10/11/28 20:06:55 GZNNrJwu0
パーロフォンから初めのシングルを発売した次の年、バンドを取り巻く状況は激変した。
ロンドンでの仕事が増え始め、当初は片道七時間の行程を楽しんでいたメンバーだったが
こう毎週の長旅となると誰ともなく文句を言うようになり、
また悪いことに、二枚目のシングルを出した頃には滞在するホテルにファンがたむろするようになり宿泊拒否をうけることが多くなった。
それではとマネージャーが提案したのは、ロンドンに共同でフラットを借りるというものだった。
「実際今年は既にロンドンでの仕事が週末以外にも入っているし、丁度いいと思うのだよ。
誰にも邪魔されず我が家のように寛げる空間が必要だね。どんどん忙しくなるよ」
エプスタインが探してきたフラットはメイフェアのグリーンストリート五十七番地にあった。
「L号室」
そう言って彼は得意げに部屋のキーを見せた。
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「こら、ポール。うろちょろしない」
マネージャーはポールの肩に手をかけた。
「GOマスからいきなりメイフェアかよ」
ジョンが皮肉を言う。
曰く、気持ちは億万長者ということらしい。
「好きにするさ」
「部屋割りは気分を出してモノポリーで決めよう」
言いだしっぺの法則に乗っ取って一番最初に破産したのはジョージ、その次にリンゴが破産した。
残ったジョンとポールは接戦を繰り広げ、最後にポールが全てを独占した。
が、彼がもさもさしているうちに一番良い部屋がリンゴ、次にジョンが獲得し、
最低の部屋が当たるはずだったジョージは、ゲームでは見せなかった見事な交渉力でポールから部屋の権利書を手に入れた。
といっても、同じ部屋に住むからといって特に目新しいことはなかった。
今回は部屋が別れているのが違うだけで、バンドメンバーとひとつのスペースに寝泊まりすることなんて皆慣れている。
心を躍らせることがあるなら、ここがロンドンということくらいだろう。
その日は仕事が入ったことを理由に三日間の滞在のなか日だった。