10/03/25 23:09:37 uM0BU7HG0
昨年度結成二十周年を迎えた大所帯須加グループの皆様
Dr×Tr風味。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
春の訪れに少しぼんやりしてしまうのは、飛び交う花粉の所為ばかりではなかった。
ライブのリハーサルを行なっているのスタジオの中は、当日までまだ日にちがある所為もあり
穏やかだ。
今日は音合わせよりも取材の方がメインだったから、手の空いているメンバーはそれぞれ
勝手な行動を行なっている。楽器を弾いている者もいれば、雑談に興じている者、トランプで
闘っている者、それぞれだ。九人もメンバーがいれば統率など取れるものではないし、いざ
音楽を前にすると自然と一丸となれるから必要もない。
その中に、喧騒を物ともせずにソファーに沈んでいる人間が一人。
普段はかけている黒縁の眼鏡もそのままな状態で、持木は静かに寝息をたてていた。
春になるとぼんやりする。昨夜は上手く眠れなかった。
桜の蕾が綻び出すと、思い出すのはもう遠い春。この世で一番大切な宝物だと思っていた
大切な人と永遠に別れた春。美しい歌声は空気に溶けたきり、もう二度と響かないという事を
理解も出来ずに、ただぼんやりとしていたあの春。
だから持木は春になると、少しだけぼんやりしてしまう。
目覚めると同時に忘れてしまう淡い夢の中をたゆたっていた意識が不意に浮かび上がったのは
優しい気配が触れた気がしたからだ。
「あれれ、琴ちゃん寝ちゃってるの?」
ギターを爪弾いていた筈の加糖の声が聞こえたけれど、持木は瞼を持ち上げられない。
眠くて、眠くて、どうしようもない。一応起きてるよ、加糖君。声にならずに心の中だけで返事をした。
「寝ちゃってるねぇ。風邪ひかないかな」