08/12/02 16:46:39 4QbN9+DT
私は彼女に訊いてみた。来年また美大を受けるのかとか、借金を返して男の子に戻るつもりはあるのかとか。
彼女は相変わらず私にしなだれかかり、潤んだ目で私を見つめ小さな声で答えた。
「ほんとはもうこのままで良いかなあと思ってるんだ。女の子のがいろいろラクだし。そりゃ面倒なこともあるけど……」
そして欠伸を噛み殺し、受験ももうどうでもいいやと独りごちる。
そんな彼女は、向こうの常連客がトイレに立つのを横目で見て私の肘に胸を押付けてきた。
「それよりお客さん。お店終わってからどお? 今月はお洋服とか買い物し過ぎちゃって。ちょっと援助してくれると助かるな。エヘヘ」
案の定、もう彼女は男に戻るつもりはないようだ。
私は店を出ると路地裏でいつもの黒い外套と先の尖った帽子を身に着け、靴も履き換えた。
そして月明かりを頼りに古びた杖をつきつき家路を歩く。
ああいう若者が増えたら、日本はどうなってしまうのだろうかと暗澹たる気持ちになりながら。
2008年11月 中央線沿線某駅前某キャバクラにて