10/09/22 00:42:20 MZFQWl090
結局、俺はその二日後に、身体中に繋がれていた管とやかましい金属音から解放された。
静かな個室と柔らかい食事、日に一度の処置と検温。
そして長い長い時間が俺に与えられた。
飲んでる薬のせいか、身体の痛みは殆んど感じない。左手の腫れも引いてきた。
熱も下がってきて、少しなら歩いてもいいと許可が下りた。
だが何のために?歩いたからって、どうなるってんだ?
俺はこれから…どうすれば…誰にも言えない不安が一気に俺に押し寄せてくる。
静かな部屋が一層恨めしい。俺を責める声がそこら中に満ち満ちている気がしてくる。
ベッドに腰掛けて俯く俺の目の前に、見慣れた革靴が佇んでいるのに気付いたのは、大分時が経ってからだった。
「…ちっとは反省したんですかね?」
「…あ…」
懐かしいこの声。俺が慣れ親しんだ、待ち望んでいたはずの声。
だが、俺の身体はガチガチに固まってしまい、冷や汗が一気に噴き出してきた。
忘れようとしても身体が覚えちまってる。
あの時、『これで助かった』と思った瞬間に足蹴にされたこと、よりにもよって骨が剥き出しになった指を
痛めつけられたこと、とてつもなく冷たい声で問い詰められたことを。
怖くて恐ろしくて顔が上げられない。
何となくだが、そんな風にされた理由はわかるんだ。そう、俺が悪いんだ、多分。だけど…
「…何も言ってくれないんですね。じゃあ帰ります」
踵を返す素振りを見せた目の前の足に、俺は取り縋って叫んだ。
「ま、待ってくれよ先生!頼む、礼を言わせてくれ!助けてくれて…ありがてぇって思ってんだ、それに…
悪かったよ。俺が悪かった。黙って消えようとしたことを怒ってんだろ?悪かったよ…本当に」
固まってた身体を無理矢理動かして、一気に捲くし立てちまった。
俺を見下ろす先生の顔は相変わらず冷たくて、俺のこと便所のネズミの糞みたいに思ってそうだった。
「本当に?本気で言ってるんですか?」
先生の手が俺の顎を捉える。掌が熱い。