06/03/05 01:43:33 n0nnBQ3/
空気も読まず、懲りずに投下しますよ。
関が原前設定、茜の一人旅。
激しい雨音が耳をつく。
茜はぼんやりと色褪せた格子の手すりに頬杖をついて、部屋の外を眺めていた。
慶長五年、弥生。
一族の使命である柳生宗矩誅殺のため、ともに戦いを潜り抜けた仲間たちと別れて
旅を続けること早二年余りの月日が流れている。
柳生の庄から遠く離れ、南の果ては豊州、北は越後岩代まで、人伝の噂のみを頼りに
各地を放浪し、外道に堕した男の姿を捜し歩いた茜だったが、
過日滞在していた江戸から一路京を目指すべく中仙道を上っていた。
東海道と違い、難所の多い道のりだが、それだけ京へ早く辿り着く。
逸る心のままに旅路を急いでいた茜だったが、生憎途中のこの旅籠で足止めを食っていた。まさか川
止めのないこの中仙道で、大雨の煽りを受けるとは。しかし、この雨の中を推して
山路を行くには危険が多すぎるのも事実だ。
気ばかりが急く茜にはむやみに癪に障ることだった。
きな臭い話を聞いた。内府徳川家康の領地、江戸では、かなり声高に話されている噂
・・・いや、既に噂や風聞の域を出た、近い時期に確定されている事実を語った話だ。
大きな戦が起こるという。太閤秀吉の死後、豊臣家と五大老筆頭徳川家康の溝は広がり、
もはや誰にも、御所におわす今上帝にも修復は不可能なところにまできている。
天下を望む家康ならばこそ、あえて豊臣との軋轢を進んで深めたとは周知のことだ。
秀康の遺児、秀頼に、家康の孫娘の千を嫁がせるなどという話も出ているそうだが、
それしきのことで両家が収まり手に手を携えるとは誰も思ってはいない。
唯一家康と対抗できた豊臣寄りの前田利家も去年没してしまった。
天下を二分する戦い、久しく太平だった世に、再び戦禍が舞い戻る。茜は確信を持った。
奴は必ずその中心に喰らい付こうと現れる。必ず。
この千載一遇の好機を逃す男ではない。
力を求める男であるだけに、この天下の趨勢が定まらず曖昧な拮抗が
まさに崩れようとしている今、権力者の影にひそみ、暗躍し、立身のため
自分の地歩を固めようとするに違いない。
宗矩の在り処は間違いなくそこだ。
そう確信した茜は、騒乱の中心となる京へ入ることを決意したのだった。