死神萌えat EROPARO
死神萌え - 暇つぶし2ch111:No.13 その1
06/11/17 23:23:17 h5HusWal
 びゅう、と寒風が吹いた。
 風に乗って、救急車のサイレンが近づいてくる。
 閑静な住宅街の中にあるこの小さな公園には、三本の街灯が立っている。
 だが、管理が杜撰なのか、明かりが灯っているのはそのうちのひとつだけで、
それすらチカチカと瞬いており、風前の灯火といった様相を呈している。
 季節はもう冬だった。冷たい夜風が、だいぶ葉の落ちた木々を揺らして吹き
抜ける。
 その風に乗って舞うが如く、真っ黒なコートを翻し、彼女は振り返った。
 唐突にサイレンが止んだ。どこかに停まったのだろうか─
 街灯を反射してチカチカと瞬く瞳が、俺の眼を真っ直ぐに射抜く。
 俺は僅かにたじろぎ、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 聞こえてないよな、と思う間も無く、彼女が口を開いた。

「この世には不思議な事など何も無いのだよ、辰巳君─」

 俺は彼女の台詞に、大きな溜め息をついた。
 びぇーっくしょいっ! と、特大のくしゃみまで出てしまう。
「ちょっと、なにそのリアクションはー?」
「いや、寒いなぁと思ってね」
 気温が寒いというのと、小説の台詞を真似るのが寒いというのを掛けたつもり
だったが、
「その寒い中で話し相手になってあげてるのに、その反応は酷いと思うぞっ」
 どうやら彼女は後者には気がつかなかったようだ。
 コートのベルトを片手に持ってぶんぶんと振り回している。まるで子供だ。
「はいはい、悪ぅございましたね」
 彼女は、ぷーっと頬を膨らませて俺を睨みつけた。
 こいつ─秋穂はいわゆる幼馴染みという奴だ。高校は別々のところへ通って
いるが、家が近所なのもあって、ちょくちょくこうして会っている。
 ガキの頃から、面倒見が良いというか世話焼きというか、なにかとお節介な
奴だった。
 今日も、ついさっき、家を出たところでばったり出くわしたのだが、俺の顔
を見るなり、「何か悩み事でもあるの?」と一発で見抜かれ、こうして話を聞い
てもらっていたというわけだ。
「ていうかさ、そんな占いなんか気にしてたって意味ないじゃん」
「そうかもしれないけどな─」


 発端は、一週間前に遡る。
 最近クラスの女子の間で、タロット占いが流行っていた。
 所詮女子高生のお遊びだろうと、俺も占ってもらったわけだが─
「うわぁ……辰巳君の今週の運勢、最悪!」
 何枚か表にしたカードのうちの一枚が、それだった。
 タロットなんてさっぱり判らない俺の眼にも、見るからに不吉な印象を覚える
絵が描かれていた。
 おどろおどろしい骸骨頭に黒衣を纏った、人とも悪魔ともつかぬモノが、手に
した大鎌を頭上にかざし、今まさに振り下ろさんとしている。
 十三番─死神だそうだ。
 他にも、塔や天秤のようなものが描かれたカードが表になっていた。
 なにやら小難しい解説をしてくれたが、ほとんど憶えていない。
 ただ、最悪という二文字だけが頭にこびりついて離れなかった。
 この一週間、確かに俺の運勢は最悪だった。
 教科書やノートを忘れるといった些細な事から、人身事故で電車が止まって
遅刻したり、体育の時には後頭部にサッカーボールが直撃したり、道を歩けば
犬のウンコを踏んづけたり、俺の真横に小さな鉢植えが降ってきたり、車に轢
かれそうになったり─
 タロット占いは的中した。俺は大小多くの不幸に見舞われる事になり、命を
落としかねない状況にまでなったのだ。
 お遊びの占いだなんて馬鹿にしたものではない。
 一通り話し終えた俺は、不思議な事もあるもんだよな、と言った。
 その返事が、あれだったのだ。


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