10/02/14 23:53:52 aqT2co860
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < 半ナマ・ドラマ半町より>>バレンタインデイ・パニックの続き的なもの
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < 中身自体は黒樹くんと素田さんの独立したお話です
i | |/ ||/ | (⊃ ⊂ |ノ~
| | / , | (・∀・; )、< 黒視点片想い?な感じでここにはこの二人しか出てこないよ
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´ 引き続きもう数レスお借りします。
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ"
50:バレンタインナイト・パニック 1/6
10/02/14 23:54:57 aqT2co860
「…よし、あと10枚!」
「まだ10枚もあるんすか!?」
午前に起きた事件は何とか無事に解決を見、他の班員たちが帰宅した後の刑事部屋で素田と黒樹は報告書を書いていた。
デスクワークも刑事の大事な仕事だ。大事ではあるが、如何せん事件の際には後回しにされることが多いのも事実だ。
今日のものはこれまたひとまず置いておき、まずはこれまでに溜めていた書類からかからなくてはいけない。
幸か不幸か今夜は素田と二人で当直にあたっている。
もののついでと言っては何だが、出来れば今夜中に在庫を全て片付けてしまおうというのが黒樹のひそかな目標だった。
「別にいいだろー、今晩中には終わるよ多分」
「夜中に何にもなけりゃ、の話ですけどね」
「ま、ね」
その返事に小さく肩をすくめ、黒樹はまたデスクに向き直ろうとする素田に話しかけた。
「もう昨日のことみたいですよね」
「ん?」
「バレンタイン…事件」
場所柄、“事件”を軽く強調してみせる。
「ああ」
素田が思い出したように小さく笑った。
「桜衣も災難だったよなあ」
「邑鮫さんのあの顔!俺、うわー自分じゃなくてよかったーってちょっと思っちゃいましたよ」
「うーん、…うん、実は俺も。そう思った」
「………」
「………」
何故か不思議な間が空いて、自然と顔を見合わせて、その間が妙におかしくて、二人ほぼ同時に吹き出した。
「っははは、ははっ」
「ふふ、ふっ」
まるで小さなこどもが拗ねるかのような、不機嫌を隠さないあの表情。
普段はすこぶる冷静な先輩刑事のあんな顔など滅多に見られない上に、そのご機嫌斜めの原因と
そんな直属の上司にひたすらびくびくしていた後輩刑事の顔がまた同時に思い出され、
申し訳ないと思いつつも思い出しただけでまだ笑いが込み上げてくる。
51:バレンタインナイト・パニック 2/6
10/02/14 23:56:31 aqT2co860
お互いひとしきり笑った後。
よっぽど笑いのツボを刺激されたのか素田が目尻を指でごしごしと拭って、懐かしそうに呟いた。
「そういえば俺たちの頃ってどんなだったかなあ、バレンタイン」
由希子は、今の時代チョコレートは特定の一人の相手に渡すものでもないという前提で喋っていたようだった。
尤も去年は覚えがないので、今年はたまたま今日この部屋にいたためご相伴にあずかれたといった感じだろう。
それほどに忙しない今の職業に就いてから、各シーズンイベントの盛り上がりは正直なところよくわからない。
せいぜい、この時期が近づくと街全体が目に痛いくらいの赤色やピンク色へ一気に染まる印象があるぐらいだ。
バレンタインデーに関するイメージなど今やその程度のもので、本番は気づけば過ぎていることの方が多い。
しかし自分の学生時代は「女子が好きな男子にチョコを渡し告白する日」としてそこそこ定着していた気がする。
少なくともそこら全体にチョコレートをばら撒くような日ではなかった、と黒樹はしみじみ思い返した。
告白する側の女子だけでなく、今日という日が近づくと貰うあてのない男子連中も妙にそわそわしていたものだ。
時間としてはそんなに経過していない心地がするのに、この日の持つ意味は随分と変わってしまったのだろうか。
素田の頃は果たしてどうだったのだろう。ぼんやりとした疑問が浮かぶ。
「素田さんチョコレートとか貰ってましたか?」
素田はその問いに、言葉よりもまず顔の前の手をひらひらと横に振ることで答えた。
「俺はほんとそういうのさっぱりだったってば。お前は?モテたろ」
「…そうでもないっすよ」
「嘘つけえ」
「いやいやほんとですって!ていうかほら、手止まってますよっ」
疑いの眼差しを向けてくる素田を苦笑いでごまかしながらやり過ごし、自身もデスクに向き直る。
何故だろう。
甘い菓子と一緒に甘い言葉を貰った体験が過去にないわけではない。
むしろ一般的に見ると少しばかり経験が多い方かもしれない。
だけれど、何故だか。
それを素田にはあまり知られたくないと思った。
52:バレンタインナイト・パニック 3/6
10/02/14 23:57:48 aqT2co860
「…よし、あと1枚!」
「えっ、黒樹速くない!?」
「俺は素田さんと違って走るのも報告書書くのも速いですから」
にやにやしながらそう言ってやると。
「何だよそれー」
はははっと素田が笑う。悪意の全くない軽口と承知してくれているからこそこちらも遠慮なく言えるし、笑える。
仮にも警察という厳格な組織の上司と部下で有り得ない、と感じる人間もいるかもしれない。
それでも素田と自分にとってはこれが自然な日常なのだ。まるで呼吸をするのと同じくらい。
この関係と距離感が、心底たまらなく心地いい。
安曇班自体がそういう人々の集まりであることは間違いないが素田と二人の時間はまた特別だと黒樹は思う。
この人に出会えてよかった、と思う。
左の手首にちらと視線をやって腕時計を確認する。
あっという間に数時間が経過し、あと少しで今日という日が終わろうとしていた。
この報告書を書き終わったら少し仮眠を取ろうか。そう思った。
「あー、でも」
書類から目を離したついでに両腕を揃えて指を組み頭上に伸ばし、全身で大きく伸びをする。
「やっぱ疲れますね、書類書きは」
「だな」
「外で犯人追いかけて走ってる方がある意味楽っす」
「そうかあ?」
「そうですよ」
「ま、脳みそ使うと糖分消費するからな。腹減るよな」
そのいかにも素田らしい物言いに思わずくすりと笑ってしまう。
「そうそう、そうですよ。今なんかまさにその状態で」
「あ、じゃあさあ黒樹」
「はい?」
素田が緩慢な動きでごそごそと机の引き出しを探った。
「あったあった」
出てきたのは、よくコンビニで見かけるような一袋百円均一で売られている安物のチョコレートだった。
53:バレンタインナイト・パニック 4/6
10/02/14 23:59:20 aqT2co860
素田は既に開封済みのその袋の中から二、三粒を無造作に取り出して黒樹に手渡す。
「はい、糖分補給」
「あ、ありがとうございます」
「それ食べてラストスパートがんばれよ」
そう言って素田は引き出しを閉め、自分の目の前に先程の菓子を袋ごとガサッと置いた。
「あっ、素田さんも食べるんですか!?」
「え、食べちゃダメなの!?」
「こんな時間に食べたらまた太りますよー?」
「いいじゃん、お前も食べるんだから!それとも要らない?要らないの!?」
「いや貰いますけど!せめて袋はやめといて下さいってば」
言いながら素田のデスクに置かれた袋を取り上げ、中から数粒を取り出して袋のあった位置に転がした。
「あ」
「これは今夜一晩預かっときますからね」
「えー…」
未練がましく手元の袋を見やる素田に「ダメです」ともう一度通告してそれを自分の引き出しに仕舞う。
「はいはい、わかったよ」
潔く諦めたらしい素田が机上の報告書に向き直る。その手がごく自然に個包装の包みへと伸びた。
「………」
やれやれと黒樹はこっそり苦笑する。だけれどそんなところも嫌いじゃない。
むしろ微笑ましく、好ましくあるとさえ思った。
「…いただきまっす」
「うん、どうぞ」
両端で軽くねじられた簡素な包装を両手でつまんで引っ張り、くるりとねじり返して包みを開ける。
役目を終えかけた薄いプラスチック製のそれが微かな音を立ててその存在を主張した。
ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂いと同時に生身の姿を現した茶色の菓子を、口の中に放り込む。
見た目の色濃さと口の中に広がる甘ったるい味からしてどうやらミルク入りのようだった。
「…あ、美味し」
あまりにも素直な感想がその唇から零れ落ちた。
54:バレンタインナイト・パニック 5/6
10/02/15 00:00:27 aqT2co860
「美味しいだろ?やっぱこういう時には糖分が一番だよなあ」
にこにこと満足げに微笑んだ素田が早々と二粒目に手を伸ばす。
「……はい」
正直、少し驚いた。
昼間に由希子から差し入れられたブランド物のチョコレートとは美しい包装も高級感も比べ物にならないのに。
今口にした安物の一粒の方がずっとずっと甘くて、ずっとずっと美味しかった。
(…ん?)
そもそも何故チョコレートなんて物を差し入れられたのだったか。
再びペンを右手に持ちつつ、左の指で頭を掻き掻きたっぷり数秒間、考える。
「――――あ。」
カチッ。
妙に大きな音を立てて、耳元で長針が動いた。
慌てて見ると時計の文字盤に表示された日付はつい今しがた、2月の15日になったところで。
この数年間、意識もしなかった昨日という日が終わりを告げたところだった。
(これって)
空になった包み紙を見やる。薄く透明なそれの内側には僅かに残った茶色の欠片がこびりついていた。
「どした?」
怪訝そうな声が隣から聞こえた。その声にふっと我に返る。
「え…や、何でもありません」
「ほら、手ぇ止まってるぞー」
先刻自分が言われた台詞をこちらへ投げ返して素田がにやにやと笑う。
何故かその顔を直視するに忍びなくて、無言で最後の報告書にすっと視線を落とした。
55:バレンタインナイト・パニック 6/6
10/02/15 00:02:46 aqT2co860
殺人犯を前にしたところで最早滅多に動揺することもなくなった黒樹の強い心臓が途端に早鐘を打ち始める。
(…俺、今、何考えた)
「黒樹?」
打って変わって少しばかり心配そうな声がした。
「何か顔赤いけど大丈夫か?暖房効きすぎ?」
「だっ、大丈夫、です!」
「…おっ、あ、ああ、そう……?」
「あっ」
思ったよりも大きな声が出てしまったようで、隣へ目をやると小さな目を真ん丸に開いた素田の顔があった。
驚かせるつもりじゃなかったのに、と内心で軽く舌打ちをする。
「…すいません、素田さん」
「ん?んん、ああ大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」
ぱっと穏やかな笑みを浮かべ直して素田はぽんぽんと黒樹の背を叩いた。
すぐ傍で優しい声がする。
「まあ疲れてるだろうけどもうちょっとがんばろう。な、黒樹」
「…はいっ、がんばりましょう」
自分に言い聞かせるように返事をして頬を両手ではたく。
言われた通り、その頬は微かに熱かった。
叩かれた背も、熱かった。
やはり暖房が効きすぎているのだろう。経費削減のためにはもう少し寒々しいくらいがいいのかもしれない。
(考えすぎ、だよな)
疲れているからうっかり変なことを考えてしまうのだ。それだけだ。
心の中でそうも言い聞かせるようにして黒樹はペンを握った。
真横ではまたぞろ包みを開く微かな音とともに緩慢に身じろぐ柔らかな気配がした。
仕事で疲労の溜まった脳を、労わるように、もうひとつ。
…甘いチョコレートを、手に取った。
56:風と木の名無しさん
10/02/15 00:04:11 aqT2co860
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < 両片想いノマ問わず基本が二人の世界な黒素萌え!
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < あまりバレンタインぽくもない話でしたが
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ~
| | / , | (・∀・; )、< お読み下さった方ありがとうございましたー
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ
57:風と木の名無しさん
10/02/15 00:24:02 BHC1BCCVO
>>33-56
村桜と黒州まさかの二本立て嬉しい!!ありがとう最高のバレンタインになったよ!!
58:風と木の名無しさん
10/02/15 00:49:04 DalxxrSp0
>>29
エメクさんの受難っぷりは相変わらずですが平和なオチでひと安心しました…。
メロさんもエンダもばあちゃんもみんな可愛いなあ。
神殿組大好きだ。GJでした!
59:風と木の名無しさん
10/02/15 01:20:25 kAHIO3aw0
>>34
>>49
まさかの邑桜と黒巣に萌えましたありがとうございました!
脳内再生余裕でしたw
60:風と木の名無しさん
10/02/15 04:33:02 28Qng0ZOO
>>33>>49
大好きでよだれものでした!ありがとう!
桜も可愛いけど村も可愛いなあ!
チッスするのかとドキドキした
黒酢は確かに誰にも止める事の出来ない
二人の世界が…!
また投下待っております!
61:エ.ー.ジ.ェ.ン.ト.夜を往く 1
10/02/16 00:21:53 Qfeo8iBEO
イ壬天堂の応援団シリーズ海外版より司令×チーフもしくはチーフ×司令です。
どっちがどっちかは読む人にお任せします。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ギシっと音を響かせて椅子に腰掛ける。
目の前にいる彼の頭を抑え付け、いつもさせているように私自身をくわえさせた。
彼が夢中になってしゃぶっている様子に満足感を得る。
ああ、チーム設立当時からの友人に何をさせているのだろうか。
しかしその気持ちとは裏腹に、彼に愛撫された私のペニスは昂っていく。
粘着質な水音が深夜の部屋に響く。
部屋には電気スタンドの明かりだけが灯っている。
その仄かな明かりに照らされた彼と私の影が床に伸びていた。
気持ちいいか?と訊かれたが、私は無言で頷くだけであった。
62:エ.ー.ジ.ェ.ン.ト.夜を往く 2
10/02/16 00:22:49 Qfeo8iBEO
…射精感が強く押し寄せてきた。
彼の髪を掴み、もっと深くくわえさせ、押し込む。
もごもごと言葉にならない声を上げる彼を無視する。
そしてそのまま、彼の口腔へ自身の精を流し込んだ。
目の前の彼は不味そうな顔をしながら出されたものを飲み干す。
力なく萎えた私自身の雁首の残滓を、若干ざらざらとした舌の刺激と共に嘗め取る。
その動作はまるで娼婦かと思わせるようなものだった。
が、目の前の友の体格は明らかに娼婦のそれよりも大きくて、我ながら馬鹿らしいなと思う。
63:エ.ー.ジ.ェ.ン.ト.夜を往く 3
10/02/16 00:25:35 Qfeo8iBEO
どれくらい経ったか。
射精後の気だるさは過ぎ去り、乱れた服を手早く整える。
今日は私だけが楽しんだ。彼には悪かったか。
そんな事を思いつつ時計を見ると、行為を始めた時から大分時間が経っていたのに気付いた。
そろそろ戻ろう、と彼が上着を着ながら立ち上がる。
いつまでも任せている訳にはいかないと言いながら、私達は部屋を出た。
夜明けまではまだ時間がある。
淀んだような空気の廊下は非常灯の明かりだけで、暗く重い雰囲気に覆われている。
私達は背徳感を想いながらオフィスへ戻って行く。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
オッスオッスして下さった応援団スレの皆さんにこの場をお借りしてお礼申し上げます。
ありがとうございました。オッスオッス
64:新顔カンサシ新顔1/4
10/02/16 00:54:49 nTnm+1op0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 某ドラマの新顔さんとカンサシさんネタだよ。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 文章っぽいもの書くのが3年ぶりでお目汚しだよ。
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
65:新顔カンサシ新顔2/4
10/02/16 00:55:19 nTnm+1op0
行為の後の浅い眠りからふと目を覚ます。
ホテルの効きすぎた空調のせいか、喉が張り付くように乾いていることに気付き、大小内はサイドテー
ブルで汗を掻いたように濡れているグラスに俯せたまま手を伸ばした。
氷はほとんど溶けかかり、薄くなってしまったウィスキーを口に含んで顔をしかめつつ、先ほどまで隣
に居たはずの男の姿がないことに気付いて視線を巡らせる。
ふとタバコの匂いが鼻について重い身体を起こす。ベッドの下に投げ捨てたバスローブを拾って羽織り
ながら窓際に向かうと、探していた男がゆるく煙を上げるタバコを片手に、じっと窓の外に視線を向けて
いた。
「タバコ、吸うのか?」
「え?……ああ、起こしちゃいました?すみません」
「いや、熟睡していたわけではないから」
言いながら大小内は缶辺の手からタバコを奪い、深く吸い込んで紫煙を吐き出す。驚いたように缶辺が
その指先を見つめた。
「大小内さんてタバコ吸うんですか?」
「そっちはどうなんだ?」
「昔は。大学卒業と同時に卒業しましたけど」
「私も似たようなものだ。入庁した時に出世したければ禁煙しろと上司に言われてそれきりやめた」
「ああ、必ず言われますよね。ちなみにこのタバコは一家の板見刑事をちょっとからかったら怒って投げ
られたのを拾った物で、俺の物じゃありませんから一応」
「拾った物を勝手に?」
「しけたタバコ返しても仕方ないでしょ?後でちゃんと1カートン熨斗つけてプレゼントしますから」
66:新顔カンサシ新顔3/4
10/02/16 00:55:51 nTnm+1op0
悪気もない様子でにっこり微笑む缶辺に思わず大小内も口元を緩ませ、ソファーに腰を下ろした。大小
内にタバコを取られた缶辺は新しいタバコに火をつけている。
「……なんでですかね、持ってると思ったら急に吸いたくなって」
「苛つくことでもあったのか?」
「そういうんじゃないんですけど。どっちかっていうと淋しくなったというかなんというか」
「淋しい?」
つい数十分前まで身体を合わせていた相手にそう言われると何となく釈然としない。そんな微妙な感情
に気付いたのか、缶辺が慌てて釈明する。
「別に大小内さんがどうこうとかそういうんじゃないですよ?ただ、何となく……」
「何となく、か」
指先で遊ばせていたタバコに再び口をつけた。ほろ苦い煙が口に広がると、その苦さが不思議と胸の隙
間を埋めてくれるような気がする。大きな荷物を背負い続けるのが辛くなった時に、その痛みにも似た苦
さを無意識に求めてしまうのかもしれない。だとすれば。
「……缶辺」
「はい?」
「おまえ、腹に何を抱えている?」
「どういう意味ですか?」
さっぱりわからないといった風を装って首をかしげる缶辺の手からタバコを奪い、灰皿に押し付ける。
「簡単に人に言えるようなことなら悩みはしない、か」
「そう思うって事は、あなたも何かを抱えてるってことですね?」
67:新顔カンサシ新顔4/4
10/02/16 00:56:21 nTnm+1op0
笑顔の形を作った口元と、笑顔のかけらもない目線。その二つを同時に向けながら、缶辺も大小内の手
からタバコを取り上げた。そのままゆっくりと顔を近づけ、軽く唇を合わせる。
「……タバコよりこっちのがいいですね、やっぱり。苦くないし、気持ちいい」
「かん……」
「黙って」
後ろ手にタバコを揉み消すと、缶辺は大小内の頭を抱き寄せるようにして頬を擦り寄せ、そして口付け
た。
ゆっくりと、深く。
「缶辺」
「なんでしょう?」
「抱え切れなくなる前に誰かと分け合うという選択肢があることを、おまえは忘れるな」
「大小内さん…」
「頼むから」
囁くように呟いて、大小内は立ったままの缶辺の腰を引き寄せる。触れた胸から伝わる鼓動を感じ、大小
内は静かに目を閉じた。
抱えた荷物の重さも知らせないままに、全て一人で持って行ってしまった男の顔を思い浮かべながら。
68:新顔カンサシ新顔 終
10/02/16 00:57:28 nTnm+1op0
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ お付き合いありがとうございました。
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
69:風と木の名無しさん
10/02/16 05:19:28 jOBjp1dw0
>>64
最後のあたりでうっかり泣いた…
素敵な萌えをありがとう姐さん!
70:板と缶4
10/02/17 00:12:29 sVcjO3jD0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ilの板と缶その4モナ‥‥。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| つきあってさえいないし、喋りだけモナ。
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
71:板缶4 1/7
10/02/17 00:14:14 sVcjO3jD0
今日、神部が登庁していたとは、伊民は知らなかった。
基本的に特/命係というのは、土日が休みだと思っていた。
あの部屋が空っぽな日があろうが誰も気にしないし、係長である杉/下警部は、年間休日さえ合っていればいつ休みを入れたって別にいいと思ってる、・・・と、以前彼の部下だった男が言っていたからだ。
だが今日という日曜日、特別大きな事件も起きず、早く上がれそうだなと思い始めた午後4時半、伊民の携帯にメールが届いた。
その特/命係の神部警部補からだった。
『今日は何か予定ありますか? もしお時間あったら、ちょっと飲みに行きませんか?』
こんなことは初めてだった。先日一緒に事件を捜査するはめになった機会に、また今度ゆっくり話をしよう、というようなことを言って別れたことがあったので、そのせいかも知れなかった。
さてどう返事をしたものかと、伊民は2分ほど迷い、眉間に深く皺を寄せた。
さすがの伊民も知っている。今日は天下のバレンタインデーだ。
製菓会社が騒ぎ立てるのがいけないのか、イベント好きな女心が罪深いのか。何しろ2月の14日といえばなぜこの日が国民の祝日にならないのか不思議なくらいに日本中に浸透している、愛の祭りの日だ。
捜/査一課の若い連中たちは心なしか朝から明るい顔をして携帯のメールをチェックしているし、伊民や三浦のデスクにですら、女子職員からの義理チョコが配られてきた。
後輩の芹澤にいたっては、数ヶ月前からの激戦を勝ち抜いて、まんまと今日の非番をもぎ取ることに成功していた。今ごろ、彼女と楽しくデートでもしていることだろう。
今日という日はそういう日だ。
そこここでチョコレートとメッセージカードが飛び交い、恋人たちの間ではそれに負けないくらいに甘くてきれいな言葉が交わされる。
そういう日なのだと、いくら伊民だって知っていた。
72:板缶4 2/7
10/02/17 00:15:45 sVcjO3jD0
しかし不幸なことに伊民には、そういう相手がいなかった。もうどのくらいいないのかと、思い出すことさえしたくなかった。
別に、チョコレートがほしいわけではない。菓子の類はあれば食べるし疲れているときには効くものだが、自分で買ってまでは食べない。
女子職員がくれた駄菓子っぽいチョコレートにしても、もらえばそれなりに嬉しいとは思うのだが、ホワイトデーにはなにかお返しをしなければならないと思うと手放しで喜ぶ気にもなれなかった。
もちろん、彼女たちは「お返しはいりませんよ」と言ってくれるのだが、もらいっぱなしというのも気が引ける。
そんなところへ届いたのが、神部からのメールだった。
神部のような男に限って、バレンタインの夜が暇だとは伊民にはとても思えなかった。
予定をドタキャンされたか、それともコワイ女に好かれて逃げ回ってでもいるのか。
伊民に予定がないことを見透かされたような気もする。それもなんだか決まりが悪い。
断ろうかどうしようかと、なんでも即決体質の伊民にしては迷った挙げ句、ついに返信した。
『警部補殿の奢りならご一緒しますよ』
すぐにOKの返事が来た。
***
6時過ぎにエントランスで待ち合わせ、一緒に歩いて有楽町まで行った。
「伊民さん、焼鳥なんて好きですか?」
と神部に持ちかけられ、前に一度行ったことのある焼鳥屋の話をしたら、ぜひそこへ行ってみたいと言われたからだ。
早足で歩けば、あまり遠くはない。
時には並んで、時には前後になって歩きながら、世間話をした。神部はコートのポケットに手を突っ込んだまま、ニコニコと伊民に話しかけた。
正直、この男と何を話せばいいのかと思っていた伊民は、その明るい調子にホッとした。
73:板缶4 3/7
10/02/17 00:18:39 sVcjO3jD0
「・・・俺、焼鳥屋ってあまり行ったことないんですよね。機会がなくてというか、焼鳥よりは焼き肉と思ってて」
「焼鳥屋には、きれいなおネエちゃんはいませんしね」
「え? なんですか、それ?」
「銀座のクラブのほうがお似合いなんじゃないですかね?」
「・・・ああ、この前の店ですか。あれはつきあいですよ。偉い人って、ああいう店が好きでしょ」
「さあ。俺たちにゃ雲の上のお話ですからねえ・・・」
「ははっ、もしかして羨ましいんですか、伊民さん?」
「いーえ、とんでもない。俺は焼鳥屋でけっこうですよ」
そんな調子の、軽いやりとり。伊民の棘のある言葉を、神部はさらりといなしてくれる。だから険悪にならない。
ほどほど混んだ焼鳥屋のカウンターに滑り込み、生中をふたつ頼むころには、伊民のガードもやや崩れはじめていた。
「警部補殿、何から行きますか?」
「こんなとこで、警部補殿はやめてくださいよ。あ、俺、ナンコツの唐揚げ好きです。でもまずは伊民さんのオススメを聞いてからですね」
革のコートを脱いで、神部は無造作に椅子の背に掛けた。注文を取りにきた女性店員がそれを見て、ハンガー片手に飛んできた。
すいません、と微笑む神部に、店員は明らかに普段の愛想以上の笑顔で答えていた。
すすけた焼鳥屋には似合わない男だなと、伊民はあらためて神部の横顔を見やった。
いかにもモテそうなこの男が、なぜ今日みたいな日に伊民なぞ誘って飲みに出るのだろう?
神部はしかし気にしたふうもなく、楽しそうにメニューを研究している。
「伊民さん、こういう店、詳しそうですよね」
「・・・普通ですよ」
「謙遜しないで、教えてくださいよー?」
屈託なく微笑みかけられると、悪い気はしなかった。
***
74:板缶4 4/7
10/02/17 00:20:30 sVcjO3jD0
「・・・だからですね、俺としちゃ気に食わないわけですよ。あの人は確かに天才かも知れませんよ、だからってルールを無視していいわけないでしょう」
「ええ、そうですよね。遵法精神は大事にしないと」
「なんかこう、涼しい顔してサラッとみんな持ってくでしょう。そりゃ偉いさんとのつながりがあるってのはわかりますよ、もともとエリートキャリア様ですから。
しかしですね、あの人だったら何をしても官/房長が出てきて無罪放免って、そういうのはズルかないですか」
「そういうこと、あるんですか?」
「そりゃありましたよ。こっちが必死になってやってんのに、あの人はこう、サラッとね・・・」
いつの間にか伊民は、神部に向かって愚痴を並べてしまっていた。
半分ほど酔いの回った頭で、相手はその杉/下警部の部下なのに、と思いながら。
神部はうんうんと頷きながら聞いてくれた。あの特/命係に飛ばされて平然としているところを見ると彼も普通の神経はしていないのだろうと思うが、少なくとも杉/下警部よりは常識人らしく見える。
「・・・まあ、ほどほどに行きましょうよ。俺だってあの人に負けたくないと思うし、伊民さんの気持ち、なんだかわかりますよ」
「でしょう。警部補殿だって思うもん、俺たちが」
「ちょっとちょっと伊民さん。いい加減に警部補殿はやめてくださいって言ってるでしょ?」
「だいたい、特/命係にゃ捜査権はないんですよ・・・」
「わかってますよ。逮捕権もありませんよね」
「なのに、気がつきゃ現場をうろうろしてんですから」
「ねー。誰が悪いんでしょうねー」
クスクス笑いながら、神部がレシートを取り上げる。ふと時計に目をやると、思ったよりも時間が過ぎていた。
「はい、タイムリミットです。2時間ルールにしときましょう。明日もありますから」
「・・・ああ」
「お約束どおり、奢らせていただきます」
「いや、それは・・・割り勘にしましょう」
「いいですよ」
「いやいや、俺のほうがいろいろくっちゃべっちまって」
「じゃあ、この次の機会に奢ってください」
そう言うと神部はコートを手にさっさと立って、レジへ行ってしまった。まいどー、ありがとうございましたー、と店員の声がその背にかかる。
伊民もタバコとライターをポケットに放り込んで、その後を追った。
75:板缶4 5/7
10/02/17 00:21:23 sVcjO3jD0
店を出て、裏通りを歩いた。駅までの距離はあまりない。
つい愚痴を並べてしまったうえに飲み代まで持ってもらって、自分が言い出したくせにすっかり気の引けてしまった伊民は、なんとなくしょんぼりとした気分で神部の後をついて行った。
やがて曲がり角に来たとき、その神部が唐突に立ち止まった。
伊民が追いつくのを待って、のんびりとした口調で言った。
「今日、伊民さんと話せてよかったです」
「・・・そうですか」
「わざわざ出てきた甲斐がありました」
「は?」
「俺、今日は休みだったんです。ダメもとでメールしたら伊民さんがOKしてくれたんで、出てきちゃいました」
「はあ?」
「これ、どうぞ」
そう言って神部がポケットから取り出したのは、手のひらくらいの薄い箱だった。きれいな包装紙、きれいなリボンで飾られていた。
まるで絵に描いたような、・・・これはチョコレートの箱だろう、と伊民は考えるより前に思った。
「伊民さんにあげます」
「えっ、これはどういう」
「どうもこうもないでしょ」
きらきら輝くような小箱を伊民の胸元に押しつけておいて、神部はまたさっさと歩き出した。
伊民は彼の心情を謀りかねて、しばらくその場を動くことができなかった。
76:板缶4 6/7と思ったけど6だった
10/02/17 00:22:19 sVcjO3jD0
「け、警部補殿!」
やっと声をかけたときには、神部は何歩も先に行っていた。呼ばれたのを聞くと彼はいったん肩越しに視線を寄越し、伊民がまだ同じ場所に立ちすくんでいるのを認めて、ふっと小さくため息をついた。
「・・・あーあ。『警部補殿』は勘弁してくださいって、あんなに何度も言ったのに」
それから周囲をきょろきょろと見回して、声の聞こえる範囲に人がいないことを確かめてから身体ごと振り返り、神部はまっすぐに伊民を見つめた。
まるで日本画のモデルのように整った神部の顔だちを、繁華街の安っぽい電飾やネオンが美しく縁取っていた。
「あのねえ、伊民さん。知らなかったと思いますけど、俺、あなたのことが好きなんです」
今度こそ、伊民の頭の中は真っ白になった。あまりに驚きすぎて声も出ない、どころか、身体もまったく動かせない。軽い箱を持った両手を下げることもできず、ぽかんと開いた口もそのままだった。
神部はさすがに照れくさそうな微笑を浮かべ、
「じゃ、また。この次は奢ってくださいよ?」
と言い残して、足早に駅のほうへ歩き去った。
その姿が角を曲がって見えなくなってからやっと、伊民は胸の前に上げたままだった両手を下ろして、手の中のものをまじまじと見た。
麻痺した頭で、神部の言葉の意味を考えた。
よりによって今日という日に、きれいにラッピングされた箱と一緒に渡された言葉の意味を。
<おしまい>
77:風と木の名無しさん
10/02/17 00:23:06 sVcjO3jD0
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 仕事バカ伊民
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
前回、ドンマイみたいに言ってくれた姐さんたち、本当にありがとう!
色々とご心配かけたうえ、こんな会話だけの話でさらにすみません・・・。
さらに7あると思ったのが6だったというバカなミスもすみません!
78:風と木の名無しさん
10/02/17 00:42:41 3Nwts3gt0
>>70
お帰りなさい、バレンタイン話見たかったので本当に嬉しいです!
ここから始まる二人のストーリー(*´Д`) 二人ともなんて可愛いんだ
姐さんの板と缶萌えるよ大好きだよ
79:風と木の名無しさん
10/02/17 00:58:40 x1qyH5qc0
>>70
もしやと思って覗いてみたら、板缶キテター!!!
姐さんの板缶で新たな萌えを開眼してしまい
もっと読みたかったので嬉しい~
今夜は眠れないな、萌えすぎて!!!
80:風と木の名無しさん
10/02/17 02:17:24 QYWqiUhjO
>>64
驚くほどナチュラルに脳内再生されましたw
二人からダダ漏れる色気がたまらない!
よろしければぜひまた読ませてください
>>70
なんてさわやかでカワイイんだ缶!
板がホワイトデーにどんなお返しをするのか、
気になって妄想が広がって眠れませんw
81:こ/こ/ろ K→私 1/8
10/02/17 07:41:46 TZAxTFj+0
過去ログに触発されて私も書いてしまった。
時間軸的には『覚悟なら無い事も無い』から『御嬢さんを下さい』の間辺り
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「その夜、私はどうにもKの用いた『覚悟』という二文字が、何時までも胸に引掛かって仕方がありませんでした。
自分の醜い嫉妬の為に随分と穢いやり口でKの心に傷をつけた事を考えると
今すぐあの固く閉ざされた襖を開けてKの部屋へと乗り込み彼の前に平伏して
謝罪したいと云う気持ちと、あれで良かったのだという卑怯な心が交互に現れ
それを重ねては布団の中で打ち消すを繰り返して居ました。
私はKをやり込めたという気持ちで興奮しきっていた為、あの晩は比較的安静な夜を
迎える事が出来たのですが、それ以降は前述した様に好く眠れない日々が続きました。
(今思えば私が神経過敏になっていたのでしょうが)
あのKの『覚悟』という言葉が、背後から洋燈に照らされて大きな影になっていたKの姿が
そしてあの朝の、近頃は熟睡が出来るのかというKの問い掛けが。
それら全てが私に向って来る何か恐ろしい物の様な気がして仕方が無かったのです。
82:こ/こ/ろ K→私(先生) 2/8
10/02/17 07:44:40 TZAxTFj+0
確かにKの告白を聞いて以来、私はKに何度も襖越しに声を掛けていました。
それはKの動向が気になって仕方が無かった為です。
無意味な事であると判っては居ても頻繁に声を掛ける事で
私の与り知らない部分で着々と進んで居るかも知れない御嬢さんへの『覚悟』を
阻害してやろう、監視してやろうという気に成っていたのでしょう。
Kの言葉は何と言う事も無い、唯私の健康面を気遣って呉れる言葉だったのかも知れません。
真面目で意固地な処もあるとは言え元来は優しい男だと記憶して居るので、実際そうだったのでしょう。
しかし、心に疚しい部分を持つ私はそのKの問い掛けに過剰な反応を示し
こうして眠れないながら熟睡をしている振りをし、Kに一言声を掛けることすら出来ない侭
今日も悶々と空が白けるのを待って居たのでした。
床に着き、元々活動をしている様子を感じられる事の少ないKの部屋から
完全に気配が消えてどれ位経ったでしょうか、不意に私の足元の襖が二尺ほど開きました。
その時丁度私は現在の姿勢に疲れて来ていた為寝返りを打とうとしていた処でしたので
突然開かれた襖に驚き慌てて目を閉じる事に専念した結果
少しばかり不自然な体勢で寝返りを止めざるを得ませんでした。
どうせなら思い切って姿勢を変えてしまえば好かったのに
元々狸寝入りを簡単に遣ってのける程私は器用では無かったのです。
83:こ/こ/ろ K→私(先生) 3/8
10/02/17 07:46:30 TZAxTFj+0
便所に行った気配も無かった上、如何して今時分確実に眠っているであろう私の部屋を覗いたのか
ぐるぐると考えていると段々と恐ろしくなってきました。
目を瞑っている為にKの動向は良く掴めませんでしたが、僅かな布擦れの音と
先程より若干掛けられるおいという声で、Kが部屋に入って来たと云う事だけは判りました。
私は如何しても狸寝入りを解いてはいけない様な気がして頑なに目を開けようとはしませんでした。
するとKから再びおいと声を掛けられました。しかもまた先程よりも近い位置です。
いつの間にか私の目の前にKが移動していました。
実際、目を開いて居なかったので正確な位置は判らないのですが
まるで熱を出した子供を枕元で看病する母親のような
通常の我々の関係を考えればそれ位不自然な位置にKが居たのです。
私の顔を見ながら『もう寝たのか』と声を掛けます。
此れは愈々おかしい。幾ら部屋の中が暗いと云えども
床に着いて随分経っている為暗闇に目が慣れて居る筈です。
大体明らかに眠っている私の顔がKからも見えている筈なのに
Kは妙に私に声を掛け、寝ているのかと念を押してくるのです。
84:こ/こ/ろ K→私(先生) 4/8
10/02/17 07:48:55 TZAxTFj+0
私は慄然としました。今からKは私に何をする心算なのだろう。
そもそも目を開いていない私には目の前に居るのが
果たしてKであるか判断が出来ませんでした。
若しかしたらKの声を持つ何か得体の知れない物なのでは無いか
はたまた私が作り出した悪夢と云う名の亡霊なのか。
『僕は苦しい』私の部屋を重苦しく包んだ沈黙を破ったのは、同じく重苦しい彼の呟きでした。
『人を好きになる事が…拒絶される事がこんなにも苦しいなんて思わなかった』
私は一瞬何を言っているのかが判りませんでした。
苦しいと繰り返すのに、私は益々亡霊では無いかと疑ってかかった位です。
それ程Kの言葉は突飛でした。呟くような彼の低い声はまだ続きます。
『その目には僕は邪魔者としてしか映っていないのか』
『如何すればいいのかわからない』
不図小さく名前を呼ばれ、背後の布団にみしりとした振動を感じたかと思うと
急に相手の気配が近づき、顔に僅かな風を感じました。
85:こ/こ/ろ K→私(先生) 5/8
10/02/17 07:50:38 TZAxTFj+0
私は余りの恐怖に情けなくも、小さくひっ、と声を上げてしまいました。
その瞬間気配が物凄い速さで遠ざかります。
狸寝入りも忘れた私は気がついたら飛び起きていました。
目の前には僅かに驚いたKの顔がありました。
Kは、『何だ起きて居たのか』と努めて平静を装って居ましたが彼の動揺は明らかでした。
私は混乱し、一体如何云う心算だと、真夜中にも関わらず語気を強めました。
今思えばあの時、よく御嬢さんや奥さんが起きて来なかったものだと思います。
第一彼の言葉の意味も判らなかったし、何をされそうに成ったのかも判りません。
唯私は、私の中に段々と押し入ってくる彼に恐怖して居たのです。
私は自分の疚しい心の為に、何か云いたそうに口をもぐもぐとさせていた彼の言葉を待つこと無く
すぐに出て行けと半ば怒鳴り散らす様に追い返してしまいました。
86:こ/こ/ろ K→私(先生) 6/8
10/02/17 07:54:53 TZAxTFj+0
しっかりと閉ざされ、今は水を打ったように静かになった襖の向こう側が気に成りましたが
私には再びKにおいと声を掛ける勇気は在りませんでした。
再びそこからKが顔を出したら、とてもじゃ在りませんが
私は話どころかまともにその顔すら見られなかったでしょう。
苦しい。彼は図書館での帰りにも苦しいと呟きました。
よくよく考えてみると、最初に御嬢さんへの切ない恋心を告白された時とは
何処と無く心持が違った様に感じられました。
人を好きになる事が、拒絶される事がこんなにも苦しいなんて思わなかった。
私は、Kの拒絶という言葉に引っ掛かりました。
私が記憶する中では御嬢さんがKを拒絶したという部分というものが見当たりません。
『馬鹿だ』Kの言葉が頭の中で響きます。『僕は馬鹿だ』
87:こ/こ/ろ K→私(先生)7/8
10/02/17 08:09:29 NFWcm2MNO
不意に私は激しい喉の渇きに襲われました。
唯の渇きではなく、まるで締め付けられる様な苦しさを伴う渇きでした。
しかし部屋に置いた水は切れており、水を汲みにKの部屋を通る気にもなれなかったので胸を押さえつつ
カラカラになった口から何とか搾り出した唾液を飲み込んで遣り過ごす他在りませんでした。
この頃には私は、Kは何とかして私の気持ちを捻じ伏せる機会を狙っているのではないかと疑い始めて居ました。
そもそもKが私の御嬢さんへの気持ちを知っていたのか定かでは在りませんでしたし
この期に及んでも心のどこかではKなら大丈夫だという気持ちも存在し、迷いも生じていました。
然し、私は自分の卑怯さを棚に上げ、此の儘ではいけない、Kはきっと段々と私の心を蝕んで行くのだ
そして其れは確実に私を脅かす、と首を振り、無理矢理にその迷いを打ち消してしまいました。
彼はもう私の知っているKではない。
何を考えているのか判らなくなってしまったKは、もうKではないと自分に言い聞かせていたのです。
不図、窓の方に視線を向けると、段々と空が白んで来ていました。
明るくなりつつある空を見ながら、今が真夜中では無かった事に何故か私は心から安堵したのでした。
88:こ/こ/ろ K→私(先生) 8/8
10/02/17 08:12:03 TZAxTFj+0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ごめん。番号読み間違えて最後があとがきだけになっちゃいました。
規制に引っ掛かったので途中携帯から投稿。
どう足掻いてもバッドエンド回避ならず。
以下個人的な見解なので流してくれると嬉しいw
…実は少しおかしくなっていたのはKじゃなくて
先生だったんじゃないかと睨んでいる。
ありがとうございました!
89:風と木の名無しさん
10/02/17 08:21:26 NFWcm2MNO
3に抜けがありました。若干近い距離で と脳内補完ヨロです。
90:風と木の名無しさん
10/02/17 20:44:03 qyajO0X3O
>>70
姐さん、有難う!
そうかあこんなふうに始まるのかあ。
缶の「ねー、誰が悪いんでしょうねー」ってリアルに聞こえてきそうで禿げますた。
91:風と木の名無しさん
10/02/19 03:06:28 drGiPSuQ0
生注意
高学歴ゲ仁ソ 魯山 大阪府大×京大
ひさびさにネタを仕入れたので投下します
六角形クイズ出演回の収録後妄想です
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
92:関西だからおバカとは言わないで 1/9
10/02/19 03:07:53 drGiPSuQ0
「何であそこで俺やねん!」
控室に戻ってきた『水も滴るイイ男』の第一声はこれであった。
びしょ濡れになった京大をそう評した木目方の大阪府大は、スタジオでこれでもかというぐらい笑い倒したはずだったが、扉を閉めコソビ2人きりになるや再び腹を抱え笑い出した。
「あーっはっはっはっ、ちょお、もお、うじはら、オマエ…っ、うははははは~~~っ」
「すがちゃん、笑いすぎや!」
番組で京大がおいしくイジラれるのが三度の飯より大好きな大阪府大のことである(もちろん時と場合によっては京大がイジラれることで心底不機嫌になる時もある)。
今日の罰ゲーム、『布河両が水をかぶるという前フリを事前にさんざん出されながら、裏をかかれ京大がかぶる羽目になってしまった』というオチは、彼にとっては最高においしい木目方のイジラれ方だったらしい。
「あーもう、勝手に一人で笑うとけ!」
「あはっ、ゴメンゴメン~。お詫びに髪は俺が拭いたる、な?ほら、服脱いでそこ座りや」
半分涙目ながらもようやく笑いを止めた大阪府大は、京大の手から半ば強引にタオルを奪い取る。
「別にええよ。俺の髪短いから、すぐ乾くし」
「ええからっ!俺が拭く言うとるやろー!」
「何でそこで逆ギレするっちゅーねん…」
93:関西だからおバカとは言わないで 2/9
10/02/19 03:08:43 drGiPSuQ0
「それにしてもこういう役、ひっさしぶりやなかったかあ?東京じゃオマエ、基本インテリ押しやもんなあ」
そんな感想付きで、大阪府大にわしゃわしゃと濡れた髪を拭かれている間、京大はずっと押し黙っていた。
「もしかして、俺が笑うたことまーだ怒っとるん?」
「別に」
口ではそう言いながらも、やはり京大は憮然としたまま。
こういうところは意地っ張りというか嘘が下手というか、実にわかりやすいと大阪府大はいつも思う。
「なーあ、機嫌直せやー?」
大阪府大はタオルを動かす手を止め、上半身裸にバスタオルを羽織った京大の背中に後ろからべったりと抱きついた。
長い付き合い、こういう時どうすれば一番効果的か、大阪府大は熟知している―そのはずだった。
「………うじはらー?」
いつもだったら『もぉ~、すがちゃんにはかなわんなあ』などと苦笑しながらあっさり落ちるはずの京大が、今日は胸に回した腕にすら触れてこようとはしない。
大阪府大がバスタオルがかかった京大の肩口に顎を乗せ、横から覗き込むように顔を寄せると、何故かふいっとそっぽを向かれてしまった。
94:関西だからおバカとは言わないで 3/9
10/02/19 03:09:41 drGiPSuQ0
「オマエ、やっぱ怒ってんねやろ?」
「だから怒ってへんて言うてるやん!……そんなんやない、そんなんちゃうねん」
「ああー、ほんならアレか、拗ねとるとか?」
そう指摘された途端にうっ、と返事につまる京大。
ああどこまでもわかりやすいやっちゃなあと、大阪府大は喉の奥でくくっと笑う。
「さーて、めちゃめちゃ頭のいいうじはらくんは、一体何に拗ねとるんかいなあー?」
「オマエ、どこまでも楽しそうやな…まあそんなんいつものことやけど」
「わかっとるなら、はいはいテンポよう、さっさと吐かんかーい。はよせんと…」
オマエ今自分がどんな恰好しとるかわかっとるやろ―そう耳元で囁かれ、京大はギョッとした。
何せこの木目方サマは、時も場所も選ばず空気も読まず平気でコトに至れるツワモノである。
鍵もかけていないテレビ局の控室でいつものように組み敷かれ、そこに誰か入ってきたりでもしたら…。
それを考えると、結局のところ京大には自分が折れる道しか残されていなかった。
「結局いつもと同じパターンやないかい…」
「えー、何?何か言いましたかあー?」
「いーえ、何でもアリマセンっ!」
95:関西だからおバカとは言わないで 4/9
10/02/19 03:10:50 drGiPSuQ0
「そのー、何ちゅーか、ちょっとした自己嫌悪?そんなんに陥っとるだけやねん」
「自己嫌悪?何の?オマエ今日も絶好調やったやん」
様々なクイズ番組を渡り歩いて、芸能界のクイズ王の呼び声も高い京大。
本日も大方の予想を裏切らず、正解に1位通過のオンパレード。
チームは最下位になったものの本人に特に目立った落ち度はなかった(最後の罰ゲームのオチを除いて)
最下位の原因の一端というならば、それはむしろ大阪府大の方が担っていた。
縄跳びを飛びながら答えるクイズで、豪快に間違えたあげくに縄にひっかかってアウト、などとやらかしてくれた彼は、間違いなく本日の戦犯のひとりと言えるであろう。
「今日の出来なら自己嫌悪に陥って然るんは俺の方やろ?何でオマエがそない卑屈になる必要があんねん」
いやいやそう言うてもオマエ全っ然気にせーへんやん!と京大はツッコミそうになったが、いまだ無防備な恰好を晒している内は黙っておくのが賢明であると、一度開きかけた口を再び噤む。
「ゲイニソとしての扱いで見たって、オマエは罰ゲームで、俺は縄跳びでそれぞれ1回はおいしかったんやから。それはそれでエエやろ」
「……それやねん」
「へ?どれ?」
「……が、その………したん」
「聞ーこーえーんー!はっきり喋れや!さもないとっ!」
「わー!縄跳びや、縄跳び!」
大阪府大が再び手をわきわきさせて迫ってきたので、京大は慌てて声のボリュームを上げる。
「なわとび?失敗したんは俺やで?」
「その失敗した時、俺すがちゃんとこに走って行ったやん」
「あーあー、そういやオマエ、真っ先に来てくれたなあ」
大阪府大は『あ~やってもうた~!』と天を仰いだ時視界に飛び込んできた、心配そうに眉根を寄せた京大の顔を思い出した。
96:関西だからおバカとは言わないで 5/9
10/02/19 03:11:55 drGiPSuQ0
「すがちゃんがこけたの見たら、うわっはよ起こしたらな、手ぇ貸したらなって思って、そしたら慌てて、っちゅーか、もう体が勝手に動いとった」
そう白状する京大の頬は、少しだけ赤くなっていた。
「ホンマに無意識やってん。ほんでオマエを助け起こそうとした時、周りが『すがちゃん何してんねん』みたいな空気になっとることに気づいて、何や急に恥ずかしくなってもうて」
それでとっさに手を引っ込め、周りに合わせて『サイアクやー』などとガヤを飛ばしたらしい。
「アレは完全に俺の落ち度やったしな。オマエがとっさにそう判断したんは間違ってなかったと思うで」
京大が自分を庇わず周囲に同調したこと自体、大阪府大は特に気にしてはいなかった。
むしろ大阪ローカル番組のノリで京大に必要以上に構われて、共演者全員にひかれるような事態にならなくてよかったとさえ思ったくらいである。
「だからそれでオマエが引け目感じることは…」
「いや、俺が言うとるんは別にそういうことやないねん」
「あ?」
京大は今度こそ言いにくいのか、あーだのうーだの呻きながらしばらく落ち着かなく視線を泳がせていたが、やがて俯き加減から上目遣いでちらちら大阪府大の様子を窺いつつ口を開いた。
「俺はあん時本気で心配して飛んで行ったのに、すがちゃんは俺が水かぶった時大爆笑で、収録終わってもずっと笑いっぱなで……何や俺一人が一方的にすがちゃんのこと好きみたいで、めちゃめちゃアホっぽいやんか」
「…………」
大阪府大はポカンと口を開けたまま、二の句がつげなかった。
97:関西だからおバカとは言わないで 6/9
10/02/19 03:14:45 drGiPSuQ0
拗ねる男の独白はさらに続く。
「そりゃゲイニソとしていかにオイシくいじってもらえるか、そういうのがめっちゃ大事やってのは重々わかってんで?けど、俺はゲイニソですがちゃんの木目方であると同時にすがちゃんの、その、コイビトやねんから。
コイビトがひどい目に合うたりしたら大丈夫かーって手を差し伸べたなるのは、自然の摂理っちゅーか当たり前のことやん?」
「…………」
「俺らは人に笑われてナンボの商売やから、誰に笑われてもそれはそれでよしっ!ってガッツポーズすべきなんやろうけどっ。けどなあ?俺かて頭から水かぶって結構寒い思いしてんねんで?
別に収録中とは言わん、せめて終わってから『大丈夫やったか?』の一言ぐらいあってもエエんちゃったんかなーとか、まあそんなこと思ったわけよ、うん」
「…………」
「あ、別にこれ全然義務とかやないし。強要してるんとちゃうで?まあ仮に強要したところで、すがの耳に念ぶ…あっ、いやっ、ちゃうねん!ちょっと語呂がよかっただけで、別に我ながら上手いこと言うたなーとか思ってるわけやな―」
「……プッ」
「はいい?」
思わず聞き返してみたものの、それは確かに笑いを兆す声だった。
その声の主は京大の目の前で、わかりやすく口元を押さえながら肩を震わせている。
「ぷっ、ぷぷぷ……っ、ぶは~っははは~~~~~っ!!」
しばらくすると堪え切れなくなったとみえた大阪府大の、本日何度目かもわからない爆笑が室内に響き渡った。
98:関西だからおバカとは言わないで 7/9
10/02/19 03:16:00 drGiPSuQ0
「なっ、何が可笑しいねん!」
「いや、もうどっからツッコんだらエエかもわからんくらい、オマエっ……くっ、あっははははははは~!」
「だから笑うなや!!」
抱腹絶倒の木目方に怒鳴る自分、という図式になんとなく既視感を感じつつ、京大は笑い止まらぬ大阪府大の肩をガッと掴む。
「あー、しんど~。うじはらオマエさ~、俺を笑い殺す気ぃやろ?」
「そんな気ぃあるかい!って、何でまたオマエにここまで笑われなアカンねん!?俺結構真面目に答えてんねんぞ!」
「だーからー、そうやって真面目に答えとるからオモロイねんって」
「はあ?」
大阪府大は京大の肩にかかっているタオルで涙目を拭うと、京大を見上げニッと笑った。
「とりあえず女々しいとか草食系丸出しとか、言い様はいろいろあるんやろうけど、まあ一番端的に言うたらこういうことや」
そう言って、グイッと京大の腕を引き寄せ顔を近づける。
「オマエ、めっちゃカワエエなあ」
そして間髪入れずに、京大の唇にチュッと軽い口づけを落とす大阪府大。
99:関西だからおバカとは言わないで 8/9
10/02/19 03:17:09 drGiPSuQ0
「っ…!」
余りにも唐突で、しかもものすごく久しぶりのライトなキスに、京大の心臓が何故かドクンと跳ね上がる。
「あ、顔赤うなった。やっだ~、うじはらクンって思ってたより純情~。普段はあんなことやこんなことイッパイしたりされたりで、めっちゃエロいのにっ☆」
「すがちゃんっ!!」
真っ赤になった京大が長い腕を伸ばし大阪府大を捕らえようとするが、標的は小柄な体でそれをひらりとかわした。
「オマエ中学生とちゃうねんから、それくらいでそんな顔すんなって。それともアレか、もしかしてあんなもんじゃ足りひんとか?」
「~~~~っ!」
大阪府大の言葉にピキッ、と音を立てて固まる京大。
「あはっ、図星?もー、しゃあないなあ」
大阪府大はやれやれ、といった表情で京大に近づく。
そしてカチカチになったままの京大の首に手を回し、今度は深く口づけた。
「ふ、あっ…」
石化の魔法が解けたかのように、京大の腕がピクリと動いて、そのままそっと大阪府大を抱きしめる。
「魯山でカワイイって、本来俺のためにある言葉やのに…反則やで、ホンマ」
「すがちゃ……んっ…」
ちゅ……くちゅ…
水音も艶かしく、ふたりはいつしか激しく舌と舌を絡め合っていた。
100:関西だからおバカとは言わないで 9/9
10/02/19 03:26:15 nXmEHznsO
「あんなあ」
長いキスの後、まだ半裸状態の京大の肌に舌を滑らそうとしたところを当の本人に押し留められ、大阪府大はややむくれ顔で口を開いた。
「縄跳びん時オマエが来てくれてホンマに嬉しかったし、罰ゲームん時は席離れとったから直で言えんかっただけでちゃんと大丈夫か?って心配したし―とか、オマエそんなんイチイチ言われんとわからんのん?」
「いや、だって…」
「オマエに爆笑するのかて、オマエが好きだからこそやろ。俺だけが許された、言わばオマエのコイビトの特権やで?それくらい察しろやー!」
「う……」
さっきまでの甘い雰囲気もどこへやら、大阪府大の京大に対する『これは果たして喜んでいいものか』的微妙な説教は延々と続くのであった。
「オマエIQは高いけど、そういうとこはホンマにアホやんなあ」
「結局どっちに転んでも、俺はアホ扱いかい!」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
最後規制にひっかかってしまい申し訳ありませんでした。
この後大阪府大サマに「『すがの耳に念仏』って、母音が合うとるだけで全っ然おもんないから、今後二度口にすんなよ?」と念押しされ、神妙に頷く京大さんw
101:厄日(1/8)
10/02/19 03:49:20 t/xBTVRN0
エヌエチケーにて放送中の人形劇三十四より アヌス×谷やんです。
本スレの素晴らしい流れに感化されて書いてみました。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「これじゃあ、何をしに行ったんだか…」
今朝あった様々な出来事、そして頭を悩ませる枢機卿からの誘いについて考えるうちに、
いつのまにか下宿までついてしまった。気は乗らないが、今日は朝から行き先も伝えずに
出てきてしまったので、そろそろ戻らなければ不審に思われるに違いない。努めて平静を
装い下宿の扉を開くと、予想に反して室内は静まり返っていた。
2階の自分たちの部屋に上がっても静寂はそのままで、どうやらこの下宿の全員が全員今
は留守にしているらしい。正直ほっとした気持ちになって、自分のベッドに倒れこむと
深いため息が漏れた。無意識のうちに枕の下に隠している枢機卿からの贈り物に手が伸び、
その怪しい輝きに目を奪われてしまう。こんなものが欲しいわけではない、と常々思って
はいるのだが、そのまま傍に置いておけばただ危険なだけの宝石を手放すことができない
のはどうしてだろう。思わず「まいったなぁ」と独り言が漏れた。
102:厄日(2/8)
10/02/19 03:51:04 t/xBTVRN0
「確かにたいぶ参っているようだな。ダル」
あると思っていなかった返答に、ダルタニアンは慌てて起き上がる。声の主はゆっくりと
階段を上がってくるところで、とっさに毛布の下に宝石を隠した。
「アトスさん、おかえりなさい。
皆さん留守のようですけど、どこかにおでかけなんですか?」
「…まぁ、戦争も近いし色々ヤボ用があるんだろう。
そんなことより、お前今日は朝からどこに行っていた?」
内心ぎくり、としたのを悟られないよう、できるだけ何でもない風を装って
「ジョギングと散歩に」と答えた。
「ふうん。
…お前の散歩コースは、だいぶ遠いところまで延びているようだな」
そう言うが否や、何かを顔をめがけて投げつけられて一瞬視界が遮られる。あまりの唐突
さに抗議しようと思った声は、投げつけられたものが何かを確認してそのまま水蒸気の
ように消えてしまった。
“それ”は、昨日貰ったばかりの、見た目は多少粗末かもしれないが、想いのこもった
銃士隊の隊服、だった。そう、今朝枢機卿のところに置き忘れてきて、「後で届けさせる」
と約束してもらった隊服。
『何もアトスさんに持たせなくても…!』
さぁっと、血の気が引くのがわかり、思わず枢機卿を呪いたくなる。
103:厄日(3/8)
10/02/19 03:52:10 t/xBTVRN0
「ダルタニアン、枢機卿に何の用があった。 何を話したんだ」
「……言えません」
その回答でアトスが納得するわけがないことはわかっていても、それ以外に答えようがない。
「言えない、か。 おい、ダル。悪いことは言わん。
…痛い思いをしないうちに、全て打ち明けたほうが身のためだぞ」
やんわりと、だが明確に脅迫をするアトスに、この脅され方をされたのは二回目だ、と
かすかな記憶が蘇る。あの時はトレヴィル隊長の助け舟が入ったが、今回は救いの手を
差し延べてくれそうな人間に心当たりがない。自力で窮状を脱する以外にないのだが、
唐突すぎる展開に頭のほうがついていかない。
「…言えないものは、言えません」
「やけに強情だな。なんでそこまで枢機卿に義理立てする必要があるんだ」
じりじりと間合いをつめられ、気がつけば後ろはベッドと壁、前はアトスに挟まれた格好
で、このままでは逃げるに逃げられなくなってしまう。確かこういう場合
『逃げ場は前にしかない!』
と教わった気がするのだが、前に立ちふさがるのがそれを教えた張本人なのだから、そう
簡単に見逃してくれるとは、やはり思えなかった。
104:厄日(4/8)
10/02/19 03:53:04 t/xBTVRN0
「それとも、とても口にできないような事でもしてきたか」
勘違いも大概にして欲しいところだが、「じゃあ、何をしていたのか」と切り返されたら
どう答えば良いか、上手い口上も思い浮かばなくて。その言い訳を考える間の沈黙が変
な方向に作用したらしい。
「お前が誰のものか わからせてやる!」
不意を突かれてベッドに押し倒され、強かに頭を打ちつけてしまった。マットが安物なの
で、さしてクッションの役割をしてくれるでもなく、後頭部からじわじわと鈍痛が波の
ように押し寄せる。思わず
「痛った! 何すんです」
か、そう叫びかけた抗議の声は、そのまま荒々しくされた口付けによってかき消されて
しまった。あごを掴まれ無理やり上向かされると、口の中を蹂躙するような乱暴なキス
に上手く呼吸もできなくて、息苦しさから逃げようと力一杯抵抗をしてみてもアトスは
びくともしない。酸欠の苦しさに涙がにじんだ。
ようやく唇が解けると急激に空気が肺に流れ込み、げほげほと情けなくも咳き込んでしまう。
105:厄日(5/8)
10/02/19 03:54:06 t/xBTVRN0
その苦しさに恨みがましくアトスを睨み付けるが、そのアトスの視線は何故かこちらには
向いていなくて。その視線の先を確認して、体中の血が凍りつくかと思った。
そこには、燦然と輝く“罪”の証があった。
「これは、どうしたんだ」
言えない。この状況で言えるわけがない。
「言い訳は必要ないぞ。俺は、これに見覚えがあるからな」
「あの、違うんです」
何が何と違うと言いたいのだろう。自分でも良くわからない。
「言い訳はいいって言っただろ!」
その激しい剣幕に圧倒されてしまい、覆いかぶさるように再びベッドに押し倒されて、
シャツを繋ぎ止める皮ひもを力任せに引き抜かれても、その下のベルトに手が掛けられても、
抵抗らしい抵抗もできなかった。アトスと体を重ねるのは、なにもこれが初めてではない。
それなのに、こんなにもアトスが怖いと思ったことはかつてなかった。
こんなやり方は『嫌だ』と大声で喚きたかったが、決定的な証拠を見咎められた後ろめた
さと、何か言えば、更なる怒りを買うだけなのではないかという恐怖が口をつぐませる。
106:厄日(6/8)
10/02/19 03:59:02 t/xBTVRN0
「お前が、こんな“やり手”だとは知らなかったよ」
こちらの意志などお構いなしに続けられる行為と、嘲るような口調になけなしの自尊心も
手ひどく傷つけられて、もう誤解だろうが何だろうが、なるようになればいいと思えてきた。
本来なら、誤解は解くように努めるべきだったし、枢機卿のところへ出向いた理由や転がり
出てきた宝石のことだって沈黙で返したりせずに、それなりに取り繕えば良かったのだろ
うが、『本当に知られたくないことは何なのか』すらもうわからなくて、何もかもが面倒だった。
その誠実でない態度が招いた“罰”は天罰覿面とばかりに自分に返ってきて。
…愛情の欠片もない行為が、こんなにも辛いとは知らなかった。
胸の突起を弄ぶ手つきも、わき腹や内股をなぞる愛撫も、全てが邪険にされている気がして、
いつもなら夢見心地で全身を蕩けさせてくれるそれが、今日はただ怖いとしか思えない。
それなのに身体だけは刺激に敏感で、意志に反して浅ましく快楽を貪り『もっとして欲しい』
と主張をする。
性急に攻められて吐き出した精を潤滑油代わりに、指で後ろを慣らすのもいつにはない
乱暴さで、気のせいではなくわざとそうされているのだとわかって、鼻の奥がつんと熱く
なった。こんなことで泣いたりなんかしたくないのに、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
107:厄日(7/8)
10/02/19 04:02:15 t/xBTVRN0
「泣くまで我慢する前に、正直に全部白状しちまえば良かったのに」
「だって…」
「洗いざらいしゃべる気になったか」
「…ごめんなさい。今は、まだ。 考えがまとまらなくて」
「ふん。 強情だな」
その言葉は少し呆れたような口調ではあったが、さっきまでの怒気はほとんど感じられ
なかった。
「まあいい。今は、ってことは“そのうち”話してくれるってことだろ」
そのうち、か。確かに遅かれ早かれいつかは結論を出さなくてはいけないのだ。そのとき
は、好む好まざると関係なく全てが白日の下に晒されることになる。
出した結論によっては、この関係もそれまでのままとはいかない。でも、その瞬間が訪れる
まではできるだけ甘い夢を見ていたいと思うのは、…きっとただの我侭なんだろう。
ぐるぐるとした思考を停止させたのは、両足をいきなり抱え上げられた事に対する驚きで、何事かと視線を向けるとアトスと目が合った。
「考え事は終わったか」
「…え?」
108:厄日(8/8)
10/02/19 04:04:22 t/xBTVRN0
「じゃあ、お仕置きの続きだ」
「って、えええぇぇ?!」
こっちの抗議もさして気にする風でもなくぐっと挿れられたそれに、慣らされているとは
いえ圧倒的な異物感は拭いようがない。その上身構えもできないうちに貫かれたから、
最初の衝撃を受け流すこともできなくて。お仕置きだといってたアトスの言葉に偽りは
なく、後はひたすら泣き続ける羽目になった。
「誰か帰ってきたらどうするんですか…こんな」
「しばらくは誰も帰ってこねえよ」
「なんで、そんなことがわかるんですか?」
「お前の秘密を話してくれたら、教えなくもないが」
「…ならいいです」
まだ昼前だというのに今日はもう何もしたくないほど疲弊しきって、他の皆が何をして
いるのかなんて、そのときは考えようとも思わなかった。アトスが帰ってこないという
ならそうなのだろうと、不自然ではない程度に身繕いをすませると生理的欲求に身を
任せて眠りに落ちた。
それが幸か不幸かは、まさに神のみぞ知る というやつだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お目汚し失礼しました。
109:BUTTERFLY(1/4)
10/02/19 18:34:43 9zoVBP470
ブソレンよりヴィクバタ(爆)
>>11-14の続きっぽいものです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「君は誰だ」
かの高貴な女性にちなんだ名を冠した流暢なイギリス語に呼びかけられ、ヴィクターはわずかに顔をあげた。
船員や船長の粗野な言葉ではない。
話しかける流麗なクイーンズイングリッシュは、貴族的な響きすら含んでいる。
ゆっくりと目を上げると、長身のシルエットが見えた。顔はよく見えない。
仕立てのいいインバネスマントを羽織っているのはわかる。髪はおそらく黒い。
なにより目を引くのは、蝶々の形に整えられた見事な口髭だった。
バタフライ、と朦朧とした意識の中そんな言葉が浮かんだ。
110:BUTTERFLY(2/4)
10/02/19 18:35:17 9zoVBP470
「私は、蝶野爆爵」
「…チョウノ・バクシャク?」
耳馴染みの薄い発音に、思わず問い返してしまう。
てっきり貴族かよほど伝統のある資産家の英国人かと思っていたが、外国人なのだろうか。生粋の英国人でもこれほど美しい英語を話す者は少ないだろうに。
なにより、発音しにくい。
船倉で密航を発見されたヴィクターは、なぜだか目の前の男の客として船室のベッドに横たわっている。
いや、理由は分かっている。この男は、錬金術を知っている。その事実が、ヴィクターをひどく警戒させた。
だがこの部屋に運び込まれてから、男は錬金術についてヴィクターに訊ねることはなかった。
それに安心したわけではないが、気が緩んだのか、数日発熱した。
朦朧とした意識ではっきりと覚えてはいないが、その間彼が傷の手当てや看病をしてくれていた気がする。
ヴィクターのエネルギードレインは、たとえ本人の意識がなくとも常時周囲の生命から自動的に行われる。それを思えば、いささかの申し訳なさをあとになってヴィクターは感じた。
ようやく熱が引いてから、自身の部屋を明け渡した男が再びヴィクターの前に現れた。
そしてヴィクターの体調を訊ねてから、自己紹介がまだだった、と名を名乗った。
「この船は日本へ向かっている」
「日本…」
ならばこの男は東洋人か。髪や目の色が黒いのはそのためか。しかし港などで見かける苦力(クーリー)と肌の色が違う。彼らよりはるかに白いが、かといって西洋人のように透けるような肌の色ではない。どちらかというと…。
「アイボリー…」
「ん? 象牙?」
「あ……いや…」
肌理の細かな肌は象牙色をしている。日本人の肌とは皆こういう色なのだろうか。
ヴィクターは相手の男をじっと見つめた。
111:BUTTERFLY(3/4)
10/02/19 18:35:45 9zoVBP470
「食事は口に合っているかね?」
「……食べられるなら、なんでも」
「夢のないことを言うな、君は。食事は身体の栄養だけではない。よい食事は心も満たす。食事を楽しまずに過ごすのは人生への冒涜でもある」
チョウノ、という男の言葉にヴィクターは失った家族との食卓を思い出す。
戦いの日々の中ではありながらも、3人で過ごした穏やかな時間は何物にも代えがたい。
けれど同時にそのあとの悲劇を思い出す。
「…」
黙り込んだヴィクターに、男は小さく肩をすくめた。
「まぁいい。食べたいものがあれば言いたまえ。可能な限り手配しよう」
「………」
「それから、目的地は日本だが、君が望むなら航路を変更することも可能だ。今は喜望峰経由のインド航路を取っている」
「………キミは何者だ」
なんでもないことのように口にされた内容に、さすがにヴィクターは驚いた。
こんな船上で、賓客のごとくもてなされ、むしろ船長以下を配下のごとく扱い、航路の変更にまで一存で決めてしまえる彼は何者なのだろう。
「私か」
ふむ、と男は髭を撫でた。
「日本人、貿易商、この船の船主、医師、…………錬金術の探究者」
はっとして、ヴィクターは身を固くした。
久しぶりにALCHEMYの単語を耳にした。
さりげなくとヴィクターの反応を観察していた男は、小さく笑った。
「どれでも好きに思いたまえ。外国からの新しい学問に心奪われているだけの半人前の学者、錬金術の力を使って国家転覆を企む大悪党、それとも…」
「いや…」
ヴィクターは首を振った。
一目でヴィクターの胸の印を錬金術の技によるものと見抜いたところを見れば、一介の学者ではない。
悪人と言ってしまうにもためらいが残る。
「……今は、結論は出さない。キミが何者か、私は私の目で見極めよう」
112:BUTTERFLY(4/4)
10/02/19 18:36:35 9zoVBP470
瀕死の密航者をわざわざ匿い、自身の身の危険を押してさえ錬金術にこだわるのはなぜなのか。
ヴィクターに近づけば、それだけで生命力が奪われるのはもうすでに学習しているだろうに、いまだに数歩の距離にまで歩み寄ろうとするのはなぜなのか。
「キミに興味がわいた」
「それは光栄だ」
男が笑う。
そういえば他人の笑顔を見るのも久しぶりだ。彼は実に楽しそうに笑う。
「ミスター・パワード、私は君に最大限の助力を差し上げよう」
「…だが、錬金術について教えるとは言っていない」
「それについては、保留としておこう。君にも深い事情がありそうだ」
あっさりと引かれて、ヴィクターは一瞬驚く。なんだか虚を突かれたような気分だ。
「……いいのか。私が口を割らない可能性もあるぞ」
「まず君の存在そのものが、錬金術の可能性を示している。それだけでも今の私には充分だ」
ヴィクターは眉を寄せた。
「それにしても、この疲労感の理由くらいは、教えてもらいたいものだがな」
額に浮いた汗をハンカチでぬぐいながら、男が呟くように言った。
「………バク…あー?」
「バクシャク、……そうだな、言いづらければバタフライとでも」
「バタフライ?」
「蝶野家は昔からバタフライをシンボルにしている」
「だから、その髭か」
「これは私の趣味だ」
「…そうか」
妙な男だ、とヴィクターは思った。同時に、胸の内におかしみがほんの少しわいてきたようだった。
あの悲劇の日から、忘れ去ったと思っていた温かい何かが、心の中によみがえった気がした。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
夢見すぎと罵ってくださいorz
お目汚し失礼しました。
113:風と木の名無しさん
10/02/19 23:55:01 I0E7rlcOP
>>112
GJ!人間不信に陥ってたヴィクターが、初めてかつ唯一心を
許したのが爺様だったんだろうなあ…
114:il間棒長缶1/4
10/02/20 16:32:27 Ufy50/Ur0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| さらっと短め。ハードはまたね。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| お目汚し失礼。
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
115:il間棒長缶2/4
10/02/20 16:33:35 Ufy50/Ur0
彼に呼び出されるのは初めてのことだった。
連絡が入ったのは一昨日。
もちろん極秘で聞きたいことがあるという。
昨夜は遅くまでレポートを仕上げ、少し疲れている。
今までの特/命で関わった事件をまとめ上げ、詳細を記す。
内容は全て頭に入っていた。
間棒長が缶部を呼び出したのはシティホテルの一室だった。
「缶部です。入ります」
「急に呼び出して悪かったね」
「いいえ、かまいません。大至急レポートを・・・」
「それより上着脱いで」
「は?」
「盗聴機、仕掛けられたりしてない?」
「まさか?」
「一応、確認してみてよ」
ジャケットを脱ぎ、あちこち探ってみる。
「ありません」
「後ろ向いてみて」
壁を見て間棒長を背に立つ。
後ろからベットの上に倒された。
「何するんです?!」
遠慮のない視線が上から全身に投げつけられる。
缶部は今日ここに呼び出された意味を悟った。
・・・さっさとこの部屋を出て行けばいい。間棒長は俺を力ずくでどうにかできやしない。
その後も知らぬ顔をしてれば・・
116:il間棒長缶3/4
10/02/20 16:34:25 Ufy50/Ur0
「君はSなんでしょ。自分の立場はちゃんとわかってるんじゃないかしら」
その諭すような柔らかくも確信を持ったもの言いに
缶部の全身の力が少しずつ抜けていく。
・・・大公知の顔が脳裏に浮かぶ。
・・・迂闊だった。すっかり油断してしまっていた。
特殊な仕事のせいで疲れてるのか
今までも先輩や上司の視線には慎重に警戒し、うまく回避してきたのに
間棒長のそれにはまったく気づかないなんて。
天井を見上げ、ため息を一つ、つく。
「間棒長に逆らうつもりはありません」
シャツのボタンが一つ一つ外されていく。
「君は頭がいいもの」
白い肌があらわになった。
首筋から下へ遠慮なく肌をまさぐってくる。
恥ずかしさに声が出そうになるのを堪える。
こんなことは初めてじゃないし、何でも無い。
逆に弱みを握ってやる。
そう頭の中で繰り返しながら、その時を声を殺して堪えた。
117:il間棒長缶4/4
10/02/20 16:35:48 Ufy50/Ur0
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
| | | | ピッ (・∀・ )
| | | | ◇⊂ ) __
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お付き合いありがとうございました。
118:風と木の名無しさん
10/02/20 16:49:39 XpTdZhPb0
>>117
うわぁぁぁぁ!感傍聴缶!感傍聴の台詞がナチュラルにあのボイスで再現されました。
その後、缶は傷付いた心を隠して何でもない顔をしてラムに会いに行ったりするのかなぁと
妄想してしまいました。萌えをありがとうございます、姐さん!
119:風と木の名無しさん
10/02/21 04:32:13 DKXu2efgO
>>117
うはっ!姐さんGJ!この後がめっちゃ気になります!監房朝刊ねっとりしたエロさw
缶は今までもこんな事が度々…大変だな缶
他の人に抱かれた後でもクールな顔してラムや板に会うのかね…
板なら知ったら嫉妬が凄そう。
120:1/4
10/02/21 22:21:31 WYqSESx/0
服蜜シゲユキの作品「life」(和訳)から
主人公とその仲間。若干仲間→主人公気味
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
何し…えっ? 何、何してんだろう、僕。ていうか、あれ、駄目だ、なんか分かんないぞ……
「泣くなって、なぁ」
泣く……僕は泣いてるのか。
あ、ほんとだ。すっごい顔濡れてる。
しかもなんか、この人の胸に顔埋めてるぞ……何やってんだ僕は……
そうだ、僕は。あの子が、別に好きだなんて言ってなかったけど、あの子が可愛かったから、多分ちょっと好きで。
たまに聞く話からあの子がそんなに幸せそうな感じじゃないって分かって、それで、だから、僕が幸せにしたいとか思って。
違う…違う……分かってる。
僕は別にそんなに好きだったわけじゃない。ていうか可愛い女の子なら誰でも良かったし、
ただ僕の一番近くに居た子があの子だったから。なんかあの子は僕を裏切らないぞとか、勝手なことばっかり思って……
そりゃそうだよ、迷惑に決まってる。あの態度。あの態度!!
「うっ、うっうっう~! ぼ、僕は、なんかもう…なんで…」
あそこ辞めたらどうするんだ。僕なんか雇ってくれるところが他にあるはずがない。
一生犬の散歩をしていくなんてまっぴらごめんだ。
一回でいいから女の子のおっぱいを思う存分揉みたい。
あと可愛い子を侍らせて街を歩きたい。でもそれはなんか僕みたいな人が可哀想だからやめよう……
「大丈夫だって、な?」
「すっすいません、ありがとうございます…」
121:2/4
10/02/21 22:23:12 WYqSESx/0
…そういえば、僕から押し掛けておいてなんだけど、なんでこの人こんな優しいんだろう?
最初会った時からそうだった。僕が暴れてたのを捕まえたのはこの人なのに、警察にも行かないで、付き合ってくれて。
どうやって声かけていいか分かんないから、毎回変な言い訳つけて、
「コーラ飲みましょう」とか、わけが分からないことを言ってたと思うのに、全然受け入れてくれた。
なんでだ?
顔を上げて見てみるけど、別にそんなに悪い顔じゃないと思う。いい人だし、……あれ? いい人ってだけ、か?
そうだよな、別にこの人は、お金持ちじゃない。職もない。強くもない。
コンビニのバイトだけで毎日過ごしてるんだ。いや僕はバイトもしてないんだけど。
「不安じゃない、んですか?」
ふっと僕を見下ろしてから、困ったように眉尻を下げた。この顔、何度も見たことがある。
やっぱり僕のこと、扱いにくい奴とか思ってるんだろうか。
「何度も言っただろ、不安でしょうがないって」
「じゃ…じゃあなんで、僕なんか慰めるんですか?」
「お前が出てかねーんだろ」
決して嫌悪感や怒りの混じった言葉じゃなかったけど、それは僕の胸にはグサッと刺さった。
ああ、駄目だ。こういうちょっとでも突き放した言葉でふらふらするだけ、やっぱり僕は社会不適合者なんだ……
「すいません、出てきます…」
「え? もう深夜だよ? 電車ないし」
「歩いていきます」
無理だ…僕にそんな根性があると思えない。第一出歩いたらあいつらに出くわすわけで、それだけでも辛い……
122:3/4
10/02/21 22:24:26 WYqSESx/0
胸がチリチリした。またこの人と出会う前みたいに、色んな人に迷惑をかけている自分を想像した。
今度はあいつらに捕まるのか。いや、僕なら倒せるんじゃないか?
……あれ?
最初会った時、僕はどうして、この人を無視して行かなかったんだろう。
今の僕なら、見捨てる、多分……それは僕が強くなったからじゃなくて、優しくなくなったんじゃないか?
あれ? いや? 僕は優しかったのか? それはないだろ……あれだけ暴れてて、優しいとか……
「そっか」
また変な風に思考がずれていた僕に、ふわっとした声が入ってきた。
この人の声は、街のムカつく奴らと違って、音じゃなくてちゃんとした言葉に聞こえる。
「寂しくなるな」
寂しく……なるって。
「……僕、あなたにとって、必要な人ですか」
………ハッ
な、ななな、何を言ったんだ僕は! 必要な人ですかって! 気持ち悪いだろ普通!
なんかもう、面接でも聞かないよそんなこと! ああああ、やばい、顔見れない、に、逃げよう!
「うん」
123:4/4
10/02/21 22:26:15 WYqSESx/0
「………え?」
慌てて背中を向けた僕に、肯定の言葉が聞こえてきた。幻聴、じゃないよな?
「正直、お前と会ってから、めんどくさいことが色々あったけど、結局またこうやってコンビニでバイトしてるし。
…あの子も、おじさんも、居なくなっちゃってさ。だから俺が手に入れたのは、お前だけだよ」
あっいや手に入れたって図々しい言い回しだけど、と何やら訂正が入ってくる。だけど僕は全然その言葉を聞く気になれない。
だって僕は、全然、仕事とかできないし。家族からもなんか奇異な目でしか見られてないし。女の子とも話せないし。
おっぱいどころか手も繋いだことないし。あったとしても不意打ちだし。
「ぼ、僕は……」
「うん」
「…うっ。う、うっ、うわあ~ん!」
「あああもう泣くなって、男だろお前」
ぐしゃぐしゃと頭を掻き回された。優しい。どうしよう。
女の子だったら絶対好きになってるとか結構前から思ってたけど、もう普通に好きだ。
人間性とかそういうところが本当に好きだ。ホモじゃないけどこの人は好きだ。
「俺明日もバイトだからさ、ほら、もう寝ようぜ」
駄目だ、僕は……もうなんか、色々と駄目だ……
頼むからこれ以上優しくしないでほしい。あっでも冷たいこと言われるのも嫌だ。とりあえず、なんか……
………バイトでも、探そう。
「おやすみ」
数年振りに聞いた言葉に、僕はまた泣きそうになっていた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
続き知らないからよく分からないけど、とにかく萌える…
どこかに同志が居ることを期待します。続編楽しみ。
124:霖雨1/8
10/02/24 01:10:03 LxGg8mwFO
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの飛来×武智。気が迷いまくってエロがアル。
痩せた、と思った。
その日、雨は夜になっても降り止まなかった。
帰り仕度をする為に、人気の無くなった道場の引き戸を締めてゆく。
そして振り返った背後の神棚の前に一人座す武智の背中を見留めた時、飛来は思わず胸の内で
同じ言葉を繰り返していた。
痩せた。
見間違えではおそらくない。
もともと背が高いのもあって、けして恰幅良く見える体格の人ではなかったが、それでも
この所の一目見て線細い印象は、もはや誤魔化しが効くものでは無くなってきているように思える。
原因は何か。
思いあたる事は多々あった。
江戸に来航したと言う黒舟。国を開いた幕府。
その弱腰に憤りながらも、どうする事も出来ないこの国の下司の焦燥感。
そんな中でこの人の肩にかかる皆の期待は大きい。
才高く、人望も厚い。
だから信奉し、集ってくる者達の中には、しかし自らの思考を止め、安易にすべてを委ねようとする
輩も少なくない。
そんな者達は撥ねつけてしまえばよいのに、と自分などは思う。
しかしこの人はそのすべてを受け入れ、抱え込もうとするから。
そして人一人ではどうする事も出来ない壁に当たり……追いつめられていく。
「先生、戸締りはわしがしておきますきに。雨も強うなってきましたから、今日は戻られて下さい。」
胸が詰まるような、そんな想いを振り払うようにわざと明るく飛来は声をかける。
けれどそれにも武智が振り返る事はなかった。
「いや、わしはもう少しここにおる。おまんこそ今日はもうええぞ。」
代わり、道場内に通った静かな声。
それに飛来はまたしても思う。
125:霖雨2/8
10/02/24 01:11:19 LxGg8mwFO
いつの頃からだろう。この人が家に戻る時間を徐々に遅らせるようになったのは。
そして……いつからだろう。
この人の雰囲気が、今にも切れてしまいそうな糸のように、張りつめたものになったのは。
「先生、いかんちや。戻って休んでください。なんやここんところ顔色が悪い。
なんならわしが家まで送りますきに。」
適当な理由を付け、なんとかここから去らせようと思う。
そしてゆっくりと背後に近付きその手を伸ばせば、しかしそれはこの時、気配を察した武智から
手厳しい反撃を喰らった。
「ええ言うちょるやろっ」
鋭い語調と共に、差し出した手を払われた。
その勢いの強さに飛来が驚く。しかし驚いたのは自分だけではなかったようだった。
「…………っ…」
無言のまま振り仰ぐように向けられた、武智の顔にもこの時、自らの行為に驚いたような
色が浮かんでいた。そして、
「すまん…」
短な謝罪と共に、振り返りざま立ち上がろうとしてくる。
立てられる膝。
しかしその体はこの時不意に、飛来の目の前で落ちるようにその均衡を失った。
126:霖雨3/8
10/02/24 01:14:52 LxGg8mwFO
「武智さん?!」
咄嗟に名が出、腕が出ていた。
斜めに崩れ落ちようとする体を受け止めようとする。が、目眩を起こしたらしいその体はこの時
ひどく重く、それゆえ飛来は腕にした武智ごと自分も床の上に激しく倒れ込んでいた。
ガツッと嫌な音を立てて肘を打ち、それでもその腕の中に巻き込んだその人の頭を庇う。
そのままの体制でしばし痛みに耐え、痺れにも似たそれがようやく治まったと思ったと同時に声が出た。
「大丈夫ですかっ、武智さん!どこか打っちょりませんか?!」
慌てて体を起こし、確認する為にその顔を覗きこもうとする。
道場の中は暗かった。
外は雨。蝋燭の灯りはすでに消されており、体を起こせばその分だけ床に重なる影の闇が濃くなる。
その向こう、この時武智からの返事は無かった。その代わり、
「……いて…くれ、…じろう……」
耳に届いたのはどこか震えるような、掠れた声。
はっきりとは聞き取れず、だからもう一度聞き直そうとする。
しかしそんな飛来に、武智は今度は下からその腕を伸ばしてきた。
「どいてくれっ…周二郎…っ」
白い道着からまっすぐに伸びた手が、迫っていた飛来の肩を押し返そうとしてくる。
突っ張るような力を込めて。しかし驚いた飛来がそれに咄嗟に反応出来ずにいると、その手は
やがて形を拳に変え、強い力で数度自分の肩先を叩いてきた。
「どけっ!」
もはや頼む体裁をも失った口調で叫ばれ、眼下で激しく身動がれる。
それは飛来がこれまで一度として見た事が無いような、武智の取り乱し方だった。
だから呆気に取られると同時に、飛来は思わず反射的にその腕を取り押さえようとしてしまう。
「どういたがですか、武智さん?落ち着いて下さい!」
振り上げられる手首を掴み、なんとか気を静めさせようとする。
けれど暴れる者の力と言うのは片手間に抑えられるようなものではなくて。
「武智さん!」
気付けば叫ぶ激しさと同じ全身の力で、飛来は捕らえた武智の手首を道場の堅い床板に押し付けていた。
127:霖雨4/8
10/02/24 01:17:11 LxGg8mwFO
「しっかりしてつかあさい!」
身を伏せるような姿勢でもう一度大きく訴える。
しかしそんな飛来の懇願も今の武智には届かず、そのままどれくらい同じ体勢で固まっていたのか。
「いや…じゃ……」
不意に聞こえた小さな呟き。
それにハッと飛来が反射的に上半身を起こすと、そんな己の下で武智はこの時、それまでの
極度の緊張からか、ぐったりと力を失ってしまっていたようだった。
そんな様子の中、まるで覆い被さる影から逃れようとでもするかのように反らされた横顔の、その歯の根が
合っていないのがわかる。
痛々しいほどに張りつめていた糸が、完全に切れてしまったかのような姿。
それに飛来は瞬間、早く上からどかなければと思った。
本当にそう思った……なのに体はなぜか、僅かなりとも動こうとはしてくれなかった。
尊敬。憧憬。崇拝に近い思慕。
長年近くにありながらけして手が届かないと思っていた存在の、脆く崩れた姿を目の当たりにした時、
そこに沸き上がったのは物狂おしいような愛しさと……それさえも通り越した先にあった欲望だった。
だから思う心とは真逆に、ゆっくり手首から離された飛来の手はこの時、半ば無意識の動きで眼下にあった
白い道着の襟元にかけられる。
そのまま抗う間を与えず、それを左右に乱暴に肌けると、夜気に晒した首筋に吸い寄せられるように
顔を埋めた。
我を忘れたように夢中で貪る、初めて触れた肌の感触。
「やめ…っ…周二郎、やめいっ…」
体の下から再び弱々しい悲鳴が上げられても、己の中の衝動を止める事が出来ない。どころか、
何をされるのか、この人は知っている。
それに気付けば耳に届く悲痛な叫びは、飛来にとってむしろ激しい煽りとなった。だから、
「……酷うは、しませんきに…」
囁いた、もう止められない自分の欲望。
そして腕を回せば痩せたとはっきりわかる体を強く抱き締めれば、それに武智はこの時、
ただ絶望したような息を呑んだ。
128:霖雨5/8
10/02/24 01:19:15 LxGg8mwFO
男の言葉など当てにはならない。
大切に優しくしたいと思う心が、触れる傍から崩れてゆく。
「あ……ひぁ…っ…ん…」
引き下ろした道着で腕を後ろ手に取られ、抗いもままならない武智の体を、飛来は貫く。
指と舌で丹念に慣らしはした。
それでも長年自分の中に積み重なっていた劣情は、一度堰を切ればもはや止める事が出来なくて、
衝動のまま膨らむ怒脹を性急に受け入れさせれば、狭いそこは途端軋むような震えを帯びた。
きつい強張りに、半ばも行かぬうちにそれ以上進めなくなくなる。だから、
「ゆっくりでええですきに、力を抜いてつかあさい。」
宥めるように告げ、飛来は抱く相手のその頬に片手を寄せた。
しかしそれにも武智はただ荒い息を吐き、応えようとはしない。
その様にはもはや拒絶する力が無いだけで、けして受け入れている訳ではないのだと言わんばかりの
武智の心が伝わってくる。
だからそれに飛来は焦れた。
一つを手に入れれば、次が欲しくなるきりの無い欲。
体の奥底から突き上げてくるそんな暗い感情に煽られるように、飛来はこの時自分の体を起こすと
組み伏す武智の腰の下にその腕を回していた。
力を込めて引き上げ、座した自分の膝の上に抱えあげる。
途端、解かれていなかった繋がりが一気に自重で深くなり、それに武智が声にならない悲鳴を上げる。
仰け反る肌に緊張が走り、本能的に逃れようとその身が捩られる。
けれど飛来はそれを許さなかった。
どころか逆に引き寄せた胸元へ唇を落とすと、そこにあった突起を捕らえる。
一つは舌で。もう一つは這い上がらせた指先で。
舐め、捏ね、転がし、執拗なまでに時間をかけて腕の中の肌の緊張を解こうとすれば、それに武智の唇からは
やがて呻くような声が洩れだした。
129:霖雨6/8
10/02/24 01:22:09 LxGg8mwFO
「…ぅ…くぅ…あっ…」
固く目を閉じ頭が弱々しく打ち振られる。が、そんな拒絶の仕草も飛来が緩やかに下からの突き上げを
再開させれば、徐々にその様相を変えてゆく。
「…あ…やぁ…っ…ぁ…」
小刻みに揺さぶられ、隠せぬ艶が声に滲み出す。
体を支える足にはもはや力が入らないのか、されるがままゆっくりと体を深く開かれていく感覚に
追いつめられた肌が、手の中で火照りを帯びた。
溶けてゆく。
あらためて気付く、それはけして初めてではありえない、快楽を知る体だった。
だが飛来は今、それをどうでもいいと思う。
何があったのか、この人が語らないのならばけして聞くまい。
それでも腕の中にあるこの存在は、今は自分だけの物だった。
気付けば貫く楔を根元まで受け入れ、熱い襞を無意識に絡みつかせてくる武智の腰が、飛来に
同調するように揺れ始めていた。
それを受け止めながら飛来はこの時、武智の後ろ手に纏わりついていた道着をその手首から抜いてやる。
自由になった手が自分にどう向けられるのか。
拒まれるか、縋られるか。
果たしてその指はその時、彷徨い辿りついた肩先に強く爪を立てた。
「あぁ……ぁ…あっ…」
重ねる肌に胸と下腹部の熱を擦られ、あげる喘ぎを懊悩とした啜り泣きに変えてゆく武智に
引きずられる様に堕ちる、重く甘い泥の中を這い回るような快楽。
「武智…さん…っ…」
名を呼び穿つ、その内襞に逆に強く締め付けられ、飛来は刹那堪え切れなかった己の精を
武智の中に放っていた。
奥深くまで注ぎ込まれる、その熱い感触に腕の中の武智の体が跳ねる。
と同時に武市の欲もこの時、短な悲鳴と共に重ねた互いの腹の間で弾けていた。
抱き止めた背筋に走る一瞬の強張りと、その後に襲う脱力感。
崩れる。
そう思った瞬間、飛来は武智の唇が動くのを見た気がした。
微かに開かれた、その隙間から零れ落ちたのは人の名らしきもの。
自分のものではない。ならばそれは誰のものなのか。
この時の飛来に、その答えを知るすべは無かった。
130:霖雨7/8
10/02/24 01:24:34 LxGg8mwFO
引き戸を開ければ、外の雨は尚も強く降り続いていた。
しかし飛来はこの時、そんな雨に濡れるのも構わず庭へ下りると、井戸の蓋を外し、手にしていた桶に水を汲む。
そしてその中に自分の手拭いを浸すと、足早に道場の中へと戻った。
足を踏み入れたその先に、武智はいた。
灯りの無い道場の薄暗い闇の中、起こした上半身に掛けられている白い道着こそひどく着崩れてはいたが、
その背には数刻前と同じ、孤高とした空気が戻っている。
だから飛来はそれに気圧されるように、少し距離を置いた背後に座すと、手の桶を静かに差し出していた。
「…使うてつかあさい。」
懸命に声を絞り出す。
しかしそんな自分に返される彼の声は、この時無かった。
ひどく居た堪れない。
自分がそんな事を思う資格は無いのかもしれないが、それでも落とされる沈黙はまるで針の筵のようで、
飛来はしばし歯を食い縛ると、ついには耐えられぬようにその場から立ち去ろうとする。
「戸締りをしてきますきに。」
だからその間に、と逃げを打つ。
そのずるさが伝わったのだろう。
「…わしは…ええ…」
不意に耳に届いた細い声。それに飛来がハッと顔を上げると、武智はもう一度、しかしけして後ろを
振り向かぬままその言葉を発してきた。
「おまんが…使え…」
「……………」
「きれいな体や、無かったろ。」
汚れたのはむしろそちらの方だろうと、暗に告げられた言葉の語尾に自嘲の色が滲んでいるのがわかる。
だからその響きに飛来は刹那、胸に切り刻まれるような鋭い痛みを覚えていた。
すぐ否定の言葉を告げたかった。ただひたすらに謝りたかった。
しかしそれはこの人を更に深く傷つけるような気がして、ままならぬ想いに手が膝の上、きつく拳を握る。
それでも……このまま黙っている訳にはいかない事もわかっていた。
だから、
131:霖雨8/8
10/02/24 01:26:37 LxGg8mwFO
「武智さん……」
名を呼び、膝立ちに身を起こす。
静かに迫るその背後、起き上がる事は出来てもそれ以上の力は入らず、投げ出されたようになっていた
武智の手の上に、この時飛来は自分のそれをそっと重ね置いていた。
脅えられるのは覚悟の上だった。
実際、触れたその甲には瞬間、隠しきれない震えが走る。
咄嗟に引かれかける。けれど飛来はそれを瞬間握り込む事で逃がさなかった。そして、
「側に……おらせてつかあさい……」
懇願した。
この人が汚れているなどとは思わない。思うはずがない。
だから、多くは望まない。いや、もうこれだけでいい。
近くで声を聞き、目に姿を映し、それを見守る事が許されるのならば、自分は……
重ね、上になった己の手の甲に身を折る様に額を押し付け、飛来は祈る。
「後生ですきに…」
繰り返す。その願いに、それでも武智は初め何も応えなかった。
ただ凍ったように、その姿勢を正し続ける。
頑ななまでに清冽に。けれど、
「………じゃ…」
それがほんの一瞬、揺らぎを見せた。
辺りは外降る雨の音に満ちていた。
強く、単調に、いつまでも。
その音の帳に密かな呟きが滑り落ちる。
「おまんは……阿呆じゃ…」
力無く、そこには怒りも嘲りも無く。
ひっそりと零された武智のそのいっそ幼い声の響きに、飛来はこの時、胸の奥深く誓いを抱く。
許されるのならば、そばにいられるのならば。
自分はこの人の為にどんな事でもしよう。
それが例え……人の道から外れる事であったとしてもだ。
顔は見ず、ただ手だけを重ね、二人静かに身を沈める闇の底。
聞こえる雨の音は、いまだ止む気配を見せなかった。
132:風と木の名無しさん
10/02/24 01:28:10 LxGg8mwFO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
書き終わってから、同じシュチュでも爽やかに起き上がるのがリョマ。
ガッツリいくのが飛来だと気がついた…
133:風と木の名無しさん
10/02/24 01:32:53 FDEVVhcn0
>>132
うおーリアルタイムで初めてみた
姐さんもしかして二作目ですよね……?違ったらごめんなさい
とりあえず801小説で萌えるより泣くとは思わなんだですw
文章上手いなあ。
134:風と木の名無しさん
10/02/24 19:54:06 o1AQ+AofO
>>124
どうわあああああ!!泣き萌えた!
帰宅して早々素晴らしい作品見せてくれてありがとう姐さん。
テンテーせつないよテンテー。でも萌える。
ガッツリいくんだな飛来w
135:猿とシラミ 1/7
10/02/26 23:29:27 CgKN7Hsz0
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < 某国が801と八百長を
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < 勘違いしたのに便乗
i | |/ ||/ | (⊃ ⊂ |ノ~
| | / , | (・∀・; )、 < 動物の猿と昆虫のシラミ注意
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )! ※Not擬人化
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ"
↓が元ネタ(?)です
1 名前:Koreans[] 投稿日:2010/02/25(木) 21:36:06 ID:xYgtXhR90
Hey Monkey
Do you know that japanese' nickname is a MONKEY
Don't know? Yet? Oh my god
Eat your lice in your hair! wwwwwwwwwwwwwwwwwww
136:猿とシラミ 2/7
10/02/26 23:29:57 CgKN7Hsz0
プチッ、プチッ。
猿は頭に手をやっては、毛のあいだから器用にシラミの卵をこそげとる。目のまえに
もってきて、白い粒をみつめると、歯と歯でプチンとつぶして食べる。
孵ったシラミをつかまえることもある。そんなときは、虫をつまんだ指を口にあてて、
舌でペロリと舐めてとる。小さなちいさな虫が、舌の表面でうごめく。くすぐったいとさえ
いえない、かすかな刺激が粘膜につたわる。
猿は舌で、クチュリとシラミをおしつぶす。
頭に飽きると、つぎは頬。肩に腕、胸、足。猿の指が毛にもぐる。長い指をのばした先に、
シラミのいないためしはない。
ぴちゃぴちゃシラミを味わいながら、猿はときおり目を細める。まるで秘め事の最中の
ような、ぼんやり霞んだ顔をする。
137:猿とシラミ 3/7
10/02/26 23:30:29 CgKN7Hsz0
たまには猿が、シラミを放っておくこともある。満腹だったり、ヒラヒラ舞う蝶にずっと
気をとられたりで、指が仕事を忘れるときがある。
するとちっぽけな虫けらは、罰するように猿を刺す。
しっかと脚が猿をつかむ。シラミの口から、三本の棒が勃ちあがる。濡れた先端を
熱い肌に押しつけて、爪を皮膚にくいこませて、シラミは体を震わせる。
ずるりと、口器が猿の中にさし挿れられる。鋭い針が穴をあけ、えぐって無理やり
おし広げて、ゆっくり猿に入っていく。
穴の縁に血がにじむ。シラミの咽頭が、飢えたように動きはじめる。
皮膚がヒクッと脈打って、体液がこぼれた。猿の放ったものが管をつたい、シラミは
その液をすっかり呑み干した。
それは一度で終わらない。猿の体中を、無数のシラミが蹂躙する。腹をこすりつけ、
体液をしぼりとり、かわりに自分の分泌物を猿の体内に注ぎこむ。集団でくりかえし
猿を犯しては、犯した証の卵を産みつけてゆく。
強烈なかゆみに猿が耐えきれなくなるまで、シラミは猿をさいなみつづける。
138:猿とシラミ 4/7
10/02/26 23:30:59 CgKN7Hsz0
猿の指が役目を思い出す。
白い卵をつまみとり、からかうように逃げまどう虫をとらえては、ぬめった舌にこすり
つける。
プチッ、プチン。
ペロぺロ、クチュリ。
コックン。ゴクン。
シラミだけで、猿の腹がみたされるわけはない。それでも、どんなエサをさがすより
多くの時間を、猿はシラミを食べてすごした。シラミは猿に食べられてすごした。
山の奥の岩の上、木々にかこまれた日だまりのなか、猿とシラミは蜜月のような
時をもっていた。それは猿が歳をとり、もしくはほかの獣の牙にかかって、命をなくす
そのときまで、ゆるやかにつづいてゆく日常のはずだった。
139:猿とシラミ 5/7
10/02/26 23:31:24 CgKN7Hsz0
ある日、猿はいやな気配をかんじた。
騒がしさと、雑多な色と、ツンとする火薬の臭い。
ヒトの集団だった。猿はいそいでその場から遠ざかろうとした。
そのとき、脚が燃えた。灼熱とともに、はじけた。
咆哮がほとぼしりでた。
なにが起きたのかわからなくて、猿は本能のまま、いやな気配から逃れようとした。
けれど、ヒトに捕まえられた。暴れようとしたけれど、下半身がうまく動かなかった。
視界がもうろうとしていた。腕に力が入らなくて、相手をひっかくことさえ満足にできなかった。
やがて猿は気を失った。
猿は、鳥を狙った人間に、誤って撃たれたのだった。
猟銃を発射した人間は、罪の意識から猿を家に連れ帰り治療をした。猿は命を
とりとめたけれど、以前のように速く走ることも高く跳ぶことも、身軽に木に登る
ことさえできなくなった。
猿は檻の中で飼われることになった。
猿は、自分になにが起きたのか、まったく理解できなかった。それでもおかれた状況に、
徐々に慣れていった。もっと動きたいとかんじることもあったけれど、軽く跳ねただけで
鈍い痛みがはしる脚では、その気持ちもすぐに萎えた。
人間に飼われ、エサをやられ、親しげに声をかけられる暮らしは、とくにいいものでも、
いやなものでもなかった。
140:猿とシラミ 6/7
10/02/26 23:31:50 CgKN7Hsz0
けれどひとつだけ、慣れないことがあった。
人間は、猿を清潔にした。猿を洗い、さまざまな粉をふりかけて、毛を梳いた。
猿が頭に指をやる。さらりとした感触がある。なめらかな毛並みのどこにも、なじんだ
卵の感触はない。おおきな手で全身を叩く。どこからも、白い虫はこぼれてこない。
長いあいだ、わざと寝ころんでいた。以前ならすぐに体のあちこちを襲ったかゆみは、
かけらもおとずれはしない。
シラミはいなくなってしまった。卵の湿り気もまるみも粘りも、しっとりやわらかな虫の体も、
みんなどこかへいってしまった。
猿はとほうに暮れた。檻に体当たりして、エサをぶちまけて、吼えて啼いて乞うたけれど、
なにももどってこなかった。
あの極小の白い虫。
皮膚にぴたりとよりそい、ときにざわざわと這い、ときに猿を咬んだ。猿の体液だけを
すすって生きて、猿の体表が世界のすべてだった。そのシラミは、猿以外の生き物に
寄生できないほど、宿主とひとつになっていた。
猿もそうあれといつも怒っていた、嫉妬ぶかい小さな昆虫。
もういない。
とりもどすすべもない。
いまも猿は、檻のなかにいる。人間にかわいがられ、不自由のない暮らしをしながら、
ぽっかりあいた空洞を胸にかかえている。陽光がその空洞に射しこみ、虚無を癒すことはない。
長い指が頭をかく。頬に肩に腕に胸。腹を腿を膝をたどる。自分で自分の全身にふれていく。
どんなにしつこく、どんなに丹念にまさぐっても―。
その指先が、愛しい相手にたどりつくことは、もはやない。
141:猿とシラミ 7/7
10/02/26 23:32:25 CgKN7Hsz0
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < お目汚し失礼しました!
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < 読んでくださった方は
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ~
| | / , | (・∀・; )、 < ありがとうございました!!
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ
142:風と木の名無しさん
10/02/27 00:13:00 Wb4ops0p0
>>141
ちょwwww姐さん鬼才すぐるwwwwww
ほとばしるエロスに萌えていいのか笑っていいのか分からないよ…!!
濡れ場もないし猿とシラミなのに完全にやおいだ!!
143:風と木の名無しさん
10/02/27 00:22:54 BbTxzMBc0
>>141
感心した。すごいなあんた。
144:風と木の名無しさん
10/02/27 01:27:20 fRNJLpb40
なんだろう、天才を目の当たりにした気分だ
145:風と木の名無しさん
10/02/27 11:22:17 lSKQkq4U0
なんだ、ただのネ申か
146:SJヒトヒメ 1/8
10/02/27 13:48:20 Baugfw6u0
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 真・女神転生SJ、ヒトナリ×ヒメネスだよ
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| ぬるいけどエロあり
| | | | \
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
147:SJヒトヒメ 2/8
10/02/27 13:50:05 Baugfw6u0
仕掛けたのは、俺からだった。
下手すりゃ一つのセクター攻略に何週間もかかるシュバルツバースで、何の収穫も変化もない日々を積み重ねていれば、当然、ストレスは蓄積されるし、ストレス以外のもんも溜まる。そいつを解消したいと思うのは、自然なことだ。そうだろう?
従軍中なら女は割かし容易く手に入ったが、地上かどうかさえ危ういシュバルツバースじゃ、そういう訳にもいかない。だからといって艦の女どもに頼み込むのも癪だったし、大体、俺は、この艦にいる女どもとはソリが合わない。
レッドスプライトに拾われてもう結構な日にちが経つが、未だに女どもは、俺を遠巻きに、泳ぎっぱなしの目で見てくる。そんな女を口説く気になれる男がいる訳ない。いるなら、そいつは、単なる馬鹿だ。生憎、俺はそうじゃなかった。
だから、発想の転換が利いた。別に女じゃなくたっていい。そう考えたら、あっさり足は、奴の部屋へと向いていた。
タダノヒトナリ。豊かな国からお出でになられたエリート様。言ってしまえば俺の最も嫌いな人種にある男を、それでも誘う気になったのは、興味半分、面白半分。いかにも遊び慣れてない朴念仁といった雰囲気の、奴に俺みたいな人間の中身を見せてみたかった。
「俺だ。いるか?」
「開いている」
ドアを叩けば、抑揚のない、だが流暢な英語が返る。スイッチを押してドアを開けると、相変わらず表情のない顔(奴の国では「ノウメン」とか言うらしい)をして、ヒトナリはベッドに腰掛けていた。傍らには銃のパーツが丁寧に並べられている。
「忙しそうだな」
「いや。もう済んだ」
言葉のとおり、ヒトナリの手は、瞬く間に銃のパーツを元の形に組み上げていく。
こいつが意外に実戦向きだということは、拾われた日に解った。ブルージェットの墓場まで俺を救出に来たこいつは、ゴアを殺されたことには当然、衝撃と怒りを覚えたようだが、それを即座に飲み込んで、あっという間に悪魔を倒した。
矢継ぎ早に繰り出されたのは、精密な攻撃と、的確な指示。普段は淡々と、いっそ眠そうな響きさえ含んで喋る声は、大音声のレベルまで上げられ、奴の仲魔を叱咤した。