瞬前に俺の首があった場所を銀の軌跡が通り抜けたのが見えた。
思考が凍り、汗がドッと噴き出す。跳ね起きるように体勢を立て直し、相手を確認すべく視線を上げ、息を呑んだ。

黒い外套と長い髪をはためかせ、流れるような所作で大鎌を振るう少女。小柄な体格に不釣り合いな長物を取り回すその後ろ姿は――死神を彷彿とさせた。
「苦しいのがイヤなら抵抗しないで。面倒だし」
全体重を掛けたであろう斬撃を振り抜き、大鎌をくるりと回して慣性を殺した襲撃者は振り向かずに淡々と告げる。その足下には真っ二つになった煙草が煙を上げていた。


654:花見酒 2/2
08/08/14 01:02:46 3LQ9yKXO
冷たい静寂に染み渡る澄んだ声。明確な殺意を滲ませたその一言で俺は冷静さを取り戻した。
急いで次の手を考えろ。
今すぐに逃げなくては。だが何処に?逃げ切れるのか?
ならば闘うか。武器もないのに?勝てるのか?
「貴方は此処で死になさい」
一瞬の迷い、その隙を突いて黒い影が舞う。
それを目にして、自然に覚悟が出来た。最初の一撃だってかわせたじゃないか。これでも人並み以上に武道の心得はある。
スッと体の芯が冷えて、雑念が取り払われる。長い修練を積んだ体が、殺し合いの感性を研ぎ澄ます。
ここからはお互いの命の削り合いだ。遠慮なんて必要ない。
横様に首を狙う一撃を、背を逸らして避ける。更に体を回して襲いかかる一刀から逃れる。
いける。この速さなら追いついていける。
狙うは鳩尾への一撃。
上段の払いを屈んで避け、飛び退って距離を稼ぐ。
「小回りは効くようね。本当に面倒」
鎌という形状上、攻め手は薙ぎ払いが基本となる。例えその鎌が舗装された地面を穿つ強度を持っていたとしても、地に刺さった鎌を抜くのは手間だろう。
故に縦振りは必殺の一撃のみ。その一撃さえ凌げれば――!
左右から無尽蔵に繰り出される斬撃を間一髪で避け続け、その一撃を待つ。
「でも貴方は死ぬの。諦めて」
じりじりと後ろに下がり、あと数メートルで壁というところまで追いつめられる。
そして更に飛び退り、壁に背中が当たるほどに下がった瞬間。終に死神は天高く獲物を振りかざし、一気に距離を詰めてきた。
「そこだっ―――!?」
着地の反動を右膝で殺し、左足を全力で踏み込んだ瞬間――視界が反転した。
地面には降り積もる雪。当然と言えば当然である。斜めに一回転した視界に、雪空をバックにひらめく外套が。
こんな馬鹿な終わり方って無いだろう。此処まで誘い込んでこのザマか?我が人生ながら泣けてくる。
そこで、ふと気が付いた。
「きゃっ―――!?」
そう、全力で踏み込めば転ぶのだ。
視界の端には、持ち主の制御を失い、ギロチンの如く迫り来る刃が。首を捻って避けたぎりぎりの所に切っ先が突き刺さる。
そして休む暇もなく、視界いっぱいに広がってくる外套と可愛らしい顔。いくら小柄な少女でも、この速度で落ちてくるとなると話は別だ。
時間がスローモーションのように流れていく。倒れ込んでくるからだを受け止めるべく腹筋に力を込める。
風圧でめくれ上がる外套の中に。
あ、白だ。
「ぐふっ―――」
「きゅぅ―――」
よこしまな思考に集中力が緩んだ瞬間、衝撃が訪れた。痛覚が、呼吸が、意識が――

目が覚めると、体の上に何かが乗っていた。そして顔のすぐ横には謎の超危険物体が。
考えること数秒、意識がハッキリとした。生きてるってすばらしい。
とりあえず積もった雪を払い、気を失っている死神(?)少女を抱えて起き上がる。
体の節々が痛いが、このままだと二人とも凍死してしまいそうだ。家に戻って酒でも飲みたい。
少女については一瞬迷ったが、流石に放っておくことも出来ないし風邪でも引かれたら後味が悪い。
今し方殺されかけたばかりだったが、鎌さえ渡さなければ大丈夫だと信じよう。どうやら鎌は折りたたんで刃を仕舞えるようなので、折りたたんで担ぐ。
雪見酒も悪くないが、今夜は花見酒と洒落込もうか。腕の中の桜色の寝顔を見て、ふとそう思った。



655:653
08/08/14 02:00:23 3LQ9yKXO
すいません、間隔が空いてしまいましたが以上で投下終了です。
見苦しい点もあったかもしれませんが、今後も精進を続けていきたいと思います。

656:名無しさん@ピンキー
08/08/14 02:18:11 45hwuP6o
死神っ娘とガチで戦うってのは面白いな。
続きが気になるよ

657:名無しさん@ピンキー
08/08/14 23:30:43 3h5iLBbG
続きに期待してわっふるわっふる

658:名無しさん@ピンキー
08/08/23 15:45:00 JNt0aStU
hoshu

659:名無しさん@ピンキー
08/08/25 18:24:16 gtXin/Z7
わっふるわっふる♪

660:名無しさん@ピンキー
08/09/02 21:16:51 HOYgfaya
あげ

661:名無しさん@ピンキー
08/09/17 20:01:27 dkCDPkHf
あげ

662:名無しさん@ピンキー
08/09/26 06:57:35 rTTbamhN
あげ

663:名無しさん@ピンキー
08/10/05 08:52:22 7BNDshau
スレが死に神につれてかれる前にあげ

664:名無しさん@ピンキー
08/10/13 23:07:02 LM/3FYHQ
>1 死神っ娘がやられちゃうSS希望

やられちゃうってのは、こんな感じでいいの?

665:死神メイファーの受難 1/9
08/10/13 23:12:33 LM/3FYHQ
正南に輝く満月を浴びて、黒の少女は夜の闇に浮かび上がる。
カラスの羽のように黒いゴシック調のドレスを纏い、艶やかな黒髪を黒のリボンで左右に束ね、黒く光るエナメルの靴を履いている。
裏腹に肌は雪のように白く、その美貌は透き通るように、夜の静寂に美しく映えていた。その双眸の輝く両の瞳は、夜の如き漆黒の闇を湛えている。
宵闇の中、月の光を浴びて輝く彼女の姿は、幻想的なまでに美しい。彼女ほど、月夜が似合う少女もいないだろう。
浮世離れしたその美しさは、現にこの世の者ではない。彼女は死神メイファー、冥界より舞い降りた、美しき黒き死の天使。数多の魂を刈り取ってきた、恐るべき死の執行人である。
「日付が変わった、やはりイレギュラーか」
誰にいうと無くつぶやく言葉は、彼女自身に対する宣言であった。彼女はこれから魂を刈りに行く、冷酷なる処刑人に成るための自らへの宣言だ。
人の寿命は予め決まっている。自殺で寿命より早く死ぬことはあっても、寿命を超えて生きることは無い。本来ならば、死亡予定日を過ぎて生き続けることは有り得ない。
しかし、およそ一万人に一人の割合で、死亡予定日を過ぎても生き続ける者が現れる。0.01%の歪み、イレギュラーの発生を監視しその魂を刈る、歪みを正し厳格な死のルールを守ることが、死神であるメイファーに与えられた使命であった。
真南の空に輝く満月は、深夜零時を示している。それはメイファーの担当地区に住む、村嶋秀太郎の死亡予定日が終ったことを告げていた。
普通の死神ならば、日付が変わってからイレギュラーが無いかチェックするものだが、メイファーはその日死ぬ予定の人間すべてを監視し、イレギュラーの疑いが有れば即座に駆け付け、日付が変わると共に魂を刈る。おそらく冥界で最も厳格な死神はメイファーであろう。
月夜に黒のドレスは舞う。
重力を無視するような超人的な跳躍で、メイファーはアパートの二階へふわりと降り立つ。そして月明かりに映える白い手が、『村嶋』と表札の掲げられたドアを静かにノックした。

666:死神メイファーの受難 2/9
08/10/13 23:38:24 LM/3FYHQ
村嶋秀太郎は、エロビデオを見ながらオナニーしていた。
DVDが主流になり、一本300円で叩き売りされていた時代遅れのビデオテープ。古いやつだからモザイクが粗いのが気になるが、貧乏大学生の秀太郎にとっては貴重なズリネタだ。
既にテープはビロンビロンに延びてノイズ入りまくりだが、今までに50発は抜いたことを考えれば一発当たり6円以下と驚きのコストパフォーマンス!
今日もHカップの巨乳、空和葵のビデオでプレイの真っ最中。彼にとっては至福の時間だ!
するとその時、コンコンコン、という控え目なノックが部屋に響く。
「ハァハァハァ、葵ちゃ~ん」
何かドアをノックする音が聞こえたような気がする。しかしもう夜中の12時だ、こんな時間に来る非常識な奴いないだろう。気のせいだなきっと、と秀太郎はそのままオナニーを続行する。
「葵ちゃんの巨乳たまんねーなぁ、ぷるんぷるん揺れてるぜ!」
スピーカーからは、アンアンアンと喘ぎ声が聞こえてくる。その音に混じり、コンコンコンとノックの音が再び響く。
「ハァハァハァ、葵ちゃん、うぉ~、あは~、くふ~」
情けない喘ぎ声を上げながら、秀太郎はオナニーを続ける。ビデオも更に激しく喘いでいるが、ドンドンドンと力いっぱいドアを叩く音がそれを打ち消す。
「あ~あ、うるせぇなぁもう。誰だよこんな時間に」
良い所で邪魔が入り、秀太郎は切れかけた。しかしあれだ、ここまで盛り上がっちゃうとあれだ、途中で止められないんだ。ここは一つ邪魔者はシカトして、力の限りオナニーだぜ!
「居るのは分かっているんだ、速やかに出てこい」
ヤバイ!借金取りだ!!
思わず反射的にビデオと明かりを消して息を殺す。
いや待て、借金は競馬で当てた18万7731円で全部返したじゃないか。それに声は女だ、しかもかなり若い女の声だ、別にビビることなんてない。秀太郎は冷静に自分に言い聞かる。
しかし、一気にシラけてしまった…。仕方なく秀太郎は縮み上がったチンポをしまい、玄関のドアを開けた。
「はいはい、どちら様ですかぁ?」
そこにいたのは、髪を両サイドで結ったツーテールの少女、いや美少女だった。
ゴシックロリータというんだっけ? 原宿辺りにいそうな、やたらと無駄にヒラヒラの付いた高そうな黒づくめの服を着ている。
築四十年の木造ボロアパートには、明らかに似つかわしくない子だ。何でこんな子がこんな時間に一人暮らしの男の部屋に? と首をかしげる。
「村嶋秀太郎だな」
メイファーは冷徹に問う。
その落ち着き払った口調はとても十代の少女とは思えない。ああ、あれか、ゲームかアニメのキャラの成り切りか、コスプレってやつだ! 原宿系じゃなくて秋葉系か! と納得しかけたが、そんな子が何故秀太郎を訪ねて来たのか益々分からなくなる。
「はぁ、村嶋秀太郎は俺だけどぉ」
間の抜けた答えを秀太郎は返す。
「トラックに轢かれてそれだけ元気とは大したものだ。だが悪運もこれまでだ、その魂刈らせてもらう」
メイファーの右手に青白い炎が宿る。
炎は上下に伸び、木製の柄に姿を変える。
柄の先からは光が横へと弧を描いて走り、黒光りする巨大な鎌の刃が形作られる。
死神の鎌デスサイズ。魂を刈る大鎌は、何も無い空間から出現した。メイファーは一歩下がり距離を合わせ、両手で構えたデスサイズを横凪ぎに振り払う。
「えっ! トラックって君あの事故の…」
秀太郎には何が起きているのか理解できなかった。コスプレ少女の手に青白い炎の様な光が点ったかと思うと、それは瞬く間に巨大な鎌に姿を変えた。美少女が一歩下がり、大鎌を構え必殺の一撃を放つまでもほんの一瞬。その動きは滑らかで優雅でさえあった。
メイファーの放つ一撃に殺気など無い。彼女は冥界に住まう死神、死に属する存在、死こそ普通の状態なのだ。故にメイファーの一撃に殺気などない。
農夫が麦の穂を刈るように、メイファーは死の大鎌を振るう。死神は音も無く魂を刈る。
秀太郎は突然訪れた美少女が死神であることを知らない。状況も飲み込めぬまま、ただ呆気にとられることしか彼にはできなかった。
メイファーのデスサイズが音も無く振り抜かれる。
それは正確に、玄関のドアの隙間からこちらを覗く村嶋秀太郎の首筋へと放たれた。
壁を抜け、秀太郎の首を横切り、ドアをすり抜ける。
死神の鎌、デスサイズは魂を刈る鎌だ。アストラル体の刃は物質をすり抜け、肉体を傷付けることなく、魂だけを刈り取る。
音も無く、冷徹な刃は命を刈る。
「任務完了」
美しき黒き死の天使は、静かにつぶやく。
村嶋秀太郎は昨日死ぬ運命だった。死はすべての人間に平等の定め、避けられぬ宿命である。その枠から外れるイレギュラーを刈ること、それが死神であるメイファーの使命だった。

667:死神メイファーの受難 3/9
08/10/13 23:42:12 LM/3FYHQ
「うわゎ~、びびっくりしたー」
メイファーは耳を疑った。有り得ない、デスサイズは確実に村嶋秀太郎の首を捉えた、生きている筈がない。しかしカッと驚き見開いたメイファーの目には、青ざめた顔でよろよろ後ずさる秀太郎の姿が映し出された。
有り得ない、デスサイズで斬られて生きている人間など考えられない。見た目は少女であるメイファーだが、死神になって既に百年を越えている。これまで数百もの魂を刈ってきたが、ただの一度も仕留めそこなったことなどない。
アストラル体のデスサイズは魂だけを刈る。マテリアルプレーンにおける物質的活動しかできない人間に、アストラル体のデスサイズを防ぐ手段など無い。
なのにこの男は、何故まだ生きている? メイファーの顔に当惑の陰が浮かぶ。
一方、当惑しているのは秀太郎も同じだった。
深夜に突然押しかけて来た美少女は、ただのコスプレ少女などではない。何も無い所から取り出された鎌は、秀太郎の体をすり抜けた。冷たい刃が体を通り抜ける感覚は、全身の毛が逆立つかと思う程ぞっとするものだった。
この美少女、明らかに異常だ。いかにぼんくらダメ人間の秀太郎でも、それくらいのことは分かる。警戒心は秀太郎を二歩三歩と後ずさりさせる。
ああ、やっぱドア開けるんじゃなかった。あのまま居留守使ってれば良かったんだよ。だいたいこんな時間に来る時点で不審者じゃないか、何でチェーンロックかけなかったんだよ。などといろいろ後悔したが、既に後の祭りであった。
少女の鋭い眼光が秀太郎を捉える。狼のような精悍な視線は、まるで矢で射るかのようだ。その視線の圧力に、秀太郎は気圧され後ずさる。
とはいえ、六畳一間の安アパート、あっという間に追い詰められてしまう。ここは二階、逃げ場はない。飛び降りられない高さではないが、背を向けて鍵を開け窓を乗り越えるのを、この少女が待ってくれるとは思えない。背中を見せた瞬間、再び大鎌が襲いかかるだろう。
ならば携帯、とポケットに手をあてるが、それも無駄なことだと直ぐに気付く。目の前まで迫っている脅威が、助けが来るまで待ってくれるとはとても思えない。
正に絶体絶命の状況に、秀太郎はガクブル状態だ。
メイファーはアパートの奥まで踏み込み、デスサイズを深々と振りかぶる。長柄の大鎌は、本来なら狭い屋内で使うには不向きな武器だが、アストラル体のこの鎌であれば狭さは不利にはならない。むしろ部屋の隅から隅までとどく長さは、逃げるスペースを与えない。
追い詰めた。メイファーは渾身の一撃を秀太郎の首筋に向けて放つ。
「ひやゃ~~~~ぁ」
再び体を駆け抜ける戦慄に、秀太郎は堪らず悲鳴を上げる。その情けない声は尾を引きながら、木造のおんぼろアパートに響き渡った。
「ひやゃ~~~~ぁ」
尚も続く秀太郎の悲鳴は、メイファーの顔から平静を奪う。
何故だ、何故生きている。デスサイズの一撃は、悲鳴を上げる間もなく標的を絶命させる筈であった。なのにこの男は、一度ならず二度も受けながら、何故今も生きている。
今までミスを犯すことなく、確実に任務を遂行してきた。その完璧さ故に、メイファーは初めての失敗にひどく動揺していた。
「うおおぉぉぉぉぉ」
雄叫びを上げながら、メイファーは大鎌を振り下ろす。殺気を込めた一撃など、およそ彼女らしからぬ行動だった。三日月状の大鎌の刃は、大きく弧を描きながら秀太郎の体を袈裟斬りに斬り付ける。
「うわああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。何が悪いのか良く分からないけど、とにかく謝ります、ごめんなさいたすけて~」
メイファーの気迫に圧倒され、秀太郎はもう涙目だ。必死で土下座を繰り返す姿は、ぶざまを通り越して滑稽であったが、それはメイファーの笑いを誘うどころか、冷静な彼女を取り乱させる。
メイファーはデスサイズを振り回し、滅多やたらに斬り付ける。アストラル体の大鎌に質量は無く、巨大な武器にもかかわらず素早く振り抜くことが可能だ。人間を凌ぐ身体能力を持つ死神は、恐るべき速さで嵐のような連撃を放つ。
だが、そのことごとくは虚しく空を切るばかり。必殺の一撃どころかかすり傷一つ付けられない。
秀太郎もそれに気付き始めた。いやマジ最初ちょービビったけど、なんか痛くないし血出ないし、慣れれば平気~? みたいな~? 意外と普通て感じ~?
流石に小心者の秀太郎でも、実害が無いと分かれば恐くはない。焦って闇雲に鎌を振り回す彼女の姿は、今は無力な少女にしか映らない。
「あー君、ちょっと落ち着こうょ。ねぇ何なのキミ? 落ち着ぃて話シ合おう」目茶苦茶にデスサイズを振り回すメイファーであったが、本来必殺の筈の大鎌を連続で振るう訓練など受けてはいない。死神の彼女といえども流石に息が上がり、鎌の動きは鈍くなっていた。

668:死神メイファーの受難 4/9
08/10/13 23:44:54 LM/3FYHQ
「君さぁ、さっきトラックのこと言ってたょね?
もしかして、キミぁのトらックの運転手?」
秀太郎には思い当たることがあった。実は昨日のお昼頃トラックと交通事故を起こしていたのだ。8tトラックに轢かれる大事故、最近あった事件といえば真っ先に思い浮かぶのはそれだった。

あれは昨日のお昼頃だ。昨日は講義無くて昼まで爆睡していたが、起きたら腹減ってたので安くて腹一杯になる学食ランチを食べるため、チャリンコで激走していた。
すると、向こうから歩いてくる巨乳美女発見! ピッタリとしたコンシャスなニットシャツの下で過剰なまでに自己主張しているオッパイは推定Fカップ!!! その豊満なオッパイを揺らしながら歩く姿は男にとってある意味凶器! 思わず見入っていたら電柱に激突つー!
もんどり打って車道に投げ出され、丁度通りかかった8tトラックに轢き殺されてしまったのだったー!

もしかして、このコスプレ少女はあのトラックの運転手なのだろうか?
やべーよ、あのトラックあの後ガードレールに突っ込んでたんだよ。やべーよ、トラックの修理代払えとか言われたらどうしよ。やべーよ、そんな金ねーよ。
村嶋秀太郎は真剣にビビっていた。轢き逃げならぬ轢かれ逃げで、警察入れずに逃げてきてしまっのだ。
まあ常識的に考えれば、ゴスロリ少女が8tトラック乗ってるとは考えないが、秀太郎は本気でそうゆうことを考えてしまう奴だった。
一方、メイファーも憔悴していた。闇雲にデスサイズを振るっても効果が無いのは分かっている。しかし必殺のデスサイズと、自分の技に自信を持っていただけに焦りは禁じ得ない。焦りは思考を鈍らせ、効かぬと分かっている攻撃を単調に繰り返えさせる。
しかし打ち疲れ手を止めたことで、メイファーはようやく冷静さを取り戻しつつあった。この男にはデスサイズは効かない、何か秘密が有るはずだ。何とかしてその秘密を暴かねばならない。
メイファーは乱れた呼吸を整えながら、手短に秀太郎に説明する。
「ハァハァ、私は死神、お前を殺しに来た」
それは乱れた呼吸を整えるだけでなく、乱れた思考を整えるための言葉でもあった。
「えっ!死ニ神だって?!」
秀太郎は素直に驚いた。まあ普通いきなり死神と言われても信じられないものだろうが、しかし秀太郎はあっさり信じてしまった。秀太郎は、まあそういう奴なんだ。
ヤバイ、死に神だって! しかも俺を殺しに来たんだって!! でもこの子あんまり恐くないんだよな、あの鎌全然切れないし。あっ、分かったぞ! この子死に神だから鎌持ってるんだ。そうだ、そうに違いない!
「ああ、そうぃぅこと~」本質をはなはだしく履き違えいたが、秀太郎は納得した。
その余裕しゃくしゃくといった態度が、メイファーを苛立たせる。焦りは整い始めた思考から、再び冷静さを奪い去る。
「何故だ、何故お前はデスサイズで斬られて死なない。お前は何故生きていられる」
単刀直入な質問は、焦りに因るものか。元よりメイファーは魂を刈る死神、問答無用で対象者を斬り捨てるのが仕事だ。人との交渉やかけひきは得意ではなかった。
「答えろ、お前は何故死なない」
鬼気迫る勢いで、メイファーは秀太郎に詰め寄る。
「何でってぃゎれてもなぁ、ォれもう死んでるんだよ。
実はォれ、ゾンビなんだ」
ぺろんと上着をめくり、秀太郎はお腹を見せる。へその横が破れ、傷口からどす黒く変色した血まみれの内臓が飛び出していた。

669:死神メイファーの受難 5/9
08/10/13 23:48:33 LM/3FYHQ
「キャアアアァァァァァ」
深夜のアパートにメイファーの悲鳴が木霊する。
「オ、オ、オ、 オバケェー」
メイファーは距離を取ろうとよろよろ後ずさる。
しかし恐怖で足がすくんでしまい、足がもつれて尻餅を着いてしまう。
「ちょっwおまwww
死ニ神がぉ化け恐がらなぃでょwwwww
それに漏れ、ぉ化けじゃなくてゾンビだしwwwwwwww」
ヘラヘラ笑いながら、秀太郎はじわじわとメイファーに近寄って来る。
「いやあぁぁぁ、やめて、こっち来ないで、あっち行ってえぇぇぇ」
メイファーには、最早毅然たる死神の風格は無かった。恐怖に震えるその姿は、見た目の印象通りのか弱い少女のそれでしかない。
足はすくみ、尻餅を着いたまま立ち上がることすらできない。
「いや、来ないで、近寄らないで」
にじり寄るゾンビをデスサイズで押し返そうとする。しかしデスサイズは秀太郎の体をすり抜けるばかりで、まったく何の役にも立たない。
魂を刈るデスサイズは、肉体と魂の結び付きを断ち切る鎌。ゾンビのようなアンデットは、悪霊化した魂が死体に憑依しているだけで、肉体と魂の結び付きは既に切れている。デスサイズは、アンデット相手には何の役にも立たない。
「そんなに恐がンなぃでょ。アっ、もしかシて血を見るの恐ぃ人ぉ?」
「バ、馬鹿、ち、血じゃなくて、は、はらわたが飛び出してる」
はっ! とした表情で秀太郎は自分の腹を見て、いやまいったまいったと照れ笑いを浮かべながら、右手で飛び出した臓物を無理矢理腹の中に押し込む。
「ゴメンごめん、とラックに轢かれた時にぉ腹破れちゃってさ、油断してると中身出ちゃぅんだょね。でもこうやって奥まで押し込めば出なぃから」
「いやあああぁぁぁぁぁ」
メイファーの恐怖は限界に達していた。必死で逃げようとするも、完全に腰が抜けてしまった。身体は震え、立ち上がるどころか這って逃げることすらままならない。
「そんな恐がんないでょ。お腹破れちゃったけど、他は生きてる時と何も変わらなぃんだ。君も全然ゾンビだなんて気付かなかったでしょ? 俺も忘れちゃってたんだょね(笑)」
確かに気付かなかった。ゾンビといっても、死後あまり時間が経過していない場合、見た目も行動も生前と変わらないケースが報告されている。死後まだ半日しか経っていない秀太郎の場合、生前と何も変わらないとしても不思議ではない。
「ぃやさあ、8tトラックに轢かれた時はホント死ぬかと思ったょ、まぁ死んだんだけど。でさぁこれはヤバイと思ったから、気合いで家まで帰って黒魔術の儀式やったら、ナント成功しちゃったんだょねぇ。ひょっとして俺って天才? ゾンビ作りの才能ぁるのかな」
ヘラヘラ笑う秀太郎。黒魔術じゃなく医者に行け、それにゾンビは黒魔術でなくてブードゥーだ。などとツッコミを入れる余裕は今のメイファーには無い。
駄目なのだ。潔癖症のメイファーは、ゴキブリとかそういうが大の苦手なのだ。もうゾンビなてとんでもない、たとえ普通の人間となんら変わらなくても、はらわた見せられてゾンビと分かっしまった以上は、体の振るえは止まらない。
「大丈夫だょ、ホント普通の人間と変わらなぃんだから。だから安心して℃」
秀太郎は怯えるメイファーを安心させようと、彼女の傍らにひざまずき、その手を握った。
「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」深夜のアパートにメイファーの悲鳴が木霊する。


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